図1は、本発明の一実施例のトルクコンバータ6(可変容量型トルクコンバータ)が適用された車両用駆動装置7の骨子図である。この車両用駆動装置7は縦置き型の自動変速機8を有するものであって、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動力源としてエンジン9を備えている。内燃機関にて構成されるエンジン9の出力は、流体伝動装置として機能するトルクコンバータ6、自動変速機8、図示しない差動歯車装置(終減速機)、一対の車軸などを介して左右の駆動輪54(図8参照)へ伝達されるようになっている。
トルクコンバータ6は、エンジン9のクランク軸に連結され、そのエンジン9から回転駆動されることによってトルクコンバータ6内の作動油の流動による流体流を発生させるポンプ翼車6pと、自動変速機8の入力軸22に連結され、そのポンプ翼車6pからの流体流を受けて回転させられるタービン翼車6tと、タービン翼車6tからポンプ翼車6pへの流体流中に回転可能に配置されたステータ翼車6sとを備えており、作動油(流体)を介して動力伝達を行うようになっている。
また、上記ポンプ翼車6pとタービン翼車6tとの間にはロックアップクラッチL/Cが設けられており、後述の油圧制御回路30によってそのロックアップクラッチL/Cの係合状態、スリップ状態、或いは解放状態が制御されるようになっており、完全係合状態とされることによってポンプ翼車6pおよびタービン翼車6tが一体回転させられるすなわちエンジン9のクランク軸および入力軸22が相互に直結状態とされるようになっている。
また、車両用駆動装置7は、トルクコンバータ6のステータ翼車6sを回転駆動するための電動モータ(電動機)10と、その電動モータ10とステータ翼車6sとの間を選択的に断続させるクラッチCsと、ステータ翼車6sと静止部材であるトランスミッションケース(以下、ケースと表す)11との間を選択的に断続させるブレーキBsと、電動モータ10と入力軸22との間を選択的に断続させるクラッチCiとを備えている。なお、本実施例のクラッチCsが本発明のクラッチ手段に対応しており、ブレーキBsが本実施例のブレーキ手段に対応しており、クラッチCiが本実施例のクラッチ手段に対応している。また、入力軸22はトルクコンバータ6の出力軸としても機能するものである。
上記電動モータ10は、クラッチCsが係合された場合、その駆動によってステータ翼車6sのポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向の回転数を制御するようになっている。この際、ステータ翼車6sには、例えば、図2(a)に示すように後述の電子制御装置78から回転駆動のために電動モータ10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する上記正回転方向の駆動トルクTDが与えられる。また、電動モータ10は、その駆動によってステータ翼車6sの負回転方向の回転数を制御するようになっている。この際、ステータ翼車6sには、例えば、電動モータ10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する上記負回転方向の駆動トルクTDが与えられる。なお、電動モータ10が本発明の電動機に対応している。
また、電動モータ10は、その制動(回生)によってもステータ翼車6sのポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向の回転数を制御するようになっている。この際、ステータ翼車6sには、例えば、図2(b)に示すように例えば車両に設けられた蓄電装置50に供給すなわち蓄電される発電電流IGの大きさに比例する上記負回転方向の負荷トルクすなわち制動トルクTBが与えられる。
さらに、電動モータ10は、クラッチCiが係合された場合、その駆動によって入力軸22の回転方向である正回転方向の回転速度を制御するようになっている。この際も、図2(a)に示すように電子制御回路から回転駆動のために電動モータ10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する上記正回転方向の駆動トルクTDが与えられる。また、電動モータ10は、その制動(回生)によっても入力軸22の回転方向を制御するようになっている。この際も、図2(b)に示すように、例えば車両に設けられた蓄電装置50に供給すなわち蓄電される発電電流IGの大きさに比例する負荷トルクすなわち制動(回生)トルクTBが与えられる。
上記クラッチCs、CiおよびブレーキBsは、油圧アクチュエータとその油圧アクチュエータに供給される油圧により摩擦係合或いは解放される多板式のクラッチあるいはブレーキとを備える油圧式摩擦係合装置である。ステータ翼車6sは、ブレーキBsが完全係合されることによりケース11に固定され回転不能にされる。また、ステータ翼車6sは、ブレーキBsの係合度合いすなわち係合圧が調整されることで発生されるスリップによっても、上記正回転方向に回転するポンプ翼車6pに対して相対的にその正回転方向とは反対の負回転方向に回転させられるようになっている。この際、ステータ翼車6sには、例えば上記係合圧が大きくなるとともに増大する上記負回転方向の負荷トルクすなわち制動トルクTBが与えられる。また、ステータ翼車6sには、クラッチCsが係合されることにより上記電動モータ10による駆動トルクTDあるいは制動トルクTBがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCsの係合度合いすなわち係合圧が調整されることで発生されるスリップによりその係合圧の大きさに応じて上記駆動トルクTDあるいは制動トルクTBの伝達割合が変化させられるようになっている。さらに、クラッチCiが係合されることにより、電動モータ10による駆動トルクTDあるいは制動トルクTBがそのまま伝達されるようになっており、また、クラッチCiの係合度合いすなわち係合圧が調整されることで発生されるスリップによりその係合圧の大きさに応じて上記駆動トルクTDあるいは制動トルクTBの伝達割合が変化させられるようになっている。
自動変速機8は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース11内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを共通の軸心上に有し、入力軸22の回転を変速して出力軸24から出力する。入力軸22は、走行用の動力源であるエンジン9からの動力により回転駆動されるトルクコンバータ6のタービン軸でもある。なお、このトルクコンバータ6および自動変速機8はその軸心に対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはそれら軸心の下半分が省略されている。
上記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP1、そのピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するキャリアCA1、ピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えている。また、第2遊星歯車装置16は、サンギヤS2、ピニオンギヤP2、そのピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持するキャリアCA2、ピニオンギヤP2を介してサンギヤS2と噛み合うリングギヤR2を備えている。また、第3遊星歯車装置18は、サンギヤS3、互いに噛み合う複数対のピニオンギヤP2及びP3、そのピニオンギヤP2及びP3を自転及び公転可能に支持するキャリアCA3、ピニオンギヤP2及びP3を介してサンギヤS3と噛み合うリングギヤR3を備えている。
図1において、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsと同様に油圧アクチュエータとその油圧アクチュエータに供給される油圧により係合或いは解放される多板式のクラッチあるいはブレーキとを備える油圧式摩擦係合装置であって、第1回転要素RM1(サンギヤS2)は、第1ブレーキB1を介してケース11に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して中間出力部材である第1遊星歯車装置12のリングギヤR1(すなわち第2中間出力経路PA2)に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置12のキャリアCA1(すなわち第1中間出力経路PA1の間接経路PA1b)に選択的に連結されるようになっている。
また、第2回転要素RM2(キャリアCA2およびCA3)は、第2ブレーキB2を介してケース11に選択的に連結されて回転停止され、第2クラッチC2を介して入力軸22(すなわち第1中間出力経路PA1の直結経路PA1a)に選択的に連結されるようになっている。また、第3回転要素RM3(リングギヤR2およびR3)は、出力軸24に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。また、第4回転要素RM4(サンギヤS3)は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に連結されるようになっている。なお、第2回転要素RM2とケース11との間には、第2回転要素RM2の正回転(入力軸22と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図3は、自動変速機8において各変速段を成立させる際の各係合要素の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。図3に示すように、本実施例の自動変速機8は、上記各係合装置すなわち複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2)が選択的に係合させられることにより変速比(=自動変速機8の入力軸回転速度NIN/自動変速機8の出力軸回転速度NOUT)が異なる前進8段を含む複数の変速段が成立するようになっている。なお、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
図4は、図1のエンジン9や自動変速機8、あるいはトルクコンバータ6などを制御するために車両に設けられた制御系統を説明するブロック線図である。電子制御装置78には、エンジン回転速度センサ80からのエンジン回転速度NEを示す信号、タービン回転速度センサ82からのタービン回転速度NTすなわち入力軸回転速度NINを示す信号、ステータ回転速度センサ83からのステータ回転速度NSを示す信号、吸入空気量センサ84からの吸入空気量QAを示す信号、吸入空気温度センサ86からの吸入空気温度TAを示す信号、車速センサ88からの車速Vすなわち出力軸回転速度NOUTを示す信号、スロットルセンサ90からのスロットル弁開度θTHを示す信号、冷却水温センサ92からの冷却水温TWを示す信号、油温センサ94からの油圧制御回路30の作動油温度TOILを示す信号、アクセル操作量センサ96からのアクセルペダル98等のアクセル操作部材の操作量ACCを示す信号、フットブレーキスイッチ100からの常用ブレーキであるフットブレーキ102の操作の有無を示す信号、レバーポジションセンサ104からのシフトレバー106のレバーポジション(操作位置)PSHを示す信号などが供給されるようになっている。
電子制御装置78は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って上記各入力信号を処理し、電子スロットル弁108や燃料噴射装置110、点火装置112、油圧制御回路30のリニアソレノイド弁等、あるいは電動モータ10などの信号すなわち出力信号をそれぞれ出力するようになっている。電子制御装置78は、このような入出力信号処理を行うことにより、エンジン9の出力制御や電動モータ10による入力軸22の駆動・回生制御、自動変速機8の変速制御、あるいはトルクコンバータ6のステータ6sの回転制御などを実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用などに分けて構成される。
本実施例においては、上記エンジン9の出力制御は、電子スロットル弁108、燃料噴射装置110、点火装置112などによって行われる。
自動変速機8の変速制御は、油圧制御回路30によって行われ、例えば予め記憶された変速線図(変速マップ)から実際のアクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機8の変速すべきギヤ段を決定し、その決定されたギヤ段を成立させるように前記図3に示す作動表に従ってクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合解放状態を切り換える。
トルクコンバータ6のステータ翼車6sの回転制御は、クラッチCsやブレーキBs、および電動モータ10によって行われる。具体的には、上記ステータ翼車6sの回転制御は、電子制御装置78の指令に従ってインバータから電動モータ10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する駆動トルクTD、あるいは例えばその電動モータ10から出力される発電電流IGの大きさに比例する制動トルクTBが適宜調整されることにより実行される。
ここで、本実施例のトルクコンバータ6において、遠心力により外周側に張り付く作動油は、トルクコンバータ6の断面において図1の流線FLに沿うようにポンプ翼車6p、タービン翼車6t、スタータ翼車6sの順に循環する。図5に示すように、ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、ステータ翼車6sは、周方向において一定間隔に隔てられた複数の羽根を備えている。図5は、各翼車におけるトルクコンバータ6内の作動油の流線FLに沿った羽根の形状をそれぞれ表している。ポンプ翼車6pの羽根によってエネルギーが与えられることにより流動させられた作動油は、タービン翼車6tの羽根に作用してタービン翼車6tを回転させる。タービン翼車6tを通過した作動油は、コンバータ領域では、ステータ翼車6sの羽根に当たって方向変換させられた後、ポンプ翼車6pへ循環させられる。上記ステータ翼車6sの羽根に作動油が当たって方向変換させられることにより、そのステータ翼車6sに反力トルクが発生させられる。この反力トルクは、上記作動油の方向変換量(角度)に対応しており、後述のトルク比tの大きさに対応している。
角運動量の定義によれば各翼車(ポンプ翼車6p、タービン翼車6t、およびステータ翼車6s)が作動油(流体)に与えるトルクT[N・m]は、次式(1)のように表される。
T=(γ/g)×Q×△(r×vU) ・・・式(1)
式(1)において、γはトルクコンバータ6内の作動油の比重量[kg/m3]、gは重力加速度[m/s2]、Qは上記作動油の体積流量[m3/s]、△(r×vU)は各翼車における流体流の出口と入口とにおける作動油の各絶対速度のモーメントr×vU[m2/s]の差である。
上記式(1)から、ポンプ翼車6pが作動油に与えるトルクT1[N・m]、タービン翼車6tが作動油に与えるトルクT2[N・m]、およびステータ翼車6sが作動油に与えるトルクT3[N・m]は、次式(2)乃至(4)のように表される。式(2)乃至(4)において、TPはポンプトルク[N・m]すなわちエンジントルク、TTはタービントルク[N・m]すなわち出力トルク、TSはステータ翼車6sの反力トルクの大きさと一致するステータトルク[N・m]すなわちステータ翼車6sにより作動油の流れの向きが変えられる際にそのステータ翼車6sに対してポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に作用するトルクである。
T1= TP =(γ/g)×Q×(VUP×r2−VUS×r1)・・・式(2)
T2=−TT=(γ/g)×Q×(VUT×r3−VUP×r2)・・・式(3)
T3= TS =(γ/g)×Q×(VUS×r1−VUT×r3)・・・式(4)
式(2)乃至(4)において、r1はポンプ翼車6pの流体流の出口bpおよびタービン翼車6tの流体流の入口atにおける回転軸心すなわち自動変速機8の入力軸(タービン軸)22からの距離[m]、r2はタービン翼車6tの流体流の出口btおよびステータ翼車6sの流体流の入口asにおける回転軸心からの距離[m]、r3はステータ翼車6sの流体流の出口bsおよびポンプ翼車6pの流体流の入口apにおける回転軸心からの距離[m]である。また、式(2)乃至(4)中において、VUPはポンプ翼車6pの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUTはタービン翼車6tの絶対速度の円周分速度[m/s]、VUSはステータ翼車6sの絶対速度の円周分速度[m/s]である。
式(2)乃至(4)からT1+T2+T3=0(零)が成立するため、ポンプトルクTP、タービントルクTT、およびステータトルクTSは次式(5)のように表される。つまり、トルクコンバータ6におけるポンプトルクTPに対するタービントルクTTのトルク増加分は、ステータトルクTSに一致する。
TT=TP+TS ・・・式(5)
ここで、本実施例のトルクコンバータ6は、ステータ翼車6sの反力が前述の電動モータ10の回転制御により調整される駆動トルクTDあるいは制動トルクTBにより増減されることから、タービン翼車から出力される出力トルクが従来の一定容量のトルクコンバータで得られる出力トルクに対して増減させられるようになっている。
図6および図7は、上述の内容を示す本実施例のトルクコンバータ6の特性を示す図である。図6は、タービン翼車6tのタービン回転数NT[rpm]とポンプ翼車6pのポンプ回転数NP[rpm]との回転速度比すなわち速度比e(=NT/NP)に対する、タービントルクTTとポンプトルクTPとのトルク比(トルク増幅率)t(=TT/TP)を示す図であり、図7は、上記速度比e(=NT/NP)に対する、容量係数C(=TP/NP 2)[N・m/rpm2]を示す図である。
図6および図7において、制動トルクTBが所定の値に調整されるかあるいはブレーキBsが係合されることにより、ステータ翼車6sがケース11に固定され、図6の実線に示すベースラインBtで示すように従来の一定容量のトルクコンバータと同様に設計上定まる所定のトルク比tでトルクの伝達が行われる。なお、このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図7の実線で示すベースラインBCで示すようになる。
また、クラッチCsが適宜係合された状態で電動モータ10により駆動トルクTDが所定の値に調整されてステータ翼車6sがポンプ翼車6pと同一回転方向で回転させられると、ステータトルクTSが増加し、図6のステータ正転を示す長鎖線のように従来の一定容量のトルクコンバータで得られるよりも大きいトルク比tでトルクの伝達が行われる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図7のステータ正転を示す長鎖線のようになる。なお、トルク比tおよび容量係数Cは、同じ速度比eであっても、電動モータ10により駆動トルクTDがさらに増減されることにより図6および図7の矢印a、dに示すように図6のベースラインBtからステータ正転を示す長鎖線以上または図7のベースラインBCからステータ正転を示す長鎖線以下の範囲で適宜設定される。
また、クラッチCsおよびブレーキBsが解放されることによりステータトルクTSが零とされると、図6のステータフリーを示す1点鎖線で示すようにトルクの増大が行われずトルク比t=1でトルクの伝達が行われる。その結果、トルクコンバータ6が流体継手として作動するようになる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図7のステータフリーを示す1点鎖線のようになる。
また、制動(回生)トルクTBが所定の値に調整されるかあるいはブレーキBsの係合圧が所定の値に調整されてブレーキBsがスリップさせられると、ステータトルクTSがステータ翼車6sが固定される場合に比較して減少し、図6のステータモータ回生で示す短鎖線で示すように従来の一定容量のトルクコンバータで得られるよりも小さいトルク比tでトルクの伝達が行われる。このときのトルクコンバータ6の容量係数Cは、図6のステータモータ回生で示す短鎖線のようになる。なお、トルク比tおよび容量係数Cは、同じ速度比eであっても、制動(回生)トルクTBあるいはブレーキBsの係合圧がさらに増減されることにより図6および図7の矢印b、cに示すようにベースラインBt又はBCからステータフリーで示す1点鎖線までの範囲で適宜設定される。
つまり、本実施例における電動モータ10は、ステータ翼車6sをポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向に回転制御することによりトルク比tを増加させるものである。また、本実施例における電動モータ10は、その制動(回生)によってステータ翼車6sをポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転制御することによりトルク比tを減少させるものである。さらに、本実施例におけるブレーキBsは、そのスリップによってステータ翼車6sをポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向に回転制御することによりトルク比tを減少させるものである。
また、電動モータ10による入力軸22の駆動・回生制御は、クラッチCiおよび電動モータ10によって行われる。具体的には、上記駆動・回生制御は、クラッチCiが係合された状態で、電子制御装置78の指令に従ってインバータから電動モータ10に供給される駆動電流IDの大きさに比例する駆動トルクTD、あるいは例えば電動モータ10から出力される発電電流IGの大きさに比例する制動(回生)トルクTBが適宜調整されることにより実行される。
このように、車両用駆動装置7は、クラッチCs、CiおよびブレーキBsが選択的に係合されることで、車両の走行モードが適宜変更可能な構成となっている。具体的には、クラッチCsが係合されると、トルクコンバータ6の可変容量制御が可能なモードとなり、クラッチCiが係合されると、電動モータ10による車両の駆動・回生制御が可能なモードとなる。また、ブレーキBsが係合されると、ステータ翼車6sが回転停止状態とされるので、容量係数Cが一定である従来のトルクコンバータとして機能させることが可能なモードとなる。
図8は、電子制御装置78による制御作動の要部を説明する機能ブロック線図である。有段変速制御手段120は、例えば車両の走行状態を判定し、予め記憶されたロックアップ係合マップから車速およびアクセル開度Accに基づいてロックアップクラッチL/Cの係合および解放を制御すると共に、予め記憶された変速マップに基づいて自動変速機8の変速を実行するか否かを判定し、その判断結果に従って変速を実行する命令を油圧制御回路30に出力する。
モード切換判定手段122は、車両の走行状態に応じてクラッチCs、クラッチCi、或いはブレーキBsのうち、いずれの係合状態に切り換えるのかを判定する。例えば、車両発進時或いは低速走行時などの車両の走行状態がモータ走行領域にあるとき、さらには加速時においてエンジン9および電動モータ10によるアシスト走行を必要とするとき、モード切換判定手段122は、クラッチCiを係合状態とする後述するハイブリッド制御手段124を実施する命令を出力する。また、例えば蓄電装置50の充電容量SOCに基づいて蓄電装置50の充電が必要と判定されると、モード切換判定手段122はハイブリッド制御手段124を実施させて電動モータ10の回生制御を実施する命令を出力する。
また、モード切換判定手段122は、トルクコンバータ9の容量係数Cを制御する必要が生じると、クラッチCsを係合状態とする後述する容量係数制御手段126を実施する命令を出力する。なお、トルクコンバータ9の容量係数Cを制御する必要があるときとは、例えば容量係数Cを制御することで、エンジン9の動作点を燃費特性の優れた領域に変更するとき、容量係数Cを小さくすることでトルクコンバータ9から出力される駆動力を増大させる必要が生じたとき、或いは、容量係数Cを大きくすることでトルクコンバータ9から出力される駆動力を制限する必要が生じたときなどが対応している。
また、モード切換判定手段122は、トルクコンバータ9を従来のトルクコンバータとして作動させる必要が生じたとき、有段変速制御手段120に対して、ブレーキBsを係合させる命令を出力する。ここで、トルクコンバータレンジにあるとき、ブレーキBsが係合させると、ステータ翼車6sが回転停止させられてトルクコンバータ9のトルク比tが増幅される。一方、カップリングレンジにあるとき、ブレーキBsを解放させると、ステータ翼車6sが空転させられ、ステータ翼車6sへの作動油の衝突による伝達効率の低下が抑制される。
また、モード切換手段122は、車両の走行状態に基づいてトルクコンバータ9に設けられているロックアップクラッチL/Cを係合させる必要が生じたとき、有段変速制御手段120に対して、ロックアップクラッチL/Cを係合させる命令を出力する。なお、ロックアップクラッチL/Cの係合条件は、例えば、車速V、出力トルクTOUT、並びに自動変速機8のギヤ段に基づく予め設定されたロックアップ領域マップに基づいて設定されている。
モード切換判定手段122によってハイブリッド制御手段124を実施する命令が出力されると、ハイブリッド制御手段124は、先ず油圧制御回路30にクラッチCiを係合させる命令を出力することで、電動モータ10と入力軸22とを動力伝達可能状態とする。そして、例えば車両発進や低速走行時、並びに低負荷走行時などのモータ走行領域にあると、ハイブリッド制御手段124は、電動モータ10の駆動力によって車両を駆動させる。さらに、急加速時などエンジン9および電動モータ10によるアシスト走行が要求される場合も同様に、ハイブリッド制御手段124は、電動モータ10にアシストトルクを出力させる。また、ハイブリッド制御手段124は、蓄電装置50の充電容量SOCの低下によって蓄電装置50の充電を実施する必要が生じたとき、電動モータ10による回生制御を実施する。
モード切換判定手段122によって容量係数制御手段126を実施する命令が出力されると、容量係数制御手段126は、先ず油圧制御回路30にクラッチCsを係合させる命令を出力することで、電動モータ10とステータ翼車6sとを動力伝達可能状態とする。そしてステータ翼車6sを駆動、逆転、或いは制動(回生)させることで、トルクコンバータ9の容量係数Cを好適に制御する。
具体的には、容量係数制御手段126は、例えば車両の発進時あるいは加速走行時に、クラッチCsを係合させるとともに電動モータ10によりステータ翼車6sをポンプ翼車6pと同回転へ回転させる制御を行う。これにより、前述のようにトルクコンバータ6のトルク比tが増大制御され容量係数Cが低減制御される。このトルク比tの増大により発進トルクあるいは加速トルクが増大し、容量係数Cの低減によりエンジン回転のスムーズな上昇が可能となる。このような制御は、高アクセル開度等の加速(動力性能)指向走行時において有効であり、特に、エンジン回転のよりスムーズな上昇が求められるターボチャージャーエンジン等にて実行されると有効である。
また、容量係数制御手段126は、車両の発進時あるいは加速走行時に、クラッチCsを係合させるとともに、電動モータ10をステータ翼車6sに作用するトルクにより回転させられるようにする制御を行う。これにより、車両の発進時あるいは加速走行時にトルクコンバータ6がトルク増幅を行っている場合において、前述のようにステータ翼車6sが流体流から受けるトルクすなわち反力トルクによりポンプ翼車6pの回転方向とは反対方向の負回転方向に回転されるに伴う電動モータ10の回生量を制御する。これにより、トルクコンバータ6のトルク比tが低減制御され、容量係数Cが増大制御される。このような制御は、低アクセル開度等の低燃費指向走行時において有効である。さらに、電動モータ10の回生による燃費向上が可能となる。
また、容量係数制御手段126は、容量係数Cを制御することでエンジン9の作動領域を燃料消費特性の優れた領域に変更する。具体的には、同じ要求駆動力であっても、容量係数Cを変更することで、エンジン9にかかる負荷が変更される。これより、エンジン9の作動領域を適宜変更することが可能となり、エンジンの作動領域を例えば低回転高トルク領域などの燃料消費特性の優れた領域に変更することができる。
ここで、自動変速機8およびトルクコンバータ9内を流れる作動油の油温TOILが低い状態では、作動油の粘度が高くなるので各種制御の制御性が低下する。そこで、この制御性を確保するため、作動油温TOILが所定値以上でないと実施されない制御がある。例えば、トルクコンバータ9のロックアップ制御やフレックスロックアップ制御、自動変速機8のニュートラル制御、自動変速機8のオーバードライブギヤへのアップシフトなどが前記制御に対応する。これより、例えば作動油低温状態の車両発進においては、作動油が暖気されるまで前記各種制御が実施されないこととなり、燃費性能悪化や動力性能悪化の可能性があった。そこで、ステータ駆動発熱手段127は、例えば作動油の低温時においてステータ翼車6sを正転或いは逆転方向に回転駆動させることで、トルクコンバータ9の作動油を攪拌させて作動油温TOILを上昇させる。ステータ駆動発熱手段127は、IGスイッチ判定手段128、作動油温判定手段130、車両ブレーキ判定手段132、エンジン停止判定手段136、タービン回転判定手段138、および充電容量判定手段140の各種判定手段の判定結果に基づいて実施される。なお、本実施例では、ハイブリッド車両やエコラン車両等において適用される。すなわち、車両停止時などにおいて、エンジン9が適宜停止される構成の車両に適用される。
IGスイッチ判定手段128は、運転席に設けられている図示しないIGスイッチ(イグニッションスイッチ)が選択された(オンされた)か否かを判定する。なお、IGスイッチが選択されると、エンジン9が始動される、或いはエンジン9のシステムが始動された状態となる。特に、本実施例のようなモータ走行をも可能とする車両用駆動装置7では、IGスイッチが選択されても必ずしもエンジン9が始動されるわけではなく、エンジン9のシステムのみが始動される。
作動油温判定手段130は、自動変速機8およびトルクコンバータ9内を流れる作動油の油温TOILを検出し、その油温TOILが所定値以下か否かを判定する。作動油温TOILは、例えば油圧制御回路30に設けられている油温センサ94から出力される油温信号に基づいて検出される。そして、検出された油温TOILが予め設定された所定値以下か否かを判定し、作動油温TOILが所定値以下であれば作動油の暖気が必要と判定する。なお、前記所定値は、自動変速機8およびトルクコンバータ9の作動に適した油温すなわち各種制御が可能となる油温に設定され、具体的には例えば80℃程度に設定される。
車両ブレーキ判定手段132は、常用ブレーキであるフットブレーキ102が運転者によって踏み込まれ、駆動輪54が制動(回転停止)された状態か否かを判定する。車両ブレーキ判定手段132は、例えばフットブレーキ102の操作の有無を示すフットブレーキスイッチ100の出力信号に基づいて、フットブレーキ102が踏み込まれた否かを判定する。そして、ステータ駆動発熱手段127は、ブレーキ作動時に実施される。
車両停止判定手段134は、車両が停止状態にあるか否か、すなわち車速Vが零であるか否かを判定する。車両停止判定手段134は、例えば自動変速機8の出力軸24の回転速度すなわち車速Vに対応する出力軸回転速度NOUTを検出し、その回転速度NOUTが零であるか否かを判定する。そして、ステータ駆動発熱手段は、車両停止時に実施される。
エンジン停止判定手段136は、エンジン9が停止状態か否かを判定する。エンジン停止判定手段136は、例えばエンジン9の出力を制御するエンジン出力制御装置138の出力信号に基づいてエンジン9が停止状態か否かを判定する。そして、ステータ駆動発熱手段127は、エンジン停止時に実施される。なお、本実施例のようなモータ走行を可能とするハイブリッド形式の車両用駆動装置やエコラン車両では、車両停止時などにおいて、エンジン停止制御が実施される。これより、エンジン停止判定手段136は、上記ハイブリッド車両やエコラン車両等に適用される。
タービン回転判定手段139は、タービン回転速度センサ82からのタービン回転速度NTを検出し、そのタービン回転速度NTが零であるか否かを判定する。
充電容量判定手段140は、電動モータ10に電力を供給する蓄電装置50の充電容量SOCを検出し、その充電容量SOCが所定値以上であるか否かを判定する。なお、前記所定値は、予め実験的に設定され、電動モータ10の駆動を許容する容量内において下限値に設定されている。なお、充電容量が所定値未満となると、電動モータ10の駆動が制限され、ステータ駆動発熱手段127の実施が困難となる。これより、ステータ駆動発熱手段127は、充電容量SOCが所定値以上のときに実施される。
そして、IGスイッチ判定手段128、作動油温判定手段130、車両ブレーキ判定手段132、車両停止判定手段134、エンジン停止判定手段136、充電容量判定手段140の全てが肯定される、すなわち作動油の暖気が必要と判定されると、ステータ駆動発熱手段127が実施される。ステータ駆動発熱手段127は、容量係数制御手段126を介してクラッチCsを係合させ、ステータ翼車6sを電動モータ10によって回転駆動させる命令を出力してトルクコンバータ9内の作動油を攪拌させる。これによって発熱が生じ、作動油の作動油温TOILが速やかに上昇し、暖気が促進される。なお、ステータ翼車6sの回転速度は特に限定されないが、図5の矢印に示す回転方向(正転方向)が回転抵抗も大きく攪拌されやすいため、暖気には適している。
なお、ステータ駆動発熱手段127による作動油の暖気は、上記各種判定手段のいずれかが否定されるまで実施される。すなわち、IGスイッチがオフ状態とされる、作動油温TOILが所定値以上となる、フットブレーキ102が解除される、車両が発進する、エンジン9が始動される、タービン翼車6tが回転される、或いは、充電容量SOCが所定値以下となると、ステータ駆動発熱手段127が終了させられる。また、ステータ翼車6sの回転速度は、予め実験的に求められており、例えば作動油温TOIL、蓄電装置50の充電容量SOCなどに応じて好適な回転速度に設定されている。
図9は、電子制御装置78の制御作動の要部すなわち作動油温TOILが低温状態であるとき、作動油の暖気を実施して速やかに作動油温TOILを上昇させるための制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
先ず、IGスイッチ判定手段128に対応するステップSA1(以下、ステップを省略)において、IGスイッチが選択されたか否かが判定される。SA1が否定されると、SA9においてステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA1が肯定されると、作動油温判定手段130に対応するSA2において、作動油温TOILが所定値以下か否かが判定される。SA2が否定されると、SA9においてステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA2が肯定されると、車両ブレーキ判定手段132に対応するSA3において、フットブレーキ102が踏み込まれたか否かが判定される。SA3が否定されると、SA9においてステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA3が肯定されると、車両停止判定手段134に対応するSA4において、車両が停止状態にあるか否かが判定される。SA4が否定されると、SA9においてステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA4が肯定されると、エンジン停止判定手段136に対応するSA5において、エンジン9が停止状態か否かが判定される。SA5が否定されると、ステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA5が肯定されると、タービン回転判定手段139に対応するSA6において、タービン回転速度NTが零であるか否かが判定される。SA6が否定されると、ステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA6が肯定されると、充電容量判定手段140に対応するSA7において、蓄電装置50の充電容量SOCが所定値以上か否かが判定される。SA7が否定されると、ステータ翼車6s駆動による発熱制御は実行されず、本ルーチンが終了させられる。SA7が肯定されると、ステータ駆動発熱手段127に対応するSA8において、ステータ翼車6sを回転させることによるトルクコンバータ9内の作動油の攪拌が実施され暖気が促進される。
上述のように、本実施例によれば、ポンプ翼車6pとタービン翼車6tとそのタービン翼車6tとポンプ翼車6pとの間に回転可能に配設されたステータ翼車6sとを有するトルクコンバータ6と、ステータ翼車6sを駆動させる電動モータ10を備えることから、電動モータ10を用いてステータ翼車6sをポンプ翼車6pの回転方向である正回転方向、およびポンプ翼車6pの回転方向とは反対の負回転方向へ回転させることにより、従来に比較してトルク比tおよび容量係数Cの変化範囲が広範囲となるので、車両の燃費性能および動力性能を大幅に向上させることができる。
また、本実施例によれば、作動油の暖気が必要と判定されると、ステータ翼車6sを駆動させるステータ駆動発熱手段127を備えるため、作動油の暖気が必要なときは、ステータ翼車6sが駆動させられて作動油が攪拌されることで速やかに暖気される。これにより、作動油の低温状態では禁止されている制御が速やかに実施可能となり、車両の燃費性および動力性を向上させることができる。
また、本実施例によれば、作動油の暖気が必要な場合とは、作動油温TOILが所定値以下である場合であるため、作動油が所定値以上であるときは、ステータ駆動発熱手段127が実施されない。すなわち、作動油の油温TOILを上昇させる必要がないときは、ステータ駆動発熱手段127が実施されない。このように、作動油の暖気が必要なときのみステータ駆動発熱手段127を実施させることで、無駄なエネルギの消費を回避することができる。
また、本実施例によれば、ステータ駆動発熱手段127は、車両停止時に実施されるため、車両走行中に実施することによるトルクコンバータ6の出力駆動力の意図しない変化を回避することができる。
また、本実施例によれば、ステータ駆動発熱手段127は、車両ブレーキ作動時に実施されるため、ステータ翼車回転に起因するトルクコンバータ出力による車両移動を回避することができる。
また、本実施例によれば、ステータ駆動発熱手段127は、エンジン停止時に実施されるため、エンジン停止時においても作動油の暖気が可能となる。
また、本実施例によれば、ステータ駆動発熱手段127は、電動モータ10に電力を供給する蓄電装置50の充電容量SOCが所定値以上のときに実施されるため、充電容量不足時には本ルーチンが実施されない。これにより、充電容量不足時のステータ翼車駆動による更なる充電容量低下を回避することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
6:トルクコンバータ 6p:ポンプ翼車 6t:タービン翼車 6s:ステータ翼車 10:電動モータ(電動機) 50:蓄電装置 127:ステータ駆動発熱手段