JP4154795B2 - 水性樹脂分散体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、シリコーン系高分子乳化剤および/または分散樹脂中にアルコキシシリル基を有する単量体由来の構造単位を有する水性樹脂分散体に関するものであり、本発明の水性樹脂分散体は、加水分解性のアルコキシシリル基を有し、保存安定性ならびに塗膜硬化性に優れ、しかも潤滑性、離型性に優れる塗膜を形成することができる。
【0002】
【従来の技術】
特開平5−154369号公報および特開平9−12655号公報等においては、シリコーン系マクロモノマーを用いて合成したシリコーン系高分子乳化剤を用いた乳化重合によりラジカル重合性単量体を重合させて得られる水性樹脂分散体が提案されており、その用途として潤滑用コーティング剤、離型コーティング剤および耐汚染性塗料などが記載されている。しかしながら、上記公報開示の水性樹脂分散体は架橋していないため、耐溶剤性が悪く、架橋剤を併用する必要がある。水系での架橋剤は、ブロックイソシアネートおよびメラミンなどが使用されているが、いづれも架橋反応させるためには120℃以上の高温が必要であり、低温で架橋し、且つ、液安定性の良い水性樹脂分散体が求められていた。
【0003】
低温架橋の方法として、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランまたはビニルトリメトキシシランに代表されるアルコキシシリル基を有するラジカル重合性単量体を他の単量体と共重合して共重合体を得る方法がある。アルコキシシリル基を含有する重合体からなる水性樹脂分散体は、該基が元来加水分解するという性質を備えているため、保存安定性に問題があり、その点を改良するため特開平8−217807号公報等多数の提案がなされている。特開平9−110946号公報において、ラジカル重合性基を有するアルコキシシランとシリコーン系マクロモノマーおよびその他のビニル単量体による水性樹脂分散体が示されている。しかし、特開平9−110946号公報ではミクロ懸濁重合を行うため、重合前に1μ以下の微細粒子を得るための操作が必要であり、製造のためには特殊な乳化装置が必要であった。
【0004】
【発明者が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特殊な乳化装置を用いることなく、保存安定性に優れ、且つ、潤滑性、離型性、耐水性、耐溶剤性などの特性に優れる塗膜を形成することのできる水性樹脂分散体を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者が鋭意検討を重ねた結果、シリコーン系マクロモノマーを用いて合成したシリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合して水性樹脂分散体を製造し、且つ、その際にシリコーン系高分子乳化剤および/または分散樹脂中に、ラジカル重合性基を有するアルコキシシランを特定の割合で導入すると、加水分解性のアルコキシシリル基を含有する共重合体でありながら、優れた保存安定性を備え、且つ、該水性樹脂分散体を用いて形成した塗膜は、潤滑性、離型性、耐水性、耐溶剤性などの点に優れることを見出して本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明はシリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合してなる水性樹脂分散体であって、シリコーン系高分子乳化剤および/またはラジカル重合体中に、アルコキシシリル基のアルキル部分の炭素数が2または3のアルコキシシリル基である、アルコキシシリル基含有単量体単位を、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて、1〜40重量%の割合で有することを特徴とする水性樹脂分散体である。
【0007】
そして、本発明においては、シリコーン系高分子乳化剤が、シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマーおよびα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と共に、アルコキシシリル基を持たない他のラジカル重合性単量体および/またはアルコキシシリル基を有するラジカル重合性単量体を共重合してなる共重合体であって且つ該共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和してなる共重合体であることが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
シリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合して得られたものである本発明の水性樹脂分散体は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合性単量体のラジカル重合により生成したラジカル重合体を固形分として水性媒体中に含有している。
【0009】
本発明の水性樹脂分散体では、アルコキシシリル基含有単量体に由来する構造単位(以下「アルコキシシリル基含有単量体単位」という)は、シリコーン系高分子乳化剤中に含まれていても、乳化重合により生成するラジカル重合体中のみに含まれていても、またはシリコーン系高分子乳化剤中およびラジカル重合体中の両方に含まれていてもよく、要するに、水性樹脂分散体からみて、アルコキシシリル基含有単量体単位の含有割合が、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて1〜40重量%の範囲内であればよい。
【0010】
アルコキシシリル基含有単量体単位の含有量が、前記1重量%よりも少ないと良好な硬化性が発現しないため形成した被膜が耐溶剤性などの性能で劣り、一方40重量%を超えると保存安定性が悪くなり、経時で増粘およびゲル化しやすくなる。本発明の水性樹脂分散体では、アルコキシシリル基含有単量体単位が、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて1.5〜20重量%の範囲内であることが、保存安定性、形成した塗膜の耐水性、外観、耐薬品性などの点からより好ましい。
【0011】
アルコキシシリル基含有単量体単位を分子中に有するシリコーン系高分子乳化剤は、シリコーン単位を有する単量体および他の重合性単量体と共にアルコキシシリル基含有単量体を併用して重合を行うことによって製造することができる。
【0012】
また、乳化重合により生成する樹脂の分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有させるには、シリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合して水性樹脂分散体を製造する際に、ラジカル重合性単量体の一部としてアルコキシシリル基含有単量体を用いればよい。
【0013】
シリコーン系高分子乳化剤分子中および/または乳化重合により生成する樹脂の分子中にアルコキシシリル基を導入するために用いるアルコキシシリル基含有単量体の具体例としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、ビニルジメチルプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルプロポキシシラン等が挙げられる。水中での保存安定性と水性樹脂分散体を被膜化した時の架橋反応性を検討すると、アルコキシシリル基のアルキル部分の炭素数が2または3のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン単量体であり、重合反応性に優れる(メタ)アクリロイル基を有するアルコキシシリル基のアルキル部分の炭素数が2または3のアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有単量体がより好ましい。
【0014】
アルコキシシリル基のアルキル基が1の場合は加水分解しやすいため、水中での安定性に乏しく、アルコキシシリル基のアルキル部分の炭素数が4以上の場合は、アルコキシシリル基の反応性が低くなるため、塗膜硬化性に劣る。本発明では、前記したアルコキシシリル基含有単量体の1種のみを用いてもまたは2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の水性樹脂分散体の製造に用いるシリコーン系高分子乳化剤としては、分子中にシリコーン単位を有し、且つラジカル重合性単量体の重合時および重合後にラジカル重合性単量体および該単量体の乳化重合により生成したラジカル重合体を水性媒体中に安定に乳化分散させ得るシリコーン系高分子であればいずれも使用できる。
【0016】
そのうちでも、本発明で好ましく用いられるシリコーン系高分子乳化剤としては、(a)シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー,(b)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸、並びに(c)アルコキシシリル基を持たない他のラジカル重合性単量体および/またはアルコキシシリル基を有するラジカル重合性単量体を共重合させてシリコーンを枝成分とするグラフト共重合体を製造し、該グラフト共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基で中和して得た共重合体よりなるシリコーン系高分子乳化剤を挙げることができる。
【0017】
前記したシリコーン系高分子乳化剤の製造に用いるマクロモノマー(a)としては、シリコーン分子の末端に(メタ)アクリロイル基を有する数平均分子量が1,000〜50,000であるマクロモノマーが、耐水性、乳化力、シリコーン系高分子乳化剤を製造する際の重合性などの点から好ましい。
【0018】
また、シリコーン系高分子乳化剤における該マクロモノマー(a)に由来する構造単位の含有量は、シリコーン系高分子乳化剤の重量に基づいて0.5〜60重量%、特に2〜50重量%であることが、シリコーン系高分子乳化剤の乳化力、貯蔵安定性、シリコーン系高分子乳化剤を含む本発明の水性樹脂分散体を用いて形成した塗膜の耐水性などの点から好ましい。
【0019】
該マクロモノマー(a)の製法は何ら制限されないが、例えば、(i)リチウムトリアルキルシラノレートなどの重合開始剤を使用して環状トリシロキサンまたは環状テトラシロキサンなどを重合してシリコーンリビングポリマーをつくり、これにγ−メタクリロイルオキシプロピルモノクロロジメチルシランなどを反応させるアニオン重合法(例えば特開昭59−78236号公報)、(ii)末端にシラノール基を有するシリコーンとγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどとを縮合反応させる縮合法(特開昭58−16760号公報、特開昭60−123518号公報など)などを挙げることができる。
【0020】
また、シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる前記したα,β−エチレン性不飽和カルボン酸(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸(b)の使用量は、シリコーン系高分子乳化剤の酸価が30〜260mgKOH/g樹脂になるような量であることが好ましい。前記酸価を与えるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸(b)の使用量は、該カルボン酸の種類によって異なるが、一般にはシリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる全単量体[マクロモノマー(a)も含む]の重量に対して通常3〜40重量%程度である。シリコーン系高分子乳化剤の酸価が前記した30mgKOH/g樹脂未満であると、塩基で中和しても該シリコーン系高分子乳化剤を水溶化できにくくなる。一方、シリコーン系高分子乳化剤の酸価が前記した260mgKOH/g樹脂を超えると、シリコーン系高分子乳化剤を含む水性樹脂分散体から得られる塗膜などの耐水性が低下し易い。
【0021】
シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる前記した単量体(c)において、アルコキシシリル基を持たない他のラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルなどの、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、トリクロルエチレンなどを挙げることができる。これらの単量体のうちの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、アルコキシシリル基を持たない他のラジカル重合性単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびスチレンを主体とするラジカル重合性単量体が好ましく用いられる。
【0022】
アルコキシシリル基を持たない他のラジカル重合性単量体の好ましい使用量は、一般に、シリコーン系高分子乳化剤の製造に用いる全単量体(マクロモノマーも含む)の重量に基づいて、20〜90重量%である。
【0023】
また、シリコーン系高分子乳化剤としてアルコキシシリル基含有単量体を分子中に有するものを用いる場合は、前記の単量体(c)の一部および/または全部として、上述したアルコキシシリル基含有単量体の1種または2種以上を用いてシリコーン系高分子乳化剤を製造すればよい。その場合のアルコキシシリル基含有単量体の使用量は、最終的に得られる水性樹脂分散体におけるアルコキシシリル基含有単量体単位の含有割合が、前述のように、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて1〜40重量%の範囲内の量になるようにする。
【0024】
シリコーン系高分子乳化剤として使用する前記のグラフト共重合体の製造に当たっては、ラジカル重合開始剤を用いる方法または放射線照射法のいずれでも採用できるが、ラジカル重合開始剤を用いて行うのが好ましい。その際のラジカル重合開始剤としては、一般にラジカル重合に用いられている重合開始剤のいずれもが使用でき、例えば過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの無機系ラジカル重合開始剤;クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの有機系ラジカル重合開始剤などを挙げることができる。また、重合時に、分子量の調整のために、必要に応じて連鎖移動剤、例えばメルカプト酢酸、メルカプトピロピオン酸、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−メチル−2−プロパンチオ−ル、2−メルカプトエタノール、エチルメルカプトアセテート、チオフェノール、2−ナフタレンチオール、ドデシルメルカプタンまたはチオグリセロールなどを用いてもよい。
【0025】
前記グラフト共重合体を製造するための重合反応は、適当な有機溶媒中で、50〜150℃、特に60〜100℃の温度で、3〜100時間、特に5〜10時間の重合時間で行うのが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、メタノール、エタノール、イソプパノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ノルマルブチルセロソルブ、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチールプロパン、グリセリンなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミドなどを挙げることができる。その中でも、アルコキシシリル基含有単量体を前記グラフト共重合体の構成成分として含有する場合は、アルコキシシリル基にエステル交換反応などの影響を与えないケトン溶媒、酢酸エステル系溶媒、芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミドがより好ましい。
【0026】
上記により得られるグラフト共重合体の有機溶媒溶液に塩基を添加して、そのカルボキシル基の一部または全部を中和して水溶性グラフト共重合体とすることにより、本発明の水性樹脂分散体で好ましく用いられるシリコーン系高分子乳化剤が得られる。水性化のための塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機のアルカリ金属塩、アンモニア、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどの1級、2級または3級アミン化合物、ピリジン、ピペリジンなどの複素環式アミン化合物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。カルボキシル基の中和量は、グラフト共重合体中の全カルボキシル基の50モル%以上であることが好ましい。
【0027】
本発明の水性樹脂分散体において、ラジカル重合体の製造に用いるラジカル重合性単量体としては、乳化重合が可能なラジカル重合性単量体であればいずれでもよく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルなどの、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、トリクロルエチレン、エチレン、プロピレンなどの単量体を挙げることができる。
これらのラジカル重合性単量体の中でも、得られる水性樹脂分散体の貯蔵安定性、分散安定性、塗膜形成性、水性樹脂分散体から得られる塗膜の潤滑性、離型性、耐水性、外観、耐溶剤性などの点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびスチレンを主体とするラジカル重合性単量体が好ましく用いられる。
【0028】
また、ラジカル重合体中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有させる場合は、前記したラジカル重合性単量体と共に、上述したアルコキシシリル基含有単量体の1種または2種以上を用いて、シリコーン系高分子乳化剤の存在下に、乳化重合を行う。その際のアルコキシシリル基含有単量体の使用量は、最終的に得られる水性樹脂分散体におけるアルコキシシリル基含有単量体単位の含有割合が、前述のように、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて1〜40重量%の範囲内の量になるようにして用いる。
【0029】
本発明の水性樹脂分散体の製造に当たっては、(i)アルコキシシリル基含有単量体単位を有するシリコーン系高分子乳化剤の存在下に、水性媒体中で、アルコキシシリル基を持たないラジカル重合性単量体を乳化重合するか、またはアルコキシシリル基を持たないラジカル重合性単量体とアルコキシシリル基含有単量体を乳化重合する方法、或いは(ii)アルコキシシリル基含有単量体単位を持たないシリコーン系高分子乳化剤の存在下に、アルコキシシリル基を持たないラジカル重合性単量体とアルコキシシリル基含有単量体を乳化重合する方法のいずれかの方法、が採用される。
その場合のシリコーン系高分子乳化剤の添加量は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合性単量体の合計重量に基づいて1重量%以上であることが好ましく、通常5〜50重量%程度であることがより好ましく、10〜50重量%であることが更に好ましい。
【0030】
また、エマルジョンの安定性向上等のため、シリコーン系高分子乳化剤と併用して、シリコーン系高分子乳化剤以外の低分子量のアニオン系もしくはノニオン系の乳化剤を使用することが出来る。
この場合に併用できるアニオン系乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジー2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルスルホコハク酸モノエステルナトリウム等のスルホコハク酸アルカリ金属塩系アニオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸アルカリ金属塩、ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキレンエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
また、同じく併用できるノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキラート、ポリエチレングリコールジステアレートおよびポリオキシエチレンセチルエーテル等が挙げられる。
【0032】
また、水性樹脂分散体の製造に用いるラジカル重合開始剤としては、ラジカル重合に一般に用いられている重合開始剤のいずれもが使用でき、具体例としては、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの無機系ラジカル重合開始剤;クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの有機系ラジカル重合開始剤などを挙げることができる。また、乳化重合時に、必要に応じて分子量の調整のためにシリコーン系高分子乳化剤の場合について上記で挙げた連鎖移動剤の1種または2種以上を使用してもよい。
【0033】
水性樹脂分散体の製造に用いる水性媒体としては、水単独、または水と水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、DMSO、DMFなど)との混合溶媒を挙げることができ、そのうちでも水を単独で用いることが分子量増加および安全性の点から好ましい。
【0034】
水性樹脂分散体を製造するための乳化重合は、水性媒体中で、シリコーン系高分子乳化剤の存在下に、30〜150℃、特に40〜100℃の温度で、20〜100時間、特に3〜10時間に亙って重合を行うのが好ましく、それにより目的とする水性樹脂分散体を円滑に得ることができる。
【0035】
本発明の水性樹脂分散体では、水性樹脂分散体の全液重量に基づいて、乳化重合により得られるラジカル重合体の含有量が10〜80重量%、特に20〜60重量%であることが、水性樹脂分散体の貯蔵安定性、取り扱い性、塗工性、成膜性、乾燥性の点から、且つ水性樹脂分散体から形成される塗膜などの物性の点から好ましい。
【0036】
本発明の水性樹脂分散体は、潤滑コーティング用、離型コーティング用等の被覆剤、接着剤、含浸補強剤などとして、金属、木材、紙、布帛、プラスチック、コンクリートなどの材料に施すことができ、そのうちでも、潤滑性、離型性、外観、耐水性、耐溶剤性などに優れていることから、潤滑コーティング剤および離型コーティング剤として特に適している。
【0037】
本発明の水性樹脂分散体を潤滑コーティング剤および離型コーティング剤として用いる場合は、通常の水性塗料と同様にして取り扱うことができ、基体上に塗布した後、室温または加熱下に乾燥して塗膜を形成することができる。
【0038】
本発明の水性樹脂分散体をコーティング剤として使用する場合には、アルコキシシリル基が加水分解することによって生じるシラノール基の縮合反応を促進するために、使用前に触媒を添加することが好ましく、かかる触媒としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルピロホスフェート)チタネート等の有機チタネート化合物、またはジオクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート等の有機錫化合物、またはパラトルエンスルフォン酸等の有機酸が挙げられる。
被膜は常温乾燥または加熱乾燥により硬化でき、好ましい乾燥条件は常温では3〜14日間であり、加熱では例えば温度100℃で数分程度である。
【0039】
本発明の水性樹脂分散体を潤滑コーティング剤および離型コーティング剤として用いる場合、増粘剤、造膜助剤および顔料等を併用でき、さらに必要に応じて、垂れ防止剤、沈降防止剤、消泡剤またはシランカップリング剤等の塗料添加剤も添加できる。塗料の基材への塗装方法としては、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗り塗装などが挙げられる。
【0040】
【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。以下の例において、重合前のエマルジヨン(プレエマルジヨン)または水性樹脂分散体中の分散粒子の平均粒径の測定、水性樹脂分散体から形成した塗膜の潤滑性、離型性、耐溶剤性は以下の方法により行った。また以下の例中、「部」は重量部を示す。
【0041】
[プレエマルジヨンまたは水性樹脂分散体中の分散粒子の平均粒径]
レーザー回折式粒度分布測定装置[(株)堀場製作所製「LA−910」]を用いてプレエマルジヨンまたは水性樹脂分散体中の分散粒子の平均粒径を測定した。
【0042】
[潤滑性の測定]
水性樹脂分散体をガラス板に塗布し、100℃1分間乾燥して厚さ20μmの塗膜を作成し、新東科学(株)製表面性測定装置を用い、次の条件で該塗膜表面の動摩擦係数(μk)を測定した。
接触子…直径10mmのステンレス製球。
荷重…100g。
移動速度…250mm/min。
温度25℃、湿度60%RH。
【0043】
[離型性の測定]
水性樹脂分散体をガラス板に塗布し、100℃1分間乾燥して厚さ20μm
の塗膜を作成し、塗膜表面にコクヨ製セロハンテープ(24mm巾)を圧着し、該セロテープを引張試験機にて引張速度200mm/min、温度25℃、湿度60%RHの条件下において角度180度で剥離した時の引張強度(g)により評価した。
【0044】
[耐溶剤性]
水性樹脂分散体を剥離紙に塗布し、常温下に7日間乾燥して得られた厚さ1mm程度の被膜を、常温のアセトンに1日浸漬し、その後の重量を測定して初めの重量に対する割合(ゲル分率%)として測定した。
【0045】
《参考例1》[シリコーン系高分子乳化剤(A1)の製造]
(1) γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン10部、メチルメタクリレート30部、ブチルメタクリレート16部、メタクリル酸14部およびメチルエチルケトン100部の混合液に、末端メタクリル基型シリコーンマクロモノマー[信越化学(株)製「X−22−174DX」;数平均分子量約5,000]30部、メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)1.0部および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという)1.0部を溶解し、撹拌機、コンデンサー、温度計および窒素導入管を備えたフラスコに仕込み、窒素雰囲気下で80℃で4時間加熱重合した後、更にAIBNを0.5部投入し、同温度で更に4時間加熱重合して、酸価97mgKOH/g樹脂のグラフト共重合体を含有する不揮発分50.1%の反応液を得た。
(2) 上記(1)で得られた反応液の全量(約200部)に、1.6%アンモニア水溶液100部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下に温度60℃でメチルエチルケトンを留去して、分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を10重量%有するシリコーン系高分子乳化剤(A1)(pH7.9)を得た。
【0046】
《参考例2》[シリコーン系高分子乳化剤(A2)の製造]
(1) シリコーン系マクロモノマーとして分子末端の重合性基がメタクリロイル基であるシリコーン系マクロモノマー[東亞合成(株)製「AK−32」;数平均分子量20,000]40部を用い、共重合させる単量体としてγ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン10部、2−エチルヘキシルメタクリレート16部、スチレン15部およびメタクリル酸19部を用い、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸1.0部を用いた以外は、参考例1と同様にして重合反応を行って、酸価130mgKOH/g樹脂のグラフト共重合体を含有する不揮発分50.5%の反応液を得た。
(2) 上記(1)で得られた反応液の全量に、2.5%トリエチルアミン水溶液100部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下に温度60℃でメチルエチルケトンを留去して、分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を10重量%有するシリコーン系高分子乳化剤(A2)(pH8.0)を得た。
【0047】
《参考例3》[シリコーン系高分子乳化剤(B1)の製造]
(1) メチルメタクリレート16部、ブチルメタクリレート40部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、メタクリル酸14部およびイソプロピルアルコール100部の混合液に、末端メタクリル基型シリコーンマクロモノマー[信越化学(株)製「X−22−174DX」;数平均分子量約5,000]20部、メルカプトプロピオン酸1.0部、AIBNの1.0部を溶解し、撹拌機、コンデンサー、温度計、窒素導入管を備えたフラスコに仕込み、窒素雰囲気下80℃で4時間加熱重合した後、更にAIBNの0.5部を投入して同温度で4時間加熱重合して、酸価98mgKOH/g樹脂のグラフト共重合体を含有する不揮発分49.8%の反応液を得た。
(2) 上記(1)で得られた反応液の全量に、1.6%アンモニア水溶液100部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下に温度60℃でイソプロピルアルコールを留去して、アルコキシシリル基含有単量体単位を持たないシリコーン系高分子乳化剤(B1)(pH7.8)を得た。
【0048】
《参考例4》[シリコーン系高分子乳化剤(B2)の製造]
(1) シリコーン系マクロモノマーとして分子末端の重合性基がメタクリロイル基であるシリコーン系マクロモノマー[東亞合成(株)製「AK−32」;数平均分子量20,000]30部、また共重合させる単量体としてメチルメタクリレート16部、2−エチルヘキシルメタクリレート35部およびメタクリル酸19部を用い、連鎖移動剤としてメルカプトプロピオン酸1.0部を用いた以外は、参考例1と同様にして重合を行って、酸価130mgKOH/gラジカル重合体のグラフト共重合体を含有する不揮発分50.3%の反応液を得た。
(2) 上記(1)で得られた反応液の全量に、2.5%トリエチルアミン水溶液100部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下に温度60℃でメチルエチルケトンを留去して、アルコキシシリル基含有単量体単位を持たないシリコーン系高分子乳化剤(B2)(pH7.9)を得た。
【0049】
《参考例5》[高分子乳化剤(C1)の製造]
(1) メチルメタクリレート26部、ブチルメタクリレート50部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部、メタクリル酸14部およびイソプロピアルコール100部の混合液に、メルカプトプロピオン酸1.0部およびAIBNの1.0部を溶解し、撹拌機、コンデンサー、温度計および窒素導入管を備えたフラスコに仕込み、窒素雰囲気下に80℃で4時間加熱重合した後、さらにAIBNの0.5部を投入して同温度で4時間加熱重合して、酸価98mgKOH/gラジカル重合体の共重合体を含有する不揮発分49.6%の反応液を得た。
(2) 上記(1)で得られた反応液の全量(約200部)に、1.6%アンモニア水溶液100部を徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下に温度60℃でイソプロピルアルコールを留去して、シリコーンおよびアルコキシシリル基含有単量体単位を持たない高分子乳化剤(C1)を得た。
【0050】
《実施例1》[水性樹脂分散体の製造]
(1) メチルメタクリレート55部、ブチルアクリレート35部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を準備した。
(2) 撹拌機、コンデンサー、温度計および窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水100部および参考例1で得られたシリコーン系高分子乳化剤(A1)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有)60部を添加し、窒素雰囲気下に60℃に昇温した後、tert−ブチルハイドロパーオキシドの10重量%水溶液5部、ロンガリットの10重量%水溶液5部および上記(1)で準備した単量体混合物100部を4時間かけて滴下した。滴下後、同温度で更に2時間反応を継続させ重合を行って水性樹脂分散体を製造した。重合中、フラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、水性樹脂分散体は安定であった。水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体単位は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に対し3.75重量%であった。
【0051】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であり、また該水性樹脂分散体を室温で1週間貯蔵した後も凝集および分離が生じておらず貯蔵安定性に優れていた。
また、上記の水性樹脂分散体中に含まれる水性樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ0.10μmであり、その分布は狭いものであった。さらに、上記の水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.028μkであり、潤滑性に優れていた。また、剥離強度は55g/インチ、であり、離型性にも優れていた。さらに、上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は95%と良好であった。
【0052】
《実施例2》[水性樹脂分散体の製造]
(1) シクロヘキシルメタクリレート50部、ブチルメタクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート20部および2−ヒドロキシメチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を、脱イオン水40部中に、参考例2で得られたシリコーン系高分子乳化剤(A2)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有)60部を乳化剤として用いて乳化させて、重合前のエマルジヨン(プレエマルジヨン)を調製した。このプレエマルジョンは、1日経過しても分離せず安定であった。プレエマルジヨン中の分散粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ1.33μmであり、その分布は狭いものであった。
(2) 攪拌機、温度計、冷却器付きフラスコに脱イオン水60部を入れ、窒素をバブルさせながら、内温を70℃に保ち、攪拌下に、過硫酸アンモニウム/脱イオン水/25%アンモニア水=0.7部/9.3部/2部からなる液12部と、上記(1)で調製したプレエマルジョン200部を4時間かけて滴下した後、更に2時間反応を継続させ重合を行って水性樹脂分散体を調製した。重合中フラスコの壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、水性樹脂分散体は安定であった。この水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体単位は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計に対し3.75重量%であった。
【0053】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、上記水性樹脂分散体を室温で1週間貯蔵した後にも凝集や分離が生じておらず貯蔵安定性に優れていた。さらに水性樹脂分散体中の分散粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ0.22μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.025μkであり、潤滑性に優れていた。また、剥離強度は50g/インチ、であり、離型性にも優れていた。さらに、上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は94%と良好であった。
【0054】
《実施例3》[水性樹脂分散体の製造]
(1) γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン10部、メチルメタクリレート40部、ブチルアクリレート40部および2−ヒドロキシエチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を準備した。
(2) 撹拌機、コンデンサー、温度計および窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水100部および上記の参考例3で得られたシリコーン系高分子乳化剤(B1)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を非含有)60部を添加し、窒素雰囲気下に60℃に昇温した後、tert−ブチルハイドロパーオキシドの10重量%水溶液5部、ロンガリットの10重量%水溶液5部および上記(1)で準備したモノマー混合物100部を4時間かけて滴下した。滴下後、同温度で更に2時間反応を継続させ重合を行って水性樹脂分散体を製造した。重合中フラスコの壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離およびブロッキング等が起こらず、得られた水性樹脂分散体は安定であった。この水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体単位は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に対し、6.25重量%であった。
【0055】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体を室温下に1週間貯蔵後も凝集や分離や生じておらず、貯蔵安定性に優れていた。さらにこの水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ0.09μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.022であり、潤滑性に優れていた。また、剥離強度は40g/インチ、であり、離型性にも優れていた。さらに上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は95%と良好であった。
【0056】
《実施例4》[水性樹脂分散体の製造]
(1) γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン10部、シクロヘキシルメタクリレート40部、ブチルメタクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート20部および2−ヒドロキシメチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を、脱イオン水40部中に、参考例4で得られたシリコーン系高分子乳化剤(B2)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を非含有)60部を乳化剤として用いて乳化させて重合前のエマルジヨン(プレエマルション)を調製した。このプレエマルジョンは、1日経過しても分離せず安定であった。また該プレエマルジヨン中の分散粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ1.52μmであり、その分布は狭いものであった。
(2) 攪拌機、温度計および冷却器付きフラスコに、脱イオン水60部を入れ、窒素をバブルさせながら、内温を70℃に保ち、攪拌しながら、過硫酸アンモニウム/脱イオン水/25%アンモニア水=0.7部/9.3部/2部よりなる液12部、および上記(1)で調製したプレエマルジョン200部を4時間かけて滴下し、更に2時間反応を継続させ重合を行って水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、得られた水性樹脂分散体は安定性に優れていた。この水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体単位は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に対して10重量%であった。
【0057】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体は室温下に1週間貯蔵した後でも凝集および分離が生じておらず、貯蔵安定性に優れていた。さらにこの水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ0.18μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.035であり、潤滑性に優れていた。また、その剥離強度は25g/インチ、であり、離型性にも優れていた。さらに、上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は96%と良好であった。さらに、この水性樹脂分散体をアルミ板に塗布して得られた塗膜の耐候性を上記した方法で測定したところ、初期の60度光沢は135.5であり、500時間後の60度光沢は119.5であり、光沢保持率は88.2%であった。
【0058】
《実施例5》[水性樹脂分散体の製造]
(1) γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン10部、メチルメタクリレート20部、ブチルアクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート20部および2−ヒドロキシメチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を、脱イオン水40部中に、参考例1で得られたシリコーン系高分子乳化剤(A1)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有)80部を乳化剤として用いて乳化させて重合前のエマルジヨン(プレエマルション)を調製した。このプレエマルジョンは、1日経過しても分離せず安定であった。またこのプレエマルジヨン中の分散粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ1.55μmであり、その分布は狭いものであった。
(2) 攪拌機、温度計および冷却器付きフラスコに、脱イオン水60部を入れ、窒素をバブルさせながら、内温を70℃に保ち、攪拌しながら、過硫酸アンモニウム/脱イオン水/25%アンモニア水=0.7部/9.3部/2部よりなる液12部、および上記(1)で調製したプレエマルジョン200部を4時間かけて滴下し、更に2時間反応を継続させ重合を行って水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、得られた水性樹脂分散体は安定性に優れていた。この水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体単位は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に対し10重量%であった。
【0059】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体は室温下に1週間貯蔵した後でも凝集および分離が生じておらず、貯蔵安定性に優れていた。さらにこの水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ0.18μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.033μkであり、潤滑性に優れていた。また、その塗膜の剥離強度は28g/インチ、であり、離型性にも優れていた。さらに、上記した方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は99%と良好であった。
【0060】
《実施例6》[水性樹脂分散体の製造]
(1) γ―メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン30部、メチルメタクリレート10部、ブチルアクリレート30部、2−エチルヘキシルアクリレート20部および2−ヒドロキシメチルメタクリレート10部からなるモノマー混合物を、脱イオン水40部中に、参考例1で得られたシリコーン系高分子乳化剤(A1)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を含有)80部を乳化剤として用いて乳化させて重合前のエマルジョン(プレエマルジョン)を調製した。このプレエマルジョンは、1日経過しても分離せず安定であった。また該プレエマルジョン中の分散粒子の平均粒径を上記の方法で測定したところ1.14μmであり、その分布は狭いものであった。
(2) 攪拌機、温度計および冷却器付きフラスコに、脱イオン水60部を入れ、窒素をバブルさせながら、内温を70℃に保ち、攪拌しながら、過硫酸アンモニウム/脱イオン水/25%アンモニア水=0.7部/9.3部/2部よりなる液12部、および上記(1)で調製したプレエマルジョン200部を4時間かけて滴下し、更に2時間反応を継続させ重合を行なって水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起らず、得られた水性樹脂分散体は安定性に優れていた。
この水性樹脂分散体中のアルコキシシリル基含有単量体は、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に対し21.1重量%であった。
【0061】
上記方法で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットでろ過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体は室温下に1週間貯蔵した後でも凝集および分離が生じておらず、貯蔵安定性に優れていた。該水性樹脂分散体の分散樹脂粒子の平均粒径を上記の方法で
測定したところ0.11μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記の方法で測定したところ、動摩擦係数は0.039μkであり、潤滑性に優れていた。さらにその塗膜の剥離強度は48g/インチであり、離型性にも優れていた。さらに、上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は99%と良好であった。
【0062】
《比較例1》[水性樹脂分散体の製造]
実施例2において、シリコーン系高分子乳化剤(A2)に代えて、上記の参考例4で得られたシリコーン系高分子乳化剤(B2)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を非含有)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行って、水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、得られた水性樹脂分散体は安定であった。
(2) 上記(1)で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体を室温で1週間貯蔵した後も凝集や分離が生じておらず、貯蔵安定性であった。この水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ、0.14μmであり、その分布は狭いものであった。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.021μkであり、潤滑性に優れていた。また、その塗膜の剥離強度は49g/インチであり、離型性にも優れていた。しかし、上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は3%とほぼ溶解してしまった。
【0063】
《比較例2》[水性樹脂分散体の製造]
(1) 実施例3において、シリコーン系高分子乳化剤(B1)の代わりに、参考例5で調製した高分子乳化剤(C1)(分子中にシリコーンおよびアルコキシシリル基含有単量体単位を非含有)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行って水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起こらず、得られた水性樹脂分散体は安定であった。
(2) 上記(1)で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットで濾過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、この水性樹脂分散体を室温で1週間貯蔵した後も凝集や分離が生じておらず、貯蔵安定性に優れていた。この水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記した方法で測定したところ、0.19μmであり、透明性に優れていた。また、この水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記した方法で測定したところ、動摩擦係数は0.257μkであり、潤滑性に劣っていた。また、その塗膜の剥離強度は355g/インチ、であり、離型性に劣っていた。さらに、上記した方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は94%と良好であった。
【0064】
上記の実施例1〜5の結果から、シリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合してなる水性樹脂分散体であって且つシリコーン系高分子乳化剤および/またはラジカル重合体中にアルコキシシリル基含有単量体単位を、シリコーン系高分子乳化剤および樹脂の合計重量に基づいて、1〜40重量%の範囲内の量で有する実施例1〜5の水性樹脂分散体は、分散粒子の凝集や分離が生じず、貯蔵安定性に優れており、しかも該水性樹脂分散体から得られる塗膜は潤滑性、離型性および耐溶剤性に優れていて、良好な特性を保持し得ることがわかる。
【0065】
一方、比較例1の結果から、シリコーン系高分子乳化剤中およびラジカル重合体中のいずれにもアルコキシシリル基含有単量体単位を有していない比較例1の水性樹脂分散体は、潤滑性および離型性などの点では良好であるが、耐溶剤性が悪いことがわかる。
【0066】
さらに、比較例2の結果から、シリコーン部分を持たない高分子乳化剤の存在下にアルコキシシリル基含有単量体を他のラジカル重合性単量体と共に用いて乳化重合しても、それにより得られるアルコキシシリル基含有単量体単位をラジカル重合体中に有する比較例2の水性樹脂分散体は、耐溶剤性などの点では良好であるものの、潤滑性および離型性に劣ることがわかる。
【0067】
《比較例3》[水性樹脂分散体の製造]
(1) 実施例3において、モノマー混合物をγ―メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン0.5部、メチルメタクリレート39.5部、ブチルアクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート20部および2−ヒドロキシメチルメタクリレート10部に代えて、参考例4で得られたシリコーン系高分子乳化剤(B2)(分子中にアルコキシシリル基含有単量体単位を非含有)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行なって水性樹脂分散体を製造した。重合中にフラスコ壁に凝集物がわずかに付着した他は、分離やブロッキング等が起らず、得られた水性樹脂分散体は安定であった。
(2) 上記(1)で得られた水性樹脂分散体を200メッシュのネットでろ過した結果、グリッド量は100ppm以下であった。また、該水性樹脂分散体中の分散樹脂粒子の平均粒径を上記の方法で測定したところ、0.21μmでありその分布は狭いものであった。また、該水性樹脂分散体をガラス板に塗布して得られた塗膜の潤滑性および離型性を上記の方法で測定したところ、動摩擦係数は0.025μkであり潤滑性に優れていた。また、剥離強度は58g/インチであり、離型性にも優れていた。しかし上記の方法で測定した耐溶剤性(ゲル分率%)は50%であり、耐溶剤性が低かった。
【0068】
【発明の効果】
本発明の水性樹脂分散体は、分散安定性、貯蔵安定性、塗膜形成性、取り扱い性などの点に優れ、しかも本発明の水性樹脂分散体から形成される塗膜は、潤滑性、離型性、透明性、耐水性、耐溶剤性に優れている。特に、本発明の水性樹脂分散体から形成される塗膜は潤滑性、離型性および耐溶剤性共に極めて優れており、潤滑コーティング剤および離型コーティング剤として好適な組成物である。
Claims (1)
- シリコーン系高分子乳化剤の存在下にラジカル重合性単量体を乳化重合してなる水性樹脂分散体であって、シリコーン系高分子乳化剤および/またはラジカル重合体中に、アルコキシシリル基のアルキル部分の炭素数が2または3のアルコキシシリル基である、アルコキシシリル基含有単量体単位を、シリコーン系高分子乳化剤およびラジカル重合体の合計重量に基づいて、1〜40質量%の割合で有することを特徴とする水性樹脂分散体。
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