JP4790195B2 - 組織再生剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子とを含有する組織再生剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
皮膚の創傷治癒過程には多くの細胞が関与し、その相互作用により出血凝固、炎症、増殖、再構築期を経て終了する。
その治癒過程では、次の4つの生物学的現象、すなわち、1)創傷部位への種々の細胞の動員による生体の自己修復機能、2)サイトカイン・増殖因子による細胞増殖の制御機序の複雑かつ巧妙さ、3)同様に細胞外マトリックス、コラーゲンの生成制御機序、及び4)これら一連の現象の修飾の可能性の大きさ、が関与するものとされている。
しかし、このような自然治癒過程を経た後にも、人では多かれ少なかれ瘢痕を残し、整容的、機能的な不全状態を残すことが多いのが実情である。
【0003】
近年、潰瘍創における創傷治癒においてサイトカインの役割に関する研究が進められており、その臨床応用に関する研究成果も多く報告されている。サイトカインは既に良く知られているように多彩な生理活性を持つ低分子量の蛋白質であり、細胞から分泌されて種々の病態で重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつあり、最近の研究から創傷治癒においてもその進行に深く関与していることが解明されたこと、特に近年、遺伝子工学の発達により種々の組換えヒトサイトカインが大量に得られるようになったことから、臨床応用も可能となり、その観点からも大きな注目を集めている。
既に、潰瘍創、特に難治性潰瘍に対するサイトカインの影響・効果に関する研究報告がなされていて、例えば、bFGF、PDGF、KGFなどが臨床応用の段階に入り、そのうちbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)は日本国内において平成13年6月から実際に使用可能な状況にある。bFGFは潰瘍創に用いた場合、迅速に創傷を閉鎖させること、及び肉芽増殖効果があることが確認されている。
しかし、これらの臨床応用の試みは、潰瘍創の治療に関わるものであり、縫合創を用いた研究に関する報告は少なく、特に切創の縫合後における各種サイトカインの有効性などの基礎的研究はなされていない。
【0004】
また、サイトカインの1種である肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor、以下、HGFと略称)はc−Met receptor tyrosine kinaseの Ligandであり、種々の細胞に対してmitogenic,motogenic,anti-apoptotic作用を有するとともにangiogenicやangioprotective作用も有していることが知られ、血管新生効果を期待して臨床研究が進められている。
HGFは、血管新生効果に加え、創傷の線維化である瘢痕形成を抑制する可能性があるとして注目されていて、肝臓、肺、腎臓などにおける損傷後の線維症をHGFの投与で阻止できたとの報告がなされており、その効果は遺伝子を用いた遺伝子治療でさらに効率的に行うことが可能であるとの報告もなされている。
しかし、皮膚の創傷における作用効果に関しては未だ報告がなされていない。
【0005】
外傷や外科的手術で損傷された創傷の瘢痕を阻止するのに有効な治療剤は他になく、従来は、創傷面の処置に高度の手技を要する細かい縫合法を採用する、あるいは、創傷治癒後の瘢痕治療に植皮術を実施するなどの外科的な対応がとられてきたが、必ずしも満足のいくものではなく、皮膚をはじめとした人組織の有効な再生剤の開発が待望されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、外傷や外科的手術で損傷された組織を瘢痕を残さず整容的、機能的に修復し、再生させるのに有効な治療剤の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、HGFが切創の縫合後に発現するアポトーシスを対照群よりも顕著に抑制することを見出し、切創などの創傷における肉芽組織の過剰な増殖を抑制し、最終的に線維化を軽微にして、切創の治癒を促進し、より再生に近づける上で有効であることを確認した。また、HGFとbFGFを組み合わせて使用することにより、創傷の瘢痕をさらに軽微なものとし、創傷の治癒・組織再生に顕著な効果を奏することを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
(1)肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子との組み合わせからなる組織再生剤。
(2)肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子が、作用発現に時間差があるような態様で組み合わされる(1)の組織再生剤。
(3)塩基性線維芽細胞増殖因子が先に作用発現するような態様で組み合わされる(2)の組織再生剤。
(4)肝細胞増殖因子が、肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸またはその発現ベクターの態様である(1)〜(3)のいずれか1の組織再生剤。
(5)上記組織が、切創組織である(1)の組織再生剤。
(6)肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子とからなる組み合わせ剤、及び該組み合わせ剤の組織再生用途への使用に関する説明を記載した記載物を含む包装物。
(7)上記使用が、肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子の作用発現に時間差があるような態様で使用されるものである(6)の包装物。
(8)肝細胞増殖因子が肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸またはその発現ベクターの態様であり、また、塩基性線維芽細胞増殖因子が蛋白質の態様である(6)の包装物。
(9)肝細胞増殖因子を有効成分とする創傷部位の瘢痕形成抑制剤
(10)肝細胞増殖因子が肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸またはその発現ベクターの態様である(9)の創傷部位の瘢痕形成抑制剤
(11)哺乳動物に対して、肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子とを組み合わせて投与することからなる組織再生方法。
(12)肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子が、作用発現に時間差があるような態様で投与される(11)の組織再生方法
(13)上記組織が、切創組織である(11)の組織再生方法。
(14)哺乳動物に対して、肝細胞増殖因子を投与することからなる創傷部位の瘢痕形成抑制方法。
【0008】
前記のとおり、外傷や外科的手術で損傷された創傷、とくに切創部位における瘢痕を阻止して整容的にも、機能的にも満足できるように治癒・再生させ得る治療剤は過去になく、皮膚をはじめとする人組織の有効な再生剤の開発が待望されていたところ、本発明者らは、今般、HGFを切創に対して投与すると、生体が保持している修復能を最大限発揮させて、皮膚における創傷の修復が可能であり、瘢痕形成を阻止し得る有効な治療剤となり得ることを確認した。
また、本発明者らは、HGFとbFGFを組み合わせることにより、HGFによる線維化の抑制効果による強度の低下を抑えつつ早い時期から狭い瘢痕形成を実現し、とくに双方を高濃度で添加した場合にはほぼ組織の再生と言い得る状態で治癒するなど、両者を組み合わせて投与することによって、組織再生に対する相乗的な作用効果を奏することを見出した。
HGFは細胞浸潤、線維化、アポトーシスを抑える作用を持つのに対し、bFGFは線維芽細胞などの細胞浸潤、増殖を促進し、早期のアポトーシスを促進する作用を有するから、両者は一見矛盾する作用物質であるに拘わらず、併用によって、双方の作用が相乗的に働き、効率的な創傷治癒反応を惹起したものと考えられる。
bFGFの投与によって、HGFの投与量が低くても早い時期から創の再生が促進され、HGFの投与量を軽減することが可能となった。
本発明においては、HGFとbFGFのうち一方は蛋白質で、他方は蛋白質の遺伝子をコードする核酸の形で投与することで作用させる時期や時間を制御し、より理に叶った治療が可能となった。すなわち、本発明は、一連の創傷修復反応過程における連鎖的反応において、反応の進行を効率的理論的な治療として実現することを可能とした点で、単独のサイトカインによる治療剤と比較して画期的である。
また、HGFを蛋白質の遺伝子をコードする核酸として投与した場合において、bFGFを併用すれば、遺伝子を効率的に導入することが可能となり、遺伝子をcDNAのプラスミドで投与しても比較的低用量で早い時期から効果を発現させ得ることが明らかとなった。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において使用されるHGF及びbFGFは、広く一般に知られた物質であり、市販品としても入手可能(例えば、bFGF市販品「トラフェルミン(遺伝子組換え):科研製薬(株)」など)である。その態様は天然型又は遺伝子組換え型、あるいはそれらの前駆体蛋白質、天然型又は遺伝子組換え型HGF及びbFGFの構成アミノ酸の1又は2以上が置換・欠失・挿入されたもの、のいずれでもよく、また、それぞれの蛋白質の遺伝子をコードする核酸(cDNAまたはcDNAプラスミド・・・本発明においては、以下、これらを総称して「遺伝子」という。)であってもよく、さらには一方が蛋白質、他方が遺伝子であってもよい。遺伝子は、プラスミド単独として、又は発現ベクターとしてリポソームなどと組み合わせた複合プラスミドの形態として投与することができる。本発明において遺伝子の導入効率を高めるために使用される発現ベクターとしては、ウィルスベクターなどの任意の発現ベクターが挙げられるが、好ましくは、哺乳動物細胞用の発現ベクターである。
また、本発明で使用される発現ベクターに含まれるプロモーターは、HGF及びbFGF遺伝子に作動可能に連結しており、哺乳動物(好ましくは、ヒト)細胞において機能的なプロモーターである。このプロモーターは誘導性又は構成的であり、そして必要に応じて組織特異的であってもよい。また、プロモーターは、その種類によって遺伝子を発現する早さが異なることが知られていて、例えば、初期即時型(early immidiate)プロモーター、初期プロモーター及び後期プロモーターではその制御下にある遺伝子の発現の早さが異なる。したがって、HGF及びbFGFの一方又は両方が遺伝子として哺乳動物に投与される場合には、適宜これらプロモーターの種類を選択することによって、その蛋白質の発現の早さ及び持続性をも調節することができる。
【0010】
本発明において、HGF及びbFGFは、常法によって適宜の製剤とすることができる。製剤としては散剤、顆粒剤などの固形製剤でもよいが、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤が創傷部位への適用において有利であり、皮下注射、塗布、散布あるいは遺伝子銃などによる射入などの方法によって投与するのが好ましい。
製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などを配合して製剤化される。
【0011】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D−ソルビトール、デンプン、α化デンプン、コーンスターチ、D−マンニトール、デキストリン、結晶セルロース、アラビアゴム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、血清アルブミンなどが挙げられる。
結合剤としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
溶剤としては、精製水、生理的食塩水、リンゲル液、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、マクロゴールなどの親水性溶剤や、オリーブ油、ラッカセイ油、ゴマ油、ツバキ油、ナタネ油、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、高級脂肪酸エステル、流動パラフィンなどの油性溶剤が挙げられる。
溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0012】
懸濁化剤としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アラビアゴム、ベントナイトなどが挙げられる。
乳化剤としては、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、コレステロール,卵黄、ベントナイト、ビーガム、セタノール、モノステアリン酸グリセリン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ステアリン酸などが挙げられる。
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、サッカロース、グリセリン、尿素などが挙げられる。
緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、グリセリンなどが挙げられる。
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、アミノ酸、ヒト血清アルブミンなどが挙げられる。
無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが挙げられる。
抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
着色剤としては、タール系色素、カラメル、ベンガラ、二酸化チタン、エリス・アンド・エベラールド社のFD&Cブルー2号ならびにFD&Cレッド40号などのFD&C染料などが挙げられる。
【0013】
徐放性製剤とするには、さらに、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、カルボキシメチル澱粉、カルボキシメチルセルロースなどの多糖類、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンなどのタンパク質類、ポリアラニン、ポリグリコール酸、ポリプロピレンカーボネートなどの合成高分子類などの担体を適宜に使用する。
【0014】
HGFとbFGFを組み合わせ剤とする場合は、単一製剤中に両成分を配合した配合剤としてもよいし、それぞれ別個に製剤化して、使用時に適宜に組み合わせるものであってもよい。
商業目的には、HGFとbFGFのそれぞれの製剤を、用途や使用方法などに関する説明を記載した能書などの記載物とともに包装した包装物とすることも可能である。記載物には、例えば、後記する投与方法などを記載する。
両成分を別製剤とした場合の投与手段・時期は、同一投与手段による同時投与、同一投与手段による時間差投与、異なる投与手段による同時投与、異なる投与手段による時間差投与のいずれでもよいが、創傷部位における両成分の作用時期との関係においては、以下の理由により、まずbFGFの作用を発現させ、ついで、HGFの作用が発現されるような態様で投与することが好ましい。
【0015】
すなわち、組織損傷後の創傷治癒過程は、まず、破壊された細胞の迅速な除去をアポトーシスにより遂行、次いで炎症細胞、線維芽細胞の増殖・浸潤により再生のための場が形成され、再生を遂行し、再生終了後、役割を果たした細胞はその場から迅速に消失していくものと考えられる。この過程で関与するアポトーシスは、もともと生体の発生、恒常性の維持、さらには生殖、癌の進行などに深く関与する現象であるが、外傷という、生体にとっては偶発的な事象における短時間内の組織改変を必要とする一連の修復・再生反応においても、同様に大きな役割を果たしているものと考えられる。
【0016】
実際、本発明者らは、手術4〜7日後にアポトーシスが亢進し、その後は低下することを確認した。このアポトーシスの果たす役割は損傷を受けた細胞を除去するために必要であるとともに、創傷の再建を実現して役割を果たした細胞を迅速に創傷部から消失させる働きもあるものと推定される。
本発明者らの研究によって、bFGFは手術後4日目までの早期にアポトーシスを促進することが確認されていることから、当該創傷治癒メカニズムが効率的に進められるためには、早期にbFGFを作用させ、引き続く瘢痕の成熟期にHGFを作用させることが望ましい。
したがって、両者がともに蛋白質である場合、または、ともに遺伝子である場合のいずれにおいても、bFGFが創傷部位で作用した後にHGFが作用するような態様で投与することが好ましい。
いずれか一方が蛋白質で、他方が遺伝子である場合にも、bFGFが創傷部位で作用した後にHGFが作用するような態様で投与することが好ましい。
一般的には、遺伝子を哺乳動物に投与した場合、その遺伝子によりコードされる蛋白質が、哺乳動物の体内で発現するまでに多少の時間を要することが知られていることから、bFGF及びHGFのうち一方を遺伝子として投与する場合には、その時間の遅れを考慮して他方の蛋白質を投与する必要がある。
【0017】
HGFを蛋白質として投与し、bFGFを遺伝子として投与する場合には、HGFは、bFGFが蛋白質として発現する時点あるいはそれ以降に投与することが好ましい。また、bFGFを蛋白質として投与し、HGFを遺伝子として投与する場合には、bFGFはHGFが蛋白質として発現する時点あるいはそれ以前に投与することが効果的である。なお、一方が蛋白質で、他方が遺伝子である組み合わせを選択する場合には、bFGFを蛋白質として投与し、HGFを遺伝子として投与する後者が上記した創傷治癒メカニズムとの関係で理論的に好ましい。
遺伝子の投与は、蛋白質自体の投与と比較すると、期待される効果自体の上でも費用対効果の点からも好ましく、また、その遺伝子によりコードされる蛋白質が持続的に発現されて、より長期の作用が期待できる点で効果的である。
作用発現に時間差をつける手法としては、両者を時間差をおいて投与する方法、一方を遺伝子とし他方を蛋白質として投与する方法、一方を放性製剤として投与する方法、あるいはそれらの適宜の組み合わせが挙げられる。
また、投与時期と作用発現の時期の関係は、例えば、HGFが遺伝子でbFGFが蛋白質の場合には同時に投与しても作用発現に有効な時間差がつくなど、使用する製剤の種類、投与手段などにより一律ではなく、使用する製剤の種類、創傷部位の状態などにより、作用発現に1時間から7日程度までの時間差をつけて投与することが好ましい。
【0018】
投与量は、創傷の種類・状態、患者の年令,HGFやbFGFの投与の態様などによっても異なり、とくに限定されないが、HGFは、通常、成人に対し1日当り、1μg/kg〜20mg/kg、好ましくは10μg/kg〜10mg/kg、bFGFは、通常、成人に対し1日当り、0.5μg/kg〜10mg/kg、好ましくは1μg/kg〜5mg/kgであり、これを1〜6回、好ましくは1〜3回に分割して投与する。
HGFとbFGFの組み合わせ剤においても、投与量基準は同様であり、両成分の割合は、HGF100重量部に対しbFGFを0.5〜50重量部とし、好ましくは1〜20重量部とする。
【0019】
【実施例】
以下に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。とくに実施例ではラットの皮膚を用いて検討したが同様の反応は他の臓器や組織、例えば肺、肝臓、骨、軟骨、筋肉、神経などでも同様に可能である。
【0020】
実施例1
ラットの背部に作成した皮膚の全層切開創にbFGFとHGF遺伝子(図3で示されるpCArat HGFプラスミド:大阪大学医学部 中村敏一教授提供)を投与し、従来の縫合により治療した創とbFGFとHGF遺伝子を用いて治療した創における瘢痕部の質に関して、主に線維化の観点から病理組織学的変化を術後経時的に検討した。60匹のラットを9群に分けて治療し、以下に述べる方法で検討を行ない、皮膚の全層切開創に対するbFGFとHGF遺伝子の効果につき経時的に検討した。創の作成に当たってはまず背部を剃毛、ヒビテン含有アルコールで消毒し、引き続きネンブタールによる静脈麻酔下に長さ2cmの肉様膜を含む筋膜上までの全層切開創を2cm間隔で3本作成した。このようにして作成した創を5−0PDS糸で皮下縫合後にさらに5−0PDS糸により皮膚縫合を行った。その際、2cmの長さのうち皮下縫合は肉様膜の層で2カ所施行、皮膚縫合は皮膚全層を含むようにして3カ所施行した。bFGFの添加による病理組織学的変化について比較検討した9群は、5−0PDS糸で皮下縫合後にさらに5−0PDS糸皮膚縫合を行ったのみの群(対照群)、創を同様に縫合した直後に局所に創1cm当たり0.1μgのbFGF(総量0.3μg)を皮下注射した群(bFGF0.1μg群)、さらに対照群と同様に縫合後に局所に創1cm当たり1.0μg(総量3μg)のbFGFを皮下注射した群(bFGF1.0μg群)、創を同様に縫合した直後に局所に創1cm当たり1μgのHGF遺伝子(総量3μg)を皮下注射した群(HGF遺伝子1μg群)、さらに対照群と同様に縫合後に局所に創1cm当たり10μg(総量30μg)のHGF遺伝子を皮下注射した群(HGF遺伝子10μg群)、さらにHGF遺伝子とbFGFの高低の用量を組み合わせた4群を加えた計9群(各群6匹)に分けて比較検討した。組織学的検討は1,4,7,14,28日に麻酔薬の過量投与で屠殺して皮膚を採取した。画像診断はNIH imageを用いてMacintosh社製G4 Cubeにより測定した。
【0021】
この度の縫合創を用いた検討ではbFGFは単独投与で手術直後から4日目までアポトーシスを促進させると共に術後迅速に成熟化して4週目には比較的狭い瘢痕として治癒した。また、創の線維化を抑えるHGF遺伝子の使用のみでは最終的には創の瘢痕はbFGF治療群と同様に軽微となるものの手術直後には炎症細胞浸潤や線維芽細胞の出現が明らかに軽度で創傷治癒は遅延していた。その創にbFGFを添加することで手術早期から細胞浸潤が認められる反面、創は早い時期から強固でありながら対照群に対して狭い瘢痕で治癒した。この効果はこの度の実験で検討した4週目のみならず2週目でも顕著であり、効果発現の時期が早まるという点からもbFGFの併用効果が明らかであった。また、創の瘢痕形成の程度はそれぞれの単独の結果をいずれも上回るもので単なる相乗効果と言うよりは創面で遂行される創の清浄化と再構築という異なった反応を時期をずらしながら効率的に進めることによることが明らかとなった。つまりbFGFは蛋白質として直後に投与されることから直ちに作用し、HGFは遺伝子として投与されたことから発現が若干遅れてかつ持続的に作用するためにそのいずれもが創のscrap and buildを効率的に行うことが可能となり、瘢痕の幅がきわめて狭く、ほぼ皮膚の再生といっても良い結果を実現することが可能となるものと考えられる。この病理組織像の上で瘢痕の幅を測定した結果でも対照群に比較して、HGF単独及びbFGF単独でも瘢痕の幅は優位に狭かったが、両者の併用でその効果は術後2週目4週目で有意に低値であった。また、用量の観点でもbFGFの併用によって、1μg以下のHGFであっても10倍量の10μgのHGFに匹敵する効果を発現させることが見出され、bFGFに遺伝子の導入・蛋白質発現促進効果があることが確認された。すなわち、二者の併用により従来の常識をうち破る画期的な結果、すなわち、組織再生剤としてのHGF遺伝子の効果をbFGFが顕著に促進することが明らかとなった。
【0022】
結果は図1及び2に示す(図中、横軸は術後日数、縦軸は瘢痕の幅(単位はmm))。
図2は、図1におけるHGF、bFGFの各高用量単独群、および併用群の結果を抽出して示したものである。
これらの図から明らかなように、対照群では術後次第に瘢痕の幅が拡大したのに対してbFGF 蛋白、HGF遺伝子を投与した群では瘢痕の幅は有意に狭くなった。さらにbFGF 蛋白、HGF遺伝子両者の併用によりその効果はさらに高まり両者の高用量治療群では瘢痕の幅は対照群の約1/10程度となった。
【0023】
【発明の効果】
本発明の創傷部位の瘢痕形成抑制剤において、有効成分であるHGFは創傷、とくに切創における肉芽組織の過剰な増殖を抑制し、線維化を軽微にして切創の治癒を再生に近い状況で治癒させることができるため有用である。また、HGF及びbFGFを組み合わせた組織再生剤は、受傷の初期にbFGFが創傷治癒に働き、続く瘢痕成熟期にHGFが肉芽組織の過剰な増殖および線維化の抑制に作用するものと推定されるが、その作用効果は、HGF及びbFGFそれぞれ単独使用の結果と比較しても予測を超えて顕著であり、相乗効果といい得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、HGFおよびbFGFの低用量および高用量各単独投与、HGF低用量とbFGF高用量、HGF高用量とbFGF低用量、HGF高用量とbFGF高用量の各組み合わせ投与による、術後4週目までの真皮上層(Upper dermis)の瘢痕の幅の推移を示す。
【図2】図2は、高用量bFGF投与、高用量HGF投与、およびその組み合わせ投与による、術後4週目までの真皮上層(Upper dermis)の瘢痕の幅の推移を示す。
【図3】図3は、HGF遺伝子投与に用いたプラスミド(pCArat HGFプラスミド)の構造を示す。

Claims (11)

  1. 肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子を、塩基性線維芽細胞増殖因子が先に作用発現するような態様で組み合わせた、創傷皮膚組織再生剤。
  2. 肝細胞増殖因子が、肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸又はその発現ベクターである、請求項1に記載の創傷皮膚組織再生剤。
  3. 肝細胞増殖因子が肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸又はその発現ベクターであり、また、塩基性線維芽細胞増殖因子が蛋白質である、請求項1に記載の創傷皮膚組織再生剤。
  4. 肝細胞増殖因子が徐放性製剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の創傷皮膚組織再生剤。
  5. 上記創傷が切創である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の創傷皮膚組織再生剤。
  6. 瘢痕形成を抑制することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の創傷皮膚組織再生剤。
  7. 肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子とからなる組み合わせ剤、並びに、該組み合わせ剤を創傷皮膚組織再生用途へ使用すること及び塩基性線維芽細胞増殖因子が先に作用発現するような態様で使用することを記載した記載物、を含む包装物。
  8. 塩基性線維芽細胞増殖因子が先に作用発現するような態様が、塩基性線維芽細胞増殖因子を先に投与し、1時間から7日までの時間をおいて肝細胞増殖因子を投与するものである、請求項7に記載の包装物。
  9. 肝細胞増殖因子が肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸又はその発現ベクターであり、また、塩基性線維芽細胞増殖因子が蛋白質である、請求項7記載の包装物。
  10. 肝細胞増殖因子と塩基性線維芽細胞増殖因子を、塩基性線維芽細胞増殖因子が先に作用発現するような態様で組み合わせた、創傷皮膚の瘢痕形成抑制剤。
  11. 肝細胞増殖因子が肝細胞増殖因子の遺伝子をコードする核酸又はその発現ベクターである、請求項10記載の創傷皮膚の瘢痕形成抑制剤。
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