JP4250023B2 - 弾性部材および紙送りローラ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は画像形成装置に用いられる紙送りローラに関し、特に紙送りローラの摩耗時に生じる表面状態を改良して摩擦係数を維持できるようにし、インクジェットプリンター、複写機等の画像形成装置の紙送りローラにおいて紙粉の付着による摩擦係数低下を抑制するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットプリンタ、レーザープリンタ、静電気式複写機、普通紙ファクシミリ装置等のOA機器や自動預金支払機(ATM)等の紙送り機構において、紙やフィルム等の搬送物をピックアップし、分離する等の目的で紙送りローラが用いられている。
紙送りローラは、紙やフィルム等の搬送物を送るための搬送力を必要としており、ある一定以上の摩擦係数が要求されるが、搬送時に紙粉等の搬送物に起因する異物が付着し摩擦係数が低下する問題がある。
【0003】
よって、従来、搬送物から出る紙粉等の数nm程度の異物を、紙送りローラと搬送物との接触面へ付着させないために、深さ及び幅が数mm程度のローレット溝等の溝部を紙送りローラの外周面に設けることが行われている。しかし、紙送りローラの外周面に、幅が数mm程度の溝部を設けると、紙送りローラと搬送物の接触面積が大きく減少するため、摩擦係数が低下するという問題がある。また、摩耗により上記溝部の深さが浅くなり、繰り返しの使用により溝部が消滅すると、異物の付着を防止することができず摩擦係数が低下し、耐久性が劣る問題がある。 昨今、複写機、プリンタ等の画像形成装置の寿命が伸び、要求される耐久性のレベルが高くなっている上に、部品点数の削減によって高荷重下で使用されることが多くなっている。従って、紙送りローラの耐久性をさらに向上させることが要望されている。
【0004】
ゴムローラ等の形成材料は従来より研究開発され、ポリアミド系熱可塑性樹脂等の樹脂成分をマトリクスとし、ゴム成分を分散させたものが種々提案されている。
例えば、特開2000−129047号公報(特許文献1)に提案された熱可塑性エラストマー組成物では、ポリアミド系エラストマーがマトリクス相、エチレン−アクリル酸エステル共重合体ゴム成分が分散相としている。
また、特開平10−251452号公報(特許文献2)で提案されているゴム組成物では、水素添加NBRエラストマーマトリクス中にナイロンよりなる微粒子が分散して存在し、官能基含有エチレン系共重合体を含有させている。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−129047号公報
【0006】
【特許文献2】
特開平10−251452号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1の組成物は、ポリアミド系エラストマー又は熱可塑性樹脂がマトリクス相となり、ゴムが分散相となっているため、全体硬度が高くなり、摩擦係数が低下しやすく、良好な耐摩耗性を実現できないという問題がある。また、溶融プレスすることでポリアミド樹脂が流動し、相分離が進行してしまうという問題がある。特に、紙送りローラとして用いる場合には硬度が高くなりすぎて十分な搬送力が出ず、実用に適さないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の組成物は、組成物中にナイロンよりなる微粒子が分散しているものの、粒子の分散状況によっては耐摩耗性が悪くなるという問題がある。例えば、紙送りローラとして用いる場合には、十分な摩擦係数が得られず、十分な搬送力が出ないため、実用に適さないという問題がある。
【0009】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、摩擦係数が高く、その高い摩擦係数が保持されると共に、耐久性にも優れた画像形成装置に用いられる紙送りローラを提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、第1に、エラストマーからなるマトリクス中に、該マトリクスよりも耐摩耗性を有する高極性ポリアミド系熱可塑性樹脂がナノ分散化され、
上記エラストマーと上記樹脂との体積比(エラストマー:樹脂)が99.9:0.1〜87.5:12.5とされ、
上記マトリクスの表面露出部分は摩耗時に溝形成部分とされると共に上記樹脂は突起として残存して摩擦係数維持部分とされる構成よりなることを特徴とする画像形成装置に用いられる紙送りローラを提供している。
【0011】
即ち、紙送りローラの表面が摩耗された場合に、ナノ分散させて配置した樹脂はマトリクスであるエラストマーと比較して摩耗量が少ないことより、マトリクスの部分が摩耗されて溝となり、分散された樹脂は突起として残存する。
形成される溝は紙粉等の異物を取り込み、表面露出部分に異物が付着するのを防止できる一方、残存する樹脂が摩擦係数維持部分として機能させ、長期に渡って高摩擦係数を維持させて耐久性を高めることができる。
【0012】
また、紙送りローラが摩耗することにより形成される溝や突起は、数nm〜数百nmのnmオーダーと非常に微小であるため、溝や突起の存在により摩擦対象物との接触面積が減少されることなく、摩擦係数を維持することができる。なお、この溝や突起は、摩耗の繰り返しによりその一部が消滅しても、さらなる摩耗により他の新たな溝や突起が形成されるため、摩擦係数低下の抑制効果を持続することができる。
かつ、本発明の紙送りローラは、エラストマーがマトリクスであるために、良好な柔軟性を長期に渡って得ることができる。よって、初期状態のみならず、長期に渡って高摩擦係数と柔軟性の両立を実現することができる。
【0013】
マトリクスよりも耐摩耗性を有する樹脂を、エラストマーからなるマトリクス中に、平均粒径1μm未満でナノ分散化させているのは、平均粒径が大きすぎると摩耗時にエラストマーと上記樹脂の界面にクラックが生じやすくなると共に、圧縮永久ひずみが大きくなってしまうためである。
なお、上記平均粒径とは、後述の方法により、走査型プローブ顕微鏡で評価して得た値である。
上記マトリクスよりも耐摩耗性を有する樹脂としては高極性ポリアミド系熱可塑性樹脂が好ましく、引裂強度等の機械的強度に優れ、高摩擦係数が得られると共に、極性を有しているため、親和性にも優れた紙送りローラとすることができる。
【0014】
エラストマーと、上記樹脂との体積比を(エラストマー:樹脂)=(99.9:0.1)〜(87.5:12.5)とすることにより、摩耗時の溝形成部分と摩擦係数維持部分のバランスを非常に良好なものとすることができ、摩耗の繰り返しにより溝や突起が良好な状態で形成され得る。
エラストマーの体積分率を上記範囲より少なくした場合、樹脂の分散相が密となる、あるいは、樹脂がマトリクス相となってしまい良好な柔軟性が得られないことに因る。一方、エラストマーの体積分率を上記範囲より多くした場合、エラストマーが多すぎて樹脂の分散によって生み出される特性が損なわれる。上記体積比は、より好ましくは(99.0:1.0)〜(92.0〜8.0)である。
エラストマーの体積とは、油展ゴムの場合は、ゴム及びその油展オイルの合計である。同様に、樹脂の体積とは、油展樹脂の場合は、樹脂及びその油展オイルの合計である。また、ゴム及び樹脂共に、その中に溶解する可塑剤、相容化剤を用いる場合には、それらを加えた合計の体積である。なお、樹脂の量が多くなるほど、粒径は大きくなりやすく、均一な微分散も行いにくくなる。
【0015】
また、本発明の紙送りローラにおいて、上記ナノ分散化される樹脂は、数十nmサイズの小ドメインと数百nmサイズの大ドメインとの二種類からなることが好ましい。
紙送りローラの耐摩耗性試験の結果から考察した結果、数十nmサイズの小ドメインが耐摩耗性を向上させ、数百nmサイズの大ドメインが摩擦係数を向上させることが判明している。特に、数百nmサイズの大ドメインが突起として残存し摩擦係数維持部分とされると、引っ掻き効果がより高く、摩擦係数の維持性能がより高くなる。このように、大小2種類のドメインが混在することで、耐摩耗性を高めると共に、高摩擦係数を実現でき、両性能をバランス良く向上することができる。
【0016】
上記小ドメイン、大ドメインは、球形、繊維形、柱形、楕円形等の形状は特定されない。また、小ドメインと大ドメインは、各々が偏在せず均等に分散しているのが好ましい。
上記小ドメインと大ドメインの体積比は、(小ドメイン:大ドメイン)=(30:70)〜(70:30)であることが好ましい。
上記範囲としているのは、上記範囲より小ドメインが少ないと、耐摩耗性を向上させにくいためであり、一方、上記範囲より小ドメインが多いと、摩擦係数を向上させにくいためである。
【0017】
ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、汎用樹脂で且つ比較的低コストである点と末端アミノ基を利用してマレイン酸変性ポリマーにグラフト化させて効率よく相容化できる点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等のナイロン樹脂を好適に用いることができる。また、ブリードが発生しない範囲内で搬送力向上のためにポリアミド系熱可塑性樹脂を油展することもでき、油展する可塑剤の添加量は樹脂100重量部に対して5重量部以上150重量部以下、好ましくは10重量部以上100重量部以下であるのが良い。
【0018】
エラストマーとポリアミド系熱可塑性樹脂との相容化剤として、マレイン酸変性ポリマーを用いていることが好ましい。該相容化剤を用いることにより、通常、相容性の小さいジエン系ゴム、あるいはEPM、EPDM等のエラストマーと少量のポリアミド系熱可塑性樹脂とを効果的にアロイ化することができる。
特に、マレイン酸変性ポリマーを用いることにより、マレイン酸変性ポリマーの分子中に含む無水マレイン酸の部分が、ポリアミド系熱可塑性樹脂の末端のアミノ基と反応して、グラフト化した相容化剤をつくるため、非常に効率良く、ジエン系ゴム、あるいはEPM、EPDM等のエラストマーとポリアミド系熱可塑性樹脂を相容化することができる。
【0019】
マレイン酸変性ポリマーとしては、エチレンエチルアクリレート(EEA)のマレイン酸変性物、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム、マレイン酸変性エチレンプロピレンジエンゴム、マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられ、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴムあるいはマレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを用いると、物性の悪化が少なく、より良好な紙送りローラを作製できる。これらの中でも、特にマレイン酸変性エチレンプロピレンゴムが好適に用いられる。
【0020】
このように、エラストマーとポリアミド系熱可塑性樹脂との相容性を高めるために相容化剤が配合されると、架橋反応を伴う溶融プレス及び成形後もポリアミド系熱可塑性樹脂がナノ分散化する。よって、溶融プレスしてもポリアミド系熱可塑性樹脂が流動し相分離が進行することがなく、良好な分散状態を得ることができる。
【0021】
また、エラストマーと樹脂の界面で、相容化剤と樹脂が反応すると、グラフトポリマーを形成する。そして、その界面より引き抜かれたグラフトポリマーが数十nmサイズの小ドメインとなり、引き抜かれずに残った樹脂のドメインが数百nmサイズの大ドメインとなる。これにより、樹脂の平均粒径が数十nmサイズの小ドメインと数百nmサイズの大ドメインの2種類が混在することとなる。
【0022】
相容化剤は、ポリアミド系熱可塑性樹脂(油展樹脂の場合はオイルを除く樹脂分)の重量の0.1倍以上1.0倍以下の割合で配合されているのが良い。さらには、0.2倍以上0.7倍以下が好ましい。
上記範囲としているのは、上記範囲より少ないとポリアミド系熱可塑性樹脂の界面で反応する相容化剤の量が足りず、微分散されにくいためである。一方、上記範囲より多いと材料の特性(物性)が相容化剤の影響を受ける場合がある上に、相容化剤は高価な場合が多く、コスト高になりやすいためである。
【0023】
エラストマーとしては、従来公知のゴムあるいは/及び熱可塑性エラストマーを用いることができるが、ジエン系ゴム、あるいはEPM、EPDMから選択される1種以上のゴムを用いることが好ましい。
特に、エラストマーとしては、主鎖が飽和炭化水素からなり、主鎖に二重結合を含まないため、高濃度オゾン雰囲気、光線照射等の環境下に長時間曝されても、分子主鎖切断が起こりにくく、耐候性に優れるという理由からエチレンプロピレンジエン共重合体ゴム(EPDM)を用いることが好ましい。
その他、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPR)等を1種または複数種用いることができる。なお、上記エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系等の各種熱可塑性エラストマーを用いても良い。
ジエン系ゴムあるいはEPM、EPDMを油展あるいは軟化剤と共に用いることにより、低硬度を実現し、高い搬送力を実現することができる。これらジエン系ゴムあるいはEPM、EPDMは、有機過酸化物等による架橋が容易である。
【0024】
硫黄架橋、過酸化物架橋、樹脂架橋から選択される少なくとも1種の架橋方法により架橋されている。なかでも、ブルームを起こし難く、圧縮永久歪みも小さくなるという理由から、過酸化物架橋又は樹脂架橋が好ましい。なお、硫黄架橋としても良い。
【0025】
過酸化物架橋に用いられる過酸化物としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキシン−3、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロへキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)へキサン、ベンゾイルパーオキサイド、2−5ジメチル2−5ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、ジ−t−ブチルパーオキシ−m−ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシクメン、ジ−t−ブチルパーオキシド等が挙げられる。各種の過酸化物を、ポリアミド系熱可塑性樹脂の融点や軟化点,混練機内の滞留時間に応じて選択することができる。
通常、過酸化物の配合量は、エラストマー(油展ゴムの場合はオイルを除くゴム分)100重量部に対して0.1重量部以上30重量部以下が好ましく、0.5重量部以上10重量部以下が特に好ましい。
【0026】
過酸化物架橋を行う場合には、疲労特性等の各種機械的物性を改良、調整したり、架橋密度を向上させる目的で、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド等の多官能性モノマー等の架橋助剤を用いても良いし、必要に応じて、樹脂架橋や硫黄架橋と併用してもよい。
【0027】
樹脂架橋では樹脂架橋剤が用いられるが、樹脂架橋剤は加熱等によってゴムに架橋反応を起させる合成樹脂であり、硫黄と加硫促進剤とを併用した場合に生ずるブルームの問題が起らないので好ましい。特に、樹脂架橋剤としてフェノール樹脂を用いると給紙性能を高めることができる。その他の樹脂架橋剤としては、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、トリアジン・ホルムアルデヒド縮合物、へキサメトキシメチル・メラミン樹脂等が挙げられる。
通常、樹脂架橋剤の配合量は、エラストマー(油展ゴムの場合はオイルを除くゴム分)100重量部に対して1重量部以上50重量部以下が好ましく、6重量部以上15重量部以下が特に好ましい。
【0028】
本発明における架橋又は部分架橋(動的架橋)は、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等のハロゲンの存在下で行ってもよい。動的架橋時にハロゲンを存在させるには、ハロゲン化された樹脂架橋剤を用いるか、紙送りローラは中にハロゲン供与性物質を配合してもよい。ハロゲン化された樹脂架橋剤としては、上記の各付加縮合型樹脂がハロゲン化されたものが挙げられる。
また、架橋反応を適切に行うために架橋助剤(活性剤)を用いてもよい。架橋助剤としては金属酸化物が使用され、特に酸化亜鉛、炭酸亜鉛が好ましい。
【0029】
上記樹脂は、リアクティブブレンド手法によりアロイ化され微分散されていることが好ましい。リアクティブブレンド手法とは溶融混練と相容化を導く化学反応を同時に進行させる手法であり、優れた機械的特性が得られ、材料に新たな機能を付与することができる。
【0030】
本発明の紙送りローラは、JIS6253のA型硬度計で測定した硬度が15度〜60度であることが好ましい。これにより、摩耗時に溝や突起が形成されやすく、柔軟性と高摩擦係数とを両立することができる。特に、好ましくは20度〜55度、さらに好ましくは20度〜50度の範囲であるのが良い。この範囲とすると、紙送りローラを比較的小さい圧接力で紙やフィルムに押付けても紙送りローラが充分に変形し、紙やフィルムとの間に大きい接触面積を得ることができる。
【0031】
軟化剤としてはオイル、可塑剤が挙げられるが、低極性のものが特に好適に用いられる。オイルとしては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油や炭化水素系オリゴマーからなるそれ自体公知の合成油、またはプロセスオイルを用いることができる。合成油としては、例えば、α−オレフィンとのオリゴマー、ブテンのオリゴマー、エチレンとα−オレフィンとの非晶質オリゴマーが好ましい。特にパラフィン系オイルは揮発性が小さいため取り扱いやすく定量した量を確実に添加することができるので好ましい。
可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルセパケート(DOS)、ジオクチルアジペート(DOA)、トリクレジルフォスフェート等をゴムとの相溶性が悪化させない範囲で1種または複数種用いることができる。
【0032】
上記エラストマー100重量部に対して10重量部以上600重量部以下の軟化剤が配合されていることが好ましい。
具体的には、軟化剤がオイルである場合、ゴム100重量部に対して15重量部以上600重量部以下、好ましくは25重量部以上400重量部以下であるのが良い。
オイルが15重量部より小さいと硬度が高くなりすぎることがあり、紙送りローラとしての適度な硬度を得にくくなるためである。一方、600重量部より大きいと、紙送りローラの表面からオイルがブリードしてきたり、あるいはオイルが架橋阻害を起こして、ゴム分が十分に架橋されず、物性が低下するという問題があるためである。
また、軟化剤が可塑剤である場合、ゴム100重量部に対して10重量部以上500重量部以下、好ましくは、15重量部以上400重量部以下であるのが良い。
【0033】
また、紙送りローラ中には上記の配合剤以外に、必要に応じて、老化防止剤、ワックス等を配合することができる。老化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどのイミダゾール類、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ−β−ナフチル−P−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−P−フェニレンジアミンなどのアミン類、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、スチレン化フェノールなどのフェノール類等が挙げられる。なお、複数種の老化防止剤を用いることが好ましい。
老化防止剤の配合量は、エラストマー(油展ゴムの場合はオイルを除くゴム分)100重量部に対して0.5重量部以上10重量部以下が好ましく、1重量部以上3重量部以下が特に好ましい。
【0034】
ゴムは油展ゴムで分子量が極力大きいものが好ましく、例えば、具体例として、住友化学工業株式会社製エスプレン670F、同じくエスプレン601F及び出光DMS社製ケルタン509×100等が挙げられる。
ゴムを油展する場合、油展されるオイルの添加量は、硬度と搬送力の観点より、ゴム100重量部に対して15重量部以上600重量部以下、好ましくは25重量部以上400重量部以下であるのが良い。
【0035】
紙送りローラの機械的強度を向上させるために、必要に応じて、充填剤を配合することができる。充填剤としては、例えば、シリカ、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、二塩基性亜リン酸塩(DLP)、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ等の粉体を挙げることができる。充填剤を配合する場合、充填剤は紙送りローラの全体当たり30重量%以下とするのが好ましい。これは充填剤の配合はゴムの引っ張り強度及び引き裂き強度の改善には有効であるものの、余り多く配合するとゴムの柔軟性を大きく低下させるためである。
【0036】
また、エラストマーは、ゴム等と、可塑剤、その他必要に応じて相容化剤、老化防止剤等とを混練機等で混入したマスターバッチとして配合していることが好ましい。これにより、作業性が向上すると共に、分散性を高めることができる。なお、ポリアミド系熱可塑性樹脂についても同様に、マスターバッチとして配合することが好ましい。
【0037】
樹脂マスターバッチは、例えば、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等を用い、ポリアミド系熱可塑性樹脂中に相容化剤等を練り込み、160℃〜280℃、1分間〜20分間混練し、その後、通例の方法によりペレット化している。
ゴムマスターバッチは、例えば、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等を用い、ジエン系ゴム、あるいはEPM、EPDM等のゴム成分に必要に応じてパラフィンオイル等の可塑剤、相容化剤、老化防止剤、フィラー等を練り込み、20℃〜250℃、1分間〜20分間混練し、通例の方法によりペレット化している。
なお、相容化剤は樹脂マスターバッチの中に高温中で練り込んで、それがマレイン酸変性ポリマーの場合、先にポリアミド系熱可塑性樹脂の末端のアミノ基と反応させてから、ポリマーブレンドを行っても良いし、ポリマーブレンド時にゴムマスターバッチや樹脂マスターバッチにドライブレンドして加えても良い。
【0038】
本発明は、画像形成装置に用いられる紙送りローラを提供している。
具体的には、略円筒状あるいは円柱状とされたローラの外周面が、紙送り時にドラムと摺接して摩耗するため、ローラの外周面においてマトリクスの表面露出部分が溝形成部分となり、樹脂のローラの外周面に残存した突起が摩擦係数維持部分となる。上記溝は樹脂分散形状にもよるが、摩耗方向と略平行な溝となる。
上記した紙送りローラは、高摩擦係数と低硬度を実現することができる上に、繰り返し使用後にも高摩擦係数が維持され、より高い搬送力が得られ、耐久性にも優れたものとなる。
【0039】
上記紙送りローラは、エラストマーの体積分率を87.5より少なくした場合、硬度が高くなりすぎて十分な搬送力が出ず、実用に適さない。他方、エラストマーの体積分率を99.9より多くした場合、ポリアミド系熱可塑性樹脂によって生み出された高搬送力の特性が損なわれる。
【0040】
紙送りローラは円筒状に成形した状態で、肉厚は0.5mm〜20mm、好ましくは1mm〜5mmとしている。これは、肉厚0.5mmより小さいと、紙送りローラが変形しても紙との間に大きな接触面積が形成され難い。一方、肉厚が20mmを越えると、ローラを変形させるために紙送りローラの紙への圧接力を大きくしなければならず、紙送りローラを紙に圧接させるための機構が大型化するためである。なお、紙送りローラの中空部には軸芯を圧入するか、あるいは接着剤で接合して固定している。
【0041】
上記紙送りローラの成形は、例えば、前記ゴムマスターバッチのペレット、樹脂マスターバッチのペレット、亜鉛華、老化防止剤、フィラー等の所要の添加剤を2軸押し出し機に投入し、160℃〜280℃で加熱しながら1分間〜20分間混練してエラストマーとポリアミド系熱可塑性樹脂をブレンドした後押し出す。次いで、この押し出した材料に架橋剤を、オープンロールによって混練した後、170℃〜230℃で熱プレス成形する。その後、所要寸法にカットを行い、紙送りローラとしている。なお、必要に応じて紙送りローラの表面を研磨して用いても良い。
【0042】
また、紙送りローラには、紙を送る目的で紙送りの方向に回転させて使うローラ(ナジャー(1本で使用)、フィード(後述するリタードと2本セットで使用))と、紙の重送を防止する目的で紙送りの方向と逆の方向にトルクをかけて使用するローラ(リタード)の三種類があるが、各種類のローラに使用することができる。なお、紙送りローラの形状は、円筒形状、その他D字形状等の異形ローラ等の種々の形状とすることができる。
【0043】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1(A)は本発明の弾性部材10を用いて形成された円筒状の紙送りローラ1を示し、その中空部に軸芯2が圧入されて取り付けられている。
上記紙送りローラ1は図1(B)に示すように、プリンターの給紙機構にセットされる。該給紙機構は給紙トレイ3の上面に分離シート4を備え、該分離シート4の上部に給紙ローラ1が配置されると共にトレイ3の下面にバネ(図示せず)が当接され、分離シート4が給紙ローラ1に向けて付勢されている。分離シート4と給紙ローラ1との合いには紙Sの先端部分が挟まれ、給紙ローラ1が図中矢印R方向に回転することにより、紙Sが1枚づつが画像形成機構に向けて送り出される構成とされている。
よって、紙送りローラ1は、分離シート4に付勢されて紙送りローラ1側に押圧されながら搬送される紙と摺接し、この摺接の繰り返しにより、紙送りローラ1の表面が摩耗していくこととなる。
【0044】
図2は普通紙20000枚を通紙した後の紙送りローラ1の外周面である弾性部材10の摩耗面10aの拡大模式図である。
【0045】
上記紙送りローラ1を形成する弾性部材10は、エラストマーからなるマトリクス11中に、マトリクス11よりも耐摩耗性を有する樹脂12がナノ分散化されており、マトリクス11の表面露出部分は摩耗時に溝形成部分11Aとされると共に、樹脂12は突起Tとして残存して摩擦係数維持部分12Aとされる構成よりなる。
本実施形態では、エラストマーとして油展EPDM(ゴム:オイル=1:1)を用い、この油展EPDMからなるマトリクス中に、油展EPDMよりも耐摩耗性を有するポリアミド系熱可塑性樹脂である油展ナイロン樹脂を平均粒径1μm未満でナノ分散化させている。
【0046】
エラストマーからなる溝形成部分11Aは、ナノ分散化された上記樹脂以外の部分であるためランダムな箇所であるが、紙Sとの摩擦の繰り返えしで摩耗して形成される微細な溝Mは、主に摩耗方向Lである紙送りローラ1の回転方向と略平行で、かつ、摩耗面10aとなるローラ表面の全面にほぼ均等に形成される。溝Mの深さ、幅、長さは数nm〜数百nm程度のnmオーダーとされ、紙から発生する微小な異物である紙粉Saを取り込める深さ及び幅となっている。
摩擦係数維持部分12Aとなる突起Tは、摩耗面10aの全面にほぼ均等に点在するように形成され、摩耗面10aには溝Mと突起Tがバランス良く形成されることとなる。
【0047】
一方、ナノ分散化された樹脂12は、エラストマーよりは摩耗が遅れるため、微小な突起Tとして残存する。突起Tの高さ及び径は数nm〜数百nm程度のnmオーダーとされている。樹脂12は、図2(D)に示すように、平均粒径が数十nmサイズの小ドメイン12aと、平均粒径が数百nmサイズの大ドメイン12bの2種類からなり、マトリクス11中に各々偏在せず均等に分散している。また、小ドメイン12aと大ドメイン12bの体積比は、部分的な変動が少なくほぼ均一な値とし、(小ドメイン12a:大ドメイン12b)=(50:50)としている。
【0048】
本実施形態では、マトリクスとなるEPDMとポリアミド系熱可塑性樹脂の体積比は98.0:2.0とし、相容化剤としてマレイン酸変性ポリマーを用いている。相容化剤はポリアミド系熱可塑性樹脂の重量の0.25倍の重量で用いられ、リアクティブブレンド手法によりアロイ化され微分散させている。硬度は、JIS6253のA型硬度計で測定した硬度が26度である。
【0049】
上記弾性部材10より成形する紙送りローラ1は、以下の手法で作製している。 まず、ニーダーにより、油展EPDM中に相容化剤、老化防止剤等を練り込み、20℃〜250℃の温度で、1分間〜20分間混練を行う。その後、このゴム組成物を通例の方法によりペレット化し、ゴムマスターバッチのペレットを作製する。なお油展EPDM中のオイルとゴム分は重量比が1:1としている。
次にニーダーにより、油展ナイロン樹脂中に、相容化剤等を練り込み、160℃〜280℃の温度で、加熱しながら1分間〜20分間混練を行う。その後、該熱可塑性樹脂組成物を通例の方法によりペレット化し、樹脂マスターバッチのペレットを作製する。
【0050】
上記ゴムマスターバッチのペレット、樹脂マスターバッチのペレット、亜鉛華、老化防止剤、フィラー等の所要の添加剤を2軸押し出し機HTM38(アイベック(株)製)に投入し、160℃〜280℃の温度で加熱しながら1分間〜20分間混練してゴムと樹脂をブレンドした後押し出す。次いでこの押し出した混練ゴムに過酸化物架橋剤を、オープンロールによって混練した後、170℃〜230℃で熱プレス成形する。その後、所要寸法にカットを行い、紙送りローラ1としている。
【0051】
上記弾性部材10より形成した紙送りローラ1は、マトリクス11の表面露出部分が摩耗時に溝形成部分11Aとなり、ナノレベルの非常に微小な溝Mが摩耗時に摩耗面10aに形成されている。このため、摩擦係数低下の原因となる異物である紙粉Saが溝Mに取り込まれ、紙Sとの摺接面となる摩耗面10aから異物である紙粉Saを排除することができる。
また、マトリクス11中にナノ分散化された樹脂12が、摩耗時に摩擦係数維持部分12Aとされ、ナノレベルの非常に微小な突起Tが摩耗時に摩耗面10aに形成される。このため、突起Tが摩擦対象物に対して引っ掻き効果を発揮することとなり、摩擦対象物との接触面積を低減することなく、高い摩擦係数を実現することができる。紙送りローラが紙Sとの摺接を繰り返して摩耗しても、摩耗面10aには溝M及び突起Tが存在するため、摩擦係数の低下を抑制することができ、高摩擦係数を保持することができる。
このため、紙送りローラ1は、繰り返し使用した場合でも、高い搬送力と優れた耐久性を得ることができ、インクジェットプリンター、複写機等の画像形成装置の紙送りローラに好適に用いられる。
【0052】
上記実施形態以外にも、エラストマーとしては、EPM、ジエン系ゴム等の各種ゴム、あるいは、スチレン系、オレフィン系等の各種熱可塑性エラストマーを用いることもできる。また、ポリアミド系熱可塑性樹脂や相容化剤の配合種や配合量も適宜設定可能である。なお、樹脂架橋や硫黄架橋等により架橋しても良い。
【0053】
以下、本発明の弾性部材を用いた紙送りローラの実施例1〜実施例3、比較例1〜4について詳述する。
本発明の紙送りローラは、下記の表1、2に記載の各配合材料を用い、上記実施形態と同様の方法により熱プレスにより成形した後、外径19.7mm、内径10mm、幅10mmにカットし、円筒形の紙送りローラを作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表中の各配合の数値は重量部である。また、表中、ゴム1としては、100%油展EPDM200重量部(ゴム100重量部+オイル100重量部)を使用した。ポリアミド系樹脂としては、油展ナイロン11を使用した。
【0057】
(実施例1〜実施例3)
実施例1〜3は、エラストマーからなるマトリクス中に、マトリクスよりも耐摩耗性を有する樹脂をナノ分散化し、マトリクスの表面露出部分が摩耗時に溝形成部分とされると共に樹脂は突起として残存して摩擦係数維持部分とされる構成とした。
具体的には、表1に示される様に、相容化剤と共に、マトリクスとなるエラストマーとして100%油展EPDMを、分散相となるポリアミド系熱可塑性樹脂としてポリアミド系熱可塑性樹脂である油展ナイロン11を、上記体積比で使用した。
【0058】
また、ポリアミド系熱可塑性樹脂の粒径の分布を以下に示す。いずれもリアクティブブレンドにより作製した。
実施例1は、小ドメイン:大ドメイン=40:60とした。
実施例2は、小ドメイン:大ドメイン=50:50とした。
実施例3は、小ドメイン:大ドメイン=60:40とした。
【0059】
(比較例1)
比較例1は、ポリアミド系熱可塑性樹脂を使用せず、実施例と同じ100%油展EPDMゴムのマトリクスのみとした。
(比較例2)
比較例2は、相容化剤を用いず、ポリアミド系熱可塑性樹脂を平均粒径1μm以上で分散させ、リアクティブブレンドしなかった。即ち、樹脂をナノ分散化しなかった。
【0060】
実施例1〜3、比較例1,2の紙送りローラについて後述する方法により、ポリアミド系熱可塑性樹脂の粒子径、初期摩擦係数、3万枚通紙後の摩擦係数及び摩耗量、硬度及び圧縮永久歪みについての評価・測定を行った。結果は表1、2中に記載した。
【0061】
(ポリアミド系熱可塑性樹脂の粒子径)
走査型プローブ顕微鏡SPM(Scanning Probe Microscope)を用いて、実施例1〜3、比較例2の紙送りローラを観察し、材料のモルフォロジー及びポリアミド系熱可塑性樹脂の粒子径について評価した。また、実施例3について、0枚、10000枚、20000枚、30000枚通紙後のローラの外周面の断面も観察した。実施例3の通紙枚数毎の摩耗面の断面写真を図3に示す。一辺の長さは5μmである。実施例1〜3、比較例2の紙送りローラに用いたエラストマー材料のモルフォロジーを図4に示す。
【0062】
(通紙後のローラ外周面の観察)
実施例3、比較例1について、20000枚通紙後のローラの外周面を、走査型電子顕微鏡SEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。観察写真を図5に示す。
【0063】
(摩擦係数及び摩耗量の評価)
摩擦係数を図6に示す以下の方法で測定した。すなわち、紙送りローラ21とプレート(分離シート)23との間に、ロードセル25に接続したA4サイズのPPC用紙(富士ゼロックスオフィスサプライ(株)製)24をはさみ、図6中、黒矢印で示すように、紙送りローラ21の回転軸22に荷重W(W=250gf)を加え、紙送りローラ21をプレート23に圧接させた。次いで、温度22℃、湿度55%の条件下で、上記紙送りローラ21を図6中、実線の矢印aで示す方向に、周速300mm/秒で回転させ、通紙の前後において、図6中、白矢印で示す方向に発生した力F(gf)をロードセル25によって測定した。そして、この測定値F(gf)と荷重W(250gf)とから、下記の式より摩擦係数μを求めた。この摩擦係数の測定は、通紙開始(初期摩擦係数)と30000枚通紙終了後のそれぞれで行った。
また、30000枚通紙終了前後の各紙送りローラの重量を測定することにより、摩耗量(mg)を求めた。
上記測定による30000枚通紙後の摩擦係数の値は、1.7以上が優れており、1.5以上が適であり、1.5未満は不適である。
【0064】
(数式1)
μ=F(gf)/W(gf)
【0065】
(硬度の測定)
上記紙送りローラの硬度をJIS6253のA型硬度計で測定した。
【0066】
(圧縮永久歪みの測定)
紙送りローラの圧縮永久歪みをJIS−K6301の記載に従って測定した。数値単位は%とした。なお、圧縮永久歪みは0〜30であるのが好ましい。
【0067】
図3に示すように、実施例3は、通紙10000枚、20000枚、30000枚の拡大写真において、いずれも摩耗面30には、摩耗により局在化されたポリアミド系熱可塑性樹脂からなる微小な突起32が残存し摩擦係数維持部分として点在していた。よって、紙との接触によりローラの外周面が摩耗し、通紙により、摩耗面30であるローラの外周面に摩擦係数維持部分として突起32が形成されていることが確認できた。
なお、図3及び図4中、橙色部がEPDM相からなるマトリクスであり、黒色部がPA11相(ポリアミド系熱可塑性樹脂)からなる分散相である。
【0068】
また、図4の各写真において、海島構造のモルフォロジーが観察され、島状のポリアミド系熱可塑性樹脂の粒子が、海状のEPDMからなるマトリクス中に微分散していた。写真中、大きい分散粒子は数100nm程度であり、小さい分散粒子は数10nm程度である。一辺の長さは10μmである。
実施例1〜実施例3は、ポリアミド系熱可塑性樹脂からなる粒子が、数十nmサイズの小ドメインと数百nmサイズの大ドメインの2種類混在するモルフォロジィーを有していた。比較例2は、ポリアミド系熱可塑性樹脂がナノ分散化されておらず、平均粒径が1000nm以上と大きかった。
【0069】
さらに、図5に示すように、実施例3は、摩耗面50であるローラの外周面の溝形成部分に、摩耗面50の摩耗による複数の微細な溝51が形成されており、溝51は摩擦時に紙から発生する微小な異物である紙粉55を取り込める深さ及び幅であった。溝51に紙粉55が取り込まれ、摩耗面50には紙粉55が付着していなかった。よって、紙との擦動によりローラの外周面が摩耗し、摩耗面50であるローラの外周面の溝形成部分に、通紙により、主に摩耗方向と略平行な溝51が形成されていることが確認できた。
一方、比較例1は、摩耗面50に溝が形成されておらず、紙粉55が摩耗面の全体に付着していた。
【0070】
詳細には、表1及び表2に示すように、実施例1〜実施例3の紙送りローラは、比較例1と比べて初期摩擦係数はより高い上に、いずれも通紙を繰り返すことにより、摩耗時に摩耗面に微細な溝と微小な突起が形成されたため、通紙後においても、比較例1、2に比べ、その高い摩擦係数が保持された。また、耐摩耗性及び圧縮永久歪みは同等であった。
【0071】
一方、表2に示すように、比較例1、比較例2は、通紙により摩耗面であるローラの外周面に、微細な溝も微小な突起も形成されておらず、溝形成部分も摩擦係数維持部分も存在しなかったため、摩擦係数の低下を抑制できず、通紙前後の摩擦係数が不足し、紙送りローラとして不適であった。特に、比較例1は、ポリアミド系熱可塑性樹脂を用いなかったため、摩擦係数の低下が著しかった。また、比較例2は、通紙前後の摩擦係数が不足している上に、耐摩耗性及び圧縮永久歪みも悪く、紙送りローラとして不適であった。
【0072】
【発明の効果】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、マトリクスの表面露出部分が摩耗時に溝形成部分とされると共に、マトリクスよりも耐摩耗性を有しナノ分散化された樹脂が突起として残存して摩擦係数維持部分とされる。このため、摩擦係数低下の原因となる異物が、摩耗時に溝形成部分に形成される溝に取り込まれ、紙等との接触面において紙粉等の異物を排除することができる。また、摩耗時に摩擦係数維持部分として形成される突起が搬送される紙等に対して引っ掻き効果を発揮する。よって、摩擦係数の低下を抑制することができ、また、紙等との接触面積を低減することもなく、長期に渡って、高摩擦係数を保持し耐久性を高めることができる。
【0074】
さらに、本発明の紙送りローラは、摩擦係数が高く、かつ高摩擦係数を保持することができると共に、良好な柔軟性をも有しているため、搬送性や耐久性に優れており、画像形成装置の紙送り機構に好適に用いることができる。特に、薄い紙やフィルム等の搬送物をピックアップし分離しながら紙送りをする必要があるインジェクションプリンタ、レーザプリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、ATM等の画像形成装置の給紙機構における紙送りローラとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (A)は本発明の実施形態の紙送りローラを示す斜視図、(B)は紙送りローラを給紙機構にセットした状態を示す概略図である。
【図2】 上記紙送りローラの20000枚通紙後の摩耗面の拡大模式図であり、(A)は摩耗面の表面状態を示し、(B)(C)(D)は摩耗面の断面図である。
【図3】 実施例3の通紙枚数毎の摩耗面のSPMによる断面写真である。
【図4】 SPMによるモルフォロジー観察写真である。
【図5】 実施例3、比較例1の20000枚通紙後の摩耗表面のSEMによる観察写真である。
【図6】 紙送りローラの摩擦係数を測定するための装置の概略図である。
【符号の説明】
1 紙送りローラ
10 弾性部材
10a 摩耗面
11 マトリクス
11A 溝形成部分
12 樹脂
12A 摩擦係数維持部分
12a 小ドメイン
12b 大ドメイン
M 溝
T 突起
S 紙
Sa 紙粉(異物)
Claims (4)
- エラストマーからなるマトリクス中に、該マトリクスよりも耐摩耗性を有する高極性ポリアミド系熱可塑性樹脂がナノ分散化され、
上記エラストマーと上記樹脂との体積比(エラストマー:樹脂)が99.9:0.1〜87.5:12.5とされ、
上記マトリクスの表面露出部分は摩耗時に溝形成部分とされると共に上記樹脂は突起として残存して摩擦係数維持部分とされる構成よりなることを特徴とする画像形成装置に用いられる紙送りローラ。 - 上記ナノ分散化される樹脂は、数十nmサイズの小ドメインと数百nmの大ドメインとの二種類からなる請求項1に記載の紙送りローラ。
- 上記ポリアミド系熱可塑性樹脂としてナイロンが用いられていると共に、該ポリアミド系熱可塑性樹脂と上記エラストマーとの相溶化剤としてマレイン酸変性ポリマーが用いられている請求項1または請求項2に記載の紙送りローラ。
- 硫黄架橋、過酸化物架橋あるいは樹脂架橋されている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の紙送りローラ。
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