JP4312352B2 - 電子放出装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体からの電子放出を利用する電子放出装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属やシリコンを用いて尖塔形状を作製した、スピント型と呼ばれている電子放出素子が研究開発されている。また、近年、負性電子親和力を有するダイヤモンドを用いたフィールドエミッタの研究も進められている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
フィールドエミッタには、低電圧動作、高電流密度動作、そして長寿命動作が要求される。低電圧化や高電流密度化を達成するためには、フィールドエミッタ用材料として、小さい仕事関数を有する金属や、小さい電子親和力または負性電子親和力をもつ半導体が注目されている。また、長寿命化のためには、硬質で安定な材料が必要である。
【0004】
これまで、複雑なプロセスによって金属やシリコンを尖塔型の形状に加工し、その近傍に引き出し電極を作製することによって、低電圧動作が図られている。更なる低電圧動作を行うためには、作製した尖塔形状に負性電子親和力を持つダイヤモシドや窒化物半導体をコートすることが望まれる。しかし、ダイヤモンドは均一薄膜の作製が困難であり、コーティング薄膜として用いることができない。
【0005】
近年、窒化物半導体の中で窒化ホウ素薄膜からの、低電界での電子放出が報告されている。均一な窒化ホウ素薄膜の堆積も可能であるため、先に述べたコーティング薄膜として、窒化ホウ素薄膜の利用が期待され、その実用化が望まれている。
【0006】
しかし、窒化ホウ素薄膜は水分に弱く、薄膜の割れや基板からの剥離が起こりやすい。このために、現状では、ウェットプロセスによるデバイスの作製ができないという大きな問題を有している。
【0007】
本発明の目的は、前記の尖塔形状を作製する複雑なプロセスを排除し、窒化ホウ素薄膜が有する問題を解消して付着性を向上させ、低電圧で動作する電子放出装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、表面に凹凸を有する基板または半導体基板上に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置である。
【0009】
請求項2に記載された発明は、導体または半導体基板上に前記導体または前記半導体基板と異なる材料で表面に凹凸を有する導電性層または半導体層が設けられ、電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置である。
【0010】
請求項3に記載された発明は、導体または半導体基板上に電気的に接続して炭素ナノチューブが設けられ、ホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置である。
【0011】
請求項4に記載された発明は、絶縁体基板上に表面に凹凸を有する導電性層または半導体層が設けられ、前記導電性層または前記半導体層に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置である。
【0012】
請求項5に記載された発明は、絶縁体基板上に前記絶縁体基板と異なる材料で表面に凹凸を有する2層構造の導電性層または半導体層が設けられ、前記導電性層または前記半導体層に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置である。
【0013】
請求項6に記載された本発明では、請求項2〜3のいずれか1項に記載の電子放出装置において、前記導体または前記半導体基板として金属、シリコン、ガリウム砒素、インジウムリン、炭化珪素、窒化ガリウムの中の1つを用いたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載された本発明では、請求項4または5に記載の電子放出装置において、前記絶縁体基板としてガラス、石英、ニオブ酸リチウム、酸化マグネシウム、サファイヤ、ダイヤモンドの中の1つを用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載された本発明では、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子放出装置において、前記薄膜の表面にも凹凸が存在することを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載された本発明では、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子放出装置において、前記基板として表面層に窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはそれらの混晶薄膜またはインジウムリンを用いたことを特徴とする。
【0023】
前記構成の電子放出装置では、表面に凹凸を有する基板を用い、その上に窒化ホウ素炭素薄膜を設けた。これによって、従来の窒化ホウ素と基板との間の剥離の問題を解決して、付着性を向上させ、また、尖塔形状を作製することなく、低電圧動作を可能にする。
【0024】
また、本発明の電子放出装置では、前記材料と電気的に絶縁して引き出し電極を設け、さらに、前記材料に対向して空間をもって電気的に絶縁した金属体を設けたことを特徴とするので、引き出し電極を有する高性能平面型電子放出装置が実現できると考えられる。
【0025】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。本発明による電子放出装置は、基板表面に凹凸を設け、その上にホウ素、炭素、窒素を含む薄膜を有する。つまり、表面に凹凸を有する基板を用い、その上に窒化ホウ素炭素薄膜を設ける。これによって、従来の窒化ホウ素と基板との間の剥離の問題を解決して、付着性を向上させている。
【0026】
本発明によれば、導電性基板および絶縁性基板上に電子放出装置を作製することができるので、本発明は、平面型の電子放出装置の実現につながり、複雑な作製プロセスを必要とする従来のスピント型の尖塔形状を不要にしている。さらに、本発明よれば、電子放出特性を改善することができる。
【0027】
これらの結果から、本発明は、フィールドエミッションディスプレー、電子ビーム露光機、マイクロ波進行波管、撮像素子等に応用することができる。また、電子ビームを用いたオージェ電子分光装置等の材料評価装置の電子源としても用いることができ、様々な用途に対応できる。
【0028】
【実施例】
以下に、各々の基板上に作製する本発明の電子放出装置の実施例について、具体的に説明する。
【0029】
[実施例1]
図1は、本発明による電子放出装置の実施例1を示す断面図である。実施例1の電子放出装置は、シリコン基板1、窒化ガリウム層2、窒化ホウ素炭素薄膜3、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7で構成される。
【0030】
シリコン基板1は、n型のシリコン半導体の基板である。
窒化ガリウム層2は、シリコン基板1の一方の面(以下、表面という)に設けられている。窒化ガリウム層2の表面には、断面形状がほぼ三角形状をした凹凸が一面に、ランダムかつ密に形成されている。
【0031】
窒化ホウ素炭素薄膜3は、窒化ガリウム層2の表面全体を覆う薄膜である。窒化ホウ素炭素薄膜3は、窒化ガリウム層2の凹凸を覆うので、窒化ガリウム層2の凹凸と同じ形状になる。
【0032】
引き出し電極5は、SiOX薄膜4によって絶縁されて、窒化ホウ素炭素薄膜3の表面に設けられた第1の金属体である。カソード電極6は、シリコン基板1の他方の面(以下、裏面という)に設けられている。アノード電極7は、引き出し電極5と空間をもって設けられている第2の金属体である。
【0033】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図2(A)に示すように、有機金属化学気相合成法によって、n型のシリコシ基板1の表面上に、シリコン添加n型窒化ガリウム層2を1[μm]成長させたウエハーを基板として用いた。
【0034】
マイクロ波により水素プラズマを生成し、窒化ガリウム層2の表面を処理した。マイクロ波出力300[W]、水素流量を50[sccm]、ガス圧力40[Torr]に設定し、5分間処理を行った。水素プラズマ処理によって、平坦な窒化ガリウム層2の表面は、図2(B)に示すように、数十[nm]の凹凸を有する表面に変化した。
【0035】
窒化ガリウム層2の上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化ホウ素炭素薄膜3(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を100[nm]堆積した(図2(B))。窒化ホウ素炭素薄膜3には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0036】
次に、図2(C)に示すように、窒化ホウ素炭素薄膜3上にSiOX薄膜4を800[nm]、および引き出し電極5用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。また、シリコン基板1の裏面に、カソード電極6としてAl(500[nm])を電子ビーム蒸着した。
【0037】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極5用の金属およびSiOX薄膜4をエッチングにより除去し、図2(D)に示すように、直径5[μm]の窓5Aを形成した。窓5Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜3の表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チェンバー内でアノード電極7となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜3に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図2(D))。
【0038】
前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極5を接地し(図1)、カソード電極6に電源11を接続し、アノード電極7に電源12を接続する。これによって、カソード電極6とアノード電極7とに各々バイアスが加えられ、電子放出装置が動作する。
【0039】
電子放出装置が動作状態にあるとき、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させた。そして、カソード電極6に40[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0040】
以上、シリコン基板1上に凹凸を有するn型窒化ガリウム層2を形成し、その上に作成した電子放出装置について説明した。なお、実施例1では、次のような構成も可能である。
【0041】
実施例1では、シリコン基板1上に窒化ガリウム層2を形成し、水素プラズマ処理によって、凹凸表面を作製したが、窒化ガリウム層2の代わりに、窒化ガリウムにアルミニウムやインジウムを加えた混晶層を用いることもできる。n型不純物として、シリコンだけでなく、VI族の元素をドナー不純物として用いることもできる。これらの窒化物層以外にインジウムリン層を用いることもできる。
【0042】
表面に凹凸を形成するためのプラズマを生成するガスとして、酸素、塩素、フッ素等を含むガスも使用できる。プラズマの生成には、マイクロ波だけではなく、RF電力を用いることもでき、プラズマ処理において、試料にバイアスをかけることは表面形状の制御に有効である。
【0043】
実施例1では、イオウ不純物を添加した窒化ホウ素炭素薄膜3を用いたが、ドナー不純物となるリチウム、酸素、シリコン等の原子を添加した窒化ホウ素炭素薄膜を用いることもできる。無添加窒化ホウ素炭素薄膜を用いて前記と同様の電子放出装置を作製した結果、ターンオン電圧が30[%]程度増加し、電子放出特性の劣化が見られ、不純物添加の有効性が確認できた。ここでは、基板材料としてシリコンンを用いたが、それ以外の金属、ガリウム砒素、インジウムリン、炭化珪素、窒化ガリウム等、様々な導体および半導体を用いることもできる。
【0044】
実施例1では、引き出し電極5用金属として、Ti/Auを用いたが、Tiの代わりにCrを用い、Auの代わりに様々な金属を用いることができる。
【0045】
半導体基板を用いる場合には、オーミック電極形成可能な材料であれば、どのような金属でもカソード電極6用金属として用いることができ、導体基板を用いる場合には、基板自身をカソード電極として用いることができる。
【0046】
[実施例2]
図3は、本発明による電子放出装置の実施例2を示す断面図である。実施例2では、シリコン基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、その上に電子放出部分を作成した。実施例2の電子放出装置は、シリコン基板21、窒化ガリウム層22、窒化ホウ素炭素薄膜23、SiOX薄膜24、引き出し電極25、カソード電極26およびアノード電極27で構成される。
【0047】
なお、実施例2のシリコン基板21、SiOX薄膜24、引き出し電極25、カソード電極26およびアノード電極27は、実施例1のシリコン基板1、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0048】
窒化ガリウム層22は、シリコン基板21の表面に設けられている。窒化ガリウム層22は、断面形状がほぼ三角形状をした凸状になるように、加工されている。隣接する窒化ガリウム層22の間、つまり、逆三角形状になる凹部では、その低部分からシリコン基板21の表面が露出している。さらに、窒化ガリウム層22は、シリコン基板21の表面に、ランダムかつ密に設けられている。
【0049】
窒化ホウ素炭素薄膜23は、凸状の窒化ガリウム層2および露出したシリコン基板21の表面全体を覆う薄膜である。窒化ホウ素炭素薄膜23は、窒化ガリウム層22の凸部分を覆うので、窒化ガリウム層22と同じ凸形状になる。
【0050】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図4(A)に示すように、有機金属化学気相合成法によって、n型のシリコン基板21の表面上に、シリコン添加n型窒化ガリウム層22を0.5[μm]成長させたウエハーを基板として用いた。
【0051】
マイクロ波により水素プラズマを生成し、窒化ガリウム層22の表面を処理した。マイクロ波出力300[W]、水素流量を50[sccm]、ガス圧力40[Torr]に設定し、15分間処理を行った。水素プラズマ処理によって、平坦な窒化ガリウム層22の表面は、図4(B)に示すように、数百[nm]の凹凸を有する表面に変化した。凹部分にはシリコン基板21が現れた。
【0052】
その上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化ホウ素炭素薄膜23(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を100[nm]堆積した(図4(B))。窒化ホウ素炭素薄膜23には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0053】
次に、図4(C)に示すように、窒化ホウ素炭素薄膜23上にSiOX薄膜24を800[nm]、および引き出し電極25用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。また、シリコン基板21の裏面に、カソード電極26としてAl(500[nm])を電子ビーム蒸着した。
【0054】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極25用の金属およびSiOX薄膜24をエッチングにより除去し、図4(D)に示すように、直径5[μm]の窓25Aを形成した。窓25Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜23表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チェンバー内でアノード電極27となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜23に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図4(D))。
【0055】
前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極25を接地し(図3)、カソード電極26に電源11を接続し、アノード電極27に電源12を接続する。これによって、カソード電極26とアノード電極27に各々バイアスが加えられ、電子放出装置が動作をする。
【0056】
電子放出装置が動作状態にあるとき、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させた。そして、カソード電極26に35[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0057】
以上、シリコン基板21上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層22を形成し、その上に作成した電子放出装置について説明した。実施例2では、実施例1に述べた内容がすべて含まれる。さらに、実施例2では、次のような構成も可能である。
【0058】
窒化ガリウム層22がシリコン基板21より水素プラズマ処理によってエッチングされやすいことを利用して、凹凸部分の形状を変化させる試みが付加されている。表面層として基板材料よりプラズマによるエッチングの容易な材料の選択により、実施例2が実現できる。なお、プラズマ処理により基板材料のエッチングが起こっても何ら影響はない。
【0059】
[実施例3]
図5は、本発明による電子放出装置の実施例3を示す断面図である。実施例3では、サファイヤ基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、その上に電子放出部分を作製した。
【0060】
実施例3の電子放出装置は、サファイア基板31、窒化ガリウム層32、窒化ホウ素炭素薄膜33、SiOX薄膜34、引き出し電極35、カソード電極36およびアノード電極37で構成される。
【0061】
なお、実施例3のSiOX薄膜34、引き出し電極35およびアノード電極37は、実施例1のSiOX薄膜4、引き出し電極5およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0062】
サファイア基板31は、絶縁体材料であるサファイアで作られた基板である。
【0063】
窒化ガリウム層32は、シリコン基板31の表面に設けられている。窒化ガリウム層32の表面には、断面形状がほぼ三角形状をした波状の凹凸が、ランダムかつ密に形成されている。このとき、窒化ガリウム層32の表面の一部分が平坦な状態に保たれている。
【0064】
窒化ホウ素炭素薄膜33は、凹凸部分が形成されている、窒化ガリウム層32の表面だけを覆う薄膜である。この結果、窒化ホウ素炭素薄膜33は、窒化ガリウム層32の凹凸と同じ形状になる。
【0065】
カソード電極36は、窒化ガリウム層32の平坦な表面部分に設けられている。
【0066】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図6(A)に示すように、有機金属化学気相合成法によって、サファイヤ基板31の表面上に、シリコン添加n型窒化ガリウム層32を1[μm]成長させたウエハーを基板として用いた。
【0067】
マイクロ波により水素プラズマを生成し、窒化ガリウム層32の表面を処理した。マイクロ波出力300[W]、水素流量を50[sccm]、ガス圧力40[Torr]に設定し、5分間処理を行った。水素プラズマ処理によって、平坦な窒化ガリウム層32の表面は、図6(B)に示すように、数十[nm]の凹凸を有する表面に変化した。
【0068】
その上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化ホウ素炭素薄膜33(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を100[nm]堆積した(図6(B))。この際、窒化ガリウム層32の一部に窒化ホウ素炭素薄膜33が堆積しないように、マスクを設けて行った。窒化ホウ素炭素薄膜33には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0069】
次に、図6(C)に示すように、窒化ガリウム層32の表面にアルミニウム(300[nm])を電子ビーム蒸着法で形成し、カソード電極36を作製する。この後、窒化ホウ素炭素薄膜33上にSiOX薄膜34を800[nm]、および引き出し電極35用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。
【0070】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極35用の金属およびSiOX薄膜34をエッチングにより除去し、図6(D)に示すように、直径5[μm]の窓35Aを形成した。窓35Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜33の表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チェンバー内でアノード電極37となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜33に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図6(D))。
【0071】
前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極35を接地し、カソード電極36に電源11を接続し、アノード電極37に電源12を接続する。これによって、カソード電極36とアノード電極37に各々バイアスが加えられ、電子放出装置が動作する。
【0072】
電子放出装置が動作状態にあるとき、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させた。そして、カソード電圧40[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0073】
以上、サファイヤ基板31上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層32を形成し、その上に作製した電子放出装置について説明した。なお、実施例3では、次のような構成も可能である。
【0074】
つまり、実施例3では、基板材料としてサファイヤを用いたが、それ以外のガラス、石英、ニオブ酸リチウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド等の様々な絶縁体材料を用いても作製できる。
【0075】
実施例3では、窒化ガリウム層32を用い、水素プラズマ処理によって凹凸表面を作製したが、基板としてアルミニウムやインジウムを加えた混晶層を用いることもできる。また、インジウムリンを用いることもできる。窒化ガリウム層32つまり導電層のn型不純物として、シリコンだけでなく、VI族の元素をドナー不純物として用いることもできる。
【0076】
プラズマを生成するガスとして、酸素、塩素、フッ素等を含むガスも使用できる。プラズマの生成にはマイクロ波だけではなくRF電力を用いることもでき、プラズマ処理において試料にバイアスをかけることは表面形状の制御に有効である。
【0077】
実施例3では、イオウ不純物を添加した窒化ホウ素炭素薄膜33を用いたが、ドナー不純物となるリチウム、酸素、シリコン等の原子を添加した窒化ホウ素炭素薄膜を用いることもできる。
【0078】
実施例3では、引き出し電極35用金属としてTi/Auを用いたが、Tiの代わりにCrを用い、Auの代わりには様々な金属を用いることができる。
【0079】
窒化ガリウム層32つまり導電層に対してオーミック電極形成可能な材料であればどのような金属でもカソード電極36用金属として用いることができる。
【0080】
絶縁体基板を用いる実施例3において、前述の実施例2を容易に実現することができる。サファイヤ基板31上に金属膜またはn型半導体膜(シリコンや炭化珪素膜)を形成した後、窒化ガリウムやインジウムリン膜を成長させた後、その表面を水素プラズマ処理することにより、凹凸を作製することができる。このようにして、これまでに述べてきた方法で電子放出装置を実現することができる。
【0081】
[実施例4]
図7は、本発明による電子放出装置の実施例4を示す断面図である。実施例4の電子放出装置では、絶縁体基板にガラス基板を用いた。実施例4の電子放出装置は、ガラス基板41、カソード電極42、窒化ホウ素炭素薄膜43、SiOX薄膜44、引き出し電極45およびアノード電極46で構成される。
【0082】
なお、実施例4のSiOX薄膜44、引き出し電極45およびアノード電極46は、実施例1のSiOX薄膜4、引き出し電極5およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0083】
ガラス基板41は、絶縁体材料であるガラスで作られた基板である。ガラス基板41の表面には、断面形状がほぼ三角形状をした凹凸が、ランダムかつ密形成されている。
【0084】
カソード電極42は、ガラス基板41の表面全体を覆う金属膜である。カソード電極42は、ガラス基板41の凹凸を覆うので、ガラス基板41の凹凸と同じ形状になる。
【0085】
窒化ホウ素炭素薄膜43は、カソード電極42の表面を覆う薄膜である。このとき、カソード電極42の一部の表面を窒化ホウ素炭素薄膜43で覆わないで、この部分を、カソード電極42を設けるための領域とした。窒化ホウ素炭素薄膜43は、カソード電極42の凹凸を覆うので、カソード電極42の凹凸と同じ形状になる。
【0086】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図8(A)に示すように、ガラス基板41の表面をメカニカル処理によって凹凸41Aを形成した。ガラス基板41の表面上に、図8(B)に示すように、カソード電極42として、Tiを20[nm]そしてTiNを200[nm]スパッタ法により形成した。
【0087】
カソード電極42の上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、図8(C)に示すように、窒化ホウ素炭素薄膜43(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を100[nm]堆積した。この際、表面の一部分に窒化ホウ素炭素薄膜43を堆積させない領域を設け、カソード電極領域42Aとした。
【0088】
窒化ホウ素炭素薄膜43には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。窒化ホウ素炭素薄膜43上には、SiOX薄膜44を800[nm]、および引き出し電極45用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。
【0089】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極45用の金属およびSiOX薄膜44をウェットエッチングにより除去し、図8(D)に示すように、直径5[μm]の窓45Aを形成した。窓45Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜43表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チェンバー内でアノード電極46となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜43に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図8(D))。
【0090】
前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極45を接地し(図7)、カソード電極42に電源11を接続し、アノード電極46に電源12を接続する。これよって、カソード電極42とアノード電極46とに各々バイアスが加えられ、電子放出装置が動作する。
【0091】
電子放出装置が動作状態にあるとき、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させて電子放出特性を評価した。この結果、実施例4による電子放出装置は、実施例1と同様な電子放出特性を示し、カソード電圧40[V]で0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0092】
[実施例5]
図9は、本発明による電子放出装置の実施例5を示す断面図である。実施例5では、シリコン基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、さらに、窒化ホウ素炭素薄膜表面にも凹凸を作製した。実施例5の電子放出装置は、シリコン基板51、窒化ガリウム層52、窒化ホウ素炭素薄膜53、SiOX薄膜54、引き出し電極55、カソード電極56およびアノード電極57で構成される。
【0093】
なお、実施例5のシリコン基板51、窒化ガリウム層52、SiOX薄膜54、引き出し電極55、カソード電極56およびアノード電極57は、実施例1のシリコン基板1、窒化ガリウム層2、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0094】
窒化ホウ素炭素薄膜53は、窒化ガリウム層52の表面全体を覆う薄膜である。窒化ホウ素炭素薄膜53は、窒化ガリウム層52の凹凸を覆うので、窒化ホウ素炭素薄膜53の凹凸と同じ形状になる。さらに、窒化ホウ素炭素薄膜53の表面には、窒化ガリウム層52に比べて小さな、しかも断面形状がほぼ三角形状をした凹凸が、ランダムかつ密に形成されている。
【0095】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図10(A)に示すように、有機金属化学気相合成法によって、n型シリコン基板51の表面上に、シリコン添加n型窒化ガリウム層52を1[μm]成長させたウエハーを基板として用いた。
【0096】
マイクロ波により水素プラズマを生成し、窒化ガリウム層52の表面を処理した。マイクロ波出力300[W]、水素流量を50[sccm]、ガス圧力40[Torr]に設定し、10分間処理を行った。水素プラズマ処理によって、平坦な窒化ガリウム層52表面は、図10(B)に示すように、数百[nm]の凹凸を有する表面に変化した。
【0097】
窒化ガリウム層52の上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化ホウ素炭素薄膜53(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を200[nm]堆積した(図10(B))。窒化ホウ素炭素薄膜53には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0098】
この後、再びマイクロ波により生成した水素プラズマを用いて、窒化ホウ素炭素薄膜53を処理した。処理時間は5分間とした。この処理によって、窒化ホウ素炭素薄膜53の表面には、数十[nm]の凹凸53Aが形成された(図10(B))。
【0099】
次に、図10(C)に示すように、窒化ホウ素炭素薄膜53上にSiOX薄膜54を1000[nm]、および引き出し電極55用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。また、シリコン基板51の裏面に、カソード電極56としてAl(500[nm])を電子ビーム蒸着した。
【0100】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極55用の金属およびSiOX薄膜54をエッチングにより除去し、図10(D)に示すように、直径5[μm]の窓55Aを形成した。窓55Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜53の表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チェンバー内でアノード電極57となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜53に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図10(D))。
【0101】
前記構成の電子放出装置は、次のようにして用いられる。つまり、引き出し電極55を接地し(図9)、カソード電極56に電源11を接続し、アノード電極57に電源12を接続する。これによって、カソード電極56とアノード電極57に各々バイアスが加えられ、電子放出装置が動作する。
【0102】
電子放出装置が動作状態にあるとき、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させた。カソード電極56に30[V]の電圧を印加することにより0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0103】
[実施例6]
図11は、本発明による電子放出装置の実施例6を示す断面図である。実施例6では、シリコン基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、その上に電子放出部分を作製した。実施例6の電子放出装置は、シリコン基板61、窒化ガリウム層62、炭化ホウ素薄膜63、SiOX薄膜64、引き出し電極65、カソード電極66およびアノード電極67で構成される。
【0104】
なお、実施例6のシリコン基板61、窒化ガリウム層62、SiOX薄膜64、引き出し電極65、カソード電極66およびアノード電極67は、実施例1のシリコン基板1、窒化ガリウム層2、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0105】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。窒化ガリウム層62の形成および処理は、実施例1の窒化ガリウム層2の形成および処理と同じであるので、説明を省略する。窒化ガリウム層62に凹凸が形成された後、その上に、三塩化ホウ素とメタンとを原料ガスとして用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、炭化ホウ素薄膜63(組成比、ホウ素0.25、炭素0.75)を100[nm]堆積した。炭化ホウ素薄膜63には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0106】
この後のSiOX薄膜64、引き出し電極65、窓65A、カソード電極66およびアノード電極67の形成と処理は、実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0107】
前記構成の電子放出装置は、実施例1と同じようにして用いられる。つまり、引き出し電極65を接地し(図11)、カソード電極66に電源11を接続し、アノード電極67に電源12を接続する。そして、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。このとき、アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させ、カソード電極66に50[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0108】
以上、実施例6について説明したが、実施例6で用いられた炭化ホウ素薄膜63は、前記のすべての実施例において応用することができる。
【0109】
[実施例7]
図12は、本発明による電子放出装置の実施例7を示す断面図である。実施例7では、シリコン基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、その上に電子放出部分を作製した。実施例7の電子放出装置は、シリコン基板71、窒化ガリウム層72、窒化炭素薄膜73、SiOX薄膜74、引き出し電極75、カソード電極76およびアノード電極77で構成される。
【0110】
なお、実施例7のシリコン基板71、窒化ガリウム層72、SiOX薄膜74、引き出し電極75、カソード電極76およびアノード電極77は、実施例1のシリコン基板1、窒化ガリウム層2、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0111】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。窒化ガリウム層72の形成および処理は、実施例1の窒化ガリウム層2の形成および処理と同じであるので、説明を省略する。窒化ガリウム層72に凹凸が形成された後、その上に、メタンと窒素ガスとを原料ガスとして用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化炭素薄膜73(組成比、炭素0.4、窒素0.6)を100[nm]堆積した。
【0112】
この後のSiOX薄膜74、引き出し電極75、窓75A、カソード電極76およびアノード電極77の形成と処理は、実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0113】
前記構成の電子放出装置は、実施例1と同じようにして用いられる。つまり、引き出し電極75を接地し(図12)、カソード電極76に電源11を接続し、アノード電極77に電源12を接続する。そして、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。このとき、アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させ、カソード電極76に50[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0114】
以上、実施例7について説明したが、実施例7で用いられた窒化炭素薄膜73は、前記のすべての実施例においても応用できる。
【0115】
[実施例8]
図13は、本発明による電子放出装置の実施例8を示す断面図である。実施例8では、シリコン基板上に凹凸表面を有するn型窒化ガリウム層を形成し、その上に電子放出部分を作製した。実施例8の電子放出装置は、シリコン基板81、窒化ガリウム層82、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)薄膜83、SiOX薄膜84、引き出し電極85、カソード電極86およびアノード電極87で構成される。
【0116】
なお、実施例8のシリコン基板81、窒化ガリウム層82、SiOX薄膜84、引き出し電極85、カソード電極86およびアノード電極87は、実施例1のシリコン基板1、窒化ガリウム層2、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0117】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。窒化ガリウム層82の形成および処理は、実施例1の窒化ガリウム層2の形成および処理と同じであるので、説明を省略する。窒化ガリウム層82に凹凸が形成された後、その上に、メタンを原料ガスとして用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、DLC薄膜83を100[nm]堆積した。DLC薄膜83には、窒素原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。
【0118】
この後のSiOX薄膜84、引き出し電極85、窓85A、カソード電極86およびアノード電極87の形成と処理は、実施例1と同じであるので、説明を省略する。
【0119】
前記構成の電子放出装置は、実施例1と同じようにして用いられる。つまり、引き出し電極85を接地し(図13)、カソード電極86に電源11を接続し、アノード電極87に電源12を接続する。そして、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。このとき、アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させ、カソード電極86に50[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0120】
以上、実施例8について説明したが、実施例8で用いられたDLC薄膜83は前記のすべての実施例においても応用できる。
【0121】
[実施例9]
図14は、本発明による電子放出装置の実施例9を示す断面図である。実施例9では、シリコン基板上に炭素ナノチューブを形成し、その上に電子放出部分を作製した。実施例9の電子放出装置は、シリコン基板91、炭素ナノチューブ92、窒化ホウ素炭素薄膜93、SiOX薄膜94、引き出し電極95、カソード電極96およびアノード電極97で構成される。
【0122】
なお、実施例9のシリコン基板91、窒化ホウ素炭素薄膜93、SiOX薄膜94、引き出し電極95、カソード電極96およびアノード電極97は、実施例1のシリコン基板1、窒化ホウ素炭素薄膜3、SiOX薄膜4、引き出し電極5、カソード電極6およびアノード電極7とそれぞれ同じであるので、それらの説明を省略する。
【0123】
前記構成の電子放出装置を次に示す手順で作成した。つまり、図15(A)に示すように、n型シリコン基板91の表面上に、蒸着法により鉄の微粒子を作製した。その上に、プラズマ化学気相合成法によってメタンを原料ガスとして炭素ナノチューブ92を合成した。
【0124】
この後、図15(B)に示すように、シリコン基板91の上に、三塩化ホウ素とメタンと窒素ガスとを用いたプラズマアシスト化学気相合成法によって、窒化ホウ素炭素薄膜93(組成比、ホウ素0.4、炭素0.2、窒素0.4)を50[nm]堆積した。窒化ホウ素炭素薄膜93には、イオウ原子を1×1018[cm-3]の濃度に添加した。このとき、炭素ナノチューブ92も窒化ホウ素炭素薄膜93で覆われた(図15(B))。
【0125】
次に、図15(C)に示すように、窒化ホウ素炭素薄膜93上にSiOX薄膜94を800[nm]、および引き出し電極95用金属としてTi(20[nm])/Au(500[nm])を電子ビーム蒸着法で形成した。また、シリコン基板91の裏面に、カソード電極96としてAl(500[nm])を電子ビーム蒸着した。
【0126】
その後、フォトリソグラフィー工程を用いて、引き出し電極95用の金属およびSiOX薄膜94をエッチングにより除去し、図15(D)に示すように、直径5[μm]の窓95Aを形成した。窓95Aの中に露出した窒化ホウ素炭素薄膜93の表面を水素プラズマで処理した。この後、真空チャンバー内でアノード電極97となる金属板を窒化ホウ素炭素薄膜93に対向させ、その間隔を125[μm]とした(図15(D))。
【0127】
前記構成の電子放出装置は、実施例1と同じようにして用いられる。つまり、引き出し電極95を接地し(図14)、カソード電極96に電源11を接続し、アノード電極97に電源12を接続する。そして、8×10-7[Torr]以下の真空度で放出電流を測定した。このとき、アノード電圧を500[V]と一定にし、カソード電圧を変化させ、カソード電極96に30[V]の電圧を印加することにより、0.1[mA]の高い放出電流が得られた。
【0128】
以上、シリコン基板91上に炭素ナノチューブ92を形成し、その上に作製した電子放出装置について説明した。なお、実施例9では、炭素ナノチューブ92を合成するためにプラズマ化学気相合成法を用いたが、グロー放電や熱化学気相合成法も用いることができる。さらに、炭素ナノチューブ上に作製する薄膜として、前記実施例で述べた炭化ホウ素や窒化炭素薄膜も利用できる。
【0129】
以上、実施例1〜9について説明した。これらの実施例では、電子放出部の材料として窒素、ホウ素、炭素を含有する薄膜を用いたが、薄膜内の各元素の組成比は、前記実施例に示した場合に限らず、様々な組成の薄膜を使用することができる。
【0130】
また、前記実施例で説明した電子放出部を2つ以上同一基板上に作製し、アレーを実現することができる。
【0131】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明では、基板表面に凹凸を形成し、その上に窒素、ホウ素、炭素含有薄膜を用いて、前記薄膜表面に凹凸を形成する。これによって、前記薄膜表面での電界集中度を増加することができる。また、電子放出用薄膜部分と基板との付着性が向上するので、剥離を防止することができる。
【0132】
本発明によって、引き出し電極を有する平面型の電子放出装置を提供することができる。また、低電圧で高輝度動作が実現できる。この結果、本発明は、表示装置、電子ビーム露光機、撮像装置、および電子ビームを用いた材料評価装置のキーデバイスとして効果的である。
【0133】
さらに、本発明を、フラットパネルディスプレのキーテクノロジーとなる電子放出アレー装置として提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による電子放出装置の実施例1を示す断面図である。
【図2】 実施例1の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【図3】 本発明による電子放出装置の実施例2を示す断面図である。
【図4】 実施例2の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【図5】 本発明による電子放出装置の実施例3を示す断面図である。
【図6】 実施例3の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【図7】 本発明による電子放出装置の実施例4を示す断面図である。
【図8】 実施例4の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【図9】 本発明による電子放出装置の実施例5を示す断面図である。
【図10】 実施例5の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【図11】 本発明による電子放出装置の実施例6を示す断面図である。
【図12】 本発明による電子放出装置の実施例7を示す断面図である。
【図13】 本発明による電子放出装置の実施例8を示す断面図である。
【図14】 本発明による電子放出装置の実施例9を示す断面図である。
【図15】 実施例9の電子放出装置の作製手順を説明するための説明図である。
【符号の説明】
1、21、51、61、71、81、91 シリコン基板
2、22、32、52、62、72、82 窒化ガリウム層
3、23、33、43、53、93 窒化ホウ素炭素薄膜
4、24、34、44、54、64、74、84、94 SiOX薄膜
5、25、35、45、55、65、75、85、95 引き出し電極
5A、25A、35A、45A、55A、65A、75A、85A、95A 窓
6、26、36、42、56、66、76、86、96 カソード電極
7、27、37、46、57、67、77、87、97 アノード電極
11、12 電源
31 サファイア基板
41 ガラス基板
41A、53A 凹凸
42A カソード電極領域
63 炭化ホウ素薄膜
73 窒化炭素薄膜
83 DLC薄膜
92 炭素ナノチューブ
Claims (9)
- 表面に凹凸を有する基板または半導体基板上に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
- 導体または半導体基板上に前記導体または前記半導体基板と異なる材料で表面に凹凸を有する導電性層または半導体層が設けられ、電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
- 導体または半導体基板上に電気的に接続して炭素ナノチューブが設けられ、ホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
- 絶縁体基板上に表面に凹凸を有する導電性層または半導体層が設けられ、前記導電性層または前記半導体層に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
- 絶縁体基板上に前記絶縁体基板と異なる材料で表面に凹凸を有する2層構造の導電性層または半導体層が設けられ、前記導電性層または前記半導体層に電気的に接続してホウ素(組成比x)、炭素(組成比y)、窒素(組成比z)を含む組成比が0<x<1、0<y<1、0<z<1の薄膜が設けられ、前記薄膜に電気的に絶縁して第1の金属体が設けられ、前記薄膜に対向して前記第1の金属体と空間をもって第2の金属体を設けたことを特徴とする電子放出装置。
- 前記導体または前記半導体基板として金属、シリコン、ガリウム砒素、インジウムリン、炭化珪素、窒化ガリウムの中の1つを用いたことを特徴とする請求項2〜3のいずれか1項に記載の電子放出装置。
- 前記絶縁体基板としてガラス、石英、ニオブ酸リチウム、酸化マグネシウム、サファイヤ、ダイヤモンドの中の1つを用いたことを特徴とする請求項4または5に記載の電子放出装置。
- 前記薄膜の表面にも凹凸が存在することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子放出装置。
- 前記基板として表面層に窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムまたはそれらの混晶薄膜またはインジウムリンを用いたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子放出装置。
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