JP3954290B2 - エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下、「EVOH」と略称する)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
EVOHの製造において、チップ(ペレットと称することもある)に残存または付着している不純物は、フィルムなどへの成形加工時に着色やフィッシュアイの発生の原因となるので取り除く必要がある。また、製造において使用されるメタノールなどの溶媒は、経済的および衛生的観点からできる限り回収する必要がある。
【0003】
チップから不純物およびメタノールを除去するために、従来は、チップを水と接触させて洗浄し、その後、水を遠心脱水する工程を繰り返す方法が採用されてきた。しかし、この洗浄方法には、大量の水を必要とし、処理時間が長いという問題がある。
【0004】
特開昭50−4188号公報には、塔式の洗浄器の上部からEVOHのチップを含む混合液を導入し、下部から酢酸エステルを含む洗浄液を導入して両者を向流接触させて連続的に洗浄する方法が提案されている。この方法は、洗浄効率の点では優れている。しかし、洗浄液として酢酸エステルを使用しているため、安全性およびコストの点で問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、EVOHチップの洗浄工程を改善し、フィルムなどの成形体の外観不良が抑制されたEVOHを効率的かつ安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のEVOHの製造方法は、EVOHのチップを洗浄することにより前記チップから不純物を除去する工程を含むEVOHの製造方法であって、塔型洗浄器の塔上部からメタノールを含有する状態で前記チップを導入し、前記塔型洗浄器の塔下部から水を導入し、前記塔上部の溶液におけるメタノールの濃度を25重量%以上45重量%以下に保って前記チップを前記塔上部から沈降させながら、前記塔上部から前記不純物、メタノールおよび水を導出し、前記塔下部から前記チップを前記塔上部の溶液における濃度よりも低濃度のメタノールを含む水とともに導出することを特徴とする。上記製造方法によれば、EVOHのチップを連続的かつ安全に洗浄できる。
【0007】
上記製造方法では、塔型洗浄器の塔上部からメタノールを含む調整液をさらに導入することとしてもよい。
【0008】
EVOH成形体の外観不良を抑制するために、EVOHのチップから特に除去すべき不純物としては、酢酸ナトリウムが挙げられる。したがって、上記製造方法では、塔下部から導出するチップにおける酢酸ナトリウムの含有量が200ppm(ppmは重量基準;以下同様)以下となるようにEVOHのチップを洗浄することが好ましい。
【0009】
また、塔下部から導出するチップにおけるメタノールの含有量は、10000ppm以下が好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
EVOHチップの洗浄液としては、洗浄能力、安全性、コストなどの観点から水が適している。また、洗浄の効率を考慮すると、塔型洗浄器を用いたチップと洗浄液との向流接触が適している。しかし、洗浄の対象とするEVOHチップは、比重が水より小さいメタノールを大量に含有するので、その比重は、メタノール含有量、含水量および製造条件などにもよるが、概ね、水の比重と同程度か、それよりも小さい値を有する。EVOHが水中を沈降しにくい現象は、従来の洗浄工程において確認されていた。しかも、向流洗浄では、水の上昇流に逆らってチップを沈降させる必要がある。このため、水との向流接触によるEVOHチップの洗浄は、従来、試みられてこなかった。
【0011】
メタノールは、その比重が水の比重よりも小さく、EVOHの製造工程において使用される溶媒でもある。そこで、塔型洗浄器の塔上部の溶液におけるメタノールの濃度を調整しながらこの溶液にEVOHのチップを供給したところ、チップが連続的に沈降することが確認された。こうして、EVOHの水による連続的な洗浄が実現可能であることが見出された。
【0012】
塔上部の溶液におけるメタノール濃度の適切な範囲は、25〜45重量%である。メタノールの濃度が低すぎるとチップが塔上部に滞留することがあり、逆に高すぎると洗浄のために塔を高くする必要が生じ、コスト的に不利になることがある。かかる観点から、洗浄の対象とするチップの状態にもよるが、メタノールのさらに好ましい濃度は27重量%以上であり、より好ましい濃度は40重量%以下である。
【0013】
通常の製造工程を適用して得たEVOHチップには、メタノールが含まれている。この場合、塔上部の溶液のメタノールの少なくとも一部は、EVOHチップ自体から供給される。EVOHチップのメタノール含有量は、製造条件、特にケン化後のペーストの濃縮条件、ペーストを凝固させる浴の温度および液組成などに左右されるが、通常、洗浄の対象とするチップの13〜24重量%程度を占める。このメタノールは、チップから洗い出された後に水とともに塔内を上昇して塔上部の溶液の一部を構成する。一方、EVOHチップは、チップ内のメタノールが水によって置換されながら、塔内を沈降していく。塔内の液組成は、下に行くほどメタノールの濃度が小さく比重が大きくなる。したがって、下に行くほどチップの浮力が大きくなる。一方、沈降中のチップは、下に行くほどメタノールの含有量が少なく含水量が多くなり、比重が大きくなる。したがって、下に行くほどチップの重力も大きくなる。これらは互いに打ち消し合い、その結果、チップは滞留することなく塔下部に到達する。
【0014】
塔上部の溶液におけるメタノール濃度は、塔下部から供給される水の流量を制御することにより調整できる。しかし、水の流量には、EVOHチップを沈降させながらチップを洗浄するための適切な範囲が存在する。このため、水の流量のみによるメタノール濃度の制御には限界が生じる場合がある。また、特に洗浄の初期段階では、メタノールの濃度が安定しない場合もある。このような場合には、洗浄のための水とは別に、塔上部に調整液を導入するとよい。
【0015】
調整液は、メタノールを含んでいれば特に制限されず、メタノールのみを供給してもよいが、メタノールと水の混合液を用いることが好ましい。調整液の流量および成分(比)は、EVOH洗浄を行いながら適宜変更しても構わない。
【0016】
製造条件などにもよるが、洗浄前のEVOHチップには、一般に、5000〜15000ppm程度の酢酸ナトリウムが含まれている。酢酸ナトリウムは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAc)のケン化の副生物であり、フィルムなどへの成形加工時に着色やフィッシュアイを引き起こす。酢酸ナトリウムの濃度は、水との向流接触により、200ppm以下、特に50ppm以下にまで低減することが好ましい。
【0017】
チップに含まれた状態で塔内に供給されたメタノールは、調整液として供給されたメタノールとともに、その大部分を塔型洗浄器の塔上部から導出して回収することができる。しかし、チップとともに塔下部から導出する溶液にも、通常、少量のメタノールが含まれている。このメタノールの濃度は、塔上部の溶液における濃度よりも低く、例えば1重量%以下、好ましくは0.2重量%以下である。このため、塔下部から取り出されたチップにも、微量のメタノールが含まれている。このメタノールは、次の乾燥工程において大気中に放出されるので、経済的および衛生的観点からできる限り少なくする必要がある。チップ中のメタノールの含有量は、10000ppm以下、さらに5000ppm以下、特に2000ppm以下であることが好ましい。
【0018】
なお、塔内の温度に特に制限はないが、チップの洗浄を効果的に行うためには15〜60℃が好適である。また、塔下部から供給する洗浄液である水には、本発明の目的が阻害されない限り、他の少量成分が含まれていても構わない。
【0019】
EVOHチップの連続的洗浄の一形態を、図1を参照してさらに説明する。塔型洗浄器10の塔上部1からは、洗浄の対象とするチップを連続して導入し、必要に応じてメタノール−水混合液を導入する。一方、塔下部3からは水を連続して導入する。EVOHのチップが、水と向流接触しながら塔内を下方へと滞留することなく沈降するに伴い、チップ内の不純物含有量およびメタノール含有量が低下していく。こうして、洗浄されたEVOHチップは、塔底部4から連続的に取り出される。塔上部のメタノールと水との混合溶液におけるメタノール濃度は、上記所定の濃度範囲に調整されている。このメタノール濃度は、塔上部2から塔外へと導出される溶液の濃度を測定して管理すればよい。
【0020】
なお、水は、図1に例示した位置に限らず、EVOHチップの洗浄を連続的に実施できる位置から供給すればよく、2以上の位置から塔内に供給しても構わない。他の供給位置、導出位置についても、図示した位置は例示である。
【0021】
処理の対象とするEVOHチップは、従来から実施されてきた方法に従って製造すればよい。EVOHチップは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAc)をケン化し、凝固浴(水またはメタノール−水混合液)中への押し出しおよび切断を経て、得ることができる。なお、洗浄の対象とするEVOHチップの大きさは、特に制限はないが、見かけ上の体積が10〜100mm3程度が好適である。
【0022】
EVOHにおけるエチレン含有量は、20モル%以上70モル%以下が好ましく、ケン化度は90モル%以上であることが好ましい。エチレン含有量が低すぎるとEVOHの耐水性が低下し、逆に高すぎると酸素遮蔽性などガスバリア性が低下するからである。ケン化が十分に行われない場合にも、ガスバリア性について十分な効果が得られなくなる。これらの観点から、エチレン含有量は25〜60モル%が、ケン化度は95モル%以上、特に99モル%以上がそれぞれさらに好適である。
【0023】
なお、EVOHのメルトインデックス(MI)は、0.1〜200g/10分が好ましい。ここでは、MIとして、190℃、2160g荷重下での測定値を採用する。ただし、融点が190℃付近または190℃を超えるものは、上記荷重下、融点以上の温度における複数の測定値を、絶対温度の逆数を横軸、MIを縦軸(対数目盛)とする片対数グラフとしてプロットし、190℃に外挿した値を用いることとする。
【0024】
洗浄されたEVOHチップは、溶融成形により、フィルム、シート、容器、パイプ、繊維など各種形状へと成形される。溶融成形としては、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形などを適用できる。溶融温度は、150〜270℃が好適である。重合度、エチレン含有量、ケン化度などが相違する2種以上のEVOHをブレンドして溶融成形してもよい。また、予め、EVOHに、可塑剤、安定剤、界面活性剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤を添加しても構わない。
【0025】
EVOHには、EVOH以外の熱可塑性樹脂を配合してもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1ペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレンと炭素数が4以上のα−オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、これらを不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィンなど)、各種ナイロン(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体など)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアセタール、変性ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。
【0026】
また、EVOHと上記に例示したような熱可塑性樹脂とを、例えば共押出しすることにより、積層体として成形してもよい。さらに、EVOHは、紙、プラスチックフィルム、金属箔などの基材フィルムとの積層体としてもよく、共押出コート、溶液コートなどにより、これら基材フィルムの表面にコーティングしても構わない。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、水はすべて純水を使用した。
【0028】
(実施例)
塔径0.85m、段数20段の泡鐘塔の搭上部より、EVAc(エチレン含有量:32モル%)のメタノール溶液(EVAc濃度:35重量%)を1.3t/時、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(水酸化ナトリウム濃度:15重量%)を50kg/時で供給した。また、塔下部から115℃のメタノール蒸気を1.1t/時で塔内へ吹き込み、副生した酢酸メチルをメタノールの一部と共に塔上部から留出させた。このとき、塔内の温度は110〜115℃、圧力は5.5kg/cm2、原料の塔内滞留時間は30分であった。このようにして、塔下部よりケン化度99.5モル%のEVOHのメタノール溶液を得た。
【0029】
この溶液に、さらにメタノールと水との混合蒸気を吹き込み、メタノールと水との混合蒸気を留出させて、EVOHのメタノール−水混合溶媒(メタノール/水=65/35、重量比)の溶液(EVOH濃度:40重量%)を得た。この溶液を、2mm径の孔を有するダイスより5℃のメタノール−水混合溶媒(メタノール/水=10/90、重量比)からなる凝固浴中に吐出してストランド状に凝固させた。得られたストランドをカッターで切断して2.5〜3.5mmの長さのチップ状にした後、遠心脱液して含水チップを得た。このチップの含水量は19重量%、メタノール含有量は19重量%、酢酸ナトリウム含有量は10000ppmであった。
【0030】
塔径0.5m、高さ8mの塔型洗浄器の塔上部より上記チップを、メタノール−水混合溶媒(メタノール/水=30/70、重量比)とともに、150kg/時で導入し、塔下部より30℃の水(洗浄水)を200L/時で導入した。塔上部から洗浄水を溢れさせて導出し、同時に塔底部からチップと少量のメタノールを含む洗浄水を導出しながら連続的にチップの向流洗浄を行った。24時間の連続運転中、チップは滞留・還流することなく、常に塔下部に向かって沈降した。塔中段の内部の温度は30℃であった。
【0031】
塔上部から溢れた洗浄水のメタノール濃度は30重量%であった。また、塔下部から回収されたチップのメタノール含有量は100ppm、酢酸ナトリウムの含有量は30ppmであった。
【0032】
(比較例1)
塔下部から導入する洗浄水の流量を100L/時に変更した点を除いては、上記実施例と同様にしてチップの向流洗浄を行った。24時間の連続運転中、チップは滞留・還流することなく、常に塔下部に向かって沈降した。塔上部から溢れた洗浄水のメタノール濃度は50重量%、塔下部から回収されたチップのメタノール含有量は15000ppm、酢酸ナトリウムの含有量は1000ppmであった。
【0033】
(比較例2)
塔下部から導入する洗浄水の流量を400L/時に変更した点を除いては、上記実施例と同様にしてチップの向流洗浄を行った。連続運転時間が3時間に達したところで、チップが塔上部に滞留したので、運転を打ち切った。塔上部から溢れた洗浄水のメタノール濃度は20重量%、塔下部から回収されたチップのメタノール含有量は100ppm、酢酸ナトリウムの含有量は30ppmであった。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、EVOHチップの洗浄工程を改善することにより、フィルムなどの成形体の外観不良が抑制されたEVOHを効率的かつ安全に製造できる。メタノールが水よりも比重が小さい点を利用してチップの連続洗浄を実現した本発明は、EVOHの製造効率および安全性を大きく向上させるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法を実施するための塔型洗浄器の例を示す図である。
【符号の説明】
1 (チップ、調整液を導入する)塔上部
2 (液を導出する)塔上部
3 (洗浄液として水を導入する)塔下部
4 (チップを導出する)塔底部
10 塔型洗浄器
Claims (5)
- エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物のチップを洗浄することにより前記チップから不純物を除去する工程を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法であって、塔型洗浄器の塔上部からメタノールを含有する状態で前記チップを導入し、前記塔型洗浄器の塔下部から水を導入し、前記塔上部の溶液におけるメタノールの濃度を25重量%以上45重量%以下に保って前記チップを前記塔上部から沈降させながら、前記塔上部から前記不純物、メタノールおよび水を導出し、前記塔下部から前記チップを前記塔上部の溶液における濃度よりも低濃度のメタノールを含む水とともに導出することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
- 塔型洗浄器の塔上部からメタノールを含む調整液をさらに導入する請求項1に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
- 不純物が酢酸ナトリウムを含む請求項1または2に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
- 塔下部から導出するチップにおける酢酸ナトリウムの含有量を200ppm以下とする請求項3に記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
- 塔下部から導出するチップにおけるメタノールの含有量を10000ppm以下とする請求項1〜4のいずれかに記載のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の製造方法。
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