図1及び図2は、本発明の実施形態によるエンジンの概略構成を示している。これらの図において、エンジン本体1には、気筒2が配設され、各気筒2には、ピストン3が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室4が形成されている。上記ピストン3は、図外のコンロッドを介してクランクシャフト5に連結されている。
上記気筒2の燃焼室4には、その頂部に点火プラグ13が装備されているとともに、吸気ポート6及び排気ポート7が開口し、この吸気ポート6には、燃料噴射弁8が設けられている。この燃料噴射弁8は、図外のニードル弁及びソレノイドを内蔵し、パルス信号が入力されることにより、このパルス入力時にパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を吸気ポート6に噴射するように構成されている。
上記吸気ポート6及び排気ポート7には、吸気弁6a及び排気弁7aがそれぞれ装備されている。これらの吸気弁6a及び排気弁7aは、カムシャフト等を有する動弁機構により駆動されるようになっている。そして、各気筒2が所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、各気筒2の吸気弁6a及び排気弁7aの開閉タイミングが設定されている。
上記吸気ポート6及び排気ポート7には、吸気通路9及び排気通路10が接続されている。この吸気通路9には、ロータリバルブからなるスロットル弁12が配設されている。このスロットル弁12は、アクチュエータ12aにより駆動されるようになっている。また、エンジン本体1のクランクシャフト5に対し、その回転角を検出するクランク角センサ14が設けられている。
図2に示すように、上記クランクシャフト5には、その一端部にエンジン本体1の回転を変速して車輪15に伝達するトランスミッション16が配設されているとともに、他端部にエンジンの再始動装置が配設されている。この再始動装置は、車両に搭載されたバッテリ18からインバータ19を介して供給された電力により回転駆動される再始動モータ20と、この再始動モータ20の駆動力をクランクシャフト5に伝達するチェーン又はベルトを有する動力伝達機構21とを有している。上記再始動モータ20は、内蔵された図略のクラッチにより、上記バッテリ18からの供給電力により上記クランクシャフト5を駆動させる作動状態、上記クランクシャフト5に対する駆動連結を解除したニュートラル状態、又は上記クランクシャフト5からの逆作動により発電して上記バッテリ18に充電する充電状態の何れかの状態に切換可能とされている。
そして、上記再始動装置は、エンジンの再始動時に後述するECU(エンジンコントロールユニット:図3参照)30から出力される制御信号に応じ、上記再始動モータ20が上記作動状態となってクランクシャフト5を回転駆動し、上記ニュートラル状態となってクランクシャフト5に対する負荷を解除し、上記発電状態となって発電してこの電力を上記バッテリ18に充電するように構成されている。また、上記再始動モータ20には、その回転角を検出する回転角センサ22が設けられている。
上記ECU30には、図3に示すように、アクセルペダルの踏込状態を検出するアクセルセンサ32と、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ33、運転者によるイグニッションキーの操作に応じてON又はOFF操作されるイグニッションスイッチ34、ブレーキペダルの踏込状態を検出するブレーキスイッチ35又は、バッテリ残量を検出するバッテリ残量センサ36からそれぞれ出力される各検出信号が入力されるようになっている。
また、上記ECU30には、エンジン回転数を検出するクランク角センサ14、上記再始動モータ20の回転角を検出する回転角センサ22、エンジンの冷却水温度若しくは潤滑油温度等の気筒内温度に関する値に基づいてエンジンの気筒内温度を検出するエンジン温度センサ37又は、吸気管内の負圧を検出する吸気管負圧センサ40からそれぞれ出力される検出信号が入力されるようになっている。
そして、上記ECU30には、スロットル弁12の開度を制御するスロットル弁制御手段41と、燃料噴射弁8から噴射される燃料の噴射タイミング及び噴射量を制御する燃料噴射制御手段42と、点火プラグ13による混合気の点火タイミングを制御する点火制御手段43と、エンジンの自動停止制御を実行する自動停止制御手段44と、エンジンの自動停止時及び再始動時に上記インバータ22に制御信号を出力して再始動モータ20の駆動を制御する再始動モータ制御手段45とが設けられている。
上記スロットル弁制御手段41は、クランク角センサ14からのクランク角速度情報に基づいて算出されたエンジン回転速度や、アクセルセンサ32からのアクセル開度情報等に応じて必要なスロットル弁12の開度を演算し、この演算結果に対応した制御信号を上記アクチュエータ12aに出力してスロットル弁12を開閉制御するように構成されている。
また、上記燃料噴射制御手段42及び点火制御手段43は、上記アクセル開度情報やエンジン回転数情報に加え、エアフローセンサ39により検出された吸気流量情報や、エンジン温度センサ37により検出されたエンジン温度情報等に基づき、必要な燃料噴射量とその噴射時期及び適正な混合気の点火時期を演算し、この演算結果に対応した制御信号を燃料噴射弁8及び点火プラグ13に出力するようになっている。
また、スロットル弁制御手段41、燃料噴射制御手段42、点火制御手段43及び再始動モータ制御手段45は、エンジンの自動停止を行う場合に、上記制御に加えて、次に述べる自動停止制御手段44から出力される制御信号に対応した制御を実行するものである。すなわち、自動停止制御手段44は、上記シフトポジションセンサ33、ブレーキスイッチ35及びバッテリ残量センサ36等の出力信号に応じてエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判別し、この自動停止条件が成立したことが確認された場合に、所定のタイミングで燃料噴射弁8からの燃料噴射を停止させるとともに、点火プラグ13による混合気の点火を停止させることにより、エンジンを自動停止させるようになっている。
そして、上記自動停止制御手段44によりエンジンを自動停止させる際には、エンジンの自動停止時に膨張行程になる気筒(以下、膨張行程気筒と称す)及び圧縮行程になる気筒(以下、圧縮行程気筒と称す)、つまり、エンジンの停止後に吸気弁6a及び排気弁7aが閉止状態となって燃焼室4が密閉される気筒を予測して特定するとともに、これらの気筒に対してエンジンの停止直前に所定のタイミングで燃料を噴射する(以下、停止前噴射と称す)制御が実行されるようになっている。
また、上記自動停止条件が成立して燃料噴射が停止された後に所定の設定時間が経過するまでの間、上記再始動モータ20を上記作動状態としてクランクシャフト5に駆動トルクを付与することにより、エンジン回転数の低下を抑制する制御、例えば、エンジン回転数を一定値(アイドル回転数)に維持する制御が実行されるとともに、上記設定時間よりも短い所定時間にわたってスロットル弁12を予め設定された所定開度に開放操作する制御が上記スロットル弁制御手段41により実行されるように構成されている。
さらに、上記設定時間が経過した後においては、エンジンが惰性で回転し、徐々に回転数が低下することになるが、上記自動停止制御手段44及び再始動モータ制御手段45は、この回転数の低下が予め実験等で求められた目標回転数となるように、上記再始動モータ20の上記作動状態、ニュートラル状態、又は発電状態を切り換えることにより、上記クランクシャフト5に対する駆動力又は負荷を調整するようになっている。
上記自動停止制御手段44は、エンジンの自動停止状態で上記各センサの出力信号に応じてエンジンの再始動条件が成立したか否かを判定し、再始動条件が成立したことが確認された場合に、上記再始動モータ20を上記作動状態にするとともに、上記停止前噴射された燃料により生成された混合気に点火し、かつ、エンジンの再始動時に吸気行程及び排気行程にある気筒にそれぞれ燃料を順次噴射して所定のタイミングで点火することにより、エンジンを自動的に再始動させるように構成されている。
上記自動停止制御手段44によるエンジンの再始動制御を実行する際には、エンジンの停止時点から再始動時点までの停止継続時間が測定され、この停止継続時間に基づいて上記再始動モータ制御手段45により再始動モータ20の駆動トルクが調節されるようになっている。すなわち、上記ECU30内に設けられたタイマーによりエンジンが自動停止状態となった後に再始動条件が成立するまでの時間が停止継続時間として計測され、この停止継続時間が長い場合には、短い場合に比べて上記再始動モータ20の駆動トルクが小さな値に設定されるようになっている。このように、停止継続時間に応じて再始動モータ20の駆動トルクを調整することにより、再始動モータ20から不要な駆動トルクがクランクシャフト5に付与されることに起因した電力の消費及び騒音の発生を抑制しつつ、必要な駆動トルクを付与してエンジンを適正に再始動させることができる。
例えば、エンジンの停止継続時間が長い場合には、エンジンの停止直前に噴射された燃料が充分に気化又は霧化した状態となり、混合気の燃焼による出力トルクが充分に得られるため、停止継続時間が短い場合に比べて上記再始動モータ20の駆動トルクを小さな値に設定することにより、不要な電力消費を抑制することができる。一方、エンジンの停止継続時間が短い場合には、エンジンの停止直前に噴射された燃料の気化又は霧化が不充分となり、混合気の燃焼による出力トルクが充分に得られない傾向があるため、再始動モータ20の駆動トルクを大きな値に設定することにより、エンジンを適正に再始動させることができるという利点がある。
さらに、上記エンジンの自動停止中にイグニッションスイッチ34が運転者によりOFF操作されたことが検出された場合には、この時点で、エンジンの停止直前に上記気筒2(膨張行程気筒又は圧縮行程気筒)に燃料が噴射されることにより生成された混合気に点火する制御が、上記点火制御手段43において実行されるようになっている。
上記のように構成されたエンジンの制御装置により実行されるエンジンの自動停止及び再始動時における制御動作を、図4及び図5に示すタイムチャートに基づいて具体的に説明する。なお、図4では、4気筒のエンジンを例に挙げ、これら各気筒2を#1気筒2A、#2気筒2B、#3気筒2C及び#4気筒2Dと称し、エンジンの自動停止制御が開始された時点からのエンジン回転数、充填効率又はクランク角の推移及び、スロットル弁12の開閉及び再始動モータ20の作動又は停止のタイミングをそれぞれ示している。また、図4及び図5は、#1気筒2Aが膨張行程気筒となる場合について示したものである。
上記エンジンの制御装置では、自動停止条件が成立した後の時点t0において噴射燃料をカットするとともに混合気の点火を停止する。これにより、エンジンは惰性での回転を開始することになるが、上記時点t0においては、同時に再始動モータ20を上記作動状態に切り換えて、エンジンの回転数をアイドル回転数に維持するようになっている。さらに、上記時点t0においては、スロットル弁12の開放動作も実行され、上記再始動モータ20によるエンジン回転数を維持することと相俟って各気筒2内の掃気が実行されるようになっている。
そして、上記時点t0から後述する開放時間Yが経過した時点t1において、スロットル弁12を閉止させるとともに、上記時点t0からモータ作動時間Zが経過した時点t2において再始動モータ20を上記ニュートラル状態に切り換える。
上記時点t2において再始動モータ20を上記ニュートラル状態に切り換えると、エンジンは、惰性での回転を開始してその回転数が徐々に低下していく。ここで、本実施形態のエンジンの制御装置では、例えば、時点t3、t4、t5に示すように、予め実験等で求められたエンジンの目標回転数L1と、実際の回転数L2とを比較することにより、その回転数偏差δ1、δ2、δ3を検出して、当該偏差δ1、δ2、δ3を埋めるように、すなわち、上記減衰ラインL1上に実際の回転数L2を乗せるように再始動モータ20を上記作動状態、ニュートラル状態又は発電状態の何れかに切り換えるようになっている。
また、エンジンが停止する直前においては、膨張行程気筒及び圧縮行程気筒に対して燃料噴射F1、F2(以下、停止前噴射F1、F2と称す)を実行し、エンジンが自動停止した後再始動する場合には、図5に示すように、これら停止前噴射F1、F2の燃料により生成された混合気を順次点火B1、B2することにより、エンジンを再始動させるようになっている。
以下、上記エンジンの制御装置により実行される処理について、図4、図5のタイムチャート及び図6〜図8に示すフローチャートに基づいて説明する。
この制御動作がスタートすると、各種センサ類から出力された検出信号を入力した後(ステップS1)、エンジンが自動停止状態にあるか否かを判定し(ステップS2)、NOと判定された場合には、上記検出信号に基づき、エンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、上記各種センサ類の検出信号に基づき、車速がゼロの状態で、ブレーキスイッチ35のON状態が所定時間にわたり継続し、かつ、バッテリ残量が予め設定された所定の基準値以上であることが確認された場合には、エンジンの自動停止条件が成立したと判定され、上記要件の一つでも満足されていない場合には、自動停止条件が成立していないと判定されるようになっている。
上記ステップS3でNOと判定されてエンジンの自動停止条件が成立していないことが確認された場合には、エンジン回転数と吸気量とに応じた通常の燃料噴射制御及び点火制御を実行する(ステップS4)。
上記ステップS3でYESと判定されてエンジンの自動停止条件が成立したことが確認された場合には、後述する燃料カット後におけるスロットル弁12の目標開度Gと、その開放時間Y及び燃料カット後における空転サイクル数Fの設定制御を実行するとともに、この空転サイクル数Fに基づいて再始動モータ20を上記作動状態とする設定時間、つまり、モータ作動時間Zを設定する制御を実行する(ステップS5)。
次いで、通常の燃料噴射及び点火を停止して燃料カットを実行するとともに、スロットル弁12を開放操作して、その開度を上記ステップS5で設定された目標スロットル開度Gとし、かつ、上記再始動モータ20を作動状態としてエンジン回転数をアイドル回転数に維持する制御を実行する(ステップS6:時点t0)。また、上記ステップS5で設定された開放時間Yが経過したか否かを判定し(ステップS7)、YESと判定された時点t1で、スロットル弁12を閉止状態とした後(ステップS8)、ステップS5で設定されたモータ作動時間Zが経過したか否かを判定する(ステップS9)。
上記ステップS9でYESと判定されてモータ作動時間Zが経過したことが確認された場合には、この時点t2で上記再始動モータ20を上記ニュートラル状態に切り換えた後(ステップS10)、エンジン回転数Nが、膨張行程気筒及び圧縮行程気筒を特定するために予め行った実験等に基づいて設定された基準回転数Rとなったか否かを判定する(ステップS11)。
次いで、上記ステップS11の基準回転数Rに基づいて特定された膨張行程気筒(図4では#1気筒2A)のクランクアングルが圧縮上死点TDCの前540°(ATDC−540deg)となった時点の後に、当該膨張行程気筒の吸気ポート6に対する燃料噴射F1を行うとともに、上記膨張行程気筒のクランクアングルが360°となった時点の後に、圧縮行程気筒(図4では#3気筒2C)の吸気ポート6に燃料噴射F2を行う(ステップS12)。
上記エンジンの停止直前における停止前噴射F1、F2を行った後、後述するモータアシスト制御を実行するとともに(ステップS13)、エンジン回転数Nが0になったか否かを判定し(ステップS14)、YESと判定されてエンジンが自動停止状態となったことが確認された時点t6で、上記停止継続時間Tの計測を開始する(ステップS15)。
一方、上記ステップS2でYESと判定され、現在エンジンが自動停止状態にあることが確認された場合には、運転者によるイグニッションスイッチ34のOFF操作が行われたか否かを判定する(ステップS16)。このステップS16でYESと判定され、運転者が停車することを意図してイグニッションスイッチ34をOFF操作したことが確認された場合には、膨張行程気筒及び圧縮行程気筒に上記停止前噴射F1、F2が行われることにより生成された混合気に対する点火を同時に行うとともに(ステップS17)、上記停止継続時間Tの計測値をリセットした後(ステップS18)、リターンする。
また、上記ステップS16でNOと判定され、イグニッションスイッチ34のOFF操作が行われていないことが確認された場合には、エンジンの再始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS19)。上記再始動条件としては、ブレーキスイッチ35がOFF状態となったこと、ブレーキ負圧(吸気管負圧)が所定値以下となったこと、停止継続時間Tが所定値以上となったこと、又はバッテリ残量が所定値未満となったこと等があり、これらの要件の一つでも満足された場合に、エンジンの再始動条件が成立したものと判定される。
上記ステップS19でエンジンの再始動条件が成立したと判定されると、上記再始動モータ20の駆動トルクをテーブルから読み出す等により設定する(ステップS20)。上記停止継続時間Tの計測値に対応した駆動トルクを設定するためのテーブルは、停止継続時間Tに基づいて設定され、この停止継続時間Tが長い場合には、短い場合に比べて駆動トルクが小さな値に設定されている。また、上記再始動条件の成立時点(図5では時点t7)で再始動モータ20を作動状態に切り換えるとともに、停止前噴射F1、F2により生成された混合気に対して所定のタイミングで点火(図5では点火B1、B2)を行うことによりエンジンを再始動させる(ステップS21)。
そして、上記再始動条件の成立時点t7で吸気行程にある気筒2(図5では#4気筒2D)及び排気行程にある気筒2(図5では#2気筒2B)に対する燃料噴射(図5では燃料噴射F3、F4)を行なうとともに(ステップS22)、これらの気筒2が圧縮上死点となった時点で順次、混合気の点火(図5の例では点火B3、B4)を行った後(ステップS23)、上記停止継続時間Tの計測値を0にリセットする(ステップS24)。
次に、上記ステップS5で実行されるスロットル弁12の目標開度G、開放時間Y、空転サイクル数F及びモータ作動時間Zを設定する制御の具体例を、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。上記制御動作がスタートすると、燃料カット前におけるエンジン温度センサ37及び吸気温センサ38の検出値に基づき、各気筒2の冷却に必要な吸入空気量A及び許容圧縮圧力Bを設定する(ステップS25)。上記吸入空気量Aは、停止前噴射された再始動用燃料が上記膨張行程気筒及び圧縮行程気筒に供給されて圧縮されるまでに気筒2内を通過する吸気量であって、上記エンジン温度及び吸気温度が高いほど、上記吸入空気総量Aも大きな値となる。また、上記許容圧縮圧力Bは、停止前噴射した燃料により生成された混合気が、圧縮上死点近傍で自己着火することのない限界圧力であって気筒内温度に依存した値である。
次いで、予め設定された掃気用吸気量C、つまり、燃料カット前に噴射された最後の燃料が燃焼した後、停止前噴射された再始動用の燃料が気筒に供給されるまでの間に気筒2内を通過する吸気量Cと、上記ステップ29で設定された吸入空気総量Aとを比較し、そのうちの大きい方を目標吸気総量Dとして設定する(ステップS26)。
また、燃料カット後の気筒内圧力を上記ステップS25で求めた許容圧縮圧力B以下とし、かつ、エンジンの停止時の振動を抑制し得る値に、吸気の充填効率変化パターンEを設定する(ステップS27)。この充填効率変化パターンEを上記のように設定するのは、エンジンの自動停止時に再始動用燃料が噴射された気筒(膨張行程気筒及び圧縮行程気筒)が圧縮上死点となった時点における吸気の充填効率が予め設定された上限値Ba(図4参照)以下となるように制限することにより、エンジンの停止前に上記気筒で圧縮自己着火が生じるのを防止するとともに、エンジンの騒音や振動によって運転者が違和感を受けるのを防止するためである。
次いで、上記目標吸気総量D及び吸気の充填効率パターンEを満足するように、燃料カット後の空転サイクル数F及び目標スロットル開度Gと、この目標スロットル開度Gにスロットル弁12を開放する開放時間Yとを予め設定されたマップから読み出して設定する(ステップS28)。上記燃料カット後の空転サイクル数Fを設定するためのマップは、図10に示すように、吸気の充填効率パターンEと、目標吸気総量Dとをパラメータとし、吸気の充填効率パターン(充填効率の変化割合)Eが大きいほど、空転サイクル数Fが小さな値となり、目標吸気総量Dが多いほど空転サイクル数Fが大きな値となるように設定されている。
上記燃料カット後の目標スロットル開度Gは、図11に示すように、吸気の充填効率パターンEと、目標吸気総量Dとをパラメータとし、吸気の充填効率パターン(充填効率の変化割合)Eが大きいほど、目標スロットル開度Gが大きな値となり、目標吸気総量Dが多いほど目標スロットル開度Gが大きな値となるように設定され、かつ、上記開放時間Yも上記目標スロットル開度Gと同様に吸気の充填効率パターン(充填効率の変化割合)Eが大きいほど、大きな値となり、目標吸気総量Dが多いほど大きな値となるように設定されている。
次いで、上記バッテリ残量センサ36の検出結果に基づいて、現時点でのバッテリ残量が予め設定された上限値P1よりも少ないか否かを判定する(ステップS29)。
上記ステップS29でYESと判定されると、上記燃料カット後の空転サイクル数Fを満足するように、再始動モータ20を作動状態としてクランクシャフト5に駆動トルクを付与する設定時間、つまり、燃料カット後にエンジン回転数を一定値(アイドル回転数)に維持するためのモータ作動時間Zを算出する(ステップS30)。具体的には、アイドル回転状態にあるエンジンを燃料カットした場合に、停止状態となるまでの時間を実験等により求め、この時間と空転サイクル数Fに対応した時間とに基づき、上記モータ作動時間Zを算出する。
一方、上記ステップS29でNOと判定される、すなわち、バッテリ残量が上記上限値P1よりも多いと判定されると、上記燃料カット後の空転サイクル数Fを満足し、かつ、再始動モータ20の駆動後のバッテリ残量が上記上限値P1未満となるモータ作動時間Z、つまり、上記ステップS30で算出されるものよりも長いモータ作動時間Zを算出する(ステップS31)。具体的には、例えば、上記ステップS30で算出されるモータ作動時間Zの経過時点におけるクランク角を、整数倍サイクル(720°×整数)だけ進ませるためのモータ作動時間Zを算出する。
次に、上記ステップS13で実行されるモータアシスト制御を、図4、図12、及び図13に基づいて説明する。上記制御動作がスタートすると、膨張行程気筒になると判定された#1気筒2Aのクランク角が所定値となる時点t3、t4又はt5が到来した所定のタイミングにおいて、実際のエンジン回転数L2と、予め実験により求められた目標回転数L1との回転数偏差δ1、δ2又はδ3を算出するとともに(ステップS32)、バッテリ残量が予め設定された下限値P2(図4参照)未満であるか否かを判定する(ステップS33)。
上記ステップS33でNOと判定される、すなわち、バッテリ残量が上記下限値P2よりも多いと判定されると、当該モータアシスト制御を通常モードに設定する(ステップS34)。ここで、通常モードとは、図4に示すように、上記回転数偏差δ1〜δ3が正の値、つまり、実際のエンジン回転数L2が目標回転数L1よりも大きい場合には上記再始動モータ20を発電状態として上記クランクシャフト5に対して負荷をかける一方、上記回転数偏差δ1〜δ3が負の値、つまり、実際のエンジン回転数L2が目標回転数L1よりも小さい場合には上記再始動モータ20を作動状態として上記クランクシャフト5を駆動(正転)させるためのモードである。
一方、上記ステップS33でYESと判定される、すなわち、バッテリ残量が上記下限値P2よりも少ないと判定されると、当該モータアシスト制御を発電用モードに設定する(ステップS35)。ここで、発電用モードとは、当該モータアシスト制御中に上記再始動モータ20を発電状態又はニュートラル状態の何れかのみに切り換える制御であり、例えば、図13の(a)に示すように、上記回転数偏差δ1〜δ3が正の値である場合には上記通常モードと同様に、上記再始動モータ20を発電状態として上記クランクシャフト5に対して負荷をかける一方、上記回転数偏差δ1〜δ3が負の値である場合には、再始動モータ20をニュートラル状態として上記クランクシャフト5を無負荷の状態とする。
さらに、上記発電用モードに設定する場合には、上記制御に代えて、又は加えて図13の(b)のように、上記回転数偏差δ1〜δ3が正になりやすい、つまり、実際のエンジン回転数L2が目標回転数L1よりも大きくなりやすいような処理を実行することもできる。具体的には、上記発電用モードに設定した時点で、上記目標回転数L1を上記通常モード時に設定するものよりも低いもの(以下、低目標回転数L1aと称す)に設定する。ここで、低目標回転数L1aは、上記ステップS12で判別された膨張行程気筒(図4では#1気筒2A)が、より手前のサイクルで膨張行程気筒となるように予め実験等で求められたものであって、上記ECU30に予め記憶されたものである。このように低目標回転数L1aを設定することにより、上記再始動モータ20を発電状態とする機会を増やしてバッテリ残量を増やすことができる。
上記ステップS34、S35を実行した後、上記ステップS32で算出された回転数偏差δ1、δ2又はδ3に対応した再始動モータ20の駆動トルク、つまり停止時アシスト力を求める(ステップS36)。
例えば、図4に示すように、#1気筒2Aのクランク角が圧縮上死点TDCの前の180°又は圧縮上死点TDCとなった時点t3又はt5におけるエンジン回転数Nが目標回転数L1以上であり、上記時点t3又はt5における回転数偏差δ1又はδ3が正の値であることが確認された場合には、エンジン回転数Nを目標回転数L1に近づけるために、上記回転数偏差δ1又はδ3に対応した逆トルク(再始動モータ20を発電状態として得られるブレーキトルク)を算出する。一方、#1気筒2Aのクランク角が圧縮上死点TDCの前の90°となった時点t4におけるエンジン回転数Nが目標回転数L1以下であり、上記時点t4における回転数偏差δ2が負の値であることが確認された場合には、上記回転数偏差δ2に対応した正駆動トルク(再始動モータ20を作動状態として得られる駆動トルク)を算出する。
そして、再始動モータ20に作動指令信号を出力することにより(ステップS37)、上記ステップS36で求められた停止時アシスト力をクランクシャフト5に作用させる。このステップS37では、上記通常モード又は発電モードのうち、設定されているモードに応じて停止時アシスト力を作用させることになる。つまり、上記通常モードに設定されている場合には、上記ステップS36で算出された停止時アシスト力を無条件でクランクシャフト5に作用させる一方、上記発電モードに設定されている場合には、図13の(a)に示すように、上記回転数偏差δ1、δ2又はδ3が正の値である場合に再始動モータ20によるブレーキトルクをクランクシャフト5に対して作用させるとともに回転数偏差δ1、δ2又はδ3が負の値である場合に再始動モータ20をニュートラル状態として、クランクシャフト5に対して負荷を作用させない。
次いで、エンジン停止前の最後の圧縮上死点TDCを経過したか否か、つまり時点t5を経過したか否かを判別し(ステップS38)、NOと判定されると、上記ステップS32からの処理を繰り返し実行する。
一方、上記ステップS38でYESと判定されると、膨張行程気筒になると判定された#1気筒2Aのクランク角が目標停止位置となった時点、つまり、当該#1気筒2Aのクランク角が圧縮上死点TDC後の120°となった時点におけるエンジン回転数Nに基づき、停止時に発生するエンジンの逆転量を予測する(ステップS39)。その後、上記逆転量に対応した作動指令信号を再始動モータ20に出力することにより、上記逆転量の予測値に対応した正駆動トルクをクランクシャフト5に付与する(ステップS40)。
すなわち、エンジン停止に至る場合、圧縮行程気筒ではピストン3が上死点に近づくにつれて当該気筒内の空気が圧縮されてピストン3を押し返す方向に圧力が作用し、これによりエンジンが逆転して上記気筒のピストン3が下死点側に押し返されるとともに、膨張行程にある気筒のピストン3上死点側に移動し、それに伴い当該気筒内の空気が圧縮され、その圧力で膨張行程にある気筒のピストン3が下死点側に押し返される逆転現象が生じるため、この逆転量に対応した正駆動トルクをクランクシャフト5に作用させることにより、このクランクシャフト5の停止位置を目標停止位置に正確に一致させることが可能となる。
なお、上記モータアシスト制御では、バッテリ18の残量が下限値P2よりも少ない場合に発電用モードに設定するようにしているが、図14に示すように、上記残量が下限値P2よりも少ない場合に、現在の運転条件を加味して上記発電モードに設定するか否かを判別させるようにしてもよい。以下の説明では、上述した図12のモータアシスト制御と相違する点(ステップS331)について主に説明する。
当実施形態のモータアシスト制御では、上記ステップS33においてNOと判定される、つまり、バッテリ18の残量が下限値P2よりも大きいと判定されると、上記実施形態と同様に通常モードに設定する(ステップS34)一方、上記ステップS33でNOと判定され、上記残量が下限値P2より少ないと確認された場合に、走行抵抗の低い運転状態にあるか否かを判別する(ステップS331)。
具体的に、このステップS331では、惰性で回転しているエンジンの回転数が上記目標回転数L1よりも高くなり易い運転状態(例えば、下り坂を走行している場合等)にあるか否かを判別する。このステップS331でYESと判定されると、上記発電モードに設定し(ステップS35)、以下、上記ステップS36以降の処理を実行する。
一方、上記ステップS331でNOと判定される、つまり、走行抵抗が比較的高い運転状態(例えば、上り坂を走行してる場合等)であると判定されると、クランクシャフト5に対する停止時アシスト力の付加(ステップS35〜ステップS37の処理)を省略して、上記ステップS38以降の処理を実行する。
この実施形態によれば、バッテリ18の残量が少ない場合に、運転状態に応じて発電用モードに設定するか、若しくは停止時アシスト力の付加を省略するかを選択することができるので、確実にバッテリ18の上がりを防止しながら、不要な処理を省略することにより当該処理の速度を向上させることができる。
なお、上記のように所定時点における実際のエンジン回転数Nと、予め実験により求められた目標回転数との回転数偏差δに基づき、上記再始動モータ20から付与される駆動トルクを制御することにより、上記気筒のクランク角が目標停止位置となった時点エンジンを停止させるようにした上記実施形態に代え、例えばエアフローセンサ39及びクランク角センサ14の出力信号等に応じて算出された吸気の充填効率に基づき、所定のタイミングでクランク軸トルクを算出し、この値に基づいて上記再始動モータ20によって付与される駆動トルクを制御するようにしてもよい。
例えば、図15に示すように、上記吸気の充填効率に基づいて#1気筒2Aの膨張トルクを求めるとともに、#3気筒2Cの圧縮トルク、#4気筒2Dの吸気抵抗、#2気筒2Bの排気抵抗及びエンジン全体の機械抵抗を求め、これらの値を上記#1気筒2Aの膨張トルクから減算することにより、クランク軸トルクを算出するようにしてもよい。そして、上記クランク軸トルクの算出値と、予め設定された目標軸トルクとの偏差に基づき、上記再始動モータ20によって付与される駆動トルクを制御するようにしてもよい。
また、図16に示すように、吸気の充填効率と、エンジン回転数とをパラメータとして予め設定されたマップからクランク軸トルクのピーク値を読み出し、この値と、予め設定された目標軸トルクとの偏差に基づき、上記再始動モータ20によって付与される駆動トルクを制御するようにしてもよい。
さらに、図17に示すように、所定時点t3から上記エンジン回転数L2と目標回転数L1との偏差を順次算出し、あるいは上記クランク軸トルクと目標クランク軸トルクとの偏差を順次算出し、これらの偏差に基づいて上記再始動モータ20により付与される駆動トルクをフィードバック制御することにより、上記膨張行程気筒のクランク位置が目標停止位置となった時点でエンジンを停止させるようにしてもよい。
以上説明したように、自動停止条件が成立して燃料供給を停止した後、所定時間にわたり再始動モータ20を作動状態として上記クランクシャフト5を駆動させる一方、上記所定時間の経過後、上記膨張行程気筒におけるエンジン停止時のピストン3の位置が予め設定された停止位置となるように上記再始動モータ20を作動状態、ニュートラル状態又は発電状態の何れかに切り換えることにより上記クランクシャフト5に対する駆動力又は付加を調整する再始動モータ制御手段45を備え、バッテリ残量センサ36の検出結果に基づいて、上記再始動モータ制御手段45による再始動モータ20の駆動制御の態様を変化させるようにした上記実施形態によれば、バッテリ18の過充電又は残量不足を抑制しながら、再始動モータ20を上記所定時間駆動することにより気筒内の掃気を促進させる、又は膨張行程気筒のピストン3を予め設定された停止位置(例えば、下死点寄りの位置)に停止させることができる。
したがって、上記実施形態によれば、バッテリ18の残量を適正に維持しながら、上記掃気によって再始動時の混合気の燃焼不良を抑制する、又は停止前噴射された燃料により生成された混合気の点火による出力を効果的に発揮させることにより再始動性能を向上させることができる。
上記駆動制御の態様としては、上記バッテリ18の残量が比較的多い場合、一律に上記所定時間だけ再始動モータ20を駆動するようにしてもよいが、上記バッテリ18の残量が予め設定された上限値P1よりも多い場合に、当該残量が上記上限値P1よりも少ない場合と比較して、上記所定時間を長く設定することが好ましい。
この構成によれば、上記上限値P1よりもバッテリ18の残量が多い場合に、再始動モータ20の駆動時間を長くすることにより、バッテリ18の残量を減らすことができるので、当該所定時間の経過後に実行される上記ピストン3の停止位置の調整時において、再始動モータ20を発電状態とした場合にバッテリ18が過充電となるのを抑制することができ、当該バッテリ18の残量をより適正に維持することができる。
さらに、上記駆動制御の態様としては、所定時間の経過後にバッテリ18の残量が比較的少ない場合には、上記ピストン3の停止位置の調整のための制御を停止させるようにしてもよいが、上記所定時間の経過後に上記バッテリ18の残量が予め設定された下限値P2よりも少ない場合には、上記再始動モータ20をニュートラル状態又は発電状態の何れかに切り換えることによりクランクシャフト5に対する負荷のみを調整して、上記膨張行程気筒のピストン3の停止位置を調整することが特に好ましい。
この構成によれば、上記所定時間の経過後にバッテリ18の残量が上記下限値P2よりも少ない場合に、上記再始動モータ20をニュートラル状態又は発電状態の何れかにしているので、バッテリ18の電力を消費しないだけでなく必要に応じて充電しながら、ピストン3の停止位置を調整することができ、より確実にバッテリ18の残量不足を抑制することができる。