以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の機器及び条件等を用いることがあるが、これら材料及び条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については同一の番号を付し、その重複する説明を省略することもある。
<第1の実施の形態>
(構造)
図1を参照して、この発明の第1の実施の形態である第1光スイッチの構造について説明する。第1光スイッチは、光非線形媒質で形成されたループ状の光導波ループ回路101と、光導波ループ回路101に制御光を入力する位相制御手段110の制御光入力手段20とに加えて、更に波長分離合成回路121と位相バイアス回路500を具えて構成される。
光導波ループ回路101は、光分波合成器10から制御光入力手段20までの第1偏波面保存光ファイバ12で形成される光経路(以後「経路L1」と呼ぶこともある。)と、制御光入力手段20から波長分離合成回路121までの第2偏波面保存光ファイバ14で形成される光経路(以後「経路L2」と呼ぶこともある。)と、波長分離合成回路121から光分波合成器10に戻るまでの第4偏波面保存光ファイバ18で形成される光経路(以後「経路L4」と呼ぶこともある。)とで形成されている。
第1光スイッチを構成する光ファイバは、制御光及び被制御光である信号光の偏光面がこれらの光ファイバを伝播中に不規則に変動することがないように、偏波面保存光ファイバを利用するのが望ましい。偏波面保存光ファイバとしては、パンダ(PANDA:Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)型光ファイバが代表的である。この光ファイバは、コアの近傍に応力付与部を形成し,コアに強い応力を加えることにより偏波保持性を得ている。
PANDA型光ファイバは、光が導波されるコアを取り囲むクラッドに、コアを挟む形で応力付与部が形成されている。例えば、クラッドはSiO2、コアはGeO2がドープされたSiO2で形成され、応力付与部はB2O3がドープされたSiO2から形成される。このように形成することによって、PANDA型光ファイバの光の伝播方向に対して垂直な面内に設定された遅相(slow)軸の方向と、slow軸と直交する進相(fast)軸の方向では、コアを導波される光に対する実効屈折率が異なる。すなわち、コアの近くにクラッドの屈折率より高い屈折率を有する応力付与部がおかれているために、光の電場ベクトルの振動方向がslow軸の方向に平行な光に対する実効屈折率が、光の電場ベクトルの振動方向がfast軸の方向に平行な光に対する実効屈折率よりも高くなる。このような実効屈折率の非対称性があるために、PANDA型光ファイバに入力される光の偏光面は保存されて伝播されるようになる。
すなわち、PANDA型光ファイバでは、直線偏波の光の偏波面を、slow軸(もしくはfast軸)に合わせて入力すると、偏波状態が保たれたままPANDA型光ファイバ中を伝搬し、出射端においても、偏波面が、slow軸(もしくはfast軸)に一致した直線偏波の光のみを得ることが可能である。
光分波合成器10は、方向性光結合器等を利用することができる。特にこの発明の光スイッチを構成するには、光の偏波面が一定の方向に確定されたまま光経路を切り替えることができる方向性光結合器を利用するのが望ましい。このような偏波面が保存される方向性光結合器として、偏波面保存光カプラが開発されている(例えば、フジクラ技法:第102号2002年4月参照)。この偏波面保存光カプラは、2本のPANDA型光ファイバのslow軸(もしくはfast軸)同士を精密にあわせて平行に整列させた上で、融着延伸して作製される。所望の方向性光結合器としての特性(光強度の分岐比が1対1となる等)が得られることが確認できた時点で、延伸を終了して補強のための基板に固定されて完成される。
光導波ループ回路101の途中には、光導波ループ回路を伝播する信号光の位相を制御する位相制御手段110が配置されている。この位相制御手段110は、光導波ループ回路を構成する光非線形媒質である第2偏波面保存光ファイバ14で構成された経路L2に、制御光を入力するための制御光入力手段20を具えている。
また、制御光入力手段20としても、偏波面が保存される方向性光結合器を利用する。以後、制御光入力手段20として利用できる方向性光結合器等を光カプラということもある。もちろん、制御光入力手段20として利用できる素子には、方向性光結合器に限らず様々な素子があるが、いずれの素子を利用するかは設計的事項に属する事項である。
波長分離合成回路121は、波長分離器30と、偏波面回転部60と、合波器40とこれらを繋ぐ光経路を構成する偏波面保存光ファイバとを具えて構成される。
以下、第1光スイッチの構成を具体的に説明する。光分波合成器10は、方向性結合器の4つの入出力ポートを次のように割り振ることによって利用する。第1ポート10-1には、入力用光ファイバ144の一端が接続されており信号光が入力される。第2ポート10-2には第1偏波面保存光ファイバ12の一端が接続され、第3ポート10-3には第4偏波面保存光ファイバ18の他端が接続される。第4ポート10-4には、出力用光ファイバ146の一端が接続されており、制御光によって制御されループ透過光としてスイッチされた信号光成分である変調信号光が出力される。
光分波合成器10の第1ポート10-1から入力される信号光のは、その光強度が1対1に分岐されて、第2ポート10-2と第3ポート10-3とに、それぞれ第1信号光と第2信号光とが出力される。すなわち、第1信号光の光強度と第2信号光の光強度とは相等しい。
経路L1を構成する第1偏波面保存光ファイバ12は、光分波合成器10の第2ポート10-2に一端が接続され、制御光入力手段20としての光カプラに他端が接続されている。以後、制御光入力手段20としての光カプラを光カプラ20と表記することもある。経路L2を構成する第2偏波面保存光ファイバ14は、光カプラ20に一端が接続され、波長分離合成回路121を構成する一構成要素である波長分離器30の第1ポート30-1に他端が接続されている。経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18は、波長分離合成回路121を構成する一構成要素である合波器40に一端が接続され、光分波合成器10の第3ポート10-3に他端が接続されている。
波長分離合成回路121は、波長分離器30と、偏波面回転部60と、合波器40とを具えて構成されている。波長分離器30は、第2偏波面保存光ファイバ14の他端と、第3偏波面保存光ファイバ16の一端と、第5偏波面保存光ファイバ22の一端とが接続されている。偏波面回転部60は、第5偏波面保存光ファイバ22の他端と第6偏波面保存光ファイバ24の一端とが接続されている。合波器40は、第3偏波面保存光ファイバ16の他端と、第6偏波面保存光ファイバ24の他端と、第4偏波面保存光ファイバ18の一端とが接続されている。すなわち、第3偏波面保存光ファイバ16は、波長分離器30の第2ポート30-2に一端が接続され合波器40の第1ポート40-1に他端が接続されており、第5偏波面保存光ファイバ22は、波長分離器30の第3ポート30-3に一端が接続され偏波面回転部60に他端が接続されており、第6偏波面保存光ファイバ24は、偏波面回転部60に一端が接続され、合波器40の第2ポート40-2に他端が接続されている。
すなわち、波長分離合成回路121は、経路L1、L2及びL4から成る光導波ループ回路101に対して副次的な光導波ループ回路を形成している。この副次的な光導波ループ回路を形成している光経路は、波長分離器30と合波器40とを繋ぐ第3偏波面保存光ファイバ16(以後「経路L3」と呼ぶこともある。)、波長分離器30と偏波面回転部60とを繋ぐ第5偏波面保存光ファイバ22(以後「経路L5」と呼ぶこともある。)及び偏波面回転部60と合波器40とを繋ぐ第6偏波面保存光ファイバ24(以後「経路L6」と呼ぶこともある。)で形成される。
経路L3、経路L5及び経路L6の間には、信号光が経路L3を通過するのに要する時間と、制御光が経路L5、偏波面回転部60及び経路L6を通過するのに要する時間が等しくなるように、それぞれの光路長が設定されている。
位相バイアス回路500は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図1には、経路L4に位相バイアス回路500が設置されている場合について示してある。位相バイアス回路500は、信号光の偏波面を45°回転させる第1偏波面回転素子、信号光の直交する偏波成分の間の位相ずれを補正する位相補償素子及び信号光の偏波面を45°回転させる第2偏波面回転素子を具え第1偏波面回転素子、位相補償素子、第2偏波面回転素子の順に直列に配列されて構成される。以下に、位相バイアス回路500の具体的な構成例を説明する。位相バイアス回路500として、複数の構成例が存在するので、それらを区別するために以後の説明において、第1位相バイアス回路501、第2位相バイアス回路502及び第3位相バイアス回路503と記述することとする。
[第1位相バイアス回路]
図1及び図2を参照して、第1位相バイアス回路501の構成を説明する。偏波面保存光ファイバ901と偏波面保存光ファイバ905との間に、第1偏波面回転素子としての第1ファラデー回転子902、位相補償素子としてのバビネソレイユ補償板903、第2偏波面回転素子としての第2ファラデー回転子904の順に直列に配列されて構成されている。偏波面保存光ファイバ901と第1ファラデー回転子902との間、第1ファラデー回転子902とバビネソレイユ補償板903との間、バビネソレイユ補償板903と第2ファラデー回転子904との間、第2ファラデー回転子904と偏波面保存光ファイバ905との間には必要に応じて凸レンズ等の光学素子(図示せず)を挿入することが望ましい。この凸レンズ等の光学素子を上述の位置に挿入することは、信号光及び制御光を結合効率が高い状態で、上述の第1ファラデー回転子902、バビネソレイユ補償板903、第2ファラデー回転子904に、それぞれ入出力させるために有効である。
偏波面保存光ファイバ901及び905は、図1に示す光スイッチにおいては、経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断して形成される。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断してその間に、第1ファラデー回転子902、バビネソレイユ補償板903及び第2ファラデー回転子904をこの順に直列に配列する。
位相バイアス回路500は、経路L1乃至経路L4いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置ればよいので、経路L1に設置する場合には第1偏波面保存光ファイバ12を、経路L2に設置する場合には第2偏波面保存光ファイバ14を、経路L3に設置する場合には第3偏波面保存光ファイバ16を、それぞれ途中で切断して、その間に上述の第1ファラデー回転子902、バビネソレイユ補償板903及び第2ファラデー回転子904をこの順に直列に配列すればよい。
なお、第1及び第2偏波面回転素子として第1及び第2ファラデー回転子を利用したが、ファラデー回転子に限定されることはなく、1/2波長板等、偏波面を回転させる機能を有する素子であれば、利用することができる。以下において説明する第2及び第3位相バイアス回路においても、第1及び第2偏波面回転素子として第1及び第2ファラデー回転子を利用する例を取り上げるが、この場合もファラデー回転子に限定されることはない。
[第2位相バイアス回路]
図1及び図3を参照して、第2位相バイアス回路502の構成を説明する。偏波面保存光ファイバ1001と偏波面保存光ファイバ1005との間に、第1偏波面回転素子としての第1ファラデー回転子1002、位相補償素子としての短尺の偏波面保存光ファイバ1003、第2偏波面回転素子としての第2ファラデー回転子1004の順に直列に配列されて構成されている。偏波面保存光ファイバ1003には、温度制御用のヒータ1006が組み込まれている。偏波面保存光ファイバ1001と第1ファラデー回転子1002との間、第1ファラデー回転子1002と短尺の偏波面保存光ファイバ1003との間、短尺の偏波面保存光ファイバ1003と第2ファラデー回転子1004との間、第2ファラデー回転子1004と偏波面保存光ファイバ1005との間には必要に応じて凸レンズ等の光学素子(図示せず)を、挿入することが望ましい。この凸レンズ等の光学素子を上述の位置に挿入することは、信号光及び制御光を結合効率が高い状態で、上述の第1ファラデー回転子1002、短尺の偏波面保存光ファイバ1003、第2ファラデー回転子1004に、それぞれ入出力させるために有効である。
偏波面保存光ファイバ1001及び1005は、図1に示す光スイッチにおいては、経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断して形成される。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断してその間に、第1ファラデー回転子1002、短尺の偏波面保存光ファイバ1003及び第2ファラデー回転子1004をこの順に直列に配列する。
位相バイアス回路500は、経路L1乃至経路L4いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置ればよいので、経路L1に設置する場合には第1偏波面保存光ファイバ12を、経路L2に設置する場合には第2偏波面保存光ファイバ14を、経路L3に設置する場合には第3偏波面保存光ファイバ16を、それぞれ途中で切断して、その間に上述の第1ファラデー回転子1002、短尺の偏波面保存光ファイバ1003及び第2ファラデー回転子1004をこの順に直列に配列すればよい。
[第3位相バイアス回路]
図1及び図4を参照して、第3位相バイアス回路503の構成を説明する。偏波面保存光ファイバ1101と偏波面保存光ファイバ1105との間に、第1偏波面回転素子としての第1ファラデー回転子1102、位相補償素子としての電気光学素子1103、第2偏波面回転素子としての第2ファラデー回転子1104の順に直列に配列されて構成されている。偏波面保存光ファイバ1101と第1ファラデー回転子1102との間、第1ファラデー回転子1102と電気光学素子1103との間、電気光学素子1103と第2ファラデー回転子1104との間、第2ファラデー回転子1104と偏波面保存光ファイバ1105との間には必要に応じて凸レンズ等の光学素子(図示せず)を、挿入することが望ましい。この凸レンズ等の光学素子を上述の位置に挿入することは、信号光及び制御光を結合効率が高い状態で、上述の第1ファラデー回転子1102、電気光学素子1103、第2ファラデー回転子1104に、それぞれ入出力させるために有効である。
偏波面保存光ファイバ1101及び1105は、図1に示す光スイッチにおいては、経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断して形成される。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18を途中で切断してその間に、第1ファラデー回転子1102、電気光学素子1103及び第2ファラデー回転子1104をこの順に直列に配列する。
位相バイアス回路500は、経路L1乃至経路L4いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置ればよいので、経路L1に設置する場合には第1偏波面保存光ファイバ12を、経路L2に設置する場合には第2偏波面保存光ファイバ14を、経路L3に設置する場合には第3偏波面保存光ファイバ16を、それぞれ途中で切断して、その間に上述の第1ファラデー回転子1102、電気光学素子1103及び第2ファラデー回転子1104をこの順に直列に配列すればよい。
電気光学素子1103の一例として、c軸カットLiNbO3(ニオブ酸リチウム)結晶のc+面及びc-面に電極を構成してc+面とc-面との間に電圧を印加することによってポッケルス効果を発現させて、c軸方向の屈折率が変化する構成とした素子を利用することができる。すなわち、このように形成された電気光学素子1103のc軸に直交する方向に信号光及び制御光が入力される構成とし、LiNbO3を用いた電気光学素子1103のc+面とc-面との間に直流電源1106によって電圧を印加すれば、入力される信号光の互いに直交する偏光成分あるいは制御光の互いに直交する偏光成分の間の位相差を制御できる。
電気光学素子1103としては、上述したLiNbO3を用いた電気光学素子に限らず、LiNbO3あるいは、LiTaO3等の強誘電体光学結晶にTi熱拡散を施す手法で光導波路を構成することによって、導波路型の上述の電気光学素子と同様の機能を有する電気光学素子が形成できる。
いずれにしろ、どのような構造の電気光学素子を利用するかは、光スイッチの用途等を勘案して決定されるべき設計的な事項に属する。
(動作)
図1を参照して、第1光スイッチの動作原理を説明する。この発明の第1光スイッチによれば、光非線形媒質で光経路を形成されたループ状の光導波ループ回路101と、光導波ループ回路101に制御光を入力する位相制御手段110の制御光入力手段20と波長分離合成回路121とを具えているので、制御光によって光導波ループ回路101を伝播する信号光の位相を制御でき、被制御光である信号光を制御光によってスイッチする機能が実現できる。
被制御光である直線偏光の信号光が光分波合成器10の信号光入力ポートである第1ポート10-1に入力されて第1信号光と第2信号光とに分岐され、それぞれCW方向とCCW方向とに伝播させられて、再びこの光分波合成器10で第1信号光と第2信号光とが合波される。すなわち、第1ポート10-1に信号光が入力されると、第2ポート10-2から第1信号光が、第3ポート10-3から第2信号光が出力され、それぞれCW方向とCCW方向とに伝播して、第1信号光は第3ポート10-3に、第2信号光は第2ポート10-2に入力され、光分波合成器10において第1信号光と第2信号光とが合波される。
制御光は、光導波ループ回路101の途中に設置された光カプラ20を介して光導波ループ回路101に入力される。光導波ループ回路101に入力される制御光によって、光導波ループ回路101の光経路を構成する第2偏波面保存光ファイバ14と第4偏波面保存光ファイバ18とにおいて、光非線形効果である光カー効果が発現し、この第2偏波面保存光ファイバ14と第4偏波面保存光ファイバ18とを伝播する第1信号光に対する屈折率が変化する。
すなわち、第1及び第2信号光がそれぞれCW方向とCCW方向とに伝播した後に、光分波合成器10で合波される際、第1信号光と第2信号光との位相差がπとなるように、制御光の強度に応じてこのこの第2偏波面保存光ファイバ14と第4偏波面保存光ファイバ18との長さを調整すれば、光分波合成器10の信号光入力ポートである第1ポート10-1に入力された信号光は、光カプラ20から制御光が第2偏波面保存光ファイバ14に入力されたときに限り、光分波合成器10の信号光入力ポートである第1ポート10-1と対をなす出力ポートである第4ポート10-4にループ透過光として変調信号光が外部に出力される。一方、制御光が入力されないとき、信号光は、ループ反射光として光分波合成器10の信号光入力ポートである第1ポート10-1に反射される。
ここで、光導波ループ回路101に入力される制御光の偏光方向が、一定の方向に確定して不変であれば、光スイッチは、上述のとおりに機能する。すなわち、信号光はモード同期半導体レーザ等から出力されるので、その偏光方向を一定の方向に確定させることができるので、光導波ループ回路101に入力される制御光の偏光方向も、確定して不変であれば、第1及び第2信号光が光分波合成器10で合波される際、第1信号光と第2信号光との位相差がπとなるように、制御光の強度に応じてこの第2偏波面保存光ファイバ14と第4偏波面保存光ファイバ18との長さを確定させることができる。もちろん、このようにして決められる第2偏波面保存光ファイバ14と第4偏波面保存光ファイバ18との長さの最適値は、光導波ループ回路101に入力される信号光の偏波面と制御光の偏波面とが光導波ループ回路101内を伝播中に成す角度に依存する。
しかしながら、光導波ループ回路101に入力される制御光の偏光方向を、一定の方向に確定して不変とすることは、一般的には困難である。すなわち、光3R再生中継器に第1光スイッチを利用する場合、制御光は、送信機側から数十km以上の長さの偏波面保存等の特性が保証されていない一般の光ファイバ伝送路を伝播した光パルス信号であるので、その偏光面は一定の方向に確定していることが保障されてはいない。
そこで、制御光の偏光方向が不確定であっても、安定したスイッチ動作が実現するように、第1光スイッチにおいては、光導波ループ回路101に入力される制御光の偏光方向に依存しないスイッチ動作を実現させるために、波長分離合成回路121が具えられている。波長分離合成回路121は、制御光の直交する2方向のそれぞれの偏光成分による信号光に対する位相制御量のそれぞれの寄与分を均等化するための役割を果たす。
以上が、第1光スイッチの動作の概要である。以下において詳しく第1光スイッチの動作を説明する。以下の説明では、便宜のために、図1に示す光スイッチの概略的構成図において、光ファイバ等の光伝送路や光分波合成器等の光素子を伝播する光の偏光方向を次のように規定しておく。すなわち、光の電場ベクトルの振動方向が紙面に対して垂直な偏光をTE (Transverse-Electric Modes)偏波と呼び、紙面に垂直な方向をTE方向という。また、光の電場ベクトルの振動方向が紙面に対して平行な偏光をTM (Transverse-Magnetic Modes)偏波と呼び、紙面に平行な方向をTM方向という。
まず、波長分離合成回路121を構成する一構成要素である波長分離器30について説明する。波長分離器30は、例えば、誘電体多層膜を透明基板に積層して形成される誘電体多層膜波長フィルタを利用することができる。市販されている誘電体多層膜波長フィルタとしては、光伸光学工業社製の商品名T-MUX等が利用できる。
信号光の波長がλsであり、制御光の波長がλpである場合には、波長分離器30として利用する誘電体多層膜波長フィルタの反射透過特性を次のように設計すればよい。すなわち、波長がλsである信号光は透過し、波長がλpである制御光を反射する。このような誘電体多層膜波長フィルタは、誘電体多層膜による反射・透過特性に関する周知の光学理論に基づいて設計できる。
図5を参照して、波長分離器30の動作を説明する。図5では波長分離器30が模式的に描かれており、波長分離器30の第1ポート30-1、第2ポート30-2及び第3ポート30-3のそれぞれのポートに、入出力される光の波長特性を横軸に波長をとって模式的に描かれている。
波長分離器30の第1ポート30-1には、波長λsの信号光と波長λpの制御光とが入力される。波長分離器30の第1ポート30-1から入力される光は、制御光入力手段20から制御光が入力されなければ波長λsの信号光のみであるが、制御光が入力されれば波長λsの信号光と波長λpの制御光とが混じった光となる。
波長分離器30は、波長がλsである信号光は透過し、波長がλpである制御光を反射するので、波長分離器30の第1ポート30-1に波長λsの信号光と波長λpの制御光とが入力されると、第2ポート30-2からは透過される波長λsの信号光のみが出力され、第3ポート30-3からは反射される波長がλpである制御光のみが出力される。また、波長分離器30の第3ポート30-3に波長λsの信号光が入力されると、波長分離器30は波長がλsである信号光は透過するが、後述するようにこの透過光は結合するポートが設けられていないので、波長分離器30のいずれのポートからも出力されない。
波長分離合成回路121を構成する他の構成要素である偏波面回転部60は、ファラデー回転子を利用することができる。すなわち、ファラデー回転子を、直線偏光が入力されるとその直線偏光の偏波面を90°回転させて出力するように調整して利用する。また、偏波面回転部60は、ファラデー回転子に限らず、1/2波長板を利用することもできる。いずれにしても、偏波面回転部60は、直線偏光が入力されるとその直線偏光の偏波面を90°回転させて出力する機能を有する素子であれば、利用可能であり、いずれの素子を利用するかは設計的な事項に属する。
経路L2及び経路L4を構成する偏波面保存光ファイバとして、光カー効果が効率よく発現できる、偏波面保存光ファイバを利用するのが好ましい。これは以下に述べる理由による。すなわち、上述のスイッチングに必要とされる位相ずれ量φは次式(1)で与えられる。
φ=2γPL (1)
ここで、P(W)は制御光のパワー、L(km)は光ファイバループを構成している偏波面保存光ファイバの長さである。γ(W-1km-1)は光カー効果に基づく非線形光学定数である。したがって、非線形光学定数γ(W-1km-1)が大きいほど、経路L2及び経路L4を構成する偏波面保存光ファイバの長さ(上式(1)のL(km)に相当する。)を短くできる。すなわち、よりコンパクトに第1光スイッチを構成できる。
光カー効果を効率よく発現させるため、光ファイバのコアにGeO2を高濃度ドープして光カー効果に基づく非線形光学定数γ(W-1km-1)を増大させたり、あるいは、光ファイバの導波モード断面積であるモードフィールド径(MFD:Mode Field Diameter)を小さくしたりして、光ファイバ内での光エネルギー密度を高くする工夫がなされている。例えば、MFDが8μmの通常の光ファイバはγ=1〜2 km-1W-1程度であるのに対して、MFDを3.6μmとしてγ=20 km-1W-1と一桁大きくした光ファイバも市販されている。
また、ホーリーファイバ(Holey fiber)と呼ばれるクラッドに空洞を形成したファイバや、フォトニックバンドギャップファイバといった、光非線形性の高い光ファイバも開発されている。将来、偏波面保存光ファイバにも上述の工夫が取り入れられ、偏波面保存という性質を備えつつ高い光非線形性を有する光ファイバが開発されることが当然に予想される。
以後、光カー効果が効率よく発現されるように工夫されている光ファイバを非線形光ファイバということもある。
図6を参照して、第1光スイッチの動作を詳しく説明する。図6は、この発明の第1の実施の形態である第1光スイッチの動作の説明に供するため、経路L2乃至経路L6を伝播する信号光ならびに制御光の伝播形態を模式的に描いてある。また、見やすくするために、図6において、経路L2乃至経路L6を直線的に抽象化して描いてある。
経路L2を形成する第2偏波面保存光ファイバ14の一端が接続されている制御光入力手段20の出力端において、信号光はTE偏波として第2偏波面保存光ファイバ14に入力されるものとして説明する。もちろん信号光をTM波として第2偏波面保存光ファイバ14に入力されるものとして光スイッチを動作させることも可能であるが、同様の説明となるので、その説明を省略する。
一方、制御光の偏波面の方向は任意の方向であるので、制御光のTE方向の成分をS成分(S成分の強度をPEとする。)とし、TM方向の成分をP成分(P成分の強度をPMとする。)とする。すなわち、制御光の強度Pは、PE + PMであり、この値Pは、第1光スイッチの外部に別に設けられる光増幅器等で一定の大きさに制御されて、この第1光スイッチの制御光入力手段20に入力されるものとする。また、経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ14を伝播中は、制御光の強度P及び偏光状態(直線偏光としての偏波面の方向)が保持されるものとする。
経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ14中を、信号光を構成する信号光パルスと上述の制御光を構成する制御光パルスとが並走して、制御光パルスによって発現する光カー効果による相互位相変調効果によって信号光パルスに生じる位相シフト量φL2は、次式(1')で与えられる。ただし、信号光パルスの偏波面と直交する制御光パルスのP成分の寄与はないものとし、第2偏波面保存光ファイバ14中を制御光パルスがその波形が変化しないで伝播するものとする。また第2偏波面保存光ファイバ14の群速度分散によって生じる信号光パルスと制御光パルスとの伝播速度の相違に基づく、信号光パルスと制御光パルスとの並走中の両者の位置ずれ(ウォークオフと呼ばれることもある。)が発生しないものとする。
φL2=2γPEl2 (1')
ここで、l2 は、経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ14の長さである。
第2偏波面保存光ファイバ14の他端に信号光パルスと制御光パルスとが達し、両者は波長分離器30の第1ポート30-1に入力される。上述したように信号光パルスは、第2ポート30-2から出力され経路L3を構成する第3偏波面保存光ファイバ16を伝播し、合波器40の第1ポート40-1に入力されて第3ポート40-3に出力されて経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18に入力される。
一方、制御光パルスは、波長分離器30の第3ポート30-3から出力されて経路L5を構成する第5偏波面保存光ファイバ22に入力され、第5偏波面保存光ファイバ22を伝播して偏波面回転部60を通過して、経路L6を構成する第6偏波面保存光ファイバ24を伝播して合波器40の第2ポート40-2から合波器40に入力される。そして合波器40の第3ポート40-3から出力されて第4偏波面保存光ファイバ18に入力される。
制御光パルスが偏波面回転部60を通過すると、その偏波方向が90°回転されるので、制御光パルスが第5偏波面保存光ファイバ22を伝播したときのP成分及びS成分は、それぞれ、第6偏波面保存光ファイバ24を伝播するときはS成分及びP成分となる。したがって、合波器40で、信号光パルスと制御光パルスとが合波されて、第4偏波面保存光ファイバ18に入力されて、第4偏波面保存光ファイバ18を両者の光パルスが並走する時は、経路L2を構成する第2偏波面保存光ファイバ14を並走していた時に信号光パルスの偏波方向(P方向)に平行な制御光成分はその強度がPMであるP成分であったのに対し、その偏波方向が90°回転されるので、信号光パルスの偏波方向(P方向)に平行な制御光成分はその強度がPEであるP成分となる。
すなわち、経路L2を構成する第2偏波面保存光ファイバ14を並走していた時の制御光パルスのP成分はその強度がPMであったの対して、経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18を並走する時は偏波面が90°回転されるので、その強度は変わらずPMであってS成分となる。一方、経路L2を構成する第2偏波面保存光ファイバ14を並走していた時の制御光パルスのS成分は強度がPEであったの対して、これも経路L4を構成する第4偏波面保存光ファイバ18を並走する時は偏波面が90°回転されるので、その強度は変わらずPEであってP成分となる。
次に、経路L4を構成している第4偏波面保存光ファイバ18中を、信号光を構成する信号光パルスと上述の制御光を構成する制御光パルスとが並走して、制御光パルスによって発現する光カー効果による相互位相変調効果によって信号光パルスに生じる位相シフト量φL4について説明する。
合波器40の第2ポート40-2から入力される制御光パルスのうち、経路L4を信号光パルスと並走して、信号光パルスに相互位相変調の効果を生じさせる成分は、第3ポート40-3から出力されるときにその強度は、経路L2を並走していた時の制御光パルスのP成分の強度PMの半分の強度PM/2となる。この理由は、合波器40として使われる方向性光結合器等の合分波特性に基づくものであり、合波器40に入出力されることで、その強度が半分になるためである。
経路L4を信号光パルスと並走して、信号光パルスに相互位相変調の効果を生じさせる制御光パルスの成分は、経路L2を伝播しているときはP成分であり、波長分離器30を介して経路L5をP成分として伝播し、偏波面回転部60を通過する時にS成分に変換された成分である。すなわち、この成分は、経路L2をP成分として伝播していた制御光パルスの成分であるので、その強度は合波器40の第2ポート40-2に入力される時点ではPMに等しいことになる。
したがって、経路L4を伝播中に信号光パルスに生じる位相シフト量φL4は、次式(2)で与えられる。
φL4=2γ(Pm/2)l4 (2)
ここで、l4は、経路L4を構成している第4偏波面保存光ファイバ18の長さである。
経路L2及び経路L4を制御光パルスと並走して伝播することで信号光パルスに生じる位相シフト量φtotalは、式(1')と式(2)とで与えられる位相シフト量の和であるから次式(3)で与えられる。
φtotal=φL2+φL4=2γ(PEl2+(PM/2)l4) (3)
ここで、経路L2及び経路L4は、経路L1、経路L3、経路L5及び経路L6に比べて十分に長いので、信号光パルスに生じる位相シフトは経路L2及び経路L4においてのみ発生するものと考えることができると仮定している。
すなわち、経路L1、経路L3、経路L5及び経路L6において信号光パルスに生じる位相シフト量は無視できるほど小さいものとした。因みに、経路L2及び経路L4は数kmであるのに対して、経路L1、経路L3、経路L5及び経路L6は、数十cm程度であるので、その長さ比は1万倍であり、上述のように位相シフト量は光路長に比例するので、経路L1、経路L3、経路L5及び経路L6において信号光パルスに生じる位相シフト量は無視できるほど小さいものであることがわかる。
ここで、経路L4の長さl4が経路L2の長さl2の2倍に設定してあるものとする、すなわち、L = l2 = l4/2 であるとすると、上述の式(3)は
φtotal=2γL(PE+PM)=2γLP (4)
と書くことができる。この式(4)から、信号光パルスに生じる位相シフト量は、制御光の入力強度P(=PE + PM)によって決まり、PEとPMとの比PE/PMには依存しないことが分かる。すなわち、制御光の偏光状態(PEとPMとの比によって与えられる。)によらず、制御光の入力強度が一定であれば信号光パルスに生じる位相シフト量は不変であることを意味している。
このことによって、入力される制御光である光パルス信号の偏光状態が変動しても、スイッチ動作に影響が現れず、安定したスイッチ動作を実現できる光スイッチが実現する。すなわち、光3R再生中継器等に利用するのに十分な安定動作を実現できる光スイッチを構成することが可能となる。
第1光スイッチを、光導波ループ回路101をCW方向とCCW方向とに伝播する第1信号光と第2信号光とを干渉させる干渉系であるとの立場に立つと、経路L1、経路L2及び経路L4によって形成される主たる光導波ループ回路101に対して、経路L3、経路L5及び経路L6によって形成される従たる光導波ループ回路が設置されているので、この従たる光導波ループ回路によって、第1光スイッチのスイッチ動作に不安定を招来する要因が存在するのではないかとの懸念が湧く。しかし、この従たる光導波ループ回路は、信号光に対してその位相を変調する効果を有していない。
すなわち、光導波ループ回路101をCW方向に伝播する第1信号光は、波長分離器30によってこの従たる光導波ループ回路に導入されることはない。また、光導波ループ回路101をCCW方向に伝播する第2信号光は、経路L4を伝播した後次の2経路を伝播することになる。
このうち第1の経路は、経路L4を伝播した後合波器40の第3ポート40-3に入力され、第1ポート40-1から出力されて経路L3を伝播して、波長分離器30の第2ポート30-2から波長分離器30に入力され第1ポート30-1から出力されて経路L2に入力される経路である。この場合には、第2信号光が経路L3を伝播するが、経路L3の長さは上述したように非常に短いので、第2信号光の位相に与える影響は無視できるほどに十分小さい。
もう一方の第2経路は、経路L4を伝播した後合波器40の第3ポート40-3に入力され、第2ポート40-2から出力されて経路L6を伝播して、偏波面回転部60を通過して経路L5を伝播して波長分離器30の第3ポート30-3から波長分離器30に入力される経路である。この第2経路を伝播する第2信号光は、波長分離器30の第3ポート30-3から波長分離器30に入力された後、第1ポート30-1にも第2ポート30-2のいずれにも出力されない。
第2信号光の波長はλsであるので、波長分離器30を構成する誘電体多層膜等の素子を透過する。したがって、波長分離器30の第3ポート30-3から波長分離器30に入力された第2信号光は、波長分離器30を構成する誘電体多層膜等の素子を透過するはずである。したがって、波長分離器30の第1ポート30-1から出力されないことは明白である。一方、第3ポート30-3に対して誘電体多層膜等の素子を挟んで反対側にある第2ポート30-2にも結合されない理由を、図5を参照して説明する。
図5において、誘電体多層膜等の素子等が利用された波長分離器30を挟んで、第1ポート30-1と第3ポート30-3とが同一の側に設定されており、第2ポート30-2はこれらとは反対側に設定されている。そして、第1ポート30-1から入力される光線の伝播方向と一致する同一直線上に第2ポート30-2が設けられている。一方、第3ポート30-3から入力される光線の伝播方向と一致する同一直線上には、入出力ポートが設けられていない。この結果、波長分離器30の透過波長λsの第2信号光が第3ポート30-3から波長分離器30に入力されても、波長分離器30を透過するが、第3ポート30-3から入力される光線の伝播方向と一致する同一直線上には、第2ポート30-2が設けられていないので、第2ポート30-2にも結合されないこととなる。
すなわち、いずれにしても、この従たる光導波ループ回路は、信号光に対してその位相を変調する効果を有していないので、この従たる光導波ループ回路によって信号光の位相が変調され、第1光スイッチのスイッチ動作に支障を与えることはない。
以上説明したように、第1光スイッチによれば、制御光の強度の変動がない限り制御光の偏光状態には関わりなく、信号光に発生させる位相シフト量を確定することができる。その結果、光3R中継器等に利用する際に要求される、制御光の偏光状態に依存しないスイッチ動作を実現できる光スイッチとして、この発明の第1光スイッチを利用できる。
以上説明した第1光スイッチの動作においては、制御光パルスによって引き起こされる光カー効果によって生じる相互位相変調に関して、制御光パルスが信号光パルスと平行な偏光方向を有しており、かつ、信号光パルスと同一の方向に並走して伝播する制御光パルスからの寄与だけを考慮してきた。しかしながら実際には、信号光と制御光の偏波面が相互に直交している場合にも光カー効果は発現する。ただし、この場合、非線形光学係数は、信号光と制御光の偏波面が相互に平行である場合と比較して小さい。以後、信号光と制御光の偏波面が相互に直交している場合の光カー効果を与える非線形光学係数をγ'とする。
また、信号光パルスと同一の方向に制御光パルスが並走して伝播する場合に限らず、信号光パルスと制御光パルスとが逆方向に伝播して光導波ループ回路中で衝突する場合にも光カー効果が発生する。この場合光カー効果を与える非線形光学係数は、信号光パルスと制御光パルスの偏波面が直交する場合はγ'、両者の偏光面が平行である場合はγである。
上述の、信号光と制御光の偏波面が相互に直交している場合及び信号光パルスと制御光パルスとが逆方向に伝播して光導波ループ回路中で衝突する場合に発現する光カー効果を考慮しなければならない場合について、図7(A)及び(B)を参照して、以下に考察する。
図7(A)及び(B)は、信号光パルスと制御光パルスとの時間的な位置関係を模式的に示した図である。図7(A)及び(B)において、信号光パルスが伝播する光導波ループ回路を形成する偏波面保存型の非線形光ファイバを直線状の円筒形で示し、この非線形光ファイバを伝播する信号光パルスならびに制御光パルスの伝播形態を模式的に描いてある。
図7(A)は、信号光パルスと制御光パルスとが偏波面保存光ファイバを互いに同一の方向に伝播する様子を模式的に描いてある。そして、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面は直交している場合を描いてある。
信号光の波長λsと制御光の波長λpとの差は数nmであるので、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面が互いに平行であれば、偏波面保存型の非線形光ファイバ中を伝播する位相速度はほとんど差がない。しかしながら、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面が互いに直交している場合には、偏波面保存型の非線形光ファイバ中を伝播する位相速度が、この非線形光ファイバの有する偏波モード分散により、無視できない程度異なる。すなわち、ほぼ同一の波長の光である信号光パルスと制御光パルスであっても、伝播する偏波面保存型の非線形光ファイバに偏波モード分散が存在すると、この非線形光ファイバの光学軸に対する、伝播する光の偏光面の方向とのなす角度によって、実効屈折率が異なるため、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面が互いに直交している場合には両者の位相速度の差は、無視できない程度となる。
図7(A)に示すように、破線で示した信号光パルスが、信号光パルスの偏光面に対してその偏光面が直交する実線で示した制御光パルスが、非線形光ファイバを伝播するにつれて、その位置関係がずれていくことが分かる。この図では、制御光パルスの位相速度が、信号光パルスの位相速度よりも速い場合を示してある。したがって、制御光パルスが信号光パルスを追い抜いていく状況となっている。これとは逆に、制御光パルスの位相速度が、信号光パルスの位相速度よりも遅い場合にも、以下の説明は同様にそのまま成り立つので、同様の説明を繰り返さない。
偏波面保存光ファイバで生じる偏波モード分散に基づく位相速度差による信号光パルスの制御光パルスに対する遅れ時間が、制御光パルスのビットレートの逆数より十分に大きい場合、信号光パルスは制御光パルスを数個分掃引することになる。このとき、信号光パルスに対して生じる光カー効果による位相シフト量は、制御光パルスの時間軸上での占有率に比例する。そして、その信号光パルスの時間波形には、制御光パルスの時間波形が反映されない。そこで、以後の説明において、上述のような信号光パルスに対して生じる光カー効果による位相シフトを位相バイアスと呼び、この位相シフト量を位相バイアス成分と呼ぶこともある。
信号光パルスと制御光パルスとの偏光面が直交した状態で、信号光パルスと制御光パルスとが偏波面保存光ファイバを互いに同一の方向に伝播する場合、上述の位相バイアス成分は、全ての信号光パルスに加わる。
位相バイアス成分をφ⊥とすると、次式(5)で与えられる。
φ⊥=2γ'PLd(1/M) (5)
ここで、Pは制御光の強度、Lは偏波面保存光ファイバの長さ、dは、制御光パルスの時間幅をビットレートの逆数で除した値であるデューティー比である。また、1/Mは、時間軸上で制御光パルスが存在する位置としない位置との比であり、制御光パルスの時間軸上での単位時間当たりの出現割合を示すマーク率である。
一方、図7(B)は、信号光パルスと制御光パルスとが偏波面保存光ファイバを互いに逆の方向に伝播する様子を模式的に描いてある。そして、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面とが平行である場合を描いてある。この場合、信号光パルスは、非線形光ファイバである偏波面保存光ファイバを伝播中に制御光パルスと複数回衝突する。すなわち、偏波面保存光ファイバの長さが十分に長く、偏波面保存光ファイバを信号光パルスが伝播し切るのに要する時間が、制御光パルスのビットレートの逆数よりも十分に大きい時、信号光パルスは複数個の制御光パルスと衝突する。
上述の、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面とが平行であって、信号光パルスと制御光パルスとが偏波面保存光ファイバを互いに逆の方向に伝播する場合、信号光パルスに対して生じる光カー効果による位相シフト量は、図7(A)に示した場合と同様に、制御光パルスの時間軸上での占有率に比例する。そして、その信号光パルスの時間波形には、図7(A)に示した場合と同様に、制御光パルスの時間波形が反映されない。すなわち、信号光パルスに対して生じる光カー効果による位相シフトは位相バイアスとなる。この位相バイアス成分φ〃は、次式(6)で与えられる。
φ〃=2γPLd(1/M) (6)
なお、信号光パルスと制御光パルスとの偏光面とが直交する場合であって、信号光パルスと制御光パルスとが偏波面保存光ファイバを互いに逆の方向に伝播する場合は、式(6)においてγとあるところをγ'で置き換えれば、この場合に対する位相バイアス成分が求まる。
式(5)及び式(6)で与えられる位相バイアス成分φ⊥あるいはφ〃が、第1光スイッチの動作にいかなる影響を与ええるかについて、以下に説明する。
まず、信号光が制御光と同一方向に光導波ループ回路を伝播する場合、すなわち、CW方向に伝播する信号光(第1信号光)に対しては、式(5)で与えられるφ⊥のみが寄与する。一方、信号光が制御光と逆方向に光導波ループ回路を伝播する場合、すなわち、CCW方向に伝播する信号光(第2信号光)に対しては、式(5)及び(6)で与えられるφ⊥及びφ〃が寄与する。
信号光パルスの偏波面に対して直交する方向の制御光パルスの偏波面成分からの寄与であるφ⊥は、第1信号光に対しても第2信号光に対しても同量であるので、第1光スイッチのスイッチ動作においては、φ⊥は相互に相殺されて存在しないものと見なすことができる。すなわち、第1光スイッチのスイッチ動作に影響を生じさせるのは、第2信号光に対して寄与する、式(6)で与えられる位相バイアス成分φ〃である。
第2信号光に対して寄与する位相バイアス成分φ〃は、第1信号光に対して第2信号光の位相シフトを生じさせる。このため、スイッチ動作に本来必要とされる、第1信号光パルスと並走する制御光パルスによって生成される第1信号光パルスの位相シフトに、上述の位相バイアス成分φ〃が加わることとなる。すなわち、位相バイアス成分φ〃が加わることによって、次のような支障が生じる。すなわち、制御光パルスと第1信号光パルスとをCW方向に光導波ループ回路を並走させて第1信号光パルスと第2信号光パルスとの間にπに等しい位相差を生じさせることで実現される、第1光スイッチの動作に支障が生じることとなる。
ここで、式(6)で与えられる位相バイアス成分φ〃の大きさを見積もってみる。標準的な光通信において、マーク率1/M=1/2、制御光パルスのデューティー比dは0.1程度が一般的であるので、この場合の位相バイアス成分φ〃の大きさは、2γPL=πとしてφ〃=2γPLd(1/M)=π×0.1×(1/2)=0.05πとなる。ここで、2γPL=πとしたのは、制御光パルスによって信号光パルスに発生するスイッチングに必要とされる位相ずれ量φが式(1)で与えられるので、式(1)で与えられるφ(=2γPL)が丁度πとなる場合を想定したためである。
マーク率1/M=1/2、制御光パルスのデューティー比dは0.1程度に設定された光通信においては、位相バイアス成分φ〃の大きさは0.05πと小さく、光スイッチの動作には本質的な影響を与えない。
しかしながら、NRZ(Non Return to Zero)光符号化された信号光を利用する光通信においては、デューティー比dは1に相当するので、信号光パルスが制御光パルスによってスイッチされるための条件であるφ(=2γPL)=πに対して、位相バイアス成分φ〃の大きさはφ〃=2γPLd(1/M)=π×1×(1/2)=0.5πとなり、第1光スイッチが誤作動を起こす水準となる。そこで、NRZ光符号化された信号光を利用する光通信のように、デューティー比dが1に近い程度の大きさである場合には、式(6)で与えられる位相バイアス成分φ〃を除去するための位相バイアス回路が必要となる。
[第1位相バイアス回路]
図1及び図2を参照して、第1位相バイアス回路501の動作原理を説明する。図2では、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する偏波面保存光ファイバを、円柱状の形状で模式的に示してある。説明の便宜のために、信号光あるいは制御光の伝播する方向をz方向、これに直交する方向をx及びy方向とする。
第1位相バイアス回路501は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図1には、位相バイアス回路500が経路L4に設定されている場合について示してあるので、これに対応させて、偏波面保存光ファイバ901を第4偏波面保存光ファイバ18aとし、偏波面保存光ファイバ905を第4偏波面保存光ファイバ18bとする。もちろん、位相バイアス回路500は、経路L4以外、経路L1、経路L2及び経路L3のいずれの経路に挿入してよく、いずれに挿入するかは設計的事項に属する。
偏波面保存光ファイバ901の左側から、slow軸に偏波面が平行である直線偏光である信号光が入力されるとして説明する。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18aから第4偏波面保存光ファイバ18bに向かって、第4偏波面保存光ファイバ18aを信号光がCCW方向に伝播してきた場合、すなわち第2信号光を想定する。
第2信号光は、偏波面保存光ファイバ901の右側(図2の紙面上(以下同様))から出力され、第1ファラデー回転子902で偏波面の方向が45°回転される(図2においては時計回りに45°回転される。)。その後、バビネソレイユ補償板903に入力される。バビネソレイユ補償板903に入力される際、第2信号光の偏波面の方向が、バビネソレイユ補償板903の光学軸の方向(図2においてはy軸の方向)に一致させる。次に、第2信号光は第2ファラデー回転子904に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図2においては反時計回りに45°回転される。)。第2ファラデー回転子904から出力される第2信号光は偏波面保存光ファイバ905(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される。
偏波面保存光ファイバ905(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される際、第2信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ905のslow軸と平行となっているので、第2信号光は偏波面保存光ファイバ905をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ905から出力される。
次に、偏波面保存光ファイバ905の右側から、slow軸に平行な方向の偏波面を有する直線偏光の信号光(第1信号光)が入力される場合を説明する。第1信号光は、偏波面保存光ファイバ905(第4偏波面保存光ファイバ18b)の左側から出力されて、第2ファラデー回転子904でその偏光方向が反時計回りに45°回転される。その後、第1信号光はバビネソレイユ補償板903に入力される。バビネソレイユ補償板903に入力される際、第1信号光の偏波面の方向が、バビネソレイユ補償板903の光学軸の方向(図2においてはx軸の方向)に一致させる。
次に、第1信号光は第1ファラデー回転子902に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図2においては時計回りに45°回転される。)。第1ファラデー回転子902から出力される第1信号光は偏波面保存光ファイバ901(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される。
偏波面保存光ファイバ901(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される際、第1信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ901のslow軸と平行となっているので、第1信号光は偏波面保存光ファイバ901をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ901の左端から出力される。
第1及び第2信号光が第1位相バイアス回路501を伝播する際に、その偏波面の方向がどのように変化するかを一覧表としてまとめ、表1(A)及び(B)に示す。表1(A)及び(B)中では、slow軸をs軸、fast軸をf軸と略記してある。また、右向きあるいは左向きの矢印によって、光の進む方向を示してある。
表1(A)は、第1及び第2信号光の偏波面がslow軸に平行な場合を示している。表1(A)から、第1信号光と第2信号光の偏光面の方向は、位相補償素子(バビネソレイユ補償板903)においてのみ直交しており、その他の光学素子の部分を伝播する際は、互いに平行な方向となっていることが分かる。したがって、第1及び第2信号光に対して、バビネソレイユ補償板903において位相バイアス成分が相殺できることを意味している。
バビネソレイユ補償板903を利用したことによって、位相バイアス成分の値の大きさに応じて、バビネソレイユ補償板903の位相補償量を調整することで、位相バイアス成分を相殺できることが容易に分かる。すなわち、式(6)で与えられるφ〃に相当する直交する偏光成分間の位相差量をバビネソレイユ補償板903によって補償することができる。
以上説明したことことから、制御光パルスのデューティー比が大きい場合でも、安定なスイッチ動作が保証される。
なお、表1(B)は、図2に示す構成の第1位相バイアス回路501に入力される第1及び第2信号光の偏波面の方向がfast軸に平行な場合をまとめて示している。表1(A)に示された第1及び第2信号光の偏波面の方向がslow軸に平行な場合と同様に、バビネソレイユ補償板903において、位相バイアス成分が相殺できることが分かる。すなわち、第1位相バイアス回路を利用することによって、第1光スイッチ101に入力される信号光がTE偏波であっても、TM偏波であっても、位相バイアス成分を相殺することができることを示している。
[第2位相バイアス回路]
図1及び図3を参照して、第2位相バイアス回路502の動作原理を説明する。図3では、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する偏波面保存光ファイバを、円柱状の形状で模式的に示してある。
第2位相バイアス回路502は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図1には、経路L4に位相バイアス回路500が設定されている場合について示してあるので、これに対応させて、偏波面保存光ファイバ1001を第4偏波面保存光ファイバ18aとし、偏波面保存光ファイバ1005を第4偏波面保存光ファイバ18bとする。もちろん、位相バイアス回路500は、経路L4以外、経路L1、経路L2及び経路L3のいずれの経路に挿入してよく、いずれに挿入するかは設計的事項に属する。
偏波面保存光ファイバ1001の左側から、slow軸に偏波面が平行である直線偏光である信号光が入力されるとして説明する。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18aから第4偏波面保存光ファイバ18bに向かって、第4偏波面保存光ファイバ18aを信号光がCCW方向に伝播してきた場合、すなわち第2信号光を想定する。
第2信号光は、偏波面保存光ファイバ1001の右側から出力され、第1ファラデー回転子1002で偏波面の方向が45°回転される(図3においては時計回りに45°回転される。)。その後、短尺の偏波面保存光ファイバ1003に入力される。短尺の偏波面保存光ファイバ1003に入力される際、第2信号光の偏波面の方向が、短尺の偏波面保存光ファイバ1003の光学軸の方向(図3においてはy軸の方向であるslow軸の方向)に一致させる。次に、第2信号光は第2ファラデー回転子1004に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図3においては反時計回りに45°回転される。)。第2ファラデー回転子1004から出力される第2信号光は偏波面保存光ファイバ1005(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される。
偏波面保存光ファイバ1005(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される際、第2信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ1005のslow軸と平行となっているので、第2信号光は偏波面保存光ファイバ1005をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ1005から出力される。
次に、偏波面保存光ファイバ1005の右側から、slow軸に平行な方向の偏波面を有する直線偏光の信号光(第1信号光)が入力される場合を説明する。第1信号光は、偏波面保存光ファイバ1005(第4偏波面保存光ファイバ18b)の左側から出力されて、第2ファラデー回転子1004でその偏光方向が反時計回りに45°回転される。その後、第1信号光は短尺の偏波面保存光ファイバ1003に入力される。短尺の偏波面保存光ファイバ1003に入力される際、第1信号光の偏波面の方向が、短尺の偏波面保存光ファイバ1003の光学軸の方向(図3においてはx軸の方向)に一致させる。
次に、第1信号光は第1ファラデー回転子1002に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図3においては時計回りに45°回転される。)。第1ファラデー回転子1002から出力される第1信号光は偏波面保存光ファイバ1001(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される。
偏波面保存光ファイバ1001(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される際、第1信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ1001のslow軸と平行となっているので、第1信号光は偏波面保存光ファイバ1001をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ1001から出力される。
第1及び第2信号光が第2位相バイアス回路502を伝播する際に、その偏波面の方向がどのように変化するかについては、第1位相バイアス回路の場合を一覧表としてまとめた表1(A)及び(B)において、バビネソレイユ補償板903とあるところを、短尺の偏波面保存光ファイバ1003と読み替えればよい。第1位相バイアス回路の場合と同様に、制御光パルスのデューティー比が大きい場合でも、安定なスイッチ動作が保証される。
第2位相バイアス回路502においては、位相補償素子として、ヒータ1006によってその温度が制御されるように構成された短尺の偏波面保存光ファイバ1003が用いられる。
短尺の偏波面保存光ファイバ1003によって、相殺できる位相バイアス成分Δφは、次式(7)で与えられる。
Δφ=(2πBΔL)/λs (7)
ここで、ΔLは短尺の偏波面保存光ファイバ1003の長さ、Bはslow軸に平行な方向の偏波面成分に対する実効屈折率とfast軸に平行な方向の偏波面成分に対する実効屈折率との差であり、以後「モード屈折率」と呼ぶこともある。
モード屈折率Bの温度依存性は次式(8)で与えられる。
B=B0+ΔBΔT (8)
ここで、B0は、室温(25℃)におけるモード屈折率であり、市販されている多くのPANDA型光ファイバの場合、波長1.55μm(信号光の波長λs)に対してB0=3×10-4程度である。また、ΔTは温度変化量であり、ΔBは温度係数である。市販されている多くのPANDA型光ファイバの場合、ΔB=4×10-7程度である。
第2位相バイアス回路502においては、短尺の偏波面保存光ファイバ1003をヒータ1006でその温度を制御することで相殺できる位相バイアス成分Δφを必要な値に設定する。
ここで、短尺の偏波面保存光ファイバ1003及びヒータ1006に対して、次の点が技術上要請される。
(A)ヒータ1006によって可変できる温度の範囲内で、Δφ=2πが実現できること。
(B)ヒータ1006で制御できる設定温度の精度内で、スイッチ動作の安定のために必要とされる程度にΔφの設定精度が得られること。
(C)信号光の波長λsの揺らぎの範囲内で、スイッチ動作の安定のために必要とされる程度にΔφの揺らぎが小さいこと。
以下、上記3点の技術上の要請に対応できるか否かを検討するために、上述の温度係数等のパラメータを有する市販されている多くのPANDA型光ファイバの場合を想定してシミュレーションする。この場合において温度変化量ΔTの最大値を50℃と想定する。また信号光のスペクトル幅が1 nmであるとして、この波長帯域幅に対応する位相バイアス量の幅が、0.02π(スイッチ動作を実現するために必要な2πの1%)以内に抑えることを設計の条件とする。
相殺できる位相バイアス成分Δφは、Δφ=(2πBΔL)/λs、として与えられる。また、ΔB=4×10-7は、B0=3×10-4に比べて小さいので、無視できるとすると、Δφ=(2πB0ΔL)/λs、となる。Δφ=2πが実現できるためには、ΔL=(λs)/(B0)=(1.55×10-6)/(3×10-4)≒0.52 cm程度以上あれば十分であることが分かる。この程度の長さの偏波面保存光ファイバを設定することは容易にできる。
一方、式(7)及び(8)から、温度変化1℃当たりの位相バイアス量の変化量と、信号光の波長λsの揺らぎ1 nm当たり位相バイアス量に与える変化量を見積もってみる。
式(7)及び(8)から、Δφ=(2π(B0+ΔBΔT)ΔL)/λs、が得られる。また、温度変化1℃当たりの位相バイアス量の変化量Δ(ΔφT)は、
Δ(ΔφT)=∂(Δφ)/∂(ΔT)=(2πΔBΔT)/λsとなる。一方、信号光の波長λsの揺らぎ1 nm当たりの位相バイアス量の変化量Δ(Δφλ)は、
Δ(Δφλ)=∂(Δφ)/∂λs=-((2π(B0+ΔBΔT)ΔL)/λs2)、となり、
ΔBΔTがB0と比べて十分に小さく無視できるものとすると、
Δ(Δφλ)≒-((2πB0ΔL)/λs2)、となる。
すなわち、波長がΔλ変化した時のΔφの変化量は、
|Δ(Δφλ)×Δλ|=((2πB0ΔL)Δλ/λs2)、と計算される。ここで、λs=1550 nm、Δλ=1 nmに対して、|Δ(Δφλ)×Δλ|=0.02πとすると、B0=3×10-4として、ΔL=(λs2|Δ(Δφλ)×Δλ|)/(2πB0Δλ)=(1.552×10-12×0.02π)/(2π×3×10-4×1×10-9)=8.008×10-2 (m)≒8 cm、となる。すなわち、ΔLが8 cm程度以下であれば、十分実現できることが分かる。
また、温度がΔT変化した時のΔφの変化量は、
|Δ(ΔφT)|=(2πΔBΔLΔT)/λs、であるから、|Δ(ΔφT)×Δλ|=0.02πとするとλs=1550 nm、ΔB=4×10-7、ΔL=8 cm、として、
ΔT=(λs|Δ(ΔφT)|)/(2πΔBΔL)=(1.55×10-6×0.02π)/(2π×4×10-7×8×10-2)=0.484375℃≒0.48°、となる。
上述のように、この条件を満たす短尺の偏波面保存光ファイバ1003の長さΔLは、8 cm以下であればよいことになる。また、ヒータ1006による温度制御の制度の範囲内で温度が揺らいだ場合の位相バイアスの変化Δφに与える許容値を、上述と同じく0.02π以内に抑えることを設計の条件とすると、求められる温度制御の制度は、上述のように0.48℃となる。この程度の温度制御は容易に実現できる。
以上の検討結果から、長さ8 cm程度の短尺のPANDA型光ファイバ1003を利用することによって、第1位相バイアス回路と同等の機能が実現でき第2位相バイアス回路を構成できることが分かる。
[第3位相バイアス回路]
図1及び図4を参照して、第3位相バイアス回路503の動作原理を説明する。図4では、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する偏波面保存光ファイバを、円柱状の形状で模式的に示してある。
第3位相バイアス回路503は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図1には、経路L4に位相バイアス回路500が設定されている場合について示してあるので、これに対応させて、偏波面保存光ファイバ1101を第4偏波面保存光ファイバ18aとし、偏波面保存光ファイバ1105を第4偏波面保存光ファイバ18bとする。もちろん、位相バイアス回路500は、経路L4以外、経路L1、経路L2及び経路L3のいずれの経路に挿入してよく、いずれに挿入するかは設計的事項に属する。
偏波面保存光ファイバ1101の左側から、slow軸に偏波面が平行である直線偏光である信号光が入力されるとして説明する。すなわち、第4偏波面保存光ファイバ18aから第4偏波面保存光ファイバ18bに向かって、第4偏波面保存光ファイバ18aを信号光がCCW方向に伝播してきた場合、すなわち第2信号光を想定する。
第2信号光は、偏波面保存光ファイバ1101の右側から出力され、第1ファラデー回転子1102で偏波面の方向が45°回転される(図4においては時計回りに45°回転される。)。その後、電気光学素子1103に入力される。電気光学素子1103に入力される際、第2信号光の偏波面の方向が、電気光学素子1103のc軸の方向(図4においてはx軸の方向)に一致させる。次に、第2信号光は第2ファラデー回転子1104に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図4においては反時計回りに45°回転される。)。第2ファラデー回転子1104から出力される第2信号光は偏波面保存光ファイバ1105(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される。
偏波面保存光ファイバ1105(第4偏波面保存光ファイバ18b)に入力される際、第2信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ1105のslow軸と平行となっているので、第2信号光は偏波面保存光ファイバ1105をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ1105から出力される。
次に、偏波面保存光ファイバ1105の右側から、slow軸に平行な方向の偏波面を有する直線偏光の信号光(第1信号光)が入力される場合を説明する。第1信号光は、偏波面保存光ファイバ1105(第4偏波面保存光ファイバ18b)の左側から出力されて、第2ファラデー回転子1104でその偏光方向が反時計回りに45°回転される。その後、第1信号光は電気光学素子1103に入力される。電気光学素子1103に入力される際、第1信号光の偏波面の方向が、電気光学素子1103のc軸と直交する方向(図4においてはy軸の方向)に一致させる。
次に、第1信号光は第1ファラデー回転子1102に入力されて、偏波面の方向が45°回転される(図4においては時計回りに45°回転される。)。第1ファラデー回転子1102から出力される第1信号光は偏波面保存光ファイバ1101(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される。
偏波面保存光ファイバ1101(第4偏波面保存光ファイバ18a)に入力される際、第1信号光の偏波面の方向は、偏波面保存光ファイバ1101のslow軸と平行となっているので、第1信号光は偏波面保存光ファイバ1101をslow軸に平行な直線偏光として伝播し、その後偏波面保存光ファイバ1101から出力される。
第1及び第2信号光が第3位相バイアス回路503を伝播する際に、その偏波面の方向がどのように変化するかについては、第1位相バイアス回路の場合を一覧表としてまとめた表1(A)及び(B)において、バビネソレイユ補償板903とあるところを、電気光学素子1103と読み替えればよい。第1位相バイアス回路の場合と同様に、制御光パルスのデューティー比が大きい場合でも、安定なスイッチ動作が保証される。
第3位相バイアス回路503においては、位相補償素子として電気光学素子1103が用いられる。電気光学素子1103は、図4に示すようにLiNbO3結晶のc+面とc-面との間に電源1106によって電圧を印加することによって、電気光学効果を発現させてLiNbO3結晶のc軸とc軸に直交する方向のa軸もしくはb軸との2光学軸との間の複屈折を生じさせる。このことによって、相殺すべき位相バイアスを相殺する。電源1106によってLiNbO3結晶のc+面とc-面との間の電圧を制御することによって、位相バイアス量を調整することができる。
上述の電気光学効果は、極めて高速に発現するので、補償すべき位相バイアス量を高速に生じさせることができる。したがって、制御光パルスの時間幅が時間変化する等の現象で、補償すべき位相バイアス量が時間変化するという状況下であっても、変調された信号光(ループ透過光として第1光スイッチ101から出力される信号光)の消光比をモニタしながら、その消光比が最大と成るように電源1106の電圧を制御することができる。すなわち、補償すべき位相バイアス量を、電源1106の電圧を制御することで高速に制御することができ、それによって安定なスイッチ動作を実現することができる。
<第2の実施の形態>
(構造)
図8を参照して、この発明の第2の実施の形態である、第2光スイッチの構成について説明する。第2光スイッチは、光非線形媒質で形成されたループ状の光導波ループ回路102と、光導波ループ回路102に制御光を入力する位相制御手段110の制御光入力手段20とに加えて、更に波長分離合成回路122と位相バイアス回路500を具えて構成される。
第2光スイッチの構成が、上述の第1光スイッチの構成と異なる点は、経路L6の途中に光遅延器70が挿入される点である。
光分波合成器10は、信号光を入力する第1ポート10-1、第1偏波面保存光ファイバ13の一端を接続する第2ポート10-2、第4偏波面保存光ファイバ19の他端を接続する第3ポート10-3及び変調信号光を出力する第4ポート10-4を具え、光強度の分岐比が1対1の光分波合成器10である。第1偏波面保存光ファイバ13は、光分波合成器10の第2ポート10-2に一端が接続され、制御光入力手段110としての光カプラ20に他端が接続されている。第2偏波面保存光ファイバ15は、光カプラ20に一端が接続され、波長分離合成回路122に他端が接続されている。第4偏波面保存光ファイバ19は、波長分離合成回路122に一端が接続され、光分波合成器10の第3ポート10-3に他端が接続されている。
また、波長分離合成回路122は、波長分離器30と、偏波面回転部60と、光遅延器70と、合波器40と、第3偏波面保存光ファイバ17と、第5偏波面保存光ファイバ23と、第6偏波面保存光ファイバ25とを具えている。波長分離器30は、第2偏波面保存光ファイバ15の他端と、第3偏波面保存光ファイバ17の一端と、第5偏波面保存光ファイバ23の一端とが接続されている。偏波面回転部60は、第5偏波面保存光ファイバ23の他端と第6偏波面保存光ファイバ25の一端とが接続されている。光遅延器70は、第6偏波面保存光ファイバ25の途中に設けられている。合波器40は、第3偏波面保存光ファイバ17の他端と、第6偏波面保存光ファイバ25の他端と、第4偏波面保存光ファイバ19の一端とが接続されている。
第3偏波面保存光ファイバ17は、波長分離器30に一端が接続され、合波器40に他端が接続されたている。第5偏波面保存光ファイバ23は、波長分離器30に一端が接続され、偏波面回転部60に他端が接続されている。第6偏波面保存光ファイバ25は、偏波面回転部60に一端が接続され、合波器40に他端が接続されている。
市販されているパンダ型光ファイバ等の偏波面保存光ファイバは、この光ファイバを伝播する光の伝播方向(以後「光ファイバの光軸方向」ということもある。)に対してslow軸と呼ばれる光学軸の方向と、fast軸と呼ばれる光学軸の方向とでは、導波される光に対する実効屈折率が異なる。
しかし、その光ファイバの光軸方向に沿って、fast軸(あるいはslow軸)の方向が完全に不変であるわけではない。そのために、偏波面保存光ファイバへの入力光が偏波面保存光ファイバのfast軸(あるいはslow軸)にその偏波面が平行である直線偏波であっても、この偏波面保存光ファイバからの出力光には、入力光の偏波方向と直交する方向に偏光成分を有していることになる。この入力光の偏波方向と直交する偏波方向の成分は、偏波クロストークと呼ばれる。
市販の平均的な偏波保存性能を有するPANDA型光ファイバにおいては、この偏波クロストークが、PANDA型光ファイバの長さが数十m以上の長さになると、急激に増大することが知られている(例えば、古河電工時報:第109号2002年発行pp. 5-10参照)。
光カー効果を利用する光スイッチは、通常数十m以上の長さの偏波面保存光ファイバが用いられて構成されるので、その設計においては、偏波クロストークを十分に考慮する必要がある。光スイッチを構成する偏波面保存光ファイバを伝播する光パルスは、fast軸及びslow軸の両方向に対する偏光成分を有している。このため偏波クロストークが発生すれば、信号光の光パルスの本来の偏波方向成分と偏波クロストークとが干渉し、信号光の光パルスの偏光状態は、偏波クロストークが存在しない場合とは異なる状態となる。この偏波クロストークにより信号光の光パルスの位相に与えられる効果は、信号光の光パルスの波長や、偏波面保存光ファイバの周囲温度等が変化することによっても変化する。すなわち、偏波クロストークの存在によって、光スイッチの動作特性に変動を与え、不安定動作を引き起こすという問題が発生する。
偏波面回転部60は、第5偏波面保存光ファイバ23の光学軸と第6偏波面保存光ファイバ25の光学軸とを互いに90°の角度をなすように融着することで構成してもよい(例えば、非特許文献2参照)。もちろん第1光スイッチ同様に、偏波面回転部60は、ファラデー回転子に限らず、1/2波長板を利用することもできる。1/2波長板を利用する場合には、制御光のS成分の偏波面の方向と1/2波長板の光学軸とが互いに45°の角度をなすように設置する必要がある。
いずれにしても、偏波面回転部60は、直線偏光が入力されるとその直線偏光の偏波面を90°回転させて出力する機能を有する素子であれば、利用可能であり、いずれの素子を利用するかは設計的な事項に属する。
位相バイアス回路500は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図8には、経路L4に位相バイアス回路500が設定されている場合について示してある。位相バイアス回路500の構成は、第1光スイッチに用いたものと同一であるので、その説明を省略する。
また、上述した第1光スイッチとこの第2光スイッチとの相違点の他は、第2光スイッチの構成と第1光スイッチとの構成とは共通するので、その重複する説明は省略する。
(動作)
経路L1乃至経路L6を偏波面保存光ファイバで構成したこと、及び光分波合成器10と制御光入力手段20と合波器40とを、偏波面が保存された状態で機能する素子を利用して構成したことによって、次の効果が得られる。すなわち、信号光の偏光方向を常に保持することができ、更に信号光のCW方向に伝播する成分(第1信号光)およびCCW方向に伝播する成分(第2光信号)の、光導波ループ回路102における光路長を完全に一致させることができる。したがって、制御光が光導波ループ回路102に入力されていない場合には、第1信号光と第2信号光とを光分波合成器10において合波させる際に、両者の偏波面の方向及びその位相が一致するために、安定なスイッチ動作が実現する。
経路L1乃至経路L6を偏波面保存が保証されない通常の光ファイバで構成し、光分波合成器と制御光入力手段と合波器とについても、偏波面保存が保証されない素子を利用して、第2光スイッチと同様の光スイッチを構成すると以下の問題が生ずる。すなわち、光スイッチの周囲温度の変化や信号光の波長の揺らぎによって、第1信号光と第2信号光とを、光分波合成器10において合波させる際に、両者の偏波面の方向及びその位相が一致することが保証されないため、安定なスイッチ動作が実現されない。
次に、経路L6の途中に光遅延器70を挿入する理由を説明する。光遅延器70を挿入することによって、以下で説明するように、経路L1乃至経路L6を構成する偏波面保存光ファイバのもつ実効屈折率モード分散によって生じる偏波モード分散の効果を抑圧することができ、安定なスイッチ動作が実現される。
第2光スイッチは、経路L1乃至経路L6が偏波面保存光ファイバで構成され、光分波合成器、制御光入力手段及び合波器が、偏波面が保存された状態で機能する素子を利用して構成されているので、光導波ループ回路102において発生する、上述の、偏波モード分散がスイッチ動作に及ぼす効果を無視できない。
偏波モード分散(PMD: Polarization-Mode Dispersion)は、次式(9)で与えられる。
PMD=B/c (9)
ここで、Bは、偏波面保存光ファイバを伝播する信号光の、偏波面保存光ファイバの遅相軸(slow軸)と進相軸(fast軸)のそれぞれに対する実効屈折率の差であり、以後Bの値をモード複屈折率ということもある。また、c(m/s)は真空中の光の伝播速度である。
偏波面保存光ファイバとして広く利用されるPANDA型光ファイバは、光の電場ベクトルの振動方向がfast軸に平行である光に対する実効屈折率と、slow軸に平行である光に対する実効屈折率との差異が3×10-4程度である。したがって、偏波モード分散の値PMDは、(3×10-4)÷(3×108 m/s)=1×10-12 s/mであるから、偏波面保存光ファイバ1 m当たり1 ps程度となる。
偏波モード分散を考慮した場合における、経路L2乃至経路L6を伝播する信号光ならびに制御光の伝播形態を、図9を参照して説明する。図9は、この発明の第2の実施の形態である第2光スイッチの動作の説明に供するため、経路L2乃至経路L6を伝播する信号光ならびに制御光の伝播形態を模式的に描いてある。また、見やすくするために、図9において、経路L2乃至経路L6を直線的に抽象化して描いてある。
経路L2を形成する第2偏波面保存光ファイバ15の一端が接続されている制御光入力手段20の出力端において、制御光はTE偏波として第2偏波面保存光ファイバ15に入力されるものとして説明する。もちろん制御光をTM波として第2偏波面保存光ファイバ15に入力されるものとして光スイッチを動作させることも可能であるが、同様の説明となるので、その説明を省略する。
第1信号光が経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ15のslow軸に平行な偏波面を有する偏光状態で伝播するものとする。一方、制御光が経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ15を、slow軸にその偏波面が平行であるS成分と、それと直交するfast軸にその偏波面が平行であるP成分とを有して伝播するものとする。この設定条件は、図1を参照して第1光スイッチの動作を説明した時と同様である。
また第2偏波面保存光ファイバ15の群速度分散によって生じる信号光パルスと制御光パルスとの伝播速度の相違に基づく、信号光パルスと制御光パルスとの並走中の両者の位置ずれであるウォークオフが発生しないものとすると、制御光パルスのP成分は信号光パルスに対して、偏波モード分散の分だけ先に進む。
安定したスイッチ動作を実現するためには、次の条件を満足させる必要がある。まず、経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ15の一端(制御光入力手段20との接合部)に入力される時点において、信号光パルス(図9中aで示す。)と制御光パルスのS成分(図9中bで示す。)の時間軸上での位置が一致していること。及び、経路L4を構成している第4偏波面保存光ファイバ19の一端(合波器40との接合部)に入力される時点において、信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)の時間軸上での位置が一致している必要がある。
前者の条件は、光導波ループ回路102に制御光を入力させるタイミングを調整することで制御できる。しかし後者の条件は、偏波モード分散の影響を受け、信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)の時間軸上での位置を一致させることができない。
そこで、第2光スイッチは、経路L6の途中に光遅延器70が挿入されている。光遅延器70は、上述の信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)を時間軸上で一致させる役割を果たす。すなわち、信号光パルスが経路L3を伝播し経路L4に入力されるまでの間、及び、制御光パルスが経路L5からL6を伝播して経路L4に入力されるまでの間に、偏波モード分散による伝播時間の差異を補償する遅延時間を与える。
すなわち、制御光パルスのP成分とS成分とが経路L2を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフを、経路L4を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフによって相殺されるようにする。経路L2をP成分として伝播した制御光パルス成分は、経路L5と経路L6との間に設けられている偏波面回転部60を通過することによって、S成分となっている。一方、経路L2をS成分として伝播した制御光パルス成分は、経路L5と経路L6との間に設けられている偏波面回転部60を通過することによって、P成分となっている。
したがって、制御光パルスのP成分とS成分とが経路L2を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフが、経路L4を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフによって相殺されれば、経路L4を構成している第4偏波面保存光ファイバ19の一端(合波器40との接合部)に入力される時点において、信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)の時間軸上での位置を一致させることができる。
以上、信号光の偏波面の方向が第2偏波面保存光ファイバ15及び第4偏波面保存光ファイバ19のslow軸と平行であるものとしたので、、経路L6の途中に光遅延器70を配置した。仮に信号光の偏波面の方向が第2偏波面保存光ファイバ15及び第4偏波面保存光ファイバ19のfast軸と平行であるとするならば、光遅延器70を経路L3の途中に設ければよい。
また、偏波モード分散によって発生する上述のウォークオフの量が既知で、しかも、偏波面保存光ファイバの長さが実質的に一定であることが保証されるなど、このウォークオフの量を変化させる必要がないならば、経路L6あるいは経路L3の光路長を、上述の偏波モード分散によって発生するウォークオフを相殺することができる長さに設定しておけば、光遅延器70を導入する必要はない。
しかし、偏波モード分散によって発生する上述のウォークオフの量が既知で、しかも、偏波面保存光ファイバの長さが実質的に一定であることが保証されることは、非常に特殊なケースである。したがって、通常は、光遅延器70を導入し、制御光パルスのP成分とS成分とが経路L2を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフが、経路L4を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフによって相殺されるように、光遅延器70によって、上述の信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)を時間軸上で一致させる必要がある。
光遅延器70は、光路長を調整することができる装置であり、当業者であれば、既存のコーナーキューブリフレクター等を利用して容易に形成できる。すなわち、経路L6を構成する第6偏波面保存光ファイバ25を途中で切断し、その切断面の一端から出力される制御光をコーナーキューブリフレクターに導き、このコーナーキューブリフレクターからの反射光を第6偏波面保存光ファイバ25の切断面の他端に入力させる構成とすればよい。
第6偏波面保存光ファイバ25の切断面の一端からコーナーキューブリフレクターに向かって進む制御光の伝播方向と、コーナーキューブリフレクターから第6偏波面保存光ファイバ25の切断面の他端に向かって進む制御光の伝播方向とは平行となるように調整する。そして、光路長を調整するためには、第6偏波面保存光ファイバ25の切断面の一端及び他端からコーナーキューブリフレクターまでの距離を変化させればよい。この距離の2倍の長さに相当する光路長変化を生じさせることができ、制御光パルスのP成分とS成分とが経路L2を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフが、経路L4を伝播することで発生する偏波モード分散によるウォークオフによって相殺することができるように光路長を調整できる。
位相バイアス回路500を、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する理由とその効果については既に説明したので、ここでは繰り返さない。
<第3の実施の形態>
(構造)
図10を参照して、この発明の第3の実施の形態である、第3光スイッチの構成について説明する。第3光スイッチは、光非線形媒質で形成されたループ状の光導波ループ回路103と、光導波ループ回路103に制御光を入力する位相制御手段110の制御光入力手段20とに加えて、更に波長分離合成回路123と位相バイアス回路500を具えて構成される。
すなわち、第3光スイッチにおいて、光導波ループ回路103は、光分波合成器10から制御光入力手段20までの第1偏波面保存光ファイバ13で形成される光経路(以後「経路L1」と呼ぶこともある。)と、制御光入力手段20から第2偏波面回転部64までの第2偏波面保存光ファイバ51で形成される光経路(以後「経路L2」と呼ぶこともある。)と、第2偏波面回転部64から波長分離合成回路123までの第3偏波面保存光ファイバ52で形成される光経路(以後「経路L3」と呼ぶこともある。)と、波長分離合成回路123から第3偏波面回転部66までの第5偏波面保存光ファイバ54で形成される光経路(以後「経路L5」と呼ぶこともある。)と、第3偏波面回転部66から光分波合成器10に戻るまでの第6偏波面保存光ファイバ55で形成される光経路(以後「経路L6」と呼ぶこともある。)とで形成されている。
第3光スイッチの構成が、上述の第1及び第2光スイッチの構成と異なる点は、第2偏波面回転部64及び第3偏波面回転部66を導入した点である。第1偏波面回転部62は、第1及び第2光スイッチにおける偏波面回転部60に対応する。第2偏波面回転部64は、第2偏波面保存光ファイバ51の他端と第3偏波面保存光ファイバ52の一端とが接続されている。第3偏波面回転部66は、第5偏波面保存光ファイバ54の他端と第6偏波面保存光ファイバ55の一端とが接続されている。
すなわち、第3光スイッチは、光導波ループ回路103が、光非線形媒質として偏波面保存光ファイバを用いて形成され、光分波合成器10と、第1偏波面保存光ファイバ13と、第2偏波面保存光ファイバ51と、第3偏波面保存光ファイバ52と、第5偏波面保存光ファイバ54と、第6偏波面保存光ファイバ55と、第2偏波面回転部64と、第3偏波面回転部66とを具えて構成される。
光分波合成器10は、信号光を入力する第1ポート10-1、第1偏波面保存光ファイバ13の一端を接続する第2ポート10-2、第6偏波面保存光ファイバ55の他端を接続する第3ポート10-3及び変調信号光を出力する第4ポート10-4を具え、光強度の分岐比が1対1である光分波合成器10である。
第1偏波面保存光ファイバ13は、光分波合成器10の第2ポート10-2に一端が接続され、制御光入力手段としての光カプラ20に他端が接続されている。第2偏波面保存光ファイバ51は、光カプラ20に一端が接続され、第2偏波面回転部64に他端が接続されている。第3偏波面保存光ファイバ52は、第2偏波面回転部64に一端が接続され、波長分離合成回路123に他端が接続されている。第5偏波面保存光ファイバ54は、波長分離合成回路123に一端が接続され、第3偏波面回転部66に他端が接続されている。第6偏波面保存光ファイバ55は、第3偏波面回転部66に一端が接続され、光分波合成器10の第3ポート10-3に他端が接続されている。
また、第2偏波面回転部64は、第2偏波面保存光ファイバ51の他端と第3偏波面保存光ファイバ52の一端とが接続されている。第3偏波面回転部66は、第5偏波面保存光ファイバ54の他端と第6偏波面保存光ファイバ55の一端とが接続されている。
波長分離合成回路123は、波長分離器30と、第1偏波面回転部62と、合波器40と、第4偏波面保存光ファイバ53と、第7偏波面保存光ファイバ56と、第8偏波面保存光ファイバ57とを具えて構成される。
すなわち、波長分離合成回路123は、経路L1、L2、L3、L5及びL6から成る光導波ループ回路103に対して副次的な光導波ループ回路を形成している。この副次的な光導波ループ回路を形成している光経路は、波長分離器30と合波器40とを繋ぐ第4偏波面保存光ファイバ53(以後「経路L4」と呼ぶこともある。)、波長分離器30と第1偏波面回転部62とを繋ぐ第7偏波面保存光ファイバ56(以後「経路L7」と呼ぶこともある。)及び第1偏波面回転部62と合波器40とを繋ぐ第8偏波面保存光ファイバ57(以後「経路L8」と呼ぶこともある。)とである。
波長分離器30は、第3偏波面保存光ファイバ52の他端と、第4偏波面保存光ファイバ53の一端と、第7偏波面保存光ファイバ56の一端とが接続されている。第1偏波面回転部62は、第7偏波面保存光ファイバ56の他端と第8偏波面保存光ファイバ57の一端とが接続されている。合波器40は、第4偏波面保存光ファイバ53の他端と、第8偏波面保存光ファイバ57の他端と、第5偏波面保存光ファイバ54の他端とが接続されている。
第4偏波面保存光ファイバ53は、波長分離器30に一端が接続され、合波器40に他端が接続されている。第7偏波面保存光ファイバ56は、波長分離器30に一端が接続され、第1偏波面回転部62に他端が接続されている。第8偏波面保存光ファイバ57は、第1偏波面回転部62に一端が接続され、合波器40に他端が接続されている。
位相バイアス回路500は、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L6いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する。図10には、経路L6に位相バイアス回路500が設定されている場合について示してある。
上述した第1および第2光スイッチとの相違点の他は、第3光スイッチの構成と第1および第2光スイッチとの構成とは共通するので、その重複する説明は省略する。
(動作)
第3光スイッチの光スイッチとしての動作原理は、第1及び第2光スイッチと同様である。第3光スイッチの特徴は、第2及び第3偏波面回転部を設けたことによって、第2光スイッチにおいて必要とされた光遅延器70を必要としない点である。
また、光路長についても第2光スイッチと同様な条件を満足している。すなわち、経路L2、L3、L5、L6に関して、それぞれの長さをl2、l3、l5、l6とすると、l2+l3=(l5+l6)/2を満足している。この関係は第2光スイッチにおいて、経路L4と経路L2の長さの関係が、経路L4の長さl4が経路L2の長さl2の2倍に設定してある、すなわち、L=l2=l4/2である関係に設定してあることに対応する。第3光スイッチの経路L2と経路L3の長さの和は第2光スイッチの経路L2の長さに対応し、第3光スイッチの経路L5と経路L6の長さの和は第2光スイッチの経路L4の長さに対応している。したがって、第1光スイッチにおいて実現された、制御光の偏波面が不確定であっても、安定したスイッチ動作が実現されるという効果が得られる。
経路L2、L3、L5、L6に関して成立している、l2+l3=(l5+l6)/2なる関係は、経路L2及びL3で生じる位相シフト量と、経路L5及びL6で生じる位相シフト量の差についてどの程度の誤差が許されるかによって、その要求精度が確定する。多くの実施の形態において、この位相シフト量の誤差として10%以内であれば、支障が生じない。すなわち第3光スイッチを光3R再生中継器に利用した場合、再生される信号光の品質は、光通信で許容される範囲内にある。
また、第3光スイッチでは、第2及び第3偏波面回転部64、66を導入したことによって、第2光スイッチにおいて必要とされた光遅延器70を必要としない。第2光スイッチにおいても、第2の実施の形態の説明において開示したような光遅延器70を利用せずに構成することも原理的には可能であるが、その前提条件として、偏波モード分散量が一定不変で確定されており、経路L3、経路L5及び経路L6に偏波モード分散による偏波面に依存する時間遅延量を補償するための時間遅延差を容易に与えることが可能である場合に限られる。
しかしながら、実際の光スイッチの利用においては、光スイッチに利用される光ファイバの長さは、適用の対象によって様々な長さが用いられる。そのため偏波モード分散量は、それぞれの場合に応じて様々な値となる。このことに加えて、光スイッチを構成するために使われる光ファイバの長さは、数百 mから数km必要である。光ファイバがこの長さである場合に発生する偏波モード分散量は、数百 psから数nsとなる。これだけの時間で光が空気中を進む距離は、数cmから数十cmとなる。すなわち、偏波モード分散による偏波面に依存する時間遅延量を補償するために設定すべき装置のサイズが大きくなり、光スイッチ全体のサイズも大きなものとなってしまう。この結果、光スイッチのスイッチ動作を損なう原因となる機械的な安定性も確保しにくくなる。
第3光スイッチは、上述の問題を解決できる。このために、第3光スイッチは、経路L2と経路L3の長さを等しく設定し、経路L2を形成する第2偏波面保存光ファイバ51の他端と経路L3を形成する第3偏波面保存光ファイバ52の一端とが接続された第2偏波面回転部64を設定する構成とされている。第2偏波面回転部64は、通過する光の偏波面を90°回転させる機能を有している。第2偏波面回転部64は、第1及び第2光スイッチに設定される偏波面回転部60と同様に、ファラデー回転子を利用することができる。また、ファラデー回転子に限らず、1/2波長板を利用することもできる。
経路L2と経路L3との間に第2偏波面回転部64を設定したことによって、経路L2と経路L3の長さが等しく設定されているので、経路L2及び経路L3において生じる偏波モード分散を相殺することができる。したがって、第2光スイッチにおいて図9を参照して説明したのと同様に、経路L4の長さと経路L7と経路L8の長さの和とが等しくなるように設定されていれば、第2光スイッチの場合と同様に偏波モード分散による、スイッチ動作の不安定性を除去することができる。ここでは、図9に示された、第2光スイッチの経路L2及び経路L4をそれぞれ、第3光スイッチの経路L3及び経路L5と読み替えるものとして説明する。また、第2光スイッチの経路L2を第3光スイッチの経路L2及び経路L3からなる経路と読み替え、第2光スイッチの経路L4を第3光スイッチの経路L5及び経路L6からなる経路と読み替えるものとして説明する。また、第3光スイッチの経路L4、及び経路L7と経路L8によって形成される経路とは、それぞれ第2光スイッチにおける経路L3、及び経路L5と経路L6によって形成される経路に対応する。
したがって、図9を参照して行った第2光スイッチの動作に対する説明と同様にして、経路L2を構成している第2偏波面保存光ファイバ51の一端(制御光入力手段20との接合部)に入力される時点において、信号光パルス(図9中aで示す。)と制御光パルスのS成分(図9中bで示す。)の時間軸上での位置が一致していれば、自動的に経路L5を構成している第5偏波面保存光ファイバ54の一端(合波器40との接合部)に入力される時点において、信号光パルス(図9中cで示す。)と制御光パルスのP成分(図9中dで示す。)の時間軸上での位置が一致する。このようにして、偏波モード分散による効果を相殺し、スイッチ動作の不安定性を除去することができる。
次に、第3偏波面回転部66も設置することが必要な理由について、表2(A)及び(B)を参照して説明する。表2(A)及び(B)には、信号光並びに制御光が光導波ループ回路103を形成している経路L1乃至経路L8を伝播する状態を一覧表としてまとめてある。表2(A)及び(B)において、経路L1乃至経路L6を形成している偏波面保存光ファイバの光学軸であるslow軸及びfast軸に、伝播する信号光あるいは制御光の偏波面が平行である場合を、それぞれs軸及びf軸と表記してある。また、接続されている経路間をどちらの経路からどちらの経路に向かって伝播しているかを示すために、経路間の欄に右向きあるいは左向きの矢印を示してある。また、表2(A)は第3偏波面回転部66を設置しなかった場合を、表2(B)は第3偏波面回転部66を設置した場合を示してある。
この説明では、第3光スイッチへの入力信号光はTE方向に振動面を持つ直線偏光であり、TE方向は偏波面保存光ファイバの光学軸slow軸の方向であるものとする。
第3偏波面回転部66を設置しなかった場合は、表2(A)を見ると明らかなように、第1信号光(CW方向に伝播する信号光)と第2信号光(CCW方向に伝播する信号光)とは、経路L1乃至経路L6において常にその偏波面の方向が直交している。すなわち、第1信号光の偏波面がslow軸に平行である場合は第2信号光の偏波面はfast軸に平行となっており、第1信号光の偏波面がfast軸に平行である場合は第2信号光の偏波面はslow軸に平行となっている。
したがって、第1光信号と第2光信号とが、光分波合成器10において合波される際に、経路L1、L2、L3、L5及びL6を構成する偏波面保存光ファイバの有するモード複屈折の影響を受ける。モード複屈折によって、偏波面保存光ファイバのslow軸方向及びfast軸方向のそれぞれの実効屈折率の差によって、両方向に平行な偏波面を有する信号光の伝播距離の差が丁度1波長(位相に換算して2π)に達するまでに必要とされる伝播距離(以後「ビート長」ということもある。)は数mm程度である。
すなわち、第3光スイッチの光導波ループ回路103を構成している経路L1、L2、L3、L5及びL6の長さを、このビート長より十分に短い精度で構成しなければ、第3光スイッチの環境温度や入力される入力信号光の波長の揺らぎによって、第1光信号と第2光信号とが光分波合成器10において合波される際に、その位相関係が不規則に変化するために、スイッチ動作が不安定となる。既に述べたように、経路L2、L3、L5、L6の長さは、数百mから数kmであるので、それらを長さ誤差が1 mm以下となるように設定することはきわめて難しい。
一方、第3偏波面回転部66を設置した場合は、表2(B)を見ると明らかなように、第1信号光(CW方向に伝播する信号光)と第2信号光(CCW方向に伝播する信号光)とは、経路L1、L2、L3、L5及びL6において常にその偏波面の方向が互いに平行である。したがって、第1信号光と第2信号光とが光分波合成器10において合波される際に、モード複屈折による位相差は生じない。すなわち、第3光スイッチの環境温度や入力信号光の波長揺らぎに依存する位相差がしないため、安定なスイッチ動作が実現される。
以上説明したように、第3光スイッチによれば、第2光スイッチにおいて必要とされた光遅延器70が不要となり製造コストを低減できる。また第3光スイッチの光導波ループ回路103を構成する偏波面保存光ファイバの長さやその種類が変更されても、この経路を形成する偏波面保存光ファイバ以外の構成要素は変更する必要がないという利点がある。
位相バイアス回路500を、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L6のいずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置する理由とその効果については既に説明したので、ここでは繰り返さない。
一方、位相バイアス回路500を以下のように構成することもできる。すなわち、第2偏波面回転素子(例えば、第2ファラデー回転子)を、図2、3、及び4に示されている方向とは逆に偏波面の回転方向が上述の反時計回りではなく、時計回りにに45°回転されるように設定する。このように設定することで、位相バイアス回路500を経路L5又は経路L6に設置した場合には、第3偏波面回転部66が不要となり、また、位相バイアス回路500を経路L2又は経路L3に設置した場合には、第2偏波面回転部64が不要となる。
表3(A)及び(B)を参照して、上述の第2及び第3偏波面回転部が不要となる理由を説明する。
位相バイアス回路500を上述のように、第2偏波面回転素子(例えば、第2ファラデー回転子)によって、偏波面が時計回りにに45°回転されるように設定されている場合に、第1及び第2信号光が第1位相バイアス回路を伝播する際に、その偏波面の方向がどのように変化するかを一覧表としてまとめ、表3(A)及び(B)に示す。表3(A)及び(B)中では、slow軸をs軸、fast軸をf軸と略記してある。また、右向きあるいは左向きの矢印によって、光の進む方向を示してある。
表3(A)は、第1信号光の偏波面がfast軸に平行であって、第2光信号の偏波面がslow軸に平行な場合を示している。表3(A)から、第1信号光と第2信号光の偏光面の方向は、位相補償素子(例えば、バビネソレイユ補償板903)においてのみ直交しており、その他の光学素子の部分を伝播する際は、互いに平行な方向となっていることが分かる。更に、第1及び第2信号光が偏波面保存光ファイバ(例えば、偏波面保存光ファイバ901及び905)への入力時と出力時とではその偏波面の方向が直交していることが分かる。すなわち、slow軸に平行な方向の偏波面をもって第2信号光が偏波面保存光ファイバ901の左端から入力した場合、偏波面保存光ファイバ905の右端からfast軸に平行な偏波面をもって出力される。また、fast軸に平行な方向の偏波面をもって第1信号光が偏波面保存光ファイバ905の右端から入力した場合、偏波面保存光ファイバ901の左端からslow軸に平行な偏波面をもって出力される。
したがって、上述のように、第2偏波面回転素子(例えば、第2ファラデー回転子)によって、偏波面が時計回りにに45°回転されるように設定さている位相バイアス回路500を利用すれば、第1及び第2信号光に対して、位相補償素子(例えば、バビネソレイユ補償板903)において位相バイアス成分が相殺でき、位相バイアス回路500を第1及び第2信号光が通過することで偏波面保存光ファイバの光学軸に対して、偏波面が90°回転さることを意味している。すなわち、第1及び第2信号光の偏波面を偏波面保存光ファイバの光学軸に対して、偏波面が90°回転することを目的として挿入される、第2偏波面回転部64あるいは第3偏波面回転部66が不要となる。また、制御光パルスのデューティー比が大きい場合でも、安定なスイッチ動作が保証されることには変わりがない。
なお、表3(B)は、第1信号光の偏波面がslow軸に平行であって、第2光信号の偏波面がfast軸に平行な場合を示している。表3(A)に示された場合と同様に、位相補償素子(例えば、バビネソレイユ補償板903)において、位相バイアス成分が相殺でき、位相バイアス回路500を第1及び第2信号光が通過することで偏波面保存光ファイバの光学軸に対して、偏波面が90°回転される。
<第4の実施の形態>
(構造)
図11を参照して、この発明の第4の実施の形態である第4光スイッチの構造について説明する。第4光スイッチは、第1乃至第3光スイッチの位相制御手段の構成が異なる。第1乃至第3光スイッチの位相制御手段は、制御光入力手段としての光カプラを具えている他は、特段の必須構成要素を有していなかった。これに対して第4光スイッチにおいては、第1乃至第3光スイッチの位相制御手段として以下の構成要素を具え、光導波ループ回路104を構成する光経路を構成する数々の光学部品やそれら光学部品を結合している光ファイバにおける制御光の減衰に対処できる構成とされている点が特徴である。
位相制御手段112は、偏波分離器406と、光減衰器408と、偏波合成器407と、制御光入力手段としての光カプラ20とを具えている。偏波分離器406は、制御光を入力させる第1ポート406-1、制御光のS成分を出力する第2ポート406-2、制御光のP成分を出力する第3ポート406-3を具えている。光減衰器408は、偏波分離器406から出力された制御光のS成分の光強度を減少させて出力する。偏波合成器407は、光減衰器408から出力された制御光のS成分を入力する第1ポート407-1と、偏波分離器の第3ポート406-3から出力された制御光のP成分を入力する第3ポート407-3と、光減衰器408から出力された制御光のS成分と偏波分離器406の第3ポート406-3から出力された制御光のP成分を合波して出力する第2ポート407-2とを具えている。制御光入力手段としての光カプラ20は、偏波合成器407の第2ポート407-2から出力された制御光を第2偏波面保存光ファイバ51(第1光スイッチでは14、第2光スイッチでは15)の一端から光導波ループ回路に入力させる。
なお、第4光スイッチに利用される上述の位相制御手段112を第1乃至第3光スイッチに利用しても以下に述べる効果が得られることは明らかである。第1光スイッチでは、光導波ループ回路101を構成する経路を偏波面保存型の光ファイバを用いなくても構成できるが、そのために第2及び第3光スイッチが有する効果を発揮することはできないが、第4光スイッチに利用される上述の位相制御手段112を導入すれば、そのことによる効果は得られる。
(動作)
上述の第4光スイッチに利用される上述の位相制御手段112以外の構成部分の働きは、第1乃至第3光スイッチの場合と同一であるので、その説明を省略する。
第1ないし第3光スイッチにおいては、合波器40における制御光の光強度の原理的な減衰分だけしか考慮してこなかった。しかしながら、実際の光スイッチに利用される合波器等の光学部品は、それら光学部品と光ファイバとの結合部分で発生する光強度の損失を無視できない場合が多い。第1乃至第3光スイッチを構成するために、複数の光学部品が光ファイバと結合されている。こららの複数箇所の結合部で発生する光損失によって、制御光の光強度が減衰すると、当然に制御光の光強度に依存して発生する光ファイバの屈折率変化量に影響を与え、ひいては光スイッチのスイッチ動作にも影響が及ぶことになる。
図11を参照して、上述の光減衰器408による制御光の減衰がスイッチ動作に与える効果について説明する。ここで、入力信号光はその偏波面がTE方向である直線偏光であり、制御光のS成分(信号光の偏波面と平行な成分でありTE成分)及びこれと直交するP成分の強度が、図11に示す偏波分離器406の入力ポートである第1ポート406-1において、それぞれPE、PMであるとする。
制御光は、偏波分離器406の第1ポート406-1から入力された後、そのS成分は第2ポート406-2から出力され、光ファイバ410を伝播して光減衰器408に入力される。そして、光減衰器408で減衰されて光ファイバ411を伝播して偏波合成器407の第1ポート407-1に入力されて偏波合成器407の出力ポートである第2ポート407-2から出力される。そして光ファイバ413を伝播して光カプラ20を介して第2偏波面保存光ファイバ51の一端に入力されて、光導波ループ回路104をCW方向に伝播する。
一方、制御光のP成分は、偏波分離器406の第3ポート406-3から出力され、光ファイバ412を伝播して偏波合成器407の第3ポート407-3に入力され、偏波合成器407の第2ポート407−2から出力される。そして、光ファイバ413を伝播して光カプラ20を介して第2偏波面保存光ファイバ51の一端に入力されて、光導波ループ回路104をCW方向に伝播する。
制御光のS成分及びP成分が、第2偏波面保存光ファイバ51の一端に入力されるとき、第2偏波面保存光ファイバ51の一端におけるそれぞれの光強度PE'及びPM'は次式(10a)及び(10b)で与えられる。
PE'=PE 10-(A+B1)/10 (10a)
PM'=PM 10-B2/10 (10b)
ここで、Aは光減衰器408での減衰量、B1及びB2はそれぞれ偏波分離器406の第1ポート406-1から偏波合成器407の第2ポート407-2に至るまでの、制御光のS成分及びP成分に対する減衰量である。A、B1及びB2のいずれも、dB表示による値である。
制御光が、第2偏波面保存光ファイバ51の一端から入力され、経路L2、経路L3、経路L7、経路L8と順番に伝播して合波器40に到達し、第5偏波面保存光ファイバ54の一端に入力されるときの、制御光のP成分の強度PM''は、次式(11)で与えられる。
ここで、Cは第2偏波面保存光ファイバ51(経路L2)及び第3偏波面保存光ファイバ52(経路L3)の伝播損失量の和、Dは波長分離器30、第7偏波面保存光ファイバ56(経路L7)、第8偏波面保存光ファイバ57(経路L8)及び合波器40における伝播損失量の和である。C及びDの値のいずれもがdB表示による値である。
式(1')乃至式(3)を導出した手法と同様にして、制御光パルスによって発現する光カー効果による相互位相変調効果によって、CW方向に伝播する信号光(第1信号光)に対して生じる位相シフト量の総量φtotalは次式(12)で与えられる。
経路L2、経路L3、経路L5及び経路L6において、次式(13)を満足するように第4光スイッチを構成すれば、上式(12)は、次式(14)に変形できる。
ここで、l2、l3、l5及びl6は、それぞれ経路L2、経路L3、経路L5及び経路L6の光路長である。式(13)で与えられるleffは、A、B1、B2、C及びDによって決まる光経路の実効長であり、光減衰器408での減衰量A、偏波分離器406、偏波合成器407、経路L2と経路L3とを形成している偏波面保存光ファイバ及び波長分離器30等における制御光の損失量が求まれば確定する値である。
したがって、これらの損失量が第4光スイッチを形成した段階で測定しておけば、実効長leffが確定するので、式(12)で与えられるφtotalの値をπとするのに必要な制御光の強度(PE+PM)を設定することができる。逆に制御光の強度が第4光スイッチの設計パラメータとして与えられているのであれば、経路L2、経路L3、経路L5及び経路L6の光路長l2、l3、l5及びl6が式(13)を満足するように設定すればよいことになる。
また、式(4)が示すのと同様に、式(14)も第1信号光に生じる位相シフト量の総量φtotalは制御光の強度(PE+PM)で決まり、制御光の偏光状態(PEとPMとの比:PE/PM)には依存しないことを示していることが分かる。
すなわち、第4光スイッチによれば、制御光の偏光状態に依存しないスイッチ動作が実現できることが分かる。
また、第4の実施の形態においては、光減衰器408を用いこれを偏波分離器406の第2ポート406-2と偏波合成器407の第1ポート407-1とを繋ぐ経路の中間に設置したが、式(13)で与えられる関係が満足されてさえいれば、光減衰器408の代わりに光増幅器を用いることも可能である。また、光減衰器408あるいは光増幅器の設置位置を第4の実施の形態で採用した位置に設置せず、偏波分離器406の第3ポート406-3と偏波合成器407の第3ポート407-3とを繋ぐ経路の中間に設置してもよい。
<第5の実施の形態>
(構造)
図11を参照して、この発明の第5の実施の形態である、第5光スイッチの構造を説明する。第5光スイッチは、光分波合成器10の第3ポート10-3に一端が接続され、第3偏波面回転部66に他端が接続された第6偏波面保存光ファイバ55が形成する経路L6の光路長l6と、第3偏波面回転部66に他端が接続され、波長分離合成回路123に一端が接続された第5偏波面保存光ファイバ54が形成する経路L5の光路長l5と、が等しく設定されていることが特徴である。
既述した第3光スイッチあるいは第4光スイッチのうち第3光スイッチに位相制御手段112を設けた光スイッチ(以下、単に「第4光スイッチ」という。)に上述のl5=l6という条件を課したものが第5の実施の形態である。
経路L5とL6とに関して成立している、l5=l6なる関係の精度は、多くの実施の形態において、10%以内であれば支障が生じない。すなわち第5光スイッチを光3R再生中継器に利用した場合、再生される信号光の品質は、光通信で許容される範囲内にある。
第3光スイッチと第4光スイッチとは位相制御手段の構成が異なるので、上述のl5=l6という条件を第3光スイッチに課した場合と第4光スイッチに課した場合とでは別の光スイッチを構成するが、ここでは、第5の実施の形態としての効果は共通するので、両者を第5光スイッチと呼称し、特に区別しないこととする。
(動作)
既述の第3光スイッチ及び第4光スイッチの利用に際しては、信号光の偏光状態をその偏波面がTE方向である直線偏光であることを前提としていた。そこで、第5光スイッチは、信号光の偏波面がTM方向であっても、TE方向であっても支障なく利用できる構成とされている。このための条件が、上述したl5=l6である。
第5偏波面保存光ファイバ54が形成する経路L5の光路長l5と第6偏波面保存光ファイバ55が形成する経路L6の光路長l6とを等しく設定することによって、経路L5及び経路L6とで生じる偏波モード分散の効果を相殺することができる。この理由は、経路L5と経路L6との間に第3偏波面回転部66が設けられていることによる。このために経路L5を伝播中の信号光及び制御光の偏波面は、第3偏波面回転部66を挟んで、経路L6を伝播中はその方向が90°回転されている。したがって、信号光がTM偏波あるいはTE偏波として経路L5を伝播する時間と、信号光がTE偏波あるいはTM偏波として経路L6を伝播する時間とは等しくなる。そのため、位相制御手段110あるいは112から入力される入力信号光の偏波面がTM方向であってもTE方向であっても経路L5と経路L6とを伝播する時間を等しくすることができる。結果として光導波ループ回路103あるいは104を周回する時間が常に等しくなる。つまり、位相制御手段110あるいは112から入力される入力信号光の偏波面の方向には依存しない光スイッチが実現する。
以上説明したように、第5光スイッチは、信号光並びに制御光の偏光状態に依存しない、安定したスイッチ動作が実現できる光スイッチであることになる。
<第6の実施の形態>
(構造)
図12を参照して、この発明の第6の実施の形態である第6光スイッチの構造を説明する。第3及び第4光スイッチと比べて第6光スイッチの構成上の相違点は、次の点である。まず、第3及び第4光スイッチにおいて、第3偏波面回転部66を挟んで第5偏波面保存光ファイバ54と第6偏波面保存光ファイバ55とで形成された光経路が、第6光スイッチでは第6偏波面保存光ファイバ58一本で形成される点である。また、第3及び第4光スイッチにおいて、第1偏波面回転部62を挟んで、第7偏波面保存光ファイバ56と第8偏波面保存光ファイバ57とで形成された光経路が、第6光スイッチでは、第7偏波面保存光ファイバ59一本で形成される点である。また、第3及び第4光スイッチにおいて、第4偏波面保存光ファイバ53で形成された光経路が、第6光スイッチでは、第1偏波面回転部68を挟んで第4偏波面保存光ファイバ60と第5偏波面保存光ファイバ61とで形成される点である。
したがって、第6光スイッチの構造は次のとおりである。すなわち、光導波ループ回路105は、光非線形媒質として偏波面保存光ファイバを用いて形成され、制御光を入力する制御光入力手段20を具える位相制御手段110(図1、4、6参照)と、波長分離合成回路124とを具えている。
光導波ループ回路105は、光分波合成器10と、第1偏波面保存光ファイバ13と、第2偏波面保存光ファイバ51と、第3偏波面保存光ファイバ52と、第6偏波面保存光ファイバ58と、第2偏波面回転部64と、波長分離合成回路124とを具えている。
光分波合成器10は、信号光を入力する第1ポート10-1、第1偏波面保存光ファイバ13の一端を接続する第2ポート10-2、第6偏波面保存光ファイバ58の他端を接続する第3ポート10-3及び変調信号光を出力する第4ポート10-4を具え、光強度の分岐比が1対1である。第1偏波面保存光ファイバ13は、光分波合成器10の第2ポート10-2に一端が接続され、制御光入力手段としての光カプラ20に他端が接続されている。
第2偏波面保存光ファイバ51は、光カプラ20に一端が接続され、第2偏波面回転部64に他端が接続されている。第3偏波面保存光ファイバ52は、第2偏波面回転部64に一端が接続され、波長分離合成回路124に他端が接続されている。第6偏波面保存光ファイバ58は、波長分離合成回路124に一端が接続され、光分波合成器10の第3ポート10-3に他端が接続されている。第2偏波面回転部64は、第2偏波面保存光ファイバ51の他端と第3偏波面保存光ファイバ52の一端とが接続されている。
また、波長分離合成回路124は、波長分離器30と、第1偏波面回転部68と、合波器40と、第4偏波面保存光ファイバ60と、第5偏波面保存光ファイバ61と、第7偏波面保存光ファイバ59とを具えている。
波長分離器30は、第3偏波面保存光ファイバ52の他端と、第4偏波面保存光ファイバ60の一端と、第7偏波面保存光ファイバ59の一端とが接続されている。第1偏波面回転部68は、第4偏波面保存光ファイバ60の他端と第5偏波面保存光ファイバ61の一端とが接続されている。合波器40は、第5偏波面保存光ファイバ61の他端と、第7偏波面保存光ファイバ59の他端と、第6偏波面保存光ファイバ58の一端とが接続されている。
第4偏波面保存光ファイバ60は、波長分離器30に一端が接続され、第1偏波面回転部68に他端が接続されている。第5偏波面保存光ファイバ61は、第1偏波面回転部68に一端が接続され、合波器40に他端が接続されている。第7偏波面保存光ファイバ59は、波長分離器30に一端が接続され、合波器40に他端が接続されている。
また、上述の位相制御手段110に引き換えて、以下の位相制御手段112を設定してもよい。すなわち、位相制御手段112は、偏波分離器406と、光減衰器408と、偏波合成器407と、制御光入力手段としての光カプラ20とを具えている。偏波分離器406は、制御光を入力させる第1ポート406-1、制御光のS成分を出力する第2ポート406-2、制御光のP成分を出力する第3ポート406-3を具えている。光減衰器408は、偏波分離器406から出力された制御光のS成分の光強度を減少させて出力する。偏波合成器407は、光減衰器408から出力された制御光のS成分を入力する第1ポート407-1と、偏波分離器の第3ポート406-3から出力された制御光のP成分を入力する第3ポート407-3と、光減衰器408から出力された制御光のS成分と偏波分離器406の第3ポート406-3から出力された制御光のP成分を合波して出力する第2ポート407-2とを具えている。制御光入力手段としての光カプラ20は、偏波合成器407の第2ポート407-2から出力された制御光を第2偏波面保存光ファイバ51の一端から光導波ループ回路105に入力させる。
位相バイアス回路500は、経路L6に挿入されている。
上述したように、第6光スイッチは、位相制御手段として、第4光スイッチにおいて採用した位相制御手段112を用いて構成することもでき、位相制御手段112を用いることによって得られる効果も第4光スイッチにおける場合と共通する。ここでは、第6光スイッチの構成上の特徴が、位相制御手段112を用いることにあるのではないので、第6の実施の形態として、位相制御手段110を設置して構成される光スイッチも、位相制御手段110を改良した位相制御手段112を設置して構成される光スイッチも共に第6光スイッチと呼称し、特に区別しないこととする。
(動作)
上述した第6光スイッチによれば、第1偏波面回転部68において、信号光の偏波面の方向が90°回転される。この場合、光導波ループ回路105をCW方向に伝播する第1信号光に対して生じる位相シフトは、第1信号光が第2及び第3偏波面保存光ファイバ51,52を伝播中は制御光のS成分の寄与によるものである。また、第1信号光が第6偏波面保存光ファイバ58を伝播中は、制御光のP成分の寄与によるものである。したがって、第1乃至第4光スイッチにおける場合と同様に、制御光の偏光状態には依存せずに機能する光スイッチが実現される。
表4を参照して、第6光スイッチの動作をより具体的に説明する。表4には、信号光並びに制御光が光導波ループ回路105を形成している経路L1乃至経路L7を伝播する状態を一覧表としてまとめてある。表4において、経路L1乃至経路L7を形成している偏波面保存光ファイバの光学軸であるslow軸及びfast軸に、伝播する信号光あるいは制御光の偏波面が平行である場合を、それぞれs軸及びf軸と表記してある。また、接続されている経路間をどちらの経路からどちらの経路に向かって伝播しているかを示すために、経路間の欄に右向きあるいは左向きの矢印を示してある。この説明では、第6光スイッチへの入力信号光はTE方向に振動面を持つ直線偏光であり、TE方向は偏波面保存光ファイバの光学軸slow軸の方向であるものとする。
第3光スイッチの動作と同様に、CW方向に伝播する第1信号光とCCW方向に伝播する第2信号光は、経路L1乃至L6をその偏波面の方向が平行な状態で伝播する。したがって、第1信号光と第2信号光とが光分波合成器10において合波される際に、経路L1乃至L6を形成している偏波面保存光ファイバの有するモード複屈折による位相差が発生しない。すなわち、第6光スイッチの環境温度や信号光の波長の揺らぎに依存して発生する位相差が、第1信号光と第2信号光との間に発生しないので、第6光スイッチは安定なスイッチ動作が実現する。
第6光スイッチでは、第3あるいは第4光スイッチにおいて得られる効果に加えて、偏波面回転部を設置する箇所を3箇所から2箇所に減らすことができ、より構成が単純化され、その製造が容易化されるという効果が得られる。
第3の実施の形態の第3光スイッチの動作の説明において行なったと同様の事情がこの第6光スイッチにおいても成立する。すなわち、位相バイアス回路500を以下のように構成することもできる。すなわち、第2偏波面回転素子(例えば、第2ファラデー回転子)を、図2、3、及び4に示されている方向とは逆に偏波面の回転方向が上述の反時計回りではなく、時計回りにに45°回転されるように設定する。このように設定することで、位相バイアス回路500を経路L2又は経路L3に設置した場合には、第2偏波面回転部64が不要となり、また、位相バイアス回路500を経路L4又は経路L5に設置した場合には、第1偏波面回転部68が不要となる。
すなわち、上述のように、第2偏波面回転素子(例えば、第2ファラデー回転子)によって、偏波面が時計回りにに45°回転されるように設定さている位相バイアス回路500を利用すれば、第1及び第2信号光に対して、位相補償素子(例えば、バビネソレイユ補償板903)において位相バイアス成分が相殺でき、位相バイアス回路500を第1及び第2信号光が通過することで偏波面保存光ファイバの光学軸に対して、偏波面が90°回転される。
<第7の実施の形態>
(構造)
この発明の第7の実施の形態である、第7光スイッチは、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである。図8、10、11、12及び図13(A)及び(B)を参照して、第7光スイッチに設置される波長分離合成回路の構造上の特徴を説明する。第7光スイッチに設置される波長分離合成回路では、第2乃至第6光スイッチに設置された波長分離合成回路で使われた合波器を波長分離器と置き換えて、波長分離器を2個使って構成される。第3乃至第5光スイッチの波長分離合成回路に対応する第7光スイッチの波長分離合成回路は、次のように構成される。
なお、上述したように、第7光スイッチは、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチであり、波長分離合成回路以外の構造は、第2乃至第6光スイッチと共通の構造である。したがって、第7の実施の形態で利用される波長分離合成回路以外の構造部分から得られる効果は共通するので、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチを第7光スイッチと呼称し、特にこれらを区別しないこととする。
第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路は、第1波長分離器701と、第1偏波面回転部62と、第2波長分離器702と、第4偏波面保存光ファイバ53と、第7偏波面保存光ファイバ56と、第8偏波面保存光ファイバ57とを具えて構成される。
第1波長分離器701は、第3偏波面保存光ファイバ52の他端と、第4偏波面保存光ファイバ53の一端と、第7偏波面保存光ファイバ56の一端とが接続されている。第1偏波面回転部62は、第7偏波面保存光ファイバ56の他端と第8偏波面保存光ファイバ57の一端とが接続されている。第2波長分離器702は、第4偏波面保存光ファイバ53の他端と、第8偏波面保存光ファイバ57の他端と、第5偏波面保存光ファイバ54の他端とが接続されている。
第4偏波面保存光ファイバ53は、第1波長分離器701に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。第7偏波面保存光ファイバ56は、第1波長分離器701に一端が接続され、第1偏波面回転部62に他端が接続されている。第8偏波面保存光ファイバ57は、第1偏波面回転部62に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。
また、第2光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路は、第1波長分離器701と、偏波面回転部60と、光遅延器70と、第2波長分離器702と、第3偏波面保存光ファイバ17と、第5偏波面保存光ファイバ23と、第6偏波面保存光ファイバ25とを具えて構成される。
第1波長分離器701は、第2偏波面保存光ファイバ15の他端と、第3偏波面保存光ファイバ17の一端と、第5偏波面保存光ファイバ23の一端とが接続されている。偏波面回転部60は、第5偏波面保存光ファイバ23の他端と第6偏波面保存光ファイバ25の一端とが接続されている。光遅延器70は、第6偏波面保存光ファイバ25の途中に設けられている。第2波長分離器702は、第3偏波面保存光ファイバ17の他端と、第6偏波面保存光ファイバ25の他端と、第4偏波面保存光ファイバ19の一端とが接続されている。
第3偏波面保存光ファイバ17は、第1波長分離器701に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。第5偏波面保存光ファイバ23は、第1波長分離器701に一端が接続され、偏波面回転部60に他端が接続されている。第6偏波面保存光ファイバ25は、偏波面回転部60に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。
また、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路は、第1波長分離器701と、第1偏波面回転部68と、第2波長分離器702と、第4偏波面保存光ファイバ60と、第5偏波面保存光ファイバ61と、7偏波面保存光ファイバ59とを具えて構成される。
第1波長分離器701は、第3偏波面保存光ファイバ52の他端と、第4偏波面保存光ファイバ60の一端と、第7偏波面保存光ファイバ59の一端とが接続されている。第1偏波面回転部68は、第4偏波面保存光ファイバ60の他端と第5偏波面保存光ファイバ61の一端とが接続されている。第2波長分離器702は、第5偏波面保存光ファイバ61の他端と、第7偏波面保存光ファイバ59の他端と、第6偏波面保存光ファイバ58の一端とが接続されている。
第4偏波面保存光ファイバ60は、第1波長分離器701に一端が接続され、第1偏波面回転部68に他端が接続されている。第5偏波面保存光ファイバ61は、第1偏波面回転部68に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。第7偏波面保存光ファイバ59は、第1波長分離器701に一端が接続され、第2波長分離器702に他端が接続されている。
(動作)
図13(A)及び(B)を参照し、図8、10、11及び12を適宜参照して、第7光スイッチの動作を説明する。図13(A)及び(B)は、この発明の第7の実施の形態である第7光スイッチの動作の説明に供するため、波長分離合成回路及びこの波長分離合成回路を形成している光経路を伝播する信号光及び制御光の伝播形態を模式的に示してある。図13(A)及び(B)において、制御光が伝播する経路を実線で、信号光の経路を破線で示してある。
図13(A)は、第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明に供する図である。一方、図13(B)は、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明に供する図である。第2光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路に関する動作については、図13(A)において、経路L3とあるところを経路L2と、経路L4とあるところを経路L3と、経路L5とあるところを経路L4と、経路L7とあるところを経路L5と、経路L8とあるところを経路L6と読み替えることで、以下の説明がそのまま成り立つ。
図13(A)及び図11を参照して、第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明をする。経路L3から出力されたCW方向に伝播する第1信号光の伝播成分は、第1波長分離器701の第1ポート701-1、第2ポート701-2、経路L4、第2波長分離器702の第2ポート702−2、第1ポート702-1の順に伝播して経路L5に入力される。一方、経路L5から出力されたCCW方向に伝播する第2信号光の伝播成分は、経路L5から出力された後、第2波長分離器702の第1ポート702-1、第2ポート702-2、経路L4、第1波長分離器701の第2ポート701-2、第1ポート701-1の順に伝播して経路L3に入力される。
また、CW方向に伝播する制御光は、経路L3から出力された後、第1波長分離器701の第1ポート701-1、第3ポート701-3、経路L7と伝播して、点Aで示した位置に設置された第1偏波面回転部62を通過する時に、S成分とP成分とが入れ替わり、経路L8に入力される。そして経路L8、第2波長分離器702の第3ポート702-3、第1ポート702-1の順に伝播して経路L5に入力される。
経路L4は信号光が伝播する経路であり、また、経路L7及び経路L8は制御光が伝播する経路である。経路L3及び経路L5は、信号光と制御光とが共に伝播する経路である。
以上説明したように、波長分離合成回路を信号光と制御光とが伝播するので、第2光スイッチの動作の説明等において行なった偏波面回転部60の役割の説明と同様の理由で、第7光スイッチは、制御光の偏光状態に依存しないスイッチ動作が実現できる。
図13(B)及び図12を参照して、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第7光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明をする。この場合は、図13(B)の点Aで示す、経路L4と経路L5との間に第1偏波面回転部68が設けられている点が、上記の図13(A)に示す波長分離合成回路と異なる。この場合には、点Aで示した位置に設置された第1偏波面回転部68を通過する時に、信号光の、S成分とP成分とが入れ替わる。第6光スイッチの動作の説明等において行なった偏波面回転部60の役割の説明と同様の理由で、第7光スイッチは、信号光の偏光状態に依存しないスイッチ動作が実現できる。
以上説明したように、第7光スイッチに設置される波長分離合成回路では、第2乃至第6光スイッチに設置された波長分離合成回路で使われた合波器を第2波長分離器と置き換えて、第1及び第2波長分離器を使うことにより、合波器を利用しないで形成される構成であるので、信号光及び制御光強度が合波器を通過する時に1/2に減少することがない。そのため、第2乃至第6光スイッチに比べて、スイッチ動作に必要とされる制御光の強度が1/2で済むことになる。したがって、光非線形効果を発生させるための経路の長さが短くて済むこととなり、それだけ光スイッチとしてのサイズを小型化できる。
<第8の実施の形態>
(構造)
この発明の第8の実施の形態である、第8光スイッチも第7光スイッチと同様に、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである。図8、10、11、12及び図14(A)及び(B)を参照して、第8光スイッチに設置される波長分離合成回路の構造上の特徴を説明する。
第8光スイッチに設置される波長分離合成回路では、第2乃至第6光スイッチに設置された波長分離合成回路で使われた合波器及び波長分離器を波長分離板1枚に置き換えて構成される。第3乃至第5光スイッチの波長分離合成回路に対応する第8光スイッチの波長分離合成回路は、次のように構成される。
なお、上述したように、第8光スイッチも第7光スイッチと同様に、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチであり、波長分離合成回路以外の構造は、第2乃至第6光スイッチと共通の構造である。したがって、第8の実施の形態で利用される波長分離合成回路以外の構造部分から得られる効果は共通するので、第2乃至第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチを第8光スイッチと呼称し、特にこれらを区別しないこととする。
第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路は、波長分離板801と、偏波面回転器807と、第1反射鏡805と、第2反射鏡803とを具えて構成される。
波長分離板801は、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された制御光が入力されると第1反射鏡805に向けて反射させ、第1反射鏡805から反射された制御光が再び入力されると第5偏波面保存光ファイバ54の一端に向けて反射させ、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された信号光が入力されると透過して第2反射鏡803に向けて出力し、第2反射鏡803で反射された信号光が再び入力されると透過して第5偏波面保存光ファイバ54の一端に向けて信号光を出力する。偏波面回転器807は、1/2波長板等を利用することができ、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された制御光が第5偏波面保存光ファイバ54の一端に至るまでの間に、制御光が通過する位置に設置されている。第1反射鏡805は制御光を反射し、第2反射鏡803は信号光を反射する働きをする。
また、第2光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路は、波長分離板801と、偏波面回転器807と、第1反射鏡805と、第2反射鏡803とを具えて構成される。
波長分離板801は、第2偏波面保存光ファイバ15から出力された制御光が入力されると第1反射鏡805に向けて反射させ、第1反射鏡805から反射された制御光が再び入力されると第4偏波面保存光ファイバ19の一端に向けて反射させ、第2偏波面保存光ファイバ15から出力された信号光が入力されると透過して第2反射鏡803に向けて出力し、第2反射鏡803で反射された信号光が再び入力されると透過して第4偏波面保存光ファイバ19の一端に向けて信号光を出力する。偏波面回転器807は、第2偏波面保存光ファイバ15から出力された制御光が第4偏波面保存光ファイバ19の一端に至るまでの間に、制御光が通過する位置に設置されている。第1反射鏡805は制御光を反射し、第2反射鏡803は信号光を反射する働きをする。
また、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路は、波長分離板801と、偏波面回転器806と、第1反射鏡802と、第2反射鏡804とを具えて構成される。
波長分離板801は、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された制御光が入力されると第1反射鏡802に向けて反射させ、第1反射鏡802から反射された制御光が再び入力されると第6偏波面保存光ファイバ58の一端に向けて反射させ、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された信号光が入射されると透過して第2反射鏡804に向けて出力し、第2反射鏡で反射された信号光が再び入力されると透過して第6偏波面保存光ファイバ58の一端に向けて信号光を出力する。偏波面回転器806は、第3偏波面保存光ファイバ52から出力された信号光が第6偏波面保存光ファイバ58の一端に至るまでの間に、信号光が通過する位置に設置されている。第1反射鏡802は制御光を反射し、第2反射鏡804は信号光を反射する働きをする。
(動作)
図14(A)及び(B)を参照し、図8、10、11及び12を適宜参照して、第8光スイッチの動作を説明する。図14(A)及び(B)は、第8光スイッチの動作の説明に供するため、波長分離合成回路及びこの波長分離合成回路を形成している光経路を伝播する信号光及び制御光の伝播形態を模式的に示してある。図14(A)及び(B)において、制御光が伝播する経路(制御光が空間中を伝播する道筋)を実線で、信号光の経路(信号光が空間中を伝播する道筋)を破線で示してある。
図14(A)は、第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明に供する図である。一方、図14(B)は、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明に供する図である。
第2光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路に関する動作については、図14(A)において、経路L3とあるところを経路L2と、経路L5とあるところを経路L4と、経路L7とあるところを経路L5と、経路L8とあるところを経路L6と読み替えることで、以下の説明がそのまま成り立つ。
波長分離板801は、誘電体多層膜を透明基板上に形成した誘電体多層膜フィルタと呼ばれる波長フィルタを利用することができる。波長分離板801は、波長λsの信号光を透過させ波長λpの制御光を反射させる特性を有する誘電体多層膜フィルタが利用される。波長λsの信号光が入射角θで波長分離板801の誘電体多層膜が形成されている面に入射されると、誘電体多層膜を透過して、透明基板の誘電体多層膜が形成されている側と反対側の面から、法線ベクトルを挟んで角度θで出力される。一方、波長λpの制御光が入射角θで波長分離板801の誘電体多層膜が形成されている面に入射されると、反射の法則に従い、誘電体多層膜が形成されている面の法線ベクトルを挟んで角度θで反射される方向に向けて出力される。
図14(A)及び図11を参照して、第3乃至第5光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明をする。
経路L3から出力されたCW方向に伝播する波長λsの第1信号光の伝播成分は、波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜を透過して透明基板の誘電体多層膜が形成されている側と反対側の面から、法線ベクトルを挟んで角度θで透過されて出力される。角度θで出力された第1信号光は、第2反射鏡803で反射されて再び波長分離板801に入射角度θで入射されて、波長分離板801を透過して経路L5に入力される。一方、経路L5から出力されたCCW方向に伝播する第2信号光の伝播成分は、経路L5から出力された後、波長分離板801に入射角度θで入射され誘電体多層膜を透過して透明基板の誘電体多層膜が形成されている側と反対側の面から、法線ベクトルを挟んで角度θで透過されて出力される。角度θで出力された第2信号光は、第2反射鏡803で反射されて再び波長分離板801に入射角度θで入射されて、波長分離板801を透過して経路L3に入力される。
また、CW方向に伝播する波長λpの制御光は、経路L3から出力された後、波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜で反射されて、偏波面回転器807を通過して第1反射鏡805に入射角θで入射される。第1反射鏡805に入射角θで入射された制御光は第1反射鏡805で反射されて再び波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜で反射されて、経路L5に入力される。偏波面回転器807は1/2波長板を利用することができる。制御光は偏波面回転器807を通過する時に、その偏波面の方向が90°回転される。
以上説明したように、波長分離合成回路を信号光と制御光とが伝播するので、第2光スイッチの動作の説明等において行なった偏波面回転部60の役割の説明と同様の理由で、第8光スイッチは、制御光の偏光状態に依存しないスイッチ動作が実現できる。
図14(B)及び図12を参照して、第6光スイッチにおける波長分離合成回路が改良された光スイッチである第8光スイッチの波長分離合成回路に関する動作の説明をする。
経路L3から出力されたCW方向に伝播する波長λsの第1信号光の伝播成分は、波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜を透過して透明基板の誘電体多層膜が形成されている側と反対側の面から、法線ベクトルを挟んで角度θで透過されて出力される。角度θで出力された第1信号光は、偏波面回転器806を通過して第2反射鏡804で反射されて再び波長分離板801に入射角度θで入射されて、波長分離板801を透過して経路L6に入力される。一方、経路L6から出力されたCCW方向に伝播する第2信号光の伝播成分は、経路L6から出力された後、波長分離板801に入射角度θで入射され誘電体多層膜を透過して透明基板の誘電体多層膜が形成されている側と反対側の面から、法線ベクトルを挟んで角度θで透過されて出力される。角度θで出力された第2信号光は、第2反射鏡804で反射されて偏波面回転器806を通過して再び波長分離板801に入射角度θで入射されて、波長分離板801を透過して経路L3に入力される。偏波面回転器806は1/2波長板を利用することができる。信号光は偏波面回転器806を通過する時に、信号光の、S成分とP成分とが入れ替わる。
また、CW方向に伝播する波長λpの制御光は、経路L3から出力された後、波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜で反射されて、第1反射鏡802に入射角θで入射される。第1反射鏡802に入射角θで入射された制御光は第1反射鏡802で反射されて再び波長分離板801に入射角度θで入射され、誘電体多層膜で反射されて、経路L6に入力される。
第6光スイッチの動作の説明等において行なった第1偏波面回転部68の役割の説明と同様の理由で、第8光スイッチは、信号光の偏光状態に依存しないスイッチ動作が実現できる。
以上説明したように、第8光スイッチに設置される波長分離合成回路では、第2乃至第6光スイッチに設置された波長分離合成回路で使われた合波器及び波長分離器を波長分離板1枚に置き換えて、構成してあるので、信号光及び制御光強度が合波器を通過する時に1/2に減少することがない。そのため、第2乃至第6光スイッチに比べて、スイッチ動作に必要とされる制御光の強度が1/2で済むことになる。また、第7光スイッチが第1及び第2波長分離器と2個の波長分離の役割を担う素子を必要としてのに対して、第8光スイッチは、波長分離板801を1枚必要とするだけであり、波長分離の役割を担う素子は1個でよいこととなり、それだけ構成部品点数を減らし単純な構成とできサイズを小型化できという利点がある。また、波長分離の役割を担う素子を1つ減らすことで、この素子を通過する際の信号光及び制御光の減衰率を半分に減らすことができるという利点もある。
位相バイアス回路500は、第1及び第2光スイッチにおいては、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L4いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置される。また、第3乃至第6光スイッチにおいては、信号光が導波される光導波ループ回路を構成する経路L1乃至経路L6いずれか一つの経路を選択し、その経路内(経路の途中)に設置される。また、第7及び第8光スイッチにおいては、その構成の基となる第1乃至第6光スイッチの構成において設置されている箇所と同一の箇所に設置される。
第1乃至第8の実施の形態において、光分波合成器10の第4ポート10−4に一端が接続される出力用光ファイバ146の他端に透過波長の中心がλsに設定されておりかつ波長λpを遮断できる特性を有する光バンドパスフィルタ150を接続することが好ましい。光分波合成器10の第4ポート10−4からは、変調信号光の他に制御光も出力されるので、この制御光を遮断して変調信号光のみを出力させるためである。一般に、光スイッチからは、変調信号光のみを出力光として取り出す目的で利用されることが多い。
また、光分波合成器10の第1ポート10−1の一端に接続される入力用光ファイバ144の他端には、光サーキュレータ142を接続するのが好ましい。このようにすれば、入力信号光は光サーキュレータ142を介して入力用光ファイバ144に入力されて、光分波合成器10の第1ポート10−1から光導波ループ回路に入力される。そして、光導波ループ回路から反射されるループ反射光は、入力用光ファイバ144を導波されて光サーキュレータ142に入力されて、入力信号光が入力される光サーキュレータ142の入力ポートとは別の出力ポートから出力され、ループ反射光が、入力信号光が伝播してきた伝送線路には戻されない。
光分波合成器10の第1ポート10-1に出力されるループ反射光は、入力用光ファイバ144に光サーキュレータ142が配置されていなければ、伝送されてきた伝送路を逆に進み、送信側に返送される。一般に時間多重光通信において、受信側から送信側に向けて、送信信号の一部が逆送されることは、好ましくないので、光サーキュレータ142を利用して、光分波合成器10の第1ポート10-1に出力されるループ反射光を、信号光が伝播してきた伝送路とは異なる伝送路に向けて出力させる構成とするのが望ましい。