JP4245300B2 - 生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性ポリエステルを主体とする延伸成形体の製造方法に関する。更に詳しくは、生分解性ポリエステルを主体とする、耐熱性、及び透明性に優れ包装材用途に好適な延伸成形体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
食品や医薬品などの包装は、その内容物の輸送や分配の作業を容易にするものであると同時に、品質維持が特に重要な役割である。従って、包装材には、品質維持性能の高さが要求される。具体的には、長期保存時に内容物を保護する性能として、衝撃や突き刺しなどの外力に対する機械的強度や、外気酸素による内容物の酸化劣化や内容物の水分蒸発による劣化に対するガスバリア性、包装材自体が保存時や使用時に変性や変形しない耐油性や耐熱性などの安定性、包装材自体からの有害物質、異味、異臭の移行がない衛生性などが挙げられる。
また、包装材の要求特性としては、内容物の認識し易さや、購入者の購買意欲を促すディスプレイ効果により商品価値を高めるために、透明性も重要な因子である。
【0003】
従来から、これら包装材用途には、加工時や利用時の利便性からプラスチック製品が使用されていた。しかし、現在の消費社会では、その使用量は年々増加の一途をたどっており、同時にプラスチック廃棄物問題は年々深刻化している。プラスチック廃棄物は、多くは焼却や埋め立てにより処分されているが、近年は環境保全の観点から、回収して再びプラスチック製品の原料として用いるマテリアルリサイクルが提唱されている。
【0004】
しかし、上述のとおり、プラスチック製品の包装材としての要求性能は多岐にわたり、単一種類のプラスチックのみではこれら全ての要求を満たすことが出来ず、例えば多層化してガスバリア性フィルムや成形容器にするなど、一般に数種類のプラスチックを組み合わせて用いられている。この様な包装材は、各種樹脂への分別が非常に困難であり、コスト面などを考慮するとマテリアルリサイクルは不可能である。
【0005】
これに対し、例えば、特開平10−60136号公報には、融点が150℃以上、融解熱ΔHmが20J/g以上、無配向結晶化物の密度が1.50g/cm3以上である特定のポリグリコール酸を含有する熱可塑性樹脂材料を、融点〜255℃の温度範囲で溶融成形し、ガラス転移温度〜結晶化温度の温度範囲で少なくとも一軸方向に延伸したポリグリコール酸配向フィルムが、土中崩壊性を示し、且つ強靭性やバリア性に優れる包材として使用することが出来ると開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特開平10−60135号公報の実施例では、ガラス転移温度近傍の42〜44℃で延伸している。このように比較的低い温度で延伸している為に得られる配向フィルムは結晶化が比較的低い場合があり、耐熱性などのフィルム物性を発現させるためには、延伸後の熱処理を比較的高い温度で行なわなければならないので、配向フィルムの透明性が悪化し易いという問題点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、生分解性を有し、且つ耐熱性、透明性に優れた包装材用途に好適な生分解性ポリエステル延伸成形体を容易に製造することが可能である、該成形体の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を達成する為に鋭意検討した結果、生分解性ポリエステルを主体とする溶融成形物が適度な結晶化速度となる特定の温度範囲に加熱しながら延伸することにより、生分解性を有し、且つ耐熱性、透明性に優れた包装材用途に好適な生分解性ポリエステル延伸成形体を容易に製造することができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、
1.生分解性グリコール酸系重合体を主体とする溶融成形物を加熱しながら少なくとも一軸方向に延伸する生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法において、延伸時の加熱温度Ts(℃)が、該溶融成形物を試験片として加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められるガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)と下式(1)の関係にある温度で、延伸速度は10〜50000%/分、延伸倍率は少なくとも一軸方向に面積倍率2〜50倍の範囲から選ばれる延伸条件で延伸することを特徴とする生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法、
式(1)Tc−0.40(Tc−Tg)≦Ts≦Tc−0.05(Tc−Tg)
である。
【0010】
以下、本発明の生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法について詳細に説明する。
本発明の生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法は、生分解性ポリエステルを主体とする溶融成形物の延伸時の加熱温度Tsを、示差走査熱量測定で求められるガラス転移温度Tg、及び冷結晶化温度Tcに対して特定範囲とすることを特徴としており、本法によると該溶融成形物は適度な結晶化速度で結晶化し得る状況において延伸される為に、延伸中に過度に結晶化することなく、容易に所望の延伸倍率まで破断せずに延伸できる。更に得られる生分解性ポリエステル延伸成形体は、白化せずに透明性が非常に優れ、且つ適度に結晶化していることから耐熱性にも優れるものである。
【0011】
本発明でいう加熱温度Tsとは延伸時の溶融成形物の温度を指すが、例えば溶融成形物に熱風を吹き付けて加熱する場合には、溶融成形物は熱風と同等の温度に加熱されるので、熱風温度を加熱温度Tsに設定することとする。又、例えば溶融成形物を赤外線などで輻射加熱する場合には、溶融成形物の温度が加熱温度Tsになるように加熱装置を設定することとする。
本発明でいう延伸成形体とは、主として延伸フィルム及び延伸シートを指す。本発明において、フィルムとシートの区別は、単に厚みの違いによって異なる呼称を用いているものであり、フィルムとシートを総称して成形体と称する。尚、延伸ブロー成形体も、その溶融成形物であるプリフォームを適度な結晶化速度で結晶化し得る状況においてブロー成形することにより、本発明の製造方法を適用してもよいものとする。
【0012】
一般に、プラスチック成形体の成膜加工において、一軸延伸や二軸延伸によるフィルムの製造方法では、溶融成形物を「融点以下で、二次転移点(ガラス転移温度と同意)以上の温度に加熱しながら」(プラスチックフィルム研究会、プラスチックフィルム−加工と応用−、p.63、技報堂出版(1971))延伸を行なうのが通常の方法である。特に、ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法では、「成膜条件は…80〜130℃で2.0〜4.0倍延伸」(プラスチックフィルム研究会、プラスチックフィルム−加工と応用−、p.81、技報堂出版(1971))するのが通常の方法である。
【0013】
一方、ポリエチレンテレフタレートの熱的特性は、ガラス転移温度が79℃、冷結晶化温度が128℃(日本分析化学会、新版 高分子分析ハンドブック、p.336、紀伊国屋書店(1995))である。従って、上記特開平10−60136号公報に規定されているガラス転移温度〜結晶化温度の温度範囲で延伸するフィルム製造方法は、ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法における従来技術から容易に類推され得る温度範囲で延伸していると言える。
【0014】
本発明は、プラスチック成形体の成膜加工において延伸時の加熱温度条件について鋭意検討した結果、プラスチックの結晶化という自然現象を利用して、ガラス転移温度Tg〜結晶化温度Tcの間でも、格別に下式(1)に特定する温度範囲で延伸することにより、得られる成形体の結晶構造を制御できることを見出し到達したものである。尚、下式(1)は、変形して下式(2)で表すことができる。
式(1)Tc−0.40(Tc−Tg)≦Ts≦Tc−0.05(Tc−Tg)式(2)0.05≦(Tc−Ts)/(Tc−Tg)≦0.40
本発明における結晶化は、熱力学的非平衡状態にある、いわゆるガラス状態の溶融成形物を加熱する際に起こる結晶化現象で、慣用的に冷結晶化と呼ばれている現象である。この結晶化の度合いを把握する数値としては、具体的には結晶化度を求めることで可能であり、例えば熱分析法により試験片の結晶融解熱の理論融解熱に対する比から求めることができる。
【0015】
図1は、試験片の結晶化度の経時変化が、加熱温度によって異なることを示す実験図である。該図は、横軸に加熱時間(分)、縦軸に結晶化度(%)を各々目盛り、丸印(○)は加熱温度50℃の場合を、四角印(□)は加熱温度80℃の場合を、三角印(△)は加熱温度100℃の場合を各々示している。一方、この実験で用いた試験片を加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められるガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)は、各々ガラス転移温度Tgが11℃、冷結晶化温度Tcが103℃であった。図1の加熱温度を前出式(2)のTsとして代入すると、(Tc−Ts)/(Tc−Tg)の値は、各々丸印(○)の50℃では0.58、四角印(□)の80℃では0.25、三角印(△)の100℃では0.03となる。
【0016】
図1によると、前出式(2)の(Tc−Ts)/(Tc−Tg)の値が0.58である加熱温度50℃では試験片の結晶化は少ししか起こらないが、該値が0.25である加熱温度を80℃に設定すると試験片は適度に結晶化するようになり、該値が0.03である加熱温度100℃ではより高度に結晶化するようになることが判る。該図が示す結晶化度の経時変化は結晶化速度を表す指標になり、該図四角印(□)の加熱温度80℃で示される様な適度な結晶化速度となる温度では、延伸中に結晶化の進行度合いを制御することが可能で、過度に結晶化することなく延伸成形体を製造できることが判る。
【0017】
従って、本発明の延伸成形体の製造方法では、溶融成形物を延伸する際の加熱温度Ts(℃)は、該溶融成形物を試験片として加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められるガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)と式(1)の関係にある温度範囲に特定する。
式(1)Tc−0.40(Tc−Tg)≦Ts≦Tc−0.05(Tc−Tg)該Tsの値が(Tc−0.05(Tc−Tg))℃よりも高い場合は、用いる溶融成形物の結晶化速度が非常に速くなる為に、延伸中に非常に高度な結晶化が起こり所望の延伸倍率に達せず破断して成形体の製造工程が非常に煩雑になったり、破断しなかったとしても延伸時の加熱操作で白化し透明性が極度に劣る成形体しか得られなかったりする。一方、該Tsの値が(Tc−0.40(Tc−Tg))℃よりも低い場合は、用いる溶融成形物の結晶化速度が非常に遅くなる為に延伸中に十分結晶化が進まず、延伸後に熱固定しない成形体は結晶化度が低く耐熱性が劣るものとなったり、延伸後に熱固定した成形体は白化し透明性が極度に劣るものとなる。従って、該Tsの値は、上記式(1)の関係にある温度範囲から選ぶことになるが、より高い耐熱性とより高い透明性を兼備し、延伸中に破断することなくより容易に延伸成形体を製造する為には、下式(3)の関係にある温度範囲から選ぶことが好ましい。
式(3)Tc−0.30(Tc−Tg)≦Ts≦Tc−0.10(Tc−Tg)
【0018】
尚、本発明で用いる溶融成形物に、上記示差走査熱量測定においてガラス転移温度や冷結晶化温度が各々複数存在する場合、例えば後述する原料から少なくとも2種以上を用いて溶融混合した組成物からなる溶融成形物の場合には、該溶融成形物を試験片として加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7122準拠)した際に求められる冷結晶化熱が大きい方の生分解性ポリエステルのガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)を採用し、延伸時の加熱温度Ts(℃)を設定する。又、後述する原料からなる多層状溶融成形物の場合には、該溶融成形物を試験片として加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められる融点が高い方の生分解性ポリエステル層のガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)を採用し、延伸時の加熱温度Ts(℃)を設定する。
【0019】
次に、本発明の延伸成形体の製造方法で用いる溶融成形物について、詳細に説明する。該溶融成形物は、主として生分解性ポリエステルよりなる原料を、例えば溶融押出法、カレンダー法、溶融プレス成形法などの、特に限定されるものではなく従来公知の一般的な方法で溶融成形したシート状物やチューブ状物などである。
溶融成形物の原料である本発明で用いる生分解性ポリエステルとしては、例えばグリコール酸、及び乳酸や2−ヒドロキシイソ酪酸などを含む2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸類、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシヘキサン酸、4−ヒドロキシブタン酸などを含む脂肪族ヒドロキシカルボン酸類、その他公知のヒドロキシカルボン酸類の単量体を用いての直接脱水重縮合、例えばグリコール酸メチルなどを含むこれらヒドロキシカルボン酸類のエステル誘導体を用いての脱アルコール重縮合、若しくはこれらヒドロキシカルボン酸類の同種、異種の環状二量体である、例えばグリコリド(1,4−ジオキサ−2,5−ジオン)、ラクチド(3,6−ジメチル−1,4−ジオキサ−2,5−ジオン)などを用いての開環重合、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどを含むラクトン類の単量体を用いての開環重合などにより得られる単独重合体、又はこれらより任意に選択した二種以上から得られる共重合体であるポリヒドロキシカルボン酸類、ポリラクトン類、及びこれらヒドロキシカルボン酸類やその環状二量体とラクトン類の共重合体であるポリ(ヒドロキシカルボン酸−コ−ラクトン)類、等モル量の多価アルコール類と多価カルボン酸類の組み合わせであって、多価アルコール類として、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサノール、1,4−シクロヘキサノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール、或いはこれら脂肪族ジオールが複数結合した、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどと、多価カルボン酸として、例えばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタリンジカルボン酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、これら脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、これら脂肪族ジカルボン酸の無水物などとから得られる多価アルコール類と多価カルボン酸が各々一種ずつの単独重合体、或いは多価アルコール類と多価カルボン酸のうち何れか一方が一種で他方が任意に選択した二種以上から得られる共重合体、又は多価アルコール類と多価カルボン酸の各々が任意に選択した二種以上から得られる共重合体である脂肪族ポリエステル類、上記ヒドロキシカルボン酸類などと多価アルコール類の組合せであって、例えば1,4−ジオキサ−2−オンなどを含むエステルとエーテル単位を有する環状化合物を用いての開環重合により得られるポリ(エステル−エーテル)類、上記ヒドロキシカルボン酸類などと多価アルコール類と多価カルボン酸類の組合せにより得られるポリエステル類などが挙げられる。
【0020】
これらの生分解性ポリエステルは、共重合体の場合は、その配列は特に限定されるものではなく、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などの何れでも良く、その共重合組成割合は特に限定されるものではなく、構成する単量体の二種以上を任意の割合で共重合させた共重合体である。更に、上記の単量体などが光学活性物質である場合には、L−体およびD−体の何れであってもよいし、D−体とL−体の混合割合が任意の混合組成物、D−体とL−体の共重合割合が任意の共重合体、或いはメソ体の何れであってもよい。
【0021】
更に、本発明で用いる生分解性ポリエステルとしては、上記の化学合成ポリエステルの他に、ポリ(3−ヒドロキシブチラート)、ポリ(3−ヒドロキシブチラート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチラート−コ−4−ヒドロキシブチラート)、その他炭素数が12程度より少ないヒドロキシアルカン酸を単量体単位とした単独重合体、若しくは共重合体などの、微生物により合成される微生物生産ポリエステル類であっても良い。
【0022】
本発明で用いる生分解性ポリエステルは、包装材として利用する成形体に耐熱性を付与する為には、加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められる融点が140℃以上210℃以下であることが望ましく、より望ましくは160℃以上205℃以下、最も望ましくは175℃以上200℃以下であり、前述した熱分析法により求めた結晶化度が、充分アニール処理して平衡状態となったもの(後述の物性測定法の項で規定している。)を試験片として10%以上70%以下であることが望ましく、より望ましくは15%以上60%以下、最も望ましくは20%以上50%以下である。また、成形体に包装材として要求される外力に対する機械的強度を付与する為に、或いは溶融成形物を厚み精度良く、且つより容易に得る為には、分子量は重量平均分子量で表すと8×104以上であることが望ましく、より望ましくは1×105以上である。分子量の上限は、可塑剤などの添加により溶融流動性を調節すれば良く特に限定されるものではないが、重量平均分子量で表すと8×105以下に留めることが望ましい。
【0023】
上記に例示した本発明で用いる生分解性ポリエステルのうち、より好ましい生分解性ポリエステルは脂肪族ヒドロキシカルボン酸系重合体であり、なかでも包装材として利用する成形体に耐熱性を付与するために比較的融点が高く、且つガスバリア性に優れるグリコール酸系重合体が最も好ましい生分解性ポリエステルである。
上記グリコール酸系重合体とは、主たる単量体単位がグリコール酸である重合体をいい、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド(1,4−ジオキサ−2,5−ジオン)を用いての開環重合、又はグリコール酸を用いての直接脱水重縮合、グリコール酸メチルなどのグリコール酸エステル類を用いて脱アルコールしながらの重縮合などにより得られる重合体である。
【0024】
該重合体の製造方法は、従来公知の一般的な方法で行われ、例えば主たる単量体にグリコリドを用い開環重合してグリコール酸系重合体を得るには、Gildingらの方法(Polymer,vol.20,December(1979))などが挙げられるが、これに限定されるものではない。該重合体は、結晶化の進行度合いをより制御し易くする為に、単量体単位がグリコール酸とグリコール酸以外、例えば乳酸などよりなる共重合体であることが望ましく、例えば単量体単位としてグリコール酸の成分割合が78〜90mol%と乳酸の成分割合が22〜10mol%である開環重合により得られたグリコール酸−乳酸共重合体でが挙げられ、融点は175〜205℃、充分アニール処理して平衡状態となったものを試験片として熱分析法により求めた結晶化度は15〜40%である。但し、熱分析法による結晶化度の算出では、理論融解熱はグリコール酸単独重合体の値である207J/gを用いている(C.C.Chu,J.Appl.Poly.Sci.,Vol.26,p.1726(1981)、J.Brandrup,et al.,POLYMER HANDBOOK,3rd ed.,John Wiley & Sons(1989))。
【0025】
本発明で用いる溶融成形物は、その原料としては前述の生分解性ポリエステルを主体とするもの、即ち50wt%以上含有するものであり、該ポリエステルを単独で用いても良いし、該ポリエステルから二種以上を選び任意の混合割合で溶融混合した混合組成物で用いても良い。又、得られる延伸成形体の生分解性を阻害しない範囲で他の重合体との混合組成物で用いても良い。原料の一部として使用し得る他の重合体とは、上記生分解性ポリエステル以外の公知の生分解性プラスチックである、例えばデンプン系やセルロース系などの天然高分子類、ポリアスパラギン酸などのポリアミノ酸類、酢酸セルロースなどのセルロースエステル類、脂肪族ポリエステルカーボネート類、ポリビニルアルコール類、ポリエチレンオキサイドなどのポリエーテル類、低分子量のポリエチレン、ポリリンゴ酸等が挙げられる。
【0026】
又、得られる延伸成形体の生分解性を阻害しない範囲であれば、例えば、ポリオレフィン類、芳香族ポリエステル類、ポリアミド類、エチレン−ビニルアルコール系共重合体類、石油樹脂類やテルペン系樹脂類、その水素添加物、その他公知の熱可塑性樹脂などを混合しても良い。
本発明で用いる溶融成形物は、必要に応じて、その原料の一部として無機および/または有機化合物よりなる添加剤、例えば、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、結晶核剤等が適宜混合されてもよい。
【0027】
使用される可塑剤の具体例としては、例えばジオクチルフタレートやジエチルフタレートなどのフタル酸エステル類、ラウリン酸エチルやオレイン酸ブチル、リノール酸オクチルなどの脂肪酸エステル類、ジオクチルアジペートやジブチルセバケートなどの脂肪族二塩基酸エステル類、アセチルクエン酸トリブチルやアセチルクエン酸トリエチルなどの脂肪族三塩基酸エステル類、グリセリンジアセテートラウレートやグリセリントリアセテートなどのグリセリン脂肪酸エステル類、ジグリセリンテトラアセテートやテトラグリセリンヘキサアセテートなどのポリグリセリン脂肪酸エステル類、リン酸ジオクチルなどのリン酸エステル類、エポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油などの変性植物油類、ポリブチレンセバケートなどのポリエステル系可塑剤などが挙げられ、安全衛生性の観点からグリセリン脂肪酸エステル類や脂肪族三塩基酸エステル類が特に望ましい。該溶融成形物は、これらから一種、または二種以上を選び、添加量が溶融成形物の原料中に40wt%未満含有する組成物からなるものである。
【0028】
又、使用される酸化防止剤としては、例えばフェノール系、フェニルアクリレート系、リン系、イオウ系などが挙げられる。該溶融成形物は、これらから一種、又は二種以上を選び、添加量が溶融成形物の原料中に10重量%未満含有する組成物からなるものである。本発明で用いる上記生分解性ポリエステルと、上記他の重合体や上記添加剤などとの組成物を用いる場合には、全部、或いは一部を単軸、又は二軸押出機、バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー等を使用して溶融混合させ用いるのが望ましい。
【0029】
次に、本発明により得られる延伸成形体について説明する。該成形体は、上記溶融成形物を加熱しながら少なくとも一軸方向に延伸する際に、加熱温度を前述の特定範囲に設定して延伸し得られる成形体である。該溶融成形物の製造方法やその延伸方法は、特に限定されるものではなく従来公知の一般的な方法で行われる。溶融成形物の製造方法としては、前述した溶融押出法、カレンダー法、溶融プレス成形法などが挙げられ、具体的には、例えば溶融押出法では、前述した原料を、事前に水分率が200wtppm以下になるまで乾燥させてから押出機に供給して、加熱溶融しながら押出機の先端に接続したダイスから押出し、その後冷却固化させることにより、シート状、若しくはチューブ状の溶融成形物として製造することができる。また、溶融プレス成形法では、前述した原料を、事前に水分率が200wtppm以下になるまで乾燥させてから金型に供給して、常圧或いは減圧雰囲気下で加熱溶融させプレスし、その後冷却固化させることにより、シート状の溶融成形物として製造することができる。これらの方法において、原料の加熱融解は、通常は(融点−5℃)〜(融点+65℃)の温度範囲から適宜選ばれる温度で行なわれる。又、冷却固化は、通常は結晶化温度以下まで3分以内で冷却して固化させる条件、望ましくはガラス転移温度以下まで2秒以内で急冷して非晶状態に固化させる条件にて行なわれる。
【0030】
その後の延伸方法としては、例えば一軸延伸の場合は、溶融押出法でTダイより溶融押出し、キャストロールで冷却したシート状溶融成形物を、ロール延伸機でシートの流れ方向に縦一軸延伸したり、該縦延伸倍率を極力抑えてテンターで横一軸延伸して製造する方法、或いは二軸延伸の場合は、溶融押出法でTダイより溶融押出し、キャストロールで冷却したシート状溶融成形物を、先ずロール延伸機で縦延伸してからテンターで横延伸する逐次二軸延伸や、テンターで縦横両方向に延伸する同時二軸延伸で製造する方法、溶融押出法でサーキュラーダイより溶融押出し、水冷リング等で冷却したチューブ状溶融成形物を、チューブラー延伸して製造する方法などがある。これらの場合、延伸の操作は、延伸時の加熱温度は前述した特定温度範囲から、延伸速度は10〜50000%/分から、延伸倍率は少なくとも一軸方向に面積倍率2〜50倍から適宜選ばれる延伸条件で行われる。尚、テンター延伸法やチューブラー延伸法などで延伸時の加熱温度を多段的に設定する場合には、延伸時に歪変化の始まる部分から歪変化率の最も大きい部分での加熱温度を、本発明における加熱温度Tsとする。
【0031】
この様にして得られた延伸成形体は、特に可塑剤を比較的多量添加し引張弾性率が4.0GPa未満である軟質から中質の延伸成形体は、ピロー包装、シュリンク包装、ストレッチ包装、ケーシング、家庭用ラップ等の包装材用途に好適である。熱収縮させながら包装するなどのシュリンク包装用途に利用する場合には、そのまま使用しても良いし、或いは熱収縮具合を調整する目的で熱処理やエージング処理を施しても良い。又、電子レンジなどで加熱され耐熱性が要求される包装材に利用する場合には、発熱した内容物からの熱による変形や溶融穿孔を防ぐ目的で熱処理を施すことが望ましい。更に、経時寸法安定性や物性安定性を向上させる目的で、エージング処理などを施すことが望ましい。熱処理は、通常は60〜160℃の温度範囲から適宜選ばれる温度で1秒〜3時間行われることが望ましく、エージング処理は、通常は25〜60℃の温度範囲から適宜選ばれる温度で3時間〜10日間程度行われることが望ましい。
【0032】
又、得られた延伸成形体は、そのまま家庭用ラップ等の包装材などとして使用しても良いが、必要に応じて帯電防止剤や防曇性を向上させる目的でコーティングやコロナ処理等の各種表面処理を施しても良いし、シール適性、防湿性、ガスバリア性、印刷適性などを向上させる目的でラミネート加工やコーティング加工、或いはアルミニウムなどの真空蒸着を施しても良い。更に、二次加工により、用途に応じた形状に成形して使用しても良い。二次加工品としては、例えば延伸フィルムの場合はピロー包装用途やウェルドタイプのケーシング包装用途などの包装材とするシール加工品があり、延伸シートの場合はプラグアシスト成形法やエアークッション成形法などの真空成形加工、圧空成形加工、雄雌型成形加工などを施してトレイやカップなどの容器、又はブリスターパッケージングシートなどがある。
【0033】
本発明における成形体の厚みは、その包装材としての用途により適宜選ばれ、通常は延伸フィルムでは0.5〜100μm程度、延伸シートでは0.1〜2mm程度であるが特に限定されるものではない。これら延伸フィルム、及び延伸シートは、その厚みにおける製造し易さを勘案すると、は延伸フィルムはチューブラー延伸法で、延伸シートはテンター延伸法で製造することが望ましい。但し、フィルムとシートの区別は、単に厚みの違いによって異なる呼称を用いているものであって、本発明の課題であるところの耐熱性、透明性に優れた生分解性ポリエステル延伸成形体を容易に製造することができることに何ら差は無い。従って、後述する実施例では、厚み約30μmの延伸フィルムをもって物性測定や評価を行なって本発明を詳細に説明した。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、これらの具体例は本発明の範囲を限定するものではない。また、物性測定方法、評価方法と尺度を下記に示すが、サンプルは特に断りのない限り測定サンプル作製後に温度(23±2)℃、相対湿度(50±5)%の雰囲気下に1〜2日間保管したものを物性測定や評価に供した。
【0035】
[物性測定方法]
(1)溶融成形物の示差走査熱量測定
延伸に用いる溶融成形物のガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)は、測定装置にセイコー電子工業(株)製DSC6200を使用し、JISK7121に準拠して測定した。サンプル溶融成形物を試験片として、試験片重量7.5mgを量り採り、先ず−30℃で3分間保持した後、加熱速度10℃/分で270℃まで加熱した。この1回目の昇温過程での示差走査熱量曲線におけるガラス転移温度Tg(℃)、及び結晶化ピーク温度として冷結晶化温度Tc(℃)を求めた。尚、温度と熱量の校正は、標準物質としてインジウムを用いて行った。
【0036】
(2)生分解性ポリエステルの示差走査熱量測定
生分解性ポリエステルの特性を表す融点Tm(℃)は、下記の条件で充分アニール処理して平衡状態となったサンプルシート状物を試験片として、上記示差走査熱量測定と同様にして得られた示差走査熱量曲線における融解ピーク温度として求めた。又、生分解性ポリエステルの特性を表す結晶化度Xc(%)は、上記装置を使用しJIS K7122に準拠して測定した結晶融解熱ΔHm(J/g)の、理論融解熱ΔHf(J/g)に対する比として下式(4)により算出した。結晶融解熱ΔHm(J/g)は、上記融点測定に用いたサンプルを試験片として、上記示差走査熱量測定と同様にして得られた示差走査熱量曲線における融解熱として求めた。理論融解熱ΔHf(J/g)は、サンプル生分解性ポリエステルを構成する主たる単量体単位の単独重合体として、前述したPOLYMER HANDBOOKなどの文献から引用した。尚、充分アニール処理した平衡状態とは、アニール処理する前のシート状物を試験片として示差走査熱量測定した際に求められる冷結晶化温度に設定した熱風循環恒温槽中でアニール処理し、処理時間が60分間隔での結晶化度変化が0.5%未満となった時のアニール処理状態をさす。
式(4)Xc=ΔHm/ΔHf×100
【0037】
(3)混合組成物の示差走査熱量測定
2種以上の生分解性ポリエステルを用いて溶融混合した組成物からなる溶融成形物であって、該溶融成形物の上記示差走査熱量曲線において、ガラス転移に起因するベースラインの階段状変化が複数存在する場合、及び/又は冷結晶化に起因する発熱ピークが複数存在する場合には、該溶融成形物を試験片として上記示差走査熱量測定と同様に測定(JIS K7122準拠)した際に求められる冷結晶化熱ΔHc(J/g)が大きい方の生分解性ポリエステルのガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)を採用する。
【0038】
(4)多層状物の示差走査熱量測定
多層状の溶融成形物であって、該溶融成形物の上記示差走査熱量曲線において、ガラス転移に起因するベースラインの階段状変化が複数存在する場合、及び/又は冷結晶化に起因する発熱ピークが複数存在する場合には、該溶融成形物を試験片として上記示差走査熱量測定と同様に測定(JIS K7121準拠)した際に求められる融点Tm(℃)が高い方の生分解性ポリエステルのガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)を採用する。該融点Tm(℃)は、該溶融成形物を試験片として、上記示差走査熱量測定と同様にして得られた示差走査熱量曲線における融解ピーク温度として求めた。
【0039】
[評価方法と尺度]
(1)透明性
透明性は、延伸成形体をサンプルとして、ヘーズを測定し評価した。ヘーズの測定は、測定装置に村上色彩技術研究所社製ヘーズ計HR−100を使用し、JIS K7105に準拠して測定した。厚み約30μmの延伸成形体サンプルを、一辺50mmの正方形に切り出し、これをホルダーにセットしサンプルのヘーズを測定した。ヘーズの測定結果は、サンプル数5個ずつ測定し、その平均値で示した。このヘーズを透明性の指標とした。
【0040】
<評価尺度>
ヘーズ 判 定 備 考
2%未満 ◎ 透明で視認性は非常に優れる
2%以上5%未満 ○ 若干白化する程度で視認性は優れる
5%以上10%未満 △ 白化し視認性が劣る
10%以上 × 著しく白化し視認性が非常に劣る
【0041】
(2)耐熱性
耐熱性は、延伸成形体をサンプルとして、耐荷重切断試験を行い評価した。耐荷重切断試験は、短冊状試験片に荷重30gをかけた状態で、一定温度に設定した熱風循環恒温槽中で1時間加熱し試験片の切断の有無を調べ、試験片が切断しない最高温度を測定した。厚み約30μmの延伸成形体を、縦140mm、横30mmの短冊状に切り出した。短冊状試験片の上下端25mmずつの部分に固定治具と荷重治具を各々取り付け、一定温度に設定した熱風循環恒温槽中で1時間加熱し試験片の切断の有無を調べた。短冊状試験片が切断しない場合は、新しい試験片で設定温度を5℃上げて前記手順を繰返し試験した。短冊状試験片が切断しない最高温度の測定結果は、この試験を各延伸成形体につき5回ずつ行い最頻値で示した。
【0042】
<評価尺度>
耐荷重切断試験 判 定 備 考
180℃以上 ◎ 耐熱性が非常に高く実用上問題はない
160〜175℃ ○ 耐熱性が高く用途により使用可
140〜155℃ △ 耐熱性が劣り用途が制限される
135℃以下 × 耐熱性は著しく低く実用に耐えない
【0043】
【実施例1】
[単量体の精製]
グリコリド1kgを、酢酸エチル3kgに75℃で溶解させた後、室温にて48時間放置し析出させた。濾取した析出物を、室温で約3kgの酢酸エチルを用いて洗浄を行った。再度この洗浄操作を繰返した後、洗浄物を真空乾燥機内に入れ、60℃で24時間真空乾燥を行った。この乾燥物を、窒素雰囲気下で6〜7mmHgに減圧し単蒸留にて133〜134℃の留出物として蒸留精製グリコリド480gを得た。
L−ラクチド1kgを、トルエン3kgに80℃で溶解させた後、室温にて48時間放置して析出させた。濾取した析出物を、室温で約3kgのトルエンを用いて洗浄を行った。再度この洗浄操作を繰返した後、洗浄物を真空乾燥機内に入れ60℃で24時間真空乾燥を行い、精製L−ラクチド560gを得た。
【0044】
[重合体の調製]
上記単量体の精製で得られたグリコリド420gとラクチド250g、及び触媒として2−エチルヘキサン酸すず0.2gとラウリルアルコール0.05gを、内面をガラスライニングしたジャケット付反応機に仕込み、窒素を吹き込みながら約1時間室温で乾燥した。次いで、窒素を吹き込みながら130℃に昇温し、40時間撹拌して重合を行った。重合操作の終了後、ジャケットに冷却水を通水して冷却し、反応機から取り出した塊状ポリマーを、粉砕機にて約3mm以下の細粒に粉砕した。この粉砕物を、テトラヒドロフランを用いて60時間ソックスレー抽出した後、ヘキサフルオロイソプロパノール3kgに50℃で溶解し、次いで7kgのメタノールで再沈殿させた。この再沈殿物を、130℃に設定した真空乾燥機内で60時間真空乾燥を行い、グリコール酸−乳酸共重合体520gを得た。
【0045】
得られた共重合体は、該共重合体70mgをトリフルオロ酢酸−D1mlに溶解して1H−NMRにより共重合成分割合を解析したところ、グリコール酸の成分割合が81mol%と乳酸の成分割合が19mol%であった。該共重合体のヘキサフルオロイソプロパノール0.5重量%溶液としてガスクロマトグラフィーにより残存する単量体を定量したところ、単量体であるグリコリドとラクチドの残量は両者の合計で340wtppmであった。該共重合体20mgを80mmol%のトリフルオロ酢酸ナトリウムを含むヘキサフルオロイソプロパノール3gに溶解してGPCにより分子量を測定したところ、ポリメチルメタクリレート換算で重量平均分子量は2×105であった。
【0046】
得られた共重合体を、130℃に設定した熱風循環恒温槽中で約2時間放置して乾燥操作を行った後、230℃に設定した加熱プレス機で5分間加熱加圧し、その後20℃に設定した冷却プレスで冷却して厚み200μmのシート状物を得た。このシート状物を、前述の生分解性ポリエステルの示差走査熱量測定方法に従って、先ずアニール処理を施す前に示差走査熱量測定したところ、冷結晶温度は131℃、冷結晶化熱は15J/g、融点は188℃、結晶融解熱は15J/gであった。その後、該シート状物を、131℃でアニール処理して示差走査熱量測定したところ、処理時間120分と処理時間180分の結晶化度変化が0.5%未満であったので、アニール処理時間120分におけるシート状物の示差走査熱量曲線から求めた該共重合体の融点Tmは188℃、結晶化度Xcは19%であった。尚、結晶化度Xcは、理論融解熱ΔHfを207J/gとして算出した。
【0047】
[シート状溶融成形物の作製]
上記重合体の調製で得られた共重合体を、130℃に設定した熱風循環恒温槽中で約2時間放置して乾燥操作を行ったところ、水分気化装置付きカールフィッシャー水分計により240℃で測定した水分量は158wtppmであった。この乾燥させた共重合体を、液体注入ポンプを備え、ストランドダイを先端に取り付けた押出機に窒素気流下で供給し、また可塑剤としてトリアセチンを添加量20wt%となるように液体注入ポンプから添加し、該共重合体とトリアセチンを230℃で溶融混合して、ストランドダイより押出し造粒した。この造粒した組成物を、再び130℃に設定した熱風循環恒温槽中で約2時間放置して乾燥操作を行った後、230℃に設定した加熱プレス機で5分間加熱加圧し、その後25℃に設定した冷却プレスで冷却し厚み350μmのシート状溶融成形物を得た。該溶融成形物をサンプルとして、前述の溶融成形物の示差走査熱量測定方法に従って示差走査熱量測定を行なったところ、該溶融成形物のガラス転移温度Tgは11℃、冷結晶化温度Tcは103℃であった。
【0048】
[延伸成形体の作製、及び評価]
上記シート状溶融成形物の作製で得られた溶融成形物の延伸は、東洋精機社製二軸延伸試験装置を使用して行った。該溶融成形物を、一辺90mmの正方形に切り出して、延伸時の加熱温度を80℃に設定したチャンバー内にクランプ間80mmのクランプに装着し、延伸速度50%/分で縦3.5倍、横3.5倍まで同時二軸延伸を行った。延伸操作の終了後、直ちに冷風を吹き付けて冷却し延伸成形体を得た。得られた延伸成形体を、金枠に固定して、90℃に設定した熱風循環恒温槽中で30秒間熱処理を行い厚み30μmの延伸成形体を得た。得られた延伸成形体をF1とする。該成形体F1をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは1.1%、切断しない最高温度は180℃であり、判定は透明性が◎、耐熱性が◎、総合判定が◎であった。以上の評価結果から、得られた成形体F1は、耐熱性と透明性に優れ、包装材用途に好適であることが判る。
【0049】
【実施例2〜4、及び比較例1〜4】
次いで、延伸時の加熱温度を95℃とすることの他は上記実施例1と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF2とする。該成形体F2をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは2.5%、切断しない最高温度は180℃であった(実施例2)。可塑剤トリアセチンと溶融混合せずに共重合体単体を用い、延伸時の加熱温度を120℃とすることの他は上記実施例1と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF3とする。ここで、延伸に用いた溶融成形物は、ガラス転移温度Tgが34℃、冷結晶化温度Tcが131℃であった。該成形体F3をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは1.2%、切断しない最高温度は185℃であった(実施例3)。延伸時の加熱温度を100℃とすることの他は上記実施例3と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF4とする。該成形体F4をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは1.0%、切断しない最高温度は175℃であった(実施例4)。延伸時の加熱温度を50℃とすることの他は上記実施例1と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF5とする。該成形体F5をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは0.8%、切断しない最高温度は100℃であった(比較例1)。延伸時の加熱温度を65℃とすることの他は上記実施例1と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF6とする。該成形体F6をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは0.9%、切断しない最高温度は140℃であった(比較例2)。延伸時の加熱温度を100℃とすることの他は上記実施例1と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF7とする。該成形体F7をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは11.5%、切断しない最高温度は180℃であった(比較例3)。延伸時の加熱温度を65℃とすることの他は上記実施例3と同じ実験を繰返し、得られた延伸成形体をF8とする。該成形体F8をサンプルとして、前述の透明性と耐熱性の評価を行ったところ、ヘーズは0.8%、切断しない最高温度は120℃であった(比較例4)。
【0050】
これら延伸成形体のF1〜8について、延伸に用いた溶融成形物の示差走査熱量測定の測定結果、延伸時の加熱温度条件、該成形体の透明性と耐熱性の評価結果を表1、及び表2にまとめる。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1によると、前述式(1)に特定する温度範囲で延伸した実施例1〜4の延伸成形体の製造方法は、延伸中に過度に結晶化することが無いので白化することなく、所望の延伸倍率まで破断せず延伸でき、且つ適度に結晶化する為に延伸後に施す熱処理において熱処理条件をより緩く設定しても耐熱性の優れた延伸成形体を得ることができ、延伸成形体を容易に製造することが可能であることが判る。又、実施例1〜4の延伸成形体F1〜4は、耐熱性と透明性に優れ、包装材用途に好適であることが判る。なかでも、前述式(3)に特定する温度範囲で延伸した実施例1、及び実施例3の延伸成形体F1、及びF3は、耐熱性と透明性の両特性が著しく優れ、包装材用途に特に好適であることが判る。
【0054】
これらに対し、表2によると、延伸時の加熱温度Tsの値が(Tc−0.40(Tc−Tg))℃よりも低い温度で延伸した比較例1〜2、及び比較例4の延伸成形体の製造方法は、過度に結晶化することなく所望の延伸倍率まで破断せず延伸できるものの、得られた延伸成形体F5〜6、及びF8は、延伸後に上記実施例1〜4と同じ条件で熱処理を施しても、耐熱性が著しく劣るものであった。又、延伸時の加熱温度Tsの値が(Tc−0.05(Tc−Tg))℃よりも高い温度で延伸した比較例3の延伸成形体F7は、透明性が著しく劣り、包装材用途には適さないことが判る。
【0055】
【参考例】
この実験は、溶融成形物の結晶化度の経時変化が、加熱温度によって異なることを調べる為の実験である。従って、溶融成形物は原料、及び作製方法が同一のものを用いて、また加熱温度を除くその他の加熱条件は同一条件に設定して比較している。本発明の延伸成形体の製造方法として上記実施例1の加熱温度を擬似的に再現した場合、及び延伸時の加熱温度Tsの値が(Tc−0.40(Tc−Tg))℃よりも低い温度で延伸した上記比較例1の加熱温度を擬似的に再現した場合、延伸時の加熱温度Tsの値が(Tc−0.05(Tc−Tg))℃よりも高い温度で延伸した上記比較例3の加熱温度を擬似的に再現した場合について、溶融成形物を0〜5分間加熱した後の結晶化度を前述した示差走査熱量測定により求めて図1にまとめた。
【0056】
図1は、横軸に加熱時間(分)、縦軸に結晶化度(%)を各々目盛り、丸印(○)は加熱温度50℃の場合を、四角印(□)は加熱温度80℃の場合を、三角印(△)は加熱温度100℃の場合を各々示している。一方、この実験で用いた試験片を加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められるガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)は、各々ガラス転移温度Tgが11℃、冷結晶化温度Tcが103℃であった。図1の加熱温度を前出式(2)のTsとして代入すると、(Tc−Ts)/(Tc−Tg)の値は、各々丸印(○)の50℃では0.58、四角印(□)の80℃では0.25、三角印(△)の100℃では0.03となる。
【0057】
図1によると、前出式(2)の(Tc−Ts)/(Tc−Tg)の値が0.58である加熱温度50℃では試験片の結晶化は少ししか起こらないが、該値が0.25である加熱温度を80℃に設定すると試験片は適度に結晶化するようになり、該値が0.03である加熱温度100℃ではより高度に結晶化するようになることが判る。該図が示す結晶化度の経時変化は結晶化速度を表す指標になり、該図四角印(□)の加熱温度80℃で示される様な適度な結晶化速度となる温度では、延伸中に結晶化の進行度合いを制御することが可能で、過度に結晶化することなく延伸成形体を製造できることが判る。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、生分解性ポリエステルを主体とする溶融成形物を用い、該溶融成形物が適度な結晶化速度となる特定の温度範囲に加熱しながら延伸することにより、生分解性を有し、且つ耐熱性、透明性に優れた包装材用途に好適な生分解性ポリエステル延伸成形体を容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶融成形物の結晶化度の経時変化が、加熱温度によって異なることを、加熱温度50℃、80℃、100℃の場合で示したグラフ図である。
Claims (1)
- 生分解性グリコール酸系重合体を主体とする溶融成形物を加熱しながら少なくとも一軸方向に延伸する生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法において、延伸時の加熱温度Ts(℃)が、該溶融成形物を試験片として加熱速度10℃/分で示差走査熱量測定(JIS K7121準拠)した際に求められるガラス転移温度Tg(℃)、及び冷結晶化温度Tc(℃)と下式(1)の関係にある温度で、延伸速度は10〜50000%/分、延伸倍率は少なくとも一軸方向に面積倍率2〜50倍の範囲から選ばれる延伸条件で延伸することを特徴とする生分解性ポリエステル延伸成形体の製造方法。
式(1) Tc−0.40(Tc−Tg)≦Ts≦Tc−0.05(Tc−Tg)
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