JP3860763B2 - 疲労強度に優れた厚鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、疲労強度が必要とされる溶接構造部材に用いられる厚鋼板とその製造方法に関するものである。本発明鋼板は、例えば、海洋構造物、圧力容器、船舶、橋梁、建築物、ラインパイプなどの溶接鋼構造物一般に用いることができるが、特に疲労強度を必要とする海洋構造物、船舶、橋梁、建築構造物等の構造物用鋼板として有用である。また、その他、厚鋼板を素材とする、鋼管、あるいは形鋼にも適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
溶接構造物の大型化と環境保全の要求の高まりに伴い、構造物部材に対して従来にも増した信頼性が要求されるようになってきている。現在の構造物は溶接構造が一般的であり、溶接構造物で想定される破壊形態としては、疲労破壊、脆性破壊、延性破壊などがあるが、これらの内、最も頻度が高い破壊形態は、初期欠陥からの脆性破壊あるいは疲労破壊、さらには疲労破壊の後に続く脆性破壊である。また、これらの破壊形態は、構造物の設計上の配慮だけでは防止が困難であり、また、突然の構造物の崩壊の原因となることが多く、構造物の安全確保の観点からはその防止が最も必要とされる破壊形態である。
【0003】
脆性破壊については、化学組成的にNiの添加や、変態組織の最適化等の改善手段があり、また、製造方法的にも制御圧延や加工熱処理による組織微細化により改善が可能である。一方、疲労特性の場合、平滑部材に関しては強度向上等により改善することは可能であるが、溶接構造では溶接部の止端部形状に疲労強度が支配されるために、強度向上や組織改善による冶金的手段での疲労強度(継手疲労強度)向上は不可能であると考えられていた。すなわち、疲労強度が問題となる構造物では、高張力鋼を用いても設計強度を高めることができず、高張力鋼使用の利点が得られなかった。従って、従来このような溶接構造物においては、応力集中部となっている溶接止端部の形状を改善するための、いわゆる止端処理によって継手疲労強度の改善が図られてきた。例えば、グラインダーによって止端を削って止端半径を大きくする方法、TIG溶接によって止端部を再溶融させて止端形状を滑らかにする方法(例えば、特公昭54−30386号公報)、ショットピーニングによって止端部に圧縮応力を発生される方法等である。
【0004】
しかし、これらの止端処理は非常に手間がかかるものであるため、コスト低減、生産性改善のために、止端処理によらない、鋼材自体の継手疲労強度改善手段が待たれていた。
【0005】
最近、このような要求に応えて、いくつかの継手疲労強度の良好な鋼材が提案されている。例えば、溶接熱影響部(HAZ)の組織をフェライト(α)とすることによってHAZの疲労強度を向上できる技術(特開平8−73983号公報)が示されている。しかし、本技術はHAZ組織をフェライト組織とする必要性から、製造できる鋼材の強度レベルに限界があり、引張強さが780MPaを超えるような高強度鋼材を製造することはできない。
【0006】
引張強度が590MPa以上の高強度鋼の継手疲労強度を改善する手段もいくつか提案されており、HAZのベイナイト組織の疲労き裂の発生・伝播特性改善に高Si化(特開平8−209295号公報)、高Nb化(特開平10−1743号公報)が有効との報告がある。しかし、Si、Nbとも多量に添加すると、靭性を大幅に劣化する元素であり、また、鋼片の割れを生じる等、製造上の問題を生じる懸念もある。
【0007】
加えて、上記従来技術はいずれもHAZ組織の疲労き裂の発生及びHAZ中の疲労き裂伝播を改善する手段であるが、HAZは止端部の応力集中の影響を大きく受けるため、止端形状によっては効果が生じなかったり、小さかったりする場合がある。
【0008】
止端形状によらずに継手疲労強度を改善するためには、止端部から発生した疲労き裂の母材での伝播を遅延させることが有効である。このような考え方に基づいて、平均フェライト粒径が20μm以下の細粒組織中に、粗大フェライトを分散させた母材組織とすることによって、母材の疲労き裂進展特性を向上させる技術(特開平7−90481号公報)が開示されている。しかし、この場合も、フェライト主体組織とする必要性から、引張強度で580MPa級程度の鋼材までしか製造できない。
【0009】
さらに、母材の疲労き裂伝播を抑制することによって疲労強度を高める技術として、フェライトと硬質第二相からなる組織において、フェライトの硬さと硬質第二相の硬さとの間に一定の関係を規定した上で、第二相の形態(アスペクト比、間隔)、あるいは/及び、集合組織を規定した技術が、特開平11−1742号公報に開示されている。本技術は現在示されている技術の中では、疲労き裂伝播抑制に最も優れた手段の一つであるが、組織形成、集合組織発達のために、二相域〜フェライト域での累積圧下率を大きくすることが必要であるため、生産性の劣化、鋼板形状の悪化等の課題を有している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、母材の耐疲労き裂伝播特性が優れた溶接構造物用厚鋼板を、特殊なあるいは高価な合金元素の多量添加や、生産性の劣る、あるいは複雑な製造方法によらずに、また、引張強度や鋼板板厚に大きな制限を受けずに提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、母材の耐疲労き裂伝播特性を向上することにより、継手の止端形状に依存せずに継手疲労強度向上させるための手段を、疲労き裂の進展挙動と鋼材ミクロ組織との関係の詳細な実験結果から見いだした。すなわち、継手止端部の応力集中部から発生した疲労き裂は板厚方向に伝播するが、疲労き裂進展に対して、き裂前面の組織の種類、形態及び特性が大きな影響を及ぼす。
【0012】
先ず、組織の種類としては、光学顕微鏡オーダーで均一な組織よりも軟質相と硬質第二相との混合組織とすることが好ましい。これは、硬質第二相から軟質相へき裂が進展する際にき裂の鈍化が生じ、一方、軟質相から硬質第二相に進展する際にはき裂進展の遅延、き裂の迂回、分岐が生じるためである。このようなき裂進展挙動を生じるためには、組織は、軟質相としてはフェライト、硬質第二相としてはベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいはさらに両方を含む必要がある。そして、本発明者らは、下記に示す詳細な実験に基づいて、フェライトと少なくともベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいはさらに両方とを含む混合組織を有する鋼において、疲労き裂の伝播速度を効果的に抑制するためには、硬質第二相の硬さと分率に加えてその分布状態が重要であることを知見した。特に硬質相の分布については、疲労き裂の前面、すなわち、鋼板表面に平行な断面(以降、Z面と称する)での硬質第二相の分布を厳密に規定することが重要であることを初めて見いだした。
【0013】
実験は母材のき裂伝播特性だけを評価するために、図4に示す表面機械ノッチ付き試験片の3点曲げ試験により行った。疲労条件は、応力振幅378MPa、応力比0.1で行った。供試鋼には、化学組成を、C:0.05〜0.2%、Si:0.15〜0.3%、Mn:0.5〜2%、P≦0.01%、S:約0.005%、Al:0.01〜0.05%、Nb:0〜0.05%、Ti:0〜0.02%、Ni:0〜3%、の範囲で変化させ、且つ各々熱間圧延条件、熱処理条件(熱間圧延前の拡散熱処理を含む)を種々変化させて、ミクロ組織の内、主に硬質第二相の種類、分率、分布を変化させた小型真空溶製鋼(鋼板板厚:25mm)を用いた。疲労試験片は試験片長手方向が圧延方向に平行となるように採取した。ミクロ組織の調査、硬さ測定は板厚の1/4部分のZ面において行った。組織の定量は板厚の1/4における鋼板表面に平行な断面(Z面)の光学顕微鏡組織における、5〜10視野の組織写真を用い、画像解析装置を用いて行った。硬質第二相の硬さも同一断面において、荷重5〜10gのマイクロビッカース硬さを10点以上測定し、平均値で評価した。
【0014】
なお、図4に示す前記試験装置は凸状の試験片Aに疲労き裂の発生が容易なように表面に機械ノッチNを付与し、この両側部と中央部にロールを位置させ、このロールから矢印方向に力をかける3点曲げにより、交番応力を負荷したときの疲労寿命を測定して、疲労き裂伝播特性を評価できるように構成したものである。
【0015】
図1は硬質第二相(以降、単に第二相と示す場合もあり)を、ビッカース硬さを200〜250の範囲に調整したパーライトが主体の組織(パーライト主体相)と、ビッカース硬さを550〜600の範囲に調整したベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいは両者の混合組織が主体の組織(ベイナイト〜マルテンサイト主体相)ごとに層別した場合の、第二相分率と疲労試験における破断寿命との関係を示している。なお、パーライト主体相ではパーライト以外の第二相は5%未満であり、一方、ベイナイト〜マルテンサイト主体相でもベイナイト、マルテンサイト以外のパーライト相の分率は5%未満である。少なくとも第二相にベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいはさらに両者を含み、硬さが高い場合には、第二相がパーライト主体で硬さが低い場合に比べて明らかに疲労特性は良好である。
【0016】
また、第二相がパーライト主体相の場合は疲労特性はその分率に大きく依存しないのに対して、第二相がベイナイト〜マルテンサイト主体相の場合、高い疲労特性を確保するためにはその分率を限定する必要がある。特に、第二相の分率が20%未満と少ない場合は、第二相がベイナイト〜マルテンサイト主体相であっても疲労特性の大きな改善が望めない。また、硬質相が80%を超えて多くなっても疲労特性は劣化する傾向にある。これは硬質相が過大であるために、ミクロな脆性破壊が生じながら疲労き裂が伝播するためで、好ましくない。
【0017】
図1から、疲労特性向上のためには、第二相を硬さの高いベイナイト〜マルテンサイト主体相を組織中に20〜80%存在させることが必要であることが分かるが、しかしながら、その中で疲労特性は大きく変動しており、他にも疲労特性を強く支配する因子が存在することが示唆される。本発明者らは、疲労き裂の進展機構から、この疲労特性の変動が第二相の形態、分布の違いによるものとの推定に立って、さらに詳細な検討を行い、第二相の展伸度、例えば、板厚断面組織で観察される第二相の圧延方向長さと板厚方向長さとの比(アスペクト比)の影響は若干あるものの、それよりも、Z面での第二相の分布が重要であることを知見するに至った。すなわち、進展中の疲労き裂前面に存在する第二相が密に且つ均一に存在することが疲労き裂進展抑制に効果的であり、同じ第二相分率でもその分布が不均一で、場所によって第二相の存在しない場所があれば、疲労き裂はそこを優先的に進展するため、第二相による疲労き裂進展抑制効果が十分発揮されない。
【0018】
図2は上記の点を明らかにした結果で、図1の内、第二相が硬さの高いベイナイト〜マルテンサイト主体相でその分率が20〜80%の範囲にあるものについて、図3に示す定義に基づく、Z面で観察した第二相間の間隔を測定し、その最大値と疲労試験の破断寿命との関係を示している。なお、第二相間隔は疲労き裂前面に存在する第二相間隔に対応させるとの観点で、板厚の1/4位置のZ面で圧延方向に直角な方向で測定している。
【0019】
図2から、第二相の種類、硬さ、分率を一定範囲に限定した中では、Z面最大第二相間隔が小さいほど疲労特性が向上することが明らかである。特にZ面最大第二相間隔が500μmを超えると疲労特性の劣化が顕著になる。500μm以下では、第二相分布の不均一性の悪影響は僅少である。
【0020】
本発明は、上記の知見を含めた詳細な実験に基づいて、母材の耐疲労き裂伝播特性に好ましい組織形態を知見し、さらに該組織形態を達成するための工業的に最も好ましい手段も合わせて発明したものあって、その要旨とするところは以下の通りである。
【0021】
(1)質量%で、
C :0.04〜0.3%、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.1〜3%、
Al:0.001〜0.1%、
N :0.001〜0.01%
を含有し、不純物として、
P:0.02%以下、
S :0.01%以下
を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしている厚鋼板において、前記硬質第二相の組織がベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下
【0022】
(2) さらに、質量%で、
Ni:0.01〜6%、
Cu:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜2%、
Mo:0.01〜2%、
W :0.01〜2%、
Ti:0.003〜0.1%、
V :0.005〜0.5%、
Nb:0.003〜0.2%、
Zr:0.003〜0.1%、
Ta:0.005〜0.2%、
B :0.0002〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の疲労強度に優れた厚鋼板。
【0023】
(3) さらに、質量%で、
Mg:0.0005〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.005〜0.1%
のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板。
【0024】
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分を有し、鋳造厚みが100mm以下の鋼片を、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷し、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしていて、前記硬質第二相の組織をベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下
【0025】
(5) 前記熱間圧延前において、鋼片に加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施すことを特徴とする、前記(4)に記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
【0026】
(6) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分を有し、鋳造厚みが100mm超の鋼片に対して、熱間圧延前に、加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施した後、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷し、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしていて、前記硬質第二相の組織をベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下
【0027】
(7) 前記熱間圧延において、少なくとも開始温度が850℃以下、終了温度がAr3変態点以上で、累積圧下率が30%以上の圧延を含む熱間圧延を行うことを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
【0028】
(8) 前記熱間圧延において、少なくとも開始温度がAr3変態点以下、終了温度が600℃以上で、累積圧下率が10〜80%の圧延を含む熱間圧延を行うことを特徴とする前記(4)〜(7)のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
【0029】
(9) 前記500℃以下まで急冷した後、熱間圧延終了後、さらに(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に再加熱し、500℃以下まで5〜100℃/sで冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする前記(4)〜(8)のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
【0030】
(10) 前記500℃以下まで急冷した後、又は、二相域熱処理を施した後、250〜500℃で焼戻すことを特徴とする前記(4)〜(9)のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明は、化学組成の適正化と、前述した新しい知見に基づいた組織要件の適正化が必須となるが、先ず、組織要件の限定理由を説明し、次いで化学組成の限定理由を述べ、最後に、本発明の厚鋼板を製造する方法について、本発明で提案する製造方法の実施の形態を説明する。
【0032】
疲労強度を高めるための組織要件は、「少なくともフェライトと、ベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなる硬質第二相とを含む組織を有し、鋼板表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が、(a)硬質第二相の分率:20〜80%、(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800、(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm、(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下、の条件を全て満たしているること」であり、前述の詳細な実験結果を中心とした種々新知見に基づいて決定されたものである。
【0033】
先ず、組織として、フェライトと、ベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなる硬質第二相とを含む組織とする必要があるのは、軟質相と硬質相との混合組織とすることによって、硬質相から軟質相へき裂が進展する際にき裂の鈍化が生じ、一方、軟質相から硬質相に進展する際にはき裂進展の遅延、き裂の迂回、分岐が生じるために疲労き裂進展速度が顕著に抑制されるためである。このようなき裂進展挙動を生じるためには、組織は、軟質相としてはフェライト、硬質相としてはベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいはさらに両方を含む必要がある。軟質相としてフェライトが好ましいのは、溶接構造用の低合金鋼において、十分柔らかい組織としてはフェライトが唯一であるためである。高合金鋼であれば、オーステナイト相を軟質相とすることも可能であるが、本発明が対象としている溶接構造用厚鋼板において、変態組織中に十分な分率でオーステナイト相を残存させることは非常に困難であり、採用し難い。フェライト相であれば、極端な加工や固溶強化によって該相が硬化しなければ疲労特性に特段の問題は生じない。目安として、フェライト相のビッカース硬さは220以下であることが好ましい。
【0034】
硬質第二相の種類として、ベイナイトあるいはマルテンサイト、あるいはさらに両方の混合組織が好ましいのは、パーライトに比べて組織が均一で、且つ硬さの割に靭性が良好であるためである。パーライトが好ましくないのは、ビッカース硬さを250以上にすることが容易でないことと、硬さを高められたとしても、パーライト自体がフェライトとセメンタイトとの層状組織であるために、疲労き裂がパーライト内の軟質なフェライトを選択的に進展することが可能で、疲労き裂進展抑制効果が小さいためである。また、硬質第二相としては、析出物や介在物も考えられるが、これらを疲労き裂進展抑制に有効な、20〜80%含有させることが容易でなく、該析出物、介在物はベイナイトやマルテンサイトに比べて非常に脆いため、このように多量に含有した場合には靭性の顕著な劣化が生じ、構造物用鋼としての実用に耐えられない。
【0035】
以上の理由により、硬質第二相としてはベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とする必要があるが、さらに該硬質第二相の分率、硬さ、サイズ、分布状態を厳密に規定する必要がある。
【0036】
硬質第二相の分率は、図1から下限を20%とする。これは、前記の第二相分率が20%未満であると、その他の組織要件を適正化しても疲労特性の明確な向上が望めないためである。また、本発明では硬質第二相の上限は80%とする。これは、硬質第二相の分率を80%超とした上で、該硬質第二相の硬さを250以上とすることが化学組成上容易でないことと、硬質第二相の分率が80%超であると、フェライトに比べて硬質第二相の靭性が劣るために鋼材の靭性劣化が懸念されるためである。また、硬質第二相間に存在するフェライトの変形が拘束されることも靭性確保に不利となり、疲労き裂進展中に脆性破壊が生じて、疲労特性が劣化する場合もある。本発明における硬質第二相の分率はZ面での断面組織における面積分率を意味する。
【0037】
なお、ベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなる硬質第二相の分率が本発明を満足していれば、これら以外の硬質第二相を10%未満含んでいても疲労特性に実質的に悪影響を及ぼさないため、ベイナイト、マルテンサイト以外の第二相を10%未満含む場合も本発明範囲とする。また、本発明においては、セメンタイトや炭窒化物、非金属介在物は疲労特性に対する明確な効果を示さないため、硬質第二相には含めない。
【0038】
硬質第二相の硬さも疲労特性確保のために必須要件である。第二相の種類をベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とし、且つ第二相分率を20〜80%とした上で、疲労特性を良好とするために必要な硬さは、ビッカース硬さの平均値で250〜800の範囲である。平均ビッカース硬さが250未満であると、軟質相であるフェライトとの硬さが小さいために、軟質相/硬質相界面近傍での疲労き裂の進展遅延、迂回、分岐が十分な頻度で生ぜず、疲労特性の向上が図られない。一方、硬質第二相の平均ビッカース硬さが800超であると、硬質第二相の脆化が著しくなり、該硬質第二相が疲労試験中においてさえ脆性破壊を生じるようになり、むしろ疲労き裂進展が加速されるようになり、疲労特性が劣化する。
【0039】
以上の理由から、ベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなる硬質第二相の分率と硬さを適正範囲に限定するが、一層の疲労特性向上を図るために、該硬質第二相のサイズと分布をさらに限定する必要がある。
【0040】
サイズの限定は、硬質第二相は硬くなれば硬くなるほど、脆化して鋼材の靭性劣化、疲労特性の劣化につながるために、第二相の硬質化によるき裂進展遅延効果の享受と、硬質第二相の靭性劣化抑制とを両立させる上で必要である。硬質第二相の靭性はその平均円相当径によって支配されており、200μm超であると靭性劣化が無視できなくなるため、本発明においては、硬質第二相の平均円相当径を200μm以下に限定する。靭性確保の観点からは、硬質第二相のサイズは微細なほど好ましいが、硬質第二相のサイズが過小であると、疲労き裂進展抑制効果が不十分となるため、本発明では疲労き裂進展抑制効果が確実に発揮できる硬質第二相のサイズとしてその下限を10μmとする。
【0041】
さらに硬質第二相の分布として、前述した図3に示す結果にあるように、Z面で観察される硬質第二相間の間隔を適正化する必要がある。本発明においては、図3の結果に基づいて、硬質第二相間隔の拡大による疲労特性の劣化が僅少である、Z面での最大第二相間隔500μmを上限として規定する。なお、Z面での第二相間の間隔とは、疲労き裂前面に存在する第二相間隔に対応させる方向での間隔であり、例えば、き裂面が圧延方向に直角に進展する場合にはZ面第二相間隔も圧延方向に直角な方向での値とする。
【0042】
なお、以上の組織の分率、硬さ、分布状態は全てZ面についてのものであるが、疲労き裂は溶接部から発生して表面から板厚方向に進展することから、表面から板厚中心部までの平均的な組織状態が本発明を満足すれば良い。板厚方向の組織変化がZ面内での組織変動に比べて小さければ板厚の1/4におけるZ面での測定値で評価しても構わない。板厚方向の組織変化が大きい場合は、板厚方向の数カ所、例えば鋼板表面1〜2mm、板厚の1/4、板厚中心部の平均値で評価しても良い。
【0043】
以上が本発明における組織要件の限定理由である。疲労特性の確保、構造物用鋼として必要な強度・靭性確保のためにはさらに下記に示すように化学組成についても適正化する必要がある。
【0044】
すなわち、Cは、硬質第二相の硬さを高めるのに有効な成分である。0.04%未満では、安定的にビッカース硬さが250以上の硬質第二相を20%以上存在させることが容易でないため、本発明ではCの下限を0.04%とする。ただし、0.3%を超える過剰の含有は母材及び溶接部の靭性や耐溶接割れ性を低下させるため、上限は0.3%とした。
【0045】
Siは、脱酸元素として、また、母材の強度確保に有効な元素であるが、0.01%未満の含有では脱酸が不十分となり、また強度確保に不利である。逆に2%を超える過剰の含有は粗大な酸化物を形成して延性や靭性の劣化を招く。そこで、Siの範囲は0.01〜2%とした。
【0046】
Mnは母材の強度、靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%以上含有する必要があるが、過剰に含有すると、硬質相の生成や粒界脆化等により母材靭性や溶接部の靭性、さらに溶接割れ性など劣化させるため、材質上許容できる範囲で上限を3%とした。
【0047】
Alは脱酸、加熱オーステナイト粒径の細粒化等に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.001%以上含有する必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に含有すると、粗大な酸化物を形成して延性を極端に劣化させるため、0.001%〜0.1%の範囲に限定する必要がある。
【0048】
NはAlやTiと結びついてオーステナイト粒微細化に有効に働くため、微量であれば機械的特性向上に有効である。また、工業的に鋼中のNを完全に除去することは不可能であり、必要以上に低減することは製造工程に過大な負荷をかけるため好ましくない。そのため、工業的に制御が可能で、製造工程への負荷が許容できる範囲として下限を0.001%とする。過剰に含有すると、固溶Nが増加し、延性や靭性に悪影響を及ぼす可能性があるため、許容できる範囲として上限を0.01%とする。
【0049】
Pは不純物元素であり、鋼の諸特性に対して有害であるため、極力低減する方が好ましいが、本発明においては、実用上悪影響が許容できる量として、上限を0.02%とする。
【0050】
Sも基本的には不純物元素であり、特に鋼の延性、靭性さらには疲労特性に悪影響が大きいため、低減が好ましい。実用上、悪影響が許容できる量として、上限を0.01%に限定する。ただし、Sは微量範囲では、微細硫化物を形成して溶接熱影響部(HAZ)靭性向上に寄与するため、HAZ靭性を考慮する場合は、0.0005〜0.005%の範囲で添加することは好ましい。
【0051】
以上が本発明の厚鋼板の基本成分の限定理由であるが、本発明においては、強度・靭性の調整のために、必要に応じて、Ni、Cu、Cr、Mo、W、Ti、V、Nb、Zr、Ta、Bの1種又は2種以上を含有することができる。
【0052】
Niは母材の強度と靭性を同時に向上でき、非常に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.01%以上の添加が必要である。Ni量が増加するほど母材の強度・靭性を向上させるが、6%を超えるような過剰な添加では、効果が飽和する一方で、HAZ靭性や溶接性の劣化を生じる懸念があり、また、高価な元素であるため、経済性も考慮して、本発明においてはNiの上限を6%とする。
【0053】
CuもNiとほぼ同様の効果を有する元素であるが、効果を発揮するためには0.01%以上の添加が必要であり、1.5%超の添加では熱間加工性やHAZ靭性に問題を生じるため、本発明においては、0.01〜1.5%の範囲に限定する。
【0054】
Crは固溶強化、析出強化により強度向上に有効な元素であり、効果を生じるためには0.01%以上必要であるが、Crは過剰に添加すると焼入硬さの増加、粗大析出物の形成等を通して、母材やHAZの靭性に悪影響を及ぼすため、許容できる範囲として、上限を2%に限定する。
【0055】
Mo、WもCrと同様に、固溶強化、析出強化によって強度を高めるに有効な元素であり、また、硬質第二相の硬さ確保にも有効な元素であるが、各々、効果を発揮でき、他特性に悪影響を及ぼさない範囲として、Mo、Wともに、0.01〜2%に限定する。
【0056】
Tiはオーステナイト中に安定なTiNを形成して母材だけでなくHAZの加熱オーステナイト粒径微細化に寄与するため、強度向上に加えて靭性向上にも有効な元素である。ただし、その効果を発揮するためには、0.003%以上含有させる必要がある一方、0.1%を超えて過剰に含有させると、粗大なTiNを形成して靭性を逆に劣化させるため、本発明においては、0.003〜0.1%の範囲に限定する。
【0057】
Vは析出強化により母材の強度向上に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.005%以上必要である。添加量が多くなるほど強化量も増加するが、それに伴って、母材靭性、HAZ靭性が劣化し、且つ、析出物が粗大化して強化の効果も飽和する傾向となるため、強化量に対して靭性劣化が小さい範囲として、上限を0.5%とする。
【0058】
Nbは析出強化及び変態強化により微量で高強度化に有効な元素であり、また、オーステナイトの加工・再結晶挙動に大きな影響を及ぼすため、母材靭性向上にも有効である。さらには、HAZの疲労特性向上にも有効である。効果を発揮するためには、0.003%以上は必要である。ただし、0.2%を超えて過剰に添加すると、靭性を極端に劣化させるため、本発明においては、0.003〜0.2%の範囲に限定する。
【0059】
Zrも主として析出強化により強度向上に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.003%以上必要である。一方、0.1%を超えて過剰に添加すると粗大な析出物を形成して靭性に悪影響を及ぼすため、上限を0.1%とする。
【0060】
TaもNbと同様の効果を有し、適正量の添加により強度、靭性の向上に寄与するが、0.005%未満では効果が明瞭には生ぜず、0.2%を超える過剰な添加では粗大な析出物に起因した靭性劣化が顕著となるため、範囲を0.005〜0.2%とする。
【0061】
Bは極微量で焼入性を高める元素であり、高強度化に有効な元素である。Bは固溶状態でオーステナイト粒界に偏析することによって焼入性を高めるため、極微量でも有効であるが、0.0002%未満では粒界への偏析量を十分に確保できないため、焼入性向上効果が不十分となったり、効果にばらつきが生じたりしやすくなるため好ましくない。一方、0.005%を超えて添加すると、鋼片製造時や再加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多いため、焼入性向上効果が不十分となったり、鋼片の割れや析出物に起因した靭性劣化を生じる危険性も増加する。そのため、本発明においては、Bの範囲を0.0002〜0.005%とする。
【0062】
さらに、本発明においては、延性の向上、継手靭性の向上のために、必要に応じて、Mg、Ca、REMの1種又は2種以上を含有することができる。
【0063】
Mg、Ca、REMはいずれも硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効である。酸化物を微細化させて継手靭性の向上にも有効に働きく。その効果を発揮するための下限の含有量は、Mgは0.0005%、Caは0.0005%、REMは0.005%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性、さらに疲労特性の劣化を招くため、上限を各々、Mg、Caは0.01%、REMは0.1%とする。
【0064】
以上が、本発明の基本要件である、ミクロ組織と化学組成の限定理由である。加えて、本発明においては、本発明の組織要件を満足させるための適切な製造方法についても、提示する。ただし、本発明のミクロ組織については、その達成手段を問わず効果を発揮するものであり、本発明の、請求項1〜3に記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法は、請求項4〜10に示した方法に限定されるものではない。
【0065】
第1の製造方法は、必要に応じて熱間圧延前に、鋼片に加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施した鋳造厚みが100mm以下の鋼片を、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷することを特徴とする。
【0066】
第2の製造方法は、鋳造厚みが100mm超である鋼片に対するもので、熱間圧延前に、鋼片に加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施した後、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷することを特徴とする。
【0067】
また、第1、第2の方法とも、必要に応じて、開始温度が850℃以下、終了温度がAr3変態点以上で、累積圧下率が30%以上の圧延を含むか、あるいは/及び、開始温度がAr3変態点以下、終了温度が600℃以上で、累積圧下率が10〜80%の圧延を含む熱間圧延を行うことができる。
【0068】
さらに、熱間圧延後の鋼板に対して、(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に再加熱し、500℃以下まで5〜100℃/sで冷却する二相域熱処理、あるいは/及び、加熱温度が250〜500℃の焼戻しを施すことができる。
【0069】
第二相のサイズ、分布は、凝固時に生じる、MnやC等のミクロ偏析部の分布と変態挙動によって大きく左右される。本発明の要件となっている硬質第二相の微細化及び間隔の低減のためにはミクロ偏析部を微細分散させることが有効であるが、そのためには、凝固前後の冷却速度を高めたり、熱間圧延によって2次デンドライトアーム間隔を低減することが有効である。また、拡散熱処理によって一旦生成したミクロ偏析の偏析程度自体を軽減する方法も有効である。
【0070】
鋳造厚みを100mm以下とするのは、凝固速度を大きくすることによって2次デンドライトアーム間隔を微細化して、最終組織においてZ面の硬質第二相サイズと間隔とを本発明範囲内とするためである。鋳造厚みが100mm超では、確実に硬質第二相の平均円相当径を200μm以下、また、硬質第二相間の最大間隔を500μm以下とすることが困難となる。
【0071】
鋳造厚みに関わらずに硬質第二相の微細分散を図る方法が、加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理である。Mnを主とする合金元素の有効な拡散のためには、1150℃で1h以上の保持が必要である。ただし、拡散熱処理温度が1300℃超では、加熱オーステナイトが極端に粗大となって鋼板の靭性に悪影響を及ぼし、また、鋼板の肌荒れを生じる恐れがあって好ましくない。保持時間は1h以上であれば長いほど好ましいが、拡散熱処理温度が1150℃以上であれば保持時間が100h以内で十分合金元素の均一化が達成されるため、本発明では上限を100hとする。なお、本拡散熱処理と鋳造厚みの低減とはその効果が加算的であるため、第一の方法において、必要に応じて鋳造厚みが100mm以下の鋼片に対しても本拡散熱処理を施すことは有効である。
【0072】
本発明においては、鋳造厚みが100mm以下の鋼片又は/及び加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施した鋼片を、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷して厚鋼板とすることを鋼板製造条件の基本とする。
【0073】
鋼片の再加熱温度をAC3変態点〜1250℃とするのは、再加熱温度がAC3変態点未満であると、加熱段階でオーステナイト単相とならず、また析出物の固溶が十分でないため、構造材料として必要な強度・靭性を得ることが困難となるためであり、一方、再加熱温度が1250℃超であると、加熱オーステナイト粒径が極端に粗大となって、その後の熱間圧延によっても十分微細化されず、そのため、靭性が劣化する恐れがあるためである。
【0074】
熱間圧延は圧下比(鋳造厚み/鋼板厚み)を2以上とする。これは、圧下比が2以上であれば、Z面での硬質第二相の微細分散に対しても有利であり、且つ、板厚方向での硬質第二相の間隔も低減することで、疲労特性の向上に寄与するためである。さらに、圧下比が2未満であると、鋳片中に存在する、凝固収縮ともなって生じるポロシティの圧着が困難であることも、圧下比を2以上とする理由となる。
【0075】
熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷するのは、疲労特性向上に必要な平均ビッカース硬さが250〜800である硬質第二相の組織中の分率をを20〜80%確保するためである。本発明のようにC量が0.3%以下の低C鋼において、該硬質第二相を生成されるためには、変態温度域を急冷するとともに、変態前のオーステナイト相にCを濃化させる必要があり、そのためには急冷前にフェライト変態を生じさせる必要がある。急冷前のフェライト分率が10%未満では未変態オーステナイトへのCの濃化が不十分となる場合があるため、本発明では急冷前のフェライト分率を10%以上とする。該フェライトの生成はオーステナイトへのCの濃化が主要な目的であるため、フェライト変態温度は高めである方が好ましく、そのためにフェライト生成の際の冷却速度は2℃/s以下とする。該冷却速度が過大であると、フェライト変態温度が低下するため、また、Cの拡散速度が十分でなくなるため、オーステナイトへのCの濃化にとって好ましくない。オーステナイトへのCの濃化の観点からはフェライト生成過程での冷却速度は小さいほど好ましいが、0.1℃/s以上であれば十分であり、それ以上徐冷しても効果は飽和するため、本発明では下限の冷却速度を0.1℃/sとする。
【0076】
Cが十分濃化した未変態オーステナイトを5〜100℃/sで500℃以下まで急冷することによって低温で変態させ、硬質第二相を形成する。変態域前後の平均冷却速度が5℃/s未満であると、本発明の化学組成範囲内であっても、平均ビッカース硬さが250以上の硬質第二相を安定的に形成させることが困難となる。冷却速度が大きいほど硬質第二相形成には有利であるが、100℃/sを超えて大きくとも効果が飽和し、且つ、このような過大な冷却速度で冷却することは製造コストの上昇、鋼板形状の悪化にもつながる。以上の理由により、本発明においては、未変態オーステナイトから硬質第二相を形成させる際の急冷における冷却速度は5〜100℃/sの範囲とする。該冷却速度での急冷は変態がほぼ完了させるまで必要で、本発明の化学組成範囲では該急冷の停止温度を500℃以下とすれば、所望の硬質第二相を得ることができる。
【0077】
なお、インゴットあるいはスラブ等の鋼片に対して、鋼板となすためのの熱間圧延前に、形状調整等の目的のために分塊圧延を施しても本発明の効果を損なうものではない。また、本発明の拡散熱処理の条件を満足している限り、拡散熱処理と分塊圧延とを兼用すること、すなわち、鋼片を、本発明の拡散熱処理条件である、1150〜1300℃に1〜100h保持した後の冷却段階で分塊圧延を施すことも全く問題ない。
【0078】
以上が本発明における製造方法の基本要件限定理由であるが、本発明の製造方法においては、さらに、本発明の組織要件を得るため、及び、機械的性質の改善等を目的として、必要に応じて、本発明の製造方法の基本要件を満足した上で、付加的に下記の(a)〜(d)の処理を施すことができる。
(a) 開始温度が850℃以下、終了温度がAr3変態点以上で、累積圧下率が30%以上の熱間圧延を行う。
(b)開始温度がAr3変態点以下、終了温度が600℃以上で、累積圧下率が10〜80%の熱間圧延を行う。
(c)500℃以下までに急冷後、さらに(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に再加熱し、500℃以下まで5〜100℃/sで冷却する二相域熱処理を施す。
(d)500℃以下まで急冷後、又は二相域熱処理を施した後、250〜500℃で焼戻す。
【0079】
(a)は、変態前のオーステナイトを微細化あるいは/及び未再結晶オーステナイトへ歪を蓄積して変態組織を微細化するための工程である。変態組織を微細化する結果、硬質第二相が微細分散し、安定的に、硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm、硬質第二相間の最大間隔:500μm以下、を満足させることができ、疲労特性が向上する。また、合わせて、フェライト粒径も微細化するため、本手段は疲労特性と同時に高靭性を達成するためには有効である。
【0080】
以上の効果を発揮するためには、累積圧下率が30%以上の熱間圧延を開始温度が850℃以下、終了温度がAr3変態点以上で行う必要がある。累積圧下率が30%未満であると、再結晶域圧延においては再結晶オーステナイト粒の微細化は十分でなく、また、未再結晶域圧延においてはオーステナイト粒への歪蓄積が十分でなく、圧延温度の如何によらず、変態組織の微細化が十分でない。一方、累積圧下率が30%以上であっても、圧延温度が適正範囲でないと、圧延の効果が有効に組織微細化に寄与しないため、好ましくない。すなわち、圧延開始温度が850℃超では、再結晶オーステナイト粒の微細化が不十分でなかったり、導入された転位の回復速度が大きく、歪が有効に蓄積されない。本発明においては、(a)の手段における圧延は組織微細化に全て寄与させる観点から、圧延開始温度の上限を850℃とする。圧延はオーステナイト域で終了する限りは組織微細化に有効であるため、(a)の付加的な処理における圧延終了温度はAr3変態点以上であれば良い。なお、圧延温度が850℃〜Ar3変態点の範囲であれば、圧延の効果はほぼ蓄積されるため、圧下率は累積圧下率で規定すればよく、各パスの圧下条件を規定する必要はない。
【0081】
(b)は、二相域圧延によってフェライト変態を促進させ、未変態オーステナイトへのC濃化を促進させて、硬質第二相の硬さを確保する上で有効な手段である。オーステナイトへCを濃化させるには、より高温でフェライトからオーステナイトへCを拡散させた方がオーステナイトへのCの濃化が確実で、オーステナイト中のC量が多くなり、変態後の硬質第二相の硬さが増す。
【0082】
二相域圧延を施すことで、フェライト変態が促進される。そのために、本発明の化学組成範囲においては、開始温度がAr3変態点以下、終了温度が600℃以上で、累積圧下率が10〜80%の熱間圧延を付加的に行うことが有効である。開始温度をAr3変態点以下としたのは、Ar3変態点超では、加工によって変態点が上昇した場合でも二相域での加工量が不十分となるためである。圧延の終了温度を600℃以上としたのは、600℃未満では加工中あるいは/及び加工後、急冷開始までの間にオーステナイトからの変態が生じて、急冷によって生成されるべき硬質第二相よりも硬さの低い、パーライト変態が生じてしまう恐れがあるためである。二相域圧延によるフェライト変態促進効果を確実にするためには、二相域圧延の累積圧下率は10%以上必要である。10%未満では、フェライト変態促進が十分でなく、二相域圧延を付加的に施す意味がない。二相域圧延の累積圧下率の上限は80%とする。これは80%を超えて過大な二相域圧延を施すと、未変態オーステナイトからの変態も促進されてしまい、所望の硬質第二相が形成されない恐れがあり、また、工業的にも、圧延終了温度の下限である600℃を確保することが困難となるためである。なお、本手段を付加的に用いることにより、集合組織が発達し、それによる疲労特性の向上、靭性の向上も補助的に期待できる。
【0083】
(c)は、二相域熱処理によって、より確実に硬質第二相の硬さ、分率を確保するものである。二相域に加熱すると、逆変態でのオーステナイト化は、成分の濃化したミクロ偏析部やパーライト部分から生じるため、熱処理前の熱間圧延条件が本発明の要件を満足していれば、分散状態に関しては本発明の範囲内となる。二相域熱処理の加熱条件に応じて、逆変態オーステナイトの分率と該オーステナイトへのCの濃化の程度が決定される。すなわち、オーステナイトから変態した後の硬質第二相の分率と硬さとが決定される。二相域熱処理における加熱温度が(AC1変態点+30℃)未満であると、逆変態オーステナイト分率、従って、結果としての硬質第二相分率が本発明に比べて過小となり、疲労特性が劣化する。一方、二相域熱処理における加熱温度が、(AC3変態点−50℃)超であるとオーステナイト分率は多くなるが、そのかわりに該オーステナイト中へのCの濃化が不十分で、硬質第二相の硬さが本発明を逸脱して低くなるため、やはり疲労特性が劣り、好ましくない。従って、本発明においては、二相域熱処理温度は(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に限定する。(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に再加熱した後、冷却は500℃以下まで5〜100℃/sで冷却するが、これは、前記した熱間圧延後の急冷と同様に、Cが十分濃化した未変態オーステナイトを低温で変態させ、本発明の組織要件を満足する硬質第二相を形成するためである。
【0084】
(d)は、500℃以下までに急冷後、又は二相域熱処理を施した後に行う焼戻し処理であり、必要に応じて、強度・靭性を調整するために行う。ただし、硬質第二相の硬さを過度に低下させないための配慮が必要である。すなわち、本発明においては、焼戻し温度の上限を500℃とする。これは、焼戻し温度が500℃超であると、化学組成によっては、熱間圧延や二相域熱処理段階では硬質相の平均ビッカース硬さが250以上であったものが、焼戻しを施すことによって250未満に低下してしまう懸念があるためである。また、本発明では焼戻し温度の下限を250℃と規定するが、これは、焼戻し温度が250℃未満では、焼戻しによる材質調整効果が明確でないためである。
【0085】
次に、本発明の効果を実施例によってさらに具体的に述べる。
【0086】
【実施例】
実施例に用いた供試鋼の化学組成を表1に示す。各供試鋼は造塊後、分塊圧延により、あるいは連続鋳造により鋼片となしたものである。表1の内、鋼片番号1〜10は本発明の化学組成範囲を満足しており、鋼片番号11〜15は本発明の化学組成範囲を満足していない。表1には合わせて加熱変態点(AC1、AC3)を示すが、これは、昇温速度が5℃/min.のときの実測値であるが、表2に示す、鋼板の鋼片加熱あるいは熱処理時における実際の昇温条件での変態点とほぼ合致している。
【0087】
表1の化学組成の鋼片を、表2(表2−1〜表2−3)に示す条件の拡散熱処理、熱間圧延、熱処理、焼戻しを施して、板厚25mm又は50mmの鋼板に製造し、室温の引張特性、2mmVノッチシャルピー衝撃特性、さらに溶接継手の疲労特性を調査した。 引張試験片及びシャルピー衝撃試験片は板厚中心部から圧延方向に直角(C方向)に採取した。引張特性は室温で測定し、シャルピー衝撃特性は50%破面遷移温度(vTrs)で評価した。疲労試験は、構造物の溶接止端部から疲労き裂が発生し、母材部を伝播する場合の疲労特性を評価するために、図5に示す廻し溶接継手について行った。試験片Sは、鋼板から鋼板長手方向長さ:300mm、幅方向長さ:80mm、板厚:25mm(25mm厚材については全厚、50mm厚材については表面から採取)、のサイズで試験板を採取し、幅:10mm、長さ:30mm、高さ:30mmのリブ板Bを炭酸ガス溶接(CO2溶接)により、試験板の中央に廻し溶接Cで溶接した。この際の炭酸ガス溶接は、化学組成が、C:0.06mass%、Si:0.5mass%、Mn:1.4Mass%、である1.4mm径の溶接ワイヤを用いて、電流:270A、電圧:30V、溶接速度:20cm/min.で行った。疲労試験は、荷重支点Fのスパンを、下スパン:70mm、上スパン:220mmとして、最大荷重(Pmax):5500kgfで応力比(R):0.1の繰り返し応力負荷を加え、疲労寿命を測定した。
【0088】
鋼板の硬質第二相の組織形態(種類、分率、ビッカース硬さ、平均円相当径、最大間隔)と機械的性質を表3に示す。なお、組織の定量は板厚の1/4における鋼板表面に平行な断面(Z面)の光学顕微鏡組織について実施した。5〜10視野の組織写真を用い、画像解析装置により定量した。硬質第二相の硬さも同一断面において、荷重5〜10gのマイクロビッカース硬さを10点以上測定し、平均値で評価した。
【0089】
表2、3の内の鋼板番号A1〜A13は、本発明の化学組成と組織に関する要件を全て満足している鋼板であり、いずれも構造用鋼として必要な強度、靭性(2mmVノッチシャルピー衝撃特性)を有しているだけでなく、極めて良好な継手疲労特性も有していることが明らかである。
【0090】
一方、鋼板番号B1〜B11は、本発明のいずれかの要件を満足していない、比較の鋼板であり、同程度の組成、強度レベルの本発明の鋼板に比べて、継手疲労特性や靭性が劣っていることが明白である。
【0091】
鋼板番号B1〜B5は、化学組成が本発明を満足していないために、本発明の組織要件を満足できないか、あるいは本発明の組織要件を満足しているにも関わらず、良好な特性を達成できなかった例である。
【0092】
すなわち、鋼板番号B1は、C量が過大であるため、靭性が劣るのは勿論、靭性が極端に劣るために、疲労試験においてさえも硬質相が脆性破壊する影響で、本発明に比べて、継手疲労特性が劣る。
【0093】
鋼板番号B2は、Mn量が過剰なため、C量が過大な場合と同様の理由により、靭性、疲労特性ともに、本発明よりも顕著に劣る。
【0094】
鋼板番号B3、B4は、各々P、N量が過剰で、鋼を脆化させるため、やはり靭性、疲労特性ともに、本発明よりも顕著に劣る。
【0095】
鋼板番号B5は、S量が過剰であるため、延性劣化を介して、疲労特性を大きく劣化させるため、本発明に比べて疲労特性が劣る。
【0096】
鋼板番号B6〜B11は、化学組成は本発明を満足しているものの、組織要件が本発明を満足していないために、継手疲労特性が劣っている例である。
【0097】
すなわち、鋼板番号B6及びB9は、硬質第二相の間隔が過大であるため、同一組成の本発明鋼に比べて疲労特性が劣っている例である。
【0098】
鋼板番号B7、B8及びB10、B11は、第二相が疲労特性に好ましくないパーライトであるため、第二相の分散状態は本発明を満足しているにも関わらず疲労特性が本発明に比べて大きく劣っている。
【0099】
以上の実施例から、本発明によれば、構造用鋼として十分高い靭性を確保しながら、優れた継手疲労特性を得ることが可能であることが明白である。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2−1】
【表2−2】
【表2−3】
【0102】
【表3】
【0103】
【発明の効果】
本発明は疲労強度が必要とされる溶接構造部材に用いられる厚鋼板において、従来、溶接部では向上が困難とされてきた、継手疲労特性の向上を特殊な合金元素や複雑な製造プロセスに頼ることなく、また、引張強度や鋼板板厚に大きな制限を受けずに製造できる点で、産業上の有用性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】表面機械ノッチ3点曲げ疲労試験での破断寿命と硬質第二相の種類、分率との関係を示す図である。
【図2】上記疲労試験での破断寿命と硬質第二相のZ面における最大間隔との関係を示す図である。
【図3】硬質第二相のZ面における最大間隔の定義を示した図である。
【図4】母材疲労き裂伝播特性を調べるための表面機械ノッチ3点曲げ試験片と試験装置の概要図である。
【図5】疲労亀裂が母材鋼板に伝播するときの疲労寿命を測定するための4点曲げ試験片と試験装置の概要図である。
【符号の説明】
A 試験片
N 機械ノッチ
S 試験片
B リブ板
C 廻し溶接
F 荷重支点
Claims (10)
- 質量%で、
C :0.04〜0.3%、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.1〜3%、
Al:0.001〜0.1%、
N :0.001〜0.01%
を含有し、不純物として、
P:0.02%以下、
S :0.01%以下
を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしている厚鋼板において、前記硬質第二相の組織がベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織からなることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下 - さらに、質量%で、
Ni:0.01〜6%、
Cu:0.01〜1.5%、
Cr:0.01〜2%、
Mo:0.01〜2%、
W :0.01〜2%、
Ti:0.003〜0.1%、
V :0.005〜0.5%、
Nb:0.003〜0.2%、
Zr:0.003〜0.1%、
Ta:0.005〜0.2%、
B :0.0002〜0.005%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の疲労強度に優れた厚鋼板。 - さらに、質量%で、
Mg:0.0005〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.01%、
REM:0.005〜0.1%
のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板。 - 前記請求項1〜3のいずれかに記載の成分を有し、鋳造厚みが100mm以下の鋼片を、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷し、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしていて、前記硬質第二相の組織をベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下 - 前記熱間圧延前において、鋼片に加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施すことを特徴とする、請求項4に記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の成分を有し、鋳造厚みが100mm超の鋼片に対して、熱間圧延前に、加熱温度が1150〜1300℃、保持時間が1〜100hの拡散熱処理を施した後、AC3変態点〜1250℃に再加熱し、圧下比が2以上の熱間圧延を行い、熱間圧延後、フェライト分率が10%以上となる温度まで0.1〜2℃/sの冷却速度で冷却した後、さらに500℃以下まで5〜100℃/sで急冷し、少なくともフェライトと硬質第二相とを含む組織を有し、且つ、表面に平行な断面組織において前記硬質第二相が下記(a)〜(d)の条件を全て満たしていて、前記硬質第二相の組織をベイナイト、マルテンサイトのいずれか又は両者の混合組織とすることを特徴とする疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
(a)硬質第二相の分率:20〜80%
(b)硬質第二相の平均ビッカース硬さ:250〜800
(c)硬質第二相の平均円相当径:10〜200μm
(d)硬質第二相間の最大間隔:500μm以下 - 前記熱間圧延において、少なくとも開始温度が850℃以下、終了温度がAr3変態点以上で、累積圧下率が30%以上の圧延を含む熱間圧延を行うことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
- 前記熱間圧延において、少なくとも開始温度がAr3変態点以下、終了温度が600℃以上で、累積圧下率が10〜80%の圧延を含む熱間圧延を行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
- 前記500℃以下まで急冷した後、熱間圧延終了後、さらに(AC1変態点+30℃)〜(AC3変態点−50℃)に再加熱し、500℃以下まで5〜100℃/sで冷却する二相域熱処理を施すことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
- 前記500℃以下まで急冷した後、又は、二相域熱処理を施した後、250〜500℃で焼戻すことを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載の疲労強度に優れた厚鋼板の製造方法。
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