JP4373643B2 - 積層型圧電素子及びその製法並びに噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、積層型圧電素子及びその製法並びに噴射装置に関し、例えば、自動車用燃料噴射装置、光学装置等の精密位置決め装置や振動防止用の駆動素子等に用いられる積層型圧電素子及びその製法並びに噴射装置に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、積層型圧電素子として、圧電磁器層と内部電極層を交互に積層した積層型圧電アクチュエータが知られている。積層型圧電アクチュエータには、同時焼成タイプと、圧電磁器層と内部電極板を交互に積層したスタックタイプとの2種類に分類されており、圧電磁器層としては、代表的な圧電体であるPZT系圧電セラミックスが広く用いられている。同時焼成タイプの積層型圧電素子は、導電性ペーストを片面に印刷したセラミックグリーンシートを複数積層した積層体の上下端面に、セラミックグリーンシートが複数積層された成形体を、加圧、脱バインダ、焼成し、この焼結体の2側面に、内部電極層と交互に接続する外部電極を形成することにより得られる。
【0003】
同時焼成タイプの積層型圧電素子では、衝撃により内部電極層と圧電磁器層との接合界面で破損しやすいため、耐衝撃性を改善するために、例えば特開平4−299588号公報では、内部電極層内に粒径をコントロールしたセラミック粉末を共材として含有させ、内部電極層を挟む2層の圧電磁器層をつなぐ架橋を効果的に形成することで、衝撃に対し信頼性の高い素子を得ることができると記載されている。
【0004】
また、内部電極層としては、PZT系圧電セラミックスの焼成温度に応じ、白金やパラジウムもしくは、銀とパラジウムの合金などが用いられているが、コスト低減の観点から、焼成温度の低温化が求められている。また、焼成温度の低温化は、圧電磁器層に含まれる鉛成分の蒸発を抑制し、変位特性の劣化を防ぐという特性面からも非常に重要である。焼成温度の低温化はグリーンシートの作製に用いるセラミック粉末の微細化などにより図られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記積層型圧電アクチュエータでは、焼成温度を1100℃以下と低温化するため、セラミックス粉末の比表面積は3〜4m2/g程度以上のものを用いてグリーンシートを作製する必要があった。そのため、原料のセラミック粉末の比表面積に応じ、有機バインダをセラミック粉末100質量部に対して9質量部以上含有する必要が生じていた。この有機バインダは除去する必要があるが、このように多量の有機バインダを含有していると、脱バインダ処理時に、接合面として最も弱い電極塗布膜とグリーンシートの間からガスが大量に放出され、電極塗布膜とグリーンシートの界面が弱体化し、焼成時に電極塗布膜中の共材としてのセラミック粒子が前記電極塗布膜(内部電極層)から押し出されて、内部電極層と圧電磁器層との接合強度が低くなるという問題があった。
【0006】
即ち、上記したように脱バインダ時に発生した大量のガスにより、電極塗布膜とグリーンシート間が弱体化しており、その後の焼成時に電極塗布膜の金属は焼結しようとするため、異物である共材としてのセラミック粉末が電極塗布膜中から電極塗布膜とグリーンシート間に押し出され、内部電極層中に一部が埋設され、圧電磁器層のセラミック粒子と接合焼結するセラミック粒子が減少し、これにより内部電極層中のセラミック粒子によるアンカー効果が小さくなり、内部電極層と圧電磁器層との接合強度が低くなり、積層型圧電アクチュエータが折損し易いという問題があった。
【0007】
本発明は、内部電極層と圧電磁器層との接合強度を向上して、内部電極層と圧電磁器層との界面における破損を抑制できる耐久性に優れた積層型圧電素子及びその製法並びに噴射装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の積層型圧電素子は、複数の圧電磁器層と複数の内部電極層とが交互に積層され、同時焼成された積層型圧電素子であって、前記内部電極層がセラミック粒子を含み、前記圧電磁器層と前記内部電極層との界面で破断したとき、前記内部電極層側の破断面において、前記内部電極層に一部が埋設された前記セラミック粒子が分散して存在するとともに、前記内部電極層側の破断面に露出した前記セラミック粒子の露出面積が、前記内部電極層側の破断面中2.0〜6.1%であることを特徴とする。
【0009】
本発明では、内部電極層に一部が埋設されたセラミック粒子が、内部電極層側の破断面に分散して存在しているため、このセラミック粒子が、圧電磁器層のセラミック粒子と焼結することで、強いアンカー効果を実現し、内部電極層と圧電磁器層との接合強度を向上できる。また、本発明の積層型圧電素子は、内部電極層側の破断面に露出したセラミック粒子の露出面積が、内部電極層側の破断面中2.0〜6.1%であることを特徴とする。このように、内部電極層側の破断面に露出するセラミック粒子の割合が、内部電極層側の破断面中2.0〜6.1%であるため、圧電磁器層のセラミック粒子との接合力が強化され、内部電極層と圧電磁器層との接合強度を向上できる。
【0010】
本発明の積層型圧電素子の製法は、複数の微粒子が凝集したPZT系圧電仮焼粉末からなり比表面積が1.5〜2.5m 2 /gのセラミック粉末と、該セラミック粉末100質量部に対して9質量部以下の有機バインダと、有機溶剤とを含有するグリーンシート上に、金属粉末と、セラミック粉末と、有機溶剤とを含有する導電性ペーストを塗布して電極塗布膜を形成する工程と、該電極塗布膜が形成された前記グリーンシートを複数積層し加圧して積層体を形成する工程と、この積層体を脱バインダ処理し、1100℃以下で焼成する工程とを具備することを特徴とする。
【0011】
このような積層型圧電素子の製法では、複数の微粒子が凝集したPZT系圧電仮焼粉末からなるセラミック粉末を用いるため、微粒子が分散したセラミック粉末(凝集していないセラミック粉末)を用いる場合よりも比表面積を1.5〜2.5m 2 /gと低下させることができ、グリーンシート中に含有する有機バインダ量をセラミック粉末100質量部に対して9質量部以下と減少させることができる。これにより、脱バインダ時のガス放出が少なくなり、電極塗布膜とグリーンシート間の弱体化を抑制し、これにより、電極塗布膜のセラミック粒子のグリーンシート中への押し出しが抑制され、一部が内部電極層中に埋設したセラミック粒子が多数形成され、そのセラミック粒子が圧電磁器層のセラミック粒子と接合焼結し、内部電極層と圧電磁器層の接合を強化することができる。
【0012】
また、複数の微粒子が凝集したセラミック粉末を、圧電磁器層を形成するためのグリーンシートに用いるため、1100℃以下の低温焼成化を達成できる。
【0013】
特に、微粉末を仮焼し、凝集させたPZT系圧電仮焼粉末(セラミック粉末)を用い、その比表面積として1.5〜2.5m2/gの範囲のものを用いることにより、グリーンシート中の有機バインダ量をセラミック粉末100質量部に対して9質量部以下とすることができ、電極塗布膜とグリーンシート間の弱体化を抑制できるとともに、焼成温度も1100℃以下とすることができる。これにより、内部電極層と圧電磁器層との接合強度を向上できるとともに、圧電磁器層に含まれる鉛成分の蒸発を抑制することができ、特性面においても変位特性の優れた積層型圧電素子を得ることができる。
【0014】
本発明の噴射装置は、噴射孔を有する収納容器と、該収納容器内に収容された上記積層型圧電素子と、該積層型圧電素子の駆動により前記噴射孔から液体を噴出させるバルブとを具備してなるものである。
【0015】
このような噴射装置では、上記したように、積層型圧電素子の変位特性が優れている上に、内部電極層と圧電磁器層界面の破損が抑制されるため、優れた噴射特性と長期信頼性を向上できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の積層型圧電アクチュエータからなる積層型圧電素子の一実施形態を示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A’線に沿った縦断面図である。
【0017】
この図1に示すように、本発明の同時焼成型積層型圧電素子は、複数の圧電磁器層1と複数の内部電極層2とを交互に積層してなる圧電素子本体1aの対向する2つの側面において、内部電極層2の端部に1層おきに絶縁体3を形成し、絶縁体3を形成していない内部電極層2の端部を同一の外部電極4に接続して構成されている。
【0018】
また、圧電素子本体1aの積層方向の両端面には、活性部の圧電磁器層1の伸縮により発生する変位を外部へ伝達するための不活性部5が配置されている。
【0019】
内部電極層2間の沿面放電を防止し、大きな電圧を印加するために、同時焼成型積層圧電素子の外周面をシリコーンゴムなどの伸縮性をもつ絶縁物で被覆することが望ましい。
【0020】
そして、本発明の積層型圧電素子では、圧電素子本体1aを曲げ応力等で破損させた場合、圧電磁器層1と内部電極層2との界面で破断するが、その破断面において、図2に示すように、内部電極層2に一部が埋設されたセラミック粒子7が、内部電極層2表面に露出していることを特徴としている。セラミック粒子7は、内部電極層2の表面に分散して存在しており、内部電極層2の一部に露出している。
【0021】
即ち、積層型圧電素子において、最も強度的に弱いところは内部電極層2と圧電体層1の界面であり、曲げ応力を印加すると破損する部分は殆どが圧電磁器層1と内部電極層2の界面であり、その破断面は、内部電極層2の面が露出したものと、圧電磁器層1の面が露出したものとに分かれる。この内部電極層2が露出した破断面を走査型電子顕微鏡の反射電子像にて観察すると、内部電極層2が露出した破断面には、図2に示したように、導電性ペーストに含有されていた共材としてのセラミック粒子の中で、内部電極層2に留まっているセラミック粒子7の存在が確認できる。尚、図2(a)は反射電子像写真、(b)はその模式図である。
【0022】
このセラミック粒子7は、破断前には、圧電磁器層1の破断面側のセラミック粒子と焼結結合していたものであるが、内部電極層2とのアンカー効果が大きかった為に内部電極層2の表面側に残ったものである。つまり、この内部電極層2とのアンカー効果の大きいセラミック粒子7の存在割合が多ければ多いほど圧電磁器層1と内部電極層2との接合強度は大きくなるのである。
【0023】
このようなセラミック粒子7の露出面積は、走査型電子顕微鏡の反射電子像にて観察されたセラミック粒子7を、画像処理(商品名:ルーゼックス)にて測定することができる。尚、破断面に存在するセラミック粒子の露出面積は圧電磁器層1と内部電極層2との界面強度向上の点から、2%以上であることが望ましい。特には4%以上であることが望ましい。
【0024】
内部電極層2表面にセラミック粒子7を露出させるには、後述するように、PZT系圧電セラミックス粉末として、微粒子が凝集したものを用いる必要がある。内部電極層2表面に露出したセラミック粒子7の露出面積を、内部電極層2全表面中において2%以上とするには、比表面積が1.5〜2.5m2/gの凝集粉末をグリーンシート中のセラミック粉末として用い、有機バインダ量をセラミック粉末100質量部に対して9質量部以下とすることにより達成できる。微粒子が凝集したセラミック粉末を作製するには、一次原料粉末の粒度分布においてD90が1.0μm以下のものを仮焼する必要がある。
【0025】
本発明の積層型圧電アクチュエータの製法について説明する。まず、グリーンシートの作製に用いる原料として、微粒子が凝集したPZT系圧電セラミック仮焼粉末を作製する。
【0026】
このPZT系圧電セラミック仮焼粉末は、粒度分布においてD90が1.0μm以下の一次原料粉末を900℃以下の温度で仮焼し、比表面積が1.5〜2.5m2/gとなるよう湿式粉砕等により作製する。
【0027】
このようにして得られた圧電セラミック仮焼粉末(セラミック粉末)を、アクリル系等の有機高分子から成るバインダと、DBP(フタル酸ジオチル)、DOP(フタル酸ジブチル)等の可塑剤とを混合してスラリーを作製し、該スラリーを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等のテープ成型法により圧電磁器層1となるセラミックグリーンシートを作製する。
【0028】
有機バインダ量は、セラミック粉末100質量部に対して9質量部以下とする。
【0029】
ここで、PZT系圧電セラミック仮焼粉末は、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O3(以下PZTと略す)を主成分とする圧電セラミック材料であり、その圧電特性を示す圧電歪み定数d33が高いものが望ましい。
【0030】
次に、銀−パラジウムからなる金属粉末に、共材としてセラミック粉末、バインダ、可塑剤等を添加混合して内部電極ペーストを作製し、これを各セラミックグリーンシートの上面にスクリーン印刷等によって1〜40μmの厚みに印刷し、グリーンシート上に内部電極パターンを形成する。
【0031】
次に、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートを複数枚積層し、この後、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、さらにこの後、内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートを複数枚積層し、柱状積層体を得る。
【0032】
この柱状積層体は、内部電極パターンの影響により、内部電極パターンが形成されていない不活性部の積層体に比較し、内部電極パターンが形成された活性部の積層体で焼成収縮率が大きくなりやすく、デラミ等の積層欠陥が発生しやすくなる。
【0033】
この積層欠陥を回避するため、例えば、不活性部に用いるグリーンシートは、共材としてのセラミック粉末が含まれる導電性ペーストが上面に印刷されたもの、あるいは、焼結助剤としてガラス成分を含有するものを用いるなど、収縮率が大きくなるよう手段を講じたものを用いることが望ましい。
【0034】
次に、柱状積層体を50〜200℃で加熱を行いながら加圧を行い、柱状積層体を一体化する。一体化された柱状積層体は所定の大きさに切断された後、300〜800℃で5〜40時間、脱バインダが行われ、900〜1100℃で2〜5時間、本焼成が行われ、圧電素子本体1aを得る。この圧電素子本体1aの側面には、内部電極層2の端部が露出している。
【0035】
その後、圧電素子本体1aの2つの対向する側面において、内部電極層2端部を含む圧電磁器層1の端部に該2側面において互い違いになるよう1層おきに溝を形成し、該溝部に絶縁体3を埋設することで内部電極層2を互い違いに1層おきに絶縁できるようにする。
【0036】
その後、活性部層を構成する圧電磁器層1それぞれが並列接続となるように内部電極層2と外部電極4を接続する。外部電極4は、アクチュエータが伸縮した際に、内部電極層2との接合界面において破損しにくくするために、伸び縮みしやすいものが適しており、例えば、銀、ニッケル、銅等の導電性を備えた金属や合金、或いは、熱硬化性導電体などが用いられる。
【0037】
また、絶縁体3は、アクチュエータの変位に対して追従する弾性率が低い材料、具体的にはシリコーンゴム等からなることが好適であり、最終的に絶縁の機能を満足するのであれば、外部電極4の形成前後どの時点で、溝部に埋設してもよい。その後、リード線6を外部電極4に接続することにより本発明の積層型圧電アクチュエータが完成する。
【0038】
そして、リード線6を介して一対の外部電極4に0.1〜3kV/mmの直流電圧を印加し、積層型圧電素子1aを分極処理することによって、製品としての積層型圧電アクチュエータが完成し、リード線6を外部の電圧供給部に接続し、リード線6及び外部電極4を介して内部電極層2に電圧を印加させれば、各圧電磁器層1は逆圧電効果によって大きく変位し、これによって例えばエンジンに燃料を噴射供給する自動車用燃料噴射弁として機能する。
【0039】
このような積層型圧電素子の製法では、微粒子が凝集した比表面積の小さな原料粉末を用いてセラミックグリーンシートを作製することにより、有機バインダ量を減少でき、脱バインダ処理時のグリーンシートと電極塗布膜間の密着強度の弱体化を抑えることができ、これにより、圧電磁器層1が強固なアンカー効果で内部電極層2と接合し、接合強度の優れた積層型圧電素子を得ることができる。また、微粒子が凝集したセラミック粉末を用いてグリーンシートを作製することにより、焼成温度を1100℃以下と低温化でき、これにより、焼成時の鉛成分の蒸発を低減できるため、変位特性の優れた積層型圧電素子を得ることができる。
【0040】
図3は、本発明の噴射装置を示すもので、図において符号31は収納容器を示している。この収納容器31の一端には噴射孔33が設けられ、また収納容器31内には、噴射孔33を開閉することができるニードルバルブ35が収容されている。
【0041】
噴射孔33には燃料通路37が連通可能に設けられ、この燃料通路37は外部の燃料供給源に連結され、燃料通路37に常時一定の高圧で燃料が供給されている。従って、ニードルバルブ35が噴射孔33を開放すると、燃料通路37に供給されていた燃料が一定の高圧で内燃機関の図示しない燃料室内に噴出されるように形成されている。
【0042】
また、ニードルバルブ35の上端部は直径が大きくなっており、収納容器31に形成されたシリンダ39と摺動可能なピストン41となっている。そして、収納容器31内には、上記した圧電アクチュエータ43が収納されている。
【0043】
このような噴射装置では、圧電アクチュエータ43が電圧を印加されて伸長すると、ピストン41が押圧され、ニードルバルブ35が噴射孔33を閉塞し、燃料の供給が停止される。また、電圧の印加が停止されると圧電アクチュエータ43が収縮し、皿バネ45がピストン41を押し返し、噴射孔33が燃料通路37と連通して燃料の噴射が行われるようになっている。
【0044】
【実施例】
実施例1
セラミック粉末として、PZTを主成分とし、副成分としてYb、W、Srを選定したものを用い、これを湿式混合、乾燥、メッシュパスを行い、粒度分布でD90が0.8μmの一次原料粉末を得た。得られた一次原料粉末を870℃×3Hrの条件で仮焼を行い、比表面積が2.1m2/gとなるよう湿式粉砕を行った。
【0045】
湿式粉砕により得られた原料は、走査型電子顕微鏡で観察すると、図4に示すように平均粒径が0.4μmの微粒子が凝集したセラミック粉末となっていた。このようにして得られたセラミック粉末に、アクリル系バインダおよび溶剤、可塑剤を添加しスラリーを作製し、スリップキャスティング法により厚み150μmのセラミックグリーンシートを作製した。ここで、有機バインダ量は、グリーンシートに乾燥クラックが発生しない最低限必要な量とし、この場合、セラミック粉末100質量部に対して8質量部であった。
【0046】
このようにして得られたセラミックグリーンシートの上面に、銀−パラジウム合金、有機バインダおよび、セラミックグリーンシートに用いたセラミック粉末と同組成からなる共材とてのセラミック粉末、並びに溶剤を含む内部電極ペーストを印刷して内部電極パターンを形成した。
【0047】
この後、厚み150μmのセラミックグリーンシートを15層積層し、この上面に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを300層積層し、この上面に厚み150μmのセラミックグリーンシートを15層積層した。ただし、不活性部として用いる内部電極パターンが形成されていないセラミックグリーンシートには、焼成時の収縮率が大きくなるよう、焼結助剤として、上記セラミック粉末100質量部に対して1質量部のSi成分を添加した。
【0048】
そして、100℃で加熱を行いながら加圧を行い、カット、脱バインダ、焼成することにより柱状積層体を得た。ここで、脱バイ温度は400℃、焼成温度は、積層体密度が7.8g/cm3以上を満足できる温度とし、実施例1では1050℃とした。
【0049】
その後、該圧電素子本体の2つの側面において、内部電極層端部を含む圧電磁器層の端部に該2側面において互い違いになるように、ダイシング装置より一層おきに溝を形成し、該溝部に絶縁体としてシリコーンゴムを充填した。この後、絶縁されていない内部電極層の他方の端面に外部電極として熱硬化性導電体を帯状に形成し、200℃の熱処理を行った。この後、リード線を接続し、アクチュエータの外周面にディッピングにより、シリコンゴムを被覆した後、外部電極にリード線を介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して分極処理を行い、図1に示すような積層型圧電アクチュエータを作製した。
【0050】
得られた積層型圧電アクチュエータに150Vの直流電圧を印加した結果、積層方向に43μmの変位量が得られた。さらに、このアクチュエータに室温で0〜+150Vの正弦波電圧を60Hzの周波数にて印加し5×109サイクルの駆動試験を行った。その結果、5×109サイクル後においても変位の変動は見られなかった。
【0051】
また、圧電磁器層と内部電極層の接合界面の強度評価として、積層型圧電素子の抗折強度を評価した。評価サンプルは、駆動試験をおこなったサンプルから、JIS R 1601に基づきJIS抗折試験片(幅4mm、厚み3mm、長さ40mm)を削りだし、4点曲げにて評価した。また、抗折強度を評価した積層型圧電素子の破断面において、導電性ペーストに含有されていたセラミック粒子の中で内部電極層2に留まっているセラミック粒子の存在割合を評価した。結果を表1に示した。
実施例2
仮焼温度を850℃とし、比表面積が2.5m2/gとなるよう粉砕を行った原料を用い、実施例1と同様に積層型圧電素子を作製した。この時、必要なバインダー量は8.5質量部であり、積層体密度が7.8g/cm3となる焼成温度である1000℃で焼成した。得られた積層型圧電素子について、実施例1と同様に変位量、駆動テスト(耐久性)、曲げ強度、および破断面における内部電極に留まっているセラミック粒子7の露出比率を評価した。結果を表1に示した。実施例3
仮焼温度を900℃とし、比表面積が1.5m2/gとなるよう粉砕を行った原料を用い、実施例1と同様に積層型圧電素子を作製した。この時、必要なバインダー量は6.5質量部であり、積層体密度が7.8g/cm3となる焼成温度である1150℃で焼成した。得られた積層型圧電素子について、実施例1と同様に変位量、駆動テスト、曲げ強度、および破断面における内部電極に留まっているセラミック粒子7の存在割合を評価した。結果を表1に示した。
実施例4
仮焼温度を830℃とし、比表面積が2.8m2/gとなるよう粉砕を行った原料を用い、実施例1と同様に積層型圧電素子を作製した。この時、必要なバインダー量は9.0質量部であり、積層体密度が7.8g/cm3となる焼成温度である1000℃で焼成した。得られた積層型圧電素子について、実施例1と同様に変位量、駆動テスト、曲げ強度、および破断面における内部電極層2に留まっているセラミック粒子7の存在割合を評価した。結果を表1に示す。
比較例1
粒度分布でD90が1.3μmの一次原料粉末を900℃×3Hrの条件で仮焼を行い、比表面積が3.2m2/gとなるよう湿式粉砕を行った。
【0052】
湿式粉砕により得られた原料は、走査型電子顕微鏡で観察すると、凝集していない平均粒径が0.9μmのセラミック粉末となっていた。このセラミック粉末を用いて、実施例1と同様に積層型圧電素子を作製した。この時、必要なバインダー量は、10.0質量部であり、積層体密度が7.8g/cm3となる焼成温度である1000℃で焼成した。しかしながら、比較例1のサンプルでは、脱バインダ処理後にデラミネーションが発生し、焼成セット中にサンプルが分断してしまった。そのため、抗折強度等の評価は行えなかった。焼成後の試料の分断面を観察すると、内部電極全表面がセラミック粒子で覆われていた。焼成により内部電極層中の共材が分断面の内部電極層表面に押し出されたためである。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
この表1から、破断面において内部電極層2に留まっているセラミック粒子7の存在割合が大きいほど、曲げ強度が強くなっていることが分かる。特に面積比率が4%より大きい実施例1〜3では、曲げ強度が75MPa以上を示している。また、焼成温度が1150℃の実施例3に対して焼成温度が1100℃以下である実施例1、2、4は、変位量が41μm以上と大きくなっていることが分かる。これは、焼成温度が低いことにより焼成時に鉛成分の蒸発が抑制され、圧電磁器の変位特性が優れたものとなっているためである。
【0055】
【発明の効果】
本発明の積層型圧電素子によれば、内部電極層に一部が埋設されたセラミック粒子が、内部電極層側の破断面に分散して存在しているとともに、内部電極層側の破断面に露出するセラミック粒子の割合が、内部電極層側の破断面中2.0〜6.1%であるため、このセラミック粒子が、圧電磁器層のセラミック粒子と焼結することで、強いアンカー効果を実現し、内部電極層と圧電磁器層との接合強度を向上できる。これにより、内部電極層と圧電磁器層との界面における破損を抑制できる耐久性に優れた積層型圧電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の積層型圧電素子を示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−A’線に沿った縦断面図である。
【図2】本発明の積層型圧電素子の破断面における内部電極層表面を示すもので、(a)は反射電子像写真、(b)はその模式図である。
【図3】本発明の噴射装置を示す説明図である。
【図4】本発明の製法に用いるセラミック粉末を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1・・・圧電磁器層
2・・・内部電極層
7・・・内部電極層に一部が埋設されたセラミック粒子
31・・・収納容器
33・・・噴射孔
35・・・ニードルバルブ
43・・・圧電アクチュエータ
Claims (3)
- 複数の圧電磁器層と複数の内部電極層とが交互に積層され、同時焼成された積層型圧電素子であって、前記内部電極層がセラミック粒子を含み、前記圧電磁器層と前記内部電極層との界面で破断したとき、前記内部電極層側の破断面において、前記内部電極層に一部が埋設された前記セラミック粒子が分散して存在するとともに、前記内部電極層側の破断面に露出した前記セラミック粒子の露出面積が、前記内部電極層側の破断面中2.0〜6.1%であることを特徴とする積層型圧電素子。
- 複数の微粒子が凝集したPZT系圧電仮焼粉末からなり比表面積が1.5〜2.5m 2 /gのセラミック粉末と、該セラミック粉末100質量部に対して9質量部以下の有機バインダと、有機溶剤とを含有するグリーンシート上に、金属粉末と、セラミック粉末と、有機溶剤とを含有する導電性ペーストを塗布して電極塗布膜を形成する工程と、該電極塗布膜が形成された前記グリーンシートを複数積層し加圧して積層体を形成する工程と、この積層体を脱バインダ処理し、1100℃以下で焼成する工程とを具備することを特徴とする積層型圧電素子の製法。
- 噴射孔を有する収納容器と、該収納容器内に収容された請求項1記載の積層型圧電素子と、該積層型圧電素子の駆動により前記噴射孔から液体を噴出させるバルブとを具備してなることを特徴とする噴射装置。
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