JP3921866B2 - L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法 - Google Patents

L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法 Download PDF

Info

Publication number
JP3921866B2
JP3921866B2 JP06832499A JP6832499A JP3921866B2 JP 3921866 B2 JP3921866 B2 JP 3921866B2 JP 06832499 A JP06832499 A JP 06832499A JP 6832499 A JP6832499 A JP 6832499A JP 3921866 B2 JP3921866 B2 JP 3921866B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
gene
glutamic acid
activity
strain
klebsiella
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP06832499A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2000106869A (ja
Inventor
美加 守屋
裕 泉井
栄治 小野
和彦 松井
久生 伊藤
吉彦 原
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Ajinomoto Co Inc
Original Assignee
Ajinomoto Co Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Ajinomoto Co Inc filed Critical Ajinomoto Co Inc
Priority to JP06832499A priority Critical patent/JP3921866B2/ja
Publication of JP2000106869A publication Critical patent/JP2000106869A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3921866B2 publication Critical patent/JP3921866B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なL−グルタミン酸生産菌及びそれを用いた発酵法によるL−グルタミン酸の製造法に関する。L−グルタミン酸は、食品、医薬品等として重要なアミノ酸である。
【0002】
【従来の技術】
従来、L−グルタミン酸は、主としてブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属に属するいわゆるコリネ型L−グルタミン酸生産菌またはそれらの変異株を用いた発酵法により製造されている(アミノ酸発酵、学会出版センター、195〜215頁、1986年)。その他の菌株を用いた発酵法によるL−グルタミン酸の製造法としては、バチルス属、ストレプトミセス属、ペニシリウム属等の微生物を用いる方法(米国特許第3,220,929号)、シュードモナス属、アースロバクター属、セラチア属、キャンディダ属等の微生物を用いる方法(米国特許第3,563,857号)、エシェリヒア・コリの変異株を用いる方法(特開平5−244970号)等が知られている。
【0003】
上記のような微生物の育種や製造法の改良により、L−グルタミン酸の生産性はかなり高まってはいるが、今後の需要の一層の増大に応えるためには、さらに安価かつ効率的なL−グルタミン酸の製造法の開発が求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、高いL−グルタミン酸生産能を有する新規なL−グルタミン酸生産菌を見出し、安価かつ効率的なL−グルタミン酸の製造法の開発につなげることにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために、従来の微生物とは異なった微生物であって、かつL−グルタミン酸生産能を有する微生物を広く検索、研究した結果、クレブシエラ属またはエルビニア属に属する微生物由来の誘導株が高いL−グルタミン酸生産能を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属し、L−グルタミン酸生産能を有する微生物。
(2)クレブシエラ・プランティコーラまたはパントエア・アグロメランスに属する(1)の微生物。
(3)L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性が高められた(1)または(2)の微生物。
(4)L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素が、クエン酸シンターゼ(以下「CS」と略す)、フォスフォエノールピルベートカルボキシラーゼ(以下「PEPC」と略す)、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下「GDH」と略す)から選ばれる(3)の微生物。
(5)L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素が、CS、PEPC、およびGDHのすべてである(4)の微生物。
(6)L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下あるいは欠損した(1)〜(5)のいずれかの微生物。
(7)L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素がα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(以下「αKGDH」と略す)である(6)の微生物。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかの微生物を液体培地に培養し、培地中にL−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを該培地から採取することを特徴とするL−グルタミン酸の製造法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物には、以下のようなものがある。
【0008】
クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)
クレブシエラ・テリゲナ(K. terrigena)
エルビニア・ヘルビコーラ(Erwinia herbicola)(現在は、パントエア・アグロメランスに分類されている)
エルビニア・アナナス(E. ananas)
エルビニア・カクティシダ(E. cacticida)
エルビニア・クリサンテミ(E. chrysanthemi)
エルビニア・マロティボラ(E. mallotivora)
エルビニア・ペルシシナス(E. persicinus)
エルビニア・プシディ(E. psidii)
エルビニア・ケルシナ(E. quercina)
エルビニア・ラポンティシ(E. rhapontici)
エルビニア・ルブリファシエンス(E. rubrifaciens)
エルビニア・サリシス(E. salicis)
エルビニア・ウレドボラ(E. uredovora)
パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)
パントエア・ディスペルサ(P. dispersa)
【0009】
さらに好ましくは、以下に示す菌株が挙げられる。
クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399
エルビニア・ヘルビコーラ IAM1595(パントエア・アグロメランスAJ2666)
【0010】
クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P−16646として寄託され、平成11年1月11日にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6616が付与されている。また、エルビニア・ヘルビコーラに分類されていた微生物は現在パントエア・アグロメランスに分類されている。そのため、エルビニア・ヘルビコーラ IAM1595は、パントエア・アグロメランス AJ2666と名付けられ、平成11年2月25日にブタペスト条約に基づく国際寄託として、通産省工業技術院生命工学技術研究所に寄託され、受託番号FERM BP−6660が付与されている。
【0011】
クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株は、北海道札幌市の土壌から分離された株である。
以下に、AJ13399の生理的性質を記す。
【0012】
(1)細胞の形:桿菌
(2)運動性:なし
(3)胞子:なし
(4)LabM栄養寒天培地でのコロニー形態:円形、表面は平滑、クリーム色、なめらか、***状、光沢有り。
(5)グルコースOFテスト:発酵能ポジティブ
(6)グラム染色性:陰性
(7)酸素に対する挙動:通性嫌気性
(8)カタラーゼ:ポジティブ
(9)オキシダーゼ:ネガティブ
(10)ウレアーゼ:ポジティブ
【0013】
(11)チトクロームオキシダーゼ:ネガティブ
(12)β−ガラクトシダーゼ:ポジティブ
(13)アルギニンデヒドラターゼ:ネガティブ
(14)オルニチンデカルボキシラーゼ:ネガティブ
(15)リジンデカルボキシラーゼ:ポジティブ
(16)トリプトファンデアミナーゼ:ネガティブ
(17)フォゲス−プロスカウエル試験:ポジティブ
(18)インドール生成:ポジティブ
(19)TSI培地での硫化水素生成:ネガティブ
(20)クエン酸資化性:ポジティブ
【0014】
(21)M−ハイドロキシベンゼン酸資化性:ネガティブ
(22)ゼラチン液化能:ネガティブ
(23)糖からの酸の生成
グルコース:ポジティブ
マンニトール:ポジティブ
ラムノース:ポジティブ
アラビノース:ポジティブ
シュークロース:ポジティブ
ソルビトール:ポジティブ
イノシトール:ポジティブ
メリビオース:ポジティブ
アミグダリン:ポジティブ
アドニトール−ペプトン−水:ポジティブ
セロビオース−ペプトン−水:ポジティブ
デュルシトール−ペプトン−水:ネガティブ
ラフィノース−ペプトン−水:ポジティブ
(24)生育温度 37℃生育良好、45℃生育不可
【0015】
これらの菌学的性質からAJ13399は、クレブシエラ・プランティコーラと判定された。
【0016】
Bergey's Manual of Determinative Bacteriology第9版には、エルビニア・ハルビコーラは存在せず、従来エルビニア・ハルビコーラに分類されていた微生物はパントエア・アグロメランスに分類されている。このようにエルビニア属細菌とパントエア属細菌は非常に近縁であり、本発明においてはエルビニア属細菌とパントエア属細菌のいずれも用いることができる。
【0017】
上記したようなクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する細菌による糖の代謝はエムデン−マイヤーホフ経路を経て行われ、同経路で生成するピルビン酸は好気的条件下ではトリカルボン酸サイクルにて酸化される。L−グルタミン酸は、トリカルボン酸サイクルの中間体であるα−ケトグルタル酸より、GDHあるいはグルタミンシンセターゼ/グルタミン酸シンターゼによって生合成される。このように、これらの微生物ではL−グルタミン酸生合成経路は共通のものであり、本発明においては、クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物は単一の概念を形成する。従って、上記した種または菌株以外のクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物も本発明に含まれる。
【0018】
本発明の微生物は、上記のようなクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物であって、L−グルタミン酸生産能を有する微生物である。ここで「L−グルタミン酸生産能を有する」とは、培養したときに培地中にL−グルタミン酸を蓄積する能力を有することをいう。このL−グルタミン酸生産能は、野生株の性質として有するものであってもよく、育種によって付与または増強された性質であってもよい。クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物においてL−グルタミン酸生産能を有する微生物としては、例えば、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性が高められた微生物、またはL−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下あるいは欠損した微生物が挙げられる。また、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性が高められ、かつ、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下あるいは欠損した微生物も含まれる。
【0019】
L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素としては、GDH、グルタミンシンセターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、CS、PEPC、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等が挙げられる。これらの酵素の中では、CS、PEPCおよびGDHのいずれか1種または2種もしくは3種が好ましい。さらに、本発明の微生物においては、CS、PEPCおよびGDHの3種の酵素の活性がともに高められていることが好ましい。細胞中の目的酵素の活性が増加していること、および活性の増加の程度は、微生物の菌体抽出液または精製画分の酵素活性を測定し、野生株または親株と比較することによって確認することができる。
【0020】
クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属し、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性が高められた微生物は、例えば、前記の微生物を出発親株に用い、これらの酵素をコードする遺伝子に変異を生じた変異株として、または遺伝子組換え株として取得することができる。
【0021】
CS、PEPCまたはGDH活性を高めるには、CS、PEPCまたはGDHをコードする遺伝子を適当なプラスミド上にクローニングし、得られたプラスミドを用いて、宿主となる上記出発親株を形質転換すればよい。形質転換株の細胞内のCS、PEPCまたはGDHをコードする遺伝子(以下、おのおのをこの順に「gltA遺伝子」、「ppc遺伝子」、「gdhA遺伝子」と略する)のコピー数が上昇し、その結果CS、PEPCまたはGDH活性が高められる。
【0022】
クローニングされたgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、単独または任意の2種または3種の組合わせで、上記出発親株に導入される。2種または3種の遺伝子を導入する場合には、一種類のプラスミド上に2種又は3種の遺伝子がクローン化されて宿主に導入されるか、あるいは共存可能な2種類または3種類のプラスミド上に別々にクローン化されて宿主に導入される。
【0023】
上記プラスミドとしては、クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物の細胞中で自律複製可能なプラスミドであれば特に制限されないが、例えばpUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218等が挙げられる。他にもファージDNAのベクターも利用できる。
【0024】
形質転換は、例えば、D.M.Morrisonの方法(Methods in Enzymology 68, 326 (1979))あるいは受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M. and Higa,A.,J.Mol.Biol.,53,159(1970))等により行うことができる。
【0025】
CS、PEPCまたはGDH活性を高めることは、gltA遺伝子、ppc遺伝子またはgdhA遺伝子を、宿主となる上記出発親株の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物の染色体DNA上にgltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子を多コピーで導入するには、レペッティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーティッド・リピート等、染色体DNA上に多コピー存在する配列が利用できる。あるいは、gltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子をトランスポゾンに搭載して、これを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。形質転換株の細胞内のgltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子のコピー数が上昇し、その結果CS、PEPCまたはGDH活性が高められる。
【0026】
コピー数を上昇させるgltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子の供給源となる生物としては、CS、PEPCまたはGDH活性を有する生物ならいかなる生物でも良い。なかでも原核生物である細菌、たとえばエンテロバクター属、クレブシェラ属、エルビニア属、パントエア属、セラチア属、エシェリヒア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、バチルス属に属する細菌が好ましい。具体的な例としては、エシェリヒア・コリが挙げられる。gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、上記のような微生物の染色体DNAより得ることができる。
【0027】
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、おのおのCS、PEPCまたはGDH活性を欠失した変異株を用いて、その栄養要求性を相補するDNA断片を上記微生物の染色体DNAから単離することによって取得できる。またエシェリヒア属細菌のこれら遺伝子、コリネバクテリウム属細菌のこれら遺伝子は既に塩基配列が明らかにされていることから(Biochemistry、第22巻、5243〜5249頁、1983年;J.Biochem.、第95巻、909〜916頁、1984年;Gene、第27巻、193〜199頁、1984年;Microbiology、第140巻、1817〜1828頁、1994年;Mol.Gen.Genet.、第218巻、330〜339頁、1989年;Molecular Microbiology、第6巻、317〜326頁、1992年)、それぞれの塩基配列に基づいてプライマーを合成し、染色体DNAを鋳型にしてPCR法により取得することが可能である。
【0028】
CS、PEPCまたはGDH活性を高めるには、上記の遺伝子増幅による以外にも、gltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子の発現が強化されることによって達成される。例えば、gltA遺伝子、ppc遺伝子、またはgdhA遺伝子のプロモーターをそれよりも強力な他のプロモーターに置換することによって発現が強化される。たとえば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。プロモーターが置換されたgltA遺伝子、ppc遺伝子またはgdhA遺伝子は、プラスミド上にクローニングされて宿主微生物に導入されるか、またはレペッティブDNA、インバーティッド・リピート、またはトランスポゾン等を用いて宿主微生物の染色体DNA上に導入される。
【0029】
また、CS、PEPCまたはGDH活性を高めるには、染色体上のgltA遺伝子、ppc遺伝子またはgdhA遺伝子のプロモーターを、それらよりも強力なプロモーターで置換する(WO87/03006号、特開昭61−268183号参照)か、またはそれぞれの遺伝子のコード配列の上流に、強力なプロモーターを挿入すること(Gene, 29, (1984) 231-241参照)によっても達成することができる。具体的には、強力なプロモーターに置換されたgltA遺伝子、ppc遺伝子もしくはgdhA遺伝子またはそれらの一部を含むDNAと、染色体上の対応する遺伝子との間で相同組換えを起こさせればよい。
【0030】
CS、PEPCまたはGDH活性が高められたクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物として具体的には、クレブシエラ・プランティコーラAJ13399/RSFCPGおよびエルビニア・ヘルビコーラIAM1595/RSFCPGが挙げられる。
【0031】
L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、αKGDH、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、L−グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリンデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。これらの酵素の中では、αKGDHが好ましい。
【0032】
クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物において、上記のような酵素の活性を低下または欠損させるには、通常の変異処理法によって、あるいは遺伝子工学的手法によって、上記酵素の遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。
【0033】
変異処理法としては、たとえばX線や紫外線を照射する方法、またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤で処理する方法等がある。遺伝子に変異が導入される部位は、酵素タンパク質をコードするコード領域であってもよく、プロモーター等の発現制御領域であってもよい。
【0034】
また、遺伝子工学的手法には、例えば遺伝子組換え法、形質導入法、細胞融合法等を用いる方法がある。例えば、クローン化された目的遺伝子の内部に薬剤耐性遺伝子を挿入し、機能を失った遺伝子(欠陥遺伝子)を作製する。次いで、この欠陥遺伝子をクレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物の細胞に導入し、相同組み換えを利用して染色体上の目的遺伝子を前記欠陥遺伝子に置換する(遺伝子破壊)。
【0035】
細胞中の目的酵素の活性が低下または欠損していること、および活性の低下の程度は、候補株の菌体抽出液または精製画分の酵素活性を測定し、野生株または親株と比較することによって確認することができる。例えば、αKGDH活性は、Reedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って酵素活性を測定することができる。
【0036】
また、目的とする酵素によっては、変異株の表現型によって目的変異株を選択することができる。例えば、αKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株は、好気的培養条件ではグルコースを含む最少培地、あるいは、酢酸やL−グルタミン酸を唯一の炭素源として含む最少培地で生育できないか、または生育速度が著しく低下する。ところが、同一条件でもグルコースを含む最少培地にコハク酸またはリジン、メチオニン、及びジアミノピメリン酸を添加することによって通常の生育が可能となる。これらの現象を指標としてαKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株の選抜が可能である。
【0037】
相同組換えを利用したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのαKGDH遺伝子欠損株の作製法は、WO95/34672号に詳述されており、クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属する微生物にも同様の方法を適用することができる。
【0038】
その他、遺伝子のクローニング、DNAの切断、連結、形質転換法等の技術については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989))等に詳述されている。
【0039】
以上のようにして得られるαKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株の具体例としては、クレブシエラ・プランティコーラ AJ13410が挙げられる。クレブシエラ・プランティコーラ AJ13410は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P−16647として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−6617が付与されている。
【0040】
クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属し、上記のようにしてαKGDH活性が低下あるいは欠損した株、あるいはCS、PEPCまたはGDH活性が高められた株は、後記実施例に示すように、L−グルタミン酸生産能を有する。
【0041】
クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属と同じ腸内細菌群に含まれるエシェリヒア属に属する微生物に関しては、αKGDH活性が低下あるいは欠損した株がL−グルタミン酸を生成しうること(特開平5−244970号)、αKGDH活性が低下あるいは欠損し、かつPEPC活性とGDH活性が高められた株が更に著量のL−グルタミン酸を生成しうること(特開平7−203980号)、および、バリン感受性を示しCS活性とGDH活性が高められた株がL−グルタミン酸を生成しうること(WO97/08294号)が知られている。
【0042】
また、同じく腸内細菌群に含まれるエンテロバクター属に属する微生物に関しては、αKGDH活性が低下あるいは欠損した株、あるいはPEPC活性、GDH活性、及びCS活性が高められた株がL−グルタミン酸を生成しうることを発明者らは発見した(特願平10−69068号)。
【0043】
さらに、セラチア属に属する微生物に関しても、PEPC活性、GDH活性、及びCS活性が高められた株がL−グルタミン酸を生成しうることを発明者らは発見した(特願平10−69068号)。
【0044】
これらの事実より、実施例に示した菌株に限られず、クレブシエラ属、エルビニア属、パントエア属、エシェリヒア属、エンテロバクター属、またはセラチア属の他の微生物に関しても、αKGDH活性が低下あるいは欠損した株、あるいはPEPC活性、GDH活性、及びCS活性が増幅された株がL−グルタミン酸を生成しうることは、容易に推察される。また、実施例に示すように、αKGDHを欠損させることにより、クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株へL−グルタミン酸生産能を付与できることは、他のクレブシエラ属細菌、エルビニア属またはパントエア属の細菌にも適用できることが強く支持される。
【0045】
クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属し、L−グルタミン酸生産能を有する微生物を液体培地に培養し、培地中にL−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを該培地から採取することにより、L−グルタミン酸を製造することができる。前記培地としては、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の栄養培地を用いることができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は、培養する菌株の利用可能なものならばよい。
【0046】
炭素源としてはグルコース、グリセロール、フラクトース、シュークロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、でんぷん加水分解物、糖蜜等の糖類が使用され、その他、酢酸、クエン酸等の有機酸等も単独あるいは他の炭素源と併用して用いられる。
【0047】
窒素源としてはアンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用される。
【0048】
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、さらにこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆蛋白分解物等が使用され、生育にアミノ酸等を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添する事が必要である。
【0049】
無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用される。
培養方法は、発酵温度20ないし42℃、pHを4ないし8に制御しつつ通気培養を行う。かくして10時間ないし4日間程度培養することにより培養液中に著量のL−グルタミン酸が蓄積される。
【0050】
培養終了後、培養液中に蓄積されたL−グルタミン酸を単離する方法としては公知の方法に従って行えばよい。例えば、培養液から菌体を除去した後に濃縮晶析する方法、あるいはイオン交換クロマトグラフィー等によって単離することができる。
【0051】
【実施例】
次に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0052】
(1)gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作製
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作成の手順を、図1、2及び3に基づいて説明する。
【0053】
エシェリヒア・コリ由来のgdhA遺伝子を有するプラスミドpBRGDH(特開平7−203980号)をHindIII、SphI消化し、T4DNAポリメラーゼ処理で両末端を平滑末端にした後、gdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収した。一方、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子およびppc遺伝子を有するプラスミドpMWCP(WO97/08294号)をXbaIで消化後、T4DNAポリメラーゼで両末端を平滑末端にした。これに、上で精製したgdhA遺伝子を有するDNA断片を混合後、T4リガーゼにより連結し、pMWCPに更にgdhA遺伝子を搭載したプラスミドpMWCPGを得た(図1)。
【0054】
また、pBRGDHをHindIII、SalI消化して得られたgdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収後、プラスミドpMW219(ニッポンジーン(株)より購入)のHindIII、SalIサイトに導入することによって、プラスミドpMWGを得た(図2)。さらに、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子を有するプラスミドpTWVC(WO97/08294号)をHindIIIおよびEcoRI消化して得られたgltA遺伝子を有するDNA断片を精製回収後、プラスミドpMW219のHindIII、EcoRIサイトに導入することによって、プラスミドpMWCを得た(図3)。
【0055】
同時に、広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点を有するプラスミドpVIC40(特開平8−047397号)をNotIで消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものと、pBR322をEcoT141消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものとを混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF1010の複製起点及びテトラサイクリン耐性遺伝子を有するプラスミドRSF−Tetを得た(図4)。
【0056】
次に、pMWCPGをEcoRI、PstI消化し、gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収し、RSF−Tetを同様にEcoRI、PstI消化し、RSF1010の複製起点を有するDNA断片を精製回収したものと混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF−Tet上にgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を搭載したプラスミドRSFCPGを得た(図5)。得られたプラスミドRSFCPGが、gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を発現していることは、エシェリヒア・コリのgltA遺伝子、ppc遺伝子、あるいはgdhA遺伝子欠損株の栄養要求性の相補と各酵素活性の測定によって確認した。同様に、pMWGまたはpMWCが、gdhA遺伝子またはgltA遺伝子を発現していることは、エシェリヒア・コリのgdhA遺伝子またはgltA遺伝子欠損株の栄養要求性の相補と各酵素活性の測定によって確認した。
【0057】
(2)クレブシエラ属細菌およびエルビニア属(パントエア属)細菌へのRSFCPG、pMWC及びpMWGの導入とL−グルタミン酸生産性の評価
RSFCPG、pMWC及びpMWGを用い、エルビニア・ヘルビコーラIAM1595(パントエア・アグロメランスAJ2666)またはクレブシエラ・プランティコーラAJ13399株を、エレクトロポレーション(Miller J.H., "A Short Course in Bacterial Genetics; Handbook" Cold Spring Harbor Laboratory Press, USA, 1992)によって形質転換し、テトラサイクリン耐性を示す形質転換株を取得した。
【0058】
得られた形質転換株あるいは各々の親株を、グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム7水塩0.5g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム7水塩0.25g/L、硫酸第一鉄7水塩0.02g/L、硫酸マンガン4水塩0.02g/L、硫酸亜鉛2水塩0.72mg/L、硫酸銅5水塩0.64mg/L、塩化コバルト6水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L、炭酸カルシウム30g/Lを含有する培地5mlを注入した50ml容大型試験管に接種して、37℃で培地中の糖が消費されるまで振とう培養した。形質転換体の培養については、テトラサイクリン25mg/Lを添加した。培養終了後、培養液中に蓄積したL−グルタミン酸を測定した結果を表1に示した。
【0059】
【表1】
Figure 0003921866
【0060】
エルビニア・ヘルビコーラ IAM1595あるいはクレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株はL−グルタミン酸を蓄積しなかったが、RSFCPGを導入することによってCS、PEPC、およびGDH活性を増幅した株では、それぞれ5.0g/L、3.1g/LのL−グルタミン酸を蓄積した。また、AJ13399株のCS活性のみを増幅することによって2.5g/LのL−グルタミン酸を、GDH活性のみを増幅することによって0.8g/LのL−グルタミン酸を、それぞれ蓄積した。
【0061】
(3)クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株のαKGDH遺伝子の一部を有する断片のクローニング
クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株のαKGDH遺伝子の一部を有する断片は、既にその塩基配列が報告されているアゾトバクター・ビネランディ、バチルス・ズブチリス、エシェリヒア・コリ、コリネバクテリウム・グルタミカム、ハエモフィラス・インフルエンザ、ヒト、及びサッカロマイセス・セレビシエの各生物のαKGDH遺伝子(Eur.J.Biochem.、第187巻、235〜239頁、1990年;Mol.Gen.Genet.、第234巻、285〜296頁、1992年;Eur.J.Biochem.、第141巻、351〜359頁、1984年;Microbiology、第142巻、3347〜3354頁、1996年;Science、第269巻、496〜512頁、1995年;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第89巻、1963〜1967頁、1992年;Mol.Cel.Biol.、第9巻、2695〜2705頁、1989年)の相同部位の塩基配列及びEcoRIサイトを有するオリゴヌクレオチドをプライマーとしたPCRによって、そのクローニングを実施した。
プライマーとしては、具体的には以下のものを使用した。
【0062】
(プライマー1)
5’CCGGGAATTCGGTGACGTNAARTAYCA3’(配列番号1)
(プライマー2)
5’GGCGAATTCGGGAACGGGTASAGYTGYTC3’(配列番号2)
【0063】
PCRのテンプレートとして用いたクレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株の染色体DNAは、エシェリヒア・コリにおいて通常染色体DNAを抽出するのに使用されるのと同様の方法(生物工学実験書、日本生物工学会偏、97−98頁、培風館、1992年)で単離した。
【0064】
PCRの条件は、94℃1分、50℃1分、73℃3分、30サイクルとし、得られたDNA断片をEcoRI消化後、EcoRI消化したベクタープラスミドpT7Blueに挿入し、組み換えプラスミドpT7KPを得た。ベクタープラスミドpT7Blue(アンピシリン耐性)はノバゲン社製の市販品を用いた。
【0065】
クローニングされた断片のDNA塩基配列及びこの配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号3に示す。また、同アミノ酸配列のみを配列番号4に示す。同配列は、エシェリヒア・コリのαKGDH−E1サブユニット遺伝子(以下「sucA遺伝子」という)と82.3%の相同性を示しており、明らかにクレブシエラ・プランティコーラAJ13399株のsucA遺伝子の一部と考えられる。尚、配列番号3に示される塩基配列において、塩基番号18〜1659がsucA遺伝子に由来し、塩基番号0〜17及び1660〜1679はプライマーに由来する。
【0066】
(4)クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株由来のαKGDH欠損株の取得
上記のようにして取得されたクレブシエラ・プランティコーラのsucA遺伝子の一部を有する断片を用い、相同組換えによりクレブシエラ・プランティコーラのαKGDH欠損株の取得を行った。
【0067】
まず、pT7KPをBstEIIにて切断し、そこにプラスミドpNEO(ファルマシア社より購入)よりPCRによりクローニングすると共に両端にBstEIIサイトを導入したカナマイシン耐性遺伝子断片を導入し、クレブシエラ・プランティコーラのsucA遺伝子中央部にカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたプラスミドpT7KPKmを得た。
カナマイシン耐性遺伝子のクローニングに使用したプライマーは以下の通りである。
【0068】
(プライマー3)
5’TACTGGGTCACCTGACAGCTTATCATCGAT3’(配列番号5)
(プライマー4)
5’CGTTCGGTGACCACCAAAGCGGCCATCGTG3’(配列番号6)
【0069】
次にpT7KPKmをKpnIにて切断し、そこにプラスミドpBR322(宝酒造(株)より購入)よりPCRによりクローニングすると共に両端にKpnIサイトを導入したテトラサイクリン耐性遺伝子断片を導入し、クレブシエラ・プランティコーラのsucA遺伝子中央部にカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたと共にその隣にテトラサイクリン耐性遺伝子が挿入されたプラスミドpT7KPKmTcを得た。
テトラサイクリン耐性遺伝子のクローニングに使用したプライマーは以下の通りである。
【0070】
(プライマー5)
5’GGGGTACCCAAATAGGCGTATCACGAG3’(配列番号7)
(プライマー6)
5’GGGGTACCCGCGATGGATATGTTCTG3’(配列番号8)
【0071】
続いてプラスミドpT7KPKmTcをSacI、XbaIで消化することによって、クレブシエラ・プランティコーラのsucA遺伝子中央部にカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたと共にその隣にテトラサイクリン耐性遺伝子を有するDNA断片を切り出し、これを、SacI、XbaIで消化したグラム陰性細菌用染色体挿入プラスミドベクターpGP704(Marta Herrero et al., Journal of Bacteriology, 1990, 172, p.6557-6567)に挿入し、プラスミドpUTONOTKを得た。
【0072】
こうしてできたプラスミドpUTONOTKを用いて、クレブシエラ・プランティコーラ AJ13399株を、エレクトロポレーションによって形質転換し、テトラサイクリン耐性かつカナマイシン耐性を指標として、プラスミドpUTONOTKがsucA遺伝子断片の相同組み換えによって染色体上に挿入された株を取得した。さらにこの株より、テトラサイクリン感受性かつカナマイシン耐性を指標として、染色体上のsucA遺伝子が中央部にカナマイシン耐性遺伝子が挿入されたsucA遺伝子に置換されたと考えられるsucA欠損株クレブシエラ・プランティコーラ AJ13410株を取得した。
【0073】
以上のようにして得られたAJ13410株がαKGDH活性を欠損していることを確認するためにReedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って酵素活性を測定した。その結果、表2に示すようにAJ13410株ではαKGDH活性を検出できず、目的通りsucAが欠損していることが確かめられた。
【0074】
【表2】
Figure 0003921866
【0075】
(5)クレブシエラ・プランティコーラ αKGDH欠損株のL−グルタミン酸生産性の評価
AJ13399、AJ13410の両株を、グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム7水塩0.5g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム7水塩0.25g/L、硫酸第一鉄7水塩0.02g/L、硫酸マンガン4水塩0.02g/L、硫酸亜鉛2水塩0.72mg/L、硫酸銅5水塩0.64mg/L、塩化コバルト6水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L、炭酸カルシウム30g/L、L−リジン一塩酸塩200mg/L、L−メチオニン200mg/L、DL−α,ε−ジアミノピメリン酸(DAP)200mg/Lを含有する培地20mlを注入した500ml容フラスコに接種して、37℃で培地中の糖が消費されるまで振とう培養した。培養終了後、培養液中に蓄積したL−グルタミン酸及びα−ケトグルタール酸(以下「αKG」と略す)を測定した結果を表3に示した。
【0076】
【表3】
Figure 0003921866
【0077】
αKGDH活性が欠損したAJ13410株は、L−グルタミン酸を12.8g/L蓄積した。また同時に1.5g/LのαKGを蓄積した。
【0078】
(6)クレブシエラ・プランティコーラαKGDH欠損株へのRSFCPGの導入とL−グルタミン酸生産性の評価
AJ13410株をRSFCPGを用いて形質転換し、得られたRSFCPG導入株AJ13410/RSFCPGを、グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム7水塩0.5g/L、リン酸2水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム7水塩0.25g/L、硫酸第一鉄7水塩0.02g/L、硫酸マンガン4水塩0.02g/L、硫酸亜鉛2水塩0.72mg/L、硫酸銅5水塩0.64mg/L、塩化コバルト6水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L、テトラサイクリン25mg/L、炭酸カルシウム30g/L、L−リジン一塩酸塩200mg/L、L−メチオニン200mg/L、DL−α,ε−DAP200mg/Lを含有する培地20mlを注入した500ml容フラスコに接種して、37℃で培地中の糖が消費されるまで振とう培養した。培養終了後、培養液中に蓄積したL−グルタミン酸及びαKGを測定した結果を表4に示した。
【0079】
【表4】
Figure 0003921866
【0080】
RSFCPGを導入してCS、PEPC、およびGDH活性を増幅した株では、αKG蓄積量が減少し、L−グルタミン酸蓄積が更に向上した。
【0081】
【発明の効果】
本発明の微生物は、高いL−グルタミン酸生産能を有することから、コリネ型L−グルタミン酸生産菌で従来知られている育種手法等を用いてさらに高い生産能を付与できると考えられ、また培養条件等の検討により、安価で、効率の良いL−グルタミン酸製造法の開発につながるものと期待される。
【0082】
【配列表】
Figure 0003921866
【0083】
Figure 0003921866
【0084】
Figure 0003921866
【0085】
Figure 0003921866
Figure 0003921866
Figure 0003921866
Figure 0003921866
【0086】
Figure 0003921866
Figure 0003921866
Figure 0003921866
【0087】
Figure 0003921866
【0088】
Figure 0003921866
【0089】
Figure 0003921866
【0090】
Figure 0003921866

【図面の簡単な説明】
【図1】 gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドpMWCPGの構築を示す図。
【図2】 gdhA遺伝子を有するプラスミドpMWGの構築を示す図。
【図3】 gltA遺伝子を有するプラスミドpMWCの構築を示す図。
【図4】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点とテトラサイクリン耐性遺伝子を含むプラスミドRSF−Tetの構築を示す図。
【図5】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点、テトラサイクリン耐性遺伝子、gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドRSFCPGの構築を示す図。

Claims (4)

  1. クレブシエラ属、エルビニア属またはパントエア属に属し、L−グルタミン酸生産能を有する微生物であって、クエン酸シンターゼ、フォスフォエノールピルベートカルボキシラーゼ、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼのすべての酵素活性が遺伝子組み換えによって高められた微生物
  2. クレブシエラ・プランティコーラまたはパントエア・アグロメランスに属する請求項1記載の微生物。
  3. さらに、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性が低下あるいは欠損した請求項1または2に記載の微生物。
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の微生物を液体培地に培養し、培地中にL−グルタミン酸を生成蓄積せしめ、これを該培地から採取することを特徴とするL−グルタミン酸の製造法。
JP06832499A 1998-03-18 1999-03-15 L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法 Expired - Fee Related JP3921866B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP06832499A JP3921866B2 (ja) 1998-03-18 1999-03-15 L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法

Applications Claiming Priority (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP6910698 1998-03-18
JP10-69106 1998-03-18
JP10-224909 1998-08-07
JP22490998 1998-08-07
JP06832499A JP3921866B2 (ja) 1998-03-18 1999-03-15 L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2000106869A JP2000106869A (ja) 2000-04-18
JP3921866B2 true JP3921866B2 (ja) 2007-05-30

Family

ID=27299705

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP06832499A Expired - Fee Related JP3921866B2 (ja) 1998-03-18 1999-03-15 L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3921866B2 (ja)

Families Citing this family (13)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4665558B2 (ja) * 2004-03-04 2011-04-06 味の素株式会社 L−グルタミン酸生産微生物及びl−グルタミン酸の製造法
ES2341264T3 (es) * 2004-08-10 2010-06-17 Ajinomoto Co., Inc. El uso de fosfocetolasa para producir metabolitos utiles.
JP5407124B2 (ja) * 2006-08-18 2014-02-05 味の素株式会社 L−グルタミン酸生産細菌及びl−グルタミン酸の製造法
JP2010041920A (ja) 2006-12-19 2010-02-25 Ajinomoto Co Inc L−アミノ酸の製造法
WO2008090770A1 (ja) 2007-01-22 2008-07-31 Ajinomoto Co., Inc. L-アミノ酸を生産する微生物及びl-アミノ酸の製造法
JP2010130899A (ja) 2007-03-14 2010-06-17 Ajinomoto Co Inc L−グルタミン酸系アミノ酸生産微生物及びアミノ酸の製造法
CN101688176B (zh) 2007-04-17 2013-11-06 味之素株式会社 具有羧基的酸性物质的生产方法
WO2010027022A1 (ja) 2008-09-05 2010-03-11 味の素株式会社 L-アミノ酸生産菌及びl-アミノ酸の製造法
JP2012223091A (ja) 2009-08-25 2012-11-15 Ajinomoto Co Inc L−アミノ酸の製造法
RU2496867C2 (ru) 2011-04-25 2013-10-27 Закрытое акционерное общество "Научно-исследовательский институт Аджиномото-Генетика" (ЗАО "АГРИ") Способ получения l-аминокислоты семейства глутамата с использованием коринеформной бактерии
JPWO2013069634A1 (ja) 2011-11-11 2015-04-02 味の素株式会社 発酵法による目的物質の製造法
JP6857041B2 (ja) * 2017-02-01 2021-04-14 三谷産業株式会社 カルノシン製造方法及び新規微生物
CN110846290B (zh) * 2019-12-05 2022-11-18 湖北大学 二氢硫辛酸脱氢酶突变体P213R及其在地衣芽胞杆菌的聚γ-谷氨酸合成中的应用

Also Published As

Publication number Publication date
JP2000106869A (ja) 2000-04-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6682912B2 (en) L-glutamic acid-producing bacterium and method for producing L-glutamic acid
EP1462523B1 (en) L-Glutamic acid-producing bacterium and method for producing L-glutamic acid
JP4285582B2 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法
JP4427878B2 (ja) 析出を伴う発酵法によるl−グルタミン酸の製造法
AU2003202509B2 (en) Method for producing L-amino acid
US6596517B2 (en) Method for producing L-glutamic acid
JP4599726B2 (ja) L−グルタミン酸の製造法
JP3921866B2 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法
JP4292724B2 (ja) 有機態窒素含有組成物及びそれを含む肥料
JP4144098B2 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法
JP4144131B2 (ja) L−グルタミン酸生産菌及びl−グルタミン酸の製造法
JP4599725B2 (ja) L−グルタミン酸の製造法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20040824

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20061205

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20061226

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20070130

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20070212

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 3921866

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100302

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100302

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100302

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100302

Year of fee payment: 3

R255 Notification that request for automated payment was rejected

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R2525

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110302

Year of fee payment: 4

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110302

Year of fee payment: 4

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120302

Year of fee payment: 5

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120302

Year of fee payment: 5

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120302

Year of fee payment: 5

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130302

Year of fee payment: 6

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20130302

Year of fee payment: 6

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20140302

Year of fee payment: 7

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees