以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態について説明する。本実施形態の回転式圧縮機(10)は、冷凍機の冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するために利用される。
図1に示すように、本実施形態の回転式圧縮機(10)は、いわゆる全密閉型に構成されている。この回転式圧縮機(10)は、縦長の密閉容器状に形成されたケーシング(11)を備えている。このケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された円筒部(12)と、椀状に形成されて円筒部(12)の両端を塞ぐ一対の端板部(13)とによって構成されている。上側の端板部(13)には、該端板部(13)を貫通する吐出管(14)が設けられている。円筒部(12)には、該円筒部(12)を貫通する吸入管(15)が設けられている。
ケーシング(11)の内部には、下から上へ向かって順に、圧縮機構(30)と電動機(20)とが配置されている。また、ケーシング(11)の内部には、上下方向に延びるクランク軸(25)が設けられている。圧縮機構(30)と電動機(20)は、クランク軸(25)を介して連結されている。本実施形態の回転式圧縮機(10)は、いわゆる高圧ドーム型となっている。つまり、圧縮機構(30)で圧縮された冷媒は、ケーシング(11)の内部空間へ吐出され、その後に吐出管(14)を通ってケーシング(11)から送り出される。
クランク軸(25)は、主軸部(26)と偏心部(27)とを備えている。偏心部(27)は、クランク軸(25)の下端寄りの位置に設けられ、主軸部(26)よりも大径の円柱状に形成されている。この偏心部(27)は、その軸心が主軸部(26)の軸心から所定量だけ偏心している。クランク軸(25)の内部には、図示しないが、クランク軸(25)の下端から上方へ延びる給油通路が形成されている。この給油通路の下端部は、いわゆる遠心ポンプを構成している。ケーシング(11)の底に溜まった潤滑油は、この給油通路を通って圧縮機構(30)へ供給される。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の円筒部(12)の内壁に固定されている。ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置されてクランク軸(25)の主軸部(26)と連結されている。
圧縮機構(30)は、第1ハウジング(35)と、第2ハウジング(50)と、シリンダ(40)とを備えている。この圧縮機構(30)では、第1ハウジング(35)と第2ハウジング(50)が上下に重なって設けられ、第1ハウジング(35)と第2ハウジング(50)で囲まれた空間にシリンダ(40)が収容されている。
第1ハウジング(35)は、平板部(36)と周縁部(38)と軸受部(37)とを備え、支持部材を構成している。平板部(36)は、厚肉の円板状に形成されており、その外径がケーシング(11)の内径とほぼ等しくなっている。この平板部(36)は、溶接等によってケーシング(11)の円筒部(12)に固定されている。また、クランク軸(25)の主軸部(26)は、平板部(36)の中央部を貫通している。周縁部(38)は、平板部(36)の周縁付近に連続する短い円筒状に形成されており、平板部(36)の前面(図1における下面)から下方へ突設されている。周縁部(38)には該周縁部(38)を径方向へ貫通する吸入ポート(39)が形成されており、この吸入ポート(39)に吸入管(15)が挿入されている。軸受部(37)は、主軸部(26)に沿って延びる円筒状に形成され、平板部(36)の背面(図1における上面)から上方へ突設されている。この軸受部(37)は、主軸部(26)を支持する滑り軸受を構成している。
第2ハウジング(50)は、鏡板部(51)とピストン本体(52)とを備えてピストンを構成している。鏡板部(51)は、厚肉の円板状に形成されており、その外径がケーシング(11)の内径よりもやや小さくなっている。この鏡板部(51)は、第1ハウジング(35)にボルト等で連結されており、その前面(図1における上面)に第1ハウジング(35)の周縁部(38)が当接している。また、クランク軸(25)の主軸部(26)が鏡板部(51)の中央部を貫通しており、この鏡板部(51)は、主軸部(26)を支持する滑り軸受を構成している。ピストン本体(52)は、鏡板部(51)と一体に形成されており、鏡板部(51)の前面から突出している。このピストン本体(52)は、比較的短い円筒の一部分を切除したような形状となっており、平面視でCの字形状となっている。ピストン本体(52)の詳細については後述する。
シリンダ(40)は、鏡板部(41)と外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)とを備え、第1ハウジング(35)の周縁部(38)の内側に形成された空間に配置されている。この周縁部(38)の内周面とシリンダ(40)の外周面との間には空間が形成されている。この空間は、吸入ポート(39)と連通しており、吸入空間(57)を構成している。
鏡板部(41)は、径方向の幅がやや広いドーナツ型で厚肉の平板状に形成されている。鏡板部(41)は、図1における下面が前面となり、同図における上面が背面となっている。
図2にも示すように、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)は、それぞれがやや厚肉で比較的短い円筒状に形成されている。外側シリンダ部(42)は、鏡板部(41)の前面の外周部分に突設されており、その外周面が鏡板部(41)の外周面に連続している。内側シリンダ部(43)は、鏡板部(41)の前面の内周部分に突設されており、その内周面が鏡板部(41)の内周面に連続している。外側シリンダ部(42)の内径は内側シリンダ部(43)の外径よりも大きくなっており、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の間にシリンダ室(60,65)が形成されている。このシリンダ室(60,65)は、横断面(即ち、シリンダ(40)の軸方向と直交する断面、あるいはシリンダ(40)の鏡板部(41)と平行な断面)の形状が環状となっている。鏡板部(41)の前面は、このシリンダ室(60,65)に面している。また、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の先端面(図1における下端面)は、共に 第2ハウジング(50)の鏡板部(51)と摺接している。
クランク軸(25)の偏心部(27)は、シリンダ(40)を貫通している。偏心部(27)の外周面は、鏡板部(41)及び内側シリンダ部(43)の内周面と摺接している。偏心部(27)に係合するシリンダ(40)は、クランク軸(25)の回転に伴って偏心回転運動を行う。
ブレード(45)は、シリンダ(40)と一体に形成され、シリンダ室(60,65)をその径方向へ横断するように配置されている。具体的に、ブレード(45)は、外側シリンダ部(42)の内周面から内側シリンダ部(43)の外周面に亘ってシリンダ(40)の径方向へ延びる平板状に形成され、外側シリンダ部(42)及び内側シリンダ部(43)と一体になっている。また、ブレード(45)は、鏡板部(41)の前面から突出した状態となっており、鏡板部(41)とも一体になっている。
上述したように、ピストン本体(52)は、平面視でCの字形状となっている(図2を参照)。ピストン本体(52)は、その外径が外側シリンダ部(42)の内径よりも小さく、その内径が内側シリンダ部(43)の外径よりも大きくなっている。このピストン本体(52)は、外側シリンダ部(42)と内側シリンダ部(43)の間に形成されたシリンダ室(60,65)へ図1の下方から挿入された状態となっている。シリンダ室(60,65)は、ピストン本体(52)の外側と内側に区画されており、ピストン本体(52)の外側が外側シリンダ室(60)となり、ピストン本体(52)の内側が内側シリンダ室(65)となっている。
ピストン本体(52)は、その軸心がクランク軸(25)の主軸部(26)の軸心と一致するように配置されている。このピストン本体(52)は、その外周面が外側シリンダ部(42)の内周面と1箇所で摺接すると共に、その内周面が内側シリンダ部(43)の外周面と1箇所で摺接している。ピストン本体(52)と外側シリンダ部(42)の摺接箇所は、ピストン本体(52)と内側シリンダ部(43)の摺接箇所に対し、ピストン本体(52)の軸心を挟んだ反対側、即ち位相が180°ずれた箇所に位置している。
また、ピストン本体(52)は、その分断された箇所をブレード(45)が貫通するように配置されている(図2を参照)。外側シリンダ室(60)と内側シリンダ室(65)は、ブレード(45)によってそれぞれが高圧室(61,66)と低圧室(62,67)とに区画されている。
ピストン本体(52)の周方向の端面と、ブレード(45)の側面(図2における左右の側面)との隙間には、一対の揺動ブッシュ(56)が挿入されている。つまり、揺動ブッシュ(56)は、図2におけるブレード(45)の左右に1つずつ配置されている。各揺動ブッシュ(56)は、外側面が円弧面に形成されて内側面が平面に形成された小片である。ピストン本体(52)の周方向の端面は、円弧面となっていて揺動ブッシュ(56)の外側面と摺動する。また、揺動ブッシュ(56)の内側面は、ブレード(45)の側面と摺動する。この揺動ブッシュ(56)によって、ブレード(45)は、ピストン本体(52)に対して回動自在で且つ進退自在に支持される。
外側シリンダ部(42)には、貫通孔(44)が形成されている。貫通孔(44)は、図2におけるブレード(45)の右側近傍に形成され、外側シリンダ部(42)を径方向へ貫通している。この貫通孔(44)は、外側シリンダ室(60)の低圧室(62)を吸入空間(57)と連通させている。また、ピストン本体(52)には、貫通孔(53)が形成されている。貫通孔(53)は、図2におけるブレード(45)の右側近傍に形成され、ピストン本体(52)を径方向へ貫通している。この貫通孔(53)は、内側シリンダ室(65)の低圧室(67)を外側シリンダ室(60)の低圧室(62)と連通させている。
第2ハウジング(50)の鏡板部(51)には、外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)とが形成されている。外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)は、それぞれが鏡板部(51)を厚み方向へ貫通している。鏡板部(51)の前面において、外側吐出ポート(54)は、ピストン本体(52)の外周寄りの位置で且つ図2におけるブレード(45)の左側に隣接する位置に開口している。また、内側吐出ポート(55)は、ピストン本体(52)の内周寄りの位置で且つ図2におけるブレード(45)の左側に隣接する位置に開口している。そして、外側吐出ポート(54)は外側シリンダ室(60)の高圧室(61)に連通し、内側吐出ポート(55)は内側シリンダ室(65)の高圧室(66)に連通している。また、外側吐出ポート(54)と内側吐出ポート(55)は、図外の吐出弁によって開閉される。
第2ハウジング(50)の下側には、マフラー(31)が取り付けられている。このマフラー(31)は、第2ハウジング(50)を下側から覆うように設けられ、第2ハウジング(50)との間に吐出空間(32)を形成している。また、第1ハウジング(35)と第2ハウジング(50)との外縁部には、吐出空間(32)を第1ハウジング(35)よりも上側の空間に接続する接続通路(33)が形成されている。
図3にも示すように、圧縮機構(30)では、第1ハウジング(35)の平板部(36)に大径シールリング(71)と小径シールリング(72)とが取り付けられている。大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれが平板部(36)の前面(図3における下面)に開口した凹溝に嵌め込まれている。大径シールリング(71)は、小径シールリング(72)の外側を囲むように設けられている。また、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれがシリンダ(40)の鏡板部(41)の背面に当接している。
また、図4に示すように、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれの中心がピストン本体(52)の軸心(即ち主軸部(26)の軸心)からずれている。大径シールリング(71)の中心O1と小径シールリング(72)の中心O2は、共にピストン本体(52)の軸心よりも高圧室(61,66)寄りにオフセットしている。更に、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれの中心の位置が互いに相違している。小径シールリング(72)の中心O2は、大径シールリング(71)の中心O1よりもブレード(45)寄りとなっている。
第1ハウジング(35)の平板部(36)の前面とシリンダ(40)の鏡板部(41)の背面との間には僅かな隙間が形成されており、この隙間が背面側隙間(75)となっている(図3を参照)。この背面側隙間(75)は、小径シールリング(72)よりも内側の内側隙間(76)と、小径シールリング(72)と大径シールリング(71)の間の中間隙間(77)と、大径シールリング(71)よりも外側の外側隙間(78)とに区画されている。
外側隙間(78)は吸入空間(57)と連通しているため、外側隙間(78)の内圧は圧縮機構(30)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)とほぼ同じになる。また、内側隙間(76)はクランク軸(25)の給油通路を通じて供給された潤滑油で満たされているため、内側隙間(76)の内圧は圧縮機構(30)から吐出された冷媒の圧力(吐出圧力)とほぼ同じになる。シリンダ(40)は、内側隙間(76)の内圧を受けて図3における下方へ押し付けられる。大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、シリンダ(40)に押し付け力を作用させる押し付け機構(70)を構成している。また、本実施形態では、シリンダ(40)が押し側部材となり、ピストンとしての第2ハウジング(50)が受け側部材となる。
図3に示すように、圧縮機構(30)には、調節機構(80)が設けられている。調節機構(80)は、連通路(81)と開閉弁である差圧弁(82)とによって構成されている。連通路(81)と差圧弁(82)は、共に第1ハウジング(35)に設けられている。
連通路(81)は、第1ハウジング(35)に形成された細径の通路である。この連通路(81)は、その一端が背面側隙間(75)の中間隙間(77)に開口し、他端が第1ハウジング(35)の平板部(36)の背面(図3における上面)に開口している。
差圧弁(82)は、弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とを備えている。第1ハウジング(35)の平板部(36)では、その背面から下方へ延びる有底の埋設穴(87)が連通路(81)を横断するように形成されており、この埋設穴(87)に弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とが収容されている。弁体(83)は、概ね円柱状に形成されており、埋設穴(87)の軸方向へ進退自在となっている。また、弁体(83)の下端寄りには、その外周面に開口する外周溝(84)が形成されている。バネ(85)は、埋設穴(87)の底と弁体(83)の間に配置されており、弁体(83)を上方へ付勢している。埋設穴(87)における弁体(83)よりも下の空間は、吸入ポート(39)と連通している。蓋部材(86)は、埋設穴(87)の上端を塞ぐように設けられる。また、蓋部材(86)には、小径の孔が形成されている。埋設穴(87)における弁体(83)よりも上の空間は、蓋部材(86)の孔を介して吐出ガスで満たされたケーシング(11)の内部空間と連通している。
差圧弁(82)の弁体(83)では、その上面に吐出圧力が作用し、その下面に吸入圧力とバネ(85)の付勢力が作用する。弁体(83)は、吐出圧力と吸入圧力の差に応じて上下に移動する。そして、図3(A)に示すように、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置に達すると、連通路(81)が開いた状態となる。また、図3(B)に示すように、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置からずれると、連通路(81)が閉じた状態となる。
−運転動作−
上述したように、上記回転式圧縮機(10)は、冷凍機の冷媒回路に設けられている。そして、この回転式圧縮機(10)は、蒸発器で蒸発した冷媒を吸入して圧縮し、圧縮されて高圧となったガス冷媒を凝縮器へ向けて吐出する。
ここでは、回転式圧縮機(10)が冷媒を圧縮する動作について、図5を参照しながら説明する。電動機(20)へ通電すると、クランク軸(25)によってシリンダ(40)が駆動される。シリンダ(40)は、図5における右回りへ公転する。
先ず、内側シリンダ室(65)へ冷媒を吸入して圧縮する工程について説明する。
図5(A)の状態からシリンダ(40)が僅かに移動すると、内側シリンダ室(65)の低圧室(67)へ冷媒が吸入され始める。吸入ポート(39)へ流入した冷媒は、吸入空間(57)、外側シリンダ部(42)の貫通孔(44)、外側シリンダ室(60)、ピストン本体(52)の貫通孔(53)を順に通過して低圧室(67)へ流入する。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて低圧室(67)の容積が拡大してゆき(同図の(B)(C)(D)を参照)、同図(A)の状態に戻ると内側シリンダ室(65)への冷媒の吸入が終了する。
シリンダ(40)が更に公転し、内側シリンダ部(43)とピストン本体(52)の摺接箇所がピストン本体(52)の貫通孔(53)を過ぎると、内側シリンダ室(65)の高圧室(66)内で冷媒が圧縮され始める。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて高圧室(66)の容積が縮小してゆき(同図の(B)(C)(D)を参照)、高圧室(66)内の冷媒が圧縮されてゆく。その過程で高圧室(66)の内圧がある程度高くなると、吐出弁が開いて内側吐出ポート(55)が開口状態となり、高圧室(66)の冷媒が内側吐出ポート(55)を通って吐出空間(32)へ吐出されてゆく。同図(A)の状態に戻ると、高圧室(66)からの冷媒の吐出が終了する。
次に、外側シリンダ室(60)へ冷媒を吸入して圧縮する工程について説明する。
図5(C)の状態からシリンダ(40)が僅かに移動すると、外側シリンダ室(60)の低圧室(62)へ冷媒が吸入され始める。吸入ポート(39)へ流入した冷媒は、吸入空間(57)、外側シリンダ部(42)の貫通孔(44)を順に通過して低圧室(62)へ流入する。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて低圧室(62)の容積が拡大してゆき(同図の(D)(A)(B)を参照)、同図(C)の状態に戻ると外側シリンダ室(60)への冷媒の吸入が終了する。
シリンダ(40)が更に公転し、外側シリンダ部(42)とピストン本体(52)の摺接箇所がピストン本体(52)の貫通孔(53)を過ぎると、外側シリンダ室(60)の高圧室(61)内で冷媒が圧縮され始める。そして、シリンダ(40)が公転するにつれて高圧室(61)の容積が縮小してゆき(同図の(D)(A)(B)を参照)、高圧室(61)内の冷媒が圧縮されてゆく。その過程で高圧室(61)の内圧がある程度高くなると、吐出弁が開いて外側吐出ポート(54)が開口状態となり、高圧室(61)の冷媒が外側吐出ポート(54)を通って吐出空間(32)へ吐出されてゆく。同図(C)の状態に戻ると、高圧室(61)かからの冷媒の吐出が終了する。
内側シリンダ室(65)や外側シリンダ室(60)から吐出空間(32)へ吐出された冷媒は、接続通路(33)を通って第1ハウジング(35)の上側の空間へ流入し、その後に吐出管(14)を通ってケーシング(11)の外部へ吐出される。
図3に示すように、回転式圧縮機(10)の運転中には、小径シールリング(72)よりも内側の内側隙間(76)が常に吐出圧力となり、大径シールリング(71)よりも外側の外側隙間(78)が常に吸入圧力となっている。また、中間隙間(77)の圧力は、差圧弁(82)の状態によって異なる。これら背面側隙間(75)の内圧は、シリンダ(40)の鏡板部(41)の背面に作用し、シリンダ(40)を第2ハウジング(50)の鏡板部(51)側(即ち図3における下方)へ押し付ける。このため、高圧室(61,66)の内圧が上昇してもシリンダ(40)が上方へ移動することはなく、シリンダ(40)と第2ハウジング(50)の軸方向のクリアランスは一定に保たれる。
また、この回転式圧縮機(10)において、調節機構(80)は、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重の大きさを、吐出圧力と吸入圧力の差に応じて調節する。この動作について、図3を参照しながら説明する。
図3(A)に示すように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力によって上方へ押し上げられ、連通路(81)が開いた状態となる。この状態では、圧縮機構(30)から吐出されたガス冷媒で満たされたケーシング(11)の内部空間が連通路(81)を介して中間隙間(77)に連通し、中間隙間(77)の圧力が吐出圧力となる。つまり、この状態では、内側隙間(76)と中間隙間(77)の両方が吐出圧力となり、残りの外側隙間(78)だけが吸入圧力となる。このため、シリンダ(40)の背面のうち吐出圧力の作用する部分の面積が大きくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの押し付け力は、内側隙間(76)だけが吐出圧力となる状態に比べて大きくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が不足しがちな運転状態では、中間隙間(77)へ吐出圧力を導入することでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を確保している。
一方、図3(B)に示すように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力に打ち勝って下方へ押し下げられ、連通路(81)が閉じた状態となる。そして、中間隙間(77)がケーシング(11)の内部空間から遮断され、中間隙間(77)の圧力が吐出圧力と吸入圧力の中間の値となる。つまり、大径シールリング(71)や小径シールリング(72)が流体の漏れを完全に阻止する訳ではないため、中間隙間(77)の圧力が内側隙間(76)の圧力と外側隙間(78)の圧力の中間の値となる。このため、シリンダ(40)の背面のうち吐出圧力の作用する部分の面積が小さくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの押し付け力は、内側隙間(76)と中間隙間(77)の両方が吐出圧力となる状態に比べて小さくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が過剰になりがちな運転状態では、中間隙間(77)の圧力を吐出圧力と吸入圧力の中間圧にすることでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を削減している。
ここで、上記回転式圧縮機(10)において、シリンダ(40)の鏡板部(41)に作用するガス圧は、低圧室(62,67)側よりも高圧室(61,66)側の方が大きくなる。このため、シリンダ(40)の鏡板部(41)の背面へ押し付け力を平均的に作用させるだけでは、シリンダ(40)を傾けようとするモーメントが残ってしまう。
本実施形態の回転式圧縮機(10)では、このモーメントを低減するための対策が講じられている。つまり、上述したように、この回転式圧縮機(10)において、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれの中心位置が高圧室(61,66)寄りにオフセットされている。大径シールリング(71)や小径シールリング(72)を高圧室(61,66)寄りに配置すると、シリンダ(40)の鏡板部(41)では、高圧室(61,66)寄りの部分に作用する押し付け力が低圧室(62,67)寄りの部分に比べて大きくなる。このため、シリンダ(40)を傾けようとするモーメントが低減される。
また、上記回転式圧縮機(10)において、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)は、それぞれの中心が異なる位置となるように配置されている。このため、小径シールリング(72)の内側だけ(即ち内側隙間(76)だけ)が吐出圧力になった状態でシリンダ(40)に作用する押し付け力の作用中心と、大径シールリング(71)の内側全体(即ち内側隙間(76)と中間隙間(77)の両方)が吐出圧力になった状態でシリンダ(40)に作用する押し付け力の作用中心とは、それぞれの位置が互いに異なることになる。つまり、吐出圧力と吸入圧力の差によって、シリンダ(40)の鏡板部(41)に作用する押し付け力の作用中心の位置が変化することになる。
−実施形態1の効果−
本実施形態では、シリンダ(40)に対して下向きの押し付け力を作用させ、シリンダ室(60,65)内のガス圧を受けて浮き上がろうとするシリンダ(40)を押し付け力によって押し下げている。このため、回転式圧縮機(10)の運転中も、シリンダ(40)と第2ハウジング(50)の軸方向のクリアランスが拡大することはなく、高圧室(61,66)からの流体の漏れを抑制して圧縮効率を向上させることができる。
また、本実施形態において、押し側部材としてのシリンダ(40)に作用する軸方向(上下方向)の荷重の大きさは、調節機構(80)が吐出圧力と吸入圧力の差に応じて調節している。このため、回転式圧縮機(10)の運転条件が変化した場合でも、シリンダ(40)に作用する軸方向の荷重の大きさを適切に設定することが可能となり、シリンダ(40)と第2ハウジング(50)の間での摩擦による動力損失を低減できる。
従って、本実施形態によれば、回転式圧縮機(10)の圧縮効率を高めると共に、その運転中における機械的な損失を低減することができ、回転式圧縮機(10)の性能向上を図ることができる。
更に、本実施形態によれば、回転式圧縮機(10)の運転状態が変化して吐出流体と吸入流体の圧力差が変化しても、押し側部材としてのシリンダ(40)を傾けようとするモーメントの大きさを確実に削減することができ、シリンダ(40)が傾くことに起因する圧縮効率の低下や偏摩耗などの問題を回避することができる。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。本実施形態の回転式圧縮機(10)は、上記実施形態1において調節機構(80)と押し付け機構(70)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の回転式圧縮機(10)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図6に示すように、本実施形態の調節機構(80)は、連通路(81)と差圧弁(82)とを備えている。また、本実施形態の差圧弁(82)は、弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とを備えている。これらの点について、本実施形態の調節機構(80)は、上記実施形態1のものと同様である。ただし、本実施形態の調節機構(80)は、連通路(81)と差圧弁(82)の配置が上記実施形態1のものと相違しており、更には連通路(81)と差圧弁(82)の他に凹溝(88)を備えている。
上記調節機構(80)の凹溝(88)は、第2ハウジング(50)におけるピストン本体(52)に形成されている。具体的に、凹溝(88)は、ピストン本体(52)における高圧室(61,66)寄りの部分(図7における概ね左半分)に形成されている。この凹溝(88)は、ピストン本体(52)の先端面(図7における上端面)に開口する細長い溝であって、ピストン本体(52)の伸長方向に沿って円弧状に延びている。このように、凹溝(88)は、ピストン本体(52)のうちシリンダ(40)の鏡板部(41)と摺動する面に開口している。
上記調節機構(80)の連通路(81)は、第1ハウジング(35)の周縁部(38)と第2ハウジング(50)の両方に亘って形成されている。この連通路(81)は、その一端が周縁部(38)の内周面に開口しており、一端側で吸入空間(57)と連通している。また、連通路(81)の他端は、ピストン本体(52)に形成された凹溝(88)の底面に開口している。つまり、この連通路(81)は、凹溝(88)を吸入空間(57)に接続している。
上記調節機構(80)の差圧弁(82)は、その弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とが第2ハウジング(50)に埋設されている。具体的に、第2ハウジング(50)の鏡板部(51)では、その背面から上方へ延びる有底の埋設穴(87)が連通路(81)を横断するように形成されており、この埋設穴(87)に弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とが収容されている。弁体(83)は、概ね円柱状に形成されており、埋設穴(87)の軸方向へ進退自在となっている。また、弁体(83)の上端寄りには、その外周面に開口する外周溝(84)が形成されている。バネ(85)は、埋設穴(87)の底と弁体(83)の間に配置されており、弁体(83)を下方へ付勢している。埋設穴(87)における弁体(83)よりも上の空間は、吸入空間(57)と連通している。蓋部材(86)は、埋設穴(87)の下端を塞ぐように設けられる。また、蓋部材(86)には、小径の孔が形成されている。埋設穴(87)における弁体(83)よりも下の空間は、蓋部材(86)の孔を介して吐出ガスで満たされた吐出空間(32)と連通している。
差圧弁(82)の弁体(83)では、その下面に吐出圧力が作用し、その上面に吸入圧力とバネ(85)の付勢力が作用する。弁体(83)は、吐出圧力と吸入圧力の差に応じて上下に移動する。そして、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置まで下がると、連通路(81)が開いた状態となる。また、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置からずれると、連通路(81)が閉じた状態となる。なお、図6では、弁体(83)が連通路(81)を開いた状態となっている。
本実施形態の回転式圧縮機(10)では、圧縮機構(30)にシールリング(73)が1つだけ設けられており、この1つのシールリング(73)が押し付け機構(70)を構成している。このシールリング(73)は、上記実施形態1の大径シールリング(71)や小径シールリング(72)と同様に、第1ハウジング(35)の平板部(36)の下面に開口する凹溝に嵌め込まれており、シリンダ(40)の鏡板部(41)の背面に当接している。そして、このシールリング(73)は、第1ハウジング(35)の平板部(36)とシリンダ(40)の鏡板部(41)との間に形成される背面側隙間(75)を、シールリング(73)の内側の内側隙間(76)と、その外側の外側隙間(78)とに仕切っている。回転式圧縮機(10)の運転中において、内側隙間(76)の内圧は吐出圧力に保たれ、外側隙間(78)の内圧は吸入圧力に保たれる。
−運転動作−
本実施形態の調節機構(80)は、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重の大きさを、吐出圧力と吸入圧力の差に応じて調節する。その際、この調節機構(80)は、シリンダ(40)に対して上向きに作用する押し返し力の大きさを変更することによって、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重の大きさ変化させる。
先ず、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力によって下方へ押し下げられ、連通路(81)が開いた状態となる。この状態では、連通路(81)を介して凹溝(88)と吸入空間(57)が連通され、凹溝(88)の圧力が吸入圧力となる。つまり、この状態において、シリンダ(40)の鏡板部(41)の前面のうち凹溝(88)に面する部分には、高圧室(61,66)内の流体圧ではなく、吸入圧力が作用する。このため、シリンダ(40)を上方へ押し上げようとする押し返し力の大きさが小さくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重が大きくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が不足しがちな運転状態では、凹溝(88)へ吸入圧力を導入することでシリンダ(40)に作用する上向きの押し返し力を削減し、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重を確保している。
一方、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力に打ち勝って上方へ押し上げられ、連通路(81)が閉じた状態となる。この状態では、凹溝が吸入空間(57)から遮断され、凹溝(88)へは高圧室(61,66)内の流体が徐々に漏れ込んでくる。そして、凹溝(88)の圧力は、連通路(81)が開いている状態に比べて高くなる。このため、シリンダ(40)を上方へ押し上げようとする押し返し力の大きさが大きくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重が小さくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が過剰になりがちな運転状態では、凹溝(88)の圧力を吸入圧力よりも高くすることでシリンダ(40)に作用する上向きの押し返し力を増大させ、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重を削減している。
本実施形態の圧縮機構(30)において、シリンダ(40)の鏡板部(41)の前面に作用する流体圧は、低圧室(62,67)側よりも高圧室(61,66)側の方が大きくなる。これに対し、本実施形態では、ピストン本体(52)の先端面のうち高圧室(61,66)寄りの部分に凹溝(88)を開口させている。そして、この凹溝(88)へ連通路(81)を通じて吸入圧力が導入されると、シリンダ(40)の鏡板部(41)のうち高圧室(61,66)側の部分に作用する押し返し力が比較的小さくなり、シリンダ(40)を傾けようとするモーメントが小さくなる。
−実施形態2の効果−
本実施形態では、シリンダ(40)に対して上向きに作用する押し返し力の大きさを調節機構(80)が調節している。このため、上記実施形態1の場合と同様に、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重の大きさを的確に調節することができる。
また、本実施形態では、ピストン本体(52)の先端面のうち高圧室(61,66)寄りの部分に凹溝(88)を開口させている。このため、シリンダ(40)を傾けようとするモーメントを低減することができ、シリンダ(40)が傾くことに起因する圧縮効率の低下や偏摩耗などの問題を回避することができる。
《発明の実施形態3》
本発明の実施形態3について説明する。本実施形態の回転式圧縮機(10)は、上記実施形態2において調節機構(80)の構成を変更したものである。ここでは、本実施形態の調節機構(80)について、図8及び図9を参照しながら説明する。
本実施形態の調節機構(80)において、凹溝(88)は、第2ハウジング(50)におけるピストン本体(52)に形成されている。この凹溝(88)は、ピストン本体(52)における低圧室(62,67)寄りの部分(図9における概ね右半分)に形成されている。この凹溝(88)は、ピストン本体(52)の先端面(図8における上端面)に開口する細長い溝であって、ピストン本体(52)の伸長方向に沿って円弧状に延びている。このように、凹溝(88)は、ピストン本体(52)のうちシリンダ(40)の鏡板部(41)と摺動する面に開口している。
上記調節機構(80)の連通路(81)は、第2ハウジング(50)に形成されている。この連通路(81)は、その一端が第2ハウジング(50)の鏡板部(51)の背面(図8における下面)に開口しており、一端側で吐出空間(32)と連通している。また、連通路(81)の他端は、ピストン本体(52)に形成された凹溝(88)の底面に開口している。つまり、この連通路(81)は、凹溝(88)を吐出空間(32)に接続している。
上記調節機構(80)の差圧弁(82)は、その弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とが第2ハウジング(50)に埋設されている。具体的に、第2ハウジング(50)の鏡板部(51)では、その背面から上方へ延びる有底の埋設穴(87)が連通路(81)を横断するように形成されており、この埋設穴(87)に弁体(83)とバネ(85)と蓋部材(86)とが収容されている。弁体(83)は、概ね円柱状に形成されており、埋設穴(87)の軸方向へ進退自在となっている。また、弁体(83)の上端寄りには、その外周面に開口する外周溝(84)が形成されている。バネ(85)は、埋設穴(87)の底と弁体(83)の間に配置されており、弁体(83)を下方へ付勢している。埋設穴(87)における弁体(83)よりも上の空間は、吸入ポート(39)と連通している。蓋部材(86)は、埋設穴(87)の下端を塞ぐように設けられる。また、蓋部材(86)には、小径の孔が形成されている。埋設穴(87)における弁体(83)よりも下の空間は、蓋部材(86)の孔を介して吐出ガスで満たされた吐出空間(32)と連通している。
差圧弁(82)の弁体(83)では、その下面に吐出圧力が作用し、その上面に吸入圧力とバネ(85)の付勢力が作用する。弁体(83)は、吐出圧力と吸入圧力の差に応じて上下に移動する。そして、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置まで下がると、連通路(81)が開いた状態となる。また、弁体(83)の外周溝(84)の高さが連通路(81)の位置からずれると、連通路(81)が閉じた状態となる。なお、図8では、弁体(83)が連通路(81)を開いた状態となっている。
−運転動作−
本実施形態の調節機構(80)は、上記実施形態2と同様に、シリンダ(40)に対して上向きに作用する押し返し力の大きさの大きさを変更することによって、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重の大きさ変化させる。
先ず、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力に打ち勝って上方へ押し上げられ、連通路(81)が開いた状態となる。この状態では、凹溝(88)と吐出空間(32)が連通され、凹溝(88)の圧力が吐出圧力となる。つまり、この状態において、シリンダ(40)の鏡板部(41)の前面のうち凹溝(88)に面する部分には、低圧室(62,67)内の流体圧ではなく、吐出圧力が作用する。このため、シリンダ(40)を上方へ押し上げようとする押し返し力の大きさが大きくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重が小さくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が過剰になりがちな運転状態では、凹溝(88)の圧力を吐出圧力にすることでシリンダ(40)に作用する上向きの押し返し力を増大させ、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重を削減している。
一方、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力によって下方へ押し下げられ、連通路(81)が閉じた状態となる。この状態では、凹溝が吐出空間(32)から遮断され、凹溝(88)内のガス冷媒が低圧室(62,67)へ徐々に漏れ出してゆく。そして、凹溝(88)の圧力は、連通路(81)が開いている状態に比べて低くなる。このため、シリンダ(40)を上方へ押し上げようとする押し返し力の大きさが小さくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重が大きくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が不足しがちな運転状態では、凹溝(88)の内圧を吐出圧力よりも低くすることでシリンダ(40)に作用する上向きの押し返し力を削減し、シリンダ(40)に作用する下向きの荷重を確保している。
本実施形態の圧縮機構(30)において、シリンダ(40)の鏡板部(41)の前面に作用する流体圧は、高圧室(61,66)側よりも低圧室(62,67)側の方が小さくなる。これに対し、本実施形態では、ピストン本体(52)の先端面のうち低圧室(62,67)寄りの部分に凹溝(88)を開口させている。そして、この凹溝(88)へ連通路(81)を通じて吐出圧力が導入されると、シリンダ(40)の鏡板部(41)のうち低圧室(62,67)側の部分に作用する押し返し力が比較的大きくなり、シリンダ(40)を傾けようとするモーメントが小さくなる。
《その他の実施形態》
−第1変形例−
上記実施形態1の圧縮機構(30)では、大径シールリング(71)の中心と小径シールリング(72)の中心の両方を主軸部(26)の軸心からオフセットさせているが、これに代えて、図10に示すように、大径シールリング(71)の中心O1だけを主軸部(26)の軸心からオフセットさせ、小径シールリング(72)の中心O2を主軸部(26)の軸心上に配置するようにしてもよい。
このように大径シールリング(71)及び小径シールリング(72)を配置すると、大径シールリング(71)と小径シールリング(72)の間に形成される中間隙間(77)は、そのうち高圧室(61,66)寄りに位置する部分の面積が大きくなる。そして、シリンダ(40)の鏡板部(41)では、中間隙間(77)の内圧によって受ける力(即ち、押し付け力)の作用点が高圧室(61,66)寄りとなり、その結果、より小さな押し付け力によってシリンダ(40)を傾けようとするモーメントを確実に削減することが可能となる。従って、この変形例によれば、シリンダ(40)に作用する押し付け力に起因する摺動損失を低く抑えつつ、シリンダ(40)の傾きを抑制することができる。
−第2変形例−
上記実施形態1の圧縮機構(30)は、背面側隙間(75)のうち大径シールリング(71)よりも外側の部分(即ち、外側隙間(78))の圧力が吐出圧力となるように構成されていても良い。ここでは、本変形例について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図11に示すように、本変形例の圧縮機構(30)では、吸入ポート(39)が第2ハウジング(50)に形成されている。吸入ポート(39)の終端は、第2ハウジング(50)の上面におけるピストン本体(52)の内周側と外周側のそれぞれに開口している。
上記圧縮機構(30)では、第2ハウジング(50)に吐出圧導入路(59)が形成されている。この吐出圧導入路(59)は、第1ハウジング(35)の周縁部(38)の内周面とシリンダ(40)の外周面との間に形成された空間を、吐出空間(32)と連通させている。そして、第1ハウジング(35)の周縁部(38)とシリンダ(40)との間の空間は、その内圧が吐出圧力となっており、吐出圧空間(58)を構成している。
上記圧縮機構(30)では、連通路(81)が第2ハウジング(50)から第1ハウジング(35)に亘って形成されている。この連通路(81)は、その一端が背面側隙間(75)のうち大径シールリング(71)と小径シールリング(72)の間の部分(即ち、中間隙間(77))に、他端が吸入ポート(39)にそれぞれ接続されている。また、本変形例の差圧弁(82)において、埋設穴(87)内における弁体(83)の下側の空間は、連通路(81)を介して吸入ポート(39)に接続されている。
吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力に打ち勝って下方へ押し下げられ、連通路(81)が開いた状態となる(図11を参照)。この状態では、吸入ポート(39)が連通路(81)を介して中間隙間(77)に連通し、中間隙間(77)の圧力が吸入圧力となる。このため、シリンダ(40)の背面のうち吐出圧力の作用する部分の面積が小さくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの押し付け力は、内側隙間(76)と中間隙間(77)の両方が吐出圧力となる状態に比べて小さくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が過剰になりがちな運転状態では、中間隙間(77)の圧力を吸入圧力にすることでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を削減している。
一方、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力によって上方へ押し上げられ、連通路(81)が閉じた状態となる。そして、中間隙間(77)が吸入ポート(39)から遮断され、中間隙間(77)の圧力が次第に上昇して最終的には吐出圧力となる。つまり、大径シールリング(71)や小径シールリング(72)が流体の漏れを完全に阻止する訳ではないため、中間隙間(77)の圧力が内側隙間(76)の圧力や外側隙間(78)の圧力と等しくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が不足しがちな運転状態では、中間隙間(77)の圧力を上昇させることでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を確保している。
−第3変形例−
上記の各実施形態の回転式圧縮機(10)では、図12に示すように、圧縮機構(30)を電動機(20)の上方に配置してもよい。ここでは、上記実施形態1に本変形例を適用した場合について説明する。
本変形例の回転式圧縮機(10)では、ケーシング(11)の内部空間が圧縮機構(30)によって上下に仕切られており、圧縮機構(30)の上方の空間が上側空間(16)を、その下方の空間が下側空間(17)をそれぞれ構成している。上側空間(16)には吐出管(14)が、下側空間(17)には吸入管(15)がそれぞれ接続されている。
本変形例の圧縮機構(30)では、第1ハウジング(35)が下方(即ち電動機(20)寄り)に配置され、第2ハウジング(50)が上方に配置されている。第1ハウジング(35)には、吸入ポート(39)が形成されている。この吸入ポート(39)は、吸入空間(57)を下側空間(17)と連通させている。第2ハウジング(50)には、外側シリンダ室(60)用の外側吐出ポート(54)と、内側シリンダ室(65)用の内側吐出ポート(55)とが形成されている。これら吐出ポート(54,55)は、リード弁で構成された吐出弁(34)によって開閉される。圧縮機構(30)で圧縮された冷媒は、これら吐出ポート(63,68)を通ってマフラー(31)内の吐出空間(32)へ吐出され、その後に上側空間(16)へ流入する。
上記圧縮機構(30)では、連通路(81)が第2ハウジング(50)から第1ハウジング(35)に亘って形成されている。この連通路(81)は、その一端が背面側隙間(75)のうち大径シールリング(71)と小径シールリング(72)の間の部分(即ち、中間隙間(77))に、他端が吐出空間(32)にそれぞれ接続されている。また、本変形例の差圧弁(82)において、埋設穴(87)内における弁体(83)の上側の空間は、連通路(81)を介して吐出空間(32)に接続されている。
上記回転式圧縮機(10)では、クランク軸(25)の下端に給油ポンプ(28)が取り付けられている。この給油ポンプ(28)は、容積型のポンプによって構成されており、ケーシング(11)の底部に溜まった冷凍機油を吸い込んで圧縮機構(30)へ供給する。
上記圧縮機構(30)において、背面側隙間(75)のうち小径シールリング(72)よりも内側の部分(即ち、内側隙間(76))の内圧は、圧縮機構(30)へ供給された冷凍機油の圧力となっている。つまり、内側隙間(76)の内圧は、下側空間(17)の内圧である吸入圧力と概ね等しくなっている。また、背面側隙間(75)のうち大径シールリング(71)よりも外側の部分(即ち、外側隙間(78))の圧力は、吸入空間(57)の内圧、即ち吸入圧力と等しくなっている。
吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力によって上方へ押し上げられ、連通路(81)が開いた状態となる(図12を参照)。この状態では、吐出空間(32)が連通路(81)を介して中間隙間(77)に連通し、中間隙間(77)の圧力が吐出圧力となる。このため、シリンダ(40)の背面のうち吐出圧力の作用する部分の面積が大きくなり、シリンダ(40)に作用する下向きの押し付け力は、中間隙間(77)が吸入圧力となる状態に比べて大きくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的小さくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が不足しがちな運転状態では、中間隙間(77)へ吐出圧力を導入することでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を確保している。
一方、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きい運転状態では、差圧弁(82)の弁体(83)がバネ(85)の付勢力に打ち勝って下方へ押し下げられ、連通路(81)が閉じた状態となる。そして、中間隙間(77)が吐出空間(32)から遮断され、中間隙間(77)の圧力が次第に低下して最終的には吸入圧力となる。つまり、大径シールリング(71)や小径シールリング(72)が流体の漏れを完全に阻止する訳ではないため、中間隙間(77)の圧力が内側隙間(76)の圧力や外側隙間(78)の圧力と同じ値となる。このため、シリンダ(40)の背面の全体に吸入圧力が作用することとなり、シリンダ(40)に作用する下向きの押し付け力は、中間隙間(77)が吐出圧力となる状態に比べて小さくなる。
このように、吐出圧力と吸入圧力の差が比較的大きくてシリンダ(40)に作用する押し付け力が過剰になりがちな運転状態では、中間隙間(77)の圧力を吸入圧力にすることでシリンダ(40)へ作用する下向きの荷重を削減している。
−第4変形例−
上記の各実施形態の圧縮機構(30)では、ピストン本体(52)を備えた第2ハウジング(50)を固定してシリンダ(40)を偏心回転させる構成を採っているが、これとは逆に、シリンダ(40)を固定してピストン本体(52)を備えた第2ハウジング(50)を偏心回転させる構成を採ってもよい。この場合、押し付け機構(70)は、ピストン本体(52)を備える第2ハウジング(50)へ押し付け力を作用させることになる。つまり、この場合には、第2ハウジング(50)が押し側部材となり、シリンダ(40)が受け側部材となる。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。