つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図4に示す。図4に示す車両Veにおいては、動力源1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、無段変速機6などが設けられている。動力源1としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができ、好ましくは電子スロットルバルブ7を備えた内燃機関などの出力を電気的に制御できる機構を備えた内燃機関が使用される。電動機としては、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、動力源1として、電子スロットルバルブ7を備えたガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関が用いられている場合について説明する。
この動力源1は、シリンダ(図示せず)およびピストン(図示せず)により形成された燃焼室(図示せず)を有しており、燃料を燃焼させることにより生じた熱エネルギを運動エネルギに変換して出力する原動機である。このために、動力源1は、燃料噴射量制御装置25と、点火時期制御装置26と、吸気バルブおよび排気バルブの開閉タイミングおよび開閉量を制御するバルブ制御装置27とを有している。さらに、動力源1の燃焼室に連通する吸気管28および排気管29が設けられている。この吸気管28に前記電子スロットルバルブ7が設けられており、電子スロットルバルブ7により吸入空気量が制御される。
また、吸気管28を経由してシリンダ内に圧縮空気を供給するための過給器30が設けられている。この過給器30としては、機械駆動方式の過給器または排気タービン方式の過給器のいずれを用いてもよい。機械駆動方式の過給器とは、動力源1のクランクシャフト1Aの動力により駆動されて、圧縮空気を供給する構造のものである。また、排気タービン方式の過給器とは、排気管29の排気ガスの運動エネルギにより駆動されて、圧縮空気を供給する構造のものである。この実施例では、過給器30として、排気タービン方式が用いられている場合を説明する。
この排気タービン方式の過給器30は、排気管29に設けられたタービン31と、このタービン31と一体回転するように連結され、かつ、吸気管28に設けられたコンプレッサ32とを有している。このコンプレッサ32は、吸気管28内であって、電子スロットルバルブ7よりも上流に配置されている。また、過給器30によりシリンダに供給される圧縮空気の圧力、つまり、過給圧を制御する過給圧制御装置33が設けられている。過給圧制御装置33としては、例えば、ウェイストゲートバルブを用いることが可能である。このウェイストゲートバルブは、燃焼室から排気管29に排出される排気ガスの一部を、タービン31をバイパスさせて排気管29の外部に排出させる装置である。そして、ウェイストゲートバルブの開度を調整することにより、排気ガスの流動によってタービン31に与えられる運動エネルギを制御して、過給圧を制御することが可能となっている。
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、動力源1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、具体的には流体式トルクコンバータであり、ロックアップクラッチ4は、摩擦力により動力を伝達する装置であって、トルクコンバータのポンプインペラなどの入力側の部材とタービンランナなどの出力側の部材とを直接連結するように構成されている。前後進切り換え機構5は、入力されたトルクを選択的に反転して出力する装置であって、例えば遊星歯車機構を主体として構成されている。
無段変速機6は、要は、変速比を連続的に変化させることのできる機構であって、ベルト式あるいはトロイダル型の無段変速機を使用することができる。図4にはベルト式のものが示されており、この無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。無段変速機6についてより具体的に説明すると、相互に平行に配置されたプライマリシャフト8およびセカンダリシャフト9が設けられている。このプライマリシャフト8にはプライマリプーリ10が設けられており、セカンダリシャフト9にはセカンダリプーリ11が設けられている。プライマリプーリ10は、プライマリシャフト8に固定された固定シーブ12と、プライマリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ13とを有している。そして、固定シーブ12と可動シーブ13との間にV字形状の溝M1が形成されている。
また、この可動シーブ13をプライマリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ13と固定シーブ12とを接近・離隔させる油圧サーボ機構14が設けられている。この油圧サーボ機構14は、油圧室15と、油圧室15のオイル量または油圧に応じてプライマリシャフト8の軸線方向に動作しかつ可動シーブ13に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ11は、セカンダリシャフト9に固定された固定シーブ16と、セカンダリシャフト9の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ17とを有している。そして、固定シーブ16と可動シーブ17との間にはV字形状の溝M2が形成されている。そして、これらの溝M1,M2に挟持された状態でベルト18が各プーリ10,11に巻き掛けられている。
また、この可動シーブ17をセカンダリシャフト9の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ17と固定シーブ16とを接近・離隔させる油圧サーボ機構19が設けられている。この油圧サーボ機構19は、油圧室20と、油圧室20の油圧またはオイル量に応じてセカンダリシャフト9の軸線方向に動作しかつ可動シーブ17に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、無段変速機6の油圧サーボ機構14,19およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する機能を有する油圧制御装置21が設けられている。さらに、動力源1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、無段変速機6、油圧制御装置21を制御するコントローラとしての電子制御装置22が設けられており、この電子制御装置22は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。前記油圧制御装置21は、ソレノイドバルブおよび油圧回路を有しているとともに、ソレノイドバルブのデューティ値を制御することにより、油圧室15,20に供給されるオイル量、および油圧室15,20から排出されるオイル量が制御される構成となっている。
図4に示す無段変速機6の変速比を車両Veの走行状態、すなわちアクセル開度や車速などに基づいて制御する自動変速制御と、手動操作に基づいて変速を実行する手動変速(マニュアルシフト)制御とを実行できるように構成されている。シフト装置23は、その自動変速制御と手動変速制御とを選択するように構成されている。その一例を説明すると、シフトレバー24をガイドするガイド溝が図4に模式的に示すように変形したH字形に形成され、一方の直線部分にパーキングポジション(P)、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジション(D)、ブレーキポジション(B)が割り付けられ、かつドライブポジションから分岐した他方の直線部分の中央部がマニュアルポジション(M)に割り付けられ、このマニュアルポジションを挟んでアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられている。そして、各ポジションを検出するスイッチなどのセンサ(図示せず)が設けられており、そのセンサの出力信号が前記電子制御装置22に入力されている。また、シフトレバーの移動を前記油圧制御装置21に伝達するためのケーブルなどのリンゲージ(図示せず)が設けられている。
上記の電子制御装置22に入力される信号を例示すると、エンジン回転数、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、スロットルバルブ7の開度、プライマリシャフト8の回転数、セカンダリシャフト9の回転数、油圧制御装置21のソレノイドバルブのフェールの有無、エンジン1の吸入空気量、登坂路か否かなどを検知するセンサの信号、シフト装置23で選択されているシフトポジションを示す信号、前記アップシフトポジションに設けられたセンサからのアップシフト信号、前記ダウンシフトポジションに設けられているセンサからのダウンシフト信号、過給圧を検知するセンサの信号などである。また、電子制御装置22には各種のデータが記憶されており、電子制御装置22に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置22から、動力源1を制御する信号、無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置21を制御する信号などが出力される。
電子制御装置22に記憶されているデータとしては、エンジントルク制御マップ、変速機制御マップ、ロックアップクラッチ制御マップなどが挙げられる。エンジントルク制御マップは、例えば電子スロットルバルブ7の制御量の一時的な増大量を設定したマップである。また、変速機制御マップには、変速比の制御マップ、トルク容量の制御マップなどが含まれる。変速比制御マップは、車速、アクセル開度、減速度もしくはブレーキの操作状態などに基づいて、無段変速機6の変速比もしくは動力源1の目標回転数を設定するマップである。動力源1としてエンジンが用いられている場合は、無段変速機6の変速比の制御により、エンジン回転数を最適燃費曲線に近づけるように制御できる。なお、この回転数制御は、主として目標回転数と実回転数との偏差に基づくフィードバック制御によっておこなわれ、必要に応じてフィードフォワード制御が実行もしくは併用される。トルク容量制御マップは、変速比、伝達するべきトルクなどに基づいて、無段変速機6のトルク容量を制御する場合に用いるマップである。また、ロックアップクラッチ制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ロックアップクラッチ4のトルク容量を設定するマップである。
上述したように、無段変速機6は動力源1の回転数を燃費が最適になる回転数に制御するように機能させることができる。このいわゆる通常の制御では、一例として、アクセル開度などで代表される駆動要求量と車速とに基づいて適宜のマップから要求駆動力を求め、その要求駆動力と車速とから動力源の目標出力を算出する。その目標出力を最適燃費で出力することのできる目標回転数をいわゆる最適燃費線と目標出力線との交点での回転数としてマップなどから求め、その目標回転数と実際の動力源回転数との差を制御偏差して無段変速機6の変速比がフィードバック制御される。一方、目標出力とその時点の車速などに基づいて目標トルクが算出され、その目標トルクを達成するように電子スロットルバルブ7などによって動力源1の出力トルクが制御される。
このいわゆる通常制御は、車速や流体伝動装置3のタービン回転数などとアクセル開度などの要求駆動量とで定まる走行状態に基づいて無段変速機6を制御するものであるが、無段変速機6の変速比の制御としては、手動操作に基づく制御も可能である。その制御は、シフト装置23のアップシフトポジションあるいはダウンシフトポジションに設けられているスイッチもしくはセンサを、シフトレバーによってオン動作させて信号を出力させ、その信号に基づいて、動力源1の目標回転数をステップ的に変化させ、あるいは信号の出力している間、目標回転数を連続的に変化させる制御である。このような変速制御が、手動変速制御(マニュアルシフト制御)である。
手動変速操作は、車両の機敏な動作を期待して実行するから、変速速度(変速比変化率)が大きくなるように無段変速機6が制御される。例えば、減速時にマニュアルダウンシフト操作した場合には、変速比を通常より速い速度で増大させる。また反対に加速中にマニュアルアップシフト操作した場合には、通常より速い速度で変速比を減少させる。
また、このようなマニュアルシフトの場合、変速速度が速いので、ショックを緩和もしくは防止するために、エンジントルクの制御が併せて実行される。具体的には、減速時のマニュアルダウンシフトの場合には、エンジントルクを迅速に増大させる制御が実行される。これは、図4に示す車両では、電子スロットルバルブ7の開度を増大させ、その後、徐々に復帰させる制御である。このエンジントルク制御が変速制御と協調して実行されると、変速比の増大に伴ういわゆるエンジンブレーキ力を、エンジントルクの制御によって小さくし、変速比が急激に増大することによる駆動トルクの変化を抑制してショックが防止もしくは緩和される。また、マニュアルアップシフトの場合、変速比が急激に小さくなることによって動力源1やこれに関連する回転部材の回転数が減少して慣性トルクが発生し、これがショックの原因となるので、その慣性トルクを相殺するようにエンジントルクが低下させられる。このようにエンジントルクの制御も、通常のマニュアルシフト制御に含まれる。
上記のマニュアルシフト制御とそれに伴うエンジントルク制御とがタイミングのズレを生じることなく協調して実行されると、それぞれの制御による駆動トルクの変動要因が相互に作用してショックが防止もしくは抑制される。しかしながら、無段変速機6での変速制御は、前述したプライマリプーリ11側の油圧室15に圧油を給排することにより実行されるのに対して、動力源(エンジン)1の出力トルクは、燃料の供給量や吸入空気量の変化の後、その混合気の燃焼の変化が生じた後に変化し、それぞれの変化が相対的に緩慢であることと相俟って、エンジントルクの変化が、変速比の変化に対して遅延する場合がある。すなわち、変速比の変化に対してエンジントルクの変化が相対的に遅延する場合がある。このような場合には、変速比の変化に起因する駆動トルクの変化を、エンジントルクの変化によって抑制することができなくなるので、ショックが悪化する。そこでこの発明の制御装置は、以下の制御を実行するように構成されている。
図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、マニュアルダウン操作時か否かが判断される(ステップS1)。これは、前述したシフト装置23におけるアップシフトポジションもしくはダウンシフトポジションのセンサが信号を出力したか否かによって判断することができる。このステップS1で肯定的に判断された場合には、電子スロットルバルブ(電スロ)7の制御が許可されているか否かが判断される(ステップS2)。エンジンの暖機が終了していない場合や排気浄化触媒の温度が高くなっている場合などでは電子スロットルバルブ7の制御が禁止される。ステップS2ではこのようないわゆる禁止条件が成立しているか否かが判断される。
ステップS2で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対してステップS2で肯定的に判断された場合には、変速に比べて電子スロットルバルブ7の応答性が遅い領域(遅い状態)か否かが判断される(ステップS3)。この応答性は、電子スロットルバルブ7自体の応答性だけではなく、要は、エンジントルクの制御指令の出力に対する実際のエンジントルクの変化の応答性である。その応答性は、例えば現在時点のスロットル開度やエンジン回転数などに基づいて判断することができる。
変速に比べて電子スロットルバルブ7の応答性が遅いことがステップS3で判断された場合、すなわちステップS3で肯定的に判断された場合には、電子スロットルバルブ7に対する指令値を一時的に増大させる制御の実行条件が成立しているか否かが判断される。具体的には、先ず、マニュアルダウンシフトが多重変速か否か、あるいはスロットル開度を増大させる前回の要求の終了から所定期間内か否かが判断される(ステップS4)。多重変速とは、所定の変速比(もしくは入力回転数)を目標とした変速制御中に他の変速比(もしくは入力回転数)を目標とする変速が生じる変速状態である。このような状態では、変速比の変化が重畳的に生じ、それぞれに応じて電子スロットルバルブ7に対する指令値を一時的に増大させる制御を実行すると、制御が錯綜して安定した制御ができない可能性がある。また、スロットル開度を増大させる前回の要求の終了から所定期間内では、エンジントルクが安定していない場合があり、その影響でエンジントルクを所期どおりに制御できない可能性がある。そのために、多重変速でないこと、スロットル開度を増大させる前回の要求の終了から所定期間内でないことを実行条件としたのである。
また、急減速中か否かが判断される(ステップS5)。これは、例えば車輪の回転数や出力軸の回転数の変化率に基づいて判断することができる。急減速状態となっていれば、マニュアルダウンシフト操作によって達成するべき減速状態が生じているので、それ以上に駆動トルクを低下させる必要がない。したがって急減速中でないことを実行条件としたのである。
したがってステップS4あるいはステップS5で肯定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS4およびステップS5で否定的に判断された場合には、ファーストオープンを実施する(ステップS6)。
マニュアルダウンシフトは、シフト装置23が手動操作されることにより変速比を急速に増大させる変速制御であり、その場合、動力源1の出力トルクが変化しないと、変速比の増大による制動トルクが急激に増大し、これがショックの要因となるので、マニュアルダウンシフトの開始時に動力源1の出力トルクを増大させ、その後に動力源1の出力トルクを元のトルクに戻す制御が実行される。その制御による動力源1の出力トルクの増大が変速に対して遅延することが上記のステップS3で判断されているので、その遅延を解消もしくは抑制する制御が実行される。これがファーストオープン制御である。
具体的には、制御開始当初の動力源1の出力トルクの変化指令値(すなわち電子スロットルバルブ7に対する開度増大指令値)を、通常のマニュアルダウンシフト時における値より、一時的に増大させる。その増大量や増大の継続時間などは、予め定めた一定値であってもよく、あるいは車両の走行状態もしくは前記遅延の状態に応じて求めたものであってもよい。電子スロットルバルブ7に対する指令値が一時的に増大させられることにより、エンジンに対する吸入空気量や燃料の供給量が、通常より一時的に増大させられ、その結果、動力源1の出力トルクの増大が通常より速くなり、変速に対する動力源1の出力トルクの増大の遅延が解消もしくは緩和される。
ついで、上記のファーストオープン制御を実行しても変速に対する動力源1の出力トルクの変化の遅延が解消されないか否か(すなわち、間に合わないか否か)が判断される(ステップS7)。このステップS7で否定的に判断された場合には、一旦、このルーチンを終了する。これとは反対にステップS7で肯定的に判断された場合には、手動操作に伴う変速の開始を遅延させる変速開始ディレイ制御が実行される(ステップS8)。これは、無段変速機6に対する変速指令信号の出力を時間的に遅らせることによって実行される。その遅れ時間は一定値であってもよく、マニュアルダウンシフトの内容に応じて変化する時間であってもよい。
マニュアルダウン操作がおこなわれることにより上記の各判断や制御が開始されると、上記のステップS1で否定的に判断される。その場合は、マニュアルダウン変速開始ディレイ中か否か、すなわち上記のステップS8での制御の実行中か否かが判断される(ステップS9)。前述したファーストオープンによってエンジントルクの変化の相対的な遅延が解消される場合には、変速開始ディレイ制御が実行されていないので、このステップS9で否定的に判断される。その場合には、マニュアルダウン変速中か否かが判断される(ステップS10)。既にマニュアルダウン変速が終了していれば、このステップS10で否定的に判断され、その場合は直ちにこのルーチンを終了する。これに対して、マニュアルダウン変速の制御が継続していれば、ステップS10で肯定的に判断される。その場合、上記のファーストオープン制御の実施中か否かが判断される(ステップS11)。
前述したようにファーストオープン制御は所定時間の間を「一時的」として実行されるから、その所定時間が経過していない状態すなわち制御開始直後では、このステップS11で肯定的に判断され、その場合は、ファーストオープン制御の開始から所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS12)。その所定時間が経過していないことによりステップS12で否定的に判断された場合には、ファーストオープン制御を継続する(ステップS13)。その後、一旦、このルーチンを終了する。
こうしてファーストオープン制御が所定時間継続して実行されると、ステップS12で肯定的に判断され、その場合は、ファーストオープン制御を終了して通常のトルクアップ要求制御が実施される(ステップS14)。すなわち、マニュアルダウンシフトに伴って通常実施される動力源1の出力トルクの増大制御に移行する。具体的には、電子スロットルバルブ7の開度を通常制御以上に増大させる指令信号の出力を中止し、通常のトルクアップ制御指令信号を出力する。この時点では、変速比の増大と協調して動力源1の出力トルクが増大しているので、電子スロットルバルブ7に対する指令信号を通常のマニュアルダウンシフト時の信号に戻しても、エンジンブレーキ力が過大になってショックが生じるなどの事態が回避もしくは抑制される。
一方、マニュアルダウン変速開始ディレイ制御が実行されていてステップS9で肯定的に判断された場合には、そのディレイ制御の開始から所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS15)。この所定時間は、マニュアルダウンシフト変速開始ディレイ制御の継続時間として予め設定されている時間である。制御開始当初は、時間が経過していないので、このステップS15で否定的に判断され、その場合は、前述したステップS11に進み、ファーストオープン制御が継続される。これに対して、時間が経過したことによってステップS15で肯定的に判断された場合には、動力源1の出力トルク制御の遅延に応じた時間が経過したことになるので、上記のディレイ制御が終了させられる(ステップS16)。
ついで、ステップS11に進み、前述したファーストオープン制御およびその後の通常のトルクアップ要求に基づく制御が実行される。したがって、ファーストオープン制御によって動力源1の出力トルクの増大がマニュアルダウンシフトに間に合わない場合には、変速自体が遅延させられるので、動力源1の出力トルクの変化と変速との時間的なズレが解消もしくは抑制され、その結果、変速比が増大した時点では動力源1の出力トルクが増大していて駆動トルクの変化すなわちショックが防止もしくは緩和される。
なお、上述したステップS3で否定的に判断された場合、すなわち動力源1のトルクの変化が変速に対して遅れない場合には、ステップS14に進んで通常のトルクアップ制御が実施される。
手動変速が可能な状態すなわちマニュアルレンジでは、変速が手動操作に基づいて実行されるから、手動操作されない状態では、変速比が従前のまま維持される。したがってマニュアルレンジでアクセルペダル(図示せず)を踏み込んで加速し、その結果、動力源1の回転数が増大した場合、手動でアップシフト操作をおこない、変速比および動力源1の回転数を低下させることになる。その場合においても、いわゆるマニュアルアップシフトであるから、運転者の要求を満たすように変速速度がいわゆる自動変速の場合に比較して速くなり、それに伴う回転数変化で慣性トルクが生じる。
その慣性トルクに起因するショックを防止するために、通常のマニュアルアップシフト制御では、動力源1の出力トルクが、過渡的に、低下させられる。そのマニュアルアップシフトの際の変速速度が車両の状態などに応じて速くなった場合、動力源1の出力トルクの変化が相対的に遅延することがあり、そこでこの発明の制御装置では、マニュアルアップシフトの場合にも、動力源1のトルクの変化指令値を一時的に増大させるいわゆる特別制御が、マニュアルダウンシフトの場合と同様に実行される。
図2はその制御例を説明するためのフローチャートであって、先ず、マニュアルアップ操作時か否かが判断される(ステップS21)。これは、前述した図1のステップS1での判断と同様に、前述したシフト装置23から出力される信号に基づいて判断することができる。このステップS21で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対してステップS21で肯定的に判断された場合には、電子スロットルバルブ7を制御できる条件が成立しているか否かが判断される(ステップS22)。これは、前述した図1におけるステップS2の判断と同様にしておこなうことができる。
ステップS22で否定的に判断された場合には、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。これに対してステップS22で肯定的に判断された場合には、通常の電子スロットルバルブ7の閉じ制御が実施される(ステップS23)。すなわち、マニュアルアップシフトの際に変速比の低下に伴う動力源1などの回転数の低下に伴う慣性トルクを相殺するように、動力源1の出力トルクを低下させる制御が、このステップS23での制御であり、したがってその電子スロットルバルブ7の閉じ制御によるスロットル開度の減少量は、一定値として予め定められ、あるいは変速速度やエンジン回転数などによって予め定められている。
ついで、変速に対する動力源1のトルクの変化の遅延が判断される(ステップS24)。具体的には、変速に比べて電子スロットルバルブ7の応答性が遅い領域(遅延する状態)か否かが判断される。これは、前述した図1に示すステップS3での判断と同様にしておこなうことができる。このステップS24で否定的に判断された場合には、通常のマニュアルアップシフト制御を実行すればよいから、図2に示すルーチンでは特に制御をおこなうことなく、一旦、終了する。
これに対してステップS24で肯定的に判断された場合には、動力源1のトルクを変化させる指令値を一時的に増大させる制御を実行する条件の成立が判断される(ステップS25)。これは、前述した図1におけるステップS4と同様の判断であり、マニュアルアップシフトが多重変速か否か、あるいはスロットル開度の前回の閉じ要求の終了から所定期間内か否かが判断される。このステップS25で肯定的に判断された場合には、実行条件が成立していないことになるので、特に制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦終了する。すなわち通常の電子スロットルバルブ7の閉じ制御が実行される。
これとは反対にステップS25で否定的に判断された場合には、実行条件が成立していることになるので、ファーストクローズ制御が実施される(ステップS26)。これは、前述したファーストオープン制御とは反対の制御であって、動力源1の出力トルクを迅速に低下させるために、電子スロットルバルブ7を閉じるための指令値を一時的に増大(閉じ方向に増大)させる制御である。すなわち指令値を大きくすることにより、電子スロットルバルブ7を迅速に動作させ、動力源1のトルクの低下を速める制御である。なお、その指令値の増大量やその継続時間は、予め定めた一定値であってもよく、あるいは動力源1の出力トルクの遅れの程度や車両の走行状態に基づいて定められる値であってもよい。
図3は、上記の図2に示す制御を実施した場合と実施しない場合とを比較して示す模式的なタイムチャートである。マニュアルアップシフト制御の開始に伴ってスロットル開度を閉じる方向の指令値が出力される。通常の制御では、図3に破線で示す指令値となるが、電子スロットルバルブ7の応答性の遅れが判断されている場合には、上記のファーストクローズ制御が実行されて、指令値が閉じ方向に増大させられる。その結果、動力源1のトルクが実線で示すように、遅れを生じることなく低下し、これがアップシフトに伴う慣性トルクを相殺するように作用するので、前後加速度(前後G)として把握されるショックが防止もしくは抑制される。ファーストクローズ制御は一時的な制御であり、したがってスロットル開度についての指令値は、その後、通常制御の値に戻され、かつ次第にスロットル開度を開くように指令値が減少し、閉じ要求を反映しないスロットル開度に戻される。
これに対して図2に示すファーストクローズ制御を実行しない場合には、動力源1のトルクの低下に遅れが生じるので、変速比の低下に伴う慣性トルクが駆動トルクに現れてしまい、図3に破線で示すように、ショックが大きくなってしまう。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS3およびステップS24の機能的手段が、この発明のトルク変化遅延判定手段に相当し、ステップS6およびステップS26の機能的手段が、この発明の出力トルク変化増速手段に相当し、ステップS4およびステップS25の機能的手段が、この発明の実行条件判断手段に相当し、さらにステップS7の機能的手段が、この発明の第2トルク変化遅延判定手段に相当し、そしてステップS8の機能的手段が、この発明の変速遅延手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、無段変速機はベルト式以外にトロイダル型のものであってもよい。また、動力源の出力トルクを変化させる手段は上記の電子スロットルバルブが一般的であるが、この発明ではこれに限らず、点火時期の遅延制御やハイブリッド車では電動機によるトルク制御などを単独で使用し、もしくは電子スロットルバルブの制御と併用してもよい。
つぎに、この発明における制御装置で実行可能な制御プログラムの他の例を、図5のフローチャートに基づいて説明する。この図5のプログラムを説明するにあたり、動力源1を便宜上、エンジン1と記す。前述のように、マニュアルダウンシフトがおこなわれる場合は、無段変速機6の変速比が大きくなることにともない、制動トルクが急激に増大してショックが生じることを防止するために、エンジントルクを増大する制御、すなわちトルクアップ制御が実行される。
これに対して、マニュアルアップシフトがおこなわれる場合は、無段変速機6の変速比が小さくなることにともない慣性トルクが生じ、その慣性トルクに起因するショックを抑制するために、エンジントルクを低下させる制御、すなわちトルクダウン制御が実行される。なお、マニュアルシフト操作に応じてエンジントルクをダウンする場合、またはエンジントルクをアップする場合は、過給圧、吸入空気量、点火時期遅角量、燃料噴射量、バルブ開閉タイミングまたはバルブ開閉量などのパラメータのうち、少なくとも1つが制御される。そして、この図5の制御プログラムは、マニュアルシフトにともないトルクダウン制御およびトルクアップ制御を実行する場合に開始されるプログラムの一例である。
図5のプログラムは、電子スロットルバルブ7の制御により、トルクダウン制御またはトルクアップ制御を実行する場合を示しており、エンジントルクの制御応答性が予測される(ステップS31)。このステップS31の処理内容は、具体的には次のようなものである。まず、スロットル開度とエンジン回転数とをパラメータとするエンジントルクマップに基づいて、エンジン1の運転状態が定常状態である場合、つまり、エンジン回転数が略一定である場合におけるエンジントルクTQBが求められる。ついで、吸気管28における空気の吸入負荷率KLと、エンジン回転数によるエンジントルクマップに基づいて、現在の実エンジントルクTQが求められる。前記吸入負荷率KLは過給圧を考慮したものである。
ついで、エンジントルクTQBと実エンジントルクTQとの差DTQが求められる。さらに、この差DTQによる1次元マップに基づいて、エンジントルクの応答感度が求められる。なお、過給器30の回転数、エンジン回転数、スロットル開度による3次元マップに基づいて、エンジントルクの応答感度を求めることも可能である。このステップS31の処理では、電子スロットルバルブ7の開度の経年変化、ウェイストゲートバルブの開度の経年変化などを考慮して、エンジントルクの応答性を予測するという学習制御機能を持たせることも可能である。
上記のステップS31についで、マニュアル変速に伴うエンジントルクのアップ制御またはダウン制御が許可されているか否かが判断される(ステップS32)。例えば、エンジン1の暖機が終了している場合や、排気管29に設けられた排気浄化触媒(図示せず)の温度が所定温度以下である場合は、エンジントルクのアップ制御またはダウン制御が許可される。そして、ステップS32で肯定的に判断された場合は、マニュアルシフト操作が実行されたか否かが判断される(ステップS33)。マニュアルシフトは、アップシフトまたはダウンシフトのいずれでもよい。このステップS33で肯定的に判断された場合は、無段変速機6の変速速度を高速化することが許可されるか否かが判断される(ステップS34)。
例えば、ステップS31で予測されたエンジントルクの応答性による1次元マップに基づいて、無段変速機6の変速速度の目標高速値が求めることが可能である。また、エンジン回転数が略一定である場合における無段変速機6の変速速度を、エンジントルクの応答感度で除算して、目標高速値を求めることも可能である。このようにして求められた変速速度の目標高速値を達成可能であるか否かが判断され、変速速度の高速値を達成可能である場合は、前記無段変速機6の変速速度の高速化が許可される。ここで、変速速度の目標高速値を達成可能であるか否かは、例えば、油温などに基づいて判断可能である。その理由は、油温が作動油の粘度に影響を及ぼし、作動油の温度に応じて、油圧室15に供給されるオイル量、または油圧室15から排出されるオイル量に影響を及ぼすからである。
前記ステップS34で肯定的に判断された場合は、ステップS31で予測されたエンジントルクの応答性に応じて、無段変速機6の変速開始ディレイ時間が設定される(ステップS35)。ここで、無段変速機6の変速開始ディレイとは、マニュアルシフト操作に応じて無段変速機6で変速を実行する場合に、変速の開始タイミングを遅延させることを意味する。無段変速機6の変速開始タイミングを、基準開始タイミングに比べてどの程度遅延させるか、すなわち、変速開始ディレイ時間は、例えば、以下のような第1の算出方法または第2の算出方法により算出される。
まず、第1の算出方法について説明する。マニュアルシフト操作時において、変速を制御するソレノイドバルブにおけるデューティ値の予測結果と、油圧室15の目標油圧と実油圧との差圧とに基づいて、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量が予測される。そして、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量と、前記エンジントルクの応答感度とに基づいて、変速開始ディレイ時間が求められる。
また、変速開始ディレイ時間の第2の算出方法では、マニュアルシフト操作時におけるエンジントルクの応答感度と、エンジン回転数が略一定である場合における変速ディレイ時間とを乗算して、エンジントルク応答性に応じた変速開始ディレイ時間を求める。ここで、エンジン回転数が略一定である場合における変速ディレイ時間は、以下のようにして算出される。エンジン回転数が略一定である場合に、変速制御用ソレノイドバルブを制御するデューティ値の予測結果と、油圧室15の目標油圧と実油圧との差圧とに基づいて、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量を予測するとともに、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量と、前記エンジントルクの応答感度とに基づいて、エンジン回転数が略一定である場合における変速ディレイ時間が算出される。
前記ステップS35についで、ファーストトルクアップ時間またはファーストトルクダウン時間が設定される(ステップS36)。ここで、「ファーストトルクアップ」とは、マニュアルダウンシフトの開始時に、エンジントルクを増大させ、その後にエンジントルクを低下させる制御を意味し、「ファーストトルクアップ時間」とは、エンジントルクの増大を開始する時点から、エンジントルクを低下させる時点までの時間を意味する。また、電子スロットルバルブ7の制御により、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンをおこなう場合、ファーストトルクアップ時間またはファーストトルクダウン時間は、ステップS31で予測されたエンジントルク応答性に基づいて設定される。
なお、ステップS36において、ファーストトルクアップ時間またはファーストトルクダウン時間を、第1の算出方法または第2の算出方法により算出することも可能である。第1の算出方法は、マニュアルシフト操作時におけるエンジントルクの応答性と、トルクダウン要求量およびトルクアップ要求量との関係を示すマップに基づいて、ファーストトルクアップ時間またはファーストトルクダウン時間を求める方法である。これに対して、第2の算出方法は、マニュアルシフト操作時におけるエンジントルクの応答性と、エンジン回転数が略一定である場合におけるファーストトルクダウン時間またはファーストトルクアップ時間とを乗算して、ファーストトルクアップ時間またはファーストトルクダウン時間を求める方法である。
前述のように、過給圧の制御により、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンをおこなう場合、または、点火時期遅角制御により、ファーストトルクダウンをおこなう場合、または、燃料噴射量制御により、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンをおこなう場合、または、バルブ開閉タイミングまたは開閉量の制御により、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンをおこなう場合は、ステップS36で、この第1の算出方法または第2の算出方法が用いられる。
上記のステップS36についで、ステップS31で予測されたエンジントルクの応答性に応じて、無段変速機6の変速速度を設定し(ステップS37)、プログラムを終了する。このステップS37で設定される無段変速機6の変速速度は、ステップS34の処理で説明した「無段変速機6の変速速度の目標高速値」である。なお、前記ステップS34で否定的に判断された場合は、ステップS37に進む。ここで、ステップS35,S36を経由してステップS37に進んだ場合に設定される変速速度よりも、ステップS34で否定的に判断されてステップS37で設定される変速速度の方が高速である。さらに、前記ステップS32で否定的に判断された場合は、このプログラムを終了する。
このように、ステップS31ないしステップS37の処理を実行することにより、無段変速機6の変速比の変化に対するエンジントルクの変化応答性に基づいて、無段変速機6の変速速度を設定する制御、または無段変速機6で変速を開始するタイミングを遅延させる制御を実行することにより、無段変速機6の変速比の変化と、エンジントルクの変化との時間的なズレや、時間的なズレに起因するショックを、防止もしくは抑制することができる。
また、電子スロットルバルブ7の開度を調整してエンジントルクを制御する場合、ファーストトルクダウン時間またはファーストトルクアップ時間を、エンジントルクの応答性に合わせて設定することが可能であるため、エンジントルクの制御タイミングと、無段変速機6の変速に伴う慣性トルクまたは制動トルクの発生タイミングとがずれることを抑制できる。したがって、無段変速機6のマニュアルシフトを実行する場合のショックを抑制することができる。
一方、前記ステップS33で否定的に判断された場合は、マニュアルシフト操作に応じたマニュアルダウンシフトまたマニュアルアップシフトが、現在実行中であるか否かが判断される(ステップS38)。このステップS38で否定的に判断された場合は、マニュアル変速のディレイ途中であるか否か、つまり、マニュアルシフト変速の開始前であるか否かが判断される(ステップS39)。このステップS39で肯定的に判断された場合は、マニュアル変速のディレイ時間がスタートしてから、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS40)。このステップS40で肯定的に判断された場合は、マニュアル変速の開始をディレイさせる制御を終了し(ステップS41)、このプログラムを終了する。なお、ステップS39で否定的に判断された場合、またはステップS40で否定的に判断された場合は、共にこのプログラムを終了する。
一方、前記ステップS41を実行した後に、前記ステップS38に進んだ場合は、ステップS38で肯定的に判断されて、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンを現在実施中であるか否かが判断される(ステップS42)。このステップS42で肯定的に判断された場合は、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンを開始された時点から、所定時間が経過したか否かが判断される(ステップS43)。
このステップS43で否定的に判断された場合は、過給圧に応じてトルクダウンまたはトルクアップの要求量が設定される(ステップS44)。また、ステップS42で否定的に判断された場合も、ステップS44に進む。ここで、ステップS42で肯定的に判断された場合に、既に実施されているトルクダウン量またはトルクアップ量と、ステップS44で設定されるトルクダウン量またはトルクアップ量とは、同じ要求量である。
前記ステップS44についで、ステップS31で予測されたエンジントルクの応答性に基づいて、復帰制御の開始タイミングが設定される(ステップS45)。この復帰制御とは、ファーストトルクアップまたはファーストトルクダウンを終了させて、元のエンジントルクに戻す制御を意味する。このステップS45においては、以下のようにして、復帰制御の開始タイミングが判定される。
復帰制御の開始タイミング=|NIN−NINT|<dltnin*K
ここで、NINは、無段変速機6の実入力回転数であり、NINTは、無段変速機6の目標入力回転数であり、dltninは、無段変速機6の実入力回転数の変化率であり、Kは定数である。ここで、定数Kの算出方法としては、第1の算出方法および第2の算出方法がある。
第1の算出方法においては、ステップS35と同様にして、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量が予測されるとともに、予測されたオイルの流量と、過給圧に応じたエンジントルクの応答感度とをパラメータとする2次元マップに基づいて、定数Kが算出される。これに対して、第2の算出方法では、エンジン回転数が略一定である場合における定数を、過給圧に応じたエンジントルクの応答感度で除算して、定数Kが算出される。なお、エンジン回転数が略一定である場合における定数は、油圧室15から排出されるオイルの流量、または油圧室15に供給されるオイルの流量を予測するとともに、予測されたオイルの流量と、エンジン回転数が略一定である場合におけるエンジントルクの応答感度とをパラメータとする2次元マップに基づいて算出される。
上記のステップS45についで、復帰制御開始条件が成立したか否かが判断され(ステップS46)、ステップS46で否定的に判断された場合は、このプログラムを終了する。これに対して、ステップS46で肯定的に判断された場合は、トルクダウン制御またはトルクアップ制御を終了して、変速終了後における目標エンジントルクに復帰させる制御が開始され(ステップS47)、このプログラムを終了する。また、前記ステップS40で肯定的に判断された場合は、ファーストトルクアップ制御またはファーストトルクダウン制御を終了し(ステップS48)、このプログラムを終了する。
以上のように、ステップS31の処理、ステップS38の処理、ステップS42ないしステップS48の処理を実行することにより、トルクダウン量またはトルクアップ量が、過給圧に応じて設定されるため、過給状態に関わりなく、無段変速機6の変速に伴うショックの増加を抑制することが可能である。また、図5の制御例においては、エンジントルク応答性を予測し、その予測結果に基づいて、無段変速機6の変速速度を設定し、かつ、復帰制御の開始タイミングが設定される。
このため、単に過給圧をパラメータとして、エンジントルクのダウン量またはエンジントルクのアップ量を設定する比較例の制御と、この実施例の制御とを比較すると、この実施例の制御の方が、エンジントルクの変化と、ベルト式無段変速機の変速に伴う制動トルクまたは慣性トルクとの対応関係を高精度に調整することができる。より具体的には、無段変速機6の変速に伴う制動トルクまたは慣性トルクの発生タイミングと、エンジントルクのダウンまたはアップ制御を終了する復帰制御の開始タイミングとがずれることを回避可能であり、ベルト式無段変速機の変速に伴うショックを一層確実に低減することができる。さらに、エンジントルクの応答性を予測する場合に、エンジントルクを制御するシステムの経年変化や、個々の車両におけるシステムの特性のバラツキを学習制御するため、無段変速機6の変速に伴うショックを一層確実に抑制可能である。
ここで、図5に示された機能的手段と、この発明との対応関係を説明すれば、ステップS31が、この発明の応答性予測手段に相当し、ステップS34およびステップS35およびステップS37が、この発明の変速特性制御手段に相当する。また、無段変速機6の変速開始ディレイ時間、言い換えれば、無段変速機6における変速開始タイミング、無段変速機6における変速速度などが、この発明における無段変速機の変速特性に相当する。さらに、エンジンおよびモータ・ジェネレータが、この発明における動力源に相当し、電子スロットルバルブ7、燃料噴射量制御装置25、点火時期制御装置26、バルブ制御装置27、過給器30が、この発明のトルク制御装置に相当する。
なお、図4の車両Veが、動力源としてエンジンおよびモータ・ジェネレータを有し、エンジントルクおよびモータ・ジェネレータのトルクを共に車輪に伝達することの可能なハイブリッド車である場合に、図5に示す制御を実行することも可能である。この場合は、エンジントルクダウン制御またはエンジントルクアップ制御と並行して、モータ・ジェネレータを電動機として起動し、そのモータ・ジェネレータのトルクをダウンまたはアップする制御を実行可能である。さらに、エンジントルクをダウンさせる制御と並行して、モータ・ジェネレータを発電機として起動させ、そのモータ・ジェネレータの発電トルク(回生トルク)を制御することも可能である。このようなハイブリッド車の場合、モータ・ジェネレータには蓄電装置およびインバータが接続されて、モータ・ジェネレータのトルクが制御される。したがって、インバータおよび蓄電装置が、この発明のトルク制御装置となる。
このように、エンジントルクの制御と並行して、モータ・ジェネレータのトルクを制御するとともに、図5の制御を実行する場合は、エンジントルクの応答性に加えて、モータ・ジェネレータの電動機としてのトルクおよび応答性、または発電機としてのトルクおよび応答性をも考慮して、図5に示された各処理を実行することとなる。また、図5の制御プログラムは、無段変速機6として、ベルト式無段変速機に代えて、トロイダル式無段変速機を有する車両でも実行可能である。
1…動力源(エンジン、モータ・ジェネレータ)、 6…無段変速機、 7…電子スロットルバルブ、 22…電子制御装置、 25…燃料噴射量制御装置、 26…点火時期制御装置、 27…バルブ制御装置、 30…過給器。