JP4186384B2 - 無方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、主として電気機器鉄心材料に用いられる無方向性電磁鋼板、特に低鉄損かつ高磁束密度の無方向性電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電力をはじめとする、エネルギーの節減という、世界的な動きの中、電気機器についても、その高効率化が強く要望されている。また、電気機器を小型化する観点から、特に鉄心材料の小型化に対する要望も高まっている。さらには、環境への配慮から、電気機器における鉄心材料のリサイクル化への対応も急務となっている。
【0003】
この電気機器の高効率化や鉄心材料の小型化には、鉄心の素材となる電磁鋼板の磁気特性を改善することが有効である。ここに、従来の無方向性電磁鋼板の分野では、磁気特性のうち、特に鉄損を低減する手段として、電気抵抗を増加することによって渦電流損を低下させるために、Si、AlおよびMn等の含有量を高める手法が、一般に用いられてきた。しかし、この手法は、磁束密度の低下を免れることができないという、本質的な問題を抱えていた。
【0004】
一方、単にSiやAl等の含有量を高めるだけでなく、併せてCやSを低減すること、あるいは特開昭58−15143号公報に記載されているようにBを添加したり、特開平3−281758号公報に記載されているようにNiを添加したりするなど、合金成分を増加させることも、一般に知られている方法である。これら合金成分を添加する方法では、主に鉄損は改善されるものの、磁束密度の改善効果は小さく満足できるものではなかった。さらに、合金添加に伴って鋼板の硬さが上昇して加工性が劣化するため、この無方向性電磁鋼板を加工して電気機器に使用する場合の汎用性に乏しく、その用途は極めて限定されたものとなっていた。
【0005】
また、製造プロセスを変更し、製品板の結晶方位の集積度合、すなわち集合組織を改善して磁気特性を向上させる方法が、いくつか提案されている。例えば、特開昭58−181822号公報には、Si: 2.8〜4.0 mass%およびAl: 0.3〜2.0 mass%を含む鋼に200 〜500 ℃の温度範囲内で温間圧延を施し、{100 }<UVW >組織を発達させる方法が、そして特開平3−294422号公報には、Si:1.5 〜4.0 mass%およびAl: 0.1〜2.0 mass%を含む鋼を熱間圧延した後、1000℃以上1200℃以下の熱延板焼鈍と圧下率:80〜90%の冷間圧延との組み合わせによって、{100 }組織を発達させる方法が、それぞれ開示されている。
【0006】
しかし、これらの方法による磁気特性の改善効果は、未だ満足できるものではなく、さらには加工性およびリサイクル性にも問題を残していた。つまり、鋼中にある程度以上のAlが含まれていると、まず鋼板の硬さが上昇して加工性が阻害され、また鉄心材料をリサイクルしたり需要家でスクラップ処理する場合に電気炉の電極を傷める、という問題に発展する。
【0007】
さらに、鉄心のリサイクル材を用いてモータのシャフトなどを鋳造する場合、0.1 mass%以上のAlが含まれていると、鋳込み時に溶鋼の表面酸化が進行して粘性が増大し、溶鋼の鋳型内充填性が悪化するために、健全な鋳込みが阻害されることも問題になっていた。
【0008】
ここに、Alをほとんど含まない電磁鋼板は、Si含有量が0.4 mass%程度までの低Si鋼において、主に低コスト化を所期して商品化がなされている。しかしながら、優れた磁気特性、つまり低鉄損かつ高磁束密度が要求される場合、AlはSiとともに鉄損低減に必須の成分であるために、添加することを余儀なくされていた。従って、優れた磁気特性を有する電磁鋼板は、リサイクル性に劣ることが必然であり、この種の電磁鋼板ではリサイクル性の改善策が検討されることもなかったのである。
【0009】
また、リサイクル性を高める有効策として、電磁鋼板の表面に形成される絶縁被膜中のCrを除去することが、特公昭56−36708号および同58−50593号各公報などに開示されているが、通常の絶縁被膜に比べて、耐食性に劣る場合がある等の問題があり、実用化されるに到っていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
かように、磁気特性に優れ、しかも真にリサイクル性に優れる電磁鋼板、すなわちAl含有量が低く、またCrが含まれない絶縁被膜を有する電磁鋼板は、それを実現するための技術が未だ確立していないのである。
【0011】
従って、この発明の目的は、加工性およびリサイクル性に優れるとともに、低鉄損しかも高磁束密度である無方向性電磁鋼板を提供するところにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明の要旨構成は、次の通りである。
(1) Si:1.5 〜4.0 mass%、Mn:0.0050〜2.00mass%およびCu:0.010 〜0.1 mass%を含み、かつC、AlおよびNをそれぞれ、C:0.0050mass%以下、Al:0.030 mass%以下、N:0.0030mass%以下に低減し、残部は鉄および不可避不純物の組成に成り、鋼板の表面にCrを含有しない絶縁被膜を有し、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650+0.025 ×W15/50)T以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0013】
(2) 上記(1) において、さらにSb:0.005 〜0.50mass%を含有することを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0014】
(3) 上記(1) または(2) において、鋼板の硬さが200 HV1以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【0015】
【発明の実施の形態】
さて、電気機器のモータあるいはトランスの効率を高めるためには、これらの銅損や鉄損を低減することが必要であり、銅損および鉄損をともに低減するためには、素材の磁束密度を高めかつ鉄損を低減する必要がある。ところが、一般に鉄損を低減するために添加する、Siなどの比抵抗増加成分は、飽和磁束密度を低下させることから、鉄損および磁束密度を両立させるのは非常に困難であった。この点、集合組織の改善は、鉄損および磁束密度を両立させ得る優れた手段であるが、この手段にも自ずと限界があった。
【0016】
このような状況の下、新たに材料を開発するには、まず素材の鉄損と磁束密度とをいかにバランスさせれば電気機器の高効率化に繋がるか、を知ることが非常に重要になる。そこで、発明者らは、最近一般的に用いられるようになった、500 WのブラシレスDCモータを用いて、この鉄心に種々の素材を適用した際のモータ効率について調査した。ここで、モータ効率とは、DCモータにおける入力に対する出力の比率であり、92%以上であれば極めて高効率と言える。
【0017】
その調査結果を、図1に示すように、鉄損W15/50 が3.2 W/kg以下かつ磁束密度B50が(1.650 +0.025 ×W15/50 )T以上を満足する範囲にある素材を鉄心に適用した場合に、モータ効率が向上することを新たに知見した。これは、素材の鉄損と磁束密度とのバランスを上記の範囲に調整することにより、機器での鉄損と銅損とが高度にバランスした結果である。この知見は、DCモータに限らず、AC誘導モータや小型トランスにおいても基本的には同じである。従って、鉄損および磁束密度が上記した好適範囲を満足することが、新たな材料開発の明確な指針になるのである。
【0018】
次に、上記の知見を踏まえ、鉄損および磁束密度が上記範囲を満足し、さらに加工性およびリサイクル性をも確保し得る、無方向電磁鋼板の成分組成について鋭意検討した。
まず、Alは、従来、磁気特性向上のために必要であるとして添加されてきたが、加工性およびリサイクル性を阻害することから、ここではAlを低減することが肝要である。
【0019】
すなわち、Alは、鋼板の製造工程において、鋼板表面の酸化を促進するために、圧延工程で圧延ロールの磨耗を早めて圧延性を阻害したり、鋼板の硬さを高めるために、需要家が打ち抜き加工する際に金型の劣化を早めて作業時間やコストを増大させる等、加工性に関して不利な成分である。また、電気機器などのスクラップを利用して鋳造を行う場合に、Alが含まれていると、鋳込み時に溶鋼の表面酸化が進行して粘性が増大し、溶鋼の鋳型内充填性が悪化するために、健全な鋳物が得られないことがあり、Alを含むスクラップはリサイクル性に乏しいものになる。
【0020】
従って、加工性およびリサイクル性を向上するには、Alの含有量を低減することが有効になる。しかしながら、一方でAlの低減は、磁気特性、とりわけ鉄損の増大をまねくことになる。しかしながら、発明者らの研究によれば、Alを低減した上で、その他の鋼中成分を適切に調整することにより、加工性およびリサイクル性、そして磁気特性の全てを満足させ得ることが、新たに判明した。
すなわち、発明者らは、数多くの実験結果を解析するうちに、Si量が十分にあり、かつN量が低い場合に、Alをほとんど添加しなくても、良好な鉄損特性が得られることを見出した。そこで、Al量とN量について、系統的にその影響を明らかにするために、以下の実験を行った。
【0021】
まず、成分としてC:0.002 mass%およびMn: 0.20 mass%を基本成分とし、これにSi、NおよびAl量を種々に変化させて含有させた、種々の鋼塊を溶製した。これらの鋼塊を1050℃に加熱し、熱間圧延にて2.3 mmに仕上げ、その後約1000℃で熱延板焼純を施し、焼鈍後の鋼板を酸洗し、冷間圧延にて最終板厚の0.35mmに仕上げたのち、約1000℃×10秒間の再結晶焼鈍を行い製品板とした。これらの製品板から、圧延方向と平行におよび圧延方向と直角に、それぞれサンプルを切り出して、JIS C2550に準拠して鉄損を測定し、その平均の鉄損を求めた。その結果を図2に示すように、Si量が高くかつN量が低い場合にのみ、Alが0.030 mass%以下の範囲でも鉄損が著しく低減されることが、定量的に判明した。
【0022】
上述したように、Si量の高い高級無方向性電磁鋼板では、従来鉄損を改善するために、Alを添加して固有電気抵抗を増加させる手法が採用されてきた。また、Alの添加は、結晶粒成長を抑制する鋼中析出物であるAlN を凝集粗大化させ、結晶粒の成長を促進させる効果もある。これらの効果を得るためには、Alを一定量以上確保することが必要であり、従来Alの含有量は少なくとも0.1 mass%を超える範囲に規制され、通常は0.4 〜1.0 mass%程度で含有されていた。しかし、発明者らの上記実験によれば、従来技術の範囲よりもはるかにAl量を低減した場合でも、N量を規制することにより、Alを含有させた場合と同等以上に良好な集合組織が発達し鉄損特性が向上することが、新たに見出されたのである。
【0023】
このように素材成分において、Nを低減した上でAlの含有量を低減することによって、良好な集合組織が発達する理由については必ずしも明らかではないが、発明者らは、不純物の粒界移動抑制効果に関連づけて以下のように考えている。すなわち、Alを低減することにより、より純鉄に近い結晶格子の配列状態へと近づくため、粒界構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、再結晶に伴う粒成長過程で一部の粒界のみが優先的に移動し、{111 }、{554 }、{321 }など数多くの磁気的に不利な結晶粒の成長が抑制され、{100 }強度が増加する方向への集合組織変化が引き起こされる結果、磁気特性が向上したものと考えられる。特に、十分なSi量を含有し、かつN量を0.0030mass%以下に低減した場合には、AlN 析出物が形成されにくくなる結果、{100 }強度が増加する方向への粒界移動が促進されると考えられる。
【0024】
このように、Alを多量添加することなく集合組織を改善して磁気特性を向上する手法では、Alが減量されるため素材のリサイクル性が改善され、また合金元素の添加量が減少するため飽和磁束密度を高めることができる。併せて、合金元素の添加量が減少されると、鋼板の硬さ上昇が抑制されるから、製品の加工性が確
保されて、汎用電気製品への適用が促進される、利点も得られる。
【0025】
次に、発明者らは、上記のAlおよびNの低減によって、磁気特性、そして加工性およびリサイクル性を共に改善した電磁鋼板について、さらにリサイクル性を高めることを目的として、絶縁被膜からCrを除くことを検討した。まず、Crを含まない絶縁被膜として、樹脂と無機物との混合被膜、無機被膜および樹脂被膜をそれぞれ電磁鋼板に適用したところ、従来のCrを含有する絶縁被膜を適用した場合と比べて、同等かそれ以上の耐食性を得ることができなかった。特に、腐食ばらつきが大きく、安定した耐食性を得ることができなかった。
【0026】
そこで、発明者らは、Alを抑制した鋼板にCrを含まない絶縁被膜を形成した際の耐食性を向上させるためには、鋼中成分として表層の耐食性に関与する微量成分を制御することが効果的ではないかと考え、鋭意検討を重ねたところ、Alを抑制した含Si鋼においてCu量を制御することにより、Crを含まない絶縁被膜の耐食性を向上させ得ることを、新たに知見した。
【0027】
すなわち、表1に示す成分組成の高Al材および低Al材において、それぞれ微量成分としてのCu量を種々に変化させた、種々の鋼塊を溶製して実験に供した。これらの鋼塊は1025℃に加熱し熱間圧延にて2.3 mm厚に仕上げた。その後、1020℃で30sの熱延板焼鈍を施し、焼鈍後の鋼板を塩酸酸洗して脱スケールした後、冷間圧延にて最終板厚の0.35mmに仕上げた。この冷間圧延後、約1000℃×10秒間、露点−30℃で再結晶焼鈍を行った。次いで、これらの焼鈍板に、Crを含有しない絶縁被膜とCrを含有する絶縁被膜とを、それぞれロールコータで目付量1.0 g/m2 で塗布したのち、200 〜300 ℃で焼付け処理を行った。なお、Crを含有しない絶縁被膜は、エポキシ系樹脂40mass%+シリカゾル60mass%のコーティング液を塗布して形成した。また、Crを含有する絶縁被膜は、重クロム酸塩80mass%+有機樹脂20mass%のコーティング液を塗布して形成した。
【0028】
【表1】
【0029】
かくして得られた絶縁被膜付き鋼板について、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を10時間にわたって行い、鋼板表面に発生した錆の発生面積率を、標準試験片と比較して目視で読み取り、錆面積発生率として評価した。その評価結果を図3に示すように、Alを抑制した鋼板(低Al材)においてCuを添加することにより、Crを含有しない絶縁被膜の耐食性が向上することが判明した。
【0030】
ここで、Cuの添加によりCrを含有しない絶縁被膜の耐食性が向上した理由は、Siを1.5mass %以上含有しかつAlを抑制した鋼板において、添加したCuが鋼板表層の成分濃化現象ひいては表層酸化物の形成に影響を及ぼし、雰囲気からの保護性に劣るCrを含有しない絶縁被膜の耐食性を向上させたためと考えられる。特に、Alの含有量によって、Cuの添加効果に差異が生じた理由は明らかではないが、発明者らは次のように考えている。すなわち、Cuは元来偏析元素であり、鉄表面錆の進行を抑制する元素として知られ、一方Alは非常に酸化しやすい元素であり、今回のような低露点焼鈍でも鋼板表層に濃化して極表層(表面から1μm以下の深さ領域)の組成を著しく変化させることが知られている。これらの事項を踏まえ、今回の実験結果を検討すると、1.5 mass%以上のSiを含有する鋼に、従来添加されていた0.4 mass%程度のAlは、鋼板表層に濃化して鋼板自体の耐腐食性を向上させていたが、Alを抑制することによりその効果が無くなる代わりに、添加したCuの表面偏析効果が、特に耐雰囲気保護性に劣る、Crを含有しない絶縁被膜において、耐腐食性という形で顕在化したものと考えられる。
【0031】
さらに、この発明の無方向性電磁鋼板では、需要家での加工性を損なうことのないように、鋼板のビッカース硬さを200 HV1以下に規制することが好ましい。すなわち、Alを低減して鋼板表面での酸化を抑制して金型の早期磨耗を回避することに併せて、鋼板の硬さを200 HV1以下に規制することによって、鋼板の加工性が格段に改善されるのである。一方、鋼板の硬さが120 HV1未満になると、逆に打ち抜いた端面に、だれやつぶれが発生して金型からの離脱が阻害されたり、打ち抜き後のかえりが大きくなって鋼板の占積率などに悪影響を及ぼす場合があるから、120 HV1以上とすることが好ましい。
【0032】
この鋼板硬さの規制は、主にAlを低減することによって達成されるものであるが、不純物元素が多量に存在したり、最終焼純において焼鈍温度が不十分であったり、あるいは焼鈍中に酸化や窒化が生じた場合などには、所望の硬さを安定して得るのが困難となることがある。従って、この発明に従って不純物を低減することは勿論、製造工程における、焼鈍を過度に酸化や窒化が生じない雰囲気にすることが有効である。なお、この発明では、酸化や窒化の核となる鋼中Al量を低減しているため、他の鋼種と比較すると、酸化や窒化は生じにくい、利点がある。
【0033】
また、酸化や窒化に対する抑制効果のある、Sbを添加することも、鋼板の硬さを200 HV1以下にするのに有効である。さらに、Sbの添加は、低Alの場合のAlNの微細析出を抑制し、かつこれらの粒成長阻害作用を抑制することにより、より磁気特性上有利な集合組織形成を促進させるのにも有効である。これらの効果を得るには、Sbを0.005 〜0.50mass%の範囲で添加することが好ましい。
【0034】
以下に、この発明の各構成要件の限定理由について詳述する。
まず、この発明の無方向性電磁鋼板の成分組成としては、Si:1.5 〜4.0 mass%およびMn:0.0050〜2.00mass%を含有することが必須である。
すなわち、Siを含有させて電気抵抗を増大させ、鉄損を低減する必要があり、この鉄損改善のためには1.5 mass%以上の含有が必要である。一方、Siの含有量が4.0 mass%以上になると、磁束密度が低下することおよび製品の二次加工性が著しく劣化することから、1.5 〜4.0 mass%の範囲に限定する。
【0035】
Mnは、良好な熱間加工性を得るために必要な成分であり、そのためには0.0050mass%以上の含有が必要になる。一方、2.00mass%を超えると、飽和磁束密度が低下するため、0.0050〜2.00mass%の範囲に限定とする。
【0036】
また、Cは、磁気時効劣化を抑制し、かつ低Al化による集合組織の改善効果を十分に発揮させるために、0.0050mass%以下に低減する必要がある。なお、Cの低減は、溶鋼の段階で0.0050mass%以下としてもよいし、溶鋼段階で0.0050mass%をこえていても途中工程での脱炭処理により0.0050mass%以下としてもよく、要は再結晶焼鈍中の鋼板におけるC含有量が50ppm 以下であることが重要になる。
【0037】
次に、優れた磁気特性を得るために、鋼板のAl量を0.030 mass%以下およびN量を0.0030mass%以下に低減することが肝要である。すなわち、Al含有量が0.030 mass%をこえると、製品板における集合組織が劣化して磁束密度が低下するため、0.030 mass%以下、好ましくは0.010 mass%以下に低減する。また、N量が0.0030mass%をこえると、AlN 析出物が形成されて、再結晶焼鈍時の集合組織の発達と結晶粒の成長とが抑制され、鉄損が大きく劣化するため、N量は0.0030mass%以下、好ましくは0.0025mass%以下に低減する。
【0038】
さらに、Cuは、Alを抑制した含Si鋼の耐食性を向上させる重要な元素である。このCuの含有量は、上述の図3に示した実験結果から明らかなように、0.010mass %未満では絶縁被膜の耐食性を向上する効果が期待できず、一方0.1 mass%をこえると、耐食性の効果は継続するが表面欠陥が発生し易くなるため、0.010 〜0.1 mass%の範囲とする。
【0039】
また、Sbは、AlN 析出形態および粒界移動時の良好な集合組織形成のために、有効な成分であり、0.005 mass%未満ではその効果に乏しく、一方0.5 mass%をこえると、逆に粒成長性を阻害するため、0.005 〜0.5mass %の範囲で添加することが好ましい。
【0040】
なお、Ni、SnおよびPなども、集合組織の形成に有利に働くことが確認されており、これらを添加することに問題はない。しかし、Niが2.0 mass%、Snが1.0mass%、そしてPが0.3 mass%をこえる範囲では粒界移動が抑制されて集合組織の形成や粒成長性が阻害されるため、これらの上限値をこえない範囲で各成分を添加する必要がある。
一方、例えばS、Se、TiおよびNbなどの不純物成分は極力低減することが望ましい。
【0041】
以上の成分組成を有する鋼板は、鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650 +0.025 ×W15/50 )T以上の磁気特性を有し、しかも加工性およびリサイクル性に優れたものとなる。
【0042】
ちなみに、上記した成分組成の溶鋼は、通常の造塊法や連続鋳造法にてスラブを製造してもよいし、100 mm以下の厚さの薄鋳片を直接鋳造法で製造してもよい。次いで、スラブは通常の方法で加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。なお、薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。次いで、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、さらに必要に応じて中間焼鈍を挟み1回以上の冷間圧延を施した後、連続焼鈍を行い、絶縁被膜を被成する。
【0043】
この絶縁被膜は、リサイクル性の観点から、Crを含有しないものであることが肝要である。すなわち、Crは、被膜特性に関して、耐食性を向上させる非常に有用な元素であるが、環境および人体に有害な物質であるため、極力使用しないことが望ましい。現在、電磁鋼板に適用される無機絶縁被膜には、無害の3価のCrが利用されているが、たとえ製品に含まれるCrが無害な3価のCrであっても、その製造工程では、6価Crを使用するため、この製造において発生する廃液や産業廃棄物廃等を介して、環境に悪影響を与える可能性がある。現在、排水等の処理は十分に処置されているものの、根本的にCrを使用しないで環境に悪影響を全く与えないことが、理想的である。また、Crは、一旦製品に使用された場合、この製品をリサイクルするためには、脱Cr処理等の余分な処置が必要となり、それ故リサイクルが敬遠され、リサイクル性が阻害されてしまう。
【0044】
以上のリサイクル性および環境保全の観点から、鋼自体のリサイクル性が向上した、Alを低減した素材については、Crを含有しない絶縁被膜を適用することが、リサイクル性や環境対策上極めて有益になるのである。
【0045】
ここで、Crを含有しない絶縁被膜としては、シリカやアルミナと樹脂とを混合したものや、リン酸塩と樹脂とを混合したもの、またはリン酸単体の無機コート等が適用可能である。これらの素材に、各種被膜特性を向上させるための微量元素、例えばB等を添加することも可能である。さらに、2種類以上の被膜からなる多層膜であってもよい。
【0046】
【実施例】
表2に示す成分組成に成る鋼スラブを連続鋳造にて製造した。この鋼スラブを1180℃で50分間加熱し、熱間圧延にて2.4 mm厚に仕上げたのち、1000℃×1分の熱延板焼鈍を行い、酸洗してスケールを除去した後、180 ℃の温度で冷間圧延を行って、0.35mmの最終板厚に仕上げた。次いで、水素雰囲気で1000℃×10秒、露点−25℃で再結晶焼鈍を施し、Crを含有しない半有機コーティング液(シリカゾル45mass%+アクリル系樹脂55mass%)を、目付量1.0 g/m2 になるように塗布して、300 ℃で焼き付けて製品とした。
【0047】
かくして得られた製品板から、圧延方向と平行におよび圧延方向と直角に、それぞれサンプルを切り出して、JIS C2550に準拠して磁束密度および鉄損を測定した。また、JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験を10時間にわたって行い、鋼板表面に発生した錆の発生面積率を、事前に同面積率を測定下標準試験片との目視による比較によって測定し、錆面積発生率として評価した。これらの測定結果を表3に示すように、この発明の成分範囲に従うことによって、磁気特性および耐食性の良好な製品が得られていることがわかる。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【発明の効果】
この発明によれば、加工性およびリサイクル性に優れるとともに、低鉄損しかも高磁束密度である無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 モータ効率に及ぼす磁束密度B50および鉄損W15/50 の影響を示す図である。
【図2】 鉄損W15/50 に及ぼすAl、SiおよびN量の影響を示す図である。
【図3】 絶縁被膜の耐食性に及ぼすCuの影響を示す図である。
Claims (3)
- Si:1.5 〜4.0 mass%、Mn:0.0050〜2.00mass%およびCu:0.010 〜0.1 mass%を含み、
かつC、AlおよびNをそれぞれ、C:0.0050mass%以下、Al:0.030 mass%以下、N:0.0030mass%以下に低減し、
残部は鉄および不可避不純物の組成に成り、
鋼板の表面にCrを含有しない絶縁被膜を有し、
鉄損W15/50 :3.20W/kg以下かつ磁束密度B50:(1.650+0.025 ×W15/50)T以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 請求項1において、さらにSb:0.005 〜0.50mass%を含有する組成に成ることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
- 請求項1または2において、鋼板の硬さが200 HV1以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
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