[第1の実施の形態]
<構成>
図2に、本発明の第1の実施の形態に係る電力増幅器70の構成を回路図で示す。図2を参照して、電力増幅器70は、信号入力端子80と、信号出力端子92と、コレクタバイアス端子86と、バイアス端子100とを有する。
電力増幅器70は、信号入力端子80に一方の端子が接続された整合回路82と、整合回路82の他方の端子に一方端子が接続されたVBE依存型電圧源84と、VBE依存型電圧源84の他方の端子にベース端子が接続され、コレクタ端子がコレクタバイアス端子86に接続されたトランジスタ88と、トランジスタ88のコレクタ端子に一方端子が接続され、信号出力端子92に他方端子が接続された整合回路90とを含む。
VBE依存型電圧源84は、一方端がバイアス端子100に接続され、他方端がトランジスタ88のベース端子に接続された抵抗102と、整合回路82とトランジスタ88のベース端子とに接続されたコレクタ端子を有するトランジスタ104と、トランジスタ104のコレクタ端子とベース端子との間に接続されたローパスフィルタ108と、一方端子がトランジスタ104のエミッタ端子に接続され、他方端子が接地された抵抗106とを含む。
ローパスフィルタ108は、一方の端子がトランジスタ104のエミッタ端子に接続され、他方端子がトランジスタ104のベース端子に接続された抵抗112と、一方端子がトランジスタ104のベース端子に接続され、他方端子が接地された容量110とを含む。ローパスフィルタ108は、直流に対して導通を有している。
VBE依存型電圧源84のトランジスタ104が、ベース−エミッタ間電圧によってトランジスタ88のベース端子に印加される電圧を規定するトランジスタである。トランジスタ104のコレクタ端子が電圧出力端子となる。
ローパスフィルタ108を構成する抵抗112及び容量110の素子値は、印加される交流信号を必要なだけ遮断できるフィルタとして設計される事が必要である。これは、ローパスフィルタ設計における既知の技術で設計が可能である。例えばフィルタの遮断周波数を使用周波数より十分小さく設計すればよい。又は抵抗112の値を大きくし、フィルタの透過損失を大きく設計すればよい。
本実施の形態に係るローパスフィルタ108で用いられる素子は、交流信号レベルの変化に対してインピーダンス値が変化しない線型素子で構成されている必要がある。そうでなければ、交流信号レベルの増大とともにインピーダンスが変化し、VBE依存型電圧源84の直流電圧出力を変動させる原因となってしまうからである。
また、ローパスフィルタ108に並列して別の回路が接続され、交流信号がトランジスタ104のベース端子に達する様な構成では、本発明の入力信号レベル依存性が小さくなる効果が生じない。
さらに、ローパスフィルタ108の容量110と抵抗112の位置も重要である。抵抗112がトランジスタ104のコレクタ側にある事で、トランジスタ88のベース端子から見たVBE依存型電圧源84のインピーダンスが大きく見える。従って、ローパスフィルタ108をバイアス回路として用いた場合、トランジスタ88のベース端子のインピーダンス整合に影響を与えにくいという利点を有する。
インピーダンスが大きく見える理由は、抵抗112が、直列抵抗としてVBE依存型電圧源の出力側に配置されている事による。この配置によって、トランジスタ88のベース端子から見たフィルタのインピーダンスが抵抗112の抵抗値以上に見える。
また、トランジスタ104のコレクタ端子も同じくトランジスタ88のベース端子に接続されている。トランジスタ88はコレクタ電流がトランジスタのベース−エミッタ電圧に依存した電流源として作用する。トランジスタ104においては、ローパスフィルタ108がコレクタ端子及びベース端子に接続されているため、交流信号は減衰されてベース端子に印加される事になり、コレクタ端子のインピーダンスは大きく見える。
これらの性質によって、本実施の形態に係る電力増幅器70のVBE依存型電圧源84は、交流に対する出力インピーダンスが高くなる。以上より、同じローパスフィルタでも、VBE依存型電圧源の出力側に直列抵抗を有するローパスフィルタがもっとも有効な構成であると言える。
VBE依存型電圧源の電圧出力の入力信号レベル依存性を小さくするのみであれば、他の方法も考えられる。一例として、VBE依存型電圧源にインピーダンスを複数含ませ、いずれか一つのインピーダンス値を大きくする方法がある。
例えば、VBE依存型電圧源に含まれたトランジスタのエミッタ端子に接続されたインピーダンス素子を抵抗素子として抵抗値を大きくする方法である。しかし、この場合、インピーダンス素子には、トランジスタのエミッタ電流が流れているため、大きな電圧降下を生じ、VBE依存型電圧の電圧出力に大きな影響を与えてしまう。影響の例として、電圧特性が劣化する等が挙げられる。そのため、VBE依存型電圧源の電圧出力の入力信号レベル依存性を小さくする手段としては不適切である。
これは、トランジスタのコレクタ端子に接続されたインピーダンス素子を抵抗素子として抵抗値を大きくする場合でも同じである。このインピーダンスにはトランジスタのコレクタ電流が流れている。そこで、大きな電圧降下が生じ、上記のインピーダンス素子の場合と同様にVBE依存型電圧源の電圧出力に大きな影響を与えてしまう。
<動作>
図2を参照して、電力増幅器70は以下の様に動作する。信号入力端子80を通じて、交流信号が電力増幅器70に印加される。印加された交流信号は、整合回路82を介してトランジスタ88のベース端子に印加され、トランジスタ88のコレクタ端子から増幅された交流信号が出力される。増幅されて出力された交流信号は、整合回路90を介して出力端子92より出力される。
次に、本実施の形態に係るVBE依存型電圧源84の電圧源回路としての動作について説明する。
トランジスタ104のベース電流Ibとコレクタ電流Icとの関係は以下の式(1)で表す事ができる。
Ib=Ic÷β・・・(1)
ここで、βはトランジスタ104の電流増幅率であり、例えば100程度の値をとる。
ローパスフィルタ108による電圧降下Vfilterは、式(2)で表す事ができる。
Vfilter=R1×Ib・・・(2)
ここで、R1は、ローパスフィルタ108に含まれる直列抵抗である抵抗112の抵抗値である。ローパスフィルタ108による電圧降下Vfilterは、βが大きな値をとるために比較的小さな値となる。その結果、トランジスタ104のコレクタ電圧とベース電圧とは、ほぼ同じ値をとる。
トランジスタ104のコレクタ電圧とベース電圧とがほぼ同じ値であれば、VBE依存型電圧源84は、図1に示した従来型のVBE依存型電圧源44と同様、トランジスタ104のコレクタ電圧に、トランジスタの構成材料に依存してほぼ一定の値となる電圧を供給する事になる。
このとき、トランジスタ104のコレクタ電圧Vcは、以下の式(3)であらわされる。
Vc=Vfilter+Von+Ic×(1+1÷β)×R2・・・(3)
ここで、Vonはトランジスタ104の構成材料によって決まるベース−エミッタ間のオン電圧である。オン電圧とは、トランジスタ104のコレクタ−エミッタ間に電流が流れ始める電圧の事である。Ic×(1+1÷β)は、エミッタ電流である。従って、Ic×(1+1÷β)×R2は、抵抗106による電圧降下に相当する。ただし、ここでR2は抵抗106の抵抗値であり、一般的には温度特性の調整用として付加されている比較的小さな抵抗値である。
上記した動作のために、本実施の形態におけるローパスフィルタ108は、直流で導通がある伝達特性を有している事が必要となる。
次に、本実施の形態に係るVBE依存型電圧源84をバイアス回路として用いた際の電力増幅器の温度補償特性について説明する。
上記した様に、VBE依存型電圧源84の出力電力であるトランジスタ104のコレクタ電圧は、式(3)に示す様にオン電圧Vonに依存しており、Vonの温度依存性を反映した温度依存性を有する。この温度依存性が果たす役割を以下で説明する。
増幅素子であるトランジスタ88は、周囲の温度が増加すると、ベース−エミッタ間のオン電圧が低下して、コレクタ電流が増加するという温度特性を有する。しかしそのとき、VBE依存型電圧源84に含まれるトランジスタ104のベース−エミッタ間のオン電圧Vonも低下する。このオン電圧Vonの低下により、VBE依存型電圧源84の出力電圧も低下する。すなわち、トランジスタ88のベースバイアス電圧が低下し、それによってトランジスタ88のコレクタ電流が増加する作用が相殺される。従って、トランジスタ88のベース−エミッタ間のオン電圧の温度依存性を反映したコレクタ電流特性の温度依存性も相殺される。
<結果の比較>
図3に、温度補償を行なった場合の温度依存性の回路シミュレーションと温度補償を行なわなかった場合の温度依存性の回路シミュレーションとの比較をグラフで示す。トランジスタのベース電圧を0.81V一定とし、温度補償を行なわなかった場合の温度依存性の回路シミュレーション結果をグラフ120に示す。図2に示した構成のトランジスタ88のコレクタ電流の温度依存性の回路シミュレーション結果をグラフ122に示す。
ここで、トランジスタ88には、オン電圧が約0.8VのSiGeバイポーラトランジスタのモデルを用いた。
抵抗102の抵抗値は2400Ω、抵抗106の抵抗値は20Ω、抵抗112の抵抗値は1000Ω、及び容量110は3pFとして計算を行なった。また、整合回路82及び整合回路90は直流バイアスが通過しない様に、直流に対して導通がない構成とした。バイアス端子100には2.9V、コレクタバイアス端子86には3.3Vの電圧を印加した。
図3に示される様に、温度の上昇とともに、グラフ120で表される温度補償を行なわなかった場合のコレクタ電流は増加した。一方、グラフ122で表される本実施の形態の構成では、温度が上昇しても、コレクタ電流の変化がほとんどなかった。
なお、ローパスフィルタ108に直列抵抗112(1000Ω)があるため、従来技術の構成と本実施の形態の構成とには、図3のグラフのスケールでは区別できない程度の特性の違いが出る。しかし、これは調整用の抵抗106の少しの変更で容易に調整できる。例えば、従来技術(図1)で抵抗66を30Ωとした場合の特性にあわせるためには、図2の本実施の形態の構成で抵抗106を20Ωとすればよい。
電力増幅器70の温度補償は、概略として、トランジスタ88のコレクタ電流がおおよそ一定となる様に調節する事によって、電力増幅器70の利得をおおよそ一定とする。実際には、回路全体の仕様に応じて、コレクタ電流に緩やかな温度依存性を持たせる様に温度補償を調節する場合もある。抵抗102及び抵抗106によってこの様な温度依存性の微調整及びコレクタ電流の絶対値の微調整が可能である。
次に、本発明のVBE依存型電圧源84をバイアス回路として用いたときの入力信号レベル依存性について説明する。
入力信号端子80から交流信号が印加された場合、入力された交流信号は、トランジスタ88のベース端子に印加されるだけでなく、VBE依存型電圧源84にも印加される。交流入力の信号レベルが大きくなった場合、抵抗102,106,112、及び容量110のインピーダンスは、信号レベルの大きさによらず変化しない線型素子である。それに対して、トランジスタ104は非線型素子であるため、信号レベルが大きくなるとインピーダンスが変化し、電圧及び電流の成分に変化を生じさせる。
具体的には、トランジスタ104のベース−エミッタ間に到達する交流信号のレベルが大きくなると、トランジスタ104のコレクタ電流の直流成分が増加する。その結果、抵抗102による電圧降下が増大し、トランジスタ104のコレクタ電圧の直流成分が低下する。そして、トランジスタ88のバイアス条件に影響を与える。
ところが、図2の本実施の形態に係る構成によれば、入力された交流信号は、ローパスフィルタ108を経て、ベース端子に到達する。すなわち、交流信号のレベルは、ローパスフィルタ108によって減衰される。そのため、同じ入力信号レベルに対して、ベース端子に印加される交流信号レベルが小さくなり、VBE依存型電圧源84の電圧出力の入力信号レベル依存性が小さくなる。つまり、VBE依存型電圧源84の直流電圧出力の入力信号レベル依存性が小さくなる。
以降、本発明中での電圧源回路の電圧出力は、直流電圧出力を意味する。
図4に、本実施の形態に係る電力増幅器70の出力電圧であるトランジスタ88のコレクタ電圧と入力信号電力との関係である入力信号レベル依存性の回路シミュレーション結果をグラフ130で、ローパスフィルタのない従来技術(図1参照)による回路構成でのコレクタ電圧の入力信号レベル依存性の回路シミュレーション結果をグラフ132で、それぞれ示す。回路のパラメータ及びバイアス条件は、上記の温度特性を計算した場合と同じ値を用いた。
図4を参照して、例えば、トランジスタ88のコレクタ電圧が0.7Vに低下した際の入力信号レベルは、従来技術による回路構成では、グラフ132に示される通り7dBm程度であった。これに対し、本実施の形態の回路構成では、グラフ130に示される通り、15dBm程度であった。以上より、従来技術のものと比較して、本実施の形態に係る電力増幅器70によると、入力信号レベル依存性が小さくなっているという事ができる。
図5に、上記と同様の場合の電力増幅器の利得と入力信号電力との関係を本実施の形態と図1の従来技術とについて、それぞれグラフ140及び142によって示す。図5を参照して、例えば、利得が6dBに低下した際の入力信号レベルは、従来技術による回路構成では、グラフ142により示される通り5dBmであった。これに対して、本実施の形態の回路構成では、グラフ140により示される通り、7.5dBmであった。以上より、従来技術のものと比較して、本実施の形態に係る電力増幅器70では、高出力まで利得変化が少なく、線型性が向上したという事ができる。
本実施の形態に係る電力増幅器70は、半導体基板上の集積回路に、大きな面積を占有する事なく作製する事が可能である。そのため、線型性の高い電力増幅器を安価かつ容易に提供する事ができる。
なお、図2の様に抵抗106を介してトランジスタ104のエミッタ端子を接地端子に接続する代わりに、抵抗106を省いてトランジスタ104のエミッタ端子を直接接地端子に接続してもよい。
また、従来の温度補償回路と同じく、抵抗102とバイアス端子100の代わりに、電流源回路を使用してもよい。
VBE依存型電圧源の電圧出力の入力信号レベル依存性を小さくするだけであれば、
例えば、図1に示すトランジスタ48のベース端子及び抵抗62の接続ノードと、トランジスタ64のコレクタ端子との間にインダクタンス素子を設け、そのインダクタンス値を大きくする構成も可能である。しかし、交流信号を十分に減衰するためには、大きなインダクタンスが必要で、インダクタンス素子を半導体基板上にスパイラルインダクタなどで作製すると素子面積が大きくなってしまう。そのため、集積回路のコストの大幅な増加につながってしまう欠点を有している。この他にも大きなインダクタンスを用いる方法が考えられるが、いずれも半導体基板上の大きな面積を占有し、好ましくない。
それに対し、本実施の形態の構成では、半導体基板上の集積回路に、大きな面積を占有する事なく作製が可能である。そのため、線型性の高い本電力増幅器を用いた通信装置により通信エラーが少なく安定した通信を行なう事のできる安価な通信装置を提供する事ができる。
[第2の実施の形態]
<構成>
図6に、本発明の第2の実施の形態に係る電力増幅器148の構成を回路図で示す。なお、第1の実施の形態に係る増幅器に含まれる素子と同一の素子については同一の符号を付す。それらの名称及び機能も同一である。従って、それらについての詳細な説明は繰返さない。
図6を参照して、電力増幅器148は、信号入力端子80と、信号出力端子92と、コレクタバイアス端子86とを有する。
電力増幅器148は、信号入力端子80に接続された第1の端子を有する整合回路82と、ベース端子が整合回路82の第2の端子に接続され、コレクタ端子がコレクタバイアス端子86に接続され、エミッタ端子が接地されたトランジスタ88と、トランジスタ88のコレクタ端子と信号出力端子92との間に接続された整合回路90とを含む。
電力増幅器148はさらに、整合回路82の第2の端子とトランジスタ88のベース端子との接続ノードに接続された第1の端子と、第2の端子と、バイアス端子170とを有する歪補償回路152と、歪補償回路152の第2の端子に接続されたVBE依存型電圧源150とを含む。
VBE依存型電圧源150は、バイアス端子100を有する。VBE依存型電圧源150は、バイアス端子100に接続された一方端子と、歪補償回路152の第2の端子に接続された他方端子とを有する抵抗102と、抵抗102と歪補償回路152との接続ノードに接続されたコレクタ端子を有するトランジスタ160と、トランジスタ160のコレクタ端子とベース端子との間に接続されたローパスフィルタ108と、トランジスタ160のエミッタ端子に接続されたコレクタ端子及びベース端子を有するトランジスタ162と、トランジスタ162のエミッタ端子と接地との間に接続された抵抗106とを含む。
ローパスフィルタ108は、第1の実施の形態に係るものと同様の抵抗112及び容量110を含む。
歪補償回路152は、バイアス端子170に接続されたコレクタ端子、VBE依存型電圧源150の第1の抵抗102とトランジスタ160のコレクタ端子との接続ノードに接続されたベース端子、及び整合回路82とトランジスタ88のベース端子との接続ノードに接続されたエミッタ端子を有するトランジスタ172と、トランジスタ172のベース端子と接地との間に接続されたインピーダンス素子174とを含む。
ここで、トランジスタ160及びトランジスタ162が、ベース−エミッタ間電圧によってトランジスタ88のベース端子に印加される電圧を規定するトランジスタである。トランジスタ160のコレクタ端子が電圧出力端子となる。
歪補償回路152の基本構成は、特許文献7に示されている。特に特許文献8及び特許文献9には、上記歪補償回路の調整方法が記載されている。本実施の形態でのインピーダンス素子174はその調整用の素子に相当する。
また、これらの回路に温度補償用の電圧源回路を組合せた例は、特許文献4及び特許文献6に記載されている。
また、実施の形態1と同様に以下の事が言える。
まず、ローパスフィルタ108は印加される交流信号を必要なだけ遮断できるフィルタとして設計する必要がある。また、ローパスフィルタ108で用いられる素子は、交流信号レベルの変化に対してインピーダンス値が変化しない線型素子で構成されている事が必要である。
さらに、ローパスフィルタ108に並列して別の回路が接続され交流信号がトランジスタ88のベースに達する構成では本発明の入力信号レベル依存性を小さくできる効果が生じない。また、VBE依存型電圧源150を電圧源回路として働かせる上で、ローパスフィルタ108が直流に対して導通を有する事が必要である。
さらに、ローパスフィルタ108の容量110と抵抗112の位置も重要である。抵抗112がVBE依存型電圧源150の出力端子側にある事でトランジスタ172のベース端子から見たVBE依存型電圧源150のインピーダンスが大きく見える。インピーダンスが大きく見える理由は第1の実施の形態と同様である。
本実施の形態では、VBE依存型電圧源150の出力端子がトランジスタ88のベース端子に直接接続されているわけではないので、トランジスタ88のインピーダンス整合に影響を与える影響は少ない。しかし、電力増幅器の歪補償回路152に与える影響に着目する必要がある。
インピーダンス素子174は、そのインピーダンス値を変更する事によって、<結果の比較>で後述する様に線型性が調整される。トランジスタ172のベース端子に対し、インピーダンス回路174と並列にVBE依存型電圧源150が接続されている。そのため、VBE依存型電圧源150のインピーダンスが小さい場合、インピーダンス回路174のインピーダンスを高くしてもトランジスタ172のベース端子から見たインピーダンスが、VBE依存型電圧源150のインピーダンスより大きくならない。結果として、上記歪補償回路152の調整範囲を狭めてしまう。
しかし、本発明の構成では、抵抗112がVBE依存型電圧源150の出力端子側にある。そこで、トランジスタ88のベース端子から見たVBE依存型電圧源150のインピーダンスが大きくなり、上記歪補償回路152の調整範囲を狭める事がないという利点を有している。また、この事は、後述の第4の実施例で述べる構成において、インピーダンス素子174を可変インピーダンス回路とし、動作状態に応じて歪補償回路の調整を行なう場合に特に有効であり、調整範囲を広くできるという利点を有する。
この様に、同じローパスフィルタでも、VBE依存型電圧源150の出力側に直列抵抗を有するローパスフィルタが本発明にとってもっとも有効な構成である。
<動作>
本実施の形態に係る電力増幅器148の基本的な動作は第1の実施の形態に係る電力増幅器70と同様である。従って、その詳細な説明はここでは繰返さない。ただし、本実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるVBE依存型電圧源150の動作は第1の実施の形態のものと異なるので、この点について以下で説明する。
図6を参照して、信号入力端子80から交流信号が入力される。入力された交流信号は、整合回路82及びトランジスタ172を経て、VBE依存型電圧源150の出力端子であるトランジスタ160のコレクタ端子に印加される。
ここで、第1の実施の形態に係る電力増幅器70の場合と同様に、印加された交流信号がトランジスタ160のベース−エミッタ端子間に達する。この事により、入力信号レベルの増加とともに、トランジスタ160のコレクタ電流が増加する。その結果、抵抗102による電圧降下が起こり、トランジスタ160のコレクタ電圧として表されるVBE依存型電圧源150の出力電圧が低下する。
しかし、本実施の形態に係るVBE依存型電源150では、交流信号は、ローパスフィルタ108で減衰された後、トランジスタ160のベース端子に達する。そこで、VBE依存型電圧源150の電圧出力の入力信号レベル依存性が小さくなる。
<結果の比較>
図7に、第2の実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるトランジスタ160の出力電圧と入力信号との関係及び図6のVBE依存型電圧源150を図11に示すローパスフィルタ108のない電圧源回路によって置換えた際のトランジスタ160の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。
回路シミュレーションを行なう際に使用した値は以下の通りである。抵抗102の抵抗値は12530Ω及び抵抗106の抵抗値は480Ωとした。また、抵抗112の抵抗値は1000Ω及び容量110の値は3pFとした。また、トランジスタは、ベースバラスト抵抗(16Ω相当)を内蔵したマルチユニットのSiGeバイポーラトランジスタ用いた。また、インピーダンス素子174の容量は0.3pFとした。そして、バイアス端子100に2.9V及びコレクタバイアス端子86に3Vの電圧を印加した。
図11に、ローパスフィルタ108のない電圧源回路を示す。図11において、図6に示された要素と同一の要素については同一番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。従って、ここではそれらについての詳細な説明は繰返さない。図11を参照して、この回路は、第1の抵抗102と第2のトランジスタ160のコレクタ端子との間の接続ノードに接続された端子220を有する。端子220は、図6に示したトランジスタ172のベース端子に接続される。
グラフ180は、本実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるトランジスタ160のコレクタ電圧の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。グラフ182は、図11に示す回路に含まれるトランジスタ160のコレクタ電圧の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。
図8に、本実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるトランジスタ88のベース電圧と入力信号電力との関係をグラフ190で、図6のVBE依存型電圧源150を図11に示すローパスフィルタ108のない電圧源回路によって置換えた際のトランジスタ88のベース電圧と入力信号電力との関係をグラフ192で示す。
図7を参照して、グラフ180で表される本実施の形態に係るトランジスタ160は、グラフ182で表される図11の電圧源回路に含まれるトランジスタ160より高い入力信号レベルまで電圧源回路の出力電圧の変動が少なかった。また、その結果、図8に示される様に、グラフ190で表される本実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるトランジスタ88のベース電圧の低下が、グラフ192で表される図11の電圧源回路に含まれるトランジスタ88より高い入力信号レベルまで、抑制されたという事がわかる。
図9に、本実施の形態に係る電力増幅器148に含まれるインピーダンス素子174の容量を0.3pFとしたときの利得と入力信号電力との関係をグラフ200で、0.1pFとしたときの関係をグラフ202で示す。
図10に、図11の電圧源回路を使用した電力増幅器に含まれるインピーダンス素子174の容量を0.3pFとしたときの利得と入力信号電力との関係をグラフ210で、0.1pFとしたときの関係をグラフ212で示す。
図9及び図10を参照して、例えば、図8でベース電圧に大きく差が見られた入力信号電力が20dBmになる部分に着目する。グラフ200では、このとき利得が9.3dB程度であった。これに対して、グラフ212では8.6dB程度に利得が低下した。以上より、本実施の形態に係る電力増幅器148では利得の低下が少なく、線型性が優れているという事がわかる。
ところが、図11の電圧源回路で置換えた構成(グラフ210)では、容量を小さくした場合、グラフ212の様に、高い入力レベルでの利得の減少が急激に早まる。その結果、かえって線型性を低下させる事になる。つまり、歪補償回路と温度補償用の電圧源回路を組合せただけの従来の構成では、グラフ212の様に高い入力信号レベルにおいては、想定する歪補償効果が得られない場合がある。
本発明者らは、本発明の構成のベース−エミッタ間電圧型の電圧源回路を用いる事で上記課題を解決でき、より線型性に優れた増幅器を提供できた。そして、その様なベース−エミッタ間電圧型の電圧源回路を用いた線型性の高い電力増幅回路を構成できる事を見出した。
検討の結果、グラフ212での高い入力レベルでの利得の急激な低下も、電圧源回路の入力信号レベル依存性によって引起こされている事がわかった。上記インピーダンス素子174のインピーダンスが小さくなると、VBE依存型電圧源150の出力端子に大きな交流信号電圧が印加される。この印加が出力電圧の低下を引起こし、その結果トランジスタ88のベース電圧が低下し、利得が低下する。
また、図6のVBE依存型電圧源150のベース−エミッタ間電圧を規定するトランジスタ160のベース端子及びコレクタ端子の間のローパスフィルタ108を省略し、コレクタ−ベース端子間を短絡させ、代わりに、トランジスタ162のコレクタ−ベース間にローパスフィルタを接続した構成とする事もできる。
図6のVBE依存型電圧源150の代わりにトランジスタ172のベースに上記した回路の端子を接続した回路の場合、電圧源回路としての入力信号レベル依存性があまり小さくないため、電力増幅器のバイアス回路に用いた場合に線型性を向上させる効果がほとんどない。この回路では、ローパスフィルタで信号が減衰する前にトランジスタ160のベース端子に交流信号が印加されてしまうため、効果が少ないと考えられる。すなわち、電圧源回路を構成するトランジスタが複数あった場合、図6の様に、電圧源回路の出力端子に接続されるベース端子にローパスフィルタ108が接続される事が必要である。
本実施の形態の構成によると、線型性の高い電力増幅器を提供する事ができる。
また、第1の実施の形態と同様、大きな面積を占有する素子を使用する必要がない事から、安価かつ容易に集積回路化できる。
[第3の実施の形態]
<構成>
図12に、本発明の第3の実施の形態に係る電力増幅器228の構成を回路図で示す。なお、第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係る増幅器に含まれる素子と同一の素子については同一の符号を付す。それらの名称及び機能も同一である。従って、それらについての詳細な説明はここでは繰返さない。
図12を参照して、電力増幅器228が第2の実施の形態に係る電力増幅器148と異なるのは、第2の実施の形態におけるVBE依存型電圧源150に代えて、バイアス端子100と、バイアス端子240とを有するVBE依存型電圧源230を含む事である。その他の点において、電力増幅器228は電力増幅器148と同一である。
VBE依存型電圧源230は、バイアス端子100に接続された一方端を有する抵抗102と、抵抗102の他方端に接続されたコレクタ端子を有するトランジスタ242と、トランジスタ242のエミッタ端子と接地との間に接続された抵抗106と、バイアス端子240に接続されたコレクタ端子、及びトランジスタ242のベース端子に接続されたエミッタ端子を有するトランジスタ244と、トランジスタ242のコレクタ端子とトランジスタ244のベース端子との間に接続されたローパスフィルタ108とを含む。
ローパスフィルタ108の内部構成は、第1及び第2の実施の形態に記載のものと同様である。
ここで、トランジスタ242及びトランジスタ244が、ベース−エミッタ間電圧によってトランジスタ88のベース端子に印加される電圧を規定するトランジスタである。
そして、トランジスタ242のコレクタ端子が電圧出力端子となる。
また、以下で述べる事は第1の実施の形態の場合と同様である。
まず、ローパスフィルタ108は印加される交流信号を必要なだけ遮断できるフィルタとして設計する事及びローパスフィルタ108で用いられる素子は、交流信号レベルの変化に対してインピーダンス値が変化しない線型素子で構成されている事が必要である。
さらに、ローパスフィルタ108に並列して別の回路が接続され交流信号がトランジスタ88のベースに達する構成では、本発明の入力信号レベル依存性を小さくできる効果が生じない。また、VBE依存型電圧源230を電圧源回路として働かせる上で、ローパスフィルタ108が直流に対して導通を有する事が必要である。
また、ローパスフィルタの容量110と抵抗112の位置も重要である。抵抗112がVBE依存型電圧源230の出力端子側にある事でトランジスタ172のベース端子から見たVBE依存型電圧源230のインピーダンスが大きく見える。インピーダンスが大きく見える理由は第1の実施の形態と同様である。本実施の形態に係る電力増幅器228では、VBE依存型電圧源230の出力端子がトランジスタ88のベース端子に直接接続されているわけではない。そこで、トランジスタ88のインピーダンス整合に影響を与える影響は少ない。
しかし、電力増幅器の歪補償回路152に与える影響に着目する必要がある。インピーダンス素子174は、そのインピーダンス値を変更する事によって、<結果の比較>で後述する様に、線型性が調整される。
トランジスタ172のベース端子に対し、インピーダンス回路174と並列にVBE依存型電圧源230が接続されている。そこで、VBE依存型電圧源230のインピーダンスが小さい場合、インピーダンス素子174のインピーダンスを大きくしてもトランジスタ172のベース端子から見たインピーダンスがVBE依存型電圧源230のインピーダンスより大きくならない。結果として、上記歪補償回路152の調整範囲を狭めてしまう。
しかし、本発明の構成では、抵抗112がVBE依存型電圧源230の出力端子側にある事でトランジスタ88のベース端子から見たVBE依存型電圧源230のインピーダンスが、大きく上記歪補償回路152の調整範囲を狭める事がないという利点を有している。
また、この事は、後述の第4の実施の形態で述べる構成において、インピーダンス素子174を可変インピーダンス回路とし、動作状態に応じて歪補償回路の調整を行なう場合、特に有効であり、調整範囲を広くできる利点を有する。
この様に、同じローパスフィルタでも、VBE依存型電圧源230の出力側に直列抵抗を有するローパスフィルタが本発明にもっとも有効な構成であると言える。
<動作>
本実施の形態に係る電力増幅器228の基本的な動作は第1の実施の形態に係る電力増幅器70及び第2の実施の形態に係る電力増幅器148と同様である。そこで、電力増幅器228の詳細な説明はここでは繰返さない。ただし、本実施の形態に係る電力増幅器228に含まれるVBE依存型電圧源230の動作は第1の実施の形態のものとも第2の実施の形態のものとも異なるので、この点について以下で説明する。
図12を参照して、入力端子80から入力された交流信号は、整合回路82及びトランジスタ172を経て、VBE依存型電圧源230の出力端子であるトランジスタ242のコレクタ端子に印加される。印加された交流信号がトランジスタ244のベース−エミッタ端子間に達する事で、入力信号レベルの増加とともにトランジスタ242のコレクタ電流も増加する。トランジスタ242のコレクタ電流が増加すると、抵抗102による電圧降下が増加し、トランジスタ242のコレクタ電圧が低下する。しかし、交流信号はローパスフィルタ108で減衰された後、トランジスタ244のベース端子に達するので、トランジスタ244のベース端子の信号レベルの変動は小さくなり、その結果、VBE依存型電圧源230の電圧出力の入力信号レベル依存性が小さくなる。
<結果の比較>
図13に、本実施の形態に係る電力増幅器228に含まれるトランジスタ242の出力電圧と入力信号電力との関係、及び図12のVBE依存型電圧源230をローパスフィルタ108のない電圧源回路(図17に示す。)によって置換えた際のトランジスタ242の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。
図17に、ローパスフィルタ108のない電圧源回路を示す。図17において、図12に示されたものと同一の要素には同一番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。従って、ここではそれらについての詳細な説明は繰返さない。図17に示す端子290は、第1の抵抗102と第2のトランジスタ244との間の接続ノードに接続され、図12に示した接続ノードに接続される。
図13に結果を示す回路シミュレーションを行なう際に使用した値は以下の通りである。抵抗102の抵抗値は2060Ωとし、抵抗106の抵抗値は155Ωとした。抵抗112の抵抗値は1000Ωとし、容量110の値は3pFとした。トランジスタとしては、ベースバラスト抵抗(16Ω相当)を内蔵したマルチユニットのSiGeバイポーラトランジスタを用いた。インピーダンス素子174の容量は0.1Fとした。バイアス端子100に2.9V、コレクタバイアス端子86、バイアス端子170、及びバイアス端子240にいずれも3.3Vの電圧を印加した。
図13を参照して、グラフ250は、本実施の形態に係る電力増幅器228に含まれたトランジスタ242のコレクタ電圧の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。グラフ252は、図17に示す回路におけるトランジスタ242のコレクタ電圧の出力電圧と入力信号電力との関係を示す。
図14に、本実施の形態に係る電力増幅器228に含まれるトランジスタ88のベース電圧と入力信号電力との関係をグラフ260で、図12のVBE依存型電圧源230を図17に示すローパスフィルタ108のない電圧源回路によって置換えた電力増幅器に含まれるトランジスタ88のベース電圧と入力信号電力との関係をグラフ262で、それぞれ示す。
図13を参照して、グラフ250では、グラフ252より高い入力信号レベルまで電圧源回路の出力電圧の変動が少なかった。その結果、図14に示される様に、グラフ260では、グラフ262より高い入力信号レベルまで、トランジスタ88のベース電圧の低下を抑制したという事がわかる。
図15に、第3の実施の形態に係る電力増幅器228に含まれるインピーダンス素子174の容量を0.1Fとしたときの利得と入力信号レベルとの関係をグラフ270で、0.01pFとしたときの利得と入力信号レベルとの関係をグラフ272で、それぞれ示す。
図16に、図17の電圧源回路を使用した電力増幅器に含まれるインピーダンス素子174の容量を0.1Fとしたときの利得と入力信号電力との関係をグラフ280で、0.01pFとしたときの利得と入力信号電力との関係をグラフ282で、それぞれ示す。
図15及び図16を参照して、例えば、図14でベース電圧に大きく差が見られる20dBm入力に着目すると、グラフ270では、利得が9.2dB程度であるのに対して、グラフ280では8.4dB程度に利得が低下した。グラフ272では利得が9.0dBm程度であるのに対し、グラフ282では8dBmより下まで利得が低下した。これらの結果より、本実施の形態に係る電力増幅器228では利得の低下が少なく線型性が優れている事がわかる。
この調整では、利得の一時的な増加を抑制する副作用として、高い入力レベルでの利得の減少がわずかに早まる。しかし、図17の電圧源回路で置換えた構成(グラフ280)では、容量を小さくした場合、グラフ282の様に、高い入力レベルでの利得の減少が急激に早まってしまう。その結果、かえって線型性を低下させる事になってしまう。つまり、歪補償回路と温度補償用の電圧源回路を組合せただけの従来の構成では、グラフ282の様に高い入力信号レベルにおいて、想定する歪補償効果が得られない場合がある。
本発明者らは、本発明の構成のベース−エミッタ間電圧型の電圧源回路を用いる事で上記課題を解決でき、より線型性に優れた増幅器を提供できた。また、本発明の構成のベース−エミッタ間電圧型の電圧源回路を用いた線型性の高い電力増幅回路を構成できる事を見出した。
検討の結果、グラフ282での高い入力レベルでの利得の急激な低下も、電圧源回路の入力信号レベル依存性によって引起こされている事がわかった。つまり、上記インピーダンス素子174のインピーダンスが小さくなるとVBE依存型電圧源230の出力端子に大きな交流信号電圧が印加される事になり、出力電圧の低下を引起す。その結果、トランジスタ88のベース電圧が低下し、利得が低下する。
また、ローパスフィルタをトランジスタ242のベース端子に接続した電圧源回路では、図12のVBE依存型電圧源230のベース−エミッタ間電圧を規定するトランジスタ244のベース端子及びコレクタ端子の間のローパスフィルタを省略し、トランジスタ242のコレクタとトランジスタ244のベース端子間を短絡させ、代わりに、トランジスタ244のエミッタ端子とトランジスタ242のベース端子間にローパスフィルタ108を接続した構成とする。
図12のVBE依存型電圧源230の代わりに上記した回路の端子を接続した回路の場合、電圧源回路としての入力信号レベル依存性があまり小さくないため、電力増幅器のバイアス回路に用いた場合に線型性を向上させる効果がほとんどない。この回路では、ローパスフィルタ108で信号が減衰する前にトランジスタ244のベース端子に交流信号が印加されてしまうため、効果が少ないと考えられる。
すなわち、電圧源回路を構成するトランジスタが複数あった場合、図12の様に、電圧源回路の出力端子に接続されるベース端子にローパスフィルタ108が接続される事が必要であると考えられる。
以上の様に、本実施の形態の構成により、線型性の高い電力増幅器を提供する事ができる。
本実施の形態によると、第1の実施の形態と同様、大きな面積を占有する素子を使用する必要がない事から、安価かつ容易に集積回路化できる。
[第4の実施の形態]
<構成>
図18に、本発明の第4の実施の形態に係る電力増幅器314を用いた無線通信装置300の例を示す。図18を参照して、無線通信装置300は、ベースバンド信号を発生させるためのベースバンドエンコード部310と、高周波信号を発信するための局部発信機318と、ベースバンドエンコード部310によって発生されたベースバンド信号によって局部発信機318から発生された高周波信号を変調するための変調部312とを含む。
無線通信装置300はさらに、変調部312で変調された変調波を増幅するための電力増幅器314と、電力増幅器314のコントロール端子に加える電圧をコントロールするためのコントロール部316と、電力増幅器314の出力に接続された第1の端子、第2の端子、並びに第3の端子を有し、第1及び第2の端子を選択的に第3の端子に接続する事により、回路の切替を行なうためのスイッチ326と、スイッチ326の第3の端子に接続され、電力増幅器314により増幅された変調波を電波として送信したり、電波を受信したりするためのアンテナ328とを含む。
無線通信装置300はさらに、スイッチ326の第2の端子に接続された入力を有し、アンテナ328で受信した信号を増幅するための低ノイズ増幅器324と、低ノイズ増幅器324の出力と局部発信機318からの高周波信号とを混合する事により、低ノイズ増幅器324の出力をベースバンド信号に復調するための復調部322と、復調部322で復調されたベースバンド信号から必要なデータを取出すためのベースバンドデコード部320とを含む。
図19に、本実施の形態に係る電力増幅器314の内部構成を回路図で示す。なお、図19において、図2、図6、及び図12に示される要素と同一の要素については同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。従って、ここではそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図19を参照して、この第4の実施の形態に係る電力増幅器314が図12に示す電力増幅器228と異なるのは、図2の歪補償回路152に代えて、VBE依存型電圧源230、整合回路82とトランジスタ88との接続ノード、及びコントロール端子330に接続された歪補償回路334を含む点である。
歪補償回路334が図12に示す歪補償回路152と異なるのは、図12のインピーダンス素子174に代えて、トランジスタ172のベース端子と接地との間に接続され、コントロール端子330からのコントロール信号によりインピーダンス値が変化する可変インピーダンス回路340を含む事である。
可変インピーダンス回路340は、トランジスタ172のベース端子に接続された一端を有する容量350と、容量350の他端に接続されたソース端子、及び接地されたドレイン端子を有するMOSFET352と、MOSFET352とコントロール端子330との間に接続された抵抗332とを含む。
<動作>
図18及び図19を参照して、本実施の形態に係る電力増幅器314を採用した無線通信装置300は以下の様に動作する。図18を参照して、ベースバンドエンコード部310がベースバンド信号を発生する。発生したベースバンド信号によって、局部発信機318から発生した高周波信号を変調部312が変調する。コントロール部316が電力増幅器314のコントロール端子330(図19参照)にコントロール電圧を印加する。
コントロール端子330から抵抗332を通してMOSFET352のゲート端子にコントロール電圧が印加される。この印加により、MOSFET352のソース−ドレイン間の抵抗が変化する。その結果、可変インピーダンス回路340全体のインピーダンス値が変化する。電力増幅器314のその他の動作については、第3の実施の形態に記載されたものと同様であるので、ここではそれらについての詳細な説明については説明を繰返さない。
上記した様に、電力増幅器314が変調部312によって変調された変調波を増幅する。増幅された変調波を、アンテナ328がスイッチ326を介して電波として出力する。
アンテナ328が電波を受信すると、低ノイズ増幅器324はアンテナ328によって受信された電波を増幅する。復調部322は低ノイズ増幅器324によって増幅された電波をベースバンドに復調する。ベースバンドデコード部320は、電波から復調されたベースバンドから必要なデータを取出す。
<結果の比較>
図20に、歪補償回路の効果を微調整するためにコントロール電圧を変化させたときの図19に示す電力増幅器314の利得と入力信号電力との関係を示す。
図20を参照して、図19の回路での特性を実線のグラフ360、364、及び368で、それぞれ示す。図19の回路の電圧源回路の代わりに図17に示すローパスフィルタ108のない回路を接続した構成の特性を破線のグラフ362、366、及び370で、それぞれ示す。
グラフ360及び362はコントロール電圧が2Vのときの利得と入力信号との関係を表す。グラフ364及び366はコントロール電圧が1Vのときの利得と入力信号との関係を表す。グラフ368及び370はコントロール電圧が0Vのときの利得と入力信号と
の関係を表す。
ローパスフィルタのない構成によって得られた結果を表す破線のグラフ362、366、及び370であっても、コントロール電圧の変化で、例えば、入力電力が−5dBmから10dBmの範囲では利得の線型性が調整できる。しかし、10dBm以上の高い入力電力では、特にコントロール電圧が0Vのときには、グラフ370の破線で囲った部分372で示す様に利得が大幅に低下し、利得の線型性が損なわれる事がわかる。
これに対し、図19の回路によって得られた結果を表す実線のグラフ360、364、及び368では、コントロール電圧の変化によって、−5dBmから15dBmの範囲の入力信号における利得の入力電力依存性が調整できる。また、15dBm以上の高出力領域でも利得が大きく低下する事はなく、歪補償回路334の調整機構が正常に作用する事がわかる。
本実施の形態に係る無線通信装置300によると、例えば、電源電圧の変動を相殺するための電源電圧に対するコントロール電圧の設定値をコントロール部316で記憶しておく事ができる。ゆえに、動作時の電源電圧が変動した場合に、電源電圧に応じて電力増幅器314のコントロール端子330の電圧を制御する事ができる。その結果、電力増幅器314の線型性を最適な状態に維持する事ができる無線装置を提供する事ができる。
同様に、出力電力や、周波数、あるいは、周囲温度など、動作状態に応じてコントロール端子330の電圧を設定する様にコントロール部316を構成する事で電力増幅器の歪が最小に設定できる。従って、通信エラーの少ない無線通信装置を提供する事が可能となる。
本実施の形態に係る無線通信装置300は、入力レベルの変更及び電源電圧の変更に応じて、コントロール部316によってMOSFET352のゲート電圧を変化させている。この変化によって可変インピーダンス回路340のインピーダンスを変更し、電力増幅器314の状態に応じて歪補償回路の効果を微調整する。しかし、無線通信装置はこの例には限られない。
本実施の形態に係る無線通信装置300に用いた図19の電力増幅器314は、第3の実施の形態に係る電力増幅器228のインピーダンス素子174を可変インピーダンス回路340に置換えた構成を有する。同様に第2の実施の形態に係る電力増幅器148において、インピーダンス素子174を可変インピーダンス回路340に置換えてもよい。
また、本実施の形態に係る無線通信装置300では、コントロール電圧によって歪補償回路の調整を行なっている。しかし本発明はその構成に限定されるものではない。
また、本実施の形態に係る電力増幅器314は、増幅素子が1段の電力増幅器として用いられている。しかし、本発明は、増幅素子を多段化した多段増幅回路及び差動入力を増幅する差動増幅回路に用いる事もできる。
また、上記実施の形態では、トランジスタとしてSiGeバイポーラトランジスタを用いている。しかしトランジスタは、SiGeバイポーラトランジスタに限定されない。Si及びGaAs等の全てのバイポーラトランジスタに本発明を適用する事が可能である。
また、図19で示した可変インピーダンス回路340は、インピーダンスを変化させられる素子としてMOSFETを用いている。しかし、一般的な電界効果トランジスタを用いる事もできる。その他に、バラクタダイオード等の可変容量素子を用いる事もできるし、トランジスタの寄生容量の電圧変化を用いる事もできる。
上記実施の形態では、ローパスフィルタとして、抵抗と容量とを含み、インダクタンスを含まないものを用いている。しかし本発明はその様な実施の形態には限定されず、インダクタンス素子を含むローパスフィルタを用いてもよい。ただし、インダクタンス素子は、半導体集積回路上に形成する場合、占有面積が大きく集積回路全体のコストの増加につながるので好ましくない。一方、上記実施の形態のローパスフィルタ108に用いた直列抵抗は、電圧降下を生じる欠点がある。しかし、コレクタ電流に対して、はるかに小さなベース電流に対して生じる電圧降下のため、電圧降下の値が小さく、影響は少ない。
また、上記ローパスフィルタ108による電圧降下分は、抵抗102及び106の値を少し変える事で補正する事もでき、実質的な欠点とはならない。これは、抵抗102及び106には、それぞれコレクタ電流及びエミッタ電流が流れており、抵抗106のわずかな変化で、ローパスフィルタ108の直列抵抗による電圧降下を相殺する事ができるからである。
つまり、低コストの集積回路を構成するためには、ローパスフィルタ108に少なくとも一つ以上の直列抵抗を含む構成を用いて、本発明の電圧源回路を構成とする事が好ましい。
また、本実施の形態において、ローパスフィルタ108は、抵抗112と容量110とによる1段構成となっている。しかし、複数の抵抗及び容量による多段構成のローパスフィルタを用いる事も可能である。また、ローパスフィルタとして、インダクタンスを用いるものでもよい。
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含む。
70、148、228、及び314 電力増幅器、80 信号入力端子、82及び90 整合回路、84、150、及び230 VBE依存型電圧源、86 コレクタバイアス端子、88、104、160、162、172、242、及び244 トランジスタ、92 信号出力端子、100及び240 バイアス端子、102、106、112、及び332 抵抗、108 ローパスフィルタ、110及び350 容量、174 インピーダンス素子、152及び334 歪補償回路、330 コントロール端子、340 可変インピーダンス回路、352 MOSFET