JP3951369B2 - 一方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、一方向性電磁鋼板の製造方法、なかでも磁気特性が良好な汎用の一方向性電磁鋼板を安定して製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一方向性電磁鋼板は、主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、磁束密度及び鉄損値などの磁気特性に優れることが基本的に重要である。そのため、厚さ100 〜300 mmのスラブを高温加熱後に熱間圧延し、次いでこの熱延板を1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶及び純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を行うという複雑な工程を経て製造されている。このような一方向性電磁鋼板の磁気特性を高めるためには、製造工程中、仕上げ焼鈍工程での二次再結晶で、磁化容易軸である〈001〉軸が圧延方向に揃った{110}〈001〉方位(いわゆるゴス方位)の結晶粒を成長させることが重要である。
【0003】
かかる{110}〈001〉方位の結晶粒が集積するような二次再結晶を効果的に促進させるためには、大きく分けて次の3点が重要である。
一つ目は、一次再結晶粒の成長を抑制するインヒビターと呼ばれる分散相を、均一かつ適正なサイズに分散させること、二つ目は、一次再結晶後の結晶粒径分布を適正に制御すること、三つ目は、一次再結晶集合組織の適正制御である。これらの点を目標において、一方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるべく研究開発が進められている。
【0004】
一つ目の、一次再結晶粒の成長を抑制するインヒビターと呼ばれる分散相を、均一かつ適正なサイズに分散させることについて述べると、インヒビターは最終仕上げ焼鈍時に、一次再結晶粒の成長を抑制する作用を有し、これにより、最も粒成長の優位性の高い{110}〈001〉方位の粒だけが、他の方位の粒を蚕食して大きく成長するのである。したがって、インヒビターの抑制力は、{110}〈001〉方位の粒のみが成長でき、他の粒の成長は止められるような強さに制御されねばならない。
【0005】
かかるインヒビターとして代表的なものは、MnS ,MnSe,AlN 及びVNのような硫化物、セレン化合物や窒化物等であり、鋼中への溶解度が極めて小さいものが用いられる。インヒビターとしての作用を発揮させるために、製造工程においては、熱延前のスラブ加熱時にこのインヒビターを一旦、完全に固溶させた後、その後の工程で微細に析出させる方法が採られてきた。このインヒビターを十分に固溶させるためのスラブ加熱温度は1400℃程度であり、普通鋼のスラブ加熱温度に比べて約200 ℃も高い。こうした高温スラブ加熱には以下のような欠点がある。
1) 高温加熱を行うためにエネルギー原単位が高い。
2) 溶融スケールが発生しやすく、またスラブ垂れが生じやすい。
3) スラブ表層の過脱炭が生じる。
4) 2),3)の問題点を解決するために、一方向性電磁鋼専用の誘導加熱炉が考案されたが、エネルギーコスト増大という問題点が残された。
【0006】
上記欠点を克服すべく一方向性電磁鋼の低温スラブ加熱化を図る研究は、これまで多くなされてきた。スラブ加熱温度の低下は、必然的にインヒビター成分の固溶量不足を招くために、インヒビターの抑制力の低下を必然的に引き起こす。そこで、低温スラブ加熱に起因する抑制力の低下を後の工程で補う技術として、途中窒化技術が開発された。この途中窒化技術として例えば、特開昭57−207114号公報では脱炭焼鈍時に窒化する技術が開示され、また、特開昭62−70521号公報では仕上げ焼鈍条件を特定し、仕上げ焼鈍時に途中窒化することで低温スラブ加熱を可能にする技術が開示された。更に、特開昭62−40315号公報ではスラブ加熱時に固溶し得ない量のAlN を含有し、途中窒化によってインヒビターを適正状態に制御する方法が開示された。
しかし、上述のような途中窒化技術のうち、仕上げ焼鈍に入る前に途中窒化を施す方法は新たな設備を要し、コストが増大するという問題点があり、また、仕上げ焼鈍中の窒化は制御が困難であるという問題点が残っている。
【0007】
次に、二つ目の、一次再結晶後の結晶粒径分布を適正に制御することについて述べる。一次再結晶組織の結晶粒径については、二次再結晶の駆動力の制御という観点から研究が進められてきた。例えば、特開平2−182866号公報では、一次再結晶粒の平均直径が15μm 以上で、変動係数 (平均直径で規格化した粒径分布の標準偏差) が0.6 以下の一次再結晶組織を備えていることが重要であることが開示された。また、特開平4−337029号公報では、最終冷間圧延前の焼鈍過程における鋼のN量を検出し、その結果に基づいて15〜25μm の範囲内の一次再結晶粒を得るように一次再結晶焼鈍の設定温度を変更する技術が開示された。更に、特開平6−33141号公報では、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒の平均直径を6〜11μm 、かつ、変動係数を0.5 以下とし、最終仕上げ焼鈍の二次再結晶開始直前までに一次再結晶粒の平均直径を5〜30%大きくする技術が開示された。これらの公報のように、最適な一次再結晶粒径には諸説がある。これは、適切な二次再結晶を生じさせるには、粒成長の駆動力とそれを抑えるインヒビターの抑制力とのバランスを微妙に制御することが肝心であって、鋼板の化学組成、工程条件によってインヒビターの抑制力が変化すると、最適な駆動力すなわち最適な一次再結晶粒径も変化するということである。ただし、変動係数は小さい方が良好であるという点はこれまでの技術の一致した見解である。インヒビターの抑制力と粒成長の駆動力の両方を制御する技術として、特開平4−297524号公報では、一次再結晶粒の平均粒径を18〜35μm とし、熱延後二次再結晶開始までに窒化処理を施す技術が開示されている。
【0008】
次に、三つ目の、一次再結晶集合組織の適正制御について述べる。最終仕上げ焼鈍時に{110}〈001〉方位の粒成長の優位性をより高めるためには、地の方位が{111}〈112〉方位に強く集積していること、その中に二次再結晶の核となる先鋭性の高い{110}〈001〉方位を存在させることが重要であるとされてきた。
こうした考え方は、Σ9対応関係にある粒界は移動し易いとの説に基づくものである。Σ9対応関係とは、厳密には、粒界を挟む両側の粒が〈110〉軸回り38.9度の回転関係にあることをいうが、一般には、回転角が38.9±5.0 度の範囲内はΣ9対応関係とみなせる (Brandon の条件) 。ここに、{110}〈001〉方位と{111}〈112〉方位とは〈110〉軸回り35.3℃の回転関係にあり、Σ9の対応関係とみなせる範囲内にある。したがって、一次再結晶集合組織においては、{111}〈112〉方位に強く集積した地の中に、先鋭性の高い{110}〈001〉方位粒が散在している状態が、{110}〈001〉方位の二次再結晶には有利であると考えられてきた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上をまとめると、従来技術において、{110}〈001〉方位に高度に集積した二次再結晶粒を生じさせるには、
(イ)強いインヒビター抑制力が必要であり、そのためにはスラブ加熱温度を1400℃程度に高くするか、途中窒化が必要である、
(ロ) 一次再結晶組織は、粒径のばらつきの小さい状態、すなわち整粒状態に制御することが必要である、
(ハ)一次再結晶集合組織は、地の方位を{111}〈112〉に強く集積させ、その中に先鋭性の高い{110}〈001〉が散在している状態に制御すべきである、
の3点が重要であると考えられてきた。しかし、前述したように、スラブ加熱温度を高温にすると品質の面で問題を生じる場合があり、コスト面でも不利である。また、途中窒化法もコストや制御性の面で問題を残しており、製品の良好な磁気特性と製造コストの低減とを両立させることは困難であった。そして、従来より望ましいとされてきた一次再結晶組織では、良好な磁気特性とコスト低減との両立問題につき解決を図るものではなかった。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、コスト削減が要求される汎用の一方向性電磁鋼板の製造において、スラブ加熱温度が普通鋼並みに低く、かつ、磁気特性を良好に保った一方向性電磁鋼板の有利な製造方法の開発である。特に、積極的な途中窒化を施さずに、安定した磁気特性の一方向性電磁鋼板を製造することが目的である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
この発明の研究者らは、鋭意研究の末、コスト削減が要求される汎用の一方向性電磁鋼板の製造において、スラブ加熱温度が普通鋼並みに低く、かつ、磁気特性を良好に保った一方向性電磁鋼板を積極的な途中窒化を施さずに製造する方法を新規に見出した。
すなわち、この発明は、C:0.02〜0.07wt%、Si:2.0 〜4.5 wt%、Mn:0.03〜2.5 wt%、Al:0.005 〜0.030 wt%及びN:0.003 〜0.010 wt%を含有するけい素鋼スラブを、加熱後、熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を施した後、一回又は中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、更に、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す一方向性電磁鋼板の製造方法において、
スラブ加熱温度を 1260 ℃以下とした上で、熱延板焼鈍温度を調整すると共に、冷間圧延をタンデム圧延としその圧延温度を調整することにより、脱炭焼鈍後の板の板厚1/5層域における集合組織を、下記の条件を満たす組織にすることを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法である。
記
集合組織の最大ピーク方位が、Bunge のオイラー角表示法で
φ1 =90°、Φ:58 〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°
の範囲内に存在し、かつ、
{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上。
特に発明では、熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、かつ冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上で行うことにより、一層安定して磁気特性の良好な一方向性電磁鋼板の製造が可能である。
なお、オイラー角については、「集合組織」(長嶋晋一編著;昭和59年1月20日,丸善株式会社発行)p.7−9に記載があり、また、Bunge のオイラー角表示法については、同書のp.35−36に記載がある。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に上記発明に至った実験について述べ、併せてこの発明の実施の態様を詳細に説明する。
従来技術では、前述の(イ)のように、インヒビターの抑制力が非常に強い条件下では、一次再結晶組織を整粒化し(前述の(ロ))、一次再結晶集合組織を{111}〈112〉に強く集積させること(前述の(ハ))が有効であるとの報告が多数なされている。しかし、発明者らは、インヒビターが弱い条件下では、(ロ)(ハ)が必ずしも有効ではないのではないかという着想のもとに鋭意研究を重ねた。
【0013】
(実験1)
表1に示すa〜dの成分組成になる220 mm厚の鋼スラブ各10本を1200℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.5 mmの熱延コイルとした。これらのコイルに60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、タンデム圧延機で0.34mmの厚みに冷間圧延した。その後、脱脂処理を行い、湿水素雰囲気中で120 秒間の脱炭焼鈍を施した後、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上げ焼鈍を施した。
【0014】
【表1】
【0015】
かかる製造工程を施す際、熱延焼鈍温度を700 ℃〜1150℃、冷間圧延温度を常温〜350 ℃、脱炭焼鈍温度750 ℃〜900 ℃の範囲で種々に変化させた。脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、組織観察と集合組織の測定とを行った。また、最終仕上げ焼鈍後は未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーテイングを塗布し800 ℃で焼き付けて製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8 を測定した。
【0016】
脱炭焼鈍後の集合組織は、試料の表面から板厚方向に1/5厚だけ化学研磨した位置で、X線極点図により測定した。また、極点図の測定データから3次元集合組織を計算により求めた。集合組織の解析にあたっては、{110}〈001〉方位,{111}〈112〉方位及び{100}〈011〉方位を含むTD方向(板幅方向)回りの回転系列(Bunge 表示のオイラー角でφ1 =90°、φ2 =45°) にまず着目した。着目した理由は、どの試料においても、φ1 =90°、φ2 =45°上に極大値が存在するからである。
【0017】
図1に例として、鋼スラブとしてaを用い、熱延板焼鈍温度が850 ℃、冷間圧延温度が150 ℃、脱炭焼鈍温度が825 ℃の場合の集合組織について、φ1 =90°、φ2 =45°でΦが変化したときのランダム強度比を示した。なおΦ≧0°とΦ≦0°では対称になるので、ここでは0≦Φ≦90°の範囲を図示した。
図1の場合、極大値を与えるΦは60.1°である。この値は{111}〈112〉( Φ=54.7°) よりは5°以上大きく、{110}〈001〉と〈110〉軸回り29.9°の回転関係であることから、{110}〈001〉とΣ9対応関係にある範囲から外れている。しかし、その製品はB8 にして1.88T の比較的良好な磁性を示した。そこで、実験した全ての試料について、脱炭焼鈍後の集合組織のφ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与える|Φ|の値と、製品の磁束密度B8 との関係を調査し、図2に示した。図2から、{110}〈001〉とΣ9対応関係の範囲であるΦ:46.1〜 56.1 °に極大値が存在した場合は全て、製品の磁束密度はB8 にして1.7 T 以下で劣っているという、従来知見から予測される結果とは異なる結果が得られた。また、極大を与える|Φ|の値は大きすぎても製品の磁性不良をもたらす。良好な磁性を得るには、極大を与える|Φ|の値が、58°以上62°以下であることが必要条件であることがわかった。
【0018】
しかし、極大を与える|Φ|の値が、58°以上62°以下であっても、製品の磁束密度が1.8 以下になる場合もある。その原因を解明するために、集合組織解析の2つ目の着目点として、副方位の強度を調査した。
脱炭焼鈍後の集合組織において、二番目に強い強度をもつ方位は、{1241}〈014〉近傍の方位であった。そこで、{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度の関係を調査した。図3には、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与える|Φ|の値が、58°以上62°以下であった試料に関して、{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度B8 の関係を示した。{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上の場合に製品のB8 は1.85T 以上となった。ただし、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が8.6 と極端に高かった試料は、B8 が1.8 T 以下となった。この試料のみ、脱炭焼鈍板における{1241}〈014〉方位は、φ1 =90°、φ2 =45°上での極大方位を超えて、最大のピークになっていた。このことから、製品の磁束密度を向上させるには副方位{1241}〈014〉方位の強度を高めることが大切であるが、最大ピークになるほどに強度が大きくなることは有害であることがわかった。
【0019】
以上の実験結果から、スラブ加熱温度が低く、インヒビターの抑制力が弱い条件下では、最終仕上げ焼鈍時にΣ9対応粒界が移動し易いという現象は確認できなかった。しかも、
・図2でΦ=60°前後で製品の磁性が良好であったこと、
・{1241}〈014〉方位と{110}〈001〉方位との角度差が約30°であり、この方位の適度な増加が製品の磁性向上に有効であること、
から、スラブ加熱温度が低い条件下では、仕上げ焼鈍時の粒成長において、Σ9対応粒界が特に移動しやすいわけではなく、30°前後の角度差をもつ粒界が移動しやすいと考えられる。
【0020】
次に、脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位の強度が二次再結晶に及ぼす影響について考察する。{1241}〈014〉方位も、φ1 =90°、|Φ|=60°、φ2 =45°方位も、{110}〈001〉方位から30°の角度差である。したがって、仕上げ焼鈍時の粒成長において、30°前後の角度差をもつ粒界が移動し易いという点のみからは、脱炭焼鈍板の地がφ1 =90°、|Φ|=60°、φ2 =45°方位であることも、{1241}〈014〉方位であることも{110}〈001〉の成長に関しては同等である。しかし、実験結果からは、φ1 =90°、|Φ|=60°、φ2 =45°方位が強いだけでは良好な二次再結晶は生じず、{1241}〈014〉方位もある程度強くないといけない。この理由を解明すべく、脱炭焼鈍板の断面組織観察を行った。この断面組織観察には、電子線後方散乱図形、以下EBSP(Electron Back Scattering diffraction Patteen) を用いた。EBSPでは、0.1 μm 以下の空間分解能で結晶方位が測定できる。また、一点の測定に1秒程度しか要しない。更に、結晶粒径よりも十分小さいピッチで二次元試料面上を自動測定し、結晶方位が変化するところを粒界とみなし、測定した領域をマッピングすることができる。そしてマッピングした領域について、粒径分布、平均粒径など解析可能である。ここでは、粒径分布を求める目的でEBSPを利用した。
【0021】
図4に脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位のランダム強度比と粒径の変動係数との関係を示す。ここでは、図3同様、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与える|Φ|の値が、58°以上62°以下であった試料について調査した。図4より、{1241}〈014〉方位の増加に伴い、変動係数が大きくなって、非整粒になっていくが、{1241}〈014〉方位が最大ピークになるまで増加すると再び粒径がそろってくることがわかる。そして、製品の磁束密度が高くなるのは変動係数が大きい条件下であるという、従来知見とは異なる結果が得られた。
【0022】
以上から、{1241}〈014〉方位の適度な増加は、粒径を不均一にし、良好な二次再結晶につながることがわかった。脱炭焼鈍板の粒径が不均一であることは、スラブ加熱温度が高い場合や、途中窒化を施す場合、すなわち、インヒビターの抑制力が強い場合には有害であると、これまで報告されてきたが、この発明のように、インヒビター抑制力が弱い場合には、組織の不均一性がインヒビション効果を補う働きをするのではないかと考えられる。
【0023】
以上の実験から、この発明においては、普通鋼並に低いスラブ加熱温度範囲において、熱延板焼鈍温度および冷間圧延温度を調整することにより、脱炭焼鈍後の板の板厚1/5層で測定した集合組織が、下記の条件を満たすように制御することとしたのである。
記
集合組織の最大ピーク方位が、Bunge のオイラー角表示で
φ1 =90°、Φ:58 〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°
の範囲内に存在し、かつ、
{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上。
【0024】
なお、集合組織を板厚1/5層で評価する理由は、最終仕上げ焼鈍時に{110}〈001〉方位の二次再結晶が板厚1/5層付近を起点に発生しやすく、二次再結晶前のこの部分の集合組織が特に重要であるからである。
上記のように、脱炭焼鈍板の集合組織を制御することが必要なのであるが、そのためには、以下に示す条件に従う必要がある。
【0025】
(成分について)
C:0.02wt%以上、0.07wt%以下;
Cは、組織を改善し、二次再結晶を安定化させるために必要な成分で、そのために0.02wt%以上が必要である。しかし、0.07wt%を超えると冷延時の破断が増加すること、また、脱炭焼鈍後の組織が均一になり過ぎて、この発明には適さないことから、0.07wt%以下とする。
【0026】
Si:2.0 wt%以上、4.5 wt%以下;
Siは電気抵抗を増加させ鉄損を低減させるために必須の成分であり、このためには2.0 wt%以上含有させることが必要であるが、4.5 wt%を超えると加工性が劣化し、製造や製品の加工が極めて困難になるので、2.0 wt%以上4.5 wt%以下の範囲とする。
【0027】
Mn:0.03wt%以上、2.5 wt%以下;
MnもSiと同じく電気抵抗を高める成分であり、また製造時の熱間加工性を向上させるので必要な成分である。この目的のためには、0.03wt%以上の含有が必要であるが、2.5 wt%を超えて含有した場合、γ変態を誘起して磁気特性が劣化するので、0.03wt%以上、2.5 wt%以下の範囲とする。
【0028】
Al:0.005 wt%以上、0.030 wt%以下;
Alはインヒビター成分として、0.005 wt%以上、0.030 wt%以下で含有させることが必要である。すなわち、AlはNと結びついてAlN としてインヒビターの役割を果たし、特にAlN をスラブ加熱時に固溶させ、熱延板焼鈍の昇温過程で微細析出させることにより、一次再結晶粒の成長抑制効果が高まる。しかし、Alの含有量が0.005 wt%未満の場合、熱延板焼鈍の昇温過程において析出するAlN の量が不足し、逆に0.030 wt%を超える場合も、1260℃以下でのスラブ加熱の際にAlN の固溶が困難となるために熱延板焼鈍の昇温過程において微細に析出するAlN の量が不足する。したがって、インヒビターとしての効果を有効に発揮させるために、Alの含有量は0.005 wt%以上、0.030 wt%以下とする。
【0029】
N:0.0030wt%以上、0.0100wt%以下;
NはAlN を形成し、Alと共にインヒビターとして機能するので0.0030wt%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.0100wt%を超えて含有すると鋼中でガス化し、フクレなどの欠陥をもたらすので、0.0030wt%以上、0.0100wt%以下の範囲にしなければならない。
【0030】
その他のインヒビター;
Sb, Nb, Sn, Cr, Se, S等を必要に応じて添加し、インヒビターとして機能させることもできる。特にSbもしくはSnは、熱間圧延において微細な析出物を形成し、次工程の熱延板焼鈍の昇温過程におけるAlN の析出核を増加させる作用を有するので有効である。かかる作用を得るためにはこれらの成分を0.001 wt%以上添加することが必要であるが、0.30wt%を超えると製品のベンド特性など機械的特性が劣化するので、その含有量は0.001 wt%以上、0.3 wt%以下とするのが好ましい。
【0031】
(熱間圧延)
以上の成分に調整されたスラブは、通常の方法に従い、スラブ加熱に供された後、熱間圧延により熱間コイルとされる。
スラブ加熱温度は1260℃以下とする。スラブ加熱温度が低いことは、エネルギーコスト低減のために特に好ましいだけでなく、AlN 等のインヒビター成分の析出状態に適度な不均一性を生じさせ、脱炭焼鈍後の粒径分布の不均一性を助長するという点で好ましい。
なお、近年、スラブ加熱を行わず、連続鋳造後、直接熱間圧延を行う方法が開示されているが、この方法は、スラブ加熱温度を低くとれるので、この発明においても好適に実施し得る。
【0032】
(熱延板焼鈍)
熱延板焼鈍は950 ℃以下で行うことが好ましい。熱延板焼鈍の目的は、熱延板の組織を均一化することとインヒビターの微細析出を促すことにあるので、一般には1000℃以上の高温で行われるが、この発明では組織の均一化は必要なく、むしろ有害であるため、極めて低温で行うこととする。もっとも、インヒビターを微細析出させることは必要であるから、熱延板焼鈍を省略したり、800 ℃未満で行うことは好ましくない。
【0033】
(冷間圧延)
冷間圧延はタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行うことが好ましい。タンデム圧延は歪速度が大きく、パス間時間が短いので、かかるタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で温間圧延を施すと、不均一変形が促進される。圧延時の不均一変形は、脱炭焼鈍時の一次再結晶粒の成長の不均一性を助長する。脱炭焼鈍板の粒径の不均一性は{1241}〈014〉方位の適度な増加に対応し、製品の磁気特性向上に結びつくので好ましい。
【0034】
(最終仕上げ焼鈍、コーティング)
冷間圧延後、脱炭焼鈍を常法に従い施した後、焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上げ焼鈍を施す。最終仕上げ焼鈍後は、必要に応じて絶縁コーティングを塗布焼き付け、更に平坦化焼鈍を施し、製品とする。
【0035】
【実施例】
〔実施例1〕
表1に示すe、fの成分組成になる200 mm厚の鋼スラブ各9本を1150℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.4 mmの熱延コイルとした。これらのコイルは、60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、タンデム圧延機で0.34mmの厚みに冷間圧延した。この際、表2に示すように熱延板焼鈍温度を850 ℃、940 ℃、1030℃の3通り、冷間圧延温度を60℃、120 ℃、200 ℃の3通りに変化させた。その後、脱脂処理を行い、830 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施した後、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上げ焼鈍を施した。
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
【0036】
最終仕上げ焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダリシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付け製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8 とW17/50 (磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
表2に、脱炭焼鈍板の集合組織と製品の磁気特性を示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与える|Φ|の値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料は、備考欄に※印を付与した。他の試料はφ1 =90°、φ2 =45°上に最大ピークが存在した。
表2に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行う条件を遵守することが極めて有効であることがわかる。
【0037】
【表2】
【0038】
〔実施例2〕
表1に示すg、hの成分組成になる250 mm厚の鋼スラブ各9本を1220℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.7 mmの熱延コイルとした。これらのコイルは、60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、80℃の温度で1.6 mmの厚みまでの第1回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施し、950 ℃の温度で中間焼鈍を施した後、酸洗し、0.22mmの厚みまでの第2回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施した。この際、表3に示すように熱延板焼鈍温度を800 ℃、900 ℃、1000℃の3通り、2回目の冷間圧延温度を80℃、150 ℃、250 ℃の3通りに変化させた。その後、脱脂処理を行い、850 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施した後、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上げ焼鈍を施した。
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
【0039】
最終仕上げ焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダリシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付けて製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8 とW17/50 (磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
【0040】
表3に、脱炭焼鈍後の集合組織と製品の磁気特性を示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与える|Φ|の値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料は、備考欄に※印を付与した。他の試料はφ1 =90°、φ2 =45°上に最大ピークが存在した。
表3に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−68〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行う条件を遵守することが極めて有効であることがわかる。
【0041】
【表3】
【0042】
【発明の効果】
この発明により、磁気特性を良好に保った汎用一方向性電磁鋼板を安定して製造することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱炭焼鈍版の集合組織のφ1 =90°、φ2 =45°断面においてΦが変化したときのランダム強度比を示す図である。
【図2】φ1 =90°、φ2 =45°断面上で極大を与える|Φ|の値と、製品の磁束密度B8 との関係を示す図である。
【図3】{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度B8 の関係を示す図である。
【図4】脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位のランダム強度比と粒径の変動係数との関係を示す図である。
Claims (2)
- C:0.02〜0.07wt%、Si:2.0 〜4.5 wt%、Mn:0.03〜2.5 wt%、Al:0.005 〜0.030 wt%及びN:0.003 〜0.010 wt%を含有するけい素鋼スラブを、加熱後、熱間圧延し、次いで熱延板焼鈍を施した後、一回又は中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、更に、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す一方向性電磁鋼板の製造方法において、
スラブ加熱温度を 1260 ℃以下とした上で、熱延板焼鈍温度を調整すると共に、冷間圧延をタンデム圧延としその圧延温度を調整することにより、脱炭焼鈍後の板の板厚1/5層域における集合組織を、下記の条件を満たす組織にすることを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
記
集合組織の最大ピーク方位が、Bunge のオイラー角表示法で
φ1 =90°、Φ:58 〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°
の範囲内に存在し、かつ、
{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上。 - 熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
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