JP4242985B2 - イソフタレート系ポリエステルの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融重合により十分な分子量(重合度)を有するエチレンイソフタレート系ポリエステル、特に固有粘度が1.2以上のポリエチレンイソフタレート、を効率的に製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンイソフタレート(以下、PEIと略称することがある)は、低結晶性で、かつポリエチレンテレフタレート(PET)と構造異性体の関係にあることより、PETとのブレンド性が良好で、種々のブレンド比の改質ポリエステルを調製することができる。近年、PEIの分子骨格に由来するPEI固有の特徴である高ガスバリア性、低延伸性、耐湿熱性、低結晶性等を応用したPETとの相溶ブレンド及び/又は共重合体が不織布、枕や寝装用の詰め物等を構成する繊維を接着するためのホットメルト型バインダー繊維、抗ピリング性繊維として、また、ガスバリア性フィルム、各種容器用の有用な素材としてクローズアップされるようになった。
【0003】
しかしながら、PEIは分子構造上、従来のポリエステル重合法ではその重合度をPETのように増大させるのが困難という問題があり、素材として単独での使用に適する十分な重合度を有していない。従って、この問題を解決し、高重合度のPEIを工業的に製造することができれば、PETには無い優れたガスバリア性、高圧縮強度、耐湿熱性を備えた高性能素材を提供することが可能となると思われる。
【0004】
従来、このPEIは、その異性体であり民生用・産業資材用として幅広く使用されるPETとほぼ同様の方法、すなわち、イソフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応又はイソフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル交換反応で得られたビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマー(低重合物)を高真空下に加熱・溶融状態で重縮合する方法により製造されている。これはポリエステルであるPEIの重合法として最も簡便かつ一般的な方法であるが、同時にイソフタル酸を使用することによる副反応が避けられない。すなわち、1,3-ベンゼンジカルボン酸であるイソフタル酸は、テレフタル酸と異なり分子構造が非対称であるため、重縮合反応の初期に環状二量体(エチレンイソフタレート・サイクリックダイマー)を形成しやすく、これが昇華して反応釜内に付着し減圧系を閉塞させて減圧不良にしたり、払い出し時に製品中に混入して異物の原因になるという問題がある。また、二量体形成は重縮合反応との競争であり、事実上、重合速度及び/又は生成ポリマーの重合度を低下させ、かつ二量体やオリゴマーを増加する大きな要因となる。更に、ポリマー中に残存する二量体やオリゴマーは生成ポリマーの品質を劣化し、特にこれが成形品の表面にブリードアウトすると白濁した斑点を生じ、製品としての外観上の価値を著しく低下させる。
【0005】
従来、これらの問題を解決する方法として、例えば、特開昭59−64625号及び特開昭59−64631号には、プロトン酸触媒としてPkaが2.5以下のアルキル又はアリールカルボン酸や鉱酸を、また固有粘度変性剤として多価ジオールを使用することで、生成ポリマーの環状ダイマー含有率を5重量%以下に低減できることが開示されている。しかしながら、これらの方法で得られるポリマーの固有粘度は高々0.7程度であり、また、重合に5〜8時間も必要とするため、重合促進法としては優れたものとは言えない。更に、触媒として使用するカルボン酸や固有粘度変性剤である多価ジオールを添加することによるポリマー品質の変化も避けられない。
【0006】
また、特開平06−271658号には、モノマーに特定の脂肪族ジオールを添加、共重合することでも二量体やオリゴマー形成を低減できることが開示されているが、これも重合時間や重合度の点で大きな改善はなく、上記脂肪族ジオール共重合によるPEIの品質変化もあり、好ましいものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ポリエチレンイソフタレートで代表されるイソフタレート系ポリエステルの製造における、これら未解決の問題を解消し、従来公知の工業的なポリエステル製造プロセスを本質的に変えることなく、コスト、生産性の面で実用的であり、かつオリゴマー副生を抑えた、高品質の成形材料として十分な重合度を有するイソフタレート系ポリエステルを製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ポリマー重合中に適当な重合促進剤を添加し、さらにこれを特定の鎖伸長剤で分子量増加して高分子量のPEIを製造する方法について検討した。そして、そのような重合促進剤としては、それ自体高い重合活性を有し、成長ポリマーと共重合する形で重縮合を促進し、しかも一旦ポリマー骨格に組み込まれた後、構造として熱的に不安定で速やかにガス化・脱離して重合系から除去され、同時にその末端がヒドロキシエチル体となるような化合物が適当であること、かかる化合物として蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを重合系に特定量添加した場合には、意外にも、環状オリゴマー生成が抑制され、しかも末端がヒドロキシエチル体となること、更に、重合終了時に蓚酸系活性エステル化合物を鎖伸長剤として添加することによって、このヒドロキシ末端が効率よく鎖伸長され、短時間でPEIの分子量を増加し、高重合度のPEIを製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び又は/又はそのオリゴマーを、ポリエステル繰返し単位の70モル%以上がアルキレンイソフタレート単位となる量にて含むモノマー成分を加熱重縮合することによりイソフタレート系ポリエステルを製造する際に、下記式(1)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキアルキルを、イソフタル酸構造単位に対して1〜30モル%の割合で添加して重縮合反応を行い、該重縮合反応がほぼ終了した段階で下記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を重合混合物に対し0.1〜10モル%の割合で添加して、鎖伸長反応せしめることにより、十分な重合度を有しかつオリゴマー含量が少ない高品質のイソフタレート系ポリエステルを製造する方法に係るものである。
【0010】
【化4】
HO-R-O-C(O)-C(O)-O-R-OH ‥‥(1)
Ar-O-C(O)-C(O)-O-Ar’ ‥‥ (2)
[上記式(1)中のRは、ポリエステルのジオール成分を構成するアルキレン基と同一のアルキレン基であり、式(2)中のAr、Ar’は、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基である。]
【0011】
また、上記のイソフレフタレート系ポリエステルの製造方法において、
(i)蓚酸系活性エステル化合物として、蓚酸ジフェニルを使用することを特徴とする方法、
(ii)イソフタル酸又はイソフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを反応させてビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレートを生成させ、引き続き、これに上記式(1)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキアルキルをイソフタル酸構造単位に対して1〜30モル%添加して重縮合反応を行った後、上記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を、重合混合物に対して0.1〜10モル%の割合で添加して、鎖伸長反応せしめることを特徴とする方法、
(iii)鎖伸長剤添加時のポリマーの固有粘度が0.7〜1.0であり、鎖伸長反応後のポリマーの固有粘度が1.2以上であることを特徴とする方法、並びに、(iv)ビス(2-ヒドロキアルキル)イソフタレートがビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートであり、重合促進剤の蓚酸ビス-2-ヒドロキアルキルが下記式(1a):
HO-CH2CH2-O-C(O)-C(O)-O-CH2CH2-OH ‥‥(1a)
で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルであって、得られるイソフタレート系ポリエステルがポリエチレンイソフタレートであることを特徴とする方法、も本発明に包含される。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明で言う「イソフタレート系ポリエステル」とは、主たるジカルボン酸成分がイソフタル酸であり、主たるジオール成分がアルキレンジオールであるホモ又はコポリエステルを総称する。その代表的なポリエステルは、ポリエチレンイソフタレート(PEI)であるが、ポリエステル繰返し単位の70モル%以上がアルキレンイソフタレート単位であれば、他の共重合成分を含むコポリエステルであってもよい。
【0013】
本発明の方法では、モノマー成分であるビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを、必要に応じ添加する他の共重合モノマーと共に、適当な重合触媒の存在下で、高真空下に加熱重縮合することによってイソフタレート系ポリエステルを製造する際に、実質的に重縮合の開始前に、重合促進剤兼末端ヒドロキシル化剤として上記式(1)の蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルをイソフタル酸構造単位に対して1〜30モル%添加することによって、重縮合時の環状二量体の形成を抑制し重縮合反応を促進すると共に、溶融重合体のポリマー中のカルボキシ末端を低減させてヒドロキシル末端を増加させる。そして、重縮合反応が実質的に終了した時点で、下記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を鎖伸長剤として重合混合物に対し0.1〜10モル%の割合で添加・鎖伸張反応させ該ポリエステルの分子量を増加することによって、十分な重合度(例えば固有粘度[η]にして1.2以上)を有するイソフタレート系ポリエステルを製造する。
【0014】
従って、本発明方法によりポリエチレンイソフタレート(PEI)を製造する場合は、原料としてビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを使用し、重合促進剤兼末端ヒドロキシル化剤として上記式(1a)の蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを使用して、上記の重縮合反応を実施した後、上述のように鎖伸長反応させる。
【0015】
本発明方法で反応に供するビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーは、常法によって得ることができるが、具体的には例えば次のようにして製造することができる。
(1)充填塔を備えた反応釜にイソフタル酸とアルキレンジオールとをモル比1.5〜3.5のスラリ状として仕込み、常圧下に内温200〜250℃、塔頂温度120〜150℃で副生する水を系外に除去しながら所定の反応率になるまでエステル化反応を行う。
(2)充填塔を備えた反応釜にイソフタル酸ジメチルとアルキレンジオールとをモル比1.5〜3.5で仕込み、エステル交換触媒としてマンガン、錫、亜鉛、チタン等の金属化合物を添加し、常圧下に内温を150℃〜200℃に昇温しつつ70〜100℃の充填塔で副生するメタノールを系外に除去しながら所定の反応率になるまでエステル交換反応を行う。
【0016】
本発明方法では、このようにして得られたビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーに対して、重合促進剤(兼末端ヒドロキシル化剤)として上記式(1)のビス-2-ヒドロキシアルキルを特定量添加した後、昇温・減圧し、該ポリエステルの構成成分であるアルキレングリコールの沸点以上の温度において、約133kPa(1mmHg)以下の高度の減圧下で所定の固有粘度のポリマーとなるまで、通常3〜4時間、重縮合反応を行う。
【0017】
ここで添加する蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルは、蓚酸ジメチル等の蓚酸ジエステルを適当なエステル交換触媒存在下に所定量のアルキレンジオール(ただし、ポリエステルを形成するアルキレンジオールと同種のもの)を添加し、120〜150℃に加熱、エステル交換することにより製造することができる。
【0018】
ここで蓚酸ジエステルとしては、炭素数1〜12のアルコール又はフェノールのジエステルが使用可能であり、具体的には、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn-プロピル、蓚酸ジイソプロピル、蓚酸ジブチル、蓚酸ジペンチル、蓚酸ジヘキシル、蓚酸ジヘプチル、蓚酸ジオクチル、蓚酸ジノニル、蓚酸ジデシル、蓚酸ジウンデシル、蓚酸ジドデシル、蓚酸ジフェニル、蓚酸ジナフチル等を用いることができ、なかでも、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジフェニル等を好ましく用いることができる。
【0019】
この蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルの添加量は、イソフタル酸構造単位に対して1〜50モル%とする必要があり、特に3〜30モル%が好ましい。ここで「イソフタル酸構造単位」とは、ポリマー骨格に組み込まれるイソフタル酸単位のことであって、上記ビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート又はそのオリゴマーのイソフタル酸単位に相当する。換言すれば、このモル数は、原料モノマーとしてイソフタル酸自身を用いるときはそのモル数に対する百分率に対応し、イソフタル酸エステルを用いるときはそのエステルのモル数に対するモル百分率に対応する。
【0020】
本発明方法では、イソフタル酸構造単位に対する蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルの添加量が1モル%未満であると重縮合反応時に環状体の形成が十分に抑制されず、所望の重合促進効果を得ることができない。また、添加量が50モル%より多くなると重合促進剤の除去のためにかえって重縮合に長時間を要するのみならず、重合促進剤の除去自体が困難となり、ポリマー中に蓚酸骨格が残存し易くなる。本発明における好ましい添加量は、イソフタル酸構造単位に対して3〜30モル%の範囲である。蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルの添加時期は、重縮合反応前が好適であるが、一部の反応が開始した段階でも差し支えない。
【0021】
本発明方法は、予め、重縮合反応でモノマーとなるビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマー(低重合物)を製造しておき、これを用いて上記の重縮合反応及び鎖伸長反応を実施してもよいが、工業的には、ビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーの生成反応と上記の重縮合反能とを併合又は直結して一工程又は一連の工程で実施する方が効率的である。後者の場合は、イソフタル酸又はその低級アルキルエステルを出発原料とし、これらを反応させてビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートを生成させた後、引き続いて、上述のような重縮合反応を実施しても差し支えない。
【0022】
重縮合反応は、通常、触媒の存在下で行なわれる。重縮合反応触媒としては、アンチモン、ゲルマニウム、錫、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マンガン、コバルト、ニッケル等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、オルソ-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物が好ましく用いられる。触媒添加量は、酸成分1モルに対して1×10-5〜1×10-2モル、好ましくは5×10-5〜5×10-3モルが適当である。
【0023】
重縮合反応に際して、その簡便化、プロセス改良等のために各種の添加剤を加えることができる。かかる添加剤の例としては金属又はその塩、包接化合物、キレート剤、有機金属化合物等をあげることができる。また、ポリマーの品質向上のための抗酸化剤、安定剤として例えばヒンダードフェノール化合物のようなラジカル捕捉剤、あるいは、蛍光剤吸収剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタン、カーボンブラックのような顔料等の添加物をポリマーに含有させてもよい。更に、必要に応じ、タルク、アルミナ等の滑剤、結晶化調節剤を添加することも出来る。
【0024】
本発明方法では、上記重縮合反応の終了時又はその近傍において、鎖伸長剤として蓚酸系活性エステル化合物を添加する。すなわち、重縮合反応が実質的に終了した段階で、鎖伸長剤である蓚酸系活性エステル化合物を反応系に添加し、更に5分〜30分程度重縮合反応を継続することで該ポリエステルの分子量を増加させる。
【0025】
この蓚酸系活性エステル化合物は、上記式(2)で表される蓚酸ジアリールエステルである。上記式(2)において、Ar及びAr’はそれぞれ相異なるか、もしくは互いに同一の、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基を示し、具体的には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、1-ビフェニル、2-ビフェニル、4-メチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-エチルフェニル、4-エトキシフェニル、4-フェノキシフェニル、4-ニトロフェニル、4-クロロフェニル、4-ブロモフェニル、4-フルオロフェニル、4-ヨードフェニル、2-ニトロフェニル、2-メチルフェニル、2-メトキシフェニル、2-エチルフェニル、2-エトキシフェニル、2-フェノキシフェニル、3-メチルフェニル、3-メトキシフェニル、3-エチルフェニル、3-エトキシフェニル、3-フェノキシフェニル、2,3,5,6-テトラメチルフェニル等を例示することができる。Ar、Ar’としては、上記のうちフェニル、4-メチルフェニル等が好ましく、両者が互いに同一であることが好ましい。
【0026】
これらの蓚酸系活性エステル化合物も、蓚酸ジメチル等の蓚酸ジエステルを適当なエステル交換触媒存在下に、所定量の上記Ar,Ar’基を有するヒドロキシアリール化合物と120〜150℃に加熱、エステル交換することにより得ることができる。
【0027】
ここで、蓚酸系活性エステル化合物の原料となる蓚酸エステルとしては、炭素数1〜12のアルコール又はフェノールのジエステルを使用することができ、具体的には、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn-プロピル、蓚酸ジイソプロピル、蓚酸ジブチル、蓚酸ジペンチル、蓚酸ジヘキシル、蓚酸ジヘプチル、蓚酸ジオクチル、蓚酸ジノニル、蓚酸ジデシル、蓚酸ジウンデシル、蓚酸ジドデシル等を挙げることができ、なかでも蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル等を好ましく用いることができる。また、ヒドロキシアリール化合物としては、フェノール、メチルフェノール、ナフトール等を挙げることが出来、なかでもフェノールが好ましい。従って、上記式(2)で表わされる蓚酸化合物のなかでも、蓚酸ジフェニルが特に好適である。
【0028】
蓚酸系活性エステル化合物の添加量は、重合混合物のモル量に対し0.1〜10モル%の範囲内とする必要があり、0.5〜5モル%の範囲内が好適である。ここで「重合混合物のモル量」とは、イソフタレート系ポリエステルの重合モノマーと重合促進剤兼末端ヒドロキシル化剤(蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキル)の総モル量を意味する。蓚酸系活性エステル化合物の添加量が重合混合物の0.1モル%未満であるとポリマー鎖伸長の効果が十分ではなく、望む分子量増加効果を得ることができない。また、10モル%より添加量が多くなると鎖伸長剤が過剰となり鎖伸長効果が著しく低下するか、或いは発現しないことになり、また、未反応の鎖伸長剤の除去のために重合に長時間を要するのみならず、上記重合促進剤の除去自体が困難となるため、ポリマー中に異物が残存し易くなる。
【0029】
本発明方法では、上記の重縮合反応をポリマーの固有粘度[η]が0.7〜1.0程度になるまで実施し、その後、重合混合物に鎖伸長剤を添加して重合度を増大させて固有粘度[η]1.2以上のポリマーとなるよう反応させるのが好ましい。
【0030】
なお、ここで言う固有粘度[η]は、ポリマーをEゾル(フェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4))10mlに溶解した溶液から求められる値である。
【0031】
本発明方法により製造されるイソフタレート系ポリエステルは、ポリエチレンイソフタレート(PEI)を代表例として示したが、該ポリエステルを構成するジオール成分として、エチレングルコール以外にも、炭素数1〜10の低級アルキレンジオール、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングルコール、ネオペンチレングリコール等を用いることも出来る。これらは単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。また、イソフタレート系ポリエステルとしての性質が本質的に損なわれない範囲で(例えば、イソフタル酸に対し30モル%以下、好ましくは15モル%以下の割合で)他のジカルボン酸成分を共重合してもよい。共重合させるイソフタル酸以外の他のジカルボン成分としては、例えば、テレフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環族ジカルボン酸等を挙げることが出来る。また、P-ヒドロキシ安息香酸のようなオキシ酸等も挙げることが出来る。更に、ジフェニルスルホンを主たる繰り返し単位として含有するポリエーテルスルホン、ジフェニルスルホンとビスフェノールAとの縮合物を主たる繰り返し単位として含有するポリスルホン、ビスフェノールAの炭酸エステルを主たる繰り返し単位として含有するポリカーボネート等を共重合することも出来る。
【0032】
本発明で好適なポリエステルは、ポリエチレンイソフタレート及びそれを主とする共重合体ポリエステルであり、後者の共重合ポリエステルとしては、エチレンイソフタレート繰り返し単位が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは85モル%以上で、残りがエチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート等の共重合体である。
【0033】
上記の方法により、比較的高重合度(固有粘度[η]1.2程度)のイソフタレート系ポリエステルが得られる。得られたポリエステルは、重合容器から取り出して冷却し、チップ化してもよいし、溶融状態のまま次の成形工程に供給してもよい。また、他のポリマーとブレンドして使用してもよい。
【0034】
【発明の効果】
本発明の方法によりイソフタレート系ポリエステルの製造において、環状体の形成を抑制することで重合促進が可能となると同時に、鎖伸長剤が極めて効率よく機能しポリマーの分子量増加が可能となる。
【0035】
その理由については、以下のように考察される。
本発明では、重合促進のコンセプトとして、ポリマー鎖伸長作用に有効であり、かつ重合進行と共にガス化して重合系から消失するような化合物を重合促進剤として使用することに着眼し、そのような重合促進剤として蓚酸エステルである蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルを選択し、この重合促進剤を特定量添加して重縮合反応を行うものである。上記蓚酸エステルは反応活性が非常に高く、触媒の存在下では他のカルボン酸エステルと容易にエステル交換を起こす。
【0036】
従って、PEIの重合においても、通常では環状エステル形成により重合進行が阻害され更に熱分解も加わることでポリマー鎖のCOOH末端が増えるため重合が遅延されが、反応速度の大きな蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを添加すると、これがPEIモノマーと反応することで、PEIモノマー同士の反応による環状エステル化を阻害し、ポリマー成長を促進すると同時に、更に熱分解でCOOH末端となった成長ポリマーとも非常に速く反応するため、再度これをエチレングリコール末端のエステルに戻すことでポリマー成長を加速し分子量向上を促進する。そして、溶融重縮合の進行につれ、PEI骨格に共重合された蓚酸は等モルのエチレングリコールを伴って熱により容易に分解・ガス化しポリマー骨格から離脱し、その部分は末端がヒドロキシエチル構造のPEI連鎖が形成される。そして、この豊富に存在するヒドロキシ末端同士を蓚酸系活性エステル化合物がエステル化・鎖伸長を行うこととなり、最終的なPEIの分子量を大きく増加させることが可能になると考えられる。
【0037】
以上のことから、本発明方法では、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを重合促進剤兼末端ヒドロキシル化剤に用いて重縮合したPEIを、上記の蓚酸系活性エステル化合物で鎖伸長することにより、環状オリゴマーの生成が抑制され、しかも短時間で高分子量、高品質のPEIの製造が可能になったものと考えられる。
【0038】
【実施例】
以下、参考例及び実施例によって本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの実施例は本発明を限定するものではない。なお、例中の「部」は特にことわらない限り「重量部」を表す。
また、表中の[η]は、ポリマーをEゾル(フェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4))10mlに溶解させ、還元粘度を測定し、これより濃度0に外挿して求めた、固有粘度である。
【0039】
[参考例1]
<蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルの合成>
500mlのナスフラスコ中に、蓚酸ジメチル118.17部(1モル)、エチレングリコール66部(1.1モル)及びテトラブトキシチタンの1重量%トルエン溶液0.25mlを加え、窒素雰囲気下で140℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始めるので、反応の様子を見ながら加熱、攪拌を継続する。交換反応が充分に進めば、ほぼ理論量のエチレングリコールが留出するのでそこで操作を終了し、内容物を採取することで目的物である蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを得た。
【0040】
[実施例1]
100mlの三つ口フラスコ中にイソフタル酸ジメチル18.45部(0.095モル)、エチレングリコール14.90部(0.24モル)及びテトラブトキシチタンの1重量%トルエン溶液0.25ml(イソフタル酸に対して約0.03モル%)を加え、窒素雰囲気下で190℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始め、約1時間でほぼ理論量のメタノールが留出し、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートが生成した。
【0041】
次いで、これに蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル0.9部(0.005モル)、を添加し、反応の様子を見ながら30分かけて最終的に220℃に加熱した。そして、水流アスピレータにて減圧し、240℃でV1反応を30分行った。最終的に真空ポンプにて0.1mmHgまで減圧してV2反応に入り、250℃で更に2時間重合した。重合が充分に進みほぼ理論量のエチレングリコールが留出したところで、鎖伸長剤として蓚酸系活性エステル化合物であるジフェニルオキザレート(242.23)0.23g(イソフタル酸に対して1モル%)を加え、更にもう10分減圧下重合を行った後、反応を終了し内容物が温かいうちにサンプリングし、ペレット化することでPEIを得た。
【0042】
ポリマーはNMR測定(TFA/CDCl3)によるポリマー組成定量を行った。また、ポリマーをEゾル(フェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン混合溶媒(重量比6/4))10mlに溶解させ、還元粘度を測定することで固有粘度を求めたところ1.20であった。その結果を表1の実施例1欄に示す。
【0043】
[実施例2〜3]
また、実施例2〜3として、実施例1と同様の操作において、重合促進剤(蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチル)、鎖伸長剤(蓚酸ジフェニル)の添加量を変更し、重合時間を変更してPEIを製造した。これらの条件及びポリマーの特性を表1の実施例2,3欄に示す。
【0044】
[比較例1]
100mlの三つ口フラスコ中にイソフタル酸ジメチル19.42部(0.1モル)、エチレングリコール15.52部(0.25モル)及びテトラブトキシチタンの1重量%トルエン溶液0.25ml(イソフタル酸に対して約0.03モル%)を加え、窒素雰囲気下で190℃に加熱、攪拌を開始した。エステル交換反応の進行につれ、副生するメタノールが留出し始め、約1時間でほぼ理論量のメタノールが留出し、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートが生成した。
【0045】
次いで、これを30分かけて最終的に220℃に加熱した後、系を水流アスピレータにて減圧し、240℃でV1反応を30分行った。最終的に真空ポンプにて0.1mmHgまで減圧してV2反応に入り、250℃で更に2時間重合した。重合が充分に進みほぼ理論量のエチレングリコールが留出したところで反応を終了し、内容物が温かいうちにサンプリング、ペレット化することでPEIを得た。このポリマーを実施例1と同様にNMR測定(TFA/CDCl3)によるポリマー組成定量を行った。また同様にして還元粘度を測定することで固有粘度を求めたところ0.92であった。その結果を表1の比較例1欄に示す。
【0046】
[比較例2〜3]
比較例2〜3として、比較例1と同様の操作により重縮合を実施した後、鎖伸長剤(蓚酸ジフェニル)を添加し、重合時間を操作してPEIの製造を行った。それらの結果を表1の比較例2,3欄に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
以上の実施例及び比較例から、蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルを重縮合時にビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートに添加することで、環状オリゴマーの生成が抑制され、これを蓚酸系活性エステル化合物で鎖伸長することにより、十分な重合度をもち、かつ製品ポリマー中には蓚酸エステルが実質的に残存しない、高重合度、高品質のPEIが比較的短時間の重合で製造可能であることが明らかである。
Claims (5)
- ビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレート及び/又はそのオリゴマーを、ポリエステル繰返し単位の70モル%以上がアルキレンイソフタレート単位となる量にて含むモノマー成分を加熱重縮合することによりイソフタレート系ポリエステルを製造するに際し、下記式(1)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルをイソフタル酸構造単位に対し1〜30モル%の割合で添加して重縮合反応を行い、更に、重縮合反応がほぼ終了した段階で下記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を重合混合物に対し0.1〜10モル%の割合で添加して、鎖伸長反応せしめることを特徴とするイソフタレート系ポリエステルの製造方法。
【化1】
HO-R-O-C(O)-C(O)-O-R-OH ‥‥(1)
Ar-O-C(O)-C(O)-O-Ar’ ‥‥ (2)
[上記式(1)中のRは、ポリエステルのジオール成分を構成するアルキレン基と同一のアルキレン基であり、式(2)中のAr、Ar’は、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基である。] - 蓚酸系活性エステル化合物が、蓚酸ジフェニルである請求項1に記載の製造方法。
- イソフタル酸又はイソフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを反応させてビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレートを生成させ、引き続き、下記式(1)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルをイソフタル酸構造単位に対して1〜30モル%添加して重縮合反応を行い、重縮合反応がほぼ終了した段階で下記式(2)で表わされる蓚酸系活性エステル化合物を重合混合物に対して0.1〜10モル%の割合で添加して、鎖伸長反応せしめることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【化2】
HO-R-O-C(O)-C(O)-O-R-OH ‥‥ (1)
Ar-O-C(O)-C(O)-O-Ar’ ‥‥ (2)
[上記式(1)中のRは、ポリエステルのジオール成分を構成するアルキレン基と同一のアルキレン基であり、式(2)中のAr、Ar’は、互いに同一の又は相異なる、核置換されていてもよい1価の芳香族炭化水素基である。] - 鎖伸長剤添加時のポリマーの固有粘度が0.7〜1.0であり、鎖伸長反応後のポリマーの固有粘度が1.2以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の製造方法。
- ビス(2-ヒドロキシアルキル)イソフタレートがビス(2-ヒドロキシエチル)イソフタレートであり、蓚酸ビス-2-ヒドロキシアルキルが下記式(1a)で表わされる蓚酸ビス-2-ヒドロキシエチルであり、そして、イソフタレート系ポリエステルがポリエチレンイソフタレートである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の製造方法。
【化3】
HO-CH2CH2-O-C(O)-C(O)-O-CH2CH2-OH ‥‥(1a)
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