JP3988971B2 - 焼結部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用摺動部材として使用される焼結部材に関し、更に詳しくは、例えば焼結カムシャフト用カムロブとして使用される耐スカッフィング性および耐ピッチング性に優れた焼結部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関に使用される種々の部材は、高回転高負荷運転に耐えることが要求される。特に、スリッパフォロワを相手部材とするカムシャフトに設けられるカムロブのように、相手部材に摺動接触する部材(以下「摺動部材」という。)は、高面圧下で、滑り(摺動接触)態様と転がり(転動接触)態様が同時に起こるので、高い耐スカッフィング性と耐ピッチング性が重要な要求特性となる。
【0003】
摺動接触タイプのカムロブとしては、従来からチル鋳鉄製のカムロブが一般に使用されている。さらに、相手部材とカムロブとの間の初期スカッフを抑制し、初期なじみ性を向上させることを目的として、相手部材と摺動接触するカムロブの接触部分に水蒸気処理膜を形成したカムロブが使用されている。
【0004】
一方、特公平3−60901号公報には、摺動部材を、高硬度、高密度で耐摩耗性に優れた焼結合金によって製造することが開示されている。こうした焼結合金によって製造された摺動部材、例えば摺動接触型のカムロブは、軽量化、コスト低減、耐摩耗性等の向上が図れるので、高回転高負荷運転が要求される内燃機関のカムシャフト用カムロブとして好ましい性質を兼ね備えている。さらに、焼結合金製のカムロブには、焼結冷却時の焼入性の向上と、基地硬さの向上を図って、多量のニッケルを含有させたものもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の鋳鉄製のカムロブは、水蒸気処理膜を形成する際に、カムロブが装着された長いカムシャフトを水蒸気処理炉に投入して水蒸気処理されるので、一回の処理に投入できるカムシャフトの本数が少なく、コストアップの原因になるという問題がある。しかも、投入されるカムシャフトは、既に所定の寸法に研削されたものであるため、水蒸気処理後に曲がり(歪み)が発生しやすく、その曲がりを修正する後工程が必要になるといった問題もある。
【0006】
また、上述の焼結合金製のカムロブは、多量のNiを含有させることによって焼入性と基地硬さの向上を図っているが、こうした多量のNiの添加は、焼結後の焼結部材の組織中に、熱伝導性が悪くて耐スカッフィング性を著しく悪化させる残留オーステナイトを多量に残存させる。その結果、特に摺動接触タイプのカムロブ等に使用される場合には、スカッフが発生しやすく、異常摩耗が生じるおそれがある。なお、焼結部材に、上述のような水蒸気処理を行って初期スカッフの抑制と初期なじみ性の向上を図ることもできるが、上述の場合と同様な曲がり(歪み)の発生という問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであって、内燃機関用摺動部材に主に使用される焼結部材において、初期スカッフの抑制と初期なじみ性の向上を図ると共に、耐スカッフィング性および耐ピッチング性に優れた焼結部材を提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、C:1.5〜4.2質量%、Cr:2.0〜24.0質量%、Mo:0.5〜3.0質量%、Ni:0超〜1.0質量%以下、Si:0.2〜1.0質量%、P:0.2〜1.0質量%、必要に応じてB、V、Ti、Nb、W、Caの中の一種類以上、残部Feおよび不可避不純物からなる焼結部材であって、パーライト基地に炭化物を有することに特徴を有する。
【0009】
この発明によれば、焼結部材の基地がパーライト基地であるので、滑り性がよく耐スカッフィング性が向上する。さらに、Cr炭化物や複合炭化物等の炭化物を有するので、高硬度で優れた耐摩耗性を発揮することができる。また、焼結部材中のNi含有量が1.0質量%以下であるので、スカッフの発生要因となる熱伝導性の悪い残留オーステナイト量を少なくすることができる。
【0010】
さらに、本発明は、前記基地が10%以下の量の残留オーステナイトを有することに特徴を有する。
【0011】
この発明によれば、残留オーステナイト量が10%以下であるので、スカッフの発生が起こりにくい。そのため、本発明の焼結部材は、相手部材に摺動接触する部材として好適に用いられる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の焼結部材は、C:1.5〜4.2質量%、Cr:2.0〜24.0質量%、Mo:0.5〜3.0質量%、Ni:0超〜1.0質量%以下、Si:0.2〜1.0質量%、P:0.2〜1.0質量%、必要に応じてB、V、Ti、Nb、W、Caの中の一種類以上、残部Feおよび不可避不純物からなる成分組成を有するものである。図1は、製造された焼結部材の組織の一例を示す顕微鏡写真(200倍)である。この焼結部材の組織は、滑り性のよいパーライト基地1に、Cr炭化物2やCr−Fe−Mo−P複合炭化物3等の炭化物が析出した態様であり、さらに、その基地1の有する残留オーステナイト組織の割合(残留オーステナイト量)は10%以下である。こうした焼結部材は、相手部材と摺動接触する際に、初期スカッフの抑制と優れた初期なじみ性を発揮すると共に、高硬度で優れた耐摩耗性を発揮することができる。また、その基地組織には、熱伝導性の悪い残留オーステナイトがあまり残存しないので、残留オーステナイトを要因とした耐スカッフィング性の低下が抑制される。
【0013】
炭化物とは、Cr炭化物2やCr−Fe−Mo−P複合炭化物3等をいい、通常、Cr炭化物2とCr−Fe−Mo−P複合炭化物3の一方または両方がパーライト基地中に析出している。
【0014】
本発明においては、焼結部材中に、0超〜1.0質量%以下のNiを含有させることによって、基地中の残留オーステナイト量を抑制している。図2は、焼結部材中のNi含有量(質量%)と基地中の残留オーステナイト量(%)との関係を示すグラフである。図2に示すように、Ni含有量が1.0質量%を超えると、基地中の残留オーステナイト量が急激に増加する。こうした残留オーステナイトは、耐摩耗性を向上させるには好ましい場合もあるが、耐スカッフィング性に対しては好ましくなく、残留オーステナイト量が10%を超えた焼結部材は、相手部材が鋼材である場合に、特にスカッフの発生が起こり易くなる。そのため、本発明においては、Ni含有量を0超〜1.0質量%以下に限定している。
【0015】
次に、焼結部材が含有するNi以外の各成分元素を上記範囲に限定した理由を以下に説明する。
【0016】
C含有量が4.2質量%を超えると、粗大な炭化物(特にCr炭化物)が焼結部材中で形成され、その粗大な炭化物が液相焼結中に粗大な空孔を生じさせて基地を脆化させる。C含有量が1.5質量%未満では、高硬度の微細炭化物が十分に形成されず、十分な耐摩耗性および耐スカッフィング性を有さない。このため、C含有量を1.5〜4.2質量%に限定する。また、焼結部材を、高負荷・高面圧の内燃機関の摺動部材として用いる場合には、C含有量を3.0〜4.2質量%と高めに設定すると同時に、Cr含有量を12.0〜24.0質量%と高めに設定することが好ましい。
【0017】
Cr含有量が24.0質量%を超えると、Cr炭化物を微細化させる度合いが小さくなり、硬さも過大になる。Cr含有量が2.0質量%未満では、Cr炭化物がやや粗大になってくるので、高硬度の微細炭化物を十分に形成することができず、十分な耐摩耗性および耐スカッフィング性を有さない。このため、Cr含有量を2.0〜24.0質量%に限定する。また、高負荷・高面圧の内燃機関の摺動部材として用いる場合には、C含有量との関係において、上述の範囲とすることが好ましい。
【0018】
Moは基地に固溶して硬度を高め、耐摩耗性を向上させる。しかし、この効果は、Mo含有量が3.0質量%を超えてもほとんど変化しない。また、Mo含有量が0.5質量%未満では、こうした効果を十分に発揮できない。このため、Mo含有量を0.5〜3.0質量%に限定する。なお、この範囲内のMoは、残留オーステナイト量に影響を及ぼさない。
【0019】
Si含有量が1.0質量%を超えると、基地が脆化するほか、粉末の圧粉成形性が低下し、焼結後の焼結部材の変形が大きくなる。また、Siは、CおよびP含有量を低くした際に液相の生成を促進させる成分であるが、Si含有量が0.2質量%未満では液相促進の効果が得られない。また、Siは、粉末製造時の脱酸素剤として添加するため、多少残存する。このため、管理可能範囲として0.2質量%を下限値とし、0.2〜1.0質量%の範囲に限定する。
【0020】
PはFe−C−P共晶のステダイトを生じさせる。ステダイトは硬度が非常に高く、凝固点が950℃前後と低いため液相焼結を促進させる。しかし、P含有量が1.0質量%を超えると、ステダイトが過多に生じ、被削性が悪くなる。また、0.2質量%未満では、ステダイトの析出量が少なくなって、高い耐摩耗性が得られず、また、液相も生じにくくなる。このため、P含有量を0.2〜1.0質量%に限定する。
【0022】
次に、焼結部材の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の焼結部材は、主要成分となる鉄粉または所定の元素を含んだ鉄系合金粉末中に、最終的な成分組成が上記範囲内となるように所定量の各種金属粉末を添加して焼結部材用粉末を調整し、次いで通常の焼結方法により、先ず、焼結部材用粉末をプレス成形して圧粉体を形成し、その後、その圧粉体を液相焼結法によって焼結処理することにより製造される。
【0024】
焼結部材用の粉末には、金型成型時の圧粉性と型抜け性を良くするために、ステアリン酸亜鉛等の潤滑剤を添加することが好ましい。
【0025】
液相焼結処理の好ましい処理温度は1100〜1200℃であり、更に好ましくは1110〜1160℃である。また、この時の焼結時間は60〜90分間程度が好ましい。また、必要に応じて焼き戻し処理等を行い、得られる焼結部材の特性を調整することができる。
【0026】
本発明の焼結部材は、摺動接触タイプのカムロブとして好ましく用いることができ、特に鋼製のカムフォロワーを相手部材として摺動接触する場合に、より優れた効果を発揮する。さらに、加工性とコストパフォーマンスにおいても優れている。
【0027】
カムロブを本発明の焼結部材で製造する場合、カムロブの圧粉体を液相焼結する際の収縮によって、カムロブとカム軸とを強固に接合させることができる。具体的には、焼結合金製または鋼管製のカム軸と、焼結部材からなるカムロブとを組み付けるタイプのカムシャフトの場合、液相焼結により、カムロブの高密度焼結処理と、カムロブをカム軸に拡散接合させる接合処理とを同時に行って、接合強度に優れたカムシャフトを製造することができる。
【0028】
【実施例】
本発明の焼結部材を更に具体的に説明する。
【0029】
(参考例1)
焼結後の成分組成が、C:2.4質量%、Cr:12.0質量%、Mo:1.0質量%、Si:0.8質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結部材用粉末を調整した。さらに、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を加えて混合した。次いで、5〜7t/cm2の面圧でプレス成形して圧粉体を形成した後、真空炉中で1100〜1200℃(平均1160℃)の温度で焼結し、参考例1の焼結部材を得た。物性等の試験結果を表1に示した。金属組織の顕微鏡写真(200倍、ナイタル腐食)を図1に示した。
【0030】
(実施例1)
焼結後の成分組成が、C:2.0質量%、Cr:4.0質量%、Mo:1.0質量%、Ni:1.0質量%、Si:0.8質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結部材用粉末を調整した。その他は、参考例1と同様として実施例1の焼結部材を得た。物性等の試験結果を表1に示した。金属組織の顕微鏡写真(200倍、ナイタル腐食)を図3に示した。
【0031】
(比較例1)
焼結後の成分組成が、C:2.6質量%、Cr:8.0質量%、Mo:2.0質量%、Ni:1.9質量%、Si:0.8質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結部材用粉末を調整した。その他は、参考例1と同様として比較例1の焼結部材を得た。物性等の試験結果を表1に示した。
【0032】
(比較例2)
比較例1の焼結部材に、823°K、90分間の条件で水蒸気処理を施し、比較例2の焼結部材を得た。物性等の試験結果を表1に示した。
【0033】
(比較例3)
成分組成が、C:3.4質量%、Cr:0.8質量%、Mo:2.0質量%、Ni+Cu:2.0質量%、Si:2.0質量%、B:0.4質量%、Mn:0.7質量%、Fe:残り、となるように各元素を溶解し、冷やし金を設けた鋳型に流し込んで比較例3のチル鋳鉄製部材を得た。物性等の試験結果を表1に示した。
【0034】
(試験方法)
耐スカッフィング性の評価には、ばねの圧縮量を変更することにより試験部材にかかる負荷(面圧)を自由に調節できるモータリング試験装置を使用し、試験後のカムシャフトカムローブ部を観察し、スカッフィングが発生する限界面圧によって評価した。耐ピッチング性は、実機エンジンにて、タペットのジャンピングが発生する高回転域を多用し、カムノーズ部付近のカム/タペット間の接触面圧を過酷にした条件でのファイアリング試験を実施し、試験後のカムシャフトカムローブ部を観察することによって評価した。図4は、参考例1、実施例1と各比較例で得られた試験部材の耐スカッフィング性を、比較例1のスカッフ限界面圧との比較において評価した結果を示すグラフである。
【0035】
試験部材のロックウェル硬さ(HRC)は従来通りの方法で測定し、炭化物の大きさは拡大写真から測定し、残留オーステナイト量の測定はX線(定量)測定により行った。
【0036】
(試験結果)
【表1】
【0037】
参考例1の焼結部材は、図1に示すように、パーライト基地となり、その中には、微細なCr炭化物およびCr−Fe−Mo−Pからなる複合炭化物が析出しているのが観察された。残留オーステナイト量は約5%であり、スカッフとピッチングは発生しなかった。
【0038】
実施例1の焼結部材は、図3に示すように、パーライト基地となり、その中には、参考例1に比べてやや大きいCr炭化物およびCr−Fe−Mo−Pからなる複合炭化物が析出しているのが観察された。また、細く尖った針状ステダイトが析出しているのが観察された。残留オーステナイト量は約5%であり、スカッフとピッチングは発生しなかった。なお、やや大きい炭化物の析出と針状ステダイトの析出は、参考例1と比較すると若干耐ピッチング性が低下するが、なお優れた耐ピッチング性を発揮した。
【0039】
比較例1の焼結部材は、基地組織がマルテンサイト、ベイナイトおよび残留オーステナイトの混在組織であった。さらに、その残留オーステナイト量は約50%であり、スカッフが発生した。比較例2の焼結部材は、水蒸気処理膜の効果および、水蒸気処理を施す際の熱によって残留オーステナイトが低減する効果によって、優れた耐スカッフィング性を示した(図4を参照。)が、コスト低減を図れなかった。比較例3のチル鋳鉄製部材は、耐スカッフィング性には優れているが耐ピッチング性に劣っていた。
【0040】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の焼結部材によれば、優れた耐スカッフィング性と、優れた耐摩耗性を発揮することができるので、摺動接触する部材、例えば焼結カムシャフト用カムロブとして好適に使用できると共に、初期スカッフの抑制と初期なじみ性においても優れている。さらに、残留オーステナイト量が10%以下であるので、残留オーステナイトを要因とした耐スカッフィング性の低下が抑制される。その結果、本発明の焼結部材は、耐スカッフィング性の向上を目的とする水蒸気処理が不要になるため、コスト的に優れると共に、水蒸気処理後の曲がり(歪み)が起こらないという従来にない効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】製造された焼結部材の組織の一例を示す顕微鏡写真である。
【図2】焼結部材中のNi含有量(質量%)と基地中の残留オーステナイト量(%)の関係を示すグラフである。
【図3】製造された焼結部材の組織の他の一例を示す顕微鏡写真である。
【図4】各実施例と各比較例で得られた試験部材の耐スカッフィング性を、比較例1のスカッフ限界面圧との比較において評価した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基地
2 Cr炭化物
3 複合炭化物
Claims (2)
- C:1.5〜4.2質量%、Cr:2.0〜24.0質量%、Mo:0.5〜3.0質量%、Ni:0超〜1.0質量%以下、Si:0.2〜1.0質量%、P:0.2〜1.0質量%、残部Feおよび不可避不純物からなる焼結部材であって、パーライト基地に炭化物を有することを特徴とする焼結部材。
- 前記基地は、10%以下の量の残留オーステナイトを有することを特徴とする請求項1に記載の焼結部材。
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