以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態及び実施形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態及び実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
内燃機関を運転すると、燃料に含まれる炭素や、潤滑油(いわゆるエンジンオイル)に含まれるCa、Mg等の鉱物成分等が燃焼残渣として内燃機関の燃焼室内部やピストンに堆積する。内燃機関の燃焼室内部やピストンに堆積した燃焼残渣は、いわゆるプレイグニッションのような異常燃焼の原因となる。一般に、ガソリンや軽油等の液体燃料を用いる内燃機関は、液体燃料が燃焼室内部に堆積した燃焼残渣を洗浄する作用があるため、燃焼室内部やピストンに燃焼残渣は堆積しにくい。
しかし、LPG(Liquefied Petroleum Gas:液化石油ガス)やCNG(Compressed Natural Gas)のような気体燃料を用いる内燃機関では、液体燃料による洗浄作用はないため、燃焼室内部やピストンに燃焼残渣が堆積しやすくなる。そして、燃焼室内部等に堆積した燃焼残渣が原因(ヒートスポット)となって、内燃機関の運転中にプレイグニッションその他の異常燃焼を引き起こすおそれがある。
本発明は、必要十分な範囲で内燃機関の異常燃焼を回避するものであり、燃焼室に堆積する燃焼残渣に起因した燃焼異常が発生するおそれのある内燃機関全般に対して適用できる。特に、燃焼残渣の洗浄効果が期待できないLPG燃料のような気体燃料を用いる内燃機関や、気体燃料と液体燃料とを併用する内燃機関に対して好適に適用できる。また、本発明は、乗用車、トラック、バスその他の車両に搭載されて動力源となる内燃機関に対して好適に適用できるが、本発明の適用対象はこのような内燃機関に限定されるものではない。
(実施形態1)
実施形態1は、燃料の成分比率(燃料性状)に基づいて、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別し、前記異常燃焼の発生するおそれが高い運転領域で内燃機関が運転される場合には、そのような運転領域における前記内燃機関の運転を制限する点に特徴がある。次に、実施形態1に係る内燃機関の全体構成を説明する。
図1は、実施形態1に係る内燃機関の構成を示す説明図である。図2は、実施形態1に係る内燃機関にLPG燃料を供給する燃料噴射弁の配置を示す平面図である。図1では、シリンダを直列に配列した内燃機関を、クランク軸と平行な方向から見た場合の断面を示している。以下の実施形態において、内燃機関のシリンダ配列は直列に限定されるものではなく、V型、水平対向その他の配列であってもよく、また、シリンダは特定の数に限定されるものではない。
この内燃機関1は、ピストン2がシリンダ1S内を往復する、いわゆるレシプロ式の内燃機関であり、燃料にはLPGが用いられる。便宜上、以下の説明においては、内燃機関1の燃料として用いられるLPGをLPG燃料という。この内燃機関1は、いわゆるポート噴射によって燃料が供給される。すなわち、吸気通路を構成する第2空気通路6ibの内部に気体燃料Gを噴射する燃料噴射弁10が気体燃料Gを供給する。なお、内燃機関1は、シリンダ1S内の燃焼室1BへLPG燃料を直接噴射する、いわゆる直噴の内燃機関であってもよい。また、ポート噴射と直噴とを組み合わせてもよい。
ピストン2は、シリンダ1S内を往復運動する。ピストン2はコネクティングロッド3によってクランク軸4と連結されており、ピストン2の往復運動は、クランク軸4によって回転運動に変換される。なお、クランク軸4は、シリンダ1Sと連結するクランクケース1Cに格納される。クランク軸4の近傍にはクランク角度センサ41が取り付けられており、点火時期の制御や機関回転数NEの取得に用いられる。
クランクケース1Cの底部にはオイルパン1Pが備えられている。ピストン2とシリンダ1Sとの間やクランク軸4とコネクティングロッド3との連結部等の摺動部は、潤滑油Lによって潤滑される。内燃機関1の各摺動部分を潤滑した潤滑油Lは、一旦オイルパン1Pに集められた後、オイルポンプによって内燃機関1の各摺動部へ送られる。オイルパン1Pには潤滑油Lの劣化度合いを測定するための潤滑油劣化検出手段として潤滑油劣化検出センサ40が設けられている。
潤滑油Lは、内燃機関1の運転によって劣化(酸化)するが、この潤滑油劣化検出センサ40によって、潤滑油Lの劣化度合いを測定することができる。この実施形態において、潤滑油劣化検出センサ40は、潤滑油LのpHを測定することによって潤滑油Lの劣化度合いを測定するものであるが、潤滑油Lの劣化度合いを測定する手法、及び潤滑油劣化検出センサ40の種類は問わない。
内燃機関1には、燃焼室1Bに空気Aが供給される。この空気Aは、LPG燃料と混合して燃焼用の混合気を形成し、燃焼室1B内で燃焼してピストン2を往復運動させる。燃焼室1Bに空気Aを供給するため、空気通路6ia、6ibが内燃機関1のシリンダヘッド1Hに設けられる吸気口5iに接続される。ここで、便宜上、空気通路6iaを第1の空気通路といい、空気通路6ibを第2の空気通路という(以下同様)。
第1の空気通路6iaの入口には、燃焼室1Bに導入する空気Aから塵や埃を取り除くためのエアークリーナー9が設けられる。エアークリーナー9を通過した空気Aは、第1の空気通路6iaに取り付けられるエアフローメータ42によって流量が計測される。エアフローメータ42によって計測された空気Aの流量は、機関ECU50に取り込まれ、内燃機関1の制御に用いられる。
また、第1の空気通路6iaには、燃焼室1Bに導入する空気Aの量を調整する電子スロットル60が取り付けられている。電子スロットル60は、スロットル弁62と、これを開閉するスロットル弁制御用アクチュエータ61とで構成される。電子スロットル60を構成するスロットル弁62の開度を調整することによって、燃焼室1Bへ導入する空気Aの量を制御する。
この実施形態においては、機関ECU(Electronic Control Unit)50が、アクセル47Pの開度を検出するアクセル開度センサ47から取得したアクセル開度情報に基づき、スロットル弁制御用アクチュエータ61を駆動することによってスロットル弁62の開度を制御する方式、すなわち、いわゆるアクセルバイワイヤ方式を用いる。スロットル弁62にはスロットル開度センサ43が取り付けられており、機関ECU50は、スロットル開度センサ43が検出したスロットル弁62の開度情報を、スロットル弁制御用アクチュエータ61の制御や、内燃機関1の運転制御に用いる。
電子スロットル60と燃焼室1Bとの間には、第2の空気通路6ibが設けられており、両者を接続する。第2の空気通路6ibには、LPG燃料を内燃機関1へ供給するための燃料噴射弁10が取り付けられている。燃料噴射弁10は、機関ECU50によって開弁時期及び開弁時間が制御される。燃料噴射弁10から噴射されたLPGは、第1の空気通路6ia及び第2の空気通路6ibを流れる空気Aと混合気を形成する。この混合気は、内燃機関1の燃焼室1Bに設けられる吸気口5iから内燃機関1の燃焼室1B内へ流入する。
内燃機関1のシリンダヘッド1Hには、点火プラグ7が取り付けられている。このように、内燃機関1は火花点火式の内燃機関である。点火プラグ7は、ダイレクトイグニッション7DIに取り付けられている。ダイレクトイグニッション7DIは、機関ECU50からの指令によって点火プラグ7を放電させ、燃焼室1B内の混合気に点火する。これによって、混合気は燃焼して高温、高圧の燃焼ガスとなり、ピストン2を駆動する。
内燃機関1のシリンダヘッド1Hには、排気口5eが設けられている。排気口5eは、ピストン2を駆動した後の燃焼ガス(排ガス)Exを、燃焼室1Bの外へ排出する。排気口5eには排気通路6eが接続されており、排気口5eから排出された排ガスExを浄化触媒8に導く。浄化触媒8に導入された排ガスExは、ここで浄化されてから、例えば、消音装置へ導かれた後大気中へ放出される。
第2空気通路6ibに設けられる燃料噴射弁10には、デリバリパイプ10Dが取り付けられており、デリバリパイプ10Dを通して燃料噴射弁10へLPG燃料が供給される。なお、デリバリパイプ10Dには、複数の燃焼室1BにそれぞれLPG燃料を供給する複数の燃料噴射弁10が取り付けられている。また、デリバリパイプ10Dには、フィードポンプ15から吐出されるLPG燃料タンク14内のLPG燃料が、燃料供給通路16Sを介して供給される。また、デリバリパイプ10Dの余剰のLPG燃料は、燃料回収通路16Rを介してLPG燃料タンク14へ戻される。ここで、フィードポンプ15の動作は、機関ECU50によって制御される。
LPG燃料タンク14には、圧縮され、液体となったLPG燃料が充填されている。このため、LPG燃料タンク14は、大気圧よりも高い圧力となっている。LPG燃料タンク14には、燃料温度計44及び燃料圧力センサ45が取り付けられており、燃料(この実施形態ではLPG燃料)の性状判定に用いられる。また、LPG燃料タンク14には、燃料残量検知センサ48が取り付けられており、LPG燃料タンク14に充填されるLPG燃料の残量を検知する。なお、燃料温度計44及び燃料圧力センサ45をLPG燃料の残量検知に利用してもよい。
内燃機関1を制御する機関ECU50には、この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置30が組み込まれている。また、機関ECU50には、内燃機関1が搭載される車両の計器パネル70に設けられるディスプレイ71が表示手段として接続されている。ディスプレイ71は、例えば、運転者に内燃機関1の運転情報を与えるため、内燃機関1の運転状態に関する情報を表示する。この実施形態においては、内燃機関1内に堆積する燃焼残渣が増加して異常燃焼を引き起こすおそれが高くなった場合には内燃機関1の運転が制限されるが、そのような場合には、異常燃焼が発生するおそれが高い運転領域であることをディスプレイ71が表示する。次にこの実施形態に係る内燃機関の運転制御装置30を説明する。
図3は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置の構成を示す概念図である。図3に示すように、内燃機関の運転制御装置30は、機関ECU50に組み込まれている。機関ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)50pと、記憶部50mと、入力ポート55と、出力ポート56と、入力インターフェース57と、出力インターフェース58とから構成される。
なお、機関ECU50とは別個に、この実施形態に係る内燃機関の運転制御装置30を用意し、これを機関ECU50に接続してもよい。そして、この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実現するにあたっては、機関ECU50が備えている内燃機関1に対する制御機能を、前記内燃機関の運転制御装置30が利用できるように構成してもよい。
内燃機関の運転制御装置30は、運転条件判定部31と、燃料性状推定部32と、運転制限部33とを含んで構成される。これらが、この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実行する部分となる。この実施形態において、内燃機関の運転制御装置30は、機関ECU50を構成するCPU50pの一部として構成される。CPU50pと、記憶部50mとは、バス543を介して接続される。また、運転条件判定部31と、燃料性状推定部32と、運転制限部33とは、バス541、542、入力ポート55及び出力ポート56を介して接続される。
これにより、内燃機関の運転制御装置30を構成する運転条件判定部31と燃料性状推定部32と運転制限部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。また、内燃機関の運転制御装置30は、機関ECU50が有する内燃機関1の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、内燃機関の運転制御装置30は、この実施形態に係る内燃機関の運転制御を、機関ECU50が予め備えている内燃機関1の運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
入力ポート55には、入力インターフェース57が接続されている。入力インターフェース57には、潤滑油劣化検出センサ40、クランク角度センサ41、エアフローメータ42、スロットル開度センサ43、燃料温度計44、燃料圧力センサ45、燃料残量検知センサ48、アクセル開度センサ47その他の、内燃機関の運転制御に必要な情報を取得するセンサ類が接続されている。これらのセンサ類から出力される信号は、入力インターフェース57内のA/Dコンバータ57aやディジタル入力バッファ57dにより、CPU50pが利用できる信号に変換されて入力ポート55へ送られる。これにより、CPU50pは、内燃機関1の運転制御や、この実施形態に係る内燃機関の運転制御に必要な情報を取得することができる。
出力ポート56には、出力インターフェース58が接続されている。出力インターフェース58には、燃料噴射弁10、ディスプレイ71、電子スロットル60のスロットル弁62を開閉するスロットル弁制御用アクチュエータ61その他の、内燃機関の運転制御における制御対象が接続されている。出力インターフェース58は、制御回路581、582等を備えており、CPU50pで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。
記憶部50mには、この実施形態に係る内燃機関の運転制御の処理手順を含むコンピュータプログラムや制御マップ、あるいはこの実施形態に係る内燃機関の運転制御に用いる、制御データマップ等が格納されている。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、CPU50pへ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせることによって、この実施形態に係る内燃機関の運転制御の処理手順を実現できるものであってもよい。また、この内燃機関の運転制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、運転条件判定部31、燃料性状推定部32及び運転制限部33の機能を実現するものであってもよい。次に、この実施形態に係る異常燃焼予測を説明する。次の説明では、適宜図1〜図3を参照されたい。
図4は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御の手順を示すフローチャートである。この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実行するにあたって、内燃機関の運転制御装置30が備える運転条件判定部31は、内燃機関1の燃焼室1Bに燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されているか否かを判定する(ステップS101)。
燃焼残渣が堆積しやすい運転条件は、例えば、負荷(あるいは負荷率)と機関回転数とに基づいて決定することができる。この実施形態では、負荷率KLと機関回転数NEとに基づいて、燃焼残渣が堆積しやすい運転条件を決定する。ここで負荷率KLとは、内燃機関1の吸入空気量が、当該内燃機関1の排気量と等しいときの負荷率を100%としたときにおける、相対的な負荷の大きさをいう。
図5は、燃焼残渣が堆積しやすい運転領域を記述した運転領域判定マップの一例を示す説明図である。図5に示す運転領域判定マップ80は、内燃機関1の負荷率KLと機関回転数NEとの関係において、燃焼残渣が堆積しやすい内燃機関1の運転条件の領域(Dで示す領域)が示されている。KLpは燃焼残渣が堆積しやすい負荷率KLの上限値であり、NEpは燃焼残渣が堆積しやすい機関回転数NEの上限である。また、NEiは、アイドリング時の機関回転数である。
燃焼残渣が堆積しやすい運転条件は、例えば、WOT領域(Wide Open Throttle:高負荷領域であり、負荷率でおよそ75%以上)ではなく、かつ、機関回転数NEが中速程度までの領域である。より具体的には、負荷率KLは60%程度までの領域であり、機関回転数NEは、許容回転数の2/3程度までの領域である。
WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では、燃焼室1B内の温度が高負荷かつ高回転の領域ほどは高くはないため、潤滑油に由来する燃焼残渣が燃焼室1B内に堆積しやすい。また、WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では、排気流動も高負荷かつ高回転の領域ほど高くはないため、潤滑油に由来する燃焼残渣が排気によって燃焼室1B外に排出されにくく、その結果、燃焼残渣が燃焼室1Bに堆積しやすくなる。さらに、WOT領域ではなく、かつ機関回転数が中速程度までの領域では燃焼室1B内の圧力変化が大きいため、オイル上がりやオイル下がりによって燃焼室1B内に流入する潤滑油の量が増加する結果、燃焼残渣が燃焼室1Bに堆積しやすくなる。
燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されていない場合(ステップS101:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1の運転状態の監視を継続する。燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1が運転されている場合(ステップS101:Yes)、運転条件判定部31は、燃焼残渣が内燃機関1に堆積していると推定される量を累積し(ステップS102)、記憶部50mに格納する。
ここで、燃焼残渣が内燃機関1に堆積していると推定される量を累積した値を、累積堆積量Qtというものとする。累積堆積量Qtは、例えば、内燃機関1の燃焼室1Bに燃焼残渣が堆積しやすい負荷、機関回転数で内燃機関1が運転された時間から予測した予測値を用いることができる。なお、累積堆積量Qtは、LPG燃料の成分比率(燃料性状)によっては大きな差はないが、内燃機関1の種類によって異なる。また、内燃機関1の運転時間と、潤滑油劣化検出センサ40によって検出した潤滑油Lの劣化度合いとに基づいて、累積堆積量Qtを推定してもよい。
LPG燃料のような気体燃料から燃焼残渣はほとんど発生しないので、気体燃料を用いる内燃機関1において燃焼室1B内部等に堆積する燃焼残渣は、ほとんどが潤滑油Lに起因するものである。後者の手法は、使用によって潤滑油Lの劣化(酸化)が進行すると、燃焼室1Bの内部やピストン2に対する燃焼残渣の堆積が促進される点に着目している。この手法は、まず、LPG燃料を用いて運転される内燃機関1において、潤滑油Lに起因して発生する燃焼残渣が堆積しやすい負荷領域及び機関回転数領域で内燃機関1が運転された時間(運転時間)τ1に、潤滑油の劣化度合いを考慮した潤滑油劣化係数Bを乗じて得られる修正運転時間(τ1×B)を算出する。そして、修正運転時間を累積した累積運転時間τ=Σ(τ1×B)を求める。
この累積運転時間τは、燃焼残渣が内燃機関1に堆積していると推定される量、すなわち累積堆積量Qtと高い相関があるため、前記累積運転時間τを用いて累積堆積量Qtを推定することができる。異常燃焼の判定にあたっては、例えば、前記累積運転時間τを累積堆積量Qtとみなして、累積運転時間τが予め定めた閾値(累積運転時間閾値)τ_lを超えた場合に、燃焼室1Bに堆積した燃焼残渣によってプレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれがあると判定する。
ここで、潤滑油劣化係数Bは、潤滑油Lの劣化が進行すると大きくなるように設定されている。したがって、潤滑油Lの劣化が進行するにしたがって運転時間τ1よりも修正運転時間(τ1×B)は大きくなるので、潤滑油Lの劣化が進行するにしたがって、累積運転時間τの増加割合は大きくなる。これによって、潤滑油Lの劣化度合いが燃焼異常の判定に用いる累積運転時間τに反映されるので、累積運転時間τと燃焼室内部に堆積する燃焼残渣との相関がより高くなる。その結果、潤滑油Lに由来する燃焼残渣の堆積に起因して発生する異常燃焼の予測精度が向上する。
燃焼残渣が内燃機関1に堆積していると推定される量を累積したら(ステップS102)、運転条件判定部31は、累積堆積量Qtと予め定めた所定の累積堆積量閾値Qcとを比較する(ステップS103)。上述したように、累積運転時間τを累積堆積量Qtとみなした場合、累積堆積量閾値Qcは、前記累積運転時間閾値τ_lとなり、運転条件判定部31は、累積運転時間τと累積運転時間閾値τ_lとを比較する。
ステップS103における比較の結果、Qt<Qc(τ<τ_l)である場合(ステップS103:No)、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1の運転状態の監視を継続する。ステップS103における比較の結果、Qt≧Qc(τ≧τ_l)である場合(ステップS103:Yes)、内燃機関1内に堆積した燃焼残渣が異常燃焼の起因となりやすい状態であると判断できる。この場合、内燃機関の運転制御装置30が備える燃料性状推定部32は、LPG燃料の成分比率を算出することにより(ステップS104)、これを推定する。
なお、ステップS104においては、LPG燃料中に含まれるブタンの割合(ブタン含有率)を算出する。この実施形態においてLPG燃料の成分比率という場合には、LPG燃料中に含まれるブタンの割合(ブタン含有率)、又はLPG燃料中に含まれるプロパンの割合(プロパン含有率)のうち少なくとも一方をいう。また、この実施形態において、LPG燃料の成分比率には、ブタン含有率とプロパン含有率との比率(含有率の比)も含まれる。
図6は、燃料の成分比率を推定する手法を説明するための説明図である。図6は、LPG燃料の状態図であり、気相におけるLPG燃料の圧力(LPG気相圧力)と、液相におけるLPG燃料の温度(LPG液相温度)との関係を示してある。ここで、気相におけるLPG燃料の圧力とは、LPG燃料の蒸気圧である。図6中の実線で示す曲線Aはプロパンの飽和蒸気圧曲線であり、実線で示す曲線Bはブタンの飽和蒸気圧曲線である。飽和蒸気圧曲線よりも圧力が高い領域においては、プロパン又はブタンは気体として存在する。
LPG燃料はブタンとプロパンとが主成分であるので、この実施形態において、LPG燃料中におけるブタンの含有率(LPG燃料の成分比率)を算出するにあたっては、その他の成分を無視し、LPG燃料の組成はブタン及びプロパンであると仮定する。これによって、LPG燃料中におけるブタンの含有率(LPG燃料の成分比率)を簡便に推定することができる。
燃料温度計44によって検出されるLPG燃料タンク14内のLPG燃料のLPG液相温度がt1である場合、この温度所条件下においては、プロパンの蒸気圧はPp(t1)、ブタンの蒸気圧はPb(t1)である。LPG液相温度がt1のとき、燃料圧力センサ45によって検出されるLPG燃料タンク14内のLPG燃料のLPG気相圧力はPf(t1)である。したがって、LPG燃料中におけるプロパンの含有率Xp(%)は数式(1)から、LPG燃料中におけるブタン含有率Xb(%)は数式(2)から求めることができる。これによって、LPG燃料中におけるブタン含有率Xbを算出することができるので、LPG燃料の成分比率を算出することができる。
Xp(%)=[Pp(t1)−Pf(t1)]/[Pp(t1)−Pb(t1)]×100・・(1)
Xb(%)=100−Xp・・(2)
図7は、異常燃焼が発生するおそれのある運転領域を判定するために用いる異常燃焼発生領域予測マップの一例を示す説明図である。内燃機関1内に燃焼残渣が所定量以上堆積する場合、これが原因でプレイグニッションのような異常燃焼が発生しやすい。しかし、燃焼残渣に起因する異常燃焼は、燃料の特性である最小着火エネルギに大きく依存する。LPG燃料は、ブタンと、ブタンよりも最小着火エネルギが大きいプロパンとを主成分とする。このため、LPG燃料の成分比率によって、LPG燃料の最小着火エネルギは異なるため、燃焼残渣に起因する異常燃焼が発生するおそれの高い内燃機関1の運転領域は異なる。LPG燃料は、季節や地域により、成分比率が異なるため、LPG燃料の最小着火エネルギも季節や地域によって異なる。
燃焼残渣が原因で発生するプレイグニッションのような異常燃焼は、起因となるのは燃焼残渣であっても、燃焼するのはLPG燃料なので、燃料の特性である最小着火エネルギの大小が前記異常燃焼の発生に大きく影響を与える。すなわち、着火エネルギが小さいほど、燃焼室1Bの温度が低くてもLPG燃料は燃焼しやすくなるので、燃焼残渣に起因する異常燃焼が発生するおそれの高い内燃機関1の運転領域は広くなる。
LPG燃料の成分比率を算出すると(ステップS104)、図7に示す異常燃焼発生領域予測マップ82を用いて、燃焼残渣に起因する異常燃焼が発生するおそれの高い内燃機関1の運転領域を知ることができる。図7に示す異常燃焼発生領域予測マップ82は、内燃機関1のトルクTと機関回転数NEとの関係で記述してあり、異常燃焼発生領域予測マップ82の領域DPIが、プレイグニッション等の異常燃焼が発生するおそれのある運転領域(異常燃焼領域)である。すなわち、内燃機関1のトルクTと機関回転数NEとが異常燃焼領域DPI内で運転される場合に、内燃機関1には異常燃焼が発生するおそれが高くなる。なお、トルクTの代わりに、異常燃焼発生領域予測マップ82は、内燃機関1に対する負荷あるいは負荷率と、機関回転数NEとの関係で記述してもよい。
上述したように、異常燃焼領域DPIは、LPG燃料のブタン含有率Xbによって異なる。図7の異常燃焼発生領域予測マップ82に示す曲線A、B、Cは、それぞれブタン含有率が0%(プロパン含有率が100%)、ブタン含有率が50%(プロパン含有率が50%)、ブタン含有率が80%(プロパン含有率が20%)の場合における異常燃焼領域境界線である。異常燃焼領域境界線よりもトルクT、あるいは機関回転数NEが大きい領域で内燃機関1が運転される場合に、異常燃焼が発生するおそれがある。
このように、LPG燃料は、ブタン含有率に応じて異常燃焼領域が変化し、ブタン含有率が大きいほど異常燃焼領域は小さくなる。すなわち、より高いトルクT、あるいは機関回転数NEの運転領域においても、内燃機関1には、プレイグニッション等の異常燃焼は発生しない。これは、ブタンの最小着火エネルギはプロパンの最小着火エネルギよりも大きいため、LPG燃料中のブタン含有率が高いほど、プレイグニッション等の異常燃焼は発生しにくくなるからである。
内燃機関の運転制御装置30の運転制限部33は、異常燃焼領域DPIで内燃機関1が運転されることを回避するため、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度に上限を設ける。より具体的には、内燃機関1が異常燃焼領域DPIで運転されないように、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度に制限値を設定する(ステップS105)。そして、アクセル47Pによる内燃機関1に対する運転要求があった場合には、内燃機関1に対する燃料供給量及びスロットル弁62の開度が、前記制限値を超えないように制御される。なお、LPG燃料の成分比率によっては(ブタン含有率が非常に100%に近い場合)、異常燃焼領域DPIが存在しない場合もある。このような場合、内燃機関1に対する燃料供給量及びスロットル弁62の開度は、最大供給量及び最大開度に設定すればよい。
なお、上述したように、異常燃焼領域DPIは、LPG燃料のブタン含有率に応じて変化するので、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度の制限値も前記ブタン含有量によって変化する。したがって、ステップS104で算出したLPG燃料のブタン含有率Xbに応じて前記制限値も変化する。
図7と図5とを比較すると分かるように、燃焼残渣が堆積しやすい運転領域と、異常燃焼領域DPIとは異なる。また、異常燃焼領域DPIはLPG燃料の成分比率によっても異なる。この実施形態では、LPG燃料の成分比率を考慮して異常燃焼領域DPIを定めるので、季節や地域により成分比率が異なることにより最小着火エネルギに変化があるLPG燃料であっても、高い精度で異常燃焼領域DPIを判別することができる。これによって、必要十分な範囲で異常燃焼領域DPIを回避できるので、無用な回避制御を低減することができる。
運転制限部33は、アクセル47Pによる内燃機関1に対する運転要求が、異常燃焼領域DPIにおける運転を指示するものか否かを判断する(ステップS106)。内燃機関1に対する運転要求が、異常燃焼領域DPIにおける運転を指示するものではない場合(ステップS106:No)、内燃機関1に異常燃焼が発生するおそれはないので、機関ECU50の内燃機関制御部53hは、指示された運転要求に従って内燃機関1を運転する。
内燃機関1に対する運転要求が、異常燃焼領域DPIにおける運転を指示するものである場合(ステップS106:Yes)、内燃機関1に異常燃焼が発生するおそれがある。この場合、運転制限部33は、ステップS105で設定した内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度に設定した制限値によって、内燃機関1の運転を制限する(ステップS107)。これによって、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度は前記制限値に制限されるので、異常燃焼領域DPIにおいて内燃機関1は運転されない。その結果、内燃機関1の異常燃焼を回避できる。
なお、異常燃焼領域DPIにおける運転が指示された場合には、内燃機関1の運転が制限されるので(ステップS107)、アクセル47Pの開度に応じた出力を内燃機関1は発生しないことになる。このため、ドライバに違和感を与えるおそれがあるので、異常燃焼領域DPIでの運転要求があった場合に内燃機関1の出力を制限する際には、ディスプレイ71にその旨を表示して(ステップS108)、ドライバに出力制限中である情報を提供する。これによって、違和感の原因を明らかにする。
(変形例)
実施形態1の変形例は、実施形態1と略同様であるが、LPG燃料のブタン含有率が高いほどプレイグニッション等の異常燃焼が発生しにくくなる、すなわち、異常燃焼領域が小さくなることを利用して、異常燃焼の起因となりやすい状態であると判断された場合には、LPG燃料にブタン(異常燃焼を抑制する成分)を追加して、異常燃焼領域を縮小する点が異なる。他の構成は、実施形態1と同様である。
図8は、実施形態1の変形例に係る内燃機関の運転制御の手順を示すフローチャートである。図9は、実施形態1の変形例に係る内燃機関の運転制御装置の構成を示す概念図である。実施形態1の変形例に係る内燃機関の運転制御は、図9に示す内燃機関の運転制御装置30'によって実現できる。この内燃機関の運転制御装置30'は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置30(図3参照)に、燃料必要量算出部34をさらに備える点が異なり、他の構成は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置30と同様である。次の説明においては、適宜図1〜図7を参照されたい。
この変形例に係る内燃機関の運転制御のステップS201〜ステップS204は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御のステップS101〜ステップS104と同様なので、説明を省略する。燃料性状推定部32が、LPG燃料の成分比率を算出したら(ステップS204)、内燃機関の運転制御装置30'が備える燃料必要量算出部34は、異常燃焼を回避するために必要なブタンの必要量を算出することにより(ステップS205)、これを推定する。
LPG燃料の成分であるブタンは、同じくLPG燃料の成分であるプロパンよりも最小着火エネルギが小さいため、異常燃焼を抑制する成分として作用する。すなわち、異常燃焼領域DPIが存在するLPG燃料にブタンを追加すれば、異常燃焼領域DPIをより小さくすることができる。
ステップS204において、現時点におけるLPG燃料のブタン含有率Xbが算出されている。また、異常燃焼発生領域予測マップ82(図7)から、異常燃焼領域DPIが存在しなくなるブタン含有率が分かる。例えば、図7に示す例では、内燃機関1の許容運転領域が機関回転数NElまでの領域なので、ブタン含有率が80%以上であれば、異常燃焼領域DPIが存在しなくなる。これにより、現在のLPG燃料タンク14内に残存するLPG燃料の量が分かれば、異常燃焼領域DPIが存在しなくなるブタン含有率と、現時点におけるLPG燃料のブタン含有率とを用いて、異常燃焼領域DPIを回避するために、現在のLPG燃料タンク14内に残存するLPG燃料に追加するブタンの量を求めることができる。
現在のLPG燃料タンク14内に残存するLPG燃料の量(残存LPG燃料量)をVa、現在のLPG燃料タンク14内に残存するLPG燃料のブタン含有率をx(%)、追加するブタンの量(追加ブタン量)をVb(濃度はz%)、異常燃焼領域DPIが存在しなくなるブタン含有率をy(%)とする。なお、追加するブタンの濃度は、予め情報を得ておく。例えば、純ブタンを追加する場合、z=100である。また、ブタンの濃度が80%の燃料を追加する場合、z=80である。
ここで、Va、x、y、zが既知数であり、Vbが未知数である。Va+Vbのブタン含有率がy(%)となればよいので、数式(3)を満たすVbを求めればよい。燃料必要量算出部34は、数式(3)を満たすVb、追加ブタン量を算出する。このとき、残存LPG燃料量Vaは、LPG燃料タンク14に取り付けられる燃料残量検知センサ48から取得した情報に基づいて求める。
(Va+Vb)×y/100=Va×x/100+Vb×z/100・・(3)
次に、燃料必要量算出部34は、LPG燃料タンク14の容量(LPG燃料タンク容量)Vと、残存LPG燃料量Va及び追加ブタン量Vbの和とを比較する(ステップS206)。V>Va+Vbであれば、ステップS205で算出した追加ブタン量Vbのブタンを、LPG燃料タンク14へ追加することができる。しかし、V<Va+Vbである場合、ステップS205で算出した追加ブタン量Vbのブタンを、LPG燃料タンク14へ追加すると、LPG燃料タンク14の容量を超えてしまうため、Vbのブタンを追加することはできない。
V>Va+Vbである場合(ステップS206:Yes)、ステップS205で算出した追加ブタン量Vbのブタンを、LPG燃料タンク14へ追加することができる。この場合、燃料必要量算出部34は、追加ブタン量Vbと、ブタン燃料の給油を促す旨の指示とをディスプレイ71に表示する(ステップS207)。ブタン燃料の給油を促す旨の指示を表示しても、直ちにブタン燃料が給油されるとは限らないため、運転制限部33は、ブタン燃料が給油されるまでの間、異常燃焼領域DPIで内燃機関1が運転されないように、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度に上限を設ける。この手順は、実施形態1と同様である。すなわち、ステップS208〜ステップS211は、実施形態1におけるステップS105〜ステップS108と同様である。
V<Va+Vbである場合(ステップS206:No)、ステップS205で算出した追加ブタン量Vbのブタンを、LPG燃料タンク14へ追加することはできない。この場合、ブタン燃料は給油されないので、異常燃焼領域DPIで内燃機関1が運転されるおそれがある。このため、異常燃焼領域DPIで内燃機関1が運転されないように、運転制限部33は、内燃機関1に対する燃料供給量、及びスロットル弁62の開度に上限を設ける。この手順は、実施形態1と同様である。すなわち、ステップS208〜ステップS211は、実施形態1におけるステップS105〜ステップS108と同様である。このように、実施形態1の変形例では、異常燃焼領域DPIで内燃機関1が運転されるおそれがあるときには、ブタン燃料の供給を促すので、迅速に異常燃焼領域DPIを回避することが可能になる。
以上、実施形態1及びその変形例では、内燃機関に供給される燃料の成分比率に基づいて、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別し、そのような運転領域における前記内燃機関の運転を制限する。これによって、燃料の成分比率によって変化する、異常燃焼の発生するおそれがある運転領域を正確に判定して、必要十分な範囲で内燃機関の異常燃焼を回避する制御を行うことができる。その結果、運転制御装置の負荷を低減することもできる。また、季節や地域によってLPG燃料の成分比率が異なっても、異常燃焼を回避できるとともに、異常燃焼を回避する制御は必要十分で済む。なお、この実施形態及びその変形例で開示した構成は、以下の実施形態に対しても適用することができる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態2)
実施形態2は、LPG燃料の他に、ガソリンのような液体燃料(常温、常圧で液相の炭化水素系の燃料)も内燃機関へ供給できる場合には、燃料の成分比率に基づいて、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別して、前記異常燃焼の発生するおそれが高い運転領域で内燃機関が運転される場合には、液体燃料で内燃機関を運転する点が異なる。他の構成は、実施形態1と同様である。この実施形態では、液体燃料としてガソリン燃料を用いる。
図10は、実施形態2に係る内燃機関の構成を示す説明図である。実施形態2に係る内燃機関1aは、実施形態1に係る内燃機関1(図1)と略同様であるが、LPG燃料を内燃機関1へ供給する燃料噴射弁10に加え、液体燃料であるガソリン燃料Lを内燃機関1aへ供給する液体燃料噴射弁20を備える点が異なる。液体燃料噴射弁20は、吸気通路を構成する第2空気通路6ibの内部にガソリン燃料Lを噴射することにより、内燃機関1aへはガソリン燃料Lが供給される。このように、ガソリン燃料Lは、いわゆるポート噴射によって内燃機関1aへ供給される。なお、液体燃料噴射弁20は、いわゆる直噴、すなわち、内燃機関1aのシリンダ1S内の燃焼室1Bへガソリン燃料Lを直接噴射してもよい。また、ポート噴射と直噴とを組み合わせてもよい。
第2空気通路6ibに設けられる液体燃料噴射弁20には、液体燃料用デリバリパイプ20Dが取り付けられており、液体燃料用デリバリパイプ20Dを通して液体燃料噴射弁20へガソリン燃料Lが供給される。なお、液体燃料用デリバリパイプ20Dには、複数の燃焼室1Bにそれぞれガソリン燃料Lを供給する複数の液体燃料噴射弁20が取り付けられている。また、液体燃料用デリバリパイプ20Dには、液体燃料用フィードポンプ18から吐出されるガソリン燃料タンク17内のガソリン燃料Lが、ガソリン燃料供給通路19を介して供給される。ここで、液体燃料用フィードポンプ18の動作は、機関ECU50aによって制御される。
図11は、実施形態2に係る内燃機関の運転制御装置の構成を示す概念図である。実施形態2に係る内燃機関の運転制御装置30aは、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置30(図3)と略同様であるが、運転制限部33の代わりに、LPG燃料とガソリン燃料とを切り替えて内燃機関1aへ供給する燃料切替部35を備える点が異なる。他の構成は、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置30と同様である。次に、この実施形態に係る内燃機関の運転制御の手順を説明する。なお、次の説明では、適宜図10、11を参照されたい。
図12は、実施形態2に係る内燃機関の運転制御の手順を示すフローチャートである。実施形態2に係る内燃機関の運転制御を実行するにあたり、内燃機関の運転制御装置30aが備える運転条件判定部31は、内燃機関1aがLPG燃料で運転されているか否かを判定する(ステップS301)。
LPG燃料で運転されていない場合(ステップS301:No)、すなわち、内燃機関1aがガソリン燃料で運転されている。ガソリン燃料は、最小着火エネルギが大きく、また、内燃機関1aの内部に堆積した燃焼残渣を洗い流す作用もあるため、プレイグニッションのような異常燃焼が発生しにくい。このため、LPG燃料で運転されていない場合(ステップS301:No)は、この実施形態に係る内燃機関の運転制御を実行する必要はないので、STARTに戻り、運転条件判定部31は内燃機関1aの運転状態の監視を継続する。
LPG燃料で運転されている場合(ステップS301:Yes)、運転条件判定部31は、内燃機関1aの燃焼室1Bに燃焼残渣が堆積しやすい運転条件で内燃機関1aが運転されているか否かを判定する(ステップS302)。LPG燃料で運転されている場合は、内燃機関1aの内部に堆積する燃焼残渣を洗浄する効果が小さいので、燃焼残渣が内燃機関1aの内部に堆積しやすく、燃焼残渣に起因してプレイグニッションのような異常燃焼が発生しやすい。このため、LPG燃料で運転されている場合は、実施形態1と同様に、累積堆積量Qtから内燃機関1a内に堆積した燃焼残渣が異常燃焼の起因となりやすい状態を判定する。そして、燃焼残渣に起因する異常燃焼が発生しやすい状態である場合には、内燃機関の成分比率に基づいて、異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別する。次に、内燃機関の運転制御装置30aが備える燃料性状推定部32は、LPG燃料の成分比率に基づいて、異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関1aの運転領域を判別する(ステップS302〜ステップS305)。なお、ステップS302〜ステップS305は、実施形態1におけるステップS101〜ステップS104と同様である。
次に、内燃機関の運転制御装置30aが備える燃料切替部35は、アクセル開度センサ47からアクセル47Pの開度情報を取得し、アクセル47Pによる内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPI(図7参照)における運転を指示するものか否かを判断する(ステップS306)。内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPIにおける運転を指示するものではない場合(ステップS306:No)、内燃機関1aに異常燃焼が発生するおそれはないので、機関ECU50の内燃機関制御部53hは、指示された運転要求に従って内燃機関1aを運転する。
内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPIにおける運転を指示するものである場合(ステップS306:Yes)、内燃機関1aに異常燃焼が発生するおそれがある。この場合、燃料切替部35は、内燃機関1aへ供給する燃料を、LPG燃料からガソリン燃料Lへ切り替えて(ステップS307)、ガソリン燃料で内燃機関1aを運転する。これによって、ガソリン燃料Lの洗浄効果を利用して内燃機関1a内に堆積した燃焼残渣を洗浄して、燃焼残渣に起因する異常燃焼を回避する。また、ガソリン燃料Lの最小着火エネルギは小さいため、より異常燃焼を回避しやすくなる。
次に、運転条件判定部31は、内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPIを外れたか否かを判定する(ステップS308)。内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPIを外れていない場合(ステップS308:No)、燃料切替部35は、ガソリン燃料による内燃機関1aの運転を継続する。内燃機関1aに対する運転要求が、異常燃焼領域DPIを外れた場合(ステップS308:Yes)、LPG燃料で内燃機関1aを運転しても、異常燃焼が発生するおそれはない。この場合には、燃料切替部35は、内燃機関1aに供給する燃料をLPG燃料に切り替える(ステップS309)。
以上、実施形態2では、内燃機関に供給される燃料の成分比率に基づいて、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別し、そのような運転領域においては、LPG燃料のような気体燃料に変わって液体燃料(例えばガソリン)を内燃機関に供給する。これによって、燃料の成分比率によって変化する、異常燃焼の発生するおそれがある運転領域を正確に判定して、必要十分な範囲で内燃機関の異常燃焼を回避する制御を行うことができる。その結果、運転制御装置の負荷を低減することもできる。また、季節や地域によってLPG燃料の成分比率が異なっても、異常燃焼を回避できるとともに、異常燃焼を回避する制御は必要十分で済む。なお、この実施形態で開示した構成は、以下の実施形態に対しても適用することができる。また、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態3)
実施形態3は、実施形態1において、内燃機関へ供給する燃料を、LPG燃料の代わりにCNG(Compressed Natural Gas:圧縮天然ガス)のような気体の炭化水素系燃料(気体燃料)としたものである。これによって、実施形態3に係る内燃機関には気体燃料の供給系が設けられ、また、燃焼室内の燃焼圧力に基づいて気体燃料の成分比率を推定する。
図13は、実施形態3に係る内燃機関の構成を示す説明図である。内燃機関1bは、気体燃料Gが供給されて駆動するものである。そして、内燃機関1bは、実施形態1に係る内燃機関の運転制御装置30(図3参照)により制御される。内燃機関1bの第2空気通路6ibに設けられる燃料噴射弁10には、デリバリパイプ10Dが取り付けられており、デリバリパイプ10Dを通して気体燃料Gが供給される。なお、デリバリパイプ10Dには、複数の燃焼室1Bにそれぞれ気体燃料Gを供給する複数の燃料噴射弁10が取り付けられている。また、デリバリパイプ10Dには、燃料供給通路12を介して気体燃料ボンベ11から気体燃料Gが供給される。
気体燃料ボンベ11には、圧縮された気体燃料(この実施形態では天然ガス)Gが充填されており、この気体燃料Gは、燃料供給通路12に取り付けられるレギュレータ13で一定の圧力に調整されてデリバリパイプ10Dへ供給される。また、燃料供給通路12には、燃料圧力センサ45b及び燃料温度計44bが取り付けられており、気体燃料ボンベ11内に充填されている気体燃料Gの残量検知等に用いられる。
実施形態1に係る内燃機関1(図1)で用いるLPG燃料は、LPG燃料タンク14内では液相と気相とが混在するため、LPG燃料の気相圧力(蒸気圧)を利用して、燃料の成分比率、すなわちブタン含有率を推定することができる。しかし、実施形態3に係る内燃機関1bで用いる気体燃料は、気体燃料ボンベ11内では気相のみなので、実施形態1の手法で燃料の成分比率を判断することは困難である。
したがって、この実施形態では、内燃機関1bの燃焼室1B内における燃焼圧力P_Bに基づいて、気体燃料Gの成分比率を推定する。燃焼圧力P_Bは、内燃機関1bのシリンダヘッド1Hに取り付けた燃焼圧力検出手段である筒内圧力センサ46により検出する。
気体燃料の成分比率を推定する際には、まず、異なる成分比率の気体燃料(組成が異なる気体燃料)Gを複数用意する。そして、予め設定した所定の運転条件で内燃機関1bを運転し、そのときの最大燃焼圧力P_B_maxを測定する。これによって、気体燃料の成分比率と、最大燃焼圧力との関係が得られるので、これをマップ化しておき、機関ECU50内の記憶部50m(図3参照)に格納しておく。なお、予め設定した所定の運転条件における内燃機関1bの運転を、燃料性状判定運転という。
気体燃料の成分比率を推定するにあたっては、内燃機関の運転制御装置30が備える燃料性状推定部32(図3参照)が、燃料性状判定運転で内燃機関1bを運転するとともに、筒内圧力センサ46により最大燃焼圧力P_B_maxを測定する。そして、燃料性状推定部32は、記憶部50mに格納した、気体燃料の成分比率と最大燃焼圧力との関係を記述したマップに、測定した最大燃焼圧力P_B_maxを与え、そのときの成分比率を取得する。これによって、気体燃料Gの成分比率を推定することができる。
なお、内燃機関1bの燃焼室1B内における燃焼イオン電流と成分比率との関係から、気体燃料Gの成分比率を推定してもよい。ここで、燃焼室1B内における燃焼イオン電流は、点火プラグ7を利用して検出することができる。このために、点火プラグ7に放電させるダイレクトイグニッション7DIには、点火プラグ7の電極間に流れる燃焼イオン電流を検出する燃焼イオン電流検出回路49を接続し、点火プラグ7と燃焼イオン電流検出回路49とで、燃焼状態検出手段を構成する。
以上、実施形態3では、燃焼圧力に基づいて気体燃料の成分比率を推定するので、燃料に含まれる成分の蒸気圧に基づいて前記燃料の成分比率を推定できない場合(例えばCNGのような気体燃料)でも、成分比率に基づいて、プレイグニッションのような異常燃焼が発生するおそれのある内燃機関の運転領域を判別できる。その結果、異常燃焼が発生するおそれのある運転領域における内燃機関の運転を回避できる。なお、この実施形態で開示した構成と同様の構成を備えるものは、この実施形態と同様の作用、効果を奏する。