JP3847515B2 - 緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は湿式紡糸によって、力学特性、耐熱性等の良好なメタフェニレンジアミン骨格を主たる成分とするメタ型芳香族ポリアミド繊維を高い生産性で製造する方法に関するものである。さらに詳細には、塩類を含むメタ型芳香族ポリアミド重合体溶液から特殊な凝固、製糸条件を使用した新規な湿式紡糸法により、優れた力学的特性を有し且つ、耐熱性、難燃性も良好なメタ型芳香族ポリアミド繊維を良好な生産性により製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロリドとから製造される芳香族ポリアミド(以下アラミドと称することがある)が耐熱性に優れ且つ難燃性に優れることは従来周知であり、また、これらのアラミドがアミド系溶媒に可溶であって、これらのアラミド溶液が乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法によって繊維となし得ることも良く知られている。
【0003】
かかるアラミドのうち、ポリメタフェニレニイソフタルアミドで代表されるメタ型芳香族ポリアミド(以下メタ型アラミドと称することがある)の繊維は、耐熱性・難燃性繊維として特に有用なものであり、現在、主に次の(a)(b)の2つの方法によって工業的な生産が行われているといわれている。さらに、これ以外にもメタ系アラミド繊維の製造法として、次の(c)〜(f)のような方法が提案されている。
【0004】
(a)メタフェニレンジアミンとイソフタル酸クロライドとをN,N−ジメチルアセトアミド中で低温溶液重合させることによってポリメタフェニレンイソフタラミド溶液を調製し、しかる後、溶液中に副生した塩酸を水酸化カルシウムで中和して得た塩化カルシウムを含む重合体溶液を、乾式紡糸して繊維を製造する方法(特公昭35-14399号公報、米国特許第3360595号明細書)。
【0005】
(b)メタフェニレンジアミン塩とイソフタル酸クロライドとを含む生成ポリアミドの良溶媒ではない有機溶剤系(例えばテトラヒドロフラン)と無機の酸受容剤ならびに可溶性中性塩を含む水溶液系とを接触させることによってポリメタフェニレンイソフタラミド重合体の粉末を単離し(特公昭4 7-10863号公報参照)、この重合体粉末をアミド系溶媒に再溶解した後、無機塩含有水性凝固浴中に湿式紡糸する方法(特公昭48-17551号公報)。
【0006】
(c)溶液重合法で合成したメタ型アラミドをアミド系溶媒に溶解した、無機塩を含まないか又は僅かな量(2〜3%)の塩化リチウムを含むメタ型アラミド溶液から、湿式成形法によって繊維等の成形物を製造する方法(特開昭50-52167号公報)。
【0007】
(d)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタ型アラミド重合体溶液を、オリフィスから気体中に押し出して、気体中を通過せしめた後、水性凝固浴に導入し、次いで、塩化カルシウム等の無機塩水溶液中を通過せしめて糸条物に成形する方法(特開昭56-31009号公報)。
【0008】
(e)アミド系溶媒中で溶液重合し、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等で中和して生成した塩化カルシウムと水とを含むメタ型アラミド重合体溶液を、オリフィスから、塩化カルシウムを高濃度に含む水性凝固浴中に紡出せしめて糸条物に成形する方法(特開平8-074121号公報、特開平10−88421号公報)。
【0009】
(f)アミド系溶媒のポリマー溶液を高温の紡糸塔に吐出し、紡糸塔から出たところで低温の水性溶液で冷却し、これを可塑浴中で延伸する事で、非常に緻密な多孔質で密度が1.3以下の繊維として成形する方法。(特開昭52−43930号公報)
【0010】
上記(a)の方法は、ポリマーを単離せずに紡糸用溶液を調製できる利点はあるが、沸点の高いアミド系溶媒を用いる乾式紡糸のため、製造上のエネルギーコストが高く、しかも紡糸口金当たりの孔数を増大すると紡糸安定性が急速に低下する。また、この重合体溶液を水性凝固浴中に湿式紡糸しようとしても失透の多い弱い繊維しか得られないことが多いため、未だに溶液重合によるメタ型アラミド溶液を水性凝固浴を用いて湿式紡糸する方法は、多くの困難があると考えられおり、いまだに工業的に実施されていない。
【0011】
一方、(b)(c)の方法は、上述した乾式紡糸の問題は回避されるが、重合系と紡糸系とで溶媒が異なること、一度単離された重合体を再溶解するための工程を要すること、再溶解して安定な溶液を得るには特別の配慮と細心の工程管理が要求されること、等の問題がある(特公昭48-4661号公報)。
【0012】
また、(d)の方法は、紡糸口金から空気中に出糸する場合、口金当たりの孔数を増大すると紡糸安定性が著しく低下するため、生産性が低く効率的でない。
【0013】
また、(e)の方法は良好な物性の糸を与えるものの、紡速をあげることが困難である。
【0014】
さらに、(f)の方法は密度が1.3以下の多孔性糸を製造する方法であるが、これは乾式紡糸法の応用的な技術であり、乾式法と同様の問題点を有する。
【0015】
従って、糸物性を満足し、高い生産性のメタ系アラミド繊維の製造法が求められており、とくに塩類を含むポリマー溶液を、ホール数の大きな口金を用いて湿式紡糸法によって高速で紡糸する方法は生産性高い方法として求められてきたが、これまで誰も成功にいたっていなかった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述のごとき従来のメタ型アラミド繊維の製造法における問題点を解消し、均質で、力学特性、熱的性質の良好なメタ型アラミド繊維を良好な生産性にて工業的に有利に生産する新規な方法を提供しようとするものである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、アミド系溶媒中でメタ型芳香族ジアミンとイソフタル酸クロライドを主成分とする芳香族ジカルボン酸とを反応させた後、副生する塩酸を中和して生成する塩化カルシウムと水を含む重合体溶液を直接に湿式紡糸することにより、力学特性の良好なメタ型アラミド繊維を、良好な生産性にて工業的に製造し得る新規な方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
上記の本発明の目的は、メタフェニレンジアミンイソフタルアミド骨格を主成分とするメタ型芳香族ポリアミドと塩類を含むアミド系溶媒とからなるメタ型芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、(1)上記重合体溶液をアミド系溶媒と水からなり塩類を実質的に含まない、アミド系溶媒と水の組成が重量比で50/50から70/30で、温度が80から90℃の範囲である凝固浴中に吐出して、密度が0.3g/cm3以上の多孔質の線状体として凝固せしめ、(2)続いて、アミド系溶媒と水の組成が重量比で20/80から70/30で、温度が20から90℃であるアミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸し、(3)これを水洗後、熱処理することを特徴とする緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法、によって達成される。
【0019】
さらには、アミド系溶媒の存在下で芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロリドをとを反応せしめた後、副生する塩化水素を中和して生成する塩化カルシウムと水とを含むメタ型ポリアミド溶液を用いた場合にも、良好な物性をあたえ、生産性の高いメタ系アラミド繊維の製造法を提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明においては、メタフェニレンジアミンイソフタルアミド骨格を主成分とするメタ型芳香族ポリアミドと塩類を含むアミド系溶媒とからなるメタ型芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型芳香族ポリアミド繊維を製造する方法であって、特定の工程(1)、(2)及び(3)を順次行うことによって、緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維が提供される。
【0021】
本発明において使用されるメタ型芳香族ポリアミドは、メタフェニレンジアミンイソフタルアミドを主に骨格とするものであり、その製造方法は特に限定されず、例えば、メタ型芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロライドとを原料とした溶液重合により製造することができる。
【0022】
かかる原料の一つであるメタ型芳香族ジアミンとしては、主として下記式で示されるジアミンが使用される。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式において、Rは塩素原子、臭素原子等のハロゲン、又はメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基である。nは0又は1である。
【0025】
かかるメタ型芳香族ジアミンの具体例としては、メタフェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼンなどが挙げられる。その他のメタ型芳香族ジアミンとしては、3,4´-ジアミノジフェニルエーテル、3,4´-ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0026】
本発明では、なかでも、メタフェニレンジアミン又はこれを主体とする混合ジアミンが好ましい。メタフェニレンジアミンと併用する他の芳香族ジアミンとしては、上記のメタ型芳香族ジアミンのほかにパラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジンなどのようなベンゼン誘導体、1,5-パラナフチレンジアミン、4, 4´-ジアミノジフェニルエーテル、4,4´-ジアミノジフェニケトン、ビス(アミノフェニル)フェニルアミン、ビス(パラアミノフェニル)メタンなどが用いられる。
【0027】
溶解性の良い重合体が望まれる場合には、このような他の芳香族ジアミンは全体の20モル%程度まで使用可能であるが、高結晶性の重合体が望まれる場合には、メタフェニレンジアミンが90モル%以上、とくに95モル%以上、含まれることが好ましい。
【0028】
一方、芳香族ジカルボン酸クロライドは、イソフタル酸クロライド又はこれを主体とする芳香族ジカルボン酸クロライドである。イソフタル酸クロライドと併用し得る他の芳香族ジカルボン酸クロライドとしては、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4´-ビフェニルジカルボン酸クロライド、3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0029】
本発明の実施に当たって、溶解性の良好な重合体が望まれる場合は、これらの他の芳香族ジカルボン酸の高率(20モル%程度まで)混合も可能であるが、高結晶性の重合体が望まれる場合は、イソフタル酸クロライドが90モル%以上、特に95モル%以上含まれることが好ましい。
【0030】
溶液重合に用いる際は、重合溶媒としてアミド系溶媒を用いることができる。かかるアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンなどを用いることが出来るが、特に、溶液重合から湿式紡糸工程に至るまでの重合体溶液の安定性などから、N−メチル−2−ピロリドン(本発明では「NMP」と略す)を用いることがより好ましい。
【0031】
溶液重合工程では、重合溶媒としてNMPが好適に使用される。通常、NMPにメタ型芳香族ジアミンを溶解させた後、この溶液にイソフタル酸クロライドを主成分とする芳香族ジカルボン酸クロライドを粉末状態もしくは溶融状態で十分な撹拌下に加えて反応させる。反応温度としては、0〜80℃、溶媒の使用量としては、原料合計に対して3〜30重量%が好適である。
【0032】
このようにして調製したメタ型芳香族ポリアミドの溶液は高濃度の塩化水素を含むので、これを水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム、炭酸(水素)ナトリウムなどのアルカリによって中和することにより、反応が終結し好ましい重合度を持ち、化学的安定性の高いポリマー溶液をメタ型芳香族ポリアミド重合体溶液として得ることが出来る。
【0033】
本発明において上記のごときメタ型芳香族ポリアミド溶液から力学的特性の良好な耐熱繊維を製造するには重合度の調節が重要である。とりわけ、ポリメタフェニレンイソフタラミド系重合体から性能が良好な繊維を得るには、30℃の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/100mlで測定した値から求めた固有粘度(I.V.)が0.8〜4.0、とくに1.0〜3.0、なかでも1.3〜2.4の重合体が好適である。重合体の重合度は、重合体又はその溶液が使用される目的や繊維の用途などによってその要求水準が設定されるので、必要に応じ、従来公知の方法によって重合度を制御して用いることができる。その代表的な方法の1つとして、末端停止剤(アニリン、トルイジン等のアルキルアニリン、安息香酸クロライド等)を用いて重合度を調節することができる。
【0034】
本発明における重合体溶液中の重合体濃度は、重合体と溶媒(NMP)との合計100重量部に対する重量部(本発明では「PN濃度」と称する。なお、以下の説明ではPN濃度の単位である重量部は省略する。)にして10〜30、好ましくは16〜30である。PN濃度が10未満では、濃度が小さすぎて溶液の曳糸性が悪くなり、これに伴い繊維性能が低下するばかりでなく、低濃度のため、さらに溶媒(NMP)の使用循環比が高くなり経済的にも好ましくない。また、PN濃度が高いほど成形物(繊維)の透明性は良好になる傾向があるが、PN濃度が30を超えると粘度が高くなり過ぎて、重合反応及びとくに中和反応が順調に行えないなどの問題が生じる。したがって、重合反応で高濃度(例えばPN濃度30以上で)重合を行った場合、中和反応工程で中和剤である水酸化カルシウムをNMPの適当量(例えば、最終的にPN濃度が25になる量)に分散させたスラリーを添加すると、中和反応が容易になると同時に重合体濃度(PN濃度)の調整を行うことがことができる。
【0035】
本発明に用いる重合体溶液は、メタ型芳香族ポリアミドとアミド系溶媒とを含み、塩類を含むものであるが、さらに、水を含んでいてもよい。このような水や塩類は、上記溶液重合中に必然的に生成するが、さらに必要に応じて添加することできる。また、重合体溶液を他の溶液調製プロセスで製造する場合、塩類や水を外部より添加してもよい。このような塩類としてはこれに限定するものではないが、例えば塩化ナトリウム、よう化ナトリウム、塩化リチウムなどのアルカリ金属のハロゲン化物、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウムなど、アルカリ土類金属のハロゲン化物や、炭酸塩、水酸化物などがあげられる。その濃度としては、溶液が安定に存在する範囲であるならばいかなる濃度でもかまわないが、例えばポリマー重量に対して0以上60%以下の範囲で添加、含有されるのが通常好ましく、特に50%以下であることが好ましい。これを越える濃度では、溶液中の塩が析出するために溶液の安定性が損なわれるからである。
【0036】
上記重合体溶液における水の含量は、全溶液重量に対して0から20%の範囲で含んでいても良く、より好ましくは0から15%の範囲である。これを越えるとポリマー溶液の安定性が損なわれ、ポリマーの析出、ゲル化によって紡糸性が著しく損なわれることがある。
【0037】
特に上記溶液重合では、ポリマーの重合後溶液中に中和剤を添加し中和する。かかる中和剤としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの少なくとも1種を使用する。この中和反応により、重合反応で副生するHClを中和することで塩化カルシウム(CaCl2)が必然的に生成する。重合反応で副生するHClの量は、重合体の化学構造、最小単位の平均分子量によって異なるが、例えばポリメタフェニレンイソフタラミドの重合反応で副生するHClを上記化合物で100%中和する場合、重合体100(重量)部についてCaCl2が46.64(重量)部生成する。ちなみに、この中和反応で生成したCaCl2は重合体溶液中に溶存し、重合体溶液の安定性を高める働きをするが(特公昭35-16027号参照)、逆に、この多量に溶存するCaCl2のため、従来はかかる重合体溶液からの湿式紡糸が困難であった。
【0038】
一方、中和反応によって生成、含有される水の量は、中和剤の種類によって異なり、水酸化カルシウムによって中和すると重合体100(重量)部に対して15.13(重量)部の水が生成する。一方、酸化カルシウム、炭酸カルシウムによって中和すると重合体100部に対して7.56部の水が生成する。また、これらの中和剤は水溶液や水、溶媒を含むスラリーとして添加されるため、ここで生成、添加した水も、重合体溶液に溶存しているが、上記の程度の量では溶液の安定性や中和後の組成物の特性をほとんど損なわない。むしろ、水の含有によって低粘度化などの好ましい特性を持たせることもあるが、余り多いと溶液の安定性を著しく低下させる(ゲル化する)ことになりこのましくない。従って、中和反応工程において添加する水の適量は、重合体濃度によって異なる。2.42(重合体100部に対して15部)で、この水量の約6倍すなわち重合体100部に対して約90部まで溶解可能であるが、溶液の安定領域は重合体100部に対して水が2.42〜9.7部(水/重合体=15〜60)の範囲である。また、例えばPN濃度=20のときも上記PN濃度=16のときとほぼ同様で、重合体100部に対し約15〜60部であり、PN濃度=25での安定領域は15〜45部となり、PN濃度=30では15〜30部である。上記に例示の範囲は重合体溶液を60〜70℃で静置した場合の概略値であり、重合体の重合度、静置保存温度などの条件によって幾分異なってくる。いずれにしても重合体溶液の水の溶存許容濃度は重合体濃度の増加に伴い限定されてくるが、本発明の実施に当っては好ましくは予め全重合体溶液中の水の濃度8%以下を目安に実験検討を実施することが、溶液のゲル化を防止し好ましい。
【0039】
なお、本発明で用いる重合体溶液は前述の原料から合成し得る芳香族ポリアミドを含むものであればよく、例えば、前述の原料をTHF中で反応せしめ、アルカリ水溶液を加えてTHFと水溶液界面で、発生する塩化水素を中和して得た重合体をアミド系溶媒に溶解した溶液を用いても良いし、あるいは、界面重合法によって製造したポリマー溶液を用いてもかまわない。
【0040】
本発明によれば、湿式紡糸において、多孔凝固と後緻密化というメタ系アラミドでは従来不可能と考えられてきた新規な紡糸、製糸プロセスをとることにより、優れた力学特性、耐熱性を有するメタ型アラミド繊維を効率的に良好な生産性で製造することができる。
【0041】
従来、等モル含CaCl2(溶液重合で合成した際、アミド残基に対して当モルに生じる塩化カルシウムという)メタ型アラミド重合体溶液は湿式紡糸によって繊維化することが困難なため、従来はこれを紡糸する方法として乾式紡糸や半乾半湿式紡糸が採用されてきた。また、これを湿式紡糸するには、溶液重合、界面重合のいずれの場合も副生するHClの中和によって生成した塩化物塩類(CaCl2、NaCl、NH4Cl等)を何等かの手段で少なくとも70%以下まで、好ましくは20%以下まで、減少させた減塩重合体溶液を調製する必要があった。しかしながら、これらの手段による塩化物の除去は工業的に困難なことが多く、例えば、界面重合で重合体を合成した場合、重合溶媒と紡糸用溶媒とが異なるため、それらの回収に別々の回収装置を要するとか、あるいは溶液重合で合成した重合体溶液を同一溶媒を用いて紡糸する場合でも中和によって副生する無機塩化物を加圧濾過によって除去する(高粘度のため工業的に極めて困難)とか、重合体溶液に水を加えて無機塩化物を水洗除去した後、重合体を乾燥して再溶解するなど、困難な工程を必要とするため、エネルギーコスト的にも、環境汚染的にも難点が多く、いずれも好ましい方法とは言い難い。
【0042】
本発明によれば、従来実施困難とされていた、この等モル含CaCl2重合体溶液を用いても、紡糸口金を通じて、塩類を実質的に含まない特定組成からなる凝固浴中に直接紡出する湿式紡糸法によって、光沢や力学特性、耐熱性などに優れたメタ型アラミド繊維を製造することを、可能にするものである。
【0043】
本発明では、アミド系溶媒の水溶液という非常に簡単な組成の凝固浴を用い、これにより均質な多孔質の線状体として重合体溶液を凝固する。すなわち、本発明では、先に述べた重合体溶液を、好ましくは20〜90℃の範囲内で凝固浴温度に対応する温度に調整した後、紡糸口金から後述する組成、温度の凝固浴中に直接紡出(出糸)し、糸条物を多孔質体として形成せしめた後、この糸条物を凝固浴から引き出し、引き続きアミド系溶媒の水溶液中で(好ましくは2倍以上10倍以下の延伸倍率で)延伸し、さらに水洗、乾燥し好ましくはさらに250℃から400℃の範囲の温度で熱処理して繊維化する。
【0044】
以下に上記重合体溶液を用いて行う工程(1)、(2)及び(3)について説明する。
【0045】
[工程(1)]
本発明において、後工程で十分に物性を出し得る程度の緻密化をするためには、凝固段階で出来る多孔体の構造を出来る限り均質なものとすることが極めて重要である。多孔構造と浴の条件は緊密な関係にあり、凝固浴の組成と温度条件の選定は極めて重要である。
【0046】
本発明における凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水(H2O)との2成分からなる水溶液で構成さるが、この凝固浴組成において、アミド系溶媒としてはメタ型芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば好適に用いることが出来るが、特にN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどを好適に用いることが出来る。
【0047】
アミド系溶媒と水の最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、アミド系溶媒の重量比が40%から70%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では糸中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすく、この範囲を上回る条件では凝固が進まず、糸の融着が起こるためである。
【0048】
凝固浴の温度は凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には高温であるとフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔が出来にくく好ましい。しかし凝固液濃度が高い場合には高温にすると融着が激しくなるので、その好適な範囲は20〜90℃であり、より好ましくは30〜80℃の範囲である。
【0049】
凝固液は、実質的にアミド系溶媒と水だけで構成されることが好ましいが、これ以外に塩類が少量含まれていても良い。特に、塩化カルシウム、水酸化カルシウムなどの塩類はポリマー溶液中から抽出されてくるが、これは多孔凝固に対して何らこれを阻害することはなく、低濃度であれば含まれていてもまったく問題はない。したがって、これに限定するものではないが、この好適濃度は凝固液に対し重量比0から10%の範囲である。
【0050】
凝固浴中での糸条物の浸漬時間は0.1〜30秒が好ましい。浸漬時間が短かすぎると糸条物の形成が不十分となり断糸が発生する。
【0051】
このように糸条物として得られる多孔質の線状体は、でき得る限り密度の高い方が後の緻密化をスムーズに行うために好ましいが、好ましくは0.3g/cm 3 以上、より好ましくは0.5g/cm 3 以上の密度である。0.3g/cm 3 を下回る密度では多孔度が高く線状体を後の延伸工程で緻密化することが困難になる。この密度は、ASTM D2130にしたがって測定した糸太さ及び繊度をもとに算出した値である。
【0052】
この多孔構造は非常に均質な微細孔で形成されていることを特徴とする。その孔サイズは走査型顕微鏡で測定すると0.2から1μ程度のサブミクロンオーダーの大きさを持ち、ボイドまたはフィンガーと呼ばれるような数μの大きさの孔は基本的には存在しない。このような非常に緊密で均質な微細孔構造を持つことによって、延伸時の断糸を防止し、最終熱セット時の緻密化と糸物性の発現が可能になる。このような均質な多孔構造は、たとえば凝固に伴うスピノーダル分解によって形成されることが知られている。
【0053】
重合体溶液を凝固浴中に吐出する場合、紡糸口金は多ホールのものを用いることができる。ホール数としては50000個以下、好ましくは300〜30000個である。
【0054】
[工程(2)]
凝固により得られた多孔線状体は引き続きアミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中に浸漬し、この浴中で延伸する。
【0055】
本発明における可塑延伸浴はアミド系溶媒の水溶液からなり、塩類は実質的に含まれない。このアミド系溶媒としてはメタ系アラミドを膨潤させ、水と良好に混和するものであれば好適に用いることが出来る。特にN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどは好適に用いることが出来る。また更に好適には上記凝固浴に用いたものと同じ溶媒を用いることが好ましい。かかる凝固浴と同じ溶媒を用いれば、回収工程が簡略化され、経済的に有益である。
【0056】
すなわち、重合体溶液、凝固浴及び可塑延伸浴に用いるアミド系溶媒は同一であることが好ましく、かかる溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドのうち1種または2種以上の混合液を用いることが好都合である。
【0057】
可塑延伸浴の温度と組成はそれぞれ密接な関係にあるが、アミド系溶媒の重量濃度が20%から70%、温度が20℃から90℃の範囲であれば好適に用いることが出来る。この範囲より低い領域では可塑化が十分に進まず、十分な延伸倍率をとることが困難であり、これを上回る範囲では糸の表面が溶解して融着するため良好な紡糸が困難になる。
【0058】
本発明においては、通常1.5倍以上10倍以下、好ましくは2倍以上10倍以下、より好ましくは2.1倍以上6倍以下の倍率で延伸する。高倍率に延伸をかけることにより糸の強度、弾性率が向上し良好な物性を示すようになると同時に、孔が引きつぶされ、熱セットによる緻密化が良好に進行するようになる。また、極端に高倍率に延伸した場合には、工程の調子が悪化して良好な製糸が困難になる。
【0059】
[工程(3)]
上記可塑延伸浴の工程を経た糸条物は、次に、通常30℃以下の冷水で洗浄し、つづいて通常50〜90℃の温水で洗浄した後、加熱ローラー、熱風などによって通常100℃以上の温度で乾燥する。その後以下に述べるように、熱板、熱ローラなどを用いて好ましくは250〜400℃、より好ましくは270〜400℃の温度で乾熱延伸等の熱処理に付される。
【0060】
この乾熱延伸工程は、多孔質の線状体を緻密化せしめ強度、伸度を発現させるために重要な工程である。特に乾熱延伸の温度は密度と密接な関係にあり、270℃以上400℃以下の温度範囲で処理することが好ましい。さらに好ましくは300℃以上370℃以下の温度である。400℃を超える高温では糸が激しく劣化し、着色し、さらには断糸することがある。また270℃を下回る温度では十分に緻密化することが出来ず、糸物性を発現することが困難である。
【0061】
この時の延伸倍率は、弾性率、強度の発現に密接な関係を持っており、必要に応じて任意の倍率をとることが出来るが、通常、0.7倍から4倍、好ましくは1〜3倍の範囲で設定することで、良好な紡糸性と、強度、弾性率の発現が得られる。従って、緻密化と糸物性の発現、安定した紡糸性の発現には、可塑延伸、熱板延伸を含めて全延伸倍率が2.5〜12であることが好ましく、さらには2.5から5倍となるように設定することがより好ましい。
【0062】
本発明により得られるメタ型アラミド繊維は、延伸性がよく、温水浴延伸、乾熱延伸時に断糸や毛羽の発生をともなうことなく円滑に高倍率まで延伸することができる。
【0063】
本発明では上述した溶液重合−中和反応−湿式紡糸−洗浄・乾燥・延伸をすべて連続した一貫工程で実施することができ、これが本発明方法の利点の一つでもあるが、場合よっては、幾つかの工程に分割して実施してもよい。
【0064】
優れた耐熱性、力学特性を有するメタ型アラミド繊維が、塩類を含む重合体溶液から、単純な凝固浴を用いることにより、湿式紡糸によって生産性よく製造される。例えば、本発明方法では、従来の溶液重合によるメタ型アラミド溶液からの湿式紡糸により引張強度が4.0g/de(3.53cN/dtex)を越えるメタ型アラミド繊維を容易に製造することが可能となる。
【0065】
このようにして製造されたメタ型アラミド繊維は、必要に応じて捲縮加工が施され、適当な繊維長に切断され、次工程に提供される。
【0066】
以上のごとき本発明によるメタ型芳香族ポリアミド(メタ型アラミド)繊維は、その耐熱性、耐炎性、力学特性を生かした各種の用途に応用することができ、例えば、単独あるいは他の繊維と組み合わせ、織編物にして消防服、防護服などの耐熱耐炎衣料、耐炎性の寝具、インテリア材料として有用であり、不織布としてフィルターなど各種工業材料、あるいは合成紙、複合材料の原料として有効に使用することができる。
【0067】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例及び比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるのものではない。
【0068】
なお、実施例及び比較例中、固有粘度(I.V.)は重合体溶液から芳香族ポリアミドポリマーを単離して乾燥した後、濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/100mlで30℃において測定した値である。また、「部」及び「%」は特に断らない限りすべて重量に基づくものであり、量比は特に断らない限り重量比を示す。さらに、紡糸に用いる重合体溶液における重合体濃度(PN 濃度)は、全重量部に対する重合体の重量部[=重合体/(重合体+溶媒+その他)]であり、塩化カルシウム及び水の濃度はそれぞれ重合体100重量部に対する重量部である。
【0069】
また、凝固により得られた多孔質の線状体の密度は、 ASTM D2130にしたがって測定した繊維径と繊度から算出した見かけ密度d1であり、緻密糸の密度はテトラクロロエタンとシクロヘキサンを溶媒に用いる浮沈法によって測定した値である。
【0070】
[実施例1]
(a)溶液重合紡糸原液の調製温度計、攪拌装置及び原料投入口を備えた反応容器に、モレキュラーシーブスで脱水したNMP815部を入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン(以下、mPDAと略す)108部を溶解した後、0℃に冷却した。この冷却したジアミン溶液に、蒸留精製し窒素雰囲気中で粉砕したイソフタル酸クロライド(以下、IPCと略す)203部を攪拌下に添加して反応せしめた。反応温度は約50℃に上昇し、この温度で60分間攪拌を継続し、さらに60℃に加温して60分間反応させた。反応終了後、水酸化カルシウム70部を微粉末状で添加して60分かけ中和溶解した(1次中和)。残りの水酸化カルシウム4部をNMP83部に分散したスラリー液を調製し、この水酸化カルシウム含有スラリー(中和剤)を重合溶液に攪拌しながら添加した(2次中和)。この2次中和は40〜60℃で約60分間攪拌して実施し、水酸化カルシウムを完全に溶解させた紡糸原液となる重合体溶液を調製した。
【0071】
この溶液(紡糸原液)の重合体濃度(PN濃度、すなわち重合体とNMPの合計100重量部に対する重合体の重量部)は14であり、生成したポリメタフェニレンイソフタラミド重合体のI.V.は2.4であった。また、この重合体溶液の塩化カルシウム濃度及び水の濃度は、重合体100部に対し塩化カルシウム46.6部、水15.1部であった。
【0072】
(b)湿式紡糸・可塑延伸・乾燥熱延伸
上記(a)で調製した紡糸原液を孔径0.09mm、孔数50の口金より浴温度80℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。この凝固浴は、水/NMP=50/50(重量比)の組成の浴を用い、浸漬長(有効凝固浴長)60cmにて糸速8m/分で通過させた後、いったん空気中に引き出し、引き続き、可塑延伸浴中にて3倍の延伸倍率で延伸を行った。この時の可塑延伸浴は、水/NMP=45/55(重量比)の組成の浴を用い、温度40℃であった。更に、冷水による水洗を十分に行った後、さらに80℃の温水で洗浄した。引き続き、この温水延伸糸を表面温度120℃の乾燥ローラーで乾燥し、340〜360℃の熱板上で1.2倍に乾熱延伸して、巻き取った。本実施例における全延伸倍率は3.6倍で、延伸繊維の最終巻き取り速度は28.8m/分であった。
【0073】
途中凝固浴より得られた多孔質の線状体の密度は0.74g/cm 3 であった。
【0074】
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド延伸繊維の力学的特性は、繊度1.7de(1.89dtex)、密度1.33g/cm3、引張強度4.1g/de(3.62cN/dtex)、伸度38%、ヤング率98g/de(86.5cN/dtex)であり、良好な力学特性を示した。
【0075】
[実施例2]
実施例1と同じ重合体溶液を用いて紡糸を行った。同紡糸原液を、孔径0.09mm、孔数500の紡糸口金より、浴温度80℃の凝固浴中に吐出して糸条物を形成させた。この際、凝固浴として水/NMP=45/55の組成の浴、及び可塑延伸浴として水/NMP=45/55の組成の浴を用い、上記糸条物を浸漬長50cmで糸速8m/分で通過させた後、実施例1と同様な操作で可塑延伸、水洗、乾燥、乾熱延伸して、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。途中、凝固浴より得られた多孔線状体の密度は0.82g/cm3であった。この糸の物性は繊度1.9de(2.11dtex)、密度1.32g/cm3、引張強度4.2g/de(3.71cN/dtex)、伸度21%、ヤング率96g/de(84.7cN/dtex)であり、良好な力学特性を示した。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、溶液重合法により製造した、中和塩を含むメタ型ポリアミド重合体溶液を塩を分離すること無く、直接アミド系溶媒と水とからなる凝固浴中に吐出し多孔質の線状体として凝固せしめる工程を経ることにより、優れた力学的特性を有し且つ、耐熱性、難燃性も良好なメタ型アラミド繊維を良好な生産性により製造することが出来た。
Claims (5)
- メタフェニレンジアミンイソフタルアミド骨格を主成分とするメタ型芳香族ポリアミドと塩類を含むアミド系溶媒とからなるメタ型芳香族ポリアミド重合体溶液を湿式紡糸することによりメタ型芳香族ポリアミド繊維を製造する方法において、(1)上記重合体溶液をアミド系溶媒と水からなり塩類を実質的に含まない、アミド系溶媒と水の組成が重量比で50/50から70/30で、温度が80から90℃の範囲である凝固浴中に吐出して、密度が0.3g/cm3以上の多孔質の線状体として凝固せしめ、(2)続いて、アミド系溶媒と水の組成が重量比で20/80から70/30で、温度が20から90℃であるアミド系溶媒の水性溶液からなる可塑延伸浴中にて延伸し、(3)これを水洗後、熱処理することを特徴とする緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
- 上記工程(2)において、1.5倍から10倍の範囲で延伸する請求項1記載の緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
- 上記工程(3)において、250℃以上400℃以下の条件で0.7倍から4倍の延伸倍率で熱処理する請求項1または2記載の緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
- 重合体溶液として、アミド系溶媒の存在下で芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸クロリドとを反応せしめた後、副生する塩化水素を中和して生成する塩化カルシウムと水とを含むメタ型芳香族ポリアミド溶液を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
- 重合体溶液、凝固浴及び可塑延伸浴に含まれるアミド系溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる1種または2種以上の混合液を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の緻密なメタ型芳香族ポリアミド繊維の製造法。
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