JP3937550B2 - 吸水性樹脂及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリロニトリル、スチレン、共役ジエンを含有する高分子材料を改質することにより得られる吸水性樹脂、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アクリロニトリルを含有する樹脂としては、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル樹脂)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリル−スチレン樹脂)等に代表されるポリスチレン系樹脂と、NBRゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)の合成ゴムとが挙げられる。これらの樹脂は、比較的安価であり、特に、前者のポリスチレン系樹脂は、剛性、寸法安定性、加工性等の特性に優れるため、各種用途のカバーやケース、電化製品や自動車の筐体及び各種部品材料等の樹脂材料として多用されている。また、後者の合成ゴムは、チューブやホース、各種緩衝材として多用されている。
【0003】
このような状況の中で、これら高分子材料は、さらなる用途拡大が期待されており、より付加価値の高いものへの改質に関する検討が望まれている。
【0004】
また、上述のような高分子材料が用いられた製品は、生産量の増加に伴い、廃材として大量に発生してしまう。近年では、これら高分子材料からなる廃材の発生量も増加する傾向があり、地球環境保全の関心の高まりから、廃材の有効利用についてのニーズも高まってきている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、吸水性樹脂は、紙オムツや生理用品等の衛生材料として主に使用されているが、これ以外にも土建や園芸用材料、消火剤、シーリング剤等の用途が期待されるため、これまで活発な研究が行われその改良が進んでいる。
【0006】
このような状況の中、ポリアクリロニトリルやアクニロニトリル/スチレン共重合体の加水分解物が提案されているが、いずれも吸水性樹脂とするためには、ニトリル基含有のポリマーを製造する必要があった。また、反応処理に時間を要したり等の製造上の問題と、得られた吸水性樹脂の吸水性が不十分であったり等の性能上の問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、吸水性に優れた吸水性樹脂を短時間で製造することができる吸水性樹脂、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、廃材を有効に利用することができる吸水性樹脂、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した目的を達成せんものと鋭意検討した結果、アクリロニトリルを含有する高分子材料の改質に、スチレンや共役ジエンが有効に作用する化学的処理を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上述の目的を達成した本発明に係る吸水性樹脂は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂のブタジエン部及びスチレン部にスルホン酸基及び/又はその塩が導入され、アクリルニトリル部にアミド基及び/又はその塩、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩が導入されてなるものである。
【0011】
また、本発明に係る吸水性樹脂の製造方法は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂を酸処理し、上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂のブタジエン部及びスチレン部にスルホン酸基及び/又はその塩を導入し、アクリルニトリル部にアミド基及び/又はその塩、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩を導入することを特徴とする。
【0012】
ブタジエン部は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中でゴム相を形成しており、化学的な修飾を受けやすいため、酸処理に際して、最初に反応を受けることになる。すなわち、このアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、反応の進行とともにゴム相が膨潤し、その樹脂表面に亀裂が発生する。このため、このアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、その樹脂表面が酸により侵食されてポーラス状態となり、反応に関わる表面積が増大する。
【0013】
したがって、このアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、反応に係る表面積の増大から短時間で反応が完結され、かつ吸水に関しても、表面積の増加から優れた吸水特性をもつ。
【0015】
また、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中のアクリロニトリル部には、酸処理に際して、親水性のアミド基やカルボキシル基やその塩が導入されるため、得られた吸水性樹脂の吸水性を向上させる。
【0016】
また、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中のスチレン部には、特に酸処理に際して、スルホン酸基のような強酸性基が導入されるため、得られた吸水性樹脂の電解質水溶液に対する吸水効果を向上させる。特に、非水溶性を示すスチレン部に導入されたスルホン酸基は、ゲル強度に大きく貢献する。
【0017】
以上の理由により、上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、10〜50モル%のアクリロニトリルと、30〜70モル%のスチレンと、5〜50モル%のブタジエンとからなることが望ましい。
【0018】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中に、上記3種の構成ユニットが所定量含有されていないと、ゴム相(主にブタジエンリッチ領域)とガラス相(主にアクリロニトリル、スチレンリッチ領域)との2相構造が形成されず、反応時間の短縮、吸水特性(吸水倍率、吸水速度、電解質水溶液への吸水効果)の向上が期待できない。
【0020】
また、上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンは、使用済みの廃材であってもよい。アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂として廃材を用いることは、環境保護の観点から有効である。
【0021】
本発明では、上述したように、原料となるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂が主にブタジエン部からなるゴム相と、スチレン部やアクリロニトリル部からなるガラス相の2相構造を形成している。したがって、酸処理した際には、まず始めにゴム相が反応して同樹脂表面がポーラスな状態となり、反応面積が増大して、スチレン部やアクリロニトリル部のガラス相の深部まで反応が進行することになる。
【0022】
以上の理由により、本発明によれば、官能基が導入されたアクリロニトリル部、ブタジエン部、スチレン部が有効に作用し、従来に比べて短時間で吸水性樹脂を得ることができる。さらに、本発明によれば、吸水特性に優れる吸水性樹脂を得ることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明の吸水性樹脂は、アクリロニトリル、スチレン、共役ジエンとを構成ユニットとして含有する高分子材料にイオン基が導入されてなるものである。
【0025】
共役ジエンは、高分子材料中でゴム相を形成しており、化学的な修飾を受けやすいため、酸及び/又はアルカリ処理に際して、最初に反応を受けることになる。すなわち、この共役ジエンを含有する高分子材料は、反応の進行とともにゴム相が膨潤し、その材料表面に亀裂が発生する。このため、この共役ジエンを含有する高分子材料は、その材料表面が酸及び/又はアルカリにより侵食されてポーラス状態となり、反応に関わる表面積が増大する。
【0026】
したがって、この共役ジエンを含有する高分子材料は、反応に係る表面積の増大から短時間で反応が完結され、かつ吸水に関しても、表面積の増加から優れた吸水特性をもつ。
【0027】
なお、共役ジエン部が反応を受け易くするためには、高分子材料中にゴム相が形成されていることが必要となるため、共役ジエン部は、ブロック共重合体の状態で同材料中に含有していることが好ましい。
【0028】
また、高分子材料中のアクリロニトリル部には、酸及び/又はアルカリ処理に際して、親水性のアミド基やカルボキシル基やその酸が導入されるため、得られた吸水性樹脂の吸水性を向上させる。
【0029】
また、高分子材料中のスチレン部には、特に酸処理に際して、スルホン酸基のような強酸性基が導入されるため、得られた吸水性樹脂の電解質水溶液に対する吸水効果を向上させる。
【0030】
以上の理由により、上記高分子材料は、アクリロニトリルを10〜50モル%、スチレンを30〜70モル%、共役ジエンを5〜50モル%、より好ましくは、アクリロニトリルを25〜40モル%、スチレンを40〜60モル%、共役ジエンを10〜30モル%を構成ユニットとして含有することが望ましい。
【0031】
高分子材料中に、上記3種の構成ユニットが所定量含有されていないと、ゴム相(主に共役ジエンリッチ領域)とガラス相(主にアクリロニトリル、スチレンリッチ領域)との2相構造が形成されず、反応時間の短縮、吸水特性(吸水倍率、吸水速度、電解質水溶液への吸水効果)の向上が期待できない。
【0032】
なお、上記高分子材料には、上記3種の構成ユニットが所定量含有されていれば、他の構成ユニットが含有されていてもよい。
【0033】
これら他の構成ユニットとしては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、α−メチルスチレン、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(炭素数:1〜10の飽和及び不飽和炭化水素 )、酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ビニルピロリドン、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0034】
また、上記アクリロニトリルを含有した廃材の重量平均分子量(Mw)としては、1000〜20000000、さらには、10000〜1000000が一般的である。分子量が1000より小さい場合には、改質処理をした際に水溶性を示すことになり、所望の吸水性樹脂が得られない。一方、分子量が20000000より大きい場合には、改質処理が難しくなる。ただし、高分子材料が廃材である場合には、樹脂間に架橋が形成されている場合があるため、特に分子量に限定されない。
【0035】
具体的に、この高分子材料としては、具体的にABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)が好ましい。
【0036】
この高分子材料は、新たに製造されたバージン材であってもよいし、樹脂原料や成形品の生産過程での排出品(半端品)、電化製品や自動車等に使用された筐体等の各種部品材料、チューブやホース等の各種緩衝材等の、ある特定の用途を目的として成型された使用済みの樹脂である廃材であってもよい。排出場所としては、工場、販売店、過程等のいずれであってもよいが、家庭からの一般廃棄物より工場や販売店等から回収されたものの方が、比較的組成がそろったものが多いためより好ましい。
【0037】
また、この高分子材料は、他の樹脂とのアロイ物であっても良く、顔染料や安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、その他補助剤等の添加剤を含んでいる廃材であってもよい。又は、使用樹脂である廃材とバージン材との混合物であってもよい。
【0038】
なお、上述した高分子材料は、本発明の改質処理を阻害しない樹脂であれば、他の異なる樹脂が混合されいてもよい。例えば、SAN樹脂(スチレン−アクリロニトリル樹脂)、ASA樹脂(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート樹脂)、ACS樹脂(アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン樹脂)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリル−スチレン樹脂)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル等が挙げられる。これらの中では、SAN樹脂、ASA樹脂、ACS樹脂、AAS樹脂、NBRゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド(ナイロン)が好適である。
【0039】
これら他の異なる樹脂は、全体の高分子材料に対して60重量%以下に混合されることが望ましい。他の異なる樹脂の含有量が60重量%を越えると、廃材へのイオン基の導入反応が阻害される虞がある。
【0040】
ところで、本発明の高分子樹脂は、無機顔料及び/又は金属粉顔料が含有されていると、改質処理がさらに促進される。
【0041】
無機顔料及び/又は金属粉顔料を含有する高分子材料は、改質反応の際に同顔料が同材料表面からはずれ易くなり、ポーラス状の表面が発生し反応表面積が増加することから、改質反応が促進される。引き続いて、このポーラス状の表面は、改質反応が活発化することで軟化状態となる。そのため、さらに深部に存在する顔料までが同材料から脱離されることになり、改質反応はより加速化されることになる。
【0042】
以上の理由により、顔料を含有する高分子材料は、改質反応の促進が図られ、改質後の高分子材料の表面は、深部までがポーラスな状態となる。したがって、この高分子材料から得られる吸水性樹脂は、吸水面積が多くなることから、吸水倍率、吸収速度の点から飛躍的に向上する。
【0043】
上述した無機顔料及び/又は金属粉顔料の含有量は、0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%である。
【0044】
顔料の含有量が少なすぎると、高分子材料の改質反応に対する促進効果が低くなる。一方、顔料の含有量が多くなりすぎると、経済的に不利になったり、改質反応のコントロールが困難になる。
【0045】
これら無機顔料及び金属粉顔料としては、上述した高分子材料に対して分散性の良好であるものが好ましく、カーボンブラック、鉄黒、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、群青、紺青、コバルトブルー、リトポン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、黄色酸化鉄、アンバー、シエンナー、オーカー、ビリジアン、アルミニウム粉、真鍮粉、ブロンズ粉等が挙げられる。特に、カーボンブラック、酸化チタンが好ましい。
【0046】
カーボンブラックは、チャンネル法、ファーネス法、サーメル法のいずれの方法によって製造されたものでもよく、それぞれの単独又は複数の併用で用いてもよい。なお、平均粒子径としては、5〜500μm、好ましくは10〜50μmである。
【0047】
酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型、長微粒子チタンのいずれのタイプでもよく、それぞれの単独又は複数の併用で用いてもよい。なお、平均粒子径としては、0.01〜50μmであり、好ましくは0.05〜10μmである。
【0048】
これら無機顔料や金属粉顔料は、高分子材料中に単独で含有されていてもよいし、2種類以上混合して含有されていてもよい。
【0049】
また、これら無機顔料や金属粉顔料は、吸水性樹脂を製造することを目的として、上述した高分子材料に添加してもよいし、着色剤、隠ぺい剤、補強剤、電気伝導性付与剤として他の目的で添加されたものであってもよいし、両方の目的であってもよい。
【0050】
本発明は、上述したように、原料となる高分子材料に、汎用性材料として大量に生産されたポリスチレン系樹脂製品やニトリルゴム製品等のように、予め顔料が添加されてなる廃材を使用することができることから、これら廃材の再利用法として非常に有効である。したがって、環境保護の観点からは、高分子材料に使用済みの樹脂からなる廃材を用いるとよい。
【0051】
ところで、上記処理により導入される置換基としては、スルホン酸基及びその塩、−PO(OH)2及びその塩、−CH2PO(OH)2及び塩、−NO2、カルボキシル基及びその塩、水酸基及びその塩、クロロメチル化アミン基及び/その塩が挙げられる。このなかでも、スルホン酸及びその塩が好ましい。これら置換基は、単独であっても、2種類以上導入されていてもよい。
【0052】
なお、この置換基の導入量は、全ユニットに対して、5〜95モル%、好ましくは10〜70モル%である。
【0053】
置換基の導入量が多すぎると、高分子材料の改質物が水溶性を示してしまい、吸水性樹脂として使用できなくなってしまう。一方、置換基の導入量が少ないと、吸水効果が低下してしまい、特に電解質水溶液に対する吸水性効果が低下してしまう。
【0054】
以下、アクリロニトリル、スチレン、共役ジエンとを含有する高分子材料を酸及び/又はアルカリ処理する、吸水性樹脂の製造方法について説明する。
【0055】
本発明を適用した吸水性樹脂の製造方法は、アクリロニトリル、スチレン、共役ジエンとを含有する高分子材料を、アルカリ処理及び/又は酸処理することにより、吸水性樹脂への改質を行うものである。
【0056】
アルカリ処理及び/又は酸処理に際して、高分子材料中のアクリロニトリルには、アミド基やカルボキシル基若しくはその塩に転換される。一方、スチレン部には、スルホン酸基等の酸性のイオン基が導入され、共役ジエン部には、水酸基若しくはその塩やスルホン酸基等の酸性のイオン基が導入される。
【0057】
アルカリ処理に用いられるアルカリとしては、無機アルカリが好ましい。無機アルカリとしては、アルカリ金属(ナトリウム、リチウム、カリウム等)や、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、硫酸塩、リン酸餌過度の化合物及び水溶液が挙げられる。
【0058】
上述したアルカリと高分子材料とを反応させることにより、アクリロニトリル部と共役ジエン部は、加水分解を受けることになり、それぞれアミド基や水酸基が導入されることになる。さらに、アルカリを加えることにより、アミド基はカルボキシル基やその塩、また水酸基は水酸塩に置換されることになる。
【0059】
酸処理に用いられる酸としては、無機酸が好ましい。無機酸としては、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸等のスルホン化剤や、硝酸、発煙硝酸、燐酸、塩化燐、酸化燐等が挙げられる。これらの中では、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸が好ましく、特に70重量%以上の濃硫酸が好ましい。
【0060】
上述した無機酸と高分子材料とを反応させることにより、アクリロニトリル部は加水分解を受け、アミド基やカルボキシル基に改質される。一方、スチレン部や共役ジエン部には、スルホン酸基や−PO(OH)2、−CH2PO(OH)2、ニトロ基等の酸性のイオン基が導入されることになる。
【0061】
なお、上述した酸処理において、スルホン化剤を用いる場合、ルイス塩基を併用してもよい。このルイス塩基としては、アルキルフォスフェート(トリエチルフォスフェート、トリメチルフォスフェート)、ジオキサン、無水酢酸、酢酸エチル、パルミチン酸エチル、ジエチルエーテル、チオキサン等が挙げられる。この酸処理において、併用されるルイス塩基の添加量は、高分子材料中のモノマーユニット全体に対して1〜200モル%とされ、好ましくは、2〜100モル%とされる。この酸処理において、ルイス塩基の添加量が上述した範囲より少ないと、反応中にゲル化物が発生し易くなり好ましくない。また、ルイス塩基の添加量が上述した範囲より多いと、スルホン化反応が進行し難くなってしまい好ましくない。
【0062】
上述したアルカリ及び/又は酸の仕込量としては、アルカリ又は酸の濃度に大きく影響を受けるが、概ね高分子材料の重量に対して、1〜500倍、好ましくは5〜200倍である。
【0063】
アルカリ及び/又は酸の仕込量が少なすぎると、スチレンや共役ジエンへのイオン基の導入率及びアクリロニトリルの加水分解率が低下することになり、吸水性樹脂としての性能(吸水性)が低下してしまう。一方、アルカリ及び/又は酸の仕込量が多すぎると、過剰分のアルカリや酸を水洗及び中和することが必要になり、経済的にも作業的にも不利になる。
【0064】
これらアルカリや酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上で併用してもよい。併用する場合は、混合してもよいし(ただし、アルカリと酸は混合して使用しない)、逐次添加してもよい。例えば、酸処理を行った後で、アルカリ処理してもよいし、アルカリ処理を行った後で、酸処理してもよいし、濃硫酸で処理した後に、無水硫酸で処理(酸処理→酸処理)してもよい。
【0065】
ここで、具体的に、アルカリ処理及び/又は酸処理は、以下のように行われる。
【0066】
(1)先ず、高分子材料に対して濃硫酸又はクロルスルホン酸のいずれか一方を添加し、次に、無水硫酸又は発煙硫酸のいずれか一方を添加することが好ましい。この手法では、先ず、濃硫酸又はクロルスルホン酸のいずれか一方が添加されることによって、高分子材料中のスチレンや共役ジエン部にスルホン酸基が導入される。そして、次に、無水硫酸又は発煙硫酸のいずれか一方が添加されることによって、同高分子材料がスルホン架橋されることとなる。このため、この手法によれば、架橋度の高い吸水性樹脂を得ることができる。したがって、この手法によれば、水系で優れた形状安定性を有する機能性樹脂を得ることができる。
【0067】
(2)先ず、溶媒中でスルホン化剤(無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、濃硫酸等)と高分子材料とを反応させることによって、高分子材料中にスルホン酸基を導入することができる。または、溶媒中にn−ブチルリチウムを添加し、さらにドライアイスと反応させることによって、高分子材料中にカルボキシル基を導入することができる。または、溶媒中に三塩化燐を添加し、さらに加水分解することによって、高分子材料中に−PO(OH)2基を導入することができる。
【0068】
(3)ポリスチレン系樹脂廃材については、クロロメチルエーテルとルイス酸とによりクロロメチル化し、さらにアンモニアや各種アミン化合物と反応させることによって、樹脂に3級又は4級アミン塩をイオン基として導入することができる。または、ポリスチレン系樹脂廃材をクロロメチル化物と三塩化燐と反応させ、さらに加水分解することによって、ポリスチレン系樹脂廃材に−PO(OH)2基を導入することができる。
【0069】
さらに、上述した改質処理は、アルカリや酸中で行ってもよいが、有機溶媒を用いた系で行ってもよい。
【0070】
反応系に用いられる溶媒としては、炭素数1〜2の脂肪族ハロゲン化炭化水素(好ましくは1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタン)、脂肪族環状炭化水素(好ましくは、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン)、ニトロメタン、ニトロベンゼン、二酸化イオウ、炭素数1〜7のパラフィン系炭化水素、アセトニトリル、二硫化炭素、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトン、メチルエチルケトン、チオフェン等が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜2の脂肪族ハロゲン化炭化水素、脂肪族環状炭化水素、ニトロメタン、ニトロベンゼン、二酸化イオウである。これら溶媒は、そのもの単体で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。上述した溶媒内での混合比率は、特に限定されない。
【0071】
これら有機溶媒の添加量は、高分子材料重量に対して約200倍未満であることが好ましい。有機溶媒の添加量がこの範囲より多い場合には、改質処理の反応率が低くなるとともに、経済的にも不利である。
【0072】
なお、上記改質処理に一度使用したアルカリ、酸、及び有機溶媒は、反応終了後回収してそのまま、又は抜き取りや蒸留等の手法により回収して再度反応に使用してもよい。
【0073】
ところで、上述したようなアルカリ処理及び/又は酸処理においては、原料となる高分子材料の粒径を細かしておくことが好ましい。高分子材料の表面積を増加させることにより、改質処理される部分を増加させることになり、高分子材料に対するイオン基の導入率を向上させることができる。
【0074】
このように高分子材料の粒径を細かくするためには、高分子材料の塊を粉砕機等により粉砕し、この粉砕物を振るい分けするといった手法が挙げられる。高分子材料に廃材を用いる場合には、ゴム成分が含有されていることがあるため、低温で廃材を凍結させた後に粉砕処理を行うことが好ましい。
【0075】
また、ポリスチレン系樹脂等のような高分子材料をの粒径を細かくするためには、高分子材料を加熱溶融し、加熱溶融した高分子材料を微小な粒子状にするといった手法を用いることもできる。
【0076】
具体的に本発明において、イオン基の導入率を向上させるためには、高分子材料の小片サイズを3.5メッシュ以上のメッシュを通過するサイズとすることが好ましい。高分子材料の小片サイズがこれより大きくなると、被反応物の表面積が小さくなり改質処理されにくくなるため、反応時間がかかり実用的でにとともに、吸水性樹脂として性能(吸水性)が大幅に低下することになる。
【0077】
なお、上述した高分子材料へのイオン基の導入反応では、イオン基を導入する際に、反応系に分散剤を添加してもよい。これによって、高分子材料は、反応系において良好に分散することとなり、イオン基の導入率が向上したものとなる。
【0078】
さらに、上述した改質処理の反応温度は、アルカリや酸の種類、有機溶媒の使用の有無で大きく異なるが、0〜200℃とされ、好ましくは、30〜150℃とされる。温度が低くすぎると、反応速度が遅くなり実用的でないとともに、イオン基の導入率が低下して良好な吸水効果が得られなくなる。一方、温度が高すぎると、熱分解により高分子材料の分子鎖が切断されやすくなり、樹脂が水溶性を示してしまい、吸水性樹脂として使用できなくなる。
【0079】
また、反応時間は、反応温度によって大きく異なるが、概ね1分〜40時間とされ、好ましくは、5分〜10時間とされる。反応時間が短すぎると、反応が十分に進行しない。一方、反応時間が長すぎると、生産効率が悪くなってしまう。
【0080】
以上、アルカリ処理や酸処理によりイオン基が導入された反応物は、反応系全体を多量の水で洗浄するか、逆性の水溶液で中和するとよい。または同反応系から同反応物をまずフィルター等で濾過し、これを多量の水や逆性の水溶液に投入して洗浄してもよい。洗浄された反応物は、アクリロニトリル基の一部が加水分解されてアクリルアミドとなり、さらに親水性が向上する。
【0081】
以上のようにして得られた改質物は、ゲル状であるために、天日、加熱、減圧、遠心及びプレス等の乾燥処理が施され、所望の吸水性樹脂となる。
【0082】
本発明は、以上説明した処理方法により、高分子材料中のアクリロニトリル部のニトリル基が加水分解されてアミド基、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩に転換される。また、高分子材料中の共役ジエン部の二重結合は、加水分解により水酸基及び/又はその塩、若しくは酸性のイオン基が導入される。スチレン部のベンゼン環には、酸性のイオン基が導入される。
【0083】
この際、アミド基、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩、水酸基及び/又はその塩は、水分に対する吸収性を向上させる点で必要であり、、ベンゼン環や二重結合に導入された酸性のイオン基は、電解質水溶液に対しての吸水性を向上させることになる。なお、ABS樹脂内に元々存在する橋かけ部分は、上記反応後においても水溶性を示すことがなく、ゲル強度の高い吸水性樹脂を形成することに貢献している。
【0084】
このようにして得られた吸水性樹脂は、紙おむつや生理用品等の衛生材料、土に保水性を持たせることを目的とした土建、農林、園芸用材料(砂漠等の緑化用)、芳香剤を長期持続させるための保香剤、有機無機物質からの脱水剤、消化用薬剤、シーリング剤、パッキング剤、結露防止剤、静電防止剤、コーティング剤、乾燥剤、水処理等の種々の用途に使用することができる。
【0085】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明が本実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0086】
実施例1
化成品のABS樹脂(構成ユニットとして、スチレンユニットを44モル%、アクリロニトリルユニットを29モル%、ブタジエンユニットを28モル%含有。無機顔料として、酸化チタンを1重量%含有。)を冷凍粉砕し、32〜150メッシュの粉砕物とした。そして、この粉砕物:3gを、96重量%の濃硫酸:90g中に加え、80℃で5分間反応させた。反応終了後、反応系中の固形物をグラスフィルターで濾過し、水洗の後、循風乾燥機にて115℃で2時間乾燥した。これにより、吸水性樹脂(実施例1)が得られた。
【0087】
この吸水性樹脂(実施例1)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの35モル%であった。
【0088】
実施例2
使用済み8mmカセットテープのガードパネル(黒色部分)(ABS樹脂廃材;構成ユニットとして、スチレンユニットを50モル%、アクリロニトリルユニットを35モル%、ブタジエン部を15モル%含有。カーボンブラックを1重量含有。)を粉砕し、32〜150メッシュの粉砕物とした。
【0089】
次に、この粉砕物:3gを、89重量%の濃硫酸:90g中に加え、60℃で20分間反応させた。その後、室温まで冷却し、60重量%の発煙硫酸:0.5gを追加添加し、さらに10分間反応させた。反応終了後、反応系中の固形物をグラスフィルターで濾過し、水洗の後、乾燥機にて2時間乾燥した。これにより、吸水性樹脂(実施例2)が得られた。
【0090】
この吸水性樹脂(実施例2)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの45モル%であった。
【0091】
実施例3
実施例1とABS樹脂の粉砕物を5重量%の水酸化ナトリウム水溶液に加え、95℃で1時間反応させた。反応終了後、反応系中の固形物を濾過し、水洗の後、乾燥器にて2時間乾燥させた。これにより、吸水性樹脂(実施例3)が得られた。
【0092】
この吸水性樹脂(実施例3)中のカルボン酸ソーダ基は、全モノマーユニットの25モル%であった。
【0093】
実施例4
実施例1と同じ樹脂組成をもち、酸化チタンを全く含まない化成品のABS樹脂(ナチュラルタイプ)を冷凍粉砕し、32〜150メッシュの粉砕物とした。この粉砕物を実施例1と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(実施例4)を得た。
【0094】
この吸水性樹脂(実施例4)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの20モル%であった。
【0095】
比較例1
試薬のSAN樹脂(構成ユニットとして、スチレンユニットを60モル%、アクリロニトリルユニットを40モル%含有。顔料は含有せず)を原料として用いた以外は、実施例1と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(比較例1)を得た。
【0096】
この吸水性樹脂(比較例1)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの12モル%であった。
【0097】
比較例2
試薬のHIPS樹脂(構成ユニットとして、スチレンユニットを60モル%、ブタジエンユニットを40モル%含有。顔料は含有せず)を原料として用いた以外は、実施例1と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(比較例2)を得た。
【0098】
この吸水性樹脂(比較例2)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの9モル%であった。
【0099】
比較例3
試薬のNBRゴム(構成ユニットとして、アクリロニトリルユニットを22モル%、ブタジエンユニットを78モル%含有。顔料は含有せず)を原料として用いた以外は、実施例1と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(比較例3)を得た。
【0100】
この吸水性樹脂(比較例3)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの14%であった。
【0101】
比較例4
比較例1のSAN樹脂を用いた以外は、実施例2と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(比較例4)を得た。
【0102】
この吸水性樹脂(比較例4)中のスルホン酸基は、全モノマーユニットの14%であった。
【0103】
比較例5
比較例1のSAN樹脂を用いた以外は、実施例3と同様の方法で処理し、吸水性樹脂(比較例5)を得た。
【0104】
この吸水性樹脂(比較例5)中のカルボン酸ソーダ基は、全モノマーユニットの10%であった。
【0105】
特性評価1
実施例1〜実施例4、及び比較例1〜比較例5の各吸水性樹脂について、以下に示すようにその吸水性を調べた。
【0106】
実施例及び比較例の各吸水性樹脂1gを純水中に浸漬し、1分経過後、2分経過後、4分経過後の重量を測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1の結果から、スチレン、アクリロニトリル、共役ジエンの3種のユニットの全てを含有する吸水性樹脂(実施例1〜実施例4)は、同3種のユニットの全てを含有しない吸水性樹脂(比較例1〜比較例5)に比べて、吸水速度及び吸水倍率の両方の点で優れていることがわかる。
【0109】
また、実施例1と実施例4の結果を比較してわかるように、無機顔料を含有させることにより、より優れた吸水速度及び吸水倍率を示すことがわかる。
【0110】
これまで、ABS樹脂の廃材は、樹脂組成が製品によってまちまちで再溶融すると極度に性能が低下するため、再利用が難しかった。しかし、本発明を適用することにより、ABS樹脂の廃材を原料として利用することができるため、資源の有効利用につながる。
【0111】
特性評価2
実施例1〜実施例4、及び比較例1〜比較例5の各吸水性樹脂について、以下に示すようにその吸水性を調べた。
【0112】
実施例及び比較例の各吸水性樹脂1gを1重量%の塩化カルシウムに浸漬し、1分経過後、2分経過後、4分経過後の重量を測定した。その結果を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
表2の結果から、スチレン、アクリロニトリル、共役ジエンの3種のユニットの全てを含有する吸水性樹脂(実施例1〜実施例4)は、同3種のユニットの全てを含有しない吸水性樹脂(比較例1、比較例4、比較例5)に比べて、人工尿や電解質水溶液(2価の金属塩水溶液)に対しても優れた吸水性を示すことがわかる。
【0115】
また、実施例1と実施例4の結果を比較してわかるように、無機顔料を含有させることにより、より優れた吸水速度及び吸水倍率を示すことがわかる。
【0116】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、吸水性に優れる吸水性樹脂を短時間に得ることができる。
【0117】
さらに、本発明によれば、これまでリサイクルが難しかった使用済みの廃材を用いることができるため、資源の有効利用につながり、地球の環境保全に貢献することができる。
Claims (12)
- アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂のブタジエン部及びスチレン部にスルホン酸基及び/又はその塩が導入され、アクリルニトリル部にアミド基及び/又はその塩、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩が導入されてなることを特徴とする吸水性樹脂。
- 上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、10〜50モル%のアクリロニトリルと、30〜70モル%のスチレンと、5〜50モル%のブタジエンとからなることを特徴とする請求項1記載の吸水性樹脂。
- 上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、使用済みの廃材であることを特徴とする請求項1記載の吸水性樹脂。
- 上記官能基は、上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中の全ユニットに対して10〜70モル%導入されていることを特徴とする請求項1記載の吸水性樹脂。
- 上記官能基は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂の酸処理により導入されることを特徴とする請求項1記載の吸水性樹脂。
- アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂を酸処理し、上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂のブタジエン部及びスチレン部にスルホン酸基及び/又はその塩を導入し、アクリルニトリル部にアミド基及び/又はその塩、若しくはカルボキシル基及び/又はその塩を導入することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
- 上記酸処理においては、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硝酸、発煙硝酸、燐酸、塩化燐、酸化燐の少なくとも1種以上の無機酸を用いることを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
- 上記酸処理においては、70重量%の濃硫酸を用いることを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
- 上記酸処理においては、3.5メッシュ以上のメッシュサイズを通過するアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂を用いることを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
- 上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、10〜50モル%のアクリロニトリルと、30〜70モル%のスチレンと、5〜50モル%のブタジエンとからなることを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
- 上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂は、使用済みの廃材であることを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
- 上記官能基を上記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂中の全ユニットに対して10〜70モル%導入することを特徴とする請求項6記載の吸水性樹脂の製造方法。
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