JP4481469B2 - 同位体ガス分析測定における炭酸ガス吸収剤の能力判定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
同位体の入った薬物を生体に投与した後、同位体の濃度比の変化を測定することにより、生体の代謝機能が測定できるので、同位体の分析は、医療の分野で病気の診断に利用されている。
本発明は、同位体の光吸収特性の相違に着目して、同位体ガスの濃度比を測定する同位体ガス分析測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、胃潰瘍、胃炎の原因として、ヘリコバクタピロリー(HP)と言われているバクテリアが存在することが知られている。
患者の胃の中にHPが存在すれば、抗生物質の投与による除菌治療を行う必要がある。したがって、患者にHPが存在するか否かを確認することが重要である。HPは、強いウレアーゼ活性を持っていて、尿素を二酸化炭素とアンモニアに分解する。
【0003】
一方、炭素には、質量数が12のものの他、質量数が13や14の同位体が存在するが、これらの同位体の中で質量数が13の同位体13Cは、放射性がなく、安定して存在するため取り扱いが容易である。
そこで、同位体13Cでマーキングした尿素を生体に投与した後、最終代謝産物である患者の呼気中の13CO2の濃度、具体的には13CO2と12CO2との濃度比を測定することができれば、HPの存在を確認することができる。
【0004】
ところが、13CO2と12CO2との濃度比は、自然界では1:100もあり、このため患者の呼気中の濃度比を精度よく測定することは難しい。
従来、13CO2と12CO2との濃度比を求める方法として、赤外分光を用いる方法が知られている(特公昭61-42219号公報、特公昭61-42220号公報参照)。
特公昭61-42220号記載の方法は、長短2本のセルを用意し、一方のセルでの13CO2の吸収と、他方のセルでの12CO2の吸収が等しくなるようなセルの長さにし、各セルに、それぞれの分析に適した波長の光を当てて、透過光の強度を測定する。この方法によれば、自然界の濃度比での光吸収比を1にすることができ、これから濃度比がずれると、ずれた分だけ光吸収比が変化するので、濃度比の変化を知ることができる。
【0005】
前記の方法では、12CO2や13CO2の吸光度を正確に測定するために、測定前に、CO2の濃度がゼロのリファレンスガス、具体的には炭酸ガス吸収剤に通した空気を、セルに満たしてリファレンス吸光測定を行っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記のように炭酸ガス吸収剤を使用すると、炭酸ガス吸収剤が劣化してくるので、その交換時期の判断が難しくなってくる。
測定回数により交換時期を表示するか、炭酸ガス吸収剤が炭酸ガスと反応して着色する場合はその色の変化によって、交換時期を判断することが考えられる。
ところが、測定回数により交換時期を判断すると、炭酸ガス吸収剤のロットの違いにより、誤差が出てくる。
【0007】
色が変わるものは、空気の流れを止めるとまたもとの色に戻り、判断が難しくなる。
そこで、本発明は、炭酸ガス吸収剤の劣化の度合いを数値化することにより、炭酸ガス吸収剤の交換時期を正確に知ることができる炭酸ガス吸収剤の能力判定方法を実現することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の炭酸ガス吸収剤の能力判定方法は、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通った空気を、前記セルに導き、光量を測定する第1の工程と、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通らない空気を、前記セルに導き、光量を測定する第2の工程とを有し、第1の工程で測定した光量と、第2の工程で測定した光量とに基づいて、前記炭酸ガス吸収剤の能力を判定することを特徴とする。
【0009】
前記の構成によれば、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通った空気と、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通らない空気とを、ともに光学的に測定して、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通った空気が、同容器を通らない空気に比べて、どれだけ炭酸ガスが吸収されているのかを判定することができる。
判定方法として、具体的には、第1の工程で測定した光量と、第2の工程で測定した光量との比を、しきい値と比較することにより炭酸ガス吸収剤の能力を判定することが可能である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、同位体13Cでマーキングしたウレア診断薬を人間に投与した後、呼気中の13CO2 の濃度を分光測定する場合の、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
I.呼気テスト
まず、ウレア診断薬を投与する前の患者の呼気を呼気バッグに採集する。その後、ウレア診断薬を経口投与し、約20分後、投与前と同様の方法で呼気バッグに呼気を採集する。
【0011】
投与前と投与後の呼気バッグをそれぞれ同位体ガス分光測定装置の所定のノズルにセットし、以下の自動測定を行う。
II.同位体ガス分光測定装置
図1は、同位体ガス分光測定装置の全体構成を示すブロック図である。
投与後の呼気(以下「サンプルガス」という)を採集した呼気バッグと投与前の呼気(以下「ベースガス」という)を採集した呼気バッグとはそれぞれノズルN1 ,N2 にセットされる。ノズルN1 は、金属パイプ(以下単に「パイプ」という)を通して電磁バルブ(以下単に「バルブ」という)V2 につながり、ノズルN2 は、パイプを通してバルブV3 につながっている。さらに、空気を取り込むパイプにバルブV5がつながっている。
【0012】
一方、リファレンスガス供給部30(後述)から供給されるリファレンスガスは三方に分かれ、一方は補助セル11cに入り、他方はバルブV1 に通じている。さらに他方は、光源装置Lの温度調節のために光源装置Lに供給される。
補助セル11cに入ったりファレンスガスは補助セル11cから出てセル室10内に排出される。
バルブV1の出口は、三方バルブV4につながり、三方バルブV4 から分かれた一方は、サンプルガス又はべースガスを定量的に注入するためのガス注入器21が介在している。このガス注入器21は、ピストンとシリンダーを有する注射器のような形状のもので、ピストンの駆動は、パルスモータと、パルスモータに連結された送りネジと、ピストンに固定されたナットとの共働によって行われる(後述)。
【0013】
三方バルブV4 の他方は、12CO2 の吸収を測定するための第1サンプルセル11aにつながっている。また、バルブV2、バルブV3、バルブV5からつながる各パイプが、バルブV1と三方バルブV4とを連結するパイプに合流している。
セル室11は、図1に示すように、12CO2 の吸収を測定するための短い第1サンプルセル11a、13CO2 の吸収を測定するための長い第2サンプルセル11b及びリファレンスガスを流す補助セル11cからなり、第1サンプルセル11aと第2サンプルセル11bとは連通しており、第1サンプルセル11aに導かれたガスは、そのまま第2サンプルセル11bに入り、バルブV6を通して排気されるようになっている。また、補助セル11cにはリファレンスガスが導かれる。
【0014】
第1サンプルセル11aの容量は約0.6ml、第2サンプルセル11bの容量は約12mlである。
第1サンプルセル11aの長さは具体的には13mmであり、第2サンプルセル11bの長さは具体的には250mmであり、補助セル11cの長さは具体的には236mmである。セル室11の端面には、赤外線を透過させるサファイヤ透過窓が設けられている。セル室11は、発泡スチロール等の断熱材(図示せず)で包囲されている
符号Lは、赤外線光源装置を示す。赤外線光源装置Lは赤外線を照射するための2つの導波管23a,23bを備えている。赤外線発生の方式は、任意のものでよく、例えばセラミックスヒータ(表面温度450℃)等が使用可能である。また、赤外線を一定周期でしゃ断し通過させる回転するチョッパ22が取り付けられている。
【0015】
赤外線光源装置Lから照射された赤外線のうち、第1サンプルセル11a及び補助セル11cを通るものが形成する光路を「第1の光路L1」といい、第2サンプルセル11bを通るものが形成する光路を「第2の光路L2」という(図1参照)。
符号Dは、セルを通過した赤外線を検出する赤外線検出装置を示している。
赤外線検出装置Dは、第1の光路に置かれた第1の波長フィルタ24aと第1の検出素子25a、第2の光路に置かれた第2の波長フィルタ24bと第2の検出素子25bを備えている。
【0016】
第1の波長フィルタ24aは、12CO2 の吸収を測定するため約4280nmの波長の赤外線を通し、第2の波長フィルタ24bは、13CO2 の吸収を測定するため約4412nmの波長の赤外線を通すように設計されている。第1の検出素子25a、第2の検出素子25bは赤外線を検出する素子である。
赤外線検出装置Dの全体はヒータ及びペルチェ素子により一定温度に保たれ、パッケージ26a,26bの中はペルチェ素子27により低温に保たれている。
【0017】
また、同位体ガス分光測定装置内部の空気を換気するファン28,29が設けられている。
同位体ガス分光測定装置の本体に付属して、CO2を除いた空気を供給するリファレンスガス供給部30が設けられている。リファレンスガス供給部30は、防塵フィルタ31,コンプレッサ32,水分除去部33,ドライフィルタ34,流量計35,炭酸ガス吸収部36を直列につないだ構成となっている。
【0018】
炭酸ガス吸収部36は、例えばソーダライム(水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムとを混合したもの)を炭酸ガス吸収剤として用いている。
図2は、被測定ガスを定量的に注入するためのガス注入器21を示す平面図(同図(a) )と正面図(同図(b) )である。
ガス注入器21は、基台21aの上に、ピストン21cの入ったシリンダー21bが配置され、基台21aの下に、ピストン21cと連結した移動自在なナット21d、ナット21dと噛み合う送りネジ21e、及び送りネジ21eを回転させるパルスモータ21fが配置された構造である。
【0019】
前記パルスモータ21fは、図示しない駆動回路によって、正転、逆転駆動される。パルスモータ21fの回転によって送りネジ21eが回転すると、回転方向に応じてナット21dが前後移動し、これによって、ピストン21cが任意の位置に前後移動する。したがって、シリンダー21bへの被測定ガスの導入と、シリンダー21bからの被測定ガスの導出を自在に制御することができる。
III .炭酸ガス吸収剤の能力判定
図3から図6において、ハッチングを施した部分は、気体の流れていることを意味する。
【0020】
測定の間、補助セル11cにはリファレンスガスが常時流れていて、その流速は流量計35 により常に一定に保たれるよう設定される。
III −1.空気の光量測定
図3に示すように、バルブV1を閉じ、バルブV5を開き、バルブV4を二方だけ開き、シリンダー21b内に空気を吸い込む。
ついで、図4に示すように、バルブV4を切り換えて、同位体ガス分光測定装置のガス流路及びセル室11に、シリンダー21b内の空気を一定流量で注出し、検出素子25aにより、光量測定をする。
【0021】
このようにして、第1の検出素子25aで得られた光量を12Aと書く。
III −2.リファレンスガス測定
次に、図5に示すように、バルブV1を開き、バルブV4を二方だけ開いて、リファレンスガスをガス注入器21で吸い込む。
ベースガスを吸い込んだ後、図6に示すように、バルブV4を切り換えてガス注入器21を用いてべースガスを機械的に一定流量で押し出し、第1サンプルセル11a、第2サンプルセル11bをリファレンスガスで満たす。
【0022】
この状態で、検出素子25aにより、光量測定をする。
このようにして、第1の検出素子25aで得られた光量を12Rと書く。
III−3.データ処理
強度比の算出
まず、前記空気の透過光量12A 、リファレンスガスの透過光量12Rを使って、12CO2 の強度比12Ratioを求める。
【0023】
ここで12Ratioは、
12Ratio =12A/12 R
で求められる。この強度比12Ratioが1に近いほど、炭酸ガス吸収剤の能力は低下していることを示す。具体的には、次の表1のような関係がある。
【0024】
【表1】
【0025】
求められた強度比12Ratioと、この表1とに基づいて、炭酸ガス吸収剤の吸収能力を判定することができる。
しきい値(例えば0.990)を設定して、12Ratioがそれを下回ると、同位体ガス分析測定装置に設けた液晶表示器(図示せず)を表示させることで、炭酸ガス吸収剤の劣化をユーザに伝えることができる。また、炭酸ガス吸収剤を交換するまで、同位体ガス分光測定が出来ないようにしている。
【0026】
【実施例】
炭酸ガス吸収剤に、ソーダライム(水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムとを混合したもの)を使用した。反応過程を以下に示す。
CO2+H2O+2NaOH→Na2CO3+2H2O
Na2CO3+Ca(OH)2→CaCO3+2NaOH
1日複数回測定を行い、炭酸ガス吸収剤の使用時間と、強度比12Ratioとの関係をプロットしたところ、図7のようなグラフが得られた。このグラフから、300時間あたりを越えると、12Ratioが急激に上昇することが分かる。
【0027】
前記測定と並行して、同じ炭酸ガス吸収剤を用いてリファレンスガスを作り、12CO2 の濃度1%の被測定ガスをサンプルガスとして、13Cの変化分Δ13Cを算出した。ここで、「被測定ガス」には、人の呼気であるサンプルガスやベースガスを使わず、12CO2 の濃度が1%の空気を1つの大きな呼気バッグに入れて用いた。呼気バッグには出口が2本付いていてそれぞれをノズルN1 ,N2につないだ。
【0028】
具体的には、12CO2 の吸光度12Absを、
12Abs =−log 〔12S/12R〕
で求め、13CO2 の吸光度13Absを、
13Abs =−log 〔13S/13R〕
で求める。Sはサンプルガスの透過光量、Rはリファレンスガスの透過光量である。検量線を使って、12CO2 の濃度12Concと13CO2 の濃度13Concとを求め、それらの濃度比13Conc /12Concを求める。
【0029】
以上の手順を、同じ被測定ガスを対象として、再度行う。Δ13Cは、
Δ13C=〔2回目の濃度比−1回目の濃度比〕×103 /〔1回目の濃度比〕(単位:パーミル(千分率))
で求める。
以上のΔ13Cの算出を10回続けて行う。
同じ被測定ガスなので、Δ13C=0となるはずであるが、測定誤差があるので、0を中心にしてばらついたデータとなる。その標準偏差SDをグラフにしたのが、図8である。
【0030】
図8によれば、測定データのばらつきを示す標準偏差SDが、0.30を越えて急に大きくなるのは、300時間使用したあたりからである。
この300時間を、図7に当てはめると、12Ratio=0.99という基準値が出てくるので、これを炭酸ガス吸収剤交換のしきい値として採用した。この0.99という値は、一例であり、装置の仕様により異なるのはもちろんである。
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、炭酸ガス吸収剤の吸収能力を光学的に判定することとしたので、判定に個人差が出ない。また、炭酸ガス吸収剤を能力いっぱいまで使用できる、信頼性の高い同位体ガスの分光測定が行える、炭酸ガス吸収剤のロットの違いがあっても支障ない、といった各効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】同位体ガス分光測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】被測定ガスを定量的に注入するためのガス注入器21を示す平面図(同図(a) )と正面図(同図(b) )である。
【図3】同位体ガス分光測定装置のガス流路を示す図である。
【図4】同位体ガス分光測定装置のガス流路を示す図である。
【図5】同位体ガス分光測定装置のガス流路を示す図である。
【図6】同位体ガス分光測定装置のガス流路を示す図である。
【図7】炭酸ガス吸収剤の使用時間と、強度比12Ratioとの関係をプロットした結果得られたグラフである。
【図8】炭酸ガス吸収剤の使用時間と、13Cの変化分Δ13Cを複数回算出したデータの標準偏差SDとの関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
D 赤外線検出装置
L 赤外線光源装置
N1 ,N2 ノズル
V1 〜V6 バルブ
11a 第1サンプルセル
11b 第2サンプルセル
11c 補助セル
21 ガス注入器
21a シリンダー
21b ピストン
24a 第1の波長フィルタ
25a 第1の検出素子
24b 第2の波長フィルタ
25b 第2の検出素子
Claims (3)
- 二酸化炭素13CO2と二酸化炭素12CO2 とを成分ガスとして含む被測定ガスをセルに導き、各成分ガスに適した波長の透過光の強度を測定する工程と、炭酸ガス吸収剤の入った容器を通った空気を、リファレンスガスとしてセルに導き、各成分ガスに適した波長の透過光の強度を測定する工程とを含み、測定結果をデータ処理することによって、各成分ガスの濃度を測定する同位体ガス分析測定方法において、
炭酸ガス吸収剤の入った容器を通った空気を、前記セルに導き、光量を測定する第1の工程と、
炭酸ガス吸収剤の入った容器を通らない空気を、前記セルに導き、光量を測定する第2の工程とを有し、
第1の工程で測定した光量と、第2の工程で測定した光量とに基づいて、前記炭酸ガス吸収剤の能力を判定することを特徴とする炭酸ガス吸収剤の能力判定方法。 - 第1の工程で測定した光量と、第2の工程で測定した光量との比を、しきい値と比較することにより炭酸ガス吸収剤の能力を判定することを特徴とする請求項1記載の炭酸ガス吸収剤の能力判定方法。
- 前記光量は、二酸化炭素12CO2の測定に適した波長で測定された光量である
ことを特徴とする請求項1記載の炭酸ガス吸収剤の能力判定方法。
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