JP3955208B2 - 制動圧推定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキ制御装置において制動圧、すなわちホイールシリンダ圧力を推定する制動圧推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
近年、車両に搭載されているブレーキ装置は、多種多様な機能が付加されており、このような機能が付加されたブレーキ装置として、例えば、車輪ロックを防止して車両の挙動を安定に保ちながら制動距離の短縮を図るアンチスキッドブレーキ装置や、車両の加速時などにおいて駆動輪のホイールスピンを防止するトラクションコントロール装置や、運転者が操作したブレーキ圧力が不足している場合には、この不足したブレーキ圧力をホイールシリンダに供給するように構成されたブレーキアシスト装置や、車両のオーバステアまたはアンダステアを解消するように運転者のブレーキ操作の有無にかかわらず車輪に制動力を与えて車両の走行安定性を確保するビーグルスタビリティコントロール装置などが知られている。
【0003】
上記のようなブレーキ装置においては、ホイールシリンダのブレーキ圧力やブレーキペダル操作により発生されたブレーキ圧力を正確に把握することができれば、ブレーキ圧力を制御する制御バルブの駆動時間などをより精密に制御することが可能となって、上記のブレーキ装置の制御精度がよりいっそう正確なものとなる。
このようなことから、マスタシリンダやホイールシリンダにブレーキ液圧センサを設けることによってホイールシリンダやマスタシリンダの液圧を測定することが考えられるが、このような手段では装置のコストが嵩む。
【0004】
このようなコストの問題もあって、マスタシリンダ液圧のみを液圧センサにより測定し、この液圧がブレーキ装置の液圧モデルによりどのように変化するかを計算してホイールシリンダ液圧を推定する方法が提案されている。
具体的には、マスタシリンダ液圧を利用して求めたホイールシリンダの推定液圧(前回値)に、ブレーキ装置に設けられた各電磁弁に対して出力される開弁駆動信号に基づいて算出されたブレーキ液圧変化量を加えることにより、ホイールシリンダの今回値を推定するものである。
【0005】
しかしながら、この推定値に誤差が生じることがあった。
そこで、本願発明者は、この誤差の発生原因について研究した結果、後述のように電磁弁の作動応答性に依存して誤差が発生することを見出した。
すなわち、電磁弁により液圧制御を実行するにあたり、安価に精度の高い制御を実行する手段として、ON−OFF型の電磁弁に対してデューティ制御信号を出力することが知られている。
また、電磁弁にはスプールなどの作動部材が設けられているが、この作動部材の質量や作動抵抗により駆動信号のデューティ制御信号の出力が短時間である場合に、作動部分が駆動しないことがあることを見出した。すなわち、電磁弁に対して、開→閉→開という制御信号を出力した際に、この中間の閉作動させる信号の出力時間が極端に短い場合、つまり、開のディーティ比が極めて高い(閉のディーティ比が極めて低い)制御信号を出力した場合に、上述のような作動特性によりスプールなどの作動部材が作動せず、開状態に保たれてしまうことがあることを見出した。
この場合、制御信号は、開→閉→開との指令を出しているにもかかわらず、電磁弁の作動は、開→開→開という作動になる。
よって、この電磁弁がホイールシリンダ圧を増圧する作動を行う弁である場合、駆動信号に基づいて得られた推定値は、開→閉→開の「閉」の部分を演算して得られるのに対して、電磁弁の実際の作動は、「閉」の指令中も「開」弁状態に維持されることからブレーキ液が供給され、実際の液圧は、推定値よりも高い圧力となる。
一方、電磁弁がホイールシリンダ圧を減圧する作動を行う弁である場合は、上記とは逆に、開→閉→開の「閉」の分は減圧が成されていないものとして推定するのに対し、実際の作動は「閉」の指令中も「開」弁状態に保たれることから、実際の液圧は、推定値よりも低い圧力となる。
【0006】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、ブレーキ液圧の推定精度を向上させることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、
ホイールシリンダなどの制動圧により作動する制動作動部と、
この制動作動部に対して流体を供給する供給作動、制動作動部から流体を排出する排出作動、および制動作動部に流体を閉じこめる保持作動を選択的に行って制動圧を任意に調整可能な圧力制御弁と、
この圧力制御弁の上記供給作動時には供給作動信号である開弁駆動信号と保持作動信号とのデューティ比信号から成る制御信号を出力し、上記排出作動時には排出作動信号である開弁駆動信号と保持作動信号とのデューティ比信号から成る制御信号を出力して制動作動部の制動圧を任意に制御する制御手段と、
を備えたブレーキ制御装置が搭載された車両に適用され、
前記制御信号に含まれる開弁駆動信号が出力された時間と、圧力制御弁の単位時間当たりの流体供給量および単位時間当たりの流体排出量に基づいて制動作動部における流出量および排出量を積算して制動作動部における流体量を推定し、この流体量から制動圧推定値を求める推定手段を備えた制動圧推定装置において、前記推定手段は、制御手段が出力する制御信号における保持作動の実行時間が予め設定された短時間以下の場合には、この保持作動の実行時間に相当する補正値を制御信号に含まれる開弁駆動信号の出力時間に加算して供給量および排出量を求める補正処理を行うことを特徴とする装置とした。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の制動圧推定装置において、
前記推定手段が補正処理の判断を行う前記予め設定された時間とは、前記圧力制御弁に対して制御信号を出力したときに、保持作動信号を出力しても圧力制御弁が追従作動できない動状態に維持されて保持作動が成されない短時間であることを特徴とする装置とした。
【0009】
【発明の作用および効果】
ホイールシリンダなどの制動作動部の制動圧を推定するにあたり、本発明の制動圧推定装置の推定手段では、圧力制御弁に向けて出力される制御信号に基づいて制動作動部における流体供給量および流体排出量を積算して制動作動部における流体量を推定し、この流体量に基づいて制動圧を推定する。
【0010】
さらに、推定手段では、制御手段が出力する制御信号における保持作動の実行時間が、予め設定された短時間、すなわち、圧力制御弁が追従作動できないほどの短時間である場合には、補正処理を実行する。
この補正処理では、開弁駆動信号と保持作動信号とから成る制御信号が出力されたときに、保持作動の実行時間に相当する補正値を制御信号に含まれる開弁駆動信号の出力時間に加算して供給量および排出量を求める。
よって、圧力制御弁が追従作動できない短時間の保持作動信号が出力された場合には、開弁駆動された状態に維持されたものとして流体供給量および流体排出量を求めることになり、従来よりも精度の高い制動圧推定が可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における制動圧推定装置を実現する実施の形態を、図面に基づいて説明する。
(実施の形態)
まず、構成を説明する。
図1は全請求項に記載の発明に対応した実施の形態の制動圧推定装置を適用したブレーキ装置の要部を示すブレーキ回路図である。
図においてブレーキ配管H1はX型ブレーキ配管の一方の系統を示している。なお、X型ブレーキ配管というのは、本発明の制動作動部に相当する4輪のホイールシリンダに流体としてのブレーキ液を供給する配管を2系統に分割し、かつ、この2系統の配管のそれぞれを前輪の一方と後輪の一方とに接続するとともに、前輪の一方を左輪とすれば後輪の一方は右輪とするというように配管したものである。
【0012】
前記ブレーキ配管H1は、途中で分岐管部H11,H12に分割され、各分岐管部H11,H12が右前輪FRと左後輪RLのホイールシリンダWCFR,WCRLに接続されている。
さらに、ブレーキ配管H1において、分岐管部H11,H12よりもマスタシリンダMC側である上流側には、非通電状態で開弁している常開のアウト側ゲート弁1が設けられている。
また、各分岐管部H11,H12には、常開の流入弁21,22が設けられている。
また、各ホイールシリンダWCFR,WCRLとリザーバRSとを結ぶドレーン回路3の途中には、通常は閉弁しており通電すると開弁する常閉の流出弁41,42が設けられている。
これらの流入弁21,22と流出弁41,42とが請求の範囲の圧力制御弁に相当する。
【0013】
さらに、リザーバRSとマスタシリンダMCとはそれぞれ吸入回路51,52を介してポンプPの吸入側に接続され、また、このポンプPの吐出側に設けられた吐出回路6は、ブレーキ配管H1においてアウト側ゲート弁1と流入弁21,22との間である供給部H10に接続されている。
そして、吸入回路52には、常閉のイン側ゲート弁7が設けられている。
【0014】
したがって、運転者が制動操作をおこなってマスタシリンダMCに圧力が発生している状態では、アウト側ゲート弁1を開弁状態に維持させ、さらに、流入弁21,22および流出弁41,42を作動させることにより、ホイールシリンダ圧(制動圧)を、大気圧〜マスタシリンダ圧の範囲内で調整することにより、車輪がロックしないようにする、いわゆるアンチスキッド制御を実行することができる。
さらに、アウト側ゲート弁1を閉弁させるとともに、イン側ゲート弁7を開弁させ、ポンプPを駆動させ、さらにこの状態において、アウト側ゲート弁1を適宜開弁させることにより、アウト側ゲート弁1と両流入弁21,22との間の液圧を所望の液圧に能動的に制御し、さらにこの状態において、流入弁21,22を適宜開弁させて各ホイールシリンダWCFR,WCRLに所望のブレーキ圧力を供給して所望の制動力を発生させるとともに、流出弁41,42を適宜開弁させて各ホイールシリンダWCFR,WCRLのブレーキ圧力をリザーバRSに抜くことにより所望の減圧を行い、ホイールシリンダ圧(制動圧)を能動的に任意の圧力に制御することができる。
【0015】
以上のようなポンプP、各弁1,21,22,41,42,7の作動は、コントロールユニットCUにより成される。
このコントロールユニットCUにあっては、上述のようにホイールシリンダWCFR,WCRLの圧力を制御するにあたって、各ホイールシリンダWCFR,WCRLの圧力の推定を行っている。
この推定を行う部分が本発明の制動圧推定装置に相当するもので、以下、その構成について説明する。
【0016】
図2は制動圧推定部を示すシステム図であり、この部分には、各輪の車輪速度を検出する車輪速度センサ31と、前後方向加速度XGを検出する前後加速度センサ(以下、前後Gセンサという)32と、横方向加速度YGを検出する横加速度センサ(以下、横Gセンサという)33と、からの信号が入力される他、ポンプPのモータMを駆動させる信号、アウト側ゲート弁1,流入弁21,22,流出弁41,42に出力される増減圧パルス信号、および図外のエンジンコントロールユニットから送られるアクセル開度を示すアクセル信号が入力される。
【0017】
この図2に示す制動圧部の構成について説明する。
101は輪荷重推定部である。この輪荷重推定部101は、前後Gセンサ32で検出された車両の前後方向加速度XGと、横Gセンサ33で検出された車両の横方向加速度YGとに基づいて車輪に作用する車両重量、すなわち輪荷重を推定する。輪荷重は、車両モデルにより推定が可能であり、予め所定の前後方向加速度XGおよび横方向加速度YGと車輪に作用する荷重との相対関係を実験的に求めて推定輪荷重WHTとしてテーブルなどにストックすることができる。
【0018】
102はW/C液圧推定部である。このW/C液圧推定部102では、予め実験やシミュレーションなどで得られたブレーキ液圧装置モデルに基づいて、各弁やモータMの駆動信号である増減圧パルス信号、モータ駆動信号および後述するM/C圧推定値MCHTからホイールシリンダの推定液圧であるW/C圧推定値WCHTを求める。
【0019】
103は前後G推定部である。この前後G推定部103は、予め実験やシミュレーションなどで得られた車両モデルを有し、この車両モデルに対してW/C圧推定値WCHTおよび推定輪荷重WHTを用いて現在の車両に発生している車両前後方向の加速度を推定前後方向加速度GHTとして推定する。
【0020】
104はM/C圧推定部である。このM/C圧推定部104は、推定前後方向加速度GHTと前後Gセンサ22により検出された実際の前後方向加速度XGとの間に偏差ΔGが生じている場合に、M/C圧推定値MCHTもしくはW/C圧推定値WCHTに誤差があると認められるので、M/C圧推定値MCHT1を補正するものである。具体的には、推定前後方向加速度GHTと実際の前後方向加速度XGとの偏差ΔGを積分して加速度を制動力に変換し(=K×∫ΔGdt、ここでKは係数である)、後述する非ブレーキ制御時M/C圧算出部106において非ブレーキ制御時に推定したM/C圧推定値MCHT2(すなわち、ブレーキ制御時のM/C圧推定値MCHTの初期値)とにより、新たにブレーキ制御時のマスタシリンダMCの液圧を推定する。この推定液圧は、誤差が補正された後の、より正確なM/C圧推定値MCHT1として使用される。
【0021】
105はM/C圧選択部である。このM/C圧選択部105は、入力されるブレーキ制御フラグに基づいてブレーキ制御時であるか非ブレーキ制御時であるかを判断して、M/C圧推定部104と非ブレーキ時M/C圧算出部106とから並行して送られる2つのM/C圧推定値MCHT1,MCHT2の一方を選択する。
【0022】
106は非ブレーキ制御時M/C圧算出部である。この非ブレーキ制御時M/C圧算出部106は、前後方向加速度XG、車輪加速度VWDおよびアクセル信号に基づいてマスタシリンダMCの液圧であるM/C圧推定値MCHT2を推定する。すなわち、どのくらいのブレーキ液圧を車両のホイールシリンダWCに与えれば、どのくらいの前後方向加速度XGが生じるかが、予め実験などにより知ることができ、さらに車輪加速度VWDなどを用いることで車両が走行する路面摩擦などの影響を推定に反映させることができる。ここで、車両の前後加速度XGを検出する手段としては、前後Gセンサ22を示しているが、例えば、車輪速度VWおよびその変化に基づいて算出してもよく、この場合、路面の勾配の影響を受けることなく高い精度で前後方向加速度を検出することができる。
【0023】
したがって、図2に示す制動圧推定部では、例えばブレーキによる車両のスタビリティコントロールなどのブレーキ制御が実行されていないがブレーキ操作は行われているとき(図外のブレーキペダルに設けられたブレーキスイッチ34などの信号に基づき判断することができる)には、非ブレーキ制御時M/C圧算出部106において、車両の前後Gセンサ22により検出された車両の前後方向加速度信号と、車輪速度センサ31で検出された車輪速度VW、およびアクセル信号ACCに基づいてM/C圧推定値MCHT2を算出する。
【0024】
非ブレーキ制御時M/C圧算出部106において算出されたM/C圧推定値MCHT2は、M/C圧選択部105に送られ、M/C圧推定値MCHT1とのいずれかがM/C圧推定値MCHTとして選択される。
なお、ブレーキ制御およびブレーキ操作が共に行われていないとき、またはアクセルペダルが踏み込まれていないときには、前後Gセンサ22の零点補正を行うことにより、より正確なマスタシリンダMCの液圧推定を行うことができる。さらに、ブレーキ操作がおこなわれていないときには、マスタシリンダMCの推定液圧は零に設定される。
【0025】
次に、ブレーキ制御が行われているときには、まず、最初に、非ブレーキ操作時M/C圧算出部106において得られたM/C圧推定値MCHT2が、M/C圧選択部105においてM/C圧推定値MCHTの初期値として選択されてW/C液圧推定部102に送られる。
次に、W/C液圧推定部102において、M/C圧推定値MCHTおよび各弁やモータMの駆動信号を入力とするブレーキ液圧装置モデルに基づいてW/C圧推定値WCHTが推定される。
次に、前後G推定部103において、W/C圧推定値WCHTと、輪荷重推定部101で推定された推定輪荷重WHTとを入力とした車両モデルに基づいて現在の車両に発生している車両前後方向の加速度を推定前後方向加速度GHTとして推定する。
【0026】
以上のようにして推定された推定前後方向加速度GHTは、前後Gセンサ22で検出された実際の前後方向加速度XGと比較され、推定前後方向加速度GHTの正確性が検証される。推定前後方向加速度GHTを検証することは、別の意味では、ホイールシリンダ推定液圧WCHTやM/C圧推定値MCHTの検証をすることと等価であり、推定前後方向加速度GHTと実際の前後方向加速度XGとの間に偏差が無い場合は、ホイールシリンダ推定液圧WCHTやM/C圧推定値MCHTの推定が実際に発生している正確な値であると考えることができる。
【0027】
他方、推定前後方向加速度GHTと実際の前後方向加速度XGとの間に偏差ΔGが生じている場合には、M/C推定値MCHTもしくはW/C推定値WCHTに誤差があると認められるので、M/C圧推定部104において、M/C圧推定値MCHT1を補正する。この補正されたM/C圧推定値MCHT1は、さらに、M/C圧選択部105に送られ、M/C圧推定値MCHTとして選択され、上述の推定が繰り返される。
【0028】
以上のようにW/C液圧推定部102においてW/C圧推定値WCHTを求めるにあたり、本発明の制動圧推定装置を適用している。
この制動圧推定装置においてW/C圧推定値WCHTを得るまでの処理流れを図3のフローチャートに示しているもので、この図3に示す処理を実行する部分が実施の形態の制動圧推定装置である。
【0029】
ステップ301では、目標液圧読込処理を実行する。この目標液圧は、例えばビーグルスタビリティコントロールなどの制動力制御を実行する部分において、必要な制動力を得るための目標ホイールシリンダ圧として求められるもので、このステップ301では、上述の制動力制御を実行する部分から目標液圧を読み込む。
【0030】
ステップ302では、増減圧パルス読込処理を実行する。この増減圧パルスとは、上述の目標液圧を得るのに必要なアウト側ゲート弁1,流入弁21,22,流出弁41,42の駆動を制御する駆動パルスである。
【0031】
次に、ステップ303において、W/C上流部圧力算出処理を実行する。このW/C上流部圧力PHLHTは、アウト側ゲート弁1と両流入弁21,22との間の供給部H10の圧力であって、この供給部H10における液量を求めることで圧力に換算することができる。また、この供給部H10の液量は、この供給部H10における単位時間当たりの液量変化を積算して求めることができ、この単位時間当たりの液量変化は、ポンプPへの通電時間に基づいて得られたポンプPから供給部H10に供給された単位時間当たりの吐出量から、アウト側ゲート弁1の開弁時間に基づいて供給部H10からマスタシリンダMC側に逃がされた単位時間当たりの流量と、流入弁21,22の開弁時間に基づいて供給部H10からホイールシリンダWCFR,WCRLに流れ込んだ単位時間当たりの流量とを差し引くことで得られる。
【0032】
次に、ステップ304において、W/C圧力推定算出処理を実行する。このW/C圧力推定算出処理が、W/C推定値WCHTを求める処理であり、上述のW/C上流部圧力PHLHTと同様に、ホイールシリンダWCRF,WCRLにおける液量変化、すなわち流入弁21,22の開弁時間に基づいて供給部H10からホイールシリンダWCFR,WCRLに流れ込んだ単位時間当たりの流量を積算した値から、流出弁41,42の開弁時間に基づいて得られたホイールシリンダWCRF,WCRLからリザーバRSに逃がされた流量を差し引いて得られたホイールシリンダ液量を圧力に換算して求めるもので、その詳細については後述する。
【0033】
次に、ステップ305において今回の制御が終了したか否か判断して、今回の制御が終了していない場合、ステップ302に戻り、今回の制御が終了したらステップ301に戻る。
【0034】
次に、前述したステップ304のホイールシリンダ圧力を推定する処理であるW/C圧力推定処理の詳細を図4〜図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、図4に示す補正フラグ設定制御について説明する。
この補正フラグ設定制御は、W/C圧力推定処理における補正処理を実行するか否かを判断する補正フラグの設定を行う制御である。
最初のステップ401では、前回のパルス出力(これは開弁駆動信号出力を意味する)から今回のパルス出力(同じく開弁駆動信号出力を意味する)の間における保持信号出力時間THが予め設定されたしきい値S1以下であるか否か判断して、TH≦S1(YES)の場合はステップ402に進み、TH>S1(NO)の場合は、ステップ404に進む。
ここで保持信号出力時間THについて説明すると、増圧時および減圧時においてその制御信号は、図7に示すように、1つの制御周期TP内で、減圧信号(図では減圧を例にとって説明しているが、増圧時には増圧信号である)と保持信号とから成るデューティ信号を出力する。このデューティ信号における減圧信号と保持信号との比率は、目標ホイールシリンダ圧と現在のホイールシリンダ圧との差に応じて異なる。上記保持信号出力時間THとは、この保持信号が出力される時間であり、図では保持時間が3msecの場合を一例として示している。
【0035】
また、しきい値S1は、流入弁21,22および流出弁41,42のバルブ特性により決定される。すなわち、各弁21,22,41,42において、出力時間が短くなると、図外の質量を有したバルブプランジャが駆動信号に対応した移動(追従作動)を行わなくなる。つまり、図示の減圧時の場合、流出弁41,42に対して減圧信号(開弁駆動信号)と保持信号とから成るデューティ信号を出力したときに、保持信号の出力時間が所定時間よりも短くなると、流出弁41,42の図外のバルブプランジャは開弁位置に留まり閉弁しない現象が生じる。同様に、流入弁21,22にあっては、増圧信号(開弁駆動信号)と保持信号とを出力したときに、保持信号の出力時間が所定時間よりも短くなると流入弁21,22の図外のバルブプランジャが開位置に留まり閉弁しない現象が生じる。この所定時間がしきい値S1として設定されるものであり、本実施の形態ではS1=3msecとするが、この値はバルブによって特性が異なるもので、本実施の形態では、流入弁21,22と流出弁41,42とを同じしきい値S1に設定したが、両弁でしきい値S1を異ならせた設定とすることも当然あり得る。
【0036】
次に、上記ステップ401においてYESと判断されて進むステップ402にあっては、今回の制御周期におけるパルス要求値≠0であるか(開弁駆動信号を出力するか)否か、すなわち、圧力制御中であるか否か判断し、圧力制御中である場合にはステップ403に進んで、パルス補正フラグ=1に設定するとともに液圧演算用パルス補正を行う。なお、この液圧演算用パルス補正は、このときの保持時間THを補正値THHとする。
【0037】
一方、ステップ401あるいはステップ402においてNOと判断した場合にはステップ404に進んで、パルス補正フラグ=0に設定する。
【0038】
次に、図5のフローチャートに基づいて増圧時におけるW/C圧力推定処理を説明する。
まず、ステップ501では、ホイールシリンダWCxx内の液量の前回値Q前を読み込む。なお、W/C圧力推定処理は、各ホイールシリンダWCxx(xxは、FR,FL,RR,RLのいずれかを示す)毎に独立して行う。
次のステップ502では、パルス補正フラグ=1であるか否か判断し、パルス補正フラグ=1の場合はステップ504に進み、パルス補正フラグ≠0の場合はステップ503に進む。
このパルス補正フラグ≠0の場合に進むステップ503では、流入弁21,22を経てホイールシリンダWCxxへ流入した液量である流入液量qinを、
qin=単位流入量×要求される増圧パルス時間
により算出する。なお、単位流入量は、流入弁21,22における1msec当たりの流入量であり、流入弁21,22の特性に基づいて所定の一定値を用いてもよいし、あるいは、供給部H10の前回の液圧PHLHTとホイールシリンダWCxxの前回の推定液圧との差圧に基づいて変更してもよいもので、後者の方が精度の高い推定を行うことができる。
【0039】
一方、ステップ502において、パルス補正フラグ=1の場合は、ステップ504に進んで、ホイールシリンダWCxxへの流入流量qinを、
qin=単位流入量×(要求される増圧パルス時間+補正値)
により算出する。なお、この補正値は、前述のようにしきい値S1よりも短時間の保持時間に相当する値である。
このように、パルス補正フラグ=1の場合は、保持の指令が出されている間も流入弁21,22が開弁しているとして流入流量qinを算出する。
【0040】
ステップ503および504から進むステップ505では、ホイールシリンダWCxx内に存在する今回の液量Qを、Q=Q前+qinにより算出する。
続くステップ506では、ホイールシリンダWCxx内に存在する今回の液量Qから、予め設定された換算テーブルの参照や、予め設定された演算式による演算などに基づいて、今回のホイールシリンダ圧推定値WCHTを求める。
このホイールシリンダ圧力PBHTが、W/C圧推定値WCHTとして出力される。
【0041】
次に、図6のフローチャートに基づいて減圧時におけるW/C圧力推定処理を説明する。
まず、ステップ601では、ホイールシリンダWCxx内の液量の前回値Q前を読み込む。
次のステップ602では、パルス補正フラグが=1であるか否か判断し、パルス補正フラグ=1の場合はステップ604に進み、パルス補正フラグ≠0の場合はステップ603に進む。
ステップ603では、流出弁41,42を経てホイールシリンダWCxxから流出した液量である流出流量qoutを、
qout=単位流出量×要求される減圧パルス時間
により算出する。なお、単位流出量は、流出弁41,42における1msec当たりの流出量であり、流出弁41,42の特性に基づいて所定の一定値を用いてもよいし、あるいは、供給部H10の前回の液圧PHLHTとホイールシリンダWCxxの前回の推定液圧との差に基づいて変更してもよいもので、後者の方が精度の高い推定を行うことができる。
【0042】
一方、ステップ602において、パルス補正フラグ=1の場合は、ステップ604に進んで、ホイールシリンダWCxxから流出した流出流量qoutを、
qout=単位流出量×(要求される減圧パルス時間+補正値)
により算出する。なお、この補正値は、前述のようにしきい値S1よりも短時間の保持時間に相当する値である。
このように、パルス補正フラグ=1の場合は、保持の指令が出されている間も流出弁41,42が開弁しているとして流出流量qoutを算出する。
【0043】
ステップ603および604から進むステップ605では、ホイールシリンダWCxx内に存在する今回の液量Qを、Q=Q前−qoutにより算出する。
続くステップ606では、ホイールシリンダWCxx内に存在する今回の液量Qから、予め設定された換算テーブルの参照や、予め設定された演算式による演算などに基づいて、今回のW/C圧推定値WCHTを求める。
【0044】
次に、実施の形態の作動について図7のタイムチャートにより説明する。
この図7(a)(b)は、減圧時の減圧デューティ比が高い制御信号を出力してブレーキ液圧を減圧した際の作動例を示すもので、(a)は従来例を、(b)は実施の形態を示している。
発明が解決しようとする課題でも説明したが、(a)に示す従来例では、1つの制御周期内で減圧デューティ比が高い制御信号を出力した場合、すなわち、1制御周期内で保持制御時間が短い(3msec以下)制御信号を出力した場合に、実際には流出弁41,42が短い保持制御時間に対応することができずに開弁したままとなって、実際の液圧は減圧を続けているのに対して、W/C圧推定値WCHTは、保持時間の分減圧が成されないと処理する結果、実際の液圧に対してW/C圧推定値WCHTが高く算出されて誤差ΔPが発生していた。
【0045】
それに対して、本実施の形態にあっては、流出弁41,42が対応できない短時間の保持を行う場合、この保持時間THの分の補正値THHを形成し、この保持時間THの間も流入弁41,42が開弁していたとして流出流量qoutを算出する。
このため、実際の液圧とW/C圧推定値WCHTとが一致するもので、従来技術と比較してホイールシリンダ圧の推定精度を向上させることができるという効果が得られる。
【0046】
以上、本発明の制動圧推定装置を実施の形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
例えば、圧力制御弁として1つの制動作動部としてのホイールシリンダの圧力制御を流入弁21,22と流出弁41,42との2つの弁で行う構成を示したが、流入状態と流出状態と保持状態をそれぞれ選択的に形成可能な1つの弁で構成することもできる。
また、流体としてはブレーキ液を示したが、気体など他の流体を用いる場合にも適用することができる。
また、実施の形態では、ブレーキ配管H1として、2系統に分けたX配管を示したが、2系統の配管を前後や左右で分けるようにしてもよいし、あるいは、2系統に分割したものに限らず、各ホイールシリンダに向けて4つに分岐させる構成にも適用することができる。
【0047】
また、実施の形態では、マスタシリンダ圧を推定により求める例を示した。これにより、マスタシリンダ圧を検出するセンサも廃止して安価に構成することを可能としたが、マスタシリンダ圧を検出するセンサを設ける構成としてもよい。また、実施の形態では、制動圧推定装置を車両モデルにより車両状態を推定する手段に適用した例について説明したが、これに限定されず、要は、流体の流量を求めて制動圧を推定する装置であれば、どのような装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態の制動圧推定装置を適用したブレーキ装置の要部を示すブレーキ回路図である。
【図2】制動圧推定部を示すシステム図である。
【図3】実施の形態におけるW/C圧推定値WCHTを得るまでの処理流れを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態におけるパルス補正フラグを設定する処理を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態における増圧時のホイールシリンダ液圧推定処理を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態における減圧時のホイールシリンダ液圧推定処理を示すフローチャートである。
【図7】制動制御の作動例を示すタイムチャートであって、(a)が従来技術を、(b)が実施の形態の作動例を示している。
【符号の説明】
1 アウト側ゲート弁
3 ドレーン回路
6 吐出回路
7 イン側ゲート弁
21,22 流入弁
31 車輪速度センサ
32 前後Gセンサ
33 横Gセンサ
34 ブレーキスイッチ
41,42 流入弁
51,52 吸入回路
CU コントロールユニット
H1 ブレーキ配管
H10 供給部
H11,H12 分岐管部
M モータ
MC マスタシリンダ
Claims (2)
- ホイールシリンダなどの制動圧により作動する制動作動部と、
この制動作動部に対して流体を供給する供給作動、制動作動部から流体を排出する排出作動、および制動作動部に流体を閉じこめる保持作動を選択的に行って制動圧を任意に調整可能な圧力制御弁と、
この圧力制御弁の上記供給作動時には供給作動信号である開弁駆動信号と保持作動信号とのデューティ比信号から成る制御信号を出力し、上記排出作動時には排出作動信号である開弁駆動信号と保持作動信号とのデューティ比信号から成る制御信号を出力して制動作動部の制動圧を任意に制御する制御手段と、
を備えたブレーキ制御装置が搭載された車両に適用され、
前記制御信号に含まれる開弁駆動信号が出力された時間と、圧力制御弁の単位時間当たりの流体供給量および単位時間当たりの流体排出量に基づいて制動作動部における流出量および排出量を積算して制動作動部における流体量を推定し、この流体量から制動圧推定値を求める推定手段を備えた制動圧推定装置において、
前記推定手段は、制御手段が出力する制御信号における保持作動の実行時間が予め設定された短時間以下の場合には、この保持作動の実行時間に相当する補正値を制御信号に含まれる開弁駆動信号の出力時間に加算して供給量および排出量を求める補正処理を行うことを特徴とする制動圧推定装置。 - 請求項1に記載の制動圧推定装置において、
前記推定手段が補正処理の判断を行う前記予め設定された時間とは、前記圧力制御弁に対して制御信号を出力したときに、保持作動信号を出力しても圧力制御弁が追従作動できない動状態に維持されて保持作動が成されない短時間であることを特徴とする制動圧推定装置。
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