JP4239247B2 - 加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた加工性を有するTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造技術に関し、特に、優れた加工性のほか、耐食性や溶接性が必要な自動車排気系のパイプやマフラーなどに供されるフェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Tiを含有するフェライト系ステンレス鋼板は、耐食性と溶接性とを兼ね備え、比較的安価であることから、最近、自動車排気系の部材などに使用されるようになってきた。このTi含有フェライト系ステンレス鋼板は、一般に、連続鋳造したスラブに粗圧延−仕上げ圧延からなる熱間圧延を行い、コイルに巻き取り、焼鈍(バッチ式または連続式)により軟質化と均質化をはかった後、冷間圧延、仕上げ焼鈍を行うことによって製造される。
Ti含有フェライト系ステンレス鋼の熱間圧延では、一般には、操業性の観点から、汎用鋼種であるSUS430における圧延方法が踏襲されてきた。SUS430は、Ti含有フェライト系ステンレス鋼板に比べて、固溶状態のC、Nの含有量が多いために、高温強度が高く、圧延負荷は高い。そこで、SUS430の熱間圧延では、圧延負荷軽減のために、スラブ加熱温度を高温にして高温のうちに圧延すること、また、パス回数を多くして1パス当たりの圧下率を小さくして圧延することが肝要であるとされてきた。したがって、Ti含有フェライト系ステンレス鋼においても、このような圧延負荷軽減のための条件が採用されてきた。
【0003】
このような条件で圧延したときに、Ti含有フェライト系ステンレス鋼で最も問題となるのは、1パス当たりの圧下率が小さいために、板厚中央部の帯状組織が十分に分断されず、冷延、仕上げ焼鈍した後の鋼板(冷延焼鈍板)の加工性(例えばr値や伸び)が十分に得られないことであった。
ところで、Ti含有フェライト系ステンレス鋼板の加工性を改善する方法について、これまでにも幾つかの提案がある。例えば、特開昭57−137427号公報には、スラブ加熱温度を低く、仕上げ圧延開始温度を高く、仕上げ圧延終了温度を低くし、さらに仕上げ圧延の圧下率の下限を規定することにより、冷延焼鈍板の加工性を改善する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この方法は、仕上げ圧延中の再結晶により加工性を改善しようとするものであるが、5段スタンド〜7段スタンドのタンデム圧延による通常の仕上げ圧延では、パス間の時間が短いので、十分に再結晶しないという問題があった。
また、特開平 9−194937号公報には、1000℃以上、1100℃以下の温度域で圧下率80%以上の圧延を行い、30秒以上放冷後、仕上げ圧延する方法が記載されている。しかしながら、この方法は、スラブ加熱温度が高い場合には、初期の結晶粒が粗大化し、その後の強圧下でも、結晶粒を十分に微細化できないなどの問題があった。
そこで、この発明は、これら従来技術が抱えていた上記問題点の解決を図るものであり、熱間圧延条件により再結晶の挙動を有利に制御し、従来にない優れた加工性を有するTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造技術を提案することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上掲の目的を達成すべく、Ti含有フェライト系ステンレス鋼の熱延条件について詳細に検討した。その結果、粗圧延と仕上げ圧延とを適正範囲に制御することによって解決できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。その要旨構成は以下のとおりである。
【0006】
(1)C:0.010wt%以下、N:0.010wt%以下、かつ、C+N:0.015wt%以下、Cr:6wt%以上、25wt%以下、Ti:6×(C+N)wt%以上、0.5wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、1160℃以下に加熱して、累積圧下率を85%以上、かつ、最終パス終了温度を950℃以上とする粗圧延を行い、粗圧延で得たシートバーを900℃以上で20秒以上保持し、次いで、累積圧下率を85%以上、かつ、最終パス終了温度を800℃以下、650℃以上とする仕上げ圧延を行い、680℃以下、350℃以上でコイルに巻き取りし、その後、焼鈍、冷間圧延および仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0007】
(2) 上記 (1)に記載の製造方法において、スラブが、上記成分のほかに、さらに
Ni:1.0 wt%以下、
Mo:3.0 wt%以下
の1種または2種を含有することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0008】
(3) 上記 (1)または (2)に記載の製造方法において、粗圧延の少なくとも1パスの圧下率を35%以上として圧延することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0009】
(4) 上記 (1)〜 (3)のいずれか1つに記載の製造方法において、粗圧延の終了から仕上げ圧延の開始までの間に、粗圧延で得たシートバーを、900 ℃以上の温度域で20秒間以上保持することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
発明者らは、先ず、従来技術についてあらためて見直しを行い、従来の熱間圧延方法では、粗圧延での強圧下の程度が不十分であり、帯状組織が分断されていないこと、また、粗圧延後の再結晶に必要な条件が満たされておらず、仕上げ圧延前における再結晶による軟質化が十分にはかられていないことが明らかになった。そして、これらの結果として、仕上げ圧延時の負荷が高くなり、ミルパワーの上限から、仕上げ圧延での強圧下が制限されてしまい、帯状組織は圧延後まで残存し、冷延焼鈍板の加工性を悪化させていることもわかった。
【0011】
そこで、発明者らは、これらの状況を踏まえて、粗圧延および仕上げの圧延における圧延条件を総合的に検討した。そして、詳細な実験の結果、加工性を改善するためには、以下の点について留意する必要があるとの結論に達した。
(1)まず、スラブ加熱温度をできるだけ低くすることにより、加熱中の結晶粒の粗大化を抑制し、初期粒径を小さくすること。 (2)粗圧延では、低温強圧下を行うことにより結晶粒をより微細化しておくこと。 (3)粗圧延後、仕上げ圧延開始までに、再結晶温度以上で十分な時間保持することにより、一旦再結晶組織とすること。 (4)その後の仕上げ圧延でさらに強圧下し、しかも低温域で巻き取りを行うことにより十分な歪みを蓄積すること。 (5)この蓄積歪みにより、熱延板の焼鈍において、再結晶を促進させること。
【0012】
次に、上記項目を実現するための製造条件について、具体的に説明する。
・加熱温度
スラブ加熱温度は、1160℃以下とする。というのは、1160℃を超えると結晶粒が粗大化し、粗圧延後の組織の微細化が阻害され、結果的に、冷延−焼鈍した鋼板の加工性が改善されないからである。熱間圧延が可能な範囲であれば、スラブ加熱温度は低いぼど加工性の向上が大きくなるので、好ましくは、このスラブ加熱温度は1120℃以下とすることが望ましい。
【0013】
・粗圧延
粗圧延は、結晶粒を十分に微細化するために強圧下が有効であり、スラブから粗圧延終了までの累積圧下率を85%以上とすると加工性改善の効果がある。さらに、粗圧延圧下パスのうちの少なくとも1パスは、圧下率35%以上とすると一層高い効果が得られる。
また、粗圧延後にシートバーを再結晶温度以上に保持して、圧延前での再結晶を促進させるためには、本発明に従うTi含有フェライト系ステンレス鋼の再結晶温度が900 ℃以上であることから、粗圧延最終パス終了温度は950 ℃以上とすることが必要である。
そして、再結晶の一層の促進を図るためには、かかる粗圧延終了温度のもとで、仕上げ圧延までに、粗圧延で得たシートバーを900 ℃以上で20秒以上保持することが望ましい。
なお、スラブ加熱温度が低いときに、粗圧延最終パス終了温度を高くするには、粗圧延パスを少なくするか、または粗圧延速度を上げることが必要となるが、今日では熱間圧延ミルの能力が向上されて、従来は不可能であったこのような圧延負荷の高い製造が可能である。
【0014】
図1は、実験室で0.006 wt%C−0.008 wt%N−18wt%Cr−0.3 wt%Tiをベースとしたフェライト系ステンレス鋼を溶製し、1120℃に加熱後、粗圧延するに際し、圧延終了時のシートバー厚さを変えて累積圧下率を変化させ、また、圧延終了温度を850 ℃から1000℃の範囲で変えて、その温度で20秒間保持した後、直ちに水冷した鋼板の組織中の再結晶率を調べたものである。
図1から、圧延終了温度を950 ℃以上とし、かつ累積圧下率を85%以上とすることにより、50%以上の再結晶組織が得られることが分かる。
【0015】
・仕上げ圧延
このような粗圧延ののち、仕上げ圧延での圧延条件と巻き取り温度を適正範囲に制御することも、冷延焼鈍板の優れた加工性を発揮させる上で重要である。
すなわち、仕上げ圧延では、終了温度を低くするほど、帯状組織が分断され、また歪みが蓄積し、次工程の焼鈍で再結晶が促進される。このような効果は、仕上げ圧延終了温度が800 ℃を超えると少なくなる。一方、圧延終了温度が650 ℃を下回った場合には、圧延材が硬化し、圧延荷重が著しく大きくなるため、圧下率を大きくした場合に圧延材表面に圧延ロールとの接触による疵が発生する。また、仕上げ圧延では、累積圧下率をできるだけ高くすることにより、帯状組織が分断され、また歪みが蓄積し、次工程の焼鈍で再結晶が促進される。累積圧下率が85%に満たないと、このような効果が期待されなくなる。
よって、仕上げ圧延は、累積圧下率を85%以上とするとともに、最終パス終了温度を800 ℃以下、650 ℃以上とすることが必要となる。なお、本発明においては、粗圧延後に再結晶が行われているため、仕上げ圧延終了温度を800 ℃以下としても、累積圧下率85%以上の圧延は十分可能である。
【0016】
・巻き取り
さらに、仕上げ圧延後の巻き取り温度は、圧延で与えた歪みを解放することなく十分に蓄積させるために、680 ℃以下とすることが必要である。ただし、巻き取りの温度が350 ℃を下回ると、圧延材が著しく硬化し、巻取りが困難になり、無理に巻き取った場合には表面にすり疵が発生することになる。そのため、仕上げ圧延後のコイル巻き取りは、 680℃以下、350 ℃以上の温度範囲で行う必要がある。なお、圧延歪みを十分に蓄積させるための好ましい巻き取り温度は600 ℃以下である。
【0017】
上記工程に続いて行う、熱延板の焼鈍、冷延および仕上げ焼鈍の条件については、常法に従って実施すればよく、特に定める必要はないが、以下の条件が特に推奨される。
熱延板の焼鈍は、800 ℃以上で1分以上保持、冷延は、圧下率65%以上、仕上げ焼鈍は、850 ℃以上で30秒以上保持である。
また、熱延焼鈍後および仕上げ焼鈍後、必要な場合には、酸洗による脱スケールをおこなう。脱スケールは硝酸塩中での電解酸洗などが好適である。
【0018】
以下に、成分組成を限定した理由について説明する。
C:0.010 wt%以下
Cは、加工性に悪影響をおよぼす元素であり、0.010 wt%を超えると、その影響が顕著に現れるので、0.010 wt%以下に限定する。なお、より良好な加工性を得るためには、C含有量は0.005 wt%以下に制限するのが望ましい。
【0019】
N:0.010 wt%以下、かつ、C+N:0.015 wt%以下
Nは、Cと同様に、加工性に悪影響をおよぼす元素であり、0.010 wt%を超えると、その影響が顕著となるので、0.010 wt%以下に限定する。なお、より良好な加工性を得るためには、0.007 wt%以下に制限するのが望ましい。
また、加工性向上の点から、C量とN量の合計量(C+N) は0.015 wt%以下に限定する。
【0020】
Ti:6× (C+N) wt%以上、0.5 wt%以下
Tiは、鋼中のCおよびNを固定し、加工性および溶接性を向上させる元素である。これらの効果は、Tiを6× (wt%C+wt%N) 以上含有させることにより発揮される。しかし、0.5 wt%を超えて添加しても、その効果が飽和するばかりでなく、固溶Tiが鋼の再結晶温度を上昇させて、粗圧延終了後の鋼の軟化を妨げてしまう。よって、Tiは、6× (C+N) wt%以上、0.5 wt%以下の範囲で添加する。なお、粗圧延後の再結晶により、加工性を一層高めるには、Ti含有量は0.3 wt%以下とすることが望ましい。
【0021】
Cr:6wt%以上、25wt%以下
Crは、耐食性を向上させる元素である。この効果は、6wt%未満の含有量では不十分であり、一方、25wt%を超えて添加すると、脆化が生じて実用上の障害となる。よって、Cr含有量は6〜25wt%の範囲に限定する。
【0022】
Ni:1.0 wt%以下、Mo:3.0 wt%以下
NiおよびMoは、いずれも耐食性を向上させるのに有用な元素であり、これらの1種または2種を必要に応じて添加する。しかし、Ni:1.0 wt%、Mo:3.0 wt%を超えて添加しても、その効果が飽和するばかりでなく、製造性および経済性を損なうので、それぞれこれらの値を上限として添加する。
【0023】
以上記載したもの以外の成分は、材質上、不可避的に含まれるものである。このうちSi、Mn、Alは製鋼工程での脱酸に必要な元素であり、通常、それぞれ1.0 wt%以下、1.0wt %以下、0.1 wt%以下の範囲で鋼中に含有される。
【0024】
【実施例】
表1に示す化学組成のフェライト系ステンレス鋼を、連続鋳造により200 mm厚のスラブとし、このスラブを加熱後、表2のイ〜ニに示すパススケジュールと圧下率を採用して、種々の最終パス終了温度で粗圧延した。引き続き、7段からなる仕上げ圧延機を用いて、最終パス終了温度および累積圧下率を変えて圧延し、水冷後、表1の温度でコイルに巻き取った。これらの各圧延条件を表3にまとめて示す。ここで、発明例はすべて、粗圧延から仕上げ圧延に移行するまでの間で、900 ℃以上で30秒間保持された。このようにして得られた熱延板を焼鈍したのち、酸洗、冷延、仕上げ焼鈍および酸洗を施すことにより、0.6 mm厚の冷延鋼板とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
以上の条件によって製造した鋼板について加工性を評価した。評価の方法として、引張り試験の結果から算出される平均r値および伸びを採用した。ここで、r値 (r) および伸び (El )は、圧延方向に対して0度、45度、90度の方向からJIS 13号B形状の引張試験片を採取し、各方向の測定値から、それぞれ、r=(r0 +2×r45+r90)/4およびEl =(El0+2×El45 +El90 ) /4の式により算出した値である。得られたr値および伸びを表3に合わせて示す。表3から明らかなように、本発明に従った成分および工程の組合せで製造した場合には、r値および伸びは良好な値を示し、優れた加工性を有する鋼板が製造可能であることがわかる。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、従来技術では得られなかった優れた加工性を有するTi含有フェライト系ステンレス鋼板を製造することが可能となる。そしてこの鋼板は、厳しい加工性とともに、耐食性、溶接性が求められる自動車排気系のパイプおよびチューブ等に好適に使用でき、産業上優れた効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 18wt%Cr−0.3 wt%Ti鋼における粗圧延後の再結晶率に及ぼす、粗圧延の累積圧下率および終了温度の影響を示したグラフである。
Claims (4)
- C:0.010wt%以下、N:0.010wt%以下、かつ、C+N:0.015wt%以下、Cr:6wt%以上、25wt%以下、Ti:6×(C+N)wt%以上、0.5wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなるスラブを、1160℃以下に加熱して、累積圧下率を85%以上、かつ、最終パス終了温度を950℃以上とする粗圧延を行い、粗圧延で得たシートバーを900℃以上で20秒以上保持し、次いで、累積圧下率を85%以上、かつ、最終パス終了温度を800℃以下、650℃以上とする仕上げ圧延を行い、680℃以下、350℃以上でコイルに巻き取りし、その後、焼鈍、冷間圧延および仕上げ焼鈍を施すことを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 請求項1に記載の製造方法において、スラブの組成が、上記成分のほかに、さらにNi:1.0wt%以下、Mo:3.0wt%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 請求項1または2に記載の製造方法において、粗圧延の少なくとも1パスの圧下率を35%以上として圧延することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法において、粗圧延の終了から仕上げ圧延の開始までの間に、粗圧延で得たシートバーを、900℃以上の温度域で20秒間以上保持することを特徴とする、加工性に優れたTi含有フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
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