JP4679011B2 - ポリカーボネート樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、難燃性及び流動性が良好で、成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマークおよび面衝撃性が改善された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ABS樹脂等のスチレン/アクリロニトリル系グラフト共重合体を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、広く市場で使用されている。こうした樹脂組成物であって、OA機器等の用途に使用できる難燃性の材料としては、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂との樹脂組成物に燐系難燃剤を配合した材料が、例えば、特開平2−115262号公報や特開平2−32154号公報等に開示されている。しかしながら、これら従来のABS樹脂を使用した難燃組成物は、コンパウンド条件あるいは成形条件によっては十分な耐衝撃性を付与することが困難であった。
ABS樹脂は、一般に、スチレンとアクリロニトリルの共重合体(SAN樹脂)と、高濃度のポリブタジエン等のゴムの存在下にスチレンとアクリロニトリルをグラフト共重合して得られるグラフト樹脂とのブレンド、ポリブタジエン等のゴムの存在下にスチレンとアクリロニトリルをグラフト共重合して得られるグラフト樹脂があり、現在は前者が主流となっている。また、グラフト樹脂も、乳化重合法でグラフト共重合した樹脂と、塊状重合法でグラフト共重合した樹脂があり、従来、主として乳化重合法によるABS樹脂が使用されていた。
【0003】
しかして近年、電子機器の発達が目覚しく、それらに使用されるハウジング等の成形品の薄肉化が要求されている。それらの用途に対して、従来の乳化重合法で製造されたABS樹脂あるいはさらにSAN樹脂を添加した組成物では、これらの要求の薄肉成形に対しては、十分に対応できなかった。一方、塊状重合法で製造されたABS樹脂を使用した組成物では、流動性の改良効果が大きく、これらの用途に対しては加工性の面で優れ、さらに、耐加水分解性においても効果が認められている。ところが、ラップトップパソコン等のハウジングの様に、薄肉成形品になった場合、界面法で得られるポリカーボネート樹脂と塊状重合法で製造されたABS樹脂のみを使用した組成物では、成形品での面衝撃性が十分とはいえず、さらに成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマークが目立つという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、難燃性及び流動性が良好で、成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマーク及び面衝撃性の改善されたポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意検討の結果、特定の溶融粘弾性を有するポリカーボネート樹脂と2種類のABS樹脂を使用することにより上記目的を達成し得ることを見出した。本発明の要旨は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に、(b)ゴムの存在下少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合してなるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体5〜40重量部、(c)燐系難燃剤1〜40重量部、および(d)ポリフルオロエチレン0.01〜5重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物において、前記(a)ポリカーボネート樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換して製造される芳香族ポリカーボネート樹脂であって、温度250℃、角速度ω=10rad/secで測定された損失角δ及び複素粘性率η*が下記関係式(I)を満たすものであり、
【0006】
【数2】
3000≦Tanδ/η*−0.87≦6000 (I)
【0007】
且つ、前記(b)成分が、(b−1)乳化重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体、および(b−2)塊状重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に存する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用される(a)ポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのエステル交換法により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂である。かかるポリカーボネート樹脂は分岐構造を有していても良い。
また、本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、温度250℃、角速度10rad/sの条件で測定した損失角δ及び複素粘性率η*(Pa・s)が、下記関係式(I)を満たすことが必要である。更に、該損失角δ及び複素粘性率η*は、好ましくは下記関係式(II)の範囲であり、さらに好ましくは下記関係式(III)の範囲であり、最も好ましくは下記関係式(IV)の範囲である。
【0009】
【数3】
3000≦Tanδ/η*−0.87≦6000 (I)
3000≦Tanδ/η*−0.87≦5500 (II)
3000≦Tanδ/η*−0.87≦5000 (III)
3800≦Tanδ/η*−0.87≦4800 (IV)
【0010】
本発明において、該Tanδ/η*-0.87の値は、ポリカーボネートの溶融粘弾性を示すパラメーターとして使用した。Tanδ/η*-0.87の値が2500より小さいと機械的強度が低下し、6000より大きいと成形品のゲ−ト近傍の層状剥離とフローマークが目立ってくる。
【0011】
損失角δは、動的溶融粘弾性の測定から求められる、応力に対するひずみの位相の遅れを表し、動的粘弾性挙動を表す指標の一つとして一般的に知られている。δ(Tanδ)は、その値が大きい場合は粘弾性の粘性的な性質が強いことを示し、小さい場合は弾性的な性質が強いことを示している。この値を決定する要因は複雑であり、例えば、共重合を含む単量体の種類、共重合組成、共重合の構造、分岐点の数や分岐鎖の長さ等の分岐構造等を含む分子構造、分子量、分子量分布等が挙げられる。機械的強度及び成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマークの改良機構は定かではないが、例えば、本発明の樹脂組成物の溶融混練温度及び加工温度近くで特定の溶融粘弾性を有するポリカーボネート樹脂と、特定のゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体とをアロイ化した場合に、上記特性発現に良好なモルホロジーが得られることが考えられる。
【0012】
なお、本発明組成物においては、後述するように、(a)〜(d)成分の他に、ポリカーボネート樹脂の安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の添加剤を添加することが出来、ポリカーボネート樹脂の重合時、あるいはペレット製造前にこれら添加剤を添加する場合もあるが、上記関係式(I)〜(IV)はこれらの添加剤を含有しないポリカーボネート樹脂について求められるものである。
【0013】
本発明の(a)ポリカーボネート樹脂は、エステル交換法で製造される芳香族ポリカーボネート樹脂であって、上記特性を有するものであれば、その製造法を特に限定されるものではないが、代表的な製造法を以下に説明する。
芳香族ジヒドロキシ化合物
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記一般式(2)で示される化合物である。
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)中、Aは単結合、置換されてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、または−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基であり、Y1及びY2は、ハロゲン原子または炭素数1〜6の炭化水素基であり、a及びbは0または1の整数である。 尚、Y1とY2及びaとbは、それぞれ同一でも相互に異なるものでもよい。)。
【0016】
代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類、4,4’−ジヒドロキシビフェニル−3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビスフェノール類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、好ましくはビスフェノールA(以下、「BPA」と略記することがある。)が挙げられる。
【0017】
炭酸ジエステル:
原料の他の一つである炭酸ジエステルは下記一般式(3)で示される化合物である。
【0018】
【化3】
【0019】
(式(3)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基であり、2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。)。
【0020】
代表的な炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することもある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0021】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0022】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸のエステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、過剰に用いられる。すなわち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して1.001〜1.3、好ましくは1.01〜1.2の範囲内のモル比で用いられる。モル比が1.001より小さくなると、製造されたポリカーボネートの末端OH基が増加して、熱安定性、耐加水分解性が悪化し、また、モル比が1.3より大きくなると、ポリカーボネートの末端OH基は減少するが、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望の分子量のポリカーボネートの製造が困難となる傾向がある。本発明においては、末端OH基含有量が50〜1000ppmの範囲に調整したポリカーボネートを使用するのが良い。
【0023】
エステル交換法によりポリカーボネートを製造するには、溶媒を使用せず、原料を溶融重合させる。原料混合槽への原料の供給方法としては、液体状態の方が計量精度を高く維持し易いため、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルのうち、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。液体状態で原料を供給する場合には、計量装置としては、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いることができる。
一方、固体状態で原料を供給する場合には、スクリュー式フィーダーのような容量を計量するものよりも、重量を計量するものを用いるのが好ましく、べルト式、ロスインウェイト式等の重量フィーダーを用いることができるが、ロスインウェイト方式が特に好ましい。
【0024】
エステル交換触媒:
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応には、通常、触媒が使用される。本発明のポリカーボネート製造方法においては、触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
触媒の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して0.05〜5μモル、好ましくは0.08〜4μモル、さらに好ましくは0.1〜2μモルの範囲内で用いられる。触媒の使用量が上記量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、またポリマーの分岐化も進み、成型時の流動性が低下する傾向がある。
【0025】
アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ金属化合物等がある。これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、具体的に最も好ましいセシウム化合物を挙げれば炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
【0026】
また、アルカリ土類金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物、アルコラート、フェノラート、有機カルボン酸塩等の有機アルカリ土類金属化合物等がある。
【0027】
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩又はストロンチウム塩等が挙げられる。
【0028】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−i−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又は、これらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0029】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキサイド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキサイド等が挙げられる。
【0030】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン,4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0031】
これらの触媒のうち、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。上記エステル交換触媒は、溶媒に溶解した触媒溶液の形態で用いることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、アセトン、アルコール、トルエン、フェノールの他、原料芳香族ジヒドロキシ化合物や原料炭酸ジエステルを溶解する溶媒が挙げられる。これらのなかでは、水が好ましく、特にアルカリ金属化合物を触媒とする場合には、水溶液とすることが好適である。
【0032】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、必要に応じてフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよい。その使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対し、0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0033】
エステル交換法:
上記の芳香族ジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルのエステル交換反応は、上記特定の物性を有するポリカーボネートが得られる方法であれば、特に限定されないが、例えば、以下のような方法が採用される。
すなわち、通常、原料混合槽等で両原料を、均一に撹拌した後、触媒を添加して重合を行い、ポリマーが生産される。例えば、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステルの両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。その際、本発明の上記特定の物性のポリマーを安定して生産するためには、例えば、少なくとも以下の(i)及び(ii)の両条件を満足する方法が採用される。
(i)全製造時間を一つ以上に分画した単位製造時間ごとに、重合槽に供給される芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステル1モルに対しての触媒量を一定に保つための目標触媒供給量である「設定触媒量」を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.05〜5μモルの範囲内から選択する。なお、「全製造時間」とは、重合槽においてポリマーを安定的に生産する原料供給時間に対応し、立ち上げ時や、グレード切り替え時、製造終了時等の非安定時のポリマー製造時間は含まない。
(ii)各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、供給される実際のエステル交換触媒量(以下、単に「実際の触媒量」という。)が、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持されるようにする。
【0034】
上記(i)において、設定触媒量は、全製造時間を通して必ずしも一定値である必要はなく、全製造時間を一つ以上に分画して、その単位製造時間ごとに設定することが可能である。
【0035】
以下、この方法について詳しく説明すると、全製造時間が単一分画の単位製造時間である場合は、その少なくとも95%の時間は、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.1μモル以内の値に実際の触媒量を維持する。また、全製造時間が複数の単位製造時間に分画され、設定触媒量が変更される場合には、各単位製造時間の少なくとも95%の時間は、各設定触媒量±0.1μモル以内の値に、実際の触媒量を維持する。いずれの場合も、設定触媒量±0.08μモル以内に維持することが好ましく、設定触媒量±0.06μモル以内に維持することが特に好ましい。さらに、実際の触媒量が、制御された値に維持される時間の割合は、全製造時間又は各単位製造時間の少なくとも95%であれば良いが、100%に近いほどより好ましい。95%より少ない時間になると、所望の分子量、末端OH基含有量のポリマーが得られなくなり、特に設定触媒量より多い時間の割合が多い場合は、得られるポリマー色相が悪化したり、またポリマーの分岐化が進む等して、結果的に本発明で規定する関係式を満足するものが得られなくなり、該ポリマーを成形する時の流動性も低下する傾向がある。
【0036】
なお、重合温度、重合時間、減圧度等の重合反応時の製造条件を変えても、本発明のポリカーボネートを製造することが可能であるが、安定的な生産が困難になるので好ましくない。実際の触媒量を、設定触媒量±0.1μモルと極めて小さな変動範囲以内に維持して、供給を続けることにより初めて、煩雑な重合操作を必要とせずに、本発明で規定する特定の関係式を満足し、狭い分子量分布、色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性に優れたポリマーを安定的に生産できるようになることがわかった。
前記の実際の触媒量を、設定触媒量±0.1μモル以内の値に維持させるためには、重合槽に供給する触媒流量を、オーバル流量計、マイクロモーション式流量計等を用いて、計量、供給することが好ましい。
【0037】
触媒供給を自動制御するには、例えば、まずコンピュータに、継続的に実際の触媒流量の測定値を入力し、前述した設定触媒量と芳香族ジヒドロキシ化合物又は炭酸ジエステルの原料調製槽への供給量より算出された設定触媒流量とを比較させる。その際、実際の触媒流量の測定値が、該設定触媒流量と異なる場合、この結果を触媒計量・供給装置に伝え、バルブの開度等を調節して、実際の触媒流量と設定触媒流量が一致するように制御する。
【0038】
ここで、触媒供給の自動制御は、実際の触媒流量の測定間隔の適正化に十分配慮すれば、継続的な間歇測定に基づく制御でも、連続的な測定と同様に制御を行うことは可能であるが、安定した品質の製品を得るには、連続的な自動測定であることが好ましい。すなわち、連続的に触媒流量を自動測定できれば、重合槽への触媒供給量を迅速且つ連続的に制御することが可能となり、その結果、一定の設定触媒流量に維持され、ポリカーボネートの粘度平均分子量や末端OH基含有量等のふれが小さく、かつ分子量分布が狭くなり、さらに色調、流動性、耐熱性、機械物性等、諸物性の均一な製品が得られるので好ましい。
【0039】
ある設定触媒量の単位製造時間中に、実際の触媒量が、設定触媒量±0.1μモル以内の値に、どれ程の時間存在したかは、上記測定手段による測定結果から容易に判定することができる。連続的測定の場合、実際の原料モル比と測定時間の関係を示す曲線より、予め設定した触媒量±0.1μモル以内にある累積時間と、±0.1μモルよりはずれた累積時間とを求めることにより、該設定触媒量での単位製造時間の少なくとも95%の時間は、±0.1μモル以内の値に維持されていたかどうかが判定される。連続的測定ではない場合でも、継続的な測定であれば、これを統計処理する方法等により判定することができる。
【0040】
本発明ではポリカーボネートの重合反応(エステル交換反応)は、一般的には2以上の重合槽での反応、すなわち2段階以上、通常3〜7段の多段工程で連続的に実施されることが好ましい。具体的な反応条件としては、温度:150〜320℃、圧力:常圧〜2Pa、平均滞留時間:5〜150分の範囲とし、各重合槽においては、反応の進行とともに副生するフェノールの排出をより効果的なものとするために、上記反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。なお、得られるポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、できるだけ短い滞留時間の設定が好ましい。
なお、多段工程で重合槽を複数用いる場合の実際の触媒量の自動制御は、触媒の供給量を連続的に自動制御することが好ましく、その場合は、第1重合槽の滞留時間の1/3以内に測定及び制御が完了していることが必要である。
【0041】
上記エステル交換反応において使用する装置は、竪型、管型又は塔型、横型のいずれの形式であってもよい。通常、タービン翼、パドル翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立製作所製)等を具備した1以上の竪型重合槽に引き続き、円盤型、かご型等の横型一軸タイプの重合槽やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、メガネ翼、格子翼((株)日立製作所製)、又はメガネ翼とポリマーの送り機能を持たせた、例えばねじりやひねり等の入った翼及び/又は傾斜がついている翼等を組み合わせたもの等を具備した、横型二軸タイプの重合槽を用いることができる。
【0042】
上記方法で製造したポリカーボネート中には、通常、原料モノマー、触媒、エステル交換反応で副生する芳香族ヒドロキシ化合物、ポリカーボネートオリゴマー等の低分子量化合物が残存している。なかでも、原料モノマーと芳香族ヒドロキシ化合物は、残留量が多く、耐熱老化性、耐加水分解性等の物性に悪影響を与えるので、製品化に際して除去されることが好ましい。
【0043】
それらを除去する方法は、特に制限はなく、例えば、ベント式の押出機により連続的に脱気してもよい。その際、樹脂中に残留している塩基性エステル交換触媒を、あらかじめ酸性化合物又はその前駆体を添加し、失活させておくことにより、脱気中の副反応を抑え、効率よく原料モノマー及び芳香族ヒドロキシ化合物を除去することができる。
【0044】
添加する酸性化合物又はその前駆体には特に制限はなく、重縮合反応に使用する塩基性エステル交換触媒を中和する効果のあるものであれば、いずれも使用できる。具体的には、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸等のブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらは、単独で使用しても、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの酸性化合物又はその前駆体のうち、スルホン酸化合物又はそのエステル化合物、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル等が特に好ましい。
【0045】
これらの酸性化合物又はその前駆体の添加量は、重縮合反応に使用した塩基性エステル交換触媒の中和量に対して、0.1〜50倍モル、好ましくは0.5〜30倍モルの範囲で添加する。酸性化合物又はその前駆体を添加する時期としては、重縮合反応後であれば、いつでもよく、添加方法にも特別な制限はなく、酸性化合物又はその前駆体の性状や所望の条件に応じて、直接添加する方法、適当な溶媒に溶解して添加する方法、ペレットやフレーク状のマスターバッチを使用する方法等のいずれの方法でもよい。
【0046】
脱気に用いられる押出機は、単軸でも二軸でもよい。また、二軸押出機としては、噛み合い型二軸押出機で、回転方向は同方向回転でも異方向回転でもよい。脱気の目的には、酸性化合物添加部の後にベント部を有するものが好ましい。ベント数に制限は無いが、通常は2段から10段の多段ベントが用いられる。また、該押出機では、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤等の添加剤を添加し、樹脂と混練することもできる。
本発明組成物に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2、2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、または2、2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂としては、2種以上の樹脂を混合して用いてもよい。
【0047】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度20℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、16,000〜30,000、好ましくは18,000〜26,000の範囲から選ばれることが好ましい。粘度平均分子量が上記範囲を超える場合、組成物の流動性が十分でなく、一方、上記範囲を満たさない場合は、衝撃強度等靱性あるいは耐薬品性が不十分となり、好ましくない。
【0048】
本発明における(b)成分は、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合してなるグラフト共重合体である。本発明組成物はかかる(b)成分として、(b−1)乳化重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体、および(b−2)塊状重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体を併用することに特徴を有し、かかる2種類のグラフト共重合体の併用により、はじめて流動性と面衝撃性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
なお、本明細書では、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合してなるグラフト共重合体を、「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」と称することがある。「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」は、通常、ゴムに、少なくともスチレンと(メタ)アクリロニトリルからなる単量体の共重合物がグラフトしたグラフト共重合体の他、単量体のみが相互に共重合した共重合体を含有する混合物である。また、本発明組成物は、このような「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」に、要すれば、更に、(b−3)スチレン/(メタ)アクリロニトリル共重合体を添加してもよい。その添加量は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1〜10重量部である。使用されるスチレン/(メタ)アクリロニトリル共重合体の製造法は特に限定されるものではなく、乳化重合法で製造されたものでも、塊状重合法で製造されたものであっても良い。
また、必要により「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」製造時には、スチレン系単量体、アクリロニトリルおよび/またはメタアクリロニトリルからなる主成分に、他の共重合可能な単量体を併用して重合しても良い。
【0050】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が使用され、好ましくはスチレンが挙げられる。(メタ)アクリロニトリルとしてはアクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。スチレン系単量体および(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。なお、本明細書においては、「(メタ)アクリロニトリル」はアクリロニトリルおよび/またはメタクリロニトリルを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0051】
重合時に共存させるゴムとしては、好ましくはガラス転移温度が10℃以下のゴムである。ゴムの具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコンゴム等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
【0052】
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられ、(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体またはブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム重量の30重量%以下であることが好ましい。
【0053】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルからの合成ゴムが挙げられる。エステルを形成するアルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルゴムの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルゴムには、任意に、架橋性のエチレン性不飽和単量体が用いられていてもよく、架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0054】
ゴムの存在下、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合する方法は特に限定されるものではなく、公知の塊状重合または乳化重合の方法が採用される。
ゴムの存在下スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合したグラフト共重合体としては、例えば、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂等が挙げられ、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとの共重合体としては、例えば、AS樹脂(SAN樹脂とも言う)等が挙げられる。
【0055】
本発明組成物における(b)成分の「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体」の配合量は、(a)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し5〜40重量部である。(b)成分が5重量部未満であると得られる樹脂組成物の流動性が低下しやすく、40重量部を越えると耐熱性が低下しやすい。「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体」の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは6〜35重量部であり、更に好ましくは10〜30重量部である。(b)成分を構成する(b−1)成分と(b−2)成分の比率は、重量で20/80〜80/20の範囲から選択される。乳化重合法で製造される(b−1)成分が多くなりすぎると得られる樹脂組成物の流動性の低下が大きく、一方、塊状重合法により製造される(b−2)成分のみでは、面衝撃性が十分な樹脂組成物が得られない。
【0056】
本発明における(c)燐系難燃剤としては、分子中にリンを含む化合物を使用することが出来る。具体的には、例えばリン酸トリフェニル、リン酸トリクレジルなどのリン酸エステル類、例えばトリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどの亜リン酸エステル類、それらのオリゴマー類、例えば環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、架橋フェノキシホスファゼンなどのホスファゼン類が挙げられる。好ましくは、下記の一般式(1)で表されるリン酸エステルオリゴマーの1種または2種以上の混合物から選ばれる。
【0057】
【化4】
【0058】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、rおよびsは、それぞれ0または1であり、mは1から5の整数であり、Xはアリーレン基を示す。)
【0059】
上記一般式(1)で表される燐系化合物は、mが1〜5の縮合燐酸エステルであり、mが異なる縮合燐酸エステルの混合物については、mはそれらの混合物の平均値となる。Xはアリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される基である。一般式(1)で表される燐系化合物の具体例としては、Xがビスフェノール残基であるフェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・ビスフェノール・ポリホスフェート、キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル−p−t−ブチルフェニル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ビスフェノールポリホスフェート、クレジル・キシリル・ビスフェノール・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・ビスフェノールポリホスフェート等が挙げられる。特に好ましくは、フェニル・ビスフェノールポリホスフェートが挙げられる。ビスフェノールとしてはビスフェノールAが好ましい。
【0060】
燐系難燃剤の配合量は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1〜40重量部である。燐系難燃剤の添加量が1重量部未満であると難燃性が不十分であり、40重量部を越えると機械的物性が低下しやすい。燐系難燃剤の配合量は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜25重量部である。
【0061】
本発明で使用される(d)ポリフルオロエチレンとしては、例えばフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。かかるポリテトラフルオロエチレンは、重合体中に容易に分散し、且つ重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン6Jまたはテフロン30Jとして、あるいはダイキン工業(株)よりポリフロンとして市販されている。
【0062】
ポリフルオロエチレンの配合量は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.01〜5重量部である。ポリフルオロエチレンが0.01重量部未満の場合は難燃性が不十分であり、5重量部を越えると成形品外観の低下が起こり好ましくない。ポリフルオロエチレンの配合量は、(a)ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは、0.02〜4重量部、さらに好ましくは0.03〜3重量部である。
【0063】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の安定剤、顔料、染料、滑剤、その他難燃剤、離型剤、摺動性改良剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスフレーク、炭素繊維等の強化材あるいはチタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム等のウィスカーを添加配合することができる。本発明組成物に併用可能なその他難燃剤としては、有機スルホン酸金属塩(例えば特開昭50−98544等)、シリコーン系難燃剤(例えば特開平10−139964)、金属塩系難燃剤(例えば特開平11−217194)などが挙げられる。
【0064】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、必要に応じ、(a)ポリカーボネート樹脂および(b)「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体」以外に、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂を配合することができる。これらの熱可塑性樹脂の配合量は、(a)成分および(b)成分の合計量100重量部に対し、好ましくは40重量部以下、より好ましくは30重量部以下である。
【0065】
成形機や金型の腐食問題や廃棄時の環境汚染問題等の点より、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、可及的に非ハロゲンの樹脂組成物であることが好ましく、本発明の組成物において配合される上記各成分は、それぞれ非ハロゲンであること、あるいはハロゲン含有量が少ないことが好ましい。
【0066】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、(a)〜(d)成分を任意の手段、任意の順序で配合することが出来る。特に、液状の難燃剤を用いる場合は、予め難燃剤を除く各成分を混練し、液状難燃剤を押出機の途中から混練する方法が好ましい。例えば、二軸押出機を使用する場合について説明すると、液状難燃剤を除く添加剤組成物を予めブレンドし、二軸押出機のメインホッパーより定量供給し、メインホッパーに近いブロック(メインホッパーをC1とした場合に、C2からC4の位置)より液状難燃剤を組成比に合わせて定量供給し、溶融混練することで製造される。
また、難燃剤が固体粉末状であれば、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂、「ゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体」、燐系難燃剤、ポリテトラフルオロエチレンを一括溶融混練する方法、芳香族ポリカーボネート樹脂と燐系難燃剤をあらかじめ混練後、「スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体」およびポリテトラフルオロエチレンを配合し溶融混練する方法などが挙げられる。
【0067】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成形加工方法は、特に限定されるものではなく、ポリカーボネート樹脂の成形に一般に使用されている成形法、例えば射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの方法が適用される。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、薄肉流動難燃性に優れ、面衝撃性が改善された成形物を得ることが出来、ゲート近傍のフローマークや層状剥離の生成も低減されるので、ラップトップパソコンなどのハウジングなどの用途に好適である。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用した原材料および得られた組成物の物性評価の試験方法は以下の通りである。
【0069】
(1)粘度平均分子量(Mv);
ウベローデ粘度計を用いて、塩化メチレン中、20℃で測定した極限粘度[η]を用い、以下の式より粘度平均分子量(Mv)を求めた。
【0070】
【数4】
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83 (5)
【0071】
(2)末端OH基含有量;
四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)により比色定量を行った。測定値は、ポリカーボネート重量に対する末端OH基の重量をppm単位で表示した。
【0072】
(3)分子量分布(Mw/Mn);
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定装置には、HLC−8020(東ソー(株)製)を、溶離液にはテトラヒドロフランを使用し、ポリスチレン換算で求め、Mw/Mnを算出した。
【0073】
(4)動的粘弾性;
動的粘弾性は以下の様に測定した。サンプルのポリカーボネートを120℃、5時間の乾燥を行い、250℃で直径25mm、厚み1.5mmの円板状にプレス成形し、測定用サンプルを得た。サンプルは測定前に120℃、4時間の減圧乾燥を行い、測定に供した。粘弾性測定器RDA−700(レオメトリックス(株)製)を使用し、直径25mmのパラレルプレート型の治具を装着し、本機器の適正条件を満足する窒素気流中、測定温度である250℃に設定した。測定温度はオーブン内の温度を測定することにより設定した。その後乾燥した測定用サンプルを機器にセットし、サンプル全体が十分に設定温度となる様に静置の後、角速度10rad/s、歪み10%の回転をすることで測定した。この測定により損失正接Tanδ及び複素粘性率η* (Pa・s)を求めた。
【0074】
実施例及び比較例で使用したポリカーボネート樹脂の製造法を製造例として示した。
製造例1
本発明のポリカーボネート樹脂を製造する方法の一例のフローシートを示す図1を用いて説明する。図1中、1はDPC(ジフェニルカーボネート)貯槽、2は撹拌翼、3はBPA(ビスフェノールA)ホッパー、4a,bは原料混合槽、5はDPC流量制御弁、6はBPA流量制御弁、7はポンプ、8は触媒流量制御弁、9はプログラム制御装置、10はポンプ、11は触媒貯槽、12は副生物排出管、13a,b,cは竪型重合槽、14はマックスブレンド翼、15は横型重合槽、16は格子翼である。
【0075】
窒素ガス雰囲気下120℃で調製されたジフェニルカーボネート融液、及び、窒素ガス雰囲気下計量されたビスフェノールA粉末を、それぞれ、DPC貯槽(1)から205.0モル/h、及びBPAホッパー(3)から197.1モル/h(原料モル比1.040)の送量となるように、マイクロモーション式流量計及びロスインウェイト方式の重量フィーダーで計量し、窒素雰囲気下140℃に調整された原料混合槽(4a)に連続的に供給した。続いて、原料混合液を原料混合槽(4b)に、さらにポンプ(7)を介して容量100Lの第1竪型撹拌重合槽(13a)に連続的に供給した。一方、上記混合物の供給開始と同時に、触媒として2重量%の炭酸セシウム水溶液を、触媒導入管を介して、1.60mL/h(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.5μモル)の流量で連続供給を開始した。
【0076】
このとき、実際の触媒流量制御は、プログラム制御装置(9)で、BPA流量制御弁(6)で検知したBPA流量と設定触媒量より、設定触媒流量を計算して、この値と触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量とが一致するように触媒流量制御弁(8)の開度をコントロールすることによって遂行された。
【0077】
マックスブレンド翼(14)を具備した第1竪型撹拌重合槽(13a)は、常圧、窒素雰囲気下、220℃に制御し、さらに平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
【0078】
槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3のマックスブレンド翼を具備した容量100Lの竪型撹拌重合槽(13b、13c)、及び第4の格子翼(16)を具備した容量150Lの横型重合槽(15)に逐次連続供給された。
第2〜第4重合槽での反応条件は、それぞれ、下表のように、反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるように条件設定した。
【0079】
【表1】
【0080】
反応の間は、第2〜第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように、液面レベルの制御を行い、また、各重合槽においては、副生したフェノールを副生物排出管(12)より除去した。以上の条件下で、1500時間連続して運転した。なお、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出されたポリカーボネートは、溶融状態のまま、3段ベント口を具備した2軸押出機に導入され、p−トルエンスルホン酸ブチルをポリカーボネート重量に対し、4.0ppm(触媒の中和量に対し、4.4倍モル)添加し、水添、脱気した後、ペレット化した。
【0081】
得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、23,500及び520ppmであった。
また、触媒流量制御弁(8)に設けられた測定装置で実測された触媒流量の連続測定データ(以下、「触媒流量制御弁の連続測定データ」と略称する。)より、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、それぞれ全製造時間の96.9%及び99.5%であった。 分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.3及び3,820であった。これをPC−1と表す。
【0082】
製造例2
製造例1において、設定原料モル比を1.035、第4重合槽の温度を285℃にした以外は、製造例1と同様にして実施した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、25,400及び590ppmであった。
また、触媒流量制御弁の連続測定データより、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、全製造時間の96.5%及び99.1%であった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、2.3及び3,890であった。これをPC−2と表す。
【0083】
比較製造例1
製造例2において、プログラム制御装置を設置せず、触媒流量を1.6mL/h(設定触媒量:ビスフェノールA1モルに対し、0.5μモル)に固定した以外は、製造例2と同様にして実施した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、25,200及び530ppmであった。
また、触媒流量制御弁の連続測定データより、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、設定触媒量±0.06μモル以内及び±0.1μモル以内の時間を算出したところ、全製造時間の89.7%及び90.5%であった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.9及び2,280であった。これをPC−11と表す。
【0084】
比較製造例2
ビスフェノールAとホスゲンを界面法により重縮合させ、フェノールで末端封止した。得られたポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)及び末端OH基含有量は、それぞれ、25,100及び30ppmであった。分子量分布(Mw/Mn)及びTanδ/η*-0.87の値は、それぞれ、2.3及び7,550であった。これをPC−12と表す。
尚、実施例及び比較例においては使用したポリカーボネート樹脂以外の原料及び得られた組成物の物性評価の試験方法は以下の通りである。
【0085】
<原材料>
(1)ABS樹脂−1:テクノポリマー(株)製、DP−611、乳化重合ABS樹脂。
(2)ABS樹脂−2:日本A&L(株)製、AT−08、塊状重合ABS樹脂
(3)SAN樹脂−1:テクノポリマー(株)製、SAN−FF、超高流動AS樹脂。
(4)難燃剤−1:旭電化工業(株)製、縮合燐酸エステルFP−700、
(一般式(1)において、XはビスフェノールA残基、R1、R2、R3及びR4はフェニル基であり、p、q、及びsは1、mは1.08に相当)。
(5)ポリテトラフルオロエチレン:ダイキン(株)製、ポリフロンF−201L。
【0086】
なお、以上の外、ポリカーボネート樹脂及びABS、AS樹脂との合計量100重量部に対して、安定剤としてアデカスタブ2112[旭電化工業(株)製、トリス(2,4−ターシャリブチル)ホスファイト]0.03重量部、イルガノックス1076[チバスペシャリティーケミカルズ(株)製、オクタデシル−3−(3,5−ジターシャリブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.05重量部を各組成物に添加した。
【0087】
<樹脂組成物の試験方法>
(1)燃焼性:1.2mm厚みのUL94の規格の試験片により垂直燃焼試験を行い、評価した。
(2)衝撃強度:ASTM D256に従い、3.2mmのアイゾット衝撃試験片を成形し、その後0.25Rのノッチを切削し評価を行った。
(3)荷重撓み温度(DTUL):ASTM D648に従い、抵抗片(曲げ試験片)を用い、1.82MPaでの荷重撓み温度を測定した。
(4)デュポン衝撃試験:150×150×1.5mmの成形品を使用し、1Kg、先端Rが10mmのダートを使用し、1mの高さから落下させて、板が破壊されて貫通しない場合を合格(○)、貫通した場合を不合格(×)とした。
【0088】
(5)フローマークの観察:(4)で用いた成形品のゲート近傍を目視観察し、次の基準で評価した。
〇:フローマーク無し
△:フローマークがわずかにある
×:フローマーク有り
(6)層状剥離の観察:(4)で用いた成形品のゲートに剃刀で深さ0.3mmの切り欠きを入れ、切り欠き面と反対側に手で折り曲げて破壊し、破壊面を目視観察し、次の基準で評価した。
○:層状剥離無し
△:層状剥離わずかにあり
×:層状剥離有り
(7)バーフロー:250℃のシリンダー温度で、1mm厚×10mmのバーフロー金型を使用し、147MPaでの流動長を測定した。
【0089】
実施例1〜2
100重量部のPC−1またはPC−2に、10.8重量部のABS樹脂−1、15.7重量部のABS樹脂−2、および0.76重量部のポリフルオロエチレンを配合し、タンブラーにて20分混合後、30mmの二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30 L/D=42)に供給した。次いで、難燃剤−1の添加量がPC−1またはPC−2の100重量部に対して24.4重量部となる様に、C3ブロック(主供給口から近い位置)の位置から難燃剤−1を液注し、シリンダー温度240℃でペレット化した。このペレットを用い、射出成形機にて、シリンダー温度240℃で1.2mm厚みの燃焼試験片を成形し、難燃性を評価した。さらに、シリンダー温度240℃にて、アイゾット衝撃試験片を成形し、その後0.25Rのノッチをノッチングマシンで切削し、アイゾット衝撃試験機にて評価を行った。次いでシリンダー温度260℃にて、150×150×1.5mm成形品を成形し、その成形品を使用し、デュポン衝撃試験を行った。バーフローについては、試験方法(7)に示した条件にて評価を行った。評価結果を表−1に示した。
【0090】
実施例3〜4
実施例1〜2において、ABS樹脂−1の使用量を15.7重量部、ABS樹脂−2の使用量を10.8重量部に変更した以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表−1に示した。
【0091】
実施例5〜6
実施例1〜2において、ABS樹脂−1の使用量を13重量部、ABS樹脂−2の使用量を13重量部に変更した以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。評価結果を表−1に示した。
【0092】
比較例1〜2
実施例1〜2において、ABS樹脂−1の使用量を18.9重量部、ABS樹脂−2の使用量を0部に変更し、SAN樹脂−1を7.6重量部を使用した以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を表―2に示した。
【0093】
比較例3〜4
実施例1〜2において、ABS樹脂−1の使用量を26.5重量部、ABS樹脂−2の使用量を0部に変更した以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を表―2に示した。
【0094】
比較例5〜6
実施例1〜2において、ABS樹脂−1の使用量を0、ABS樹脂−2の使用量を26.5重量部に変更しした以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を表―2に示した。
【0095】
比較例7〜8
実施例1〜2において、PC−1又はPC−2の替わりにPC−11又はPC−12に変更した以外は、実施例1〜2と同様の方法でペレットを製造し、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を表―2に示した。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表ー1と表−2の比較から明らかな様に、本発明により、溶融法で製造され且つ特定の溶融粘弾性を有するポリカーボネート樹脂(a)と(b)成分として、乳化重合法で製造されたABS樹脂−1及び塊状重合法で製造されたABS樹脂−2を併用した実施例1から実施例6の組成物では、アイゾット衝撃強度が高く、デュポン衝撃性も良好で、バーフローについても、1mm厚で140mm以上あり、フローマークや層状剥離も観察されず、薄肉成形品用の難燃材料として十分の特性を備えていることが明らかである。
【0099】
一方、(b)成分)として、乳化重合法で製造されたABS樹脂−1とSAN樹脂−1を使用した比較例1〜2の組成物では、デュポン衝撃性は良好であるが、流動性については、1mm厚でのバーフローが120〜130mm程度で薄肉成形材料としては、不足で、フローマークの発生も認められる。
同様に、ABS樹脂−1のみを使用した比較例3〜4の組成物では、さらに流動性が低下し、成形性の面で十分ではなく、フローマークの発生も認められる。
また、塊状重合法で製造されたABS樹脂−2のみを使用した比較例5〜6の組成物では、バーフローは1mm厚で188mm以上と十分な流動性を示したが 、1.2mm厚みでのデュポン衝撃試験では、脆性破壊が起き、不合格であり、フローマークや層状剥離の点でも不十分であった。
さらに、成分(a)として本発明の規定外のポリカーボネート樹脂を用いた場合、比較例7〜8から明らかなように成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマークが目立ち、商品価値を損なうものであった。
【0100】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、特に1.2mm厚での難燃性に優れ、且つ面衝撃性と加工性、成形品のゲート近傍の層状剥離とフローマークに優れており、電気電子機器や精密機械分野における大型成形品や薄肉成形品用として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用するポリカーボネート樹脂の製造の1例を示したフローシート。
【符号の簡単な説明】
1.DPC貯槽 2.攪拌翼 3.BPAホッパー 4a,b.原料混合槽 5.DPC流量制御弁 6.BPA流量制御弁 7.ポンプ 8.触媒流量制御弁9.プログラム制御装置 10.ポンプ 11.触媒貯槽 12.副生物排出管 13a,b,c.竪型重合槽 14.マックスブレンド翼 15.横型重合槽 16.格子翼。
Claims (7)
- (a)ポリカーボネート樹脂100重量部に、(b)ゴムの存在下少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合してなるゴム変性スチレン/(メタ)アクリロニトリル系グラフト共重合体5〜40重量部、(c)燐系難燃剤1〜40重量部、および(d)ポリフルオロエチレン0.01〜5重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物において、前記(a)ポリカーボネート樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であって、温度250℃、角速度ω=10rad/secで測定された損失角δ及び複素粘性率η*が下記関係式(I)を満たすものであり、
【数1】
3000≦Tanδ/η*−0.87≦6000 (I)
且つ、前記(b)成分が、(b−1)乳化重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体、および(b−2)塊状重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。 - 前記(b)成分が、(b−1)乳化重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体、および(b−2)塊状重合法により、ゴムの存在下、少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルを重合して製造されたグラフト共重合体に、更に(b−3)スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなる共重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記(a)ポリカーボネートの末端OH基の含有量が100〜1000ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記(a)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が16,000〜30,000であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 前記(c)難燃剤が、上記一般式(1)において、Xがビスフェノール−A残基であるリン酸エステルオリゴマーの1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
- 請求項1ないし6のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
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