JP4578640B2 - 吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法、特に、法面の地滑りなどを防止するために施工するセメントコンクリートの吹付け材料、さらに、崩れやすい法面に、例えば、格子状(井桁状)に配置したフレーム骨格に吹付ける吹付け材料及びそれを用いた法面吹付け工法に関する。
なお、本発明でいうセメントコンクリートとはモルタルやコンクリートを総称するものである。
また、本発明でいう部や%は特に規定のないかぎり質量基準である。
【0002】
【従来の技術とその課題】
法面とは、高速道路、ダム、及び急傾斜地を中心に、切り土や盛土などによってできた傾斜面をいう。
この法面は、そのまま放置しておくと自然風化や強雨などによる浸食を受け、地滑りなどにより崩壊する恐れがあるため、法面を保護する必要がある。
【0003】
従来、法面の崩壊を防止するために、直にコンクリートを吹付けていたが、最近では、法面に金網や複数本の鉄筋を格子状(井桁状)に配置してフレーム骨格を形成して補強効果を増し、その交点部にアンカーを打ち込んだ後、コンクリートを吹付けて鉄筋コンクリートフレームを作って法面の安定を図ることが行われている(特公昭58-058493号公報)。
なかでも変形可能な金網や鉄筋を法面に直に配置するフリーフレーム工法がよく用いられている。
その際、施工現場に簡易プラントを作り、スランプ0cmの硬練りコンクリートを調製し、吹付けを行った後に表面をコテ仕上げして施工されている。
しかしながら、この方法では施工効率が2m3/hr程度と低く、材料の配合に人手がかかるなど、コスト高になるという課題があった。
【0004】
このため、吹付け速度を高めてコンクリートを生コンプラントから供給することにより施工効率を上げ、人手を減らしてコストダウンすることが考えられている。
吹付け速度を高めるにはコンクリートのスランプを大きくする必要があるが、スランプが大きいと吹付けたときにコンクリートが斜面から流れ落ちるという課題があった。
【0005】
このため吹付け直後にコンクリートの粘性を上げてスランプを低下させ、コンクリートのずり落ちを防止する必要がある。
吹付け時に急結剤を使用した場合、コンクリートのずり落ちを防ぐことはできるが、吹付けたコンクリートの硬化が早いためにコテ仕上げができなくなり、法面表面の美観を損ねるという課題があった。
【0006】
このように、吹付け時にコンクリートと混合することでコンクリートのずり落ちを防止するとともに、コテ仕上げができる程度の可使時間を確保できる吹付け材料が求められていた。
【0007】
本発明者は、前記課題を解消すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の吹付け材料を使用することにより、前記課題を解決できるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、セメント、ポリアルキレンオキサイド、トリスフェノール系縮合物、及びアルカリ金属炭酸塩類を含有してなる吹付け材料であり、トリスフェノール系縮合物の平均分子量が10,000〜50,000である該吹付け材料であり、セメント100部に対して、アルカリ金属炭酸塩類を固形分換算で1〜5部含有する該吹付け材料であり、セメントとポリアルキレンオキサイドとを含有するセメントコンクリートと、トリスフェノール系縮合物、アルカリ金属炭酸塩類を吹付け直前で混合して吹付ける吹付け工法であり、セメントとポリアルキレンオキサイドと減水剤とを含有するセメントコンクリートと、ビスフェノール系縮合物、アルカリ金属炭酸塩類を吹付け直前で混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法であり、鉄筋類を法面に配置してフレーム骨格を形成し、法面に該吹付け材料を吹付け、鉄筋類含有セメントコンクリートフレームを構築する法面吹付け工法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、吹付け速度を高めて施工効率を上げる目的でスランプの大きいコンクリートを用いた場合でも、吹付け時にコンクリートと混合することで、コンクリートのずり落ちを防止するとともに、コテ仕上げができる程度の可使時間が確保できる吹付け材料及びそれを用いた法面吹付け工法である。
【0011】
本発明で使用するポリアルキレンオキサイド(以下、PAOという)は、トリスフェノール系縮合物との相互作用によりセメントコンクリートに粘性を与え、吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止するものである。
PAOとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、及びポリブチレンオキサイド等が挙げられるが、これらの中では効果が大きい面でポリエチレンオキサイドが好ましい。
PAOの平均分子量は100万〜500万が好ましい。100万未満ではダレやずり落ちを防止する効果が小さい場合があり、500万を超えるとセメントコンクリートの圧送性が低下する場合がある。
PAOの使用量は、セメント100部に対して、0.001〜0.5部が好ましく、0.005〜0.3部がより好ましい。0.001部未満ではセメントコンクリートの粘性が小さく、吹付けたときにダレが生じ、セメントコンクリートが斜面から流れ落ちる場合があり、0.5部を超えるとセメントコンクリートの粘性が大きくなり、圧送性に支障が生じる場合がある。
【0012】
本発明で使用するトリスフェノール系縮合物としては、トリスフェノール類、芳香族アミノスルホン酸、及びホルムアルデヒドを縮合反応させることによって得られるものであり、市販品が使用可能である。
トリスフェノール類の具体例としては、例えば、4,4',4''-エチリジントリスフェノール、4,4'-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4',4''-メチリジントリスフェノール、4,4'-[1-[4-[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]フェニル]エチリジン]ビスフェノール、4,4'-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2-メチルフェノール)、及びこれらの異性体等が挙げられ、これらを併用することも可能である。
また、芳香族アミノスルホン酸の具体例としては、4-アミノベンゼンスルホン酸、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸、及びこれらの異性体等を挙げることができる。
本発明で使用するトリスフェノール系縮合物の平均分子量は、10,000〜50,000が好ましい。10,000未満ではセメントコンクリートのずり落ちを防ぐ効果が小さい場合があり、50,000を超えると強度発現性が低下する場合がある。
トリスフェノール系縮合物の使用量は、セメント100部に対して、0.1〜1.0部が好ましく、0.2〜0.5部がより好ましい。0.1部未満ではセメントコンクリートのずり落ちを防ぐ効果が小さい場合があり、1.0部を超えるとずり落ちが増加する場合がある。
【0013】
本発明で使用するアルカリ金属炭酸塩類(以下、炭酸アルカリという)は、セメントコンクリートと混合することでスランプを低下し、吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止するものであり、PAO、ビスフェノール系縮合物と併用することで、これらをそれぞれ単独で用いた場合より吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止する効果を大きくするものである。
炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウム等が挙げられ、粉末状のものや、水に溶解して水溶液としたものがあり、いずれも使用可能であるが、セメントコンクリートとの混合性が良好な面から水溶液として使用することが好ましい。
炭酸アルカリの使用量は、セメント100部に対して、固形分換算(無水物)で1〜5部が好ましく、2〜4部がより好ましい。1部未満ではセメントコンクリートのずり落ちを防ぐ効果が小さい場合があり、5部を超えるとセメントコンクリートの凝結・硬化が促進され、コテ仕上げをする時間が確保できなくなる場合がある。
【0014】
本発明で使用するセメントは特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末、又はシリカを混合した各種混合セメント、さらには、膨張セメントやコロイドセメントなどのいずれも使用可能である。
【0015】
本発明では、前記各材料や、砂や砂利などの骨材の他に、減水剤、AE剤、繊維、及び微粉等を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0016】
減水剤としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、及びポリカルボン酸系高分子化合物等が使用可能である。
また、AE剤はセメントコンクリートの凍害を防止するものである。
さらに、繊維は特にアンカー部のひび割れ防止に有効なものである。
そして、微粉は空隙を埋めて緻密構造を形成し、高強度化を図るものであり、シリカフューム等が使用可能である。
【0017】
本発明の吹付け材料を使用した法面吹付け工法としては、吹付け材料を直に法面へ吹付けてもよいが、補強効果を増すために、鉄筋類等を配置してフレーム骨格を形成することが好ましく、フリーフレーム工法がより好ましい。
【0018】
ここで、鉄筋類とは、金網や鉄筋などからなるもので、これらを組み合わせてフレーム骨格を形成して、セメントコンクリートを吹付け、鉄筋類含有セメントコンクリートフレームとするものである。
【0019】
フリーフレーム工法に使用する鉄筋類の配置方法としては特に制限されるものではないが、通常、幅30〜60cm、長さ1〜3m程度の金網(波形鉄筋φ1〜3mm)を2枚平行に金網の幅と同程度の間隔で、長手方向を傾斜に沿って配置し、継ぎ足してゆく。平行に立てた2枚の金網に鉄筋等のスペーサーを用いてフレーム骨格を形成する。このフレーム骨格を縦横に延長する際、この交点部にアンカーを打ち込むことが好ましい。また、このフレーム骨格の交点部に交点部用フレーム骨格を用いることも可能である。
このように配置したフレーム骨格に吹付け材料を用いて吹付けを行い、フレーム骨格の鉄筋類からはみ出した部分をコテ仕上げすることで、フレームの美観を保つことが可能である。
【0020】
本発明で使用する法面吹付け工法としては、一般的に行われている乾式、湿式などのいずれの吹付け工法も可能である。そのうち、粉塵の発生量が少ない面で湿式吹付け工法が好ましい。
【0021】
本発明の法面吹付け工法としては、PAOをあらかじめセメントコンクリートと混合しておき、トリスフェノール系縮合物と炭酸アルカリを吹付けノズル手前、例えば、混合管でPAOを混合したセメントコンクリートと混合することが好ましい。トリスフェノール系縮合物と炭酸アルカリを、PAOを混合したセメントコンクリートに混合するとスランプが低下し、圧送性が低下するため、前記以外の箇所で混合した場合には、閉塞や脈動を生じる場合がある。
トリスフェノール系縮合物と炭酸アルカリを、PAOを混合したセメントコンクリートに混合する場合、トリスフェノール系縮合物と炭酸アルカリは別々にPAOを混合したセメントコンクリートに混合することも可能であり、あらかじめ、トリスフェノール系縮合物と炭酸アルカリを混合し、それをPAOを混合したセメントコンクリートに混合することも可能である。
【0022】
【実施例】
以下、実験例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
実験例1
単位セメント量450kg/m3、W/C=45%、及びs/a=70%とした吹付けコンクリートを調製し、これをコンクリート圧送機「アリバー280」により4m3/hrの圧送速度、0.4MPaの圧送圧力で空気圧送した。
コンクリート中のセメント100部に対して、表1に示すPAOをコンクリートにあらかじめ混合した。
なお、コンクリートの調製にあたり、スランプが20cm程度になるように減水剤の使用量を調整した。
また、トリスフェノール系縮合物イと炭酸アルカリをポンプで圧送し、コンクリート中のセメント100部に対して、それぞれ0.2部、2部(固形分換算)となるようにノズル手前に取付けた混合管に圧送空気とともに圧入してコンクリートに混合し吹付けを行った。結果を表1に併記する。
【0024】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.16g/cm3
細骨材 :新潟県姫川産川砂、表乾密度2.62g/cm3
粗骨材 :新潟県姫川産ビリ砂利、表乾密度2.65g/cm3
減水剤 :ポリカルボン酸系高性能AE減水剤、市販品
PAO :ポリエチレンオキサイド(PEO)、平均分子量200万、市販品
トリスフェノール系縮合物イ:平均分子量20,000、市販品
炭酸アルカリ:炭酸ナトリウム、20%水溶液、市販品
【0025】
<測定方法>
ダレなど :幅30cm×厚さ30cmのフレーム骨格を十字状に交差させて法面に配置し、フレーム骨格にコンクリートを吹付けたときの状態を観察。ダレやずり落ちが多く見られた場合は×、少し見られた場合は△、全く見られない場合は○
可使時間 :吹付け材料を吹付けてから、指触により凹みがなくなるまでの時間
作業性 :幅10cm×長さ40cm×厚さ10cmのフレーム骨格にコンクリートを吹付け、フレーム骨格の表面をコテで仕上げて成形する際の作業性。容易に成形できた場合は○、成形するのに力を要した場合は△、力を入れても成形できない場合は×
圧送性 :吹付けコンクリートを圧送するときの圧送管内の圧力を測定。圧力が0.40〜0.55MPaである場合は○、圧送管内が閉塞しやすくなる0.60MPa以上になっても、圧送管に衝撃を与えることにより0.40〜0.55MPaになる場合は△、圧送管が閉塞し、圧送管に衝撃を与えても0.40〜0.55MPaとならない場合は×
圧縮強度 :幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmのフレーム骨格にコンクリートを吹付け、直径5cm×長さ10cmの供試体をコアリングし、20℃、80%RHで養生して測定
【0026】
【表1】
【0027】
実験例2
コンクリート中のセメント100部に対して、PEOを0.01部混合し、表2に示すトリスフェノール系縮合物を用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0028】
<使用材料>
トリスフェノール系縮合物ロ:平均分子量10,000、市販品
トリスフェノール系縮合物ハ:平均分子量50,000、市販品
【0029】
【表2】
【0030】
実験例3
コンクリート中のセメント100部に対して、PEOを0.01部混合し、トリスフェノール系縮合物イ0.2部と、表3に示す炭酸アルカリ(固形分換算)を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0031】
【表3】
【0032】
【発明の効果】
本発明の吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、吹付け速度を高めて施工効率を上げられるために、スランプの大きいコンクリートを用いた場合でも、吹付け直後のコンクリートのダレや斜面からのずり落ちを防止できるとともに、コテ仕上げを行う時間がとれるため、法面表面の美観を確保できる。
Claims (6)
- セメント、ポリアルキレンオキサイド、トリスフェノール系縮合物、及びアルカリ金属炭酸塩類を含有してなる吹付け材料。
- トリスフェノール系縮合物の平均分子量が10,000〜50,000であることを特徴とする請求項1記載の吹付け材料。
- セメント100部に対して、アルカリ金属炭酸塩類を固形分換算で1〜5部含有してなることを特徴とする請求項1又は2記載の吹付け材料。
- セメントとポリアルキレンオキサイドとを含有するセメントコンクリートと、トリスフェノール系縮合物、アルカリ金属炭酸塩類を吹付け直前で混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法。
- セメントとポリアルキレンオキサイドと減水剤とを含有するセメントコンクリートと、トリスフェノール系縮合物、アルカリ金属炭酸塩類を吹付け直前で混合して吹付けることを特徴とする吹付け工法。
- 鉄筋類を法面に配置してフレーム骨格を形成し、法面に請求項1〜3のうちの1項記載の吹付け材料を吹付け、鉄筋類含有セメントコンクリートフレームを構築することを特徴とする法面吹付け工法。
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