JP4783974B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂および水素添加ブロック共重合体を含有し、特に水素添加ブロック共重合体が特定の構造を有する組成物に関するものであり、剛性、耐衝撃性、耐溶剤性、成形品の鏡面性、耐傷付き性に優れ、層間剥離しにくい熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリスチレン系樹脂は、剛性および表面剛性が高く、優れた鏡面性を持つ成形品が得られるほか、成形性、リサイクル性、耐傷付き性に優れており、また比較的低コストであるため、様々な分野で用いられているが耐溶剤性に劣るという問題を有している。また、ポリオレフィン系樹脂は耐油性、耐溶剤性に優れるが、剛性および表面剛性が低いため鏡面性の高い成形品が得られにくく、成形品に傷が付きやすいという問題を有している。これらの問題を解決する手段として、剛性、鏡面性、耐傷付き性に優れたポリスチレン系樹脂と、耐油性、耐溶剤性に優れたポリオレフィン系樹脂とをブレンドする方法が用いられているが、元来ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂は相溶性に乏しく、単純にブレンドしただけでは、得られた材料における耐衝撃性が小さく、層間剥離を生じ易い問題があった。
【0003】
そこでポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との相溶性の改良を目的として、スチレン/共役ジエン共重合体の水素添加エラストマーを相溶化剤として添加した組成物が、例えば特開昭56−38338号公報、特開平6−192501号公報等で知られている。しかしながら、従来用いられてきた相溶化剤は、樹脂組成物の耐衝撃性、耐溶剤性、剛性、耐層間剥離性等の要求特性に対して満足できなくなっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂とのブレンドに、特定の構造を有する水素添加ブロック共重合体を添加することにより、剛性、引張破断伸び、耐衝撃性等の力学特性に優れ、耐溶剤性があり、層間剥離し難く、成形品の鏡面性、耐傷付き性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、(イ)ポリスチレン系樹脂5〜95質量%および(ロ)ポリオレフィン系樹脂95〜5質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、(ハ)ビニル芳香族単量体単位を50質量%を超えて含有するビニル芳香族系重合体ブロックAと共役ジエン系重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族単量体単位の含有量が35〜70質量%であり、共役ジエン単量体単位における1,2−ビニル結合含量および/または3,4−ビニル結合含量が60〜85%であるブロック共重合体を水素添加し、該ブロック共重合体が有する不飽和結合の80%以上が水素添加されてなる水素添加ブロック共重合体1〜50質量部を含有し、
上記(ハ)水素添加ブロック共重合体の構造がA−B−A型またはA−B−A−B型のブロック共重合体であり、
上記(ハ)水素添加ブロック共重合体の一方のビニル芳香族系重合体ブロックをA 1 、他方のビニル芳香族系重合体ブロックをA 2 とし、該A 1 の重量平均分子量[Mw(A 1 )]と該A 2 の重量平均分子量[Mw(A 2 )]との比[Mw(A 1 )とMw(A 2 )のうちの値の大きい方を分母とする。]をブロック比とした場合に、該ブロック比が、0.5以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物(D)を提供する。
【0006】
さらに本発明は次の発明を提供する。
(1)上記熱可塑性樹脂組成物(D)において、(イ)ポリスチレン系樹脂20〜95質量%および(ロ)ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂80〜5質量%からなる樹脂組成物100質量部を用いることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物であり、この組成物により、剛性がより優れ実用性に富む熱可塑性樹脂組成物(E)を提供する。
また、(2)上記熱可塑性樹脂組成物(DまたはE)において、(ハ)水素添加ブロック共重合体がスチレン重合体ブロックAとブタジエン重合体ブロックBからなるものである熱可塑性樹脂組成物(F)を提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の(イ)成分として用いられるポリスチレン系樹脂は、スチレンで代表されるビニル芳香族単量体を好ましくは70質量%以上含有させて重合してなる樹脂であって、例えばスチレン単独重合体、共役ジエン系ゴムエラストマーにスチレン系単量体をグラフト重合した耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、またはこれらの混合物がある。
【0008】
上記ポリスチレンおよびスチレン共重合体において、スチレンの代わりに次に記すビニル芳香族単量体、すなわちα−メチルスチレン、α−エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2−クロロ−4−メチルスチレン、2,6−ジクロロ−4−メチルスチレン等を用いることができる。
【0009】
なお、本発明で用いる(イ)ポリスチレン系樹脂のメルトフローレート(以下MFRと記す。MFRの測定条件は、ASTM D1238に準拠して、200℃、5kg荷重である。)は、好ましくは0.01g/10分以上、さらに好ましくは0.1g/10分以上である。MFRがこの範囲のとき、本発明の熱可塑性樹脂組成物の物理的強度が発現され易い。
【0010】
本発明の(ロ)成分として用いられるポリオレフィン系樹脂としてはポリプロピレン系樹脂が好ましく、このポリプロピレン系樹脂としては通常使用されるものを特に限定されることなく用いることができ、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと次に示すような他の単量体とを共重合した共重合体であってもよい。
【0011】
ポリプロピレン系共重合体に使用される好ましい共重合用単量体としては、(1)エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等の直鎖状α−オレフィン、(2)2−メチルプロペン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、5−メチルヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等の分岐状α−オレフィン、(3)アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸、(4)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのジカルボン酸やそのモノエステル、(5)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアクリル酸、またはメタクリル酸エステル、(6)スチレン、α−スチレン、p−メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物、(7)無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸などの酸無水物、(8)アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のα、β−不飽和ニトリル、(9)1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン等のジエン系単量体、さらに(10)アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミド等を使用することができる。
【0012】
これらの共重合可能な単量体は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら共重合成分の量としては、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。これらを共重合した場合の共重合体の様式については特に制限は無く、例えばランダム型、ブロック型、グラフト型、これらの混合物などいずれであってもよい。
【0013】
ポリプロピレン系共重合体は一般に用いられるランダム共重合体、ブロック共重合体等のいずれでもよく、好ましい例としては、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体が挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0014】
また、本発明の(ロ)ポリオレフィン系樹脂としては、たとえば上記のポリプロピレン系重合体または共重合体等を、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基およびエポキシ基から選ばれた少なくとも一種の官能基で変性した官能基含有ポリオレフィン系樹脂を用いることもできる。
【0015】
なお、本発明で用いる(ロ)ポリオレフィン系樹脂のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.01g/10分以上、さらに好ましくは0.1g/10分以上である。MFRがこの範囲のとき、本発明の熱可塑性樹脂組成物の物理的強度が発現され易い。
【0016】
上記の組成物における(イ)ポリスチレン系樹脂と(ロ)ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂との質量比は(イ)/(ロ)=5/95〜95/5、好ましくは20/80〜95/5である。ポリスチレン系樹脂が95質量%を超えると耐溶剤性が低下し、5質量%未満では剛性が低下する。
【0017】
本発明で用いる(ハ)水素添加ブロック共重合体は、重合体ブロックAと重合体ブロックBとからなる。重合体ブロックAは、ビニル芳香族単量体の単独重合体またはビニル芳香族単量体単位を50質量%、好ましくは70質量%を超えて含有するビニル芳香族単量体単位と、共重合可能なその他の単量体、好ましくは共役ジエン単量体との共重合体の構造を有する。また、重合体ブロックBは、共役ジエン単量体の単独重合体またはビニル芳香族単量体等の他の単量体を5質量%以下で共重合した構造を有している。
【0018】
(ハ)水素添加ブロック共重合体は、前記のとおり、ビニル芳香族単量体を主体とする重合体ブロックAおよび共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックBからなり、かつ、ブロック構造が(A−B)n−A型(nは1〜10の整数)または(A−B)m型(mは2〜10のの整数)のブロック共重合体であるが、端部のAブロックに比較的短いBブロックを有していてもよい。また、[(A-B)n]m−M型(MはSiまたはSn等のカップリング剤残基、mはカップリング剤残基の価数で2〜4の整数、nは1〜10の整数、好ましくは1または2である。)の構造を有するものも含まれるが、本発明における(ハ)水素添加ブロック共重合体は、A1−B−A2型またはA1−B1−A2−B2型である。さらに、本発明において(ハ)水素添加ブロック共重合体におけるブロックAのブロック比は、0.5以下である。なお、ブロックB1とB2の各々の重量平均分子量は同一であってもよく、また、B2の重量平均分子量がより小さくてもよい。
【0019】
ここで(ハ)成分に用いられるビニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられ、その中でもスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0020】
また、(ハ)成分に用いられる共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジメチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等の1種または2種以上が挙げられ、その中でも1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0021】
重合体ブロックAにおいて、ビニル芳香族単量体と共重合可能なその他の単量体は、主として前記の共役ジエン単量体であり、その中でも1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0022】
さらに、(ハ)成分として、水素添加ブロック共重合体に、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネート基およびエポキシ基から選ばれた、少なくとも一種の官能基を含有させた官能基変性体を用いてもよく、上記の水素添加ブロック共重合体と変性水素添加ブロック共重合体との任意の割合のブレンド物を用いることもできる。
【0023】
(ハ)水素添加ブロック共重合体中に占めるビニル芳香族単量体単位の含有量は35〜70質量%、好ましくは40〜60質量%である。ビニル芳香族単量体単位の割合が35質量%未満では組成物の剛性が低下し、70質量%より多いと組成物の耐衝撃性が低下するため好ましくない。
【0024】
また、(ハ)水素添加ブロック共重合体中において共役ジエン単量体の結合構造は、共役ジエン単量体が1,3−ブタジエンの場合は、1,4−および1,2−(ビニル)結合を含み、イソプレンの場合は、1,4−、1,2−、3,4−結合を含む(ここでは1,2−、3,4−を共にビニル結合と呼ぶ。)。本発明で用いる(ハ)水素添加ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位における1,2−および/または3,4−ビニル結合含量は、60〜85%、好ましくは65から85%である。ビニル結合含量が60%未満の場合、組成物の耐衝撃性が低下し、85%を超えると剛性が低下するため好ましくない。
【0025】
本発明で用いる(ハ)水素添加ブロック共重合体において、共役ジエン単量体単位が有する不飽和結合の水素添加率は80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。水素添加率が80%未満では、組成物の剛性、耐衝撃性が低下するため好ましくない。
さらに、本発明で用いる(ハ)水素添加ブロック共重合体の重量平均分子量は好ましくは5000〜1000000であり、より好ましくは10000〜500000の範囲である。
【0026】
(ハ)水素添加ブロック共重合体の添加量は、(イ)ポリスチレン系樹脂と(ロ)ポリオレフィン系樹脂の合計量100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは2〜20質量部である。(ハ)水素添加ブロック共重合体の添加量が1質量部未満では物性の改良効果が十分でなく、また50質量部を超えると剛性が低下するため好ましくない。また、(イ)と相溶する樹脂(ニ)または(ロ)と相溶する樹脂(ホ)の一方または両方と(ハ)をあらかじめブレンドしたもの(ヘ)は、物性の改良効果が(ハ)より増すため好ましい。あらかじめブレンドする量は(ハ)の100質量部に対して30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。なお、これらの含有量の範囲内であれば、2種以上の水素添加ブロック共重合体のブレンド物を用いても構わない。
【0027】
本発明の組成物には、必要に応じて各種添加剤、例えば老化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、銅害防止剤等の安定剤、防菌・防かび剤、分散剤、軟化剤、可塑剤、シリコンオイル、難燃化剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、加硫助剤、発泡剤、発泡助剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤、フェライト等の金属粉末、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズなどの充填剤またはこれらの混合物、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉等の充填剤、低分子量ポリマー等を配合して用いることができる。また、本発明の効果を損なわない程度にゴム質重合体、必須の熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂などを適宜配合することもできる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造に際しては、押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等の従来公知の混練り機、およびそれらを組み合わせた混練り機を使用することができる。混練りするにあたり、各成分を一括混練りしてもよく、また任意の成分を混練りした後、残りの成分を添加し混練りする多段分割混練り法を採用することもできる。また、このようにして得られた樹脂組成物は射出成形、押出成形、回転成形、プレス成形、中空成形等の公知の方法で成形することが可能である。
【0029】
【実施例】
以下、実験例(実験例2及び8は実施例であり、実験例1及び実験例3〜6並びに実験例9は参考例である。)により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。なお、実験例中の%および部は、特に断らない限り質量基準である。また、実験例中における各種化学組成と評価は、次のようにして測定した値と評価である。
【0030】
(1)結合ビニル芳香族化合物含量
679cm-1のフェニル基の吸収をもとに、赤外分析法により測定した。
(2)共役ジエンのビニル結合含量
赤外分析法を用い、モレロ法により算出した。
(3)水素添加率
四塩化炭素を溶媒に用い、90MHz、1H−NMRスペクトルから算出した。
【0031】
(4)重量平均分子量
テトラヒドロフランを溶媒に用い、38℃におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めた。
(5)剛性
ASTM D790に従って、三点曲げ試験法により、23℃の温度条件下で曲げ弾性率を測定し、剛性の指標とした。
(6)耐衝撃性
ASTM D256に従って、アイゾッド衝撃試験機により、23℃の温度条件下でアイゾッド衝撃強度を測定し、耐衝撃性の指標とした。
(7)引張破断伸び
ASTM D638に従って、23℃の温度条件下で試験片(Type1 )の引張試験を行い、引張破断伸びを測定した。
【0032】
(8)耐溶剤性試験
樹脂組成物を射出成形して得られた試験片を23℃のトルエンに浸せきし、試験片が溶解するか否かを、下記の基準に従って目視評価した。
○:全く変化しない。
△:溶解はしていないが、表面の光沢が無くなる。
×:完全に溶解する 。
(9)耐層間剥離性
樹脂組成物を射出成形により平板状に成形した試験片にカッターで切れ目を入れ、その切れ目にセロテープを貼り付けてから引っ張り、表面が剥離するか否かを目視で確認し、下記の基準に従って目視評価した。
○:表面が剥離しない。
×:表面が剥離する。
【0033】
(10)耐面衝撃性
耐衝撃性を表すもう一つの指標として、耐面衝撃性を測定した。樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ3.2mmの平板状試験片を、25mmφの穴の上におき、先端が半球状の15.7mmφの打撃棒を用いて2.4m/sの速度で打撃し、試験片が破壊するまでの変位と荷重の測定から破壊エネルギーを算出し、その大きさを耐面衝撃性の指標とした。この数値が大きいほど耐面衝撃性が高く好ましい。
(11)鏡面性
樹脂組成物を射出成形により220℃で80mm×55mm×2.4mmの平板状に成形した試験片の鏡面性を、下記の基準によって目視判断した。
○:試験片に映り込んだ像の歪みが小さい。
×:試験片に映り込んだ像の歪みが大きい。
【0034】
[1]ブロック共重合体(ハ)の製造
(重合例1)
内容積5リットルのオートクレーブに、シクロヘキサン2.5kg、テトラヒドロフラン15g、スチレン(ブロックA成分)165g、n−ブチルリチウム0.55gを加えて、50℃で重合転化率98%以上まで重合を行い、次いで、1,3−ブタジエン(ブロックB成分)220gを添加して、重合転化率が98%以上になるまで重合を行ない、更に、スチレン(ブロックA成分)165gを添加し、重合転化率が100%まで重合した。
【0035】
重合完結後、反応液を70℃にし、n−ブチルリチウム0.33g、t−ヒドロキシー4メチル−2−ペンタノン0.61g、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド0.21gおよびジエチルアルミニウムクロライド0.76gを加え、水素圧力10kg/cm2で1時間反応させて水素添加した。この反応液を、大量のメチルアルコールの中に混合して析出する固形物を回収、乾燥してブロック共重合体を得た。得られた水素添加ブロック共重合体(ハ−1)は、A−B−A型であって、水素添加率は98%、ブロックBのポリブタジエン中の1,2−ビニル結合含量は65%、重量平均分子量は110000であった。
【0036】
(重合例2〜10)
表1に示すような水素添加ブロック共重合体になるように、単量体種類、単量体量、触媒量、重合温度、重合時間などを変化させて、水素添加ブロック共重合体(ハ−1)に準じて、水素添加ブロック共重合体(ハ−2〜ハ−10)を得た。なお、(ハ−4)はブロックB成分に1,3−ブタジエンの代わりにイソプレンを用いて製造した。
【0037】
実験例、比較例、および評価の配合処方に用いられた各種の成分は、以下の通りである。
(イ)成分
ポリスチレン:[H554:日本ポリスチレン(株)製、MFR:3g/10分(200℃、5kg)]
(ロ)成分
ポリプロピレン[J705:(株)グランドポリマー製、MFR:10g/10分(230℃、2.16kg)]
【0038】
(ハ)成分
(ハ−1〜ハ−10)の水素添加ブロック共重合体を用いた。これらブロック共重合体のミクロ構造、水素添加率は表1および表2に示すとおりである。なお、表1の(ハ−2)は、本発明で使用する水素添加ブロック共重合体であり、表2の(ハ−1及びハ−3〜ハ−10)は、本発明の範囲外の水素添加ブロック共重合体である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表1,2の説明:
STはスチレン、BDはブタジエン、IPはイソプレンである。ビニル含量は、BDの場合1,2−ビニル、IPの場合1,2−および3,4−ビニルの含量である。H/Dは、ブロック共重合体におけるビニル芳香族単量体単位(H)と共役ジエン単量体単位(D)の含有量比(質量比)である。
【0042】
[2]実験例1〜6および比較例1〜8
上記各(イ)、(ロ)、(ハ)成分を、表3および表4に示す配合処方で混合し、二軸押出機を用いて溶融混練りし、ペレット化した。次に射出成形により物性評価用の試験片を作製した。物性評価の結果も同じく表3および表4に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
表3に示した実験例1〜6の結果から、本発明の樹脂組成物は剛性、耐衝撃性、引張破断伸び、耐溶剤性及び耐層間剥離性のバランスに優れることが分かり、末端ブロック構造が非対称であると流動性が大きくなり、成形加工性に優れるほか機械物性も向上する。一方、表4に示した比較例については、比較例1はポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との質量比が本発明の範囲外であるため、耐溶剤性に劣る。比較例2および3は水素添加ブロック共重合体の含有量が本発明の範囲外であるため、比較例2は耐衝撃性、引張破断伸び、耐溶剤性、耐層間剥離性に劣り、比較例3は剛性に劣る。比較例4および5は水素添加ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が本発明の範囲外であるため、比較例4は耐衝撃性、剛性、耐層間剥離性に劣り、比較例5は耐衝撃性、耐層間剥離性に劣る。比較例6および7は水素添加ブロック共重合体中の共役ジエン部分のビニル結合含量が本発明の範囲外であるため、比較例6は耐衝撃性、引張破断伸びおよび耐層間剥離性に劣り、比較例7は剛性、耐層間剥離性に劣る。比較例8は水素添加ブロック共重合体中の共役ジエン部分の水素添加率が本発明の範囲外であるため、剛性、耐衝撃性、引張破断伸びおよび耐層間剥離性に劣る。
【0046】
[3]実験例8〜9および比較例9〜10
(イ)成分含量が少なく、(ロ)成分含量が多い表5および(イ)成分含量が少なく、(ロ)成分含量が多く、(ハ)成分が含有されていない表6に示す配合処方で各成分を混合し、二軸押出機を用いて溶融混練りし、ペレット化した。次に射出成形により物性評価用の試験片を作製し、特に耐面衝撃性と鏡面性にも着目して物性を評価した。物性評価の結果も同じく表5および表6に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
表5に示した実験例8および9の結果から、本発明の樹脂組成物は剛性、耐面衝撃性、引張破断伸び、耐溶剤性、耐層間剥離性、鏡面性のバランスに優れ、末端ブロック構造が非対称になると界面の曲率が変わるため相溶性が向上して機械的物性も向上するほか、流動性が大きくなり成形加工性にも優れる。表6に示した比較例については、比較例9はポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との質量比が本発明の範囲外であるため、鏡面性に劣る。比較例10は水素添加ブロック共重合体の含有量が本発明の範囲外であるため、耐衝撃性、耐層間剥離性に劣る。
【0050】
【発明の効果】
本発明によって得られる樹脂組成物は、特定の構造を有する水素添加ブロック共重合体を添加することにより、ポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂との相溶性が改良され、耐衝撃性、剛性、耐溶剤性、引張り破断伸び、および耐層間剥離性等に優れた材料であり、その利用分野としては食品包装容器、各種トレー、シート、チューブ、フィルム、繊維、積層物、コーティング材、コネクタやプリント基板等の電気・電子部品、コンピュータ等のOA機器や家電の筐体、自動車部品、精密部品、建材等の各種工業部品が挙げられる。
Claims (8)
- (イ)ポリスチレン系樹脂5〜95質量%および(ロ)ポリオレフィン系樹脂95〜5質量%からなる樹脂混合物100質量部に対して、
(ハ)ビニル芳香族単量体単位を50質量%を超えて含有するビニル芳香族系重合体ブロックAと共役ジエン系重合体ブロックBとからなり、ビニル芳香族単量体単位の含有量が35〜70質量%であり、共役ジエン単量体単位における1,2−ビニル結合含量および/または3,4−ビニル結合含量が60〜85%であるブロック共重合体を水素添加し、該ブロック共重合体が有する不飽和結合の80%以上が水素添加されてなる水素添加ブロック共重合体1〜50質量部を含有し、
上記(ハ)水素添加ブロック共重合体の構造がA−B−A型またはA−B−A−B型のブロック共重合体であり、
上記(ハ)水素添加ブロック共重合体の一方のビニル芳香族系重合体ブロックをA 1 、他方のビニル芳香族系重合体ブロックをA 2 とし、該A 1 の重量平均分子量[Mw(A 1 )]と該A 2 の重量平均分子量[Mw(A 2 )]との比[Mw(A 1 )とMw(A 2 )のうちの値の大きい方を分母とする。]をブロック比とした場合に、該ブロック比が、0.5以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。 - 上記(イ)ポリスチレン系樹脂が20〜95質量%であり、上記(ロ)ポリオレフィン系樹脂が80〜5質量%である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(イ)ポリスチレン系樹脂が50〜95質量%であり、上記(ロ)ポリオレフィン系樹脂が50〜5質量%である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(イ)ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(ハ)水素添加ブロック共重合体中に占めるビニル芳香族単量体単位の含有量が、35〜70質量%である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(ハ)水素添加ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位における1,2−および/または3,4−ビニル結合含量が、60〜85%である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(ハ)水素添加ブロック共重合体がスチレン重合体ブロックAとブタジエン重合体ブロックBとからなる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 上記(ハ)水素添加ブロック共重合体の構造がA−B−A型のブロック共重合体である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
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