JP4293720B2 - 無段変速機の変速制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機の変速制御、特に、変速応答遅れによっても変速が適切に行われるようにした変速制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トロイダル型無段変速機やVベルト式無段変速機などの無段変速機は、エンジンからの入力回転を無段階に変速して出力することができ、変速品質が有段の自動変速機に較べて良好である。
そして無段変速機の変速は通常、実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるようステップモータ等の変速アクチュエータを駆動して行い、トロイダル型無段変速機の場合、例えば図7に示すような制御系を用いて以下の如くに行われるのが普通である。
【0003】
図7において到達変速比算出部1は、駐車(P)レンジ、後退走行(R)レンジ、中立(N)レンジ、前進自動変速(D)レンジ、エンジンブレーキ(Ds)レンジ、マニュアル変速(M)レンジ等の選択レンジ信号と、車速(VSP)信号と、スロットル開度(TVO)信号とを入力され、DレンジやDsレンジやMレンジ等の前進走行レンジが選択されている間、対応する変速パターンを基に車速VSPおよびエンジンスロットル開度TVOから求めた変速機の目標入力回転数を変速機出力回転数で除算して到達変速比Dratioを求める。
【0004】
目標変速比算出部2は、この到達変速比Dratioをどのような過渡応答で実現するかを決定するためのフィルターで構成し、これに到達変速比Dratioを通すことにより、その時定数で決まる時時刻々の過渡的な目標変速比Ratio0を求める。
【0005】
ところで無段変速機がトロイダル型無段変速機である場合特に、ステップモータなどの変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比(ノミナル変速比)に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが変速機入力トルクおよび無段変速機の変速比に応じて発生し、変速制御の精度を低下させることが知られている。
そこで、トルクシフトによっても実変速比が設計上の変速比に一致するよう、トルクシフト量の分だけ目標変速比Ratio0を予め補正(トルクシフト補償)することが行われている。
【0006】
つまり先ず変速機入力トルク推定部3で、エンジントルクTe を例えば時定数が1/(Tf・s+1)のフィルターに通すことにより変速機入力トルクTKTinTRQを求め、トルクシフト補償量算出部4で、これと前記の目標変速比Ratio0とから予定のマップを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索する。
そして変速指令算出部5で、目標変速比Ratio0およびトルクシフト補償量TSRTOを合算して、目標変速比Ratio0をトルクシフト補償量TSRTOだけ補正した指令変速比DSRRTOを求める。
【0007】
この指令変速比DSRRTOは、トロイダル型無段変速機6の変速アクチュエータであるステップモータ(図示せず)に指令され、このステップモータが指令変速比DSRRTOに対応した位置になることでトロイダル型無段変速機6の実変速比Ratioを理論上、トルクシフトの影響を受けることなく目標変速比Ratio0に一致させることができる。
【0008】
しかるにトロイダル型無段変速機6の変速制御系には変速応答遅れがあり、図8に示すごとくスロットル開度TVOを4/8から0/8にするアクセルペダル操作を行った場合につき説明すると、Dレンジでの変速比の時系列変化から明らかなように当初は実変速比Ratioが破線で示すごとく目標変速比Ratio0に対して時間遅れをもって追従し、後期においては変速比誤差のため込みに起因して実変速比Ratioが目標変速比Ratio0を下回るアンダーシュートを生ずる。
かかる後期のアンダーシュートはエンジン回転数の一時的な大きな低下を惹起し、ここで、上記のアクセルペダル操作で開始されていたフューエルカット(エンジンへの燃料供給の停止)が中止されて燃料供給が再開(フューエルリカバー)され、フューエルカットによる燃費低減効果の減少とフューエルリカバーショックの発生を招くという問題を生ずる。
【0009】
そこで従来は、トルクシフト補償量算出部4で用いるトルクシフト補償量マップ内のトルクシフト補償量TSRTOを、図8の最下段に実線で示す本来のトルクシフトの補償のために必要な値よりも上記アンダーシュートの解消に必要な分だけ破線で示すように嵩上げし、これによりDレンジで実変速比Ratioが一点鎖線で示すように制御されるようになしてアンダーシュートの発生を防止することが行われていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし従来は、トルクシフト補償量算出部4で用いるトルクシフト補償量マップが固定であり、しかも、多用するDレンジで所期の目的が達成されるよう上記トルクシフト補償量TSRTOの嵩上げ程度を決定していたため、図8につき以下に説明するような問題を生ずる。
【0011】
つまり、Dsレンジで同じくスロットル開度TVOを4/8から0/8にするアクセルペダル操作を行った場合につき説明すると、Dsレンジでの変速比の時系列変化から明らかなように当該レンジでもDレンジと同様に、当初は実変速比Ratioが破線で示すごとく目標変速比Ratio0に対して時間遅れをもって追従し、後期においては変速比誤差のため込みに起因して実変速比Ratioが目標変速比Ratio0を下回るアンダーシュートを生ずる。
【0012】
しかしてDsレンジではDレンジよりも、図8における目標変速比Ratio0の段差の比較から明らかなように変速比幅が小さく、この場合、当初の実変速比Ratioの目標変速比Ratio0に対する追従遅れが小さく、後期においける実変速比Ratioの目標変速比Ratio0に対するアンダーシュートも小さい。
ところで従来は、上記した通りDsレンジでもDレンジと同じトルクシフト補償量マップを基にトルクシフト補償量TSRTOを決定していたため、トルクシフト補償量TSRTOがDsレンジで過大となり、実変速比Ratioが一点鎖線で示すように目標変速比Ratio0に何時までも到達し得ず、運転性を悪化させるという第1の問題を生ずる。
【0013】
更に従来は、トルクシフト補償量マップを基にトルクシフト補償量TSRTOを求める時のロジックが、変速の方向に関係なく何時も同じロジックであったため、以下の問題をも生じていた。
つまり、トルクシフトは定常的には変速機入力トルクおよび変速比に応じて決まるが、過渡的なトルクシフトの発生速度はダウンシフトかアップシフトかに応じて異なる。
【0014】
しかるに、従来のように変速の方向に関係なく何時も同じロジックでトルクシフト補償量TSRTOを求めるのでは、トルクシフト補償量TSRTOの変化速度が一定であり、トルクシフト補償タイミングがトルクシフト発生タイミングに必ずしも符合せず、過渡的にトルクシフトの補償が確実になされているとは言い難いという第2の問題を生じていた。
【0015】
請求項1に記載の第1発明は、変速比幅の異なる変速パターンを用いる選択レンジ間でトルクシフト補償量の大きさを異ならせることにより、上記第1の問題を解消し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0017】
請求項2に記載の第2発明は、変速比幅の異なる変速パターンを用いる選択レンジ間でトルクシフト補償量の大きさを異ならせることにより、上記第1の問題を解消し得るようにすると共に、変速方向に応じてトルクシフト補償量の変化速度を異ならせることにより、上記第2の問題をも解消し得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0018】
請求項3に記載の第3発明は、第2発明におけるようにトルクシフト補償量の変化速度を制御するに際し、これを簡単に行い得るようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0019】
請求項4に記載の第4発明は、第1発明や第2発明におけるように選択レンジ間でトルクシフト補償量を切り換える時にショックが発生しないようにした無段変速機の変速制御装置を提案することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
これら目的のため先ず第1発明による無段変速機の変速制御装置は、
実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行い、変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正すると共に、トルクシフト補償量を変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくなるよう嵩上げした無段変速機において、
前記目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で前記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくするよう構成したことを特徴とするものである。
【0022】
第2発明による無段変速機の変速制御装置は、
実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行い、変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正すると共に、トルクシフト補償量を変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくなるよう嵩上げした無段変速機において、
前記目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で前記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくすると共に、
変速方向に応じ前記トルクシフト補償量の変化速度を異ならせ、変速方向がアップシフトである場合は、ダウンシフト時よりもトルクシフト補償量の変化速度を遅くするよう構成したことを特徴とするものである。
【0023】
第3発明による無段変速機の変速制御装置は、第2発明において、
前記トルクシフト補償量を求める時に用いる変速機入力トルク推定値の変化速度を変速方向に応じ異ならせることにより、前記トルクシフト補償量の変化速度の制御を行うよう構成したことを特徴とするものである。
【0024】
第4発明による無段変速機の変速制御装置は、第1発明または第2発明において、
選択レンジ間でトルクシフト補償量を異ならせるに際し、該トルクシフト補償量の切り換えを時系列制御下に徐々に行わせるよう構成したことを特徴とするものである。
【0025】
【発明の効果】
無段変速機は、運転状態に応じた目標変速比をトルクシフト補償量だけ補正し、この補正済みの目標変速比に実変速比が一致するよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行うが、トルクシフト補償量は変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくなるよう嵩上げする。
【0026】
ところで第1発明においては、上記目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で上記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくするため、
上記アンダーシュートやオーバーシュートが変速比幅の小さな時は小さく、変速比幅の大きな時は大きくなるという事実にトルクシフト補償量の大きさが良く符合し、全ての選択レンジでこれらアンダーシュートやオーバーシュートを確実に回避することができ、
従って変速比幅が小さなレンジでトルクシフト補償量が過大となって実変速比が目標変速比に何時までも到達し得ず、運転性を悪化させるという前記第1の問題を解消することができる。
【0028】
第2発明においては、第1発明におけると同様に目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で前記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくし、
また、変速方向に応じ前記トルクシフト補償量の変化速度を異ならせ、変速方向がアップシフトである場合は、ダウンシフト時よりもトルクシフト補償量の変化速度を遅くするため、
前記第1の問題および第2の問題の双方を共に解消することができる。
【0029】
第3発明においては、トルクシフト補償量を求める時に用いる変速機入力トルク推定値の変化速度を変速方向に応じ異ならせることにより、前記トルクシフト補償量の変化速度の制御を行うため、
第3発明におけるようにトルクシフト補償量の変化速度を制御するに際し、これを簡単に行い得る。
【0030】
第4発明においては、選択レンジ間でトルクシフト補償量を異ならせるに際し、該トルクシフト補償量の切り換えを時系列制御下に徐々に行わせるため、
第1発明や第2発明におけるように選択レンジ間でトルクシフト補償量を切り換える時にショックが発生しないようにすることができる。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、トロイダル型無段変速機6のために構成した本発明の一実施の形態になる変速制御装置の変速制御系を示し、到達変速比算出部1および目標変速比算出部2は図7におけると同じものである。
到達変速比算出部1は、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ、Dsレンジ等の選択レンジ信号と、車速(VSP)信号と、スロットル開度(TVO)信号とを入力され、DレンジやDsレンジ等の前進走行レンジが選択されている間、それぞれのレンジ用に予め設定されている変速パターンを基に車速VSPおよびエンジンスロットル開度TVOから求めた変速機の目標入力回転数を変速機出力回転数で除算して到達変速比Dratioを求める。
ここでDsレンジ用の変速パターンは、通常通りDレンジ用の変速パターンよりも変速比幅が小さいものとする。
【0032】
目標変速比算出部2は、上記の到達変速比Dratioをどのような過渡応答で実現するかを決定するためのフィルターで、これに到達変速比Dratioを通すことにより、その時定数で決まる時時刻々の過渡的な目標変速比Ratio0を求める。
【0033】
ここでトロイダル型無段変速機6は、変速アクチュエータであるステップモータの駆動位置により当然得られるべき設計上の変速比(ノミナル変速比)と実変速比との間に定常的なずれ(トルクシフト)が発生するのを免れず、このトルクシフトによっても実変速比が設計上の変速比に一致するよう、トルクシフト量の分だけ目標変速比Ratio0を予め補正(トルクシフト補償)する必要がある。
【0034】
これがため先ず変速機入力トルク推定部3で、エンジントルクTe を所定時定数のフィルターに通して変速機入力トルクTKTinTRQを求め、
次にトルクシフト補償量算出部4で、この変速機入力トルクTKTinTRQと前記の目標変速比Ratio0とから予定のトルクシフト補償量マップを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索し、
更に変速指令算出部5で、目標変速比Ratio0およびトルクシフト補償量TSRTOを合算して、目標変速比Ratio0をトルクシフト補償量TSRTOだけ補正した指令変速比DSRRTOを求める。
【0035】
この指令変速比DSRRTOは、トロイダル型無段変速機6の変速アクチュエータであるステップモータ(図示せず)に指令され、このステップモータが指令変速比DSRRTOに対応した位置になることでトロイダル型無段変速機6の実変速比Ratioを理論上、トルクシフトの影響を受けることなく目標変速比Ratio0に一致させることができる。
【0036】
ところで本実施の形態においては、トルクシフトの過渡時における発生速度がDレンジかそれ以外(Dsレンジ)かで、また変速方向がアップシフトかダウンシフトかで異なることを考慮し、これにトルクシフト補償量TSRTOの変化速度が符合するようにするため、トルクシフト補償量TSRTOを上記のごとく求める時に必要な変速機入力トルクTKTinTRQを変速機入力トルク推定部3で以下のごとくにして推定する。
つまり変速機入力トルク推定部3を、Dレンジアップシフト時用に1/(Tdu・s+1)の時定数を持ったDレンジアップシフト時用フィルター3aと、Dレンジ以外アップシフト時用に1/(Tsu・s+1)の時定数を持ったDレンジ以外アップシフト時用フィルター3bと、Dレンジダウンシフト時用に1/(Tdd・s+1)の時定数を持ったDレンジダウンシフト時用フィルター3cと、Dレンジ以外ダウンシフト時用に1/(Tsd・s+1)の時定数を持ったDレンジ以外ダウンシフト時用フィルター3dとで構成する。
【0037】
ここで上記各フィルター3a〜3dの時定数の決定に際しては、トルクシフトの発生速度がアップシフト時よりもダウンシフト時の方が速いことから、これにトルクシフト補償量TSRTOの変化速度が符合するようにするため、アップシフト時よりもダウンシフト時に時定数が小さくなるよう決定する。
なお、トルクシフト補償量TSRTOの変化速度をトルクシフトの発生速度に符合させるに当たっては、上記のごとくエンジントルクTe から変速機入力トルクTKTinTRQを求め時の時定数を異ならせる代わりに、エンジントルクTe から変速機入力トルクTKTinTRQを求める時は図7につき前述したように特定時定数のフィルターを用い、これにより得られた変速機入力トルクTKTinTRQを選択レンジおよび変速方向ごとの時定数でフィルター処理しても同様の目的を達成し得ることは言うまでもない。
【0038】
変速機入力トルク推定部3におけるフィルター3a〜3dの選択のために、この変速機入力トルク推定部3には変速方向判定部7からの変速方向信号および選択レンジ信号を入力する。
変速方向判定部7は、最終的な到達変速比Dratioと、時時刻々の過渡的な目標変速比Ratio0との対比により、到達変速比Dratioが目標変速比Ratio0よりも大きければ変速方向はアップシフトと判定し、到達変速比Dratioが目標変速比Ratio0よりも小さければ変速方向はダウンシフトと判定する。
【0039】
変速機入力トルク推定部3は、Dレンジでのアップシフト時ならフィルター3aを、Dレンジ以外でのアップシフト時ならフィルター3bを、またDレンジでのダウンシフト時ならフィルター3cを、更にDレンジ以外でのダウンシフト時ならフィルター3dを選択し、選択したフィルターにエンジントルクTe を通して変速機入力トルクTKTinTRQを求める。
【0040】
トルクシフト補償量算出部4は、この変速機入力トルクTKTinTRQと目標変速比Ratio0とから予定のトルクシフト補償量マップを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索するが、当該トルクシフト補償量がトルクシフトの補償を行うためだけでなく、前記した通りトルクシフト補償量の嵩上げにより変速応答遅れに伴うアンダーシュート(アップシフト時)およびオーバーシュート(ダウンシフト時)を防止するものであることから、また、これらアンダーシュート量およびオーバーシュート量がDレンジかそれ以外(Dsレンジ)かで、また変速方向がアップシフトかダウンシフトかで異なることから、
Dレンジアップシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4aと、Dレンジ以外アップシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4bと、Dレンジダウンシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4cと、Dレンジ以外ダウンシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4dとを具える。
【0041】
ここで上記各マップ4a〜4dに設定するトルクシフト補償量TSRTOは選択レンジ間でまた変速方向に応じて以下の如くに異ならせる。
つまり、前記トルクシフト補償量の嵩上げにより防止する必要がある、変速応答遅れに伴うアンダーシュート量(アップシフト時)およびオーバーシュート量(ダウンシフト時)がそれぞれ、図8に基づき前述したごとく変速比幅の小さな変速パターンを用いるDsレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるDレンジを選択している場合よりも小さいことから、マップ4a〜4dに設定するトルクシフト補償量TSRTOはDsレンジ選択時にDレンジ選択時よりも小さくなるよう定める。
【0042】
また変速応答遅れに伴うアンダーシュート量(アップシフト時)およびオーバーシュート量(ダウンシフト時)はそれぞれ変速方向(アップシフトかダウンシフトか)に応じても異なることがあり、これらアンダーシュート量(アップシフト時)およびオーバーシュート量(ダウンシフト時)が小さい方の変速方向では大きい方の変速方向の時よりも、マップ4a〜4dに設定するトルクシフト補償量TSRTOが小さくなるよう定める。
上記のようにトルクシフト補償量TSRTOを予め定めたマップ4a〜4dのうち、Dレンジアップシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4aおよびDレンジ以外アップシフト時用のトルクシフト補償量(TSRTO)マップ4bを例示すると、マップ4aは図2に実線で示すごときものであり、マップ4bは同図に破線で示すごときものである。
【0043】
そしてトルクシフト補償量算出部4は、Dレンジアップシフト時で変速機入力トルク推定部3がフィルター3aを選択している時、ここで求めた変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0から図2に実線で示すマップ4aを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索し、Dレンジ以外でのアップシフトのため変速機入力トルク推定部3がフィルター3bを選択している時、ここで求めた変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0から図2に破線で示すマップ4bを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索し、Dレンジダウンシフト時で変速機入力トルク推定部3がフィルター3cを選択している時、ここで求めた変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0からマップ4cを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索し、Dレンジ以外でのダウンシフトのため変速機入力トルク推定部3がフィルター3dを選択している時、ここで求めた変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0からマップ4dを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索するものとする。
【0044】
変速指令算出部5が、以上のようにして求められたトルクシフト補償量TSRTOだけ目標変速比Ratio0を補正して指令変速比DSRRTOを算出し、これをトロイダル型無段変速機6の変速アクチュエータであるステップモータ(図示せず)に指令して変速制御に資する本実施の形態によれば、実変速比Ratioを理論上、トルクシフトの影響を受けることなく目標変速比Ratio0に一致させ得るだけでなく、以下の作用効果を奏し得る。
つまり、変速比幅の小さな変速パターンを用いるDsレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるDレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくするため、トルクシフト補償量の嵩上げにより解消すべき、変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが変速比幅の小さな時は小さく、変速比幅の大きな時は大きくなるという事実にトルクシフト補償量の大きさが良く符合し、全ての選択レンジでこれらアンダーシュートやオーバーシュートを確実に回避することができ、従って変速比幅が小さなDsレンジでトルクシフト補償量が過大となって実変速比が目標変速比に何時までも到達し得ず、運転性を悪化させるという前記第1の問題を解消することができる。
【0045】
また、トルクシフト補償量の嵩上げにより解消すべき上記変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが小さな変速方向では逆向きの変速方向の時よりもトルクシフト補償量を小さくしたから、変速方向に応じて変速比のアンダーシュートやオーバーシュートの量が異なる場合もこれらの発生を的確に解消することができる。
【0046】
更に本実施の形態においては、変速方向に応じトルクシフト補償量の変化速度を異ならせ、変速方向がアップシフトである場合は、ダウンシフト時よりもトルクシフト補償量の変化速度を遅くするため、トルクシフトの発生速度がアップシフト時はダウンシフト時よりも遅いという事実にトルクシフト補償量の変化速度が良く符合して、トルクシフト補償タイミングをトルクシフト発生タイミングに良く一致させることができて、過渡的なトルクシフトの補償を確実なものにすることができ、前記第2の問題をも解消し得る。
【0047】
なお、上記トルクシフト補償量の変化速度の制御に際し本実施の形態においては、トルクシフト補償量を求める時に用いる変速機入力トルク推定値TKTinTRQの変化速度をフィルター3a〜3dの選択により変速方向および選択レンジに応じ異ならせることとしたから、トルクシフト補償量の変化速度を簡単に制御することができる。
【0048】
ところでトルクシフト補償量算出部4が、変速機入力トルクTKTinTRQおよび目標変速比Ratio0から図2に例示したトルクシフト補償量マップ4a〜4dを基にトルクシフト補償量TSRTOを検索するに際しては、トルクシフト補償量間を線形補間することとし、また、このようにして求めたトルクシフト補償量の切り換えに際してはこの切り換えを時系列制御下に徐々に行わせることとし、これらによりトルクシフト補償量の切り換える時におけるショックの発生を防止するのがよい。
【0049】
上記実施の形態になる変速制御装置の作用を図3〜図6のシュミレーション結果により更に付言する。
図3は、Dレンジでスロットル開度TVOを図示のごとく開度増大させた時における踏み込みダウンシフト変速動作を示し、同図(a)は、図7に示す従来装置のシュミレーション結果を、また同図(b)は、図1に示す本実施の形態になる装置のシュミレーション結果をそれぞれ示す。
なおTo は、無段変速機の出力軸トルクを参考までに併記して示すものである。
これらの図の比較から明らかなように、Dレンジダウンシフトでは従来も良好な変速が行われていたため、本実施の形態でも従来と同じ変速制御のままとした。
【0050】
図4は、Dレンジでスロットル開度TVOを図示のごとく開度低下させた時における足離しアップシフト変速動作を示し、同図(a)は、図7に示す従来装置のシュミレーション結果を、また同図(b)は、図1に示す本実施の形態になる装置のシュミレーション結果をそれぞれ示す。
従来装置にあっては図4(a)に示すように、変速機入力トルク推定値TKTinTRQの変化速度がAのごとく急に過ぎて、これをもとに求めるトルクシフト補償量TSRTOの変化速度もBのごとく実際のトルクシフトの発生速度よりも速くて、トルクシフト補償のタイミングがトルクシフトの発生タイミングに一致せず、実変速比RatioがCのごとく目標変速比Ratio0を下回るアンダーシュートを発生する。
ところで本実施の形態においては図4(b)に示すように、アップシフト故に変速機入力トルク推定値TKTinTRQの変化速度をDのごとく緩やかにし、これをもとに求めるトルクシフト補償量TSRTOの変化速度をEのごとく実際のトルクシフトの発生速度に符合する緩やかなものにするため、トルクシフト補償のタイミングがトルクシフトの発生タイミングに一致し、実変速比Ratioが目標変速比Ratio0を下回るアンダーシュートを発生することはない。
【0051】
図5は、Dsレンジでスロットル開度TVOを図示のごとく開度増大させた時における踏み込みダウンシフト変速動作を示し、同図(a)は、図7に示す従来装置のシュミレーション結果を、また同図(b)は、図1に示す本実施の形態になる装置のシュミレーション結果をそれぞれ示す。
従来装置にあっては図5(a)に示すように、変速比幅が小さくて前記オーバーシュート量が小さなDsレンジなのにDレンジと同じ大きなトルクシフト補償量TSRTOがFのごとくに与えられて実変速比RatioがGのごとく目標変速比Ratio0に達し得ない状態が発生し、運転性を損なっている。
ところで本実施の形態においては図5(b)に示すように、Dsレンジ故にトルクシフト補償量TSRTOをHのごとく小さくするため、トルクシフト補償量TSRTOが小さなオーバーシュート量に良く符合することとなり、実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に達し得ない状態が発生するのを防止することができる。
【0052】
図6は、Dsレンジでスロットル開度TVOを図示のごとく開度低下させた時における足離しアップシフト変速動作を示し、同図(a)は、図7に示す従来装置のシュミレーション結果を、また同図(b)は、図1に示す本実施の形態になる装置のシュミレーション結果をそれぞれ示す。
従来装置にあっては図6(a)に示すように、変速比幅が小さくて前記アンダーシュート量が小さなDsレンジなのにDレンジと同じ大きなトルクシフト補償量TSRTOがIのごとくに与えられて実変速比RatioがJのごとく目標変速比Ratio0に達し得ない状態が発生し、運転性を損なっている。
これに対し本実施の形態においては図6(b)に示すように、Dsレンジ故にトルクシフト補償量TSRTOをKのごとく小さくするため、トルクシフト補償量TSRTOが小さなアンダーシュート量に良く符合することとなり、実変速比Ratioが目標変速比Ratio0に達し得ない状態が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態になるトロイダル型無段変速機の変速制御装置を示す機能別ブロック線図である。
【図2】 トロイダル型無段変速機のトルクシフト補償量を示す特性線図である。
【図3】 Dレンジダウンシフト時における変速動作を示し、
(a)は、図7に示す従来の変速制御装置による変速動作を示すタイムチャート、
(b)は、図1に示す実施の形態になる変速制御装置の変速動作を示すタイムチャートである。
【図4】 Dレンジアップシフト時における変速動作を示し、
(a)は、図7に示す従来の変速制御装置による変速動作を示すタイムチャート、
(b)は、図1に示す実施の形態になる変速制御装置の変速動作を示すタイムチャートである。
【図5】 Dsレンジダウンシフト時における変速動作を示し、
(a)は、図7に示す従来の変速制御装置による変速動作を示すタイムチャート、
(b)は、図1に示す実施の形態になる変速制御装置の変速動作を示すタイムチャートである。
【図6】 Dsレンジアップシフト時における変速動作を示し、
(a)は、図7に示す従来の変速制御装置による変速動作を示すタイムチャート、
(b)は、図1に示す実施の形態になる変速制御装置の変速動作を示すタイムチャートである。
【図7】 従来の無段変速機の変速制御装置の概略を示す機能別ブロック線図である。
【図8】 従来の変速制御装置による問題点を説明するのに用いた、足離しアップシフト時におけるトルクシフト補償量と、DレンジおよびDsレンジでの変速比の時系列変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
1 到達変速比算出部
2 目標変速比算出部
3 変速機入力トルク推定部
3a Dレンジアップシフト時用フィルター
3b Dレンジ以外アップシフト時用フィルター
3c Dレンジダウンシフト時用フィルター
3d Dレンジ以外ダウンシフト時用フィルター
4 トルクシフト補償量算出部
4a Dレンジアップシフト時用トルクシフト補償量マップ
4b Dレンジ以外アップシフト時用トルクシフト補償量マップ
4c Dレンジダウンシフト時用トルクシフト補償量マップ
4d Dレンジ以外ダウンシフト時用トルクシフト補償量マップ
5 変速指令算出部
6 トロイダル型無段変速機
7 変速方向判定部
Claims (4)
- 実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行い、変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正すると共に、トルクシフト補償量を変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくなるよう嵩上げした無段変速機において、
前記目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で前記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくするよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 実変速比が、運転状態に応じた目標変速比となるよう変速アクチュエータを駆動して変速制御を行い、変速アクチュエータの駆動位置に対応した設計上の変速比に対する実変速比の定常的なずれであるトルクシフトが補償されるよう前記目標変速比を補正すると共に、トルクシフト補償量を変速応答遅れに伴う変速比のアンダーシュートやオーバーシュートが生じなくなるよう嵩上げした無段変速機において、
前記目標変速比を決定するための変速パターンが異なる選択レンジ間で前記トルクシフト補償量を異ならせ、変速比幅の小さな変速パターンを用いるレンジを選択している間は、変速比幅の大きな変速パターンを用いるレンジを選択している場合よりもトルクシフト補償量を小さくすると共に、
変速方向に応じ前記トルクシフト補償量の変化速度を異ならせ、変速方向がアップシフトである場合は、ダウンシフト時よりもトルクシフト補償量の変化速度を遅くするよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。 - 請求項2において、前記トルクシフト補償量を求める時に用いる変速機入力トルク推定値の変化速度を変速方向に応じ異ならせることにより、前記トルクシフト補償量の変化速度の制御を行うよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
- 請求項1または2において、選択レンジ間でトルクシフト補償量を異ならせるに際し、該トルクシフト補償量の切り換えを時系列制御下に徐々に行わせるよう構成したことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
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