JP4265045B2 - 回生機構付き車両の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、エネルギーを回生する回生機構を備えた車両の制御装置に関し、より具体的には、内燃機関などの駆動力源を備え、かつモータ・ジェネレータなどの回生機構によって運動エネルギーを回生して再利用するように構成された車両の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両の燃費の向上と排ガスの低減などのために、車両の走行に伴う慣性エネルギーを回生して発進などの際に再利用することが試みられている。その一例として内燃機関の他に電動機あるいはモータ・ジェネレータを搭載したハイブリッド車が開発され、実用化されている。この種のハイブリッド車では、内燃機関の排ガスが悪化する発進時や低車速・高負荷時などでは電動機を単独で、もしくは補助的に動作させることにより、排ガスの悪化を回避し、また、減速時には慣性エネルギーによって発電機を駆動して制動力を得ると共にエネルギーを回生し、その回生エネルギーを走行のために使用して燃費の向上を図っている。
【0003】
そのエネルギーの回生システムは、例えば特開平10−150704号公報に記載されているように、エンジンに直結された発電機をインバータを介してバッテリに接続し、エンジンによって発電機を駆動し、もしくは減速時に駆動輪側から入力される動力によって発電機を駆動することにより、発電機で生じた電力をバッテリに充電するように構成されている。そのバッテリに対する充電量や電動機を駆動するためのバッテリからの放電量は、インバータによって制御することができる。したがって例えば減速時における回生量すなわちバッテリに対する充電量を適宜に設定することにより、車両の有する運動エネルギーが電気エネルギーとして回生することに伴う制動力を生じさせてドライバビリティを向上させることができる。
【0004】
このように、従来の一般的なハイブリッド車では、電動機もしくはモータ・ジェネレータを接続してあるインバータを制御することにより、回生状態および回生に伴う制動力を制御することができるので、電動機などの回生のための機構を、エンジンから駆動輪に到る動力伝達系統に常時連結した構成としている。そのため、エンジンを駆動して走行している場合や減速時にエンジンブレーキを効かせている場合においては、電動機などのエネルギー回生のための機構がエンジンと共に回転する。その際に何らかの異常(フェール)によって回生量を制御できなくなれば、エネルギー回生に伴う制動力が大きくなって車両が過剰に減速したり、また、回生電力量が増大してバッテリの過充電やそれに伴うバッテリの耐久性の低下あるいはインバータの破損などが生じるおそれがある。
【0005】
このような不都合を解消するために上記の特開平10−150704号公報に記載された発明では、エンジンに直結されている電動機が強制的に回転させられて起電力が生じ、その起電力を制御できない事態が生じた場合、バッテリとインバータとの間に介装されているシステムメインリレーをオフにしてバッテリを遮断し、また同時に起電力をクラッチモータに供給してここで電力を消費するように構成している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように電動機やモータ・ジェネレータなどのエネルギー回生のための機構が、エンジンと共に常時回転するように構成されている車両では、その回生機構による回生エネルギー量を制御できなくなると、過剰な起電力が生じることになる。上記の公報に記載されている装置では、バッテリを遮断することによりバッテリを保護することとしているが、バッテリを遮断したとしても電動機などの発電のための機構が動作し続け、起電力が生じるので、電動機などの発電のための機構やその電力を制御するインバータに負荷が掛かり続けてしまう。その結果、上記の公報に記載された装置では、バッテリを保護することができても、インバータが破損したり、その耐久性が低下したりする不都合があった。
【0007】
また、上記の公報に記載された装置では、いわゆる回生電力を制御できない状態が生じた場合、その回生電力をバッテリに供給する替わりに、クラッチモータで消費することとしている。すなわち、回生電力を制御できない状態でエネルギー回生を継続することになるので、エネルギー回生に伴う制動力が大きくなり、その結果、減速時にはいわゆるエンジンブレーキ力が過大となって違和感が生じる可能性がある。
【0008】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、いわゆるエンジンブレーキ力が過大になることによる違和感を防止すると同時にエネルギー回生のための機構を保護することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決する手段およびその作用】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、走行のための駆動力を発生する駆動力源と、車両が走行していることによるエネルギーを選択的に回生する回生機構とを有する回生機構付き車両の制御装置において、前記駆動力源がエンジンであり、このエンジンから車輪に至る動力伝達系統に変速機が設けられており、前記回生機構は、前記動力伝達系統で前記エンジンと変速機との間に設けられたモータ・ジェネレータであるとともに、前記モータ・ジェネレータのフェールの発生を検出するフェール検出手段と、前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、前記変速機で設定されている変速比の増大を抑制することにより、前記モータ・ジェネレータの回転数の上昇を抑制し、もしくは低減させる変速比制御手段ととを備えていることを特徴とする制御装置である。
【0014】
したがって請求項1の発明においては、モータ・ジェネレータにフェールが生じると、変速機で設定される変速比の増大が抑制されることにより、モータ・ジェネレータの回転数が増大せず、もしくは積極的に低減されるので、減速時にはいわゆるエンジンブレーキ力の増大が抑制されて過剰な制動に伴う違和感が回避され、またモータ・ジェネレータの回転数の上昇が抑制されることにより、その回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータが保護される。また、車両の走行によるエネルギーがモータ・ジェネレータにより電気エネルギーとして回生される。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、手動操作に基づく前記変速機でのダウンシフトを規制する変速規制手段を備えていることを特徴とするものである。
【0020】
したがって請求項2の発明においては、請求項1の発明と同様の作用が生じる他に、前記のフェールが検出されると、手動操作に基づく変速機でのダウンシフトが実行できなくなり、あるいはダウンシフトが可能な車速が低下させられるなど、手動操作によるダウンシフトが規制される。その結果、モータ・ジェネレータが過剰に回転させられることが回避されるので、回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータが保護される。
【0021】
そして、請求項3の発明は、請求項1の構成に加えて、前記車輪と前記モータ・ジェネレータとの間に介装された、ロックアップクラッチを備えた流体伝動機構と、前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、前記ロックアップクラッチを解放側に制御するロックアップ制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0022】
したがって請求項3の発明においては、請求項1の発明と同様の作用が生じる他に、前記のフェールが検出されることにより、流体伝動機構におけるロックアップクラッチが解放させられ、もしくはその伝達トルク容量が低下させられる。その結果、減速時に車輪側からモータ・ジェネレータに対して入力される動力が抑制されるので、回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータが保護される。
【0023】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を図に示す具体例に基づいて説明する。図2はこの発明で対象とする車両の一例であるハイブリッド車におけるパワープラントの一例を示しており、この車両における駆動力源から駆動輪に到る一連の動力伝達系統が、以下のように構成されている。走行のための駆動力を発生する駆動力源は、要は、エネルギーを消費してトルクを出力する装置であり、具体的には、内燃機関や電動機を用いることができる。図2にはその駆動力源1として内燃機関が図示されており、その内燃機関としては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを例示することができ、さらにその形式は、レシプロエンジンやロータリーエンジンあるいはタービンエンジンであってもよい。なお、以下の説明では、駆動力源1をエンジン1と記す。
【0024】
このエンジン1には、吸気量を制御するためのスロットルバルブとして電子スロットルバルブ2が設けられている。この電子スロットルバルブ2は、スロットル開度をアクチュエータ(例えばモータ)によって制御するように構成されており、アクセルペダル(図示せず)の操作量を電気信号に変化し、その電気信号に基づいて開度を決定し、そのアクチュエータを駆動するようになっている。また、アクチュエータを電気的に制御できるので、各種のデータに基づく演算結果によって電子スロットルバルブ2を制御することができるようになっている。
【0025】
また、エンジン1は従来の内燃機関と同様に、吸気バルブと排気バルブとを各気筒(それぞれ図示せず)ごとに備えており、さらにそれらのバルブの開閉のタイミングを所定の範囲で変更することのできる可変バルブタイミング機構(VVT)3を備えている。この可変バルブタイミング機構3は、例えばバルブを開閉させるカム(図せず)のクランク角度に対する位相をアクチュエータなどによって変化させるように構成されている。その結果、例えば圧縮行程における所定の期間の間、排気バルブを開かせることにより、吸気を圧縮せずに気筒(シリンダ)から送り出すことができるようになっている。
【0026】
さらに、エンジン1には、燃料を供給するための機構として燃料噴射装置4が設けられている。これは、ガソリンなどの燃料を高圧に加圧して噴射するように構成された装置であり、吸気ポートの直前に向けて燃料を噴射し、あるいは気筒の内部に燃料を噴射するように構成されている。その燃料の噴射は電気的に制御可能であり、したがってエンジン1が走行慣性力で強制的に回転させられている状態でその回転数が所定の回転数以上の場合に燃料の噴射を停止(フューエルカット)するようになっている。
【0027】
これら電子スロットルバルブ2および可変バルブタイミング機構3ならびに燃料噴射装置4を制御するための電子制御装置(E/G−ECU)5が設けられている。この電子制御装置5は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。そして、この電子制御装置5は、アクセル開度や車速、変速信号、エンジン水温などの入力データに基づいて予め記憶しているプログラムに従って演算をおこない、その演算結果に基づいて制御信号を出力するように構成されている。
【0028】
上記のエンジン1の出力軸に回生機構が連結されている。この回生機構は、動力が入力されることにより回転してエネルギーを回生するための機構であり、特に車両の走行によるエネルギーを回生するための機構であって、運動エネルギーとして回生する機構や電気エネルギーとして回生する機構などを採用することができる。前者の例はフライホイールであり、後者の例は発電機もしくはモータ・ジェネレータであって、図2にはモータ・ジェネレータ6として機能する永久磁石型の電動機を示してある。具体的には、永久磁石を取り付けたロータがエンジン1の出力軸に連結され、またコイルを備えたステータがハウジングなどの適宜の箇所にロータと同心円状に固定されている。なお、この回生機構とエンジン1とは直接連結してもよく、あるいは遊星歯車機構などの歯車機構を介して連結してもよい。
【0029】
上記のモータ・ジェネレータ6には、インバータ7を介してバッテリ8が接続されている。また、そのインバータ7とバッテリ8との間に、バッテリ8を遮断するためのシステムメインリレー(SMR)9が設けられている。さらに、バッテリ8に対する充電量や放電量を制御するための電子制御装置(MG−ECU)10が、インバータ7およびバッテリ8に接続して設けられている。この電子制御装置10は、前述したエンジン1用の電子制御装置5と同様に、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成され、入力されたデータに基づいて演算をおこない、その演算結果に基づいて、モータ・ジェネレータ6を駆動するためのバッテリ8からの放電量やモータ・ジェネレータ6が強制的に回転させられて発電した電力(起電力)のバッテリ8に対する充電量を制御するようになっている。
【0030】
さらに、エンジン1の出力軸が変速機11に連結されている。この変速機11、要は、入力軸と出力軸との回転数の比率すなわち変速比を変更することのできる装置であって、有段式の変速機や変速比を連続的に変化させることのできる無段変速機を採用することができ、さらには自動変速機や手動変速機を採用することができる。図2には有段式の自動変速機を模式的に示してあり、流体式伝動装置の一例である、ロックアップクラッチ12付きのトルクコンバータ13が歯車変速機部14の入力側に配置されている。
【0031】
すなわちトルクコンバータ13の入力側の部材であるポンプインペラ15がフロントカバー16を介してエンジン1の出力軸に連結される一方、そのポンプインペラ15が油圧ポンプ17に連結されている。すなわち、トルクコンバータ13に入力されるトルクによってオイルポンプ17を駆動するようになっている。また、ポンプインペラ15と対向させて配置した出力側の部材であるタービンランナ18とフロントカバー16との間に、フロントカバー16の内面にトルク伝達可能に選択的に係合するロックアップクラッチ12が配置され、このロックアップクラッチ12がタービンランナ18に連結されている。
【0032】
なお、油圧ポンプ17を補助し、もしくは油圧ポンプ17に替わって油圧を発生する電動オイルポンプ19が設けられている。
【0033】
歯車変速機部14は、例えば複数組の遊星歯車機構およびフォワードクラッチC1 などの複数の摩擦係合装置によって複数の前進段および後進段を設定できるように構成されている。それらの摩擦係合装置を前記油圧ポンプ17もしくは電動オイルポンプ19が発生させた油圧によって選択的に係合あるいは解放させることにより、所定の変速段が設定される。その変速制御は、シフト装置20を操作して油圧の供給系路を適宜に設定した状態で、図示しないソレノイドバルブを電気的に制御して、摩擦係合装置に対する油圧の給排を制御して実行される。
【0034】
そのシフト装置20は、シフトレバー20aによって変速ポジションを選択するように構成されており、そのシフトポジションの例を示せば、図3のとおりである。すなわち、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、“2”ポジション、Lポジション、ならびにMポジションを選択することができる。ここでPポジションは車両を停止状態に保持するためのポジションであり、歯車変速機部13における摩擦係合装置に対する油圧の供給が遮断され、またその出力軸21の回転がロックされる。Rポジションは後進走行のためのポジションであって、このRポジションが選択されることにより後進走行のための摩擦係合装置に油圧が供給される。Nポジションは出力軸21にトルクが生じないようにするポジションであり、変速段を設定するための摩擦係合装置が解放状態に維持される。Dポジションは前進走行のためのポジションであり、フォワードクラッチC1 の他に、車両の走行状態に応じた変速段を設定するための摩擦係合装置に油圧が供給される。また、その変速の範囲(シフトレンジ)は前進段の全てである。“2”ポジションはシフトレンジを前進第1速と第2速とに制限するとともに第2速でエンジンブレーキを効かせるように所定の摩擦係合装置に対して油圧が供給される。さらにLポジションはシフトレンジを第1速のみに制限するポジションであって、第1速でエンジンブレーキを効かせるように所定の摩擦係合装置に油圧が供給される。
【0035】
そして上記のMポジションは、スイッチを手動操作することによりシフトレンジを切り換えためのポジションであり、Dポジションに隣接して設けられている。このMポジションが選択されることにより動作可能となるダウンスイッチ22とアップスイッチ23とが設けられている。これらのスイッチ22,23の設置位置は必要に応じて適宜に決めることができるが、その一例を示すと、図4に示すように、ステアリングホイール24のスポーク部分に設けることができる。その場合、ダウンスイッチ22を運転者に向けた表面側、アップスイッチ23をこれとは反対の裏面側に設けることが好ましい。
【0036】
上記の自動変速機11の変速制御および油圧の制御ならびにロックアップクラッチ12の制御をおこなうための電子制御装置(T−ECU)25が設けられている。この電子制御装置25は、前述したエンジン1用の電子制御装置5と同様に、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成され、車速やスロットル開度などの車両の走行状態を示すデータに基づいて、設定するべき変速段を決定してその変速段を達成するための変速信号を出力し、また前記ダウンスイッチ22やアップスイッチ23から信号が入力されることにより、シフトレンジを前記DポジションからLポジションに対応するシフトレンジの範囲で順に切り換える切換信号を出力するようになっている。したがってこれらのスイッチ22,23を手動操作することによってシフトレンジを切り換えることに伴い、アップシフトあるいはダウンシフトが生じることがある。
【0037】
なお、手動操作によってシフトレンジを切り換える替わりに変速段を切り換えるように構成することができる。その例を示すと、例えば図5に示すように、シフト装置におけるシフトポジションとして、前記のDポジションに隣接してプラス(+)ポジションとマイナス(−)ポジションとを設け、そのプラスポジションをシフトレバー(図示せず)によって選択することによりアップシフト信号が出力され、またマイナスポジションをシフトレバーによって選択することによりダウンシフト信号が出力されるように構成し、それらのアップシフト信号およびダウンシフト信号に基づいて電子制御装置25が自動変速機11を1段アップシフトする変速信号あるいは1段ダウンシフトする変速信号を出力するように構成することができる。このような変速形態は、車両の走行状態に基づいて変速が実行される自動変速モードに対して、手動操作に基づいて変速が実行されるので、手動変速モードもしくはスポーツモードと称されることがある。
【0038】
前記自動変速機11の出力軸21がデファレンシャル26を介して駆動輪27に連結されている。すなわちエンジン1から自動変速機11を介して駆動輪27に到る伝動機構が、動力伝達系統を構成している。また、前記各電子制御装置5,10,25は、相互にデータ通信可能に接続されている。なお、エンジン1の出力軸にモータ・ジェネレータ6が連結され、そのモータ・ジェネレータ6よりもトルク伝達方向で下流側に自動変速機11や流体伝動機構であるトルクコンバータ13が連結されているので、これら自動変速機11およびトルクコンバータ13はモータ・ジェネレータ6と駆動輪27との間に介装されている。
【0039】
上記のハイブリッド車は、基本的に、燃費を向上させ、かつ排ガスを低減するように運転制御され、例えば発進時の走行や後進走行をモータ・ジェネレータ6によっておこない、低スロットル開度の定常走行はエンジン1によっておこない、負荷の大きい高速走行は、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6でおこなうように制御される。また、減速時には、駆動輪27側から入力される車両の慣性走行力によってモータ・ジェネレータ6を駆動し、これを発電機として機能させてエネルギーの回生をおこなう。その場合、車両の有する慣性走行力を電力に変換して回生するので、モータ・ジェネレータ6を強制的に回転させるトルクが制動トルクとして車両に作用する。そのいわゆる回生制動トルクは、回生エネルギー量に応じて増大するので、過剰な制動力が生じないようにインバータ7および/またはバッテリ8が制御される。すなわち充電量が制御される。
【0040】
モータ・ジェネレータ6からバッテリ8に対して供給する電力すなわち充電量を抑制できない異常(フェール)が生じた場合、上述したハイブリッド車のようにエンジン1から駆動輪27に到る動力伝達系統にモータ・ジェネレータ6が直結された状態となる車両では、走行中にモータ・ジェネレータ6に対して動力伝達系統から常時動力が入力されてエネルギーの回生が生じ、その時点の走行状態での最大限の充電が継続されることになる。それに伴って回生制動力が生じて過剰な減速あるいは加速性の低下などが生じ、またインバータ7やバッテリ8に対する電気的な負荷が増大する。この発明の制御装置は、このように不都合を解消するために、以下のように制御を実行する。
【0041】
図1はその制御例を説明するためのフローチャートであって、データの読み込みなどの所定の処理をおこなった後に、モータ・ジェネレータ6の制御系の異常(フェール)の判定がおこなわれる(ステップS1)。これは、例えば充電指令値と実際の充電量との差が判断基準値を超えているなどのことによって電気的に判定することができる。このフェールが生じていないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、このルーチンから抜けて通常の制御ルーチンへ進む。これとは反対に、フェールが生じていることによりステップS1で肯定的に判断された場合には、制動トルクが推定される(ステップS2)。
【0042】
この制動トルクの推定は、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6による制動トルクを推定しておこなってもよいが、エンジン1の制動トルクは、エンジン1が駆動状態では生じず、またコースト時では既知の値となり、これに対してモータ・ジェネレータ6の制動トルクは、回転数やバッテリ電圧あるいはシステムメインリレー9のオン・オフなどによって異なるので、モータ・ジェネレータ6による制動トルクについて推定する。
【0043】
フェール時のモータ・ジェネレータ6の回転数Nm とトルクTm との関係を概念的に示すと、図6のとおりであり、システムメインリレー9がオン状態でバッテリ8がインバータ7に接続されている状態では、モータ・ジェネレータ6で発生する電圧がバッテリ電圧以上となる程度に回転数Nm が上昇すると、モータ・ジェネレータ6に対する電気的な抵抗が増大するので、モータ・ジェネレータ6のトルクすなわちモータ・ジェネレータ6による制動トルクが急激に増大する。このようなモータ・ジェネレータ6の特性およびシステムメインリレー9のオン・オフの状態さらにはバッテリ電圧などの条件に基づいて制動トルクが推定される。なお、制御あるいは演算を容易にするために、モータ・ジェネレータ6によって生じる制動トルクを予め求めてマップ値として記憶しておき、そのマップ値を読み込んで制動トルクを推定することとしてもよい。
【0044】
モータ・ジェネレータ6の制御の異常に伴う制動トルクが上記のステップS2で求められるので、これに続くステップS3では、その制動トルクを減じるようにエンジントルクが増大させられる。そのエンジントルクの増大量は、フェールによって増大した制動トルクをキャンセルする値に設定することが好ましく、その制御は具体的には、電子スロットルバルブ2の開度を増大させることにより実行される。すなわちフェールした回生機構であるモータ・ジェネレータ6によって生じることが推定されている制動トルクに基づいてエンジン1の出力トルクが制御される。したがってフェールが原因となる制動トルクが、駆動輪27での駆動トルクに現れないので、過剰な制動感や加速力の不足感などが生じない。
【0045】
また、このようなフェールが生じている状態では、モータ・ジェネレータ6によって駆動トルクのアシストをおこなうことができないので、エンジントルクを通常時より増大させるように出力特性を変更する。これは、例えば、アクセル開度に対する電子スロットルバルブ3の開度特性を変更するによって実行でき、こうすることによりドライバビリティが損なわれること回避される。
【0046】
なお、フェールが生じていることにより、モータ・ジェネレータ6を駆動力源として動作させることができないので、いわゆるハイブリッド運転はおこなわずに、モータ・ジェネレータ6を駆動しないいわゆる退避走行モード運転をおこなう。さらに、異常の発生を運転者に知らせるための警告をおこなう。これは、例えば、メータパネル内の警告灯の点灯や文字表示、あるいは音声案内などによっておこなうことができる。
【0047】
上記のフェールが生じている状態では、モータ・ジェネレータ6が発電をおこなっているので、その電力をバッテリ8によって受容できるか否かが判断される(ステップS4)。すなわちバッテリ8の電力受け入れ性が第1限界内か否かが判断される。バッテリ8の一般的な特性として、その温度が低い場合には、受容できる電力が少なく、また既充電量(SOC:State of Charge)が高い場合にも受容できる電力が少なくなる。ステップS4では、このような温度やSOCに基づいてバッテリ8の電力受け入れ性が判断される。
【0048】
バッテリ8が未だ電力を受容できる状態であることによりステップS4で肯定的に判断された場合には、ステップS1の前にリターンする。これとは反対にバッテリ8の受容できる電力量が第1限界に達することによりステップS4で否定判断された場合には、第1予備変速点が選択される(ステップS5)。この変速点は、自動変速機11で設定される変速比を、アクセル開度などのエンジン負荷と車速もしくはタービン回転数などとに基づいて領域として設定した場合の境界を示す点であり、走行状態がその変速点を横切って変化した場合に変速が実行される。ステップS5の制御では、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6の回転数が増大しないように、もしくは抑制するように、変速点が変更される。
【0049】
具体的には、これらの回転数が予め定めた回転数以上となるようなダウンシフトを禁止し、あるいはまたアップシフトを実行するように変速点が変更される。これを模式的に図示すれば、図7に示すように、通常状態での変速点を結んだ実線で示す変速線を、破線で示すように低車速側に変化させる。こうして高車速側変速比領域を拡大することにより、小さい変速比が多用され、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6の回転数が相対的に低回転数に維持される。なお、この場合、低速側の変速比の使用が抑制されるので、駆動力が相対的に小さくなる。したがって駆動力が不足する場合があるので、事前に適宜の警告をおこなうことが好ましい。
【0050】
変速点の変更によるモータ・ジェネレータ6の起電力を低下させた状態で、バッテリ8の電力受け入れ性が第2の限界内か否かが判断される(ステップS6)。この第2の限界は、バッテリ8が電力を殆ど受け入れることができない程度の状態であり、したがって未だ幾分かは充電が可能であることにより、ステップS6で肯定的に判断された場合には、ステップS1の前にリターンする。これとは反対にバッテリ8への充電を殆どおこなうことができない状態であることによりステップS6で否定的に判断された場合には、システムメインリレー(SMR)9をオフにしてバッテリ8を遮断する(ステップS7)。
【0051】
バッテリ8を遮断した状態であっても、モータ・ジェネレータ6で発生した電力が全てインバータ7に印加されることになる。そこで、インバータ7の耐電圧以下に起電力を抑制するために、自動変速機11の変速段を制御する変速点として第2予備変速点が選択される(ステップS8)。具体的には、変速点を結んだ変速線を、図7に鎖線で示すように、更に低車速側に設定し、エンジン回転数およびモータ・ジェネレータ6の回転数が相対的に低くなる高速側の変速段の領域を増大させる。
【0052】
図1に示すように制御をおこなうこの発明に係る制御装置によれば、回生機構であるモータ・ジェネレータ6の起電力を制御できないフェールが生じた場合、その回生制動力に応じたエンジントルクを出力させるので、過剰な制動や加速力の不足などの異常を防止することができ、またモータ・ジェネレータ6の起電力を抑制するように変速機11の変速比を制御するので、インバータ7やバッテリ8の破損あるいは耐久性の低下などの不都合を未然に防止することができる。
【0053】
ここで上記の具体例とこの発明との関係を説明すると、図1に示すステップS1を実行する機能的手段が、この発明におけるフェール検出手段に相当し、さらにステップS5およびステップS8を実行する機能的手段が、この発明における変速比制御手段に相当する。
【0054】
つぎにこの発明に係る制御装置による他の制御例について説明する。上述したように、回生機構であるモータ・ジェネレータ6を制御できない異常が生じた場合、過剰な制動力が生じ、また起電力が過剰に発生する。それに伴う不都合を解消するために、この発明の制御装置は、トルクの補正と電力の調整とを実行する。図8に示す制御例においてもこれらの両方の制御を実行する。
【0055】
図8において、データの読み込みなどの処理をおこなった後に、モータ・ジェネレータ6についてのフェールが生じているか否かが判断される(ステップS11)。フェールが生じていない場合には、特に制御をおこなうことなくリターンする。これとは反対にフェールが生じていてステップS11で肯定的に判断された場合には、制動トルクが推定される(ステップS12)。これは、図1に示す制御例におけるステップS2と同様の制御であって、ステップS2について説明した方法以外に、例えばモータ・ジェネレータ6の電流と回転数とから制動トルクを演算して推定することができる。
【0056】
このようにして推定されたフェールに基づく制動トルクをキャンセルするように、すなわち推定された制動トルクに基づいて減速時のエンジントルを設定する。すなわちアクセルペダルを戻したいわゆるパワーオフ時の電子スロットルバルブの開度下限値を、前記制動トルクに応じたエンジントルクとなる開度に設定する(ステップS13)。図9は、この制御を実行した場合と実行しない場合との出力軸トルクとアクセルペダル開度ならびに電子スロットルバルブ2の開度との変化を示すタイムチャートであって、t1 時点にアクセルペダルが戻され始めると、それに伴って電子スロットルバルブ2の開度が次第に低下する。上記の制御を実行した場合、アクセルペダルが閉じられる過程で、電子スロットルバルブ2の開度が下限値に達し(t2 時点)、その時点で電子スロットルバルブ2の開度がその下限値に維持される。
【0057】
その結果、エンジン1がそのスロットル開度に応じたトルクを出力するので、出力軸トルクは負のトルクになるもののフェールによる生じている制動トルクをキャンセルした値になる。これに対して上記の制御を実行しない場合には、アクセルペダルが戻されることに伴って電子スロットルバルブ2が全閉となるので、エンジン1が強制的に回転させられるエンジンブレーキ力を生じ、その結果、制動トルクが過大になる。この発明の制御装置は、エンジン1がトルクを出力するように制御するので、このような過大な制動トルクが生じることを回避し、ドライバビリティの悪化が防止される。
【0058】
上記のステップS13の制御を実行した後、モータ・ジェネレータ6に関するフェール発生に伴って電子スロットルバルブ2の開度下限値を設定していることを示す警告が実行される(ステップS14)。この警告は、前述した図1に示す制御について説明した警告と同様にしておこなうことができる。
【0059】
つぎに、フェールの生じているモータ・ジェネレータ6の回転数を制限するための制御が実行される。その一例として先ず、ステアマチックの解除が実行される(ステップS15)。ここでステアマチックとは、前述したシフト装置20でMポジションを選択し、その状態でステアリングホイール24に取り付けられているスイッチ22,23でシフトレンジの切り換えをおこなうシステムであり、ステップS15ではこのシステムを動作させないように制御し、手動操作に基づくシフトレンジの切り換えおよびそれに伴う変速を禁止する。したがってエンジンブレーキを効かせ、あるいは大きい加速力を得るなどのために、人為的にダウンシフトされることがないので、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6の回転数の増大が防止される。
【0060】
また、フェール時に専用の変速点が設定される(ステップS16)。これは、ダウンシフトが生じにくくするための制御であり、したがって例えば図10に示すように、通常設定されている破線で示す変速点(変速線)を、実線で示すように低車速側に変更する。これは変速マップの読み替えによっておこなわれ、あるいは検出された車速を増大補正して実行することができる。このように制御することにより、変速比が小さい値に維持され、それに伴ってエンジン1およびモータ・ジェネレータ6の回転数が相対的に低く抑制される。
【0061】
さらに、手動操作によって実行される変速(マニュアルシフト)を規制する制御が実行される(ステップS17)。前述したシフト装置20によってシフトポジションを低速側に切り換えると、シフトレンジが制限されるためにダウンシフトが生じることがある。また、図5に示すように、手動変速モードもしくはスポーツモードを選択可能な自動変速機においては、手動操作によって変速を実行することができる。一方、走行中にダウンシフトを実行すると、変速比の増大に伴ってエンジン回転数が増大するので、エンジン1の回転数が限界値を超えるオーバーレブを防止するために、ダウンシフト自体を規制することが一般におこなわれている。これは、変速信号の出力を禁止し、もしくは変速段領域をオーバーレブが生じないように設定することによりおこなわれる。
【0062】
そこで、ステップS17では、エンジン1のオーバーレブに基づかずに、フェールに基づいて決定したエンジン回転数およびモータ・ジェネレータ6の回転数によりダウンシフトを規制する。具体的には、ダウンシフトの可能車速を通常より低速側に設定する。こうすることにより手動操作によってダウンシフトされた場合であっても、モータ・ジェネレータ6の回転数の増大が防止もしくは抑制される。
【0063】
そして、駆動時(パワーオン時)でのモータ・ジェネレータ6の回転数を抑制するために、電子スロットルバルブ2の開度上限値が設定される(ステップS18)。これは、電子スロットルバルブ2の開度を100%より小さい所定の値に制限することにより、アクセルペダルを踏み込んだ際のスロットル開度の増大を規制し、それに伴ってエンジン回転数を抑制する制御である。したがってエンジン1の出力軸に直結されているモータ・ジェネレータ6の回転数が相対的に低く制限される。
【0064】
これらステップS15ないしステップS18の制御によって、フェール時におけるモータ・ジェネレータ6の回転数が抑制され、その起電力もしくは電圧が低くなるので、インバータ7やバッテリ8に対する電気的な負荷が軽減され、その破損や耐久性の低下が防止される。また併せて、自動変速機11で設定される変速比が相対的に小さくなるので、発生する制動力が小さくなり、過剰な制動力やそれに伴うドライバビリティの悪化が防止される。
【0065】
つぎにバッテリ8の保護のための制御が実行される。具体的には、バッテリ8の充電状態(SOC)が充分か否か(過充電か否か)が判断される(ステップS19)。このステップS19で否定的に判断されれば、バッテリ8に対する充電をおこない得ることになるので、システムメインリレー(SMR)9をオン状態に維持する(ステップS20)。すなわち充電を継続する。
【0066】
これに対してバッテリ8に既に充分充電されていてそれ以上に充電することができないことによりステップS19で肯定的に判断された場合には、システムメインリレー9をオフにし、バッテリ8を遮断する(ステップS21)。そして各回転数の制限条件を補正する(ステップS22)。この回転数の制限とは、例えばステップS13での電子スロットルバルブ2の開度下限値の設定であり、ステップS22では、その開度下限値の設定を解除する。バッテリ8を遮断していることによりモータ・ジェネレータ6による制動力が作用しないので、エンジン1からトルクを出力する必要がないからである。また、このステップS22では、変速点の低車速側への変更量を零もしくは少なくする制御を実行してもよく、さらに電子スロットルバルブ2の開度上限値を増大させる制御を実行してもよい。バッテリ8が遮断されていてバッテリ8に充電することがないからである。
【0067】
このように、図8に示す制御によれば、モータ・ジェネレータ6がフェールによって制動力を生じる場合に、エンジン1の出力トルクを通常よりは大きくするので、過剰な制動状態を回避してドライバビリティの悪化を防止することができる。また、モータ・ジェネレータ6の起電力を制御できないことにより、バッテリ8に対する充電量が増大する可能性があることにより、そのモータ・ジェネレータ6の回転数が抑制されるので、インバータ7やバッテリ8を保護し、その破損や耐久性の低下を防止することができる。さらに、バッテリ8に対して過剰な充電がおこなわれる可能性がある場合には、バッテリ8が遮断されるので、その破損や耐久性の低下が防止される。
【0068】
なお、上述したステップS13の制御は、モータ・ジェネレータ6による制動トルクの増大に応じてエンジン1の出力トルクを増大させる制御であるが、この制御に替えて、上記の動力伝達系統における制動トルクの増大要因を軽減することとしてもよい。その例を図11に示してあり、ステアマチックを解除し、もしくはこれと併せてあるいはこれに替えて強制的にアップシフトし(ステップS13−1)、さらに減速時のロックアップクラッチ(L/U)12の係合制御を規制し、具体的にはこれを解除しもしくはその伝達トルク容量を低下させる(ステップS13−2)。
【0069】
このような制御を実行すれば、変速機11で設定される変速比が小さくなってそのトルクの増大作用が低減するから、制動トルクを抑制することができる。また、ロックアップクラッチ12を解放し、もしくその伝達トルク容量を低下させることにより、トルクコンバータ13で滑りが生じてエンジン1やモータ・ジェネレータ6を強制的に回転させるトルクが小さくなり、その結果、制動トルクを抑制することができる。
【0070】
ここで上記の具体例とこの発明との関係を説明すると、図8に示すステップS11の制御を実行する機能的手段が、この発明におけるフェール検出手段に相当する。さらに図11のステップS13−1や、図8のステップS15およびステップS17を実行する機能的手段が、この発明における変速比制御手段および変速規制手段に相当する。そして、ステップS16を実行する機能的手段が、この発明における変速比制御手段に相当し、さらに図11のステップS13−2を実行する機能的手段が、この発明におけるロックアップ制御手段に相当する。
【0071】
前述したように減速時の制動力は、エンジン1およびモータ・ジェネレータ6でエネルギーを消費することにより発生する。したがってモータ・ジェネレータ6のフェールに伴って増大する制動力を抑制するためには、エンジン1で生じる制動力を低減することが有効である。その制御例を次に説明する。
【0072】
図12はその制御例を示しており、先ず、モータ・ジェネレータ6の制御に異常(フェール)が生じているか否かが判断され(ステップS31)、否定的に判断されれば、通常の制御ルーチンに進み、またフェールが生じていて肯定的に判断されれば、フェールに伴ってモータ・ジェネレータ6で生じる制動トルクが推定される(ステップS32)。これらのステップS31およびステップS32の制御は、図8に示すステップS11およびステップS12と同様の制御である。
【0073】
つぎに、システムメインリレー9がオフでない状態でバッテリ電圧が許容値以上か否かが判断される(ステップS33)。バッテリ電圧が許容値以上であることによりステップS33で肯定的に判断された場合には、直ちにシステムメインリレー9をオフにする(ステップS34)とともに、車両のフェール制御ルーチンに進む(ステップS35)。
【0074】
一方、バッテリ電圧が許容値を下回っている場合は、ステップS33で否定的に判断され、ついで回生状態か否かが判断される(ステップS36)。回生状態であることによりステップS36で肯定的に判断された場合には、エンジン1の動力損失(フリクションによるロス)を低減する制御が実行される(ステップS38)。すなわち回生状態であるから、エンジン1に対する燃料の供給は停止されており、その状態で電子スロットルバルブ2が全開(WOT)に制御され、あるいは可変バルブタイミング機構3によって排気バルブが制御され、吸入した空気の圧縮が可及的に低減される。このようにエンジン1による仕事量を可及的に少なくする制御が実行され、エンジン1で発生する制動トルクが低減される。その結果、フェールによる過大な制動力が原因となるショックや減速などが防止され、違和感が未然に回避される。
【0075】
また、一方、駆動状態であることによりステップS36で否定的に判断された場合には、バッテリ8の充電状態(SOC)が判断される(ステップS38)。バッテリ8の充電状態が低く、充電可能な状態であれば、通常の制御ルーチンに進む(ステップS39)。これに対して既に充分に充電されている場合には、過充電状態となってしまうので、エンジン1によって回転させられるモータ・ジェネレータ6の回転数を低下させる(ステップS40)。具体的には、エンジン回転数が予め定めた回転数以上の場合には、燃料の供給を遮断(フューエルカット)し、エンジン1の回転数を制限する。その結果、エンジン1に直結されているモータ・ジェネレータ6の回転数および起電力が抑制され、バッテリ8やインバータ7などの電気系統の破損や耐久性の低下が防止される。
【0077】
なお、上述した各具体例では、エンジン1とモータ・ジェネレータ6とを駆動力源としたハイブリッド車を対象とする制御装置にこの発明を適用した例について説明したが、この発明は、駆動力源をエンジンのみとした車両もしくは電動機のみとした電気自動車などの他の形式の車両を対象とする制御装置にも適用することができる。また、回生機構は、動力源から駆動輪に到る動力伝達系統に必ずしも介装されている必要はなく、回生機構は、要は、車両の走行によるエネルギーを回生できればよいで、いずれかの車輪もしくはその駆動軸から動力が伝達されるようになっていればよい。さらに、上記の具体例では、フェールした回生機構に対する駆動力を低減するために、電子スロットルバルブの開度に上限値を設定してエンジンの出力を制限することとしたが、この発明では、これに替えて、回生機構の入力側に変速比を変更できる機構が設けられている場合には、その変速比を小さくして回生機構に入力される回転数を制限もしくは低下させてもよい。そしてまた、上記の具体例では、回生機構であるモータ・ジェネレータ6もしくはその制御系統にフェールが生じた場合に、変速点を低車速側に設定するなどのことによって変速比の増大を抑制するように構成したが、変速点のこのような変更によって積極的にアップシフトを生じさせるように制御してもよく、あるいはアップシフト信号を変速点の変更に拘わらず出力するよう構成してもよい。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1の発明によれば、モータ・ジェネレータのフェールが生じると、変速機で設定される変速比の増大が抑制されることにより、モータ・ジェネレータの回転数が増大せず、もしくは積極的に低減されるので、減速時にはいわゆるエンジンブレーキ力の増大が抑制されて過剰な制動に伴う違和感が回避され、またモータ・ジェネレータの回転数の上昇が抑制されることにより、その回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータを保護することができる。
【0083】
請求項2発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、モータ・ジェネレータのフェールが検出されると、手動操作に基づく変速機でのダウンシフトが実行できなくなり、あるいはダウンシフトが可能な車速が低下させられるなど、手動操作によるダウンシフトが規制されるので、モータ・ジェネレータが過剰に回転させられることなく、その結果、回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータの破損や耐久性の低下を防止することができる。
【0084】
そして、請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、モータ・ジェネレータのフェールが検出されることにより、流体伝動機構におけるロックアップクラッチが解放させられ、もしくはその伝達トルク容量が低下させられるので、減速時に車輪側からモータ・ジェネレータに対して入力される動力が抑制され、その結果、回生エネルギー量の増大が防止されて、モータ・ジェネレータの破損や耐久性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の制御装置で実行される制御例を説明するためのフローチャートである。
【図2】 この発明の一実施形態であるハイブリッド車のパワートレーンおよび制御系統を模式的に示すブロック図である。
【図3】 Mポジションを備えたシフト装置におけるシフトポジションの配列を示す図である。
【図4】 ステアマチックにおけるアップスイッチおよびダウンスイッチの配置を示す図である。
【図5】 手動変速モードを備えた自動変速機におけるシフトポジションの配列を示す図である。
【図6】 フェールが生じたモータ・ジェネレータのトルク特性を模式的に示す図である。
【図7】 予備変速点の一例を概念的に示す変速線図の部分図である。
【図8】 この発明の制御装置で実施される他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図9】 エンジンの下限出力を規制した場合の出力軸トルクおよびアクセル開度ならびに電子スロットルバルブの開度の変化を模式的に示すタイムチャートである。
【図10】 フェール時に変更される変速点(変速線)の一例を概念的に示す変速線図の部分図である。
【図11】 図8に示すフローチャートにおけるステップS13に置き換えられるステップを示す図である。
【図12】 この発明の装置で実施される更に他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
1…エンジン、 2…電子スロットルバルブ、 3…可変バルブタイミング機構、 4…燃料噴射装置、 5,10,25…電子制御装置、 6…モータ・ジェネレータ、 7…インバータ、 8…バッテリ、 9…システムメインリレー、 11…変速機、 12…ロックアップクラッチ、 13…トルクコンバータ、 20…シフト装置、 27…駆動輪。
Claims (3)
- 走行のための駆動力を発生する駆動力源と、車両が走行していることによるエネルギーを選択的に回生する回生機構とを有する回生機構付き車両の制御装置において、
前記駆動力源がエンジンであり、このエンジンから車輪に至る動力伝達系統に変速機が設けられており、前記回生機構は、前記動力伝達系統で前記エンジンと変速機との間に設けられたモータ・ジェネレータであるとともに、
前記モータ・ジェネレータのフェールの発生を検出するフェール検出手段と、
前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、前記変速機で設定されている変速比の増大を抑制することにより、前記モータ・ジェネレータの回転数の上昇を抑制し、もしくは低減させる変速比制御手段と
を備えていることを特徴とする回生機構付き車両の制御装置。 - 前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、手動操作に基づく前記変速機でのダウンシフトを規制する変速規制手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の回生機構付き車両の制御装置。
- 前記車輪と前記モータ・ジェネレータとの間に介装された、ロックアップクラッチを備えた流体伝動機構と、
前記フェールがフェール検出手段で検出された場合に、前記ロックアップクラッチを解放側に制御するロックアップ制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の回生機構付き車両の制御装置。
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