JP3951402B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、方向性電磁鋼板の製造方法、なかでも、磁気特性を良好に保った汎用の方向性けい素鋼板を安定して製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板は、主として変圧器その他の電気機器の鉄心材料として使用され、磁束密度及び鉄損値等の磁気特性に優れることが基本的に重要である。そのため、厚さ100 〜300 mmのスラブを高温加熱後に熱間圧延し、次いでこの熱延板を1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶及び純化を目的として最終仕上げ焼鈍を行うという複雑な工程を経て製造されている。このような方向性けい素鋼板の磁気特性を高めるためには、仕上げ焼鈍工程での二次再結晶で、磁化容易軸である〈001〉軸が圧延方向に揃った{110}〈001〉方位(いわゆるゴス方位)の結晶粒を成長させることが重要である。
【0003】
かかる{110}〈001〉方位に結晶粒が高度に集積するような二次再結晶を効果的に促進させるためには、大きく分けて次の3点が重要である。
一つ目は、一次再結晶粒の成長を抑制するインヒビターと呼ばれる分散相を、均一かつ適正なサイズに分散させることである。インヒビターは最終仕上げ焼鈍時に、一次再結晶粒の成長を抑制する作用を有し、これにより、最も粒成長の優位性の高い{110}〈001〉方位の粒のみが成長でき、他の方位の粒を蚕食して大きく成長するのである。したがって、インヒビターの抑制力は、{110}〈001〉方位の粒のみが成長でき、他の粒の成長は止められるような強さに制御されねばならない。
【0004】
かかるインヒビターとして代表的なものは、MnS 、MnSe、AlN 及びVNのような硫化物、セレン化合物や窒化物等で、鋼中への溶解度が極めて小さいものが用いられる。インヒビターとしての作用を発揮させるために、製造工程においては、熱延前のスラブ加熱時にこのインヒビターを一旦、完全に固溶させた後、その後の工程で微細に析出させる方法が採られてきた。このインヒビターを十分に固溶させるためのスラブ加熱温度は1400℃程度であり、普通鋼のスラブ加熱温度に比べて約200 ℃も高い。こうした高温スラブ加熱には以下のような欠点がある。
1) 高温加熱を行うためにエネルギー原単位が高い。
2) 溶融スケールが発生し易く、また、スラブ垂れが生じ易い。
3) スラブ表層の過脱炭が生じる。
4) 2)、3)の問題点を解決するために、方向性けい素鋼専用の誘導加熱炉が考案されたが、エネルギーコスト増大という問題点が残された。
【0005】
上記欠点を克服すべく方向性けい素鋼の低温スラブ加熱化を図る研究は、これまで多くなされてきた。スラブ加熱温度の低下は必然的にインヒビター成分の固溶量不足を招くために、インヒビターの抑制力の低下を必然的に引き起こす。そこで、低温スラブ加熱に起因する抑制力の低下を後の工程で補う技術として、途中窒化技術が開発された。この途中窒化技術として例えば、特開昭57−207114号公報では、脱炭焼鈍時に窒化する技術が開示され、また、特開昭62−70521号公報では、仕上げ焼鈍条件を特定し、仕上げ焼鈍時に途中窒化することで低温スラブ加熱を可能にする技術が開示されている。更に、特開昭62−40315号公報では、Al、Nがスラブ加熱時に固溶していなくても、後工程の途中窒化によってインヒビターを適正状態に制御することのできる方法が開示された。
しかし、仕上げ焼鈍に入る前に途中窒化を施す方法は、新たな設備を要し、コストが増大するという問題点があり、また、仕上げ焼鈍中の窒化は制御が困難であるという問題点が残っている。
【0006】
二つ目は、一次再結晶後の結晶粒径分布を適正に制御することである。一次再結晶組織の結晶粒径については、二次再結晶の駆動力の制御という観点から研究が進められてきた。例えば、特開平2−182866号公報では、一次再結晶粒の平均直径が15μm 以上で、かつ、変動係数(平均直径で規格化した粒径分布の標準偏差)が0.6 以下の一次再結晶組織をそなえていることが重要であることが開示された。特開平4−337029号公報では、最終冷間圧延前の焼鈍過程における鋼のN量を検出し、その結果に基づいて15〜25μm の範囲内の一次再結晶粒を得るように一次再結晶焼鈍の設定温度を変更する技術が開示された。更に、特開平6−33141号公報では、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒の平均直径を6〜11μm 、かつ、変動係数が0.5 以下とし、最終仕上げ焼鈍の二次再結晶開始直前までに一次再結晶粒の平均直径を5〜30%大きくする技術が開示された。これらの公報のように、最適な一次再結晶粒径には諸説がある。これは、二次再結晶を生じさせるには、粒成長の駆動力とそれを抑えるインヒビターの抑制力とのバランスを微妙に制御することが肝心であって、鋼板の化学組成、工程条件によってインヒビターの抑制力が変化すると、最適な駆動力すなわち最適な一次再結晶粒径も変化するということである。但し、変動係数は小さい方が良好であるという点はこれまでの技術の一致した見解である。インヒビターの抑制力と粒成長の駆動力の両方を制御する技術としては、特開平4−297524号公報で、一次再結晶粒の平均粒径を18〜35μm とし、熱延後、二次再結晶開始までに窒化処理を施す技術が開示されている。
【0007】
三つ目は、一次再結晶集合組織の適正制御である。最終仕上げ焼鈍時に{110}〈001〉方位の粒成長の優位性をより高めるためには、地の方位が{111}〈112〉方位に強く集積していること、その中に二次再結晶の核となる先鋭性の高い{110}〈001〉方位を存在させることが重要であるとされてきた。
こうした考え方は、Σ9対応関係にある粒界は移動し易いとの説に基づくものである。Σ9対応関係とは、厳密には、粒界を挟む両側の粒が〈110〉軸周り38.9度の回転関係にあることをいうが、一般には、回転角が38.9±5.0 度の範囲内はΣ9関係と見なせる(Brandon の条件)。ここに、{110}〈001〉方位と{111}〈112〉方位とは〈110〉軸回り35.3℃の回転関係にあり、Σ9の対応関係とみなせる範囲内にある。したがって、一次再結晶集合組織においては、{111}〈112〉に強く集積した地の中に、先鋭性の高い{110}〈001〉が散在している状態が、{110}〈001〉方位の二次再結晶には有利であると考えられてきた。
【0008】
以上まとめると、{110}〈001〉方位に集積した二次再結晶を生じさせるには、
(イ)強いインヒビター抑制力が必要であり、そのためにはスラブ加熱温度を1400℃程度に高くするか、途中窒化が必要である、
(ロ)一次再結晶組織は、粒径のばらつきの小さい状態、すなわち、整粒状態に制御することか必要である、
(ハ)一次再結晶集合組織は、地の方位を{111}〈112〉に強く集積させ、その中に先鋭性の高い{110}〈001〉が散在している状態に制御すべきである、
の3点が重要であると考えられてきた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述したように、スラブ加熱温度を高温にすると品質の面で問題を生じる場合があり、コスト面でも不利である。また、途中窒化法もコストや制御性の面で問題を残しており、製品の良好な磁気特性と製造コストの低減とを両立させることは困難であった。そして、従来より望ましいとされてきた一次再結晶組織では、良好な磁気特性とコスト低減との両立問題につき解決を図るものではなかった。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、コスト削減が要求される汎用の方向性けい素鋼板の製造において、スラブ加熱温度が普通鋼なみに低く、かつ、コイル全長で磁気特性を良好に保った方向性けい素鋼板の有利な製造方法の開発である。特に、積極的な途中窒化を施さずに、安定した磁気特性の方向性けい素鋼板を製造することが目的である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、鋭意研究の末、コスト削減が要求される汎用の方向性けい素鋼板の製造において、スラブ加熱温度が普通鋼並みに低く、かつ、磁気特性を良好に保った方向性けい素鋼板を積極的な途中窒化を施さずに製造する方法を新規に見いだした。
【0012】
上記の知見に立脚するこの発明は、C:0.02〜0.06wt%、Si:2.0 〜4.5 wt%、Mn:0.03〜2.5wt%、Al:0.005 〜0.030 wt%及びN:0.003 〜0.010wt %を含有するけい素鋼スラブを加熱後、粗圧延と仕上げ圧延とからなる熱間圧延を行い、次いで熱延板焼鈍を施した後、一回又は中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、更に、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、スラブ加熱温度を 1260 ℃以下とした上で、前記熱間圧延を、仕上げ圧延開始温度のコイル全長での変動が 100 ℃以内になるように制御して行い、かつ、熱延板焼鈍温度を調整するとともに、冷間圧延をタンデム圧延としその圧延温度を調整することにより、脱炭焼鈍後の板の板厚1/5 層域における集合組織を、下記の条件を満たす組織にすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
記
集合組織の最大ピーク方位が、Bunge のオイラー角表示で
φ1 =90°±7.5 °、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°±7.5 °
の範囲に存在し、かつ、{1241}〈014〉のランダム強度比が3.0 以上。
この発明においては、
・熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行うこと、
・脱炭焼鈍の焼鈍過程の600 〜750 ℃の昇温速度を20℃/s以下とすること、
の一方又は双方を行うことが、より好ましい。
【0013】
この発明において、ランダム強度比とは、特定方位の存在比率を表すものであり、(測定部位において特定方位を有する部分の存在比率)÷(配向性が全くない仮想的な場合に、その方位を有する部分の存在比率)と定義する。なお、結晶方位は、X線の回折強度等により測定する。
【0014】
なお、オイラー角については、「集合組織」(長嶋晋一編著;昭和59年1月20日,丸善株式会社発行)p.7−9に記載があり、また、Bunge のオイラー角表示法については、同書のp.35−36に記載がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、上記発明に至った実験について述べ、併せてこの発明の実施の態様を詳細に説明する。
従来の技術では、前述の(イ)のように、インヒビターの抑制力が非常に強い条件下では、一次再結晶組織を整粒化し(前述の(ロ))、一次再結晶集合組織を{111}〈112〉に強く集積させること(前述の(ハ))が有効であるとの報告が多数なされている。しかし、発明者らは、インヒビターが弱い条件下では、(ロ)(ハ)が必ずしも有効ではないのではないかという着想の元に鋭意研究を重ねた。
【0016】
(実験1)
表1に示すa〜dの成分組成の200 mm厚のスラブ各10本を、1200℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.5 mmの熱延コイルとした。これらのコイルに60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、タンデム圧延機で0.34mmの厚みに冷間圧延した。その後、脱脂処理を行い、120 秒間の脱炭焼鈍を施した後、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した。
これらの工程の際、熱延板焼鈍温度を700 〜1150℃、冷間圧延温度を常温〜350 ℃、脱炭焼鈍温度を750 〜950 ℃の範囲で変化させた。脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、組織観察と集合組織の測定とを行った。
【0017】
【表1】
【0018】
また、最終仕上焼鈍後は、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付け製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8を測定した。
【0019】
脱炭焼鈍後の集合組織は、試料の表面から板厚方向に1/5 厚だけ化学研磨した位置で、X線極点図により測定した。また、極点図の測定データから3次元集合組織を計算により求めた。集合組織の解析にあたっては、{110}〈001〉方位、{111}〈112〉方位及び{100}〈011〉方位を含むTD回りの回転系列(Bunge 表示のオイラー角でφ1 =90°、φ2 =45°)にまず着目した。着目した理由は、どの試料においても、ほぼ、φ1 =90°、φ2 =45°上に極大値が存在するからである。厳密には、多少のずれを伴うこともあるが、対称性を考慮すると本質的なずれではないと考えられるので、以後の議論は、φ1 =90°、φ2 =45°上に着目して進めることにする。
【0020】
なお、観察、測定用の試料は、いずれも熱延コイルの長手方向中央付近に対応する位置(以下、「Y部」という。)から採取した。熱延コイルの先端部(以下、「X部」という。)、尾端部(以下、「Z部」という。)については後で述べる。
【0021】
図1に例として、鋼スラブとしてaを用い、熱延板焼鈍温度が850 ℃、冷間圧延温度が150 ℃、脱炭焼鈍温度が825 ℃の場合の集合組織について、φ1 =90°、φ2 =45でΦが変化したときのランダム強度比を示した。なお、Φ≧0°とΦ<0°とでは対称になるので、ここでは0°≦Φ≦90°の範囲で図示した。
図1の場合、極大値を与えるΦは60.1°である。この値は{111}〈112〉(Φ=54.7°)よりは5°以上大きく、{110}〈001〉と〈110〉軸回り29.9°の回転関係であることから、{110}〈001〉とΣ9の範囲にはない。しかし、その製品はB8にして1.88T の比較的良好な磁気特性を示した。そこで、実験した全ての試料について、脱炭焼鈍後の集合組織のφ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与えるΦの値と、製品の磁束密度B8との関係を調査し、図2に示した。図2から、{110}〈001〉とΣ9の範囲であるΦ:46.1〜56.1°に極大値が存在した場合は全て、製品の磁束密度はB8にして1.7 T 以下であるという、従来知見からの予想とは異なる結果が得られた。また、極大を与えるΦの値は大き過ぎても製品の磁気特性の不良をもたらす。良好な磁気特性を得るには、極大を与えるΦの値が58°以上62°以下であることが必要条件であることが分かった。
【0022】
しかし、極大を与えるΦの値が、58°以上62°以下であっても、製品の磁束密度が1.8 以下になる場合もある。その原因を解明するために、集合組織の二つ目の着目点として、副方位の強度を調査した。
脱炭焼鈍後の集合組織において、二番目に強い強度を持つ方位は、{1241}〈014〉近傍の方位であった。そこで、{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度との関係を調査した。図3には、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与えるΦの値が58°以上62°以下であった試料に関して{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度B8の関係を示した。{1241}〈014〉のランダム強度比が3.0 以上の場合に製品のB8は1.85T 以上となった。ただし、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が8.6 と極端に高かった試料は、B8が1.8 T 以下となった。この試料のみ、脱炭焼鈍板における{1241}〈014〉方位は、φ1 =90°、φ2 =45°上での極大方位を超えて、最大のピークになっていた。このことから、製品の磁束密度を向上させるには、副方位{1241}〈014〉の強度を高めることが大切であるが、最大ピークになるほど大きくなることは有害であることが分かった。
【0023】
以上の実験結果から、スラブ加熱温度が低く、インヒビターの抑制力が弱い条件下では、最終仕上焼鈍時にΣ9対応粒界が移動しやすいという現象は確認できなかった。
しかも、
・図2でΦ=60°前後で製品の磁気特性が良好であったこと、
・{1241}〈014〉方位と{110}〈001〉方位との角度差が約30°であり、この方位の適度な増加が製品の磁気特性向上に有効であること、
から、スラブ加熱温度が低い条件下では、仕上圧延時の粒成長において、Σ9対応粒界が特に移動し易いわけではなく、30°前後の角度差をもつ粒界が移動し易いと考えられる。
【0024】
次に、脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位の強度が二次再結晶に及ぼす影響について考察する。{1241}〈014〉方位も、φ1 =90°、Φ=60°、φ2 =45°方位も、{110}〈001〉方位から30°の角度差である。したがって、仕上焼鈍時の粒成長において、30°前後の角度差を持つ粒界が移動しやすいという点のみからは、脱炭焼鈍板の地がφ1 =90°、Φ=60°、φ2 =45°方位であることも、{1241}〈014〉方位であることも{110}〈001〉の成長に関しては同等である。しかし、実験結果からは、φ1 =90°、Φ=60°、φ2 =45°方位が強いだけでは良好な二次再結晶は生じず、{1241}〈014〉方位もある程度強くないといけない。この理由を解明すべく、脱炭焼鈍板の断面組織観察を行った。断面組織観察には、電子線後方散乱図形、以下、EBSP(Electron Back Scattering diffraction Pattern)を用いた。
EBSPでは、0.1 μm 以下の空間分解能で結晶方位が測定できる。また、一点の測定に1秒程度しか要しない。更に、結晶粒径よりも十分小さいピッチで二次元試料面上を自動測定し、結晶方位が変化するところを粒界とみなし、測定した領域をマッピングすることができる。そして、マッピングした領域について、粒径分布、平均粒径など解析可能である。ここでは、粒径分布を求める目的でEBSPを利用した。
【0025】
図4に脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位のランダム強度比と粒径の変動係数との関係を示す。ここでは、図3同様、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与えるΦの値が58°以上62°以下であった試料について調査した。図4により、{1241}〈014〉方位の増加に伴い、変動係数が大きくなって、非整粒になっていくが、{1241}〈014〉方位が最大ピークになるまで増加すると再び粒径がそろってくることが分かる。そして、製品の磁束密度が高くなるのは、変動係数が大きい条件下であるという、従来知見とは異なる結果が得られた。
【0026】
以上から、{1241}〈014〉方位の適度な増加は、粒径を不均一にし、良好な二次再結晶につながることが分かった。なお、脱炭焼鈍板で粒径が不均一な試料について、各結晶粒の方位をEBSPで測定すると、粗大な粒は{1241}〈014〉近傍方位であった。つまり、{1241}〈014〉方位の粒は他の方位の粒に比べて粒成長し易いと考えられる。
【0027】
脱炭焼鈍板の粒径が不均一であることは、スラブ加熱温度が高い場合や、途中窒化を施す場合、すなわち、インヒビターの抑制力が強い場合には有害であると報告されてきたが、この発明のように、インヒビター抑制力が弱い場合には、組織の不均一性がインヒビション効果を補う働きをするのではないかと考えられる。
【0028】
以上の実験から、この発明においては、
脱炭焼鈍後の板の板厚1/5 層で測定した集合組織が、下記の条件を満たすように制御することとするのである。
集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示で
φ1 =90°±7.5 °、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°±7.5 °
の範囲内に存在し、かつ、
{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上。
なお、集合組織を板厚1/5 層で評価する理由は、最終仕上焼鈍時に、{110}〈001〉方位の二次再結晶が板厚1/5 層付近を起点に発生し易く、二次再結晶前のこの部分の集合組織が特に重要だからである
【0029】
ここまでは、熱延コイルの長手方向中央付近(Y部)に相当する部分についての結果である。実際の製造においては、コイルの全長にわたって良好な特性が得られなければいけない。そこで、実験1、すなわちY部において良好な特性(B8≧1.85T )が得られた試料について、X部(熱延コイルの先端部)及びZ部(尾端部)についても製品の磁束密度B8を測定したところ、いくつかの試料においてはX部又はZ部でB8の劣化が生じていた。
【0030】
そこで、コイル端部での磁気特性不良の要因を調査したところ、仕上圧延開始温度(ST)がコイル全長にかけて大きく変化する場合に、コイル端部での磁気特性不良が生じることが判明した。図5には、横軸にX部の仕上圧延開始温度STとZ部の仕上圧延開始温度STの差を、縦軸にX部、Y部、Z部の磁束密度B8をそれぞれ示し、圧延開始温度の差が磁束密度に及ぼす影響を調べてみた。同図から、STの絶対値によらず、STのコイル全長にわたっての変動を100 ℃以内に制御することにより、コイル全長で良好な特性が得られることが分かった。
【0031】
このことから、圧延開始温度のコイル全長にわたっての変動を100 ℃以内に制御することにより、コイル全長で良好な特性が得られる理由を更に究明すべく、X部で磁気特性の不良が生じた試料について、脱炭焼鈍板の板厚1/5 層の集合組織を測定したところ、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 未満であった。一方、Z部で磁気特性不良が生じた試料について、脱炭焼鈍板の板厚1/5 層の集合組織を測定したところ、{1241}〈014〉方位が非常に多く、最大ピークとなっていた。
【0032】
一般に、圧延開始温度STは熱延コイルの先端で高く、尾端に向かうにつれて低温になる。そして、圧延開始温度STが低下すると、熱延途中でのAlN の析出が多くなる。ここにおいて、良好な磁気特性を得べくインヒビター強度を適正に制御するには、熱延板でのAlN の析出状況に応じて熱延板焼鈍温度を変化させなければならないところ、コイルの先端から尾端まで常法に従い一定温度で熱延板焼鈍を施すと、X部(コイル先端部)ではインヒビターの抑制力が比較的強く、{1241}〈014〉方位粒の脱炭焼鈍時の成長が抑えられるために均一な組織となり、また、Z部(コイル尾端部)ではインヒビターの抑制力が比較的弱いために{1241}〈014〉方位が試料全体を覆うほどまで成長して均一な組織となって、この発明の方法によれば、どちらも磁気特性の不良になりやすい。しかし、圧延開始温度STのコイル全長にわたっての変動が100 ℃以内であれば、次工程の熱延板焼鈍でコイル全長にわたるインヒビター強度を適切な状態に制御可能となり、コイル端部での磁気特性の劣化が解消されて、全長にわたって良好な製品が得られことがわかった。
【0033】
さらに、発明者らは、コイル全長で安定して良好な特性を得るための方法について検討し、脱炭焼鈍時の昇温速度を制御することが有効であることを見出した。実験2にその検討結果を示す。
【0034】
実験2
表1のaの成分組成の220 mm厚のスラブ3本を1200℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.5 mmの熱延コイルとした。その際、仕上圧延開始温度(ST)は、X部で1045℃、Z部で950 ℃(その差95℃)に統一した。これらのコイルに925 ℃で30秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、タンデム圧延機で200 ℃の温度で0.34mmの厚みに冷間圧延した。その後、脱脂処理を行い、850 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施した。
その際、脱炭焼鈍の昇温条件は、以下の3通りに変化させた。
(1) 600 ℃〜750 ℃を平均12℃/secで昇温、
(2) 600 ℃〜750 ℃を平均20℃/secで昇温、
(3) 600 ℃〜750 ℃を平均28℃/secで昇温、
【0035】
冷間圧延後及び脱炭焼鈍後に、各コイルのX部、Z部から試料を採取した。
図6に、脱炭焼鈍板の板厚1/5 層での{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示す。なお、集合組織の測定方法は実験1と同様である。図6から、昇温速度が速いほど、X部の{1241}〈014〉方位は少なく、Z部の{1241}〈014〉方位は多くなり、コイル長手方向での強度の差が大きくなることが分かる。
【0036】
脱炭焼鈍板の集合組織が、昇温速度によって図6のように変化した理由を考察するため、採取した冷延板(X部、Z部)に、実験室で脱炭焼鈍を施した。昇温速度は上述の(1) と(3) の2条件とし、850 ℃で120 秒間均熱後の試料と、850 ℃到達後、即時に炉から引き出した試料とについて、断面組織観察を行った。図7に、各試料の結晶粒の平均粒径を示す。昇温速度が28℃/sの場合は850 ℃到達時点での粒径はX,Zでほとんど差はないが、120 秒均熱後には、インヒビターの抑制力の弱いZ部で粒成長が顕著に起こっている。一方、昇温速度が12℃/sの場合は、850 ℃到達時点で、既に長手方向に粒成長の差が生じており、インヒビターの抑制力の弱いZ部の方が、X部よりも粒径が大きい。しかし、120 秒均熱後に再び粒径を比較すると、長手方向の差が縮小する。これは、850 ℃到達段階で、粒径が大きいほうが、均熱途中の粒成長の駆動力が低下するためと考えられる。
【0037】
図6と図7から、脱炭焼鈍の昇温速度を遅くすることにより、コイル全長にわたって、粒成長を同程度に制御することが可能であり、その結果、より確実に、コイル全長での{1241}〈014〉方位の強度をこの発明の適正範囲に制御できることが明らかとなった。
【0038】
上記のように、脱炭焼鈍板の集合組織を制御することが必要なのであるが、そのためには、以下に示す条件に従う必要がある。
(成分について)
C:0.02wt%以上、0.06wt%以下
Cは、組織を改善し、二次再結晶を安定化させるために必要な成分で、そのためには、0.02wt%以上が必要である。しかし、0.06wt%を超えると冷延時の破断が増加すること、また、脱炭焼鈍後の組織が均一になり過ぎて、この発明には適さないことから、0.06wt%以下とする。
Si:2.0 wt%以上、4.5 wt%以下
Siは、電気抵抗を増加させ鉄損を低減するために必須の成分であり、このためには2.0 wt%以上含有させることが必要であるが、4.5 wt%を超えると加工性が劣化し、製造や製品の加工が極めて困難になるので、2.0 wt%以上4.5 wt%以下の範囲とする。
Mn:0.03wt%以上、2.5 wt%以下
MnもSiと同様に電気抵抗を高める成分であり、また、製造時の熱間加工性を向上させるので必要な成分である。この目的のためには、0.03wt%以上の含有が必要であるが、2.5 wt%を超えて含有した場合、γ変態を誘起して磁気特性が劣化するので、0.03wt%以上、2.5 wt%以下の範囲とする。
【0039】
Al:0.005 wt%以上、0.030 wt%以下
Alは、インヒビター成分として、0.005 wt%以上、0.030 wt%以下を含有させることが必要である。AlはNと結びついてAlN としてインビビターの役割を果たし、特にAlN をスラブ加熱時に固溶させ、熱延板焼鈍の昇温過程で微細析出させることにより、一次再結晶粒の成長抑制効果が高まる。しかし、Alの含有量が0.005 wt%未満の場合、熱延板焼鈍の昇温過程において析出するAlN の量が不足し、逆に0.030 wt%を超える場合も、1260℃以下でのスラブ加熱の際にAlN の固溶が困難となるために熱延板焼鈍の昇温過程において微細に析出するAlN の量が不足する。したがって、インヒビターとしての効果を有効に発揮させるために、Alの含有量は0.005 wt%以上、0.030 wt%以下とする。
N:0.0030wt%以上、0.0100以下
NはAlN を形成し、インヒビターとして機能するので、0.0030wt%以上含有させることが必要である。しかしながら、0.0100wt%を超えて含有すると鋼中でガス化し、膨れ等の欠陥をもたらすので、0.0030wt%以上、0.0100wt%以下の範囲にしなければならない。
【0040】
その他のインヒビター成分
Sb、Nb、Sn、Cr、Se、S等を必要に応じて添加し、インヒビターとして機能させることもできる。特に、SbもしくはSnは、熱間圧延において微細な析出物を形成し、次工程の熱延板焼鈍の昇温過程におけるAlN の析出核を増加させる作用を有するので有効である。かかる作用を得るためには、これらの成分を0.001 wt%以上添加することが必要であるが、0.30wt%を超えると製品のベンド特性等、機械的特性が劣化するので、その含有量は0.001 wt%以上、0.30wt%以下とするのが好ましい。
【0041】
(熱間圧延)
以上の成分に調整されたスラブは、通常の方法に従い、スラブ加熱に供されたのち、熱間圧延により熱延コイルとされる。
スラブ加熱温度は、1260℃以下とする。スラブ加熱温度が低いことは、エネルギーコスト低減のために好ましいだけでなく、AlN 等のインビビター成分の析出状態に適度な不均一性を生じさせ、脱炭焼鈍後の粒径分布の不均一性を助長するという点で好ましい。
なお、近年、スラブ加熱を行わず、連続鋳造後、直接熱間圧延を行う方法が開示されているが、この方法は、スラブ加熱温度を低くとれるので、この発明においても好適に実施し得る。
また、コイル全長で良好な磁気特性を得るために、熱間圧延の仕上圧延開始温度の変動は、コイル全長で100 ℃以内に制御されなければならない。
【0042】
(熱延板焼鈍)
熱延板焼鈍は、950 ℃以下で行うことが好ましい。熱延板焼鈍の目的は、熱延板の組織を均一化することと、インヒビターの微細析出を促すことにあるので、一般には1000℃以上の高温で行われるが、この発明では組織の均一化は必要なく、むしろ有害であるため、極めて低温で行うこととする。しかし、インヒビターを微細析出させることは必要不可欠であるので、熱延板焼鈍を省略したり、800 ℃未満で行うことは好ましくない。
【0043】
(冷間圧延)
冷間圧延はタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行うことが好ましい。タンデム圧延機は歪速度が大きく、パス間時間が短いので、かかるタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で温間圧延を施すと、不均一変形が促進される。圧延時の不均一変形は、脱炭焼鈍時の一次再結晶粒の成長の不均一性を助長する。脱炭焼鈍板の粒径の不均一性は、{1241}〈014〉方位の適度な増加に対応し、製品の磁気特性向上に結びつくので、好ましい。
【0044】
(脱炭焼鈍、最終仕上焼鈍、コーティング)
冷間圧延後、脱炭焼鈍を常法に従い施したのち、焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上焼鈍を施す。
脱退焼鈍の昇温過程においては、コイル全長で良好な磁気特性を得るために、600 ℃〜750 ℃の昇温速度を20℃/s以下とすることが好ましい。
最終仕上焼鈍後は、必要に応じて絶縁コーティングを塗布焼き付け、更に平坦化焼鈍を施し、製品とする。
【0045】
【実施例】
(実施例1)
表1に示すe、fの成分組成の200 mm厚のスラブ各9本を、1150℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.4 mmの熱延コイルとした。仕上圧延開始温度は、X部で990 ℃、Z部で925 ℃に制御した。これらのコイルは、60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、タンデム圧延機で0.34mmの厚みに冷間圧延した。この際、熱延板焼鈍温度を850 ℃、940 ℃及び1030℃の3通り、冷間圧延温度を60℃、120 ℃及び200 ℃の3通りに変化させた。その後、脱脂処理を行い、830 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施したのち、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した。なお、脱炭焼鈍の昇温過程の600 〜750 ℃の昇温速度は16℃/sに制御した。
【0046】
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5 層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付けて製品とした。
各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8とW17/50(磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
【0047】
表2,表3に、脱炭焼鈍板の集合組織と製品の磁気特性とを示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与えるΦの値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料は、備考欄に※印を付与した。また、集合組織と磁気測定は、コイル長手方向の先端部(X部)、中央付近(Y部)、及び尾端部(Z部)のそれぞれより試料を採取して行った。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表2、表3に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱延板焼鈍温度を950 ℃以下とし、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上で行うことが極めて有効であることがわかる。
【0051】
(実施例2)
表1に示すeの成分組成の200 mm厚のスラブ6本を1150℃の温度に加熱後、以下の3条件で2本ずつ熱間圧延して2.4 mmの熱延コイルとした。
(A) X部の仕上圧延開始温度980 ℃、Z部の仕上圧延開始温度930 ℃、
(B) X部の仕上圧延開始温度995 ℃、Z部の仕上圧延開始温度905 ℃、
(C) X部の仕上圧延開始温度1015℃、Z部の仕上圧延開始温度880 ℃、
これらのコイルに、850 ℃で60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗したのち、タンデム圧延機で0.34mmの厚みに冷間圧延した。その後、脱脂処理を行い、830 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施したのち、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した。脱炭焼鈍の昇温条件は、以下の2通りに変化させた。
(イ)600 〜750 ℃の昇温速度が10℃/s、
(ロ)600 〜750 ℃の昇温速度が26℃/s、
【0052】
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5 層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付け製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8とW17/50(磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
表4に、脱炭焼鈍板の集合組織と製品の磁気特性とを示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°で極大を与えるΦの値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料については、表中に※を付与した。また、集合組織と磁気測定は、熱延コイル長手方向のX部、Y部、Z部それぞれに対応する位置より試料を採取して行った。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、コイル全長にわたって、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱間圧延の仕上圧延開始温度のコイル全長での変動を100 ℃以内に制御し、脱炭焼鈍の昇温過程の600 ℃〜750 ℃の昇温速度を20℃/s以下とすることが極めて有効であることがわかる。
【0055】
(実施例3)
表1に示すg、hの成分組成の250 mm厚のスラブ各9本を、1220℃の温度に加熱後、熱間圧延して2.7 mmの熱延コイルとした。仕上圧延開始温度は、X部で1020℃、Z部で940 ℃に制御した。これらのコイルに、60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗した後、80℃の温度で1.6 mmの厚みまで第1回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施し、950 ℃の温度で中間焼鈍を施したのち、酸洗し、0.22mmの厚みまでの第2回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施した。この際、熱延板焼鈍温度を800 ℃、900 ℃及び1000℃の3通り、第2回目の冷間圧延温度を80℃、150 ℃及び250 ℃の3通りに変化させた。その後、脱脂処理を行い、850 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施したのち、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した。なお、脱炭焼鈍の昇温過程の600 〜750 ℃の昇温速度は16℃/sに制御した。
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5 層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付けて製品とした。
各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8とW17/50(磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
【0056】
表5、表6に、脱炭焼鈍板の集合組織と製品の磁気特性との関係を示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°上で極大を与えるΦの値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料は、備考欄に※印を付与した。また、集合組織と磁気測定は、コイル長手方向の先端部(X部)、中央付近(Y部)、及び尾端部(Z部)のそれぞれより試料を採取して行った。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
表5、表6に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱延板焼鈍温度を950 ℃以下とし、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上で行うことが極めて有効であることがわかる。
【0060】
(実施例4)
表1に示すgの成分組成の250 mm厚のスラブ6本を1220℃の温度に加熱後、以下の3条件で2本ずつ熱間圧延して2.7 mmの熱延コイルとした。
(D) X部の仕上圧延開始温度1010℃、Z部の仕上圧延開始温度950 ℃、
(E) X部の仕上圧延開始温度1025℃、Z部の仕上圧延開始温度935 ℃、
(F) X部の仕上圧延開始温度1040℃、Z部の仕上圧延開始温度910 ℃、
これらのコイルは、900 ℃で60秒間の熱延板焼鈍を施し、酸洗したのち、80℃の温度で1.6 mmの厚みまでの第1回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施し、950 ℃の温度で中間焼鈍を施したのち、酸洗し、0.22mmの厚みまでの第2回目のタンデム圧延機による冷間圧延を施した。この第2回目の冷間圧延温度は、220 ℃とした。その後、脱脂処理を行い、850 ℃で120 秒間の脱炭焼鈍を施したのち、焼鈍分離剤を塗布して最終仕上焼鈍を施した。脱炭焼鈍の昇温条件は、以下の2通りに変化させた。
(ハ)600 〜750 ℃の昇温速度が9 ℃/s、
(ニ)600 〜750 ℃の昇温速度が27℃/s、
脱炭焼鈍後、試料の一部を採取し、板厚1/5 層の集合組織の測定を行った。集合組織は、X線極点図により測定し、測定データから3次元集合組織を計算により求めた。
【0061】
最終仕上焼鈍後、未反応の焼鈍分離剤を除去し、コロイダルシリカを含有するりん酸マグネシウムを主成分とする絶縁コーティングを塗布し、800 ℃で焼き付け製品とした。各製品から、圧延方向に沿ってエプスタインサイズの試験片を切り出し、磁束密度B8とW17/50(磁束密度1.7 T における鉄損)を測定した。
表7に、脱炭焼鈍板の集合組織と製品の磁気特性とを示す。集合組織については、φ1 =90°、φ2 =45°で極大を与えるΦの値と、{1241}〈014〉方位のランダム強度比を示した。なお、{1241}〈014〉方位が最大ピークとなった試料については、表中に※を付与した。また、集合組織と磁気測定は、熱延コイル長手方向のX部、Y部、Z部それぞれに対応する位置より試料を採取して行った。
【0062】
【表7】
【0063】
表7に示されるように、脱炭焼鈍板の集合組織の最大ピークが、Bunge のオイラー角表示でφ1 =90°、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°の範囲内に存在し、かつ、{1241}〈014〉方位のランダム強度比が3.0 以上である場合に、製品の磁気特性が良好となった。また、コイル全長にわたって、脱炭焼鈍板の集合組織を上記のごとく制御するためには、熱間圧延の仕上圧延開始温度のコイル全長での変動を100 ℃以内に制御し、脱炭焼鈍の昇温過程の600 ℃〜750 ℃の昇温速度を20℃/s以下とすることが極めて有効であることがわかる。
【0064】
【発明の効果】
この発明により、磁気特性を良好に保った汎用一方向性電磁鋼板を安定して製造することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱炭焼鈍版の集合組織のφ1 =90°、φ2 =45°断面においてΦが変化したときのランダム強度比を示す図である。
【図2】φ1 =90°、φ2 =45°断面上で極大を与えるΦの値と、製品の磁束密度B8 との関係を示す図である。
【図3】{1241}〈014〉方位のランダム強度比と製品の磁束密度B8 の関係を示す図である。
【図4】脱炭焼鈍板の{1241}〈014〉方位のランダム強度比と粒径の変動係数との関係を示す図である。
【図5】コイル全長にわたる仕上圧延開始温度の差が製品の磁束密度に及ぼす影響を示す図である。
【図6】脱炭焼鈍の昇温速度が、脱炭焼鈍板の板厚1/5 層での{1241}〈014〉方位のランダム強度比に及ぼす影響を示す図である。
【図7】脱炭焼鈍における850 ℃到達時及び850 ℃で120 秒均熱後の一次再結晶粒の平均粒径を、コイルX部とZ部とで示す図である。
Claims (3)
- C:0.02〜0.06wt%、Si:2.0 〜4.5 wt%、Mn:0.03〜2.5wt%、Al:0.005 〜0.030 wt%及びN:0.003 〜0.010wt %を含有するけい素鋼スラブを加熱後、粗圧延と仕上げ圧延とからなる熱間圧延を行い、次いで熱延板焼鈍を施した後、一回又は中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延により最終板厚とし、更に、脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから仕上焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、
スラブ加熱温度を 1260 ℃以下とした上で、
前記熱間圧延を、仕上げ圧延開始温度のコイル全長での変動が 100 ℃以内になるように制御して行い、かつ、
熱延板焼鈍温度を調整するとともに、冷間圧延をタンデム圧延としその圧延温度を調整することにより、脱炭焼鈍後の板の板厚1/5 層域における集合組織を、下記の条件を満たす組織にすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
記
集合組織の最大ピーク方位が、Bunge のオイラー角表示で
φ1 =90°±7.5 °、Φ:58〜62°又は−58〜−62°、φ2 =45°±7.5 °
の範囲に存在し、かつ、{1241}〈014〉のランダム強度比が3.0 以上。 - 熱延板焼鈍を950 ℃以下の温度で行い、冷間圧延をタンデム圧延機で100 ℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
- 脱炭焼鈍の焼鈍過程の600 〜750 ℃の昇温速度を20℃/s以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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