JP4107129B2 - 水素化共役ジエン系重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素化共役ジエン系重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
医農薬、石油化学製品、ポリマーなどを製造する化学工業において、各種化合物に含まれる炭素−炭素不飽和結合や炭素−窒素不飽和結合を水素化して、対応する飽和結合に変換する水素化反応が広く行われている。
例えばポリマー分野では、共役ジエン系重合体の有用な改質手段として、該重合体の炭素−炭素二重結合を選択的にまたは部分的に水素化する方法が公知であり、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの水素化共役ジエン系重合体が工業的規模で生産されている。
【0003】
かかる水素化共役ジエン系重合体を製造するための代表的なプロセスとして、(1)共役ジエンを含む単量体を乳化重合し、得られるラテックスを凝固・乾燥して原料重合体を調製する工程、(2)その原料重合体を有機溶媒(水素化反応溶媒)に溶解し、該有機溶媒に不溶な担体へ白金族元素含有触媒を担持した担持型触媒を用いて水素化する工程、(3)その水素化反応混合物から担持型触媒を分離した後、目的とする水素化重合体を有機溶媒から回収する工程、からなるプロセスが知られている。
【0004】
しかし、上記プロセスの(1)〜(2)では、共役ジエン系重合体のラテックスから一旦回収した原料重合体を粉砕して再び有機溶媒に溶解したり、該有機溶媒を水素化反応後に留去したりというような煩雑な操作を要する。さらに、上記(2)で使用する担持型触媒の調製条件によっては、水素化反応の途中に担体が破損して触媒成分が担体から脱落することがあり、反応後に担持型触媒のほぼ全量を分離・回収しても、貴重で高価格な白金族元素含有触媒の回収率が低下するという問題があった。
【0005】
一方、上記(2)のような担持型触媒を使用することなく有機溶媒可溶性の非担持型触媒を用いるプロセスや、上記(1)〜(2)のような工程を経ることなく担持または非担持型触媒を用い、乳化重合して得られるラテックス状態の共役ジエン系重合体を、直接的に水素化するプロセスについても種々の検討がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、水系媒体を含むラテックス状態での水素化反応において、前記従来プロセスのような担持型触媒を用いた場合、その触媒活性は十分満足できるものではなかった。また、有機溶媒または水系媒体に溶解もしくは分散する非担持型触媒を用いた場合は、反応終了後の触媒の分離・回収が極めて困難であり、触媒を再使用できないために触媒コストが著しく増大するという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
米国特許第3,898,208号公報
【特許文献2】
特開平2−178305号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、水素化共役ジエン系重合体を製造するに際して、原料重合体の水素化反応に用いた白金族元素含有触媒を、有機溶媒または水系媒体を含む反応混合物から効率よく分離・回収することができ、工業的に有利な水素化共役ジエン系重合体の製造プロセスを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、共役ジエン系重合体(原料)をラテックス状態で水素化する反応系と、有機溶媒溶液の状態で水素化する反応系の両方を対象として、反応終了後の後処理方法について鋭意検討を重ねてきた。その結果、先ず反応混合物へ酸化剤を加えて触媒残渣を酸化処理し、それと同時にまたは引き続いて、該反応混合物へ錯化剤を加えて触媒残渣を錯化処理すると、ろ過法や吸着法などの手法により生成する錯体を効率よく分離できることを見出した。
【0010】
また、上記のような水素化反応の後処理法に関する改良は、(1)水素化反応に使用した白金族元素含有触媒を容易に回収して再使用できるので、たとえ多量の触媒を用いても経済性に問題はなく、水素化共役ジエン系重合体の製造を工業的に有利に行えること;(2)得られる水素化共役ジエン系重合体中の残存触媒量が少ないので、該水素化共役ジエン系重合体を含む製品の品質面への悪影響が少ないこと;などの利点を有することを確認して、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明によれば、白金族元素含有触媒の存在下に、単量体組成比が、共役ジエン単量体10〜90重量%および該共役ジエン単量体と共重合可能な単量体90〜10重量%からなる共役ジエン系重合体を水素化する反応工程(A);反応混合物に含まれている触媒を酸化剤と接触させる酸化処理工程(B);前記工程(B)に引き続いて、または同時もしくはその途中で反応混合物へ錯化剤を加えて、酸化された触媒の錯体を生成させる錯化処理工程(C);錯化処理された反応混合物から生成した錯体を分離する触媒回収工程(D);を含む水素化共役ジエン系重合体の製造方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、水素化共役ジエン系重合体の製造方法について詳述する。
【0015】
本発明の水素化共役ジエン系重合体の製造方法は、白金族元素含有触媒の存在下に、単量体組成比が、共役ジエン単量体10〜90重量%および該共役ジエン単量体と共重合可能な単量体90〜10重量%からなる共役ジエン系重合体を水素化する反応工程(A);反応混合物に含まれている触媒を酸化剤と接触させる酸化処理工程(B);前記工程(B)に引き続いて、または同時もしくはその途中で反応混合物へ錯化剤を加えて、酸化された触媒の錯体を生成させる錯化処理工程(C);錯化処理された反応混合物から生成した錯体を分離する触媒回収工程(D);を含むことが必須である。
【0016】
前記の反応工程(A)、酸化処理工程(B)、錯化処理工程(C)および触媒回収工程(D)の各工程はこの並び順に行われるが、所望により他の処理工程を付加することができる。なお、工程(B)および工程(C)は同時に行うこともできる。また、工程(D)で回収された触媒は、必要に応じて精製または再生処理したのち工程(A)へ再び供することができる。
【0017】
反応工程(A)の水素化とは、共役ジエン系重合体に含まれる炭素−炭素二重結合の少なくとも一部を水素添加して飽和結合に変換することをいう。この工程(A)に適用される共役ジエン系重合体は、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体の1種以上を共役ジエン単量体の1種以上と組み合わせて、従来公知の乳化重合法または溶液重合法により、好ましくは乳化重合法により製造される。
【0018】
前記共役ジエン単量体は、共役ジエン構造を有する重合性単量体であれば、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらの中でも1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0019】
前記共役ジエン単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、クロトンニトリルなどのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体;アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、トリフルオロエチルアクリレート、メチルメタクリレートなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;アクリルアミド、メタアクリルアミドなどのα,β−エチレン不飽和カルボン酸アミド;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;フルオロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物;などが挙げられる。
【0020】
これらの共役ジエン単量体と共重合可能な単量体の中でも、工程(A)の水素化反応が進行しやすいという観点から、電子吸引性官能基を有する単量体が好ましく、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体とりわけアクリロニトリルが好ましく用いられる。
共役ジエン系重合体における単量体組成比は、共役ジエン単量体10〜90重量%、これと共重合可能な単量体90〜10重量%である。
【0021】
工程(A)の水素化に適用される共役ジエン系重合体の具体例としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メタアクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタアクリロニトリル−ブタジエン−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0022】
上記共役ジエン系重合体の中でも、水素化共重合体の製造原料としての実用性や汎用性の観点からは、アクリロニトリル−1,3−ブタジエン共重合体、メタアクリロニトリル−1,3−ブタジエン共重合体が好ましい。特に、1,3−ブタジエン30〜95重量%、好ましくは45〜85重量%とアクリロニトリル5〜70重量%、好ましくは15〜55重量%とから得られる共重合体が好適である。
【0023】
また、重量平均分子量(ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー法、標準ポリスチレン換算)も特に限定されないが、通常5,000〜500,000である。
【0024】
共役ジエン系重合体(原料)の調製法として好適な乳化重合法は、一般的にラジカル重合開始剤を用いて水系媒体中で行われ、重合開始剤や分子量調整剤は公知のものを使用すればよい。重合反応は回分式、半回分式、連続式のいずれでもよく、重合温度や圧力も特に制限されない。使用する乳化剤も特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などを使用できるが、アニオン性界面活性剤が好ましい。これらの乳化剤は、それぞれ単独で使用しても2種以上を併用してもよい。その使用量は特に限定されない。
【0025】
乳化重合により得られる共役ジエン系重合体ラテックスの固形分濃度は特に限定されないが、通常2〜70重量%、好ましくは5〜60重量%である。その固形分濃度はブレンド法、希釈法、濃縮法など公知の方法により適宜調節することができる。
工程(A)の水素化反応をラテックス状態(以下、「ラテックス系水素化」ともいう。)で行う場合は、反応効率の観点からラテックスの固形分濃度を10〜50重量%の範囲に調整することがより好ましい。
【0026】
工程(A)の水素化反応は、乳化重合により得られるラテックスを凝固・乾燥して得られる共役ジエン系重合体ゴムを、適当な有機溶媒に溶解した重合体溶液の状態(以下、「溶液系水素化」ともいう。)でも行うことができる。
この場合、ラテックスの凝固・乾燥は公知法を採用すればよいが、凝固して得られるクラムと塩基性水溶液とを接触させる処理工程を設けることにより、得られる共役ジエン系重合体ゴムをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定される重合体溶液のpHが7超を呈するように改質することが好ましい。THFに溶解して測定される重合体溶液のpHは、好ましくは7.2〜12、より好ましくは7.5〜11.5、最も好ましくは8〜11の範囲である。このクラムと塩基性水溶液との接触処理により、溶液系水素化を速やかに進行させることが可能となる。
【0027】
溶液系水素化における共役ジエン系重合体の溶液濃度は、1〜70重量%、好ましくは2〜40重量%である。溶液系水素化に用いられる有機溶媒としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンなどの鎖状または環状の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンセンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル類;酢酸エチルなどのエステル類;などが挙げられる。これらの有機溶媒の中でもケトン類が好ましく用いられる。
【0028】
工程(A)の水素化反応に用いられる触媒は、白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金)を含有する水素化触媒である。水素化触媒としては、触媒活性や入手容易性の観点からパラジウム化合物、ロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物がより好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
【0029】
水素化触媒としてのパラジウム化合物は、触媒活性を有するものであれば特に限定されない。通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態は塩や錯塩である。
パラジウム化合物としては、例えば、酢酸パラジウム、シアン化パラジウムなどの有機酸塩;フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのハロゲン化物;硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの酸素酸塩;酸化パラジウム;水酸化パラジウム;ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウムなどのパラジウム化合物;テトラシアノパラジウム酸カリウムなどの錯塩;などが挙げられる。
【0030】
これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、へキサクロロパラジウム酸アンモニウムが好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
【0031】
水素化触媒としてのロジウム化合物は、触媒活性を有するものであれば特に限定されず、例えば、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウムなどのハロゲン化物;硝酸ロジウム、硫酸ロジウムなどの無機酸塩;酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウムなどの有機酸塩;酸化ロジウム;三水酸化ロジウム;などが挙げられる。
【0032】
水素化触媒は、触媒成分を担体に担持することなく、直接に反応系へ溶解もしくは分散させる非担持型触媒として使用することができる。また、触媒成分を担体に担持して反応系へ投入する担持型触媒として使用することもできる。さらに担持型および非担持型の触媒を併用することもできる。
【0033】
担持型触媒の担体としては、例えば活性炭、活性白土、アルミナゲル、シリカゲル、けいそう土など公知の触媒用担体が用いられる。触媒成分の担体への担持法としては、例えば含浸法、コーティング法、噴霧法、吸着法、沈殿法などが挙げられる。触媒成分の担持量は通常0.5〜80重量%、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%である。触媒成分を担持した担体は、反応器の種類や反応形式などに応じて、例えば球状、円柱状、多角柱状、ハニカム状などに成形することができる。担持型触媒は、ラテックス系または溶液系水素化の反応系へそのまま添加すればよい。
【0034】
非担持型触媒の上記両反応系への添加方法としては、直接添加してから反応系中に溶解もしくは分散させる方法;水または有機溶媒に予め溶解もしくは分散させておいて触媒溶液の状態で反応系へ加える方法;などが挙げられる。後者の方法、特に触媒水溶液を調製する場合は、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、臭素酸、過塩素酸、燐酸などの無機酸;それら無機酸のナトリウム塩、カリウム塩;酢酸などの有機酸;などを共存させると、水への溶解度が向上し、好ましい場合がある。
【0035】
さらに、非担持型触媒をラテックス系水素化に適用する場合は、白金族元素含有触媒のラテックス中での安定性を維持する目的で、水素化触媒安定化剤として、ラテックスに可溶性または分散性の、重量平均分子量が好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは2,000〜50,000である高分子化合物を使用することができる。該安定化剤の添加によって、水素化触媒の触媒活性が高められ、触媒使用量が低減されるとともに、触媒溶液の貯蔵安定性が向上する。
【0036】
水素化触媒安定化剤は、触媒含有溶液および/または重合体ラテックスに可溶性または分散性(コロイド状のように安定な分散状態であることをいう。)のものであり、ラテックス中に凝集や析出を起こさせずに水素化触媒を溶解または分散状態に保持できるものであればよい。水素化触媒安定化剤の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリアルキルビニルエーテルなどの側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体;ポリアクリル酸のナトリウム、ポリアクリル酸カリウムなどのポリアクリル酸の金属塩;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリエーテル;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;ゼラチン、アルブミンなどの天然高分子;などが挙げられる。これらの中でも、側鎖に極性基を有するビニル化合物の重合体またはポリエーテルが好ましい。 ポリビニルピロリドンおよびポリアルキルビニルエーテルが特に好ましい。
【0037】
水素化触媒安定化剤は、水素化触媒と共に、ラテックスに溶解または分散させ、水素化反応に供することができる。また、水素化触媒安定化剤は、水素化触媒と共に、水または有機溶媒に溶解または分散させ、予め水素化触媒溶液として調製し、水素化反応に供することができる。触媒溶液が水溶液である場合には、無機酸、その金属塩、有機酸などを加えることができ、その添加によって水素化触媒の水への溶解度が向上することがある。この場合、触媒水溶液中の酸の濃度は、水素化触媒中の金属元素に対し、好ましくは1〜20倍モル倍、より好ましくは1〜10モル倍である。
【0038】
特に上記触媒水溶液の調製方法は、水素化触媒の酸性水溶液を調製する工程に次いで、前記水溶液に本発明の水素化触媒安定化剤を添加する工程を含むのが好ましい。
上記触媒水溶液は、調製後に、25℃にて1時間以上、好ましくは1日以上、より好ましくは14日以上静置しても、水素化触媒の凝集や析出が生じない。
【0039】
水素化反応の温度は、通常0℃〜200℃、好ましくは5℃〜150℃、より好ましくは10〜100℃である。反応温度を過度に高くすると、ニトリル基の水素化のような副反応が起こる場合があるので望ましくない。また、反応温度を過度に低くすると、反応速度が低下して実用的ではない。
水素の圧力は、通常、大気圧〜20MPaであり、好ましくは大気圧〜15MPa、より好ましくは大気圧〜10MPaである。反応時間は特に限定されないが、通常30分〜50時間である。なお、水素ガスは、先ず窒素などの不活性ガスで反応系を置換し、さらに水素で置換した後に加圧することが好ましい。
【0040】
工程(A)のラテックス系および溶液系の水素化反応は、塩基性条件下で行うことにより反応効率が向上し、水素化触媒の使用量を低減できる。該反応を塩基性条件下で行う方法は特に限定されず、ラテックス系水素化および溶液系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。
【0041】
例えば、ラテックス系水素化においては、その反応系へ塩基性化合物を直接添加して、pH測定器で測定される水素化反応液(ラテックス)のpHを7超にする方法が挙げられる。該水素化反応液のpHは、好ましくは7.2〜13、より好ましくは7.5〜12.5、さらに好ましくは8.0〜12の範囲である。塩基性化合物を添加する方法や時期は特に限定されず、例えば、触媒を水素化反応液へ加える前に予めラテックス中に塩基性化合物を添加しておく方法;水素化反応開始後に塩基性化合物を添加する方法;などが挙げられる。
【0042】
また、溶液系水素化においては、前述のように水素化反応に供される共役ジエン系重合体ゴム(原料)を調製する段階で、該重合体を塩基性水溶液と接触させておく方法;水素化反応開始後に反応系へ塩基性化合物を添加する方法;などが挙げられる。
さらに、ラテックス系水素化と溶液系水素化ともに、非担持型触媒の触媒溶液とりわけ触媒水溶液を調製する段階で塩基性化合物を添加しておく方法を採用することができる。なお、非担持型触媒の水への溶解を促進するために無機酸などを使用した場合は、それを中和する量以上の塩基性化合物を触媒水溶液へ添加する。
【0043】
水素化反応液や触媒溶液を塩基性にするための塩基性化合物は特に限定されず、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、アンモニア、アンモニウム塩化合物、有機アミン化合物などが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物である。
【0044】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩化合物;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩化合物;酸化リチウム、酸化カリウム、酸化ナトリウムなどの酸化物;酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどの有機酸塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシドなどのアルコキシド類;ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシドなどのフェノキシド類;などが挙げられる。好ましくはアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0045】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物、酸化物、有機酸塩化合物、アルコキシド類、フェノキシド類などが挙げられる。好ましくはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩化合物、炭酸水素塩化合物であり、より好ましくは水酸化物である。
【0046】
アンモニウム塩化合物としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。有機アミン化合物としては、脂肪族、脂環族、芳香族のモノ及びポリアミノ化合物が挙げられ、例えば、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシリレンジアミンなどが例示される。
【0047】
これらの塩基性化合物はそのまま用いても、水またはアルコール、ケトンなどの有機溶媒で希釈したり、溶解したりして使用することもできる。塩基性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよく、その使用量は水素化反応液や触媒溶液が塩基性を呈するように適宜選択すればよい。
【0048】
本発明の製造方法により得られる水素化共役ジエン系重合体の水素化率(反応前の重合体中に存在した炭素−炭素二重結合の総計に対する水素化された炭素−炭素二重結合の割合)は1〜100%の範囲で任意に制御することができる。ヨウ素価で表される水素化率は、好ましくは120以下である。
【0049】
本発明に係る製造方法の大きな特徴の1つは、前述した水素化反応工程(A)の後処理法として、反応混合物に含まれている触媒(触媒残渣)を酸化剤と接触させる酸化処理工程(B)を設けることである。水素化反応終了後の系内にある触媒は還元状態にあり、工程(B)では、それを酸化剤と接触させることにより酸化処理する。酸化剤は触媒酸化能を有するものであれば、特に限定されず、ラテックス系水素化および溶液系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。
【0050】
ラテックス系水素化の酸化剤としては、例えば、空気(酸素);過酸化水素、過酢酸、過安息香酸などの過酸化物;などが挙げられ、好ましくは空気、過酸化水素、より好ましくは過酸化水素である。また、溶液系水素化の酸化剤としては、ヨウ素;塩化第二鉄(FeCl3)などのハロゲン化金属;過酸化水素、過酢酸、過安息香酸などの過酸化物;などが挙げられ、好ましくは塩化第二鉄、ヨウ素、より好ましくは塩化第二鉄である。
【0051】
これらの触媒酸化剤の使用量は特に限定されず、水素化反応に使用した触媒に含まれる白金族元素に対して1〜100倍モル、好ましくは3〜50倍モルである。接触温度は、通常0〜100℃、好ましくは50〜95℃、より好ましくは70〜90℃である。接触時間は、通常10分〜20時間、好ましくは30分〜10時間である。
【0052】
触媒と酸化剤との接触方法は、酸化剤の種類により一様ではないが、ラテックス系水素化および溶液系水素化の反応系それぞれに応じて、適宜選択することができる。例えば、ラテックス系水素化の工程(B)の酸化剤として空気を用いる場合、開放状態にある反応混合物中へ空気を連続的に吹き込む方法;開放または密閉状態にある反応混合物容器の気体部雰囲気を空気にして、反応混合物を攪拌する方法;などが挙げられる。過酸化水素を使用する場合は、反応混合物へ添加して攪拌すればよい。また、溶液系水素化の工程(B)に塩化第二鉄、ヨウ素、過酸化水素などの酸化剤を適用する場合、それらの所定量を反応混合物へ加えて攪拌すればよい。
【0053】
本発明に係る製造方法のもう1つの大きな特徴は、前述の工程(B)に引き続いて、または同時もしくはその途中で錯化処理を行うことである。つまり、工程(B)において酸化処理された反応混合物へ錯化剤を加えて、触媒の錯体を生成させる錯化処理工程(C)が必須である。
【0054】
工程(C)に用いられる錯化剤は、触媒錯化能を有するものであれば特に限定されず、ラテックス系水素化および溶液系水素化の反応系それぞれに応じて適宜選択することができる。錯化処理法も特に限定されず、所定量の錯化剤をそのまま、または水もしくは有機溶媒の溶液として反応混合物へ添加し、攪拌することにより行うことができる。
【0055】
ラテックス系水素化の錯化剤としては、白金族元素と水不溶性の錯体を形成するものが好ましい。そのような錯化剤としては、例えばオキシム化合物が挙げられ、錯体形成力の強さからジオキシム化合物が好ましく、ジメチルグリオキシム、シクロヘキサンジオンジオキシムなどのα,β−アルカンジオンジオキシムがより好ましい。これらの中でもジメチルグリオキシムが最も好ましい。
【0056】
溶液系水素化の錯化剤としては、例えばアンモニア;酢酸アンモニウム、安息香酸アンモニウム、硫酸アンモニウムなどの有機酸または無機酸のアンモニウム塩;などが挙げられる。好ましくはアンモニア、酢酸アンモニウムであり、より好ましくはアンモニアである。
【0057】
錯化剤の使用量は、工程(A)の水素化反応に使用した触媒に含まれる白金族元素に対し、通常1〜50倍モル、好ましくは2〜30倍モルである。錯化処理時間は、通常10分〜20時間、好ましくは30分〜10時間である。
錯化処理温度は通常0〜100℃であるが、例えば、ラテックス系水素化の錯化処理では、重合体粒子よりも大きな粒子径になるまで錯体を成長または凝集させるために、加温状態での攪拌とそれに続く静置、そして冷却というステップを踏むことが好ましい。また、錯体形成時のラテックスpHは、8〜10.5程度に調整することが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法では、前述の錯化処理工程(C)に続いて、触媒分離工程(D)を設ける。すなわち、錯化処理された反応混合物から、生成した錯体を分離することが必須である。生成した錯体の分離方法は特に限定されず、ラテックス系水素化および溶液系水素化の反応系それぞれに応じて、適当な錯体分離方法を採用することができる。
【0059】
例えば、ラテックス系水素化において、前記工程(C)の錯化剤としてジメチルグリオキシムを用いた場合、反応混合物(ラテックス)中に不溶性の錯体が析出するので、ろ過や遠心分離など公知の分離操作により、その析出物を反応混合物から容易に除去、回収することができる。析出物をろ過する場合、ラテックスのみを透過するろ布やろ紙を用いる点以外は、ろ過装置、ろ過方法などは限定されない。減圧ろ過も加圧ろ過も採用できるが、ろ過を効率よく行うためには、ろ布を珪藻土などのろ過助剤でコートして減圧ろ過することが好ましい。
【0060】
また、生成した錯体を分離する場合、例えば、錯体を含む反応混合物中へ吸着剤を含有せしめて、反応混合物を攪拌または静置して錯体を吸着させる方法を採用することができる。吸着剤の使用は、溶液系水素化において、特に好適である。
【0061】
吸着剤は、当初から反応混合物中に存在していてもよいが、錯化処理工程(C)の終了後に、錯化物を含有する反応混合物に添加するのが好ましい。吸着剤としては、例えば、活性炭;ケイソウ土、タルク、クレー、活性白土、シリカなどのケイ素含有無機化合物;活性アルミナ;ラジオライトなどの合成ゼオライト;イオン交換樹脂などが挙げられるが、これらの中でも、活性炭やケイ素含有無機化合物が好ましい。
【0062】
本発明の製造方法においては、前述のような工程(B)〜(D)を採用することにより、工程(A)に適用した白金族元素を含む水素化触媒を極めて効率よく分離、回収することができる。
【0063】
ろ過による分離に用いられるろ過装置としては、複数のフィルタエレメントが密閉可能なハウジング内に収納された構造を有するろ過装置が好ましく用いられる。ここで「フィルタエレメント」とは、ろ材のみからなるもの、またはろ材とろ過板との組み合わせからなるものがあり、ろ過装置の「ろ過」機能を担う部材全体を指す。特に、ろ過面積およびろ過速度からみて、筒状または中空円盤状のフィルタエレメントを備えたものが好ましい。そのようなフィルタエレメントを備えたろ過装置としては、フンダバックフィルタやリーフフィルタなどとして呼ばれている加圧式フィルタが挙げられる。
【0064】
目詰まりなく効率よくろ過を行うために、珪藻土などのろ過助剤でフィルタエレメントをプレコートしておくことができる。具体的には、被ろ過物質の供給の前にろ過助剤の懸濁液をハウジング内に充填させ、該懸濁液をろ過することでフィルタエレメント上にろ過助剤のプレコート層を形成する。
【0065】
ラテックス系水素化においては、水素化触媒をほとんど除去できた水素化共役ジエン系重合体ラテックスが得られるので、そのままラテックス製品とすることができる。ラテックス中の白金族元素の含有量(重合体当り)は、通常300ppm以下、好ましくは100ppm以下である。また、該重合体ラテックスを公知の方法で凝固・乾燥することにより、水素化触媒がほとんど除去された水素化共役ジエン系重合体ゴムを得ることができる。すなわち、工業的に通常用いられる方法、例えば、重合体ラテックスに硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなどの凝固剤を加えてクラムを得、必要に応じて水洗をした後、水切り、熱風乾燥、減圧乾燥または押し出し乾燥などの乾燥工程を経て、水素化共役ジエン系重合体ゴムを得ることができる。
【0066】
分離された白金族元素含有触媒およびその錯化物は、溶解、分解、反応処理などにより回収し、再利用することができる。
溶液系水素化の工程(A)において担持型触媒を使用した場合、工程(B)〜(D)を行うことにより、担体から反応溶媒中へ脱落した触媒成分のかなりの分量を分離し、回収することができる。また、溶液系水素化の工程(A)で非担持型触媒を用いた場合も、反応混合物から使用した触媒のかなりの分量を分離し、回収することができる。溶液系水素化においては、工程(D)で触媒を分離した後、公知の方法により有機溶媒を留去して、水素化共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0067】
ラテックス系または溶液系水素化において非担持型触媒を使用した場合、白金族元素の回収率は通常70%以上、条件を選択すれば95%以上とすることができる。また、担持型触媒を用いた場合、担体に担持された状態で回収される白金族元素と併せた白金族元素の合計回収率は通常70%以上、条件を選択すれば95%以上とすることができる。
ラテックス系水素化法により最終的に回収される水素化共役ジエン系重合体のラテックスは、通常、重合体当りの白金族元素の含有量が100ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。
【0068】
また、上記ラテックスから分離して得られる水素化共役ジエン系重合体ゴムおよび溶液系水素化において得られる水素化共役ジエン系重合体ゴムも、水素化触媒に由来する白金族元素の含有量が、上記のように著しく低いものとして得ることができる。 白金族元素の含有量は、低いほど好ましく、その下限は限定されないが、概して、重合体ゴム当りの含有量が約5ppm以下の水素化共役ジエン系重合体ゴムは、工業的に有利に製造することは困難である。
また、分離された白金族元素含有触媒およびその錯化物は、溶解、分解、反応処理などにより回収し、再利用することができる。
【0069】
実施例
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、これらの例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
水素化共役ジエン重合体の水素化率は、プロトンNMRにより測定した。また、水素化触媒の回収後、分離した水素化共役ジエン重合体ゴム中のパラジウム量は、該水素化重合体ゴムの一部を600℃で炭化/灰化後、硫酸に溶解して、原子吸光分析法により測定した。
【0070】
実施例1 ラテックス系水素化
オートクレーブに、オレイン酸カリウム2部、イオン交換水180部、アクリロニトリル37部、t−ドデシルメルカプタン0.5部を順次仕込んだ。反応器内部を窒素で置換した後、ブタジエン63部を封入した。反応器を10℃に冷却して、クメンハイドロパーオキサイド0.01部、硫酸第一鉄0.01部を添加した。次に反応器を10℃に保ったまま内容物を16時間攪拌した。その後、反応器内へ10%のハイドロキノン水溶液を添加して重合停止させた。重合反応液から未反応の単量体を除去しラテックスを得た。重合転化率は90%であった。このようにして得られたアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)ラテックスを、ラテックス状態での水素化反応に供した。
【0071】
酢酸パラジウム(その使用量はPd金属/前記NBRの比で700ppm)を水に加え、パラジウムに対し5倍モル当量の硝酸を添加して300部のパラジウム酸性水溶液を調製した。その水溶液へ重量平均分子量5000のポリビニルピロリドンをパラジウムに対して5重量倍添加した。さらに水酸化カリウム水溶液を添加してpH9.0の触媒水溶液Aを調製した。
全固形分濃度を30%に調整した前記NBRラテックス400部(固形分120部)と触媒水溶液Aの全量を、攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流してラテックス中の溶存酸素を除去した。系内を2回水素ガスで置換後、3MPaの水素を加圧した。内容物を50℃に加温し6時間攪拌して水素化反応を行い、ラテックス状態の水素化NBR反応混合物を得た。
【0072】
上記ラテックス状態の反応混合物へ30%過酸化水素水2部を加え、80℃で2時間攪拌(酸化処理)した。次に反応混合物のpHを9.5に調整し、触媒水溶液Aに含まれていたパラジウムの5倍モル量に相当するジメチルグリオキシムを粉末のまま添加した。その反応混合物を80℃で5時間攪拌(錯化処理)したところ、ラテックス中に不溶物が析出した。そのラテックス全量を吸引ろ過して析出物を分離した。得られた白色ろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して固形の水素化NBRを得た。水素化NBRの水素化率は93%であった。
水素化NBR中のパラジウム量は37ppmであった。このパラジウム量は水素化反応に仕込んだパラジウムの5.2%に相当し、残りのパラジウムは水素化NBRから除去されていた。
【0073】
比較例1 ラテックス系水素化
実施例1と同様にして、NBRの調製(重合転化率:90%)、触媒水溶液Aの調製およびラテックス状態での水素化反応(水素化92%)を順次行った。実施例1で使用した過酸化水素水およびジメチルグリオキシムを添加することなく、反応混合物のpHを9.5に調整し80℃で7時間攪拌した。反応混合物(ラテックス)の状態変化はなく、実施例1のような析出物は認められなかった。そのラテックス全量を吸引ろ過したところ全てろ紙を透過した。ろ液は黒味がかった濃い灰色を呈していた。得られたろ液をロータリーエバポレーターで減圧濃縮して固形の水素化NBRを得た。
この水素化NBR中のパラジウム量は690ppmであり、水素化反応に仕込んだパラジウムの98.6%に相当した。
【0074】
実施例2 溶液系水素化
実施例1と同様にして、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)ラテックスを調製した。塩化カルシウム(凝固剤)3部を溶解した凝固水300部を50℃で攪拌しながら、上記ラテックスを凝固水へ滴下しラテックスを凝固させた。凝固水からクラムを分取して水洗後、50℃で減圧乾燥した。このクラムをアセトンに溶解して15%重合体溶液を調製した。そのアセトン溶液800部(固形分120部)に酢酸パラジウム(その使用量はPd金属/前記NBRの比で500ppm)を加えて、攪拌機付オートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶存酸素を除去した。系内を2回水素ガスで置換後、5MPaの水素を加圧した。内容物を50℃に加温し6時間攪拌して水素化反応を行った。
【0075】
水素化反応終了後、室温に冷却し系内の水素を窒素で置換した。この反応混合物へ塩化第二鉄1.84部を加え30℃で3時間攪拌(酸化処理)した。次にアンモニア水16部を添加し80℃で5時間攪拌(錯化処理)した。冷却後、活性炭6部を加えて室温で3時間攪拌(吸着処理)した後、活性炭をろ別した。得られたろ液を10倍量の水へ加えて析出したゴムを取り出した。それを真空乾燥機で24時間乾燥して水素化NBRを得た。
この水素化NBR中のパラジウム量は50ppmであり、水素化反応に仕込んだパラジウムの10%に相当し、残りのパラジウムは水素化NBRから除去されていた。
【0076】
比較例2 溶液系水素化
実施例2と同様にして、NBRの調製(重合転化率:90%)、そのアセトン溶液の調製、水素化反応を順次行った。実施例2で使用した塩化第二鉄を添加することなく、反応混合物を30℃で3時間攪拌した。次に実施例2で使用したアンモニア水を添加することなく、水16部を加えて80℃で5時間攪拌した。冷却後、活性炭6部を加えて室温で3時間攪拌(吸着処理)した後、活性炭をろ別した。得られたろ液を10倍量の水へ加えて析出したゴムを取り出した。それを真空乾燥機で24時間乾燥して水素化NBRを得た。
【0077】
この水素化NBR中のパラジウム量は495ppmであり、水素化反応に仕込んだパラジウムの99%に相当した。
実施例1および実施例2と、比較例1および比較例2との比較から明らかなように、水素化反応終了後の後処理法としての酸化処理および錯化処理の有無により、得られた水素化NBR中のパラジウム含有量が大きく異なることが分かる。酸化処理および錯化処理を施すと、水素化反応(ラテックス系、溶液系)に使用した触媒を、反応混合物から効率よく分離できることが確認された。
【0078】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、水素化反応に使用した白金族元素含有触媒を容易に回収して再使用できるので、たとえ多量の触媒を用いても経済性に問題はなく、水素化共役ジエン系重合体を工業的に有利に製造できる。
【0079】
本発明の製造方法により得られる水素化共役ジエン系重合体のラテックスは、接着剤、コーティング剤、塗料、ディップ成形手袋原料などとして有用である。ラテックス中の残留白金族元素量が著しく低減されているため、接着剤、コーティング剤、塗料などとして用いる場合、被着または被塗金属材料の耐腐食性が高く、また、残留白金族元素に原因する黒ずみがないのでコーティング剤、塗料などは着色の自由度が高い。また、ラテックスをディップ成形して得られる手袋は、半導体装置製造工程などの作業用として好適である。
【0080】
また、上記水素化共役ジエン系重合体ラテックスから得られる水素化共役ジエン系重合体ゴムおよび溶液系水素化により得られる水素化共役ジエン系重合体ゴムは、いずれも、白金族元素に由来する黒ずみまたは着色のおそれがなく、耐油性、耐候性、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性などの諸特性を活かした広範囲の工業的用途において有利に使用できる。
Claims (8)
- 白金族元素含有触媒の存在下に、単量体組成比が、共役ジエン単量体10〜90重量%および該共役ジエン単量体と共重合可能な単量体90〜10重量%からなる共役ジエン系重合体を水素化する反応工程(A);反応混合物に含まれている触媒を酸化剤と接触させる酸化処理工程(B);前記工程(B)に引き続いて、または同時もしくはその途中で反応混合物へ錯化剤を加えて、酸化された触媒の錯体を生成させる錯化処理工程(C);錯化処理された反応混合物から生成した錯体を分離する触媒回収工程(D);を含むことを特徴とする水素化共役ジエン系重合体の製造方法。
- 共役ジエン系重合体が、共役ジエン単量体とα,β−不飽和エチレン系二トリル単量体との共重合体である請求項1に記載の製造方法。
- 共役ジエン系重合体が、1,3−ブタジエン30〜95重量%とアクリロニトリル5〜70重量%との共重合体である請求項1に記載の製造方法。
- 白金族元素がパラジウムである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(A)における水素化を塩基性条件下に行う請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(C)で用いる錯化剤がオキシム化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(B)で用いる酸化剤が、空気、酸素、過酸化物、ヨウ素またはハロゲン化金属である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
- 工程(B)で用いる酸化剤が、空気、過酸化水素、ヨウ素または塩化第二鉄である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
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