JP4512936B2 - 有機無機ハイブリッドガラス状物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゾルゲル法により作製されたゲルを出発材料とする新しいガラス状物質に関する。
【0002】
【従来の技術】
600℃以下で軟化する材料としては、高分子材料や低融点ガラスなどが有名であり、古くから封着・封止材料、パッシベーションガラス、釉薬など、多くのところで用いられてきた。高分子材料と低融点ガラスでは、その諸物性が異なるので、その使用できる環境に応じて使い分けられてきた。一般的には、耐熱性や気密性能が優先される場合にはガラスが、耐熱性や気密性能以外の特性が優先される分野では高分子材料に代表される有機材料が使われてきた。しかし、昨今の技術進歩に伴い、これまで要求されなかった特性も着目され、その特性をもった材料の開発が期待されている。
【0003】
このため、耐熱性や気密性能を増能させた高分子材料や、軟化領域を低温化させたガラスいわゆる低融点ガラスの開発が積極的になされている。特に、耐熱性や気密性能が要求される電子材料市場において、PbO-SiO2-B2O3系あるいはPbO-P2O5-SnF2系ガラスなどに代表される低融点ガラスは、電子部品の封着、被覆などの分野で不可欠の材料となっている。また、低融点ガラスは高温溶融ガラスに比べ、その成形加工に要するエネルギーひいてはコストを抑えられるため、省エネルギーに対する昨今の社会的要請とも合致している。さらに、光機能性能の有機物を破壊しない温度で溶融することが可能ならば、光機能性有機物含有(非線形)光学材料のホストとして光スイッチなどの光情報通信デバイスなどへの応用が期待される。このように、一般的な溶融ガラスの特徴である耐熱性や気密性能を有し、かつ高分子材料のように種々の特性を得やすい材料は多くの分野で要望され、特に低融点ガラスにその期待が集まっている。さらに、有機無機ハイブリッドガラスも低融点ガラスの一つとして着目されている。
【0004】
低融点ガラスでは、例えば、Sn−Pb−P−F−O系ガラス(例えば、非特許文献1参照)に代表されるTickガラスが有名であり、100℃前後にガラス転移点を持ち、しかも優れた耐水性を示すので、一部の市場では使われてきている。しかしながら、この低融点ガラスはその主要構成成分に鉛を含むので、昨今の環境保護の流れから代替材料に置き換える必要性がでてきている。さらには、Tickガラスに対する要求特性も大きく変化していると同時に、その要望も多様化している。
【0005】
一般的なガラスの製造方法としては、溶融法と低温合成法が知られている。溶融法はガラス原料を直接加熱することにより溶融してガラス化させる方法で、多くのガラスがこの方法で製造されており、低融点ガラスもこの方法で製造されている。しかし、低融点ガラスの場合、融点を下げるために、鉛やアルカリ、ビスマスなどの含有を必要とするなど、構成できるガラス組成には多くの制限がある。
【0006】
一方、非晶質バルクの低温合成法としては、ゾルゲル法、液相反応法及び無水酸塩基反応法が考えられている。ゾルゲル法は金属アルコキシドなどを加水分解−重縮合し、500℃を超える温度(例えば、非特許文献2参照)、通常は700〜1600℃で熱処理することにより、バルク体を得ることができる。しかし、ゾルゲル法で作製したバルク体を実用材料としてみた場合、原料溶液の調製時に導入するアルコールなど有機物の分解・燃焼、又は有機物の分解ガス若しくは水の加熱過程における蒸発放出などのために多孔質となることが多く、耐熱性や気密性能には問題があった。このように、ゾルゲル法によるバルク製造ではまだ多くの問題が残っており、特に低融点ガラスをゾルゲル法で生産することはなされていない。
【0007】
さらに、液相反応法は収率が低いために生産性が低いという問題の他、反応系にフッ酸などを用いることや薄膜合成が限度とされていることなどから、現実的にバルク体を合成する手法としては不可能に近い状態にある。
【0008】
無水酸塩基反応法は、近年開発された手法であり、低融点ガラスの一つである有機無機ハイブリッドガラスの製作も可能(例えば、非特許文献3参照)であるが、まだ開発途上であり、すべての低融点ガラスが製作できているわけではない。
【0009】
したがって、多くの低融点ガラスの製造は、低温合成法ではなく、溶融法により行われてきた。このため、ガラス原料を溶融する都合上からそのガラス組成は制限され、生産できる低融点ガラスとなると、その種類は極めて限定されていた。
【0010】
なお、現時点では耐熱性や気密性能から、低融点ガラスが材料として有力であり、低融点ガラスに代表される形で要求物性が出されることが多い。しかし、その材料は低融点ガラスにこだわるものではなく、要求物性が合致すれば、ガラス以外の低融点あるいは低軟化点物質で大きな問題はない。
【0011】
公知技術をみれば、ゾルゲル法による石英ガラス繊維の製造方法(例えば、特許文献1参照)が、ゾルゲル法による酸化チタン繊維の製造方法(例えば、特許文献2参照)が、さらにはゾルゲル法による半導体ドープマトリックスの製造方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。また、溶融法によるP2O5−TeO2−ZnF2系低融点ガラスが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】
特開昭62-297236号公報
【特許文献2】
特開昭62-223323号公報
【特許文献3】
特開平1-183438号公報
【特許文献4】
特開平7-126035号公報
【非特許文献1】
P.A.Tick, Physics and Chemistry of Glasses, vol.25 No.6, pp.149-154(1984).
【非特許文献2】
神谷寛一、作花済夫、田代憲子,窯業協会誌,pp.614−618,84(1976).
【非特許文献3】
高橋雅英、新居田治樹、横尾俊信,New Glass, pp.8-13,17(2002).
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
多くの低軟化点材料、特に低融点ガラスの製造は、溶融法により行われてきた。このため、そのガラス組成には多くの制限があり、ガラス原料を溶融する都合上、生産できる低融点ガラスは極めて限られていた。
【0013】
一方、低温合成法のゾルゲル法で製造した場合、緻密化のために500℃以上の処理温度が必要となるが、その温度で処理すると低融点ガラスとはならないので、結果として耐熱性や気密性能の良好な低融点ガラスを得ることはできなかった。特に、電子材料分野では、厳しい耐熱性や気密性能と低融点化に対応する低融点ガラスはなかった。さらに、耐熱性や気密性能を満足するガラス以外の低融点材料もこれまで見出されていない。
【0014】
特開昭62-297236号公報、特開昭62-223323号公報及び特開平1-183438号公報で開示された方法は、高温溶融でのみ対応可能であった材料生産を低温でも可能としたという功績はあるが、低融点ガラスを製造することはできない。また、ゾルゲル処理後には、500℃以上での処理も必要である。一方、特開平7-126035号公報の方法では、転移点が3百数十℃のガラスを作製できることが開示されている。しかし、それ以下の転移点をもつガラスを鉛やビスマスなどを始めとする低融点化材料なしで製作した例はこれまでなかった。
【0015】
すなわち、これまでの低融点ガラスの製造方法では、軟化温度が300℃以下で厳しい耐熱性や気密性能と低融点特性を同時に満たす、非鉛かつシリカを主体としたガラス状物質はなかった。また、ガラス以外の材料でもこのような特性を満たすものはなかった。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、非鉛かつシリカを主体とした有機無機ハイブリッドガラス状物質であって、Li、Na、K、B、P、Zr、Ta、Ge、Snの中の少なくとも1種類が添加され、ゾルゲル法で作製されたゲル体を、加熱して溶融し、さらに熟成することによって製造され、不規則網目構造を有し、軟化温度が300℃以下であることを特徴とする有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
【0017】
また、有機無機ハイブリッドガラス状物質において、有機官能基を持つケイ素ユニットを有することを特徴とする上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
【0018】
この有機無機ハイブリッドガラス状物質は、低融点ガラス材料、光導波路、蛍光体や光触媒などの光機能性材料、湿式太陽電池や電子材料基板などの封止材等に使うことができる。また、光ファイバーなどの機能性繊維や機能性薄膜にも使うことができる。さらに、他の材料と組み合わせることにより、又は単独でも、建築材料、車両材料など、多くの応用が可能である。
【0019】
【発明の実施形態】
本発明は、非鉛かつシリカを主体とした有機無機ハイブリッドガラス状物質であって、軟化温度が300℃以下である有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
【0020】
上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質において、Li、Na、K、B、P、Zr、Ta、Ge、Snの中の少なくとも1種類が添加されていることが重要である。上述の添加物が少なくとも1種類が添加されていることが必要である。その添加物がなければ、非鉛かつシリカを主体とした、不規則網目構造を有し、軟化温度300℃以下の有機無機ハイブリッドガラス状物質とすることは極めて難しい。
【0021】
上記の有機無機ハイブリッドガラス状物質において、有機官能基Rを持つケイ素ユニットを有する有機無機ハイブリッドガラス状物質である。この物質中に有機官能基Rを持つケイ素ユニットを有しない場合、非鉛かつシリカを主体とした、不規則網目構造を有し、軟化温度300℃以下の有機無機ハイブリッドガラス状物質とすることは極めて難しい。
【0022】
有機官能基Rは、アルキル基やアリール基が代表的である。アルキル基としては、直鎖型でも分岐型でもさらには環状型でも良い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−、i−)、ブチル基(n−、i−、t−)、ペンチル基、ヘキシル基(炭素数:1〜20)などが挙げられ、特に好ましいのはメチル基とエチル基である。さらに、アリール基としては、フェニル基、ピリジル基、トリル基、キシリル基などがあり、特に好ましいのはフェニル基である。当然ながら、有機官能基は上述のアルキル基やアリール基に限定されるものではない。
【0023】
出発原料は金属アルコキシド、金属アセチルアセトナート、金属カルボキシレート、硝酸塩、金属水酸化物、又は金属ハロゲン化物であり、先ずゾルゲル法によりゲル体を製作する。この出発原料は、上記以外でも、ゾルゲル法で使われているものであれば問題はなく、上記の出発原料に限定されない。
【0024】
但し、その得られたゲル体を加熱し、溶融状態とすることが必要である。これまでのゾルゲル法では、ゲル体を溶融するという概念はほとんどなく、そのまま焼結工程に入っていた。ゲル体をそのまま焼結した場合、例えば透明状材料を得ることはできるが、融点の低い材料を得ることはできない。
【0025】
また、前記の溶融工程の後に、熟成工程を入れることも必要である。熟成工程を経なければ、所望の有機無機ハイブリッドガラス状物質を得ることはできない。単に溶融しただけでは系内に反応活性な水酸基(−OH)が残留しており、これを冷やし固めたとしても、その残留した水酸基(−OH)が加水分解−脱水縮合を起こして、結果的にクラックが生じたり、破壊したりする。
【0026】
【実施例】
以下、実施例に基づき、述べる。
(実施例1) 出発原料には金属アルコキシドのフェニルトリエトキシシラン(PhSi(OEt)3)とエタノールを用いた。容器中でフェニルトリエトキシシランに水、エタノール、触媒である塩酸にオルトリン酸を加え、室温で2時間撹拌し、ゲル化させた。その後、約100℃で乾燥し、そのゲル体を135℃で1時間溶融し、それに引き続いて200℃で5時間熟成することにより透明状物質を得た。
【0027】
10℃/minで昇温したTMA測定での収縮量変化から軟化挙動開始点を求め、その開始温度を軟化温度としたところ、この物質の軟化温度は270℃であった。この物質を再加熱したが、結晶化現象も認められなかった。また、リガクTG-DTA装置TAS100およびNicolet社赤外吸収装置AVATOR360型により、でケイ素ユニットが存在していることを確認した。不規則網目構造を有していたことも考慮すると、今回得た透明状物質は有機無機ハイブリッドガラス構造をとる物質、すなわち有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
【0028】
このガラス状物質の気密性能をみるため、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質の中に有機色素を入れ、1ヶ月後の染み出し状態を観察した。この結果、染み出しは全く認められず、気密性能を満足していることが分かった。また、100℃の雰囲気下に300時間置いたこの有機無機ハイブリッドガラス状物質の転移点を測定したが、その変化は認められず、耐熱性にも問題がないことが確認された。さらに、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質を1ヶ月間、大気中に放置したが、特に変化は認められず、化学的耐久性に優れていることも確認できた。
【0029】
(実施例2) 出発原料には金属アルコキシドのフェニルトリエトキシシラン(PhSi(OEt)3)とエタノールを用いた。容器中でフェニルトリエトキシシランに水、エタノール、触媒である塩酸に塩化スズと亜リン酸を加え、室温で2時間撹拌し、ゲル化させた。その後、約100℃で乾燥し、そのゲル体を135℃で1時間溶融し、それに引き続いて200℃で5時間熟成することにより透明状物質を得た。
【0030】
この物質の軟化温度は250℃であった。このガラス状物質を再加熱したが、結晶化現象も認められなかった。また、リガクTG-DTA装置TAS100およびNicolet社赤外吸収装置AVATOR360型により、でケイ素ユニットが存在していることを確認した。不規則網目構造を有していたことも考慮すると、今回得た透明状物質は有機無機ハイブリッドガラス構造をとる物質、すなわち有機無機ハイブリッドガラス状物質である。
【0031】
この有機無機ハイブリッドガラス状物質の気密性能をみるため、得られたガラス状物質の中に有機色素を入れ、1ヶ月後の染み出し状態を観察した。この結果、染み出しは全く認められず、気密性能を満足していることが分かった。また、100℃の雰囲気下に300時間置いたこの有機無機ハイブリッドガラス状物質の転移点を測定したが、その変化は認められず、耐熱性にも問題がないことが確認された。さらに、得られた有機無機ハイブリッドガラス状物質を1ヶ月間、大気中に放置したが、特に変化は認められず、化学的耐久性に優れていることも確認できた。
【0032】
(比較例1) 実施例1とほぼ同様の原料を用い、容器中でフェニルトリエトキシシランとエチルトリエトキシシランに水、エタノール、触媒である塩酸を加え、室温で2時間撹拌し、ゲル化させた。その後、約100℃で乾燥し、そのゲル体を600℃で焼成した。
【0033】
この結果、得られた物質は800℃でも軟化せず、低融点物質とは言えなかった。
【0034】
(比較例2) 実施例2とほぼ同様の原料を用い、容器中でフェニルトリエトキシシランとエチルトリエトキシシランに水、エタノール、触媒である塩酸を加え、室温で2時間撹拌し、ゲル化させた。その後、約100℃で乾燥し、それに引き続いて500℃で焼成した。
【0035】
この結果、得られた物質は800℃でも軟化せず、低融点物質とは言えなかった。
【0036】
(比較例3) 実施例2とほぼ同様の原料を用い、容器中でフェニルトリエトキシシランとエチルトリエトキシシランに水、エタノール、触媒である塩酸を加え、室温で2時間撹拌し、ゲル化させた。その後、約100℃で乾燥後、550℃で焼成した。
【0037】
この結果、得られた物質は800℃でも軟化せず、低融点物質とは言えなかった。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、これまで不可能とされてきた軟化温度が300℃以下で厳しい耐熱性や気密性能と低融点特性を同時に満たす、非鉛かつシリカを主体としたガラス状物質を得ることができた。
Claims (2)
- 非鉛かつシリカを主体とした有機無機ハイブリッドガラス状物質であって、Li、Na、K、B、P、Zr、Ta、Ge、Snの中の少なくとも1種類が添加され、ゾルゲル法で作製されたゲル体を、加熱して溶融し、さらに熟成することによって製造され、不規則網目構造を有し、軟化温度が300℃以下であることを特徴とする有機無機ハイブリッドガラス状物質。
- 有機無機ハイブリッドガラス状物質において、有機官能基を持つケイ素ユニットを有することを特徴とする請求項1に記載の有機無機ハイブリッドガラス状物質。
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