[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成を示す図である。図1に示すように、ハイブリッド車両は、エンジンからなる内燃機関ENG、電動機(モータ)MG、モータMGと電力を授受する二次電池からなる蓄電池1、当該車両の車載機器に対して電力を供給する12Vのバッテリ2、蓄電池1からバッテリ2へ電圧を変換して電力を供給するDC/DCコンバータ3、電流センサ22、自動変速機31、LEDランプ41、及びエンジンENG、モータMG、自動変速機31、DC/DCコンバータ3、LEDランプ41、車両の走行速度を減速させる制動装置(図示省略)の各部を制御する電子制御装置ECU(Electronic Control Unit)21を備える。
ECU21は、各種演算処理を実行するCPU21aとこのCPU21aで実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果などを記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)21bとを備え、各種電気信号を入力すると共に、演算結果などに基づいて駆動信号を外部に出力する。
第1実施形態では、ECU21のCPU21aが、本発明における制御手段21a1、診断手段21a2として機能する。
自動変速機31は、エンジンENGの駆動力(出力トルク)が伝達されるエンジン出力軸32と、図外のディファレンシャルギヤを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギヤからなる出力部材33と、変速比の異なる複数のギヤ列G2〜G5とを備える。
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギヤ列G3,G5の駆動ギヤG3a,G5aを回転自在に軸支する第1入力軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギヤ列G2,G4の駆動ギヤG2a,G4aを回転自在に軸支する第2入力軸35と、リバースギヤGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1入力軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2入力軸35及びリバース軸36は第1入力軸34と平行に配置されている。
また、自動変速機31は、第1入力軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギヤGiaと、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギヤGiaに噛合する第1アイドル従動ギヤGibと、第2入力軸35に固定された第2アイドル従動ギヤGicと、リバース軸36に固定され第1アイドル駆動ギヤGibに噛合する第3アイドル従動ギヤGidとで構成されるアイドルギヤ列Giを備える。尚、アイドル軸37は第1入力軸34と平行に配置されている。
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチC1及び第2クラッチC2を備える。第1クラッチC1は、エンジン出力軸32に伝達されたエンジンENGの駆動力を第1入力軸34に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2は、エンジン出力軸32に伝達されたエンジンENGの駆動力を第2入力軸35に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2を締結させて伝達状態とすると、エンジン出力軸32は第1アイドル駆動ギヤGib及び第2アイドル駆動ギヤGicを介して第2入力軸35に連結される。
両クラッチC1,C2は、素早く状態が切り換えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチC1,C2は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、差動回転機構である遊星歯車機構PGが配置されている。遊星歯車機構PGは、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなるシングルピニオン型で構成される。
遊星歯車機構PGのサンギヤSa、キャリアCa、リングギヤRaからなる3つの回転要素を、速度線図(各回転要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる図)におけるギヤ比に対応する間隔での並び順にサンギヤSa側からそれぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素とすると、第1回転要素はサンギヤSa、第2回転要素はキャリアCa、第3回転要素はリングギヤRaとなる。
そして、遊星歯車機構PGのギヤ比(リングギヤRaの歯数/サンギヤSaの歯数)をgとして、第1回転要素たるサンギヤSaと第2回転要素たるキャリアCaの間の間隔と、第2回転要素たるキャリアCaと第3回転要素たるリングギヤRaの間の間隔との比が、g:1となる。
第1回転要素たるサンギヤSaは、第1入力軸34に固定されている。第2回転要素たるキャリアCaは、3速ギヤ列G3の3速駆動ギヤG3aに連結されている。第3回転要素たるリングギヤRaは、ロック機構R1により変速機ケース等の不動部に解除自在に固定される。
ロック機構R1は、リングギヤRaが不動部に固定される固定状態、又はリングギヤRaが回転自在な開放状態の何れかの状態に切換自在なシンクロメッシュ機構で構成されている。
尚、ロック機構R1は、シンクロメッシュ機構に限らず、スリーブ等による摩擦係合解除機構の他、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ等のブレーキや、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチなどで構成してもよい。また、遊星歯車機構PGは、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合し一方がサンギヤ、他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンPa、Pa’を自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギヤ(第1回転要素)を第1入力軸34に固定し、リングギヤ(第2回転要素)を3速ギヤ列G3の3速駆動ギヤG3aに連結し、キャリア(第3回転要素)をロック機構R1で不動部に解除自在に固定するように構成すればよい。
遊星歯車機構PGの径方向外方には、中空のモータMGが配置されている。換言すれば、遊星歯車機構PGは、中空のモータMGの内方に配置されている。モータMGは、ステータMGaとロータMGbとを備える。
また、モータMGは、ECU21の指示信号に基づき、パワードライブユニットPDUを介して制御される。ECU21は、パワードライブユニットPDUを、蓄電池1の電力を消費してモータMGを駆動させる駆動状態と、ロータMGbの回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニットPDUを介して蓄電池1に充電する回生状態とに適宜切り換える。
バッテリ2は、当該車両の車載機器に対して電力を供給し、12Vの電圧を出力する。また、ECU21の制御信号によって、蓄電池1の電力がDC/DCコンバータ3を介してバッテリ2に充電が可能である。
電流センサ22は、モータMGに流れる電流値を検出可能なように構成されており、ECU21は、パワードライブユニットPDUを介して電流センサ22が検出した電流値を信号として受信する。
出力部材33を軸支する出力軸33aには、2速駆動ギヤG2a及び3速駆動ギヤG3aに噛合する第1従動ギヤGo1が固定されている。出力軸33aには、4速駆動ギヤG4a及び5速駆動ギヤG5aに噛合する第2従動ギヤGo2が固定されている。
このように、2速ギヤ列G2と3速ギヤ列G3の従動ギヤ、及び4速ギヤ列G4と5速ギヤ列G5の従動ギヤとをそれぞれ1つのギヤGo1,Go2で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
また、第1入力軸34には、リバースギヤGRに噛合するリバース従動ギヤGRaが固定されている。
第1入力軸34には、シンクロメッシュ機構で構成され、3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、3速駆動ギヤG3a及び5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第1選択手段である第1噛合機構SM1が設けられている。
第2入力軸35には、シンクロメッシュ機構で構成され、2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結した2速側連結状態、4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結した4速側連結状態、2速駆動ギヤG2a及び4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第2選択手段である第2噛合機構SM2が設けられている。
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギヤGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切換選択自在な第3噛合機構SM3が設けられている。
LEDランプ41は、ECU21から信号を受けて点灯、消灯を行なうように構成されている。
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
自動変速機31では、第1クラッチC1を係合させることにより、モータMGの駆動力を用いてエンジンENGを始動させるIMA始動を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構R1により遊星歯車機構PGのリングギヤRaを固定状態とし、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。
図2に示すように、エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34を介して、遊星歯車機構PGのサンギヤSaに入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジンENGの回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリアCaを介し3速駆動ギヤG3aに伝達される。
3速駆動ギヤG3aに伝達された駆動力は、3速駆動ギヤG3a及び第1従動ギヤGo1で構成される3速ギヤ列G3のギヤ比(3速駆動ギヤG3aの歯数/第1従動ギヤGo1の歯数)をiとして、1/i(g+1)に変速されて第1従動ギヤGo1及び出力軸33aを介し出力部材33から出力され、1速段が確立される。
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構PG及び3速ギヤ列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ蓄電池1の残容量(充電率)SOCに応じて、ECU21は、モータMGでブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、蓄電池1の残容量SOCに応じて、モータMGを駆動させて、エンジンENGの駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又はモータMGの駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、モータMGの駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジンENGを始動させることができる。
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることをECU21が車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報から予測した場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
エンジンENGの駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結して伝達状態とする。
図3に示すように、エンジンENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、第2入力軸35、2速ギヤ列G2及び出力軸33aを介して、出力部材33から出力される。
尚、2速段において、ECU21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
逆に、ECU21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を、第3駆動ギヤG3a及び第5駆動ギヤG5aと第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチC1を伝達状態とし、第2クラッチC2を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り換えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、蓄電池1の残容量SOCに応じて、ECU21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構SM1が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
第1噛合機構SM1が3速側連結状態である場合には、第2駆動ギヤG2aで回転される第1従動ギヤGo1によって回転する第3駆動ギヤG3aが第1入力軸34を介してモータMGのロータMGbを回転させるため、このロータMGbの回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
第1噛合機構SM1がニュートラル状態である場合には、ロック機構R1を固定状態とすることによりリングギヤRaの回転数を「0」とし、第1従動ギヤGo1に噛合する3速駆動ギヤG3aと共に回転するキャリアCaの回転数を、サンギヤSaに連結させたモータMGにより発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構R1を開放状態とすることにより遊星歯車機構PGを各回転要素が相対回転不能な状態とし、モータMGの駆動力を3速ギヤ列G3を介して出力部材33に伝達することにより行うことができる。または、第1噛合機構SM1をニュートラル状態として、ロック機構R1を固定状態としてリングギヤRaの回転数を「0」とし、モータMGの駆動力を1速段の経路で第1従動ギヤGo1に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とする。
図4に示すように、エンジンENGの駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチC1、第1入力軸34、第1噛合機構SM1、3速ギヤ列G3を介して、出力部材33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
3速段においては、第1噛合機構SM1が3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構PGのサンギヤSaとキャリアCaとが同一回転となる。
従って、遊星歯車機構PGの各回転要素が相対回転不能な状態となり、モータMGでサンギヤSaにブレーキをかければ減速回生となり、モータMGでサンギヤSaに駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。
図5は、3速段におけるHEV走行時の、モータMG及びエンジンENGの駆動力の伝達経路を示す。図4に示したエンジンENGの駆動力に加えて、モータMGの駆動力が、入力軸34、3速ギヤ列G3、出力軸33aを介して出力部材33に伝達される。
また、第1クラッチC1を開放して、モータMGの駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
3速段において、ECU21は、車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を2速駆動ギヤG2aと第2入力軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
これにより、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とし、第1クラッチC1を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切換えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。
図6に示すように、エンジンENGの駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、第2入力軸35、4速ギヤ列G4及び出力軸33aを介して、出力部材33から出力される。
4速段で走行中は、ECU21が車両情報からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。
逆に、ECU21が車両情報からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプリシフト状態とする。これにより、第1クラッチC1を締結させて伝達状態とし、第2クラッチC2を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、動力伝達装置ECU21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を3速駆動ギヤG3aと第1入力軸34とを連結した3速側連結状態とし、モータMGでブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。
図7は、4速段におけるHEV走行時に、モータMG及びエンジンENGの駆動力の伝達経路を示す。図6に示したエンジンENGの駆動力に加えて、モータMGの駆動力が、入力軸34、3速ギヤ列G3、出力軸33aを介して出力部材33に伝達される。
ECU21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、モータMGによりブレーキをかければ減速回生、モータMGから駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第1噛合機構SM1を5速駆動ギヤG5aと第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチC1が伝達状態とされることによりエンジンENGとモータMGとが直結された状態となるため、モータMGから駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、モータMGでブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチC1を開放状態とすればよい。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチC1を徐々に締結させることにより、エンジンENGの始動を行うこともできる。
ECU21は、5速段で走行中に車両情報から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構SM2を4速駆動ギヤG4aと第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプリシフト状態とする。これにより、4速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
エンジンENGの駆動力を用いて後進段を確立する場合には、ロック機構R1を固定状態とし、第3噛合機構SM3をリバースギヤGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチC2を締結させて伝達状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチC2、アイドルギヤ列Gi、リバースギヤGR、リバース従動ギヤGRa、サンギヤSa、キャリアCa、3速ギヤ列G3及び出力軸33aを介して後進方向の回転として、出力部材33から出力され、後進段が確立される。
第1実施形態では、モータMGの状態異常として、電流センサに異常が発生してモータMGの回転が制御できない異常(以下、「電流センサ異常」という)と、充電経路を開放することができない異常(以下、「開放異常」という)との2種類を想定している。
電流センサ異常は、例えば、モータMGの電流値を検出する電流センサ22が異常のときに発生する。電流センサ異常が発生するとモータMGの電流値を正しく検出できず、モータMGの回転数を的確に制御できなくなる。
電流センサ異常が発生したか否かの判定は、モータMGへの要求出力回転数と実際の出力回転数との差を所定の時間間隔で取得し、ある所定期間の回転数の差の偏差が、所定の値以上であるか否かを判定することによって行なう。すなわち、要求に対するモータMGの回転数のばらつきが大きいときに、回転が異常状態であると判定している(本発明における診断手段21a2に相当)。
実際の出力回転数は、例えば、車両の走行速度と自動変速機31の変速比とから自動変速機31への入力回転数、すなわち、モータMGの出力回転数を算出して決定する。このとき、ファイナルギアなどの固定値の変速比も考慮して入力回転数を算出する。変速比及び走行速度と回転数のテーブルを用意しておき、テーブルから検索することによって実際の出力回転数を決定してもよい。
例えば、後述するように、車両の速度や要求加速度に応じてギア段を割り当てたテーブル(以下、「変速マップ」という)を変更して、第2入力軸を優先的に使用する。そして、後述のシステム失陥時の3つの制御から相互に情報を送受信することにより、クラッチ磨耗及び過充電を防止する。
開放異常は、モータMGの電流の開閉を行なっているコンタクタ(電磁接触器)に異常が発生し、開放することができないときに発生する。すなわち、開放異常が発生し且つ電流センサ異常が発生すると、モータMGの回転時には常に発電が行なわれ、蓄電池1のSOCに関わらず充電が行なわれる。そのため、蓄電池1のSOCが高い場合に更に充電が行なわれ、過充電によって蓄電池1が損傷する可能性が高くなる。
開放異常が発生したか否かの判定は、電流センサ22が検知したモータMGの電流値が予め定めた範囲外か否かを判定することによって行なう。範囲外のときは異常状態、範囲内のときは正常状態として判定する(本発明における診断手段21a2に相当)。
モータMGに発生した異常の影響によって、蓄電池を保護するために、以下のように制御を行なう。
電流センサ異常が発生した場合は、モータMGが接続されていない第2入力軸35を優先的に使用するようにギア段(自動変速機31の1速段〜5速段)の選択を行なう。これは、モータMGとエンジンENGとの回転数を合わせられない状態で第1クラッチC1を締結することによって、第1クラッチC1の磨耗を促進しないようにするためである。
ギア段の選択は、車両の速度や要求加速度に応じて変速マップで決められている。すなわち、変速マップによって、車両の速度や要求加速度に対する各ギア段の選択の割合(選択比)が決定される。この変速マップは、エネルギー効率又は走行性能を考慮して作成され、ECU21のメモリ21b内に確保された領域に記憶されている。
第1実施形態では、モータMGに電流センサ異常が発生したときに使用する変速マップも用意している。電流センサ異常時用の変速マップにおいては、上述のように第1クラッチC1の磨耗を促進しないようにするために、第2クラッチC2を締結することによって駆動される第2入力軸35側のギア段(2速段、4速段)が、第1入力軸34側のギア段(1速段、3速段、5速段)よりも優先的に使用されるように、選択比が大きく設定される。
電流センサ異常が発生したときECU21は、電流センサ異常時用の変速マップを使用してギア段を選択する。このように変速マップを通常時のものから異常時のものに変更することが、本発明において変速段の選択比を制御することに相当する。
上述のとおり、自動変速機31は、アップシフト又はダウンシフトを行なうときに駆動力が途切れないように、1速段から5速段のどのギア段が選択されていても、現在使用している入力軸とは別の入力軸に設定されたギア段を使用するように構成されている。
具体的には、電流センサ異常が発生したときでも第2入力軸35のギア段(偶数段)のみを使用すると、駆動力が途切れてしまうが、例えば2速段で走行中であれば、3速段に切り替えてから4速段に切り替えることで、駆動力が途切れるのを防止できる。
但し、電流センサ異常時の変速マップでは、通常時の変速マップにおいて3速段が割り当てられている範囲を可能な限り2速段及び4速段に割り当てることで、3速段の範囲を狭くしている。これにより、3速段の使用をできるだけ少なくして、第1クラッチC1の磨耗を抑制するようにしている(クラッチ磨耗防止制御)。
上述のとおり、電流センサ異常が発生したときは、モータMGが正常なときに使用している変速マップから上述の電流センサ異常時用の変速マップに切り替えてギア段を選択する。
但し、蓄電池1のSOCが走行を継続するために充分な値より低い場合、ECU21は、モータMGの回転数が発電可能な回転数以上になるようなギア段の選択比が大きくなるように作成された変速マップを使用して、ギア段を選択する。これは、通常選択されるギア段よりも低いギア段を選択して回転数を増加させることで実現している。すなわち、3速段で走行可能なときでも、1速段で走行することによって、モータMGの回転数を発電可能な回転数以上にする。
また、通常であれば偶数段(2速段、4速段)の選択段階であっても、これよりは低い奇数段(1速段、3速段)の選択を行ない、モータMGによる蓄電池BATTの充電を積極的に行なうことでSOCを向上させる。
例えば、2速段を選択する場合に、奇数段のプリシフトを低い段(1速段)に選択することで同様のことが可能となる。
第1実施形態のハイブリッド車両は、モータMGを駆動するための電源である蓄電池1の他に、車載機器の電源であるバッテリ2を搭載している。バッテリ2のSOCが低下すると、車載機器の動作ができなくなると共に、走行時のエンジンENGの点火を行なうこともできなくなる。すなわち、車両の走行を行なうことができなくなる。
バッテリ2は、ECU21に制御されたDC/DCコンバータ3を介して蓄電池1から電力が供給される。従って、蓄電池1のSOCが低下した状態を放置すると、バッテリ2への電力供給が行なえなくなり、車両の走行を継続できない状態になる。これを回避するために、上述のようにモータMGの回転数が発電可能な回転数以上になるようなギア段の選択比が大きくなるように作成された変速マップを使用して、ギア段を選択することにより、発電を行なって蓄電池1のSOCの低下を抑制する。
このように蓄電池1のSOCの低下を抑制することで、電力供給を継続できるようにし、車両の走行を継続できるように変速段の選択比を制御している(発電制御)。また、車両の自走によって修理場まで走行し、運転者がモータMGの異常が他の機器へ影響が及ぶ前に、モータMGの修理を行なうことができる可能性を高くできる。
一方、開放異常が発生した場合に、蓄電池1のSOCが、これ以上充電を行なうと過充電が発生する可能性がある状態のときは、モータMGの回転数が所定の値以下の発電量となるような回転数以下になるギア段の選択比が大きくなるように作成された変速マップを使用して、ギア段を選択する。これは、通常選択されるギア段よりも高いギア段を選択して回転数を減少させることで実現している。すなわち、3速段で走行可能なときでも、4速段又は5速段で走行することによって、モータMGの回転数を所定の値以下の発電量となるような回転数以下にする。
また、偶数段走行時に回生が行なわれると予測される場合には、第1噛合機構SM1を、第3駆動ギヤG3a及び第5駆動ギヤG5aと第1入力軸34との連結を断つ状態にし(プリシフトの中止)、第1入力軸34を回転させないようにし、発電を行なわないようにする。
上記のように、開放異常が発生した場合には、モータMGによる発電を行なえないように変速段の選択比を制御する(バッテリ過充電防止制御)。
モータMGに異常が発生したときの上述のギア段の選択、すなわち、変速段の選択比を制御することが本発明の制御手段に相当する。また、上述のとおり、モータMGの異常状態及び蓄電池1のSOCに応じた変速マップはメモリ21b(本発明における記憶手段に相当する)内に格納されている。
以上のように、モータMGの電流センサ異常又は開放異常が発生した場合、クラッチ磨耗防止制御、発電制御及びバッテリ過充電防止制御の3つの制御から相互に情報を送受信することで、状況に応じた変速段の選択比を制御する。
次に、第1実施形態のECU21のCPU21aによって実行される制御の状態遷移について説明する。
第1実施形態では、CPU21aが、本発明における制御手段21a1及び診断手段21a2として動作する。
図8は、モータMGに異常が発生したときに、ECU21によって実行される制御を選択する状態遷移図を示す。各制御の状態や状態遷移の管理もECU21によって行なわれる。各状態では、所定時間(例えば、10msec)毎に制御処理プログラムを実行する。
状態S101は、クラッチ磨耗防止制御を行なう状態、状態S102は、発電制御を行なう状態、状態S103はバッテリ過充電防止制御を行なう状態である。
モータMGに電流センサ異常が発生したとき、状態S101が初期状態として本処理を開始する。
状態S101のときに、蓄電池1のSOCが、走行を継続するために充分な値α1未満になった場合は、発電を行なうために状態S102に遷移する。また、状態S101のときに、開放異常が発生し、且つ蓄電池1のSOCがこれ以上充電を行なうと過充電が発生する可能性がある値α2以上の場合は、過充電を防止するために状態S103に遷移する。このとき、値α2は値α1より大きく設定する。
状態S102のときに、走行を継続するために充分な値α3まで蓄電池1のSOCが充電された場合は、発電を行なう必要がなくなったため状態S101に遷移する。SOCの値α3は、値α1より大きく且つ値α2より小さい値に設定する。また、状態S102のときに、開放異常が発生し、且つ蓄電池1のSOCが値α2以上の場合は、過充電を防止するために、状態S103に遷移する。
状態S103のときに、蓄電池1のSOCがこれ以上充電を行なっても過充電が発生しない値α4以下になったときは、過充電の防止を行なう必要がないため、状態S101に遷移する。また、蓄電池1のSOCが値α1より低い場合は、状態S102に遷移する。
状態S103のとき、蓄電池1のSOCが値α4以下になったときの別の遷移として、状態S103に遷移する前の状態に戻してもよい。
すなわち、状態S101から状態S103に遷移し、蓄電池1のSOCが値α4以下になったときは状態S101に状態遷移を行ない、状態S102から状態S103に遷移し、蓄電池1のSOCが値α4以下になったときは状態S102に状態遷移を行なう。その後の遷移は、状態S101、S102において、蓄電池1のSOCに応じて遷移を行なう。
このように遷移を行なうことで、状態S103は、どの状態から遷移されたかと値α4とにのみ依存し、他の状態で使用している値α1に依存しないため、制御の複雑化を抑制できる。
上記のように、診断手段21a2によって電流センサ異常と診断された場合、状態S101を初期状態として制御を開始して第1クラッチC1の磨耗を抑制し、蓄電池1のSOCが値α1未満の場合には、状態S102に遷移して蓄電池1を充電し、走行を継続できるようにする。また、診断手段21a2によって開放異常と診断され且つ蓄電池1のSOCが値α2以上の場合には状態S103に遷移し、蓄電池1に過充電が発生するのを防止する。このように、3つの制御から相互に情報を送信し合うことで、状況に応じた制御を行なう
従って、モータMGに異常が発生した影響によって、当該車両のクラッチの磨耗の抑制や、蓄電池を保護するように変速段の選択比を制御して走行を継続することができる。
[第2実施形態]
第2実施形態では、本発明における制御手段21a1及び診断手段21a2として動作するECU21のCPU21aが、以下の制御動作を実行する。
図9は、CPU21aが実行する本発明の処理の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
まず最初のステップST1は、モータMGの回転が異常状態か否かを判定する。
ステップST1の処理が、本発明における診断手段の電動機の回転が異常な状態か否かを診断することに相当する。
ステップST1の判定結果がYESのときは、ステップST2に進み、モータMGが開放異常か否かを判定する。
ステップST2の処理が、本発明における診断手段の電力を供給する経路が遮断できない状態か否かを診断することに相当する。
ステップST1の判定結果がNOのときは、モータMGに異常はないとして、ステップST3に進み、通常のギア段(自動変速機31の1速段〜5速段)選択を行なうように制御を行なう。このとき、ギア段を変更する必要がないときは、ギア段は変更されない。
前記ステップST2の判定結果がNOのときは、ステップST4に進み、蓄電池1のSOCが所定の値より低いか否かの判定を行なう。ここでは、蓄電池1のSOCが低いときに充電を行なう必要があるため、所定の値は、この必要性を充分判定できる値に設定しておけばよい。
ステップST4の判定結果がNOのときは、ステップST5に進み、モータMGが接続されていない入力軸のギア段を優先的に選択するように制御を行なう。このとき、ギア段を変更する必要がないときは、ギア段は変更されない。
ステップST4の判定結果がYESのときは、ステップST6に進み、モータMGの回転数が一定以上になるようなギア段を優先的に選択するように制御を行なう。このとき、ギア段を変更する必要がないときは、ギア段は変更されない。
前記ステップST2の判定結果がYESのときは、ステップST7に進み、蓄電池1のSOCが所定の値より高いか否かの判定を行なう。蓄電池1のSOCが高いときに充電を行なうと、過充電により蓄電池1が破損する。従って、この所定の値は、蓄電池1の破損を防ぐ目的を充分達成できる値に設定しておけばよい。
ステップST7の判定結果がNOのときは、前記ステップST4に進む。
ステップST7の判定結果がYESのときは、ステップST8に進み、モータMGの回転数が一定以下になるようなギア段を優先的に選択するように制御を行なう。このとき、ギア段を変更する必要がないときは、ギア段は変更されない。
ステップST3、ST5、ST6、ST8の処理が終了すると本制御処理を終了する。
ステップST5、ST6、ST8の処理の後、LEDランプ41を点灯や点滅させることによって、運転者にモータMGが異常状態であることを報知するとよい。これは、本発明におけるモータMGの異常状態を報知手段によって報知していることに相当する。
また、この報知は、ステップST1又はST2の判定結果がYESのときに運転者に知らせることにしてもよい。
更に、ステップST1の判定結果がYESのときと、ステップST2の判定結果がYESのときとで報知の方法を変更してもよい。例えば、点滅のタイミングの変更や、各異常状態毎に表示するLEDランプを複数用意しておいてもよい。
また、報知方法は、LEDランプによる報知以外に、車載機器のディスプレイに表示する方法や、音で知らせる方法などでもよい。音で知らせる場合は、アラームによる報知や音声を再生することによる報知などでもよい。
上記のようにモータMGの異常を運転者に報知することで、運転者がモータMGの異常が他の機器へ影響が及ぶ前に、モータMGの修理を行なうことができる可能性を高くできる。
以上のように、第2実施形態では、モータMGの回転に異常があるか否か(ステップST1)、モータMGの充電経路の開放に異常があるか否か(ステップST2)を確認し、モータMGに異常がある場合は、異常状態に対応したギア段の選択を行なっている。蓄電池1のSOCが低く、充電しなければならないときは、回転数が一定以上になるようなギア段を優先的に選択している(ステップST6)。これによって、バッテリ12に電力を供給し、車両の走行を継続できるようにしている。蓄電池1のSOCが高く、過充電の可能性があるときは、回転数が一定以下になるようなギア段を優先的に選択している(ステップST8)。これによって、蓄電池1に過充電が発生することを抑制している。回転に異常がある場合は、第1クラッチC1の磨耗を防ぐため、モータMGが接続されていないギア段を優先的に選択している(ステップST5)。また、モータMGが正常な場合は、通常のギア段選択を行なっている(ステップST3)。
従って、モータMGに異常が発生した影響によって、当該車両のクラッチの磨耗の抑制や、蓄電池を保護するように変速段の選択比を制御して走行を継続することができる。