以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本発明に係る振動式搬送装置に用いる励振用駆動回路100の概略構成を示す概略構成図である。励振用駆動回路100は、商用電源1から供給された交流電圧を整流、平滑し、必要に応じて降圧して所要の直流電圧(以下、単に「供給電圧」という。)Voを供給する直流電源120と、この直流電源120から供給される供給電圧Voを所定周波数の交流の出力電圧Vpに変換するインバータ130と、を備えている。インバータ130から供給される出力電圧Vpはインダクタ140、150を介して振動発生源の励振用素子である圧電素子34に印加される。これらのインダクタ140、150はリップル除去用のチョークコイルである。インダクタ140、150はいずれか一方のみを設けてもよいが、圧電素子34の両側に共に設けることによってバランスがとれ、ノイズ対策上より好ましい。
また、励振用駆動回路100は、圧電素子34の両端電圧Vsを検出するための電圧検出手段である検出トランス170を有し、この検出トランス170の出力は制御部180に接続されている。制御部180は例えばマイクロプロセッサユニット(MPU)等によって構成され、検出トランス170を介して検出された圧電素子34の両端電圧Vsを示す電圧検出値Vd(Vsと既定の相関がある値であればよく、Vsに等しくても等しくなくてもよい。)に応じて制御信号Sを出力するようになっている。制御信号Sはインバータ130の周波数を決定する周波数指令値及び電圧値を決定する電圧指令値を実質的に含むものであり、インバータ駆動回路であるPWM回路190に入力され、PWM回路190は駆動信号Dを出力して、インバータ130のFET等からなるスイッチング素子131、132、133、134を駆動し、インバータ130においてPWM駆動により上記所定の交流の出力電圧Vpを生成させる。
インバータ130の出力電圧Vpは、PWM回路190の駆動信号Dに応じた矩形パルスPの幅(デューティー比)及び周期Tで設定される。例えば、矩形パルスPのデューティー比が駆動信号Dに応じて変わることで電圧実効値が変化するようになっている。また、矩形パルスPの周期t、或いは正負の矩形パルスPの交代周期Tが駆動信号Dに応じて変わることで駆動周波数(f=1/T)が変化するようになっている。上記のデューティー比及び周波数は制御部180の出力する制御信号Sによって制御される。なお、図1の二点鎖線の枠内に示す出力電圧Vpの波形は原理のみを示す模式的なものであり、インバータのスイッチング周期tと出力電圧Vpの周期Tの関係を正確に示すものではない。
本実施形態の制御部180は、電圧基準値Vrを設定可能な設定器181と、周波数基準値frを設定可能な設定器182とを有する。そして、インバータ制御手段である制御部180及びPWM回路190では、上記電圧基準値Vr及び周波数基準値frに応じた電圧値及び周波数となるようにインバータ130を制御するようになっている。また、検出トランス170を介して圧電素子34の両端電圧Vsが検出され、電圧検出値Vdに応じて制御部180が圧電素子34の両端電圧Vsを一定に保つように制御することも可能になっている。例えば、圧電素子34の両端電圧Vsを直接検出し、この両端電圧Vsに対応する電圧検出値Vdを一定(例えば上記電圧基準値Vr)に保持するようにインバータ130を制御することで、従来のようにインバータへの電圧指令値の設定のみで動作させていた場合にくらべると、振動発生源のサイズや数の変動(駆動電流の変動)、或いは、振動負荷の変動に影響を受けず、常に安定した駆動電圧を与えることができる。また、振動発生源に正確な駆動電圧を印加することができるので、駆動電圧を最適化することで振動発生効率を高めることができる。
本実施形態では、圧電素子34の共振周波数の検出を上記構成のみによって容易に実施できる。例えば、制御部180においてインバータ130で供給される出力電圧Vpを一定としつつ、駆動周波数を徐々に変化(スイープ)させていくように制御信号Sを生成しながら電圧検出値Vdを監視することで、電圧検出値Vdの極小点(振動発生源のインピーダンス極小点)を共振周波数として検出することができる。また、上記のように検出トランス170を介して検出された電圧検出値Vdを一定に保持するフィードバック制御を行いつつ駆動周波数を徐々に変化させていく場合には、制御信号Sの電圧指令値(例えば、電圧基準値Vrと電圧検出値Vdの差Vr−Vd)の極大点を共振周波数として検出することができる。
上記の共振周波数の検出は手動で行うことも可能であるが、例えば、制御部180で実行可能な共振点検出プログラムによって自動的に行うこともできる。すなわち、制御信号Sによって一定周期で駆動周波数を一定のステップ量で変化(スイープ)させていくとともに、電圧検出値Vd(電圧制御なしの場合)若しくは電圧指令値(電圧制御ありの場合)を監視し、電圧検出値Vdの極小点若しくは電圧指令値の極大点に達するまで周波数のスイープを継続していけばよい。この場合、共振点をより正確に検出するために、周波数スイープ時において電圧検出値Vdの極小点若しくは電圧指令値の極大点を越えたときに周波数の変化方向を逆転させるとともにステップ量を低減させてさらに検出を続けるという方法を採ることもできる。なお、上記の共振点検出手段は、上記のように動作するように設定された制御部180(例えば、制御部180に用意された共振点検出プログラムの実行動作)によって実現される。
図2は上記圧電素子34として圧電素子を備えた振動発生源3を備えた振動式搬送装置10の概略側面図、図2(A)は本実施形態の概略正面図、図2(B)は本実施形態の搬送体を省略して示す概略平面図である。
本実施形態の振動式搬送装置10は、基台1と、この基台1の上方に配置された搬送体2と、搬送体2を振動させるための振動発生源3と、振動発生源3の一側部分(下端)に接続された連結部材4と、搬送体2と連結部材4との間に連結された第1の弾性支持体5と、振動発生源3の他側部分(上端)に接続され、自由端として構成された慣性体6と、連結部材4と基台1との間に連結された第2の弾性支持体7とを有している。基台1は、設置面上に配置される支持板1Aと、この支持板1A上に固定され、上記第2の弾性支持体7がボルト等を介して固定された取付板1Bとを備えている。
搬送体2は、上記第1の弾性支持体5にボルト等を介して固定された取付材2Aと、この取付材2A上に固定された搬送材2Bとを有し、搬送材2Bには図示しない溝状のトラックが形成されている。このトラックは図2の左右方向に伸び、図示しない部品を保持しつつ、後述する振動発生源3から伝達される振動S3により、部品を矢印Fの示す方向(以下、単に「搬送方向F」という。)へ搬送可能となるように構成されている。
振動発生源3は圧電型振動源で構成される。この圧電型振動源は、具体的には、弾性板の表裏両面にそれぞれ圧電体層を形成し、これらの圧電体層に所定の電圧を印加することによって屈曲するように構成したバイモルフ型構造を有している。もちろん、弾性板の片面にのみ圧電体層を形成したユニモルフ型構造であっても構わない。これらの圧電型振動源は、外部から所定周波数の交流電力を供給することによって当該周波数に対応する周波数で撓み振動する。
振動発生源3の具体例は図8に示される。図8に示すように、金属シム板等の弾性金属板31の表面には合成樹脂層、樹脂フィルム基板、ガラスエポキシ基板などで構成される絶縁層32が接着等により固定され、この絶縁層32上には導電層33が形成されている。導電層33上には圧電素子34が積層される。絶縁層32及び導電層33は、絶縁基板と、この上に被着された配線パターンとによって構成されることが好ましく、例えば、ポリイミド樹脂等で構成されるフレキシブル配線基板、ガラスエポキシ等で構成される硬質配線基板、セラミックス基板等によって構成できる。圧電素子34は半田や導電性ペースト等の導電接着剤によって導電層33上に接着固定される。
圧電素子34は、図9に示すように、複数の圧電体層341と、複数の内部電極342、343若しくは外部電極344、345とが交互に積層されてなる積層構造を有する。外部電極344は内部電極342と側面部分にて導電接続され、上記導電層33に導電接続されている。外部電極345は内部電極343と側面部分にて導電接続され、圧電素子34の外表面に露出している。
上記のように構成された振動発生源3は、上記導電層33から一方の配線を引き出し、上記外部電極345から他方の配線を引き出して、上記の励振用駆動回路100に接続される。この振動発生源3では、弾性金属板31と圧電素子34とが絶縁層32によって絶縁されているので、弾性金属板31に駆動電位が供給されないことから、励振用駆動回路100側に大型の絶縁トランスを設ける必要がなくなるため、駆動装置の小型化及び低価格化を図ることができる。また、弾性金属板31が絶縁されていない場合には振動式搬送装置10の安全上、外部電極344を接地電位とする必要があるため、外部電極345に対して厳重な絶縁カバー等を設ける必要があるが、本実施形態の場合には絶縁資材を簡略化することができる。
さらに、本実施形態の振動発生源3では、圧電素子34が積層型素子構造(積層構造で各圧電層が並列に駆動される構造)を有することにより、駆動電圧を低くすることができる。例えば、従来構造の圧電素子では200〜400V程度の高い駆動電圧が必要であったが、本実施形態では3〜5層の圧電層を並列に駆動することで30〜80V程度の低い駆動電圧で駆動することが可能である。したがって、励振用駆動回路100において昇圧回路が不要となり、また、昇圧回路がないことによって駆動装置の小型化や低価格化が可能になる。
本実施形態では、搬送方向Fに離間した前後2箇所において、上記搬送体3、連結部材4、第1の弾性支持体5、及び、第2の弾性支持体7の組がそれぞれ設けられている。すなわち、搬送体2が前後2箇所で第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7により弾性支持されている。また、前方に配置された振動発生源3は前方の第1の弾性支持体5の後方に配置され、さらに後方に配置された慣性体6に接続され、後方に配置された振動発生源3は後方の第1の弾性支持体5の前方に配置され、さらに前方に配置された慣性体6に接続されている。すなわち、慣性体6は2組の振動発生源3の前後方向の中間に配置され、2組の振動発生源3は共通の慣性体6に共に接続されている。
慣性体6は、振動発生源3に接続された慣性板6Aと、この慣性板6Aに固定された慣性ブロック6Bとを有し、上部に配置された慣性板6Aの下方に慣性ブロック6Bが吊り下げ固定された構造となっている。慣性板6Aは搬送体2の直下に隣接して配置され、慣性ブロック6Bは振動発生源3と同じ高さ範囲に重なるように、慣性板6Aから下方に突出するように設けられている。
第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7は共に板状の弾性体、例えば板ばねである。第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7は側方から見て共通の直線に沿って配置されている。これによって、両弾性支持体は基台1と搬送体2の間にて単一の板状の弾性体で構成される場合と近似した支持特性を有するものとされる。すなわち、第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7とが前後方向にずれた位置に設けられていると、振動発生源3の姿勢と直交する本来の振動方向S1とは異なる方向の不要な振動モード(例えば、上下方向に揺動する振動モード)が生成され、搬送体2の搬送特性に悪影響を与える虞があるのに対して、上記のように両弾性支持体5,7が共通の直線に沿って配置されることで、不要な振動モードの生成を抑制することができる。
また、上記の共通の直線は、振動発生源3の延長方向と平行になるように構成されている。これによって、振動発生源3の延長方向(板面に沿った方向)と直交する方向の撓み振動を効率的に第1弾性支持体5に伝達することができ、効率的に搬送体2を振動させることができる。本実施形態では、搬送体2に対して図示矢印で示すように水平方向に対してやや上下方向に傾斜した方向の振動S3を与えることによって、搬送体2上の図示しない部品を搬送方向Fに沿って搬送できるように構成されている。したがって、このような振動を効率的に伝達するために、振動発生源3を垂直方向に対して前後方向にやや傾斜した方向に延在する姿勢とし、しかも、第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7をこれと平行な方向に延在する姿勢としている。
さらに、振動発生源3の下端が連結部材4に連結され、振動発生源3の上端が慣性体6に連結されていることにより、慣性体6を容易に搬送体2に近づけることができるため、相互に逆相で振動する搬送体2と慣性体6とによって生ずるモーメントを低減することができ、不要な振動モードを抑制できる。また、慣性体6(特に慣性ブロック6B)は振動発生源3の高さ範囲に重なるように配置されているので、慣性体6の質量及び体積を大きくしても、装置10を高さ方向にコンパクトに構成することができる。
以上のように構成された装置10は、振動発生源3に交流電力が与えられて撓み振動が発生すると、振動発生源3の両側で、連結部材4と慣性体6が振動発生源3の撓み方向に振動する。連結部材4の振動S1は基台1を支点として第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7によって増幅され、搬送体2に振動S3を生成させる。また、自由端である慣性体6には、連結部材4と逆相の振動位相を有する振動S2が生成される。
本実施形態では、従来の振動式搬送装置とは異なり、振動発生源3の一端が第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7に共に接続されているとともに、振動発生源3の他端が慣性体6に接続されていることにより、振動発生源3の一端が直接かつ無制限に搬送体2を振動させる構造とはなっていないことで、搬送体2の振動S3が搬送方向Fに沿って正確に発生し、上下方向のあばれも低減されることが確認された。すなわち、高速ビデオ等で撮影すると、従来の搬送装置では、部品の搬送姿勢が左右に乱れたり、上下に暴れたり、或いは、部品が時折逆方向に移動したりするなどといったことが発生していたが、本実施形態では部品が規則的に搬送方向に向けて正確に送られるようになっていた。そして、これによって振動エネルギーが部品に対して効率的に伝達され、部品の搬送方向Fも揃いやすくなるとともに、搬送速度が向上することが認められた。
また、基台2が第2の弾性支持体7を介して連結部材4に接続され、この連結部材4には、第1の弾性支持体5を介して搬送体2が接続されるとともに、振動発生源3を介して慣性体6が接続されているので、相互に逆相で振動する振動要素が共に接続されていることとなるため、結果的に、基台2へ伝達される振動エネルギーを低減することができ、したがって、隣接装置に対する振動による悪影響を低減するとともに騒音を抑制できる。
また、本実施形態では、振動発生源3、第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7として特殊で複雑な形状や構造を有するものを用いる必要がないので、製造コストを低減することができる。図示例の場合、振動発生源3、第1の弾性支持体5及び第2の弾性支持体7はいずれも板状体で構成されている。なお、上記第1の弾性支持体5と第2の弾性支持体7を一体の弾性部材で構成してもよい。
以上説明した励振用駆動回路100と、これによって駆動される振動発生源3を搭載した振動式搬送装置10について、実際に、直流電源の供給電圧Vo、上記電圧検出値Vd、及び、加速度センサで検出した圧電素子の加速度Aの周波数依存性を調べた結果を図4及び図5に示す。図4は電圧検出値Vdによるフィードバック制御をしない場合(すなわち、インバータ130による出力電圧Vpを一定とした場合)のデータであり、供給電圧Voを直流68V、インバータ130で35%程度のパルス幅変調を施して出力電圧Vpを20Vで一定とした状態で測定した。また、図5は同じ供給電圧Voの元で電圧検出値Vdを一定に保つようにフィードバック制御をした場合のデータである。
図4に示すように、フィードバック制御をしない場合において駆動周波数を変化させていくと、共振周波数f1において電圧検出値Vdは極小値を示すとともに、加速度Aは極大値を示す。これは共振周波数f1においては圧電素子34のインピーダンスが低下するために、供給電圧Vo(及び出力電圧Vp)が一定であっても、実際に振動発生源3に印加される駆動電圧は低下していることを意味する。この図4のデータを見れば、加速度センサを用いなくても、電圧検出値Vsの極小点を見ることによって共振周波数f1を検出できることがわかる。
一方、図5に示すようにフィードバック制御を実施すると、電圧検出値Vdが一定に保持されるため、共振周波数f1でも電圧検出値Vdに極小点は現れないが、電圧検出値Vdを一定に保持するために制御信号Sの電圧指令値(Vr−Vd、若しくはこれと比例関係にある値)は極大値を示すことから、上記と同様に加速度センサを用いなくても電圧指令値を監視することで共振周波数f1を知ることができる。また、この場合には、共振周波数f1の近傍においても電圧検出値Vdが低下せず一定であるため、図示のように素子の加速度Aは図4に示す場合よりも大幅に増大している。これは、圧電素子34を従来よりも効率的に、或いは、素子に印加されるべき設定電圧で期待される通りに駆動することができることを意味する。
すなわち、従来構成ではインバータの出力電圧Vpを適宜に設定しても、インバータのスイッチング素子の内部抵抗やインダクタンスの抵抗成分によって電圧降下が発生するため、実際の両端電圧Vsは出力電圧Vpよりも低下してしまい、また、上記電圧降下は抵抗値と振動発生源の駆動電流によって定まるため、抵抗値及び電流値を把握しなければ両端電圧Vsを意図的に制御することができない。また、共振周波数f1の近傍では圧電素子34のインピーダンス特性も変化しやすく、出力電圧Vpと両端電圧Vsの関係も一定になりにくいため、両端電圧Vsを最適化することがきわめて難しい。これに対して本実施形態では両端電圧Vsを直接に検出し、これに応じて出力電圧Vpを制御しているため、電圧の最適化が容易である。また、上述のように異なるスペックの搬送装置に同じ励振用駆動回路を用いる場合でも両端電圧Vsが把握できるので容易に対応することができる。
また、振動発生源3に接続される振動負荷が変化して共振周波数が変化した場合には、圧電素子34のインピーダンスが変化するため、従来方法では電圧指令値が一定でも両端電圧Vsが変化していることが考えられるが、両端電圧Vsを検出してフィードバック制御している本実施形態ではこのようなことはない。さらに、従来方法では素子のばらつき(インピーダンスのばらつきや共振特性のばらつき)により搬送特性の再現性を得ることも難しいが、本実施形態では、圧電素子34に実際に印加される電圧が確実に制御され素子特性にも影響を受けないので、所望の素子加速度を両端電圧Vsに応じて比較的安定した状態で得ることができ、搬送特性の再現性も獲得できる。
図6には本実施形態のインバータ130、インダクタ140、150及び圧電素子34で構成される回路部分の等価回路を示す。そして、この等価回路で、駆動電流I、素子の両端電圧Vs、位相差ΔPをそれぞれ算出した。その結果を図7に示す。ここで、インバータ130の出力電圧Vpを交流20Vで一定とした。また、インダクタ140を等価インダクタンスL1及び等価直流抵抗R1で表し、インダクタ150を等価インダクタンスL2及び等価直流抵抗R2で表し、さらに、圧電素子34を等価インダクタンスLx、等価キャパシタンスCx及び等価抵抗Rxの直列接続部(共振子成分)と、等価キャパシタンスCy(制動容量成分)との並列回路で示してある。そして、上記等価回路によって共振点近傍の電気特性を調べた。ここで、圧電素子34の回路定数は実際に振動発生源として組み込まれた圧電素子についてインピーダンスアナライザにより計測した値を元に算出した。このとき、振動発生源3の共振周波数はfr=π/2・(Lx×Cy)1/2=342.3Hzであった。
上記従来の共振周波数の測定方法では出力電圧Vpと電流Iとから位相差ΔPを求め、これによって印加電力W=Vp×I×cosΔPを求めることで印加電力の極大点を共振周波数として検出しているが、本実施形態では素子の両端電圧Vsを直接検出している。そして、図7に示すように、素子電圧Vsの極小点は共振周波数f1に一致している。
従来の方法では駆動電流Iを検出し、出力電圧Vpとの位相差ΔPを求めて印加電力を算出する必要があるが、駆動電流Iの検出時にはノイズが重畳することから、正確な電流I及び位相差ΔPを求めることは実際には難しい。特に、圧電素子を用いた振動発生源3では電流Iは通常数mA程度ときわめて小さいため、なおさら正確な印加電力を求めることはできない。これに対して本実施形態では、圧電素子34の両端電圧を直接検出しているために電流Iも位相差ΔPも求める必要がなく、直接に検出される両端電圧の電圧検出値Vdのみで容易かつ正確に共振周波数f1を求めることができる。
さらに、本実施形態では、検出トランス170を用いた電圧検出手段を設けているが、電圧のみを検出すればよいことから超小型のトランスで足りるため、励振用駆動回路の小型化、低コスト化を図ることができる。また、圧電素子34にチャージ電荷が発生した場合でも、この電荷は検出トランス170の一次側171にて放電されるため、チャージ電荷放出用の抵抗(圧電素子の両端に接続される高抵抗)が不要になる。さらに、圧電素子34が短絡した場合には検出トランス170の二次側172の電圧がゼロになるので、当該電気的短絡を確実に検出できる。したがって、過電流検出用の抵抗は不要となり、無駄な電力消費を防止できる。
なお、駆動周波数の設定は、基本的には振動式搬送装置10の構造によって決定される共振周波数に合わせた振動数で圧電素子34を駆動するために行われる。したがって、搬送装置の構造が変化すれば共振周波数も大きく変化するし、また、搬送装置は同一構造でも搬送体の振動負荷(搬送物の重量)が変化すれば共振周波数は微量ではあるが変化する。図10は振動負荷を(1)0g、(2)25g、(3)35g、(4)95g、(5)160g、(6)250gと変化させたときの電圧検出値Vd及び加速度Aの周波数依存性を示すグラフである。ここで、通常は振動負荷が搬送物であるから搬送体には固定されていないが、本実験では搬送体に上記重量の錘を固定した状態とした。この場合には搬送物の重量増ではなく、搬送体の重量増に対応する振動負荷の増加に相当する。ただし、搬送物の重量増の場合でも共振周波数や加速度の変化がより少なくなるものの、定性的には同様の影響をもたらすものと思われる。
図10に示すように、図示実線で示す加速度Aの極大点及び図示破線で示す電圧検出値Vdの極小点の周波数、すなわち共振周波数は、振動負荷が増えるに従って低下している。これは、振動する搬送体の重量が増加するためであるが、実際の搬送装置では逆に共振周波数が増加する場合もある。実際の装置では圧電素子に接続されるバネ部材の弾性定数、カウンターウエイト、全体の機械的構造等により影響を受けるので、複雑な振動系が構成されているからである。また、実際の振動式搬送装置では振動エネルギーの一部が搬送物の搬送エネルギーとして使われるので、図示例よりも加速度が低下し、結果としてQ値が減少する。これは、図6に示す等価回路において抵抗Rxが増加することに相当する。
また、図10から、加速度Aのピーク高さと、電圧検出値Vdの極小点における電圧降下量とがほぼ比例することがわかる。これは、圧電素子の共振点近傍の特性が電気的なLCR共振回路と等価であり、機械的な振幅と電気的なインピーダンスの周波数特性が相似するからである。したがって、電気検出値Vdの周波数特性として得られる電気的インピーダンス特性を元に加速度を求めることが可能であり、したがって、従来のように加速度センサを用いなくても加速度の制御を行うことができることがわかる。
次に、図11には、上記の振動負荷を0としたときの条件と同じ条件で、駆動周波数を60Hz〜400Hzまでスイープさせたときの電圧検出値Vd(図示実線)及び加速度A(図示破線)を測定した結果を示す。図示実線で示す電圧検出値Vdは、駆動周波数を増加させていくと徐々に低下していき、やがて共振点近傍領域Kで大きく低下した後に上昇するが、共振点近傍領域Kを通過した後には、再び徐々に低下していく。このように共振点近傍領域Kを除く領域において駆動周波数が上昇していくと電圧検出値Vdが徐々に低下していくのは、図6に示す等価回路において制動容量Cyが存在するからである。すなわち、圧電素子は図6に示すLx、Cx、Rxで表されるLCR共振回路で基本的に表すことができるが、このLCR共振回路と並列に接続された振動に寄与しない容量成分である制動容量Cyが存在するために、上記の共振点近傍領域K以外の領域のインピーダンス特性が決定される。
一方、上記の制動容量Cyを擬似的に3倍に増加したときの電圧検出値Vdを図示一点鎖線で示し、同じときの加速度Aを図示二点鎖線で示す。このときには、共振点近傍領域K以外の電圧検出値Vdの値は、駆動周波数が増加するに従って徐々に増加していく。これは、インダクタ140、150と制動容量Cyとが共振回路を構成したためであり、この場合には1.3kHz付近に当該共振回路の共振点が存在することによって当該共振点に向けて電圧検出値Vdが徐々に増大しているのである。
本実施形態の場合には、圧電素子34として並列に接続された複数の素子部が積層されてなる積層構造を有するものを用いているため、各層の制動容量Cyが加算されることで全体の制動容量が大きくなる。したがって、単層の圧電素子を用いる場合に比べて制動容量の影響を大きく受けるものと考えられる。
上記の各点を考慮して、以下の手順を実施することで、振動負荷が多少変化した場合でも圧電素子の加速度Aをほぼ一定に維持することができる。まず、駆動周波数をスイープさせて図11に示す共振点近傍領域K(上記のLx、Cx、RxからなるLCR共振回路に相当する効果が主体的になる領域)を除く領域の両端電圧Vsを測定し、電圧検出値Vdのプロファイルから駆動周波数に対する電圧検出値のベース曲線B(図示点線)を取得する。このベース曲線Bは、共振点近傍のプロファイル例を示す図12にも点線で示してある。ベース曲線Bは図11に示すように全体として右下がりや右上がりの曲線となるなど、制動容量Cy及びインダクタ140,150のL1、L2、R1,R2の値によって変化するので、これらの影響を排除し、共振点近傍の電圧検出値Vdの降下特性(上記のLx、Cx、RxからなるLCR共振回路によるインピーダンス変化によるもの)を正確に得るためのものである。したがって、このベース曲線Bは、同じ構成を有する振動式搬送装置であれば同じものを用いることができ、また、上記Cy、L1、L2、R1、R2などのパラメータから求めることも可能である。また、パラメータ的に必要精度上ベース曲線Bを勘案する必要性が少ない場合(ベース曲線が水平線に近い場合など)には当該ベース曲線Bの算出及びその利用を省略してもよい。
次に、図12に実線で示す電圧検出値Vd1の共振点近傍のプロファイルを所定範囲内の駆動周波数域におけるスイープ動作にて求め、共振点における電圧検出値Vd1(すなわち、共振周波数f1を示す図示一点鎖線で示す垂線と、電圧検出値の周波数特性を示す特性曲線(Vd1)との交点の電圧値)とベース曲線B上の電圧値との差を電圧降下量ΔVd1として算出する。そして、この共振周波数f1と一致する駆動周波数で運転する。
このとき、最初に検出した共振周波数f1でそのまま継続して駆動するようにしてもよいが、共振周波数の変化を想定して、以下のように駆動周波数の微修正を行うようにすることもできる。すなわち、駆動周波数を僅かに前後にスイープさせて電圧検出値Vd1の極小点を検出しながら、常時当該極小点にて得られる共振周波数に駆動周波数が一致するように制御してもよい。このとき、駆動周波数のスイープ動作を常時行い、常に駆動周波数が実際の共振周波数(電圧検出値Vdの極小点)を中心にして前後に変化するようにしてもよく、また、駆動周波数のスイープ動作を間欠的に(定期的若しくは不定期に)実施し、スイープ動作の結果得られた共振周波数に駆動周波数が一致するようにその都度制御してもよい。このようにすると、実際の共振周波数が多少変動しても、常に共振周波数にほぼ一致した駆動周波数で効率的に運転することができる。
次に、駆動周波数が基準周波数f1に設定された状態で動作している状態において、電圧検出値Vdを監視しながら、この電圧検出値Vdの変動量が或る閾値を越えたときには、振動負荷が変化したものと判断して、以下の補正動作を実行する。ここで、図12には、破線で振動負荷を変化させた後の電圧検出値(特性曲線)Vd2を示し、二点鎖線で補正後の電圧検出値(特性曲線)Vd3を示してある。ただし、図12に示す例の場合には、上記図10に示す場合と異なり、振動負荷を搬送体に固定せず、粒子状の錘を搬送体上に固定しない状態で搭載したため、共振周波数f1の変化はきわめて小さくなっている。なお、上記のように共振周波数の探索による駆動周波数の微修正を行っている場合には、当該微修正を行うためのスイープ動作にて検出された共振周波数f1の変動量が或る閾値を越えたときに以下の補正動作を実行するようにしてもよく、或いは、同様にして算出された上記電圧降下量ΔVd1の変動量が或る閾値を越えたときに以下の補正動作を実行するようにしてもよい。
本実施形態の補正動作においては、まず、駆動周波数を所定範囲でスイープさせ(上述のように駆動周波数の微修正をしている場合には、そのスイープ範囲を必要に応じてさらに広げてスイープを実施し)、変化後の共振周波数f2を検出して、当該共振周波数f2に一致するように駆動周波数を補正する。この場合、電圧検出値Vd1、共振周波数f1又は電圧降下量ΔVd1の変動量の比較対象である上記の閾値は加速度Aの変動を抑制したい程度に応じて設定される。したがって、単に駆動周波数を新たに判明した共振周波数f2に補正しただけでは、図13に示すように変化前の加速度A1(図示実線)に比べて変化後の加速度A2(図示破線)が許容できない程度に変化し、加速度を変化前と同様に維持することはできない。しかしながら、上述のように、上記電圧降下量は圧電素子のインピーダンス変化と相関を有し、図10に示すように加速度Aと比例関係にあることがわかっている。そこで、上記の駆動周波数の補正後において上記電圧降下量ΔVd2を算出し、変化前の電圧降下量ΔVd1と、変化後の電圧降下量ΔVd2の変動比R=ΔVd2/ΔVd1を補正パラメータとする。そして、振動負荷の変化後においても加速度がこの補正パラメータである変動比のR倍となるように補正することで、振動負荷の変動前後において加速度の変化がなくなることになる。
実際には加速度の変動が抑制されれば足りるので、振動負荷の変化後の加速度を補正する方法の一例としては、電圧指令値を比Rで乗算した値を新たな電圧指令値に設定する方法が考えられる。図12に示す補正後の電圧検出値Vd3は、インバータ制御手段である制御部180から出力される制御信号Sに含まれる電圧指令値を上記比Rで乗算して補正し新たな電圧指令値とした場合に検出された実験値である。この場合には、図13に示すように、変化前の加速度A1に対して振動負荷が変化した後の加速度A2が大きく低下しているのに比べると、補正後の図示二点鎖線で示す加速度A3は変化前の加速度にほとんど近似した値となっている。
図12及び図13に示す補正後のデータは、制御部180から出力される電圧指令値を上記比Rで補正した場合の実験結果であり、加速度A1とA3は厳密には一致していないが、加速度の変動を十分に抑制することができる。ここで、図12及び図13に示す各データの詳細は以下のようになっている。変化前においては、制御部180からPWM回路190に3Vの電圧指令値(5Vが100%)を与え、このときの共振周波数及び駆動周波数f1が268.5Hz、この周波数における電圧検出値Vd1のベース曲線の共振点における値が23.6V、加速度Aが22.4Gであった。また、このときの電圧降下量ΔVs1は2.3Vであった。その後、500gの粒子状の錘を固定せずに搬送体上に載置したところ、共振周波数が268.8Hzとなり、この周波数における電圧検出値Vd2のベース曲線の共振点における値は23.5V、加速度は16.3Gになった。そして、このときの電圧降下量ΔVd2は1.7Vであった。このため、元の電圧指令値3Vに電圧降下量の変動比R=ΔVd1/ΔVd2=1.4を乗算することにより得られた4.2Vの値に電圧指令値を変更した。これにより、共振周波数は268.5Hz、この周波数における電圧検出値Vd3のベース曲線の値は33.8V、電圧降下量は1.8V、そして、加速度は23.2Gとなった。なお、上記の各値はそれぞれ小数点以下1位までの四捨五入で示してある。
上記の変動比Rを補正パラメータとする補正方法としては上記方法に限らず、振動負荷の変化前後の加速度の変化を抑制できる方法であればいかなる方法であってもよい。ここで、上記補正パラメータを適用する対象が電圧制御パラメータである。電圧制御パラメータは上記の例で示した電圧指令値に限らない。例えば、振動負荷の変化後に共振点で検出された電圧検出値Vd2に上記比Rを乗算した値が補正後の電圧検出値Vd3となるように、すなわち、Vd3=R・Vd2=Vd2・ΔVd2/ΔVd1となるように、共振点の電圧検出値の極小値を上記で電圧制御パラメータとして、これが補正値となるように新たな電圧指令値を設定する方法が考えられる。また、電圧制御パラメータとして上記ベース曲線における共振点近傍の電圧値を用いてもよい。この場合、ベース曲線の値が上記比Rで補正した値となるように電圧指令値を設定する。例えば、上記の例では、振動負荷が変化した後のベース曲線Bの共振点における値が23.5Vであるので、これに上記比R=1.4を乗算すると32.9Vとなる。したがって、補正後のベース曲線Bの共振点における値が32.9Vに近づくように新たな電圧指令値を設定することになる。
上記の例では電圧検出値Vdのフィードバック制御を行わない場合を前提として、補正パラメータを電圧降下量とする方法について説明したが、電圧検出値Vdのフィードバック制御を行う場合には、一旦フィードバック制御を停止して上記と同様の補正パラメータの検出を行うか、或いは、補正パラメータとして上記電圧降下量の変動比の代わりに電圧指令値の電圧上昇量の変動比を用いる。また、この場合には、電圧制御パラメータとして制御目標値である電圧基準値Vrを用いることができる。すなわち、補正前の電圧基準値Vrに上記補正パラメータ(電圧上昇量の変動比)を乗算することで補正された新たな電圧基準値Vrを算出し、その後は、新たな電圧基準値を制御目標値として電圧検出値Vdのフィードバック制御を行う。
尚、本発明の振動式搬送装置及び励振用駆動回路は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記の振動式搬送装置10としては直線状の搬送路を備えた装置を例示したが、ボウル型パーツフィーダ等のように螺旋状の搬送路を有する装置であっても構わない。また、上記の慣性体6を有するような防振タイプの振動式搬送装置に限らず、直接若しくはバネ材を介して圧電駆動体に接続されてなる搬送体を有する種々の装置に適用することができる。