JP3988037B2 - 電子放出材料及び電子放出体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子放出材料、特に自発光型平面表示装置、薄型壁掛けテレビ等に使用する電子放出材料及び電子放出体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自発光型平面表示装置としては、電界を印加することで電子を放出させ、放出した電子を蛍光板に衝突させることで発光表示するフィールドエミッションディスプレイが知られている。
【0003】
1976年には、先端を鋭利にしたモリブデンを電子放出材料に用いた高速スイッチング素子の研究がなされている(C.A.Spindt, I.Brodie, L.Humphrey, E.R.Westerberg, Physical properties of thin film emission cathodes with molybdenum cones, J.Appl. Phys 47, pp.5248-5263, 1976.)が、この従来法は、高真空を要することや、モリブデンの耐久劣化、製造コスト等の点で問題があった。
【0004】
カーボンナノチューブを電子放出材料として用いた自発光型平面表示装置は、耐久劣化の非常に少ない電子放出材料として最近注目されており、1998年以降、活発な報告がなされている(S.Uemura, T.Nagasako, J.Yotani, T.Shimojo, Y.Saito, SID '98 Digest, pp.1052-1055, 1988, W.B.Choi, D.S.Chung, S.H.Park, J.M.Kim, SID'99Digest, pp.1134-1137, 1999)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、単に従来からのカーボンナノチューブを電子放出材料として用いた場合は、自発光型平面表示装置を実現するために必要な10ミリアンペア/平方センチメートル以上の電流密度を得るために、2ボルト/ミクロン以上の電界を印加する必要があった。
【0006】
自発光型平面表示装置には、低消費電力化が要請されており、そのために、より低電界で必要な電流密度を実現することが望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、低電界で高い電流密度を達成できる電子放出材料及び電子放出体を開発することを目的として鋭意研究を重ねた結果、ナノチューブのチューブ内空間部(即ち、ナノチューブのチューブ壁で囲まれた空間)に金属を内包させた複合体が、目的を達成することを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、次の電子放出材料及び電子放出体を提供するものである。
【0009】
項1 金属をチューブ内空間部に含有したナノチューブからなる電子放出材料。
【0010】
項2 ナノチューブが、シングルウォール又はマルチウォールのナノチューブであるか又はパッチワーク状のナノチューブである上記項1に記載の電子放出材料。
【0011】
項3 チューブ内空間部に含有される金属が、チューブ内空間部の全体に存在する上記項1又は2に記載の電子放出材料。
【0012】
項4 チューブ内空間部に含有される金属が、チューブ内空間部の一部に存在する上記項1又は2に記載の電子放出材料。
【0013】
項5 ナノチューブが、カーボン又は窒化ボロンからなるナノチューブである上記項1〜4のいずれかに記載の電子放出材料。
【0014】
項6 ナノチューブが、シングルウォール又はマルチウォールのカーボンナノチューブであるか、又は、ナノフレークカーボンチューブである上記項1〜4のいずれかに記載の記載の電子放出材料。
【0015】
項7 チューブ内空間部に含有される金属が、磁性体である上記項1〜6のいずれかに記載の電子放出材料。
【0016】
項8 磁性体が、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれる金属であるか、又は、該金属の合金である上記項7に記載の電子放出材料。
【0017】
項9 電極基板及び該電極基板上に形成された上記項1〜8のいずれかに記載の電子放出材料を備えた電子放出体。
【0018】
項10 電子放出材料が配向している上記項9に記載の電子放出体。
【0019】
項11 電子放出材料が、磁性体をチューブ内空間部に含有したナノチューブからなる電子放出材料であり、磁場を印加することにより、該電子放出材料を電極基板上で配向させてなる上記項10に記載の電子放出体。
【0020】
【発明の実施の形態】
1.本発明の電子放出材料
本発明の電子放出材料は、ナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包されている複合体からなるものである。
【0021】
本明細書において、「ナノチューブ」とは、外径がナノサイズ、即ち、1000nm未満、特に500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは100nm以下のサイズのチューブであって、そのチューブの材質、構造を問わない。
【0022】
ナノチューブは、炭素のみから構成されるナノチューブ、あるいは窒化ボロンのように複数の元素で構成されたナノチューブでも良いが、カーボンからなるチューブであることが好ましい。
【0023】
さらに、炭素から構成されるナノチューブは、(a)シングルウォールカーボンナノチューブ、(b)入れ子状(同心円筒状)のマルチウォールカーボンナノチューブ、スクロール状のマルチウォールカーボンナノチューブ、或いは、(c)パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブのいずれであってもよい。
【0024】
本明細書において、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
【0025】
このナノフレークカーボンチューブは、一枚の黒鉛シートが円筒状に閉じた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ)や複数枚の黒鉛シートがそれぞれ円筒状に閉じて同心円筒状ないし入れ子状となっている多層カーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ)とは全く構造の異なるチューブ状炭素材である。
【0026】
また、チューブ内空間部に含有される金属は、ナノチューブのチューブ内空間部の全体に存在していてもよいし、該空間部の一部に存在していてもよい。
【0027】
本明細書において、「チューブ内空間部」なる用語は、ナノチューブのチューブ壁で囲まれた空間を指す。
【0028】
また、チューブ内空間部に含有される金属は、一種類の金属であっても合金であってもよい。チューブ内空間部に内包される金属としては、鉄、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、パラジウム、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ、タンタル等が例示できる。
【0029】
また、チューブ内空間部に内包される合金としては、上記金属の2種以上からなる合金、例えば、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト合金、ニッケル-コバルト合金、鉄-ニッケル-コバルト合金等の金属同士の合金を例示できる。
【0030】
更に合金としては、金属(例えば、鉄、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、パラジウム、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ、タンタル等からなる群から選ばれる金属)に、又は、これら金属の2種以上からなる合金に、炭素、硫黄及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも1種が含有されている材料を例示できる。その典型例としては、炭化鉄、炭化ニッケル、炭化コバルト、鉄-ニッケル-炭素、鉄-コバルト-炭素合金、ニッケル-コバルト-炭素合金、鉄-ニッケル-コバルト-炭素合金等の炭化物、あるいは該金属又は該金属の2種以上からなる合金の珪素化物、硫化物等が例示できる。
【0031】
尚、炭素、硫黄及び珪素は金属ではないが、本明細書では、「合金」なる用語は、上記のような金属に、又はこれら金属の2種以上からなる合金に、炭素、硫黄及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも1種が含有されている材料も包含するものとする。
【0032】
以下、チューブ内空間部に金属を含有する炭素製ナノチューブについて説明するものとし、特に、1a)金属を内包する(単層又は多層)カーボンナノチューブ、1b)金属を内包するカーボンナノチューブの製造法、及び、1c)金属内包ナノフレークカーボンチューブ及び金属内包多層カーボンナノチューブ及びそれらの製造方法について説明する。
【0033】
1a) チューブ内空間部に金属が存在するカーボンナノチューブ
以下に、カーボンナノチューブの内部空間の一部又は全部に金属が充填ないし内包されているカーボンナノチューブについて説明する。
【0034】
本発明による金属内包カーボンナノチューブは、(a)カーボンナノチューブと(b)金属とからなるものであって、カーボンナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包ないし充填されたものである。より具体的にはカーボンナノチューブのチューブ内空間部の10〜100%程度、特に10〜90%程度、好ましくは30〜80%程度、より好ましくは40〜70%程度が金属により充填されている。
【0035】
本明細書において、上記カーボンナノチューブのチューブ内空間部の金属による充填率(10〜100%程度、特に10〜90%程度、好ましくは30〜80%程度、より好ましくは40〜70%程度)は、金属内包カーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンナノチューブのチューブ壁で囲まれた空間(チューブ内空間部)の像の面積に対する、金属が充填されている部分の像の面積の割合である。
【0036】
金属の充填形態は、カーボンナノチューブのチューブ内空間部に連続的に充填されている形態、チューブ内空間部に断続的に充填されている形態等がある。
【0037】
本発明の金属内包カーボンナノチューブにおいて、カーボンナノチューブに内包されている金属としては、各種の金属又は合金が例示できる。
【0038】
上記金属としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、パラジウム、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる金属が例示される。
【0039】
また、チューブ内空間部に内包される合金としては、上記鉄、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、パラジウム、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる少なくとも2種の金属同士の合金、例えば、鉄-ニッケル合金、鉄-コバルト合金、ニッケル-コバルト合金、鉄-ニッケル-コバルト合金等が例示される。
【0040】
更に、合金としては、上記鉄、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる金属又はこれら金属の少なくとも2種からなる合金中に、炭素、硫黄、珪素等の少なくとも1種が含有されている材料を例示できる。尚、炭素、硫黄、及び珪素は金属ではないが、本明細書では、炭素、硫黄及び珪素の少なくとも1種が、上記金属又は2種以上の金属からなる合金中に存在している材料も、「合金」の範疇に含めるものとする。
【0041】
かかる合金としては、例えば、炭化鉄、炭化ニッケル、炭化コバルト、鉄-ニッケル-炭素合金、鉄-コバルト-炭素合金、ニッケル-コバルト-炭素合金、鉄-ニッケル-コバルト-炭素合金等の炭化物、あるいはこれらに対応する珪素化物、硫化物等が例示できる。
【0042】
上記チューブ内空間部に含有される金属及び合金の中でも、特に、磁性体であるものが好ましい。かかる磁性体の好ましい例としては、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属、該金属の合金等を例示できる。該金属の合金としては、イ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金、ロ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属と炭素との合金、又はハ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金と炭素との合金等を例示できる。
【0043】
壁部の炭素部分(カーボンチューブ)は、単層カーボンナノチューブ(即ち、シングルウォールカーボンナノチューブ)であるか、又は、多層カーボンナノチューブ(即ち、マルチウォールカーボンナノチューブ)である。多層カーボンナノチューブの場合、X線回折法による炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。また、多層カーボンナノチューブは、いれ子状のもの、スクロール状のもののいずれのタイプであってもよい。
【0044】
カーボンナノチューブのサイズとしては、広い範囲から選択でき、特に限定されないが、外径は0.5〜300nm程度、好ましくは2〜100nm程度、より好ましくは10〜50nm程度であり、長さは1nm〜500μm程度、好ましくは10nm〜100μm程度、より好ましくは100nm〜50μm程度であるのが好ましい。
【0045】
また、本発明の金属内包カーボンナノチューブに金属が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
【0046】
本発明の金属内包カーボンナノチューブは、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなカーボンナノチューブのチューブ内空間部の10〜100%、特に10〜90%程度、好ましくは30〜80%程度、より好ましくは40〜70%程度の範囲に金属が充填されている金属内包カーボンナノチューブは、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該金属内包カーボンナノチューブを含むバルク材料であって、金属内包カーボンナノチューブを含む炭素質材料、或いは、金属内包炭素質材料ともいうべき材料の形態である。
【0047】
本発明の金属内包カーボンナノチューブを含む炭素質材料ないし電子放出材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンナノチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンナノチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜100%の範囲に金属が充填されており、空間部が充填されていないカーボンナノチューブは実質上存在しない。但し、場合によっては空間部が充填されていないカーボンナノチューブも若干混在することもある。
【0048】
また、本発明の炭素質材料においては、上記のようなカーボンナノチューブのチューブ内空間部の10〜100%に金属が充填されている金属内包カーボンナノチューブが主要構成成分であるが、本発明の金属内包カーボンナノチューブ以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、本発明の金属内包カーボンナノチューブ以外の成分を除去して、本発明の炭素質材料中の金属内包カーボンナノチューブの純度を向上させ、実質上本発明の金属内包カーボンナノチューブのみからなる炭素質材料ないし電子放出材料を得ることもできる。
【0049】
尚、多数の本発明金属内包カーボンナノチューブを含む炭素質材料ないし電子放出材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の金属内包カーボンナノチューブにおける金属の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによって求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明の金属内包カーボンナノチューブからなる炭素質材料ないし電子放出材料全体としての金属の平均充填率は、10〜100%程度、特に40〜70%程度である。
【0050】
1b) 本発明の金属内包カーボンナノチューブの製造方法
本発明の金属内包カーボンナノチューブを含む炭素質材料は、不活性ガス雰囲気中、反応炉内で金属化合物と熱分解性炭素源を加熱処理することにより得られる。
【0051】
金属化合物としては、種々の金属化合物が使用でき、例えば、上記鉄、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、パラジウム、銅、マンガン、クロム、鉛、亜鉛、モリブデン、アルミ、チタン、ニオブ及びタンタルからなる群から選ばれる金属の錯体、塩、ハロゲン化物等が挙げられる。上記金属の錯体としては、フェロセン、ニッケロセン等のシクロペンタジエニル錯体、アセチルアセトン錯体等をはじめとする錯体を例示できる。上記金属の塩としては、酢酸鉄、酢酸ニッケルをはじめとする酢酸塩等を例示できる。また、ハロゲン化物としては、上記金属の塩化物、例えば、塩化鉄、塩化ニッケル、塩化コバルト等が挙げられる。
【0052】
一般には、上記金属化合物を1種単独で使用すると、当該金属化合物を構成する金属がカーボンナノチューブのチューブ内空間部に内包され、上記金属化合物を2種以上使用すると、合金をカーボンナノチューブのチューブ内空間部に内包させることができる。
【0053】
また、上記金属又は合金に、炭素、珪素、硫黄等が含まれた合金を内包させるには、合成条件下で分解する炭素、珪素、硫黄等を含んだ化合物を混入することにより、行うことができる。炭素源としては、各種有機化合物(例えば、下記の熱分解性炭素源)が挙げられ、珪素源としてはSiCl4、SiH4、SiHCl3等が例示できる。硫黄源としては、硫化水素、チオール、メルカプトン等の硫黄含有有機化合物が例示できる。
【0054】
熱分解性炭素源としては、種々の有機化合物が使用でき、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜12の芳香族炭化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン等の炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレン等の炭素数2〜5の不飽和脂肪族炭化水素などの有機化合物が挙げられる。液状の有機化合物は、通常、気化、バブリング、あるいは、噴霧させて用いる。
【0055】
本発明で使用する反応装置としては、例えば、図1に示すような装置を例示できる。図1の装置においては、反応炉1は石英管、アルミナ管等からなる反応炉であり、加熱装置2を備えている。反応炉にはガス導入口(図示せず)と真空に吸引するためのガス吸引口(図示せず)が備えられている。
【0056】
上記金属化合物の炉内への導入は、例えば、磁製ボート、ニッケルボート等の仕込み皿に薄く広げて敷き詰める等して反応炉内に配置する方法、あるいは、熱分解炭素源がベンゼン等の液状体で該金属化合物を溶解できる場合には、該熱分解炭素源に該金属化合物を溶解せしめ、気化、バブリング、あるいは、噴霧させて炉内に導入する方法等が挙げられる。
【0057】
本発明では、まず、反応炉内において、上記金属化合物を炉内配置し、又は、気化、バブリング又は噴霧による導入手段を設けて、不活性ガスを導入する。不活性ガスとしては、He、Ar、Ne、N2等のガスを例示できる。反応炉内の圧力としては、減圧から加圧まで採用できるが、一般には10-5Pa〜200kPa程度とするのが好ましい。
【0058】
この状態で、500〜3000℃程度、好ましくは600〜1500℃程度、より好ましくは700〜1200℃程度に加熱し、熱分解性炭素源を導入することで金属内包カーボンナノチューブが得られる。
【0059】
熱分解性炭素源の導入方法としては、例えば、ベンゼン等の熱分解性炭素源にアルゴンガス等の不活性ガスをバブリングさせることにより、ベンゼン等の熱分解性炭素源を担持させた不活性ガスを調整し、該ガスを反応炉のガス導入口から少量ずつ導入すればよいが、この方法に限らず、他の方法を採用してもよい。
【0060】
熱分解性炭素源の使用量は、広い範囲から選択でき、特に限定されないが、一般には、上記1種又は2種以上の金属化合物100重量部に対して、熱分解性炭素源を10〜5000重量部程度、特に50〜300重量部程度を目安とするのが好ましい。
【0061】
1c) 金属内包ナノフレークカーボンチューブ及び金属内包多層カーボンナノチューブ
また、本発明の他の実施形態によると、電子放出材料として使用する金属内包カーボンチューブは、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)内包金属又は合金(特に鉄又は炭化鉄)とからなるものであり、該カーボンチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の実質上全てが充填されているのではなく、該空間部の一部、より具体的には10〜90%程度、特に30〜80%程度、好ましくは40〜70%程度が内包金属又は合金(特に炭化鉄又は鉄)により充填されている。
【0062】
以下、炭化鉄又は鉄を内包するカーボンチューブを鉄−炭素複合体という。かかる鉄−炭素複合体は、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1となる濃度に調整して、反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内を不活性ガス雰囲気とし、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により得られる。
【0063】
以下本発明の鉄又は炭化鉄内包カーボンチューブ(鉄−炭素複合体)について説明する。
【0064】
本発明の鉄−炭素複合体においては、炭素部分は、製造工程(1)及び(2)を行った後、特定の速度で冷却するとナノフレークカーボンチューブとなり、製造工程(1)及び(2)を行った後、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0065】
<(a-1) ナノフレークカーボンチューブ>
本発明のナノフレークカーボンチューブと炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、典型的には円柱状であるが、そのような円柱状の鉄−炭素複合体(実施例2で得られたもの)の長手方向を横切る断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図7に示し、側面のTEM写真を図3に示す。
【0066】
また、図8の(a-1)にそのような円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図を示す。図8の(a-1)において、100は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像を模式的に示しており、200は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像を模式的に示している。
【0067】
本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブは、図7及び図8の(a-1)の200から明らかなように、その長手方向を横切る断面をTEM観察した場合、多数の弧状グラフェンシート像が多層構造のチューブ状に集合しているが、個々のグラフェンシート像は、例えば210、214に示すように、完全に閉じた連続的な環を形成しておらず、途中で途切れた不連続な環を形成している。一部のグラフェンシート像は、211に示すように、分岐している場合もある。不連続点においては、一つの不連続環を構成する複数の弧状TEM像は、図8の(a-1)の222に示すように、層構造が部分的に乱れている場合もあれば、223に示すように隣接するグラフェンシート像との間に間隔が存在している場合もあるが、TEMで観察される多数の弧状グラフェンシート像は、全体として、多層状のチューブ構造を形成している。
【0068】
また、図3及び図8の(a-1)の100から明らかなように、ナノフレークカーボンチューブの長手方向をTEMで観察した場合、多数の略直線状のグラフェンシート像が本発明の鉄−炭素複合体の長手方向にほぼ並行に多層状に配列しているが、個々のグラフェンシート像110は、鉄−炭素複合体の長手方向全長にわたって連続しておらず、途中で不連続となっている。一部のグラフェンシート像は、図8の(a-1)の111に示すように、分岐している場合もある。また、不連続点においては、層状に配列したTEM像のうち、一つの不連続層のTEM像は、図8の(a-1)の112に示すように、隣接するグラフェンシート像と少なくとも部分的に重なり合っている場合もあれば、113に示すように隣接するグラフェンシート像と少し離れている場合もあるが、多数の略直線状のTEM像が、全体として多層構造を形成している。
【0069】
かかる本発明のナノフレークカーボンチューブの構造は、従来の多層カーボンナノチューブと大きく異なっている。即ち、図8の(a-2)の400に示すように、入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、その長手方向に垂直な断面のTEM像が、410に示すように、完全な円形のTEM像となっている同心円状のチューブであり、且つ、図8の(a-2)の300に示すように、その長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像310等が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0070】
以上より、詳細は未だ完全には解明されていないが、本発明の鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、フレーク状のグラフェンシートが多数パッチワーク状ないし張り子状に重なり合って全体としてチューブを形成しているようにみえる。
【0071】
このような本発明のナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部に内包された炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、特許第2546114号に記載されているような入れ子構造の多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包された複合体に比し、カーボンチューブの構造において大きく異なっており、従来知られていなかった新規な炭素材料である。
【0072】
本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。即ち、図8の(a-1)の100に示されるように、110で示される略直線状のグラフェンシートのTEM像が多数集まってナノフレークカーボンチューブの壁部のTEM像を構成しており、個々の略直線状のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
【0073】
本発明の鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブの壁部の炭素部分は、上記のようにフレーク状のグラフェンシートが多数長手方向に配向して全体としてチューブ状となっているが、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0074】
また、本発明の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0075】
<(a-2) 入れ子構造の多層カーボンナノチューブ>
前記のように、工程(1)及び(2)を行った後、特定の加熱工程を行うことにより、得られる鉄−炭素複合体を構成するカーボンチューブは、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0076】
こうして得られる入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、図8の(a-2)の400に示すように、その長手方向に垂直な断面のTEM像が完全な円を構成する同心円状のチューブであり、且つ、その長手方向の全長にわたって連続したグラフェンシート像が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0077】
本発明の鉄−炭素複合体を構成する入れ子構造の多層カーボンナノチューブの壁部の炭素部分は、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0078】
また、本発明の鉄−炭素複合体の入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0079】
<(b)内包されている炭化鉄又は鉄>
本明細書において、上記カーボンチューブ内空間部の炭化鉄又は鉄による充填率(10〜90%)は、本発明により得られた鉄−炭素複合体を透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンチューブの空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の像の面積に対する、炭化鉄又は鉄が充填されている部分の像の面積の割合である。
【0080】
炭化鉄又は鉄の充填形態は、カーボンチューブ内空間部に連続的に充填されている形態、カーボンチューブ内空間部に断続的に充填されている形態等があるが、基本的には断続的に充填されている。従って、本発明の鉄−炭素複合体は、金属内包炭素複合体ないし鉄化合物内包炭素複合体、炭化鉄又は鉄内包炭素複合体とも言うべきものである。
【0081】
また、本発明の鉄−炭素複合体に内包されている炭化鉄又は鉄は、カーボンチューブの長手方向に配向しており、結晶性が高く、炭化鉄又は鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄又は鉄のTEM像の面積の割合(以下「結晶化率」という)は、一般に、90〜100%程度、特に95〜100%程度である。
【0082】
内包されている炭化鉄又は鉄の結晶性が高いことは、本発明鉄−炭素複合体の側面からTEM観察した場合、内包物のTEM像が格子状に配列していることから明らかであり、電子線回折において明確な回折パターンが得られることからも明らかである。
【0083】
また、本発明の鉄−炭素複合体に炭化鉄又は鉄が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
【0084】
<鉄−炭素複合体の全体形状>
本発明の鉄−炭素複合体は、湾曲が少なく、直線状であり、壁部の厚さが全長に亘ってほぼ一定の均一厚さを有しているので、全長に亘って均質な形状を有している。その形状は、柱状で、主に円柱状である。
【0085】
本発明による鉄−炭素複合体の外径は、通常、1〜100nm程度、特に1〜50nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜30nm程度の範囲にあり、より好ましくは10〜30nm程度の範囲にある。チューブの長さ(L)の外径(D)に対するアスペクト比(L/D)は、5〜10000程度であり、特に10〜1000程度である。
【0086】
本発明の鉄−炭素複合体の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。即ち、透過型電子顕微鏡により本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200〜2000nm四方の範囲で観察し、像の長さをWとし、該像を直線状に伸ばした時の長さをWoとした場合に、比W/Woが、0.8以上、特に、0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
【0087】
本発明の鉄−炭素複合体は、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選ばれるカーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体は、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該鉄−炭素複合体を含むバルク材料であって、鉄−炭素複合体を含む炭素質材料、或いは、炭化鉄又は鉄内包炭素質材料ともいうべき材料の形態で大量に得られる。
【0088】
後述の実施例1で製造されたナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間に充填された炭化鉄からなる本発明炭素質材料の電子顕微鏡写真を、図4に示す。
【0089】
図4から判るように、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されており、空間部が充填されていないカーボンチューブは実質上存在しないのが通常である。但し、場合によっては、炭化鉄又は鉄が充填されていないカーボンチューブも微量混在することがある。
【0090】
また、本発明の炭素質材料においては、上記のようなカーボンチューブ内空間部の10〜90%に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体が主要構成成分であるが、本発明の鉄−炭素質複合体以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、本発明の鉄−炭素質複合体以外の成分を除去して、本発明の炭素質材料中の鉄−炭素質複合体の純度を向上させ、実質上本発明の鉄−炭素複合体のみからなる炭素質材料を得ることもできる。
【0091】
また、従来の顕微鏡観察で微量確認し得るに過ぎなかった材料とは異なり、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は大量に合成できるので、その重量を容易に1mg以上とすることができる。後述する本発明製法をスケールアップするか又は何度も繰り返すことにより本発明の該材料は無限に製造できる。一般には、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は、反応炉容積1リットル程度の実験室レベルであっても、1mg〜100g程度、特に10〜1000mg程度の量であれば容易に提供できる。
【0092】
本発明炭素質材料は、該炭素質材料1mgに対して25mm2以上の照射面積で、CuKαのX線を照射した粉末X線回折測定において、内包されている鉄または炭化鉄に帰属される40°<2θ<50°のピークの中で最も強い積分強度を示すピークの積分強度をIaとし、カーボンチューブの炭素網面間の平均距離(d002)に帰属される26°<2θ<27°のピークの積分強度Ibとした場合に、IaのIbに対する比R(=Ia/Ib)が、0.35〜5程度、特に0.5〜4程度であるのが好ましく、より好ましくは1〜3程度である。
【0093】
本明細書において、上記Ia/Ibの比をR値と呼ぶ。このR値は、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を、X線回折法において25mm2以上のX線照射面積で観察した場合に、炭素質材料全体の平均値としてピーク強度が観察されるために、TEM分析で測定できる1本の鉄−炭素複合体における内包率ないし充填率ではなく、鉄−炭素複合体の集合物である炭素質材料全体としての、炭化鉄又は鉄充填率ないし内包率の平均値を示すものである。
【0094】
尚、多数の本発明鉄−炭素複合体を含む炭素質材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の鉄−炭素複合体における炭化鉄又は鉄の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによっても求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明の鉄−炭素複合体からなる炭素質材料全体としての炭化鉄又は鉄の平均充填率は、10〜90%程度、特に40〜70%程度である。
【0095】
本発明の鉄−炭素複合体及びそれを含む炭素質材料の製造方法
本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1となる濃度に調整して、反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内を不活性ガス雰囲気とし、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により得られる。
【0096】
ここで、酸素量Bの単位である「Ncc」は、気体の25℃での標準状態に換算したときの体積(cc)という意味である。
【0097】
内包される炭化鉄又は鉄の供給源であり、かつ触媒としての機能をも発揮するハロゲン化鉄としては、弗化鉄、塩化鉄、臭化鉄等が例示できるが、これらのうちでも塩化鉄が好ましい。塩化鉄としては、例えば、FeCl2、FeCl3、FeCl2・4H2O及びFeCl3・6H2O等が例示され、これらの少なくとも1種が使用される。これら触媒の形状は特に限定されないが、通常は、粉末状、例えば平均粒子径が1〜100μm程度、特に1〜20μm程度の粉末状で使用するかあるいは気体状で使用するのが好ましい。
【0098】
熱分解性炭素源としては、種々の有機化合物が使用でき、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜12の芳香族炭化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘキサン等の炭素数1〜10の飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレン等の炭素数2〜5の不飽和脂肪族炭化水素などの有機化合物が挙げられる。液状の有機化合物は、通常、気化させて用いる。これらの中でも、ベンゼン、トルエンなどが好ましい。
【0099】
本発明で使用する反応装置としては、例えば、図1に示すような装置を例示できる。図1の装置においては、反応炉1は石英管、アルミナ管、カーボン管等からなる反応炉であり、加熱装置2を備えている。反応炉にはガス導入口(図示せず)と真空に吸引するためのガス吸引口(図示せず)が備えられている。ハロゲン化鉄は、例えば、磁製ボート、ニッケルボート等のハロゲン化鉄仕込み皿に薄く広げて敷き詰める等して、反応炉内に配置する。
【0100】
工程 (1)
本発明の製造方法においては、まず、反応炉内において、上記触媒であるハロゲン化鉄を不活性ガス雰囲気中で、600〜900℃まで加熱する。
【0101】
不活性ガスとしては、He、Ar、Ne、N2等のガスを例示できる。不活性ガス雰囲気中で触媒の加熱処理を行う際の反応炉内の圧力は、例えば、10-5Pa〜200kPa程度、特に0.1kPa〜100kPa程度とするのが好ましい。
【0102】
加熱処理は、反応炉内の温度、特に触媒の温度が、工程(2)で使用する熱分解性炭素源の熱分解温度に達するまで行う。熱分解性炭素源の熱分解温度は、熱分解性炭素源の種類によっても異なるが、一般には、反応炉内の触媒の温度を600〜900℃程度、特に750〜900℃程度とするのが好ましい。
【0103】
本発明者の研究によると、工程(1)の加熱時に、少量の酸素が存在するのが好ましい。大量の酸素を存在させると、ハロゲン化鉄が酸化鉄になってしまい、所望の複合体を得難い。従って、反応炉内の酸素濃度としては、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1、特に1×10-8〜5×10-3となる濃度とするのが好ましい。
【0104】
この場合、酸素の導入方法としては、種々の方法を採用できるが、例えば、反応炉のガス導入口から、酸素5〜0.01%程度を含有するアルゴン等の不活性ガスからなる混合ガスを徐々に添加するのが好ましい。
【0105】
工程 (2)
次いで、本発明では、工程(2)として、工程(1)の加熱処理により600〜900℃に加熱されているハロゲン化鉄を含む反応炉内を、不活性ガス雰囲気とし、ガス導入口から熱分解性炭素源を導入して加熱処理を行う。
【0106】
この工程(2)の加熱処理を行う際の圧力としては、10-5Pa〜200kPa程度、特に1kPa〜100kPa程度とするのが好ましい。また、工程(2)の加熱処理時の温度は、通常600℃以上であり、特に600〜900℃、好ましくは750〜900℃程度である。
【0107】
熱分解性炭素源の導入方法としては、例えば、ベンゼン等の熱分解性炭素源にアルゴンガス等の不活性ガスをバブリングさせることにより、ベンゼン等の熱分解性炭素源を担持させた不活性ガスを調整し、該ガスを反応炉のガス導入口から少量ずつ導入すればよいが、この方法に限らず、他の方法を採用してもよい。ベンゼン等の該熱分解性炭素源を担持させた不活性ガスの供給速度は、広い範囲から選択できるが、一般には、反応炉容積1リットル当たり、0.1〜1000ml/min程度、特に1〜100ml/min程度となるような速度とするのが好ましい。その際に、必要であれば、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガスを希釈ガスとして導入してもよい。
【0108】
ハロゲン化鉄と熱分解性炭素源との量的割合は、広い範囲から適宜選択すればよいが、ハロゲン化鉄100重量部に対し、熱分解性炭素源を10〜5000重量部程度、特に50〜300重量部程度とするのが好ましい。熱分解性炭素源である有機化合物の量的割合が増大する場合には、カーボンチューブの成長が十分に行われて、長寸法のカーボンチューブが得られる。
【0109】
工程(2)の反応時間は、原料の種類、量などにより異なるので、特に限定されないが、通常0.1〜10時間程度、特に0.5〜2時間程度である。
【0110】
上記工程(2)の加熱処理工程後、通常50〜2000℃/h程度、好ましくは70〜1500℃/h程度、より好ましくは100〜1000℃/h程度の速度で500℃まで冷却することによりナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部の10〜90%に充填されている炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体を生成させることができる。
【0111】
また、工程(2)の加熱処理工程後、
(3)反応炉内を工程(2)の温度を維持したまま不活性気体で置換する工程、
(4)不活性気体で置換された反応炉内を950〜1500℃程度、好ましくは1200〜1500℃程度、より好ましくは1300〜1400℃程度に昇温する工程、
(5)昇温終点で終点温度を入れ子構造の多層カーボンナノチューブが生成するまで維持する工程、及び
(6)反応炉を、50℃/h以下程度、好ましくは5〜40℃/h程度、より好ましくは10〜30℃/h程度の速度で冷却する工程
を行うことによりすることにより入れ子構造の多層カーボンナノチューブとそのチューブ内空間部の10〜90%に充填されている炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体を生成させることができる。
【0112】
上記工程(3)で使用する不活性気体としては、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガスが例示できる。また、工程(3)における置換後の炉内の圧力は、特に限定されないが、10-5〜107Pa程度、好ましくは50〜2×105 Pa程度、より好ましくは100〜1.2×105Pa程度である。
【0113】
工程(4)の昇温速度は特に限定されないが、一般には50〜2000℃/h程度、特に70〜1500℃/h程度、より好ましくは100〜1000℃/h程度の昇温速度とすることが好ましい。
【0114】
また、工程(5)の終点温度を維持する時間は、入れ子構造の多層カーボンナノチューブが生成するまでの時間とすればよいが、一般には2〜30時間程度である。
【0115】
工程(6)の冷却時の雰囲気としては、Ar、Ne、He、窒素等の不活性ガス雰囲気であり、圧力条件は特に限定されないが、10-5〜107Pa程度、好ましくは50〜2×105 Pa程度、より好ましくは100〜1.2×105Pa程度である。
【0116】
又、本発明においては、ハロゲン化鉄に代えて、例えば、(a)ニッケル、コバルト等からなる群から選ばれる金属のハロゲン化物、又は(b)上記(a)の該金属のハロゲン化物と他の金属(例えば鉄)のハロゲン化物との混合物を用いて、前記(1)及び(2)と同様の工程を行い、上記と同様の冷却工程を行うことにより、上記(a)のニッケル、コバルトなどからなる群から選ばれる金属、又は、上記(b)の混合物の構成元素からなる合金を内包したナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
【0117】
また、ハロゲン化鉄に代えて、例えば、(a)ニッケル、コバルト等からなる群から選ばれる金属のハロゲン化物、又は(b)上記(a)の金属のハロゲン化物と他の金属(例えば鉄)のハロゲン化物との混合物を用いて、上記工程(1)及び(2)と同様の工程を行った後に、前記(3)〜(6)の工程と同様の工程を行うことにより、上記(a)のニッケル、コバルトなどからなる群から選ばれる金属、又は、上記(b)の混合物の構成元素からなる合金を内包した同心円筒状の多層カーボンナノチューブを得ることができる。
【0118】
上記チューブ内空間部に含有される金属及び合金の中でも、特に、磁性体であるものが好ましい。かかる磁性体の好ましい例としては、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属、該金属の合金等を例示できる。該金属の合金としては、イ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金、ロ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属と炭素との合金、又はハ)鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれた金属の2種以上からなる合金と炭素との合金等を例示できる。
【0119】
これらの金属又は合金内包するナノフレークカーボンチューブおよびこれらの金属又は合金内包する同心円筒状の多層カーボンナノチューブは、同様に、電子放出材料として有用である。
【0120】
2.金属内包カーボンナノチューブを含む電子放出体
2a) 本発明の電子放出体
本発明の電子放出体は、上記本発明の電子放出材料を含有する電子放出材料層を、電極基板の上に形成してなるものである。本発明においては、特に、金属内包カーボンナノチューブからなるバルク材料を、気相成長、印刷、塗布等の手法で電極基板上に形成し、電子放出体として使用するのが好ましい。
【0121】
本発明の電子放出体に使用する電極基板としては、この分野で使用されている各種のものがいずれも使用できる。例えば、シリコン基板等に各種の導電性材料、例えば、白金、金、クロム、インジウム等を常法に従って、スパッタリング法等により蒸着してなる基板を例示できる。該金属蒸着層の厚さは、特に限定されないが、一般には、例えば、0.1〜500μm程度、特に10〜100μm程度とするのがよい。
【0122】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明の電子放出体においては、電子放出材料である金属内包ナノチューブが電極基板面に対して配向している。金属内包ナノチューブの配向の態様としては、金属内包ナノチューブがその全長にわたって配向している配向状態、金属内包ナノチューブ(特に長寸法の場合)の長さ方向の途中から一端又は両端が立ち上がって配向している配向状態、これら二つの配向状態が混在している配向状態などがある。
【0123】
配向方向は、電極基板面に対して平行な方向から若干立ち上がった方向、垂直な方向に又は垂直な方向に近い方向、これらの中間の方向等があるが、電極基板面に対して垂直な方向又はほぼ垂直な方向であるのが好ましい。
【0124】
また、電子放出材料を構成する金属内包ナノチューブの全てが配向していてもよく、またその一部が配向していてもよい。
【0125】
2b) 本発明の電子放出体の製造方法
本発明の電子放出体は、上記本発明の電子放出材料を、気相成長、印刷、塗布等の手法で、電極基板上に形成することにより製造される。
【0126】
例えば、本発明の電子放出材料を媒体に分散させた分散液を電極上に塗布乾燥することにより、電子放出体を形成することができる。該媒体としては、有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の炭素数1〜4の低級アルコール、クロロホルム等の炭素数1〜4のハロゲン化炭化水素等を例示できる。更にこれら有機溶媒にバインダーを含有させた媒体であってもよい。
【0127】
上記媒体に分散させる本発明の電子放出材料の濃度は、広い範囲から選択できるが、一般には分散液全重量に対して、5〜80重量%程度、特に10〜50重量%程度となる量が好ましい。
【0128】
上記分散液を電極基板に塗布する方法としては、各種の塗布方法が採用できるが、例えば、滴下、スプレー、スピンコート等の方法を例示できる。塗布した分散液の乾燥方法も特に限定されず、例えば、空気乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等を採用できる。
【0129】
印刷により電子放出材料層を形成する方法としては、常法により電子放出材料のスラリーをスクリーン印刷する手法等が挙げられる。また、気相成長により電子放出材料層を形成するには、電子放出材料を合成する反応炉に予め電極基板を設置し、気相合成する等の手法が挙げられる。
【0130】
また、本発明の電子放出材料が電極基板上で配向している電子放出体は、例えば、本発明の電子放出材料であって、チューブ内空間部に磁性体を含有しているナノチューブを使用し、上記のようにして形成された電子放出体に対して磁場を印加することにより、あるいは、電子放出材料の分散液を塗布する際に磁場を引加することにより、該磁性金属内包カーボンチューブを基板に対して配向させることもできる。
【0131】
磁場の印加方法としては、種々の方法を採用できる。例えば、電極基板の背面にサマリウムコバルト系永久磁石等の磁石を配置し、その磁力線が例えば電極基板面に対して垂直方向となるようにする等の方法で、磁場を印加すればよい。
【0132】
本発明により得られる電子放出材料及び電子放出体は、常法に従って、電界を印加することにより、電子を放出する性質に優れている。特に、本発明の電子放出材料である金属内包ナノチューブが電極基板上で配向している電子放出体は、金属内包ナノチューブを配向していない本発明の電子放出体と比べても、更に優れた電子放出性能を有する。
【0133】
従って、本発明の電子放出材料及び電子放出体を使用することにより、低消費電力の自発光型平面表示装置を実現することができる。例えば、電子源板と、蛍光体が塗布された表示板を備え、該電子源板と表示板との間の空間を真空雰囲気とした平面表示装置において、該電子源板として、本発明の電子放出材料を備えた電子放出体を使用することにより、低消費電力の自発光型平面表示装置を実現することができる。
【0134】
本発明の電子放出材料は、自発光型平面表示装置、薄型壁掛けテレビ等において有利に使用することができる。
【0135】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明をより一層詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明を逸脱することなく、各種の変更を行うことができる。
【0136】
実施例1
(1) 反応炉として、その一方にアルゴン導入管と原料導入管を備え、反対側に自動圧力コントローラーを備えた石英管を用いる。フェロセン0.5gとニッケロセン0.5gを磁製ボート内に薄く広げて敷き詰める。これを炉内の上流側(導入管寄り)に設置する。
【0137】
また、フェロセン2.0gとニッケロセン2.0gをベンゼン100gに溶解したものをバブリング溶液とし、原料導入管に接続する。
次に、この炉をアルゴンで置換し、大気圧に設定した後、炉内を800℃に昇温する。
【0138】
さらに、バブリング溶液を恒温槽で50℃に保持し、アルゴンを200ml/minの速度でバブリングして原料導入管から熱分解炭素源のベンゼンと金属化合物のフェロセンとニッケロセンをからなる原料を800℃の炉内に導入すると同時に、アルゴン導入管からは、アルゴンを200ml/minの速度で供給した。
【0139】
原料を導入した後30分が経過した時点で、原料をバブリング担持するアルゴンの流量を500ml/minとし、さらに30分後に100ml/minで2時間保持することで原料の供給を停止して、炉内を放冷する。
【0140】
この結果、炉内に鉄−ニッケル-炭素複合体(鉄−ニッケル成分を含む合金を内包したカーボンナノチューブ)を含む炭素質材料を70mg得た。
SEM観察の結果から、得られた鉄−ニッケル-炭素複合体は、外径20〜50nm、長さ10ミクロン以上で、やや湾曲した形状のものであった。
また、炭素からなる壁部の厚さは、2〜40nmであり、該壁部は、TEM観察及びX線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有する多層カーボンナノチューブであることを確認した。また、X線回折、EDXにより、上記本発明の鉄−ニッケル−炭素複合体には鉄−ニッケル成分を含む合金が内包されていることを確認した。該合金の重量組成は、鉄/ニッケル=62/38であった。
【0141】
得られた本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−ニッケル−炭素複合体を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、カーボンナノチューブの空間部(即ち、カーボンナノチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への、鉄−ニッケル成分を含む合金の充填率は実質上100%であった。
【0142】
(2)カソード基板として、2×2cmのシリコン基板に、2μm厚さで白金をスパッタすることによりカソード基板を得た。
【0143】
一方、アノード電極は、透明電極(ITO(Indium Tin Dioxide))に蛍光体(Y2O3:Eu蛍光体)を10μm厚さで塗布することにより製造した。
【0144】
鉄−ニッケル成分を含む合金を内包した上記(1)の金属内包カーボンナノチューブ5mgを、エタノール5mlに分散し、カソード基板に滴下乾燥することにより、カソード基板上に、上記鉄−ニッケル成分を含む合金を内包カーボンナノチューブからなる電子放出材料を薄膜状に形成したカソード基板、即ち、本発明の電子放出体を得た。
【0145】
次いで、図2に示すように、上記で得られた電子放出材料50を形成したカソード基板10に対して、上記で得られたアノード電極20を300μmの間隔で平行にした状態で、発光を観測するための透明ガラス板30をはめ込んだ真空容器40中に設置し、容器内を1×10-4Paにした後、カソード基板10とアノード電極20に電圧を印加することにより、電子放出を確認した。
【0146】
その結果、1.7V/μmの電界で、10mA/cm2の電流密度を得ることができ、アノード電極からは赤色発光が観測され、10000個/cm2以上の電子放出ポイントを確認することができた。
【0147】
実施例2
(1)無水FeCl3(関東化学株式会社製)0.5gを磁製ボート内に薄く広げて敷き詰める。これを石英管からなる炉内中央に設置し、炉内を圧力50Paまで減圧する。このとき、真空吸引するラインを取り付けた反応炉端部とは反対側(図1の反応管の左側)から酸素5000ppm含有アルゴンガスを30ml/minの速度で供給する。これにより、反応炉容積をA(リットル)とし、酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aを、2.5×10-3とした。次いで、反応温度800℃まで減圧のまま昇温する。
【0148】
800℃に到達した時点で、アルゴンを導入し、圧力を6.7×104Paに制御する。一方、熱分解性炭素源として、ベンゼン槽にアルゴンガスをバブリングさせて、揮発したベンゼンとアルゴンの混合ガスを、反応炉容積1リットル当たり、30ml/minの流速で炉内に導入し、希釈ガスとして、アルゴンガスを20ml/minの流速で導入する。
【0149】
800℃の反応温度で30分間反応させ、500℃まで20分で降温後、ヒーターを取り外して20分で室温まで空冷することにより、本発明の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200mg得た。
【0150】
SEM観察の結果から、得られた鉄−炭素複合体は、外径15〜40nm、長さ2〜3ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、2〜10nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。また、該壁部は、TEM観察及びX線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。
【0151】
また、X線回折、EDXにより、上記本発明の鉄−炭素複合体には炭化鉄が内包されていることを確認した。
【0152】
得られた本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(即ち、ナノフレークカーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への炭化鉄の充填率が10〜80%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
【0153】
ちなみに、該多数の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブあるいはカーボンナノチューブ内空間部への炭化鉄の平均充填率は40%であった。下記表1に、得られた鉄−炭素複合体のTEM観察像の複数の視野を観察して算出した炭化鉄の平均充填率を示す。また、X線回折から算出されたR値は、0.56であった。
【0154】
【表1】
【0155】
本実施例2で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示す。
【0156】
本実施例2で得られた炭素質材料における多数の鉄−炭素複合体の存在状態を示す電子顕微鏡(TEM)写真を図4に示す。
【0157】
本実施例2で得られた鉄−炭素複合体1本の電子線回折図を図5に示す。図5から、鮮明な電子回折パターンが観測されており、内包物が高い結晶性を有することが分かる。TEM観察の結果、内包物の結晶化率(炭化鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄のTEM像の面積の割合)は、約100%であった。
【0158】
本実施例2で得られた鉄−炭素複合体を含む炭素質材料(鉄−炭素複合材料の集合物)のX線回折図を図6に示す。
【0159】
本実施例2で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした電子顕微鏡(TEM)写真を、図7に示す。
【0160】
図7から判るように、本実施例2で得られた炭素質材料においてはその炭素壁面が、入れ子状でもスクロール状でもなく、パッチワーク状(いわゆる paper mache 状ないし張り子状)になっているように見え、ナノフレークカーボンチューブであった。
【0161】
図7から判るように、本実施例で得られた鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブの形状は、円筒状であり、その長手方向を横切る断面のTEM写真において観察されるグラフェンシート像は、閉じた環状ではなく、不連続点を多数有する不連続な環状であった。
【0162】
また、本発明の鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、概ね2〜30nmの範囲であった(図3)。
【0163】
さらに、図7のチューブ内1〜20までのポイントで測定したEDX測定結果から、炭素:鉄の原子比率は5:5でほぼ均一な化合物が内包されていることが判った。
【0164】
(2)この鉄−炭素複合体を電子放出材料として用いて、上記実施例1の(2)と同様にして電子放出を確認した。その結果、0.9V/μmの電界で、10mA/cm2の電流密度を得ることができ、アノード電極からは赤色発光が観測され、10000個/cm2以上の電子放出ポイントを確認することができた。
【0165】
比較例1
(1)実施例2と同様にして得られた炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブ10mgを、10規定の塩酸20mlに分散し、室温で3時間撹拌し、濾別された粉末を蒸留水100ml及びエタノール100mlで洗浄することにより、チューブ内空間に内包されていた炭化鉄を除去して、中空ナノフレークカーボンチューブを得た。
【0166】
(2)この中空ナノフレークカーボンチューブを用いて、上記実施例1の(2)と同様にして電子放出を確認した。その結果、10mA/cm2の電流密度を得るためには、4.5V/μmの電界を印加する必要があった。
【0167】
実施例3
カソード基板として2×2cmのガラス基板に2μm厚さで白金をスパッタした基板をカソード基板として用い、該カソード基板の底部にサマリウムコバルト系永久磁石を、その磁力線が該カソード基板に対して垂直方向となるように設置した後、実施例2で得た炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブのエタノール分散液をカソード基板に滴下乾燥する以外は実施例1の(2)と同様にして、炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブ塗布カソード基板を得た。
【0168】
得られた炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブ塗布カソード基板について、実施例1の(2)と同様にして電子放出を確認した。その結果、10mA/cm2の電流密度を得るために要する印加電界は、0.7V/μmであった。
【0169】
この電子放出特性の改善は、上記永久磁石の磁界により、炭化鉄内包ナノフレークカーボンチューブの少なくとも一部がカソード基板と垂直な方向又はそれに近い方向に配向したことを示している。
【0170】
【発明の効果】
本発明の電子放出材料及び電子放出体は、次のような優れた効果を奏する。
【0171】
(a) 低電界で必要な電流密度を実現できる。特に、本発明の電子放出材料を構成する金属内包ナノチューブを電極基板上で配向させてなる電子放出体は、更に低い印加電界で、必要な電流密度を実現できる。
【0172】
(b)従って、本発明の電子放出材料を使用することにより、低消費電力の自発光型平面表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で使用する反応装置の一例の概略図である。
【図2】各実施例及び比較例1で電子放出特性を確認するために使用した測定装置の概略図である。
【図3】実施例2で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】実施例2で得られた炭素質材料における鉄−炭素複合体の存在状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】実施例2で得られた鉄−炭素複合体1本の電子線回折図である。
【図6】実施例2で得られた鉄−炭素複合体を含む炭素質材料(鉄−炭素複合体の集合物)のX線回折図である。
【図7】実施例2で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。尚、図7の写真中に示されている黒三角(▲)は、組成分析のためのEDX測定ポイントを示している。
【図8】カーボンチューブのTEM像の模式図を示し、(a-1)は、円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図であり、(a-2)は入れ子構造の多層カーボンナノチューブのTEM像の模式図である。
【符号の説明】
1 反応炉
2 加熱装置
10 カソード基板
20 アノード電極
30 透明ガラス
40 真空容器
50 電子放出材料
100 ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像
110 略直線状のグラフェンシート像
200 ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面の TEM像
210 弧状グラフェンシート像
300 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像
400 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面のTEM像
Claims (8)
- 金属をチューブ内空間部の一部に含有したナノフレークカーボンチューブからなる電子放出材料であって、
該金属をチューブ内空間部の一部に含有したナノフレークカーボンチューブが、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10 − 5 Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(N cc )とした場合の比B/Aが1×10 − 10 〜1×10 − 1 となる濃度に調整して、反応炉内で金属化合物を600〜900℃まで加熱する工程、
(2)上記反応炉内を不活性ガス雰囲気とし、圧力を10 − 5 Pa〜200kPaに調整し、熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程、及び
(3)上記工程(2)の加熱処理工程後、50〜2000℃/hの速度で500℃まで冷却する工程
によって得られる、電子放出材料。 - チューブ内空間部に含有される金属が、チューブ内空間部の10〜90%に存在する請求項1に記載の電子放出材料。
- チューブ内空間部に含有される金属が、磁性体である請求項1〜2のいずれかに記載の電子放出材料。
- 磁性体が、鉄、ニッケル及びコバルトからなる群から選ばれる金属であるか、又は、該金属の合金である請求項3に記載の電子放出材料。
- 磁性体が、鉄又は鉄の合金である請求項3に記載の電子放出材料。
- 電極基板及び該電極基板上に形成された請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出材料を備えた電子放出体。
- 電子放出材料が配向している請求項6に記載の電子放出体。
- 電子放出材料が、磁性体をチューブ内空間部に含有したナノフレークカーボンチューブからなる電子放出材料であり、磁場を印加することにより、該電子放出材料を電極基板上で配向させてなる請求項7に記載の電子放出体。
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