JP4473489B2 - 一方向性珪素鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フォルステライト(Mg2SiO4)等で構成される無機鉱物質皮膜の生成を阻害する条件で製造するか、あるいは、研削や酸洗等の手段によって無機鉱物質皮膜を除去するか、もしくは、鏡面光沢を呈するまで表面を平坦化させて調製を行った仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板の表面に、張力付与性絶縁皮膜を形成させた一方向性珪素鋼板と、その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性珪素鋼板は磁気鉄芯材料として多用されているが、近年、特に、エネルギ−ロスを少なくするため、鉄損の少ない材料が求められている。鉄損の低減には鋼板に張力を付与することが有効であることから、鋼板に比べ熱膨張係数の小さい材質からなる皮膜を高温で形成することによって鋼板に張力を付与し、鉄損低減が図られてきた。仕上げ焼鈍工程で鋼板表面の酸化物と焼鈍分離剤とが反応して生成するフォルステライト系皮膜は、鋼板に張力を与えることができ、皮膜密着性も優れている。
【0003】
一方、特開昭48−39338号公報で開示されたコロイド状シリカとリン酸塩を主体とするコーティング液を鋼板表面に塗布し、焼き付けることによって絶縁皮膜を形成する方法は、鋼板に対する張力付与の効果が大きく、鉄損低減に有効である。
【0004】
そこで、仕上げ焼鈍工程で生じたフォルステライト系皮膜を残した上で、リン酸塩を主体とする絶縁皮膜を形成することが、一般的な一方向性珪素鋼板の製造方法となっている。
【0005】
近年、フォルステライト系皮膜と地鉄の乱れた界面構造が、皮膜張力による鉄損改善効果をある程度減少させていることが明らかになってきた。そこで、例えば、特開昭49−96920号公報に開示されている如く、仕上げ焼鈍工程で生ずるフォルステライト系皮膜を除去したり、更に鏡面化仕上げを行った後、改めて張力皮膜を形成させることにより、更なる鉄損低減を試みる技術が開発された。
【0006】
しかしながら、上記絶縁皮膜は、フォルステライトを主体とする皮膜の上に形成した場合はかなりの密着性を呈するものの、フォルステライト系皮膜を除去したり、あるいは、仕上げ焼鈍工程で意図的にフォルステライト形成を行わなかったものに対しては、皮膜密着性が十分ではない。
【0007】
フォルステライト系皮膜の除去を行った場合は、コーティング液を塗布して形成させる張力付与型絶縁皮膜のみで所要の皮膜張力を確保する必要があり、必然的に厚膜化しなければならず、より一層の密着性が必要である。
【0008】
したがって、従来の皮膜形成法では、鏡面化の効果を十分に引き出すほどの皮膜張力を達成し、かつ、皮膜密着性をも確保することは困難であり、十分な鉄損低減が図られていなかった。
【0009】
そこで、張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保するための技術として、張力付与性絶縁皮膜の形成に先立ち、仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に酸化膜を形成させる方法が、例えば、特開昭60−131976号公報、特開平6−184762号公報、特開平7−278833号公報、特開平8−191010号公報、特開平9−078252号公報において開示された。
【0010】
特開昭60−131976号公報開示のものは、鏡面化した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板を鏡面化した後、鋼板表面付近を内部酸化させる方法で、この内部酸化層によって張力皮膜の密着性を向上させ、内部酸化、即ち、鏡面度減退で生じる鉄損劣化を、皮膜密着性向上によってもたらされる付与張力の増大で補おうとする方法である。
【0011】
特開平6−184762号公報開示のものは、鏡面化ないしはそれに近い状態に調製した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板に対し、温度ごとに特定の雰囲気で焼鈍を施すことにより、鋼板表面に外部酸化型の酸化膜を形成し、この酸化膜でもって、張力付与性絶縁皮膜の皮膜と鋼板との皮膜密着性を確保する方法である。
【0012】
特開平7−278833号公報開示のものは、張力付与性の絶縁皮膜が結晶質である場合において、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に、非晶質の酸化物の下地皮膜を形成させることで、結晶質の張力付与性絶縁皮膜が形成される際に起こる鋼板酸化、即ち、鏡面度減退を防止する技術である。
【0013】
特開平8−191010号公報開示のものは、非金属物質を除去した仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に結晶性のファイヤライトを形成させることで、ファイヤライト結晶による張力付与効果と張力付与性の絶縁皮膜との密着性向上効果により鉄損低減を図る方法である。
【0014】
特開平9−078252号公報開示のものは、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板の表面に形成させる下地シリカ層の量を100mg/m2以下にすることで張力皮膜の密着性確保だけでなく、良好な鉄損値をも実現しようとする方法である。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述の技術を適用し、無機鉱物質のない一方向性珪素鋼板の表面に酸化膜を形成させることで、皮膜密着性改善や鉄損値低減の効果はそれなり認められる。しかしながら、張力付与性絶縁皮膜の皮膜密着性が必ずしも完全ではなかった。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の問題点を解決し、無機鉱物質皮膜のない仕上げ焼鈍済みの一方向性珪素鋼板に対し、十分な皮膜密着性を得ることができるよう張力付与型の絶縁性皮膜を形成させる方法である。
【0017】
本発明の要旨は、次のとおりである。
【0018】
(1)フォルステライト皮膜を酸洗により除去するか、又は、該フォルステライト皮膜の生成を阻害する条件で製造してなる仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板の表面に、張力付与性絶縁皮膜を形成してなる一方向性珪素鋼板であって、該張力付与性絶縁皮膜と一方向性珪素鋼板との界面に、膜厚が2nm以上500nm以下のシリカからなる外部酸化型酸化膜を有し、かつ、該外部酸化型酸化膜中に、断面面積率で5%以上30%以下の金属鉄を含有してなることを特徴とする一方向性珪素鋼板。
【0019】
(2)前記張力付与性絶縁皮膜が、リン酸塩とコロイド状シリカからなる溶液を鋼板表面に塗布・焼き付けてなる皮膜であることを特徴とする(1)記載の一方向性珪素鋼板。
【0020】
(3)フォルステライト皮膜を酸洗により除去するか、又は、該フォルステライト皮膜の生成を阻害する条件で製造してなる仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板を、1150℃以下600℃以上の温度範囲で、雰囲気露点を−20℃以上0℃以下とする条件、及び、冷却雰囲気露点を5℃以上60℃以下とする条件で焼鈍して、該鋼板の表面に、断面面積率で5%以上30%以下の金属鉄を含有してなるシリカからなる外部酸化型酸化膜を、膜厚2nm以上500nm以下に形成し、次いで、該外部酸化型酸化膜を付与した一方向性珪素鋼板の表面に、リン酸塩とコロイド状シリカからなる溶液を塗布・焼き付けて張力付与性絶縁被膜を形成することを特徴とする一方向性珪素鋼板の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、発明の詳細について説明する。
【0022】
発明者らは、皮膜密着性が必ずしも完全ではない原因として、外部酸化型酸化膜を形成させる条件、特に、冷却雰囲気に問題があり、冷却雰囲気によって外部酸化型酸化膜の構造に差異が生じ、そのため、張力付与性の絶縁皮膜の密着性が変動するのではないかと推測した。
【0023】
そこで、次に述べるような実験を行ない、皮膜密着性に対する冷却雰囲気と外部酸化型酸化膜構造との関係を調べた。
【0024】
実験用素材として、板厚0.225mmの脱炭焼鈍板に対し、アルミナを主体とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を行ない、二次再結晶化させ、鏡面光沢を有する一方向性珪素鋼板を準備した。
【0025】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点0℃の雰囲気において、均熱時間10秒で、かつ、種々の温度と冷却雰囲気の条件で熱処理を施し、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた。
【0026】
冷却雰囲気は、窒素100%で露点を変えて行なった。次いで、張力付与性の絶縁皮膜を形成するため、リン酸塩、クロム酸、コロイダルシリカを主体とする塗布液を塗布し、窒素雰囲気中で、835℃で30秒間焼き付けた。このようにして作製した鋼板の皮膜密着性を調べた。
【0027】
皮膜密着性は、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時、鋼板から剥離せず、鋼板と皮膜が密着したままであった部分の面積率(以後、皮膜残存面積率と称する)で評価した。
【0028】
密着性が不良で皮膜が完全に剥離した場合は0%、皮膜密着性が良好で皮膜が全く剥離しなかった場合を100%と判定した。評価は、皮膜残存面積率が90%以下の場合を×、90%超95%以下の場合を○、95%超100%以下の場合を◎とした。
【0029】
また、外部酸化型酸化膜を含む張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面構造を調べるため、集束イオンビ−ム法(以下、FIB法と称する)によって試料を作製し、透過型電子顕微鏡(以下、TEMと称する)で断面構造を観察した。
【0030】
断面観察の結果、シリカ主体の外部酸化型酸化膜の中に金属状態にある鉄が部分的に観察された。この金属状鉄がシリカ主体の外部酸化型酸化膜に占める断面面積率を、TEM写真から算出した。
【0031】
このようにして調べた結果(熱処理条件と皮膜密着性の関係)を表1と表2(表1の続き)に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1と表2(表1の続き)から、張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保できる条件を求めると、次のようになる。
【0035】
まず、金属鉄の断面面積率に関わらず、外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm未満の試料番号1から試料番号5の熱処理温度500℃の条件では、皮膜密着性が確保できない。
【0036】
一方、外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm以上の試料番号6から試料番号40の、熱処理温度が600℃から1150℃の条件においては、概ね、皮膜密着性が確保できるようになる。特に、試料番号26から試料番号40の、外部酸化型酸化膜の膜厚が40nm以上となる熱処理温度が1000℃以上の条件では、皮膜密着性が格段に良好である。
【0037】
但し、上記条件において、冷却雰囲気の露点が60℃以下で、かつ、外部酸化型酸化膜中の金属鉄の断面面積率が30%以下の条件では、皮膜密着性が良好であるが、冷却雰囲気露点が65℃以上で、かつ、金属鉄の断面面積率が30%よりも大きい条件では、外部酸化型酸化膜の膜厚が厚くとも、皮膜密着性が必ずしも完全とは言えず、皮膜残存面積率で90%となった。
【0038】
表1と表2から、張力付与性絶縁皮膜の皮膜密着性確保するためには、外部酸化型酸化膜の膜厚が2nm以上で、かつ、外部酸化型酸化膜に占める金属状の鉄が断面面積率にして30%以下であることが必須であり、こうした外部酸化型酸化膜を形成させるためには、外部酸化型酸化膜を形成するための熱処理工程のうち、熱処理温度を600℃以上、特に好ましくは、1000℃以上で行ない、かつ、その時の冷却雰囲気の雰囲気露点を、60℃以下にする必要があることがわかる。
【0039】
このように、皮膜密着性について、外部酸化型酸化膜の膜厚と金属鉄が占める断面面積率が大きく影響していることについて、発明者らはその機構を次のように考えている。
【0040】
まず、外部酸化型酸化膜の膜厚依存性について述べる。
【0041】
鋼板と張力付与性絶縁皮膜との密着性は、両者の界面に形成させた外部酸化型酸化膜によって決まる。
【0042】
一般に、外部酸化型酸化膜は、金属原子が鋼中から表面に拡散し、表面で酸化性ガスと反応することで成長すると言われている。そのため、酸化膜の成長速度は金属原子の拡散速度によって決まる。そして、原子の拡散は熱エネルギ−によって高められる。したがって、温度が高いほど原子の拡散が促進され、外部酸化型酸化膜はより成長する。
【0043】
こうした機構のため、熱処理温度が500℃と低い条件では、外部酸化型の酸化膜の成長が十分ではなく、そのため、皮膜密着性が十分ではなく、一方、熱処理温度が600℃以上では、十分に外部酸化型酸化膜が成長するので皮膜密着性は良好で、さらに、1000℃以上では、さらに酸化膜が成長し易くなるので、皮膜密着性が極めて良好となるものと考えられる。
【0044】
こうした推測が妥当であることが、透過型電子顕微鏡を使った外部酸化型酸化膜の膜厚測定の結果からわかる。即ち、膜厚が1nmで、外部酸化型酸化膜の成長が十分でない熱処理温度500℃の条件では、張力付与型絶縁皮膜の密着性が不良であるのに対し、膜厚2nm以上で、外部酸化型酸化膜が成長した熱処理温度600℃以上の条件では、皮膜密着性は良好である。
【0045】
次に、張力付与性絶縁皮膜の密着性と外部酸化型酸化膜に存在する金属状鉄の関係について述べる。
【0046】
外部酸化型酸化膜中に金属鉄が形成される機構についての詳細は、未だ不明であるが、発明者らは、一旦シリカ主体の外部酸化型酸化膜が形成された後、冷却雰囲気の酸化性が高い、即ち、露点が高い条件において何らかの反応が起き、外部酸化膜中に金属鉄が生成し、一方、冷却雰囲気の酸化性が低い、即ち、雰囲気露点が低い場合、外部酸化型酸化膜中への金属鉄取り込み反応は起きないのではないかと推測している。
【0047】
次に、張力付与性絶縁皮膜の鋼板密着性とシリカを主体とする外部酸化型酸化膜の構造との関係について述べる。
【0048】
張力付与性絶縁皮膜による鋼板への張力付与は、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との熱膨張係数の差によってもたらされる。この時、張力付与性絶縁皮膜と鋼板との界面には多大な応力が発生する。この応力に耐え、鋼板と張力付与性絶縁皮膜の密着性を確保するのが、外部酸化型酸化膜である。
【0049】
発明者らは、こうした応力耐性に関し、一種の欠陥部分である金属状の外部酸化型酸化膜中比率が影響しているのではないかと推測している。つまり、金属鉄が少なく、断面面積率にして30%以下の場合、応力に耐え得るが、金属鉄が多く、断面面積率にして30%よりも多い場合、外部酸化型酸化膜が、張力付与性絶縁皮膜によって押しかかる応力に耐えることができず、外部酸化型酸化膜が破壊されてしまうのではないかと考えている。
【0050】
前記外部酸化型酸化膜中の金属鉄の含有率の下限値は、後述する実施例4の結果(表6、参照)に基づいて、5%とする。即ち、金属鉄の断面面積率が5%以上30%以下であれば、応力に耐えうる。
【0051】
冷却雰囲気については酸化性を低くするという観点から水素導入を行ってもよい。
【0052】
【実施例】
(実施例1)
板厚0.23mm、Si濃度3.30%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にマグネシアを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した後、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行なった。こうして調製した二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板の表面には、フォルステライトを主体とする皮膜が生成している。
【0053】
次いで、ふっ化アンモニムと硫酸の混合溶液中で酸洗し、表面皮膜を溶解除去した後、ふっ酸と過酸化水素水の混合溶液中で化学研磨し、鋼板表面に無機鉱物質がなく、かつ、鏡面光沢をもつ鋼板を得た。この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点0℃の雰囲気中、温度1050℃で熱処理を行なうことで、外部酸化型酸化膜を形成させた。この時、冷却雰囲気を、窒素100%、露点15℃(実施例1)と65℃(比較例1)の2条件で形成した。
【0054】
こうして調製した鋼板に対し、10%濃度のコロイダルアルミナ水分散液100ml、不定形アルミナ粉末10g、ホウ酸5g、水200mlからなる混合液を塗布し、900℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0055】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3から、冷却雰囲気露点65℃、金属鉄断面面積率40%で、皮膜残存面積率90%である比較例1に比べ、冷却雰囲気露点15℃、金属鉄断面面積率20%で、皮膜残存面積率100%である実施例1の方が、皮膜密着性が良好で優れていることがわかる。
【0058】
(実施例2)
板厚0.225mm、Si濃度3.25%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にアルミナを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した。次いで、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行ない、表面に無機鉱物質がほとんどなく、鏡面光沢を有する二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板を得た。
【0059】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点−10℃の雰囲気中、温度800℃で熱処理を行なうことで、外部酸化型酸化膜を形成させた。この時、冷却雰囲気を、窒素90%、水素10%で、露点35℃(実施例2)と70℃(比較例2)の2条件で形成した。
【0060】
こうして調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸アルミニウム水溶液50ml、濃度20%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0061】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から、冷却雰囲気露点70℃、金属鉄の断面面積率35%で、皮膜残存面積率90%である比較例2に比べ、冷却雰囲気露点35℃、金属鉄の断面面積率15%で皮膜残存面積率100%である実施例2の方が、皮膜密着性が良好で優れていることがわかる。
【0064】
(実施例3)
板厚0.225mm、Si濃度3.30%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施した後、表面酸化層を弗化アンモニムと硫酸の混合溶液中で酸洗し溶解除去した。次いで、アルミナ粉末を静電塗布法で塗布し、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行なった。
【0065】
こうして調製した二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板の表面には無機鉱物質がなく、かつ、鏡面光沢を有する。
【0066】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点−15℃の雰囲気中、温度900℃で熱処理を行なうことで、外部酸化型酸化膜を形成させた。この時、冷却雰囲気を、窒素50%、水素50%で、露点50℃(実施例3)と65℃(比較例3)の2条件で形成した。
【0067】
こうして調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸マグネシム/アルミニウム水溶液50ml、濃度30%のコロイダルシリカ水分散液66ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0068】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の皮膜残存面積率で皮膜密着性を評価した。結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
表5から、冷却雰囲気露点65℃、金属鉄の断面面積率35%で皮膜残存面積率90%である比較例3に比べ、冷却雰囲気露点50℃、金属鉄の断面面積率25%で皮膜残存面積率100%である実施例3の方が、皮膜密着性が良好で優れていることがわかる。
【0071】
(実施例4)
板厚0.225mm、Si濃度3.35%の一方向性珪素鋼板製造用の冷延板に脱炭焼鈍を施し、表面にマグネシアと塩化ビスマスを主体とする焼鈍分離剤の水スラリ−を塗布し、乾燥した。次いで、乾燥水素雰囲気中、1200℃、20時間の仕上げ焼鈍を行ない、表面に無機鉱物質のほとんどない二次再結晶の完了した一方向性珪素鋼板を得た。
【0072】
この鋼板に対し、窒素25%、水素75%、露点−20℃の雰囲気中、温度1150℃で熱処理を行なうことで、シリカを主体とする外部酸化型酸化膜を形成させた。この時、冷却雰囲気を、窒素100%で、露点5℃(実施例4)と65℃(比較例4)の2条件で形成した。
【0073】
こうして調製した鋼板に対し、濃度50%のリン酸マグネシム水溶液50ml、濃度20%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、850℃で30秒間焼き付け、張力付与性の絶縁皮膜を形成させた。
【0074】
こうして調製した絶縁皮膜付き一方向性珪素鋼板について、直径20mmの円筒に試料を巻き付けた時の皮膜残存面積率で絶縁皮膜の密着性を評価した。結果を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
表6から、冷却雰囲気露点65℃、金属鉄の断面面積率45%で皮膜残存面積率90%である比較例4に比べ、冷却雰囲気露点5℃、金属鉄の断面面積率5%で皮膜残存面積率100%である実施例4の方が、皮膜密着性が良好で優れていることがわかる。
【0077】
【発明の効果】
本発明により皮膜密着性の良好な一方向性珪素鋼板を得ることができる。
Claims (3)
- フォルステライト皮膜を酸洗により除去するか、又は、該フォルステライト皮膜の生成を阻害する条件で製造してなる仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板の表面に、張力付与性絶縁皮膜を形成してなる一方向性珪素鋼板であって、該張力付与性絶縁皮膜と一方向性珪素鋼板との界面に、膜厚が2nm以上500nm以下のシリカからなる外部酸化型酸化膜を有し、かつ、該外部酸化型酸化膜中に、断面面積率で5%以上30%以下の金属鉄を含有してなることを特徴とする一方向性珪素鋼板。
- 前記張力付与性絶縁皮膜が、リン酸塩とコロイド状シリカからなる溶液を鋼板表面に塗布・焼き付けてなる皮膜であることを特徴とする請求項1記載の一方向性珪素鋼板。
- フォルステライト皮膜を酸洗により除去するか、又は、該フォルステライト皮膜の生成を阻害する条件で製造してなる仕上げ焼鈍済み一方向性珪素鋼板を、1150℃以下600℃以上の温度範囲で、雰囲気露点を−20℃以上0℃以下とする条件、及び、冷却雰囲気露点を5℃以上60℃以下とする条件で焼鈍して、該鋼板の表面に、断面面積率で5%以上30%以下の金属鉄を含有してなるシリカからなる外部酸化型酸化膜を、膜厚2nm以上500nm以下に形成し、次いで、該外部酸化型酸化膜を付与した一方向性珪素鋼板の表面に、リン酸塩とコロイド状シリカからなる溶液を塗布・焼き付けて張力付与性絶縁被膜を形成することを特徴とする一方向性珪素鋼板の製造方法。
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