以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
まず,本発明の第1の実施形態にかかる洗浄方法の概要について説明する。本実施形態にかかる洗浄方法は,切削加工により1又は2以上の切削溝が形成された被加工物を洗浄対象とし,この被加工物の切削溝に詰まった微細な切削屑を切削溝から好適に除去することを目的としている。この目的を達成するため,本実施形態にかかる洗浄方法では,被加工物を保持する保持手段に超音波振動子を設置し,被加工物の洗浄時には,この超音波振動子によって保持手段を垂直方向に超音波振動させることにより,この保持手段に保持されている被加工物自体を垂直方向に振動させて,切削溝内の切削屑を超音波洗浄して除去することを特徴としている。
以下では,まず,図5を参照して,従来の洗浄方法の原理とその問題点について説明した上で,図1を参照して,本実施形態にかかる洗浄方法の原理とその作用効果について説明する。なお,以下の説明では,洗浄対象の被加工物として,切削溝が形成された半導体ウェハの例を挙げて説明するが,本発明の被加工物はかかる例に限定されるものではない。
図5は,従来の洗浄方法の原理を説明する概念図である。図5に示すように,従来の洗浄方法では,超音波振動子(図示せず。)が設けられた超音波洗浄ノズル1から,超音波振動させた洗浄水2(以下「加振洗浄水2」という。)をウェハWに向けて噴射し,この加振洗浄水2のウェハWに対する衝撃力やキャビテーションによって洗浄力を発生させて,ウェハWの表面に付着した切削屑を除去しようとするものである。このとき,ウェハWは,保持手段(図示せず。)上に,回路パターン5が形成された表面側を上向きにして載置されており,その裏面側にはウェハテープ6が貼り付けられている。また,このウェハWには,前工程である切削工程における切削加工により,表面側から複数の切削溝3が垂直方向に形成されている。
しかしながら,図5の従来の洗浄方法では,ウェハWに形成されている切削溝3は狭く深いため(例えば,溝幅:10〜50μm程度,深さ:400〜800μm程度),加振洗浄水2に付加された超音波振動が切削溝3の壁面に吸収されて減衰し,切削溝3の底部にまで到達しない(符号A参照)。このため,切削溝3の底部に詰まっている切削屑4を,切削溝3から除去することができないという問題があった。切削加工されたウェハWにおいて,切削溝3の底部は最も切削屑が存在する箇所であり,上記従来の洗浄手法では,この最も洗浄すべき箇所である切削溝3の底部の洗浄効果が十分に得られなかった。
また,噴射される加振洗浄水2の超音波振動は,指向性が強いため,洗浄力の有効範囲は狭く,超音波洗浄ノズル1の直下から離れるほど洗浄力が低くなるという問題があった(符号B参照)。さらには,ウェハWの材質によっては,上記加振洗浄水2の衝撃力やキャビテーションにより,ウェハW表面に形成された回路パターン5にダメージを与えてしまうことがあるという問題もあった。
次に,図1を参照して,上記のような従来の洗浄方法の問題点を解決するための本実施形態にかかる洗浄方法の原理と作用効果について説明する。図1は,本実施形態にかかる洗浄方法の原理を説明する概念図である。
図1に示すように,本実施形態にかかる洗浄方法では,図示しない保持手段(例えば,後述するダイシング装置10のチャックテーブル15(図2参照)や,スピンナー洗浄装30置のスピンナーテーブル31(図2参照)など)上に,切削溝3が形成されたウェハWを,回路パターン5が形成された表面を上向きにした状態で載置して,保持する。この保持手段には,保持手段を垂直方向(鉛直方向)に超音波振動させる超音波振動子が設置されている。そして,ウェハWの洗浄時には,この超音波振動子によって保持手段を垂直方向に超音波振動させることにより,保持手段を介してウェハWをその下面側から垂直方向に超音波振動させる。このようにウェハWに加振される超音波振動の方向は,ウェハWに形成された切削溝3の深さ方向と同一である。また,かかる超音波振動の周波数は例えば1〜10MkHzであり,超音波振動の振幅は例えば5〜50μmであるが,この周波数や振幅は,被加工物の種類や洗浄条件等に応じて異なる。
このようにして,ウェハWの下面側から超音波振動を加えることにより,切削溝3の底部から衝撃力やキャビテーションが発生するため,切削溝3の底部に詰まっている切削屑4を下方から剥離して浮き上がらせるような洗浄力が発生する(符号D参照)。一方,ウェハWの下面(裏面)側における切削溝3以外の部分(符号Fで表す領域)は,その上部にウェハWが存在することによる質量効果により,ウェハWに伝わる超音波振動が減衰される。このようにして,ウェハWの下面側からの超音波振動による洗浄作用は,切削屑4が詰まっている切削溝3の底部に集中的に作用することになる。
この結果,切削溝3の底部に詰まっていた切削屑4は,切削溝3内を上昇して切削溝3から排出され,ウェハWの表面上にある洗浄水の水膜中に浮遊した状態となる(符号E参照)。さらに,この浮遊した切削屑4は,上記超音波振動に伴うウェハW表面(上面)の振動により,ウェハW表面に堆積・付着することなく,洗浄水の水流に乗って外部に排出される。このようにして,本実施形態にかかる洗浄方法では,ウェハWの切削溝3の底部に存在する切削屑4を,好適に切削溝3から取り出して除去することができる。
また,本実施形態にかかる洗浄方法では,ウェハWを保持する保持手段を超音波振動させるため,この保持手段に保持されているウェハW全体を下面側から同時に超音波振動させることができる。このため,上記図5の従来の洗浄方法で加振洗浄水2をウェハWに対して部分的に噴射する場合のような超音波振動の指向性の問題がない。従って,洗浄力の有効範囲が広く,ウェハW全面にある複数の切削溝3内を同時に洗浄できるという利点がある。また,ウェハW自体を下面側から超音波振動させるため,上記従来の洗浄方法のような加振洗浄水2の衝撃力やキャビテーションにより,ウェハW表面に形成された回路パターン5にダメージを与えてしまうことがないという利点もある。
以上,本実施形態にかかる洗浄方法の原理及び作用効果について説明した。以下では,上記のような本実施形態にかかる洗浄方法を実行するため装置構成,およびその洗浄動作について詳述する。
まず,図2を参照して,本実施形態にかかる洗浄方法を実行する切削装置の一例であるダイシング装置10の全体構成について説明する。なお,図2は,本実施形態にかかるダイシング装置10を示す全体斜視図である。
図2に示すように,ダイシング装置10は,例えば,ウェハWを保持する保持手段の一例であるチャックテーブル15と,ウェハWを切削加工する切削手段である切削ユニット20と,切削ユニット移動機構(図示せず。)と,チャックテーブル移動機構(図示せず。)と,スピンナー洗浄装置30と,を主に備える。
ウェハWは,例えば,表面に複数の回路パターン5が形成されたシリコンウェハなどである。このウェハWの表面には,複数の回路パターン5を区分する切削ライン(ストリート)が格子状に配列されている。かかるウェハWは,例えば,その裏面側に接着テープであるウェハテープ6が貼り付けられ,このウェハテープ6を介してウェハリング7に支持された状態で,チャックテーブル15上に載置される。
チャックテーブル15は,例えば,その上面に載置されたウェハWを吸着保持するための円盤状のテーブルであり,その上面側に真空チャック(図示せず。)を具備している。チャックテーブル15は,この真空チャック上に載置されたウェハWを真空吸着して安定的に保持する。
切削ユニット20は,スピンドル(図示せず。)の先端部に装着されたリング状の切削ブレード22を備えている。この切削ユニット20は,スピンドルにより高速回転させた切削ブレード22をウェハWに切り込ませることにより,ウェハWを切削ラインに沿って切削加工して,極薄の切削溝3を形成する。
切削ユニット移動機構は,切削ユニット20をY軸方向に移動させる。このY軸方向は,切削方向(X軸方向)に対して直交する水平方向であり,切削ユニット20内に延設されたスピンドルの軸方向と一致する。切削ユニット20をY軸方向に移動させることにより,切削ブレード22の刃先をウェハWの切削位置(切削ライン)に位置合わせすることができる。さらに,この切削ユニット移動機構は,切削ユニット20をZ軸方向(垂直方向)にも移動させる。これにより,ウェハWに対する切削ブレード22の切り込み深さを調整することができる。
チャックテーブル移動機構は,切削加工時に,ウェハWを保持したチャックテーブル15を切削方向(X軸方向)に往復移動させて,ウェハWに対し切削ブレード22の刃先を直線的な軌跡で作用させる。また,チャックテーブル移動機構は,チャックテーブル15を水平面内で回転させ,切削方向を変えることができる。
スピンナー洗浄装置30には,上記切削加工後のウェハWを保持手段により保持し,当該ウェハWを水平面内で回転させながら,当該ウェハWの表面に洗浄液(洗浄水等)を噴射することによって,ウェハWに付着している切削屑等を洗浄・除去する。かかるスピンナー洗浄装置30の構成の詳細については後述する。
以上のような全体構成のダイシング装置10は,高速回転する切削ブレード22をウェハWに切り込ませながら,切削ユニット20とチャックテーブル15とを相対移動させることにより,ウェハWの表面に格子状に配置された複数の切削ライン(ストリート)を切削加工して,切削溝3を形成する。これによって,ウェハWをダイシング加工して,複数のチップに分割することができる。さらに,このような切削加工されたウェハWをスピンナー洗浄装置30に搬送してスピンナー洗浄することで,ウェハWに付着している切削屑等を洗浄・除去する。
次に,図3を参照して,上記本実施形態にかかる洗浄方法を,ダイシング装置10のチャックテーブル15を用いて実行するための構成及び動作について詳細に説明する。なお,図3は,本実施形態にかかるダイシング装置10における切削ユニット20及びチャックテーブル15の構成を示す側面図である。
まず,切削ユニット20の構成について説明する。図3に示すように,切削ユニット20は,例えば,スピンドル24の先端部に装着された切削ブレード22と,切削ブレード22及びウェハWの加工点に切削液を供給する切削液供給ノズル26と,切削ブレード22の外周を覆うように配置されるブレードカバー28とを備える。
切削ブレード22は,例えば,ダイヤモンド等の砥粒をボンド材で結合して形成された極薄の回転切削砥石である。この切削ブレード22は,例えば,所謂ワッシャーブレードで構成されてもよいし,或いは,基台部と一体化されたハブブレードで構成されてもよい。この切削ブレード22は,スピンドル24によって例えば30,000rpmで高速回転される。
切削液供給ノズル26は,ウェハWの表面に切削液を供給する切削液供給手段の一例であり,本実施形態では,切削液として例えば切削水を供給するものとする。この切削液供給ノズル26は,例えば,切削ブレード22の下部の両側(正面側と背面側)に,切削ブレード22を挟むようにして対向配置される一対の直線状のノズルで構成される。この一対の切削液供給ノズル26は,例えば,切削ブレード22と対向する側に複数の噴射口(図示せず。)を備えており,この噴射口から,切削ブレード22の側面下部およびウェハWの加工点に向けて切削水を噴射・供給する。このようにして,一対の切削液供給ノズル26により切削ブレード22の両側から切削水を供給することによって,切削加工時に切削ブレード22および加工点を冷却して,加工点におけるチッピング発生と,切削ブレード22の破損とを防止できる。さらに,この切削液供給ノズル26から供給される切削水は,後述するチャックテーブル15によるウェハWの超音波洗浄処理時の洗浄水としても機能するが,その詳細については後述する。
また,ブレードカバー28は,切削ブレード22の外周を覆うようにして配設され,切削ブレード22を保護するとともに,切削加工に伴う切削液や切削屑,破損した切削ブレード22の破片などが,切削ユニット20外部に飛散することを防止する。
次に,チャックテーブル15の構成について説明する。図3に示すように,円盤形状のチャックテーブル15は,その上面に,所定深さの凹部151が陥没形成されている。この凹部151は,ウェハWを支持するウェハリング7を十分に収容できる程度の大きさを有する例えば円形の凹部である。また,この凹部151の深さは,裏面にウェハテープ6が貼り付けられたウェハWを凹部151内に載置して,液体(例えば水)を満たしたときに,ウェハW表面(上面)が液面8下に水没する程度の深さである。また,この凹部151の平坦な底面に真空チャック(図示せず。)が配設され,載置されたウェハWを真空吸着して保持できるようになっている。
このような凹部151を設けることによって,例えば上記切削ユニット20の切削液供給ノズル26から供給された切削水を,凹部151内に貯留することができる。これによって,チャックテーブル15は,ウェハリング7及びウェハテープ6によって支持されたウェハWを,切削水中に水没させた状態で保持することができる。また,チャックテーブル15には,上記凹部151と連通する水抜き孔152が形成されており,凹部151内に貯留された水を外部に排出できるようになっている。
また,円盤形状のチャックテーブル15の内部には,超音波振動子16が設置されている。この超音波振動子16は,例えば,上記チャックテーブル15の外径より小さく,少なくともウェハWの外径よりも大きい円盤形状を有している。この超音波振動子16は,上記のように,周波数が例えば1〜10MkHz,振幅が例えば5〜50μmである超音波振動を発生して,チャックテーブル15を垂直方向に超音波振動させる。これにより,チャックテーブル15上に水没状態で保持されたウェハW全体を,その下面側から垂直方向に超音波振動させて,ウェハWを超音波洗浄できる。このように,本実施形態では,切削加工用のチャックテーブル15を,ウェハWを超音波洗浄する洗浄装置としても兼用することができる。
次に,上記のような構成の切削ユニット20及びチャックテーブル15を用いた切削加工動作及び洗浄動作について説明する。
切削加工時には,図3(a)に示すように,切削液供給ノズル26により切削水を切削ブレード22及び加工点に供給しながら,切削ユニット20を降下させて,高速回転する切削ブレード22の刃先をウェハWの表面から切り込ませつつ,チャックテーブル15を切削方向に相対移動させ,ウェハWを切削ラインに沿って切削する。このような切削加工時には,超音波振動子16は超音波振動を発生しておらず,従って,上記図1で説明したようなウェハWの超音波洗浄処理は実行されない。
一方,ウェハWの超音波洗浄処理は,図3(b)に示すように,切削ユニット20がウェハWから離隔されて,「切削ブレード22によるウェハWの切削加工が行われていないとき」に実行される。この超音波洗浄処理では,チャックテーブル15の凹部151内に貯留された水(上記切削水)内にウェハWを水没させた状態で,上記チャックテーブル15に設けられた超音波振動子16を動作させて,チャックテーブル15を垂直方向に超音波振動させることにより,ウェハWを下面側から垂直方向に超音波振動させる。これにより,上記図1で説明した原理により,ウェハWの切削溝3内に存在する切削屑を好適に超音波洗浄して除去できる。また,ウェハWを水没状態で超音波洗浄することにより,上記切削屑4が切削溝3から脱離して水中に浮遊しやすくなるので,洗浄効果を高めることができる。
この超音波洗浄処理の際には,例えば,上記切削加工時に切削液供給ノズル26から供給されてチャックテーブル15の凹部151内に貯留されていた切削水が,超音波洗浄用の洗浄水として機能する。なお,この超音波洗浄処理時には,上記切削液供給ノズル26,或いは別途の液体供給手段により,洗浄水をウェハW表面に供給しながら,超音波洗浄してもよい。
また,このような超音波洗浄処理を上記のような「切削ブレード22によるウェハWの切削加工が行われていないとき」に行う理由は,例えば,被加工物がシリコン等の結晶材からなるウェハWなどである場合には,当該被加工物を超音波振動させながら切削すると,切削加工により被加工物に生じるチッピングが大きくなってしまうという問題があるからである。
従って,本実施形態では,切削ブレード22による切削加工時には,上記超音波振動洗浄処理を実行せず,「切削ブレード22によるウェハWの切削加工が行われていないとき」に,上記超音波洗浄処理を実行するようにしている。
この「切削ブレード22によるウェハWの切削加工が行われていないとき」は,例えば,「切削ブレード22がウェハWの切削ライン間を移動するとき」とすることができる。つまり,同一の切削ブレード22を用いてウェハWの複数の切削ラインを切削する場合には,切削ブレード22を,切削済みの切削ラインの位置から次の切削対象の切削ラインの開始位置まで移動させる必要がある。このように切削ブレード22を切削ライン間で移動させるときには,切削ブレード22がウェハWから離隔して切削加工が行われていないので,上記ウェハWの超音波洗浄処理を好適に実行できる。
この場合のダイシング装置10の動作フローとしては,まず,図3(a)に示すように,切削ブレード22によりウェハWの1本又は複数本の切削ラインを切削し(第1工程),次いで,図3(b)に示すように,切削ブレード22を最後に切削された切削ラインから退避させ,次の切削ラインの開始位置まで移動させるまでの期間に,超音波振動子16によりウェハWを下方から超音波振動させて,切削溝3内の切削屑を超音波洗浄し(第2工程),その後,超音波振動を停止させた後に,再び図3(a)に示すように,切削ブレード22により当該次の切削ラインを切削する(第3工程)といった各工程を繰り返すことになる。このような動作フローで超音波洗浄処理を行うことにより,切削ブレード22による複数の切削ラインの切削加工の合間を縫って効率的に,ウェハWの切削溝3内の洗浄を行うことができる。
また,上記「切削ブレード22によるウェハWの切削加工が行われていないとき」の別の例としては,例えば,「切削ブレード22がウェハWの全ての切削ラインを切削した後」を挙げることができる。つまり,切削ブレード22によりウェハWの全ての切削ラインを切削した後には,当然ながら,切削加工は行われない。このため,全ての切削ラインの終了後には,ウェハWにチッピング等を発生させることなく,上記ウェハWの超音波洗浄処理を好適に実行できる。
この場合のダイシング装置10の動作フローとしては,まず,図3(a)に示すように,切削ブレード22によりウェハWの全ての切削ラインを切削し(第1工程),次いで,図3(b)に示すように,切削ブレード22を最後に切削された切削ラインから退避させた後に,超音波振動子16によりウェハWを下方から超音波振動させて,切削溝3内の切削屑を超音波洗浄する(第2工程)。このようなタイミングで超音波洗浄を行うことにより,切削ブレード22による切削加工により形成された全ての切削溝3内を,十分に時間をかけて洗浄して,全ての切削溝3内の切削屑4を好適に除去することできる。
さらに,超音波洗浄処理を実行するタイミングの別の例としては,例えば,ウェハWの第1チャンネルを構成する平行な複数の切削ラインを切削した後に,切削加工されたウェハWの第1チャンネルの切削溝3の超音波洗浄を行い,次いで,上記第1チャンネルに直交する第2チャンネルを構成する平行な複数の切削ラインを切削した後に,再び,ウェハWの第1及び第2チャンネルの切削溝3の超音波洗浄を行うようにしてもよい。
以上,本実施形態にかかる洗浄方法を,ダイシング装置10における切削領域に設けられるチャックテーブル15及び切削ユニット20を用いて実行するための構成及び動作について説明した。以上のように,本実施形態においてウェハWに加える超音波振動は,あくまでもウェハWの切削溝3に詰まった微細な切削屑を洗浄・除去するために,切削加工とは別タイミングで行われるものであり,従来から行われているような,切削ブレードによる切削加工を円滑に行うために切削加工と同時に実行される超音波振動とは異なる。
次に,図4を参照して,本実施形態にかかる洗浄方法を,ダイシング装置10のスピンナー洗浄装置30を用いて実行するための構成及び動作について詳細に説明する。なお,図4は,本実施形態にかかるダイシング装置10におけるスピンナー洗浄装置30の構成を示す側面図である。
図4に示すように,スピンナー洗浄装置30は,例えば,切削加工後のウェハWを吸着保持するスピンナーテーブル31と,スピンナーテーブル31を支持する回転軸32と,スピンナーテーブル31に保持されたウェハWの表面に洗浄液(例えば洗浄水)を噴射・供給する洗浄液供給ノズル33と,アーム34を介して洗浄液供給ノズル33を回動可能に支持する支持体35と,一端が支持体35に連結され他端が電動モータ(図示せず。)に連結された回動軸36と,ホース37を介して洗浄液供給ノズル33に洗浄液を供給する洗浄液供給源38と,ホースの途中に設けられたバルブ39とを備える。
スピンナーテーブル31は,上記切削加工により切削溝3が形成されたウェハWを保持する保持手段の一例である。このスピンナーテーブル31は,例えば,略円盤状のテーブルであって,その上面にポーラスセラミック盤からなる真空チャック(図示せず。)を備えている。このスピンナーテーブル31は,切削加工後のウェハWを,その表面(回路面)を上向きにした状態で真空吸着して保持する。また,このスピンナーテーブル31は,回転軸32を介して電動モータ(図示せず。)に連結されている。これにより,スピンナー洗浄中には,ウェハWを吸着保持したスピンナーテーブル31を,水平面内で回転させることができる。
また,このスピンナーテーブル31の上面には,上記チャックテーブル15の凹部151と同様,所定深さの凹部311が陥没形成されている。この凹部311は,ウェハWを支持するウェハリング7を十分に収容できる程度の大きさを有する例えば円形の凹部である。また,この凹部311の深さは,ウェハテープ6が貼り付けられたウェハWを凹部311内に載置して,洗浄液(例えば洗浄水)を満たしたときに,ウェハW表面(上面)が液面9下に水没する程度の深さである。また,この凹部311の平坦な底面に上記真空チャックが配設され,載置されたウェハWを真空吸着して保持できるようになっている。
このような凹部311を設けることによって,例えば上記洗浄液供給ノズル33から供給された洗浄水を凹部311内に貯留することができ,スピンナーテーブル31は,ウェハリング7及びウェハテープ6によって支持されたウェハWを,洗浄水中に水没させた状態で保持することができる。
また,円盤形状のスピンナーテーブル31の内部には,超音波振動子40が設置されている。この超音波振動子40は,例えば,上記スピンナーテーブル31の外径より小さく,少なくともウェハWの外径よりも大きい円盤形状を有している。この超音波振動子40は,上記のように,周波数が例えば1〜10MkHz,振幅が例えば5〜50μmである超音波振動を発生して,スピンナーテーブル31を垂直方向に超音波振動させる。
また,洗浄液供給ノズル33は,ウェハWの表面に洗浄液を供給する洗浄液供給手段の一例である。本実施形態では,洗浄液として例えば純水を供給するものとする。この洗浄液供給ノズル33は,柔軟性を有するホース37を介して洗浄液供給源38に接続されており,バルブ39を開放すると,洗浄液供給源38から洗浄液供給ノズル33に洗浄水が所定圧で供給される。これにより,洗浄液供給ノズル33は,洗浄液供給源38から供給された洗浄水をウェハWの表面に向けて噴射する。
また,この洗浄液供給ノズル33は,上記アーム34,支持体35,回動軸36及び電動モータ(図示せず。)からなる回動機構により,回動軸36を中心として水平面内で回動可能となっている。これにより,洗浄時には,洗浄液供給ノズル33は,ウェハWの上方で揺動して,ウェハWの表面全体に略均一に洗浄水を供給可能となっている。
また,スピンナー洗浄装置30は,上記各部以外にも,洗浄後にウェハWを乾燥させるためのエアーを噴射・供給するエアー供給手段や,洗浄領域を覆う筐体及び開閉可能なシャッターなど(いずれも図示せず。)を具備してもよい。
次に,上記のような構成のスピンナー洗浄装置30の洗浄動作(スピンナー洗浄処理動作及び超音波洗浄処理動作)について説明する。
上記スピンナー洗浄装置30は,スピンナー洗浄処理を行う場合には,スピンナーテーブル31によって切削加工後のウェハWを表面を上向きにした状態で保持し,この保持したウェハWを回転させながら,上記回動機構により揺動される洗浄液供給ノズル33から,当該ウェハWの表面に対して洗浄水を噴射する。これにより,洗浄水の水圧および遠心力の作用により,ウェハWに付着している切削屑等の汚染物を洗浄して除去することができる。
さらに,スピンナー洗浄装置30は,この一般的なスピンナー洗浄処理のみならず,上記スピンナーテーブル31内に設けられた超音波振動子40を動作させることにより,超音波洗浄処理を実行可能である。
具体的には,スピンナー洗浄装置30は,この超音波洗浄処理を行う場合には,スピンナーテーブル31上に水没状態で保持したウェハWの表面に対して,上記回動機構により揺動される洗浄液供給ノズル33から洗浄水を噴射・供給しながら,上記超音波振動子40よりスピンナーテーブル31を垂直方向に超音波振動させる。これにより,スピンナーテーブル31上に保持されたウェハW全体を,その下面側から垂直方向に超音波振動させて,上記図1で説明したような原理で,ウェハWの切削溝3内に存在する切削屑4を超音波洗浄して,切削溝3から切削屑4を除去できる。
かかる超音波洗浄処理により,上記一般的なスピンナー洗浄処理では,除去しきれなかった切削溝3内の切削屑4を,好適に洗浄・除去することができる。なお,ウェハWを水没状態で超音波洗浄することにより,上記切削屑4が切削溝3から脱離して水中に浮遊しやすくなるので,洗浄効果を高めることができる。
このようなスピンナー洗浄装置30における超音波洗浄処理は,スピンナーテーブル31を回転させながら行ってもよいし,或いは,スピンナーテーブル31を回転停止させた状態で行ってもよい。スピンナーテーブル31を回転停止させた状態で超音波洗浄を行ったとしても,上記洗浄液供給ノズル33から供給された洗浄水中にウェハW表面全体が水没していれば,ウェハWを好適に洗浄可能である。
従って,上記スピンナー洗浄装置30による洗浄手順としては,例えば,(1)スピンナー洗浄処理を実行後に,スピンナーテーブル31の回転を停止し,超音波振動子40を動作開始させて,超音波洗浄処理を実行する手法,(2)超音波洗浄処理を実行後に,超音波振動子40の動作を停止し,スピンナーテーブル31を回転させて,スピンナー洗浄処理を実行する手法,(3)スピンナーテーブル31を回転させながら超音波振動子40を動作させて,スピンナー洗浄処理と超音波洗浄処理とを同時に実行する手法,のいずれも実施可能である。
以上,本実施形態にかかる洗浄方法と,この洗浄方法を実行するダイシング装置10及びスピンナー洗浄装置30について詳細に説明した。本実施形態にかかる洗浄方法によれば,チャックテーブル15又はスピンナーテーブル31等の保持手段に設けられた超音波振動子16,40によって,ウェハW自体を下面側から垂直方向に超音波振動させる。これにより,ウェハWの切削溝3の底部から衝撃力やキャビテーションを発生させて,切削溝3の底部に詰まっている切削屑4を下方から剥離して浮き上がらせるような洗浄力を発生させることができる。このため,ウェハWの切削溝3の底部に詰まった微細な切削屑4であっても,切削溝3から好適に除去することができる。従って,洗浄工程の後工程であるダイボンディング工程において,分割されたチップのピックアップ時に,チップから切削屑が落下し,製造ライン内に異物を混入させてしまうことがないので,チップの製品不良の発生を防止できる。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,上記実施形態では,被加工物として,半導体ウェハWの例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されない。被加工物は,例えば,各種の半導体ウェハ,CSP基板,GPS基板,BGA基板等のパッケージ基板等の半導体基板や,サファイア基板,ガラス材,セラミックス材,金属材,プラスチック等の合成樹脂材,或いは,磁気ヘッド,レーザダイオードヘッド等を形成するための電子材料基板,CCDやC−MOS等の撮像素子が複数形成された基板などであってもよい。また,被加工物の形状は,略円板形状に限定されず,略矩形板形状など任意の形状であってよい。
また,上記実施形態では,本発明の洗浄方法を実行する切削装置としてダイシング装置10の例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,切削ブレード等の切削手段と被加工物を保持する保持手段とを用いて,被加工物を切削加工する装置であれば,例えば,ダイシング加工以外の切削加工を行う各種の切削装置であってもよい。
また,上記実施形態では,切削装置が具備する切削液供給手段として,切削ブレード22の両側方から切削液を噴射供給する一対の切削液供給ノズル26の例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,上記切削液供給ノズル26に加えて,或いは,上記切削液供給ノズル26の代わりに,切削ブレード22の外周面と対向配置される外周ノズルを設け,この外周ノズルから切削ブレード22の外周面に向けて切削液を噴射供給してもよい。
また,上記実施形態では,本発明の洗浄方法を実行する洗浄装置としてダイシング装置10に設けられたスピンナー洗浄装置30の例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,上記超音波洗浄処理を実行可能な洗浄装置であれば,上記スピンナー洗浄装置30以外の洗浄装置であってもよい。また,本発明の洗浄装置は,上記のようなダイシング装置10等の切削装置に搭載される洗浄装置以外にも,例えば,研削装置,研磨装置などの各種の加工装置に搭載される洗浄装置や,単体で設置される洗浄専用装置などで構成されてもよい。
また,切削液や洗浄液は,上記水の例に限定されず,切削液若しくは洗浄液に適した液体であれば,任意の液体であってよい。