a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明すると、図1は、同第1実施形態に係る車両の操舵装置の全体概略図である。
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を前記運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離したステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下部には操舵反力用電動モータ(電気アクチュエータ)13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、減速機構14を介して操舵入力軸12を軸線周りに回転駆動する。
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置されたラックバー21を備えている。このラックバー21の両端部には、図示省略したタイロッドおよびナックルアームを介して、左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー21の軸線方向の変位により左右に転舵される。ラックバー21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた転舵用電動モータ(電気アクチュエータ)22が設けられている。転舵用電動モータ22の回転は、ねじ送り機構23により減速されるとともにラックバー21の軸線方向の変位に変換される。また、転舵装置20は、軸線周りに回転可能な操舵出力軸24も有している。操舵出力軸24の下端にはピニオンギヤ25が固定されており、同ピニオンギヤ25はラックバー21に設けたラック歯21aに噛み合っていて、操舵出力軸24の軸線周りの回転によりラックバー21が軸線方向に変位する。
操舵入力軸12と操舵出力軸24との間には中間部材としてのケーブル31が配置されている。ケーブル31は、操舵入力軸12の軸線周りの回転を操舵出力軸24に伝達するものである。このケーブル31の上端の固定部材31aと操舵入力軸12の下端との間には第1電磁クラッチ32が配置されている。第1電磁クラッチ32は、非通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達不能に切り離し、通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵入力軸12とを動力伝達可能に連結する。ケーブル31の下端の固定部材31bと操舵出力軸24の上端との間には第2電磁クラッチ33が配置されている。第2電磁クラッチ33は、非通電状態にて切断状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達不能に切り離し、通電状態にて接続状態に設定されてケーブル31と操舵出力軸24とを動力伝達可能に連結する。
次に、操舵反力用電動モータ13、転舵用電動モータ22および電磁クラッチ32,33を検査するとともに制御する電気制御装置40について説明する。電気制御装置40は、操舵角センサ41、転舵角センサ42、回転角センサ43,44および車速センサ45を備えている。操舵角センサ41は、操舵入力軸12に組み付けられて、操舵入力軸12の軸線周りの回転を測定することにより、操舵ハンドル11の中立位置からの回転角を検出してハンドル操舵角θhとして出力する。なお、ハンドル操舵角θhは、操舵ハンドル11の中立位置を「0」とし、右方向の操舵角を正の値で表し、左方向の操舵角を負の値で表す。転舵角センサ42は、ラックバー21に組み付けられて、ラックバー21の軸線方向の変位を測定することにより、左右前輪FW1,FW2の実転舵角δを検出して出力する。なお、実転舵角δは、左右前輪FW1,FW2の中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵角を正の値で表し、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵角を負の値で表す。
回転角センサ43,44は、操舵反力用電動モータ13および転舵用電動モータ22にそれぞれ組み付けられ、これらの電動モータ13,24の基準位置からの回転角θm1,θm2をそれぞれ検出する。なお、これらの回転角θm1,θm2も、中立位置を「0」とし、操舵ハンドル11の右方向の操舵および左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵に対応した方向の回転角を正の値でそれぞれ表し、操舵ハンドル11の左方向の操舵および左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵に対応した方向の回転角を負の値でそれぞれ表す。なお、本実施形態では、回転角センサ43は操舵入力軸12の回転変位を検出するセンサとして機能し、回転角センサ44は操舵出力軸24の回転変位およびラックバー21の軸線方向の変位を検出するセンサとして機能する。車速センサ45は、車速Vを検出して出力する。
また、電気制御装置40は、互いに接続された検査用電子制御ユニット(以下、検査用ECUという)46、操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)47、および転舵用電子制御ユニット(以下、転舵用ECUという)48を備えている。検査用ECU46には、回転角センサ43,44が接続されている。操舵反力用ECU47には、操舵角センサ41および車速センサ45が接続されている。転舵用ECU48には、操舵角センサ41、転舵角センサ42および車速センサ45が接続されている。
これらのECU46〜48は、それぞれCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とする。検査用ECU46は、図2の検査プログラムを実行することにより、電磁クラッチ32,33の異常を検出する。検査用ECU46は、この検査プログラムに実行中、駆動回路51を介して第1および第2電磁クラッチ32,33を切り換え制御するとともに、駆動回路52,53を介して操舵反力用電動モータ13および転舵用電動モータ22を駆動制御する。また、検査用ECU46は、第1または第2電磁クラッチ32,33の異常検出時には、警報器54に警報を発生させる。操舵反力用ECU47は、図3の操舵反力制御プログラムを実行して、駆動回路52を介して操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。転舵用ECU48は、図4の転舵制御プログラムをそれぞれ実行して、駆動回路53を介して転舵用電動モータ22を駆動制御する。
また、ECU46〜48には、エンジン制御装置55も接続されている。エンジン制御装置55はCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを内蔵しており、車速センサ45からの車速Vを入力し、検査用ECU46からの指示によりエンジンを制御して車両の走行速度を制御する。
次に、上記のように構成した実施形態の動作について説明する。イグニッションスイッチの投入により、検査用ECU46は、同イグニッションスイッチの投入直後において検査プログラムを1回だけ実行する。また、イグニッションスイッチの投入により、操舵反力用ECU47および転舵用ECU48は、操舵反力制御プログラムおよび転舵制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。
検査プログラムの実行は図2のステップS10にて開始され、検査用ECU46は、ステップS11にて操舵反力用電動モータ13をロック状態に制御する。具体的には、検査用ECU46が、駆動回路52との協働により操舵反力用電動モータ13に静止磁界を発生させるための制御電流を流し、操舵反力用電動モータ13のロータを回転しない状態に保つ。なお、この操舵反力用電動モータ13のロック制御は、操舵入力軸12の軸線周りの回転変位を禁止したことを意味するもので、後述する転舵用電動モータ22の回転力によって操舵反力用電動モータ13が回転されないように、前記静止磁界を発生するための制御電流は大きな値に設定される。次に、検査用ECU46は、ステップS12にて、駆動回路51との協働により第1および第2電磁クラッチ32,33に通電して、第1および第2電磁クラッチ32,33を接続状態にそれぞれ制御する。
前記ステップS12の処理後、検査用ECU46は、ステップS13にて駆動回路53との協働により所定の短時間だけ転舵用電動モータ22に回転させるための駆動電流を流して、転舵用電動モータ22を駆動制御する。また、同ステップS13においては、前記転舵用電動モータ22の駆動制御に並行して、検査用ECU46は回転角センサ44から回転角θm2を表す信号を入力して、転舵用電動モータ22の回転の有無を検査する。次に、検査用ECU46は、ステップS14にて、前記ステップS13の検査により、転舵用電動モータ22の回転が検出されたか否かを判定する。なお、この転舵用電動モータ22の回転検出および後述する同種の処理は、操舵出力軸24の軸線周りの回転変位およびラックバー21の軸線方向の変位の検出に相当する。
まず、第1および第2電磁クラッチ32,33が共に正常である場合について説明する。この場合、第1および第2電磁クラッチ32,33はステップS12の処理によって接続状態にあり、前記ステップS11の操舵反力用電動モータ13のロック制御によって操舵入力軸12の回転変位は禁止されているので、操舵出力軸24の回転変位およびラックバー21の変位もケーブル31を介して禁止されている。したがって、転舵用電動モータ22は回転することはなく、ステップS14にて「No」と判定され、プログラムはステップS15に進められる。
これらのステップS12〜S14の処理は、第1または第2電磁クラッチ32,33が制御とは無関係に切断状態に保持され続ける異常(第1または第2電磁クラッチ32,33の誤切断異常)を検出するものである。そして、前記ステップS14の「No」との判定は、第1および第2電磁クラッチ32,33に誤切断異常が発生していないことを意味する。
ステップS15においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により、第1電磁クラッチ32に通電して第1電磁クラッチ32を接続状態に制御するとともに、第2電磁クラッチ33の通電を解除して、第2電磁クラッチ33を切断状態に制御する。次に、検査用ECU46は、前記ステップS13の処理と同様なステップS16の処理により、所定の短時間だけ転舵用電動モータ22を駆動制御した状態で、転舵用電動モータ22の回転の有無を検査する。そして、検査用ECU46は、ステップS17にて、前記ステップS16の検査により、転舵用電動モータ22の回転が検出されたか否かを判定する。この場合、第2電磁クラッチ33は切断状態にあって、転舵用電動モータ22は回転するので、ステップS17にて「Yes」と判定してプログラムをステップS18に進める。
これらのステップS15〜S17の処理は、第2電磁クラッチ33が制御とは無関係に接続状態に保持され続けるような異常(第2電磁クラッチ33の誤接続異常)を検出するものである。そして、前記ステップS17の「Yes」との判定は、第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生していないことを意味する。
ステップS18においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により、第1電磁クラッチ32の通電を解除して第1電磁クラッチ32を切断状態に制御するとともに、第2電磁クラッチ33を通電して、第2電磁クラッチ33を接続状態に制御する。次に、検査用ECU46は、前記ステップS13の処理と同様なステップS19の処理により、所定の短時間だけ転舵用電動モータ22を駆動制御した状態で、転舵用電動モータ22の回転の有無を検査する。そして、検査用ECU46は、ステップS20にて、前記ステップS19の検査により、転舵用電動モータ22の回転が検出されたか否かを判定する。この場合、第1電磁クラッチ32は切断状態にあって、転舵用電動モータ22は回転するので、ステップS20にて「Yes」と判定する。
これらのステップS18〜S20の処理は、第1電磁クラッチ32が制御とは無関係に接続状態に保持され続けるような異常(第1電磁クラッチ32の誤接続異常)を検出するものである。そして、前記ステップS20の「Yes」との判定は、第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生していないことを意味する。
次に、検査用ECU46は、ステップS21にて、第1および第2電磁クラッチ32,33の正常および異常状態を表す異常フラグMBFを両電磁クラッチ32,33の正常を表す値“0”に設定して、ステップS22〜S24の処理後、ステップS25にてこの検査プログラムの実行を終了する。
ステップS22においては、検査用ECU46は、駆動回路52との協働により操舵反力用電動モータ13に対する通電を解除して操舵反力用電動モータ13のロック状態を解除する。ステップS23においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により第1および第2電磁クラッチ32,33の通電を解除して、両電磁クラッチ32,33を切断状態に設定する。ステップS24においては、検査用ECU46は、前記“0”に設定された異常フラグMBFを転舵用ECU48に出力するとともに、検査終了信号を操舵反力用ECU47および転舵用ECU48にそれぞれ出力する。
一方、操舵反力用ECU47は、前記イグニッションスイッチの投入後、図3の操舵反力制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行している。この操舵反力制御プログラムの実行はステップS40にて開始され、操舵反力用ECU47は、ステップS41にて検査終了信号を検査用ECU46から入力済みかを判定する。イグニッションスイッチの投入後、前記検査終了信号が未だ入力されていなければ、操舵反力用ECU47は、ステップS41にて「No」と判定して、ステップS46にて操舵反力制御プログラムの実行を一旦終了する。この状態では、操舵反力用ECU47は実質的な処理を実行せず、検査終了信号の入力を待つ。
前述のように、検査用ECU46が第1および第2電磁クラッチ32,33の検査を終了して検査終了信号を出力すると、操舵反力用ECU47はステップS41にて「Yes」と判定して、ステップS42以降の処理を実行し始める。ステップS42においては、操舵反力用ECU47は、操舵角センサ41からのハンドル操舵角θh、車速センサ45からの車速Vおよび転舵用ECU48からの転舵フェイルフラグSTFを入力する。この転舵フェイルフラグSTFは、詳しくは後述するように転舵用ECU48にて設定されるもので、“0”により転舵用電動モータ22および駆動回路53からなる転舵制御系の正常状態を表し、“1”により転舵制御系の異常状態を表す。
この場合も、転舵制御系が正常である場合について説明を続ける。したがって、操舵反力用ECU47は、ステップS43にて「Yes」すなわち転舵フェイルフラグSTFが“0”であると判定して、プログラムをステップS44に進める。
ステップS44においては、操舵反力用ECU47は、ROM内に設けられている操舵反力テーブルを参照して、ハンドル操舵角θhおよび車速Vに応じて変化する目標操舵反力Th*を計算する。この操舵反力テーブルは、図6に示すように、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θhの増加に従って非線形増加する複数の目標操舵反力Th*を記憶している。なお、この操舵反力テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θhおよび車速Vに応じて変化する目標操舵反力Th*を関数により予め定義しておき、同関数を利用して目標操舵反力Th*を計算するようにしてもよい。
次に、操舵反力用ECU47は、ステップS45にて、駆動回路52と協働して前記計算した目標操舵反力Th*に対応した駆動電流を操舵反力用電動モータ13に流して、ステップS48にてこの操舵反力制御プログラムの実行を一旦終了する。操舵反力用電動モータ13は、操舵入力軸12を目標操舵反力Th*に対応した回転トルクで駆動する。これにより、操舵ハンドル11の回動操作に対して、操舵反力用電動モータ13による目標操舵反力Th*が付与され、運転者は、適度な操舵反力を感じながら、操舵ハンドル11を回動操作できる。
また、転舵用ECU48は、前記イグニッションスイッチの投入後、図4の転舵制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行している。この転舵制御プログラムの実行はステップS50にて開始され、転舵用ECU4は、ステップS51にて検査終了信号を検査用ECU46から入力済みかを判定する。イグニッションスイッチの投入後、前記検査終了信号が未だ入力されていなければ、転舵用ECU48は、ステップS51にて「No」と判定して、ステップS63にて転舵制御プログラムの実行を一旦終了する。この状態では、転舵用ECU48は実質的な処理を実行せず、検査終了信号の入力を待つ。
前述のように、検査用ECU46が第1および第2電磁クラッチ32,33の検査を終了して検査終了信号を出力すると、転舵用ECU48はステップS51にて「Yes」と判定して、ステップS52にて転舵フェイルフラグSTFが“0”であるかを判定する。前述のように、いま転舵フェイルフラグSTFは“0”に設定されているので、転舵用ECU48は、ステップS52にて「Yes」と判定して、プログラムをステップS53に進める。
ステップS53においては、転舵用ECU48は、転舵用電動モータ22および駆動回路53からなる転舵制御系がフェイルしているかを検査する。この場合、転舵用ECU48は、電動モータ22の断線、短絡、その他の異常を駆動回路53からの信号を入力して、転舵制御系に異常が発生しているかを検査する。次に、転舵用ECU48は、ステップS54にて前記ステップS53の処理によってフェイルが検出されたかを判定する。この場合も、ステップS53,S54の判定処理によってフェイルが検出されなかった場合について説明を続ける。すなわち、ステップS54での「No」との判定後、転舵用ECU48はステップS55にて転舵フェイルフラグSTFを“0”に設定して、ステップS56以降の処理を実行する。なお、この転舵フェイルフラグSTFは、イグニッションスイッチがオフされても、その値が保持されるように、転舵用ECU48の非作動時には不揮発性のメモリ領域に記憶保持されるものである。
ステップS56においては、転舵用ECU48は、操舵角センサ41からのハンドル操舵角θh、転舵角センサ42からの実転舵角δ、車速センサ45からの車速V、および検査用ECU46からの異常フラグMBFをそれぞれ入力する。次に、ステップS57にて、前記入力した異常フラグMBFが“2”であるかを判定する。この場合も、前述のように、異常フラグMBFは“0”に設定されているものとして説明を続ける。
したがって、転舵用ECU48は、ステップS57にて「No」と判定して、ステップS58以降の処理を実行する。ステップS58においては、ROM内に記憶されている第1転舵角テーブルを参照して、ハンドル操舵角θhに応じて変化するステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を計算し、同計算したステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を目標転舵角δ*として設定する。第1転舵角テーブルは、図8に実線で示すように、ハンドル操舵角θhの増加に従って非線形に増加するステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を記憶している。このステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*のハンドル操舵角θhに対する変化率は、ハンドル操舵角θhの絶対値|θh|の小さな範囲内で小さく、ハンドル操舵角θhの絶対値|θh|が大きくなると大きくなるように設定されている。なお、この第1転舵角テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θhとステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を計算するようにしてもよい。
次に、転舵用ECU48は、ステップS59にて、ROM内に記憶されている車速係数テーブルを参照して、車速Vに応じて変化するステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを計算し、同計算したステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを車速係数Kとして設定する。車速係数テーブルは、図9に実線で示すように、車速Vの小さな範囲内で「1」よりも大きく、車速Vの大きな範囲内で「1」よりも小さく、車速Vの増加に従って「1」を挟んで非線形に減少するステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを記憶している。なお、この車速係数テーブルを利用するのに代えて、車速Vとステヤバイワイヤ用の車速係数Kaとの関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用してステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを計算するようにしてもよい。
これらの目標転舵角δ*および車速係数Kの決定後、転舵用ECU48は、ステップS60にて、下記式1の演算の実行により、目標転舵角δ*を車速係数Kで補正して最終的な目標転舵角δ*を計算する。
δ*=K・δ* …式1
そして、ステップS61にて、実転舵角δが最終的な目標転舵角δ*に等しくなるように、両転舵角δ*,δの差δ*−δを用いて駆動回路53を介して転舵用電動モータ22の回転を制御する。これにより、転舵用電動モータ22は回転駆動され、ねじ送り機構23を介してラックバー21を軸線方向に駆動して、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵する。
このような転舵制御により、図8の実線で示すように、左右前輪FW1,FW2は、ハンドル操舵角θhの小さな範囲で同操舵角θhの変化に対して小さく転舵され、ハンドル操舵角θhの大きな範囲で同操舵角θhの変化に対して大きく転舵される。その結果、操舵ハンドル11の持ち替えなしで左右前輪FW1,FW2は大きな転舵角まで転舵される。また、図9の実線で示すように、左右前輪FW1,FW2は、車速Vが小さいときにはハンドル操舵角θhに対して大きく転舵され、車速Vが大きくなるとハンドル操舵角θhに対して小さく転舵される。前記ステップS61の処理後、転舵用ECU48は、ステップS62にて転舵フェイルフラグSTFを操舵反力用ECU47に出力して、ステップS63にて転舵制御プログラムの実行を終了する。
次に、転舵制御系にフェイルが発生した場合について説明する。この場合、転舵用ECU48は、図4のステップS54にて「Yes」と判定して、ステップS64にて転舵フェイルフラグSTFを“1”に設定し、ステップS65にて転舵用電動モータ22の作動制御を中止して転舵用電動モータ22の作動を停止させる。次に、転舵用ECU48は、ステップS66にて、駆動回路51との協働により、第1および第2電磁クラッチ32,33に通電して第1および第2電磁クラッチ32,33を接続状態に制御する。そして、ステップS62にて“1”に設定された転舵フェイルフラグSTFを操舵反力用ECU47に出力して、ステップS63にてこの転舵制御プログラムの実行を一旦終了する。
そして、このように転舵フェイルフラグSTFが一旦“1”に設定されると、以降、転舵用ECU48はステップS52にて「No」と判定して、前述したステップS65,S66、S62の処理を実行する。したがって、転舵用電動モータ22は左右前輪FW1,FW2を転舵制御しなくなる。一方、操舵入力軸12は第1電磁クラッチ32、ケーブル31および第2電磁クラッチ33を介して操舵出力軸24に動力伝達可能に接続されるので、操舵ハンドル11の回動力は、操舵入力軸12、ケーブル31、操舵出力軸24およびラックバー21を介して左右前輪FW1,FW2に伝達され、左右前輪FW1,FW2が操舵ハンドル11の回動操作力によって転舵されるようになる。
一方、この状態では、操舵反力用ECU47は、前記図3のステップS42の処理により“1”に設定されている転舵フェイルフラグSTFを入力し、ステップS43にて「No」と判定して、プログラムをステップS47に進めるようになる。ステップS47においては、操舵反力用ECU47は、ROM内に設けられているアシスト指令値テーブルを参照して、ハンドル操舵角θhおよび車速Vに応じて変化する目標アシストトルクTa*を計算する。このアシスト指令値テーブルは、図7に示すように、複数の代表的な車速値ごとに、ハンドル操舵角θhの増加に従って非線形増加する複数の目標アシストトルクTa*を記憶している。なお、このアシスト指令値テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θhおよび車速Vに応じて変化する目標アシストトルクTa*を関数により予め定義しておき、同関数を利用して目標アシストトルクTa*を計算するようにしてもよい。
次に、操舵反力用ECU47は、ステップS48にて、駆動回路52と協働して前記計算した目標アシスト力Ta*に対応した駆動電流を操舵反力用電動モータ13に流す。これにより、操舵反力用電動モータ13は、操舵入力軸12を目標アシスト力Ta*に対応した回転トルクで駆動する。その結果、この転舵用電動モータ22による左右前輪FW1,FW2の転舵不能状態では、操舵ハンドル11の回動操作による左右前輪FW1,FW2の転舵が目標アシスト力Ta*によってアシストされるので、運転者は、操舵ハンドル11を軽快に回動操作できる。
次に、第1および第2電磁クラッチ32,33のいずれか一方に誤切断異常が発生している場合について説明する。この場合、検査用ECU46の図2のステップS12の処理により、第1および第2電磁クラッチ32,33が接続状態に制御されても、第1および第2電磁クラッチ32,33のうち、誤切断異常が発生している電磁クラッチは切断状態に保たれる。したがって、操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達不能に切り離されており、ステップS13,S14の処理によって転舵用電動モータ22の回転すなわち操舵出力軸24の回転変位が検出される。したがって、検査用ECU46は、ステップS14にて「Yes」と判定して、プログラムをステップS26以降に進める。
ステップS26においては、検査用ECU46は、異常フラグMBFを“1”に設定する。そして、この“1”に設定された異常フラグMBFは、前述したステップS24の処理により転舵用ECUに出力される。前記ステップS26の処理後、検査用ECU46は、ステップS27にて警報器54を制御して、第1および第2電磁クラッチ32,33のうちの少なくとも一方に誤切断異常が発生している旨の警報を警報器54に発生させる。次に、検査用ECU46は、ステップS28にて、エンジン制御装置55に速度制御信号を出力する。
この場合、転舵用ECU48は、図4のステップS56の処理によって“1”に設定された異常フラグMBFを入力する。しかし、転舵用ECU48は、ステップS57にて「No」と判定して、前述したステップS58〜S61の処理により左右前輪FW1,FW2を転舵制御する。これにより、この場合には、左右前輪FW1,FW2は、前述した第1および第2電磁クラッチ32,33が正常である場合と同様に、ステアバイワイヤ用の目標転舵角δa*(図8の実線)および車速係数Ka(図9の実線)に従った目標転舵角δ*(=Ka・δa*)に転舵される。
一方、検査用ECU46の図2のステップS28の処理により、速度制限信号を入力したエンジン制御装置55は、車速センサ45からの車速信号Vを用いてエンジン装置を制御して、車両の走行速度を所定車速以下に制限する。すなわち、第1および第2電磁クラッチ32,33のうちの少なくとも一方に誤切断異常が発生した場合には、車両の走行速度が所定車速以下に制限される。
これは、将来、転舵用電動モータ22による左右前輪FW1,FW2の転舵が不能になった場合に、操舵ハンドル11と左右前輪FW1,FW2とをケーブル31を介して動力伝達可能に接続するフェイルセーフ機能を果たせなくなるために、車両の走行に制限を加えるようにするためである。なお、この車両の走行速度の制限のための所定車速は安全のために比較的小さな値に設定するとよい。また、この所定車速を「0」にして、車両の走行を禁止するようにして、車両の走行安全性を確保するようにしてもよい。また、車両を安全な場所に移動させるための所定時間だけ、車両の走行速度を所定車速以下に制限して、その後に車両の走行を禁止するようにしてもよい。
次に、第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生している場合について説明する。この場合、検査用ECU46の図2のステップS15の処理により、第1電磁クラッチ32が接続状態に制御されるとともに、第2電磁クラッチ33が切断状態に制御されても、誤接続異常が発生している第2電磁クラッチ33は接続状態に保たれる。したがって、操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達可能に連結されることになり、ステップS16,S17の処理によって転舵用電動モータ22の回転すなわち操舵出力軸24の回転変位が検出されない。したがって、検査用ECU46は、ステップS17にて「No」と判定して、プログラムをステップS29以降に進める。
ステップS29においては、検査用ECU46は、異常フラグMBFを“2”に設定する。そして、この“2”に設定された異常フラグMBFは、前述したステップS24の処理により転舵用ECUに出力される。前記ステップS29の処理後、検査用ECU46は、ステップS30にて警報器54を制御して、第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生している旨の警報を警報器54に発生させる。
また、第1電磁クラッチ32に誤接続異常が発生している場合には、図2のステップS18の処理により、第1電磁クラッチ32が切断状態に制御されるとともに、第2電磁クラッチ33が接続状態に制御されても、誤接続異常が発生している第1電磁クラッチ32は接続状態に保たれる。したがって、この場合も、操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達可能に連結されることになり、ステップS19,S20の処理によって転舵用電動モータ22の回転すなわち操舵出力軸24の回転変位が検出されない。したがって、検査用ECU46は、ステップS20にて「No」と判定して、前記第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生している場合と同様に、前述したステップS29,S30の処理を実行する。ただし、ステップS30の処理においては、第2電磁クラッチ33に誤接続異常が発生している旨の警報が発せられる。
一方、この場合、転舵用ECU48は、図4のステップS56にて“2”に設定された異常フラグMBFを入力する。そして、ステップS57にて「Yes」と判定されて、プログラムはステップS67に進められる。ステップS67においては、転舵用ECU48は、切り換え制御ルーチンを実行する。
切換え制御ルーチンは図5に詳細に示されているように、その実行がステップS70にて開始される。そして、転舵用ECU48は、ステップS71にて操舵ハンドル11が所定操舵角以上に操舵されたか、すなわちハンドル操舵角θhの絶対値|θh|が所定値よりも小さな値から所定値以上に変化したかを判定する。より具体的には、前回の切換え制御ルーチンの実行時のハンドル操舵角θhの絶対値|θh|が所定値未満であり、今回の切換え制御ルーチンの実行時のハンドル操舵角θhの絶対値|θh|が所定値以上であることを判定する。この条件が成立すれば、転舵用ECU48は、ステップS71にて「Yes」と判定して、ステップS72〜S76の処理の実行後、プログラムをステップS77以降に進める。一方、前記条件が成立しなければ、ステップS71にて「No」と判定してプログラムをステップS77以降に直接進める。
ステップS72においては変数mに「1」を加算し、ステップS73にて変数mが予め決められた所定値M以上であるかを判定する。変数mは、操舵ハンドル11が所定操舵角以上に操舵された回数をカウントするもので、初期には「0」に設定されている。所定値Mは、後述する左右前輪FW1,FW2のハンドル操舵角θhに対する転舵特性を更新する速さを規定するもので、予め決められた正の整数値に設定されている。いま、変数mが所定値M以上でなければ、ステップS73にて「No」と判定してプログラムをステップS77に進める。変数mが所定値M以上であれば、ステップS73にて「Yes」と判定して、ステップS74にて変数mを「0」に初期設定し、ステップS75にて変数nが所定値N以上であるかを判定する。変数nは、左右前輪FW1,FW2のハンドル操舵角θhに対する転舵特性を変更するための変数で、初期には「1」に設定されている。所定値Nは、左右前輪FW1,FW2のハンドル操舵角θhに対する転舵特性の変更量を規定するもので、予め決められた正の整数値に設定されている。
いま、変数nが所定値N以上であれば、ステップS75にて「Yes」と判定してプログラムをステップS77に進める。変数nが所定値N以上でなければ、ステップS75にて「No」と判定して、ステップS76にて変数nに「1」を加算して、プログラムをステップS77に進める。これらのステップS71〜76の処理により、操舵ハンドル11が所定操舵角以上に操舵された回数がM回になるごとに、変数nが「1」から順次「1」ずつ所定値Nまで増加する。なお、この場合、所定値Mを「1」に設定すれば、変数nは操舵ハンドル11が所定操舵角以上に操舵されるごとに「1」ずつ増加する。
ステップS77においては、転舵用ECU48が、前記図4のステップS58の処理と同様にして、ROM内に記憶されている第1転舵角テーブルを参照して、ハンドル操舵角θhに応じて変化するステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を計算し、同計算したステヤバイワイヤ用の目標転舵角δa*を第1目標転舵角δ1*として設定する。また、同ステップS77においては、ROM内に記憶されている第2転舵角テーブルを参照して、ハンドル操舵角θhに応じて変化する機械連結ステア用の目標転舵角δb*を計算し、同計算した機械連結ステア用の目標転舵角δb*を第2目標転舵角δ2*として設定する。第2転舵角テーブルは、図8に破線で示すように、ハンドル操舵角θhの増加に従って線形に増加する機械連結ステア用の目標転舵角δb*を記憶している。なお、この第2転舵角テーブルを利用するのに代えて、ハンドル操舵角θhと機械連結ステア用の目標転舵角δb*との関係を示す関数を予め用意しておき、同関数を利用して機械連結ステア用の目標転舵角δb*を計算するようにしてもよい。
次に、転舵用ECU48は、ステップS78にて、前記ステップS59の処理と同様にして、ROM内に記憶されている車速係数テーブルを参照して、車速Vに応じて変化するステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを計算し、同計算したステヤバイワイヤ用の車速係数Kaを第1車速係数K1として設定する。また、同ステップS78においては、第2車速係数K2を定数Kbに設定する。この定数Kbは、図8に破線で示されているように、「1.0」に設定されている。
これらの第1および第2目標転舵角δ1*,δ2*ならびに第1および第2車速係数K1,K2の決定後、転舵用ECU48は、ステップS79にて、下記式2の演算の実行により最終的な目標転舵角δ*を計算して、ステップS80にてこの切換え制御ルーチンの実行を終了する。
δ*={K1+n・(K2−K1)/N}・{δ1*+n・(δ2*−δ1*)/N} …式2
この式2の演算の実行により、変数nが「1」から所定値Nまで変化するに従って、第1目標転舵角δ1*から第2目標転舵角δ2*まで徐々に変化する目標転舵角δ*が計算される。
前記切換え制御ルーチンの実行終了後、転舵用ECU48は、前述した図4のステップS61の処理により、実転舵角δが前記目標転舵角δ*に等しくなるように、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵する。この場合、前述のように、変数nは操舵ハンドル11の所定操舵角以上の操舵回数の増加に従って「1」から所定値Nまで増加し、変数nの「1」から所定値Nまでの増加に従って、目標転舵角δ*は第1目標転舵角δ1*から第2目標転舵角δ2*まで徐々に変化するので、左右前輪FW1,FW2はステヤバイワイヤ用の第1目標転舵角δ1*から機械連結ステア用の第2目標転舵角δ2*まで徐々に変化する。
これは、第1および第2電磁クラッチ32,33のうちの一方に誤接続異常が発生した場合には、将来、他方の電磁クラッチにも誤接続異常が発生した場合を想定したものである。この場合、操舵入力軸12と操舵出力軸24がケーブル31を介して動力伝達可能に接続され、操舵ハンドル11は左右前輪FW1,FW2に機械連結されることになる。その結果、前記切換え制御ルーチンを実行しなければ、第1および第2電磁クラッチ32,33の両方に誤接続異常が発生した時点で、左右前輪FW1,FW2は、ハンドル操舵角θhに対して図8の破線で示すような転舵特性で転舵されるようになる。そして、この転舵特性は、ステアバイワイヤ方式による転舵特性とは異なるものである。
これに対して、前記ステップS67の切換え制御ルーチンを実行することにより、第1および第2電磁クラッチ32,33のうちの一方の誤接続異常の検出時から、操舵ハンドル11の回動操作に対する左右前輪FW1,FW2の転舵特性は、ステヤバイワイヤ用の第1目標転舵角δ1*から機械連結ステア用の第2目標転舵角δ2*に従った転舵特性まで徐々に変化するとともに、車速Vによる第1目標転舵角δ1*の補正についても徐々に変化する。したがって、第1および第2電磁クラッチ32,33の両方に誤接続異常が発生した時点で、左右前輪FW1,FW2の転舵がステヤバイワイヤ方式から機械連結方式の転舵に切り換えられても、操舵ハンドル11の操舵操作に対する左右前輪FW1,FW2の転舵特性が変化することはないので、運転者は違和感を覚えない。
なお、前記切換え制御ルーチンの処理のように、左右前輪FW1,FW2のステヤバイワイヤ用の転舵特性から機械連結用の転舵特性への転舵特性の変更量を、操舵ハンドル11が所定角以上に操舵された回数の増加に従って増加させるのに代えて、操舵ハンドル11が所定角以上に操舵されている時間が増加するに従って、前記転舵特性の変化量を増加するようにしてもよい。また、前記転舵特性が、単純に時間の経過に従って変更されるようにしたり、イグニッションスイッチのオン操作の回数に応じて徐々に変更されるようにしてもよい。
上記作動説明からも理解できるように、上記第1実施形態においては、図2の検査プログラムを実行して、操舵反力用電動モータ13の回転を禁止すなわち操舵入力軸12の回転変位を禁止した状態で、第1および第2電磁クラッチ32,33の接続状態および切断状態の組み合わせを変えて、転舵用電動モータ22を回転制御すなわち操舵出力軸24およびラックバー21を駆動制御し、転舵用電動モータ22の回転すなわち操舵出力軸24およびラックバー21を変位を検出することにより、第1および第2電磁クラッチ32,33の誤切断異常および誤接続異常が検出される。したがって、上記第1実施形態によれば、第1および第2電磁クラッチ32,33の誤切断異常および誤接続異常を簡単かつ的確に検出できるようになる。また、この異常の検出においては、操舵入力軸12の回転を禁止しているので、操舵ハンドル11が異常検出中に回転することはなく、運転者に違和感を与えることなく、電軸クラッチ32,33の異常を判定できる。
なお、前記操舵ハンドル11の回転を問題にしなければ、操舵出力軸24およびラックバー21の変位を禁止して、操舵入力軸12の回転変位の有無によって第1および第2電磁クラッチ32,33の誤切断異常および誤接続異常を判定するようにしてもよい。この場合、図2の検査プログラムにおいて、ステップS11の処理において転舵用電動モータ22をロック状態に制御し、ステップS13,S14,S16,S17,S19,S20の処理において操舵反力用電動モータ13を駆動制御してその回転を検出するようにすればよい。
b.第1実施形態の第1変形例
上記第1実施形態の図2の検査プログラムの一部を変更した第1実施形態の第1変形例について説明する。この第1変形例においては、図2のステップS14とステップS15との間にステップS101〜S103の処理が挿入されている。ステップS101においては、検査用ECU46は、駆動回路52との協働により所定の短時間だけ操舵反力用電動モータ13に回転させるための駆動電流を流して、操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。また、同ステップS101においては、前記操舵反力用電動モータ13の駆動制御に並行して、検査用ECU46は回転角センサ43から回転角θm1を表す信号を入力して、操舵反力用電動モータ13の回転の有無を検査する。なお、前記操舵反力用電動モータ13の回転方向は、この操舵反力用電動モータ13の回転により左右前輪FW1,FW2が転舵される方向と、図2のステップS13の転舵用電動モータ22に回転制御により左右前輪FW1,FW2が転舵される方向とが一致する方向である。そして、ステップS102にて、前記ステップS101の検査により、操舵反力用電動モータ13の回転が検出されたかを判定する。また、ステップS103の処理は図2のステップS11の処理と同様な処理であり、これにより、ステップS101の処理によってロック解除された操舵反力用電動モータ13が再度ロック状態に制御される。
このステップS101,S102の処理の追加により、ステップS14にて「No」すなわち転舵用電動モータ22が回転しなかったと判定されても、ステップS101の処理によって操舵反力用電動モータ13が回転したことが検出されれば、ステップS102にて「Yes」すなわち第1および第2電磁クラッチ32,33のうちのいずれか一方に誤切断異常が発生していることが判定されて、上記第1実施形態と同様なステップS26〜S28の処理が実行される。これは、第1または第2電磁クラッチ32,33が切断状態にあっても、左右前輪FW1,FW2が縁石などに当たっていて転舵不能状態である場合には、上記第1実施形態では誤切断異常なしと判定されてしまうからである。これに対して、操舵反力用電動モータ13の回転により、左右前輪FW1,FW2が転舵不能な方向に転舵しようした場合に、操舵反力用電動モータ13が回転すれば、第1または第2電磁クラッチ32,33が切断状態にあることが検出される。したがって、このステップS101,S102の追加により、第1および第2電磁クラッチ32,33の誤切断判定がより正確に行われるようになる。
また、この第1変形例においては、図2のステップS17,S20にてそれぞれ「No」すなわち転舵用電動モータ22が回転しなかったことが判定された場合にも、前記ステップS101,S102と同様なステップS104,S105およびステップS107,S108の処理がそれぞれ実行されるようにしている。そして、ステップS104,S107の処理により操舵反力用電動モータ13の回転が検出されなかったときにのみ、ステップS105,S108にて「No」との判定のもとにステップS29,S30の第1および第2電磁クラッチの誤接続処理が実行されるようにしている。なお、ステップS106の処理は、前記ステップS103の処理と同様に、ステップS104の処理によってロック解除された操舵反力用電動モータ13を再度ロック状態に制御するための処理である。
これは、第1または第2電磁クラッチ32,33が切断状態にあっても、左右前輪FW1,FW2が縁石などに当たっていて転舵不能状態である場合には、上記第1実施形態の場合には誤接続異常と判定されてしまうからである。これに対して、操舵反力用電動モータ13の回転により、左右前輪FW1,FW2を転舵不能な方向に転舵しようした場合に、操舵反力用電動モータ13が回転すれば、第1または第2電磁クラッチ32,33が切断状態にあることが検出される。この状態は、第1または第2電磁クラッチ32,33の誤接続状態ではないので、これらのステップS104,S105,S107,S108の追加により、第1および第2電磁クラッチ32,33の誤接続判定がより正確に行われるようになる。
また、この第1変形例において、ステップS101,S104,S107の操舵反力用電動モータ13の駆動制御前に、転舵用電動モータ22を上記図2のステップS11と同様な処理によりロック状態に制御しておくようにしてもよい。これによれば、ステップS101,S104,S107の処理による操舵反力用電動モータ13の回転方向を問題にする必要はない。
c.第1実施形態の第2変形例
次に、上記第1実施形態の第2変形例について説明する。上記第1実施形態においては、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査をイグニッションスイッチの投入直後すなわち車両の発進時にのみ行うようにしたが、この第2変形例では、車両の停止時に行うようにしたものである。この第2変形例においては、上記第1実施形態の図2の検査プログラムのステップS10とステップS11との間に、ステップS111,S112の処理を追加している.そして、この検査プログラムは、イグニッションスイッチの投入後に所定時間ごとに繰り返し実行される。他の部分に関しては上記第1実施形態と同一である。
ステップS111においては,検査用ECU46は、シフトレバーがパーキング位置に切り換えられたかを判定する。ステップS112においては、検査用ECU46は、検査中であることを表す信号を、操舵反力用ECU47および転舵用ECU48に出力する。これらのステップS111,S112の処理により、シフトレバーがパーキング位置に切り換えられた直後において、検査中であることを表す信号が操舵反力用ECU47および転舵用ECU48に出力された後、検査用ECU46は、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査を上記第1実施形態と同様にして行う。そして、検査終了後、上記第1実施形態の場合と同様なステップS24の処理により、検査終了信号を操舵反力用ECU47および転舵用ECU48に出力する。一方、シフトレバーが他の位置にある車両の走行中およびパーキング位置にあり続けている車両の駐車中においては、検査用ECU46は、ステップS111にて「No」と判定して、ステップS11〜S24,S26〜S30の第1および第2電磁クラッチ32,33の検査処理を実行しないで、ステップS25にてこの検査プログラムの実行を終了する。
前記検査中および検査終了信号の出力に応答して、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査中には、操舵反力用ECU47は、上記第1実施形態と同様な図3のステップS41にて「No」と判定して、ステップS42〜S45,S47、S48の処理を実行しない。そして、操舵反力用ECU47は、前記検査信号終了信号の出力に応答して、ステップS41にて「Yes」と判定して、ステップS42〜S45,S47、S48からなる操舵反力制御および操舵アシスト制御の処理を実行し始める。また、転舵用ECU48も、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査中には、上記第1実施形態と同様な図4のステップS51にて「No」と判定して、ステップS52〜S62,S64〜S67の処理を実行しない。そして、転舵用ECU48は、前記検査信号終了信号の出力に応答して、ステップS51にて「Yes」と判定して、ステップS52〜S62,S64〜S67からなる転舵制御の処理を実行し始める。
この第2変形例によれば、車両が駐車されるたびに第1および第2電磁クラッチ32,33の検査が実行されるようになる。また、この第2変形例のステップS111の処理を、パーキングブレーキの作動開始を判定する処理に変更してもよい。これによれば、運転者がパーキングブレーキを操作するごとに、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査が実行されるようになる。さらに、前記ステップS111の処理を、車速Vが「0」に変化したことを判定する処理に変更してもよい。これによれば、車両が停止されるごとに、第1および第2電磁クラッチ32,33の検査が実行されるようになる。また、上記第1実施形態のイグニッションスイッチの投入直後、前記シフトレバーがパーキング位置に切換えられた直後、パーキングブレーキの作動開始後、車速「0」の条件を適宜組み合わせて判定処理をステップS111にて行うようにしてもよい。
d.第1実施形態の第3変形例
次に、上記第1実施形態の第3変形例について説明する。この第3変形例においては、図1に破線で示すように、ケーブル31の回転を検出する回転角センサ61が上記第1実施形態の構成に追加されている。また、この第3変形例においては、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2の検査プログラムに代えて、図12の検査プログラムを実行する。また、この第3変形例においては、詳しくは後述するように、第1および第2電磁クラッチ32,33のうちの少なくとも一方を切断状態に保ったままで第1および第2電磁クラッチ32,33の検査が可能である。したがって、図3の操舵反力プログラムにおいては、ステップS41の判定処理が省略されて、ステップS42〜S45,S47、S48からなる操舵反力制御および操舵アシスト制御の処理が常に実行される。また、図4の転舵制御プログラムにおいても、ステップS51の処理が省略されて、ステップS52〜S62,S64〜S67からなる転舵制御の処理が常に実行される。
このように構成した第3変形例において、検査用ECU46は、イグニッションスイッチの投入後、図12の検査プログラムを所定時間ごとに繰り返し実行する。この検査プログラムの実行はステップS120にて開始され、検査用ECU46は、ステップS121にて、ケーブル31が回転するか否かを判定する。なお、この判定は、操舵ハンドル11の回動操作または左右前輪FW1,FW2の転舵に連動してケーブル31が回転することを判定するものであるので、ある程度長い時間中のケーブル31の回転の有無が判定される。この第3変形例においても、第1および第2電磁クラッチ32,33が正常である場合について最初に説明する。
前記ステップS121の判定時には、第1および第2電磁クラッチ32,33は通常状態である切断状態に設定されているので、操舵ハンドル11が回動操作されて操舵入力軸12が回転しても、転舵用電動モータ22の回転による左右前輪FW1,FW2の転舵に伴って操舵出力軸24が回転しても、ケーブル31は静止状態に保たれる。したがって、検査用ECU46は、ステップS121にて「No」すなわちケーブル61は回転しないと判定して、ステップS122に進む。このステップS121の「No」との判定は、第1および第2電磁クラッチ32,33に誤接続異常が発生していないことを意味する。
ステップS122においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により、第1電磁クラッチ32の通電を解除して第1電磁クラッチ32を切断状態に制御するとともに、第2電磁クラッチ33に通電して、第2電磁クラッチ33を接続状態にそれぞれ制御する。次に、検査用ECU46は、ステップS123にて、ケーブル31が操舵出力軸24と同期して回転するかを判定する。具体的には、回転角センサ61からの検出回転角と、転舵角センサ42からの実転舵角δとを入力して、前記検出回転角と実転舵角δがそれぞれ同期して変化するかを判定する。なお、この判定は、左右前輪FW1,FW2の転舵に連動してケーブル31が回転することを判定するものであるので、ある程度長い時間中のケーブル31および操舵出力軸24の回転の有無が判定される。
いま、第1および第2電磁クラッチ32,33は正常であって、第1電磁クラッチ32は切断状態にあるとともに、第2電磁クラッチ33は接続状態にあるので、ケーブル31は操舵出力軸24と同期して回転する。したがって、この場合には、検査用ECU46はステップS123にて「Yes」すなわちケーブル31は操舵出力軸24と同期して回転していると判定して、プログラムをステップS124に進める。このステップS123の「Yes」との判定は、第2電磁クラッチ33に誤切断状態が発生していないことを意味する。
ステップS124においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により、第1電磁クラッチ32に通電して第1電磁クラッチ32を接続状態に制御するとともに、第2電磁クラッチ33の通電を解除して、第2電磁クラッチ33を切断状態にそれぞれ制御する。次に、検査用ECU46は、ステップS125にて、ケーブル31が操舵入力軸12と同期して回転するかを判定する。具体的には、回転角センサ61からの検出回転角と、操舵角センサ41からのハンドル操舵角θhとを入力して、前記検出回転角とハンドル操舵角θhがそれぞれ同期して変化するかを判定する。なお、この判定は、操舵ハンドル11の回動操作に連動してケーブル31が回転することを判定するものであるので、ある程度長い時間中のケーブル31および操舵入力軸12の回転の有無が判定される。
いま、第1および第2電磁クラッチ32,33が正常であって、第1電磁クラッチ32は接続状態にあるとともに、第2電磁クラッチ33は切断状態にあるので、ケーブル31は操舵入力軸12と同期して回転する。したがって、この場合には、検査用ECU46はステップS125にて「Yes」すなわちケーブル31は操舵入力軸12と同期して回転していると判定する。このステップS125の「Yes」との判定は、第1電磁クラッチ33に誤切断状態が発生していないことを意味する。
次に、検査用ECU46は、上記第1実施形態の場合と同様に、ステップS128にて異常フラグMBFを“0”に設定し、ステップS127にて異常フラグMBFを転舵用ECU48に出力し、ステップS128にて第1および第2電磁クラッチを切断状態に制御して、ステップS129にてこの検査プログラムの実行を一旦終了する。
一方、第1および第2電磁クラッチ32,33のいずれか一方に誤接続異常が発生していると、第1および第2電磁クラッチ32,33が共に切断状態に制御されていても、ケーブル31は、操舵ハンドル11の回動操作または左右前輪FW1,FW2の転舵に連動して回転する。したがって、この場合には、ステップS121にて「Yes」すなわち第1または第2電磁クラッチ32,33が誤接続異常であると判定して、ステップS130,S131の処理を実行する。これらのステップS130,S131の処理は上記第1実施形態の図2のステップS29,S30の処理と同じであり、これらのステップS130,S131の処理により、異常フラグMBFが“2”に設定されるとともに、誤接続異常の警報が発せられる。
また、第2電磁クラッチ33に切断異常が発生していれば、第2電磁クラッチ33が接続状態に制御されていても、ケーブル31は、左右前輪FW1,FW2の転舵に連動して回転しない。また、第1電磁クラッチ32に切断異常が発生していれば、第1電磁クラッチ32が接続状態に制御されていても、ケーブル31は、操舵ハンドル11の回動操作に連動して回転しない。したがって、これらの場合には、ステップS123またはステップS125にて「No」すなわち第1または第2電磁クラッチ32,33が誤切断異常であると判定して、ステップS132〜S134の処理を実行する。これらのステップS132〜S134の処理は上記第1実施形態の図2のステップS26〜28の処理と同じであり、これらのステップS132〜S134の処理により、異常フラグMBFが“1”に設定され、誤切断異常の警報が発せられ、エンジン制御装置55に速度制限信号が出力される。
そして、このような第3変形例においては、前述したステップS41,S51の処理の省略により、操舵反力用ECU47および転舵用ECU48は検査用ECU46による第1および第2電磁クラッチ32,33の異常の検査を待つことなく、上記第1実施形態と同様な操舵反力制御(または操舵アシスト制御)および転舵制御を行う。
前記のように、この第3変形例によれば、第1および第2電磁クラッチ32,33の異常の検査中においても、第1および第2電磁クラッチ32,33の少なくともいずれか一方は常に切断状態に保たれている。したがって、上記第1実施形態、ならびにその第1および第2変形例のように、第1および第2電磁クラッチ32,33の異常の検査中に、操舵反力用ECU47による操舵反力制御(または操舵アシスト制御)および転舵用ECU48による転舵制御を中断させる必要がない。その結果、この第3変形例によれば、車両の走行中にも、第1および第2電磁クラッチ32,33の異常を簡単かつ的確に検査できる。
e.第1実施形態のその他の変形例
上記第1実施形態、その第1および第2変形例においては、回転角センサ43によって検出される回転角θm1に基づいて操舵反力用電動モータ13、操舵ハンドル11および操舵入力軸12の回転を検出するとともに、回転角センサ44によって検出される回転角θm2に基づいて転舵用電動モータ22および操舵出力軸24の回転、ラックバー21の軸線方向の変位、ならびに左右前輪FW1,FW2の転舵を検出するようにした。しかし、これらの回転角θm1,θm2に代えて、操舵角センサ41および転舵角センサ42によってそれぞれ検出されるハンドル操舵角θhおよび実転舵角δを用いるようにしてもよい。
また、上記第1実施形態およびその各種変形例においては、操舵入力軸12と操舵出力軸24とを接続する中間部材としてケーブル31を採用して、操舵入力軸12と操舵出力軸24との動力伝達をケーブル31の回転(またはねじれ)によって実現するようにした。しかし、これに代えて、操舵入力軸12と操舵出力軸24の軸線回りの回転力を引張り力に変換する変換機構を操舵入力軸12と操舵出力軸24の各接続端側にそれぞれ設け、両変換機構を引張り力を伝達可能とするケーブルを中間部材として採用するようにしてもよい。この場合、前記第3変形例においては、回転角センサ61の回転角の検出に代え、ケーブルの引張り量を検出するセンサを利用するとよい。また、操舵入力軸12および操舵出力軸24と同軸回りに回転可能な回転シャフトを操舵入力軸12および操舵出力軸24との間に配置して、同回転シャフトを中間部材として採用するようにしてもよい。
f.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態は、上記第1実施形態の中間部材としてのケーブル31を省略して、操舵入力軸12と操舵出力軸24とを選択的に接続または切断可能な単一の電磁クラッチ62を備えている。また、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2の検査プログラムに代えて図14の検査プログラムを実行する。また、転舵用ECU48は、後述するように、図4の転舵制御プログラムの一部のみを変更した転舵制御プログラムを実行する。他の部分については、上記第1実施形態と同様である。
この第2実施形態においても、検査用ECU46は、イグニッションスイッチの投入直後に、検査用プログラムの実行を1回だけ行う。この検査用プログラムの実行は、図14のステップS200にて開始され、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2のステップS11と同様なステップS201の処理により、操舵反力用電動モータ13をロック状態に制御する。次に、検査用ECU46は、ステップS202にて、駆動回路51との協働により電磁クラッチ62に通電して、電磁クラッチ62を接続状態に制御する。
前記ステップS201の処理後、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2のステップS13と同様なステップS203の処理により、駆動回路53と協働して、所定の短時間だけ転舵用電動モータ22を駆動制御するとともに、回転角センサ44から回転角θm2を表す信号を入力して、転舵用電動モータ22の回転の有無を検査する。そして、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2のステップS14と同様なステップS204の処理により、前記ステップS203の検査によって転舵用電動モータ22の回転が検出されたかを判定する。
この第2実施形態においても、電磁クラッチ62が正常である場合について説明する。この場合、電磁クラッチ62はステップS202の処理によって接続状態にあり、前記ステップS201の操舵反力用電動モータ13のロック制御によって操舵入力軸12の回転変位は禁止されているので、操舵出力軸24の回転変位およびラックバー21の変位も禁止されている。したがって、転舵用電動モータ22は回転することはなく、ステップS204にて「No」と判定され、プログラムはステップS205に進められる。なお、前記ステップS204における「No」との判定は、電磁クラッチ62に誤切断異常が発生していないことを意味する。
ステップS205においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により、電磁クラッチ62の通電を解除して、電磁クラッチ62を切断状態に制御する。次に、検査用ECU46は、前記ステップS203の処理と同様なステップS206の処理により、転舵用電動モータ22を駆動制御した状態で、転舵用電動モータ22の回転の有無を検査する。そして、検査用ECU46は、ステップS207にて、前記ステップS206の検査により、転舵用電動モータ22の回転が検出されたかを判定する。この場合、電磁クラッチ62は切断状態にあって、転舵用電動モータ22は回転するので、ステップS207にて「Yes」と判定してプログラムをステップS208に進める。なお、前記ステップS207における「Yes」との判定は、電磁クラッチ62に誤接続異常が発生していないことを意味する。
ステップS208においては、検査用ECU46は、電磁クラッチ62の正常および異常状態を表す異常フラグMBFを電磁クラッチ62の正常を表す値“0”に設定して、ステップS209〜S211の処理後、ステップS212にてこの検査プログラムの実行を終了する。ステップS209においては、検査用ECU46は、上記第1実施形態の図2のステップS22の処理と同様に、駆動回路52との協働により操舵反力用電動モータ13に対する通電を解除して操舵反力用電動モータ13のロック状態を解除する。ステップS210においては、検査用ECU46は、駆動回路51との協働により電磁クラッチ62の通電を解除して、電磁クラッチ62を切断状態に設定する。ステップS211においては、検査用ECU46は、前記“0”に設定された異常フラグMBFを転舵用ECU48に出力するとともに、検査終了信号を操舵反力用ECU47および転舵用ECU48にそれぞれ出力する。
そして、この第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、操舵反力用ECU47は、上記図3の操舵反力制御プログラムのステップS41〜S45の処理により、操舵ハンドル11の操舵操作に対して上記第1実施形態の場合と同様な操舵反力を付与する。また、転舵用ECU48は、上記図4の転舵制御プログラムのステップS51〜S62の実行により、操舵ハンドル11の操舵操作に応じて上記第1実施形態の場合と同様に左右前輪FW1,FW2を転舵する。
ただし、転舵用電動モータ22および駆動回路53からなる転舵制御系に異常が発生した場合には、転舵用ECU48は、図4のステップS64,S65の処理により、上記第1実施形態と同様に、転舵フェイルフラグSTFを操舵用反力用ECU46に出力するとともに、転舵用電動モータ22の作動を停止制御する。そして、この場合には、転舵用ECU48は、図4のステップS66の処理を一部変更した処理により、電磁クラッチ62に通電して電磁クラッチ62を接続状態に制御する。また、操舵反力用ECU47は、上記第1実施形態の場合と同様に、図3のステップS41〜S43、S47,S48の処理により、操舵ハンドル11の操舵操作をアシスト制御する。したがって、電磁クラッチ62に異常が発生していなければ、操舵反力用電動モータ13および転舵用電動モータ22は上記第1実施形態の場合と同様に制御され、この第2実施形態の操舵装置も上記第1実施形態の場合と同様に動作する。
一方、電磁クラッチ62に誤切断異常が発生していれば、ステップS202の処理によって電磁クラッチ62が接続状態に制御されていても、電磁クラッチ62は切断状態に保たれて操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達可能に連結されない。したがって、この場合には、ステップS204にて「Yes」すなわち電磁クラッチ62が誤切断異常であると判定して、ステップS213〜S215の処理を実行する。これらのステップS213〜S215の処理は上記第1実施形態の図2のステップS26〜28の処理と同じであり、これらのステップS213〜S215の処理により、異常フラグMBFが“1”に設定され、誤切断異常の警報が発せられ、エンジン制御装置55に速度制限信号が出力される。その結果、エンジン制御装置は、上記第1実施形態の場合と同様に、車両を減速制御または停止制御する。
また、電磁クラッチ62に誤接続異常が発生していると、電磁クラッチ62がステップS205の処理によって切断状態に制御されていても、操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達可能な連結状態に保たれる.したがって、この場合には、ステップS207にて「No」すなわち電磁クラッチ62が誤接続異常であると判定して、ステップS216,S217の処理を実行する。これらのステップS216,S217の処理は上記第1実施形態の図2のステップS29,S30の処理と同じであり、これらのステップS216,S217の処理により、異常フラグMBFが“2”に設定されるとともに、誤接続の警報が発せられる。
そして、この場合には、上記第1実施形態の場合とは異なり、電磁クラッチ62は1つしか設けられていないために、操舵入力軸12と操舵出力軸24は動力伝達可能な連結状態にある。したがって、この場合には、上記第1実施形態の図4のステップS57にて「Yes」と判定された時点で、ステップS67の処理に代えて、ステップS64,S65の処理を実行して、転舵フェイルフラグSTFを操舵用反力用ECU46に出力するとともに、転舵用電動モータ22の作動を停止制御する。そして、この場合には、前述したように、操舵反力用ECU47が、操舵ハンドル11の操舵操作をアシスト制御するようになる。
上記作動説明からも理解できるように、上記第2実施形態においては、図14の検査プログラムを実行して、操舵反力用電動モータ13の回転を禁止すなわち操舵入力軸12の回転変位を禁止した状態で、電磁クラッチ62を接続状態または切断状態に切換えて、転舵用電動モータ22を回転制御すなわち操舵出力軸24およびラックバー21を駆動制御し、転舵用電動モータ22の回転すなわち操舵出力軸24およびラックバー21の変位を検出することにより、電磁クラッチ62の誤切断異常および誤接続異常が検出される。したがって、上記第2実施形態によっても、電磁クラッチ62の誤切断異常および誤接続異常を簡単かつ的確に検出できるようになる。また、この異常の検出においては、操舵入力軸12の回転を禁止しているので、操舵ハンドル11が異常検出中に回転することはなく、運転者に違和感を与えずに、電磁クラッチ52の異常を判定できる。
なお、前記操舵ハンドル11の回転を問題にしなければ、操舵出力軸24およびラックバー21の変位を禁止して、操舵入力軸12の回転変位の有無によって電磁クラッチ62の誤切断異常および誤接続異常を判定するようにしてもよい。この場合、図14の検査プログラムにおいて、ステップS201の処理により転舵用電動モータ22をロック状態に制御し、ステップS203,S204,S206,S207の処理において操舵反力用電動モータ13を駆動制御してその回転を検出するようにすればよい。
g.第2実施形態の第1変形例
次に、上記第1実施形態の第1変形例のように、左右前輪FW1,FW2が縁石などによって転舵不能になった場合の電磁クラッチ62の異常の誤判定を回避するように、上記第2実施形態を変形した第2実施形態の第1変形例について説明する。この第1変形例においては、検査用ECU46は、図14の検査プログラムの一部を変更した図15の検査プログラムを実行する。
この第1変形例においては、ステップS204とステップS205との間にステップS221〜S223処理が挿入されている。ステップS221においては、検査用ECU46は、上記第1実施形態の第1変形例の場合と同様に、所定の短時間だけ操舵反力用電動モータ13に駆動制御して、操舵反力用電動モータ13の回転の有無を検査する。なお、この場合も,前記操舵反力用電動モータ13の回転方向は、この操舵反力用電動モータ13の回転により左右前輪FW1,FW2が転舵される方向と、図14のステップS203の転舵用電動モータ22に回転制御により左右前輪FW1,FW2が転舵される方向とが一致する方向である。そして、ステップS222にて、前記ステップS221の検査により、操舵反力用電動モータ13の回転が検出されたかを判定する。また、ステップS223の処理は図14のステップS201の処理と同様な処理であり、これにより、ステップS221の処理によってロック解除された操舵反力用電動モータ13が再度ロック状態に制御される。
このステップS221,S222の処理の追加により、ステップS204にて「No」すなわち転舵用電動モータ22が回転しなかったと判定されても、ステップS221の処理によって操舵反力用電動モータ13が回転したことが検出されれば、ステップS222にて「Yes」すなわち電磁クラッチ62に誤切断異常が発生していることが判定されて、上記第2実施形態と同様なステップS213〜S215の処理が実行される。これは、電磁クラッチ62が切断状態にあっても、左右前輪FW1,FW2が縁石などに当たっていて転舵不能状態である場合には、上記第2実施形態の場合には誤切断異常なしと判定されてしまうからである。これに対して、操舵反力用電動モータ13の回転により、左右前輪FW1,FW2を転舵不能な方向に転舵しようした場合に、操舵反力用電動モータ13が回転すれば、電磁クラッチ62が切断状態にあることが検出される。したがって、このステップS221,S222の追加により、電磁クラッチ62の誤切断判定がより正確に行われるようになる。
また、この第1変形例においては、図2のステップS207にて「No」すなわち転舵用電動モータ22が回転しなかったことが判定された場合にも、前記ステップS221,S222と同様なステップS224,S225の処理が実行されるようにしている。そして、ステップS224の処理により操舵反力用電動モータ13の回転が検出されなかったときにのみ、ステップS225にて「No」との判定のもとにステップS216,S217の電磁クラッチ52の誤接続処理が実行されるようにしている。
これは、電磁クラッチ62が切断状態にあっても、左右前輪FW1,FW2が縁石などに当たっていて転舵不能状態である場合には、上記第2実施形態の場合には誤接続異常と判定されてしまうからである。これに対して、操舵反力用電動モータ13の回転により、左右前輪FW1,FW2を転舵不能な方向に転舵しようした場合に、操舵反力用電動モータ13が回転すれば、電磁クラッチ62が切断状態にあることが検出される。この状態は、電磁クラッチ62の誤接続状態でないので、これらのステップS224,S225の追加により、電磁クラッチ62の誤接続判定がより正確に行われるようになる。
また、この第1変形例において、ステップS221,S224の操舵反力用電動モータ13の駆動制御前に、転舵用電動モータ22を上記図14のステップS201と同様な処理によりロック状態に制御しておくようにしてもよい。これによれば、ステップS221,S224の処理による操舵反力用電動モータ13の回転方向を問題にする必要はない。
h.第2実施形態のその他の変形例
上記第2実施形態およびその第1変形例においては、検査プログラムをイグニッションスイッチの投入直後に1回だけ行うようにした。しかし、これに代えて、上記第1実施形態の第2変形例のように、シフトレバーをパーキング位置に切り換えたり、運転者がパーキングブレーキを操作したり、車速Vが「0」に変化したことを条件に、検査用ECUが図14または図15の検査プログラムを実行して、電磁クラッチ62の検査が実行されるようにしてもよい。また、イグニッションスイッチの投入直後、前記シフトレバーがパーキング位置に切換えられた直後、パーキングブレーキの作動開始後、車速「0」の条件を適宜組み合わせて、電磁クラッチ62が検査されるようにしてもよい。
また、上記第2実施形態および第1変形例においては、回転角センサ43によって検出される回転角θm1に基づいて操舵反力用電動モータ13、操舵ハンドル11および操舵入力軸12の回転を検出するとともに、回転角センサ44によって検出される回転角θm2に基づいて転舵用電動モータ22および操舵出力軸24の回転、ラックバー21の軸線方向の変位、ならびに左右前輪FW1,FW2の転舵を検出するようにした。しかし、これらの回転角θm1,θm2に代えて、操舵角センサ41および転舵角センサ42によってそれぞれ検出されるハンドル操舵角θhおよび実転舵角δを用いるようにしてもよい。
さらに、本発明は上記第1および第2実施形態、ならびにそれらの変形例に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
例えば、上記第1および第2実施形態、ならびにそれらの変形例においては、操舵ハンドル11として回動操作されるものを採用した。しかし、この操舵ハンドル11に代えて、例えばジョイスティックなどのように直線的な操作により左右前輪FW1,FW2を転舵させる操舵ハンドルを利用した車両の操舵装置にも本発明は適用される。
11…操舵ハンドル、12…操舵入力軸、13…操舵反力用電動モータ、21…ラックバー、22…転舵用電動モータ、24…操舵出力軸、31…ケーブル、32,33,62…電磁クラッチ、41…操舵角センサ、42…転舵角センサ、43,44,61…回転角センサ、45…車速センサ、46…検査用ECU,47…操舵反力用ECU、48…転舵用ECU、55…エンジン制御装置