JP4065152B2 - エンジンの振動防止制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、能動型防振支持装置の防振性能を高めるためのエンジンの振動防止制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンのクランクパルスを検出することでエンジン振動の振幅および位相を推定し、推定したエンジン振動の振幅および位相に基づいてアクチュエータの作動を制御することで、液室の容積を変化させる可動板を駆動してエンジン振動を低減する能動型防振支持装置が、本出願人により特願2002−101592号により既に提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来のものは、エンジンのクランクパルスに基づいてエンジン振動の振幅およびクランク位相を推定しているが、燃焼室における混合気の爆発により発生した振動が能動型防振支持装置の位置に達するまでには時間遅れがあり、しかも能動型防振支持装置に駆動信号が入力してからアクチュエータが作動するまでには時間遅れがあるため、前記推定したエンジン振動のクランク位相と能動型防振支持装置の作動位相との間にずれが発生してしまい、結果として能動型防振支持装置の防振効果が充分に発揮されない可能性があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エンジン振動の位相と能動型防振支持装置のアクチュエータが作動する位相とのずれを補償し、能動型防振支持装置による防振効果を一層高めることを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、少なくともクランクパルスからエンジンの振動の位相を推定し、その推定した振動の位相に基づいて能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させる位相を制御するエンジンの振動防止制御装置において、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサと、外気温を検出する外気温センサと、実際のエンジンの振動の位相に対して時間遅れを発生させることなく前記アクチュエータを作動させ、且つ外気温の変動による位相のずれを補償して実際のエンジンの振動の位相に対して適切なタイミングで前記アクチュエータを作動させるべく、エンジン回転数及び外気温に基づいて前記推定した振動の位相を補正する補正手段とを備えたことを特徴とするエンジンの振動防止制御装置が提案される。
【0006】
請求項1の発明の上記構成によれば、クランクパルスから推定したエンジンの振動の位相に基づいて能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させる位相を制御する際に、エンジン回転数センサで検出したエンジン回転数に基づいて前記推定した振動の位相を補正するので、実際のエンジンの振動の位相に対して時間遅れを発生させることなく能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させ、能動型防振支持装置の防振効果を充分に発揮させることができる。
【0007】
また特にクランクパルスから推定したエンジンの振動の位相を、エンジン回転数だけでなく外気温に基づいて補正するので、請求項1の発明の前記効果に加えて、外気温の変動による位相のずれを補償してエンジンの振動の位相に対して一層適切なタイミングで能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させ、防振効果を更に高めることができる。
【0008】
尚、実施例の電子制御ユニットUは本発明の補正手段に対応する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は能動型防振支持装置の縦断面図、図2は図1の2−2線断面図、図3は図1の3−3線断面図、図4は図1の要部拡大図、図5は能動型防振支持装置の制御手法を示すフローチャート、図6は振動のクランク位相の補正位相値を検索するマップである。
【0011】
図1〜図4に示す能動型防振支持装置Mは、自動車のエンジンEを車体フレームFに弾性的に支持し、エンジンEの振動が車体フレームFに伝達され難くする機能を有する。エンジンEのクランクシャフトが所定角度(例えば、10°)回転する度に出力されるクランクパルスを検出するクランクパルスセンサSaからの信号と、気筒毎の上死点のタイミングを検出するTDCセンサSbからの信号と、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサScからの信号と、外気温Ta(実施例では、吸気温あるいは冷却水温で代用)を検出する外気温センサSdからの信号とが入力される電子制御ユニットUは、能動型防振支持装置Mの制御を司る。
【0012】
能動型防振支持装置Mは軸線Lに関して実質的に軸対称な構造を有するもので、エンジンEに結合される板状の取付ブラケット11に溶接した内筒12と、この内筒12の外周に同軸に配置された外筒13とを備えており、内筒12および外筒13には厚肉のゴムで形成した第1弾性体14の上端および下端がそれぞれが加硫接着により接合される。中央に開口15bを有する円板状の第1オリフィス形成部材15と、上面が開放した樋状の断面を有して環状に形成された第2オリフィス形成部材16と、同じく上面が開放した樋状の断面を有して環状に形成された第3オリフィス形成部材17とが溶接により一体化されており、第1オリフィス形成部材15および第2オリフィス形成部材16の外周部が重ね合わされて前記外筒13の下部に設けたカシメ固定部13aに固定される。
【0013】
膜状のゴムで形成された第2弾性体18の外周が第3オリフィス形成部材17の内周に加硫接着により固定されており、この第2弾性体18の内周に加硫接着により固定されたキャップ部材19が、軸線L上に上下動可能に配置された可動部材20に圧入により固定される。外筒13のカシメ固定部13aに固定されたリング部材21にダイヤフラム22の外周が加硫接着により固定されており、このダイヤフラム22の内周に加硫接着により固定されたキャップ部材23が前記可動部材20に圧入により固定される。
【0014】
しかして、第1弾性体14および第2弾性体18間に液体が封入された第1液室24が区画され、第2弾性体18およびダイヤフラム22間に液体が封入された第2液室25が区画される。そして第1液室24および第2液室25は、第1〜第3オリフィス形成部材15,16,17により形成された上部オリフィス26および下部オリフィス27によって相互に連通する。
【0015】
上部オリフィス26は第1オリフィス形成部材15および第2オリフィス形成部材16間に形成される環状の通路であって、その一部に設けられた隔壁26aの一側において第1オリフィス形成部材15に連通孔15aが形成され、前記隔壁26aの他側において第2オリフィス形成部材16に連通孔16aが形成される。従って、上部オリフィス26は、第1オリフィス形成部材15の連通孔15aから第2オリフィス形成部材16の連通孔16aまでの略1周の範囲に亘って形成される(図2参照)。
【0016】
下部オリフィス27は第2オリフィス形成部材16および第3オリフィス形成部材17間に形成される環状の通路であって、その一部に設けられた隔壁27aの一側において第2オリフィス形成部材16に前記連通孔16aが形成され、前記隔壁27aの他側において第3オリフィス形成部材17に連通孔17aが形成される。従って、下部オリフィス27は、第2オリフィス形成部材16の連通孔16aから第3オリフィス形成部材17の連通孔17aまでの略1周の範囲に亘って形成される(図3参照)。
【0017】
以上のことから、第1液室24および第2液室25は、直列に接続された上部オリフィス26および下部オリフィス27によって相互に連通する。
【0018】
外筒13のカシメ固定部13aには、能動型防振支持装置Mを車体フレームFに固定するための環状の取付ブラケット28が固定されており、この取付ブラケット28の下面に前記可動部材20を駆動するためのアクチュエータ29の外郭を構成するアクチュエータハウジング30が溶接される。
【0019】
アクチュエータハウジング30にはヨーク32が固定されており、ボビン33に巻き付けられたコイル34がアクチュエータハウジング30およびヨーク32に囲まれた空間に収納される。環状のコイル34の内周に嵌合するヨーク32の筒状部32aに有底円筒状のベアリング36が嵌合する。コイル34の上面に対向する円板状のアーマチュア38がアクチュエータハウジング30の内周面に摺動自在に支持されており、このアーマチュア38の内周に形成した段部38aがベアリング36の上部に係合する。アーマチュア38はボビン33の上面との間に配置した皿ばね42で上方に付勢され、アクチュエータハウジング30に設けた係止部30aに係合して位置決めされる。
【0020】
ベアリング36の内周に円筒状のスライダ43が摺動自在に嵌合しており、可動部材20から下方に延びる軸部20aが、ベアリング36の上底部を緩く貫通してスライダ43の内部に固定したボス44に接続される。ベアリング36の上底部とスライダ43との間にコイルばね41が配置されており、このコイルばね41でベアリング36は上向きに付勢され、スライダ43は下向きに付勢される。
【0021】
アクチュエータ29のコイル34が消磁状態にあるとき、ベアリング36に摺動自在に支持されたスライダ43にはコイルばね41の弾発力が下向きに作用するとともに、ヨーク32の底面との間に配置したコイルばね45の弾発力が上向きに作用しており、スライダ43は両コイルばね41,45の弾発力が釣り合う位置に停止する。この状態からコイル34を励磁してアーマチュア38を下方に吸引すると、段部38aに押されてベアリング36が下方に摺動することによりコイルばね41が圧縮される。その結果、コイルばね41の弾発力が増加してコイルばね45を圧縮しながらスライダ43が下降するため、スライダ43にボス44および軸部20aを介して接続された可動部材20が下降し、可動部材20に接続された第2弾性体18が下方に変形して第1液室24の容積が増加する。逆にコイル34を消磁すると、可動部材20が上昇して第2弾性体18が上方に変形し、第1液室24の容積が減少する。
【0022】
しかして、自動車の走行中に低周波数のエンジンシェイク振動が発生したとき、エンジンEから入力される荷重で第1弾性体14が変形して第1液室24の容積が変化すると、上部オリフィス26および下部オリフィス27を介して接続された第1液室24および第2液室25間で液体が行き来する。第1液室24の容積が拡大・縮小すると、それに応じて第2液室25の容積が縮小・拡大するが、この第2液室25の容積変化はダイヤフラム22の弾性変形により吸収される。このとき、上部オリフィス26および下部オリフィス27の形状および寸法、並びに第1弾性体14のばね定数は前記エンジンシェイク振動の周波数領域で低ばね定数および高減衰力を示すように設定されているため、エンジンEから車体フレームFに伝達される振動を効果的に低減することができる。
【0023】
尚、上記エンジンシェイク振動の周波数領域では、アクチュエータ29は非作動状態に保たれる。
【0024】
前記エンジンシェイク振動よりも周波数の高い振動、即ちエンジンEのクランクシャフトの回転に起因するアイドル振動やこもり音振動が発生した場合、第1液室24および第2液室25を接続する上部オリフィス26および下部オリフィス27内の液体はスティック状態になって防振機能を発揮できなくなるため、アクチュエータ29を駆動して防振機能を発揮させる。
【0025】
能動型防振支持装置Mに防振機能を発揮させるべく、電子制御ユニットUは各センサSa,Sb,Sc,Sdからの信号に基づいてアクチュエータ29のコイル34に対する通電を制御する。この制御の内容を、図5のフローチャートに基づいて具体的に説明する。
【0026】
先ずステップS1でクランクパルスセンサSaにより検出した10°のクランクアングル毎に出力されるクランクパルスと、TDCセンサSbにより検出した気筒毎の上死点のタイミングと、エンジン回転数センサScで検出したエンジン回転数Neと、外気温センサSdで検出した外気温Taとを読み込む。続くステップS2でクランクパルスの時間間隔を算出した後に、ステップS3で前記10°のクランクアングルをクランクパルスの時間間隔で除算することでクランク角速度ωを算出し、更にステップS4でクランク角速度ωを時間微分してクランク角加速度dω/dtを算出する。続くステップS5でエンジンEのクランクシャフト回りのトルクTqを、エンジンEのクランクシャフト回りの慣性モーメントをIとして、
Tq=I×dω/dt
により算出する。このトルクTqはクランクシャフトが一定の角速度ωで回転していると仮定すると0になるが、膨張行程ではピストンの加速により角速度ωが増加し、圧縮行程ではピストンの減速により角速度ωが減少してクランク角加速度dω/dtが発生するため、そのクランク角加速度dω/dtに比例したトルクTqが発生することになる。
【0027】
続くステップS6で時間的に隣接するトルクの最大値および最小値を判定し、ステップS7でトルクの最大値および最小値の偏差、つまりトルクの変動量としてエンジン振動量を算出する。このエンジン振動量は、能動型防振支持装置Mの位置における振動状態と高い相関関係を持っている。続くステップS8で気筒毎のTDC信号とエンジン振動量とを対応させることで、気筒毎のエンジン振動量を算出する。そしてステップS9で気筒毎のTDC信号とクランクシャフトの角速度ωとにより、気筒毎の振動のクランク位相を推定する。
【0028】
このように、クランクパルスおよびTDC信号から推定した気筒毎の振動のクランク位相は、混合気の爆発により発生した振動が能動型防振支持装置Mの位置に達するまでの時間遅れと、能動型防振支持装置Mに駆動信号が入力してからアクチュエータ29が作動するまでの時間遅れとにより、能動型防振支持装置Mのアクチュエータ29の作動位相との間にずれが発生してしまい、能動型防振支持装置Mの防振効果が充分に発揮されない虞がある。この位相のずれの大きさは主としてエンジン回転数Neによって変化し、また外気温Taによっても変化する。
【0029】
そこで本実施例では、以下のステップS10,S11で前記時間遅れを補正している。即ち、ステップS10でエンジン回転数センサScにより検出したエンジン回転数Neを、図6(A)のマップに適用して補正位相値を検索するとともに、ステップS11で外気温センサSdにより検出した外気温Taに相当する吸気温あるいは冷却水温を、図6(B),(C)のマップに適用して補正位相値を検索する。そしてステップS12でエンジン回転数Neによる補正位相値および外気温Taによる補正位相値によって気筒毎の振動のクランク位相を補正して能動型防振支持装置Mのアクチュエータ29の制御位相を決定した後、ステップS13で前記補正後の気筒毎の振動のクランク位相に基づいて能動型防振支持装置Mのアクチュエータ29を作動させる。
【0030】
しかして、振動によってエンジンEが下方に偏倚して第1液室24の容積が減少して液圧が増加するときには、コイル34を励磁してアーマチュア38を吸引する。その結果、アーマチュア38はコイルばね41,45を圧縮しながらスライダ43および可動部材20と共に下方に移動し、可動部材20に内周を接続された第2弾性体18を下方に変形させる。これにより、第1液室24の容積が増加して液圧の増加を抑制するため、能動型防振支持装置MはエンジンEから車体フレームFへの下向きの荷重伝達を防止する能動的な支持力を発生する。
【0031】
逆に振動によってエンジンEが上方に偏倚して第1液室24の容積が増加して液圧が減少するときには、コイル34を消磁してアーマチュア38を吸引を解除する。その結果、アーマチュア38はコイルばね41,45の弾発力でスライダ43および可動部材20と共に上方に移動し、可動部材20に内周を接続された第2弾性体18を上方に変形させる。これにより、第1液室24の容積が減少して液圧の減少を抑制するため、能動型防振支持装置MはエンジンEから車体フレームFへの上向きの荷重伝達を防止する能動的な支持力を発生する。
【0032】
上述した能動型防振支持装置Mのアクチュエータ29のコイル34を励磁および消磁するタイミングを、前記補正後の気筒毎の振動のクランク位相に基づいて制御することで、気筒毎の振動のクランク位相に対して時間遅れのない適切なタイミングで能動型防振支持装置Mを作動させることができ、その防振性能を効果的に発揮させることができる。
【0033】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0034】
例えば、能動型防振支持装置Mの構造は実施例のものに限定されず、同様の機能を備えた種々の構造のものを採用することができる。
【0035】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、クランクパルスから推定したエンジンの振動の位相に基づいて能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させる位相を制御する際に、エンジン回転数センサで検出したエンジン回転数に基づいて前記推定した振動の位相を補正するので、実際のエンジンの振動の位相に対して時間遅れを発生させることなく能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させ、能動型防振支持装置の防振効果を充分に発揮させることができる。
【0036】
また特にクランクパルスから推定したエンジンの振動の位相を、エンジン回転数だけでなく外気温に基づいて補正するので、外気温の変動による位相のずれを補償してエンジンの振動の位相に対して一層適切なタイミングで能動型防振支持装置のアクチュエータを作動させ、防振効果を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 能動型防振支持装置の縦断面図
【図2】 図1の2−2線断面図
【図3】 図1の3−3線断面図
【図4】 図1の要部拡大図
【図5】 能動型防振支持装置の制御手法を示すフローチャート
【図6】 振動のクランク位相の補正位相値を検索するマップ
【符号の説明】
E エンジン
Ne エンジン回転数
M 能動型防振支持装置
Sc エンジン回転数センサ
Sd 外気温センサ
Ta 外気温
U 電子制御ユニット(補正手段)
29 アクチュエータ
Claims (1)
- 少なくともクランクパルスからエンジン(E)の振動の位相を推定し、その推定した振動の位相に基づいて能動型防振支持装置(M)のアクチュエータ(29)を作動させる位相を制御するエンジンの振動防止制御装置において、
エンジン回転数(Ne)を検出するエンジン回転数センサ(Sc)と、
外気温(Ta)を検出する外気温センサ(Sd)と、
実際のエンジン(E)の振動の位相に対して時間遅れを発生させることなく前記アクチュエータ(29)を作動させ、且つ外気温(Ta)の変動による位相のずれを補償して実際のエンジン(E)の振動の位相に対して適切なタイミングで前記アクチュエータ(29)を作動させるべく、エンジン回転数(Ne)及び外気温(Ta)に基づいて前記推定した振動の位相を補正する補正手段(U)と
を備えたことを特徴とする、エンジンの振動防止制御装置。
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