以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
[薄膜圧電共振器の構造]
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1は、基板2と、基板2上の第1の電極(下部電極)5と、第1の電極5上に配設されこの第1の電極5上面形状と同一の下面形状を有する第1の圧電体61及びこの第1の圧電体61上の第2の圧電体63を備えた圧電体(圧電体結晶薄膜)6と、圧電体6上の第2の電極82とを備えている。更に、薄膜圧電共振器1は、基板2上の絶縁体3と、絶縁体3と第1の電極5との間に配設された下地層4と、第1の電極5の一部(側面の一部)に電気的に接続された引出電極81と、圧電体6の側面の一部と第2の電極82との間に配設された絶縁性を有するスペーサ7と、圧電体6下において基板2及び絶縁体3を貫通し下地層4の裏面を露出する穴(ビアホール)9とを備えている。
薄膜圧電共振器1の性能は、電気機械結合係数kt2と、品質係数Q値とによって表すことができる。電気機械結合係数kt2が大きいほど広帯域のフィルタ及び発振周波数の可変範囲の大きいVCOを構成することができる。電気機械結合係数kt2を上げるには、結晶固有の電気機械結合係数kt2の大きい圧電体6を使用し、かつ結晶の分極軸を膜の厚み方向に揃えることが有効である。また、Q値は、薄膜圧電共振器1の発振の鋭さに関連しており、フィルタを構築したときは挿入損失やスカート特性に影響し、VCO回路に適用した場合は位相雑音に影響を与える。弾性波を吸収するような多様な現象がQ値の変動に関係しており、圧電体6の結晶純度を高め、圧電体6の結晶方位を揃え、又分極方向の揃った圧電体6を使用することによって大きなQ値を得ることができる。
圧電体6には、AlN又はZnO等の六方晶系結晶構造を有する圧電結晶薄膜を実用的に使用することができる。六方晶系結晶構造を有する圧電結晶薄膜は、本来c軸配向し易い性質を有し、分極方向であるc軸すなわち(0001)結晶軸方向に単一配向させることによって分極軸を揃えることができる。このように分極軸を揃えることにより、電気機械結合係数kt2及び品質係数Q値を最適に確保した圧電体6を構成することができる。
第1の実施の形態において、圧電体6は、c軸配向性を向上するために、第1の電極5上に形成した第1の圧電体61と、この第1の圧電体61上に積層された第2の圧電体63との複数層(第1の実施の形態においては2層)構造によって構成されている。第1の圧電体61は、第1の電極5の平面形状を決定する製造過程のパターンニング工程において第1の電極5の表面酸化膜の生成を防止することができ、更に第1の電極5の表面の結晶粒子の結晶配向を高配向において引き継ぎ第2の圧電体63を成膜することができる、中継層としての機能を備えている。
本願発明者等は、基板表面上にその結晶性を利用して圧電体膜を成長させるエピタキシャル成長技術を使用することなく、第1の電極5の表面上にその結晶配向性を引き継いで圧電体6を成長する手法について、広範囲に渡る理論的及び実験的な検討を重ねた結果、少なくとも下記工程(1)乃至工程(4)を含む製造方法を採用することにより、圧電膜6の配向性を飛躍的に改善することができる事実を見出した。
(1)まず、電極層(第1の電極5の形成層)の表面上に、この電極層の成膜後に連続して第1の圧電体層(第1の圧電体61の形成層)を成膜する。電極層は基板2表面の全域に成膜され、第1の圧電体層は同様に電極層表面の全域に成膜される。
(2)引き続き、第1の圧電体層をパターンニングして第1の圧電体61を形成し、電極層をパターンニングして第1の電極5を形成する。第1の圧電体61、第1の電極5のそれぞれは基本的には同一製造マスクにより重ね切りの手法においてパターンニングされ、図1に示す第1の電極5と引出電極81との接続部分を除き、少なくとも第1の電極5上面形状と第1の圧電体61の下面形状とは同一になる。
(3)このパターンニング後に第1の圧電体61の表面をクリーニングにより適切に洗浄する。
(4)この第1の圧電体61の洗浄された表面上に第2の圧電体63を成膜し、第1の圧電体61上に第2の圧電体63を積層した圧電体6を形成する。
圧電体6として使用されるAlN圧電結晶薄膜は六方晶系結晶構造であり、c軸配向性を向上するためには、第1の電極5に格子整合性の良いfcc結晶構造の(111)配向を有する導電性薄膜又はbcc結晶構造の(110)配向を有する導電性薄膜を使用する必要がある。例えば、基板2の平坦性を向上する、若しくは格子整合性を高める下地膜4を予め成膜することにより、高い結晶配向性を備えた第1の電極5を形成することができ、この第1の電極5表面の結晶配向性を引き継ぐように第1の圧電体61を成膜することができる。このような製造プロセスを備えて成膜された圧電体6は、第1の電極5の結晶配向性を引き継がない場合に比べて遥かにc軸配向性を向上することができる。
下地の結晶配向性を引き継ぐには、下地の結晶情報の伝達を阻害する物質、例えば酸化膜、有機汚染物等の存在は許されず、清浄な下地表面が必須である。従って、高真空中において、高結晶配向性を有する第1の電極5表面上に第1の圧電体61を連続的に成膜することが理想的である。
ところが、薄膜圧電共振器1の製造プロセスにおいては、フォトリソグラフィ技術を利用して第1の電極5をパターンニングする工程は必須である。このパターンニング工程を実施すれば、第1の電極5表面に表面酸化膜が生成され、或いは有機汚染が生じる。表面酸化膜や有機汚染物質においては、パターンニング工程により第1の電極5を形成した後、圧電体6を成膜する直前に、第1の電極5表面にスパッタクリーニングを実施すれば除去することができる。第1の電極5表面の平坦度を損なうことなく、かつ結晶構造にダメージを与えないためには、低エネルギイオンを利用するスパッタクリーニングが必要である。
低エネルギイオンを利用したスパッタクリーニングにおいては、強固な酸化膜例えば第1の電極5にアルミニウムを使用する場合にはアルミナを除去することができないので、第1の電極5表面の結晶性を圧電体6に引き継ぐことができない。一方、高エネルギイオンを利用したスパッタクリーニングを使用した場合には、第1の電極5表面の平坦性及び結晶性の劣化が生じるので、第1の電極5表面の結晶性を圧電体6に引き継ぐことができない。
更に、圧電体6のc軸配向性を高めるためには、パターンニングせずに基板2表面上の全域に第1の電極5を成膜し、この第1の電極5表面上の全域に圧電体層を連続して成膜する手法がある。この圧電体層は、パターンニングされ、周囲に対して孤立化された圧電体6として形成される。そして、この圧電体6上には第2の電極82が形成される。ところが、第1の電極5は基板2表面上の全域に形成されるので、第1の電極5と第2の電極82との間に電気的分離機能を有する層間絶縁膜が必要になり、製造工程数が増加する。
圧電体6をパターンニングせずにその形状を孤立化しない場合には、第1の電極5、第2の電極82のそれぞれに付加される寄生容量が増加し、薄膜圧電共振器1の特性を劣化してしまう。従って、薄膜圧電共振器1においては、圧電体6の形状を周囲に対して孤立化するとともに、この圧電体6の平面形状と同一又は類似した平面形状、すなわち少なくとも圧電体6の下面形状と同一の上面形状を有する第1の電極5を構成することが好ましい。
[薄膜圧電共振器の基本的な製造方法]
第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1は、圧電体6のc軸配向性を向上する最適な金属材料(導電性材料)を下地層4として形成し、この下地層4上に第1の電極層を成膜し、この第1の電極層表面の結晶配向性を、この第1の電極層表面上に成膜される圧電体6に高く引き継がせる製造方法を利用して製作されている。すなわち、この製造方法の基本的な概要は以下の通りである。
(1)まず、AlN圧電結晶薄膜の(0001)結晶面に対して格子整合性の良い結晶方位に高配向された第1の電極層(第1の電極5の形成層)を成膜する。
(2)引き続き第1の電極層上に連続して第1の圧電体層(第1の圧電体61の形成層)を成膜する。第1の圧電体層の成膜は、好ましくは第1の電極層の成膜と同一真空系内において行われる。第1の圧電体層は最終的な圧電体6に必要な膜厚の一部として成膜されるので、第1の圧電体層の膜厚は当然のことながら圧電体6の膜厚に比べて薄くなる。
(3)第1の圧電体層及び第1の電極層にパターンニングを行い、このパターンニングによる電極の形状加工により第1の圧電体層から第1の圧電体61を形成するとともに、第1の電極層から第1の電極5を形成する。
(4)この後に、高真空系内において、第1の圧電体61表面に低エネルギイオンを利用してスパッタクリーニングを行い、第1の圧電体61の表面洗浄を行う。引き続き、第1の圧電体61のスパッタクリーニングがなされた表面上に第2の圧電体層(第2の圧電体63の形成層)を成膜する。第2の圧電体層は、圧電体6に必要な最終的な膜厚になる残りの膜厚として成膜される。そして、第2の圧電体層にパターンニングを行い、このパターンニングによる電極の形状加工により第2の圧電体63を形成する。第2の圧電体63を形成することにより、第1の圧電体61とその洗浄表面上に積層された第2の圧電体63とを備えた圧電体6を形成することができる。
(5)この後、圧電体6の第2の圧電体63上に第2の電極82を形成する。
第1の電極層が例えばアルミニウムを主成分とする金属材料により形成される場合、製造過程中の大気開放において、第1の電極層の表面には簡単に酸化膜が生成される。しかも、この酸化膜は高エネルギイオンによるスパッタクリーニングを使用しなければ除去することができない。ところが、同一真空系内において若しくは大気開放を行わずに、このような第1の電極層上に連続して第1の圧電体層を成膜すれば、第1の電極層の清浄表面上に第1の圧電体層を成膜することになり、第1の圧電体層は第1の電極層表面の結晶配向性を引き継ぎ、第1の圧電体層のc軸配向性は高くなる。この状態において、第1の電極層をパターンニングして適正な平面形状を有する第1の電極5を形成するとともに、第1の圧電体層をパターンニングして第1の圧電体61を形成する。ここで、アルミニウムを主成分とする金属材料とは、アルミニウム、又はNi、Ta、Si、Cu等の添加物質を含むアルミニウム合金を含む意味において使用されている。
第1の電極5の製造過程つまりパターンニングにおいては、第1の電極層の表面は第1の圧電体層により覆われ保護されているので、第1の電極5の表面の結晶配向が保持されている。そして、高真空中において、低エネルギイオンのスパッタクリーニングを行うことにより、第1の圧電体61表面を清浄面にすることができる。第1の圧電体61表面には第1の電極5の製造過程において酸化膜が生成されてしまうが、強い酸化雰囲気に晒されない限り、この酸化膜は低エネルギイオンを用いたスパッタクリーニングによって簡易に除去することができる。
第2の圧電体63は第1の圧電体61の清浄表面上にその結晶配向性を引き継いで成膜されるので、この第2の圧電体63のc軸配向性は高くなる。結果的に、第1の電極5、圧電体6の第1の圧電体61、第2の圧電体63のそれぞれの結晶粒子の配向性は、界面を共有し隣り合う同士において、揃った状態になる。
このように、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1においては、エピタキシャル成長法等の高価な、そして複雑な薄膜成長技術を使用することなく、基板2上にc軸配向半値幅の小さい圧電膜6を形成することができるので、電気機械結合係数を高めることができる。
[薄膜圧電共振器の圧電体の配向性評価]
次に、薄膜圧電共振器1に使用する圧電体6の結晶配向性の評価結果について、図2を使用して説明する。
図2中、実施例1乃至実施例4はいずれも第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法が適用された結晶配向性の評価結果である。つまり、実施例1乃至実施例4は、いずれも、図2に示される処理条件下において、第1の電極層上に圧電体6を成膜し、この成膜された圧電体6の配向半値幅の測定結果である。これに対して、比較例1乃至比較例6は第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法が適用されない結晶配向性の評価結果である。
第1の電極層は、実施例1乃至実施例4及び比較例1乃至比較例6のすべてにおいて、(111)結晶配向を有するアルミニウムである。実施例1乃至実施例4において、第1の電極層の(111)結晶配向の配向半値幅はすべて1.0゜である。比較例1、比較例2、比較例3及び比較例6において、第1の電極層の(111)結晶配向の配向半値幅は1.0゜である。比較例4及び比較例5において、第1の電極層の(111)結晶配向の配向半値幅4.0゜である。
圧電体6にはAlN圧電体が使用され、第1の圧電体61の成膜膜厚(nm)及び第2の圧電体63の成膜膜厚(nm)は図2に示す通りである。圧電体6の合計の成膜膜厚は1μmである。圧電体63は室温において高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されている。圧電体6の配向半値幅とは、最終的に成膜された第2の圧電体63の(0002)結晶配向の配向半値幅である。
スパッタクリーニング(表面クリーニング)は、第1の圧電体61表面のクリーニングであり、アルゴン雰囲気において実施される。速度(nm/s)は、第1の圧電体61のクリーニング速度(エッチング速度)であるが、熱酸化法により成長させた二酸化シリコン膜のクリーニング速度に換算した値である。同様に、時間(s)は、第1の圧電体61のクリーニング時間(エッチング時間)であるが、熱酸化法により成長させた二酸化シリコン膜のクリーニング時間に換算した値である。
図2に示すように、実施例1においては、第1の圧電体層の成膜後に、この第1の圧電体層上にレジストマスクを形成し、RIEにより第1の圧電体層をパターンニングして第1の圧電体61を形成し、引き続き第1の電極層をパターンニングして第1の電極5を形成し、レジストマスクを剥離した後、第1の圧電体61の表面にスパッタクリーニングを行い、この第1の圧電体61の清浄表面上に第2の圧電体63を形成しているので、圧電体6(第2の圧電体63)の(0002)結晶配向の配向半値幅は第1の電極5の(111)結晶配向の配向半値幅と同等になる。実施例1と同様に、実施例2乃至実施例3のいずれにおいても、圧電体6の配向半値幅は第1の電極5の配向半値幅と同等になる。すなわち、実施例1乃至実施例4の第1の圧電体61の膜厚は30nm〜500nmの範囲内、つまり圧電体6の全体の膜厚の3%〜50%の範囲内において振られているが、この幅広い範囲において、第1の電極5の結晶配向性を第2の圧電体63の結晶配向性に引き継ぐことができる。
これに対して、比較例1は、第1の電極層上に第1の圧電体層を成膜しないで、直接、第1の電極層をパターンニングして第1の電極5を形成し、スパッタクリーニングを実施した後、圧電体6の最終的な成膜膜厚に相当する第2の圧電体層(1000nm)を成膜した例である。比較例1においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は10°近い大きな値であった。本願発明者等は、第1の電極5表面に生成された酸化膜がスパッタクリーニングにより除去することができず、第1の電極5表面の結晶配向性を圧電体6に引き継ぐことができなかったために、配向半値幅の数値が増大したと考察している。
比較例2は、第1の電極層上に50nmの膜厚において第1の圧電体層を成膜し、パターンニングにより第1の圧電体61及び第1の電極5を形成し、第1の圧電体61表面にスパッタクリーニングを実施しないで第2の圧電体層を成膜した例である。比較例2においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は6.6°であった。本願発明者等は、第1の圧電体61表面にスパッタクリーニングを実施していないので、第1の圧電体61表面はレジストマスクを剥離した状態であり、結果的に第1の電極5表面の結晶配向性を圧電体6に引き継ぐことができなかったために、配向半値幅の数値が増大したと考察している。
比較例3は、基本的パラメータは実施例1と同様に、第1の電極層上に50nmの膜厚において第1の圧電体層を成膜し、第1の圧電体層をパターンニングして第1の圧電体61及び第1の電極層をパターンニングして第1の電極5を形成し、第1の圧電体61にスパッタクリーニングを実施した後、950nmの膜厚において第2の圧電体層を成膜した例である。比較例3においては、実施例1において使用されるスパッタクリーニングに比べて高エネルギを利用したスパッタクリーニングが使用されている。スパッタクリーニングの速度は、実施例1において使用されるスパッタクリーニングの速度に比べて、二酸化シリコン膜のエッチング速度換算において約2.5倍程速い。比較例3においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は6.0°である。本願発明者等は、スパッタクリーニングを高エネルギに設定した場合には第1の圧電体61の平坦度が失われ、結果的に第1の電極5表面の結晶配向性を圧電体6に引き継ぐことができなかったために、配向半値幅の数値が増大したと考察している。
比較例4は、配向半値幅が4.0°を有する第1の電極層上に50nmの膜厚において第1の圧電体層を成膜し、第1の圧電体層をパターンニングして第1の圧電体61及び第1の電極層をパターンニングして第1の電極5を形成し、第1の圧電体61にスパッタクリーニングを実施した後、950nmの膜厚において第2の圧電体層を成膜した例である。比較例4においては、実施例4において使用される低スパッタクリーニングと同一条件に設定された低エネルギを利用したスパッタクリーニングが使用されている。比較例4においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は4.5°である。本願発明者等は、第1の電極5の配向半値幅が予め4.0°に設定されているので、この第1の電極5の結晶配向性を圧電体6がある程度引き継いだためと考察している。
比較例5は、比較例4において第1の圧電体61表面に低エネルギのスパッタクリーニングを実施しない例である。比較例5においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は12.5°の大きな値になっている。
比較例6は、実施例1において第1の圧電体61表面に実施する低エネルギのスパッタクリーニングの時間を35(s)に短縮した例である。比較例6においては、圧電体6の(0002)結晶配向の配向半値幅は6.4°である。本願発明者等は、基本パラメータは実施例1と同様でありながら、スパッタクリーニングの時間が短く、第1の圧電体61表面の清浄化が十分になされないので、結果的に第1の電極5表面の結晶配向性を圧電体6に引き継ぐことができなかったために、配向半値幅の数値が増大したと考察している。この比較例6と実施例1とからも明らかなように、スパッタクリーニングは、低エネルギに設定しつつ、十分な時間を実施しないと、第1の圧電体61表面の結晶配向性を第2の圧電体63の結晶配向性に引き継ぐことができない。
[薄膜圧電共振器の具体的な第1の製造方法]
次に、前述の実施例1に係る薄膜圧電共振器1の具体的な製造方法を説明する。まず最初に、1kΩcm以上の高い比抵抗値を有するのSi基板を基板2として準備し、この基板2の(100)結晶表面上の全域に絶縁体3を形成する(図3参照。)。絶縁体3には、1μmの膜厚を有する例えば熱酸化法により形成した酸化シリコン膜を使用する。
次に、図3に示すように、絶縁体3表面上の全域に下地層4を形成する。下地層4には高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜した非晶質Al0.5Ta0.5膜を使用し、その膜厚は30nmに設定される。
次に、下地層4表面上の全域に第1の電極層50を成膜し、図4に示すように、引き続き第1の電極層50表面上の全域に第1の圧電体層610を成膜する。第1の電極層50には高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜したアルミニウム膜を使用し、その膜厚は250nmに設定される。このアルミニウム膜の(111)結晶配向の配向半値幅は1.0゜に制御されている。第1の圧電体層610には反応性高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜されたAlN膜を使用し、その膜厚は50nmに設定される。
図示しないが、第1の圧電体層610表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスク(レジストマスク)を形成する。このエッチングマスクを利用して第1の圧電体層610をパターンニングすることにより第1の圧電体61を形成し、図5に示すように、引き続き第1の圧電体61を実質的なエッチングマスクとして利用して第1の電極層50をパターンニングすることにより第1の電極5を形成する。パターンニングには、例えばマグネトロンRIE法を実用的に使用することができる。エッチングマスクの側面形状のテーパ化及びエッチング条件の最適化により、同図5に示すように、第1の電極5端面形状及び第1の圧電体61端面形状をテーパ化することができる。このテーパ角度は基板2表面に対して30度以下に設定されることが好ましい。なお、エッチングマスクの除去(レジスト剥離)においては、第1の圧電体61表面の酸化を避けるためにアッシング処理は実施されない。
次に、成膜装置(反応性高周波マグネトロンスパッタリング装置)内において、図6に示すように、第1の圧電体61表面に表面クリーニングが実施される。表面クリーニングには低エネルギに制御された反応性高周波スパッタクリーニングを実用的に使用することができる。この表面クリーニングにおいては、第1の圧電体61表面の清浄な(0001)結晶面が露出するまで行われる。従って、第1の圧電体61は清浄な結晶面が得られる程度の膜厚を最低限必要とする。
次に、図7に示すように、第1の圧電体61表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の圧電体層630を成膜する。第2の圧電体層630には反応性高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されたAlN膜を使用し、その膜厚は2250nmに設定される。ここで、同図7及び前述の図2の実施例1に示すように、第1の圧電体6表面上に成膜された第2の圧電体層630の一部631においては、第1の圧電体61の結晶配向性が十分に引き継がれ、(0001)結晶配向の配向半値幅は1°程度の範囲内の変動に留まる。一方、第2の圧電体層630の他部632においては、第1の電極5の側面(テーパ形状面)上、下地層4の側面、絶縁体3表面上のそれぞれに成膜されているので、(0001)結晶配向の配向半値幅は10°程度になる。
次に、図示しないが、第2の圧電体層630表面上にフォトリソグラフィを使用してエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを使用し、第2の圧電体層630にパターンニングを行い、図8に示すように、第2の圧電体63を形成する。パターンニングには例えばマグネトロンリアクティブエッチングを使用することができる。第2の圧電体63を形成することにより、第1の圧電体61とこの第1の圧電体61表面上に積層された第2の圧電体63とを備えた圧電体6を完成させることができる。圧電体6は、結果として、第1の電極5表面の結晶配向性を十分に引き継いだ結晶配向性を備えている。
次に、絶縁体を成膜し、フォトリソグラフィを使用して形成したエッチングマスク及びマグネトロンリアクティブイオンエッチングを利用して絶縁体をパターンニングすることにより、圧電体6の側壁の一部分にスペーサ7を形成する(図9参照。)。スペーサ7には例えば酸化シリコン膜を実用的に使用することができる。第1の実施の形態において、スペーサ7は第2の圧電体63とは別材料により形成されているが、後述する第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法において説明するように、第2の圧電体層630をパターンニングするエッチングマスクをスペーサ7の形成領域まで伸ばし、第2の圧電体層630(632)によりスペーサ7を形成してもよい。この場合には、スペーサ7の成膜工程、パターンニング工程等を第2の圧電体63の成膜工程、パターンニング工程等と兼用することができるので、製造工程数を削減することができる。
スペーサ7表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の電極層を成膜する。第2の電極層には例えばスパッタリングにより成膜されたアルミニウム膜を使用し、その薄膜は250nmに設定する。図示しないが、第2の電極層表面上にフォトリソグラフィを使用してエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して第2の電極層をパターンニングすることにより、図9に示すように引出電極81及び第2の電極82を形成することができる。引出電極81の一端は第1の電極5の周縁部の一部において第1の電極5表面に接続され、他端は絶縁体3表面上を延在する。第2の電極82の一端は圧電体6(第2の圧電体63)表面に接続され、他端はスペーサ7上を通過するとともに絶縁体2表面上を延在する。
次に、基板2の第1の電極5が形成された領域において、基板2裏面から表面に向かって、少なくとも基板2及び絶縁体3を除去し、前述の図1に示すように、圧電体6が膜厚方向に振動するための穴9を形成する。穴9の形成において、基板2の除去には例えばインダクティビリィカップルドプラズマ(ICP(Inductively Coupled Plasma))−RIEを、絶縁体3の除去にはマグネトロンRIEを各々実用的に使用することができる。この穴9を形成する工程が終了すると、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1が完成する。
[薄膜圧電共振器の特性評価]
このように製造された薄膜圧電共振器1において、周波数特性を測定した結果、共振周波数は2.0GHzであり、電気機械結合係数は6.0%、品質係数Qは共振点において720、***振点において650という極めて優れた周波数特性を得ることができた。この機械結合係数値はAlN圧電体物質から理論的に期待される最大値の91%に達成している。
図10は薄膜圧電共振器1の第1の電極5と圧電体6との界面付近を撮影した断面透過電子顕微鏡写真である。図10に示すように、第1の電極(アルミニウム電極)5と圧電体(AlN)6との界面付近において、第1の電極5の水平方向の結晶粒子の大きさと、第1の圧電体61の水平方向の結晶粒子の大きさと、第2の圧電体63の水平方向の結晶粒子の大きさとがほぼ揃っている。
図11は、微小部電子線回折パターンであり、結晶粒子の特定領域に径1nmに絞った電子線を照射して得られた結晶粒子の回折パターンである。図11に示す「a」〜「f」のそれぞれは図10に示す「a」〜「f」のそれぞれに各々対応している。図11に示す「a」は第1の電極(アルミニウム)5の(111)結晶面への[0−11]入射パターンである。図11に示す「b」は第1の圧電体(AlN)61の(0001)結晶面への[−1−120]入射パターン、「c」は第2の圧電体(AlN)63の(0001)結晶面への[−1−120]入射パターンである。従って、Al[0−11]//AlN[−1−120]の方位関係において双方は局所的にエピタキシャル関係にある。図11に示す「d」〜「f」のそれぞれの入射パターンにおいても、同様に結晶方位が揃っている結果を得ることができた。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法においては、第1の電極層50表面上に連続して第1の圧電体層610を成膜し、これらパターンニングして第1の圧電体61及び第1の電極5を形成し、この後に第1の圧電体61表面にクリーニングを行った後、第2の圧電体層630を成膜する工程を備えている。この結果、第1の電極5表面の結晶配向性を圧電体6に十分に引き継ぐことができる。更に、第1の電極5はパターンニングされることにより形成され、基板2表面上において第1の電極5と引出電極81との接続が行える。つまり、基板2裏面において第1の電極5と引出電極81とを接続する必要がなくなり、基板2の穴9は微細加工することができる。従って、高周波数化を実施することができるとともに、小型化を実現することができる薄膜圧電共振器1を得ることができる。
[薄膜圧電共振器の応用例]
前述の薄膜圧電共振器1においては、例えば図12に示す高周波フィルタ100、図13に示すVCOに備えることができる。図12に示す高周波フィルタ100は、入力端子P1及びP2と、出力端子P3及びP4と、直列的に挿入される薄膜圧電共振器1(1)及び1(2)と、並列的に挿入される薄膜圧電共振器1(3)及び1(4)とを備えている。
図13に示すVCO200は、薄膜圧電共振器1と、インバータ201と、抵抗素子202及び203と、容量素子204と、可変容量素子205とを備えている。
高周波フィルタ100、VCO200のいずれにおいても、前述の薄膜圧電共振器1を備えているので、高周波特性を向上することができるとともに、小型化を実現することができる。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、前述の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1において、圧電体6に接続する第2の電極構造を変えた例を説明するものである。なお、第2の実施の形態並びにこれ以降の実施の形態において、特に各構成要素の材質、膜厚、成膜条件等の説明がない場合には、前述の第1の実施の形態において説明した同一符号が付された各構成要素の材質、膜厚、成膜条件等と同一若しくは同等である。
[薄膜圧電共振器の具体的な第2の製造方法]
第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法は、まず最初に、基板2を準備し、この基板2表面上の全域に絶縁体3を形成する(前述の図3参照。)。前述の図3に示すように、絶縁体3表面上の全域に下地層4を形成する。下地層4には高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜した非晶質Al0.6Ta0.4膜を使用し、その膜厚は30nmに設定される。
次に、下地層4表面上の全域に第1の電極層50を成膜し、図14に示すように、引き続き第1の電極層50表面上の全域に第1の圧電体層610を成膜する。
図示しないが、第1の圧電体層610表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを利用して第1の圧電体層610をパターンニングすることにより第1の圧電体61を形成し、図15に示すように、引き続き第1の圧電体61を実質的なエッチングマスクとして利用して第1の電極層50をパターンニングすることにより第1の電極5を形成する。パターンニングには、例えばICP−RIE法を実用的に使用することができる。エッチングマスクの側面形状のテーパ化及びエッチング条件の最適化により、同図15に示すように、第1の電極5端面形状及び第1の圧電体61端面形状をテーパ化することができる。このテーパ角度は基板2表面に対して20度以下に設定されることが好ましい。なお、エッチングマスクの除去においては、第1の圧電体61表面の酸化を避けるためにアッシング処理は実施されない。
次に、成膜装置内において、第1の圧電体61表面に表面クリーニングが実施される(前述の図6参照。)。表面クリーニングには、前述の実施例4の条件下において低エネルギに制御された反応性高周波スパッタクリーニングを実用的に使用することができる。この表面クリーニングにおいては、第1の圧電体61表面の清浄な(0001)結晶面が露出するまで行われる。
次に、第1の圧電体61表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の圧電体層630を成膜し、図16に示すように、引き続き連続して第2の圧電体層630表面上の全域に電極層85を成膜する。第2の圧電体層630には反応性高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されたAlN膜を使用し、その膜厚は1970nmに設定される。電極層85は同一のスパッタリングにより成膜されたモリブデン膜を使用し、その膜厚は200nmに設定される。第2の実施の形態において、電極層85は第2の電極82の一部として使用されている。
次に、図示しないが、電極層85表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。図17に示すように、エッチングマスクを利用して電極層85をパターンニングし、この電極層85から引出電極84を形成する。パターンニングには例えばケミカルドライエッチング(Chemical Dry Etching)を実用的に使用することができる。
次に、図示しないが、引出電極84表面上を含む、第2の圧電体層630表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。図18に示すように、エッチングマスクを利用し、引出電極84下の一部631と他部632の一部とが残存するように、第2の圧電体層630をパターンニングし、一部631から第2の圧電体63を形成するとともに、他部632の一部からスペーサ7を形成する。第2の圧電体63が形成されると、第1の圧電体61及びその表面上に積層された第2の圧電体63を備えた圧電体6を形成することができる。パターンニングにはマグネトロンRIEを実用的に使用することができる。
スペーサ7表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の電極層を成膜する。第2の電極層には例えばスパッタリングにより成膜されたアルミニウム膜を使用し、その薄膜は500nmに設定する。図示しないが、第2の電極層表面上にフォトリソグラフィ技術を使用してエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して第2の電極層をパターンニングすることにより、図19に示すように引出電極81及び第2の電極82を形成することができる。引出電極84の一端は圧電体6の第2の圧電体63表面上においてこの第2の圧電体63に接続され、引出電極84の他端はスペーサ7表面上において第2の電極82に接続される。パターンニングにはマグネトロンRIEを実用的に使用することができる。
次に、図20に示すように、基板2をその裏面からその表面に向かって研磨する。研磨には例えばケミカルメカニカルポリッシング(CMP(Chemical Mechanical Polishing))を使用し、基板2の厚さが例えば200μmになるまで研磨が実施される。
次に、基板2の第1の電極5が形成された領域において、基板2裏面から表面に向かって、少なくとも基板2及び絶縁体3を除去し、図21に示すように、穴9を形成する。穴9の形成において、基板2の除去には例えばICP−RIEを、絶縁体3の除去にはマグネトロンRIEを各々実用的に使用することができる。この穴9を形成する工程が終了すると、第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1が完成する。
[薄膜圧電共振器の特性評価]
このように製造された薄膜圧電共振器1において、周波数特性を測定した結果、共振周波数は2.0GHzであり、電気機械結合係数は6.65%、品質係数Qは共振点において900、***振点において790という極めて優れた周波数特性を得ることができた。この機械結合係数値はAlN圧電体物質から理論的に期待される最大値に匹敵している。
図22は薄膜圧電共振器1の第1の電極5と圧電体6との界面付近を撮影した断面透過電子顕微鏡写真、図23はその拡大断面透過電子顕微鏡写真である。図22及び図23に示すように、第1の電極(アルミニウム電極)5と圧電体(AlN)6との界面付近において、第1の電極5の水平方向の結晶粒子の大きさと、第1の圧電体61の水平方向の結晶粒子の大きさと、第2の圧電体63の水平方向の結晶粒子の大きさとがほぼ揃っている。
図24は、微小部電子線回折パターンであり、結晶粒子の特定領域に径1nmに絞った電子線を照射して得られた結晶粒子の回折パターンである。図24に示す「a」〜「f」のそれぞれは図22に示す「a」〜「f」のそれぞれに各々対応している。図24に示す「a」は第1の電極(アルミニウム)5の(111)結晶面への[−1−12]入射パターンである。図11に示す「b」は第1の圧電体(AlN)61の(0001)結晶面への[1−100]入射パターン、「c」は第2の圧電体(AlN)63の(0001)結晶面への[1−100]入射パターンである。従って、Al[−1−12]//AlN[1−100]の方位関係において双方は局所的にエピタキシャル関係にある。図11に示す「d」〜「f」のそれぞれの入射パターンにおいても、同様に結晶方位が揃っている結果を得ることができた。
なお、第1の電極5表面上に第1の圧電体61介在して第2の圧電体63が成膜された領域において、圧電体6のAlNの柱状結晶は揃った状態になる。これに対して、第1の電極5端面のテーパ形状部分において第1の圧電体層610が除去された部分と、第1の電極層50がパターンニングにより取り除かれた絶縁体3表面上(若しくは下地層4表面上)とに成膜される第2の圧電体63の柱状結晶は乱れてしまう。ところが、第1の電極5が存在しない領域は、圧電共振に係わらないので、共振特性の劣化には繋がらない。また、第1の電極5端面のテーパ形状部分の幅寸法は1μm以下であり、この第1の電極5端面の全面積は薄膜圧電共振器1に占める割合の1%程度であるので、薄膜圧電共振器1において共振特性の劣化にはほとんど影響がない。
以上説明したように、第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法においては、前述の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法により得られる効果と同様の効果を奏することができる。従って、高周波数化を実施することができるとともに、小型化を実現することができる薄膜圧電共振器1を得ることができる。
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、前述の第1の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1において、第1の電極5下に配設された穴9に代えて空洞を配設した例を説明するものである。
[薄膜圧電共振器の具体的な第3の製造方法]
第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法は、まず最初に、基板2を準備し、この基板2表面上の全域に絶縁体3を形成する(図25参照。)。図示しないが、絶縁体3表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して絶縁体3にパターンニングを行い、図25に示すように、第1の電極5が形成される領域において絶縁体3の一部を選択的に除去し、絶縁体3に溝30を形成する。この溝30は将来的に空洞となる部分である。パターンニングには、フッ化アンモニウム溶液によるウエットエッチングを実用的に使用することができる。
次に、絶縁体3表面上に、溝30が埋設されるように、犠牲層31を成膜する。犠牲層31には例えば高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜したモリブデン膜を実用的に使用することができ、その膜厚は1.2μmに設定される。更に、図27に示すように、犠牲層31が溝30内部に埋設され、絶縁体3表面が露出するまで犠牲層31を除去する。この犠牲層31の除去にはCMPを使用することができる。CMPを使用することにより、絶縁体3表面及び犠牲層31表面を平坦化することができる。
図28に示すように、犠牲層31表面上を含む、絶縁体3表面上の全域に更に絶縁体32を成膜する。絶縁体32を形成することにより、犠牲層31は完全に埋め込まれた状態になる。絶縁体32には例えば高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜された二酸化シリコン膜を使用し、その膜厚は50nmに設定される。
次に、絶縁体32表面上の全域に下地層4を形成する(図29参照。)。下地層4には高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜した非晶質Al0.5Ta0.5膜を使用し、その膜厚は30nmに設定される。
次に、下地層4表面上の全域に第1の電極層50を成膜し、図29に示すように、引き続き第1の電極層50表面上の全域に第1の圧電体層610を成膜する。そして、前述の第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法と同様に、図30に示すように、第1の圧電体層610をパターンニングすることにより第1の圧電体61を形成するとともに、第1の電極層50をパターンニングすることにより第1の電極5を形成する。
次に、成膜装置内において、第1の圧電体61表面に表面クリーニングが実施される(前述の図6参照。)。表面クリーニングには、前述の実施例4の条件下において低エネルギに制御された反応性高周波スパッタクリーニングを実用的に使用することができる。この表面クリーニングにおいては、第1の圧電体61表面の清浄な(0001)結晶面が露出するまで行われる。
次に、図31に示すように、第1の圧電体61表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の圧電体層630を成膜する。第2の圧電体層630には反応性高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されたAlN膜を使用し、その膜厚は2270nmに設定される。
次に、図示しないが、第2の圧電体層630表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。前述の第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法と同様に、エッチングマスクを利用し、第2の圧電体層630をパターンニングし、一部631から第2の圧電体63を形成するとともに、他部632の一部からスペーサ7を形成する(図32参照。)。第2の圧電体63が形成されると、第1の圧電体61及びその表面上に積層された第2の圧電体63を備えた圧電体6を形成することができる。パターンニングにはマグネトロンRIEを実用的に使用することができる。
圧電体6表面上及びスペーサ7表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の電極層を成膜する。第2の電極層には例えばスパッタリングにより成膜されたアルミニウム膜を使用し、その薄膜は250nmに設定する。図示しないが、第2の電極層表面上にフォトリソグラフィ技術を使用してエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して第2の電極層をパターンニングすることにより、図32に示すように引出電極81及び第2の電極82を形成することができる。
次に、図示しないが、既に形成された溝30内に埋設された犠牲層31上において、第1の電極5の周囲の絶縁体32に犠牲層31表面まで達する複数個の貫通孔を形成する。この貫通孔は、例えばフォトリソグラフィ技術を使用してエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して絶縁体32をパターンニングすることにより形成することができる。貫通孔の配設数は例えば2個〜4個程度でよく、貫通孔の径は例えば5μmに設定される。
そして、摂氏50度に昇温した過酸化水素水溶液に約20分間浸漬することにより、貫通孔を通して犠牲層31に水溶液が浸透し、犠牲層31を選択的に除去し、図33に示すように、基板2と絶縁体3と絶縁体32とにより周囲を囲まれた空洞35を形成することができる。空洞35を形成することにより、第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1は完成する。
[薄膜圧電共振器の特性評価]
このように製造された薄膜圧電共振器1において、周波数特性を測定した結果、共振周波数は2.0GHzであり、電気機械結合係数は6.5%、品質係数Qは共振点において820、***振点において750という極めて優れた周波数特性を得ることができた。この機械結合係数値はAlN圧電体物質から理論的に期待される最大値に匹敵している。
以上説明したように、第3の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法においては、前述の第1の実施の形態に係る又は第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法により得られる効果と同様の効果を奏することができる。従って、高周波数化を実施することができるとともに、小型化を実現することができる薄膜圧電共振器1を得ることができる。
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、前述の第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1において、第1の電極5下に配設された穴9に代えて音響ミラー反射層を配設した例を説明するものである。
[薄膜圧電共振器の具体的な第3の製造方法]
第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法は、まず最初に、基板2を準備し、この基板2表面上の全域に第1の絶縁体101、第2の絶縁体102、第3の絶縁体103、第4の絶縁体104のそれぞれを順次形成する(図34参照。)。第1の絶縁体101、第3の絶縁体103のそれぞれには熱CVD(Chemical vapor deposition)法により成膜された窒化シリコン膜を使用し、第2の絶縁体102、第4の絶縁体104のそれぞれにはプラズマCVD法により成膜された酸化シリコン膜を使用する。
次に、図示しないが、第4の絶縁体104表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して第4の絶縁体104にパターンニングを行い、図34に示すように、溝105を形成する。この溝105は将来的に音響ミラー反射層を配設する領域となる部分である。パターンニングには、フッ化アンモニウム溶液によるウエットエッチングを実用的に使用することができる。第3の絶縁体103は第4の絶縁体層104をエッチングする際のエッチングストッパ層としての機能を有する。
次に、図35に示すように、溝105内部に露出する第3の絶縁体103表面上及び第4の絶縁体104表面上に高音響ミラー層110、低音響ミラー層111、高音響ミラー層112、低音響ミラー層113のそれぞれを順次成膜する。高音響ミラー層110、112のそれぞれには、高音響インピーダンス特性を有するタングステン膜を実用的に使用することができる。低音響ミラー層111、113のそれぞれには、低音響インピーダンス特性を有する二酸化シリコン膜を実用的に使用することができる。高音響ミラー層110、低音響ミラー層111、高音響ミラー層112、低音響ミラー層113のそれぞれの膜厚は、例えば2.0GHzのλ/4に設定される。
次に、第4の絶縁体104表面と同等の高さになるまで、低音響ミラー層113、高音響ミラー層112、低音響ミラー層111、高音響ミラー層110のそれぞれを順次研磨し、図36に示すように、溝105内部に埋設された、高音響ミラー層110、低音響ミラー層111、高音響ミラー層112及び低音響ミラー層113を備えた音響ミラー反射層10を形成する。研磨にはCMPを使用することができる。
図37に示すように、音響ミラー反射層10表面上を含む、第4の絶縁体104表面上の全域に更に絶縁体32を成膜する。絶縁体32を形成することにより、音響ミラー反射層10は完全に埋め込まれた状態になる。
次に、絶縁体32表面上の全域に下地層4を形成する(図38参照。)。下地層4には高周波マグネトロンスパッタリング法により成膜した非晶質Al0.5Ta0.5膜を使用し、その膜厚は30nmに設定される。
次に、下地層4表面上の全域に第1の電極層50を成膜し、図38に示すように、引き続き第1の電極層50表面上の全域に第1の圧電体層610を成膜する。
図示しないが、第1の圧電体層610表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。このエッチングマスクを利用して第1の圧電体層610をパターンニングすることにより第1の圧電体61を形成し、図39に示すように、引き続き第1の圧電体61を実質的なエッチングマスクとして利用して第1の電極層50をパターンニングすることにより第1の電極5を形成する。パターンニングには、例えばICP−RIE法を実用的に使用することができる。エッチングマスクの側面形状のテーパ化及びエッチング条件の最適化により、同図39に示すように、第1の電極5端面形状及び第1の圧電体61端面形状をテーパ化することができる。このテーパ角度は基板2表面に対して35度以下に設定されることが好ましい。なお、エッチングマスクの除去においては、第1の圧電体61表面の酸化を避けるためにアッシング処理は実施されない。
次に、成膜装置内において、第1の圧電体61表面に表面クリーニングが実施される(前述の図6参照。)。表面クリーニングには、前述の実施例4の条件下において低エネルギに制御された反応性高周波スパッタクリーニングを実用的に使用することができる。この表面クリーニングにおいては、第1の圧電体61表面の清浄な(0001)結晶面が露出するまで行われる。
次に、第1の圧電体61表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の圧電体層630を成膜し、図40に示すように、引き続き連続して第2の圧電体層630表面上の全域に電極層85を成膜する。第2の圧電体層630には反応性高周波マグネトロンスパッタリングにより成膜されたAlN膜を使用し、その膜厚は1900nmに設定される。電極層85は同一のスパッタリングにより成膜されたモリブデン膜を使用し、その膜厚は200nmに設定される。
次に、図示しないが、電極層85表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。図41に示すように、エッチングマスクを利用して電極層85をパターンニングし、この電極層85から引出電極84を形成する。
次に、図示しないが、引出電極84表面上を含む、第2の圧電体層630表面上にフォトリソグラフィ技術によりエッチングマスクを形成する。図42に示すように、エッチングマスクを利用し、引出電極84下の一部631と他部632の一部とが残存するように、第2の圧電体層630をパターンニングし、一部631から第2の圧電体63を形成するとともに、他部632の一部からスペーサ7を形成する。第2の圧電体63が形成されると、第1の圧電体61及びその表面上に積層された第2の圧電体63を備えた圧電体6を形成することができる。
スペーサ7表面上を含む、基板2表面上の全域に第2の電極層を成膜する。第2の電極層には例えばスパッタリングにより成膜されたアルミニウム膜を使用し、その薄膜は500nmに設定する。図示しないが、第2の電極層表面上にフォトリソグラフィ技術を使用してエッチングマスクを形成し、このエッチングマスクを利用して第2の電極層をパターンニングすることにより、図43に示すように引出電極81及び第2の電極82を形成することができる。引出電極84の一端は圧電体6の第2の圧電体63表面上においてこの第2の圧電体63に接続され、引出電極84の他端はスペーサ7表面上において第2の電極82に接続される。パターンニングにはマグネトロンRIEを実用的に使用することができる。引出電極81及び第2の電極82を形成することにより、第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1は完成する。
[薄膜圧電共振器の特性評価]
このように製造された薄膜圧電共振器1において、周波数特性を測定した結果、共振周波数は2.0GHzであり、電気機械結合係数は5.5%、品質係数Qは共振点において600、***振点において550という極めて優れた周波数特性を得ることができた。この機械結合係数値は、音響ミラー反射層10を備えた薄膜圧電共振器1としては、AlN圧電体物質から理論的に期待される最大値に匹敵している。
以上説明したように、第4の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法においては、前述の第1の実施の形態に係る又は第2の実施の形態に係る薄膜圧電共振器1の製造方法により得られる効果と同様の効果を奏することができる。従って、高周波数化を実施することができるとともに、小型化を実現することができる薄膜圧電共振器1を得ることができる。
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、変更可能である。