JP4632481B2 - プロスタサイクリン合成酵素遺伝子含有医薬組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アポトーシス誘導が治療効果につながりうる疾患の治療に有用なアポトーシス誘導用医薬組成物、及び癌の治療に有用な遺伝子治療用医薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
プロスタグランジン(PG)は、アラキドン酸に由来するエイコサノイドの多様なファミリーである[Vane,J.R.ら, Am. J. Cardiol. 75, 3A-10A (1995)]。アラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼによってエンドぺルオキシド中間体のプロスタグランジンH2(PGH2)に変換される。シクロオキシゲナーゼには、少なくとも2つのイソ型(COX-1 及びCOX-2 )が存在する。COX-1 は、多くの組識及び細胞型において構成的に発現されるが、いくつかの場合において、細胞分化の間に増加される。対照的に、COX-2 の発現は、種々の刺激(例えば、マイトジェン、サイトカイン、及びエンドトキシン)によって頻繁にアップレギュレートされる。次いで、COX 産物のPGH2は、特異的な合成酵素によって、多くの末端のプロスタグランジン(例えば、PGD2、PGF2α、及びプロスタサイクリン(PGI2)に変換される[Tanabe, T. ら, J. Lipid. Mediat. Cell Signal. 12, 243-255(1995)] 。プロスタグランジンは、ホメオスタシス及び病原性の種々の局面の調節において、広範な効果を有する。例えば、PGE2は、血圧、受精率及び細胞保護作用を調節し、プロスタサイクリンは、心血管系の維持に寄与するのみでなく、増殖阻害効果及び細胞保護作用効果をまた行使する。胃腸管上皮細胞株におけるCOX-2 の過剰発現が、アポトーシスの阻害と関連すること[Tsujii, M. ら, Cell 83, 493-501 (1995)]、及びPGE2が、細胞における主要な生成物であること[Tsujii, M. ら, Cell 93, 705-716(1998)] が報告されている。対照的に、不死化内皮細胞株におけるCOX-2 の過剰発現は、増殖を遅らせ、及び細胞死を増加させる[Narko, K.ら, J. Biol. Chem. 272, 21455-21460 (1997)] 。プロスタサイクリン合成酵素(PGIS)は、内皮細胞において高レベルで内因的に発現され、プロスタサイクリンは、細胞におけるPGH2の主要な誘導体である[Hara, S. ら, J. Biol.Chem. 269, 19897-19903(1994)] 。
【0003】
前記プロスタサイクリンは、半減期5〜10分間の不安定な脂質メディエーターであり[Sinzinger, H.ら, Arch. Gynecol. Obstet., 243, 187-190(1988)] 、おそらく、cAMPのレベルを増加させるそのGタンパク質共役型受容体[Smith, E. M. ら, J. Biol. Chem. 271, 33698-33704(1996)]を介して、強力な血管拡張物質及び血小板凝集の強力な内因性インヒビターとして、重要な役割を果たす[Moncada, S.ら,N. Engl. J. Med. 17, 1142-1147(1979)]ことが知られる。その周知の活性に加えて、プロスタサイクリンについて、さらに種々の細胞(例えば、血管内皮細胞、心筋細胞、胃細胞、肝細胞、及び腎細胞)に対して細胞保護の効果を有すること[Vane, J. R.ら, Am. J. Cardiol. 75, 3A-10A(1995)] が知られているにすぎないのが現状であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アポトーシスの誘導が治療効果につながる疾患の治療に有用なアポトーシス誘導用医薬組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、アポトーシスを誘導し、それにより、癌細胞を細胞死に至らしめる遺伝子治療用医薬組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、アポトーシスを誘導しうる薬剤を簡便にスクリーニングすることが可能な、細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有してなる、細胞におけるアポトーシス誘導用医薬組成物、
〔2〕 前記〔1〕記載のアポトーシス誘導用医薬組成物を有効成分として含有してなる、癌の遺伝子治療用医薬組成物、並びに
〔3〕 被検物質の存在下に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−δの活性化を決定することを特徴とする、細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法、
に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、ヒト腎臓上皮細胞株293 において、プロスタサイクリン合成酵素によって生成される細胞内プロスタサイクリンが、核ホルモン受容体スーパーファミリーのメンバーの内因性ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−δ(PPAR- δ)を活性化することによってプログラム細胞死またはアポトーシスを促進するという、本発明者らの驚くべき知見に基づく。
【0007】
即ち、本発明者らは、ヒト腎臓上皮細胞株293 において、プロスタサイクリン合成酵素によって生成される細胞内プロスタサイクリンが、核ホルモン受容体スーパーファミリーのメンバーの内因性ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)を活性化することによってプログラム細胞死又はアポトーシスを促進することを見出した。前記PPARは、代謝及びホメオスタシスの種々の局面において広範な役割を有するが、PPAR- δの生物学的機能に関する情報は、非常に限られていた[Xu, H. E.ら, Mol. Cell 3, 397-403(1999)] 。本発明者らは、本研究において、HVJ-リポソーム法を使用する、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチドのトランスフェクションにより、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスがブロックされることを見出した。さらに本発明者らは、細胞外プロスタサイクリン又はdbcAMPでの刺激は、アポトーシスを誘導せず、実際アポトーシスを低減することを見出した。これらの観察により、細胞内プロスタサイクリンが、(1) 内在性のPPAR- δに対する天然に存在するリガンドであること、及び(2) 細胞運命の調節についてcAMP経路とは逆の効果をもたらす、PPAR- δを介した第2のプロスタサイクリンシグナル伝達経路が存在することを示した。
【0008】
前記したような知見に基づき、さらに本発明者らは、癌細胞にプロスタサイクリン遺伝子を導入することにより、驚くべく癌細胞のアポトーシスを導くことを見出した。
【0009】
なお、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)は、核ホルモン−受容体ファミリーのメンバーであり、及び、それ自身、リガンド活性化転写因子である[Nagy, L. ら, Cell 93, 229-240 (1998)]。これらの受容体は、脂質低下性のフィブラート(例えば、クロフィブラート)、種々の脂肪酸、及びいくつかのアラキドン酸代謝物によって、活性化され得る。3つの亜型の、PPAR- α、- δ(- β又はNUCIとしてもまた知られる)、及び- γが、同定されている[Braissant, O.ら, Endocrinology 137, 354-366 (1996)]。PPARは、それらの標的遺伝子のプロモーター中のPPAR- 応答エレメント(PPRE)と呼ばれるDNA モチーフに結合するPPAR-RXRヘテロ2量体を介して、それらの標的遺伝子を活性化することが知られている。
【0010】
PPAR間で、最も十分には理解されていないのが、PPAR- δ亜型の生物学であるが、イロプロスト及びカルバサイクリンが、CV-1において過剰発現された組換えPPAR- δのリガンドであることが報告されている[Forman, B. M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 4312-4317 (1997)]。他方、不安定なエイコサノイドのプロスタサイクリンが、内在性のPPAR- δのネイティブなリガンドであるか否かは、これが不安定であるので、不明であった。それを、本発明において、初めて明らかにしたものである。
【0011】
1.細胞におけるアポトーシス誘導用医薬組成物
本発明の細胞におけるアポトーシス誘導用医薬組成物は、プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有することに特徴がある。したがって、本発明の遺伝子治療用医薬組成物を標的細胞に対して導入した場合、細胞内プロスタサイクリンが生産され、それにより、該標的細胞にアポトーシスを誘導することができるという優れた効果を発揮する。また、プロスタサイクリンは、半減期が約5〜10分間と短く、かつ該プロスタサイクリンは、細胞外に存在する場合、アポトーシスは誘導せず細胞保護作用を発揮するため、標的細胞の周辺の細胞における影響を減じることができるという優れた効果が得られうる。
【0012】
本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物としては、プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有し、かつ他の薬剤との併用に供するものが挙げられる。
【0013】
他の薬剤としては、前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子のアポトーシス誘導能を増強するもの、標的細胞への特異的導入を可能にする物質などが挙げられる。具体的には、シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2) 遺伝子、シクロオキシゲナーゼ−1(COX-1) 遺伝子を含有したものなどが挙げられる。
【0014】
アポトーシスは、細胞の染色体DNAのヌクレオソーム単位の断片化、クロマチン凝集、細胞の凝縮、blebbing、微繊毛の消失、細胞と核の断片化・アポトーシス小体の形成を特徴とする現象である。前記アポトーシスは、前記アポトーシスの特徴を、例えば、TUNEL法、電気泳動による断片化DNA のラダーの検出;位相差顕微鏡を用いた観察;ヘマトキシリン、エオシンなどを用いた固定染色標本の観察;DNA結合性蛍光色素であるアミノベンズイミド(例えば、Hoechst 33342 、Hoechst 33258 など)により染色した後、蛍光顕微鏡で核膜辺縁へのクロマチン凝集を観察することなどにより、評価されうる。
【0015】
また、アポトーシスの進行には、カスパーゼが関与していることが示唆されており、かかるカスパーゼの活性を指標として細胞のアポトーシスの誘導を評価することができる。
【0016】
(1)プロスタサイクリン合成酵素遺伝子
本発明に用いられるプロスタサイクリン合成酵素(以下、PGISともいう) 遺伝子は、その起源に特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ラットなどが挙げられる。
【0017】
前記ヒトPGIS遺伝子(cDNA)の塩基配列及びコードされるアミノ酸配列は、例えば、B.B.R.C., Vol.200, No.3, p1728-1734(1994) 及び国際公開第95/30013号公報に記載されている。 また、ウシPGIS遺伝子については、、J.Biol.Chem., 269, 19897-19903(1994)に、ラットPGIS遺伝子については、Eur.J.Cell.Biol.,72,268-277(1997) に記載されている。
【0018】
本発明に用いられるPGIS遺伝子は、前記文献記載の塩基配列の情報に基づき、適当なDNA 部分をPCRのプライマーとして用い、例えば、血管内皮細胞由来のmRNAに対してRT-PCR反応を行なうことなどによりクローニングすることができる。前記クローニングは、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第2版(以下、単に「モレキュラークローニング」という)[Molecular Cloning; A Laboratory Manual 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)] 等の基本書に従い、当業者であれば容易に行なうことができる。
【0019】
また、本発明に用いられるPGIS遺伝子は、前記文献記載の構造を有するものに限定されず、活性を損なわない程度の改変等を有するものでもよい。
【0020】
すなわち、(i)前記文献記載のプロスタサイクリン合成酵素のcDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA または
(ii)前記文献記載のプロスタサイクリン合成酵素のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び付加からなる群より選ばれた少なくとも1種を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA 、
であって、かつ発現により、細胞においてアポトーシス誘導能を示しうるDNA であれば、本発明に用いられるプロスタサイクリン合成酵素遺伝子の範疇に含まれる。ここで、前記(i)のDNA は、通常のハイブリダイゼーション法により得ることができ、前記(ii)のDNA は、例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR 法などにより容易に得ることができる。具体的には、前記モレキュラークローニング等の基本書を参考にして行なうことができる。
【0021】
ここで、「ストリンジェントな条件」としては、前記モレキュラークローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版などに記載のハイブリダイゼーションの条件が挙げられ、具体的には、ホルムアミド濃度:45%(v/v)、塩濃度:5 ×SSPE、温度:42 ℃程度の条件下でハイブリダイズさせ、塩濃度: 2 ×SSPE、温度:42 ℃程度の条件下で洗浄するという条件などが挙げられる。
【0022】
前記(i)及び(ii)のDNA によりコードされるポリペプチドが所望のプロスタサイクリン合成酵素であることは、プロスタサイクリン合成酵素の活性測定法により酵素活性の有無を測定し、該活性を呈することを指標として実施できる。かかる活性測定法としては、例えば、6-keto Prostaglandin F1 α enzyme immunoassay kit (Cayman 社製、カタログ番号:#515211) を用いたエンザイムイムノアッセイ又はプロスタサイクリン合成酵素の代謝産物を薄層クロマトグラフィー(TLC) により検出する方法などが挙げられる。また、前記(i)及び(ii)のDNA によりコードされるポリペプチドが所望のアポトーシス誘導能を示すことは、後述の実施例に記載のように当該DNA を細胞に導入して発現させた後、種々のアポトーシスアッセイに供することにより、測定することができる。
【0023】
さらに、本発明に用いられるプロスタサイクリン合成酵素遺伝子は、(iii) 縮重を介して前記文献記載のプロスタサイクリン合成酵素遺伝子の塩基配列とは異なるDNA であってもよい。
【0024】
(2)シクロオキシゲナーゼ−2遺伝子
さらに、本発明者らは、前記PGISとシクロオキシゲナーゼ−2 (以下、COX-2 という) とを共発現させた場合、該PGISの単独発現の場合に比べて、よりアポトーシス誘導能を増強するという知見を得た。
【0025】
本発明に用いられるCOX-2 遺伝子は、その起源に特に限定されるものではなく、例えば、ヒト、ウシ、ラットなどが挙げられる。
【0026】
ヒトCOX-2 遺伝子(cDNA)は、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89 (16),7384-7388(1992) に記載されており、当該文献に記載の塩基配列の情報に基づき、前記PGIS遺伝子と同様にしてクローニングすることができる。さらに、前述の文献記載のCOX-2 の遺伝子に対して改変等を施した遺伝子であっても、発現によりCOX-2 の酵素活性を示すもの、さらには、PGIS遺伝子の有するアポトーシス誘導能を増強する活性を示すものであれば、本発明に用いられるCOX-2 遺伝子の範疇に含まれる。
【0027】
すなわち、(I)前記文献記載のシクロオキシゲナーゼ−2のcDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA または
(II)前記文献記載のシクロオキシゲナーゼ−2のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び付加からなる群より選ばれた少なくとも1種を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA 、
であって、かつ発現により、PGIS遺伝子の有するアポトーシス誘導能を増強する活性を示すDNA であれば、本発明に用いられるCOX-2 遺伝子の範疇に含まれる。ここで前記(I)及び(II)のDNA は、前記PGIS遺伝子の場合と同様に得ることができる。
【0028】
ここで、「ストリンジェントな条件」としては、前記モレキュラークローニング:ア・ラボラトリーマニュアル第2版などに記載のハイブリダイゼーションの条件が挙げられ、具体的には、ホルムアミド濃度:45%(v/v)、塩濃度:5 ×SSPE、温度:42 ℃程度の条件下でハイブリダイズさせ、塩濃度: 2 ×SSPE、温度:42 ℃程度の条件下で洗浄するという条件などが挙げられる。
【0029】
前記(I)及び(II)のDNA によりコードされるポリペプチドが所望のCOX-2 であることは、アラキドン酸を基質として反応させた後、PGH2が生成されることにより確認できる。PGH2の生成は、例えば、TLC 法を用いた方法[J. Biol. Chem., 274, 34141-34147 (1999)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 7384-7388 (1992)] により確認することができる。また、前記(I)及び(II)のDNA によりコードされるポリペプチドが所望のアポトーシス誘導能を示すことは、後述の実施例により記載のように、当該DNA をPGIS遺伝子と共に細胞に共導入して発現させた後、種々のアポトーシスアッセイに供することにより、測定することができる。
【0030】
(3)アポトーシス誘導用医薬組成物の投与法
本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物を投与する場合、その投与形態としては、非ウイルスベクターを用いた場合〔A〕と、ウイルスベクターを用いた場合〔B〕の二つに大別される。かかる投与形態については、実験手引書などにその調製法、投与法などが詳しく解説されている(別冊実験医学, 遺伝子治療の基礎技術, 羊土社,1996 、別冊実験医学, 遺伝子導入&発現解析実験法, 羊土社,1997 、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999 )。以下、具体的に説明する。
【0031】
A.非ウイルスベクターを用いる場合
慣用の遺伝子発現ベクターにPGIS遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクターを用いて、以下のような手法によりPGIS遺伝子を細胞や組織に導入することができる。
【0032】
細胞への遺伝子導入法としては、リン酸−カルシウム共沈法;微小ガラス管を用いたDNA の直接注入法などが挙げられる。
【0033】
また、組織への遺伝子導入法としては、内包型リポソーム(internal type liposome)による遺伝子導入法、静電気型リポソーム(electrostatic type liposome )による遺伝子導入法、HVJ−リポソーム法、改良型HVJ−リポソーム法(HVJ-AVE リポソーム法)、受容体介在性遺伝子導入法、パーティクル銃で担体(金属粒子)とともにDNA 分子を細胞に移入する方法、naked−DNA の直接導入法、正電荷ポリマーによる導入法等の何れかの方法に供することにより、組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。
【0034】
ここで用いられる発現ベクターとしては、例えばpCAGGS(Gene 108,193-200(1991))や、pBK−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)などが挙げられる。
【0035】
B.ウイルスベクターを用いる場合
ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等が挙げられる。より具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNA ウイルス又はRNA ウイルスに本発明のPGIS遺伝子を導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
【0036】
前記ウイルスベクターのうち、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターを用いた場合よりもはるかに高いことが知られており、この観点からは、アデノウイルスベクター系を用いることが望ましい。
【0037】
本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物の患者への導入法としては、アポトーシス誘導用医薬組成物を直接体内に導入するin vivo法、及び、ヒトからある種の細胞を取り出して体外でアポトーシス誘導用医薬組成物を該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法がある(日経サイエンス,1994 年4 月号,20-45頁、月刊薬事,36(1),23-48,1994、実験医学増刊,12(15),1994、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999 )。本発明では、本発明の医薬組成物を導入した細胞においてアポトーシスが誘導されるため、in vivo法が望ましい。
【0038】
in vivo法により投与する場合は、アポトーシス誘導対象の細胞、組織、標的臓器等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内などに投与するか、又は病変の認められる組織そのものに直接局所投与することができる。
【0039】
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の製剤形態(例えば液剤など)をとり得る。例えば、有効成分のDNA を含有した注射剤の場合、当該注射剤は常法により調製することができ、例えば、適切な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、場合によっては、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。当該注射剤には必要に応じて慣用の担体等を加えても良い。また、HVJ−リポソーム等のリポソームにおいては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などのリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0040】
また、疾患部位の周囲に遺伝子を存在し易くするために、徐放性の製剤(ミニペレット製剤等)を調製し患部近くに埋め込むことも可能であり、あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。
【0041】
前記製剤中のDNA の含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができ、例えば、有効成分のDNA 量として0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mgであることが望ましい。かかる投与用量をを数日ないし数ヶ月に1回投与することが望ましい。
【0042】
本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物は、例えば、以下のように薬理評価を行なうことができる:
動物実験
対象疾患が癌の場合は、以下のような動物実験により薬理評価を行なうことができる。腫瘍の形成が確認されたヌードマウスの癌モデルに適切な用量の該組成物を適当な投与回数投与する。同時に、腫瘍径の変化を観察する。対照群として、プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を含まないDNA を投与した群、および部位特異的変異を導入した不活性型プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を含んだDNA を投与した群を用いる。さらに投与量、投与回数などを評価する場合、適宜投与量、投与回数を変えた群を用いる。本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物を投与した群(投与群)と対照群のそれぞれにおいて、腫瘍の形成を確認し、腫瘍サイズを測定する。これにより、投与群において、より腫瘍の退縮が見られた場合、動物実験レベルで癌の治療ができたことを示す指標となる。また、組織について、前出のアポトーシスの特徴の評価の手法により評価することができる。これにより、投与群において多くのアポトーシス細胞の存在が確認された場合、動物実験レベルで本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物のアポトーシス誘導効果が発揮されたことの指標となる。
【0043】
ヒトへの臨床試験
プロスタサイクリン合成酵素遺伝子をウイルスベクターなどに組み込んで用いる場合、該ウイルスベクターの細胞傷害性、他の個体への感染性、染色体への組み込みを調べる。かかる手法及び治療方法は、例えば、前記日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999 などの記載に従って実施できる。また、標的とする細胞が癌細胞の場合、個体における臨床的効果は、例えば、以下のような手法により評価できる。すなわち、腫瘍の定期的な写真撮影、CTスキャン、MRIなどでの記録により、腫瘍径を測定し、直交する長径と短径から推定腫瘍体積を算出し腫瘍の増殖を計算する。治療効果は、腫瘍に応じた評価指標に基づき評価する。また、アポトーシスの有無を組織の形態学的観察により評価する。さらに、分子生物学的解析として、有効成分のDNA の標的細胞内の存在を確認するためのPCR などによる検出、アポトーシスのTUNEL 染色法などによる検出などを行なう。
【0044】
2.本発明の癌の遺伝子治療用医薬組成物
プロスタサイクリン合成酵素遺伝子は、細胞に導入された場合、細胞内プロスタサイクリンを生産し、それにより、該細胞にアポトーシスを誘導することができるという優れた効果を発揮する。したがって、癌細胞に導入することにより、癌細胞においてアポトーシスを誘導することができるため、癌を治療することができる。また、プロスタサイクリンは、半減期が約5〜10分間と短く、かつ該プロスタサイクリンは、細胞外に存在する場合、アポトーシスは誘導せず細胞保護作用を発揮する。したがって、プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を癌細胞に特異的に導入した場合、癌細胞を除く他の細胞に対する悪影響を減じることができるという優れた効果が得られうる。したがって、本発明においては、前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有した癌の遺伝子治療用医薬組成物も提供される。即ち、前記1.のアポトーシス誘導用医薬組成物を有効成分として含有した癌の遺伝子治療用医薬組成物も本発明の範囲に含まれる。
【0045】
本発明の遺伝子治療用医薬組成物としては、前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有し、かつ他の薬剤との併用に供するものも挙げられる。
【0046】
「他の薬剤」としては、前記プロスタサイクリン合成酵素が有するアポトーシス誘導能を増強するもの、癌細胞に前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を特異的に送達しうる物質などが挙げられ、具体的には、シクロオキシゲナーゼ−2(COX-2) 遺伝子、癌特異的表面抗原、シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1) 遺伝子を含有したものなどが挙げられる。
【0047】
本発明に用いられるプロスタサイクリン合成酵素遺伝子及びCOX-2 遺伝子は、前記1.で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0048】
本発明の癌の遺伝子治療用医薬組成物は、全ての癌に対して適用可能であり、特に、COX-2 亢進型の癌に対してより有効に適用できる。前記癌としては、固形癌等が挙げられる。
【0049】
一般的に、癌細胞の70% 程度がCOX-2 亢進型、即ちCOX-2 を発現する細胞である。後述の実施例で用いたCaco2 細胞もCOX-2 亢進型の癌細胞由来のものである。このようなCOX-2 亢進型の癌細胞に対しては、PGIS遺伝子単独で遺伝子治療を行なってもよく、PGISとCOX-2 遺伝子とを併用して、アポトーシスの誘導をさらに促進させてもよい。
【0050】
一方、内因性COX-2 の発現が低い細胞または該内因性COX-2 が検出できない癌細胞の場合、アポトーシス誘導による、より高い癌治療効果を発揮させる観点から、PGIS遺伝子とCOX-2 遺伝子との併用による遺伝子治療が望ましい。
【0051】
本発明の遺伝子治療用医薬組成物においては、癌細胞の周辺細胞への影響を低減もしくは解消する観点から、癌細胞に選択的に導入されることが望ましい。
【0052】
癌細胞に対する選択的な導入・遺伝子発現の手段については、例えば、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999 などに詳細に記載されており、具体的には、下記1)〜5)の手法などが例示される。
【0053】
1)レトロウイルスベクターによる導入
レトロウイルスベクターは、***している細胞に限ってその組み込みが行われるため、その性質を利用して、細胞増殖の盛んな癌細胞に対して本発明の遺伝子治療用医薬組成物を選択的に導入することができる。特に、この手法は、脳腫瘍患者に対して脳室内投与する場合に有効である。具体的には、PGISが発現されるようにPGIS遺伝子を前記レトロウイルスベクターに組み込むことにより得られた組換えレトロウイルスベクターを癌の遺伝子治療用医薬組成物として用いればよい。さらに、前記「他の薬剤」が、例えば、COX-2 遺伝子である場合、COX-2 とPGISとが共発現できるようにすればよく、例えば、COX-2 遺伝子を前記レトルウイルスベクターに組み込むことにより得られた組換えレトロウイルスベクターと前記PGISの組換えレトロウイルスベクターとを共に含有する医薬組成物を用いればよい。
【0054】
2)変異アデノウイルス株を用いた導入
近年、ONYX社のMcCormick らにより、癌細胞を特異的に殺す変異アデノウイルス株が開発されている[Nature Med.,3 (6),639-645(1997)] 。この変異アデノウイルス株は、p53 が機能している細胞には感染できないが、p53 が欠損している癌細胞では複製できるという特徴を有している。なお、50% 以上の癌細胞は、p53 の作用を喪失している。
【0055】
かかる手法を、本発明の遺伝子治療用医薬組成物に適用することにより、p53 の機能の欠損した癌細胞に対して、PGIS遺伝子を選択的に導入することができる。具体的には、PGISが発現されるようにPGIS遺伝子を前記変異アデノウイルスベクターに組み込むことにより得られた組換え変異アデノウイルスベクターを癌の遺伝子治療用医薬組成物として用いればよい。さらに、前記「他の薬剤」が、例えば、COX-2 遺伝子である場合、COX-2 とPGISとが共発現できるようにすればよく、例えば、COX-2 についての前記組換え変異アデノウイルスベクターとPGISの組換え変異アデノウイルスベクターとを共に含有する医薬組成物を用いればよい。
【0056】
さらに、アデノウイルスベクターを利用して、p53 と同様に多くの癌細胞で機能障害を受けているpRB の機能を欠損した癌細胞へのターゲッティングが可能である[Nature Med.,3(10),1145-1149(1997)] 。かかる手法も、同様に本発明に適用することができる。
【0057】
3)癌細胞特異的な表面抗原を標的とした導入
癌細胞表面に特異的に発現している癌抗原や、正常細胞にも発現しているが癌細胞で特に多く発現している抗原(トランスフェリン受容体、EGF 受容体など)を標的として、癌細胞への選択的な導入を行なうことができる。具体的な手法の例としては、以下の▲1▼〜▲3▼が挙げられる。
【0058】
▲1▼各抗原に対するモノクローナル抗体をカップリングさせたイムノリポソームを用いた導入
神経膠腫細胞に対する抗体をカップリングさせたリポソームでプラスミド(DNA) を包み込んだイムノリポソームを用いた、該細胞への特異的遺伝子導入が報告されている[Cancer Res.,50,7826-7829 (1990)] 。
【0059】
癌細胞特異的な表面抗原に対するモノクローナル抗体をカップリングさせたリポソームで本発明の遺伝子治療用医薬組成物を包み込み、得られたイムノリポソームを用いることにより、癌細胞に特異的に本発明の遺伝子治療用医薬組成物を導入できることが期待される。
【0060】
▲2▼トランスフェリン受容体を介した導入
前記のように、トランスフェリン受容体は癌細胞表面に豊富に発現しているため、これを利用した癌細胞特異的ターゲッティングが可能である。例えば、トランスフェリンとプラスミドとをビオチン−アビジン−ビオチンで架橋したDNA 複合体を用いた手法[Ann.N Y Acad.Sci.,716,336-337(1994)] 、トランスフェリン−リポソーム−DNA 複合体を用いた手法などが挙げられる。
【0061】
具体的には、例えば、PGIS遺伝子発現ベクターとトランスフェリンとをビオチン−アビジン−ビオチンで架橋したDNA 複合体などを本発明の遺伝子治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0062】
▲3▼EGF 受容体を介した導入
EGF 受容体も癌細胞表面に豊富に発現しているため、癌細胞へのターゲッティングに利用することができる。例としては、EGF 受容体に対するモノクローナル抗体とプラスミドとをpolylysineで架橋させた複合体を用いた手法[ イムノジーン法、Cancer Gene Ther.,3,113-120(1996)]が挙げられる。また、EGF そのものとDNA とを結合させた複合体を用いた手法[Cancer Gene Ther.,3,4-10 (1996)] も開発されている。
【0063】
本発明においては、例えば、EGF 受容体に対するモノクローナル抗体とPGIS遺伝子発現ベクターとをpolylysineで架橋させた複合体またはEGF と該遺伝子発現ベクターとを結合させた複合体などを本発明の遺伝子治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0064】
その他、アシアロ糖タンパクの受容体は肝細胞にだけ発現しているという性質を利用し、アシアロ化されたガラクトース糖鎖を結合させたpolylysineとDNA との複合体により肝細胞へのターゲッティングを行なった例も知られている(J.Biol.Chem.,266,14338-14342(1991))。この手法は肝癌に対して有効に用いられる。
【0065】
具体的には、例えば、アシアロ化されたガラクトース糖鎖を結合させたpolylysineとPGIS遺伝子発現ベクターとの複合体などを本発明の遺伝子治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0066】
4)癌細胞特異的プロモーターによるターゲッティング
癌細胞で特異的に発現するようなベクター系(プロモーター/エンハンサー系)を用いることにより、癌細胞へのターゲッティングを行うことができる。
【0067】
具体的には、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999,505 頁の表1に記載されている種々のプロモーター、すなわち、AFP プロモーター(肝癌)、CEA プロモーター(胃癌、膵癌)、DF3 プロモーター(乳癌)、オステオカルシンプロモーター(骨肉腫)などの癌細胞特異的プロモーターの制御下に前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を連結したベクターなどを本発明の遺伝子治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0068】
5)遺伝子を直接局所に注入する手法
特定の細胞に遺伝子を導入する最も単純な手法としては、標的細胞(癌細胞)を患者から採取し、精製して遺伝子を導入し、患者に戻すex vivo法が挙げられる。
【0069】
一方、in vivo法で現在、臨床試験で使われている方法は、ベクターを直接局所に注入するin situ遺伝子導入法である。例としては、皮膚のメラノーマに対してHLA-B7遺伝子を、カチオニックリポソームをキャリアとして直接経皮的に注射した例(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,11307-11311(1993) )、肺癌に対して気管支鏡経由又は経皮的にp53 遺伝子を組み込んだウイルスベクターを注射した例(Nature Med.,2,985-991(1996) )などが知られている。
【0070】
本発明においても、前記プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を保持した発現ベクターを直接局所に注入するin situ遺伝子導入法を適用することができる。標的組織・細胞へのより特異的な導入効率を得る観点から、当該in situ遺伝子導入法と前記1)〜4)の手法とを組み合わせて癌細胞への選択性を持たせることが望ましい。
【0071】
プロスタサイクリンは、細胞膜上のGタンパク共役型受容体を介して、細胞保護作用を示すことが知られている(Am.J.Cardiol.,75,3A-10A(1995) )。従って、PGIS遺伝子の導入された細胞から放出されたプロスタサイクリンは、周辺の正常組織に対して細胞保護的な作用を示すことが考えられる。よって、本発明のPGIS遺伝子を有効成分とする医薬組成物は、他剤と比較して副作用の少ない癌の治療剤となることが期待される。
【0072】
本発明の癌の遺伝子治療用医薬組成物の薬理評価は、例えば、前記アポトーシス誘導用医薬組成物の評価における記載と同様にして実施できる。
【0073】
3.細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法
本発明者らは、PGIS遺伝子導入により生成される細胞内プロスタサイクリンが、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR-δ) を活性化することによりアポトーシスを誘導するという、全く新しいメカニズムを発見した。この新たな知見に基づき、本発明は、PPAR- δの活性化(結合も含む)を指標としたアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【0074】
本発明の細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法は、被検物質の存在下に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−δの活性化を決定することを特徴とする。本スクリーニング法によれば、前記メカニズムによりアポトーシスを誘導しうる物質のスクリーニングを簡便に行なうことができる。
【0075】
本発明のスクリーニング方法は、PPAR- δと被検物質とが接触でき、さらに、PPAR- δの活性化を測定・評価できるものであれば、どのような方法であっても本発明の範疇に含まれる。
【0076】
本発明の細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング方法としては、具体的には、PPAR−応答エレメント(PPRE)とレポーター遺伝子とを連結したプラスミドを保持した形質転換細胞と被検物質とを接触させ、レポーター遺伝子発現量の増加をアポトーシス誘導能の指標とする方法(態様1);ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−δと被検物質とをイン・ビトロで接触させる方法(態様2)、が挙げられる。以下、態様1および態様2の方法を説明する。
【0077】
態様1の方法
まず、PPARの応答エレメントであるPPREを含む配列をレポーター遺伝子に連結したプラスミドを作製する。ここでPPREを含む配列としては、実施例記載の3 つのPPREコピーを含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。また、レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ) 、ALP(アルカリフォスファターゼ) 、GH( 成長ホルモン) などの遺伝子が挙げられる。前記レポーター遺伝子と、SV40、βグロビン、チミジンキナーゼ等のプロモーターの組み込まれたプロモーターベクターが種々市販されており、いずれも使用することができる。具体的には、pGL3- プロモーターベクター (Promega 社製) などが挙げられる。
【0078】
次に、前記プラスミドを細胞に導入して、形質転換細胞を作製する。ここで、宿主として用いられる細胞としては、PPAR- δを内在的に発現しており、レポーター遺伝子活性が検出できるような細胞であれば、いかなる細胞であってもよい。具体的には、実施例で用いたHEK-293 細胞(ATCC CRL-1573) が挙げられる。また、細胞へのプラスミドの導入法としては、リン酸カルシウム法、LT-1(Panvera社製) を用いた手法、LipofectAMINE (Gibco-BRL社製) を用いた手法などが挙げられる。
【0079】
以上のように作製された形質転換細胞は、前記プラスミドからレポーター遺伝子を一過的に発現する細胞であってもよく、レポーター遺伝子を安定に保持する細胞 (安定形質転換体) であってもよい。特に安定形質転換体は、スクリニーングのたびに遺伝子導入を行なう手間が省け、スクリーニングがより簡便かつ短時間で行なえるため、好ましい細胞である。
【0080】
このようにして作製された形質転換細胞に対して被検物質を添加し、該被検物質がレポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを測定・評価することにより、アポトーシス誘導剤の候補を選択することができる。レポーター遺伝子発現量を増加させた被検物質は、アポトーシス誘導剤の候補である。したがって、この選択された被検物質を、さらに実施例記載のカスパーゼ活性を指標としたアポトーシスアッセイ等に供することにより、細胞に対するアポトーシス誘導剤を選択することができる。
【0081】
態様2の方法
精製PPAR- δと被検物質とをイン・ビトロで接触させ、結合するか否かを測定・評価する。ここで、精製PPAR- δは、PPAR- δ遺伝子[Endocrinology, 137, No.1,354-366(1996) 、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., Vol.91, 7355-7359(1994)] を常法によりクローニングして発現させることなどにより、得ることができる。
【0082】
精製PPAR- δと被検物質との結合は、例えば、PanVera 社製のFull-Range BEACON 2000などを用いた蛍光偏光度測定が挙げられる。また、ラベル化したプロスタサイクリンやその誘導体(イロプラストなど)と精製又は免疫沈降させたPPAR- δとの結合を、被検物質が競合阻害するか否かを測定することなどにより検出することができる。
【0083】
このようなスクリーニング方法により選択された被検物質を前記と同様のアポトーシスアッセイ等に供することにより、細胞に対するアポトーシス誘導剤を選択することができる。
【0084】
【実施例】
実施例1
実験手法
(1)抗体の調製、並びに抗PGIS抗体とHoechst 33258 とを使用した2重染色
ヒトPGISにおけるアミノ酸番号:27〜45に対応するPI:PGEPPLDLGSIPWLGYALDC(配列番号:1)又はキーホールリンペットヘモシアニンに結合するアミノ酸番号:485 〜500 に対応するP4:LMQPEHDVPVRYRIRP(配列番号:2)の合成ペプチドは、それぞれペプチド工業(Peptide Institute Inc.)により調製された。ニホンシロウサギを、フロイント完全アジュバントと混和した1mgのペプチドで免疫した。P1及びP4に対する抗血清の両方は、イムノブロッティングに有用であった。本研究においては、P1に対する抗血清を、イムノブロッティングに使用し、P4抗血清を、免疫蛍光染色に使用した。
【0085】
モノレイヤー状に培養したヒト胎児腎由来HEK-293 細胞(ATCC CRL-1573) を、10%ウシ胎児血清(FBS) と100U/ml ペニシリンと100mg/mlストレプトマイシンとを含むダルベッコ改変イーグル培地中に播種した(60mmディッシュあたり3×105 細胞)。24時間のインキュベーション後、LipofectAMINE (Gibco-BRL社製) を使用して、3μg のPGISwt(後述)、PGISC441A (後述)又はコントロールベクターpCMV7 [ テキサス大学より供与;Andersson, S. et al., J. Biol. Chem., 264, 8222-8229 (1989);なお、pcDNA3(Invitrogen 社製、カタログ番号:#A-150228) でも可能] のいずれかと0.3mg のpVA (アデノウイルス付随RNA1をコードするプラスミド)とを用いて細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの5時間後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS) で2回リンスし、ついで新鮮な培地を再添加した。遺伝子導入後、計48〜60時間培養した後、細胞をPBS でリンスし、3.7 %のホルムアルデヒドで10分間固定した。固定した細胞をPBS で3回洗浄した後、抗PGIS抗体P4とともに、2時間インキュベートし、2% FBSを含むPBS で3回洗浄した。ついで、洗浄後の細胞を抗ウサギIg-Texas Redとともに37℃で1時間インキュベートし、1mM Hoechst 33258により室温で15分間染色した。
【0086】
(2)オリゴヌクレオチド及びHVJ-リポソーム法
ヒトPPAR- δ cDNA センス配列に対応するdS:5'-CTCGGTGACTTATCCTGTG-3' (配列番号:3)、ヒトPPAR- δ cDNA アンチセンス配列に対応するdAS :5'-TCCTCTTTCTCCTCCTCTT-3' (配列番号:4)、ヒトPPAR- α cDNA センス配列に対応するaS:5'-CTCGGTGACTTATCCTGTG-3' (配列番号:5)及びヒトPPAR- α cDNA アンチセンス配列に対応するaAS :5'-CACAGGATAAGTCACCGAG-3' (配列番号:6)のそれぞれのオリゴヌクレオチドについて、ESPEC oligo service Co. Ltd.により調製した。これらのオリゴヌクレオチドを、HVJ-リポソーム法を用いることにより細胞にトランスフェクトした。各オリゴヌクレオチド(22μg )と核タンパク質、高移動度群(HMG)-1 とを混合した。乾燥脂質(ホスファチジルセリン/ホスファチジルコリン/コレステロール、1:4.8:2 w/w/w )と紫外線光不活化HVJ ウイルスとを混合することにより、HVJ-リポソームを調製した。インキュベーション及びスクロース勾配遠心分離後、最上層をトランスフェクションのために回収した。トランスフェクションの48時間後、内在性のPPAR- δ発現が抑制される細胞を、PPREx3- ルシフェラーゼアッセイとアポトーシスアッセイとに使用した。
【0087】
(3)PPREx3- ルシフェラーゼアッセイ
センスオリゴヌクレオチドのCGCGTAAAAACTGGGCCAAAGGTCTCAAAAACTGGGCCAAAGGTCTAAAAACTGGGCCAAAGGTCTC (配列番号:7)とアンチセンスオリゴヌクレオチドのTCGAGAGACCTTTGGCCCAGTTTTTAGACCTTTGGCCCAGTTTTTAGACCTTTGGCCCAGTTTTA (これは、3コピーのPPREを含む;配列番号:8)を合成し、アニールし、pGL3- プロモーターベクター(Promega 社製)のMluI-XhoI 部位にサブクローン化した。HEK-293 細胞を、LipofectAMINE によって、PPREx3- ルシフェラーゼレポーターベクターとβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターとで、共トランスフェクトした。β−ガラクトシダーゼ活性について、値を、405nm での吸光度により標準化した。
【0088】
(4)アポトーシスアッセイ
LipofectAMINE を用いて、1.0 μg のβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターで細胞をトランスフェクトした。所定の時間後、X-Gal で細胞を染色し、アポトーシス性の形態について評価した。Ac-DEVD-AFC 基質を使用するApoAlertカスパーゼアッセイキット(Clontech社製)でアポトーシスをモニターした。この活性を、コントロールとしてAc-DEVD-CHO で前処理された溶解物を使用して、製造業者の指示に従って決定した。カスパーゼ活性は、サンプルのカスパーゼ活性と、擬似プラスミドでトランスフェクトされたHEK-293 細胞から調製された溶解物におけるカスパーゼ活性との間の比率として示される。
【0089】
結果
本発明者らは、ウシ大動脈内皮細胞 (BAEC) 又はマウス血管平滑筋由来のSVS30 細胞におけるCOX-2 の過剰発現が、膜小疱形成及び細胞体凝縮(アポトーシスの典型的な特徴)[Yang, X. ら, Cell 89, 1067-1076(1997)] を含む、有意な形態学的変化を生じることを見出した(図1b 、d )。他方、ヒト胎児腎上皮細胞株293(HEK-293)又はサル腎由来のCV-1細胞への、COX-2 発現ベクターのトランスフェクションは、変化を全く生じなかった (図1f 、i)。BAEC及びSVS30 は、内在性のPGISを発現するが、HEK-293 もCV-1も、PGISを発現しない。しかしながら、アポトーシスとPGISとの間の関係は、この段階では不明であった。
【0090】
そこで、アポトーシスが、PGISの発現に依存するか否かを試験するために、PGISについての発現プラスミドが、COX-2 発現ベクターとともに、HEK-293 細胞又はCV-1細胞に共トランスフェクトされた。図1g 、j において示されるように、両方の細胞株の形態が、劇的に変化した。PGISによって生成されるプロスタサイクリンが、アポトーシスの誘導に関与するという可能性を試験するために、酵素学的に活性な野生型ヒトPGIS(PGISwt)又は不活性な変異体PGISC441A (PGISの活性部位のCys 残基での部位特異的変異を誘発させた酵素)に対する発現ベクターを、HEK-293 にトランスフェクトした[Hatae, T.ら, FEBS Lett. 389, 268-272 (1996)] 。細胞におけるPGISの発現を確認するために、抗PGISポリクローナル抗体を使用する免疫蛍光染色を行った。同時に、アポトーシスと関連する典型的な形態学的変化であるクロマチン凝集を調べるために、フルオロクロムビスベンジミド(Hoechst 33258) 色素染色法を使用して測定した。PGISwtの発現により、コントロール細胞と比較して、有意に、細胞の正常性及び生存性が低減した。図2a 及びb において示されるように、PGISwtタンパク質を発現するPGISポジティブ細胞は、Hoechst 33258 によって特異的に染色されることが観察された。これらの細胞から抽出されたゲノムDNA は、ラダーであった(データ示さず)。図2c において示されるように、野生型酵素の発現のレベルに類似する変異体PGISの発現のレベルが、免疫蛍光染色によって検出されたが、PGISC441A タンパク質を発現するPGISポジティブ細胞は、Hoechst 33258 によって染色されなかった (図2c 、d)。図3a において示されるように、アポトーシスHoechst 33258 ポジティブ細胞の数の増加は、時間依存性であった。さらに、PGIS発現細胞の数に比較して、Hoechst 33258 ポジティブ細胞の数は、100 μM U46619 (PGISのインヒビター) [Zou, M.ら,Biol. Chem. 378, 707-713(1997)] (32%) 、又は100 μM アスピリン (COX インヒビター) (48 %) での細胞の処理によって減少された(データ示さず)。細胞が、漸増量のPGISwt発現ベクターでトランスフェクトされる場合、イムノブロッティングによって検出される細胞中で発現されるPGISwtタンパク質の量、及びアポトーシス細胞の数の両方が、相関して増加された (図3b)。他方、PGISC441A 発現ベクターが、同じ条件下で細胞にトランスフェクトされる場合、アポトーシス細胞の数は増加しなかったが、PGISC441A タンパク質の発現レベルの増加は、PGISwtの発現レベルの増加と同じであった。これらの結果は、HEK-293 細胞におけるクロマチンの凝集は、活性なPGISの発現を必要とすることを示す。
【0091】
PGISの発現とアポトーシスとの間の関係を厳密に確認するために、HEK-293 細胞を、ヒトPGISwt及びβガラクトシダーゼについての2つの発現コンストラクトで、共トランスフェクトした。HEK-293 細胞の正常な平らな形態は、膜小疱形成及び細胞体凝縮によって特徴付けられるアポトーシス細胞の評価を容易にする。トランスフェクションから規定されたインキュベーション時間経過後、トランスフェクトされた細胞をマークするために、細胞を、β−ガラクトシダーゼ活性について、X-gal で染色し、アポトーシス形態について評価した。60時間後、アポトーシス形態学に対する劇的な変化が、青色の細胞において特異的かつ有意に観察された(図4a )。対照的に、PGISC441A 発現ベクターが、トランスフェクションに使用された場合、形態学的な変化は何も見られなかった(図4b )。これらの結果は、酵素学的に活性なPGISの発現が、細胞がアポトーシスを受けるために必要であることを示す。HEK-293 細胞において、アポトーシスは、COX-2 の共発現を伴わずにPGISwtの発現によって誘導された (図4 a 、図5) 。COX-2 が、PGISwtと共発現される場合、アポトーシス細胞の数は増加された(16%)。さらに、培地へのアラキドン酸の添加は、PGISwt及びCOX-2 の両方を発現するほとんど全ての細胞においてアポトーシスを誘導した。培養培地に放出される6-ケト-PGF1 αの濃度は、アポトーシスの頻度と相関した (図6)。COX-2 の代わりの、COX-1 の共発現は、類似の結果を与えた(データ示さず)。PGISC441A 発現ベクターが、トランスフェクションに使用された場合、6-ケト-PGF1 αの生成は検出されず、形態学的な変化を受ける細胞の数は増加しなかった(図5 、図6 、図4b)。PGISC441A とCOX-2 との共発現も、アラキドン酸のさらなる補充も、6-ケト-PGF1 αの生成や形態学的な変化に影響しなかった (図5 、図6)。これらの知見は、アポトーシスのプロセスにおける、活性なPGISによって生成されるプロスタサイクリンの関与を明らかに示唆する。
【0092】
次の問題は、どのカスケードが、この系においてプロスタサイクリンにより誘導されるアポトーシスに寄与するのかということである。アポトーシスを誘導する経路を決定するために、細胞に対するプロスタサイクリンの効果を、イロプロスト(安定なプロスタサイクリンアナログ)を使用して、試験した。図7 において示されるように、β- ガラクトシダーゼとPGISwt又はPGISC441A とを共発現する細胞を種々の濃度のイロプロストで処理したところ、細胞内cAMPが蓄積された場合であっても (図8)、アポトーシスを誘導しなかった。プロスタサイクリン及びイロプロストの両方は、膜結合性のGタンパク質共役型プロスタサイクリン受容体、IP及び/又はプロスタグランジンE 受容体のEPを介して、cAMPの細胞内濃度を上昇させる。本研究においてRT-PCR法によってIP mRNA の発現は検出されなかったが(データ示さず)、HEK-293 細胞においてEPが発現されること、及びPGE1が、cAMPの細胞内濃度を上昇させること[Venable, M. E. ら, J. Biol. Chem. 269, 26040-26044(1994)]が報告されている。プロスタサイクリンは、高濃度でEPを刺激し得るので、cAMPは、EPを介するプロスタサイクリン刺激の結果として蓄積されたと考えられる。しかし、アポトーシスを受ける細胞の数は、増加しなかった。実際、ジブチリルcAMP(dbcAMP)での細胞の処理は、アポトーシスを促進しなかった (図9)。興味深いことに、イロプロスト及びdbcAMPは、実際、これらの細胞のアポトーシスを、ある程度(5%〜30%)阻害した (図7 、図9)。アポトーシスは、通常、細胞タンパク質のリン酸化及びタンパク質キナーゼの活性化と関連する。タンパク質キナーゼ経路とプロスタサイクリン媒介性のアポトーシスとの間の関係を試験するために、細胞を、タンパク質キナーゼインヒビターで処理した。図10において示されるように、H-7(cAMP依存性のタンパク質キナーゼ、cGMP依存性タンパク質キナーゼ、及び脂質依存性タンパク質キナーゼC に同等に作用するセリン- スレオニンタンパク質キナーゼインヒビター)は、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスをブロックせず増強させた。これらのデータは、これらのキナーゼによって触媒されるセリン- スレオニンリン酸化事象は、プロスタサイクリン誘導性のアポトーシスの誘導に関与しないことを示唆し、及びプロスタサイクリン媒介性のアポトーシスの誘導は、Gタンパク質共役型受容体/第2メッセンジャー/タンパク質キナーゼシグナル伝達経路の刺激によって促進されないことを示す。本発明者らのデータは、IP及びEPから独立してアポトーシスを誘導する、新規なプロスタサイクリンシグナル伝達経路を示唆する。
【0093】
PPARは、核ホルモン−受容体ファミリーのメンバーであり、かつそれ自身、リガンド活性化転写因子である[Nagy, L. ら, Cell 93, 229-240 (1998)]。これらの受容体は、脂質低下性のフィブラート(例えば、クロフィブラート)、種々の脂肪酸、及びいくつかのアラキドン酸代謝物によって、活性化され得る。3つの亜型の、PPAR- α、- δ(- β又はNUCIとしてもまた知られる)、及び- γが、同定されている[Braissant, O.ら, Endocrinology 137, 354-366 (1996)]。PPARは、それらの標的遺伝子のプロモーター中のPPAR- 応答エレメント(PPRE)と呼ばれるDNA モチーフに結合するPPAR-RXRヘテロ2量体を介して、それらの標的遺伝子を活性化することが知られている。PPAR間で、最も十分には理解されていないのが、PPAR- δ亜型の生物学であるが、イロプロスト及びカルバサイクリンが、CV-1において過剰発現された組換えPPAR- δのリガンドであることが報告されている[Forman, B. M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 4312-4317 (1997)]。他方、不安定なエイコサノイドのプロスタサイクリンが、内在性のPPAR- δのネイティブなリガンドであるか否かは、これが不安定であるので、不明であった。ネイティブなプロスタサイクリンが、PPARを活性化し得るか否かを決定するために、PPAR- 応答性エレメント(PPRE)の制御下でルシフェラーゼを発現するレポータープラスミドを構築した。細胞内リガンドの存在下で、PPARは、PPREに結合し、そしてルシフェラーゼの遺伝子の転写を活性化し、ルシフェラーゼ活性が増加する。内部コントロール基準としてのβ- ガラクトシダーゼ発現ベクター、PPRE- ルシフェラーゼレポータープラスミド、及びPGISwt又はPGIS441Aについての発現プラスミドで、細胞を共トランスフェクトした。PGISwt発現プラスミド及びPPRE- ルシフェラーゼレポーターを、細胞に共トランスフェクトした場合、ルシフェラーゼ活性は、細胞内6-ケト-PGF1 αの量と平衡して増加した(図11、図12)。PGISC441A 及びレポーターを、細胞に共トランスフェクトした場合、6-ケト-PGF1 αの生成も、ルシフェラーゼ活性の誘導も見られなかった。図13において示されるように、イロプロスト(1〜100 μM )は、この系においてPPRE- ルシフェラーゼ活性を増加できなかった。多くのPGが、PG輸送体によって、細胞膜を横切って細胞に輸送されると考えられている[Kanai, N.ら, Science 268, 866-869 (1995)]。他方、イロプロストは、PG輸送体によって細胞にほとんど誘導されないことが報告されている[Chan, B. S.ら, J. Biol. Chem. 273, 6689-6697(1998)]。本発明者らはまた、HEK-293 細胞におけるイロプロストの取込みが、非常に低いこと、及び大部分の取込まれたイロプロスト(99%<)が、細胞膜に局在化されること(図14)、を確認した。培地に添加されたプロスタサイクリンは、CV-1細胞中で過剰発現された組換えPPARを活性化できなかったが、イロプロストの添加により、細胞中で過剰発現された組換えPPARが活性化されることが報告されている[Hertz, R.ら, Eur. J. Biochem. 235, 242-247 (1996)] 。本発明者らのデータは、培養培地に添加されたイロプロストが、HEK-293 細胞において発現される内在性のPPARを活性化できなかったことを示した。HEK-293 細胞は、細胞内及び細胞外のシグナル伝達を別々に特徴付けするための良好なモデルである。これらの観察は、PGISwtによって生成される細胞内プロスタサイクリンは、PPARを活性化することによってアポトーシスを誘導するが、細胞外プロスタサイクリンは誘導しないという結論を導く。
【0094】
イロプロストは、PPAR- α及び- δの両方に対するリガンドとして作用する。PPAR- αは、肝細胞、心筋細胞、腸細胞、及び腎臓の近位尿細管細胞中で高度に発現される[Tone, Y. ら, Eur. J. Cell. Biol. 72, 268-277(1997)]。PPAR- αは、肝細胞においてアポトーシスの発現を阻害し得[Carcinogenesis, 19, 43-48 (1998)]、及びまた、TNF-αで活性化されたヒトマクロファージにおいてアポトーシスを促進する[Chinetti, G. ら, J. Biol. Chem. 273, 25573-25580(1998)]。他方、PPAR- δは、普遍的に、及び、しばしばPPAR- α及びPPAR- γよりも高いレベルで、発現される[Endocrinology 139, 2748-2754, (1998)]。さらに、PPAR- δの生物学的及び生理学的機能は、明らかでない。プロスタサイクリンによって活性化されるアポトーシスを促進するシグナル伝達経路を明らかにするために、これらのPPARについてのアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用した。アンチセンスオリゴヌクレオチドPPAR- αを、HVJ-リポソーム法[Todaka, T. ら,Stroke 30, 419-426(1999)]を使用して、HEK-293 細胞にトランスフェクトした場合、アポトーシスは阻害されず、実際、細胞の生存率は低下された(データ示さず)。対照的に、同じ方法を使用した、PPAR- αセンスオリゴヌクレオチドでの細胞のトランスフェクションは、顕著な変化を引き起こさなかった。これらの結果は、PPAR- αが、HEK-293 細胞の生存性を維持するにおいて重要な役割を果たし得ること、及びプロスタサイクリン媒介性のアポトーシスは、PPAR- αを介して促進されないことを示す。
【0095】
従って、本発明者らは、PPAR- δが、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスについての重要な分子として作用する第2のプロスタサイクリン受容体であると考えた。このことを直接的に調査するために、本発明者らは、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチドを、HVJ-リポソーム法を使用して、HEK-293 細胞にトランスフェクトした。48時間後、PPAR- δタンパク質の抑制が、イムノブロッティングによって確認された(図15)。PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理された細胞の形態は正常であり、細胞の数は増加された。PGISwt発現ベクター及びβ- ガラクトシダーゼ発現ベクターを、アンチセンスオリゴヌクレオチドとともに、細胞に共トランスフェクトした場合、アンチセンスオリゴヌクレオチドを保有するアポトーシス細胞の数の減少によって評価されるように、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスが、有意にブロックされた(図16)。さらに、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理された細胞においては、PGISwtとともに共発現されたルシフェラーゼの活性は、有意に減少された。これらの結果は、イロプロスト及びカルバプロスタサイクリンのみでなく、プロスタサイクリンもまた、PPAR- δのリガンドであることを、明らかに示す。図17及び図18において示されるように、ルシフェラーゼ活性の増加は、カスパーゼ活性の増加と平行であった。これらの結果はまた、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスが、内在性のPPAR- δの発現に依存することを示している。
【0096】
本発明者らは、プロスタサイクリンが、PPAR- δの真正の天然のリガンドであること、及びプロスタサイクリンによる内在性のPPAR- δの活性化が、HEK-293 細胞におけるアポトーシス経路の活性化を生じることをはじめて示した。プロスタサイクリンは、核PPAR- δ及び細胞表面受容体の両方と相互作用し、cAMPの細胞内濃度を増加し、そしてこれらのシグナル伝達は、それぞれ、細胞アポトーシス及び/又は生存性に対する、反対の生物学的効果を、協同して行使する。本発明者らは、図19中の模式図において示されるように、核受容体PPAR- δを含むプロスタサイクリンシグナル伝達経路に収束した。なぜ、PGISを発現する内皮細胞及び血管平滑筋細胞が、内因的にアポトーシスを受けないのであろうか。なぜなら、内皮細胞及び血管平滑筋細胞はまた、内在性のプロスタサイクリン受容体(IP)(これは、低濃度のプロスタサイクリンでcAMPのレベルを増加する)を発現するからである。IP/cAMP/タンパク質キナーゼ経路は、これらの細胞を、オートクリン及び/又はパラクリン作用によって、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスから保護し得ることが考えられ得る。従って、HEK-293 及びCV-1のようなIP発現を欠損する細胞は、プロスタサイクリン媒介性のアポトーシスを容易に受けると考えることが可能である。さらに、PPAR- α、PPAR- δ、及びGタンパク質共役型PG受容体と共役して、プロスタサイクリンによって調節される細胞運命の制御についての、精巧な機構が存在し得るかも知れない。この新規な経路を含むプロスタサイクリンシグナル伝達カスケードのさらなる特徴づけが、本発明者らの研究室で進行中である。
【0097】
実施例2 ヒト結腸癌細胞におけるアポトーシスの誘導
慣用の部位特異的変異導入法により、PGISの活性中心にアラニンを導入して作製した不活性型PGIS遺伝子(PGISC441A) または天然型PGIS遺伝子(PGISwt)を、ヒト結腸癌細胞Caco2 細胞にトランスフェクトした。なお、トランスフェクションは、LipofectAMINE を用い、1.0 μg のβ−ガラクトシダーゼ発現ベクターと前記遺伝子とを共トランスフェクトすることにより実施した。また、対照として、HEK-293 細胞およびCV-1細胞も同様にトランスフェクトした。60時間後、X-gal で染色した。その結果を図20に示す。
【0098】
図20に示すように、PGISwtを導入した細胞だけにアポトーシスが認められた。したがって、PGIS遺伝子を導入することにより、癌細胞においてアポトーシスを誘導することが示され、PGIS遺伝子が癌治療に有効であることが示された。
【0099】
実施例3 PGIS遺伝子導入による癌治療の評価
慣用の方法により、PGIS遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、組換えアデノウイルスベクターを得た。得られた組換えベクターを癌の遺伝子治療用医薬組成物として用いる。
【0100】
(1)動物実験
腫瘍の形成が確認されたヌードマウスの癌モデルに適切な用量の遺伝子治療用医薬組成物を適当な投与回数(1,2,3回)投与する。同時に、腫瘍径の変化を観察する。対照群として、プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を含まないアデノウイルスベクターを投与した群を用いる。さらに投与量、投与回数などを評価する場合、適宜投与量、投与回数を変えた群を用いる。本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物を投与した群(投与群)と対照群のそれぞれにおいて、腫瘍の形成を確認し、腫瘍サイズを測定する。
【0101】
これにより、投与群において、より腫瘍の退縮が見られた場合、動物実験レベルで癌の治療ができたことを示す指標となる。また、組織について、前出のアポトーシスの特徴の評価の手法により評価することができる。これにより、投与群において多くのアポトーシス細胞の存在が確認された場合、動物実験レベルで本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物のアポトーシス誘導効果が発揮されたことの指標となる。
【0102】
(2)ヒト個体における臨床試験
適切な用量の遺伝子治療用医薬組成物を適当な投与回数投与する。その後、日本遺伝子治療学会編遺伝子治療開発研究ハンドブック, エヌ・ティー・エス,1999 の記載に基づき、組換えアデノウイルスベクターの細胞傷害性、他の個体への感染性、染色体への組み込みを調べる。
【0103】
個体における癌治療の臨床的効果は、腫瘍の定期的な写真撮影、CTスキャン、MRIなどでの記録により、腫瘍径を測定し、直交する長径と短径から推定腫瘍体積を算出し腫瘍の増殖を計算し、腫瘍の評価指標に基づき評価する。また、アポトーシスの有無を組織の形態学的観察により評価する。また、分子生物学的解析として、有効成分のDNA の標的細胞内の存在を確認するためのPCR などによる検出、アポトーシスのTUNEL 染色法などによる検出などを行なう。
【0104】
実施例4 細胞に対するアポトーシス誘導剤のスクリーニング
PPARの応答エレメントである実施例1記載の3 つのPPREコピーを含むオリゴヌクレオチドをレポーター遺伝子に連結したプラスミドを作製する。レポーター遺伝子として、ルシフェラーゼ遺伝子を用い、プラスミドとして、pGL3- プロモーターベクター (Promega 社製) を用いる。
【0105】
次に、前記プラスミドを細胞に導入して、形質転換細胞を作製する。ここで、宿主として用いられる細胞としては、PPAR- δを内在的に発現しており、レポーター遺伝子活性が検出できるような細胞であるHEK-293 細胞(ATCC CRL-1573) を用いる。細胞へのプラスミドの導入は、LipofectAMINE (Gibco-BRL社製) を用いた手法により行なう。
【0106】
このようにして作製された形質転換細胞に対して被検物質を添加し、該被検物質がレポーター遺伝に発現量を増加させるか否かを測定・評価することにより、アポトーシス誘導剤の候補を選択することができる。レポーター遺伝子発現量を増加させた被検物質は、アポトーシス誘導剤の候補である。したがって、この選択された被検物質を、さらに前記実施例1記載のカスパーゼ活性を指標としたアポトーシスアッセイ等に供することにより、細胞に対するアポトーシス誘導剤を選択することができる。
【0107】
配列表フリーテキスト
配列番号:1は、ヒトPGISのアミノ酸番号:27〜45に対応する合成ペプチドのアミノ酸配列である。
【0108】
配列番号:2は、ヒトPGISのアミノ酸番号:485 〜500 に対応する合成ペプチドのアミノ酸配列である。
【0109】
配列番号:3は、HVJ-リポソーム法用オリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0110】
配列番号:4は、HVJ-リポソーム法用オリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0111】
配列番号:5は、HVJ-リポソーム法用オリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0112】
配列番号:6は、HVJ-リポソーム法用オリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0113】
配列番号:7は、PPREx3- ルシフェラーゼアッセイ用のオリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0114】
配列番号:8は、PPREx3- ルシフェラーゼアッセイ用のオリゴヌクレオチドの塩基配列である。
【0115】
【発明の効果】
本発明のアポトーシス誘導用医薬組成物によれば、アポトーシスの誘導が治療効果につながる疾患の治療が可能になるという優れた効果を奏する。また、本発明の癌の遺伝子治療用医薬組成物によれば、アポトーシスを誘導し、それにより、癌細胞を細胞死に至らしめることができる。さらに、本発明のスクリーニング法は、アポトーシスを誘導しうる薬剤を簡便にスクリーニングすることが可能である。
【0116】
【配列表】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、BAEC細胞、SVS30 細胞、HEK-293 細胞、又はCV-1細胞に対する、COX-2 発現の影響を示す図である。細胞は、β- ガラクトシダーゼ、及び擬似(a、c、e、h)又はCOX-2 (b、d、f、i)についての発現ベクターで共トランスフェクトされ、X-Gal で染色された。HEK-293 細胞(g)及びCV-1細胞(j )は、野生型PGIS(PGISwt)発現ベクターで共トランスフェクトされた。
【図2】図2は、ヒト胎児腎上皮細胞株HEK-293 中における野生型PGIS(PGISwt)、不活性型(PGISC441A) の発現による影響を示す図である。野生型PGIS(PGISwt)はHEK-293 においてアポトーシスを促進する。細胞を、PGISwtの発現プラスミドで(a、b)、PGISの不活性な形態(PGISC441A )の発現プラスミドで(c、d)、又はネガティブコントロールの擬似プラスミドで(e、f)、トランスフェクトした。細胞を、3.7 %ホルムアルデヒドで固定し、そして抗PGISポリクローナル抗体P4(a、c、e)、又は蛍光色素ビス- ベンジミド(Hoechst 33258 )(b、d、f)で、2重染色した。細胞中で発現されるPGISwt(a)及びPGISC441A (c)の免疫検出を、Texas-red結合2次抗体を使用して行った。
【図3】図3は、抗PGISポジティブ細胞に対するアポトーシス及びHoechst 33258 ポジティブ細胞の、経時的な割合(a)とアポトーシスに対する、PGISwt又はPGISC441A それぞれの発現プラスミドの漸増量の影響(b)を示す図である。上部パネルにおいて、発現されるPGIS(PGISwt及びPGISC441A )を、抗PGIS抗体P1を使用するイムノブロッティング分析によって検出した(b)。細胞中で発現されるPGISwtタンパク質の量及びアポトーシス細胞のパーセントは、相関して増加した(下部パネル)。
【図4】図4は、細胞を、PGISwt(a)又はPGISC441A (b)とβ- ガラクトシダーゼの発現構築物とで共トランスフェクトした結果を示す図である。
【図5】図5は、示された発現構築物を用いてトランスフェクトした全細胞に対するアポトーシス細胞の割合を示す図である。細胞を、アラキドン酸を伴って、又は伴わないで、β- ガラクトシダーゼ、COX-2 、及びPGISwt又はPGISC441A 又はmoc発現ベクターの、示される組み合わせで、トランスフェクトした。全体の青色細胞に対するアポトーシス形態学(例えば、膜小疱形成及び細胞体凝縮)を有する青色細胞のパーセントを測定した。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図6】図6は、示された発現構築物を用いてトランスフェクトした全細胞における6-ケト-PGF1 αの濃度を測定した結果を示す図である。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図7】図7は、示された濃度(0、1、10、100 μM )のイロプラストを含有した血清非含有培地における、特異的なアポトーシスを受ける細胞の割合を示す図である。細胞を、PGISwt、PGISC441A 又は擬似の発現プラスミドとβ- ガラクトシダーゼの発現プラスミドとでトランスフェクトした。17時間後、培地を、いくつかの濃度(0、1、10、100 μM )のイロプロストを含有した血清非含有培地に交換した。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図8】図8は、示された濃度(0、1、10、100 μM )のイロプラストを含有した血清非含有培地における細胞中に蓄積される細胞内cAMPの濃度を示す図である。細胞を、PGISwt、PGISC441A 、又は擬似、及びβ- ガラクトシダーゼについての発現プラスミドでトランスフェクトした。17時間後、培地を、いくつかの濃度(0、1、10、100 μM )のイロプロストを含有した血清非含有培地に交換した。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図9】図9は、示された濃度(0、1、10、100 μM )のdbcAMPを含有した血清非含有培地における、特異的なアポトーシスを受ける細胞の割合を示す図である。細胞を、PGISwt、PGISC441A 又は擬似の発現プラスミドとβ- ガラクトシダーゼの発現プラスミドとでトランスフェクトした。17時間後、培地を、いくつかの濃度(0、1、10、100 μM )のdbcAMPを含有した血清非含有培地に交換した。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図10】図10は、示された濃度(0、1、10、100 μM )のdbcAMPを含有した血清非含有培地における、特異的なアポトーシスを受ける細胞の割合を示す図である。細胞を、PGISwt、PGISC441A 、又は擬似、及びβ- ガラクトシダーゼについての発現プラスミドでトランスフェクトした。17時間後、培地を、いくつかの濃度(0、1、10、100 μM )のH-7 を含有した血清非含有培地に交換した。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図11】図11は、PPAR活性化に対するPGIS発現の影響を示す図である。PPREの活性化の倍率を、いくつかの量(0、0.1 、0.5 、1μg)の、PGISwt又はPGIS441Aについての発現プラスミドで、共トランスフェクトした、PPRE×3-ルシフェラーゼレポータープラスミドを使用することによって測定した。結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図12】図12は、細胞内6-ケトPGF1α濃度に対するPGIS発現の影響を示す図である。漸増量(0、0.1 、0.5 、1μg)の、PGISwt又はPGIS441Aについての発現プラスミドで共トランスフェクトされた細胞の細胞内6-ケト-PGF1 αの濃度を、EIA によって測定した。結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図13】図13は、PPAR活性化に対するPGIS発現の影響を示す図である。PPREの活性化の倍率に対するイロプロスト(100 μM )の効果を、HEK-293 細胞又はCV-1細胞に1μgのPGISC441A 発現ベクターでトランスフェクトされた、PPREx3- ルシフェラーゼプラスミドを使用して、測定した。結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図14】図14は、PPAR活性化に対するPGIS発現の影響を示す図である。イロプロストの透過性を3H- イロプロストを使用して測定した。HEK-293 細胞を、100 μM 3H- イロプロストを含有するDMEM中で、24時間、培養した。細胞の細胞膜、細胞質ゾル、及び核を調製し、そして3H- イロプロストの分布を計数した。結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図15】図15は、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるPPAR- δ発現の抑制を示す図である。抗PPAR- δモノクローナル抗体を用いた、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)でトランスフェクトされた細胞から調製された溶解物のイムノブロッティング。センスオリゴヌクレオチド(S )を、コントロールとして使用した。
【図16】図16は、PGISの発現によって誘導されるプロスタサイクリン媒介性のアポトーシスに対する、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)によるPPAR- δ抑制の効果を示す図である。センスオリゴヌクレオチド(S )を、コントロールとして使用した。
【図17】図17は、PGISの発現によって誘導されるPPAR活性化に対する、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)を使用することによる、PPAR- δ抑制の効果を示す図である。
【図18】図18は、カスパーゼ活性に対する、PPAR- δアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS)を使用することによるPPAR- δ抑制の効果を示す図である。全ての結果は、3回の実験(n= 3)の平均±S.D.を示す。
【図19】図19は、細胞運命の調節について、cAMP伝達経路と反対の効果を呈する、核受容体PPAR- δを含むプロスタサイクリンシグナル伝達経路のモデルを示す図である。
【図20】図20は、不活性型PGIS遺伝子(PGISC441A) または天然型PGIS遺伝子(PGISwt)をヒト結腸癌細胞Caco2 細胞にトランスフェクトした結果を示す図である。
Claims (6)
- プロスタサイクリン合成酵素遺伝子を有効成分として含有してなる、細胞におけるアポトーシス誘導用医薬組成物。
- シクロオキシゲナーゼ−2遺伝子を含有した他の薬剤との併用に供するものである、請求項1記載のアポトーシス誘導用医薬組成物。
- シクロオキシゲナーゼ−1遺伝子を含有した他の薬剤との併用に供するものである、請求項1記載のアポトーシス誘導用医薬組成物。
- 前記細胞が癌細胞である、請求項1〜3のいずれか1に記載のアポトーシス誘導用医薬組成物。
- 癌が固形癌である、請求項4記載のアポトーシス誘導用医薬組成物。
- 請求項1〜5のいずれか1に記載のアポトーシス誘導用医薬組成物を有効成分として含有してなる、癌の遺伝子治療用医薬組成物。
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