以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1及び図2は本発明の一実施形態にかかる内燃機関と、その制御装置の構成を示す図である。以下両図を合わせて参照して説明する。内燃機関(以下「エンジン」という)1は、シリンダ内に燃料を直接噴射するディーゼルエンジンであり、各気筒に燃料噴射弁6が設けられている。燃料噴射弁6は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)4に電気的に接続されており、燃料噴射弁6の開弁時期及び開弁時間は、ECU4により制御される。
エンジン1は、吸気管7,排気管8、及びターボチャージャ9を備えている。ターボチャージャ9は、排気の運動エネルギにより回転駆動されるタービンと、タービンとシャフトを介して連結されたコンプレッサとを備えている。ターボチャージャ9は、エンジン1に吸入される空気の加圧(圧縮)を行う。
吸気管7のコンプレッサ下流側にはインタークーラ21が設けられ、さらにインタークーラ21の下流側には、スロットル弁22が設けられている。スロットル弁22は、アクチュエータ23により開閉駆動可能に構成されており、アクチュエータ23はECU4に接続されている。ECU4は、アクチュエータ23を介して、スロットル弁22の開度制御を行う。
吸気管7は、スロットル弁22の下流側において吸気管7A,7Bに分岐し、さらに各気筒に対応して分岐する。なお、図1には1つの気筒に対応する構成のみが示されている。エンジン1の各気筒には、2つの吸気弁(図示せず)及び2つの排気弁(図示せず)が設けられている。2つの吸気弁により開閉される吸気口(図示せず)はそれぞれ吸気管7A,7Bに接続されている。
また、吸気管7B内には、当該吸気管7Bを介して吸入される空気量を制限してエンジン1の燃焼室にスワールを発生させるスワール制御弁(以下「SCV」という)19が設けられている。SCV19は、アクチュエータ(図示せず)によって駆動されるバタフライ弁であり、その弁開度はECU4により制御される。
排気管8と吸気管7との間には、排気を吸気管7に還流する排気還流通路25が設けられている。排気還流通路25には、還流させる排気を冷却する還流排気クーラ30と、還流排気クーラ30をバイパスするバイパス通路29と、還流排気クーラ30側とバイパス通路29側との切り換えを行う切換弁28と、排気還流量を制御するための排気還流制御弁(以下「EGR弁」という)26とが設けられている。EGR弁26は、ソレノイドを有する電磁弁であり、その弁開度はECU4により制御される。排気還流通路25、還流排気クーラ30、バイパス通路29、切換弁28、及びEGR弁26より、排気還流機構が構成される。EGR弁26には、その弁開度(弁リフト量)LACTを検出するリフトセンサ27が設けられており、その検出信号はECU4に供給される。
吸気管7には、吸入空気量GAを検出する吸入空気量センサ33、吸気温TAを検出する吸気温センサ34、及び吸気圧PIを検出する吸気圧センサ35が設けられ、排気還流通路25には還流排気温度TEGRを検出する還流排気温度センサ36が設けられている。これらのセンサ33〜36は、ECU4と接続されており、センサ33〜36の検出信号は、ECU4に供給される。
排気管8の、タービンの下流側には、排気ガス中に含まれる炭化水素などの酸化を促進する触媒コンバータ31と、粒子状物質(主としてすすからなる)を捕集する粒子状物質フィルタ32とが設けられている。
エンジン1の各気筒には、筒内圧(燃焼圧力)を検出する筒内圧センサ2が設けられている。本実施形態では、筒内圧センサ2は、各気筒に設けられるグロープラグと一体に構成されている。筒内圧センサ2の検出信号は、ECU4に供給される。なお、筒内圧センサ2の検出信号は、実際には、筒内圧PCYLのクランク角度(時間)に対する微分信号(圧力変動)に相当するものであり、筒内圧PCYLは、筒内圧センサ出力を積分することにより得られる。
またエンジン1には、クランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ3が設けられている。クランク角度位置センサ3は、クランク角1度毎にパルスを発生し、そのパルス信号はECU4に供給される。クランク角度位置センサ3は、さらに特定気筒の所定クランク角度位置で気筒識別パルスを生成して、ECU4に供給する。
ECU4には、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの操作量APを検出するアクセルセンサ37、エンジン1の冷却水温TWを検出する冷却水温センサ38、エンジン1の潤滑油の温度TOILを検出する油温センサ39、及び排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ(図示せず)などが接続されており、これらのセンサの検出信号がECU4に供給される。
ECU4は、エンジン1の各気筒の燃焼室に設けられた燃料噴射弁6の制御信号を駆動回路5に供給する。駆動回路5は、燃料噴射弁6に接続されており、ECU4から供給される制御信号に応じた駆動信号を、燃料噴射弁6に供給する。これにより、ECU4から出力される制御信号に応じた燃料噴射時期において、前記制御信号に応じた燃料噴射量だけ燃料が、各気筒の燃焼室内に噴射される。ECU4は、通常は1つの気筒についてパイロット噴射及び主噴射を実行する。
ECU4は、増幅器10と、A/D変換部11と、パルス生成部13と、CPU(Central Processing Unit)14と、CPU14で実行されるプログラムを格納するROM(Read Only Memory)15と、CPU14が演算結果などを格納するRAM(Random Access Memory)16と、入力回路17と、出力回路18とを備えている。筒内圧センサ2の検出信号は、増幅器10に入力される。増幅器10は、入力される信号を増幅する。増幅器10により増幅された信号は、A/D変換部11に入力される。また、クランク角度位置センサ3から出力されるパルス信号は、パルス生成部13に入力される。
A/D変換部11は、バッファ12を備えており、増幅器10から入力される筒内圧センサ出力をディジタル値(以下「圧力変化率」という)dp/dθに変換し、バッファ12に格納する。より具体的には、A/D変換部11には、パルス生成部13から、クランク角1度周期のパルス信号(以下「1度パルス」という)PLS1が供給されており、この1度パルスPLS1の周期で筒内圧センサ出力をサンプリングし、ディジタル値に変換してバッファ12に格納する。筒内圧PCYLは、圧力変化率dp/dθを積算することにより算出される。
一方、CPU14には、パルス生成部13から、クランク角6度周期のパルス信号PLS6が供給されており、CPU14はこの6度パルスPLS6の周期でバッファ12に格納されたディジタル値を読み出す処理を行う。すなわち、本実施形態では、A/D変換部11からCPU14に対して割り込み要求を行うのではなく、CPU14が6度パルスPLS6の周期で読出処理を行う。
入力回路17は、各種センサの検出信号をディジタル値に変換し、CPU14に供給する。なお、エンジン回転数NEは、6度パルスPLSの周期から算出される。またエンジン1の要求トルクTRQは、アクセルペダル操作量APに応じて算出される。
CPU14は、エンジン運転状態に応じて目標排気還流量GEGRを算出し、目標排気還流量GEGRに応じてEGR弁26の開度を制御するデューティ制御信号を、出力回路18を介してEGR弁26に供給する。さらにCPU14は、以下に説明するように使用中の燃料のセタン価を推定する処理を実行し、推定したセタン価に応じた燃料噴射制御を行う。
図3は、燃料噴射弁6による主噴射時期CAIM及び目標排気還流量GEGRを算出するモジュールの構成を示すブロック図である。このモジュールの機能は、CPU14で実行される処理により実現される。
図3に示すモジュールは、主噴射時期CAIMを算出する主噴射時期算出部40と、目標排気還流量GEGRを算出する目標排気還流量算出部50と、使用中の燃料のセタン価CETを推定し、推定したセタン価に応じた判定セタン価パラメータCETDを出力する判定セタン価パラメータ生成部60とからなる。本実施形態では、市場で流通している燃料のセタン価を考慮して、使用中の燃料のセタン価を、第1セタン価CET1(例えば41)、第2セタン価CET2(例えば47)、または第3セタン価CET3(例えば57)のいずれかであると判定し、判定したセタン価に応じた燃料噴射時期制御及び排気還流制御が行われる。判定セタン価パラメータCETDは、第1〜第3セタン価CET1〜CET3に対応して、「1」〜「3」の値をとる。第2セタン価CET2は、市場で流通している(使用可能な)燃料の平均的なセタン価である。
主噴射時期算出部40は、第1主噴射時期マップ値算出部41と、第2主噴射時期マップ値算出部42と、第3主噴射時期マップ値算出部43と、スイッチ部44とからなる。
第1主噴射時期マップ値算出部41は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたCAIMM1マップを検索して、第1主噴射時期マップ値CAIMM1を算出する。CAIMM1マップは、上述した第1セタン価CET1の燃料を基準として設定されている。第2主噴射時期マップ値算出部42は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたCAIMM2マップを検索して、第2主噴射時期マップ値CAIMM2を算出する。CAIMM2マップは、上述した第2セタン価CET2の燃料を基準として設定されている。第3主噴射時期マップ値算出部43は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたCAIMM3マップを検索して、第3主噴射時期マップ値CAIMM3を算出する。CAIMM3マップは、上述した第3セタン価CET3の燃料を基準として設定されている。
スイッチ部44は、判定セタン価パラメータCETDに応じて、第1〜第3主噴射時期マップ値CAIMM1〜CAIMM3の何れかを選択する。すなわち、CETD=1であるときは、第1主噴射時期マップ値CAIMM1が選択され、CETD=2であるときは、第2主噴射時期マップ値CAIMM2が選択され、CETD=3であるときは、第3主噴射時期マップ値CAIMM3が選択される。燃料のセタン価が低下するほど、燃料噴射時期は進角されるので、運転状態が同一であるときは、CAIMM1>CAIMM2>CAIMM3という関係が成立する。
目標排気還流量算出部50は、第1目標EGR量マップ値算出部51と、第2目標EGR量マップ値算出部52と、第3目標EGR量マップ値算出部53と、スイッチ部54とからなる。
第1目標EGR量マップ値算出部51は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたGEGRM1マップを検索して、第1目標EGR量GEGRM1を算出する。GEGRM1マップは、第1セタン価CET1の燃料を基準として設定されている。第2目標EGR量マップ値算出部52は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたGEGRM2マップを検索して、第2目標EGR量GEGRM2を算出する。GEGRM2マップは、第2セタン価CET2の燃料を基準として設定されている。第3目標EGR量マップ値算出部53は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたGEGRM3マップを検索して、第3目標EGR量GEGRM3を算出する。GEGRM3マップは、第3セタン価CET3の燃料を基準として設定されている。
スイッチ部54は、判定セタン価パラメータCETDに応じて、第1〜第3目標EGR量マップ値GEGRM1〜GEGRM3の何れかを選択する。すなわち、CETD=1であるときは、第1目標EGR量マップ値GEGRM1が選択され、CETD=2であるときは、第2目標EGR量マップ値GEGRM2が選択され、CETD=3であるときは、第3目標EGR量マップ値GEGRM3が選択される。燃料のセタン価が低下するほど、目標EGR量は減少するので、運転状態が同一であるときは、GEGRM1<GEGRM2<GEGRM3という関係が成立する。
判定セタン価パラメータ生成部60は、目標主噴射着火時期算出部61と、着火時期検出部62と、減算部63と、補正量算出部64と、加算部67と、スイッチ部68と、セタン価推定部69と、判定パラメータ設定部70とからなる。
目標主噴射着火時期算出部61は、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて予め設定されたCAFMMマップを検索して、目標主噴射着火時期CAFMMを算出する。CAFMMマップは、第2セタン価CET2(例えば47)の燃料を基準として設定されている。
着火時期検出部62は、筒内圧センサ2の出力信号をディジタル値に変換した圧力変化率dp/dθに応じて主噴射着火時期CAFMを検出する。具体的には、下記式(1)により熱発生率HRR[J/deg]を算出し、燃料噴射時期CAIMから、熱発生率HRRの積算値IHRRを算出する。そして、積算値IHRRが着火判定閾値IHRRTHに達した時期を、主噴射着火時期CAFMと判定する。
HRR=κ/(κ−1)×PCYL×dV/dθ
+1/(κ−1)×VCYL×dp/dθ (3)
ここで、κは混合気の比熱比、PCYLは検出筒内圧、dV/dθは筒内容積増加率[m3/deg]、VCYLは気筒容積、dp/dθは圧力変化率[kPa/deg]である。
図7は、熱発生率HRRの推移を示すタイムチャートである。この図において、実線は後述する追加燃料噴射を実行した例に対応し、破線は追加燃料噴射を実行しない例に対応する。図7のA部が、セタン価推定のために噴射された燃料(パイロット噴射は実行されず、主噴射のみ実行される)の着火による熱発生率HRRの増加を示している。したがって、着火判定閾値IHRRTHを適切に設定することにより、図7に示すように着火時期CAFMが判定される。
なお、図7のB部は、追加噴射された燃料の燃焼による熱発生率HRRの増加を示している。追加燃料噴射を実行することにより、セタン価推定に適用される着火時期CAFMを変化させることなく、該当気筒の発生トルクを増加させることができる。これにより、セタン価推定を行う気筒の発生トルクと、他の気筒の発生トルクのトルク差を低減し、不快なエンジン振動の発生を防止することができる。
本実施形態では、セタン価推定を給油後速やかに行うため、エンジン1のアイドル状態においてセタン価推定処理が実行される。その場合、アイドル状態に移行する直前のエンジン運転状態に依存して、着火時期CAFMが変化する。そこで、本実施形態では、セタン価推定処理を開始する直前の還流排気温度TEGR、推定排気温度TEX、冷却水温TW、吸気温TA、及びエンジン回転数NEに応じて、着火遅れ角DCAMを補正することにより、アイドル状態へ移行する直前のエンジン運転状態に拘わらず正確なセタン価推定を行うようにしている。本実施形態では、セタン価推定処理を実行するときは、排気還流を停止するが、直前のエンジン運転状態(車両走行状態)に依存して、吸気管や吸気弁の温度が高くなっていることがある。そのような場合における推定セタン価の精度を高めるため、還流排気温度TEGRに応じた補正が行われる。さらにセタン価推定処理を開始した時点からの経過時間TMが長くなるほど、セタン価推定処理開始直前の還流排気温度TEGRの影響度合が低下する点を考慮した補正が行われる。
図3に戻り、補正量算出部64は、冷却水温TW、吸気温TA、還流排気温度TEGR、1噴射当たりの燃料噴射量QINJ、エンジン回転数NE、並びに後述するセタン価学習値CETLRN及び切換制御信号SCTLに応じて補正量DCを算出する。加算部67は、着火遅れ角DCAMに補正量DCを加算し、補正着火遅れ角DCAMCを算出する。
スイッチ部68は、後述する図13の処理で設定される切換制御信号SCTLにより切換制御され、切換制御信号SCTLが「0」のときオフ状態であり、「1」のときオン状態となる。切換制御信号SCTLは、セタン価推定の実行条件が成立したとき、「1」に設定される。
セタン価推定部69は、補正着火遅れ角DCAMCをエンジン回転数NEを用いて、着火遅れ時間TDFMに変換し、着火遅れ時間TDFMに応じて図8に示すCETテーブルを検索し、セタン価CETを算出する。セタン価推定部69は、さらにセタン価CETを下記式(2)に適用し、セタン価学習値CETLRNを算出する。
CETLRN=α×CET+(1−α)×CETLRN (2)
ここで、αは0から1の間の値に設定されるなまし係数、右辺のCETLRNは、前回算出値である。
なお、セタン価推定処理が実行されないときは、記憶されている最新のセタン価学習値CETLRNが、セタン価推定部69から出力される。
判定パラメータ設定部70は、セタン価学習値CETLRNに応じて、判定セタン価パラメータCETDの設定を行う。具体的には、図9に示すように、ヒステリシス特性を付加して、第1閾値CETH1及び第2閾値CETH2と、セタン価学習値CETLRNの比較を行う。すなわち、ヒステリシス特性を付加するためのパラメータ(以下「ヒステリシスパラメータ」という)をΔhとすると、判定セタン価パラメータCETDが「2」であるときは、セタン価学習値CETLRNが第2閾値CETH2にヒステリシスパラメータΔhを加算した値を越えると、判定セタン価パラメータCETDが「3」に変更される。逆に判定セタン価パラメータCETDが「3」であるときは、セタン価学習値CETLRNが第2閾値CETH2からヒステリシスパラメータΔhを減算した値を下回ると、判定セタン価パラメータCETDが「2」に変更される。第1閾値CETH1についても同様の判定により、判定セタン価パラメータCETDが設定される。
補正量算出部64は、図4に示すように、経過時間補正量算出部80と、冷却水温補正量算出部81、吸気温補正量算出部82、移動平均算出部83、還流排気温補正量算出部84、修正係数算出部85、移動平均算出部87、排気温推定部88、排気温補正量算出部89、加算部90,91,92、及び乗算部93を備えている。
経過時間補正量算出部80は、セタン価推定処理開始時点からの経過時間TMを下記式(3)に適用し、経過時間補正量DTMを算出する。
DTM=A×(B-TM−1) (3)
ここで、Aは、還流排気温度TEGRに応じて図5(a)に示すAテーブルを検索することにより算出される係数である。Aテーブルは、還流排気温度TEGRが高くなるほど、係数Aが増加するように設定されている。Bは、経過時間TMに応じて経過時間補正量DTMが減少する速度を決定する速度パラメータであり、エンジン回転数NEに応じて図5(b)に示すBテーブルを検索することにより算出される。Bテーブルは、エンジン回転数NEが高くなるほど速度パラメータBが増加するように設定されている。速度パラメータBは、最小値が例えば1.005程度に設定されるため、経過時間補正量DTMは常に負の値をとる。
冷却水温補正量算出部81は、冷却水温TWに応じて図5(c)に示すDTWテーブルを検索し、冷却水温補正量DTWを算出する。DTWテーブルは、冷却水温TWが高くなるほど、補正量DTWが増加するように設定されている。吸気温補正量算出部82は、図5(d)に示すDTAテーブルを検索し、吸気温補正量DTAを算出する。DTAテーブルは、吸気温TAが高くなるほど、補正量DTAが増加するように設定されている。
移動平均算出部83は、検出還流排気温度TEGRの移動平均値TEGRAを算出して出力する。移動平均値TEGRAは、例えばセタン価推定処理開始直前の100燃焼サイクル(200回転)の期間中に検出された還流排気温度TEGRの値(最新の値及び直前の99燃焼サイクル分のデータ)を平均化することにより算出される。
還流排気温補正量算出部84は、還流排気温度の移動平均値TEGRAに応じて図5(e)に示すDTEGRテーブルを検索し、還流排気温補正量DTEGRを算出する。DTEGRテーブルは、移動平均値TEGRAが高くなるほど、補正量DTEGRが増加するように設定されている。修正係数算出部85は、セタン価学習値CETLRNに応じて、図6(a)に示すKCETテーブルを検索し、修正係数KCETを算出する。KCETテーブルは、セタン価学習値CETLRNが増加するほど、修正係数KCETが減少するように設定されている(例えばセタン価学習値CETLRNが「55」のときは、「46」のときより、補正量DCが約50%程度減少するように設定される)。燃料のセタン価が高いほど、還流排気温度TEGR、冷却水温TW、吸気温TAなどの影響による着火時期の変化が小さいからである。
移動平均算出部87は、燃料噴射量QINJの移動平均値QINJAを算出して出力する。移動平均値QINJAは、例えば直近の100燃焼サイクル(200回転)の期間中における燃料噴射量QINJの値(最新の値及び直前の99燃焼サイクル分のデータ)を平均化することにより算出される。排気温推定部88は、燃料噴射量の移動平均値QINJAに応じて図6(b)に示すTEXテーブルを検索し、推定排気温度TEXを算出する。排気温補正量算出部89は、推定排気温度TEXに応じて図6(c)に示すDTEXテーブルを検索し、排気温補正量DTEXを算出する。DTEXテーブルは、推定排気温TEXが高くなるほど、排気温補正量DTEXが増加するように設定されている。
TEXテーブルは、予め実験的に求められたものである。排気温度は、実際には燃料噴射量及びエンジン回転数NEに依存して変化するが、本実施形態ではアイドル状態においてセタン価推定が実行され、エンジン回転数NEは例えば1000rpm程度に保持されるので、図6(b)に示すTEXテーブルを適用することができる。
加算部90〜92により、下記式(4)の演算が行われる。すなわち、経過時間補正量DTM、冷却水温補正量DTW、吸気温補正量DTA、還流排気温補正量DTEGR、及び排気温補正量DTEXが加算され、基本補正量DCBが算出される。
DCB=DTM+DTW+DTA+DTEGRC+DTEX (4)
乗算部93は、基本補正量DCBに修正係数KCETを乗算することにより、補正量DCを算出する。
補正量DCを着火遅れ角DCAMに加算することにより、アイドル状態に移行する直前の運転状態に拘わらず、正確なセタン価の推定を行うことができる。
図10(a)は、セタン価推定処理の開始する時刻t0の前後の着火時期CAFM及びエンジン回転数NEの推移を示す図である。時刻t0以前はアイドル運転でない通常運転が行われ、排気還流が実行されるが、時刻t0以後は排気還流は停止され、実際にはアイドル運転状態に移行して運転状態が安定するまでの数秒間の待機した後に、セタン価推定処理が開始される。本実施形態では、特定の1気筒の燃料噴射態様が、主噴射のみに変更されるとともに、主噴射時期CAIMを進角させて、着火時期CAFMが検出される。ただし、着火時期検出処理を実行する気筒の発生トルクの低下を防止するため、後述するように追加噴射が必要に応じて実行される。
図10(b)は、時刻t0の前後における還流排気温度TEGRの推移(L12)、及び時刻t0以後に検出された着火時期CAFMの推移(L11)を示す。この図の時刻t1は、時刻t0から7秒程度経過した時刻であり、時刻t2は時刻t0から60秒経過した時刻である。
図11(a)及び(b)は、検出した着火時期CAFMと還流排気温度TEGRとの相関関係を示す図であり、同図(a)は図10(b)の時刻t1における検出データに対応し、同図(b)は時刻t2における検出データに対応する。図11(a)のデータから得られる相関係数は0.942であるのに対し、図11(b)のデータから得られる相関係数は0.726となり、排気還流を停止した時刻t0から時間が経過するほど、還流排気温度TEGRと、着火時期CAFMとの相関性が低下することが判る。したがって、排気還流を停止し、セタン価推定処理を開始した時点からの経過時間TMに応じた経過時間補正量DTMを用いることにより、着火時期CAFMの検出タイミングに拘わらず、正確なセタン価の推定を行うことができる。
図12は、時刻t0からの経過時間TMと、着火時期CAFMとの関係を示す図であり、細い破線L1は、アイドル状態へ移行する直前の車速(以下「直前車速」という)VPBが40km/hである例に対応し、太い破線L2は、直前車速VPBが60km/hである例に対応し、細い実線L3は、直前車速VPBが80km/hである例に対応し、太い実線L4は、直前車速VPBが100km/hである例に対応する。直前車速VPBの影響は、時刻t0の直前の還流排気温度TEGRに反映されるので、還流排気温度TEGRに応じて式(3)の係数Aを算出することにより、セタン価推定を開始する直前の運転状態の影響を排除して正確な補正を行うことができる。
図13は、セタン価推定処理の実行条件の判定及び切換制御信号SCTLの設定を行う処理の手順を示すフローチャートである。図13に示す処理は、CPU14において所定時間毎に実行される。
ステップS11では、エンジン1がアイドル状態にあるか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、セタン価推定を安定して実行するための所定実行条件が成立するか否かを判別する。この所定実行条件は、例えば還流排気温度TEGRが所定温度TE0(例えば約90℃)以上であり、かつエンジン1の暖機状態を示す冷却水温TWまたは油温TOILが所定温度TWUP(例えば80℃)以上であるとき成立する。所定実行条件が成立した時点が、「所定運転状態に移行した時点」に相当する。
ステップS11またはS12の答が否定(NO)であるときは、切換制御信号SCTLを「0」に設定する(ステップS15)。
ステップS12で所定実行条件が成立するときは、EGR弁26を閉弁し、排気還流を停止する(ステップS13)。これにより、還流される排気の影響で着火時期が変化することが防止され、セタン価の推定精度を高めることができる。ステップS14では、切換制御信号SCTLを「1」に設定し、本処理を終了する。
図14は、燃料噴射制御処理の手順を示すフローチャートである。この処理は、CPU14で、各気筒の燃料噴射に対応してクランク角180度毎に実行される。なお、本実施形態では4つの気筒#1〜#4のうち、気筒#1において検出される着火時期CAFMに基づいて、セタン価の推定が行われる。したがって、セタン価推定を行うときは、気筒#1の燃料噴射量が一定値に固定され、他の気筒#2〜#4の燃料噴射量が、エンジン回転数NEが目標回転数NEIDLに一致するように制御される。
ステップS21では、切換制御信号SCTLが「1」であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、通常制御を実行する(ステップS22)。すなわち、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、主噴射量、パイロット噴射量、主噴射時期、及びパイロット噴射時期を算出する。
ステップS21でSCTL=1であって、セタン価推定処理を実行するときは、今回の制御対象気筒が気筒#1であるか否かを判別する(ステップS23)。対象気筒が気筒#1でないときは、エンジン回転数NEが目標回転数NEIDLと一致するように主噴射量QINJM#n(n=2〜4)及びパイロット噴射量QINJP#n(n=2〜4)を算出する(ステップS24)。なお、アイドル状態においては、主噴射時期CAIM及びパイロット噴射時期CAIPは、それぞれ例えば上死点前約7度及び上死点前約3度に設定される。
ステップS25では、主噴射量QINJM#nとパイロット噴射量QINJP#nを加算して、燃料噴射量QINJを算出する。ステップS26では、燃料噴射量QINJが所定噴射量QINJTH(例えば10mg)以上であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、追加噴射フラグFADDを「0」に設定し(ステップS31)、本処理を終了する。QINJ≧QINJTHであって、気筒#nの燃料噴射量と気筒#1の燃料噴射量との差が大きいときは、追加噴射フラグFADDを「1」に設定する(ステップS27)。
ステップS23で対象気筒が気筒#1であるときは、ステップS28に進み、主噴射量QINJM#1を固定噴射量QFIX(例えば6mg)に設定するとともに、パイロット噴射量QINJP#1を「0」として、主噴射のみとする。さらに主噴射時期CAIMを所定角度DESTだけ進角させる(例えば上死点前20度とする)。このように主噴射のみ実行し、かつ主噴射時期を通常より進角させることにより、セタン価の違いによる着火時期の差を大きくし、着火時期に基づくセタン価推定の精度を向上させることができる。
ステップS29では、追加噴射フラグFADDが「1」であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、直ちに本処理を終了する。FADD=1であるときは、気筒#1の発生トルクと他の気筒の発生トルクの差が大きいので、追加の燃料噴射を、主噴射の後、例えば上死点後10度のタイミングで実行する(ステップS30)。このときの追加燃料噴射量QIADDは、例えば固定噴射量QFIXと、他の気筒の燃料噴射量QINJとの差分(QINJ−QFIX)に設定される。
追加燃料噴射を実行することにより、図7に実線で示すように熱発生率HRRが推移し、エンジン回転数NEの変動を抑制することができる。
なお、アイドル状態では通常、SCV19は全閉とされるが、追加燃料噴射を実行するときは、SCV19を開弁することが望ましい。その場合、追加燃料噴射量QIADDが増加するほど、SCV19の開度が大きくなるように制御する。
以上詳述したように、本実施形態では、エンジン1のアイドル状態において、噴射した燃料の着火遅れ角DCAMが算出され、着火遅れ角DCAMが、還流排気温度TEGR、エンジン回転数NE、及びセタン価推定処理の開始時点からの経過時間TMを式(3)に適用して、経過時間補正量DTMが算出される。そして、経過時間補正量DTMにより補正された着火遅れ角DCAMCに応じて燃料のセタン価が推定される。これにより、セタン価推定処理を開始した直後だけでなく、ある程度時間が経過した時点でも正確な推定を行うことができる。
本実施形態では、燃料噴射弁6が燃料噴射手段に相当し、排気還流通路25、EGR弁26、切換弁28、バイパス通路29、還流排気クーラ30が排気還流手段を構成し、還流排気温度センサ36、冷却水温センサ38、及びクランク角度位置センサ3が、それぞれ還流排気温度検出手段、冷却水温度検出手段、及び回転数検出手段に相当し、筒内圧センサ2及びクランク角度位置センサ3が着火時期検出手段の一部を構成し、ECU4が着火時期検出手段の一部、補正手段、及び燃料性状推定手段を構成する。具体的には、図3に示す着火時期検出部62が着火時期検出手段に相当し、目標主噴射着火時期算出部61、減算部63、補正量算出部64、及び加算部67が補正手段に相当し、セタン化推定部69が燃料性状推定手段に相当する。
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、補正量DCにより着火遅れ角DCAMを補正したが、検出着火時期CAFMを補正するようにしてもよい。その場合には、検出着火時期CAFMから補正量DCを減算することによって、補正を行う。
また上述した実施形態では、エンジン1のアイドル状態でセタン価推定処理を実行するようにしたが、図15に例示する予混合燃焼領域において行うようにしてもよい。その場合には、図14のステップS24では、エンジン回転数NE及び要求トルクTRQに応じて、主噴射量QINJM#n、パイロット噴射量QINJP#n、主噴射時期CAIM、及びパイロット噴射時期CAIPを算出する。なお、この場合には、要求トルクTRQが所定トルクTRQTH以上であるときに、気筒#1において追加燃料噴射を実行するようにしてもよい。
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。