JP4439815B2 - 手術用顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、手術用顕微鏡に関し、より詳しくは、眼科向けの手術用顕微鏡に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から各種の眼科手術が行われているが、特に白内障手術はそのなかでも多数行われてきた眼科手術の一例である。現在行われている白内障手術としては、吸引術と呼ばれる方法が一般的となっている。この吸引術とは、即ち、水晶体の前嚢を輪部に沿って切開し、その切開縁から吸引装置を挿入して白濁した水晶体の内容物を吸引し、吸引された内容物の代わりに人工眼内レンズ(IOL)を埋め込む方法である。
【0003】
吸引術を行う際には、被手術眼の拡大された観察像を得るために手術用顕微鏡が使用される。このとき、観察像の視認性向上を図る手段の1つとして、手術用顕微鏡の照明が被手術眼の網膜上で拡散反射されることによって発生する徹照像(レッドレフレックス)が広く利用されている。特に、吸引装置を挿入するために前嚢の切開縁の位置を確認する際、又は、水晶体の内容物が確実に吸引されたか否か判断する際には極めて有効な手段である。
【0004】
術者にとって好適なレッドレフレックスを得るために、従来から様々な手段が提案され、実施されている。双眼視可能な手術用顕微鏡の左右の観察光軸の間に偏向ミラーを配置して対物レンズの光軸に沿って照明光を被手術眼に導く「0度照明」や、ハーフミラーを用いて照明光軸と観察光軸とを一致させた「完全同軸照明」は、このような手段の主要な例である。しかしながら、0度照明においては、観察光束におけるレッドレフレックスの範囲が左右で異なるため、双眼視した場合にうまく融像されないなどの問題がある。また完全同軸照明においても、ハーフミラーを使用したことに起因する観察光束の光量の減少によって全体的に暗い観察像しか得られないため視認性に劣るという問題を抱えている。
【0005】
そのため、現在の手術用顕微鏡の多くには、観察系の光軸(観察光軸)に対して所定の角度をなして照明する「角度付照明(斜め照明)」と呼ばれる手段が広く採用されている。この角度付照明を採用した従来の手術用顕微鏡としては、例えば、下記の特許文献1に開示されたものが知られている。当該手術用顕微鏡は、照明系によって出射された照明光を被手術眼方向に偏向する偏向ミラーを備え、この偏向ミラーを観察光軸に対して直交する方向に移動することにより観察光軸に対する照明光の角度(傾斜角と称する。)を0〜6度に亘って変更して被手術眼を照明できるように構成されている。
【0006】
また、角度付照明を採用した他の一例である特許文献2に開示された手術用顕微鏡は、照明光学系によって出射された照明光を被手術眼方向に偏向するプリズムと、このプリズムを経由する照明光の一部を遮蔽する遮蔽板とを備えており、この遮蔽板で遮蔽する照明光の一部領域を切り換えることによって被手術眼に投射する照明光の観察光軸に対する傾斜角を変更できるように構成されている。なお、特許文献2の段落〔0007〕に記載されているように、角度付照明は、レッドレフレックスを得るための傾斜角2度と、シャドーコントラストを得るための傾斜角6度とを実現できるように構成されているものが一般的となっている。ただ、実際の装置の設計上、特にレッドレフレックスを得るための傾斜角は、±0.5度程度の幅を有しているのが現状である。なお、特許文献2では、この角度を「近似同軸照明」と称しているが、微小な角度の角度付照明と考えることができる。
【0007】
ところで、手術用顕微鏡は、白内障手術等の前眼部手術だけでなく、眼の更に内部に存在する器官に対して施される網膜・硝子体手術にも適用されるのが一般的である。この網膜・硝子体手術は、通常、被手術眼の角膜にコンタクトレンズを接触させた状態で、眼内照明用のライトガイド(ファイバ等)を眼内に挿入し、手術用顕微鏡で眼内を観察しながら行われる。このとき、術者は、片手にライトガイドを持ったまま手術を行わなければならないため、手術の迅速さや正確性を妨げる一要因となっていた。
【0008】
このような問題を解消するため、例えば特許文献3に開示された手術用顕微鏡のように、術者が両手を使って手術できるように構成された手術用顕微鏡が開発されている。特許文献3に記載された手術用顕微鏡は、対物レンズと被手術眼との間に前置レンズを配置するとともに、前置レンズにより倒像として術者に知覚される観察像を正像に変換するインバータ光学素子を観察光軸上に挿脱可能に設け、このインバータ光学素子が観察光軸上に配置されているか否かに応じて、フットスイッチによるアライメント動作の移動方向を切り換えられるように構成されている。この手術用顕微鏡では、照明光を被手術眼の外部から投射し、瞳孔を通して被手術眼の内部を観察するようになっているので、照明光の傾斜角は瞳孔を通過できる程度の角度を利用する。
【0009】
また、下記の特許文献4に開示された立体顕微鏡は、観察光の傾斜角を変更するための実体角変換器(の光学本体;ステレオ(アングル)バリエータとも呼ばれる。)を備えている。この実体角変換器は、「への字」型に形成された光学部材を観察光軸上において回転可能に構成され、光学部材の配置を変えて左右光軸のステレオベースを変更することによって、観察光の実体角を調整し、患者の瞳孔が小さい場合にでも網膜を観察できるようになっている。
【0010】
【特許文献1】
特許第3008359号公報明細書(段落〔0013〕−〔0015〕、第1図)
【特許文献2】
特開平11−169383号公報(段落〔0007〕、〔0026〕−〔0029〕、第2図、第4図、第5図)
【特許文献3】
特開2002−350735号公報(段落〔0027〕−〔0029〕、第5図、第10図)
【特許文献4】
特公平7−111507号公報(〔発明の詳細な説明〕、ニ.実施例第6頁、第37−49行、第1図、第2図)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、角度付照明を利用した特許文献1及び2にあるような手術用顕微鏡によると次のような問題が浮上してくる。即ち、照明光軸と観察光軸とに角度を設けたことによって、観察可能な網膜の範囲内に照明光により照明されない領域が生じてしまうとともに、レッドレフレックスの一部が観察光学系に入射されなくなるので、結局、観察像のなかにレッドレフレックスが得られない領域が生じてしまう。
【0012】
このような事態に対処するため、角度付照明を行う偏向ミラーを観察光軸に対して対称な位置に移動可能とし、偏向ミラーの位置を移動して観察像中のレッドレフレックスが得られる領域を切り換えることができる手術用顕微鏡が提案されているが、観察像全体のレッドレフレックスを一度に得ることができるものではないため、手術中にレッドレフレックスを発生させたい範囲が変更される度に偏向ミラーの位置を切り換える必要があり、操作性において好適なものとは言えない。
【0013】
一方、特許文献3にあるような網膜・硝子体手術に対応可能な手術用顕微鏡を用いる場合、例えば緑内障患者のように瞳孔が小さい患者では、観察光が瞳孔で遮られて充分な観察が行えないことがある。そのような問題を回避するためにステレオバリエータ等を使用してステレオベースを小さくする場合、特許文献4の立体顕微鏡のようにステレオバリエータと偏向ミラーとを直列に配置すると、観察光がその偏向ミラーによってけられ易くなり、観察像の周辺部の光量が不足することや、場合によっては観察不能に陥ることさえある。
【0014】
また、検査用の立体顕微鏡では問題はないが、手術用顕微鏡においては被手術眼から接眼アイピースまでの距離(操作距離)が長くなってしまい、手術を行う上で支障が出るおそれがある。つまり、術者は、アイピースを覗き込んで被手術眼を観察しながら手術を行うのであるから、不自然に手を伸ばした状態で手術をしなければならなかったり、術者の体格によっては手が届かないケースも想定しうる。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、明るく広範囲なレッドレフレックスを一の観察像において得ることが可能な手術用顕微鏡を提供することを目的とするものである。
【0016】
また、本発明は、前眼部手術にも網膜・硝子体手術にも好適に対応可能で、特に後者の手術において、観察光にケラレが生じ難く、かつ、操作性が良好な手術用顕微鏡を提供することを更なる目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明は、被手術眼に対峙する対物レンズを含む観察光学系と、光源からの照明光を前記観察光学系の光軸の近傍まで案内する照明光学系と、前記照明光学系により前記観察光学系の前記光軸の近傍まで案内された前記照明光を偏向し前記対物レンズを介して前記被手術眼に案内する偏向手段と、を有する手術用顕微鏡であって、前記偏向手段は、前記観察光学系の前記光軸に対し所定の傾斜角を有して前記照明光の一部を案内する第1の偏向部材と、前記観察光学系の前記光軸を挟み前記第1の偏向部材に対向する側に配置されて前記光軸に対し前記所定の傾斜角と同一の傾斜角を有して前記照明光の他の一部を前記第1の偏向部材と同時に案内する第2の偏向部材とからなる一対の偏向部材と、観察光学系の光軸に関して前記一対の偏向部材より大きな斜角を有して前記照明光の更に他の一部を前記被手術眼に案内する第3の偏向部材とを含み、前記第1、第2、第3の各偏向部材が、照明光学系側から見たとき接して見えるように配置され、更に、前記光源からの前記照明光の出射領域を調整することにより、第1、第2、第3の偏向部材のうちの1又は複数が選択され、選択された1又は複数の偏向部材を介して前記光源からの照明光を被手術眼に案内する出射領域調整手段を有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、一対の偏向部材のうち一方の偏向部材によって案内された照明光の一部からはレッドレフレックスが得られない観察像の部分領域を、他方の偏向部材によって案内された照明光の他の一部から得られるレッドレフレックスが補足するように作用するので、観察可能な網膜上の広範囲に亘るレッドレフレックスを一度に得ることが可能となる。また、照明光は一対の偏向部材によって同時に被手術眼に案内されるため、明るいレッドレフレックスを得ることができる。更に、第3の偏向部材によって案内された照明光により、レッドレフレックスと並んで白内障手術の際に有用な、観察像に立体感を持たせるための照明方法を行うことが可能となるので、白内障手術に好適な手術用顕微鏡を提供することができる。
【0019】
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載の手術用顕微鏡であって、前記一対の偏向部材のうち、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記観察光学系の前記光軸との間に配置されており、他方の偏向部材は前記観察光学系の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置されていることを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、照明光学系の光軸に沿って一対の偏向部材が配置されるため、複雑な設計を回避しつつ明るく広範囲なレッドレフレックスを一度に得ることが可能となる。
【0021】
また、請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の手術用顕微鏡であって、前記一対の偏向部材は、それぞれ前記観察光学系の前記光軸に対し1.5乃至2.5度の傾斜角を有して前記照明光の一部を前記被手術眼に案内することを特徴とする。
また、請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の手術用顕微鏡であって、前記傾斜角が2度であることを特徴とする。
【0022】
これらの発明によれば、市販の手術用顕微鏡に現に採用されている傾斜角の範囲において明るく広範囲なレッドレフレックスを一度に得ることが可能となる。
【0024】
また、請求項5記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の手術用顕微鏡であって、前記出射領域調整手段が、前記各偏向部材の形状に対応する出射領域を形成するスリットを有する遮蔽板を有することを特徴とする。
【0025】
また、請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の手術用顕微鏡であって、前記出射領域調整手段が、更に、前記遮蔽板を回転駆動するステッピングモータ、フォトセンサ、フットスイッチ及び制御回路とからなる遮蔽板駆動機構とを有することを特徴とする。
【0027】
また、請求項7記載の本発明は、請求項1乃至請求項6に記載の手術用顕微鏡であって、前記一対の偏向部材のうち一方の偏向部材と前記第3の偏向部材とが一体として形成されていることを特徴とする。
【0028】
この発明によれば、設計上の省スペース化及び製造コストの低減を図りつつ、白内障手術に好適な手術用顕微鏡を提供することができる。
【0029】
また、請求項8記載の本発明は、請求項1記載の手術用顕微鏡であって、前記観察光学系は、術者の左眼に観察光を案内する光学系と右眼に観察光を案内する光学系とからなる一対の光学系を含み、前記一対の光学系にそれぞれ導かれる左右の観察光の光軸の相対位置を変更するための光軸位置変更手段と、前記一対の偏向部材の少なくとも一方を退避させ、かつ、前記光軸位置変更手段を前記左右の観察光の光路上に配置させることが可能な移動手段と、を更に有することを特徴とする。
【0030】
この発明によれば、偏向部材を退避させるとともに観察光の光路上に光軸位置変更手段を配置させることで、被手術眼の網膜や硝子体を観察するときの観察光のケラレを生じ難くすることができる。
【0031】
また、請求項9記載の本発明は、請求項8記載の手術用顕微鏡であって、前記光軸位置変更手段は、前記一対の偏向部材の一方の近傍かつ前記観察光学系の前記光軸とは反対の位置に設けられ、前記一方の偏向部材及び前記光軸位置変更手段は、前記移動手段により一体として移動されることを特徴とする。
【0032】
本発明によれば、偏向部材の近傍かつ観察光軸とは反対の位置に光軸位置変更部材が設けられ、移動手段により一体として移動されるので、装置が観察光軸方向に不要に長くならず、操作距離を適切に保つことができる。また、単一の移動手段により偏向部材及び光軸位置変更手段を移動することが可能となるので、装置構成が複雑になりすぎず、またコストを抑えることができる。
【0033】
また、請求項10記載の本発明は、請求項8又は請求項9に記載の手術用顕微鏡であって、前記一対の偏向部材のうち、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記左右の観察光の前記光軸との間に配置され、他方の偏向部材は前記左右の観察光の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置されており、前記移動手段は、前記他方の偏向部材を前記一方の偏向部材の側に退避させるとともに、前記光軸位置変更手段を前記左右の観察光の前記光路上に配置するよう移動させることを特徴とする。
本発明によれば、照明光学系側、即ち、術者の位置とは反対の方向に偏向部材が退避され、術者の側に退避用のスペースとしての凸部等を確保する必要がないので、操作性を良好に保つことができる。
【0034】
また、請求項11記載の本発明は、被手術眼に対峙する対物レンズを含む観察光学系と、光源からの照明光を前記観察光学系の光軸の近傍まで案内する照明光学系と、前記照明光学系により前記観察光学系の前記光軸の近傍まで案内された前記照明光を偏向し前記対物レンズを介して前記被手術眼に案内する偏向手段と、を有する手術用顕微鏡であって、前記偏向手段は、前記観察光学系の前記光軸に対し所定の傾斜角を有して前記照明光の一部を案内する第1の偏向部材と、前記観察光学系の前記光軸を挟み前記第1の偏向部材に対向する側に配置されて前記光軸に対し前記所定の傾斜角と略同一の傾斜角を有して前記照明光の他の一部を前記第1の偏向部材と同時に案内する第2の偏向部材とからなり、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記観察光学系の前記光軸との間に配置されており、他方の偏向部材は前記観察光学系の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置された、一対の偏向部材と、観察光学系の光軸に関して前記一対の偏向部材より大きな斜角を有して前記照明光の更に他の一部を前記被手術眼に案内する第3の偏向部材を含み、前記第1、第2、第3の各偏向部材が、照明光学系側から見たとき接して見えるように配置され、更に、前記光源からの前記照明光の出射領域を調整することにより、少なくとも、前記一対の偏向部材、前記第3の偏向部材、又は、前記一対の偏向部材及び前記第3の偏向部材、の1つが選択され、選択された1又は複数の偏向部材を介して前記光源からの照明光を被手術眼に案内することで、前記照明光の出射領域を調整する出射領域調整手段を有することを特徴とする。
また、請求項12記載の本発明は、請求項11に記載の手術用顕微鏡であって、前記出射領域調整手段が、前記各偏向部材の形状に対応する出射領域を形成するスリットを有する遮蔽板を有することを特徴とする。
また、請求項13記載の本発明は、請求項12に記載の手術用顕微鏡であって、前記出射領域調整手段が、更に、前記遮蔽板を回転駆動するステッピングモータ、フォトセンサ、フットスイッチ及び制御回路とからなる遮蔽板駆動機構とを有することを特徴とする。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
[実施の形態1]
(手術用顕微鏡の全体及び各部の構成)
図1は、本発明の実施の形態の手術用顕微鏡1の概略構成を示す図である。手術用顕微鏡1は双眼視による観察が可能であって、例えば白内障の手術を受ける患者の眼(被手術眼と呼称するものとする。)Eに対峙させるための対物レンズ2と、対物レンズ2の光軸の延長上に配置され術者が被手術眼を観察するための左眼用、右眼用の接眼レンズを備えた図示しない接眼レンズ部と、対物レンズ2の光軸に沿って配置され接眼レンズ部に観察光束を案内する変倍レンズ等を含むレンズ群からなる観察光学系3と、光源4からの照明光を導光する光ファイバー束からなるライトガイド5と、このライトガイド5の出射端5aに隣接して配置され出射端5aから出射された照明光の一部を遮蔽する回動可能な遮蔽板6と、この遮蔽板6の回転動作を駆動する遮蔽板駆動機構7と、遮蔽板6を通過してきた照明光の一部を観察光学系3の光軸(観察光軸と呼ぶ。)Oの近傍まで案内するレンズ群からなる照明光学系8と、対物レンズ2の上側近傍にそれぞれ配置され照明光学系8によって観察光軸Oの近傍まで案内された照明光を反射して向きを変え対物レンズ2を介して被手術眼Eへと案内する偏向手段としての偏向ミラー9、10及び11とを含んで構成されている。
【0037】
光源4からの照明光は、遮蔽板6により遮蔽されてその一部のみが被手術眼を照明するために導光されるように構成されているが、以下、煩雑さを回避するため、遮蔽板を通過した「照明光の一部」を「照明光」と簡潔に記載するものとする。
【0038】
観察光学系3は、対物レンズ2を含むレンズ群により構成されているもので、図2に示されているように、左観察光学系3L及び右観察光学系3R(本発明にある一対の光学系)を備え、左観察光学系3Lは観察光束を接眼レンズ部の左眼用の接眼レンズに案内し、また右観察光学系3Rは観察光束を右眼用の接眼レンズに案内するものである。これにより手術用顕微鏡1は双眼視できるようになっている。
【0039】
次に、図2及び図3を更に参照して偏向ミラー9、10および11の配置について説明する。図2は対物レンズ2を被手術眼E側から見上げた際の各部材の配置を示す図であり、図3は照明光学系8の光軸(照明光軸と呼ぶ。)Lを遮蔽板6側から見た際の各部材の配置を示す図である。
【0040】
偏向ミラー9、10は、後述するように、同時に照明光を被手術眼に案内する一対の偏向部材として作用するものである。偏向ミラー9は照明光学系8と観察光軸Oとの間に配置されており、偏向ミラー10は観察光軸Oに対して偏向ミラー9とは反対の側、即ち照明光学系8から離れた側、に配置されている。偏向ミラー9,10はともに、観察光軸Oと平行になるように照明光を偏向する。また、偏向ミラー9、10の観察光軸Oに近い側の端部、具体的には偏向ミラー9の下端9b及び偏向ミラー10の上端10uは、観察光軸Oからほぼ等距離を隔てて配置されている。従って、偏向ミラー9及び10によって偏向された照明光は、それぞれ観察光軸Oと等距離を隔て且つ平行に進み対物レンズ2により屈折されることにより、偏向された照明光L1及びL2は、それぞれ観察光軸Oに対してほぼ等しい傾斜角θ1及びθ2を有して被手術眼Eを照明することとなる。
【0041】
本実施の形態では傾斜角θ1及びθ2は2度に設定されていることとするが、実際の医療現場で使用されている手術用顕微鏡においては2±0.5度程度の傾斜角が設けられているので、傾斜角θ1及びθ2はこの範囲において適宜設定することができる。
【0042】
偏向ミラー9の下端9b及び偏向ミラー10の上端10uはそれぞれ三角形状となっており左観察光学系3L及び右観察光学系3Rに入射する観察光束を遮らないようになっている。
【0043】
偏向ミラー11は、偏向ミラー9よりも照明光学系8側に配置している。この偏向ミラー11によって偏向される照明光L3が観察光軸Oに対してなす傾斜角θ1+θ3は6度に設定されている。
【0044】
ところで、観察光軸Oはほぼ垂直方向を指すように構成されている。偏向ミラー9、10、11は、それぞれ、偏向ミラー9の上端9u及び偏向ミラー11の下端11b、偏向ミラー10の下端10b及び偏向ミラー11の上端11uがほぼ同じ高さに位置するように配置されている。因って、図3に示すように照明光学系8側から見るとそれぞれが接して配置しているように見える。これにより、偏向ミラー9、10、11は、照明光のそれぞれ別の一部を偏向するようになっている。
【0045】
図4を参照して遮蔽板6の構成について説明する。遮蔽板6は円板形に形成されており、その周縁部近傍には複数のスリットが開口している。詳細は後述するが、遮蔽板6は遮蔽板駆動機構7により回転駆動されることによってライトガイド5の出射端5aに臨む位置に各スリットを選択的に配置できるように構成されている。
【0046】
遮蔽板6に形成されたスリットは少なくとも次の3つのパターンのものが用意されている。第1に、2つの五角形状のスリット6a1と6a2とがそれぞれの底辺部を対向させて配置されたスリット6a、第2に、長方形状のスリット6b、そして第3に、六角形状のスリット6c、である。勿論、遮蔽板6に設けることのできるスリットの形状は以上の3種に限定されることはなく、被手術眼Eを照明する際の目的に応じて、例えば、スリット6a1または6a2のみからなるスリットや、スリット6a1または6a2とスリット6Bとを組み合わせた形状のものを適宜設けることができる。
【0047】
図5は、照明光学系8側から遮蔽板6のスリット越しにライトガイド5の出射端5aを見た場合に、遮蔽板6のスリットを通過してくる照明光の断面領域を示したものである。スリットの位置や形状及び大きさは、スリットを通過した照明光(の一部)が照明光学系8を介して偏向ミラー9、10、11へと案内されるように設計されている。即ち、遮蔽板6は、出射端5aから出射された照明光のうち偏向ミラー9、10、11に導光されない部分を遮蔽するものである。なお、ライトガイド5から出射される照明光は、図5中に破線で示されるように出射端5aの形状をその断面として有する。
【0048】
ライトガイド5の出射端5aがスリット6aによって遮蔽されている場合は、スリット6a1に対応する断面領域5a1を有する照明光と、スリット6a2に対応する断面領域5a2を有する照明光とが、それぞれ偏向ミラー9、10へと案内される。また、出射端5aがスリット6bにより遮蔽されている場合は、断面領域5a3を有する照明光が偏向ミラー11へと案内される。また、出射端5aがスリット6cにより遮蔽されている場合は、5a1、5a2及び5a3を合わせた断面領域を有する照明光が、偏向ミラー9、10及び11へとそれぞれ案内される。なお、照明光学系8は奇数回の結像光学系として構成されており上下の対応が逆となるので、スリット6a1と偏向ミラー9とが対応し、スリット6a2と偏向ミラー10とが対応している。従って、偶数回の結像光学系又は非結像光学系を用いれば上下の対応が一致するようになるので、スリット6a1と偏向ミラー10とが対応し、スリット6a2と偏向ミラー9とが対応するようになることは言うまでもない。
【0049】
図6は遮蔽板駆動機構7の概略構成を示す図である。遮蔽板駆動機構7は、遮蔽板6とともに照明光の出射領域を調整する出射領域調整手段を構成するものである。遮蔽板駆動機構7は、取付部材12を介在させて遮蔽板6に取り付けられたステッピングモータ13の回転駆動を利用して遮蔽板6を回転させることにより、遮蔽板6の各スリットを選択的にライトガイド5の出射端5aに臨ませるものである。ステッピングモータ13の駆動を制御するためにフォトセンサ14、フットスイッチ15及び制御回路16が設けられている。フォトセンサ14は、遮蔽板6の回転位置を検出する位置検出手段で、遮蔽板6の周縁部の一部を挟むように配置されている。フットスイッチ15は、ステッピングモータ13の動作を制御するための足踏み操作を行うためのコントロール手段である。また、制御回路16は、フットスイッチ15の足踏み操作に基づく制御信号及びフォトセンサ14により検出された遮蔽板の回転位置に基づく検出信号に従ってステッピングモータ13の回転角度を制御するものである。
【0050】
なお、ステッピングモータ13の回転軸と遮蔽板6の回転軸とを偏心させて配置し、その回転軸間にギヤ構造やタイミングベルトなどの動力伝達構造や動力伝達部材を介在させてステッピングモータ13からの回転動力を遮蔽板6に伝達させるようにすれば、ステッピングモータ13の配置に自由度が増すだけでなく、遮蔽板6における回転軸から各スリットまでの距離をステッピングモータ13の外形寸法にとらわれることなく短くすることが可能となるため、遮蔽板6の回転角度に対する各スリットの移動量を少なくすることができて、必要な各スリットの停止位置精度を緩和させることができるようになる。また、図示しない手動ノブを遮蔽板6に取り付けて手動でスリットの切換動作を行ってもよい。
【0051】
(手術用顕微鏡の作用)
このような構成を備えた本実施の形態の手術用顕微鏡1によれば、以下のような被手術眼の観察を行うことが可能となる。
【0052】
例えば白内障の手術の際、被手術眼Eのレッドレフレックスを得るためには、偏向ミラー9及び10を一対の偏向部材として使用する。偏向ミラー9及び10は、前述のように、観察光軸Oに対して2度の傾斜角を有して被手術眼Eを照明するものである。レッドレフレックスを得るためには先ず、フットスイッチ15を足踏み操作して遮蔽板6のスリット6aをライトガイド5の出射端5aに臨ませる。スリット6aを通過した照明光は、照明光学系8により導光され偏向ミラー9及び10に投影される。偏向ミラー9及び10によって反射され、観察光軸Oに対し平行な方向に偏向された照明光は、それぞれ対物レンズ2によって屈折作用を受けた後、観察光軸Oに対し2度の傾斜角を有して被手術眼Eを同時に照明する。このとき、被手術眼Eを原点、観察光軸Oを垂直方向の軸とし、観察光軸Oに直交する方向に光源4側を正方向とする水平方向の軸を取ると、偏向ミラー9は観察光軸Oに対して+2度、偏向ミラー10は−2度の傾斜角をそれぞれ有して被手術眼を照明するものである。
【0053】
図7は、偏向ミラー9及び10により導光された照明光によって得られるレッドレフレックスの状態の概略を示す図である。同図に斜線部として示されたレッドレフレックスは、術者が接眼レンズを覗き込んで被手術眼Eを視認した際に得られる状態を表している。なお、術者は観察光軸Oを挟んで光源4とは反対の側に位置して手術を行っているものとし、各図の周縁部にある放射状に線が描かれた部分は被手術眼Eの虹彩を示すものとする。
【0054】
図7(A)は、偏向ミラー9によって導光された照明光によって得られるレッドレフレックスを示している。同図では偏向ミラー10が介在した照明光の寄与は便宜上無視されている。この照明光は術者が位置している側とは反対の側に2度(+2度)傾斜して被手術眼Eに入射するので、被手術眼Eの網膜上の術者側(−方向)を主に照明し、光源4側にはレッドレフレックスが得られない部分が生じる。
【0055】
図7(B)は、偏向ミラー10により導光された照明光によって得られるレッドレフレックスを示している。同図では偏向ミラー9が介在した照明光の寄与は便宜上無視されている。図7(A)のケースとは逆の側に2度(−2度)の傾斜角を有しているので、被手術眼Eの網膜上の光源4側(+方向)にレッドレフレックスが得られる。
【0056】
なお、図7(A)及び(B)に示されたレッドレフレックスは、それぞれ観察像中の網膜の半分以上の範囲を占めるものとなっているが、これは通常の傾斜各2度の角度付照明により得られるレッドレフレックスと同等の範囲を示すものである。
【0057】
図7(C)は、術者が実際に視認する被手術眼Eの観察像を示したもので、図7(A)及び(B)にそれぞれ示す偏向ミラー9及び10により導光された照明光によって得られるレッドレフレックスが重畳されたものとなっている。同図によれば、レッドレフレックスは被手術眼Eの網膜上の観察可能な領域全体に亘って得られていることが分かる。
【0058】
また、手術用顕微鏡1にはハーフミラーの介在がないため観察光束の光量の減少はなく、また、2個の偏向ミラー9,10により導光された照明光を利用しているため、得られるレッドレフレックスは通常よりも明るいものとなる。
【0059】
偏向ミラー11は、レッドレフレックスと並んで白内障手術を行う際に有用な、観察像に立体感を持たせるための照明方法を行うために利用される。そのためには、先ず、フットスイッチ15を足踏み操作して遮蔽板6のスリット6bをライトガイド5の出射端5aに臨ませる。スリット6bを通過した照明光は、照明光学系8により導光され偏向ミラー11に投影される。偏向ミラー11によって反射され、観察光軸Oに対し平行な方向に偏向された照明光は、対物レンズ2によって屈折作用を受けた後、観察光軸Oに対し6度の傾斜角を有して被手術眼Eを照明する。これにより観察像に立体感が加えられ、水晶体の前嚢の切開縁から吸引装置を挿入して白濁した水晶体の内容物を吸引する際、後嚢を傷つけることなく吸引動作を行うことができる。
【0060】
フットスイッチ15を足踏み操作して遮蔽板6のスリット6cをライトガイド5の出射端5aに臨ませた場合には、スリット6cを通過した照明光は、照明光学系8により導光され偏向ミラー9、10及び11の全てに投影され、被手術眼Eを照明することとなる。このような照明方法によれば、被手術眼Eの極めて明るい観察像を視認することが可能となるので、被手術眼E内の詳細な状態を視認するために有効に用いられる。
【0061】
[実施の形態2]
続いて、本発明の第2の実施の形態について、図を参照しながら説明をする。本発明の第2の実施の形態は、以上に詳しく説明した第1の実施の形態の一部を変形したものであり、図8は、その変形部分である偏向ミラーの構成を示したものである。なお、変形に係らない部分については、第1の実施の形態の手術用顕微鏡1の説明に使用された符号をそのまま利用することとする。
【0062】
図8によれば、第2の実施の形態に係る手術用顕微鏡21は、第1の実施の形態において説明された偏向ミラー9及び11を一体構成としたものである。このように一体化することにより、構成中の偏向ミラーの個数を減少させることができるので、省スペース化及び製造コストの削減を図ることが可能となる。
【0063】
手術用顕微鏡21には、照明光学系8と観察光軸Oとの間に配置された偏向ミラー22と、観察光軸Oに対して偏向ミラー22とは反対の側に配置された偏向ミラー23とが含まれ、それぞれ異なる方向から照明光を被手術眼Eを照明する。偏向ミラー22は、観察光軸Oに対し2度及び6度の傾斜角を有して被手術眼Eを照明できるだけの十分な大きさを有している。即ち、照明光が偏向ミラー22の観察光軸O側の領域で偏向された場合は2度の傾斜角、また偏向ミラー22の観察光軸Oから離れた側で偏向された場合は6度の傾斜角を実現できるだけの大きさである。一方、偏向ミラー23は、観察光軸Oに対し所定の傾斜角(2度)を有して被手術眼Eを照明するように配置されている。
【0064】
遮蔽板6のスリット6aをライトガイド5の出射端5aに臨ませることで、照明光は、偏向ミラー22の観察光軸O側の領域と偏向ミラー23とに投影され、偏向ミラー22により観察光軸Oと平行な方向に偏向され、対物レンズの屈折作用によりそれぞれ2度の傾斜角をもって被手術眼Eを照明する。従って、図7(C)に示したような明るく広範囲のレッドレフレックスを得ることが可能である。
【0065】
また、遮蔽板6のスリット6bをライトガイド5の出射端5aに臨ませることで、照明光は、偏向ミラー22の観察光軸O側から離れた側の領域に投影され、偏向ミラー22により観察光軸Oと平行な方向に偏向され、対物レンズの屈折作用により、6度の傾斜角をもって被手術眼Eを照明する。これにより、立体感を有する被手術眼Eの観察像を得ることができる。
【0066】
更に、遮蔽板6のスリット6cをライトガイド5の出射端5aに臨ませることで、照明光は、偏向ミラー22の全領域及び偏向ミラー23に投影され、偏向ミラー22、23により観察光軸Oと平行な方向に偏向され、対物レンズの屈折作用により被手術眼Eを照明する。これにより、被手術眼Eの極めて明るい観察像を視認することが可能となる。
【0067】
以上のように、遮蔽板6のスリットを切り換えることで照明光が投影される偏向ミラー22の領域を変化させることができ、それによって偏向ミラー22により案内される照明光は傾斜角が2度と6度とに切り換えられるようになっている。また、偏向ミラー22により案内される照明光の傾斜角が2度に切り換えられた場合には、遮蔽板6のスリット6aを選択したケースで説明したように、偏向ミラー23にも照明光が投影され、偏向ミラー22、23は照明光を同時に被手術眼Eに案内するようになっている。
【0068】
なお、第2の実施の形態の説明において遮蔽板6を準用したが、遮蔽板6のスリットの位置や大きさ等の細かな設計事項は、第1の実施の形態の説明中の遮蔽板6と多少相違するものである。しかしながら、スリットの位置や大きさ等の概略は同様のものであるため上記準用を行ったものである。
【0069】
上述した2つの実施の形態においては、白内障の手術に好適な手術用顕微鏡として説明がなされたが、その他の眼科手術において本発明の手術用顕微鏡を使用することに何ら支障はない。従って、その他の眼科手術において本発明の手術用顕微鏡を使用する際、偏向ミラーの位置を調整するなどしてその手術に適した傾斜角を適宜採用することができることは言うまでもない。
【0070】
[実施の形態3]
本発明の第3の実施形態は、前述の手術用顕微鏡に或る機能を付加することによって、レッドレフレックスが有効活用される白内障手術等の前眼部手術だけでなく、網膜や硝子体といったより内部の器官を治療するための網膜・硝子体手術にも好適に利用可能な手術用顕微鏡を構成する。図9は、このような手術用顕微鏡の一例の概略構成を示している。ここで、図9(A)は当該手術用顕微鏡の側面図で、図9(B)は正面図である。手術を行う術者は、図9(A)に向かって右側に配置しており、図9(B)は術者側から見たときの図となっている。また、第1の実施形態の手術用顕微鏡1と同一の構成となっている部分については、その部分に付された符号を準用することとする。
【0071】
図9(A)及び図9(B)に示す手術用顕微鏡31は、図8に示された第2の実施形態の手術用顕微鏡21に、符号32で示す部材及び以下に登場する当該部材等を移動させるための手段を付加して構成されている。手術用顕微鏡31は、図9(A)から分かるとおり、照明光学系8と観察光軸Oとの間に配置された偏向ミラー22と、観察光軸Oに対して偏向ミラー22とは反対の側に配置された偏向ミラー23とが含まれ、それぞれ異なる方向から照明光を被手術眼Eを照明することができる。更に、偏向ミラー23の近傍かつ観察光軸Oとは反対の側には、本発明で言う光軸位置変更手段としてのステレオバリエータ32が配置されている。両図には示さないが、偏向ミラー23とステレオバリエータ32とは、例えば接続部材を介すなどして一体に接続され、ユニットを構成している。なお、観察光軸Oは、便宜的に、図9(B)に示す左観察光軸OLと右観察光軸ORとを意味するものと了解する。左観察光軸OL及び右観察光軸ORは、それぞれ、左観察光学系3L及び右観察光学系3Rに導かれる観察光束の光軸を示している。
【0072】
また、ステレオバリエータ32は、図9(B)に示すように、それぞれ平行な2面を有する光学部材32L及び32Rを結合したものである。光学部材32Lの上記平行な2面は、左観察光軸OLに対して所定の角度だけ傾斜している。また、光学部材32Rの上記平行な2面は、右観察光軸ORに対して所定の角度だけ傾斜している。したがって、光学部材32L及び32Rが左観察光軸OL上及び右観察光軸OR上にそれぞれ位置するようにステレオバリエータ32を配置させれば、左観察光軸OL及び右観察光軸ORの相対的位置を変更することができる。
【0073】
続いて、ステレオバリエータ32を移動させる移動手段について、その構成のブロック図を示す図10を参照して説明する。この移動手段は、スイッチ33、電源34及びソレノイド35を含んで構成されている。スイッチ33は、偏向ミラー23とステレオバリエータ32とを含む上述のユニット36の位置を切り換えるための切換スイッチで、術者の手の届き易い位置、例えば各光学系を格納している鏡筒に配置されている。また、手術用顕微鏡31がフットスイッチを備えている場合には、フットスイッチを使って切り換えを行うようにしたり、フットスイッチにスイッチ33を配置してもよい。電源34は、スイッチ33の切り換えに対応してソレノイド35に電圧を印可する。ソレノイド35は、例えばプランジャ形のリニア電磁ソレノイド(LES)からなり、電源34により電圧が印可されることで動作しユニット36を移動させる。
【0074】
図11は、上記移動手段によってユニット36を移動させたときの状態を示している。図11(A)はその状態における手術用顕微鏡31の側面図で、図11(B)は術者側から見たときの正面図である。なお、図11(B)では、ステレオバリエータ32の作用を明確に示すために偏向ミラー22及び23の図示は省略されている。
【0075】
図11(A)によれば、ステレオバリエータ32は観察光軸O上に配置され、また、偏向ミラー23は偏向ミラー22側、即ち照明光学系8側に退避されている。一方、図11(B)によれば、左観察光軸OL及び右観察光軸ORは、それぞれ光学部材32L及び32Rによってその位置が変更され、これらの相対的位置は、図9(B)に示す状態と比較して小さなものとなっている。
【0076】
なお、スイッチ33を逆側に切り換えることによって、ユニット36、つまり偏向ミラー23及びステレオバリエータ32は、図11に示す位置から図9に示す元の位置に移動するようになっている。したがって、術者は、スイッチ33を切り換えることにより、偏向ミラー23及びステレオバリエータ32の位置を適宜切り換えることができる。
【0077】
以上のような本発明の第3の実施形態の手術用顕微鏡31において、偏向ミラー23とステレオバリエータ32とを一体のユニット36として移動させるのではなく、偏向ミラー23及びステレオバリエータ32のそれぞれに移動手段を設け、個別に移動させるように構成することもできる。
【0078】
また、ステレオバリエータ32の配置や、偏向ミラー23及びステレオバリエータ32の移動方向(退避方向)は、目的に応じて適宜設計を変更することが可能である。
【0079】
更に、第1の実施形態の手術用顕微鏡1に上記の構成を付加してもよいことは言うまでもない。この場合も、遮蔽板6のスリット6bを照明光軸L上に配置し、偏向ミラー11を利用して照明光を被手術眼Eに入射する。
【0080】
ところで、偏向ミラー23とステレオバリエータ32とを互いに排他的に切り換えて使用するよう構成したのは、前眼部手術と網膜・硝子体手術とで必要とされる機能が異なるからである。つまり、前眼部手術においては、レッドレフレックスが有効に利用される一方、被手術眼のより奥に位置する網膜や硝子体を観察する必要が無く、逆に、網膜・硝子体手術においては、網膜や硝子体の観察が不可欠である一方で、レッドレフレックスを活用する機会は皆無であるからである。また、本発明の手術用顕微鏡31は、眼内に照明用のライトガイドを挿入して行う方法、及び、外部から照明光を照射して行う方法のいずれの方法による網膜・硝子体手術にも適用することができる。
【0081】
以上で説明したように、ユニット36の位置を切り換え可能に構成することにより、手術用顕微鏡31は、前眼部手術及び網膜・硝子体手術の双方において好適なものとなる。つまり、前眼部手術においては、図9に示すようにステレオバリエータ32を観察光軸O上から退避させて使用することによって、良好なレッドレフレックスを発生させることができる。一方、網膜・硝子体手術においては、ステレオバリエータ32を観察光軸O上に挿入するとともに遮蔽板6のスリット6bを適用して照明することにより、被手術眼Eの網膜や硝子体を明瞭に観察することが可能となる。
【0082】
ここで、網膜・硝子体手術を行う場合に、遮蔽板6に設けられた各種のスリットのうちからスリット6bを選択して得られる照明光を使用するのには理由がある。照明光束が入射されるとともに観察光束が出射される領域である瞳孔Pは、極めて小さな領域である。この小さな領域内において照明光束の入射位置と観察光束の出射位置とが重なっているか又は近接している場合、照明光束の角膜による反射光が観察光束に混じり込んで、観察像の画質を低下させてしまうことがある。このような不都合を回避するには、照明光束の入射位置と観察光束の出射位置とを十分に分離して、照明光束の角膜反射光が観察光束に影響を与えないようにする必要がある。それを考慮すると、スリット6bを適用して得られる照明光束は、偏向ミラー22の観察光軸Oから最も離れた位置で偏向され、観察光軸Oに対して大きな傾斜角をもって被手術眼Eに入射されるので、照明光束の入射位置と観察光束の出射位置とをより離間させることができ、上記不都合を解消することを可能とする。
【0083】
また、手術用顕微鏡31によれば、ステレオバリエータ32を観察光軸O上に挿入すると同時に偏向ミラー23を退避するように構成されているので、偏向ミラー23による観察光束のケラレが防止され、観察像の周辺部が暗くなったり、それにより観察不能となったりすることがない。なお、偏向ミラー22を退避させる構成を更に追加してもよい。
【0084】
更には、偏向ミラー23とステレオバリエータ32とが観察光軸Oに対して直交する方向に移動するように構成されており、装置の観察光軸O方向の長さが不要に長くなることがなく、被手術眼Eから接眼レンズ部までの距離(操作距離)を適切に保つことができる。
【0085】
また、偏向ミラー23を照明光学系8の方向に退避させるようになっており、鏡筒の術者側に退避スペースを設ける必要がないため、手術を妨げることがなく、操作性が保たれる。
【0086】
以上詳細に説明された各種の手術用顕微鏡は、あくまでも実施の形態の一例であって、本発明の内容が当該実施の形態に限定されることを意味したものではない。
【0087】
【発明の効果】
本発明によれば、明るく広範囲なレッドレフレックスを一の観察像において得ることが可能な手術用顕微鏡を提供することができる。
【0088】
また、本発明によれば、上記広範囲なレッドレフレックスとして、被手術眼の網膜のうち観察可能な領域全体についてレッドレフレックスを得ることが可能な手術用顕微鏡を提供することができる。
【0089】
更に、本発明によれば、明るく広範囲なレッドレフレックスを一の観察像において得ることが可能な手術用顕微鏡を省スペース化及び低コスト化を図りつつ提供することができる。
【0090】
更にまた、本発明によれば、前眼部手術にも網膜・硝子体手術にも好適に対応可能な手術用顕微鏡を提供することができる。特に、網膜・硝子体手術においては、観察光にケラレが生じ難いうえ、操作性も良好に保たれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡の偏向ミラーの配置を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡の偏向ミラーの配置を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡の遮蔽板を示す概略構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡の遮蔽板による照明光の遮蔽状態を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡の遮蔽板駆動機構を示す概略構成図である。
【図7】本発明の実施の形態1の手術用顕微鏡により得られるレッドレフレックスの態様を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2の手術用顕微鏡の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態3の手術用顕微鏡の構成を示す概略図である。図9(A)は、当該手術用顕微鏡の側面図である。また、図9(B)は、当該手術用顕微鏡の正面図である。
【図10】本発明の実施の形態3の手術用顕微鏡の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施の形態3の手術用顕微鏡の構成を示す概略図である。図11(A)は、当該手術用顕微鏡の側面図である。また、図11(B)は、当該手術用顕微鏡の正面図である。
【符号の説明】
1、21、31 手術用顕微鏡
2 対物レンズ
3 観察光学系
4 光源
5 ライトガイド
5a 出射端
6 遮蔽板
7 遮蔽板駆動機構
8 照明光学系
9、10、11、22、23 偏向ミラー
32 ステレオバリエータ
33 スイッチ
34 電源
35 ソレノイド
36 ユニット
O 観察光軸
OL 左観察光軸
OR 右観察光軸
Claims (13)
- 被手術眼に対峙する対物レンズを含む観察光学系と、
光源からの照明光を前記観察光学系の光軸の近傍まで案内する照明光学系と、
前記照明光学系により前記観察光学系の前記光軸の近傍まで案内された前記照明光を偏向し前記対物レンズを介して前記被手術眼に案内する偏向手段と、
を有する手術用顕微鏡であって、
前記偏向手段は、前記観察光学系の前記光軸に対し所定の傾斜角を有して前記照明光の一部を案内する第1の偏向部材と、前記観察光学系の前記光軸を挟み前記第1の偏向部材に対向する側に配置されて前記光軸に対し前記所定の傾斜角と略同一の傾斜角を有して前記照明光の他の一部を前記第1の偏向部材と同時に案内する第2の偏向部材とからなる一対の偏向部材と、観察光学系の光軸に関して前記一対の偏向部材より大きな斜角を有して前記照明光の更に他の一部を前記被手術眼に案内する第3の偏向部材とを含み、前記第1、第2、第3の各偏向部材が、照明光学系側から見たとき接して見えるように配置され、
更に、前記光源からの前記照明光の出射領域を調整することにより、第1、第2、第3の偏向部材のうちの1又は複数が選択され、選択された1又は複数の偏向部材を介して前記光源からの照明光を被手術眼に案内する出射領域調整手段を有することを特徴とする手術用顕微鏡。 - 前記一対の偏向部材のうち、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記観察光学系の前記光軸との間に配置されており、他方の偏向部材は前記観察光学系の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の手術用顕微鏡。
- 前記一対の偏向部材は、それぞれ前記観察光学系の前記光軸に対し1.5乃至2.5度の傾斜角を有して前記照明光の一部を前記被手術眼に案内することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の手術用顕微鏡。
- 前記傾斜角が2度である請求項3に記載の手術用顕微鏡。
- 前記出射領域調整手段が、前記各偏向部材の形状に対応する出射領域を形成するスリットを有する遮蔽板を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の手術用顕微鏡。
- 前記出射領域調整手段が、更に、前記遮蔽板を回転駆動するステッピングモータ、フォトセンサ、フットスイッチ及び制御回路とからなる遮蔽板駆動機構とを有することを特徴とする、請求項5に記載の手術用顕微鏡。
- 前記一対の偏向部材のうち一方の偏向部材と前記第3の偏向部材とが一体として形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の手術用顕微鏡。
- 前記観察光学系は、術者の左眼に観察光を案内する光学系と右眼に観察光を案内する光学系とからなる一対の光学系を含み、
前記一対の光学系にそれぞれ導かれる左右の観察光の光軸の相対位置を変更するための光軸位置変更手段と、
前記一対の偏向部材の少なくとも一方を退避させ、かつ、前記光軸位置変更手段を前記左右の観察光の光路上に配置させることが可能な移動手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1記載の手術用顕微鏡。 - 前記光軸位置変更手段は、前記一対の偏向部材の一方の近傍かつ前記観察光学系の前記光軸とは反対の位置に設けられ、
前記一方の偏向部材及び前記光軸位置変更手段は、前記移動手段により一体として移動されることを特徴とする請求項8記載の手術用顕微鏡。 - 前記一対の偏向部材のうち、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記左右の観察光の前記光軸との間に配置され、他方の偏向部材は前記左右の観察光の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置されており、
前記移動手段は、前記他方の偏向部材を前記一方の偏向部材の側に退避させるとともに、前記光軸位置変更手段を前記左右の観察光の前記光路上に配置するよう移動させることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の手術用顕微鏡。 - 被手術眼に対峙する対物レンズを含む観察光学系と、
光源からの照明光を前記観察光学系の光軸の近傍まで案内する照明光学系と、
前記照明光学系により前記観察光学系の前記光軸の近傍まで案内された前記照明光を偏向し前記対物レンズを介して前記被手術眼に案内する偏向手段と、
を有する手術用顕微鏡であって、
前記偏向手段は、前記観察光学系の前記光軸に対し所定の傾斜角を有して前記照明光の一部を案内する第1の偏向部材と、前記観察光学系の前記光軸を挟み前記第1の偏向部材に対向する側に配置されて前記光軸に対し前記所定の傾斜角と略同一の傾斜角を有して前記照明光の他の一部を前記第1の偏向部材と同時に案内する第2の偏向部材とからなり、一方の偏向部材は前記照明光学系と前記観察光学系の前記光軸との間に配置されており、他方の偏向部材は前記観察光学系の前記光軸を挟み前記一方の偏向部材に対向する側に配置された、一対の偏向部材と、観察光学系の光軸に関して前記一対の偏向部材より大きな斜角を有して前記照明光の更に他の一部を前記被手術眼に案内する第3の偏向部材を含み、前記第1、第2、第3の各偏向部材が、照明光学系側から見たとき接して見えるように配置され、
更に、前記光源からの前記照明光の出射領域を調整することにより、少なくとも、前記一対の偏向部材、前記第3の偏向部材、又は、前記一対の偏向部材及び前記第3の偏向部材、の1つが選択され、選択された1又は複数の偏向部材を介して前記光源からの照明光を被手術眼に案内することで、前記照明光の出射領域を調整する出射領域調整手段を有することを特徴とする手術用顕微鏡。 - 前記出射領域調整手段が、前記各偏向部材の形状に対応する出射領域を形成するスリットを有する遮蔽板を有することを特徴とする、請求項11に記載の手術用顕微鏡。
- 前記出射領域調整手段が、更に、前記遮蔽板を回転駆動するステッピングモータ、フォトセンサ、フットスイッチ及び制御回路とからなる遮蔽板駆動機構とを有することを特徴とする、請求項12に記載の手術用顕微鏡。
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