この発明は車両の走行安全装置に関し、より具体的には先行車などの物体との衝突を回避するようにした装置に関する。
近時、夜間走行時に見え難い前方の歩行者の存在を運転者に警告する歩行者警報装置や、周囲死角モニタなどの情報提供装置などが商品化されている。これらの技術は運転者が対象を認識していると否とに関わらず情報を提供することから、運転者が認識している場合、認識している事実を警告されることで、運転者は煩瑣感を受ける不都合がある。
その点、例えば下記の特許文献1記載の技術においては、減速開始時の車間距離検出値を相対速度で除算して余裕時間を算出すると共に、減速ごとに余裕時間を記憶し、記憶した余裕時間から当該運転者の予測時間を推定し、相対速度検出値に予測時間推定値を乗じて得た値を車間距離検出値に加算して車間距離予測値を算出し、車間距離予測値が警報距離より短い場合、警報するように構成している。このように、特許文献1記載の技術にあっては、運転者の個性に適合した領域で適切に警報するように構成することで、運転者に煩瑣感を与えることはない。
特開平7−159525号公報
しかしながら、特許文献1記載の技術にあっては、運転者は安全に停止するためのマージンを大目にとることはあっても、ぎりぎりで減速することは少ないなどの理由から、予測時間として余裕時間の最小値を推定しているため、走行安全性の点で必ずしも満足し難いものであった。
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、煩瑣感を与えることなく、各運転者が必要とする情報を精度良く提供できると共に、走行安全性の点でも欠けることがないようにした車両の走行安全装置を提供することにある。
上記の目的を解決するために、請求項1にあっては、車両の周囲に存在する物体を検知する物体検知手段と、前記物体検知手段によって前記物体が検知されたとき、前記車両と物体の相対距離と相対速度とからなる相対関係を算出する相対関係算出手段と、前記車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援手段と、前記相対関係に基づいて前記衝突回避支援手段を作動させる支援作動手段とを備えた車両の走行安全装置において、減速意思と車線変更意思の少なくともいずれかからなる運転者意思を検出する運転者意思検出手段と、および前記運転者意思が検出される度に前記相対関係に基づいて前記車両が前記物体に衝突するまでに要すると予想される予想衝突時間を算出する予想衝突時間算出手段と、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間の中で算出頻度が最も多い予想衝突時間を最多算出予想衝突時間として記憶する最多算出予想衝突時間記憶手段とを備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間を前記最多算出予想衝突時間と比較し、その差が所定時間以上となる予想衝突時間の算出回数が所定回数に達したとき、前記最多予想衝突時間を増加補正し、前記支援作動手段は、前記算出された予想衝突時間が前記記憶された最多算出予想衝突時間以下であると共に、前記運転者意思が検出されないときのみ、前記衝突回避支援手段を作動させる如く構成した。
請求項2に係る車両の走行安全装置にあっては、前記支援作動手段は、前記物体検知手段によって前記車両の斜め後方に存在する物体が検知された場合、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間が前記最多算出予想衝突時間以下であると共に、前記物体に接近する方向への前記車線変更意思が検出されたとき、前記衝突回避支援手段を作動させる如く構成した。
請求項3に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両が走行する路面の状況を検出する路面状況検出手段を備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記路面状況検出手段によって前記路面が低摩擦係数路面と検出されたとき、前記最多算出予想衝突時間を増加補正する如く構成した。
請求項4に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段を備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記路面勾配検出手段の検出結果に基づいて前記最多算出予想衝突時間を補正する如く構成した。
請求項5に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両の減速度を検出する減速度検出手段と、前記車両の操舵角速度を検出する操舵角検出手段とを備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、所定値以上の減速度または所定値以上の操舵角速度が検出された時点で前記予想衝突時間算出手段によって算出された前記予想衝突時間を、前記最多算出予想衝突時間として記憶される対象から除外する如く構成した。
請求項1にあっては、減速意思と車線変更意思の少なくともいずれかからなる運転者意思を検出し、運転者意思が検出される度に車両の周囲に存在する物体との相対距離と相対速度とからなる相対関係に基づいて車両が物体に衝突するまでに要すると予想される予想衝突時間を算出し、算出した予想衝突時間の中で算出頻度が最も多い予想衝突時間を最多算出予想衝突時間として記憶すると共に、算出した予想衝突時間を最多算出予想衝突時間と比較し、その差が所定時間以上となる予想衝突時間の算出回数が所定回数に達したとき、最多予想衝突時間を増加補正し、算出された予想衝突時間が記憶された最多算出予想衝突時間以下であると共に、減速意思が検出されないときのみ、物体の衝突回避を支援する衝突回避支援手段を作動させる如く構成、換言すれば、通常の運転と異なる運転データから運転者の焦燥感といった心理状態まで推定し、通常とは異なる心理状態にあると推定される場合には、最多算出予想衝突時間を増加補正して早期に衝突回避支援手段を作動させると共に、運転者が通常行っている運転操作のタイミングを記憶し、そのタイミングを考慮して衝突回避支援手段を作動させる如く構成したので、煩瑣感を与えることなく、各運転者が必要とする情報を精度良く提供できると共に、走行安全性を向上させることができる。
請求項2に係る車両の走行安全装置にあっては、車両の斜め後方に存在する物体が検知された場合、予想衝突時間が最多算出予想衝突時間以下であると共に、物体に接近する方向への車線変更意思が検出されたとき、衝突回避支援手段を作動させる如く構成、換言すれば、運転者が通常行っている車線変更操作のタイミングを記憶し、そのタイミングが徒過してから車線変更操作が行われた場合に衝突回避支援手段を作動させる如く構成したので、煩瑣感を与えることなく、衝突を回避することができる。
請求項3に係る車両の走行安全装置にあっては、車両が走行する路面の状況を検出し、路面が低摩擦係数路面と検出されたとき、最多算出予想衝突時間を増加補正する如く構成したので、濡れるなどして乾燥路面よりも制動距離が増加する低摩擦係数路面を走行するときは、然らざる場合に比して早期に、衝突回避支援手段を作動させることから、上記した効果に加え、路面状況に合致した一層適切なタイミングで情報を提供することができる。
請求項4に係る車両の走行安全装置にあっては、車両が走行する路面の勾配を検出し、その検出結果に基づいて最多算出予想衝突時間を補正する如く構成したので、例えば、上り勾配のときは減少補正して衝突回避支援手段を遅めに作動させる、あるいは下り勾配のときは増加補正して早めに作動させることも可能となることから、上記した効果に加え、路面状況に合致した一層適切なタイミングで情報を提供することができる。
請求項5に係る車両の走行安全装置にあっては、車両の減速度と操舵角速度を検出すると共に、所定値以上の減速度または所定値以上の操舵角速度が検出された時点で算出された予想衝突時間を最多算出予想衝突時間として記憶される対象から除外する如く構成、換言すれば、通常の運転と異なる運転データを最多算出予想衝突時間として記憶される対象から除外する如く構成したので、上記した効果に加え、一過的な事象の影響を受けるのを防止することができ、最多算出予想衝突時間を正確に算出することができる。
以下、添付図面に即してこの発明に係る車両の走行安全装置を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、この発明の第1実施例に係る車両の走行安全装置を全体的に示す概略図である。
図1において、符号10は車両を示し、その前部には4気筒の内燃機関(図1で「ENG」と示し、以下「エンジン」という)12が搭載される。エンジン12の出力は自動変速機(図1で「T/M」と示す)14に入力される。自動変速機14は前進5速、後進1速の有段式であり、エンジン12の出力はそこで適宜変速されて左右の前輪16に伝えられ、左右の前輪16を駆動しつつ、左右の後輪20を従動させて車両10を走行させる。
車両10の運転席にはオーディオスピーカとインディケータからなる警報装置22が設けられ、音声と視覚によって運転者に警報する(後述)。車両10の運転席床面に配置されたブレーキペダル24は、マスタバック26、マスタシリンダ30およびブレーキ油圧機構32を介して左右の前輪16と後輪20のそれぞれに装着されたブレーキ(ディスクブレーキ)34に接続される。
運転者がブレーキペダル24を操作すると(踏み込むと)、その踏み込み力(踏力)はマスタバック26で増力され、マスタシリンダ30は増力された踏み込み力で制動圧を発生し、ブレーキ油圧機構32を介して前輪16と後輪20のそれぞれに装着されたブレーキ34を動作させ、車両10を減速させる(制動する)。ブレーキペダル24の付近にはブレーキスイッチ36が配置され、運転者によってブレーキペダル24が操作されるとき、オン信号を出力する。
ブレーキ油圧機構32は、リザーバに接続される油路に介挿された電磁ソレノイドバルブ群、油圧ポンプ、および油圧ポンプを駆動する電動モータ(全て図示せず)などを備える。電磁ソレノイドバルブ群は駆動回路(図示せず)を介してECU(電子制御ユニット)40に接続され、よって4個のブレーキ34は、運転者によるブレーキペダル24の操作とは別に、ECU40によって相互に独立して作動するように構成される。
車両10の前部には第1のミリ波レーダ42が設けられて前方(車両進行方向)に向けて変調波を発信すると共に、車両10の後部には第2のミリ波レーダ44が設けられて後方に向けて変調波を発信する。第1、第2のミリ波レーダ42,44の出力は共にマイクロコンピュータからなる、第1、第2のレーダ出力処理ECU(電子制御ユニット)42a,44aにそれぞれ送られる。
第1、第2のレーダ出力処理ECU42a,44aにおいて、第1、第2のミリ波レーダ42,44から発信された変調波はアンテナ(図示せず)を介して受信された受信波とミキシングされて車両10の前方あるいは後方の検知エリア内に存在する、即ち、車両10の周囲に存在する、先行車あるいは後行車などの物体の有無が検知される。第1、第2のレーダ出力処理ECU42a,44aの出力は、ECU(電子制御ユニット)40に送られる。尚、第1実施例および後述する第2実施例以下において、検知対象である物体は、車両に限られるものではなく、人、自転車、構造物なども含む。
図示は省略するが、ECU40は、CPU,RAM,ROM、入出力回路などからなるマイクロコンピュータから構成される。ECU40は、エンジン12が始動されるとき、通電されて動作を開始すると共に、エンジン12が停止されるとき、通電を遮断されて動作を停止する。ECU40は、RAM,ROMに加え、EEPROM40aを備える。EEPROM40aは書き込み自在な不揮発性メモリであり、ECU40が動作を停止した後も書き込まれたデータを保持(記憶)する。
前輪16と後輪20の付近には車輪速センサ46がそれぞれ配置され(前後輪について1個ずつ示す)、各車輪の所定回転角度ごとにパルス信号を出力する。車両10の運転席に設けられたステアリングホイール50の付近には操舵角センサ52が配置され、運転者によって入力されたステアリングホイール50の操舵角に比例する出力を生じる。
また、ステアリングホイール50の付近に配置されたウインカ(方向指示器)スイッチ(図示せず)にはウインカ操作センサ54が接続され、運転者によるウインカ操作方向、即ち、車線変更などで進路が変更されたとき、その変更された方向を示す出力を生じると共に、車両10の適宜位置には光度センサと湿度センサと温度センサからなる路面状況検出センサ56が配置される。
また、エンジン12のクランクシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が配置されてクランク角度信号などのパルス信号を出力すると共に、吸気管(図示せず)には吸気管絶対圧センサ62が配置され、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)に応じた信号を出力する。また、スロットルバルブ(図示せず)の付近にはスロットル開度センサ64が配置され、スロットル開度に応じた信号を出力する。
上記したセンサ群の出力も、ECU40に送出される。ECU40は4個の車輪速センサ46の出力をカウントし、その平均値を算出するなどして車両10の走行速度を示す車速を検出すると共に、クランク角センサ60の出力をカウントしてエンジン回転数NEを検出する。
また、ECU40は、光度センサと湿度センサと温度センサからなる路面状況検出センサ56に関し、各センサの出力から車両10が走行する路面の状況を検出、より具体的には摩擦係数推定値を算出する。
図2は、図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。尚、図示のプログラムはECU40によって100msecごとに実行される。
以下説明すると、S10において物体が存在するか否か判断(検知)する。図3はその処理(検知動作)を示す説明図であるが、図示の如く、S10においては第1のレーダ出力処理ECU42a(および第2のレーダ出力処理ECU44a)の出力に基づき、車両(自車)10の周囲に先行車(あるいは後行車)などの物体100が存在するか否か判断(検知)する。図3は車両10の前方を検知する場合を示すが、S12の処理においては車両10の後方に後行車などの物体100が存在するか否かも判断(検知)する。
S10で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS12に進み、車両10と検知された物体100との相対距離と相対速度を検出する。相対距離は車両10から物体100までの離間距離を、相対速度は車両10に対する物体100の相対的な移動速度を示すことから、相対距離と相対速度は車両10と物体100の相対関係を意味する。
次いでS14に進み、減速意思または車線変更意思が検出されたか否か判断する。減速意思は運転者が車両10を減速しようとする意思であり、ブレーキスイッチ36の出力から運転者がブレーキ34を操作したか否か検出することで判断する。車線変更意思は運転者が車線を変更しようとする意思であり、ウインカ操作センサ54の出力から判断する。このように、S14では減速意思と車線変更意思からなる運転者意思の有無が検出される。
S14で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS16に進み、予想衝突時間TTCを算出する。図3に予想衝突時間TTCを示すが、この予想衝突時間TTCは、S12で検出された相対距離を相対速度で除算して算出する。このように、S16においては、S14で運転者意思が検出される度に、S12で検出された相対速度と相対距離からなる相対関係に基づき、運転者が減速意思または車線変更意思で示される回避行動をとったとき、もしその回避行動がなかったと仮定した場合、車両10が物体100に衝突するまでに要すると予想される予想衝突時間TTCを算出する。
次いでS18に進み、算出回数カウンタNの値を1つインクリメントし、S20に進んでカウンタNの値が100以上か否か判断する。尚、算出回数カウンタNはイグニションスイッチがオンされたときに零にリセットされ、イグニションスイッチがオフされるまでカウント値を積算する。S20で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS22に進み、最多算出予想衝突時間TOを判定し、S24に進んで判定された最多算出予想衝突時間TOをEEPROM40aに記憶する。
図4は、最多算出予想衝突時間TOの判定作業を示す説明図である。図示の如く、横軸に予想衝突時間TTCを、縦軸にその算出頻度をとってヒストグラムで示すと、算出頻度が最も多いTTCの値を求めることができる。このように、算出された予想衝突時間TTCの中で算出頻度が最も多い予想衝突時間を最多算出予想衝突時間TOとして判定して記憶する。ここで算出頻度が最も多い値を判定するのは、その値は当該運転者が通常行う回避動作までの時間、即ち、その運転者は平常、最多算出予想衝突時間TOを目安に回避行動をとると考えられるからである。
図5は同様に図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートであり、図2の処理と平行してECU40によって100msecごとに実行される。
以下説明すると、S100において物体100が存在するか否かS12で述べたと同様の手法で判断し、否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS102に進み、車両10と検知された物体100との相対距離と相対速度、即ち、相対関係を再び検出する。次いでS104に進み、予想衝突時間TTCをS16で述べたと同様の手法で算出する。
次いでS106に進み、図2フロー・チャートのS24で記憶された最多算出予想衝突時間TOを読み出し、S108に進み、予想衝突時間TTCが最多算出予想衝突時間TO以下であるか否か判断する。即ち、S100で物体100が存在すると判断されてから、最多算出予想衝突時間TO以上の時間が経過したか否か判断する。
S108で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS110に進み、減速意思または車線変更意思が検出されたか否かS14で述べたと同様な手法で判断する。S110で肯定されるときは、当該運転者が通常行う回避動作までの時間内に回避動作意思(運転者意思)が検出されたことから、以降の処理をスキップする。
他方、S110で否定されるときは、当該運転者が通常行う回避動作までの時間内に回避動作意思が検出されていないことから、換言すれば、最多算出予想衝突時間TOが経過すると共に、運転者意思が検出されないことから、S112に進み、そのまま放置すると衝突危険度大と判断し、S114に進み、警報を実行する。S114の処理は具体的には、前記した警報装置22を作動させて音声または視覚で運転者に報知することで行う。
第1実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、上記した如く、減速意思と車線変更意思の少なくともいずれかからなる運転者意思を検出し、運転者意思が検出される度に車両10の周囲に存在する物体100との相対距離と相対速度とからなる相対関係に基づいて車両10が物体100に衝突するまでに要すると予想される予想衝突時間TTCを算出し、算出された予想衝突時間の中で算出頻度が最も多い予想衝突時間を最多算出予想衝突時間TOとして記憶すると共に、記憶された最多算出予想衝突時間TOに基づいて物体100との衝突回避を支援する警報装置(衝突回避支援手段)22を作動させる如く構成、より具体的には予想衝突時間TTCが最多算出予想衝突時間TO以下であると共に、運転者意思が検出されないとき、警報装置22を作動させる如く構成した。
換言すれば、運転者が通常行っている運転操作のタイミング、即ち、回避動作までの時間を記憶し、そのタイミング(時間)を考慮して警報装置22を作動させる如く構成したので、煩瑣感を与えることなく、各運転者が必要とする情報を精度良く提供できると共に、走行安全性の点でも欠けることがない。
図6は、この発明の第2実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図5と同様のフロー・チャートである。尚、第2実施例においても、図6フロー・チャートは同様に図2の処理と平行して100msecごとに実行される。
以下説明すると、S200において、図7に示す如く、車両(自車)10が走行する車線(L1で示す)に隣接する車線(L2で示す)上の後方に後行車などの物体100が存在するか否か、換言すれば車両10の斜め後方に物体100が存在するか否かS10で述べたと同様の手法で判断(検知)する。
S200で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS202に進み、車両10と検知された物体100との相対距離と相対速度、即ち、相対関係を検出する。次いでS204に進み、予想衝突時間TTCをS16で述べたと同様の手法で算出し、S206に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを読み出し、S208に進んで予想衝突時間TTCが最多算出予想衝突時間TO以下であるか否か判断する。
図7に予想衝突時間TTCを示すが、この予想衝突時間TTCは、S202で検出された相対速度と相対距離からなる相対関係に基づき、車両10が車線L2に車線変更したとき、回避行動がないと仮定した場合、車両10が物体100に衝突(より正確には物体100が車両10に追突)するまでに要すると予想される時間を意味する。
図8は、第2実施例における最多算出予想衝突時間TOの判定作業を示す説明図である。第2実施例にあっても算出頻度が最も多い予想衝突時間TTCの値を最多算出予想衝突時間TOとして判定して記憶する。第2実施例では、最多算出予想衝突時間TOは、当該運転者が通常行う車線変更時の、回避行動がなされないと仮定したときの、衝突までの予想時間を意味する。
図6フロー・チャートの説明に戻ると、S208で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS210に進み、物体100が検知された方向への車線変更意思、即ち、車線L2に向けての車線変更意思が検出されたか否かウインカ操作センサ54の出力から判断する。
S210で否定されるときは衝突の可能性がないことから以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS212に進み、そのまま放置すると、車線変更によって物体100と衝突する危険度大と判断し、S214に進み、警報装置22を作動させて警報を実行する。
尚、残余の構成は、第1実施例と異ならない。
第2実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、車両10の斜め後方に存在する物体が検知された場合、予想衝突時間TTCが最多算出予想衝突時間TO以下であると共に、物体100に接近する方向への車線変更意思が検出されたとき、警報装置22を作動させる如く構成、換言すれば、運転者が通常行っている車線変更操作のタイミングを記憶し、そのタイミングが徒過してから車線変更操作が行われた場合に警報装置22を作動させる如く構成したので、煩瑣感を与えることなく、衝突を回避することができる。
図9は、この発明の第3実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図6と同様のフロー・チャートである。
以下説明すると、S300において物体が存在するか否か従前の実施例と同様な手法で判断(検知)する。S300で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS302に進み、車両10と検知された物体100との相対距離と相対速度を検出する。
次いでS304に進み、減速意思または車線変更意思が検出されたか否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS306に進み、予想衝突時間TTCを同様に算出する。次いでS308に進み、算出回数カウンタNの値を1つインクリメントし、S310に進んでカウンタNの値が100以上か否か判断する。S310で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS312に進み、最多算出予想衝突時間TOをS22で述べたと同様の手法で判定し、S314に進んでそれを記憶する。
次いでS316に進み、路面状況、より具体的には車両10が走行する路面の状況を検出する。これは、路面状況検出センサ56の出力、より具体的にはその出力に基づいて摩擦係数推定値を算出することで行う。
次いでS318に進み、算出された摩擦係数推定値を適宜設定されたしきい値と比較して走行路面は低摩擦係数路面か否か判断する。S318で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS320に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを増加補正する。
尚、増加補正された最多算出予想衝突時間TOに基づいて衝突危険度大と判断されるときに警報が実行されるなど、残余の構成は、第1実施例あるいは第2実施例と異ならない。
第3実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、車両10が走行する路面の状況を検出し、路面が低摩擦係数路面と検出されたとき、最多算出予想衝突時間TOを増加補正する如く構成したので、濡れるなどして乾燥路面よりも制動距離が増加する低摩擦係数路面を走行するときは、然らざる場合に比して早期に、警報装置22を作動させることとなり、上記した効果に加え、路面状況に合致した一層適切なタイミングで運転者に情報を提供することができる。
図10は、この発明の第4実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図9と同様のフロー・チャートである。
第3実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、S400からS414まで、第3実施例と同様の処理を行ってS416に進み、車両10が走行する路面の勾配を検出する。
第4実施例において、路面の勾配の検出は演算で行う。即ち、検出された車速とスロットル開度から予め設定された特性に従って平坦路を走行するときに車両10に期待される予想加速度を3速について算出する。他方、車速の微分値から車両10が実際に生じている実加速度を算出すると共に、同様のパラメータから予め設定された特性に従って補正係数を算出し、算出された実加速度に乗じて3速相当値に補正する。次いで、予想加速度と実加速度(3速相当値)の差分を求めると共に、その平均値を算出し、その平均値が正値であれば上り勾配の度合いを、負値であれば下り勾配の度合いを示す値とする。尚、その詳細は、本出願人が先に提案した特許第2902177号に詳細に記載されているので、これ以上の説明は省略する。
次いでS418に進み、走行路面は上り勾配か否か判断し、肯定されるときはS420に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを減少補正する。他方、S418で否定されるときはS422に進み、走行路面は下り勾配か否か判断し、肯定されるときはS424に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを増加補正する。尚、S422で否定されるときは以降の処理をスキップする。
尚、補正された最多算出予想衝突時間TOに基づいて衝突危険度大と判断されるときに警報が実行されるなど、残余の構成は、第1実施例あるいは第2実施例と異ならない。その結果、上り勾配のときは警報装置22を遅めに作動させる一方、下り勾配のときは早めに作動させることとなる。
第4実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、車両10が走行する路面の勾配を検出し、その検出結果に基づいて最多算出予想衝突時間TOを補正する、具体的には上り勾配のときは減少補正するように構成したので、警報装置22を遅めに作動させることができ、路面状況に合致した一層適切なタイミングで運転者に情報を提供することができる。また、下り勾配のときは増加補正するように構成したので、警報装置22を早めに作動させることができ、同様に、路面状況に合致した一層適切なタイミングで運転者に情報を提供することができる。
図11は、この発明の第5実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図2と同様のフロー・チャートである。
第1実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、S500からS506まで、第1実施例と同様の処理を行った後、S508に進み、減速度または操舵角速度を検出する。減速度は、検出された車速の微分値を算出し、それが負値か否かで検出する。操舵角速度も同様に、操舵角センサ52の出力から検出された操舵角の微分値を算出することで行う。
次いでS510に進み、所定値以上の(絶対値において)減速度または所定値以上の操舵角速度が検出されたか否か判断し、肯定されるときはS512に進み、今回S506で算出された予想衝突時間TTCを削除する。他方、S510で否定されるときはS514に進み、算出回数カウンタNの値を1つインクリメントする。
次いでS516に進み、カウンタNの値が100以上か否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS518に進み、最多算出予想衝突時間TOをS22で述べたと同様の処理で判定し、S520に進んでそれを記憶する。
第5実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、所定値以上の減速度または所定値以上の操舵角速度が検出された時点で算出された予想衝突時間TTCを、最多算出予想衝突時間TOとして記憶される対象から除外する如く構成、換言すれば、通常の運転と異なる運転データとみなして最多算出予想衝突時間TOとして記憶される対象から除外する如く構成したので、一過的な事象の影響を受けるのを防止することができ、よって最多算出予想衝突時間TOを正確に算出することができる。
尚、記憶された最多算出予想衝突時間TOに基づいて衝突危険度大と判断されるときに警報が実行されるなど、残余の構成は、第1あるいは第2実施例と異ならない。
図12は、この発明の第6実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図11と同様のフロー・チャートである。
従前の実施例と相違する点に焦点をおいて説明すると、S600からS606まで、第5実施例と同様の処理を行った後、S608に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを読み出し、S610に進み、今回S606で算出された予想衝突時間TTCとS608で読み出された最多算出予想衝突時間TOを比較し、その差が絶対値において所定時間K以上となるか否か判断する。
S610で肯定されるときはS612に進み、算出回数カウンタNの値を1つインクリメントし、S614に進み、カウンタNの値が5(所定回数)に達したか、換言すれば予想衝突時間TTCと最多算出予想衝突時間TOの差が絶対値において所定時間K以上となる予想衝突時間TTCの算出回数が所定回数(5回)に達したか判断する。そして、S614で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS616に進み、記憶された最多算出予想衝突時間TOを増加補正する。
次いでS618に進み、算出回数カウンタNの値を零にリセットする。尚、S610で否定されるときはS612からS618の処理をスキップする。
尚、増加補正された最多算出予想衝突時間TOに基づいて衝突危険度大と判断されるときに警報が実行されるなど、残余の構成は、第1あるいは第2実施例と異ならない。
第6実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、予想衝突時間TTCを最多算出予想衝突時間TOと比較し、その差が所定時間K以上となる予想衝突時間の算出回数が5回(所定回数)以上のとき、最多予想衝突時間を増加補正する如く構成、換言すれば、通常の運転と異なる運転データから運転者の焦燥感といった心理状態まで推定し、通常とは異なる心理状態にあると推定される場合には、最多算出予想衝突時間TOを増加補正して早期に衝突回避支援手段を作動させる如く構成したので、上記した効果に加え、走行安全性を一層向上させることができる。
第1から第6実施例にあっては、上記の如く、車両10の周囲に存在する物体100を検知する物体検知手段(第1のミリ波レーダ42、第1のレーダ出力処理ECU42a、第2のミリ波レーダ44、第2のレーダ出力処理ECU44a、ECU40,S10,S100,S200,S300,S400,S500,S600)と、前記物体検知手段によって前記物体が検知されたとき、前記車両と物体の相対距離と相対速度とからなる相対関係を算出する相対関係算出手段(ECU40,S12,S102,S202,S302,S402,S502,S602)と、前記車両と物体との衝突回避を支援する衝突回避支援手段(警報装置22)と、前記相対関係に基づいて前記衝突回避支援手段を作動させる支援作動手段(ECU40,S114,S214)とを備えた車両の走行安全装置において、減速意思と車線変更意思の少なくともいずれかからなる運転者意思を検出する運転者意思検出手段(ECU40,S14,S110,S210,S304,S404,S504,S604)と、および前記運転者意思が検出される度に前記相対関係に基づいて前記車両が前記物体に衝突するまでに要すると予想される予想衝突時間TTCを算出する予想衝突時間算出手段(ECU40,S16,S104,S204,S306,S406,S506,S606)と、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間の中で算出頻度が最も多い予想衝突時間を最多算出予想衝突時間として記憶する最多算出予想衝突時間記憶手段(ECU40,S22,S24,S312,S314,S412,S414,S518,S520)とを備えると共に、前記支援作動手段は、前記記憶された最多算出予想衝突時間に基づいて前記衝突回避支援手段を作動させる(ECU40,S114,S214)如く構成した。
第1から第6実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記支援作動手段は、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間TTCが前記最多算出予想衝突時間TO以下であると共に、前記運転者意思が検出されないとき、前記衝突回避支援手段を作動させる(ECU40,S108からS114,S208からS214)如く構成した。
第2実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記支援作動手段は、前記物体検知手段によって車両の斜め後方に存在する物体が検知された場合(ECU40,S200)、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間TTCが前記最多算出予想衝突時間TO以下であると共に、前記物体に接近する方向への前記車線変更意思が検出されたとき、前記衝突回避支援手段を作動させる(ECU40,S208からS214)如く構成した。
第3実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両が走行する路面の状況を検出する路面状況検出手段(路面状況検出センサ56,ECU40,S316)を備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記路面状況検出手段によって前記路面が低摩擦係数路面と検出されたとき、前記最多算出予想衝突時間TOを増加補正する(ECU40,S318,S320)如く構成した。
第4実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両が走行する路面の勾配を検出する路面勾配検出手段(車輪速センサ46、スロットル開度センサ64,ECU40,S416)を備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記路面勾配検出手段の検出結果に基づいて前記最多算出予想衝突時間を補正する(ECU40,S418からS424)如く構成した。
第5実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記車両の減速度を検出する減速度検出手段(車輪速センサ46、ECU40,S508)と、前記車両の操舵角速度を検出する操舵角検出手段(操舵角センサ52,ECU40,S508)とを備えると共に、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、所定値以上の減速度または所定値以上の操舵角速度が検出された時点で前記予想衝突時間算出手段によって算出された前記予想衝突時間TCCを、前記最多算出予想衝突時間TOとして記憶される対象から除外する(ECU40,S510からS512)如く構成した。
第6実施例に係る車両の走行安全装置にあっては、前記最多算出予想衝突時間記憶手段は、前記予想衝突時間算出手段が算出した予想衝突時間TTCを前記最多算出予想衝突時間TOと比較し、その差が所定時間K以上となる予想衝突時間の算出回数が所定回数(5回)に達したとき、前記最多予想衝突時間を増加補正する(ECU40,S610からS618)如く構成した。
尚、上記において、警報装置22は音声と視覚の双方によって警報するようにしたが、警報装置22は音声と視覚のいずれか一方のみで警報しても良い。さらには、警報装置22に代え、あるいはそれに加え、車両10の運転席(図示せず)を適宜な手段で振動させる、シートベルト(図示せず)を引き込むなどしても良い。
また、ミリ波レーダの出力から物体を検知するようにしたが、それに代え、あるいはそれに加え、レーザレーダあるいはCCDカメラを用いても良い。
この発明の第1実施例に係る車両の走行安全装置を全体的に示す概略図である。
図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
図2に示す処理のうちの物体の検知動作を示す説明図である。
図2に示す処理のうちの最多算出予想衝突時間TOの判定作業を示す説明図である。
同様に図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートであり、図2の処理と平行して実行されるフロー・チャートである。
この発明の第2実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図5と同様のフロー・チャートである。
図6に示す処理のうちの物体の検知動作を示す説明図である。
第2実施例における最多算出予想衝突時間TOの判定作業を示す説明図である。
この発明の第3実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図6と同様のフロー・チャートである。
この発明の第4実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図9と同様のフロー・チャートである。
この発明の第5実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図2と同様のフロー・チャートである。
この発明の第6実施例に係る車両の走行安全装置の動作を示す、図11と同様のフロー・チャートである。
符号の説明
10 車両、12 エンジン(内燃機関)、16 前輪、20 後輪、22 警報装置、34 ブレーキ、36 ブレーキスイッチ、40 ECU(電子制御ユニット)、42 第1のミリ波レーダ、42a 第1のレーダ出力処理ECU、44 第2のミリ波レーダ、44a 第2のレーダ出力処理ECU、46 車輪速センサ、50 ステアリングホイール、52 操舵角センサ、54ウインカ操作センサ、56 路面状況検出センサ、60 クランク角センサ、62 吸気管絶対圧センサ、64 スロットル開度センサ