以下、図面を参照して本発明を説明する。図1は、本発明に係る無線通信システムの第1実施形態の基本構成を示すブロック図である。この基本構成は、第2および第3実施形態でも同じである。なお、本発明は、無線通信システムとしてだけでなく、無線通信方法としても実現でき、また、無線通信装置単体としても特徴がある。
図1の無線通信システムは、無線伝送路を介して双方向の無線通信を行う2つの無線通信装置A,Bを備える。無線通信装置A,Bは、2つの無線基地局、2つの無線端末、あるいは無線基地局と無線端末であってもよい。
無線通信装置Aは、P個のアンテナ群A11〜A1M,A21〜A2M,・・・,AP1〜APM、P個のウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-P、P個のRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-P、P個の送受信回路13-1,13-2,・・・,13-P、空間マッピング部14、時空間ブロック符号・符号化復号部15、K個のベースバンド(BB)変復調部16-1,16-2,・・・,16-Kおよびストリーム分配・合成部17を備える。ここで、各アンテナ群A11〜A1M,A21〜A2M,・・・,AP1〜APMはそれぞれ、M本(Mは2以上の整数)のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkM(k=1,2,・・・,P、以下同じ)からなる。なお、各アンテナ群を構成するアンテナ数は必ずしもすべてのアンテナ群で同一である必要はない。この場合には、各アンテナ群を構成するアンテナの数の最大値をMとする。
無線通信装置Bは、Q個のアンテナ群B11〜B1N,B21〜B2N,・・・,BQ1〜BQN、Q個のウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Q、Q個のRF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Q、Q個の送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Q、空間マッピング部24、時空間ブロック符号・符号化復号部25、K個のBB変復調部26-1,26-2,・・・,26-Kおよびストリーム分配・合成部27を備える。ここで、各アンテナ群B11〜B1N,B21〜B2N,・・・,BQ1〜BQNはそれぞれ、N本(Nは2以上の整数)のアンテナBn1,Bn2,・・・,BnN(n=1,2,・・・,Q、以下同じ)からなる。なお、各アンテナ群を構成するアンテナ数は必ずしもすべてのアンテナ群で同一である必要はない。この場合には、各アンテナ群を構成するアンテナの数の最大値をNとする。
なお、第1実施形態では、スマートアンテナ技術を用いたMIMOと簡易な構成の移相器を用いたMIMOを併用するので、無線通信装置A,Bの少なくとも一方が備えるアンテナ群は複数、すなわちPとQの少なくとも一方は2以上の整数である。
各ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pと各RF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pの組み合わせは、P個のダイバーシチ回路として機能し、各ウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Qと各RF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Qの組み合わせは、Q個のダイバーシチ回路として機能する。
また、無線通信装置Aにおいて各RF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pと各ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pの間、あるいは各ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pと各アンテナ群Ak1〜AkMの間に送信パワーアンプ、受信LNA(Low Noise Amplifier)あるいはその両方を挿入して、送信電力の増大あるいは受信感度の向上を図ることもできる。
同様に、無線通信装置Bにおいて各RF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Qと各ウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Qの間、あるいはウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Qと各アンテナ群Bn1〜BnNの間に送信パワーアンプ、受信LNA(Low Noise Amplifier)あるいはその両方を挿入して、送信電力の増大あるいは受信感度の向上を図ることもできる。
無線通信装置AのP個のウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pはそれぞれ、複数の乗算器を有し、各乗算器は、各アンテナ群Ak1〜AkMの各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからの受信信号あるいは各RF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pからの送信信号にダイバーシチ合成情報(複素ウエイト)WAk1,WAk2,・・・,WAkMを乗算する。
無線通信装置BのQ個のウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Qもそれぞれ、複数の乗算器を有し、各乗算器は、各アンテナ群Bn1〜BnNの各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnNからの受信信号あるいは各RF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Qからの送信信号にダイバーシチ合成情報(複素ウエイト)WBn1,WBn2,・・・,WBnNを乗算する。
ダイバーシチ合成情報WAk1,WAk2,・・・,WAkM、WBn1,WBn2,・・・,WBnNは、一般的には複素数であるので、以下では、ダイバーシチ合成情報を複素ウエイトと称する。各乗算器はそれぞれ、入力信号の振幅と位相を複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkM、WBn1,WBn2,・・・,WBnNに応じて変化させて出力する。乗算器として1ビット移相器を用いることができる。この場合、複素ウエイトは"0","1"の1ビットであり、入力信号は、例えば、複素ウエイト"0","1"に応じて、そのまま、あるいは位相反転して出力される。
しかし、ウエイト処理部11-k,21-nの乗算器は、1ビット移相器に限られるものではなく、n(nは2以上の自然数)ビット移相器でもよい。ウエイト処理部11-k,21-nの乗算器がn(nは2以上の自然数)ビット移相器の場合については第2実施形態において説明する。
図2は、ウエイト処理部11-kに1ビット移相器を用いた場合の動作を概念的に示す図である。アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからの信号あるいはRF信号分配・合成器12-kからの信号は、ウエイト処理部11-kに入力される。ウエイト処理部11-kは、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが"0"か"1"かにより、入力信号をそのまま、あるいは位相反転して出力する。図2は、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが"0"の時、信号がそのまま出力され、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが"1"の時、信号が位相反転されて出力される場合を示している。
図3は、ウエイト処理部11-kの具体的構成の一例を示すブロック図である。ウエイト処理部11-kの各乗算器は、2つの切替スイッチと180度遅延線で構成されている。2つの切替スイッチは、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMに従って同時に切り替えられる。アンテナ群を構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMあるいはRF信号合成・分配器12-kからの信号は、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが"0"の場合180度遅延線を通さずに出力側に送出され複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが"1"の場合、180度遅延線を通して出力側に送出される。
図1に戻って、無線通信装置AのP個の各RF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pは、送信時には、各送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pからの送信信号をエネルギー的にM分配して各ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pの各乗算器に出力し、受信時には、各乗算器からの出力信号を合成(ベクトル加算)し、ダイバーシチ合成受信信号として各送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pに出力する。
また、無線通信装置BのQ個の各RF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Qは、送信時には、各送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Qからの送信信号をエネルギー的にN分配して各ウエイト処理部21-1,21-2,・・・,21-Qの各乗算器に出力し、受信時には、各乗算器からの出力信号を合成(ベクトル加算)し、ダイバーシチ合成受信信号として各送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Qに出力する。
すなわち、各RF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-P、22-1,22-2,・・・,22-Qは、双方向のハイブリッド回路であり、送信時には分配器として機能し、受信時には合成器として機能する。具体的には、ウイルキンソン型分配合成回路をRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-P、22-1,22-2,・・・,22-Qとして使用できる。
無線通信装置AのP個の送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pは、送信時には、空間マッピング部14から出力されるP個のBB変調信号を入力とし、これをRF帯へ周波数変換し、RF信号をRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pに出力する。また、送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pは、受信時には、P個のダイバーシチ合成受信信号を入力とし、これをベースバンドに周波数変換して空間マッピング部14に出力する。なお、送信時において、送信アンテナ選択ダイバーシチ等を行う場合では、P個の送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pの中の一部のみが使用される。
無線通信装置BのQ個の送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Qは、送信時には、空間マッピング部24から出力されるQ個のBB変調信号を入力とし、これをRF帯へ周波数変換し、RF信号をRF信号分配・合成部22-1,22-2,・・・,22-Qに出力する。また、送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Qは、受信時には、Q個のダイバーシチ合成受信信号を入力とし、これをベースバンドに周波数変換して空間マッピング部24に出力する。なお、送信時において、送信アンテナ選択ダイバーシチ等を行う場合では、Q個の送受信回路23-1,23-2,・・・,23-Qの中の一部のみが使用される。
空間マッピング部14,24は、空間マッピングあるいは空間デマッピングを行う。この過程は、従来のMIMO技術と同様である。例えば、無線通信装置Aでは、ストリーム分配・合成部17において、送信データがストリーミング数のデータに分割される。この分割されたデータは、各BB変復調部16-1,16-2,・・・,16-Kに入力されて、K個のBB変調信号が出力される。
時空間符号が使用される場合には、該時空間符号に基づく時空間符号化処理が時空間ブロック符号・符号化復号部15で行われる。時空間符号が使用されない場合には、時空間ブロック符号・符号化復号部15では何の処理も行われない。
空間マッピング部14は、時空間ブロック符号・符号化復号部15の出力を入力とし、各アンテナ群Ak1〜AkMに対するマッピングを行う。このマッピングには、Cyclic Prefix付与、Steering Matrix乗算、Direct Mapping等を利用できる。マッピングについては、非特許文献1および非特許文献2に詳細に記載されている。
無線通信装置A,Bは、双方向のトレーニング信号伝送を通じて、各アンテナ群Ak1〜AkM,Bn1〜BnNにおける複素ウエイトの最適値を各々決定し、これにより決定された複素ウエイトの最適値を当該アンテナ群Ak1〜AkM,Bn1〜BnNのウエイト処理部11-k,21-nの乗算器に設定し、アンテナ群Ak1〜AkM,Bn1〜BnN毎にデータ送受信時のビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行う。
トレーニング信号は、無線通信装置AおよびBの各アンテナ群Ak1〜AkM,Bn1〜BnNにおける複素ウエイトの最適値を決定するために用いられる。1つのトレーニング信号は、複数のトレーニングサブ信号から構成される。各トレーニングサブ信号を、ウエイト処理部11-k,21-nに互いに異なる複素ウエイトを設定した状態で受信し、このときの受信レベル情報を用いて複素ウエイトの最適値を決定する。トレーニング信号としては既知の信号に対する受信レベル情報が取得できるものであればよく、任意のフレーム、シンボル、サブキャリア、拡散信号等を使用することができる。トレーニング信号の具体例については、後で詳述する。なお、ここで受信レベル情報は、複数のトレーニングサブ信号に対する受信信号の大きさが比較できるものであれば何でもよい。例えば、トレーニング信号として、同一フレームの複数シンボルを使用する場合には、ベースバンド受信IQ情報を用いて受信レベル情報を取得することができる。
ウエイト処理部11-k,21-nは、乗算器を用いて等価的に複素ウエイトを乗算する。この複素ウエイトは、送信及び受信の両方で用いられる。すなわち、送信時にはこの複素ウエイトの乗算により送信ビームフォーミングが行われ、受信時にはこの複素ウエイトの乗算によりダイバーシチ合成が行われる。
図4は、無線通信装置間で1トレーニング期間内に送受信されるトレーニング信号の具体例を示す。同図は、受信側無線通信装置のアンテナ数を4とした場合に用いられるトレーニング信号の一例である。図4の例では、トレーニング信号は5つのトレーニングフレーム1,2-1〜2-4とACKフレーム(Acknowledgement Frame)の組み合わせからなる。トレーニングサブ信号は、1つのトレーニングフレームとこれに対するACKフレームの組み合わせからなる。ACKフレームは、トレーニングフレームの宛先の無線通信装置においてトレーニングフレームが誤りなしで受信された場合に、宛先の無線通信装置から送信される。宛先の無線通信装置でのトレーニングフレームの受信において伝送誤りが検出された場合にはACKフレームは送信されず、その時点でトレーニング信号は終了となる。また、トレーニングフレームの送信元である無線通信装置でのACKフレームの受信において伝送誤りが検出された場合には、その次のトレーニングフレームは送信されず、その時点で、トレーニング信号は終了となる。
トレーニング信号は、各アンテナ群において、現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時の受信レベル情報および現状の複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時の受信レベル情報を得るために用いられる。各無線通信装置は、1トレーニング期間内のトレーニング信号を受信することにより、その時点での、各アンテナ群におけるダイバーシチ受信状態を最良化する複素ウエイトの最適値を決定できる。
先頭のトレーニングフレーム1には送信元アドレス、送信先アドレスおよびフレーム種別などの情報を含ませることができる。このトレーニングフレーム1を用いて、現状の各アンテナ群の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時の各アンテナ群における受信レベル情報を取得する。トレーニングフレーム2-1〜2-4は、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時の各アンテナ群におけるダイバーシチ受信状態を測定するためのものであり、既定のプリアンブルパターンを含むフレームまたはその一部を用いて受信レベル情報を取得する。
トレーニング信号は、相手側無線通信装置から送信される信号を所定の複素ウエイトを用いてダイバーシチ受信した時の各アンテナ群における受信レベル情報を取得するためのものであるので、図4に示される形式の信号に限られない。トレーニングフレーム1,2-1〜2-4は、トレーニングのために特別に用意したものでなくてもよく、例えば、データフレームのヘッダの中の拡張プリアンブルに含ませた複数のシンボルをトレーニングフレームとすることもできる。
図1において、例えば、無線通信装置Aにおける各アンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの最適値を決定する場合、無線通信装置Aは、無線通信装置Bが送信するトレーニングフレーム1,2-1〜2-4をダイバーシチ受信してそれぞれACKを返信する。
トレーニングフレーム1は、各アンテナ群Ak1〜AkMでの現状の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いてダイバーシチ受信され、トレーニングフレーム2-1〜2-4は、各アンテナ群Ak1〜AkMでの現状の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを所定のアルゴリズムで変更した複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いてダイバーシチ受信される。
この時の各アンテナ群Ak1〜AkMでのダイバーシチ受信状態に基づいて、当該アンテナ群Ak1〜AkMの複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの最適値が決定される。ACKが返信されない場合、そこでトレーニングは終了となる。ACKを用いないで、既定のアンテナ数M個分のトレーニングフレーム2-1〜2-Mを常に送信してもよい。このようなACKを用いない例についても後述する。
次に、図1の無線通信システムにおける複素ウエイトの最適値決定動作を簡単に説明する。ここでは、図4に示す形式のトレーニング信号を用いて無線通信装置Aにおける各アンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの最適値を決定する場合について説明する。また、ここでは、ウエイト処理部11-kの乗算器に1ビット移相器を用いて等利得合成でダイバーシチ合成を行うものとする。
ダイバーシチ合成には、さらに高精度の等利得合成や最大比合成などの任意の合成手法を使用することもできる。
まず、無線通信装置Bは、過去の直近のトレーニングで取得された、各アンテナ群Bn1〜BnNでの、ほぼ最適の複素ウエイトWBn1,WBn2,・・・,WBnNを用いてトレーニング信号を、各アンテナ群Bn1〜BnNを構成する各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnNから送信する。この無線通信装置Bの各アンテナ群Bn1〜BnNにおける複素ウエイトWBn1,WBn2,・・・,WBnNは、無線通信装置Aが、その時点での複素ウエイトの最適値に更新する1トレーニング期間中で固定とする。
なお、無線通信装置A,B間の通信が全くの初期状態からである場合、無線通信装置A,Bは、後述するように、トレーニング信号を互いに送受信して複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkM、WBn1,WBn2,・・・,WBnNの最適値への引き込みを可能にする。
無線通信装置Aは、まず、無線通信装置Bに具備されたQ個のアンテナ群Bn1〜BnNから送信された最初のトレーニングフレーム1を、無線通信装置Aに具備されたP個のアンテナ群Ak1〜AkM で受信し、トレーニングフレーム1に対するACKを返信する。無線通信装置Bに具備されたQ個のアンテナ群Bn1〜BnNはそれぞれ、N本のアンテナBn1,Bn2,・・・,BnNからなり、アンテナ群Bn1〜BnN毎にN個の信号波が送信される。無線通信装置A に具備されたP個のアンテナ群Ak1〜AkMはそれぞれ、M本のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからなり、アンテナ群Ak1〜AkM毎にM個の信号波の合成波が受信される。
各アンテナ群Ak1〜AkM、Bn1〜BnNにおいては、互いに独立に固有ビーム伝送が行われる。無線通信装置AのP個のウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pの各乗算器では、当該アンテナ群Ak1〜AkMを構成するM個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからの各受信信号に、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを乗算する。各乗算器は、複素ウエイトが"0"であれば、入力信号をそのまま出力し、複素ウエイトが"1"であれば、入力信号を位相反転して出力する。
最初のトレーニングフレーム1を受信する時の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとしては、過去の直近のトレーニングで取得されたものを用いる。この場合、各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、現状でも、ほぼ最適値となっていると考えられる。しかし、この時に用いる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、任意に設定することができる。この各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、後述するように、続く複数のトレーニングフレーム2-1〜2-4のダイバーシチ受信を通じてさらに最適値へと更新される。
無線通信装置AのP個のRF信号分配・合成部12-1,12,2,・・・,12-Pはそれぞれ、対応するウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pにおいて複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが乗算された受信信号を加算してダイバーシチ合成受信信号を生成する。
次に、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、1つのアンテナ、例えばアンテナAk1の信号に対する複素ウエイトWAk1だけを先の複素ウエイトの最適値WAk1から反転(0⇔1)させる。この新しい複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、引き続くトレーニングフレーム2-1をダイバーシチ受信し、このときの各アンテナ群Ak1〜AkMにおける受信状態が先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いた時より改善されたどうかを調べる。
このときの受信状態が先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いた時より改善されていなければ、先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMをそのまま保持し、改善されていれば、複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを今回のものに更新して保持する。以上により、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおけるアンテナAk1の信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1を決定する。
各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて受信状態が改善されたかどうかは、例えば、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおけるダイバーシチ合成受信信号のレベル、送受信回路13-1,13-2,・・・,13-Pの無線受信部が備えるAGCアンプの利得、あるいはそれをレベル情報に変換したレベルなどの、当該アンテナ群Ak1〜AkMの受信レベル情報を指標として判定できる。なお、受信レベル情報は必ずしも当該アンテナ群Ak1〜AkMの受信信号レベルまたはその対数に比例する必要はないが、受信信号レベルに対して単調増加または単調減少の関係を有する必要がある。トレーニング信号として、同一フレームの複数シンボルを使用する場合には、ベースバンド受信IQ情報を用いて受信レベル情報を取得することができる。
次に、トレーニングフレーム2-1に対するACKを返信した後、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、決定されたアンテナAk1の信号に対する複素ウエイトWAk1はそのままとし、アンテナAk1以外、例えばアンテナAk2の信号に対する複素ウエイトWAk2だけを先の複素ウエイトの最適値WAk2から反転(0⇔1)させる。
この新しい各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、引き続く2番目のトレーニングフレーム2-2をダイバーシチ受信し、この時の各アンテナ群Ak1〜AkMでの受信状態が、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いた時より改善されたどうかを調べる。
この時の、当該アンテナ群Ak1〜AkMでの受信状態が先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いた時より改善されていなければ、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける先の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMをそのまま保持し、改善されていれば、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを今回のものに更新して保持する。以上により、各アンテナ群Ak1〜AkMごとに、アンテナAk2からの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk2を決定する。
同様に、3番目以降のトレーニングフレーム2-3,2-4を順次受信し、この時の各アンテナ群Ak1〜AkMでの受信レベル情報を基に、アンテナAk3, Ak4の信号に対する各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトの最適値WAk3, WAk4を、順次決定する。
すなわち、無線通信装置BのQ個のアンテナ群Bn1〜BnNを構成する各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnNから送信されるトレーニングフレーム2-3を受信し、この時の、各アンテナ群Ak1〜AkMでの受信状態からアンテナAk3の信号に対する複素ウエイトの最適値WAk3を決定し、続いてトレーニングフレーム2-4を受信し、このときの受信状態からアンテナAk4の信号に対する複素ウエイトの最適値WAk4を決定する。
このように、トレーニングフレーム1,2-1〜2-Mを順次受信し、それに対するACKを返信する度に、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを1つずつ順次変更(反転)し、この時の受信状態を判定して各複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを順次決定する。
これによれば、(アンテナ数M+1)回のトレーニングフレームの受信で、全てのアンテナ群Ak1〜AkMの全てのアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定できる。以上により、無線通信装置Aにおいて、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成するM個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMが決定される。
その後、無線通信装置Aは、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、この複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、無線通信装置Bに対してトレーニングフレーム1,2-1〜2-Nを送信する。
今度は、無線通信装置Bが、無線通信装置AのP個のアンテナ群Ak1〜AkMから送信されたトレーニングフレーム1,2-1〜2-Nを受信し、各アンテナ群Bn1〜BnNを構成する各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnNの信号に対する複素ウエイトの最適値WBn1,WBn2,・・・,WBnNを順次決定する。
その動作は、無線通信装置Aの動作と同じであるので、説明を省略する。さらに、無線通信装置A,B間で双方向のトレーニング信号伝送を行って、各アンテナ群Ak1〜AkM、Bn1〜BnNにおける複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMおよびWBn1,WBn2,・・・,WBnNをより最適化することができる。
無線通信装置A,Bは、データ送受信に際し、以上のようにして決定した各アンテナ群Ak1〜AkM、Bn1〜BnNにおける複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkM、WBn1,WBn2,・・・,WBnNを用いてビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行う。
図5は、第1実施形態の無線通信装置Aにおける複素ウエイトの最適値決定処理を示すフローチャートである。ここでは、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナ数をMとし、ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pの乗算器として1ビット移相器を用いた場合を想定している。
まず、各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトの最適値WAk=(WAk1,WAk2,・・・,WAkM)を用いて先頭のトレーニングフレーム1をダイバーシチ受信して、各アンテナ群Ak1〜AkMでの受信レベル情報PAk0を取得し、PAk0を当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける受信レベル情報の最大値PAk,MAXとして保持する。また、変数iに1を代入(i←1)する(S1)。変数iは、以下のステップからなるループをアンテナ数M回だけ行わせることを規定する。
なお、ここでの値WAk=(WAk1,WAk2,・・・,WAkM)はそれぞれ、各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの初期の最適値である。ここではP個のウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pに具備された乗算器が1ビット移相器である場合を想定しているので、複素ウエイトのWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、1ビット("0"か"1")である。
次に、次トレーニングフレームがあるか否かを判定する(S2)。S2で、次トレーニングフレームがあると判定すれば、S3に進むが、ないと判定すれば、トレーニングを終了する。S3では、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、i番目の複素ウエイトWAkiを反転させた複素ウエイトWAkでトレーニングフレームを受信し、そのときの受信レベル情報PAkiを取得する。
次に、受信レベル情報PAkiを、これまでの受信レベル情報の最大値PAk,MAXと比較し(S4)、PAki>PAk,MAXであれば、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトの最適値WAkをS3で新たに設定された複素ウエイトWAkに更新する。同時に、当該アンテナ群Ak1〜AkMでの受信レベル情報の最大値PAk,MAXをPAkiに更新する(S5)。その後、S6に進む。
S4での比較結果がP Aki >P Ak,MAX でなければ、複素ウエイトの最適値WAkを更新せずに、S6に進む。S6では、変数iを1だけインクリメントする(i←i+1)。次に、変数iがアンテナ数M以下か否かを判定する(S7)。S7で、変数iがアンテナ数M以下と判定されれば、S2に戻って処理を繰り返し、変数iがアンテナ数M以下でないと判定されれば、変数iにi-Mを代入(i←i-M)、すなわち変数iを再び1とした後、S2に戻って処理を繰り返す。
以上のフローにより、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを、最初のトレーニングフレーム1に続くトレーニングフレームを受信する度に1つずつ最適化できる。したがって、アンテナ数がMの場合、少なくとも(M+1)個のトレーニングフレームのダイバーシチ受信により各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk=(WAk1,WAk2,・・・,WAkM)を最適化できる。なお、以上のフローにより、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号のベクトルの向きを合わせて最適化することはできるが、これだけでは、各アンテナ群でダイバーシチ受信された受信信号のベクトルの向きを合わせることはできない。無線通信装置Aでの受信においては、送受信回路13-1〜13-Pから出力されるベースバンド受信IQ情報におけるベクトルの向きのばらつきは、直後の空間デマッピング部14において補償され、同一向きに揃えられた上でダイバーシチ合成される。しかし、無線通信装置Aからの送信においては、送受信回路13-1〜13-Pには同一向きのベクトルの送信信号が印加されるので、無線通信装置Bでの受信においては、無線通信装置Aの各アンテナ群からの信号が必ずしも同相で合成されない。このため、さらに、各アンテナ群でダイバーシチ受信された受信信号のベクトルの向きを合わせる処理を行ってもよい。例えば、トレーニング信号として同一フレームの複数シンボルを使用する場合には、送受信回路13-1〜13-Pから出力されるベースバンド受信IQ情報が右半平面内(I>0の領域)となるように当該アンテナ群の複素ウエイトに対して回転の処理を行ってもよい。具体的には、トレーニングフレーム1に対する当該アンテナ群でのベースバンド受信IQ情報が右半平面内にある場合には、以上のフローで求まったM個の複素ウエイトをそのまま使用し、左半平面にある場合にはM個の複素ウエイトを各々位相反転したものを複素ウエイトとして使用してもよい。
無線通信装置Bの各アンテナ群Bn1〜BnNの各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnNの信号に対する複素ウエイトWBn1,WBn2,・・・,WBnNも同様のフローに従って少なくとも(N+1)個のトレーニングフレームのダイバーシチ受信で最適化できる。
このように、本発明の無線通信システムでは、2つの無線通信装置間での双方向のトレーニング信号伝送を通じて、各アンテナ群を構成する複数のアンテナの各々の信号に対する複素ウエイトの最適値を決定し、これにより決定された複素ウエイトを用いて、データ送受信時のビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行う。
なお、トレーニングにおける最初のトレーニングフレーム1は、ほぼ最適なダイバーシチ合成で受信できるが、それに続くトレーニングフレーム2-1以降の受信では複素ウエイトをほぼ最適値から故意にずらしているので、受信レベルが低くなる可能性がある。特に、最適なダイバーシチ合成受信により、かろうじて通信可能となる通信エリアの周辺部においては、トレーニングフレーム2-1以降を大部分受信できない場合が生じる。
この場合、図4に示すように、各トレーニングフレームに対してACKを返信するものとすると、トレーニングは1フレームすなわちトレーニングフレーム1のみで終了してしまう。しかし、この場合でも、トレーニングフレーム2-1以降の最初のトレーニングフレーム2-1の受信で最適化する各アンテナ群のアンテナを1番目のアンテナに固定せず、各アンテナ群において、前回にトレーニングしたアンテナの次のアンテナからトレーニングを開始するようにすれば、通信エリアの周辺部においてもトレーニングが可能となる。
ただし、この場合、各アンテナ群において1回のトレーニングで複素ウエイトを最適化できず、少なくともアンテナ数以上のトレーニングが必要となる。ACKを用いないで、トレーニングフレーム1に続けて既定のアンテナ数分のトレーニングフレームを常に送信する場合あるいはデータフレームのヘッダの拡張プリアンブルに含ませたアンテナ数分のシンボルを使用する場合には、当然通信エリア周辺部においても、1つのトレーニング信号での最適化が可能である。
送受信を行う無線通信装置についての各アンテナ群における複素ウエイトは、それらの間での双方向のトレーニング信号伝送を通じてそれぞれ最適化されるので、データ送受信に際し、この各アンテナ群における複素ウエイトを用いてビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行うことにより、2つの無線通信装置の各アンテナ群間において、双方のアンテナ群を構成する複数のアンテナ間での伝達関数からなる伝送路行列の最大固有値に対応した固有伝送路に全エネルギーを集中してデータを伝送することができ、大きなMIMO利得を得ることができる。
したがって、MIMOによる空間多重時、ダイバーシチ通信あるいはビームフォーミングにより通信のサービスエリアを拡大できるばかりでなく、通話のような双方向リアルタイム通信の品質を改善することもできる。なお、MIMO利得は、送信アンテナ利得、受信アンテナ利得およびダイバーシチ利得を含む。
本発明と同様の効果は、無線通信において、(M×P)×(N×Q)のMIMO伝送を行うことにより原理的には実現できる。ただし、M×P個あるいはN×Q個の送受信機を具備することは、コスト的にも消費電力の面からも困難である。また、高次のMIMO伝送では演算量および演算時間が大きくなる問題もある。また、ビームフォーミングを行うためには、伝送路行列の情報を送受信で共有する必要があるが、フィードバックにおけるオーバーヘッドを考慮すると、高速フェージング環境下において高次のMIMOの実現は非常に困難である。
しかし、本発明では、MIMO伝送を行う各アンテナ群において、伝送路行列の相関行列や相関行列の最大固有値に対応した固有ベクトルを演算することなく、双方向のトレーニング信号伝送を通じて各アンテナ群における複素ウエイトの最適値を決定するので、複素ウエイトの最適値を決定するための演算量および演算時間、双方の無線通信装置においてチャネル情報を共有化するための情報伝送および消費電力の大きな送受信回路の数の増加なしにMIMO通信における各アンテナ群間の通信品質を大幅に改善することができる。これにより、MIMOによる通信品質の改善におけるアンテナ数の制限が大幅に緩和されるので、各アンテナ群間の無線伝送におけるMIMO利得を容易に増大させることができる。
図6は、本発明に係る無線通信装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。なお、図6において、図1と同一あるいは同等部分には同じ番号を付しており、ここでは図1の無線通信装置Aを示しているが、無線通信装置Bも同様である。また、図6は、無線通信装置のウエイト処理部11-kの乗算器が1ビット移相器である場合における実施形態を示している。ウエイト処理部11-kの乗算器が、nビット移相器(nは2以上の自然数)の場合については第2実施形態として説明する。
本実施形態の無線通信装置Aは、それぞれがM本(Mは2以上の整数)のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkM(kは1以上P以下の整数)からなるP個のアンテナ群Ak1〜AkM、ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-PおよびRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-PからなるP個のダイバーシチ回路およびMIMO送受信部19を備える。MIMO送受信部19は、図1の送受信回路13-1,13-2,・・・,13-P〜ストリーム分配・合成部17に相当する。
MIMO送受信部19は、信号合成部101、ストリーム分配部102、ベースバンド変調部103-1,103-2,・・・,103-K、時空間符号・符号化部104、空間マッピング部105、無線送信部106-1,106-2,・・・,106-P、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-P、空間デマッピング部108、時空間符号・復号部109、ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-K、ストリーム合成部111、デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-P、伝送路特性推定部112および送受信の切替制御のための送受信制御部113を備える。これらの多くは、一般的なMIMO伝送を行う無線通信装置が備える構成要素である。時空間符号を使用しない場合には、時空間符号・符号化部および時空間符号・復号部はなくてもよい。
MIMO送受信部19において、送信データは、信号合成部101を介してストリーム分配部102に入力され、無線伝送されるストリーム数のデータ系列に分割される。この信号は、無線伝送されるストリーム数Kと同数のベースバンド変調部103-1,103-2,・・・,103-Kに入力される。
各ベースバンド変調部103-1,103-2,・・・,103-Kにおいては、入力されたデータ系列に基づいてベースバンド変調が行われる。例えば、OFDM変調を用いる場合には、各データ系列は、シリアルパラレル変換された後に、各サブキャリアに対応したデータに基づいてQAMマッピングが行われ、さらに逆フーリエ変換により時間系列に変換されて、複素ベースバンド変調信号となる。
時空間符号を使用する場合、複素ベースバンド変調信号は時空間符号・符号化部104で時空間符号を用いて符号化され、時空間符号に応じた数の時間系列が出力される。時空間符号を使用しない場合には、複素ベースバンド変調信号はそのまま時空間符号・符号化部104から出力される。時空間符号・符号化部104の出力信号は、空間マッピング部105に入力される。
空間マッピング部105では、MIMOにおける処理、例えば、空間多重、時空間符号化、送信アンテナ選択ダイバーシチ、ビームフォーミング等に応じた処理が行われる。空間マッピング部105では各アンテナ群から送出する送信信号を得るための処理が行われるが、この処理の詳細については、非特許文献1または非特許文献2に詳細に記載されている。
空間マッピング部105から出力されるP個の複素送信IQ信号は、対応する無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pに入力される。無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pからは、例えば、この信号で直交変調されたRF送信信号が出力される。無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pから出力された各RF送信信号は、各デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pに入力される。
デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pは、RF送信信号の送信とRF受信信号の受信を時間的に切り替える。例えば、送受信制御部113から送信期間に"1"となり、受信期間に"0"となる送受信制御情報を受け、送受信制御情報が"1"の場合には各無線送信部106-1,106-2,・・・,106-PからのRF送信信号をRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pに出力し、送受信制御情報が"0" の場合にはRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-PからのRF受信信号を無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pに出力する。デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pとしては、方向性結合器、高周波スイッチ等を使用することができる。
デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pからの出力信号はそれぞれ、RF信号分配・合成器12-1,12-2,・・・,12-Pおよびウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pからなるダイバーシチ回路に入力される。P個のダイバーシチ回路はそれぞれ、M個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMに接続されており、(P×M)個のアンテナからRF送信信号が無線伝播路上へ送出される。
一方、P個のアンテナ群を構成するM個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMにおいて受信されたRF受信信号は、P個のダイバーシチ回路において合成され、その出力信号はそれぞれ、デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pに入力される。デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pの出力信号はそれぞれ、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pに入力され、複素受信IQ信号が出力される。
これらP個の複素受信IQ信号は空間デマッピング部108に入力され、MIMOにおける処理、例えば、空間多重、時空間符号化、受信ダイバーシチ等に応じた処理が行われる。空間デマッピング部108から出力される複素IQ信号は時空間符号・復号部109に入力される。
時空間符号を使用する場合には、当該時空間符号に対する復号処理が行われ、その処理された信号が時空間符号・復号部109から出力される。時空間符号を使用しない場合には、時空間符号・復号部109に入力された複素IQ信号がそのまま出力される。
時空間符号・復号部109からの1つまたは複数の出力信号はそれぞれ、ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-Kに入力され、復調処理される。OFDM変調を用いる場合には、入力された複素IQ信号信号をシンボル毎に分割し、それぞれをフーリエ変換する。フーリエ変換で求まった各周波数成分をQAM復調したデータをパラレルシリアル変換して受信データ系列を得る。
ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-Kから出力される受信データ系列は、ストリーム合成部111において1つの受信データ系列に合成される。なお、OFDM変調においては、誤り訂正符号化およびインターリーブを使用するのが一般的であり、この場合には上述の合成された受信データに対して、誤り訂正符号に対する復号処理およびデインターリーブ処理が行われる。
P個の無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pから出力される複素受信IQ信号は、伝送路特性推定部112にも入力されており、例えば、RF受信信号の各フレームに含まれる既知の系列であるプリアンブルを用いて、送信側における各アンテナ群と受信側における各アンテナ群間での伝送路特性の推定が行われる。この推定された伝送路特性は、空間デマッピング部108および時空間・復号部109での処理に使用される。
無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pからは、上述の複素受信IQ信号以外に、RF受信信号それぞれの各フレームについての受信レベル情報が出力される。この受信レベル情報はビーム形成用ウエイト生成部30に入力される。受信レベル情報は、ダイバーシチ合成受信信号の各フレームについての受信レベルに関連する情報ならば如何なるものでもよく、例えば、RSSI(Received Signal Strength Information)情報、あるいはそれをレベルに変換した情報、無線受信部が備えるAGCアンプの利得、あるいはそれをレベルに変換した情報などを用いることができる。なお、トレーニング信号として同一フレームの複数シンボルを使用する場合には、ベースバンド受信IQ情報を用いて受信レベル情報を取得することができるので、複素受信IQ信号以外の受信レベル情報は出力しなくてよい。
送受信制御部113は、無線通信装置の必須の構成要素である無線アクセス制御部の一部であり、例えば、送信期間に"1"となり受信期間に"0"となる送受信制御情報をP個のデュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pおよびビーム形成用ウエイト生成部30に出力する。
ビーム形成用ウエイト生成部30は、各アンテナ群に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを保持しており、送受信制御部113から出力される送受信制御情報に基づき、各アンテナ群Ak1〜AkMに対して、トレーニング信号の各フレームに対して異なる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを生成する。ここで、kは1以上P以下の整数である。ビーム形成用ウエイト生成部30は、さらに、P個の無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pから出力される受信レベル情報に基づいて、各アンテナ群に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定する。
ここで生成されたアンテナ群Ak1〜AkM毎の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMは、当該アンテナ群Ak1〜AkMに対するウエイト処理部11-kの各乗算器に与えられる。ビーム形成用ウエイト生成部30の詳細は、後述する。ビーム形成用ウエイト生成部30は、"ダイバーシチ合成情報生成手段"として機能し、それには、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"受信状態判定手段"および"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"が含まれている。
トレーニング信号生成部40は、トレーニングを実行させ、相手側無線通信装置がビームフォーミングするために必要なトレーニング信号を生成する。ここで生成されるトレーニング信号は、トレーニング用の送信データ系列であり、例えば、PLCPヘッダ、MACヘッダ等の情報を含んでもよい。トレーニング信号生成部40から出力されるトレーニング用の送信データは、送信データとともに信号合成部101に入力される。
信号合成部101は、送信データとトレーニング信号生成部40からのトレーニング用送信データを時間的に合成して出力する。信号合成部101は、送信データが与えられた場合にはこのデータをストリーム 分配部102に出力し、トレーニング信号生成部40からトレーニング用送信データが出力された場合には、これをストリーム分配部102に出力する。
ウエイト処理部11-kは、ビーム形成用ウエイト生成部30から与えられる複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMに従って、各アンテナ群のRF受信信号およびRF送信信号にウエイト処理を施す。すなわち、各ウエイト処理部11-kは、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMのRF受信信号にウエイト処理を施して当該RF信号分配・合成部12-kに出力し、また、当該RF信号分配・合成部12-kからのRF送信信号にウエイト処理を施して各アンテナ群を構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMに出力する。
ウエイト処理部11-kにおけるウエイト処理は、1ビット移相器による0度あるいは180度の移相処理により実現できる。ウエイト処理部11-kは、"ダイバーシチ合成情報設定手段"として機能する。
RF信号分配・合成部12-kは、各アンテナ群Ak1〜AkMにおけるRF送受信信号の分配および合成を行う。すなわち、当該ウエイト処理部11-kからのM個のRF受信信号を入力とし、それらを合成した信号を当該デュプレクサ18-kに出力し、また、当該デュプレクサ18-kからのRF送信信号を入力とし、これをM分配して当該ウエイト処理部11-kに出力する。
なお、RF信号分配・合成部12-kで合成されてデュプレクサ18-kに出力されるRF受信信号のレベルは、インピーダンス変換に起因してウエイト処理部11-kから入力されたRF受信信号のレベルの1/√Mになる。同様に、M分配されてウエイト処理部11-kに出力されるRF送信信号のレベルは、デュプレクサ18-kから入力されたRF送信信号のレベルに対して、1/√Mになる。RF信号分配・合成部12-kは、"信号分配合成手段"として機能する。
図7は、ビーム形成用ウエイト生成部30の具体的構成を示すブロック図である。ビーム形成用ウエイト生成部30は、基本的にはアンテナ群Ak1〜AkM毎に独立に動作する。ここでは、その中の1つの構成および動作について説明する。
実際には、ビーム形成用ウエイト生成部30は、図7と同一のブロック構成をP個備える。すなわち、ビーム形成用ウエイト生成部30は、P個の受信レベル保持部50、P個の移相器制御部60およびタイミング部70を備え、双方向のトレーニング信号伝送を通じて、アンテナ群Ak1〜AkM毎にビームフォーミングおよびダイバーシチ合成のための複素ウエイトの最適値を決定する。
受信レベル保持部50は、当該アンテナ群用の受信レベル情報比較部51および1トレーニング期間内最大受信レベル保持部52を備える。受信レベル保持部50は、"受信状態判定手段"として機能する。
受信レベル情報比較部51は、トレーニング信号の各フレームについての各アンテナ群における受信レベル情報を、当該1トレーニング期間内最大受信レベル保持部が保持している受信レベル情報と比較する。そして、新たに入力された受信レベル情報の方が大きければ、当該1トレーニング期間内最大受信レベル保持部52が保持している受信レベル情報を該受信レベル情報に更新するとともに、最適ウエイト更新信号を当該移相器制御部60のトレーニング時ウエイト生成部62に出力する。なお、各アンテナ群において最大の受信レベル情報を求める際の初期値としては、トレーニング信号の先頭フレームの受信レベル情報を用いる。
1トレーニング期間内最大受信レベル保持部52が保持する受信レベル情報は、アンテナ群毎に大きい受信レベル情報へと順次更新され、トレーニング終了時点では、各アンテナ群において最大の受信レベル情報となる。
各移相器制御部60は、非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62およびウエイト選択部63を備える。非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62はそれぞれ、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"として機能し、トレーニング時ウエイト生成部62は、受信レベル情報比較部51と組み合わされて"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"としても機能する。
全くの初期状態から複素ウエイトの最適値への引き込みには、まず、通信相手とする無線通信装置から少なくとも、アンテナ群を構成するアンテナの数+1個のフレームを含むトレーニング信号を受信することが必要である。しかし、当初から、通信相手とする無線通信装置が送信するトレーニング信号を受信できるとは限らない。そこで、全くの初期状態でも、自無線通信装置Aが送信する少なくとも1個のトレーニング信号((アンテナ数+1)個のフレーム)を相手側無線通信装置Bが受信できるようにする。これは、異なる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて複数のトレーニング信号を送信し、相手側無線通信装置Bがいずれかのトレーニング信号を受信できるようにすることにより実現できる。ここで、kは1以上P以下の整数である。
非ビーム形成時ウエイト生成部61は、アンテナ群Ak1〜AkM毎に、このような非ビーム形成時における複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を生成する。各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、このトレーニング信号を送信する際の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは任意であるが、トレーニング信号の送信毎に変化させることが望ましい。CSMA(Carrier Sense Multiple Access)システムにおいては、各アンテナ群Ak1〜AkMの非ビーム形成時の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを時間的にランダムに変化させ、トレーニング信号の送信開始時点での複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを当該トレーニング信号の送信で使用することができる。具体的には、アンテナ数がMの場合、Mビットカウンタを自走クロックで動作させ、そのM個のカウンタ値を各複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとして用いることができる。このランダム変化の時間間隔は、例えば1μs程度に設定すればよい。
相手側無線通信装置Bがいずれかのトレーニング信号を受信して各アンテナ群Bn1〜BnNにおける複素ウエイトの最適値を決定し、その最適値を設定して、各アンテナ郡Bn1〜BnNからトレーニング信号をビームフォーミングして送信すれば、自無線通信装置Aは、そのトレーニング信号を受信できる。なお、相手側無線通信装置Bから同様にアンテナ群Bn1〜BnN毎にランダムに変化された複素ウエイトを用いて送信されるいずれかのトレーニング信号を受信できれば、自無線通信装置Aでそのまま各アンテナ群Ak1〜AkMでの複素ウエイトの最適値への引き込みが行われる。
各アンテナ群Ak1〜AkMに対するトレーニング時ウエイト生成部62は、当該トレーニングカウント部74からのトレーニングカウンタ情報に従って、当該アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)のうちのWAki(TR)をフレーム毎に順次変更し、当該アンテナ群Ak1〜AkMの受信レベル情報比較部51から最適ウエイト更新信号が出力された時の各複素ウエイトWAki(TR)を保持する。なお、複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の初期の最適値は、過去の直近のトレーニングによって得られたものとするのが好ましい。その複素ウエイトは、ほぼ最適なものとなっていると考えられるからである。
ウエイト選択部63は、非ビーム形成時ウエイト生成部61から出力される複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)あるいはトレーニング時ウエイト生成部62から出力される複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)をビーム形成有効フラグに基づいて選択し、各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとして出力する。
ビーム形成有効フラグは、初期状態では"無効"(例えば"0")であるが、所定回数、例えば(アンテナ数+1)回のフレームの受信で"有効"(例えば"1")となる。また、所定の期間、例えば100msの間にフレームを十分に(例えば(アンテナ数+1)回以上)受信できなかった場合には、ビーム形成有効フラグを"無効"としてもよい。
この結果、各アンテナ群Ak1〜AkMのウエイト選択部63は、所定回数のフレームが受信されるまでは複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、それ以降では、複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
タイミング部70は、フレーム受信検出部71、フレーム終了検出部72、シーケンス終了検出部73、トレーニングカウント部74およびビーム形成有効フラグ生成部75を備える。
フレーム受信検出部71は、送受信制御情報および受信レベル情報を入力とし、フレーム受信検出信号を出力する。送受信制御情報は、例えば、無線送信部106-1,106-2,・・・,106-P(図6)がイネーブルとなる期間に"1"となり、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-P(図6)がイネーブルとなる期間に"0"となる信号であり、受信レベル情報は、RSSI(Received Signal Strength Information)情報あるいはP個の無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pがそれぞれ備えるAGCアンプの利得などの情報であり、フレーム受信検出部71は、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pのイネーブル期間における受信レベルの増加の検出に基づきフレーム受信検出信号を生成する。受信検出信号として、各アンテナ群における受信検出信号を論理和した信号を用いてもよい。
上述のフレーム受信検出信号は、各アンテナ群Ak1〜AkMの1トレーニング期間内最大受信レベル保持部52、シーケンス終了検出部73およびトレーニングカウンタ部74に与えられる。フレーム受信検出信号は、各フレームの受信開始を示す信号であり、例えば、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて、受信レベル情報の増大に基づいて検出された各フレームの受信開始タイミングをトリガとして発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスを論理和した信号である。
フレーム終了検出部72は、送受信制御情報および各アンテナ群Ak1〜AkMの受信レベル情報を入力とし、フレーム終了検出信号をトレーニング時ウエイト生成部62、シーケンス終了検出部73およびトレーニングカウンタ部74へ出力する。フレーム終了検出信号は、各フレームの受信終了を示す信号であり、例えば、各アンテナ群での受信レベル情報の減少に基づいて検出された各フレームの受信終了タイミングをトリガとして発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスを論理和した信号である。また、トレーニングシーケンスにおいてACKを使用する場合には、ACKの送信完了を送受信制御情報により検出し、これをトリガとして前記所定幅のパルスを生成してもよい。
送受信制御情報は、送信状態、受信状態、パワーセーブ状態などの無線通信装置の状態を表す情報である。フレーム受信検出部71およびフレーム終了検出部72は、送受信制御情報が受信状態になっている場合の受信レベル情報を用いてフレームの受信開始およびフレームの受信終了を検出することができる。
シーケンス終了検出部72は、シーケンス終了検出信号をアンテナ群毎のトレーニング時ウエイト生成部62へ出力する。シーケンス終了検出信号はトレーニングの終了を示す信号であり、例えば、フレーム終了検出信号のパルスが発生してから一定期間(例えば、30μs)内に全てのアンテナ群においてフレーム受信検出信号のパルスが発生しないことが検出された時点のタイミングで発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスである。トレーニングシーケンスにおいてACKを用いる場合には、ACKの送信完了を送受信制御情報により検出し、これをトリガとして前記所定幅のパルスを生成してよい。
図4に示した例のように、各フレームに対してACKを返信するものとすると、受信したフレームでエラーが発生しこれに対してACKを返信しない場合、その時点でトレーニングは終了する。これに対応して、全てのアンテナ群Ak1〜AkMにおいてACKの返信タイミングになっても送受信制御情報が受信状態のままであり、送信状態に遷移しない場合には、シーケンス終了検出信号のパルスを生成してもよい。
トレーニングカウント部74は、トレーニングカウンタ情報をアンテナ群Ak1〜AkM毎のトレーニング時ウエイト生成部62およびビーム形成有効フラグ生成部75へ出力する。トレーニングカウンタ情報は、トレーニング信号におけるフレーム数のカウント情報であり、例えば、フレーム終了検出信号によりカウンタのカウント値を1ずつインクリメントし、シーケンス終了検出信号により該カウンタのカウント値を"0"にクリアすることにより生成される。
ビーム形成有効フラグ生成部75は、アンテナ群Ak1〜AkM毎に所定回数のフレームが受信されたことを示すビーム形成有効フラグを当該ウエイト選択部63へ出力する。上述のビーム形成有効フラグは、トレーニングカウンタ部74からのトレーニングカウンタ情報に基づいて生成される。ウエイト選択部63は、ビーム形成有効フラグが無効の場合、各アンテナ群Ak1〜AkMの非トレーニング時ウエイト生成部61からの複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、ビーム形成有効フラグが有効の場合、各アンテナ群のトレーニング時ウエイト生成部62からの複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
アンテナ群Ak1〜AkM毎の移相器制御部60は、基本的には、トレーニングを通じて受信レベル情報が最大となる複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を見つけ出すように動作する。すなわち、受信側の無線通信装置Aでは、フレーム毎に、各アンテナ群Ak1〜AkMの複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の各複素ウエイトWAki(TR)を変更し、アンテナ群Ak1〜AkM毎に、その過程で受信レベル情報が大きくなった時の複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を保持する。
トレーニングが終-了した時、各アンテナ群Ak1〜AkMにおいて受信レベル情報が最大となった時の複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)が保持されている。トレーニングに続くデータの双方向伝送では、アンテナ群Ak1〜AkM毎に保持されている複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を読み出してウエイト処理部11-kに与える。
図8は、図7のビーム形成用ウエイト生成部30の動作の一例を示すタイミングチャートである。ここでは、1つのアンテナ群Ak1〜AkMに対する動作を示している。他のアンテナ群においても同様の動作が独立して行われる。
図9は、1つのアンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の信号A1,A2,A3,A4がダイバーシチ合成(ベクトル加算)されて当該アンテナ群Ak1〜AkMでのダイバーシチ合成受信信号が生成される様子を示す図である。ここでは、無線通信装置Aにおいて、1つのアンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナの数が4であり、1つのアンテナ群Ak1〜AkMにおいて各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の信号に対する複素ウエイトをWAk1,WAk2,WAk3,WAk4とし、それらが1ビットである場合を想定している。また、受信レベルが大きいほど受信レベル情報の値が大きくなるとしている。この場合、ウエイト処理部11-kは、アンテナ数分の1ビット移相器で構成され、各移相器は各1ビットの複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4に応じて、例えば、複素ウエイトが"0"の場合には移相量0度、"1"の場合には移相量180度に制御される。
無線通信装置Aは、通信相手の無線通信装置Bからのトレーニングフレーム1を現状の複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4を用いてダイバーシチ受信し、複数のトレーニングフレーム2-1〜2-4を、複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4の各複素ウエイトWAkiを変更しながら順次ダイバーシチ受信する。そして、そのときの受信レベル情報に基づいて最終的に複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4を決定する。これにより決定された複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4をデータ送受信時のビームフォーミングおよびダイバーシチ合成に用いる。
トレーニングフレーム1は、実際にトレーニングが実行される先頭フレームであり、これを受信してからトレーニングが開始されると共に、そのときの受信レベル情報が測定される。トレーニングフレーム1には送信元アドレス、送信先アドレスおよびフレーム種別などの情報を含ませることができ、これを用いて現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時の受信レベル情報が取得される。後続するトレーニングフレーム2-1〜2-4は、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時の受信レベル情報を測定するために用いられる。
受信レベル情報は、無線受信部のAGCアンプにおいて利得調整が起動された場合、通常、比較的短時間(例えば、10μs)に変化する。AGCアンプの利得調整は、トレーニングフレームの受信開始または受信終了でも発生するが、それ以外にも、例えば、ノイズの影響により発生する場合もある。また、トレーニングフレームの受信開始でAGCアンプの利得調整が起動された後、フレームヘッダの受信に失敗した場合では、該フレーム受信期間においてAGCアンプの利得調整が複数回起動される場合もある。受信レベル情報の測定では、これらの点を考慮する。
まず、トレーニングカウンタ情報が"0"の時、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト0(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=1,WAk4=1)を生成し、通信相手の無線通信装置Bからのトレーニングフレーム1をこの複素ウエイト0を用いてをダイバーシチ受信する。複素ウエイト0は、例えば、過去の直近のトレーニングによって得られ、前のデータフレームの受信時に用いられたものが好ましい。過去においてビームフォーミングがなされている場合、その時の複素ウエイトは、今回でもほぼ最適となっていると考えられるからである。過去においてビームフォーミングがなされていない場合には、任意の複素ウエイトを用いることができる。このときの受信レベル情報(100)が1トレーニング期間内最大受信レベル保持部52で保持される。
図9(a)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成(ベクトル加算)を示している。なお、トレーニングフレーム1を受信する前の受信レベル情報は"5"である。これは、熱雑音レベルに相当する。また、トレーニングフレーム1を受信してから次のフレーム2-1を受信するまでの期間の受信レベル情報は"3"に低下する。これも熱雑音レベルに相当する。以下同様に、フレームの受信間で熱雑音が発生する。
次に、フレーム1のフレーム終了が検出され、トレーニングカウンタ情報が"1"になると、トレーニング時ウエイト生成部は、複素ウエイト1(WAk1=0,WAk2=0,WAk3=1,WAk4=1)を生成する。複素ウエイト1は、複素ウエイトWAk1だけが反転されたものである。複素ウエイト1を用いてトレーニングフレーム2-1を受信した時の受信レベル情報(88)は、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下している。
図9(b)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。この受信レベル情報の変化は、伝送路の変化によるものではなく、複素ウエイトを変化させたことによるものである。複素ウエイト1の時の受信レベル情報(88)は、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下しているので、複素ウエイトWAk1を"1"に決定する。1トレーニング期間内最大受信レベル保持部で保持される受信レベル情報は、"100"のまま更新されない。
次に、トレーニングカウンタ情報が"2"になると、トレーニング時ウエイト生成部は、複素ウエイト2(WAk1=1,WAk2=1,WAk3=1,WAk4=1)を生成する。複素ウエイト2は、複素ウエイト0において複素ウエイトWAk2だけが反転されたものである。複素ウエイト2を用いてトレーニングフレーム2-2を受信した時の受信レベル情報(70)も、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下している。
図9(c)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。複素ウエイト2の時の受信レベル情報(70)も、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下しているので、複素ウエイトWAk2を"0"に決定する。1トレーニング期間内最大受信レベル保持部で保持される受信レベル情報は、"100"のまま更新されない。
次に、トレーニングカウンタ情報が"3"になると、トレーニング時ウエイト生成部は、複素ウエイト3(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1)を生成する。複素ウエイト3は、複素ウエイト0において複素ウエイトWAk3だけが反転されたものである。複素ウエイト3を用いてトレーニングフレーム2-3を受信した時の受信レベル情報(102)は、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より増大している。
図9(d)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。複素ウエイト3の時の受信レベル情報(102)は、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より増大しているので、複素ウエイトWAk3を"0"に決定する。1トレーニング期間内最大受信レベル保持部で保持される受信レベル情報は、"102"に更新される。また、最適ウエイト更新信号は、トレーニングフレーム2-1以降のフレーム受信検出信号が出力された後、当該トレーニングフレームの受信レベル情報がそれまでの最大受信レベル情報を上回った時点で出力される。トレーニングフレーム2-3の受信中に、受信レベル情報比較部から最適ウエイト更新信号が出力されるので、トレーニング時ウエイト生成部は、複素ウエイト3(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1)を記憶する。
次に、トレーニングカウンタ情報が"4"になると、トレーニング時ウエイト生成部は、複素ウエイト4(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=0)を生成する。複素ウエイト4は、複素ウエイト3において複素ウエイトWAk4だけが反転されたものである。複素ウエイト4を用いてトレーニングフレーム2-4を受信した時の受信レベル情報(90)は、複素ウエイト3の時の受信レベル情報(102)より低下している。
図9(e)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。複素ウエイト4の時の受信レベル情報(90)は、複素ウエイト3の時の受信レベル情報(102)より低下しているので、複素ウエイトWAk4を"1"に決定する。1トレーニング期間内最大受信レベル保持部で保持される受信レベル情報は、"102"のまま更新されない。
トレーニングフレーム2-4に対するフレーム終了検出信号が出力された時、トレーニングカウンタ情報が"5"になり、次のトレーニングフレームの受信に備えて、複素ウエイト3において複素ウエイトWAk1だけが反転された複素ウエイトWAk1=0,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1に変更される。しかし、直後のトレーニングフレームはなく、シーケンス終了検出信号が出力されるので、次のデータフレームの送信および受信に備えて複素ウエイトは、WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1が最適値として設定される。
以上のトレーニングにより、複素ウエイト3(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1)が受信レベル情報を最大とすること、すなわち、複素ウエイト3が複素ウエイトの最適値であることが分かる。この複素ウエイトの最適値3(WAk1=1,WAk2=0,WAk3=0,WAk4=1)をウエイト処理部へ出力し、複素ウエイトの最適値3を用いて、続くデータフレーム送受信時のビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行う。
伝送路の状況は時間とともに変化するので、複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4は常に最適化しつづける必要がある。トレーニングでは、以上のようにして、複数のトレーニングフレームを受信し、大きな受信レベル情報が得られる複素ウエイトが見つかれば、この複素ウエイトを最適な複素ウエイトとして設定し直す。
このように、トレーニング中に各アンテナの信号に対する複素ウエイトを順次変更し、そのときの受信レベル情報を調べるというアルゴリズムに従って常に複素ウエイトの最適値を見つけ出し、これをデータ送受信時の複素ウエイトの最適値として用いる。これによれば、最短で、(アンテナ数+1)個のトレーニングフレームにより各アンテナの信号に対する複素ウエイトの最適値を決定できる。
次に、本発明に係る無線通信システムの第2実施形態について説明する。第1実施形態においては、ウエイト処理部11-kの乗算器が1ビット移相器であると想定し、等利得合成でダイバーシチ合成を行う場合の、複素ウエイトの最適値決定動作について説明した。
しかし、ウエイト処理部11-kの乗算器は、1ビット移相器に限られるものではなく、nビット移相器(nは2以上の自然数)でもよい。例えば、n=2の場合、複素ウエイトは"00" ("0"),"01" ("1") ,"10" ("2"),"11" ("3")の2ビットであり、入力信号は、例えば、複素ウエイト"00","01" ,"10","11"に応じて、そのまま、+90度回転、位相反転あるいは−90度回転して出力される。
nビット移相器(nは2以上の自然数)を用いる場合でも、第1実施形態と同様に、複素ウエイトを順次変更し、そのときの受信レベル情報を調べるというアルゴリズムに従って常に複素ウエイトの最適値を見つけ出し、これをデータ送受信時の複素ウエイトの最適値とすることができる。
以下に説明する第2実施形態では、ウエイト処理部11-kの乗算器にnビット移相器(nは2以上の自然数)を用い、等利得合成でダイバーシチ合成を行う場合の複素ウエイトの最適値を決定する。
上述したように、ウエイト処理部11-kの乗算器にnビット移相器(nは2以上の自然数)を用いる場合でも、複素ウエイトを順次変更し、そのときの受信レベル情報を調べるというアルゴリズムに従って常に複素ウエイトの最適値を見つけ出すことができる。しかし、第2実施形態では、(アンテナ数+1)個のトレーニングサブ信号により、各アンテナ群を構成する複数のアンテナの各々の信号に対する複素ウエイトの最適値を決定できるようにしている。
複素ウエイトの最適値決定動作はnの値にはよらないが、簡単のためn=2とし、図10に示すトレーニング信号を用いるものとする。トレーニング信号は、現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時のアンテナ群毎のベースバンド受信IQ情報もしくはベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方、および現状の複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のアンテナ群毎のベースバンド受信IQ情報もしくはベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を得るために用いられる。
ここで、ベースバンド受信IQ情報とは、ベースバンド送信IQ信号とベースバンド受信IQ信号の間における複素伝達関数となる情報であり、例えば、各トレーニングフレームに含まれるプリアンブルに対応したベースバンド受信IQ信号そのものである。後述するように、ベースバンド受信IQ信号に代えて、ベースバンド受信IQ信号と予め定められた特定情報系列の相関情報を用いることもできる。
各無線通信装置は、1トレーニング期間内のトレーニング信号を受信することにより、その時点での、アンテナ群毎のダイバーシチ受信状態を最良化する複素ウエイトの最適値を決定できる。
本例のトレーニング信号(図10)は、1トレーニング期間内に、複数のトレーニングフレーム1,2-1〜2-4を含む。この場合、トレーニングサブ信号は、各々のトレーニングフレームである。
このような信号の具体例としては、IEEE802.11n (Draft 5.0)におけるアンテナ選択信号があり、トレーニング信号としてこのような信号を用いることができる。本例のトレーニング信号では、ACKフレームは使用されず、常に(受信側の無線通信装置のアンテナ数+1)個のトレーニングフレームが断続的に送信される。
先頭のトレーニングフレーム1には送信元アドレス、送信先アドレスおよびフレーム種別などの情報を含ませることができる。このトレーニングフレーム1を用いて、現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ情報もしくはベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。
トレーニングフレーム2-1〜2-4は、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のアンテナ群毎のベースバンド受信IQ情報もしくはベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得するためものである。
以下では、ベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得して複素ウエイトの最適値を決定する場合について説明する。
第2実施形態の無線通信システムの基本構成は図1と同じであるので、図1を参照して、その動作を説明する。図1において、例えば、無線通信装置Aにおける複素ウエイトの最適値を決定する場合、無線通信装置Aは、無線通信装置Bが送信するトレーニングフレーム1,2-1〜2-4をダイバーシチ受信する。トレーニングフレーム1は、アンテナ群毎に、現状の複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを用いてダイバーシチ受信され、トレーニングフレーム2-1〜2-4は、アンテナ群毎に、現状の複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを所定のアルゴリズムで変更した複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを用いてダイバーシチ受信される。これらのダイバーシチ受信で得られるベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方に基づいて複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMの最適値が決定される。
また、無線通信装置Bは、過去の直近のトレーニングで取得された、ほぼ最適の複素ウエイトを用いてトレーニング信号を各アンテナ群の各アンテナBn1, Bn2,・・・, B nNから送信する。この無線通信装置Bの複素ウエイトは、無線通信装置Aが、その時点での複素ウエイトの最適値に更新する1トレーニング期間中で固定とする。なお、無線通信装置A,B間の通信が全くの初期状態からである場合、無線通信装置A,Bは、後述するように、トレーニング信号を互いに送受信して複素ウエイトの最適値への引き込みを可能にする。
無線通信装置Aは、まず、無線通信装置Bに具備されたQ個のアンテナ群Bn1〜BnN(n=1〜Q)から送信された最初のトレーニングフレーム1を、P個のアンテナ群Ak1〜AkM(k=1〜P)が備えるM本のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMで受信する。アンテナ群毎のウエイト処理部11-kの各乗算器は、各アンテナ群の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからの各受信信号にアンテナ群毎の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを乗算する。
各乗算器は、複素ウエイトが"00"であれば、入力信号をそのまま出力し、複素ウエイトが"01"であれば、入力信号を+90度回転して出力する。また、複素ウエイトが"10"あるいは"11"の場合には、各々、入力信号を位相反転、−90度回転して出力する。最初のトレーニングフレーム1を受信する時の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとしては、過去の直近のトレーニングで取得されたものを用いる。この複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、現状でも、ほぼ最適値となっていると考えられる。しかし、この時に用いる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、任意に設定することができる。複素ウエイトWA1,WA2,・・・,WAMは、後述するように、続く複数のトレーニングフレーム2-1〜2-4のダイバーシチ受信後にさらに最適値へと更新される。
アンテナ群毎のRF信号分配・合成部12-kは、アンテナ群毎のウエイト処理部11-kにより複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが乗算された受信信号を加算してアンテナ群毎のダイバーシチ合成受信信号RAを生成する。
次に、アンテナ群毎に、1つのアンテナ、例えばアンテナAk1の信号に対する複素ウエイトWAk1だけを先の複素ウエイトの最適値WAk1から位相反転させる。この新しい複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、引き続くトレーニングフレーム2-1をダイバーシチ受信し、このときのベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。
次に、アンテナAk1以外の1つのアンテナ、例えばアンテナAk2の信号に対する複素ウエイトWAk2だけを先の複素ウエイトの最適値WAk2から位相反転させる。この新しい複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、引き続くトレーニングフレーム2-2をダイバーシチ受信し、この時のベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。
同様に、トレーニングフレーム2-3,2-4を順次受信し、この時のベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。
このように、トレーニングフレーム1,2-1〜2-Mを順次受信し、その度に、アンテナ群毎に、アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを1つずつ順次変更(位相反転)し、この時のベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方をアンテナ群毎に取得する。
以上では、トレーニング信号として複数のトレーニングフレームを用いる場合について説明した。しかし、トレーニング信号としては、それを用いてベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得できるものであればよく、任意のフレーム、シンボル、サブキャリア、拡散信号等を用いることができる。図11は、複数のトレーニングシンボルからなるトレーニング信号の例を示す。この場合、トレーニングサブ信号は、各々のトレーニングシンボルであり、それらのシンボルは受信側において既知である。この場合、トレーニングシンボル1を用いて、現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。また、トレーニングシンボル2-1〜2-4を用い、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を取得する。
図12は、送信側からベースバンド送信IQ情報"1"を送信したときの受信側でのアンテナ群毎の受信情報を模式的に表したものである。ここでは、無線通信装置において1つのアンテナ群を構成するアンテナをAk1,Ak2,・・・,Ak4の4本とし、各アンテナAk1,Ak2,・・・,Ak4の受信情報をA1,A2,・・・,A4と表記している。これは、図9と同様である。
同図(a)は、トレーニングフレーム1に対する受信情報rA1の一例であり、同図(b)〜(e)は、トレーニングフレーム2-1〜2-4 の受信情報rA2-1, rA2-2,・・・, rA2-4の一例である。各トレーニングフレームに含まれるプリアンブル等の既知パターンに対するベースバンド受信IQ信号から受信情報rA1, rA2-1, rA2-2,・・・, rA2-4を求めることができる。また、各フレーム受信におけるAGC利得の情報等を用いて各フレームの受信レベル情報、すなわち、受信情報rA1, rA2-1, rA2-2,・・・, rA2-4の振幅の情報を得ることができる。
トレーニングフレーム1では、受信信号A1,A2,・・・,A4をベクトル加算したものが受信される。トレーニングフレーム2-1では受信信号-A1(A1の反転ベクトル),A2,・・・,A4をベクトル加算したものが受信される。トレーニングフレーム2-2では受信信号A1, -A2(A2の反転ベクトル),・・・,A4をベクトル加算したものが受信される。トレーニングフレーム2-3、2-4についても同様である。無線通信装置Aにおいて、トレーニング信号の各トレーニングフレームに対するベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を用いてアンテナ群毎の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定する。その決定手法については後述する。
その後、無線通信装置Aは、このアンテナ群毎の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて、無線通信装置Bに対してトレーニングフレーム1,2-1〜2-4を送信する。今度は、無線通信装置Bが、無線通信装置AのP個のアンテナ群Ak1〜AkM(k=1〜P)から送信されたトレーニングフレーム1,2-1〜2-4を受信し、アンテナ群毎の各アンテナBn1,Bn2,・・・,BnN(n=1〜Q)の信号に対する複素ウエイトの最適値WBn1,WBn2,・・・,WBnNを決定する。その動作は、無線通信装置Aの動作と同じである。 さらに、無線通信装置A,B間で双方向のトレーニング信号伝送を行って、アンテナ群毎に複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMおよびWBn1,WBn2,・・・,WBnNをより最適化することができる。
無線通信装置A,Bは、データ送受信に際し、以上のようにして決定したアンテナ群毎の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAk4およびWBn1,WBn2,・・・,WBn4を用いて、ビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行う。
さて、アンテナ群毎の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMは、以上のようにして得られたベースバンド受信IQ情報および受信レベル情報の両方を用いて、以下のようにして決定できる。
トレーニングフレーム1の受信における任意のアンテナ群のベースバンド受信IQ情報rA1は、式(2)で表される。
ここで、C1は、トレーニングフレーム1の受信における無線通信装置Aの当該アンテナ群の受信系での利得である。C1による規格化により、ベースバンド受信IQ情報rA1は、受信レベルによらず、ほぼ一定の大きさとなる。
一方、トレーニングフレーム2-1〜2-4受信における当該アンテナ群のベースバンド受信IQ情報rA2-1, rA2-2,・・・, rA2-4は、式(3)で表される。
ここで、C2-1,C2-2,・・・,C2-4は、トレーニングフレーム2-1〜2-4の受信における無線通信装置Aの当該アンテナ群の受信系での利得である。C2-1,C2-2,・・・,C2-4による規格化により、ベースバンド受信IQ情報rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4は、受信レベルによらず、ほぼ一定の大きさとなる。
当該アンテナ群の受信系での利得CX は、当該アンテナ群の受信レベル情報PXから式(4)で求めることができる。
ここで、kは定数である。式(4)を式(2),(3)に代入することにより、式(5)が得られる。
式(5)より、式(6)が得られる。
ここで、A1,A2,・・・,A4は複素ベクトルであり、これらの位相をそれぞれθ1,θ2,・・・,θ4とする。
4つのベクトルA1,A2,・・・,A4の位相が同一となるように、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を更新することにより、複素ウエイトWAk1,WA2,・・・,WAk4を最適化できる。k
例えば、当該アンテナ群のトレーニングフレーム1の受信情報rA1に、これらの4つのベクトルの向きを合わせることにより、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を最適化できる。この場合、受信情報rA1の位相をθ0とすると、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を式(7)により更新すればよい。
θ0,θ1, θ2,・・・, θ4は、式(8)で与えられる。ただし、実際には、θ0,θ1, θ2,・・・, θ4をnビットで量子化した位相が複素ウエイトとして使用される。
以上では、複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定するためにベースバンド受信IQ情報と受信レベル情報の両方を得ているが、受信レベル情報を用いなくても複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定できる。例えば、図11のトレーニング信号を用いる場合、フレーム先頭のトレーニングフィールドの一部を用いて受信AGC動作は完了するので、トレーニングシンボル1,2-1〜2-4受信時の利得は同一(C1=C2-1=C2-2= C2-3=C2-4)となる。トレーニングシンボル1,2-1〜2-4受信におけるベースバンド受信IQ情報rA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4は、式(9)で表され、ベースバンド受信IQ情報rA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4のみから各アンテナの相対的な受信信号を求めることができる。
なお、(7)式で求まる複素ウエイトを用いると、当該アンテナ群でのトレーニングフレーム1の受信情報rA1に、当該アンテナ群の各アンテナでの受信信号のベクトルの向きを合わるように動作する。一般に、トレーニングフレーム1における受信情報rA1のベクトルの向きは、アンテナ群毎に異なる。無線通信装置Aでの受信においては、無線受信部107-1〜107-Pから出力される受信情報rA1におけるベクトルの向きのばらつきは、直後の空間デマッピング部108において補償され、同一向きに揃えられた上でダイバーシチ合成される。しかし、今度は無線通信装置Aからの送信においては、無線送信部106-1〜106-Pには同一向きのベクトルの送信信号が印加されるので、無線通信装置Bでの受信においては、無線通信装置Aの各アンテナ群からの信号が必ずしも同相で合成されない。このため、トレーニングフレーム1での受信信号のベクトルが、例えば、第1象限に入るように、(7)式で求まる複素ウエイトをさらに回転したものを複素ウエイトとして使用してもよい。例えば、トレーニングフレーム1の受信信号ベクトルが第2象限となり、(7)式で求まる複素ウエイトが各々"00"、"01"、"10"、"11"となる場合には、複素ウエイトを各々"11"、"00"、"01"、"10"とすればよい。
また、ダイバーシチ合成受信信号と予め定められた情報系列の相関情報もしくは該相関情報と受信レベル情報の両方に基づいて複素ウエイトの最適値WA1,WA2,・・・,WAMを決定することもできる。
例えば、図10のトレーニング信号を用いる場合、ダイバーシチ合成受信信号と予め定められた情報系列の相関情報と受信レベル情報の両方を用いて複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定することができる。
図13は、無線LANで使用されるバースト検出、AGC動作およびタイミング同期のためのプリアンブルにおけるベースバンドIQ信号を示す。ここでは、基本パターンの約4周期分を図示しているが、無線LANでは基本パターンの10周期分がプリアンブルとして送信される。受信側では、バースト検出後に、まず、AGC動作を行う。また、タイミング同期のために、ベースバンド受信IQ信号と、基本パターンの複素共役となる信号との相関演算を行う。図14は、マルチパス波が存在しない場合の、相関演算の出力信号を示す。
例えば、図10のトレーニング信号を用いる場合には、相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号を式(6)におけるベースバンド受信IQ情報rA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4の代わりに用いることができる。
相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号をrA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4とし、出力信号rA1の位相をθ0とすると、この場合でも、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を式(7)により更新すればよい。
また、例えば、図11のトレーニング信号を用いる場合、フレーム先頭のトレーニングフィールドの一部を用いて受信AGC動作は完了するので、トレーニングシンボル1,2-1〜2-4受信時の利得は同一(C1=C2-1=C2-2= C2-3=C2-4)となる。したがって、トレーニングシンボル1,2-1〜2-4受信における、相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号rA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4から各アンテナの相対的な受信信号を求めることができる。
相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号は、時間的に積分された情報であり、これを用いることにより、熱雑音あるいは干渉信号の影響を低減しつつ、複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定することができる。
図15は、第2実施形態の無線通信装置Aにおけるアンテナ群毎の複素ウエイトの最適値決定処理を示すフローチャートである。ここでは、1つのアンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナをAk1, Ak2,・・・,AkMのM本とし、ウエイト処理部11-kの乗算器としてn(nは2以上の自然数)ビット移相器を用いた場合のフローを示している。
先頭のトレーニングフレーム1が受信されると(S11)、まず、当該アンテナ群の複素ウエイトの最適値WAk=(WAk1, WAk2,・・・, WAkM)を用いて先頭のトレーニングフレーム1をダイバーシチ受信してベースバンド受信IQ情報r1および受信レベル情報P1を取得する。また、変数iに1を代入(i←1)する(S12)。変数iは、以下のステップからなるループをアンテナ数M回だけ行わせることを規定する。なお、ここでのWAk=(WAk1, WAk2,・・・, WAkM)はそれぞれ、当該アンテナ群の複素ウエイトの初期値である。ここではウエイト処理部11-kの乗算器がnビット移相器である場合を想定しているので、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの各々は、nビット情報である。
次に、トレーニングフレーム2-i が受信されると(S13)、i番目の複素ウエイトWAkiを反転させた複素ウエイトWAk′でトレーニングフレーム2-iを受信してベースバンド受信IQ情報r2-iおよび受信レベル情報P2-iを取得する(S14)。また、S14では、さらに変数iを1だけインクリメントする(i←i+1)。次に、変数iがアンテナ数M以下か否かを判定する(S15)。S15で、変数iがアンテナ数M以下と判定されれば、S13に戻って処理を繰り返し、変数iがアンテナ数M以下でないと判定されれば、S12およびS14で取得したベースバンド受信IQ情報 r1,r2-1,r2-2,・・・,r2-4および受信レベル情報 P1,P2-1,Pr2-2,・・・,P2-4を用いて複素ウエイトを更新する(S16)。トレーニングフレーム2-i が受信されなければ、ベースバンド受信IQ情報r2-iを0とし、受信レベル情報P2-iを1とし、また、変数iに1+1を代入(i←i+1)する(S17)
以上のフローにより、当該アンテナ群の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトW1, W2,W3,・・・,WMを最適化できる。したがって、アンテナ数がMの場合、n(nは2以上の自然数)ビット移相器を用いた場合においても、合計(M+1)個のフレームのダイバーシチ受信により複素ウエイトWAk=(WAk1,WAk2,・・・,WAkM)を最適化できる。
図16は、本発明に係る無線通信装置の第2実施形態の構成を示すブロック図である。なお、図16において、図1および図6と同一あるいは同等部分には同じ符号を付しており、ここでは図1の無線通信装置Aを示しているが、無線通信装置Bも同様である。また、図16は、無線通信装置のウエイト処理部11-kの乗算器がnビット移相器(nは2以上の自然数)である場合における実施形態を示している。
第2実施形態の無線通信装置Aは、それぞれがM本(Mは2以上の整数)のアンテナAk1,Ak,・・・,AkM(kは1以上P以下の整数)からなるP個のアンテナ群Ak1〜AkM、ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-PおよびRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-PからなるP個のダイバーシチ回路およびMIMO送受信部19を備える。該P個のダイバーシチ回路は、複素ウエイトの最適値を用いて、該アンテナ群Ak1〜AkMでのビームフォーミングおよびダイバーシチ合成を行ってトレーニング信号やデータの送受信を行う。MIMO送受信部19は、図1の送受信回路13-1,13-2,・・・,13-P〜ストリーム分配・合成部17に相当する。
MIMO送受信部19は、信号合成部101、ストリーム分配部102、ベースバンド変調部103-1,103-2,・・・,103-K、時空間符号・符号化部104、空間マッピング部105、無線送信部106-1,106-2,・・・,106-P、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-P、空間デマッピング部108、時空間符号・復号部109、ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-K、ストリーム合成部111、デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-P、伝送路特性推定部112および送受信の切替制御のための送受信制御部113を備える。時空間符号を使用しない場合には、時空間符号・符号化部および時空間符号・復号部はなくてもよい。ここでは、該ダイバーシチ回路をRF帯で動作させ、送受信回路13-1, 13-2,・・・,13-Pが各アンテナ群に対して1つだけで済むようにしている。すなわち、無線通信装置Aは、各アンテナ群に対して1つだけの送受信系統だけを用いてマルチアンテナでのビームフォーミングおよびダイバーシチ受信を行う。上記の各部のうち、ウエイト処理部11およびビーム形成用ウエイト生成部38以外は、一般的な無線通信装置が備える構成要素である。
MIMO送受信部19において、送信データは、信号合成部101を介してストリーム分配部102に入力され、無線伝送されるストリーム数のデータ系列に分割される。この信号は、無線伝送されるストリーム数Kと同数のベースバンド変調部103-1,103-2,・・・,103-Kに入力される。
各ベースバンド変調部103-kにおいては、入力されたデータ系列に基づいてベースバンド変調が行われる。例えば、OFDM変調を用いる場合には、各データ系列は、シリアルパラレル変換された後に、各サブキャリアに対応したデータに基づいてQAMマッピングが行われ、さらに逆フーリエ変換により時間系列に変換されて、複素ベースバンド変調信号となる。
時空間符号を使用する場合、複素ベースバンド変調信号は時空間符号・符号化部104で時空間符号を用いて符号化され、時空間符号に応じた数の時間系列が出力される。時空間符号を使用しない場合には、複素ベースバンド変調信号はそのまま時空間符号・符号化部104から出力される。時空間符号・符号化部104の出力信号は、空間マッピング部105に入力される。
空間マッピング部105では、MIMOにおける処理、例えば、空間多重、時空間符号化、送信アンテナ選択ダイバーシチ、ビームフォーミング等に応じた処理が行われる。空間マッピング部105では各アンテナ群から送出する送信信号を得るための処理が行われるが、この処理の詳細については、非特許文献1または非特許文献2に詳細に記載されている。
空間マッピング部105から出力されるP個の複素送信IQ信号は、対応する無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pに入力される。無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pからは、例えば、この信号で直交変調されたRF送信信号が出力される。無線送信部106-1,106-2,・・・,106-Pから出力された各RF送信信号は、各デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pに入力される。
デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pは、RF送信信号の送信とRF受信信号の受信を時間的に切り替える。例えば、送受信制御部113から送信期間に"1"となり、受信期間に"0"となる送受信制御情報を受け、送受信制御情報が"1"の場合には各無線送信部106-1,106-2,・・・,106-PからのRF送信信号をRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-Pに出力し、送受信制御情報が"0" の場合にはRF信号分配・合成部12-1,12-2,・・・,12-PからのRF受信信号を無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pに出力する。デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pとしては、方向性結合器、高周波スイッチ等を使用することができる。
デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pからの出力信号はそれぞれ、RF信号分配・合成器12-1,12-2,・・・,12-Pおよびウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pからなるダイバーシチ回路に入力される。P個のダイバーシチ回路はそれぞれ、M個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMに接続されており、(P×M)個のアンテナからRF送信信号が無線伝播路上へ送出される。
一方、P個のアンテナ群Ak1〜AkMを構成するM個のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMにおいて受信されたRF受信信号は、P個のダイバーシチ回路において合成され、その出力信号はそれぞれ、デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pに入力される。デュプレクサ18-1,18-2,・・・,18-Pの出力信号はそれぞれ、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pに入力され、複素受信IQ信号が出力される。ここで、無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pは、RF受信信号を複素受信IQ信号に復調するだけでなく、トレーニング信号の各トレーニングフレームから各々受信レベル情報を取得する。
これらP個の複素受信IQ信号は空間デマッピング部108およびビーム形成用ウエイト生成部30の両方に入力される。一方、受信レベル情報は、ビーム形成用ウエイト生成部30に入力される。受信レベル情報は、ダイバーシチ合成受信信号の各トレーニングフレームについての受信レベルに関連する情報ならば如何なるものでもよく、例えば、RSSI(Received Signal Strength Information)情報、あるいはそれをレベルに変換した情報、無線受信部36が備えるAGCアンプの利得、あるいはそれをレベルに変換した情報などを用いることができる。ただし、トレーニング信号として、同一フレームの複数のトレーニングシンボルを使用する場合には、受信レベル情報は複数のトレーニングシンボルで同一であるので、受信レベル情報を使用せず、P個の複素受信IQ信号だけを使用することもできる。空間デマッピング部108では、MIMOにおける処理、例えば、空間多重、時空間符号化、受信ダイバーシチ等に応じた処理が行われる。空間デマッピング部108から出力される複素受信IQ信号は時空間符号・復号部109に入力される。
時空間符号を使用する場合には、当該時空間符号に対する復号処理が行われ、その処理された信号が時空間符号・復号部109から出力される。時空間符号を使用しない場合には、時空間符号・復号部109に入力された複素受信IQ信号がそのまま出力される。
時空間符号・復号部109からの1つまたは複数の出力信号はそれぞれ、ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-Kに入力され、復調処理される。OFDM変調を用いる場合には、入力された複素受信IQ信号をシンボル毎に分割し、それぞれをフーリエ変換する。フーリエ変換で求まった各周波数成分をQAM復調したデータをパラレルシリアル変換して受信データ系列を得る。
ベースバンド復調部110-1,110-2,・・・,110-Kから出力される受信データ系列は、ストリーム合成部111において1つの受信データ系列に合成される。なお、OFDM変調においては、誤り訂正符号化およびインターリーブを使用するのが一般的であり、この場合には上述の合成された受信データに対して、誤り訂正符号に対する復号処理およびデインターリーブ処理が行われる。
P個の無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pから出力される複素受信IQ信号は、伝送路特性推定部112にも入力されており、例えば、RF受信信号の各フレームに含まれる既知の系列であるプリアンブルを用いて、送信側における各アンテナ群と受信側における各アンテナ群間での伝送路特性の推定が行われる。この推定された伝送路特性は、空間デマッピング部108および時空間・復号部109での処理に使用される。
無線受信部107-1,107-2,・・・,107-Pからは、上述の複素受信IQ信号以外に、RF受信信号それぞれの各フレームについての受信レベル情報が出力される。この受信レベル情報はビーム形成用ウエイト生成部30に入力される。受信レベル情報は、ダイバーシチ合成受信信号の各フレームについての受信レベルに関連する情報ならば如何なるものでもよく、例えば、RSSI(Received Signal Strength Information)情報、あるいはそれをレベルに変換した情報、無線受信部が備えるAGCアンプの利得、あるいはそれをレベルに変換した情報などを用いることができる。
送受信制御部113は、無線通信装置の必須の構成要素である無線アクセス制御部の一部であり、例えば、送信期間に"1"となり受信期間に"0"となる送受信制御情報をP個のデュプレクサ8-1,18-2,・・・,18-Pおよびビーム形成用ウエイト生成部30に出力する。
ビーム形成用ウエイト生成部30は、アンテナ群毎の各アンテナAk1〜AkMに対する複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMの最適値を保持しており、送受信制御部113から出力される送受信制御情報および受信レベル情報に基づき、各アンテナ群Ak1〜AkMに対して、トレーニング信号の各トレーニングサブ信号に対して、異なる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを生成し、各無線受信部107-kから出力される受信レベル情報に基づいて複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定する。ここで生成された複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMは、ウエイト処理部11-kの各乗算器に与えられる。ビーム形成用ウエイト生成部30の詳細は、後述する。ビーム形成用ウエイト生成部30は、"ダイバーシチ合成情報生成手段" として機能し、それには、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング受信情報保持手段"および"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"が含まれている。
トレーニング信号生成部40は、アンテナ群毎にトレーニングを実行させ、相手側無線通信装置がビームフォーミングするために必要なトレーニング信号を生成する。ここで生成されるトレーニング信号は、トレーニング用の送信データ系列であり、例えば、PLCPヘッダ、MACヘッダ等の情報を含んでもよい。トレーニング信号生成部40から出力されるトレーニング用の送信データは、送信データとともにアンテナ群毎の信号合成部101に入力される。
信号合成部101は、送信データとトレーニング信号生成部40からのトレーニング用送信データを時間的に合成して出力する。信号合成部101は、送信データが与えられた場合にはこのデータをストリーム 分配部102に出力し、トレーニング信号生成部40からトレーニング用送信データが出力された場合には、これをストリーム分配部102に出力する。
ウエイト処理部11-kは、ビーム形成用ウエイト生成部30から与えられるアンテナ群毎の複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMに従って、各アンテナ群Ak1〜AkMのRF受信信号およびRF送信信号にウエイト処理を施す。すなわち、各ウエイト処理部11-kは、各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMのRF受信信号にウエイト処理を施して当該RF信号分配・合成部12-kに出力し、また、当該RF信号分配・合成部12-kからのRF送信信号にウエイト処理を施して各アンテナ群Ak1〜AkMを構成する各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMに出力する。
アンテナ群毎のウエイト処理部11-kにおけるウエイト処理は、nビット移相器による移相処理で実現できる。例えば、n=2の場合におけるウエイト処理は、0度、90度、180度あるいは270度の移相処理で実現できる。ウエイト処理部11-1,11-2,・・・,11-Pは、第2実施形態の無線通信装置において、"ダイバーシチ合成情報設定手段"として機能する。
RF信号分配・合成部12-kは、各アンテナ群Ak1〜AkMにおけるRF送受信信号の分配および合成を行う。すなわち、ウエイト処理部11-kからのM個のRF受信信号を入力とし、それらを合成した信号をデュプレクサ18-kに出力し、また、デュプレクサ18-kからのRF送信信号を入力とし、これをM分配してウエイト処理部11-kに出力する。
なお、RF信号分配・合成部12-kで合成されてデュプレクサ18-kに出力されるRF受信信号のレベルは、インピーダンス変換に起因してウエイト処理部11-kから入力されたRF受信信号のレベルの1/√Mになる。同様に、M分配されてウエイト処理部11-kに出力されるRF送信信号のレベルは、デュプレクサ18-kから入力されたRF送信信号のレベルに対して、1/√Mになる。これらのRF信号分配・合成部12-kは、"信号分配合成手段"として機能する。
図17は、図16のビーム形成用ウエイト生成部30の具体的構成を示すブロック図である。なお、図17において、図7と同一あるいは同等部分には同じ符号を付してある。ビーム形成用ウエイト生成部30は、基本的にはアンテナ群毎に独立に動作する。ここでは、その中の1つの構成および動作について説明する。
実際には、ビーム形成用ウエイト生成部30は、図17と同一のブロック構成をP個備える。すなわち、ビーム形成用ウエイト生成部30は、P個の受信情報保持部80、P個の最適ウエイト決定部84、P個の移相器制御部60およびタイミング部70を備え、双方向のトレーニング信号伝送を通じて、アンテナ群毎にビームフォーミングおよびダイバーシチ合成のための複素ウエイトの最適値を決定する。
トレーニング受信情報保持部80は、ベースバンド受信IQ信号保持部81および受信レベル情報保持部82を備える。トレーニング受信情報保持部80は、"トレーニング受信情報保持手段"として機能する。
ベースバンド受信IQ信号保持部81は、トレーニングシーケンス受信に際して、各トレーニングフレームに含まれる既知パターンに対応したベースバンド受信信号であるベースバンド受信IQ信号を保持する。
具体的には、既知パターン"1"(複素数)に対応したベースバンド受信信号を保持するものとすると、ベースバンド受信IQ信号は、送信ベースバンド部と受信ベースバンド部の間における位相回転を表す複素伝達関数(ベクトル)となる。
既知パターンとして、例えば802.11nにおけるLTFを使用し、これに対応したベースバンド受信信号とLTFとの相関演算出力をベースバンド受信IQ信号とすることにより、複素伝達関数の推定における雑音の影響を軽減することができる。トレーニングシーケンスのすべてのトレーニングフレームに既知パターンが含まれていれば、それを用いて複素伝達関数の推定値となるベースバンド受信IQ信号を求めることができる。各トレーニングフレームに含まれる既知パターンは、すべて同一でもよいし、すべてが互いに異なっていてもよい。
これを実現するために、ベースバンド受信IQ信号保持部81には、ベースバンド受信信号およびタイミング部70からのフレーム受信検出信号が印加されている。例えば、フレーム受信に際して、ヘッダ部分に、当該フレームがトレーニングフレームであることを示す情報要素が含まれている場合にパルスを出力し、それ以外では"0"となる信号をフレーム受信検出信号として用いることができる。トレーニングフレームの判別には、ヘッダ部分の情報要素を用いることができる。あるいはフレーム受信検出信号の時間間隔が所定値以下の場合のフレームをトレーニングフレームと判別することもできる。
一方、受信レベル情報保持部82は、トレーニングシーケンスの受信に際して、各トレーニングフレームに含まれる既知パターンに対応した受信レベル情報を保持する。受信レベル情報としてRSSI値を用いる場合には、例えば既知パターンに対応したRSSI値を受信レベル情報として保持してもよい。あるいは、一般に先頭フレームは既知パターンであるので、これを受信した時の受信AGC利得を受信レベル情報として用いてもよい。
複素伝達関数の情報からは、受信AGCの働きにより振幅情報が失われている。受信レベル情報を用いることにより、この振幅情報を復元して、位相情報だけではない真の複素伝達関数の情報を得ることができる。
フレーム受信検出信号はトレーニングフレーム毎に出力され、各トレーニングフレームにおけるベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報がトレーニング受信情報保持部80において保持される。これらの情報は、最適ウエイト決定部84に印加される。最適ウエイト決定部84は、式(6)に基づいて最適な複素ウエイトWAk1(B),WAk2(B),・・・,WAkM(B)を計算し、トレーニング時ウエイト生成部62に出力する。なお、最適ウエイト決定部84からの最適な複素ウエイトWAk1(B),WAk2(B),・・・,WAkM(B)の出力は、タイミング部70からの最適ウエイト更新信号で示されたタイミングで行われる。トレーニングシーケンス受信が終了した直後にパルスを出力し、それ以外では"0"となる信号を最適ウエイト更新信号としてもよい。
移相器制御部60は、非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62およびウエイト選択部63を備える。非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62はそれぞれ、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"として機能し、トレーニング時ウエイト生成部62は、最適ウエイト決定部84と組み合わされて"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"としても機能する。
全くの初期状態から複素ウエイトの最適値への引き込みには、まず、相手側無線通信装置から少なくとも、アンテナ群を構成するアンテナの数+1個のフレームを含むトレーニング信号を受信することが必要である。しかし、当初から、相手側無線通信装置が送信するトレーニング信号を受信できるとは限らない。そこで、全くの初期状態でも、自無線通信装置が送信する少なくとも1個のトレーニング信号((アンテナ数+1)個のフレーム)を相手側無線通信装置が受信できるようにする。これは、異なる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いて複数のトレーニング信号を送信し、相手側無線通信装置がいずれかのトレーニング信号を受信できるようにすることにより実現できる。
非ビーム形成時ウエイト生成部61は、このような非ビーム形成時の複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を生成する。このトレーニング信号を送信する際の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、任意であるが、トレーニング信号の送信ごとに変化させることが望ましい。CSMA(Carrier Sense Multiple Access)システムにおいては、非ビーム形成時かつ非送受信時の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを時間的にランダムに変化させ、トレーニング信号の送信開始時点での複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを当該トレーニング信号の送信で使用することができる。
具体的には、アンテナ数がMの場合、Mビットカウンタを自走クロックで動作させ、そのM個のカウンタ値を各複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとして用いることができる。このランダム変化の時間間隔は、例えば1μs程度に設定すればよい。
相手側無線通信装置がいずれかのトレーニング信号を受信して複素ウエイトの最適値を決定し、その最適値を設定してトレーニング信号をビームフォーミングして送信すれば、自無線通信装置は、そのトレーニング信号を受信できる。なお、相手側無線通信装置から同様にランダムに変化された複素ウエイトを用いて送信されるいずれかのトレーニング信号を受信できれば、自無線通信装置でそのまま複素ウエイトの最適値への引き込みが行われる。
トレーニング時ウエイト生成部62は、トレーニングカウント部64からのトレーニングカウンタ情報に従って複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の各々WAki(TR)をフレームごとに順次変更し、最適ウエイト更新信号生成部85から最適ウエイト更新信号が出力された時の各複素ウエイトWAki(TR)を保持する。なお、複素ウエイトWA1(TR),WA2(TR),・・・,WAM(TR)の初期の最適値は、過去の直近のトレーニングによって得られたものとするのが好ましい。その複素ウエイトは、ほぼ最適なものとなっていると考えられるからである。
ウエイト選択部63は、非ビーム形成時ウエイト生成部61から出力される複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)あるいはトレーニング時ウエイト生成部62から出力される複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)をビーム形成有効フラグに基づいて選択し、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとして出力する。
ビーム形成有効フラグは、初期状態では"無効"(例えば"0")であるが、所定回数、例えば(アンテナ数+1)回のフレームの受信で"有効"(例えば"1")となる。また、所定の期間、例えば100msの間にフレームを十分に(例えば(アンテナ数+1)回以上)受信できなかった場合には、ビーム形成有効フラグを"無効"としてもよい。
この結果、ウエイト選択部63は、所定回数のフレームが受信されるまでは複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、それ以降では、複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
タイミング部70は、フレーム受信検出部71、フレーム終了検出部72、最適ウエイト更新信号生成部85、トレーニングカウント部74およびビーム形成有効フラグ生成部75を備える。
フレーム受信検出部71は、送受信制御情報、ベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報を入力とし、フレーム受信検出信号を出力する。送受信制御情報は、例えば、無線送信部106-1,・・・,106-P(図16)がイネーブルとなる期間に"1"となり、それ以外で"0"となる信号であり、受信レベル情報は、RSSI (Received Signal Strength Information) 情報あるいは無線受信部107-1,・・・,107-P(図16)が備えるAGCアンプの利得などの情報であり、フレーム受信検出部71は、無線受信部36がイネーブルとなる期間での受信レベル変化、またはベースバンド受信信号の振幅変化、あるいは既定のプリアンブルパターン、例えば802.11nにおけるLTFを検出し、かつヘッダ情報等により当該フレームがトレーニングフレームであると判定した場合に、フレーム受信検出信号を生成する。要するに、トレーニングシーケンス受信のみで、最適ウエイト更新を行い、それ以外の場合には最適ウエイト更新を行わなければよい。
例えば、フレーム受信検出信号はトレーニングフレーム以外でも生成するが、最適ウエイト更新信号は、当該フレームがトレーニングシーケンスであると判定した場合にのみ行うようにしてもよい。また、トレーニングフレーム2-M(Mは無線通信装置のアンテナ数)における複素ウエイトは一般には最適値ではないので、受信レベル変化、ベースバンド受信信号の振幅変化、既定のプリアンブルパターンのいずれもが検出できない可能性もある。このような場合に備えて、ヘッダ情報等により当該フレームがトレーニングフレームであると判定した場合には、受信レベル変化、ベースバンド受信信号の振幅変化、既定のプリアンブルパターンのいずれもが検出できない場合でも、所定のタイミングでパルスを生成してもよい。なお、このような場合の当該トレーニングフレームに対応した複素伝達関数を"0"としてもよい。
フレーム受信検出信号はベースバンド受信IQ信号保持部81および受信レベル情報保持部82に与えられる。フレーム受信検出信号は、各トレーニングフレームの受信開始を示す信号であり、例えば無線受信部107-1,・・・,107-Pがイネーブルとなる期間での受信レベル変化、またはベースバンド受信信号の振幅変化、あるいは既定のプリアンブルパターン、例えば802.11nにおけるLTFを検出し、かつヘッダ情報に等により当該フレームがトレーニングフレームであると判定した場合に発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスである。
フレーム終了検出部72は、送受信制御情報、ベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報を入力とし、フレーム終了検出信号をトレーニングカウント部74へ出力する。フレーム終了検出信号は、各フレームの受信終了を示す信号であり、例えば、無線受信部107-1,・・・,107-Pがイネーブルとなる期間での受信レベル変化あるいはベースバンド受信信号の振幅変化の検出に基づく各フレームの受信終了タイミングをトリガとして発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスである。また、トレーニングフレーム2-M(Mは無線通信装置のアンテナ数)における複素ウエイトは一般には最適値ではないので、受信レベル変化、ベースバンド受信信号の振幅変化、既定のプリアンブルパターンのいずれもが検出できない可能性もある。このような場合に備えて、ヘッダ情報等により当該フレームがトレーニングフレームであると判定した場合には、受信レベル変化、ベースバンド受信信号の振幅変化、既定のプリアンブルパターンのいずれもが検出できない場合でも、所定のタイミングでパルスを生成してもよい。
送受信制御情報は、送信状態、受信状態、パワーセーブ状態などの無線通信装置の状態を表す情報である。フレーム受信検出部71およびフレーム終了検出部72は、送受信制御情報が受信状態になっている場合の受信レベル情報を用いてフレームの受信開始およびフレームの受信終了を検出することができる。
最適ウエイト更新信号生成部85は、最適ウエイト更新信号をトレーニング時ウエイト生成部62へ出力する。最適ウエイト更新信号はトレーニングシーケンス受信完了後に、当該トレーニングシーケンス受信で新たに決定された最適な複素ウエイトを設定するためのタイミング信号であり、例えば、当該トレーニングシーケンスの最終フレームのフレーム終了検出信号のパルスが発生してから一定期間(例えば、3μs)後に発生させた所定幅(例えば、1μs)のパルスである。
トレーニングカウント部74は、トレーニングカウンタ情報を、トレーニング時ウエイト生成部62、最適ウエイト更新信号生成部85およびビーム形成有効フラグ生成部75へ出力する。トレーニングカウンタ情報は、トレーニングシーケンスにおけるフレーム数のカウント情報であり、例えば、フレーム終了検出信号によりカウンタのカウント値を1ずつインクリメントし、最適ウエイト更新信号により該カウンタのカウント値を"0"にクリアすることにより生成される。
ビーム形成有効フラグ生成部75は、所定回数のフレームが受信されたことを示すビーム形成有効フラグをウエイト選択部63へ出力する。ビーム形成有効フラグは、トレーニングカウンタ部74からのトレーニングカウンタ情報に基づいて生成される。ウエイト選択部63は、ビーム形成有効フラグが無効の場合、非トレーニング時ウエイト生成部61からの複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、ビーム形成有効フラグが有効の場合、トレーニング時ウエイト生成部62からの複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
移相器制御部60は、基本的には、トレーニングを通じて受信レベル情報が最大となる複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を見つけ出すように動作する。すなわち、受信側の無線通信装置では、フレームごとに複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の各複素ウエイトWAki(TR)を変更し、各複素ウエイトWAki(TR)でのベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報を保持する。これらの保持情報から、式(7)に基づいて最適な複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WkAMを求めて、複素ウエイトの更新を行う。
トレーニングに続くデータの双方向伝送では、保持されている複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を読み出してウエイト処理部11-kに与える。
図18は、図17のビーム形成用ウエイト生成部30の動作の一例を示すタイミングチャートである。アンテナ群毎の各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4(k=1〜P)の信号A1,A2,A3,A4がダイバーシチ合成(ベクトル加算)されてダイバーシチ合成受信信号が生成される様子は、図12で示される。ここでは、無線通信装置Aのアンテナ群毎の各アンテナAk1〜AkMのアンテナの数が4であり、各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の信号に対する複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4がnビット(nは2以上の自然数)である場合を想定している。また、受信レベルが大きいほど受信レベル情報の値が大きくなるとしている。この場合、ウエイト処理部11-kは、アンテナ数分のnビット移相器で構成され、各移相器は各nビットの複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4に応じて制御される。n=2の場合、例えば、複素ウエイトが"0"の場合には移相量0度、"1"の場合には移相量90度、"2"の場合には移相量180度、"3"の場合には移相量270度に、制御される。
無線通信装置は、通信相手の無線通信装置からのトレーニングフレーム1を現状の複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4を用いてダイバーシチ受信し、複数のトレーニングフレーム2-1〜2-4を、複素ウエイトWAk1,WAk2,WAk3,WAk4の各複素ウエイトWAkiを変更しながら順次ダイバーシチ受信する。そして、得られた受信レベル情報およびベースバンド受信IQ信号を保持しておき、トレーニングシーケンス受信の終了後に、これらの保持された情報に基づいて最終的に複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4を決定する。これにより決定された複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4をデータ送受信時のビームフォーミングおよびダイバーシチ合成に用いる。
トレーニングフレーム1は、実際にトレーニングが実行される先頭フレームであり、これを受信してからトレーニングが開始されると共に、そのときの受信レベル情報およびベースバンド受信IQ信号が測定される。例えば、IEEE802.11nのアンテナ選択シーケンスをトレーニングシーケンスとして使用する場合には、受信フレームのMACヘッダの解析を行い、当該受信フレームがアンテナ選択シーケンスである場合にトレーニングを開始してもよい。ベースバンド受信IQ信号としては、PLCP(Physical Layer Convergence Protocol)ヘッダに含まれる既知パターンに対応したベースバンド受信IQを用いることができる。例えば、IEEE802.11nの場合には、PLCPヘッダに含まれるLTF(Long Training Field)のベースバンド受信IQをベースバンド受信IQ信号として用いることができる。この場合には、ベースバンド受信IQ信号は、送信側無線通信装置のベースバンド送信IQと受信側無線通信装置のベースバンド受信IQ間の伝達関数を表す。
トレーニングフレーム1には送信元アドレス、送信先アドレスおよびフレーム種別などの情報を含ませることができる。トレーニングフレーム1を用いて、現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信した時の受信レベル情報が取得される。後続するトレーニングフレーム2-1〜2-4は、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報を測定するために用いられる。
受信レベル情報は、無線受信部のAGCアンプにおいて利得調整が起動された場合、通常、比較的短時間(例えば、10μs)に変化する。AGCアンプの利得調整は、トレーニングフレームの受信開始または受信終了でも発生するが、それ以外にも、例えば、ノイズの影響により発生する場合もある。また、トレーニングフレームの受信開始でAGCアンプの利得調整が起動された後、フレームヘッダの受信に失敗した場合では、該フレーム受信期間においてAGCアンプの利得調整が複数回起動される場合もある。受信レベル情報の測定では、これらの点を考慮する。
まず、トレーニングカウンタ情報が"0"の時、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト0(WAk1="01",WAk2="00",WAk3="10",WAk4="11")を生成し、通信相手の無線通信装置からのトレーニングフレーム1をこの複素ウエイト0を用いてをダイバーシチ受信する。複素ウエイト0は、例えば、過去の直近のトレーニングによって得られ、前のデータフレームの受信時に用いられたものが好ましい。過去においてビームフォーミングがなされている場合、その時の複素ウエイトは、今回でもほぼ最適となっていると考えられるからである。過去においてビームフォーミングがなされていない場合には、任意の複素ウエイトを用いることができる。このときのベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報(100)が1トレーニング期間内最大受信レベル情報保持部42で保持される。図12(a)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成(ベクトル加算)を示している。なお、トレーニングフレーム1を受信する前の受信レベル情報は"5"である。これは、熱雑音レベルに相当する。また、トレーニングフレーム1を受信してから次のトレーニングフレーム2-1を受信するまでの期間の受信レベル情報は"3"に低下する。これも熱雑音レベルに相当する。以下同様に、トレーニングフレームの受信間で熱雑音が発生する。
次に、トレーニングフレーム1のフレーム終了が検出され、トレーニングカウンタ情報が"1"になると、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト1(WAk1="11",WAk2="00",WAk3="10",WAk4="11")を生成する。複素ウエイト1は、複素ウエイトWAk1だけが反転されたものである。複素ウエイト1を用いてトレーニングフレーム2-1を受信した時の受信レベル情報(88)は、複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下している。図12(b)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。この受信レベル情報の変化は、伝送路の変化によるものではなく、複素ウエイトを変化させたことによるものである。
次に、トレーニングカウンタ情報が"2"になると、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト2(WAk1="01",WAk2="10",WAk3="10",WAk4="11")を生成する。複素ウエイト2は、複素ウエイト0において複素ウエイトWAk2だけが反転されたものである。複素ウエイト2を用いてトレーニングフレーム2-2を受信した時のベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報(70)が取得され、保持される。なお、このときの受信レベルは複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下している。図12(c)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。
次に、トレーニングカウンタ情報が"3"になると、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト3(WAk1="01",WAk2="00",WAk3="00",WAk4="11")を生成する。複素ウエイト3は、複素ウエイト0において複素ウエイトWAk3だけが反転されたものである。複素ウエイト3を用いてトレーニングフレーム2-3を受信した時のベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報(102) が取得され、保持される。なお、このときの受信レベルは複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より増大している。図12(d)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。
次に、トレーニングカウンタ情報が"4"になると、トレーニング時ウエイト生成部52は、複素ウエイト4(WAk1="01",WAk2="00",WAk3="10",WAk4=" 00")を生成する。複素ウエイト4は、複素ウエイト0において複素ウエイトWAk4だけが反転されたものである。複素ウエイト4を用いてトレーニングフレーム2-4を受信した時のベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報(90) が取得され、保持される。なお、このときの受信レベルは複素ウエイト0の時の受信レベル情報(100)より低下している。図12(e)は、このときの各アンテナAk1,Ak2,Ak3,Ak4の受信信号のダイバーシチ合成を示している。
複素ウエイト4を用いてトレーニングフレーム2-4を受信した時のベースバンド受信IQ信号および受信レベル情報(90) の取得し保持した後に、これらの保持された情報に基づいて最終的に複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4を決定する。
′
新しい複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,WAk3,WAk4は、式(6)に基づいて決定される。式(6)において、WAk1,WAk2,WAk3,WAk4はトレーニング信号受信前の複素ウエイトの最適値を表し、WAk1′,WAk2′,WAk3′,WAk4′はトレーニング信号受信後の新しく決定された複素ウエイトの最適値を表す。
新しく決定された複素ウエイトの最適値WAk1′,WAk2′,WAk3′,WAk4′は、トレーニングフレーム2-4に対するフレーム終了検出信号が出力された後で、次のデータフレームの送信および受信に備えて設定される。
次に、ブロードキャストフレームもしくはマルチキャストフレームの伝送を含めた場合の、本発明の無線通信システムの動作について説明する。
図19は、この場合のAPおよび複数STA間でのトレーニングおよびデータ伝送時の動作例を示す図である。同図は、AP-STA間で伝送される無線フレームおよびそのときのAPおよびSTAの移相器の動作を示している。なお、ここでは、APおよびSTAの各アンテナ群がそれぞれ4本のアンテナを具備し、それらのアンテナに各々1ビットの移相器が接続されるとした場合の、1つのアンテナ群についての動作を示している。また、4本のアンテナに対する移相器設定の状態を0から15までの整数で表している。例えば、移相器設定が5の場合、これは2進数表示では"0101"であることから、アンテナ1およびアンテナ3に対する移相器設定が"0度"であり、アンテナ2およびアンテナ4に対する移相器設定が"180度"であることを表している。
APは、一定周期、例えば100msごとにビーコンを送信し、無線ネットワークの存在をその周辺に報知する。ビーコン送信時のAPにおける移相器設定は、0〜15の中からランダムに決定される。この場合、移相器設定は、ビーコンの送信ごとに互いに異なる確率が大きい。
CSMA/CAシステムにおいて、ランダムに移相器設定を決定する1つの方法として、無線装置がアイドル状態、すなわち無線装置が送信も受信も行っていない場合に、移相器設定を、例えば1usごとに変化させ、フレーム送信またはフレーム受信時に、送受信の開始時点での移相器設定とする方法がある。
APは、ビーコンの送信に引き続き、STA1宛てのトレーニング開始フレームを送信する。このトレーニング開始フレーム送信時のAPにおける移相器設定は、0〜15の中からランダムに決定される。このときの移相器設定は、最適であるとは限らないので、STA1がトレーニング開始フレームを正常に受信できる場合もあれば、そうでない場合もある。STA1がトレーニング開始フレームを正常に受信した場合、STA1からAPにACKフレームが送信される。STA1がトレーニング開始フレームを正常に受信しなかった場合、STA1からAPにACKフレームが送信されない。この場合、APは、先ほどとは異なる移相器設定を用いてSTA1宛てのトレーニング開始フレームを再送する。このトレーニング開始フレームの再送は、基本的にはSTA1からAPにACKフレームが送信されるまで繰り返される。
図20、図21は、再送を含めたトレーニング開始フレームの送信回数と、これに対するACKフレームが送信される確率(初期捕捉累積確率)の関係を示す。図20は、STA側で移相器の最適設定が既知の場合であり、図21は、STA側で移相器の最適設定が未知の場合である。図20を参照すると、再送を含めたトレーニング開始フレームの送信回数の平均値は2.3であり、合計で最大10フレームまで送信するようにすれば99.9%以上の確率でトレーニング開始フレームに対するACKフレームが送信されることが分かる。また、図21を参照すると、再送を含めたトレーニング開始フレームの送信回数の平均値は2.9であり、合計で最大20フレームまで送信するようにすれば、99.9%以上の確率でトレーニング開始フレームに対するACKフレームが送信されることが分かる。実際には、フェージングの状況に応じて、図20、図21あるいはその中間の状況が発生する。
APは、STA1へのトレーニング開始フレームに対するACKを受信すると、STA1に対する双方向のトレーニング信号伝送を開始する。図19の例では、まず、STA1側からトレーニング信号を送信してAP側の移相器設定を最適化する。その後、AP側からトレーニング信号を送信してSTA側の移相器設定を最適化する。AP側の移相器設定の最適化においては、トレーニング開始フレームに対するSTA1からのACKフレームを受信したときのAP側の移相器設定を初期値としてトレーニングを行う。
図19の例では、APは、1個目、2個目のトレーニング開始フレームに対するACKフレームを受信しない。このため、APは、移相器設定をランダム移相にする。次に、APは、3番目のトレーニング開始フレームに対するACKフレームを受信する。APは、3番目のトレーニング開始フレーム送信時の移相器設定14("1110")をトレーニング初期値とする。
本例では、APは、STA1に対してNull Data(ペイロードのデータ長0のフレーム)を送信し、これに対するSTA1からのACKフレームをトレーニング用の移相器設定で受信し、その時の受信レベルからAP側の最適な移相器設定を求める。
具体的には、図19に示すように、APは、まず、トレーニング開始フレームに対するACKフレームの受信レベルを、トレーニング初期設定14("1110")での受信レベルとして保持する。
次に、APは、移相器設定は14("1110")のままとしてSTA1に対してNull Dataを送信した後、移相器設定をトレーニング用に変更する。APは、例えば、アンテナ1に対する移相器設定を反転した6("0110")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。この場合、移相器設定が14("1110")の場合の方が受信レベルは高いので、APは、移相器設定を14("1110")に戻して、さらにNull Dataを送信する。その後、APは、アンテナ2に対する移相器設定を反転した10("1010")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。この場合も、移相器設定が14("1110")の場合の方が受信レベルは高いので、APは、移相器設定を14("1110")に戻して、さらにNull Dataを送信する。この後、APは、さらにアンテナ3に対する移相器設定を反転した12("1100")に変更してACKフレームを受信して、その受信レベルを調べる。この場合の受信レベルは移相器設定が14("1110")の場合よりも大きいので、移相器設定を12("1100")とし、この移相器設定で次のNull Dataを送信する。この後、APは、アンテナ4に対する移相器設定を反転した13("1101")に変更してACKフレームを受信して、その受信レベルを調べる。本例では、移相器設定が12("1100")のとき受信レベルが最大であるので、APは、移相器設定12("1100")を用いて、その後のトレーニング信号送信およびデータの送受信を行う。
AP側の4本のアンテナに対する移相器設定の最適化が完了すると、今度は、APは、最適化された移相器設定12("1100")を用いてトレーニング信号をSTA1に送信する。ここでは、トレーニング用にNo-AckのNull Dataフレームを使用している。STA1では、過去のトレーニングにおいて獲得した最適な移相器設定を保持しておき、この移相器設定を、直後のデータ伝送だけでなくその後のトレーニング伝送において使用する。フェージング等により最適な移相器設定は時々刻々と変化するが、この場合でも、以前に獲得した最適な移相器設定を初期値としてトレーニングを行うことにより、短時間で最適な移相器設定を決定することができる。
図19において、STA1は、以前に獲得した最適な移相器設定2("0010")を保持しているが、さらにAP側からのトレーニング信号を受信し、移相器設定をさらに最適に更新する。STA1は、まず、以前の移相器設定2("0010")を用いて最初のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、移相器設定2("0010")での受信レベルを獲得する。STA1は、自端末宛のNo-AckのNull Dataフレームを受信することで、自端末のためのトレーニングが開始されたと判断し、引き続くNo-AckのNull Dataフレームを、トレーニング用に変更された移相器設定を用いて受信し、その受信レベルを調べる。
具体的には、STA1は、最初のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ1に対する移相器設定を反転した10("1010")に変更して、次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。次に、STA1は、2番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ2に対する移相器設定を反転した6("0110")に変更して、次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。次に、STA1は、3番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ3に対する移相器設定を反転した0("0000")に変更して、次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。さらに、STA1は、4番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ4に対する移相器設定を反転した3("0011")に変更して、次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。本例では、移相器設定2("0010")のとき受信レベルが最大であるので、STA1は、移相器設定2("0010")を用いて引き続くデータの送受信を行う。
なお、他のSTA(STA1以外のSTA)がトレーニング信号を受信してもトレーニング動作を行わないようにするため、自端末宛ではないフレームを受信してもトレーニング動作を行わないようにする。これは、STAは、MACアドレスが自端末宛ではないフレームを受信してもトレーニング動作を行わないようにする、あるいは、自端末宛のフレームに対してのみACKフレームを送信し、ACKフレーム送信後の一定期間のみでトレーニング動作を行うようにすることにより実現できる。
以上の動作により、AP側の移相器設定が12("1100")に最適化され、STA1側の移相器設定が2("0010")に最適化された後、これらの移相器設定でAPとSTA1間での双方向のデータ伝送が行われる。
また、図19の例では、APは、STA1とのデータ伝送の終了後に、STA1に対する移相器設定12("1100")を用いてSTA2宛てのトレーニング開始フレームを送信する。このときのAP側の移相器設定は、STA2に対して最適であるとは限らないので、STA2は、トレーニング開始フレームを正しく受信できる場合もあればそうでない場合もある。STA2は、このトレーニング開始フレームを正しく受信した場合、APにACKフレームを送信する。STA2は、トレーニング開始フレームを正しく受信しない場合、STA2は、APにACKフレームを送信しない。この場合、APは、先ほどとは異なる移相器設定を用いてSTA2宛てのトレーニング開始フレームを再送する。このトレーニング開始フレームの再送は、STA2からAPにACKフレームが送信されるまで繰り返される。なお、このトレーニング開始フレームの再送では、ランダムな移相器設定を用いる。
本例では、STA2は、2番目のトレーニング開始フレームに対してACKフレームを送信する。ビーコン後におけるSTA2に対する最初の送信においてランダムな移相器設定とするために、例えば、AP側において、送信先のMACアドレスが変化した場合に、その次のフレームからランダムな移相器設定にするようにしてもよい。あるいは、ビーコン後での各STAへの送信の開始前に固有パターンの伝送を行い、この固有パターンを検出したときに、その次のフレームからランダムな移相器設定にするようにしてもよい。
本例では、APは、2番目のトレーニング開始フレームに対してACKフレームを受信する。そこで、2番目のトレーニング開始フレームの送信で用いた移相器設定5("0101")を、AP側の移相器設定のトレーニング初期値とする。APは、STA2に対してNull Data(ペイロードのデータ長0のフレーム)を送信し、これに対するSTA2からのACKフレームをトレーニング用の移相器設定にて受信し、その受信レベルを調べることにより、AP側の移相器設定を最適化する。
具体的には、APは、まず、トレーニング開始フレームに対するACKフレームの受信レベルを、トレーニング初期設定5("0101")での受信レベルとして保持する。次に、APは、STA2に対して、移相器設定を5("0101")としたままでNull Dataを送信し、その後、移相器設定をトレーニング用に変更する。
例えば、APは、アンテナ1に対する移相器設定を反転した13("1101")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。移相器設定が5("0101")の場合の方が受信レベルは高いので、APは、移相器設定を5("0101")に戻して、さらにNull Dataを送信する。この後、APは、アンテナ2に対する移相器設定を反転した1("0001")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。このときの受信レベルは移相器設定が5("0101")の場合よりも大きいので、移相器設定を1("0001")とし、次のNull Dataをこの移相器設定で送信する。この後、APは、アンテナ3に対する移相器設定を反転した3("0011")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。移相器設定が1("0001")の場合の方が受信レベルは高いので、移相器設定を1("0001")に戻して、さらにNull Dataを送信する。この後、APは、アンテナ4に対する移相器設定を反転した0("0000")に変更してACKフレームを受信し、その受信レベルを調べる。本例では、移相器設定が1("0001")のとき受信レベルが最大であるのでり、APは、移相器設定1("0001")を用いて引き続くトレーニング信号送信およびデータの送受信を行う。
AP側の4本のアンテナに対する移相器設定の最適化が完了すると、APは、その最適化された移相器設定1("0001")を用いてトレーニング信号をSTA2に送信する。ここでは、トレーニング信号として、No-AckのNull Dataフレームを使用している。STA2では、過去のトレーニングにおいて獲得した最適な移相器設定を保持しておき、この移相器設定を、直後のデータ伝送だけでなくその後のトレーニング伝送において使用する。フェージング等により最適な移相器設定は時々刻々と変化するが、この場合でも、以前に獲得した最適な移相器設定を初期値としてトレーニングを行うことにより、短時間で最適な移相器設定を決定することができる。
図19において、STA2は、以前に獲得した最適な移相器設定15("1111")を保持しているが、さらにAP側からのトレーニング信号を受信し、移相器設定をさらに最適化する。STA2は、まず、以前の移相器設定15("1111")を用いて最初のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、移相器設定15("1111")での受信レベルを獲得する。STA2は、自端末宛のNo-AckのNull Dataフレームを受信することで、自端末のためのトレーニングが開始されたと判断し、引き続くNo-AckのNull Dataフレームを、トレーニング用に変更された移相器設定を用いて受信し、その受信レベルを調べる。
具体的には、STA2は、最初のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ1に対する移相器設定を反転した7("0111")に変更して次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。次に、STA2は、2番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ2に対する移相器設定を反転した11("1011")に変更して次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。次に、STA2は、3番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ3に対する移相器設定を反転した13("1101")に変更して次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。さらに、STA2は、4番目のNo-AckのNull Dataフレームの受信後、アンテナ4に対する移相器設定を反転した14("1110")に変更して次のNo-AckのNull Dataフレームを受信し、その受信レベルを調べる。本例では、移相器設定が15("1111")のとき受信レベルが最大であるので、STA2は、移相器設定15("1111")を用いて引き続くデータを送受信する。
図19の例では、STA2とのデータ伝送が終了して無線機がアイドル状態へ移行してから一定時間が経過した時点で、AP側の各アンテナの移相器設定をランダム移相にしている。
なお、本例の場合、ビーコンの送信時、各STAの移相器設定は最適化されないが、ビーコンは、ビーコンごとにランダムな移相器設定を用いて送信されるので、各STAでは、少なくともビーコンフレームの一部を受信することができ、これにより無線ネットワークへの接続確認を行うことができる。
図22は、STA側で移相器設定が最適化されている場合の、AP側の移相器設定とその時の受信レベルとの関係を示す。同図を参照すると、最適化された移相器設定を用いた場合には約20dBのMIMO利得が得られること、移相器設定をランダムとした場合に20dBのMIMO利得が得られる確率は1/8であること、および移相器設定をランダムとした場合でも約50%の確率で15dB以上のMIMO利得が得られることが分かる。すなわち、20dBのMIMO利得を考慮してエリア設計を行った場合のエリア周辺部においても1/8以上の確率でビーコンを受信することができることが分かる。
実際には、受信レベルが低下するにつれてビーコンの受信確率は徐々に劣化する。この点を考慮すると、エリア周辺部におけるビーコンの受信確率は、1/8よりも大きな値になる。ビーコンフレームは、無線ネットワークへの接続確認のために使用されるので、必ずしもすべてのビーコンフレームを受信する必要はなく、ビーコンの受信確率は、この程度で問題ない。また、無線環境に応じて適用的に無線伝送速度を選択する無線通信システムにおいては、通信エリア内におけるスループットを高めるために、最低無線伝送速度ではなく、より高速の無線伝送速度を想定してエリア設計を行う場合もある。この場合には、エリア周辺部においても、より高い受信確率でビーコンフレームを受信できる。
上述のように、各STAに対して、まず、双方向のトレーニング伝送を行い、これに引き続いて、そのSTAとのデータ伝送を行うためには、集中制御での無線伝送のアクセス制御を行う必要がある。TDMA(Time Division Multiple Access)方式を採用した無線システムでは、TDMAシステムにおけるスケジューラの機能を用いてこれを実現することができる。一方、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/ Collision Avoidance)方式のような分散制御を採用する無線システムでは、例えば、PCF(Point Coordination Function)機能を用いることにより、上述の一連のシーケンスを実現することができる。図19は、CSMA/CA方式においてPCF機能を用いた場合の例であり、ビーコンフレームにおいて宣言されたCFP(Contention Free Period)期間において、各STAに対する双方向のトレーニング伝送およびデータ伝送を行う。
以上の説明では、ビーコンを送信した後に各STAとのトレーニング伝送およびデータ伝送をシーケンシャルに行う場合について説明したが、このようなトレーニング伝送およびデータ伝送は、仮想APと呼ばれる技術を用いて実現することもできる。仮想APとは、ハードウェア的には1台のAPが、複数の異なるネットワーク情報を含むビーコンを送信し、論理的には複数のAPが存在するかのように振舞うことにより、1台のAPを用いて複数のネットワークの収容を可能とする技術である。
以下では、仮想AP技術を用いた場合の、本発明の無線通信システムの動作について説明する。図23は、この場合のAPおよび複数STA間でのトレーニングおよびデータ伝送時の動作例を示す図である。
この場合の動作は、図19に示した動作とほぼ同様であるが、各STAに対して別個のビーコンを使用している点が異なる。すなわち、APは、STA1に対するトレーニング伝送およびデータ伝送の終了後、移相器設定をランダムにし、次のビーコンの送信後に、STA2に対するトレーニング伝送およびデータ伝送を行う。APは、STA2に対するトレーニング伝送およびデータ伝送の終了後、再び移相器設定をランダムにする。STAの数が3以上の場合、各STAのための3つ以上のビーコンを送信してもよい。また、マルチアンテナを具備しないSTA、すなわちシングルアンテナのSTAをシステム内に収容するために、シングルアンテナのSTAのためのビーコンを送信してもよい。図23において、1つ、または複数のSTAがパワーセーブ動作を行う場合には、STAごとのビーコンを用いてパワーセーブ動作を行わせることができる。
図24は、STA1およびSTA2の両方がパワーセーブ動作を行う場合の動作例を示す。パワーセーブ動作を行うSTAは、各ビーコンを受信あるいはビーコンをk個(Kは2以上の整数)間隔で受信し、それ以外の期間はスリープ状態となる。通常、ビーコンが送信される間隔は、ほぼ一定である。STAは、ビーコンを受信した後から次に受信を予定するビーコンの直前までスリープ状態となる。APは、その配下にパワーセーブ動作を行うSTAがある場合、当該STA宛てのトラフィック(フレーム)は、一旦、内部メモリに保持し、ビーコンに含まれるTIM(Traffic Indication Map)情報を用いて、当該STA宛てのトラフィックがあることを予め通知する。APは、当該STAからの応答を受けて、初めて当該STA宛てのフレームを無線伝送路上に送信する。
図24は、STA1は、ビーコンを受信するが、STA2は、スリープ状態にあってビーコンを受信しない場合の例である。この場合の動作は、トレーニング伝送の終了後、データ伝送の開始前に、APがSTA1に対してTIM情報を送信することを除けば、図23と同じである。
ビーコンフレームは、トレーニング伝送の前に送信されるため、この中に含まれるTIM情報は、STA側において受信されるとは限らない。このため、本例では、トレーニング伝送の終了後にTIM情報を再送している。なお、通常のビーコンは、すべてのSTAで受信できるように、最低の無線伝送速度で送信されるのが一般的であるが、このTIM情報の再送においては、必ずしも最低の無線伝送速度とする必要はなく、より高速の伝送速度を用いることができる。
図24において、STA2は、スリープ状態にあり、ビーコンを受信しない。この場合、STA2は、APからのトレーニング開始信号に対して応答しないので、トレーニングシーケンスは、ここで終了し、データ伝送も行われない。
図25は、APからSTAへのマルチキャストフレーム、ブロードキャストフレームを伝送する場合の、本発明の無縁通信システムの動作例を示す図である。同図に示すように、APからのマルチキャストフレーム、ブロードキャストフレームあるいはその両方は、ビーコンを送信した直後に、異なる移相器設定を用いて、複数回送信される。既に説明したように、STA側の移相器設定が最適化されている場合、APが異なる移相器設定を用いて10回程度の再送を行うことにより、99.9%程度の確率でマルチキャストフレームあるいはブロードキャストフレームを各STAに伝送することができる。
無線環境に応じて適用的に無線伝送速度を選択する無線通信システムにおいては、通信エリア内におけるスループットを高めるために、最低無線伝送速度ではなく、より高速の無線伝送速度を想定してエリア設計を行う場合もある。この場合には、マルチキャストフレームあるいはブロードキャストフレームの再送回数を少なくした場合でも、これらのフレームが各STAに正しく伝送される確率を十分に高くすることができる。
APからSTAへのマルチキャストフレーム、ブロードキャストフレームを伝送する方法としては、上述の方法以外にも、例えば、各STAに対してトレーニング信号を伝送した後で、かつデータを伝送する前に、トレーニングにおいて得られた最適の移相器設定を用いて、マルチキャストフレームおよびブロードキャストフレームの送信を各々行う方法がある。
図26は、この場合の、APからSTAへのマルチキャストフレーム、ブロードキャストフレームの伝送を示す。本例では、仮想AP技術を用い、各STAに対して個別のビーコンを使用している。また、各STAに対してトレーニング信号を伝送した後に、トレーニングにおいて得られた当該STAに対する最適の移相器の設定を用いて同一のマルチキャストフレーム、ブロードキャストフレームを、送信する。
次に、本発明に係る無線通信システムの第3実施形態について説明する。第1および第2実施形態においては、ウエイト処理部11-kの乗算器を1ビット移相器あるいはnビット移相器(nは2以上の自然数)とし、等利得合成でダイバーシチ合成を行う場合の、複素ウエイトの最適値決定動作について説明した。
しかし、ウエイト処理部11-kの乗算器は、移相器に限られるものではなく、さらに一般化して、複素乗算器を使用することもできる。この場合には、複素ウエイトは複素数となり、ウエイト処理部11-kでは、複素数での乗算が行われる。第3実施形態では、トレーニング信号をダイバーシチ受信し、その際の合成ウエイト情報で複素ウエイトを更新することにより最適な複素ウエイトを得る。これにより、1組の無線通信装置の各アンテナ群間での伝送における伝送路行列の相関行列の最大固有値に対する固有ベクトルの組に漸近するベクトルの組を設定することができる。複素乗算器の具体的な実現方法としては、例えば、直交変調器を使用してもよい。直交変調器の変調信号のI成分をI(t)、Q成分をQ(t)とし、直交変調器の入力無線信号を等価低域系でZ(t)と表すと、直交変調器の出力信号U(t)は、式(10)で表現される。
複素乗算器を用いる場合でも、第1実施形態と同様に複素ウエイトを順次変更し、そのときの受信ベースバンド情報を調べるというアルゴリズムに従って複素ウエイトの最適値を見つけ出し、これをデータ送受信時の複素ウエイトの最適値とすることができる。
以下に説明する第3実施形態では、アンテナ群毎のウエイト処理部11-kの乗算器に複素乗算器を用い、最大比等利得合成でダイバーシチ合成を行う場合の複素ウエイトの最適値を決定する。
上述したように、ウエイト処理部11-kの乗算器に複素乗算器を用いる場合でも、複素ウエイトを順次変更し、そのときの受信ベースバンド情報を調べるというアルゴリズムに従って複素ウエイトの最適値を見つけ出すことができる。しかし、以下に説明する第3実施形態では、(アンテナ数)個のトレーニングサブ信号により各アンテナの信号に対する複素ウエイトの最適値を決定できるようにしている。
以下では、一例として、図11に示したトレーニング信号を用いた場合の、第3実施形態の無線通信システムにおける動作について説明する。各トレーニングサブ信号の受信においては、各アンテナ群での現状の複素ウエイトでダイバーシチ受信したときのベースバンド受信IQ情報、および現状の複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ情報の取得が行われる。
ここで、ベースバンド受信IQ情報とは、ベースバンド送信IQ信号とベースバンド受信IQ信号の間における複素伝達関数となる情報であり、例えば、各トレーニングフレームに含まれるプリアンブルに対応したベースバンド受信IQ信号そのものである。後述するように、ベースバンド受信IQ信号に代えて、ベースバンド受信IQ信号と予め定められた特定情報系列の相関情報を用いることもできる。
各無線通信装置は、1トレーニング期間内のトレーニング信号を受信することにより、その時点での、アンテナ群毎のダイバーシチ受信状態を最良化する複素ウエイトの最適値を決定できる。
本例のトレーニング信号(図11)はプリアンブルのトレーニングフィールドの直後に配置される。1トレーニング信号は、複数のトレーニングシンボル1,2-1〜2-3を含む。この場合、トレーニングサブ信号は、各々のトレーニングシンボルである。
トレーニングシンボル2-1〜2-3は、複素ウエイトを所定のアルゴリズムで変更してダイバーシチ受信した時のベースバンド受信IQ情報を取得するためものである。
第3実施形態の無線通信システムの基本構成は図1と同じであるので、図1を参照して、その動作を説明する。図1において、例えば、無線通信装置Aにおける複素ウエイトの最適値を決定する場合、無線通信装置Aは、無線通信装置BのQ個のアンテナ群Bn1〜BnN(n=1〜Q)から送信されるトレーニング信号(トレーニングシンボル1,2-1〜2-3を含む)を各アンテナ群Ak1〜AkM(k=1〜P)においてダイバーシチ受信する。トレーニングシンボル1は、当該アンテナ群の現状の複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを用いてダイバーシチ受信される。一方、トレーニングシンボル2-1〜2-3は、当該アンテナ群の現状の複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを所定のアルゴリズムで変更した複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMを用いてダイバーシチ受信される。具体的には、トレーニングシンボル2-1〜2-3としては現状の複素ウエイトからなる列ベクトルと4次アダマール行列の2列目〜4列目の内積となるベクトルの各成分を各々複素ウエイトとすればよい。さらに具体的には、当該アンテナ群の現状の複素ウエイトをWAk1, WAk2,・・・, WAk4とすると、トレーニングシンボル1,2-1〜2-3に対する複素ウエイトは下記のようにすればよい。
トレーニングシンボル1:WAk1, WAk2, WAk3, WAk4
トレーニングシンボル2-1:WAk1, −WAk2, WAk3, −WAk4
トレーニングシンボル2-2:WAk1, WAk2, −WAk3, −WAk4
トレーニングシンボル2-3:WAk1, −WAk2, −WAk3, WAk4
これらのダイバーシチ受信で得られるベースバンド受信IQ情報に基づいて各アンテナ群Ak1〜AkMにおける複素ウエイトWAk1, WAk2,・・・, WAkMの最適値が決定される。
また、無線通信装置Bは、過去の直近のトレーニングで取得された、当該アンテナ群のほぼ最適の複素ウエイトを用いてトレーニング信号をQ個のアンテナ群群Bn1〜BnNのアンテナBn1, Bn2,・・・, B nNから送信する。この無線通信装置Bのアンテナ群毎の複素ウエイトは、無線通信装置Aが、その時点での複素ウエイトの最適値に更新する1トレーニング期間中で固定とする。なお、無線通信装置A,B間の通信が全くの初期状態からである場合、無線通信装置A,Bは、後述するように、トレーニング信号を互いに送受信して複素ウエイトの最適値への引き込みを可能にする。
無線通信装置Aは、まず、無線通信装置BのQ個のアンテナ群Bn1〜BnNのアンテナBn1,Bn2,・・・,BnNから送信された最初のトレーニングシンボル1を各アンテナ群Ak1〜AkMのM本のアンテナAk1,Ak2,・・・,AkMで、受信する。アンテナ群毎のウエイト処理部11-kの各乗算器はアンテナ群Ak1〜AkMの各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMからの各受信信号に複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを乗算する。
各乗算器は、複素ウエイトの複素数表現と入力信号の等価低域系での表現の乗算となる信号を出力する。最初のトレーニングフレーム1を受信する時のアンテナ群毎の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとしては、過去の直近のトレーニングで取得されたものを用いる。この、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、現状でも、ほぼ最適値となっていると考えられる。しかし、この時に用いる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、任意に設定することができる。このアンテナ群毎の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、後述するように、続く複数のトレーニングシンボル2-1〜2-4のダイバーシチ受信後にさらに最適値へと更新される。
アンテナ群毎のRF信号分配・合成部12-kは、ウエイト処理部11-kにより複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMが乗算された受信信号を加算してアンテナ群毎のダイバーシチ合成受信信号RAを生成する。
次に、アンテナ群毎の現状の複素ウエイトからなる列ベクトルと4次アダマール行列の2列目との内積となるベクトルの各成分を各々複素ウエイトとする。この新しい複素ウエイトWAk1, −WAk2, WAk3, −WAk4を用いて、引き続くトレーニングシンボル2-1をダイバーシチ受信し、このときのベースバンド受信IQ情報を取得する。
次に、現状の複素ウエイトからなる列ベクトルと4次アダマール行列の3列目との内積となるベクトルの各成分を各々複素ウエイトとする。この新しい複素ウエイトWAk1, WAk2, −WAk3, −WAk4を用いて、引き続くトレーニングシンボル2-2をダイバーシチ受信し、このときのベースバンド受信IQ情報を取得する。
同様に、トレーニングシンボル2-3を順次受信し、この時のベースバンド受信IQ情報を取得する。
このように、トレーニングシンボル1,2-1〜2-3を順次受信し、その各々において現状の複素ウエイトからなる列ベクトルと4次アダマール行列の3列目との内積となるベクトルの各成分を各々複素ウエイトとし、この時のベースバンド受信IQ情報を取得する。
さて、アンテナ群毎の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMは、以上のようにして得られたベースバンド受信IQ情報を用いて、以下のようにして決定できる。
トレーニングシンボル1,2-1〜2-3の受信における任意のアンテナ群のベースバンド受信IQ情報rA1は、式(11)で表される。
ここで、C0は、トレーニングフレーム2-1〜2-3に先立つプリアンブルの受信における無線通信装置Aの当該アンテナ群の受信系での利得である。
式(11)より、式(12)が得られる。
ここで、A1,A2,・・・,A4は複素ベクトルである。
4つのベクトルA1,A2,・・・,A4の複素共役に各々比例するように複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を更新することにより、当該アンテナ群における複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を最適化できる。すなわち、式(13)が得られる。
図11のトレーニング信号の受信において、フレーム先頭のトレーニングフィールドの一部を用いて受信AGC動作は完了するので、トレーニングシンボル1,2-1〜2-3受信時の利得は同一(C1=C2-1=C2-2= C2-3=C2-4)となる。したがって、トレーニングシンボル1,2-1〜2-4受信における、相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号rA1,rA2-1,rA2-2,・・・,rA2-4から各アンテナの相対的な受信信号を求めることができる。
相関ピークのタイミングでの上記相関演算の出力信号は、時間的に積分された情報であり、これを用いることにより、熱雑音あるいは干渉信号の影響を低減しつつ、複素ウエイトの最適値WAk1,WAk2,・・・,WAkMを決定することができる。
図27は、図11に示したトレーニング信号の受信による、無線通信装置Aでのアンテナ群毎の複素ウエイトの最適値決定処理を示すフローチャートである。ここでは、アンテナ群毎のアンテナ数をMとし、ウエイト処理部11の乗算器として複素乗算器を用いた場合のフローを示している。
先頭のトレーニングフィールドが受信されると(S21)、まず、当該アンテナ群の複素ウエイトの最適値WAk=(WAk1, WAk2,・・・, WAkM)を用いて、トレーニング信号の先頭のトレーニングシンボル1をダイバーシチ受信してベースバンド受信IQ情報r1を取得する。また、変数iに1を代入(i←1)する(S22)。変数iは、以下のステップからなるループをアンテナ数M回だけ行わせることを規定する。なお、ここでのWAk=(WAk1, WAk2,・・・, WAkM)はそれぞれ、当該アンテナ群の複素ウエイトの初期値である。ここでは各アンテナ群のウエイト処理部11-kの乗算器が複素乗算器である場合を想定しているので、複素ウエイトの各々WAk1,WAk2,・・・,WAkMは、複素情報である。
次に、当該アンテナ群の複素ウエイトの最適値WAk=(WAk1, WAk2,・・・, WAk4)と4次アダマール行列の第(i + 1)列の対応する成分を各々乗算して得られる複素ウエイトを用いてトレーニングシンボル2-i をダイバーシチ受信する(S23)。また、S23では、さらに変数iを1だけインクリメントする(i←i+1)。次に、変数iがアンテナ数M以下か否かを判定する(S24)。S24で、変数iがアンテナ数M以下と判定されれば、S23に戻って処理を繰り返し、変数iがアンテナ数M以下でないと判定されれば、S22およびS23で取得したベースバンド受信IQ情報 r1,r2-1,r2-2,・・・,r2-4を用いて複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAk4を更新する(S25)。
以上のフローにより、各アンテナ群Ak1〜AkM(k=1〜P)の各アンテナAk1,Ak2,・・・,AkMの信号に対する複素ウエイトWAk2,WAk3,・・・,WAkMを最適化できる。したがって、各アンテナ群Ak1〜AkM(k=1〜P)のアンテナ数がMの場合、乗算器として複素乗算器を用いた場合においても、合計(M+1)個のシンボルのダイバーシチ受信により当該アンテナ群の複素ウエイトWAk=(WAk1,WAk2,・・・,WAkM)を最適化できる。
図28は、本発明に係る無線通信装置の第3実施形態の構成を示すブロック図である。なお、図28において、図1および図6と同一あるいは同等部分には同じ符号を付しており、ここでは図1の無線通信装置Aを示しているが、無線通信装置Bも同様である。また、図28は、ウエイト処理部11-kの乗算器が複素乗算器である場合における実施形態を示している。第3実施形態のブロック構成は、第2実施形態のブロック構成とほとんど同じであるが、各無線受信部107-kから受信レベル情報が出力されておらず、受信ベースバンドIQ情報のみが出力されている点が異なる。各無線受信部107-kからの受信ベースバンドIQ情報は、空間デマッピング部108およびビーム形成用ウエイト生成部30の両方に、印加される。第3実施形態においては、ビーム形成用ウエイト生成部30は受信ベースバンドIQ情報のみに基づいて移相器の制御を行う。
図29は、図28のビーム形成用ウエイト生成部30の具体的構成を示すブロック図である。なお、図29において、図7と同一あるいは同等部分には同じ符号を付してある。ビーム形成用ウエイト生成部30は、"ダイバーシチ合成情報生成手段" として機能し、それには、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング受信情報保持手段"および"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"が含まれている。
ビーム形成用ウエイト生成部30は、トレーニング受信情報保持部80、最適ウエイト決定部84、移相器制御部60およびタイミング部70を備え、双方向のトレーニング信号伝送を通じて、ビームフォーミングおよびダイバーシチ合成のための複素ウエイトの最適値を決定する。
トレーニング受信情報保持部80は、ベースバンド受信IQ信号保持部81を備える。トレーニング受信情報保持部80は、"トレーニング受信情報保持手段" として機能する。
ベースバンド受信IQ信号保持部81は、トレーニングシーケンス受信に際して、各トレーニングフレームに含まれる既知パターンに対応したベースバンド受信信号であるベースバンド受信IQ信号を保持する。
具体的には、既知パターン"1"(複素数)に対応したベースバンド受信信号を保持するものとすると、ベースバンド受信IQ信号は、送信ベースバンド部と受信ベースバンド部の間における位相回転を表す複素伝達関数(ベクトル)となる。
既知パターンとして、例えば802.11nにおけるLTFを使用し、これに対応したベースバンド受信信号とLTFとの相関演算出力をベースバンド受信IQ信号とすることにより、複素伝達関数の推定における雑音の影響を軽減することができる。トレーニングシーケンスのすべてのトレーニングフレームに既知パターンが含まれていれば、それを用いて複素伝達関数の推定値となるベースバンド受信IQ信号を求めることができる。各トレーニングフレームに含まれる既知パターンは、すべて同一でもよいし、すべてが互いに異なっていてもよい。ベースバンド受信信号は、フレーム受信検出部71およびトレーニング期間シンボルクロック生成部86にも印加されている。
フレーム受信検出部71には、送受信制御情報も印加されている。送受信制御情報は、送信状態、受信状態、パワーセーブ状態などの無線通信装置の状態を表す情報である。フレーム受信検出部71は、送受信制御情報が受信状態になっている場合のベースバンド受信IQ信号を用いてトレーニングシンボルの開始タイミングを示すフレーム受信検出信号を生成し出力する。例えば、フレーム受信検出部71は、フレーム受信に際して、プリアンブルヘッダ部分を用いてシンボルタイミングを抽出し、これによりトレーニングシンボルの開始タイミングを示すフレーム受信検出信号を生成し出力する。フレーム受信検出信号は、トレーニング期間シンボルクロック生成部86に印加される。トレーニング期間シンボルクロック生成部86は、各トレーニングシンボルに対応したトレーニング用クロック信号を生成する。トレーニング用クロック信号は、ベースバンド受信IQ信号保持部81に印加され、ベースバンド受信IQ信号保持部81 は、トレーニング用クロック信号を用いて複素伝達関数の推定値となるベースバンド受信IQ信号の情報を保持する。トレーニング用クロック信号は、トレーニングカウント部74にも印加されており、トレーニングカウント部74からは、受信したトレーニングシンボル数のカウント値であるトレーニングカウンタ情報が出力される。
トレーニングカウンタ情報は、最適ウエイト更新信号生成部85に印加される。最適ウエイト更新信号生成部66は、カウンタ値が、例えば各アンテナ群のアンテナ数の最大値に達したときに所定時間、例えば1usの間だけ"1"となりそれ以外では"0"となるパルス信号である最適ウエイト更新信号を出力する。最適ウエイト更新信号は、最適ウエイト決定部84に印加される。最適ウエイト決定部84には、ベースバンド受信IQ信号保持部81で保持されているベースバンド受信IQ信号も印加されている。最適ウエイト決定部84は、最適ウエイト更新信号のパルス信号のタイミングで、ベースバンド受信IQ信号を例えばアダマール変換して、さらに複素共役の処理を施すことにより、最適ウエイトを求め決定する。この最適な複素ウエイトWAk1(B),WAk2(B),・・・, WAkM(B)はトレーニング時ウエイト生成部62に出力される。トレーニング時ウエイト生成部62にはトレーニングカウンタ部からのトレーニングカウンタ情報が印加されている。トレーニング時ウエイト生成部62は、トレーニングカウンタ情報がトレーニング中であることを示している場合、最適な複素ウエイトWAk1(B),WAk2(B),・・・, WAkM(B)の各々に、トレーニングカウンタ情報で決まるアダマール行列の所定の列ベクトルの各成分を乗算したものをトレーニング用の複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の各々WAki(TR)として出力する。トレーニングカウンタ情報がトレーニング中であることを示していない場合には、上記の最適な複素ウエイトWAk1(B),WAk2(B),・・・, WAkM(B)をトレーニング用の複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)の各々WAki(TR)として出力する。これは、過去の直近のトレーニングによって得られた複素ウエイトは、ほぼ最適なものとなっていると考えられるからである。
移相器制御部60は、非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62およびウエイト選択部63を備える。非ビーム形成時ウエイト生成部61、トレーニング時ウエイト生成部62はそれぞれ、"初期捕捉用ダイバーシチ合成情報生成手段"、"トレーニング用ダイバーシチ合成情報生成手段"として機能し、トレーニング時ウエイト生成部62は、最適ウエイト決定部84と組み合わされて"ダイバーシチ合成情報最適値生成手段"としても機能する。
全くの初期状態から複素ウエイトの最適値への引き込みには、まず、相手側無線通信装置からトレーニング信号を含むフレームを受信することが必要である。しかし、当初から、相手側無線通信装置が送信するトレーニング信号を含むフレームを受信できるとは限らない。そこで、全くの初期状態でも、自無線通信装置が送信するトレーニング信号を含むフレームを相手側無線通信装置が受信できるようにする。これは、複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを、各トレーニングシンボルにおいて互いに異なるように設定してトレーニング信号を送信し、相手側無線通信装置がいずれかのトレーニングシンボルを受信できるようにすることにより実現できる。
非ビーム形成時ウエイト生成部61は、このような非ビーム形成時の複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を生成する。このトレーニング信号を送信する際の複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMは、任意であるが、トレーニングシンボルごとに変化させることが望ましい。
具体的には、1つのアンテナ群Ak1〜AkMを構成するアンテナの数がMの場合、Mビットカウンタをシンボルクロックで動作させ、そのM個のカウンタ値を各複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMとして用いてもよい。例えば、2M周期のカウンタ情報の中の任意のM個をあるフレームの受信において使用したとすると、次のフレームの受信においては、その続きのM個のカウンタ情報を使用することにより、フレーム毎に異なる複素ウエイトWAk1,WAk2,・・・,WAkMを用いることができ、初期ビーム形成を確実に行うことができる。
ビーム形成有効フラグ生成部75は、所定数のトレーニングシンボルを受信し、最適ウエイトが決定されていることを示すビーム形成有効フラグをウエイト選択部63へ出力する。ビーム形成有効フラグは、トレーニングカウンタ部74からのトレーニングカウンタ情報に基づいて生成される。
ビーム形成有効フラグは、初期状態では"無効"(例えば"0")であるが、所定回数、例えばアンテナ数回のフレームの受信で"有効"(例えば"1")となる。また、所定の期間、例えば100msの間にフレームを受信できなかった場合には、ビーム形成有効フラグを"無効"としてもよい。ウエイト選択部63は、ビーム形成有効フラグが無効の場合、非トレーニング時ウエイト生成部61からの複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、ビーム形成有効フラグが有効の場合、トレーニング時ウエイト生成部62からの複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
この結果、ウエイト選択部63は、所定回数のフレームが受信されるまでは複素ウエイトWAk1(NB),WAk2(NB),・・・,WAkM(NB)を選択し、それ以降では、複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を選択する。
トレーニングに続くデータの双方向伝送では、保持されている複素ウエイトWAk1(TR),WAk2(TR),・・・,WAkM(TR)を読み出してウエイト処理部に与える。次に、本発明の第3実施形態において、トレーニングシンボルからなるトレーニング信号を用いる場合のトレーニング動作について詳述する。
図30は、このような場合における双方向トレーニングを含んだ伝送シーケンスの一例である。図30においては、最初のトレーニング用パケットを基地局(AP)側から送信している。このトレーニング用パケットは、トレーニングフィールドTFと複数のトレーニングシンボルTS1〜TSMからなるトレーニング信号を含む。トレーニングフィールドTFは、一般的な無線パケット伝送において使用されるものであり、既知の信号パターンで構成される。受信側では、これを用いて、AGC動作、タイミング同期、キャリア周波数オフセットの補償などの動作を行う。このトレーニングフィールドTFに引き続いて、端末(STA)側の各アンテナ群のアンテナの数の最大値に相当する数のトレーニングシンボルTS1〜TSMからなるトレーニング信号が伝送される。このトレーニング用パケットを受信したSTAは、その直後にAPに対してトレーニング用パケットを送信する。この最初のトレーニング用パケットと2番目のトレーニング用パケットの時間間隔は数100us以下であることが望ましい。例えば、IEEE802.11のような無線システムにこの技術を適用する場合には、一連の双方向伝送の全体を単一のシーケンスとし、すべてのパケット間隔をSIFSとすることが望ましい。最初のトレーニング用パケットのSTAでの受信において、STA側の各アンテナの各アンテナに対する複素ウエイトはほぼ最適化される。また、2番目のトレーニング用パケットのAPでの受信において、AP側の各アンテナの各アンテナに対する複素ウエイトは、ほぼ最適化される。
図30に示した例では、その後、APからSTAへのPHYペイロード伝送が行われ、最後にSTAからAPに対してACKパケットが送信される。このような伝送シーケンスは、IEEE802.11におけるRTS/CTSを用いた伝送シーケンスにおいて、RTSおよびCTSに複数のトレーニングシンボルTS1〜TSMからなるトレーニング信号を追加することで実現できる。このような一連の伝送シーケンスの時間長は、通常数ミリセカンド以下であるので、STAが高速に移動して電波伝搬環境が変動する場合においても、通常フェージング周波数は数10Hz以下であり、一連の伝送シーケンスの中での電波伝搬環境の変動は無視できるので、ほぼ最適な無線伝送路を実現できる。
図30においては、トレーニング信号の伝送は1往復のみである。これでも、略最適な無線伝送路を形成できるが、より伝送路を最適化するために、図31に示すような複数回の双方向のトレーニング信号伝送を行ってもよい。図30あるいは図31において、IEEE802.11におけるRTS/CTSを用いた伝送シーケンスのように、APまたはSTAのいずれかのパケット受信においてエラーが発生した場合に、当該パケットの受信で伝送シーケンスを中断してもよい。また、例えば、最初のトレーニング用パケットのSTAでの受信においてエラーが発生した場合に、APが各アンテナ群の各アンテナにおける移相設定を変更してから該パケットの再送を行うようにしてもよい。なお、このような伝送シーケンスを用いたトレーニングは、本発明の第3実施形態だけでなく、本発明の第1実施形態および第2実施形態でも適用可能である。
次に、複素ウエイトが最適となる状態について説明する。まず、無線通信装置A,Bが共に1つのアンテナ群だけを備え、各アンテナ群が2本のアンテナを備えるモデル構成を考える。それらのアンテナをA1,A2、B1,B2とし、各アンテナA1,A2,B1,B2の信号に乗算される複素ウエイトをそれぞれWA1,WA2,WB1,WB2とする。
アンテナA1,A2とアンテナB1,B2の間における伝達関数がそれぞれHA1B1,HA1B2,HA2B1,HA2B2であり、無線通信装置Aと無線通信装置B間の無線伝送路がフラットフェージング環境であるとすると、伝達関数HA1B1,HA1B2,HA2B1,HA2B2は複素数となり、ベクトルで表現できる。図32は、伝達関数HA1B1,HA1B2,HA2B1,HA2B2の一例を示す。
各アンテナA1,A2,B1,B2に接続されている乗算器は、各アンテナA1,A2,B1,B2からの受信信号にそれぞれ複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2を乗算する。送信時に送信信号に乗算する複素ウエイトは、受信時に受信信号に乗算する複素ウエイトと基本的には同じである。しかし、厳密には、双方向伝送における送信系統と受信系統が異なることに起因した補正が必要になる。
信号分配・合成部は、送信時には、送信信号SA,SBをエネルギー的に2分配した信号を2つの乗算器に出力し、受信時には、2つの乗算器からの出力信号を合成(ベクトル加算)した信号を受信信号RA,RBとして出力する。
いま、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送を考えると、無線通信装置AのアンテナA1,A2からそれぞれ、SA・WA1/√2,SA・WA2/√2 が送信される。これらの信号は、無線通信装置BのアンテナB1,B2で受信される。アンテナB1,B2の受信信号はそれぞれ、SA・(WA1・HA1B1+WA2・HA2B1)/√2,SA・(WA1・HA1B2+WA2・HA2B2)/√2 となる。これらの信号に複素ウエイトを乗算した後、加算することで受信信号RBが生成される。受信信号RBは、式(14)で示される。
次に、無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送を考える。無線通信装置BのアンテナB1,B2からそれぞれ、SB・WB1/√2,SB・WB2/√2 が送信される。これらの信号は、無線通信装置AのアンテナA1,A2で受信される。アンテナA1,A2の受信信号はそれぞれ、SB・(WB1・HA1B1+WB2・HA1B2)/√2,SB・(WB1・HA2B1+WB2・HA2B2)/√2 となる。これらの信号に複素ウエイトを乗算した後、加算することで受信信号RAが生成される。受信信号RAは、式(15)で示され、受信信号RBと同じである。
複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2が最適となる状態とは、受信信号RA,RBのレベルが最大となり、MIMO利得が最大となる状態である。各複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2における振幅を各アンテナの受信信号の振幅に比例させると最大比合成となり、各複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2における振幅を一定値、例えば1とすると等利得合成となる。
一般に、無線通信装置Aのアンテナ数をMとし、無線通信装置Bのアンテナ数をNとすると、受信信号RA,RBは、(M×N)個のWAi・HAiBj・WBj成分を含む。以下では、この各成分を素波SAiBjと称する。各素波SAiBjは、送信アンテナAiと受信アンテナBj間の伝達関数HAiBj、送信アンテナAiに対応した複素ウエイトWAiおよび受信アンテナBjに対応した複素ウエイトWBjの3つの複素数の積で表現される。
各素波SAiBjは、ベクトル量であり、(M×N)個の素波SAiBjの向きを同一にすることにより、受信信号RA,RBのレベルを最大化でき、その時の複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2が最適となる。
図33および図34は、2つの無線通信装置A,B間での伝送を通じて素波SAiBj(i=1,2、j=1,2)の向きをI軸方向に揃えるものとした場合の動作の一例を示す説明図である。図33は、素波SAiBjの更新を示し、図34は、受信信号RX(XはAまたはB)の更新を示す。図34では、各アンテナの受信信号RXの位相をθXで示している。説明を簡単にするため、以下では、伝達関数HAiBjは常に一定であり、時間的変化がないものとする。
初期状態における素波SAiBjをSAiBj(0)とし、k回(kは1以上の整数)の複素ウエイトの更新後における素波SAiBjをSAiBj(k)とする。また、初期状態における受信信号RXをRX(0)とし、複素ウエイトのk回(kは1以上の整数)更新後における受信信号RXをRX(k)とする。なお、複素ウエイトの更新は、受信側のみで行われるが、素波SAiBjは、無線通信装置A,Bの両方の複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2を含むので、素波SAiBjは、伝送の向きによらず、伝送が行われる度に更新される。受信信号RA,RBは、受信側の無線通信装置の2本のアンテナからの受信信号をダイバーシチ合成した信号であるが、素波SAiBjが更新される度に各アンテナA1,A2,B1,B2の受信信号RA1,RA2,RB1,RB2も更新される。このため、kの値は、伝送の向きによらず伝送が行われる度に更新されるものとする。
図33(a)は、初期状態における素波SAiBj(0)を示す。初期状態での複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2は全て1としているため、素波SAiBj(0)は、図32の伝達関数HAiBjと一致する。
初期状態において、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送が行われた時、無線通信装置Bの複素ウエイトが更新される。図34(a)は、初期状態において無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送が行われた時の、無線通信装置BのアンテナB1,B2による受信信号RB1(0),RB2(0)を示す。
アンテナB1による受信信号RB1(0)は、2つの素波SA1B1(0),SA2B1(0)の合成信号であり、アンテナB2による受信信号RB2(0)は、2つの素波SA1B2(0),SA2B2(0)の合成信号である。無線通信装置Bでは、2つの受信信号RB1(0),RB2(0)に対して、そのベクトルの向きをI軸に向けるような移相処理を行うことにより、ダイバーシチ合成を行う。すなわち、受信信号RB1(0)のベクトルを、-θB1(0)(θB1(0)は正)だけ回転させ、受信信号RB2(0)のベクトルを-θB2(0)(θB2(0)は負)だけ回転させてダイバーシチ合成を行う。この処理は、複素ウエイトWB1,WB2をそれぞれ、exp{-jθB1(0)},exp{-jθB2(0)}とすることに相当する。これにより、素波SA1B1(0),SA2B1(0)は-θB1(0)だけ回転し、素波SA1B2(0),SA2B2(0)は-θB2(0)だけ回転する。図33(b)は、この様子を示す。
無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送に引き続いて無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送が行われた時、無線通信装置Aの複素ウエイトが更新される。無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送により複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2が更新された後では、素波SAiBjは、素波SAiBj(1)(図33(b))に更新されている。無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送は、素波SAiBj(1)を用いて行われる。図34(b)は、このときの無線通信装置Aの各アンテナA1,A2による受信信号RA1(1),RA2(1)を示す。アンテナA1による受信信号RA1(1)は、2つの素波素波SA1B1(1),SA1B2(1)の合成信号であり、アンテナA2による受信信号RA2(1)は、2つの素波SA2B1(1),SA2B2(1)の合成信号である。
無線通信装置Aでは、2つの受信信号RA1(1),RA2(1)に対して、そのベクトルの向きをI軸に向けるような移相処理を行うことにより、ダイバーシチ合成を行う。すなわち、受信信号RA1(1)のベクトルを-θA1(1)だけ回転させ、受信信号RA2(1)のベクトルを-θA2(1)だけ回転させてダイバーシチ合成を行う。この処理は、複素ウエイトWA1,WA2をそれぞれ、exp{-jθA1(1)}、exp{-jθA2(1)}とすることに相当する。これにより、素波SA1B1(1),SA1B2(1)は-θA1(2)だけ回転し、素波SA2B1(1),SA2B2(1)は-θA2(2)だけ回転する。図34(c)は、この様子を示す。
図33(a)〜(c)を参照すると、双方向に1回ずつ伝送を行って複素ウエイトWA1,WA2,WB1,WB2を更新することにより、各素波SAiBjはI軸に近い向きに揃ってくることが分かる。双方向の伝送を繰り返し行って複素ウエイトを逐次更新すれば、各素波SAiBjの向きを、よりI軸に近づけることができる。ただし、(M×N)個の数の素波SAiBjに対して、制御可能な位相は(M+N)個しかないので、一般的には、全ての素波SAiBjをI軸の向きに完全に一致させることはできない。本発明では、結果的には、素波SAiBjの向きが同一あるいはそれに近い状態を双方向のトレーニングを通じて得ている。
受信信号RA,RBのレベルを最大化するためには、伝送路行列の相関行列における固有値が最大の固有ベクトルを複素ウエイトとすればよいことが知られている。しかし、上述したように、アンテナ数が大きな場合に受信信号を最大化する複素ウエイトを計算上で求めるには、演算量が問題になる。そこで、本発明では、双方向のトレーニング信号伝送を通じて、結果的に、複素ウエイトの最適値を見つけ出す。このときの指標として受信レベル情報を用いる。ただし、(M×N)個の素波SAiBjが存在するにもかかわらず、制御できる移相量の数は(M+N)個しかないので、実際には、全ベクトルの向きを同一化できるのは、伝送路行列が特定の条件を満足する特殊な場合に限定される。
以下では、無線通信装置A,Bが、双方向伝送での受信レベル情報を指標として複素ウエイトの最適値をそれぞれ見つけ出すことができることを数式を用いて説明する。なお、ここでは、上記のモデル構成を一般化して、無線通信装置AがM本のアンテナ数を備え、無線通信装置BがN本のアンテナ数を備えるとする。
まず、無線通信装置A,B間の伝送での受信信号の電力(受信レベル情報)を数式上で求める。いま、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送における伝送路行列HABは、式(16)で表現される。
ここで、hi,jは複素数であり、無線通信装置AのアンテナAjと無線通信装置BのアンテナBi間の伝達関数を表している。また、無線通信装置A,Bにおける複素ウエイトWA,WBはそれぞれ、式(17),(18)で表現される。なお、XTは、行列Xの転置行列を表す。
無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送が行われる時、無線通信装置Aの信号分配・合成部に入力される送信信号をSABとし、無線通信装置Bの信号分配・合成部から出力される受信信号をRABとすると、式(19)が成り立つ。なお、NBは無線通信装置Bの各アンテナB1〜BNにおける熱雑音を表している。
このときの無線通信装置Bにおける平均受信信号電力PBは、式(20)で表される。なお、E[X]は、Xのアンサンブル平均を表している。
式(19)を式(20)へ代入すると、式(21)が得られる。なお、XHは、Xの複素共役転置を表している。
ここで、PSは、無線通信装置Aにおける平均送信電力であり、式(22)で表される。また、無線通信装置Bの各アンテナB1〜BNにおける平均雑音電力は同一であると仮定し、これをPNとしている。すなわち、式(23)が成り立つとしている。なお、INはN次元の単位行列を表している。
一方、無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送が行われる時、無線通信装置Bの信号分配・合成部に入力される送信信号をSBA、無線通信装置Aの信号分配・合成部から出力される受信信号をRBAとすると、式(24)が成り立つ。なお、NAは無線通信装置Aの各アンテナA1〜AMにおける熱雑音を表している。
このときの無線通信装置Aにおける平均受信信号電力PAは、式(25)で表される。
ここで、無線通信装置Bにおける平均送信電力は、無線通信装置Aにおける平均送信電力PSと同一であると仮定している。また、無線通信装置Aの各アンテナA1〜AMにおける平均雑音電力も、無線通信装置Bの各アンテナB1〜BNにおける平均雑音電力PNと同一であると仮定している。
以上のように、無線通信装置A,Bにおける平均受信信号電力PA,PBはそれぞれ、式(25),(21)で表される。
次に、受信信号RA,RBの電力(式(25),(21))を最大化する条件を求める。複素ウエイトWA,WBの大きさを共に1としても一般性は失われないので、式(26)とおくと、式(21),(25)は、式(27)に集約できる。
式(27)のPを最大化する条件は、ラグランジュの未定乗数法を用いて求めることができる。すなわち、複素ウエイトWA,WBの大きさが共に1であるという条件下でλが最大となる条件は、ラグランジュの未定乗数法を用いて求めることができる。
いま、式(28)で関数U(WA,WB,λA,λB)を定義する。なお、X*は、Xの複素共役を表す。
このとき、λが最大となる条件は、式(29)で表される。
式(29)における後半の2つの条件は、複素ウエイトWA,WBの大きさが1であるための条件である。一方、式(29)における前半の2つの条件を整理すると、式(30),(31)が得られる。
式(30),(31)を式(26)に代入すると、式(32)が得られる。λAとλBは等しいので、以下ではλA,λBを共にλと表記する。
ところで、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送において、送信信号SABが1の時の、無線通信装置BのN本のアンテナB1〜BNによる受信信号のベクトルをRB0とすると、RB0は、式(33)で表される。
式(33)を式(31)に代入すると、式(34)が得られる。
式(34)は、無線通信装置Bにおいて、最大比合成ダイバーシチ動作を行う場合、すなわち、複素ウエイトWBがWB=RB0 */√λとなる場合に成立する。
同様に、無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送において、送信信号SBAが1の時の、無線通信装置AのM本のアンテナA1〜AMによる受信信号のベクトルをRA0とすると、RA0は、式(35)で表される。
式(35)を式(30)に代入すると、式(36)が得られる。
式(36)は、無線通信装置Aにおいて、最大比合成ダイバーシチ動作を行う場合、すなわち、複素ウエイトWAがWA=RA0 */√λとなる場合に成立する。
以上のように、MIMO伝送において、平均受信信号電力が最大となるように送受信の複素ウエイトを設定した場合、WA=RA0 */√λ,WB=RB0 */√λが成り立つ。これは、平均受信信号電力が最大となる条件下における複素ウエイトが、最大比合成ダイバーシチの複素ウエイトと一致することを示している。すなわち、トレーニング信号の伝送におけるダイバーシチ受信の後に、当該ダイバーシチ受信の合成ウエイト情報で複素ウエイトを更新することにより、1組の無線通信装置に対する複素ウエイトの最適値、すなわち、送受信を行う1組の無線通信装置の間での伝送における伝送行列の相関行列に最大固有値に対する固有ベクトルの組を得ることができることを示している。
無線通信装置A,B間での双方向伝送を通じて複素ウエイトが収束するアルゴリズムは、数式表現を用いると、式(37),(38)で表される。
式(37),(38)において、WX(k)(XはAまたはB)は、無線通信装置Xにおける、複素ウエイトの更新回数がk回の時の複素ウエイトを表している。式(37)は、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの伝送における、無線通信装置Bでの複素ウエイトの更新動作を表しており、式(38)は、無線通信装置Bから無線通信装置Aへの伝送における、無線通信装置Aでの複素ウエイトの更新動作を表している。
なお、式(37)におけるkの値の更新は、無線通信装置Aから無線通信装置Bへのトレーニング伝送において行われる。また、式(38)におけるkの値の更新は、無線通信装置 Bから無線通信装置Aへのトレーニング伝送において行われる。
式(37),(38)は、送信信号SAB,SBAが1であるフレームまたは拡張プリアンブルに含ませたシンボルなどがアンテナA1〜AM,B1〜BNで受信された時の受信信号に対して、受信側の無線通信装置において最大比合成となるように複素ウエイトを逐次更新していく動作を表している。
複素ウエイトの初期値としては、例えば、全ての要素の大きさが等しく、かつ全ての要素がI軸方向を向いた、式(39),(40)で表されるベクトルを使用することができる。
最後に、式(37),(38)で表されるアルゴリズムの適用により、式(30),(31)を満足する複素ウエイトを求めることができることについて説明する。
式(30)は、M次正方行列[HAB T・WB・WB H・HAB *]の固有ベクトルがWA *であることを表している。一方、式(31)は、N次正方行列[HAB・WA・WA H・HAB H]の固有ベクトルがWB *であることを表している。これらの固有ベクトルはそれぞれ、式(41),(42)で表現できる。
式(41),(42)を用いると、式(37),(38)のアルゴリズムは式(43),(44)で表現できる。
式(33),(44)より、複素ウエイトWA,WBに関する漸化式が得られる。この漸化式を式(45),(46)で示す。
式(45),(46)より、複素ウエイトWA,WBを求めるアルゴリズムは、式(47),(48)で表現される。
ところで、式(41),(42)より、式(49),(50)が成り立つ。
式(49),(50)より、複素ウエイトWA,WBはそれぞれ、相関行列[HAB H・HAB],[HAB *・HAB T]の固有ベクトルであることが分かる。さらに、複素ウエイトWA,WBは、式(25)の条件も満足するので、最大固有値に対する固有ベクトルであることが分かる。すなわち、式(49),(50)を満足する固有ベクトルの最大数は、それぞれM個およびN個であるが、式(47),(48)で表される複素ウエイトWA,WBは、最大固有値に対する固有ベクトルであり、[HAB H・HAB]k・WA(0),[HAB *・HAB T]k・WB(0)は、kが大きくなるにつれて、最大固有値に対する固有ベクトルに収束することが分かる。
したがって、平均受信電力が最大となるように受信側の複素ウエイトを決定する漸近アルゴリズムにより、最適な複素ウエイトWA,WBを求めることができることが分かる。
以上では、上記のモデル構成において、無線通信装置A,Bの各アンテナの信号に対する複素ウエイトの最適値を見つけ出すことができることを数式(16)〜(50)を用いて説明したが、以下では、さらに従来のMIMO技術を併用しても各アンテナの信号に対する複素ウエイトの最適値を見つけ出すことができることを数式を用いて説明する。
図35は、複数のアンテナ群を備えた無線通信システムのモデル構成を示すブロック図である。以下では、このモデル構成において複素ウエイトが最適となる状態について説明する。無線通信装置Aは、アンテナ群A1,A2,‥,Amを備え、各アンテナ群A1,A2,‥,Amはそれぞれ、M1,M2,‥,Mm個のアンテナを備える。また、無線通信装置Bは、アンテナ群B1,B2,‥,Bnを備え、各アンテナ群B1,B2,‥,Bnはそれぞれ、N1,N2,‥,Nn個のアンテナを備える。
MIMO送受信部A′,B′は、各アンテナ群毎の信号に対するウエイト処理を行うが、各アンテナ群の各アンテナの信号に対するウエイト処理は、図示の各アンテナ群が行う。各アンテナ群では複素ウエイトの最適化が独立して行われる。階層化MIMOは、これら両者のウエイト処理により実現される。
いま、無線通信装置Aから無線通信装置Bへの無線伝送における伝達関数(伝送路行列)がHABが式(51)で表現されるとする。ここで、Hj,k(j=1,2,・・・,n、k=1,2,・・・,m)は、アンテナ群Akからアンテナ群Bjへの伝送の伝送路行列である。また、M=M1+M2+‥+Mm、N=N1+N2+‥+Nnが成立する。
MIMO送受信部A′,B′における複素ウエイトVA,VBはそれぞれ、式(52),(53)で表現され、これは、MIMO技術を用いてどのような伝送を行うかにより決定される。
無線通信端末Aから無線通信端末Bへの無線伝送における複素ウエイトVA,VBは、例えば、以下の(例1)〜(例3)のようにして決定できる。
(例1)送信側で伝送路行列が未知の場合のマルチストリーム伝送
送信側では、それぞれ異なるデータ系列に対応したベースバンド変調信号がそのまま、対応する送信機に入力され、RF信号に変換されて送信される(直接マッピング)。すなわち、複素ウエイトVAを式(54)とする。
受信側では、トレーニングにおいて伝送路行列Hn,mを推定し、この結果を用いて、データ系列ごとの複素ウエイトVBp(pは、P以下の自然数。Pは、マルチストリーム数)を式(55)で求める。
(例2)送信側で伝送路行列が既知の場合の固有ビームによるマルチストリーム伝送
送信側では、伝送路行列から計算したP個(Pはマルチストリーム数)の固有ベクトルを各データ系列のベースバンド変調信号に対する複素ウエイトVAp(pは、P以下の自然数)とする。すなわち、複素ウエイトVApを式(56)で求める。
受信側においても同様に、伝送路行列から計算したP個の固有ベクトルを各データ系列のベースバンド受信信号に対する複素ウエイトVBpとする。すなわち、複素ウエイトVBpを式(57)で求める。
(例3)送信側で伝送路行列が未知の場合の時空間符号を用いた送信ダイバーシチ
送信側では、時空間符号を用いてブロック符号化された互いに異なる複数のベースバンド変調信号がそのまま、対応する送信機に入力され、RF信号に変換されて送信される(直接マッピング)。すなわち、すなわち、複素ウエイトVAを式(58)とする。
受信側では、トレーニングにおいて伝送路行列Hn,mを推定し、この結果を用いて、データ系列ごとに、複素ウエイトVBqr(qは、Q以下の自然数。Qは、空間マッピング数。rは、R以下の自然数。Rは、ブロック符号の符号長)を式(59)で求める。
一方、階層化MIMOにおいて、アンテナ群Akを構成する各アンテナにおける複素ウエイトWAkおよびアンテナ群Bjを構成する各アンテナにおける複素ウエイトWBjは、式(60),(61)で表現される。
ここで、複素ウエイトVA、VB、WAkおよびWBjの大きさは、すべて1であるものとする。すなわち、式(62)が成り立つとする。ここで、XT、X*はそれぞれ、行列Xの転置行列、複素共役を表す。
次に、階層化MIMOにおいて、トレーニング動作により最適な複素ウエイトが求まることについて説明する。トレーニング時には、MIMO送受信部A′,B′では直接マッピングが行われるものとする。すなわち、式(63),(64)が成り立つものとする。
また、トレーニング時には、任意のアンテナ群Akからの送信信号SAkおよび任意のアンテナ群Bjからの送信信号SBjはすべて1であるものとする。
このとき、無線通信装置Bにおける合成された受信信号をRBとすると、式(65)が成り立つ。
ここで、NBjは、アンテナ群Bjを構成する各アンテナにおける熱雑音を表すNj次の列ベクトルであり、式(66)で表される。
式(63)および式(64)を式(65)に代入することにより式(67)が得られる。
ところで、アンテナ群Akからの送信信号をアンテナ群Bjで受信した場合の、各アンテナでの受信波成分を表すNj次の列ベクトルをRAkBjとすると、式(68)が成り立つ。
式(68)を式(67)に代入することにより、式(69)が得られる。
ところで、アンテナ群Bjでの合成された受信信号RBjは、式(70)で表される。
同様に、無線通信装置Aにおける合成された受信信号をRAとすると、式(71)が成り立つ。
ところで、アンテナ群Bjからの送信信号をアンテナ群Akで受信した場合の、各アンテナでの受信波成分を表すNk次の列ベクトルをRBjAkとすると、式(72)が成り立つ。
式(72)を式(71)に代入することにより式(73)が得られる。
また、アンテナ群Akでの合成された受信信号RAkは、式(74)で表される。
トレーニング時には、無線通信装置Aと無線通信装置Bの間で交互にトレーニング信号の送信を行う。この双方向のトレーニング伝送により、アンテナ群Akを構成する各アンテナの複素ウエイトWAkおよびアンテナ群Bjを構成する各アンテナの複素ウエイトWBjを逐次更新し、最適化する。この逐次最適化はトレーニング信号の受信側の無線通信装置で行われ、更新された複素ウエイトはそれ以降の送信時において使用される。
アンテナ群Akを構成する各アンテナの複素ウエイトWAkの初期値をWAk(1)、u回(uは自然数)更新後の複素ウエイトをWAk(u+1)とし、アンテナ群Bjを構成する各アンテナの複素ウエイトWBjの初期値をVBj(1)、u回更新後の複素ウエイトをWBj(u+1)とする。また、u回目のトレーニング信号伝送における受信信号をRAkBj(u)およびRBjAk(u)とする。
階層化MIMOのトレーニングにおいては、送信側ではすべてのアンテナ群を構成するすべてのアンテナからトレーニング信号の送信を行う。一方、受信側においては、アンテナ群ごとに受信レベルを最大化するように、当該アンテナ群を構成する各アンテナの複素ウエイトを決定する。
受信レベルを最大化する複素ウエイト、すなわち、最大比合成受信時における複素ウエイトは、IQ平面上での"1"に相当する信号を送信した場合の、各アンテナでの受信信号の複素共役またはその定数倍(複素数)となることが一般に知られている。ただし、各アンテナブランチにおける雑音電力は、すべて同一であるものとしている。
トレーニング時のアンテナ群Akからの送信信号SAkおよびアンテナ群Bjからの送信信号SBjは、すべて1であるとしているので、受信レベルを最大とする複素ウエイトは、トレーニング時の受信信号の複素共役またはその定数倍(複素数)となる。以上より式(75),(76)が成り立つ。ここで、cBjおよびcAkは、任意の複素定数であり、k=1,2,‥,m、j=1,2,‥,nである。また、uは、自然数である。
次に、式(75),(76)の漸化式で求まる複素ウエイトWBj(u)およびWAk(u)が、最適な複素ウエイトに収束することについて説明する。
図36に示すように、無線通信装置Aおよび無線通信装置Bにおけるアンテナ群の数が共に1であり、各アンテナ群を構成するアンテナの数がそれぞれM,Nであるモデルについて考える。これは、アンテナ群の数が1である特別なケースである。まず、この場合に、トレーニング動作により複素ウエイトWBj(u)およびWAk(u)が最適な複素ウエイトに収束し、M×N次の伝送路行列の最大固有値に等しい受信レベルを実現できることを示す。それに続いて、無線通信装置Aおよび無線通信装置Bにおけるアンテナ群の数がそれぞれm,nである階層化MIMOにおいても、トレーニング動作により、上記と同一の最適な複素ウエイトWBj(u)およびWAk(u)に収束することを示す。
図36に示すような、アンテナ群の数が1、アンテナ群を構成するアンテナの数がそれぞれMおよびNである場合においても、先に述べたようにトレーニング時にはSISO送受信部A′,B′において直接マッピングが行われるものとする。すなわち、式(77)が成り立つものとする。
このとき、無線通信装置Bにおいて合成された受信信号をRBとすると、式(78)が成り立つ。
このときの無線通信装置Bにおける平均受信信号電力PBは、式(79)で表される。ここで、E[X]は、Xのアンサンブル平均を表す。
式(78)を式(79)へ代入することにより式(80)が得られる。
ここで、無線通信装置Bの各アンテナにおける平均雑音電力は同一であると仮定しており、これをPNとしている。すなわち、式(81)が成り立つ、ここで、INは、N次元の単位行列である。
一方、無線通信装置Bから無線通信装置Aへのパケット伝送で、無線通信装置Aにおいて合成された受信信号をRAとすると、式(82)が成り立つ。ここで、NAは、無線通信装置Aの各アンテナにおける熱雑音を表している。
このときの無線通信装置Aにおける平均受信信号電力PAは、式(83)で表される。ここで、無線通信装置Aの各アンテナにおける平均雑音電力は、無線通信装置Bの各アンテナにおける平均雑音電力PNと同一であると仮定している。
以下では、本発明における基本動作により求まる複素ウエイトWA1およびWB1は、式(80)および式(83)で求まるPBおよびPAを同時に最大化することについて説明する。
いま、式(84)とおくと、式(80),(83)は、式(85)に集約できる。
式(85)のPを最大化する条件については、ラグランジュの未定乗数法を用いて求めることができる。すなわち、WA1およびWB1の大きさがともに1である条件下においてλ1,1が最大となる条件は、ラグランジュの未定乗数法を用いて求めることができる。
いま、式(86)で関数U(WA1,WB1,λA_1,1,λB_1,1)を定義する。
このとき、λ1,1が最大となる条件は、式(87)で表される。
式(87)における後半の2つの条件は、WA1およびWB1の大きさが1であるための条件である。一方、前半の2つの条件を整理すると、式(88),(89)が得られる。
式(88),(89)を式(85)に代入することにより式(90)が得られる。そこで、以下ではλA_1,1およびλB_1,1を、共にλ1,1と表記することにする。
ところで、無線通信装置Aから無線通信装置Bへのトレーニング信号の伝送において、無線通信装置Bに具備されたN本の各アンテナにおける受信信号からなるベクトルをRB0とすると、RB0は、式(91)で表される。
式(91)を式(90)に代入することにより式(92)が得られる。
式(92)は、無線通信装置Bにおいて最大比合成ダイバーシチ動作を行う場合、すなわち、複素ウエイトがWB1=RB0 */√λ1,1となる場合に成立する。
同様に、無線通信装置Bから無線通信装置Aへのトレーニング信号伝送において、無線通信装置Aに具備されたM本の各アンテナでの受信信号からなるベクトルをRA0とすると、RA0は、式(93)で表される。
式(93)を式(88)に代入することにより式(94)が得られる。
式(94)は、無線通信装置Aにおいて最大比合成ダイバーシチ動作を行う場合、すなわち、複素ウエイトがW
A1=R
A0 */√λ
1,1となる場合に成立する。
以上より、トレーニング信号のように送信信号1が伝送される場合には、受信側においてλ1,1を最大化する複素ウエイトを用いて合成受信することにより、最大比合成ダイバーシチが実現できることが分かる。 上述の基本動作は、数式表現を用いると、式(95),(96)で表される。
式(95),(96)において、VX(u)(Xは、AまたはBは、無線通信装置Xにおける複素ウエイトの更新回数がu回のときの複素ウエイトを表している。式(95)は、無線通信装置Aから無線通信装置Bへのトレーニング信号伝送における無線通信装置Bでの複素ウエイトの更新動作を表しており、式(96)は、無線通信装置Bから無線通信装置Aへのトレーニング信号伝送における、無線通信装置Aでの複素ウエイトの更新動作を表している。
式(95),(96)は、送信信号が1となるトレーニング用パケットまたはパケットのプリアンブル等に含まれるトレーニング系列の各アンテナでの受信信号に対して、受信側の無線通信装置において最大比合成となるように逐次複素ウエイトを更新していく動作を表している。
複素ウエイトの初期値としては、例えば、式(82),(83)で表されるベクトルを使用することができる。式(97),(98)は、すべての要素の大きさが等しく、かつすべての要素がI軸方向を向いたベクトルを表している。
最後に、式(95),(96)で表されるアルゴリズムの適用により、式(88),(89)を満足する複素ウエイトが求まることについて説明する。
式(88)は、M次正方行列[H1,1 T・WB1・WB1 H・H1,1 *]の固有ベクトルがWA1 *であることを表しており、式(89)は、N次正方行列[H1,1・WA1・WA1 H・H1,1 H]の固有ベクトルがWB1 *であることを表している。これらの固有ベクトルは、式(99),(100)で表される。
式(99),(100)を用いると、式(95),(96)のアルゴリズムは、式(101),(102)で表される。
式(101),(102)より、複素ウエイトWA1およびWB1に関する漸化式が得られる。すなわち、複素ウエイトWA1およびWB1に関する漸化式は、式(103),(104)で表される。
式(103),(104)より、複素ウエイトWA1およびWB1は、式(105),(106)で表される。
ところで、式(99),(100)より、式(107),(108)が成り立つ。
式(107),(108)より、複素ウエイトWA1およびWB1はそれぞれ、相関行列[H1,1 H・H1,1]および[H1,1 *・H1,1 T]の固有ベクトルであることが分かる。さらに、複素ウエイトWA1およびWB1は、式(87)の条件も満足するので、最大固有値に対する固有ベクトルであることが分かる。すなわち、式(107),(108)を満足する固有ベクトルは、最大でそれぞれM個およびN個あるが、式(105),(106)で表される複素ウエイトはその中の最大固有値に対する固有ベクトルである。したがって、[H1,1 H・H1,1/λ1,1]u−1・WA1(1)および[H1,1 *・H1,1 T/λ1,1]u−1・WB1(1)は、uを大きくするにつれて、最大固有値に対応した固有ベクトルに収束することが分かる。
すなわち、アンテナ群の数が1である特別なケースにおいては、トレーニング動作で求まる複素ウエイトWB1(u)およびWA1(u)は、最適な複素ウエイトに収束すること、およびこの最適な複素ウエイトを使用すれば、M×N次の伝送路行列の最大固有値に等しい受信レベルが実現できることが分かる。
続いて、無線通信装置Aおよび無線通信装置Bにおけるアンテナ群の数がそれぞれmおよびn(mおよびnは自然数であり、少なくともどちらか一方は2以上)である階層化MIMOの場合においても、送受信のアンテナ群の数が共に1である場合と同様に、同一の最適な複素ウエイトWB1(u)およびWA1(u)がトレーニング動作で求まることを示す。
式(91),(92)をそれぞれ式(102),(101)に代入することにより式(109),(110)が得られる。
式(75),(76)と式(109),(110)を比較すると、式(111),(112)の条件が成立する場合に、M×N構成で送受信アンテナ群の数が共に1である場合の最適複素ウエイトと同一の複素ウエイトが、M×N構成で階層化MIMOとした場合にも得られることが分かる。
式(111),(112)より、cBjおよびcAkは、アンテナ群にはよらない定数であることが分かる。
以上より、M×Nアンテナ構成を用いて階層化MIMOとした場合においても、送受信のアンテナ群の数を共に1とした場合と同様に、M×N次の伝送路行列の最大固有値に等しい受信レベルが実現できることが分かる。
階層化MIMOにおいて伝送路行列の最大固有値に対応した固有ビーム伝送が実現できることは既に述べた。以下では、MIMOによるマルチストリーム伝送においても、階層化MIMOとすることにより、アンテナ群毎にその最大固有値に対応した固有ビーム伝送が実現できることを示す。
無線通信装置Aから無線通信装置Bへのパケット伝送において、無線通信装置Bにおける合成された受信信号をRBとすると、式(113)が成り立つ。ここで、RAkBjは、アンテナ群Akからの送信信号をアンテナ群Bjで受信した場合の各アンテナでの受信波成分を表すNj次の列ベクトルである。
式(113)において、WBj T・RAkBjは、アンテナ群Bjを構成するNj個のアンテナでの受信信号の合成信号を表している。これに対して、トレーニング動作により求まる複素ウエイトは、式(114)で表される。
これは、アンテナ群BjにおけるNj個の受信信号の合成が最大比合成で行われることを示している。すなわち、階層化MIMOにおいて、アンテナ群毎にその最大固有値に対応した固有ビーム伝送が実現できることを示している。
ところで、一方の無線通信装置では最適な複素ウエイトが得られているが、もう一方の無線通信装置では最適な複素ウエイトが得られていない場合において、最初のトレーニングシーケンスをどちらの無線通信装置から送信するかにより、最適な固有ビームを形成するのに必要なトレーニング信号伝送の回数は異なる。
図37は、基地局(AP)側の無線通信装置では最適な複素ウエイトが得られていないが、端末(STA)側の無線通信装置では最適な複素ウエイトが得られている場合に、基地局(AP)側が最初のトレーニング信号伝送を行った場合のトレーニング信号伝送回数と受信レベル分布の改善を示す。トレーニング信号伝送回数が1回、すなわち1往復のトレーニング信号伝送では最適な固有ビーム伝送と比較して4dB程度の劣化が生じており、4回のトレーニング信号伝送を行うとほぼ最適な固有ビーム伝送が実現できることが分かる。
図38は、端末(STA)側が最初のトレーニング信号伝送を行った場合のトレーニング信号伝送回数と受信レベル分布の改善を示す。この場合には、1回、すなわち1往復のトレーニング信号伝送でほぼ最適な固有ビーム伝送が実現できることが分かる。
すなわち、本発明において、トレーニング信号伝送を最適な複素ウエイトが得られている無線通信装置、例えば端末(STA)側が最初のトレーニング信号伝送を行うようにすることにより、1往復のトレーニング信号伝送でほぼ最適な固有ビーム伝送が実現できる。このように、本発明によれば、ごく短時間のトレーニング信号伝送によりほぼ最適な固有ビーム伝送が実現できるので、高速フェージング環境においても通信エリアを大きく拡大することができる。
本発明では、伝送路行列の情報を求めることなしに、トレーニング信号伝送における複数のアンテナからの受信信号を合成した信号の受信状態の最適化処理だけで最大固有値に対応した固有ビーム伝送を実現しており、RF帯処理で実現できる。一方、通常の固有ビーム伝送においては、受信側ではアンテナ毎に受信機を備えており、受信信号の合成をベースバンド処理にて行っている。このため、各アンテナでの受信レベルは十分に大きくないため、通信エリアの周辺部では、バースト検出、すなわち、受信信号の到来を検出できない場合がある。
図39は、通常の固有ビーム伝送のように、受信信号の合成をベースバンド処理で行った場合とRF帯処理で受信信号の合成を行った場合のバースト検出での受信レベルの改善の比較を示す。
ベースバンド処理での固有ビーム伝送においては、バースト検出における受信レベルの改善は理想的なMIMO伝送と比較して12dB程度劣化している。一方、本発明をRF帯の処理で実現する場合には、理想的なMIMO伝送からの劣化量は2dB程度である。なお、この2dBの劣化の原因は、複素ウエイト処理を移相器で実現することに起因する。このように、従来のベースバンド処理での固有ビーム伝送を実現する方法あるいは装置では、バースト検出が可能なエリアにおいては大きなMIMO利得が得られ、これにより例えば多値QAMの使用による高速伝送が可能となる。しかし、通信エリアそのものは、バースト検出が可能なエリアに制限されるので、通信エリアにおける改善量はMIMO利得と比較すると、12dB程度小さくなってしまう。これに対して、本発明をRF帯の処理で実現する場合には、通信エリアにおける改善量はMIMO利得に等しい。すなわち、本発明によると、MIMO利得による通信エリアの大幅な改善を実現することができる。
以上、実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、種々に変形することができる。例えば、ウエイト処理部の乗算器は、1ビット移相器や2ビット移相器に限らず、ダイバーシチ合成に際しての重み付けを行うものであればよく、2ビット以上の移相器を用いることもできる。2ビット以上の移相器を用いれば、より細かく複素ウエイトを変更することができるので、より細かいダイバーシチ制御ができる。
また、トレーニング信号は、受信レベル情報を測定するために用いられるものであり、ダイバーシチ受信した時の受信レベル情報を測定できるものであればどのようなものでもよい。例えば、データフレームのヘッダ中のプリアンブルのみ、拡張プリアンブルに含ませた複数のシンボルなどをトレーニング信号として利用することもでき、トレーニング用として特別に用意されたものでなくてもよい。ただし、トレーニング中の伝送路の状況はほぼ一定であるとみなしているので、その時間長は短い方がよい。
なお、複数のシンボルをトレーニング信号として用いる場合、最短で、(自無線通信装置のアンテナ数+1)個のシンボルで各アンテナの信号に対する複素ウエイトの最適値を決定できる。また、受信レベル情報は、RFトレーニング信号をIF信号に周波数変換し、その段階で取得することもできる。
図40は、IEEE802.11nのアンテナ選択用のトレーニングシーケンスである。このトレーニングシーケンスの時間長は、184μsである。高速移動時においても、フェージング周波数は高々100Hzであり、184μsの間で伝送路の状況はほぼ一定とみなすことができるので、本発明のトレーニングでは、このトレーニングシーケンスを用いることができる。もちろん、これに限られない。
また、M個のアンテナに対するM個のフレームは、単一のトレーニングシーケンス内にある必要はない。例えば、受信アンテナ数が4本の場合、1つのトレーニングシーケンス内で2本のアンテナを最適化し、次のトレーニングシーケンス内でさらに1本のアンテナを最適化し、その次のトレーニングシーケンス内で残り1本のアンテナの最適化するというようなことも可能である。
さらに、相手の無線通信装置から、トレーニング信号の各フレームに対するACKが返信される場合には、ACKを検出してトレーニングカウンタ情報を得ることもできる。
本発明は、例えば、車車間通信や車両歩行者間通信に利用することができる。しかし、それに限られるものではなく、その他、例えば、無線通信用の携帯端末などでも利用することもできる。また、本発明は、必ずしも移動通信にその適用範囲が限定されるものではなく、多元接続方式を採用する自律分散型の任意の無線通信システムに適用することができる。