JP3942328B2 - 難燃性スチレン系樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性に優れ、高い難燃性を有する成形性の良好なスチレン系樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチレン系樹脂は耐衝撃性に優れ、さらに成形性も優れていることから、オフィスオートメーション機器部品、家電製品部品、自動車部品など多岐の分野で使用されているが、スチレン系樹脂の易燃性のために、その用途は制限されている。スチレン系樹脂の難燃化の方法としてはハロゲン系、リン系、無機系の難燃剤を添加することが知られており、それによりある程度難燃化が達成されている。しかしながら、製品の安全性を高める為にオフィスオートメーション機器や、家電製品の成形品には、アメリカの規格であるアンダーライターズラボラトリー(UL)社のサブジェクト94にもとづく難燃試験の規制が年々厳しくなっており、より高度の難燃化が要求されている。
【0003】
従来、スチレン系樹脂の難燃性を向上させる方法として、例えばスチレン系樹脂、メラミン等の窒素化合物、ポリオールおよび有機リン酸エステルからなる樹脂組成物(特開平4−117442号公報)や特定平均ゴム粒子径のゴム変性スチレン樹脂とハロゲン系難燃剤からなる着火溶融滴下型自己消炎性スチレン系樹脂組成物(特公平6−43542号公報)が知られている。しかしながら、これらの公報の樹脂組成物は難燃性が充分ではなく、その使用範囲が限られるという問題があった。
【0004】
さらに、近年、ハロゲンを含有する有機化合物が、環境に悪影響を及ぼすという報告がなされ、欧州を中心としてノンハロゲン化の動きが盛んになってきた。
難燃剤においてもノンハロゲン系の需要が高まり、各樹脂に対するノンハロゲン系難燃剤の開発が盛んに行われるようになった。ところが、スチレン系樹脂のノンハロゲン難燃化に関しては、これまでは、その易燃性から困難とされてきた。
【0005】
かかる分野の公知技術として、特開平8−176396号公報や特開平8−120152号公報では特定のゴム変性スチレン系樹脂とリン系難燃剤との樹脂組成物が開示され、具体的には、リン系難燃剤としてトリフェニルホスフェート及びその誘導体や赤リンが使用され、溶融滴下自己消火性の難燃性が発現することが示されている。しかしながら、トリフェニルホスフェート及びその誘導体は、その可塑効果によって流動性を上げ、着火溶融滴下を容易にし、難燃性を発現したものであり、かかる樹脂組成物は、耐熱性が著しく低下し、成形性に劣り、実用性に乏しいという欠点がある。赤リンを用いた場合は、樹脂組成物の押出成形時に有毒なホスフィンガスが発生し易く、赤リンの取り扱いが難しい等の問題があり、また得られる樹脂組成物が赤リン特有の褐色になり、その使用範囲が限られるという欠点がある。
【0006】
また、特開平8−311278号公報では、ゴム変性スチレン系樹脂、有機リン化合物単量体と有機リン化合物縮合体およびシリコーンオイルからなり、該有機リン化合物中に上記単量体を50〜100重量%含むことを特徴とする溶融滴下自己消火性スチレン系難燃樹脂組成物が開示されている。しかしながら、かかる樹脂組成物も耐熱性に劣り、実用性に乏しいという欠点がある。
【0007】
このように、従来のゴム変性スチレン系難燃樹脂組成物においては、難燃性は達成されるけれども耐熱性に劣り、殊にOA機器ハウジング等の高い耐熱性を要求される用途に使用することは困難であり、その改善が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐熱性および成形性に優れ、且つ、着火溶融滴下型の難燃性能を併せ持つゴム変性スチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明者は、前記目的を達成するために、鋭意検討した結果、ゴム変性スチレン系樹脂に、特定の有機環状リン化合物を主とする有機リン化合物を特定量配合することにより、耐熱性および成形性に優れ難燃性の良好な樹脂組成物が得られることを見出し本発明に到達した。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明によれば、(A)熱可塑性樹脂成分100重量%中、少なくとも50重量%がゴム変性スチレン系樹脂である熱可塑性樹脂(A成分)および(B)下記式(1)で表わされる有機環状リン化合物を少なくとも50重量%含む有機リン化合物(B成分)からなり、A成分100重量部に対して、B成分が1〜70重量部であることを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物が提供される。
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、mおよびnはそれぞれ0〜4の整数であり、R1は炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、あるいは置換又は非置換の炭素数3〜14の芳香族炭化水素基を表わし、R2およびR3は互いに同一または異なっていてもよく、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素、またはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子を介する炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、もしくはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を介する炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素を示す。)
【0012】
本発明のA成分として使用する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂成分100重量%中、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%がゴム変性スチレン系樹脂であり、特に好ましくは熱可塑性樹脂が実質的にゴム変性スチレン系樹脂である。
【0013】
かかるゴム変性スチレン系樹脂は主に芳香族ビニル系重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体をいい、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル単量体を必須成分とする単量体混合物を加えて公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合または乳化重合することにより得られる。
【0014】
前記ゴム状重合体の例としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)等のジエン系ゴムおよび上記ジエンゴムを水素添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエンモノマー三元共重合体(EPDM)等を挙げることができ、特にジエン系ゴムが好ましい。
【0015】
上記ゴム状重合体の存在下に重合させるグラフト共重合可能な単量体混合物中の必須成分である芳香族ビニル単量体は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等であり、スチレンが最も好ましい。
【0016】
上記ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体成分は、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは2〜8.5重量%であり、芳香族ビニル系重合体成分は、好ましくは99〜90重量%、より好ましくは98〜91.5重量%である。この範囲内では得られる樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性および剛性のバランスが向上し、また、不飽和結合が少なく酸化され難くなり熱安定性に優れるため好ましい。
【0017】
本発明におけるゴム変性スチレン系樹脂の分子量の尺度である還元粘度ηsp/C(0.5g/dlのトルエン溶液を30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.5dl/gであり、より好ましくは0.4〜1.2dl/gである。ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度ηsp/Cに関する上記条件を満たすための手段としては、重合開始材料、重合温度、連鎖移動剤量の調整等を挙げることができる。還元粘度が高くなると耐衝撃性に優れる。
【0018】
ゴム変性スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂は除く)、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジエン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアルキルメタアクリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルケトン樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂とは、二価フェノールとカーボネート前駆体を反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂、または二価フェノール及び脂肪族二酸とカーボネート前駆体を反応させて得られるポリエステルカーボネート樹脂であり、芳香族ポリカーボネート樹脂が好適に使用される。
【0020】
使用される二価フェノールとしては、例えばビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと称する)、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンが挙げられる。好ましい二価フェノールはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0021】
脂肪族二酸としては、例えば炭素数8〜20、好ましくは10〜12の脂肪族二酸である。かかる脂肪族二酸は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであっても良く、またα、ω−ジカルボン酸が好ましい。好ましい脂肪族二酸の例としては、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、アイコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、セバシン酸およびドデカン二酸が特に好ましい。
【0022】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメート等が挙げられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂を製造するに当り、上記二価フェノールを単独で用いても又は二種以上を併用してもよく、又二価フェノール及び脂肪族二酸をそれぞれ単独で用いても又は二種以上を併用してもよい。かかる二価フェノール及び脂肪族二酸の含有割合は任意に調整可能であるが、かかるポリカーボネート系樹脂中少なくとも40モル%以上が、ビスフェノールA由来のものであることが望ましい。また、脂肪族二酸成分はかかるポリカーボネート系樹脂中20モル%以下であることが耐熱性及び難燃性の向上という観点から好ましい。ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、二種以上のポリカーボネート樹脂の混合物であってもよい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂の分子量は特に制限する必要はないが、あまりに低いと強度が十分でなく、あまりに高いと溶融粘度が高くなり成形し難くなるので、粘度平均分子量で表して通常10,000〜50,000、好ましくは、15,000〜40,000である。ここでいう粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηSP)を次式に挿入して求めたものである。
ηSP/C=[η]+0.45×[η]2C
[η]=1.23×10-4M0.83
(但し[η]は極限粘度、Cはポリマー濃度で0.7)
【0025】
ポリカーボネート樹脂を製造する基本的な手段を簡単に説明する。カーボネート前駆物質としてホスゲンを用いる界面重縮合法では、通常酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、及びピリジン等のアミン化合物が挙げられる。脂肪族二酸を含有する場合には、かかる脂肪族二酸を予めナトリウム塩等の塩の形として、これを二価フェノールが存在する反応容器中に添加する等の方法が好ましく使用できる。有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。又反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノールやp−tert−ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。尚、分子鎖末端の全てが末端停止剤に由来の構造を有する必要はない。
【0026】
カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応(溶融法)では、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノールを炭酸ジエステルと加熱しながら攪拌し、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる方法により行う。反応温度は生成するアルコール又はフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコール又はフェノール類を留出させながら反応を完結させる。かかる反応の初期段階で二価フェノール等と同時に又は反応の途中段階で末端停止剤を添加させることができる。また、反応を促進するためにエステル交換反応に用いられる触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いられる炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等があげられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。又脂肪族二酸を含有する場合には、かかる脂肪族二酸を予めジフェニルエステル等のエステルの形とすることが好ましい。
【0027】
前記スチレン系樹脂とは、スチレン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレン等のスチレン誘導体の単独重合体又は共重合体、これらの単量体とアクリロニトリル、メチルメタクリレート等のビニルモノマーとの共重合体、ポリブタジエン等のジエン系ゴム、エチレン・プロピレン系ゴム、アクリル系ゴムなどにスチレン及び/又はスチレン誘導体、又はスチレン及び/又はスチレン誘導体と他のビニルモノマーをグラフト重合させたものである。かかるスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)等の樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。尚かかるスチレン系樹脂はその製造時にメタロセン触媒等の触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレン等の高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合等の方法により得られる、分子量分布の狭い重合体及び共重合体、ブロック共重合体、及び立体規則性の高い重合体、共重合体を使用することも可能である。かかるスチレン系樹脂に無水マレイン酸やN置換マレイミドといった官能基を持つ化合物を共重合することも可能である。これらの中でもアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましく、耐衝撃性の観点からABS樹脂が最も好ましい。また、スチレン系樹脂を2種以上混合して使用することも可能である。
【0028】
かかるABS樹脂とは、ジエン系ゴム成分にシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物をグラフト重合した熱可塑性グラフト共重合体とシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体の混合物である。このABS樹脂を形成するジエン系ゴム成分としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン及びスチレン−ブタジエン共重合体等のガラス転移点が10℃以下のゴムが用いられ、その割合はABS樹脂成分100重量%中5〜80重量%であるのが好ましい。ジエン系ゴム成分にグラフトされるシアン化ビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル等を挙げることができ、またジエン系ゴム成分にグラフトされる芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン及びα−メチルスチレンを挙げることができる。かかるシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の含有割合は、かかるシアン化ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量100重量%に対して、シアン化ビニル化合物が5〜50重量%、芳香族ビニル化合物が95〜50重量%が好ましい。更にメチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、無水マレイン酸、N置換マレイミド等を混合使用することができ、これらの含有割合はABS樹脂中15重量%以下であるものが好ましい。このABS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよく、また共重合の方法も一段で共重合しても、多段で共重合してもよい。
【0029】
前記芳香族ポリエステル樹脂とは、芳香族ジカルボン酸とジオール、又はそのエステル誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0030】
ここでいう芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−p−ターフェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸等の芳香族系ジカルボン酸が好適に用いられ、特にテレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸が好ましく使用できる。
【0031】
芳香族ジカルボン酸は二種以上を混合して使用してもよい。なお少量であれば、該ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を一種以上混合使用することも可能である。
【0032】
また、芳香族ポリエステルの成分であるジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール等、及びそれらの混合物等が挙げられる。
【0033】
具体的なポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等の他、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート等のような共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、機械的性質等のバランスがとれたポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートが好ましく使用できる。
【0034】
かかるポリエステル系樹脂の製造方法については、常法に従い、チタン、ゲルマニウム、アンチモン等を含有する重縮合触媒の存在下に、加熱しながらジカルボン酸成分と前記ジオール成分とを重合させ、副生する水又は低級アルコールを系外に排出することにより行われる。
【0035】
またポリエステル系樹脂の分子量については、o−クロルフェノールを溶媒としてで25℃で測定した固有粘度が0.6〜1.3、好ましくは0.75〜1.15である。
【0036】
前記ポリアリレート樹脂とは、全芳香族ポリエステル樹脂全体を指すものである。ポリアリレート樹脂の呼称は、非晶性の全芳香族ポリエステル樹脂のみを指す場合もあるが、本発明においては、いわゆる液晶ポリマーと称されるタイプの結晶性ポリエステル樹脂を含むものである。
【0037】
かかる非晶性の全芳香族ポリエステル樹脂とは、二価フェノール、又は二価フェノールとハイドロキノン及び/又はレゾルシノールをジオール成分とし、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸をジカルボン酸成分とする全芳香族ポリエステル樹脂をいう。かかる二価フェノール成分としては、前記ポリカーボネート系樹脂の説明において記載したようなビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系が好ましく使用できるが、特にビスフェノールAが好ましい。またハイドロキノン及び/又はレゾルシノールの使用は、本発明の樹脂組成物の耐薬品性を向上させる点から好ましく使用できるものである。かかる場合、特にハイドロキノンの使用が好ましい。
【0038】
非晶性の全芳香族ポリエステル樹脂の成形加工製及び耐薬品性を高めるのに好ましい態様の1つとしては、ハイドロキノンとビスフェノールAとをジオール成分とし、イソフタル酸を酸成分として、ハイドロキノンとビスフェノールAとの割合は50/50〜70/30当量%とするものが挙げられる。また本発明の樹脂組成物の耐熱温度を高めるのに有用な他の1つの態様としては、ビスフェノールAをジオール成分とし、テレフタル酸を酸成分として使用する場合が挙げられる。
【0039】
かかる非晶性の全芳香族ポリエステルの製造方法としては特に制限はないが、例えば、酸成分としてテレフタル酸クロライド又はイソフタル酸クロライドを用い、ジオール成分とアルカリ成分等の触媒を用いて反応させる界面重合法、又は溶液重合法により製造する方法が挙げられる。又、酸成分としてテレフタル酸アリールエステル又はイソフタル酸ジアリールエステルを用い、チタンテトラブトキシド等のチタン化合物の他、ポリエステル重合体の溶融重縮合触媒として既に知られているゲルマニウム化合物、アンチモン化合物及び錫化合物等の触媒を用いてジオール成分と反応させる溶融重合法、及び酸成分としてテレフタル酸又はイソフタル酸を用い、ジオール成分としてp―ジアセトキシベンゼンや2,2’―ビス(4―アセトキシフェニル)プロパンを用い、上記の溶融重縮合触媒を用いて反応させる溶融重合法等を適宜使用することが可能である。
【0040】
かかる非晶性の全芳香族ポリエステル樹脂はフェノール/テトラクロルエタン混合溶媒(重量比60/40)中、35℃にて測定した固有粘度が、耐熱性、成形加工性の観点から0.3〜1.2となることが好ましく、特に、0.4〜0.9が好ましい。
【0041】
前記結晶性全芳香族ポリエステル樹脂とは、1種以上のアルキレン基を含有しない二価フェノールと、1種以上の芳香族ジカルボン酸及び/又は1種以上の芳香族ジヒドロキシカルボン酸から得られるものである。より具体的には、かかるアルキレン基を含有しない二価フェノールをアセテート等の誘導体とし、かかる二価フェノールの活性を高めたものを使用する方法や、又はかかる芳香族ジカルボン酸を酸クロリド及びフェニルエステル等の誘導体としカルボン酸の活性を高めたものを使用する方法から得られるものである。さらに芳香族ジカルボン酸を直接使用し、p−トルエンスルホニルクロリド等の縮合剤によりカルボン酸の活性を高める方法により得られたものが使用できる。
【0042】
かかるアルキレン基を含有しない二価フェノールのうち好ましいものとしては、1,4−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレン、及びその芳香族環に1個以上の低級アルキル基、ハロゲノ基、フェニル基等の非反応性官能基を含むもの等が挙げられる。
【0043】
かかる結晶性全芳香族ポリエステル樹脂に使用する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、及びその芳香族環に1個以上の低級アルキル基、ハロゲノ基、フェニル基等の非反応性官能基を含むもの等が挙げられる。
【0044】
更に芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、1−カルボキシ−4−ヒドロキシベンゼン、1−カルボキシ−3−ヒドロキシベンゼン、2−カルボキシ−6−ヒドロキシナフタレン、及びその芳香族環に1個以上の低級アルキル基、ハロゲノ基、フェニル基等の非反応性官能基を含むもの等が挙げられる。
【0045】
かかる結晶性全芳香族ポリエステル樹脂の好ましい態様の1つとしては、1−カルボキシ−4−ヒドロキシベンゼンと2−カルボキシ−6−ヒドロキシナフタレンとを、70/30〜85/15当量%とするものが挙げられる。また他に1−カルボキシ−4−ヒドロキシベンゼンと4,4’−ジヒドロキシジフェニルとテレフタル酸とを、40/30/30〜30/20/20当量%とするものが挙げられる。
【0046】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、線状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−酢酸ビニル共重合体等が望ましい。
【0047】
前記ジエン系樹脂としては、1,2−ポリブタジエン樹脂、トランス−1,4−ポリブタジエン樹脂等ジエン構造を有する単量体単独またはこれと共重合可能な単量体との共重合体及びこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
前記ポリアミド樹脂としては、例えば環状ラクタムの開環重合体、アミノカルボン酸の重縮合体、2塩基酸とジアミンとの重縮合体等が挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)等の脂肪族−芳香族ポリアミドおよびこれらの共重合体および混合物を挙げることができる。
【0049】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂としては、2,6−ジメチルフェノールの重合体、及び2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの重合体等が挙げられ、特に2,6−ジメチルフェノールの重合体、すなわちポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)の使用が好ましい。かかるポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば塩化第一銅とピリジン等のコンプレックスを触媒として使用し、2,6−キシレノールを酸化重合したものが使用でき、また得られたポリフェニレンエーテル樹脂の分子量としては、0.5g/dlクロロフォルム溶液、30℃における還元粘度が0.20〜0.70dl/gの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは0.30〜0.55dl/gの範囲である。
【0050】
前記ポリスルホン樹脂とは、ビスフェノールAとジクロロジフェニルスルフォンから得られるものが挙げられる。かかる化合物をジメチルスルホキシド溶媒中、水酸化カリウム等の存在下、脱塩化カリウムの縮合反応により得ることができる。
【0051】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂とは、p−ジクロロベンゼンと硫化ナトリウムの脱塩化ナトリウム反応により得ることができるものである。
【0052】
前記ポリアルキルメタアクリレート樹脂とは、メチルメタクリレートを主成分とするものであり、メチルメタクリレート単独の重合体、もしくはその共重合体である。かかる共重合体の共重合成分としてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、又エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられ、1種または2種以上用いてよい。
【0053】
かかるポリアルキルメタクリレート樹脂におけるメチルメタクリレート成分の割合としては、ポリアルキルメタクリレート樹脂100重量%中、80重量%以上が好ましく、より好ましくは90重量%以上含有するものである。さらに共重合成分としてはメチルアクリレートがより好ましく使用できる。
【0054】
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、有機ポリイソシアネート、ポリオール及び官能基を2乃至3個有し且つ分子量が50〜400の鎖延長剤の反応により得られるものであり、各種熱可塑性ポリウレタンエラストマーが使用可能である。かかる熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、例えばクラレ(株)製「クラミロンU」(商品名)等容易に入手可能である。
【0055】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマーとしては、二官能性カルボン酸成分、アリキレングリコール成分、及びポリアルキレングリコール成分を重縮合して得られるものであり、各種熱可塑性ポリエステルエラストマーの使用が可能である。かかる熱可塑性ポリエステルエラストマーとしては、例えば東洋紡(株)製「ペルプレン」(商品名)、帝人(株)製「ヌーベラン」(商品名)の等容易に入手可能なものである。
【0056】
ゴム変性スチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂のうち、ゴム変性スチレン系樹脂との相溶性及び難燃性の観点から、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、及び熱可塑性ポリエステルエラストマーから選択される1種又は2種以上がより好ましく使用でき、難燃剤成分の高い熱安定性を有効に活かす観点から、更に好ましくはポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリエステル樹脂およびポリアリレート樹脂が使用される。
【0057】
本発明において、B成分として使用する有機リン化合物は、下記式(1)で表される有機環状リン化合物を少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%含み、特に好ましくは有機リン化合物が実質的に下記式(1)の有機環状リン化合物である。かかる有機環状リン化合物を特定量以上使用することにより、難燃性に優れ、且つ耐熱性の良好なスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0058】
【化3】
【0059】
(式中、mおよびnはそれぞれ0〜4の整数であり、R1は炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、あるいは置換又は非置換の炭素数3〜14の芳香族炭化水素基を表わし、R2およびR3は互いに同一または異なっていてもよく、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素、またはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子を介する炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、もしくはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を介する炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素を示す。)
【0060】
前記式(1)において、mおよびnは0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0または1、さらに好ましくは0である。
【0061】
前記式中、R1は炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、あるいは置換又は非置換の炭素数3〜14の芳香族炭化水素基であり、置換又は非置換の炭素数3〜14の芳香族炭化水素基が好ましく、置換又は非置換の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基がより好ましい。
【0062】
R1の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、フェニル基、クレジル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、4−フェノキシフェニル基、クミル基、ナフチル基、4−ベンジルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,6−ジフェニルフェニル基、4−フェニルフェニル基、4−ジフェニルフェニル基、アントリル基、4−ベンゼンスルホニルフェニル基、ピリジル基およびトリアジル基等が挙げられ、なかでもフェニル基、クレジル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、4−フェノキシフェニル基、クミル基、ナフチル基、4−ベンジルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、2,6−ジフェニルフェニル基、4−フェニルフェニル基、4−ジフェニルフェニル基、アントリル基および4−ベンゼンスルホニルフェニル基が好ましく、特に好ましくはフェニル基、クレジル基およびキシリル基である。
【0063】
また、前記式(1)において、R2およびR3は、同一または異なっていてもよく、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素、またはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子を介する炭素数1〜15の脂肪族炭化水素、もしくはビフェニルへの結合が酸素原子、硫黄原子、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を介する炭素数3〜14の芳香族基を有する炭化水素であり、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基を介する炭素数6〜14のアラルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。
【0064】
R2およびR3の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基およびネオペンチル基等が挙げられる。
【0065】
かかる環状リン酸エステル化合物は、例えばオキシ3塩化リンの塩素の一部をフェノール、2,6−ジメチルフェノール、クレゾール等のフェノール類で変成したアリールリン酸ジクロライドと、2,2′−ビフェノールとを反応させる方法で容易に製造することが可能である。かかる反応は、例えば、Indian Jounal of Chemistry Sect.B(1985),24B(11),1164−5に記載されている。
【0066】
上記B成分の有機リン化合物において、前記式(1)で表わされる有機環状リン化合物以外の他の成分として、トリフェニルホスフェート、ビス(ノニルフェニル)フェニルホスフェート、ノニルフェニルジフェニルホスフェートまたはトリス(ノニルフェニル)ホスフェートなどの化合物が好ましく使用される。
【0067】
本発明において、前記熱可塑性樹脂100重量部に対して、前記有機リン化合物の配合量は1〜70重量部であり、より好ましくは2〜50重量部、さらに好ましくは3〜40重量部である。有機リン化合物の配合量が1重量部より少ないと得られる樹脂組成物は難燃性に劣り好ましくなく、70重量部より多く配合すると樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性が低下し、またコスト的に不利でもあり好ましくない。
【0068】
一般に、ゴム変性スチレン系樹脂に有機リン化合物を配合することにより、耐熱性(荷重たわみ温度)が大幅に低下することが知られている。しかしながら、本発明により得られた樹脂組成物は耐熱性に優れ、ASTM−D648に準拠した方法で1/4インチ試験片を用いて荷重1.81MPa(18.5kgf/cm2)で測定した荷重たわみ温度の値が、好ましくは58〜75℃の範囲であり、より好ましくは60〜75℃の範囲である。
【0069】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物には、種々の難燃助剤、例えばシリコーンオイルなどを配合しても良い。かかるシリコーンオイルとしては、ポリジオルガノシロキサンを骨格とし、好ましくはポリジフェニルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、あるいはそれらの任意の共重合物、混合物であり、なかでもポリジメチルシロキサンが好ましく用いられる。その粘度は好ましくは0.8〜5000センチポイズ(25℃)、より好ましくは10〜1000センチポイズ(25℃)、さらに好ましくは50〜500センチポイズ(25℃)であり、かかる粘度の範囲のものは難燃性に優れ好ましい。かかるシリコーンオイルの配合量は、上記ゴム変性スチレン系樹脂100重量部に対して、0.5〜10重量部の範囲が好ましい。
【0070】
また、本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物には、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、ガラス繊維、炭素繊維などの補強繊維、タルク、マイカ、ワラストナイトなどの充填剤、顔料などの着色剤などを添加しても良い。前記添加剤の使用量は、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度などを損なわない範囲で、添加剤の種類に応じて適宜選択できる。
【0071】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は、通常A成分、B成分および必要に応じてその他の成分を、V型ブレンダー、スーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いて予備混合し、かかる予備混合物は混練機に供給し、溶融混合される。混練機としては、種々の溶融混合機、例えば、ニーダー、単軸または二軸押出機などが使用でき、なかでも二軸押出機などを用いてかかるスチレン系樹脂組成物を150〜250℃、好ましくは170〜220℃程度の温度で溶融して、サイドフィーダーにより液体成分を注入し、押出し、ペレタイザーによりペレット化する方法が好ましく使用される。
【0072】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は、オフィスオートメーション機器部品、家電製品部品、自動車部品などの種々の成形品を成形する材料として有用である。このような成形品は慣用の方法、例えばペレット状の難燃性スチレン系樹脂組成物を射出成形機により、例えば160〜220℃程度のシリンダー温度で射出成形することにより製造できる。
【0073】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、評価は下記の方法で行った。
(1)難燃性(UL−94評価)
難燃性は厚さ1/8インチのテストピースを用い、難燃性の評価尺度として、
米国UL規格のUL−94に規定されている垂直燃焼試験に準じて評価を行った。どの試験片も炎を取り去った後の燃焼が30秒以内で、滴下して消火するものがV−2であり、この評価基準以下のものをnotVとした。また、10回の着炎後消炎までの秒数の合計をトータル消炎秒数として示した。
(2)還元粘度(ηsp/C)
ゴム変性スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン18mlとメタノール2mlの混合溶媒を加え、25℃で2時間振とうし、5℃、4000rpmで30分間遠心分離する。上澄み液を取り出し、メタノールで樹脂分を析出させた後、乾燥した。このようにして得られた樹脂0.1gをトルエンに溶解し、0.5g/dlの溶液とし、この溶液10mlをオストワルド型粘度計に入れ、30℃でこの溶液の流下秒数t1を測定した。一方、同じ粘度計でトルエンの流下秒数t0を測定し、以下の数式により算出した。
ηsp/C=(t1/t0−1)/C (C:ポリマー濃度g/dl)
【0074】
(3)ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状重合体成分量
核磁気共鳴測定装置(バリアン製、UNITY300)により水素原子の核磁気共鳴を測定し、スチレンユニットと、ブタジエンユニットのモル比よりゴム状重合体成分量を算出した。
(4)荷重たわみ温度(HDT)
荷重たわみ温度は、ASTM−D648に準拠した方法により1/4インチ試験片を用いて荷重1.81MPa(18.5kgf/cm2)で測定した。
(5)成形性
樹脂成形時の状態について、目視で判断し、以下の基準で判定を行った。
○:成形性良好、成形不良なし。
△:そり、ひけ等の成形不良あり。
【0075】
[参考例1] ビフェニルフェニルホスフェート(前記式(1)において、mおよびnは0、R1はフェニル基である化合物)の合成
撹拌装置、還流冷却管、滴下漏斗、オイルバスを備えた10リットル三つ口フラスコに、オキシ塩化リン5757.7g、無水塩化マグネシウム15.35gを仕込み、窒素還流下でオイルバスを約110℃に加熱し、オキシ塩化リンを還流する状態とした後、滴下漏斗よりフェノール1024.3gをクロロベンゼン1707mlに溶解した溶液を約30分かけて注入し、その後30分更に反応させた。発生する塩化水素は、還流冷却管を通して反応系外の水酸化ナトリウム水溶液に吸収させた。これによりモノフェニルジクロロホスフェートを得た。反応後溶媒と過剰のオキシ塩化リンを留去した。31P−NMR(重クロロホルム溶媒)測定を行い、3.4ppmの単一ピークを確認した。
【0076】
次に撹拌装置、還流冷却管、滴下漏斗、オイルバスを備えた5リットルの三つ口フラスコにピリジン227.9g、2,2′−ビフェノール259.9g、ジオキサン1Lを加え、窒素雰囲気下、室温でメカニカルスターラーにより攪拌した。この溶液に、上記で得たモノフェニルジクロロホスフェート300.4gとジオキサン1Lとの混合液を滴下ロートから徐々に滴下した。滴下終了後、還流下1時間30分加熱し反応を完結させた。その後溶媒を留去し、目的生成物458gを得た。31P−NMR(重クロロホルム溶媒)より、−4.5ppmに単一のピークであることを確認し、ビフェニルフェニルホスフェート(以下、この化合物をBPPと称する。)であることを確認した。示差走査熱量計(DSC)分析による融点は82℃であった。
【0077】
[参考例2] ビフェニル−2,6−ジメチルフェニルホスフェート(前記式(1)においてmおよびnは0、R1はキシリル基である化合物)の合成
参考例1において、フェノール1024.3gを2,6−ジメチルフェノール1330gに変更した以外は参考例1と同様にして、2,6−ジメチルフェニルジクロロホスフェートを合成後、2,6−ジメチルフェニルジクロロホスフェート334.6gを参考例1と同様にして2,2′−ビフェノールと反応させ、ビフェニル−2,6−ジメチルフェニルホスフェート(以下、この化合物をBDMPと称する。)を得た。示差走査熱量計(DSC)分析による融点は98℃であった。
【0078】
[参考例3] ビフェニル−m−クレジルホスフェート(前記式(1)においてmおよびnは0、R1はクレジル基である化合物)の合成
参考例1において、フェノール1024.3gをm−クレゾール1176.8gに変更した以外は参考例1と同様にして、m−クレジルジクロロホスフェートを合成後、m−クレジルジクロロホスフェート315gを参考例1と同様にして2,2′−ビフェノールと反応させ、ビフェニル−m−クレジルホスフェート(以下、この化合物をBCPと称する。)を得た。示差走査熱量計(DSC)分析による融点は79℃であった。
【0079】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いた。
(A)ゴム変性スチレン系樹脂
▲1▼還元粘度ηsp/C=0.80dl/g、ゴム状重合体成分7.9重量%であるゴム変性スチレン系樹脂(以下HIPS−1と称する)
▲2▼還元粘度ηsp/C=0.51dl/g、ゴム状重合体成分4.3重量%であるゴム変性スチレン系樹脂(以下HIPS−2と称する)
(B)有機リン化合物
▲1▼BPP(参考例1により合成)
▲2▼BDMP(参考例2により合成)
▲3▼BCP(参考例3により合成)
▲4▼トリフェニルホスフェート(大八化学工業(株)製TPP、以下TPPと称する)
【0080】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
表1および表2記載の各成分を表1および表2記載の量(重量部)でタンブラーにて混合し、15mmφ二軸押出機(テクノベル製、KZW15)にて樹脂温度200℃でペレット化し、得られたペレットを熱風乾燥機にて60℃で4時間乾燥を行った。乾燥したペレットを射出成形機((株)日本製鋼所製 J75Si)にてシリンダー温度200℃で成形した。この成形板を用いて評価した結果を表1および表2に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【発明の効果】
本発明は、難燃性および耐熱性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供するものであり、この樹脂組成物はオフィスオートメーション機器部品、家電製品部品、自動車部品等の種々の成形品を成形する材料として有用であり、その奏する工業的効果は格別である。
Claims (4)
- (A)熱可塑性樹脂成分100重量%中、少なくとも50重量%がゴム変性スチレン系樹脂である熱可塑性樹脂(A成分)および(B)下記式(1)で表わされる有機環状リン化合物を少なくとも50重量%含む有機リン化合物(B成分)からなり、A成分100重量部に対して、B成分が1〜70重量部であることを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物。
- A成分のゴム変性スチレン系樹脂が、その樹脂中に、ゴム状重合体成分を1〜10重量%含む樹脂である請求項1記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
- A成分のゴム変性スチレン系樹脂の本文記載の方法で測定された還元粘度が、0.2〜1.5dl/gである請求項1記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
- B成分の有機環状リン化合物が、前記式(1)において、mおよびnは0である請求項1記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
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