JP4961353B2 - スピーカ装置 - Google Patents

Description

本発明は、再生帯域の異なる２種類以上のスピーカがバッフル板にインライン配置されてなるスピーカ装置に関する。

再生帯域の異なる２種類以上のスピーカがバッフル板にインライン配置されたスピーカ装置の最も一般的なものは、高音用と中音用、低音用の三種類のスピーカを備え、３ウェイのスピーカシステムを構成するものである。また、その他に４ウェイ以上のスピーカシステムを構成するものがあり、さらには、他音域を再生するスピーカを備えたスピーカ装置との併用によってスピーカシステムを構成するものもある。

一般的に、スピーカシステムを構成するスピーカは、その再生帯域によって名称が異なる。３ウェイのシステムであれば、低音側を再生するスピーカから、ウーファ、スコーカ、トゥイータと呼び、４ウェイのシステムでは、低音側からウーファ、ミッドバス、スコーカ、トゥイータと呼ぶ。また、トゥイータを中心にスコーカやウーファを上下に対称に配置する形態を仮想同軸配置と呼んでいる。以下、これらの呼称を使用する。

また、ドライバユニットにホーンを装着したホーン型スピーカは過渡特性に優れ、歯切れの良い音が得られるため、多くのスピーカ装置に採用されている。ただし、ウーファをホーン型とすると巨大なホーンが必要となるため、通常のスピーカ装置は、ウーファには直接輻射型スピーカを採用し、トゥイータやスコーカなどのウーファ以外のスピーカをホーン型にしている。

ところで、２種類以上のスピーカを備えるスピーカシステムにあっては、各スピーカ間の聴覚上のずれをなくすことが望ましい。そこで、このような「ずれ」をなくすためには、各スピーカを上下方向の中央ラインに合わせる「インライン配置」や前述した「仮想同軸配置」、また各スピーカの輻射音の到達時間差をなくす「音源を前後方向に一致させる配置」、或は、各スピーカやディバイディングネットワークの特性から生じる位相のずれを補正する「音源を前後に調節する配置」がよいとされている。

しかしながら、ウーファ以外のスピーカをホーン型にした大半のスピーカ装置は、各スピーカをインライン配置にしているものの、各スピーカの輻射音の到達時間差をなくすようには配置されていない（例えば特許文献１）。これは、各スピーカの輻射音の到達時間差をなくすように各スピーカの音源を前後に揃えて設置した場合、長大な中音用スピーカのホーンの前端が突出することとなり、ホーンの短い高音用スピーカや直接輻射型ウーファの輻射音が中音用スピーカのホーンに当たり反射して歪んでしまうという弊害があるためである。また、中音用スピーカのホーンのみが前方に突出していると、スピーカ装置の外形が一体感を欠いたぎこちないものとなるためである。一方、各スピーカの音源を前後方向に一致させる配置や音源を前後に調節する配置を採用するスピーカ装置もある。いずれにしても、ウーファ以外のスピーカをホーン型にしたスピーカシステムはこのような弊害を見過ごしている。
特開平９−１３５４８９号公報 （第１９図）

上述のように、ウーファ以外のスピーカをホーン型にした大半のスピーカ装置は、各スピーカの輻射音の到達時間差をなくすように配置すると音響的にも意匠的にも弊害を生じるため、各スピーカの輻射音は到達時間のずれたものとなっている。本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、各スピーカの輻射音の到達時間を一致させると共に、ウーファ以外のスピーカの音圧を増大し、さらに、各スピーカを近接配置して一体感のある外形をも有するスピーカ装置を提供することを目的とする。

本発明者は、上記課題を解決するために、スピーカ装置における各スピーカの配置やホーンの形状等を変化させて、各スピーカの輻射音の増大や到達時間差を検証した。そして、所定形状の増大壁対をバッフル板の前方に設けることにより、中音用スピーカ等の輻射音をホーンと同様に増大し、且つ到達時間のずれを改善できることを発見し、本発明に至ったものである。

本発明は、再生帯域の異なる２種類以上のスピーカがバッフル板にインライン配置されてなるスピーカ装置において、バッフル板には、ウーファの再生帯域に隣接する高音側帯域を再生する基準スピーカが配置されており、バッフル板の前面側には、該基準スピーカの輻射面の左右両脇部位と該基準スピーカ以外のすべてのスピーカの両側を通過して、バッフル板前面を上下に縦断し、尚且つその前方に向けて左右に拡開し、基準スピーカの輻射音を増大する形状をなしている増大壁対が配設されていることを特徴とするスピーカ装置である。

ここで、ウーファの再生帯域に隣接する高音側帯域を再生する「基準スピーカ」とは、スピーカ装置が３ウェイのスピーカシステムを構成するものであればスコーカを指し、４ウェイのスピーカシステムを構成するものであればミッドバスを指す。なお、本発明に係るスピーカ装置は、ウーファを備える３ウェイ以上のスピーカシステムを構成するものを対象としているが、バッフル板自体にウーファが配設されている必要はない。すなわち、本発明のスピーカ装置は、スピーカシステムを構成するウーファ以外の２種類以上のスピーカを備え、ウーファを備える別のスピーカ装置と組み合わせることによってスピーカシステムを構成するものを含む。

かかる構成にあっては、基準スピーカの輻射音は、輻射面の前方で左右に拡開する増大壁対の内側に放出され、この内側空間で増大されることとなる。また、基準スピーカの輻射音が増大壁対の上端へ到る最短距離、及び、基準スピーカの輻射音が増大壁対の下端へ到る最短距離とが、基準スピーカの輻射音が増大壁対の前端へ到るまでの最短距離と略同寸か、又はそれよりも長い場合には、理想的なフルサイズホーンには及ばないものの、フルサイズホーンと同様に効果的な音圧の増大が得られる。

また、本発明では、増大壁対が、バッフル板の前面に上下に亘って配設されており、バッフル板に配置された全スピーカはインライン配置されているため、バッフル板前面を上下に縦断する増大壁対は、全スピーカの輻射面の両側を通過する。したがって、本発明のスピーカ装置では、全スピーカの輻射音は増大壁対の内側空間に輻射されることとなる。ここで、増大壁対は前方に向けて左右に拡開する形状であるから、高音用スピーカや低音用スピーカの輻射音は増大壁対に当たって反射することがなく、増大壁対の内側空間で基準スピーカの輻射音と混合されながら前方のリスニング空間へと輻射される。

このように、本発明のスピーカ装置では、ウーファの再生帯域に隣接する高音側帯域を再生する「基準スピーカ」の輻射音は、増大壁対によって増大されてホーンと同様の音響を有するものとなる。にもかかわらず、増大壁対は水平方向に仕切られていないため、その内壁面は他スピーカの音波の輻射方向に沿っても形成されることとなり、他スピーカの音源を基準スピーカの音源と前後方向に一致させたとしても、ホーン型スピーカの場合に発生するような、他スピーカの輻射音が増大壁対に当たって反射することはない。また、前方へ局所的に突出するホーンとは異なり、増大壁対は、バッフル板の前面側に上下に亘って配設されるものであるから、本発明のスピーカ装置の前面側形状は起伏の少ない一体感のあるものとなる。

ところで、本発明において、バッフル板にウーファが配置されている場合、増大壁対による音圧増大作用が、ウーファの輻射音の高音部分に作用して、ウーファの平坦な音圧特性が得られなくなる。これに対し、上記構成にあっては、バッフル板には、ウーファが配置されると共に、前記増大壁対の外壁面とバッフル板前面の間には、リスニング空間へ開放する外側間隙が形成されており、該ウーファ輻射面の両側近傍部位には、ウーファの輻射音を外側間隙に輻射する増大抑止間隙口が形成されている構成が提案される。

かかる構成では、ウーファの輻射音は、増大抑止間隙口から外側間隙を通り、リスニング空間に輻射されることとなるため、ウーファの輻射音に対する増大壁対の音響負荷が減少し、ウーファの音圧特性は平坦なものとなる。

一方、本発明において、バッフル板に基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生する高音用スピーカ（トゥイータや４ウェイシステムにおけるスコーカ等）を配置する場合には、前記増大壁対の内側に、該高音用スピーカの輻射面の両側近傍部位に、その前方に向けて左右に拡開し、該高音用スピーカの輻射音を増大する形状をなす高音用増大壁対を配設し、尚且つ、該高音用増大壁対の上下端及び前端を、前記増大壁対の内壁に接合することが提案される。ここで、該高音用増大壁対の上下端間の寸法は、隣接する低音側を再生するスピーカの輻射面の上端と当該高音用スピーカの中心間の距離の２倍より短く、またその後端と前端間の寸法はその上下端間の寸法の半分程度が適当である。また、高音用増大壁対の内壁の上下端及び前端を、各スピーカの音波の輻射方向に沿うようにして増大壁対の内壁面と滑らかに接合し、各スピーカの輻射音が当該接合部で歪まないようにすることが望ましい。また、バッフル板に、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータを配置する場合には、該ホーン型トゥイータのホーンの前端両側部を増大壁対の内壁に接合し、該ホーン型トゥイータの輻射音が当該接合部で当たって反射し歪まないように、ホーンの両側部の内壁と増大壁対の内壁を滑らかに接合することが提案される。また、かかる構成にあっては、当該ホーンの外壁面を隣接するスピーカの輻射方向に沿って形成し、該スピーカの輻射音が当たって反射しないように設計することが望ましい。なお、ホーン型トゥイータとは、ドーム型スピーカやコンプレッションドライバ等からなるトゥイータに、該トゥイータの輻射音を増大するホーンを装着してなるものを指す。また、バッフル板に、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生する高音用スピーカを配置する場合には、前記増大壁対の内壁が、当該高音用スピーカの輻射面の両側縁を通過して、当該高音用スピーカの輻射音を増大する形状をなすものとすることも提案される。

また、バッフル板には、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータが配置されており、該ホーン型トゥイータのホーンの開口部の両側近傍部位には、当該ホーン型トゥイータの輻射音を増大壁対の外側に通過させてリスニング空間に輻射する指向拡大間隙口が形成されていることが提案される。

かかる構成では、ホーン型トゥイータが輻射する音波は、指向拡大間隙口から増大壁対の外側にも輻射されることとなるため、比較的指向性の狭い高音域の音波について指向性を広げることができる。かかる指向拡大間隙口は、その開口面積が大きいほど、多くの輻射音が指向拡大間隙口を通過することとなり、輻射音の指向性は広くなる。一方で、指向拡大間隙口の開口面積が大きいほど増大壁対の内側を通過する輻射音は減少することとなる。このため、指向拡大間隙口の大きさはスピーカの特性に応じて設定することが望ましい。

ここで、上記構成にあって、ホーン型トゥイータの上下に基準スピーカを配置する仮想同軸配置を採用した場合、トゥイータのホーンがバッフル板の前方に突き出た配置となり易い。かかる構成において、トゥイータのホーンの開口部を増大壁対の前端まで突出させた場合、増大壁対のカットオフ周波数付近の音圧増大作用は、ホーンによって上下に分断された片側一個分程度の作用になってしまい、基準スピーカの再生音域に対して想定した低域まで十分な音響負荷がかからなくなるという弊害が生じる。

そして、このような弊害は、ホーンの開口部の縦幅寸法に対して、トゥイータのホーンの開口部を増大壁対の前端から３０％程度の距離に奥まって配置すると減少し始め、５０％以上の距離に奥まって配置すると改善され、７０％以上の距離に奥まって配置するとかなり少なくなる。

このため、本発明にあっては、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータがバッフル板に配置されると共に、該トゥイータの上下に基準スピーカが仮想同軸配置されており、トゥイータのホーンの開口部が、増大壁対の前端から、該開口部の縦幅寸法の半分以上の距離に奥まって配置されている構成が提案される。なお、ここでいう「ホーンの開口部の縦幅寸法」とは、ホーンの開口部の内側の縦幅寸法ではなく、上下の側板の厚みを含めた縦幅寸法を指す。

以上に述べたように、本発明は、バッフル板の前面側に、基準スピーカと該基準スピーカ以外のすべてのスピーカの輻射面の左右両側を通過してバッフル板前面を上下に縦断し、且つ前方に向けて左右に拡開する増大壁対を配設し、該増大壁対によって基準スピーカの輻射音を増大するようにしたスピーカ装置であるから、基準スピーカの輻射音についてホーンの理論に基づいたフルサイズのホーンと同様に音圧増大作用を得ることができる。

また全スピーカの輻射音は増大壁対の内側空間に輻射されるので、基準スピーカの上下にウーファや高音用スピーカを近接配置し、且つ輻射音の到達時間差を無くすように各スピーカの音源位置を前後に調節しても、従来のホーン型スピーカ装置のように、高音用と低音用スピーカの輻射音を中音用スピーカのホーンに当てて歪ませることなくリスニング空間に放出できる。

さらには、従来のホーン型スピーカ装置では、高音と中音と低音用のスピーカがそれぞれのホーンの開口部の外側に設置されているため、それらの輻射音が分散して実在感の欠けた音に成りやすいが、本発明にあっては、増大壁対内側の中央よりの部分に各スピーカが近接配置されており、夫々のスピーカの輻射音が、増大壁対内側の空間で混合されて、増大壁対の前端からリスニング空間に放射されることとなるので、各スピーカの輻射音が集結し実在感のある音になりやすい。

すなわち、本発明のスピーカ装置では、ホーン型スピーカ装置のように音圧の増大が得られると共に、ウーファからトゥイータまで輻射音の到達時間を合わせ、さらに各スピーカを近接配置させ実在感のある音響を実現できる。そして、こうした優れた音響特性を実現しながら、コンパクトで一体感のある外形も実現できるという複合的な利点がある。

また、ウーファ輻射面の両側近傍部位に、ウーファの輻射音が外側間隙を通過してリスニング空間に輻射する増大抑止間隙口が形成されているので、増大壁対によってウーファの輻射音が部分的に増大されることを抑止でき、ウーファについて平坦な周波数特性を実現できる。

また、ホーン型トゥイータのホーンの開口部の両側近傍部位に、ホーン型トゥイータの輻射音を増大壁対の外側に通過させてリスニング空間に輻射する指向拡大間隙口を形成した場合には、ホーン型トゥイータの再生音の指向性を広げることができる。

さらに、トゥイータの上下に基準スピーカが仮想同軸配置された構成にあって、トゥイータのホーンの開口部を、増大壁対の前端から、該開口部の縦幅寸法の半分以上の距離に奥まって配置した場合には、ホーンによって増大壁対の音圧増大作用がカットオフ周波数付近で減衰してしまう事態を防ぐことができる。

本発明の実施形態を、以下の各実施例に従って説明する。

＜第一実施例＞
図１は、第一実施例のスピーカ装置１の斜視図である。このスピーカ装置１はスコーカ４とトゥイータ５との二種類のスピーカを一つずつ備えるものであり、ウーファを備えた別のスピーカ装置（図示省略）と組み合わせることによって３ウェイのスピーカシステムを構成するものである。すなわち、本実施例のスピーカ装置１では、スコーカ４が本発明に係る基準スピーカとなる。

本実施例のスピーカ装置１は、図１〜４に示すように、縦長矩形状のバッフル板２を備える。このバッフル板２は幅４０×高さ８２ｃｍ×厚さ１８ｍｍの合板からなるものである。バッフル板２の中央部には矩形の開口部９ａが形成され、この開口部９ａに背面側からスコーカ４が取り付けられている。スコーカ４は口径が１８ｃｍのコーン形フルレンジスピーカで構成される。このスコーカ４の背面側は、容積が１６リットルの密閉型キャビネット１１によって囲われている。

また、バッフル板２の上部には矩形の開口部９ｂが形成され、トゥイータ５が、この開口部９ｂに背面側から取り付けられる。トゥイータ５は口径が２８ｍｍのドーム型スピーカである。ここで、図１，２に示すように、スコーカ４とトゥイータ５は、インライン配置されており、また、夫々の音源は前後方向に一致するように配置される。

バッフル板２の前面には、図１〜４に示すように、スコーカ（基準スピーカ）４の輻射面の左右の一部分を覆う状態で、バッフル板２の前面を上下に縦断し、且つ前方に向けて左右に拡開する増大壁対１０が配設される。この増大壁対１０は厚さ１８ｍｍの二枚の湾曲した合板からなるものであり、その断面は、内壁面が下記の図５に示す第一比較例のホーン１３の左右を構成する合板１３ｃ、１３ｄと同形の曲面を形成して左右に拡開している。この増大壁対１０は、開口幅３８ｃｍ×高さ８２ｃｍ×奥行き２７ｃｍで、ホーンのスロート面積１３５ｃｍ^２、カットオフ周波数を２７０Ｈｚに想定したもので、後述するように、スコーカ４の輻射音は、この増大壁対１０の内側空間で増大される。

また、バッフル板２前面の、トゥイータ５装着部位には、トゥイータ５の輻射音を増大し得る形状の高音用増大壁対１２が配設される。なお、この高音用増大壁対１２は、トゥイータ５の輻射音を専ら増大するものであり、本発明に係る増大壁対とは異なる。この高音用増大壁対１２は、奥行き１２ｃｍ×高さ２８ｃｍ×厚み３ｃｍの合板からなるものであり、増大壁対１０の内側に配置されて、前方に向けて左右に拡開する内壁面によってトゥイータ５の輻射音を増大する。また、高音用増大壁対１２は、その内壁面の上下端及び前端を、スコーカ４やトゥイータ５の音波の輻射方向に沿うようにして増大壁対１０の内壁面と滑らかに接合させているので、スコーカ４やトゥイータ５の輻射音が増大壁対１０との接合部で夫々の壁対１０、１２に当たって反射し歪まないようになっている。

＜第一比較例＞
図５は、第一実施例のスピーカ装置１の性能検証に用いた第一比較例のスピーカ装置１ａである。このスピーカ装置１ａは、上記第一実施例のスコーカ４と同じコーン形スピーカを備えるものであって、その輻射音をホーン１３によって増大するものである。

ホーン１３は、スロート面積が１３５ｃｍ^２、開口面積が１７５０ｃｍ^２、スロートから開口までの距離が２７ｃｍ、カットオフ周波数が２７０Ｈｚのエクスポネンシャルのフルサイズホーンである。ホーン１３は、第一実施例の増大壁対１０と同材質で同じ厚さの合板により構成される。ホーン１３の上下を構成する合板１３ａ，１３ｂは平板であり、夫々の合板は、前方に拡開するようにして、水平面に対して約３０°傾いた状態で設置されている。またその左右を構成する合板１３ｃ、１３ｄはエクスポネンシャルの計算による曲面を形成し、ホーン１３のスロート１３ｅは幅９ｃｍ×高さ１５ｃｍの矩形であり、このスロート１３ｅに対して上記スコーカ４が後方から装着される。また、スコーカ４の背面側には、第一実施例同様の容積約１６リットルの密閉型キャビネット１１ａが配設される。

＜第二比較例＞
上記第一比較例のスピーカ装置１ａから、ホーン１３を除去したスピーカ装置（図示省略）を作製し、これを第二比較例とした。すなわち、この第二比較例のスピーカ装置は、第一実施例に係るスコーカ４の背面側を第一実施例同様の容積約１６リットルの密閉型キャビネット１１ａで囲ったのみの構成である。

＜試験１＞
第一実施例、第一比較例及び第二比較例の各スピーカ装置について、スコーカ４の周波数特性を調査した。測定用マイクは、地上高１ｍで、スコーカ４の振動板を平均した位置から前方１ｍの位置に設置した。結果を図６に示す。

第一比較例と第二比較例の周波数特性を比べると、第一比較例の音圧は、１００Ｈｚを超えた辺りから第二比較例よりも高くなり、約３００〜１０００Ｈｚでは第二比較例の音域をかなり上回っている。この音圧の差は、第一比較例のホーン１３によるスコーカ４の輻射音の音圧増大作用を示している。

一方、第一実施例と第二比較例の周波数特性を比べると、第一実施例の音圧は第一比較例と同様に、１００Ｈｚを超えた辺りから第二比較例よりも高くなり、約３００〜１０００Ｈｚの音域では第二比較例の音圧を上回っている。この結果は、第一実施例の増大壁対１０がスコーカ４の輻射音を増大していることを示している。第一実施例の増大壁対１０と第一比較例のホーン１３との音圧増大作用を比較すると、４００Ｈｚ以下の音域では同程度の音圧の増大が認められ、４００〜１５００Ｈｚの音域では、第一比較例が３〜５ｄＢ程度上回っている。

このように、第一実施例のスピーカ装置１では、理論的な計算に基づいたフルサイズのホーン１３には及ばないものの、増大壁対１０の音圧増大作用によって、フルサイズホーンと同様に音圧の増大が得られることがわかる。なお、増大壁対１０によってスコーカ４（基準スピーカ）の輻射音を好適に増大するには、スコーカ４の輻射音が増大壁対１０の上下端へ到る最短距離が、スコーカ４の輻射音が増大壁対１０の前端に到るまでの最短距離と略同寸か、又はそれよりも長いものとすることが望ましい。言換えれば、スコーカ４の輻射面の上下端から増大壁対１０の上下端までの距離が、スコーカ４の輻射面から増大壁対１０の前端までの距離以上であることが望ましい。この場合、基準スピーカをスピーカ装置の中央に配置すれば、一般的なスピーカ装置のバッフル板の上下端に増大壁対の上下端を一致させることができる。

＜第三比較例＞
第一実施例のスピーカ装置１の構成から、増大壁対１０及び高音用増大壁対１２を除去したスピーカ装置（図示省略）を作製し、これを第三比較例とした。

＜試験２＞
第一実施例と第三比較例のスピーカ装置について、スコーカ４とトゥイータ５のクロスオーバー周波数を１５００Ｈｚに設定し、夫々の周波数特性を調査した。測定マイクの設置位置はスコーカ４の前方で試験１と同条件とした。結果を図７に示す。

図７から明らかなように、第一実施例のスピーカ装置１は、第三比較例のスピーカ装置に比べて、中音域から高音域にかけて音圧が増大されており、スコーカ４の輻射音と共にトゥイータ５の輻射音が増大されている。

以上のように、本実施例のスピーカ装置１では、スコーカ（基準スピーカ）４とトゥイータ５の輻射音が増大壁対１０と高音用増大壁対１２によって増大されるため、これらの輻射音について、ホーン型スピーカの輻射音と同質の音色を得ることができる。また、増大壁対１０は、各スピーカ４，５の輻射面の左右両側を上下に通過するものであり、高音用増大壁対１２は、その内壁面の上下端及び前端を、各スピーカ４，５の音波の輻射方向に沿うようにして増大壁対１０の内壁面と滑らかに接合させているので、トゥイータ５がスコーカ４の直上位置に近接配置され、さらにそれらの音源が前後に一致するよう配置されても、トゥイータ５の輻射音は、増大壁対１０に当たって反射することなく前方のリスニング空間Ｌ（図２〜４参照）に放出される。また、相互に近接する各スピーカ４，５から輻射される音波は、増大壁対１０の内側で混合されながら前方のリスニング空間Ｌに放出されるため、各スピーカ４，５の輻射音は調和のとれた実在感のあるものとなる。さらには、増大壁対１０が、バッフル板２の前面側に上下に亘って配設されることにより、スピーカ装置１の前面側形状が統一感のあるものとなる。

＜第二実施例＞
図８は、第二実施例のスピーカ装置１ｂの斜視図である。なお、このスピーカ装置１ｂは、上記第一実施例のスピーカ装置１の構成を一部変更したものであり、構成の共通する部分については説明を省略する。

本実施例のスピーカ装置１ｂは、ウーファ３とスコーカ４とトゥイータ５の三種類のスピーカを一つずつ備えるものであり、このスピーカ装置１ｂのみによって、３ウェイのスピーカシステムを構成するものである。すなわち、本実施例のスピーカ装置１ｂでは、スコーカ４が本発明に係る基準スピーカとなる。このスピーカ装置１ｂに配設されるスコーカ４及びトゥイータ５は第一実施例と同じものであり、ウーファ３は口径３０ｃｍのコーン形スピーカである。

スピーカ装置１ｂは、第一実施例よりも若干縦長のバッフル板２ａを備えてなり、このバッフル板２ａの背面側の略中央にスコーカ４が配設され、該スコーカ４の上方にトゥイータ５が、スコーカ４の下方にウーファ３が夫々配設される。各スピーカ３，４，５は、インライン配置されると共に、図８，９に示すように夫々の音源が前後方向に一致するように配置されている。なお、スコーカ４は、その中心が、スピーカ装置１ｂの下端から約５０ｃｍの高さ位置に配置される。スピーカ装置１ｂの上端からスコーカ４の中心までの距離は、第一実施例と同じである。

スコーカ４の背面側は、図９に示すように、上記第一実施例と同形状の密閉型キャビネット１１によって囲われている。また、スピーカ装置１ｂの背面側には、ウーファ３の輻射音を遮断する密閉キャビネット１５がバッフル板２ａの背面全体を覆うように配設される。

バッフル板２ａの前面側には、スコーカ４の輻射面の左右の一部分を覆う状態で、バッフル板２ａの前面を上下に縦断する増大壁対１０ａが配設される。この増大壁対１０ａの横断面形状は第一実施例の増大壁対１０と同形状である。ただし、増大壁対１０ａの縦寸法はバッフル板２ａに合わせて若干長くなっている。また、バッフル板２ａ前面の、トゥイータ５装着部位には、第一実施例同様の高音用増大壁対１２が配設される。

ここで、増大壁対１０ａは、図１１，１２に示すように、スコーカ４及びトゥイータ５の輻射面の外側を縦断する位置でバッフル板２ａと接合されており、スコーカ４やトゥイータ５の輻射音は、全て増大壁対１０ａの内側を通って前方のリスニング空間Ｌへ放出される。

一方、図１０に示すように、増大壁対１０ａは、スコーカ４の輻射面の左右両側部位の状態と違い、ウーファ３の輻射面上の左右中央よりの位置を通過し、増大壁対１０ａがバッフル板２ａと接合されていない。増大壁対１０ａは、その外壁面とバッフル板２ａの前面の間にある外側間隙２８，２８を形成すると共に、ウーファ３の輻射音をその間隙を通過させリスニング空間Ｌへ輻射する増大抑止間隙口１６，１６を形成している。

本実施例では、ウーファ３の輻射音は、増大壁対１０ａの内側に輻射されるだけでなく、増大抑止間隙口１６を介して増大壁対１０ａの外側にある外側間隙２８を通過しリスニング空間Ｌに輻射されることとなる。これによって、ウーファ３の輻射音に掛かる増大壁対１０ａの音響負荷が抑えられ、ウーファ３の輻射音の音圧特性が平坦なものとなる。

＜第四比較例＞
第二実施例のスピーカ装置１ｂの構成から増大壁対１０ａ及び高音用増大壁対１２を除去したスピーカ装置（図示省略）を作製し、これを第四比較例とした。

＜試験３＞
第二実施例と第四比較例のスピーカ装置について、ウーファ３とスコーカ４のクロスオーバー周波数を４００Ｈｚに、スコーカ４とトゥイータ５のクロスオーバー周波数を１５００Ｈｚに設定し、その周波数特性を調査した。測定マイクの設置位置は試験１，２と同条件である。その結果を図１３に示す。

図１３から明らかなように、３００Ｈｚ以下の帯域では、第二実施例と第四比較例について音圧に殆ど差は見られず、３００Ｈｚ以上の帯域では第二実施例の音圧が第四比較例の音圧を上回っている。スコーカ４及びトゥイータ５の輻射音は増大壁対１０ａ，１２によって増大されているが、ウーファ３の輻射音は殆ど増大されていない。

以上のように、本実施例のスピーカ装置１ｂでは、スコーカ（基準スピーカ）４とトゥイータ５の輻射音について、ホーン型スピーカの輻射音と同様の音響を得ることができる。また、増大壁対１０ａはスコーカ（基準スピーカ）４の左右にすべてのスピーカの輻射方向に沿ってその内壁面を形成し配置されているため、スコーカ４の上下にウーファ３とトゥイータ５が近接配置され、且つそれらのスピーカの音源を前後に一致していても、ホーン型スピーカのように夫々の輻射音が増大壁対１０ａに当たって反射することがない。また、本実施例では、ウーファ３の輻射音の適量を増大抑止間隙口１６と外側間隙２８を介して増大壁対１０ａの外側からリスニング空間Ｌに輻射することによって、ウーファ３の音圧特性を平坦に保つことができる。

＜第三実施例＞
図１４は、ホーン型のトゥイータを備える第三実施例のスピーカ装置１ｃの斜視図である。なお、このスピーカ装置１ｃは、上記第二実施例のスピーカ装置１ｂとトゥイータ装着部近傍の構成のみ異なるものであり、構成の共通する部分については符号を共通して説明を省略する。

本実施例のスピーカ装置１ｃでは、バッフル板２ａ前面の、トゥイータ５装着部位には高音用増大壁対１２ではなくホーン１７が配設される。このホーン１７は、トゥイータ５の輻射音を増大する形状に設計されたものであり、このホーン１７のスロート９ｃ部分の後方にトゥイータ５が配設される。このトゥイータ５は第一実施例と同じものである。

ホーン１７の左右の側板１７ｂ，１７ｃは、増大壁対１０ａの内壁面と滑らかに接合しており、トゥイータ５の輻射音がホーン１７の左右端部で増大壁対１０ａの内壁面に当たって反射しないようになっている。一方、ホーン１７の下部を形成する側板１７ｄは、その下底面がスコーカ４の輻射面の側縁から輻射方向に沿って面を形成して傾斜しており、スコーカ４の輻射音が当たって反射しないようになっている。

また、バッフル板２ａ前面の、ウーファ３とスコーカ４の間には、断面三角形状の水平仕切板２１を配設した。なお、この水平仕切板２１の前端は、ホーン１７の前端よりも後ろ寄りに位置するようにした。

＜第四実施例＞
図１５は、第四実施例のスピーカ装置１ｄの斜視図である。なお、このスピーカ装置１ｄは、上記第二実施例のスピーカ装置１ｂとトゥイータ装着部近傍の構成のみ異なるものであり、構成の共通する部分については符号を共通して説明を省略する。

本実施例のスピーカ装置１ｄは、ホーン型トゥイータを備えるものであり、図１５〜１７に示すように、トゥイータ５の前方には、その内壁が前方に向けて上下に拡開し、トゥイータ５の輻射音を増大し水平方向に広い指向性を有する形状をなすトゥイータ用ホーン１４が配設されている。ここで、当該ホーン１４の開口部２６の両側近傍部位には、トゥイータ５の輻射音を増大壁対１０ａの外側に通過させる指向拡大間隙口１８，１８が形成される。これにより、トゥイータ５の輻射音が増大壁対１０ａの外側からもリスニング空間Ｌに輻射されることとなり、トゥイータ５の再生音について水平方向に広い指向性を確保することができる。

なお、図１７に示すように、トゥイータ５の輻射音が左右の指向拡大間隙口１８に漏れるため、左右の増大壁対１０ａはトゥイータ５の輻射音を殆ど増大せず、単なる仕切板として機能する。しかし、図１６に示すように、トゥイータ５の輻射音はホーン１４によって上下方向に音響負荷が掛かるため増大する。また、増大壁対１０ａの、指向拡大間隙口１８を形成する端縁には、トゥイータ５の輻射面に向けて鋭角となるフィン２２が配設されており、トゥイータ５の輻射音が当該端縁で当たって反射して歪まないようになっている。また、ホーン１４のスコーカ４の輻射面に臨む下側面は、前方に向けて滑らか上方傾斜しており、スコーカ４の輻射音が当たって反射しないようにしている。

＜第五実施例＞
図１８は、第五実施例のスピーカ装置１ｅの斜視図である。本実施例のスピーカ装置１ｅは、二つのウーファ３ａ、３ａと二つのスコーカ４，４と単一のトゥイータ５を備えるものであり、単独で３ウェイのスピーカシステムを構成するものである。すなわち、本実施例では本発明に係る基準スピーカはスコーカ４，４であり、スピーカ装置１ｅは二つの基準スピーカを具備している。なお、ウーファ３ａは、第二実施例のウーファ３よりも口径の小さいものであり、スコーカ４及びトゥイータ５は第二実施例と同様である。

スピーカ装置１ｅは、上下に長大なバッフル板２ｂを備え、該バッフル板２ｂの背面側に、各スピーカ３ａ，４，５が音源を前後方向に一致させるようにしてインライン配置される。本実施例では、ウーファ３ａとスコーカ４は、トゥイータ５の上下に仮想同軸配置される。すなわち、トゥイータ５はバッフル板２ｂの中央部に配置され、該トゥイータ５の上下にスコーカ４が対称配置され、ウーファ３ａがバッフル板２ｂの上下端部に対称配置される。

そして、本実施例に係る増大壁対１０ｂは、各スコーカ４の輻射面の左右両側の一部分を覆う状態で、バッフル板２ｂ前面を上下亘って縦断するように配設される。この増大壁対１０ｂは、図１８に示すように、各スコーカ４の輻射面から上下に十分伸長しており、各スコーカ４の輻射音は、増大壁対１０ｂの内側で増大されると共に、他の帯域を再生する各スピーカの輻射音と混合されながらリスニング空間に放出されることとなる。また、バッフル板２ｂの、トゥイータ５装着部位には第二実施例同様の高音用増大壁対１２が配設されており、各ウーファ３ａの輻射面の両側部位には、第二実施例同様の増大抑止間隙口１６，１６が形成される。

さらにその増大壁対１０ｂの上下の端部は、キャビネット１５ａの天板２０ａと地板２０ｂと接合しており、増大壁対１０ｂが安定するように固定される。このように増大壁対１０ｂはキャビネット１５ａに固定されるが、増大壁対１０ｂの内側空間の上下端は開いているので各スピーカ３ａ，４，５の輻射音が当たって反射する箇所はない。なお、増大抑止間隙口１６を通過したウーファ３ａの輻射音が、キャビネット１５ａの天板２０ａと地板２０ｂの一部に当たって反射することはあり得るが、反射する部分が僅かであり周波数の低いウーファ３の輻射音を歪ませる恐れは極めて少ない。

＜第六実施例＞
図１９は、第六実施例のスピーカ装置１ｆの斜視図である。なお、このスピーカ装置１ｆは、上記第五実施例のスピーカ装置１ｅとトゥイータ装着部近傍の構成が異なるものであり、構成の共通する部分については符号を共通して説明を省略する。

本実施例はホーン型トゥイータを採用したことを特徴とする。すなわち、本実施例のスピーカ装置１ｆは、バッフル板２ｂの中央部にホーン１９を有するトゥイータ５を備えており、該トゥイータ５の上下にスコーカ４，４とウーファ３，３が仮想同軸配置される。なお、ウーファ３は、第二実施例と同じ大口径のものである。

ここで、ホーン１９は、縦１１ｃｍ×横１７ｃｍの矩形状の開口を備えるものであり、トゥイータ５の輻射面にスロートを一致させるようにして、バッフル板２ｂの前面に配置される。このホーン１９の内壁の左右前端は増大壁対１０ｂの内壁に滑らかに接しており、トゥイータ５の輻射音が増大壁対１０ｂの内壁面に当たり反射しないようになっている。また、ホーン１９の上下の外壁面には、スコーカ４の側縁から音波の輻射方向に沿って面が形成されており、各スコーカ４の輻射音がホーン１９に当たって反射しないようになっている。

ここで、本実施例では、ホーン１９の開口部２６ａの縦幅寸法（ホーン開口内の縦幅に板厚を加えたもの）は１６ｃｍになる。また、ホーン１９の開口部２６ａは増大壁対１０ｂの前端から１２ｃｍ奥まって配置されている。このように、ホーン１９を奥まって配置することにより、ホーン１９の前方の空間で上下のスコーカ４，４の輻射音が混合できる。すなわち、ホーン１９を前方に突出させ過ぎると、増大壁対１０ｂの内側の空間が上下に分断される形となり、増大壁対１０ｂによる音圧増大作用は、カットオフ周波数付近で半減してしまうこととなるが、本実施例では、増大壁対１０ｂによるカットオフ周波数付近の音圧増大作用が減少することがない。

具体的には、ホーン１９の縦幅寸法（図２０中のＸ）に対して、増大壁対１０ｂの前端からホーン１９の開口部２６ａまでの距離（図２０中のＹ）が半分以上であれば、上記のような音圧増大作用の減少は改善される。すなわち、本実施例のようにホーンの開口部の縦幅寸法が１６ｃｍであれば、ホーンの開口部を８ｃｍ以上に奥まって配置すれば良い。がしかし、本実施例のようにこのような弊害が殆どなくなる１１ｃｍ以上に奥まって配置することが望ましい。

また、本実施例では、ウーファ３の輻射音がホーン１９の外壁に当たり反射することとなるが、本実施例のようにホーン１９が前方に突出する寸法が僅かであり、周波数の低いウーファ３の輻射音に及ぼす影響は軽微と思われる。

＜第七実施例＞
図２１は、第七実施例のスピーカ装置１ｇの斜視図である。このスピーカ装置１ｇは、低音域再生用のウーファ３ｂ、中低音域再生用のミッドバス６、中高音域再生用のスコーカ４ａ、そして高音域再生用のトゥイータ５の四種類のスピーカを一つずつ備えたものであり、このスピーカ装置１ｇのみによって、４ウェイのスピーカシステムを構成するものである。すなわち、本実施例のスピーカ装置１ｇは、ミッドバス６が本発明に係る基準スピーカとなる。

本実施例では、ウーファ３ｂには口径３８ｃｍのコーン形スピーカを、ミッドバス６には口径２５ｃｍのコーン形スピーカを、スコーカ４ａには口径８ｃｍのコーン形スピーカを、トゥイータ５には第一実施例と同じ口径２８ｍｍのドーム型スピーカを採用する。縦長矩形のバッフル板２ｃの中央部には、基準スピーカであるミッドバス６が、その上方にスコーカ４ａが、さらにスコーカ４ａの上方にトゥイータ５が、バッフル板２ｃの背面側から配置され、またミッドバス６の下方にウーファ３ｂが、バッフル板２ｃの前面側に配置され、各スピーカ３ｂ，６，４ａ，５の音源を前後方向に略一致させてインライン配置される。各スピーカ３ｂ，６，４ａ，５のクロスオーバー周波数は２５０Ｈｚ、７００Ｈｚ、２５００Ｈｚとした。

バッフル板２ｃの背面側には、密閉型キャビネット１５ｂが配設される。この密閉型キャビネット１５ｂの内部では、別の密閉型キャビネット（図示省略）によって、スコーカ４ａとミッドバス６が背面側から囲われている。

本実施例に係る増大壁対１０ｃは其の前端までの距離が３６ｃｍあり、ミッドバス６の輻射面の左右の一部分を覆うようにして其の両脇を通過し、バッフル板２ｃを上下に縦断するものである。また、バッフル板２ｃ前面の、スコーカ４ａ装着部位には、スコーカ４ａの輻射音を増大するための中高音用増大壁対２３が配設される。この中高音用増大壁対２３は、ミッドバス６の上端両側からバッフル板２ｃの上端に及ぶものである。また、中高音用増大壁対２３の上下端及び前端の内壁面は、各スピーカ３ｂ，４ａ，５，６の音波の輻射方向に沿うようにして増大壁対１０ｃの内壁面と滑らかに接合しているので、ウーファ３ｂやミッドバス６、スコーカ４ａ、トゥイータ５の輻射音が中高音用増大壁対２３の端部で当たって反射しないようになっている。

さらに、バッフル板２ｃ前面の、トゥイータ５装着部位には、トゥイータ５の輻射音を増大するための高音用増大壁対１２ｂが配設されている。この高音用増大壁対１２ｂは、バッフル板２ｃと中高音用増大壁対２３とに接合しており、その上下端及び前端の内壁面は、スコーカ４ａやトゥイータ５の音波の輻射方向に沿うように、またウーファ３ｂやミッドバス６にも沿うようにして中高音用増大壁対２３の内壁面と滑らかに接合しているので、ウーファ３ｂやミッドバス６、スコーカ４ａ、トゥイータ５の輻射音が高音用増大壁対１２ｂの端部で当たって反射しないようになっている。また、ウーファ３ｂの輻射面の両側部位は、増大壁対１０ｃの両外側に広く張り出しており、その張り出した部分が増大壁対１０ｃの内側と外側を好適に按分し、且つ広く増大抑止間隙口１６を形成するので第二実施例のようにウーファ輻射面上の増大壁対１０ｃに切り欠いた形状の増大抑止間隙口を形成していない。

＜第八実施例＞
図２２は、第八実施例のスピーカ装置１ｈの斜視図である。なお、このスピーカ装置１ｈは、上記第七実施例のスピーカ装置１ｇと増大壁対の構成のみ異なるものであり、構成の共通する部分については符号を共通して説明を省略する。

図２２，２３に示すように、本実施例のスピーカ装置１ｈには、高音用増大壁対および中高音用増大壁対が配設されておらず、その替わりに、ミッドバスの高さ位置において前端までの距離が上記第七実施例同様３６ｃｍである増大壁対１０ｄが、スコーカ４ａより上方の高さにおいて変形している。

具体的には、増大壁対１０ｄの後端は、スコーカ４ａとトゥイータ５の輻射面の側縁を通過するように内側に湾曲している。そして、スコーカ４ａの高さ位置では、増大壁対１０ｄは、後端からバッフル板２ｃの前方１５ｃｍの所まで開口角度を徐々に広がるように外側へ湾曲している。そして、バッフル板２ｃの前方１５ｃｍの位置で左右に９０°に拡開すると、そこから前端まで開口角度を変えることなく直線状に伸長した。また、増大壁対１０ｄの前端は、スコーカ４ａの高さ位置ではバッフル板２ｃの前方３０ｃｍの所に形成され、トゥイータ５の高さ位置ではバッフル板２ｃの前方１５ｃｍの所に形成される。これは、増大壁対１０ｄの前端をかかる位置より前方に伸長させても、ミッドバス６やスコーカ４ａ、トゥイータ５の輻射音はそれほど増大されず、かえって伸長した部分によってトゥイータ５の輻射音の高域部分が減衰するためである。

＜第九実施例＞
図２４は、第九実施例のスピーカ装置１ｉの斜視図である。本実施例に係るバッフル板２ｄは前後方向の段差を有するものであり、かかるバッフル板２ｄに対して増大壁対１０ｅが配設される。

具体的には、スピーカ装置１ｉのバッフル板２ｄは、前寄りに配置される下部板片２５ａと、後寄りに配置される上部板片２５ｂと、上下二つの板片２５ａ，２５ｂを連続させる傾斜した中間板片２５ｃとで構成されており、下部板片２５ａと上部板片２５ｂとの間に前後幅２０ｃｍ程度の段差が形成される。また、スピーカ装置１ｉは、下部板片２５ａの背面に配置されるウーファ３と、上部板片２５ｂの背面に配置されるスコーカ（基準スピーカ）４とトゥイータ５の三つのスピーカを備える。ここで、上部板片２５ｂに配置されるスコーカ４は、その音源がウーファ３の音源の後方２０ｃｍに位置している。また、トゥイータ５は、ホーン２４を介して上部板片２５ｂに取り付けられており、その音源がスコーカ４の音源のさらに後方５ｃｍに位置している。このような、各スピーカ３，４，５の音源位置の前後配置は、「リニアフェイズ」と呼ばれ、クロスオーバー周波数における各スピーカの位相のずれとディバイディングネットワークによる位相のずれとを、音源の前後方向の間隔によって補正するものである。

本実施例に係る増大壁対１０ｅは、第二実施例における増大壁対１０ａと略同形状をなすものであり、スコーカ４の輻射面の左右の一部分を覆うようにして其の両脇を通過するよう配置される。ただし、その後端部は、バッフル板２ｄの段差形状に合わせて下部が切り欠かれている。ここで、本実施例では、増大壁対１０ｅが、ウーファ３の輻射面の外側に配置されているため、増大壁対１０ｅとバッフル板２ｄ（下部板片２５ａ）との接合部にスリット状の、ウーファ３の輻射音を増大壁対１０ｅの外側へ通過させる増大抑止間隙口１６ａが形成されており、バッフル板２ｄ前面の、トゥイータ５装着部位には、トゥイータ５の輻射音を増大するための高音用増大壁対１２ｂが配設される。

＜第十実施例＞
図２５は、第十実施例のスピーカ装置１ｊの斜視図である。本実施例のスピーカ装置１ｊは、四つのスコーカ４、４と単一のトゥイータ５を備え、二つのウーファ３ｂ，３ｂを備える別のスピーカ装置１ｋと併用することで、低音域まで再生し、低域まで音響負荷の掛かる３ウェイのスピーカシステムを構成するものである。本実施例では、スコーカ４が本発明に係る基準スピーカである。

本実施例のスピーカ装置１ｊでは、バッフル板２ｅの中央部にトゥイータ５が配置され、該トゥイータ５の上下にスコーカ４が二つずつ配置される。トゥイータ５は第六実施例と略同形のホーン１９ａを備えたものである。一方、スコーカ４は第一実施例と同じものであり、トゥイータ５を中心に仮想同軸配置される。本実施例では、バッフル板２ｅにインライン配置されたスコーカ４（基準スピーカ）の輻射音が増大壁対１０ｆの前端に到る最短距離よりも、当該輻射音が増大壁対１０ｆの上下端へ到る最短距離の方が長いものとなるように、増大壁対１０ｆを上下方向に延出した。

バッフル板２ｅの上下に配設した板片２７，２７の中央よりの縁をバッフル板２ｅに接合し、夫々の板片２７，２７の上下端を増大壁対１０ｆの上下端に合わせ、さらにスコーカ４の輻射音を効果的に増大させるため、それらの板片２７，２７の上下端を前方に移動し、傾斜して配設した。しかし、トゥイータ５と下側のスコーカ４の輻射音が上側に設置した板片２７に、或はトゥイータ５と上側のスコーカ４の輻射音が下側に設置した板片２７に当たり反射して歪むと本発明の趣旨に反する。したがってそれらの輻射音が板片２７に当たって反射しないようにそれらの板片２７，２７の上下端をトゥイータ用ホーン１９の前端より後方の位置に設置するのが望ましい。さらに、バッフル板２ｅの中央部に設置したホーン１９ａの開口部を、増大壁対１０ｆの前端から、ホーン１９ａの開口部の縦幅寸法以上の距離に奥まって配置しているので、ホーン１９ａによって増大壁対１０ｆの音圧増大作用がカットオフ周波数付近で減衰してしまうことはない。

このようにスピーカ装置１ｊと二つのウーファ３ｂを備える別のスピーカ装置１ｋと分割することによって、スピーカ装置１ｊの中央のトゥイータ５の高さ位置をリスナーの正面に設置でき、スピーカ装置１ｊに仮想同軸配置された各スピーカの輻射音の到達時間を合わせることが出来るようになる。さらに軽量化できることで移動や設置が容易になり、また箱鳴りしにくくなるなど多くの利点がある。そして当該実施例のように充分低い音のみを再生するスピーカ装置１ｋは高音側を再生するスピーカ装置１ｊと少し離れていても不自然さを感じないし、スピーカ装置１ｊと輻射音の到達時間を合わせることも出来る。

以上のように、本発明の実施形態を説明したが、本発明のスピーカ装置は、上述した実施例の形態に限定されるものではなく、各スピーカの種類や性能に応じて、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることが出来る。例えば、上記実施例における増大壁対は、バッフル板の中心に配設された左右対称の板片であるが、バッフル板の中心から偏った位置に配置することもできるし、その左右の形状を異ならせることもできる。また上下方向に中央部分を厚くしてその内壁面と外壁面を対称の形状にしても良い。また、これら以外にも増大壁対は基準スピーカの種類や能力により位置や形状を修正し、スピーカの性能を十分に発揮できるような形態にする事が出来る。さらに、独立した形態のスーパートゥイータやスーパーウーファを本発明のスピーカ装置に追加し、再生する帯域を広げることもできる。増大壁対を備えるスピーカ装置は、一般的なスピーカ装置に比べて、多種多様の自由な構想とデザインで個性的なスピーカシステムを作り上げることもできる利点もある。

第一実施例のスピーカ装置１の斜視図である。 スピーカ装置１の縦断側面図である。 スコーカ４の高さ位置におけるスピーカ装置１の横断面図である。 トゥイータ５の高さ位置におけるスピーカ装置１の横断面図である。 第一比較例のスピーカ装置１ａの斜視図である。 第一実施例、第一比較例及び第二比較例のスピーカ装置における、スコーカ４の周波数特性図である。 第一実施例及び第三比較例のスピーカ装置の周波数特性図である。 第二実施例のスピーカ装置１ｂの斜視図である。 スピーカ装置１ｂの縦断側面図である。 ウーファ３の高さ位置におけるスピーカ装置１ｂの横断面図である。 スコーカ４の高さ位置におけるスピーカ装置１ｂの横断面図である。 トゥイータ５の高さ位置におけるスピーカ装置１ｂの横断面図である。 第二実施例及び第四比較例のスピーカ装置の周波数特性図である。 第三実施例のスピーカ装置１ｃの斜視図である。 第四実施例のスピーカ装置１ｄの斜視図である。 第四実施例のスピーカ装置１ｄの縦断側面図である。 トゥイータ５の高さ位置におけるスピーカ装置１ｄの横断面図である。 第五実施例のスピーカ装置１ｅの斜視図である。 第六実施例のスピーカ装置１ｆの斜視図である。 スピーカ装置１ｆの縦断側面図である。 第七実施例のスピーカ装置１ｇの斜視図である。 第八実施例のスピーカ装置１ｈの斜視図である。 第八実施例のスピーカ装置１ｈの平面図である。 第九実施例のスピーカ装置１ｉの斜視図である。 第十実施例のスピーカ装置１ｊの斜視図である。

符号の説明

１，１ａ〜１ｋ スピーカ装置
２，２ａ〜２ｅ バッフル板
３，３ａ ウーファ
４，４ａ スコーカ
５ トゥイータ
６ ミッドバス
１０，１０ａ〜１０ｆ 増大壁対
１６，１６ａ 増大抑止間隙口
１８ 指向拡大間隙口
２６，２６ａ 開口部
２８ 外側間隙

Claims (8)

1. 再生帯域の異なる２種類以上のスピーカがバッフル板にインライン配置されてなるスピーカ装置において、
   バッフル板には、ウーファの再生帯域に隣接する高音側帯域を再生する基準スピーカが配置されており、
   バッフル板の前面側には、該基準スピーカの輻射面の左右両脇部位と該基準スピーカ以外のすべてのスピーカの両側を通過してバッフル板前面を上下に縦断し、尚且つその前方に向けて左右に拡開し、基準スピーカの輻射音を増大する形状をなしている増大壁対が配設されており、
   バッフル板には、ウーファが配置されると共に、該増大壁対の外壁面とバッフル板前面の間には、リスニング空間に開放する外側間隙が形成されており、
   さらに、増大壁対とバッフル板の境界部分には、前記ウーファの配置された高さ位置に、該ウーファの輻射音を外側間隙に輻射する増大抑止間隙口が形成されており、
   該ウーファの輻射音が、増大壁対の内側に輻射されると共に、増大抑止間隙口を介して増大壁対の外側にある外側間隙を通過しリスニング空間に輻射されることを特徴とするスピーカ装置。
2. 増大壁対は、バッフル板の前面側において前記ウーファの輻射面上を通過していることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
3. バッフル板には、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータが配置されており、
   該ホーン型トゥイータのホーンの開口部の両側近傍部位には、当該ホーン型トゥイータの輻射音を増大壁対の外側に通過させてリスニング空間に輻射する指向拡大間隙口が形成されていることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
4. 基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータがバッフル板に配置されると共に、該トゥイータの上下に基準スピーカが仮想同軸配置されており、
   トゥイータのホーンの開口部が、増大壁対の前端から、該開口部の縦幅寸法の半分以上の距離に奥まって配置されていることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
5. また、基準スピーカの輻射音が増大壁対の上端へ到る最短距離、及び、基準スピーカの輻射音が増大壁対の下端へ到る最短距離とが、基準スピーカの輻射音が増大壁対の前端へ到るまでの最短距離と略同寸か、又はそれよりも長いことを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
6. バッフル板には、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生する高音用スピーカが配置されており、
   該高音用スピーカの輻射面の両側近傍部位には、その前方に向けて左右に拡開し、その輻射音を増大する形状をなす高音用増大壁対が配設され、該高音用増大壁対の上下端及び前端が、前記増大壁対の内壁に接合していることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
7. バッフル板には、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生するホーン型トゥイータが配置されており、該ホーン型トゥイータのホーンの前端両側部が前記増大壁対の内壁に接合していることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。
8. バッフル板には、基準スピーカの再生帯域よりも高音側帯域を再生する高音用スピーカが配置されており、
   前記増大壁対の内壁は、当該高音用スピーカの輻射面の両側縁を通過すると共に、当該高音用スピーカの輻射音を増大する形状をなしていることを特徴とする請求項１記載のスピーカ装置。

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