JP4065113B2 - タイヤ用のゴムシートの製造方法、タイヤ用のゴムシート、及びそれを用いたタイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タイヤのトレッド形成用として好適であり、短繊維を厚さ方向に配向させたゴムシートを能率良く容易に形成しうるタイヤ用のゴムシートの製造方法、それによって製造されたタイヤ用のゴムシート、及びそれを用いたタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
スタッドレスタイヤでは、氷上性能を向上させるために、路面掘り起こし摩擦や粘着摩擦を増加させる必要があり、従来から、タイヤトレッドをなすトレッドゴムの氷路面に対する摩擦係数を上げる種々の研究が試みられている。その一つとして、トレッドゴム中に短繊維を配合することが提案されており、特に短繊維をタイヤ半径方向(トレッドゴムの厚さ方向)に配向させることにより、路面掘り起こし能力が高まり、より高い摩擦力が得られることが知られている。
【0003】
ところで、図6(A)に示すように、トレッドゴムは、通常、カレンダーロールやゴム押出し装置等によって連続的に押出し成形される帯状の原ゴムシートaにより形成される。そのため、ゴム中の短繊維fは、ゴム流れによって押出し方向(長さ方向)に沿って配向してしまい、この原ゴムシートaをそのまま用いてトレッドゴムを製造した場合、短繊維fはタイヤ周方向に沿って配向してしまうこととなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本出願人は、特願平11−315859号等において、図6(B)に示すように、非常に薄く押出し成形した原ゴムシートaを、ジグザグ状に順次折り畳むことを提案している。このものは、短繊維fのほとんどが厚さ方向に配向されるという利点がある。しかし、厚さtを揃えながら均一に折り畳むのが難しく、作業能率に劣るとともに折り畳まれたゴム部材bの形状及び寸法精度を損ねる傾向にある。又このものは、ゴム部材bの内部に空気が混入したりする恐れもある。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑み案出されたもので、その第1の目的は、短繊維が長さ方向に配向する原ゴムシートから、短繊維の一部が厚さ方向に配向するゴムシートを、形状や寸法精度を高く確保しながら、かつ空気の混入を抑えながら能率良く容易に形成しうるタイヤ用のゴムシートの製造方法を提供することにある。
【0006】
又第2の目的は、トレッド形成用として好適であり、タイヤに優れた氷上性能等を付与しうるタイヤ用のゴムシートを提供することにある。
【0007】
又第3の目的は、前記タイヤ用のゴムシートをトレッドゴムに用いることにより、優れた氷上性能を発揮しうるタイヤを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、ゴム基材に短繊維を配合した短繊維配合ゴムからなるタイヤ用のゴムシートを製造するタイヤ用のゴムシートの製造方法であって、
未加硫の前記短繊維配合ゴムを押出して短繊維を押出し方向に実質的に配向した原ゴムシートを成形する原シート成形工程と、
前記原ゴムシートに、この原ゴムシートの厚さ方向に針を貫通させて突き刺すことにより前記短繊維の一部を前記厚さ方向に配向させる針突き刺し工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
なお、前記針突き刺し工程としては、前記針の直径が0.4mm以上かつ0.8mm未満のとき、突刺し数をゴムシートの面積100mm2 当たり180回以上かつ500回以下とする、或いは、針の直径が0.8mm以上かつ2.2mm以下のとき、突刺し数を80回以上かつ450回以下とするのが好ましい。又前記針突き刺し工程を、前記原ゴムシートの温度が40℃以上かつ130℃以下のとき行うのが好ましい。
【0010】
又請求項5はタイヤ用のゴムシートの発明であって、前記製造方法によって製造されたことを特徴としている。このゴムシートは、タイヤトレッド形成用として好適に使用できる。
【0011】
又請求項7は、タイヤの発明であって、前記タイヤ用のゴムシートを用いたことを特徴としている。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。
図1は、本発明に係わるタイヤ用のゴムシートGを用いてトレッド部2が形成されたタイヤ1の子午断面図である。
【0013】
図1において、タイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部 2の内部に配されるベルト層7とを具える。なお同図には、タイヤ1が乗用車用ラジアル タイヤである場合を例示している。
【0014】
前記カーカス6は、従来と同様、カーカスコードをタイヤ周方向に対して例えば75°〜90°の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから構成される。このカーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りで折り返して係止されるプライ折返し部6bを具えるとともに、前記ビード部4には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外方にのびる断面三角形状の補強用のビードエーペックスゴム8が配される。
【0015】
又前記ベルト層7は、高弾性のベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば10〜35°の角度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bからなり、各ベルトコードがプライ間相互で交差するように、傾斜の向きを違えて重置している。
【0016】
又前記ベルト層7のタイヤ半径方向外側には、本例では、トレッド面2Sをなすキャップゴム層9aと、その半径方向内側に配されるベースゴム層9bとからなるトレッド形成用のトレッドゴム9が配される。
【0017】
そして、本実施形態では、前記キャップゴム層9aを、ゴム基材に短繊維fを配合した短繊維配合ゴムからなるゴムシートGによって形成している。このゴムシートGは、配合する短繊維fの一部、例えば10〜30%が厚さ方向に配向してなり、以下に示す製造方法によって作成される。
【0018】
詳しくは、前記製造方法は、図2に示すように、
(1) 未加硫の前記短繊維配合ゴムを押出し、短繊維fを押出し方向に実質的に配向した原ゴムシートG0を成形する原シート成形工程S1と、
(2) 前記原ゴムシートG0に、その厚さ方向に針10を貫通させて突き刺し、これにより前記短繊維fの一部を前記厚さ方向に配向させる針突き刺し工程S2と、
を含んで構成される。
【0019】
なお前記原シート成形工程S1は、従来的な押出し工程であり、例えばカレンダーロールやゴム押出し装置等を用いて、短繊維配合ゴムを押出すことにより、キャップゴム層9aとして要求される所定の断面形状(サイズを含む)を有する帯状の原ゴムシートG0を成形する。この原ゴムシートG0では、短繊維fは、押出し時のゴム流れにより、押出し方向に実質的に配向している。
【0020】
次に、針突き刺し工程S2は、針10を、前記原ゴムシートG0に、その厚さ方向に多数回に亘って突き刺し、これにより前記短繊維fの一部を前記厚さ方向に配向させる工程である。
【0021】
これは、図3に誇張して示すように、針10を原ゴムシートG0に突き刺すとき、針10の周りには突き刺し方向のゴム流れKが局部的に生じ、これによって短繊維fが厚さ方向に配向すると考えられる。
【0022】
従って、配向のためには、できるだけ多くの突き刺しを、位置を違えて均一に行うことが好ましいが、過度の突き刺しは、ゴム表面にクレーター状の大きな凹凸を形成してしまい、加硫成型時に、この凹凸部に空気が残ってべアー等を発生させる等、外観品質の低下を招く恐れがある。
【0023】
又本発明者の研究の結果、厚さ方向の配向率Yは、針10の直径Dにも大きく影響し、針が細すぎると、ゴム流れKが十分に発生せず、配向が起こりにくいこともわかった。なお図4に、突き刺しの回数(突き刺し数)Nと、配向率Yと、針10の直径Dとの関係を示す実験結果の一例を示す。この実験では、原ゴムシートG0として、ゴム基材100重量部中に、短繊維f(繊維径10μm、繊維長さ400μm)が20重量部配合した厚さが4mmのものを用いた。原ゴムシートG0の温度は25℃である。突き刺し数Nは、面積100mm2 当たりの回数であり、針10が同じ位置に刺さらないように位置を違えて突き刺している。又針10の直径Dは、図3に示す如く、ゴム内に刺さる部分のうち最も太い部分の太さをいい、通常は、テーパ状の先端部10Aを越え一定太さの胴部10Bの少なくとも一部がゴム内に進入するまで突き刺すのが良い。
【0024】
図4に示すように、針突き刺し工程S2では、
・ 配向率Yの上限は、針10の直径Dに応じてそれぞれ定まり、この上限値以上は突き刺し数Nを増やしても配向率Yの上昇は見込めない;
・ 針10の直径Dが0.4〜2.2mmの範囲に、配向率Yの上限が最大となる太さが存在する;
・ 針10が細すぎると、配向の効果が現れるまでに、ある程度の突き刺し数Nが必要となる;
等の傾向が認められる。
【0025】
従って、針突き刺し工程S2では、
▲1▼ 針10の直径Dを0.4mm以上かつ0.8mm未満、しかも突刺し数Nを、ゴムシートの面積100mm2 当たり180回以上かつ500回以下とするか、
▲2▼ 針10の直径Dを0.8mm以上かつ2.2mm以下、しかも突刺し数Nを、ゴムシートの面積100mm2 当たり80回以上かつ450回以下とするのが好ましい。
【0026】
なお針10の直径Dが0.4mmより小、或いは2.2mmより大では、配向率Yが上限値のときにも11%程度(図4の場合)にとどまるなど、十分な配向率Yの確保が期待できなくなる。さらに、直径Dが0.4mmより小では、細すぎて強度不足傾向となり、作業中に折れる恐れを招き、又2.2mmより大では、太すぎてゴム表面の凹凸が大きくなりべアー等が発生しやすくなる。
【0027】
又直径Dが0.4mm以上かつ0.8mm未満において突き刺し数Nが180回より小、或いは直径Dが0.8mm以上かつ2.2mm以下において突き刺し数Nが80回より小のとき、配向率Yを十分に確保できない場合が出でくる。逆に、直径Dが0.4mm以上かつ0.8mm未満において突き刺し数Nが500回より大、或いは直径Dが0.8mm以上かつ2.2mm以下において突き刺し数Nが450回より大のときには、ゴム表面が粗くなりべアー等が発生しやすくなる。
【0028】
又配向率Yを高めるためには、前記原ゴムシートG0のゴムの温度が40℃以上かつ130℃以下であり、ゴム流動性に優れている間に前記針突き刺し工程S2を行うのが好ましく、特に前記温度が40〜100℃の間に行うのがより好ましい。
【0029】
なお本願では、前記製造方法で用いる短繊維配合ゴムについては、特に規制されないが、タイヤに通常用いる短繊維配合ゴム、即ち、繊維径5〜100μm、繊維長200〜400μmの短繊維を、ゴム基材100重量部中に、1〜40重量部配合させたものが好適に使用できる。
【0030】
又このような製造方法で得たゴムシートGは、その表面の少なくとも一部に、前記範囲の突刺し数Nで突き刺された領域Rを含んでいれば良いが、この配向による効果をタイヤに反映させるためには、図5(A)、(B)に示すように、ゴムシートGの表面の少なくとも50%以上、好ましくは70%以上を前記領域Rで形成する。このとき、前記領域Rは、点在させても、また長さ方向に連続させることもできる。
【0031】
又前記ゴムシートGは、タイヤのトレッド形成用として使用する以外に、サイドウォール形成用など、種々の部位に用いることができる。
【0032】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0033】
【実施例】
繊維径(10μm)、繊維長さ(400μm)の短繊維を20重量部配合した厚さ4mmの原ゴムシートに対して、針突き刺し工程を行い、その時の厚さ方向への配向率の変化を表1に示す。なお針突き刺し工程は、原ゴムシートの温度が25℃のとき行った。
【0034】
(1)配向率:
ゴムが短繊維の配向方向に膨潤しにくいという特性を利用し、各サンプルの膨潤前後における厚さの比、即ち厚さ方向の膨潤率を計算した。そして、前記原ゴムシートの厚さ方向の膨潤率の値を配向率0、又原ゴムシートを裁断して短繊維の配向を厚さ方向に並べ替えたシートを作成し、その厚さ方向の膨潤率の値を配向率100とし、これらから各サンプルの膨潤率を配向率に換算した。
【0035】
【表1】
【0036】
同様の原ゴムシートを用い、針突き刺し工程時の原ゴムシートの温度を変化させ、各温度での配向率を測定し、その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
【発明の効果】
叙上の如く本発明は、前述した針突き刺し工程を含んでいるため、短繊維が長さ方向に配向する原ゴムシートから、短繊維の一部が厚さ方向に配向するゴムシートを、形状や寸法精度を高く確保しながら、かつ空気の混入を抑えながら能率良く容易に形成しうる。
【0039】
又このような、ゴムシートをトレッドゴムに用いることにより、ベアー等の発生を抑え、外観品質の低下を抑制しながら、タイヤの走行性能、特に氷上性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるゴムシートがトレッドゴムとして使用された場合のタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】原シート成形工程および針突き刺し工程を概念的に示す線図である。
【図3】針突き刺し工程による短繊維の配向原理を誇張して示す断面図である。
【図4】配向率Yと突き刺し数Nと針の直径Dとの関係を示す線図である。
【図5】(A)、(B)は、ゴムシートを例示する平面図である。
【図6】(A)、(B)は、従来技術の問題点を説明する線図である。
【符号の説明】
1 タイヤ
10 針
f 短繊維
G ゴムシート
G0 原ゴムシート
S1 原シート成形工程
S2 針突き刺し工程
Claims (7)
- ゴム基材に短繊維を配合した短繊維配合ゴムからなるタイヤ用のゴムシートを製造するタイヤ用のゴムシートの製造方法であって、
未加硫の前記短繊維配合ゴムを押出して短繊維を押出し方向に実質的に配向した原ゴムシートを成形する原シート成形工程と、
前記原ゴムシートに、この原ゴムシートの厚さ方向に針を貫通させて突き刺すことにより前記短繊維の一部を前記厚さ方向に配向させる針突き刺し工程とを含むことを特徴とするタイヤ用のゴムシートの製造方法。 - 前記針突き刺し工程は、前記針の直径を0.4mm以上かつ0.8mm未満、しかも突刺し数を、ゴムシートの面積100mm2 当たり180回以上かつ500回以下とすることを特徴とする請求項1記載のタイヤ用のゴムシートの製造方法。
- 前記針突き刺し工程は、前記針の直径を0.8mm以上かつ2.2mm以下、しかも突刺し数を、ゴムシートの面積100mm2 当たり80回以上かつ450回以下としたことを特徴とする請求項1記載のタイヤ用のゴムシートの製造方法。
- 前記針突き刺し工程は、前記原ゴムシートの温度が40℃以上かつ130℃以下のとき行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のタイヤ用のゴムシートの製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかの方法により製造されたタイヤ用のゴムシート。
- 前記ゴムシートはトレッド形成用のゴムシートであることを特徴とする請求項5記載のタイヤ用のゴムシート。
- 請求項5又は6記載のタイヤ用のゴムシートを用いてなるタイヤ。
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