JP3840082B2 - 位置センサレスモータ制御方法及び制御装置 - Google Patents

位置センサレスモータ制御方法及び制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、位置センサなしでロータの角度を検知してモータの駆動を制御する位置センサレスモータ制御方法及び制御装置に関する。特に、ロータの停止時又は低速回転時、モータの駆動を制御するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
ブラシレスモータはブラシのような機械的な転流機構を持たない。その代わり、電気的に転流を行うための電気回路を持つ。その電気回路はステータ巻線を流れる電流を、ロータの回転周期に同期して制御する。
【0003】
ブラシレスモータのロータは永久磁石を含み、それにより少なくとも二つの磁極を有する。ロータの磁極の中心軸方向(d軸方向)とステータに固定された基準方向(α軸方向)との間のロータの中心軸周りの角度をロータの角度という。
【0004】
電気的な転流ではロータの角度を検知する必要がある。ブラシレスモータに対する従来のモータ制御装置は、ホール素子、レゾルバ、磁気エンコーダ又は光エンコーダ等の位置センサを通して、ロータの角度についての情報を得ていた。しかし、位置センサを有するので、従来のブラシレスモータのコストは高く、モータのサイズが大きい。
【0005】
特開平10−323099号公報に開示された位置センサレスモータ制御装置(以下、従来例という)は、ロータの角度を上記の位置センサなしで検知する。それにより、ブラシレスモータのコストが低く、かつ、サイズが小さい。
【0006】
従来例では、特にロータの停止時又は低速回転時、次のように、位置センサなしでロータの角度を検知してモータの駆動を制御する:
(1)ロータの角度を推定し、推定された角度(以下、ロータの推定角度という)に基づいてロータのd軸方向及びq軸方向を推定する(以下、それぞれγ軸方向及びδ軸方向という)。ここで、q軸方向とは、d軸方向からロータの回転方向に電気角で90°進んだ方向をいう。
【0007】
(2)ステータ巻線の目標電流ベクトル又は目標電圧ベクトルのγ軸方向成分に所定のロータ角度推定用の電流信号又は電圧信号(以下、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号という)を重畳する。ここで、ステータ巻線の目標電流ベクトルとは、ステータ巻線を流れる電流の制御での目標電流を表すベクトルをいう。ステータ巻線の目標電圧ベクトルとは、ステータ巻線に印加される電圧の制御での目標電圧を表すベクトルをいう。本発明では、重畳波付目標電流ベクトルは、ロータ角度推定用電流信号を重畳された目標電流を表すベクトルである。重畳波付目標電圧ベクトルは、ロータ角度推定用電圧信号を重畳された目標電圧を表すベクトルである。
【0008】
(3)重畳波付目標電流ベクトルを対応するステータ巻線の目標電圧ベクトルへ変換する。モータ駆動装置はその目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給する。特に、ステータ巻線の電流に対するパルス幅変調(PWM)制御では、モータ駆動装置はステータ巻線の目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルで表される目標電圧をPWMで変調し、ステータ巻線へ印加する。
【0009】
モータ駆動装置によるステータ巻線への電力供給を通して、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対応する電力がステータ巻線に印加される。ここで、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号は例えば交流信号であり、PWMのキャリア周期の整数倍と等しい一定の周期と一定の振幅とを有する。
以下、ロータ角度推定用電流信号及びロータ角度推定用電圧信号を区別しなくても良い時、両信号をロータ角度推定用信号と総称する。上記のPWM制御ではロータ角度推定用信号に対応する一定の交流電力がステータ巻線に印加される。その時、その交流電力に対する応答電流がステータ巻線に生じる。
【0010】
(4)δ軸方向での上記の応答電流を所定の位相で検知する。例えば、応答電流のサンプリングはロータ角度推定用信号のピークごとに、すなわち、ロータ角度推定用信号の半周期ごとに行われる。
(5)検知された応答電流がδ軸方向で0に近づくように、ロータの推定角度を補正する。
以上の(1)から(5)までの操作が、モータの駆動制御の間繰り返される。
【0011】
γ軸方向のd軸方向からのずれ(δ軸方向のq軸方向からのずれでもあり、以下、角度推定誤差という)をΔθとおく。上記の応答電流の振幅はδ軸方向で実質上sin(2Δθ)に比例する。 従って、δ軸方向での応答電流が所定の誤差の範囲内で0に収束する時、ロータの推定角度と実際の角度とが所定の誤差の範囲内で実質的に等しい。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
従来の位置センサレスモータ制御では、ロータ角度推定用信号の周波数が一定であった。特に、その一定の周波数値は数十〜数百Hz程度、すなわち、可聴周波数帯域に属した。その結果、ステータの歯等がロータ角度推定用信号と同期して振動し、騒音を発生した。その騒音は、特にロータ角度推定用信号の周波数の近傍で大きい。
【0013】
従来の位置センサレスモータ制御では、ロータ角度推定用信号の振幅が一定であった。従って、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の振幅が実質的に一定であった。一方、ステータ巻線に流れる電流の振幅が大きいほど、δ軸方向に現れる電気的ノイズ(以下、単にノイズという)は一般に大きいので、ノイズに対する応答電流の振幅の比(SN比)が小さかった。SN比が小さい時、ノイズと応答電流とが識別されにくいので、角度推定誤差が大きかった。
【0014】
従来の位置センサレスモータ制御では更に、応答電流に対するサンプリングがロータ角度推定用信号の半周期ごとに行われるので、そのサンプル数が少なかった。従って、応答電流のサンプルの一つ一つにおけるSN比が小さい時、角度推定誤差が更に大きかった。
【0015】
角度推定誤差を小さく抑えるには、応答電流のSN比を大きくしなければならなかった。それには、ロータ角度推定用信号の振幅を大きくし、又は、ノイズを低減すれば良い。しかし、上記の騒音が更に大きくなるので、ロータ角度推定用信号の振幅を大きくすることは困難であった。
【0016】
一方、応答電流に含まれるノイズを低減する目的で、LPFにより応答電流を十分に減衰する。又は、角度推定誤差から推定角度の補正量を求めるときのゲインを低減する。その時、ロータの角度の推定に遅れが生じ、モータの駆動制御の応答速度が減少した。こうして、従来の位置センサレスモータ制御はノイズの低減と共に制御能力を低下させた。すなわち、ノイズに弱かった。
【0017】
本発明の目的は、特にロータの静止時及び低速回転時、騒音を低減しかつ制御の遅れなしにロータ角度推定用信号に対する応答電流の検出のSN比を大きくでき、いわゆるノイズに強い位置センサレスモータ制御方法及び制御装置の提供にある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の一つの観点による位置センサレスモータ制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その周期を変化させて設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータの推定角度方向(以下、γ軸方向という)に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置によりステータ巻線へ電力を供給するステップ;
(F) 検出ステップで検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;及び、
(G) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0019】
以下、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号のそれぞれを特に区別しなくても良い時、両信号をロータ角度推定用信号と総称する。
【0020】
上記の位置センサレスモータ制御方法(以下、センサレス制御方法という)では、ロータ角度推定用信号の周期が一定ではなく、変化する。従って、ロータ角度推定用信号と同期したステータの歯等の振動、及び、その振動により発生する音が一定の周波数を持たない。それ故、振動及び音が周波数の変化により増幅されないので、大きな騒音が発生しない。こうして、センサレス制御はロータ角度推定用信号の重畳によって生じる騒音を低減する。更に、大きな騒音なしに、ロータ角度推定用信号の振幅を従来より増大できる。
【0021】
上記のセンサレス制御方法において、ロータ角度推定用信号の周期をランダムに変化させても良い。その時、ロータ角度推定用信号の周期が変化前後で相関を持たないので、上記の騒音を更に低減できる。
【0022】
上記のセンサレス制御方法において、ロータ角度推定用信号の周期を所定のテーブルに基づいて変化させても良い。ロータ角度推定用信号の周期の変化順にテーブルの値を設定する場合、それぞれの値をランダムに選択しても、変化前後の差が一定の大きさ以上になるように選択しても良い。その他に、テーブルを乱数表又は所定のパラメータのリストとし、そのテーブルの値を用いた簡単な演算により周期がランダムに又は一定の大きさ以上の差で変化しても良い。上記のいずれのようにテーブルの値を設定しても、ロータ角度推定用信号の周期は、上記の騒音を低減するように変化する。
【0023】
しかも、ロータ角度推定用信号の周期の決定はテーブルの参照により複雑な演算を要しないので、演算時間を短縮できる。その結果、制御回路に含まれるCPU等の負担を軽くできる。
【0024】
本発明の別の観点による位置センサレスモータ制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その振幅を変化させて設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置によりステータ巻線へ電力を供給するステップ;
(F) 検出ステップで検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;及び、
(G) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0025】
上記のセンサレス制御方法では、ロータ角度推定用信号の振幅を変化させる。その時、その振幅の変化が特に、ステータ巻線を流れる電流の振幅の変化に対応しても良い。それにより、ステータ巻線の電流に含まれるノイズの大きさに合わせてロータ角度推定用信号の振幅を抑え、応答電流の検出のSN比を損なわない程度に調節できる。従って、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の振幅がステータ巻線の電流に比べて過大にならない。その結果、ロータ角度推定用信号の重畳によって生じる騒音を従来より低減できる。
【0026】
上記のセンサレス制御方法では、ステータ巻線の電流の振幅が大きい時、ロータ角度推定用信号の振幅が大きいようにしても良い。その理由は次の通りである: ステータ巻線の電流の振幅が大きいほど、応答電流に含まれるノイズは一般に大きい。従って、ステータ巻線の電流の振幅が大きい時に、ロータ角度推定用信号の振幅を増大させる。それにより、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の振幅がステータ巻線の電流に比べて過大にならない。その結果、モータの駆動制御全体では、ロータ角度推定用信号の重畳によって発生する騒音を従来より低減できる。それと共に、応答電流の検出のSN比を十分に大きく維持できる。
【0027】
上記のセンサレス制御方法では、ステータ巻線の電流の振幅の増大が、検出されたステータ巻線の電流又は目標電流の値のいずれによって判断されても良い。
【0028】
本発明の更に別の観点による位置センサレスモータ制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに従って、モータ駆動装置によりステータ巻線へ電力を供給するステップ;
(F) 検出ステップで検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の一周期当たり少なくとも三回サンプリングして求めるステップ;及び、
(G) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0029】
上記のセンサレス制御方法では、ロータ角度推定用信号の半周期ごとに応答電流をサンプリングしていた従来の方法に比べて、応答電流のサンプル数が多い。従って、応答電流の検出において従来よりSN比を増大できる。
【0030】
応答電流のサンプリングが、ロータ角度推定用信号の半周期当たり複数回行われても良い。その時、応答電流のサンプルがより多く得られる。それに加えて、特にロータ角度推定用信号の波形が周期の前半と後半との中間点について対称な時、応答電流のサンプリングの位置を応答電流の周期の前半と後半との中間点について対称にできる。その対称性を利用して、互いに対応する応答電流のサンプル同士で、例えば平均等により、それらに含まれるノイズを相殺できる。その結果、応答電流の検出のSN比を増大できる。
【0031】
本発明の他の観点による位置センサレスモータ制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) (a) 周期がPWMのキャリア周期の偶数倍であり、(b) 波形が周期の前半と後半との中間点について対称であるロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧をPWMにより変調し、変調された電圧をモータ駆動装置によりステータ巻線へ印加するステップ;
(F) 検出ステップで検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて求めるステップ;及び、
(G) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0032】
モータ駆動装置がPWM制御を行う場合、ステータ巻線を流れる電流の波形は理想的に滑らかな波形に比べ、一般にPWMのキャリア周期と実質的に同じ周期で歪む。同様に、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の波形も、PWMのキャリア周期と実質的に同じ周期で歪む。
【0033】
上記のセンサレス制御方法では、ロータ角度推定用信号の周期がPWMのキャリア周期の偶数倍であり、波形が周期の前半と後半との中間点について対称である。従って、ロータ角度推定用信号の波形が一周期の前半と後半との中間点について実質上対称に歪む。それ故、応答電流の波形が、PWMによって生じる歪みも含めて、同様な対称性を有する。その対称性を利用して、上記の歪みによる応答電流の検出誤差を低減できる。
【0034】
例えば、応答電流に対して、その周期の前半と後半との中間点について対称にサンプリングを行う。具体的には、サンプリング周波数が一定の場合、ロータ角度推定用信号の周波数をサンプリング周波数の偶数倍に設定し、かつ、サンプリングの位置をロータ角度推定用信号の一周期の中間点について対称にする。その時、互いに対称なサンプリングの位置でのサンプル同士で、例えばそれらの平均を求める等により、それらのサンプルに含まれるノイズを相殺できる。
【0035】
モータ駆動装置によるPWM制御は、本発明の既に述べた観点によるセンサレス制御方法において次のようにすれば可能である:
(A) (a) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の周期をパルス幅変調(PWM)のキャリア周期の偶数倍に設定し、(b) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の波形を周期の前半と後半との中間点について対称に設定し;
(B) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧をPWMにより変調し、変調された電圧をモータ駆動装置によりステータ巻線へ印加し;
(C) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて応答電流を求める。
こうして、モータ駆動装置がPWM制御を行う場合でも、本発明の既に述べた観点によるセンサレス制御方法を適用できる。
【0036】
本発明の更に他の観点によるセンサレス制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置によりステータ巻線へ電力を供給するステップ;
(F) (a) 検出ステップで検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と電気角で直交する第二の方向での成分に、(1) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号と実質的に同じ周期と、(2) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号から実質的に90°(電気角)ずれた位相と、を持つ信号を乗じ、
(b) その乗算結果からロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;及び、
(G) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0037】
第二の方向、すなわち、ロータ角度推定用信号を重畳した方向と電気角で直交する方向では、応答電流がロータ角度推定用信号と同じ周期とそれより90°ずれた位相とを持つ。従って、ステータ巻線を流れる電流を検出し、検出された電流を表す電流ベクトルの第二の方向での成分に上記の信号を乗じ、その乗算結果から応答電流を求めることができる。
【0038】
例えば、ロータ角度推定用信号が正弦波の場合、上記の乗算結果をロータ角度推定用信号の一周期の範囲で積分する。ステータ巻線を流れる電流として検出された電流をベクトル表示した時、その電流ベクトルの第二の方向での成分に含まれるフーリエ係数の内、ロータ角度推定用信号の周期に対応するものが上記の積分により求まる。そのフーリエ係数は応答電流の振幅に実質的に等しい。更に、検出されたステータ巻線の電流に含まれるノイズが上記の積分によって抑えられるので、応答電流の振幅の誤差が従来より低減する。
【0039】
本発明の上記の観点とは異なる観点によるセンサレス制御方法は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するステップ;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するステップ;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
(E) 重畳波付目標電流ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置によりステータ巻線へ電力を供給するステップ;
(F) 検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;
(G) 応答電流の値をリミットするステップ;及び、
(H) リミットするステップでリミットされた値を持つ応答電流に基づいてγ軸方向を補正するステップ;
を有する。
【0040】
応答電流は、ノイズの影響で突発的に大きくなり得る。その時、リミッタが応答電流の大きさをリミットするので、モータの駆動制御を狂わせる程極端に大きな応答電流の検出を回避できる。応答電流が大きいほどその検出誤差も大きい。
従って、応答電流がある程度大きい時、検出値に基づいたロータの推定角度の補正をせず、ロータの推定角度を一定値に置き換える。それにより、結果的に推定誤差を低減できる。
【0041】
上記の本発明によるセンサレス制御方法において好ましくは、(a) 第一の方向をγ軸方向又はγ軸方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、(b) 第二の方向を第一の方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、(c) 第二の方向での応答電流(ε)が実質的に0に収束するようにγ軸方向を補正する。
例えば、ロータ角度推定用電流信号を目標電流ベクトルのγ軸方向成分に重畳し、又は、ロータ角度推定用電圧信号を目標電圧ベクトルのγ軸方向成分に重畳した時、検出されたステータ巻線の電流を表す電流ベクトルのδ軸方向成分に含まれる応答電流の振幅は実質上sin(2Δθ)に比例する。ここで、Δθはロータのd軸方向の角度推定誤差、すなわち、γ軸方向のd軸方向からのずれである。従って、δ軸方向で応答電流の振幅を0にするように制御すれば、γ軸方向をd軸方向に一致させるように制御できる。
【0042】
本発明の一つの観点による位置センサレスモータ制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その周期を変化させて設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
(F) (a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
(b) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0043】
上記の位置センサレスモータ制御装置(以下、センサレス制御装置という)では、ロータ角度推定用信号の周期が一定ではなく、変化する。従って、ロータ角度推定用信号と同期したステータの歯等の振動、及び、その振動により発生する音が一定の周波数を持たない。それ故、振動及び音が周期の変化により増幅されないので、大きな騒音が発生しない。こうして、ロータ角度推定用信号の重畳によって生じる騒音が低減する。更に、大きな騒音なしに、ロータ角度推定用信号の振幅を従来より増大できる。
【0044】
上記のセンサレス制御装置では、重畳波作成部がロータ角度推定用信号の周期をランダムに変化させても良い。その時、ロータ角度推定用信号の周期が変化前後で相関を持たないので、上記の騒音を更に低減できる。
【0045】
上記のセンサレス制御装置では、所定のテーブルを記憶した記憶部を重畳波作成部が含み、ロータ角度推定用信号の周期をそのテーブルに基づいて変化させても良い。ロータ角度推定用信号の周期の変化順にテーブルの値を設定する時、それぞれの値をランダムに選択しても、変化前後の差が一定の大きさ以上になるように選択しても良い。その他に、テーブルを乱数表又は所定のパラメータのリストとし、そのテーブルの値を用いた簡単な演算により周期がランダムに又は一定の大きさ以上の差で変化しても良い。上記のいずれのようにテーブルの値を設定しても、ロータ角度推定用信号の周期は上記の騒音を低減するように変化する。
【0046】
しかも、ロータ角度推定用信号の周期の決定はテーブルの参照により複雑な演算を要しないので、演算時間を短縮できる。その結果、制御回路に含まれるCPU等の負担を軽くできる。
【0047】
本発明の別の観点によるセンサレス制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その振幅を変化させて設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
(F) (a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
(b) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0048】
上記のセンサレス制御装置では、ロータ角度推定用信号の振幅を変化させる。特に、その振幅の変化が、ステータ巻線を流れる電流の振幅の変化に対応しても良い。それにより、ステータ巻線の電流に含まれるノイズの大きさに合わせてロータ角度推定用信号の振幅を抑え、応答電流の検出のSN比を損なわない程度に調節できる。その結果、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の振幅がステータ巻線の電流に比べて過大にならないので、ロータ角度推定用信号の重畳によって生じる騒音を従来より低減できる。
【0049】
上記のセンサレス制御装置において、重畳波作成部がステータ巻線の電流の振幅の増大に従って、ロータ角度推定用信号の振幅を増大しても良い。その理由は次の通りである: ステータ巻線の電流の振幅が大きいほど、応答電流に含まれるノイズは一般に大きい。従って、ステータ巻線の電流の振幅が大きい時、ロータ角度推定用信号の振幅を増大させる。その結果、モータの駆動制御全体では、ロータ角度推定用信号の重畳によって発生する騒音を従来より低減できる。それと共に、応答電流の検出のSN比を十分に大きく維持できる。
【0050】
上記のセンサレス制御装置では、ステータ巻線の電流の振幅の増大が、検出されたステータ巻線の電流又は目標電流の値のいずれによって判断されても良い。
【0051】
本発明の更に別の観点によるセンサレス制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
(F) (a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の一周期当たり少なくとも三回サンプリングして求め、
(b) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0052】
上記のセンサレス制御装置では、ロータ角度推定用信号の半周期ごとに応答電流をサンプリングしていた従来の装置に比べて、応答電流のサンプル数が多い。従って、応答電流の検出において従来よりSN比を増大できる。
【0053】
ロータ角度推定部が応答電流のサンプリングを、ロータ角度推定用信号の半周期当たり複数回行っても良い。その時、応答電流のサンプル数が、より多く得られる。それに加えて、特にロータ角度推定用信号の波形が周期の前半と後半との中間点について対称な場合、応答電流のサンプリングの位置を応答電流の周期の前半と後半との中間点について対称にできる。その対称性を利用して、互いに対応する応答電流のサンプル同士で、例えば平均等により、それらに含まれるノイズを相殺できる。その結果、応答電流の検出のSN比を増大できる。
【0054】
本発明の他の観点によるセンサレス制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) 周期がPWMのキャリア周期の偶数倍であり、波形が周期の前半と後半との中間点について対称であるロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧をPWMにより変調し、変調された電圧をステータ巻線へ印加するためのモータ駆動装置;及び、
(F) (a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて求め、
(b) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0055】
モータ駆動装置がPWM制御を行う場合、ステータ巻線を流れる電流の波形は理想的に滑らかな波形に比べ、一般にPWMのキャリア周期と実質的に同じ周期で歪む。同様に、ロータ角度推定用信号に対する応答電流の波形も、PWMのキャリア周期と実質的に同じ周期で歪む。
【0056】
上記のセンサレス制御装置では重畳波作成部がロータ角度推定用信号の周期をPWMのキャリア周期の偶数倍に、波形を周期の前半と後半との中間点について対称に、それぞれ設定する。従って、ロータ角度推定用信号の波形が、周期の前半と後半との中間点について実質上対称に歪む。それ故、応答電流の波形がPWMによる歪みを含めて、同様な対称性を有する。その対称性を利用して、ロータ角度推定部は上記の歪みによる応答電流の検出誤差を低減できる。例えば、応答電流に対して、その周期の前半と後半との中間点について対称にサンプリングを行う。具体的には、サンプリング周波数が一定の場合、ロータ角度推定用信号の周波数をサンプリング周波数の偶数倍に設定し、かつ、サンプリングの位置をロータ角度推定用信号の一周期の中間点について対称にする。その時、互いに対称なサンプリングの位置でのサンプル同士で、例えばそれらの平均を求める等により、それらに含まれるノイズを相殺できる。
【0057】
モータ駆動装置によるPWM制御は、本発明の既に述べた観点によるセンサレス制御装置において次のようにすれば可能である:
(A) 重畳波作成部が、(a) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の周期をPWMのキャリア周期の偶数倍に設定し、(b) その波形を周期の前半と後半との中間点について対称に設定し;
(B) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧をモータ駆動装置がPWMにより変調し、変調された電圧をステータ巻線へ印加し;
(C) ロータ角度推定部がロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて応答電流を求める。
こうして、本発明の既に述べた観点によるセンサレス制御装置においても、モータ駆動装置がPWM制御を行い得る。
【0058】
本発明の更に他の観点によるセンサレス制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
(F) (a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と電気角で直交する第二の方向での成分に、(1) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号と同じ周期と、(2) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号から実質的に90°(電気角)ずれた位相と、を持つ信号を乗じ、
(b) その乗算結果からロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
(c) 応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0059】
第二の方向、すなわち、ロータ角度推定用信号を重畳した方向と電気角で直交する方向では、応答電流はロータ角度推定用信号と同じ周期とそれより90°遅れた位相とを持つ。従って、ステータ巻線を流れる電流を検出し、検出された電流を表す電流ベクトルの第二の方向での成分に上記の信号を乗じ、その乗算結果から応答電流を求めることができる。
【0060】
例えば、ロータ角度推定用信号が正弦波の場合、上記の乗算結果をロータ角度推定用信号の一周期の範囲で積分する。ステータ巻線を流れる電流として検出された電流をベクトル表示した時、その電流ベクトルの第二の方向での成分に含まれるフーリエ係数の内、ロータ角度推定用信号の周期に対応するものが上記の積分により求まる。そのフーリエ係数は応答電流の振幅に実質的に等しい。更に、検出されたステータ巻線の電流に含まれるノイズが上記の積分によって抑えられるので、応答電流の振幅の誤差が従来より低減する。
【0061】
本発明の別な観点によるセンサレス制御装置は、
(A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
(B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を設定するための重畳波作成部;
(C) ステータ巻線を流れる電流を検出するための電流検出器;
(D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での目標電流ベクトルの成分にロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
(b) 目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの第一の方向での成分にロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
ための電流制御部;
(E) 重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
(F) リミッタを含み、
(a) 電流検出器によって検出された電流を表す電流ベクトルの、第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分からロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
(b) 応答電流の値をリミッタによりリミットし、
(c) リミッタによりリミットされた値を持つ応答電流に基づいてγ軸方向を補正する、
ためのロータ角度推定部;
を有する。
【0062】
応答電流はノイズの影響で突発的に大きくなり得る。その時、リミッタが応答電流の大きさをリミットするので、モータの駆動制御を狂わせる程極端に大きな応答電流の検出が回避できる。応答電流が大きいほど、その検出誤差も大きい。従って、応答電流がある程度大きい時、検出値に基づいたロータの推定角度の補正をせず、ロータの推定角度を一定値に置き換える。それにより、結果的に推定誤差を低減できる。
【0063】
上記の本発明によるセンサレス制御装置において好ましくは:
(A) 電流制御部が第一の方向を、γ軸方向又はγ軸方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし;
(B) ロータ角度推定部が第二の方向を、第一の方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、応答電流を第二の方向で実質的に0に収束させるようにγ軸方向を補正する。
【0064】
例えば、ロータ角度推定用電流信号を目標電流ベクトルのγ軸方向成分に重畳し、又は、ロータ角度推定用電圧信号を目標電圧ベクトルのγ軸方向成分に重畳した場合、検出されたステータ巻線の電流を表す電流ベクトルのδ軸方向成分に含まれる応答電流の振幅は実質上sin(2Δθ)に比例する。ここで、Δθはロータのd軸方向の角度推定誤差、すなわち、γ軸方向のd軸方向からのずれである。従って、応答電流の振幅をδ軸方向では0にするように制御すれば、γ軸方向をd軸方向に一致させるように制御できる。
【0065】
本発明による電気自動車は、上記の本発明による位置センサレスモータ制御装置を含む車輪駆動モータを有する。電気自動車の車輪駆動モータによる大きな騒音の発生は乗員を不快にさせるので好ましくない。更に、車輪駆動モータの駆動制御の遅れは電気自動車の走行性能を低下させるので好ましくない。
本発明によるセンサレス制御装置は上記のように、特に車輪駆動モータの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記の電気自動車では、発進時及び徐行時、車輪駆動モータの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、乗員に快適な走行感を与える。
【0066】
本発明によるファンは、上記の本発明による位置センサレスモータ制御装置を含むファン駆動モータを有する。例えば、換気装置のファンによる大きな騒音の発生はその換気対象の室内の滞在者を不快にさせるので好ましくない。更に、ファン駆動モータの駆動制御の遅れは換気性能を低下させるので好ましくない。
本発明によるセンサレス制御装置は上記のように、特にファン駆動モータの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記のファンでは、ファン駆動モータの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、例えば換気装置に利用される時、換気対象の室内の滞在者へ不快感を与えない。
【0067】
本発明による冷蔵庫は、上記の本発明による位置センサレスモータ制御装置を含むコンプレッサを有する。冷蔵庫のコンプレッサによる大きな騒音の発生は、特に就寝時には好ましくない。更に、コンプレッサの駆動制御の遅れは冷蔵庫の冷却性能を低下させるので好ましくない。
本発明によるセンサレス制御装置は上記のように、特にコンプレッサの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記の冷蔵庫では、起動時及び定常駆動時、コンプレッサの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、例えば夜間、家庭内での安眠を妨げない。
【0068】
本発明によるエアコンは、上記の本発明による位置センサレスモータ制御装置を含むコンプレッサを有する。エアコンのコンプレッサによる大きな騒音の発生は室内の滞在者及び室外周辺の住民を不快にさせるので好ましくない。更に、コンプレッサの駆動制御の遅れはエアコンの空調性能を低下させるので好ましくない。
本発明によるセンサレス制御装置は上記のように、特にコンプレッサの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記のエアコンでは、起動時及び定常駆動時、コンプレッサの駆動制御がスムーズでかつその騒音が小さい。それ故、室内の滞在者及び室外周辺の住民に不快感を与えない。
【0069】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の最適な実施の形態について、好ましい実施例を説明する。
《実施例1》
[実施例1の装置の構成]
図1は、実施例1における位置センサレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【0070】
実施例1による位置センサレスモータ制御装置の制御対象はIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)10である。IPMSM10は、ステータ(図示せず)、ステータ巻線、及び、ロータ12を有する。
ステータは電磁鋼製の実質的な円筒を含む。ステータ巻線はu相巻線11uとv相巻線11vとw相巻線11wとを含み、ステータに巻回された被覆銅線である。
ロータ12は円柱形状を有し、ステータの内部に同軸に配置される。
【0071】
ステータ巻線11u、11v及び11wは、それぞれの片端を共有端Yで接続してY結線を構成する。ステータ巻線11u、11v及び11wへ電流を流す時、ステータには磁極が四つ形成される。ここで、電流によって形成される磁極とは、電流によって生成される磁界が特に集中する部分をいう。以下、この磁極をステータの磁極といい、ステータの磁極の数をステータ巻線の極数という。ステータの磁極は複数のN極とS極との対から成るので、ステータ巻線の極数は自明に偶数となる。IPMSM10では、ステータの磁極がロータ12の中心軸に対して垂直な平面内で、ロータ12の中心軸の周りに等間隔で生じる。
【0072】
ロータ12は、円柱状の電磁鋼から成るロータヨーク13、その内部に埋め込まれた四つの永久磁石14、及び、ロータヨーク13へ同軸に固定されたシャフト15を含む。ロータ12はシャフト15の両側で支持され、中心軸の周りに回転できる。四つの永久磁石14はロータヨーク13内部の軸方向の溝に挿入されて固定される。永久磁石14の磁極の中心軸方向は、ロータヨーク13の横断面内でシャフト15の中心軸上を通り、ロータヨーク13の横断面の円周方向に沿って実質的に等間隔に配置される。更に、ロータ12の表面側の磁極が互いに隣り合うもの同士で反対の極性であるように、永久磁石14の向きが設定される。
一般に、ロータの表面に現れる磁極の数をロータの磁極数という。ロータの磁極数は偶数であり、同期モータの場合ステータ巻線の極数と等しく設定される。
【0073】
ステータ巻線11u、11v及び11wに電流が流れると、ステータ内部及びその周辺に磁界が生成され、その磁界と永久磁石14の磁界とが相互作用する。その相互作用によりロータ12がトルクを受けて回転する。
電流を周期的に変化させて、ステータの磁極をロータ12の中心軸周りに所定の回転速度で回転させる。その時、上記のトルクによってロータ12は、ステータ巻線を流れる電流によって発生する回転磁界と同じ回転速度で回転する。
【0074】
実施例1の位置センサレスモータ制御装置は、二つの電流センサ21u、21vと、マイコン(マイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサ)22と、モータ駆動部30と、を含む。
【0075】
u相電流センサ21u及びv相電流センサ21vはいずれも、ホール電流検出器を含む。ホール電流検出器はホール素子(半導体磁電変換素子の一種)を内蔵する。それにより、外部磁界の強弱についての情報を電気信号に変換して出力する。u相電流センサ21uはu相電流によりステータ巻線11uの周囲に発生する磁界の強さを検出する。検出された磁界の強さについての情報は一旦電圧信号に変換される。その電圧信号はu相電流センサ21u内の電気回路で更に処理されて、アナログu相電流値信号[iua]として出力される。ここで、アナログu相電流値信号[iua]は、u相電流のアナログ値iuaを示すアナログ信号である。本明細書では、ある信号により示される値を表す変数(例えばA)に対してその信号を、その変数に角括弧を付けたもの(例えば[A])で表す。同様に、v相電流センサ21vはアナログv相電流値信号[iva]を出力する。アナログv相電流値信号[iva]は、v相電流のアナログ値ivaを示すアナログ信号である。
u相電流センサ21u及びv相電流センサ21vの検出誤差は約1%である。
【0076】
マイコン22は、アナログu相電流値信号[iua]、アナログv相電流値信号[iva]、及び、アナログ回転速度指令[ω a]を入力し、それらを後述するように処理し、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw を出力する。
【0077】
モータ駆動部30は上記の目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw を入力し、それに従ってステータ巻線11u、11v及び11wに印加される電圧を制御する。それにより、ステータ巻線11u、11v及び11wを流れる電流を制御する。
【0078】
以下、実施例1の構成要素ごとに、その構成及び動作を説明する。
[モータ駆動部30の構成]
図2は、実施例1におけるモータ駆動部30の構成を示す回路図である。モータ駆動部30は、直流電源31、上側IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)32u、32v、32w、上側フライホイールダイオード33u、33v、33w、下側IGBT34u、34v、34w、下側フライホイールダイオード35u、35v、35w、プリドライブ器36、及び、PWM制御器37、を有する。
【0079】
上側IGBT32u、32v、32w、及び、下側IGBT34u、34v、34wは、好ましくはいずれも同じnチャネル型IGBTである。その他に、MOSFET又はバイポーラトランジスタであっても良い。
上側IGBT32u、32v、32w、及び、下側IGBT34u、34v、34wは、一つずつ対となって直列に接続される。具体的には、u相上側IGBT32uのエミッタとu相下側IGBT34uのコレクタとがu相接続点Puで、v相上側IGBT32vのエミッタとv相下側IGBT34vのコレクタとがv相接続点Pvで、w相上側IGBT32wのエミッタとw相下側IGBT34wのコレクタとがw相接続点Pwで、それぞれ接続される。上側IGBT32u、32v及び32wのコレクタは直流電源31の正極に接続される。一方、下側IGBT34u、34v及び34wのエミッタは直流電源31の負極に接続される。
【0080】
上側フライホイールダイオード33u、33v及び33wのカソードは上側IGBT32u、32v及び32wのエミッタへ、アノードはコレクタへ、それぞれ接続される。下側フライホイールダイオード35u、35v及び35wのカソードは下側IGBT34u、34v及び34wのエミッタへ、アノードはコレクタへ、それぞれ接続される。上側フライホイールダイオード33u、33v、33w、及び、下側フライホイールダイオード35u、35v、35wは、好ましくはそれぞれ接続するIGBTの寄生ダイオードである。その他に、IGBTとは独立な素子であっても良い。
【0081】
ステータ巻線11u、11v及び11wの共有端Yとは逆側の端はそれぞれ、接続点Pu、Pv及びPwへ接続される。
【0082】
プリドライブ器36は、上側IGBT32u、32v、32w、及び、下側IGBT34u、34v、34wのそれぞれのゲートへ接続される。プリドライブ器36は外部からのスイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh及びgwlに従って、それぞれのIGBTのゲート電圧を次のように制御する:
スイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlはそれぞれ矩形パルス波列であり、高電位H又は低電位Lの二種類の電位を取り得る。更に、一定のスイッチング周波数を有する。例えば上側u相IGBT用スイッチング信号guhが高電位Hの時、プリドライブ器36は上側IGBT32uのゲート電圧を上げ、上側IGBT32uをオンにする。逆に、上側u相IGBT用スイッチング信号guhが低電位Lの時、プリドライブ器36は上側IGBT32uのゲート電圧を下げ、上側IGBT32uをオフにする。
【0083】
同様に、上側v相IGBT用スイッチング信号gvhと上側v相IGBT32v、上側w相IGBT用スイッチング信号gwhと上側w相IGBT32w、下側u相IGBT用スイッチング信号gulと下側u相IGBT34u、下側v相IGBT用スイッチング信号gvlと下側v相IGBT34v、下側w相IGBT用スイッチング信号gwlと下側w相IGBT34w、のそれぞれを対応させて、プリドライブ器36はそれぞれのゲート電圧を制御する。すなわち、スイッチング信号が高電位Hの時、対応するIGBTのゲート電圧を上げ、そのIGBTをオンにする。逆に、スイッチング信号が低電位Lの時、対応するIGBTのゲート電圧を下げ、そのIGBTをオフにする。
【0084】
プリドライブ器36は、同相の上側IGBTと下側IGBTとのゲート電圧を同時に上げないように構成される。それにより、同相の上側IGBTと下側IGBTとは同時にはオンしない。
【0085】
PWM制御器37は論理回路であり、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw を、以下に述べるパルス幅変調(PWM)により変調し、上記のスイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlを出力する: PWM制御器37は、約15kHzの周波数、及び、直流電圧31と等しい振幅、を持つ三角波の電圧信号をPWMのキャリアとして発生させる。ここで、その周波数をキャリア周波数という。キャリア周波数はスイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh及びgwlのスイッチング周波数に相当する。PWM制御器37はその三角波と目標u相電圧vu とを比較する。目標u相電圧vu が三角波より大きい時、PWM制御器37はu相上側IGBT32u用スイッチング信号guhを高電位Hに、u相下側IGBT34u用スイッチング信号gulを低電位Lに、それぞれ決定する。逆に、目標u相電圧vu が三角波より小さい時、PWM制御器37はu相上側IGBT32u用スイッチング信号guhを低電位Lに、u相下側IGBT34u用スイッチング信号gulを高電位Hに、それぞれ決定する。
【0086】
u相上側IGBT32u用スイッチング信号guh又はu相下側IGBT34u用スイッチング信号gulのいずれかの電位を切り替える時、PWM制御器37はその切り替え期間に所定時間、スイッチング信号guh及びgulを双方とも低電位Lに設定する。上記の時間をデッドタイムといい、実施例1では約4μsに設定される。
PWM制御器37はv相及びw相についても同様に、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw に基づいて、v相及びw相に対するスイッチング信号gvh、gvl、gwh、及びgwlを決定する。
【0087】
[モータ駆動部30の動作]
次に、モータ駆動部30の動作を説明する。モータ駆動部30は目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw に従って、以下に述べるようにステータ巻線11u、11v、11wを流れる電流を制御する:
まず、PWM制御器37が上記のように、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw をPWMによって変調し、スイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlとして出力する。
【0088】
プリドライブ器36はPWM制御器37からのスイッチング信号guh、gul、 gvh、gvl、gwh、及びgwlに従って、上側IGBT32u、32v、32w、下側IGBT34u、34v、及び34w、をそれぞれオン又はオフする。例えば、上側IGBT用スイッチング信号guh、gvh、及びgwhが順にH、L、及びLの時、上側IGBT32u、32v、及び32wが順にオン、オフ、及びオフとなる。それと同時に、下側IGBT用スイッチング信号gul、gvl、及びgwlが順にL、H、及びHである時、下側IGBT34u、34v、34wが順にオフ、オン、及びオンとなる。こうして、上側IGBT32u、32v、32w、下側IGBT34u、34v、及び34w、のそれぞれのオン又はオフの切り替えにより、プリドライブ器36はステータ巻線11u、11v、及び11wのそれぞれに印加される電圧を矩形波状に変化させる。
【0089】
その時、モータ駆動部30に含まれるIGBTのオンオフの時間比率(デューティ)を調節して、上記電圧の矩形波の幅を変化させる。IGBTのオンオフのデューティは、対応するスイッチング信号のパルス幅を調節し、すなわち、高電位Hと低電位Lとの時間比率を調節することにより、調節できる。
【0090】
ステータ巻線11u、11v及び11wは誘導性のインピーダンスを有する。それ故、上記の矩形波状の電圧をステータ巻線11u、11v、及び11wに印加した時、各ステータ巻線を流れる電流は矩形波状ではなく、滑らかな波形を示す。但し、ここでいう「滑らかさ」は、IGBTのスイッチングに伴う歪みを無視する近似の下で成り立つ程度を意味する。モータ駆動部30は例えば、u相上側IGBT32uのデューティを高くし、u相上側IGBT32u用スイッチング信号guhが高電位Hである時間を延長する。その時、u相電流が増大する。逆に、u相上側IGBT32uのデューティを低くし、u相上側IGBT32u用スイッチング信号guhが高電位Hである時間を短縮する。その時、u相電流が減少する。こうして、モータ駆動部30はu相電流を、上記の意味で「滑らかな」波形に制御できる。v相電流及びw相電流についても同様に制御できる。
【0091】
上記の電流制御においてPWM制御器37は、同相の上側IGBT又は下側IGBTのいずれかをオン又はオフさせる時、オン又はオフの切り換え期間に上記のデッドタイムだけ両方のIGBTを共にオフさせる。それにより、いずれかのIGBTをオフした瞬間での過電流の発生を防止できる。その結果、過電流によるIGBTの破壊を防ぐことができる。
【0092】
[座標系]
マイコン22の構成及び動作を説明する前に、電流を表現するための座標系について説明する。図6は、本発明の実施例における電流を表現するための座標系、の模式図である。以下の説明を簡単にするために、図6では、二つの永久磁石14がロータ12に埋め込まれる。すなわち、図6では、ロータの磁極数及びステータ巻線の極数がいずれも2である。以下の説明ではロータの角度を電気角で表す。それ故、ロータの磁極数及びステータ巻線の極数が4以上の場合でも、以下の説明は全く同様に当てはまる。
【0093】
ロータ12の横断面において、ロータ12の中心軸Oに対するロータ12の磁極中心軸の方向をd軸方向という。特に、永久磁石14の磁束の向きをd軸の正方向とする。d軸方向と直交する方向をq軸方向という。q軸の正方向は、d軸の正方向をロータ12の回転方向に+90°回転させた向きとする。ここで、ロータ12の回転方向は図6において反時計回りを正転とする。言い換えると、ステータ巻線11u、11v、及び11wを流れる電流が、u相電流iu、v相電流iv、及びw相電流iwの順に反転するように制御される。
【0094】
u相巻線11uを流れるu相電流iuにより生成される磁束の中心方向を、ステータに固定された基準方向とし、その方向をα軸方向という。特に、図6に示した矢印の向きにu相電流iuが流れる時、そのu相電流iuにより生成される磁束の向きをα軸の正方向とする。
【0095】
ロータの角度とは、d軸方向とα軸方向とがロータの中心軸O周りになす角度θをいう。ここで、図6にα軸からd軸へと向かう矢印で示される向き、すなわち、ロータ12の正転方向をロータ12の角度θの正方向とする。
ロータ12の中心軸O周りの一回転を360°としてロータ12の角度を表した時、その値を機械角で表した角度という。一方、ステータ巻線を流れる電流によって形成されるステータの磁極の内、互いに隣り合うもの同士のなす角度を180°としてロータ12の角度θを表した時、その値を電気角で表した角度という。つまり、電気角は機械角と次式の関係を持つ: (電気角)=(ロータの磁極数)/2×(機械角)。
【0096】
実施例1は、ステータ巻線を流れる電流を検出し、その検出結果からd軸方向を推定し、すなわち、ロータ12の角度θを推定する。その時推定されたd軸方向及びq軸方向をそれぞれ、γ軸方向及びδ軸方向という。推定されたロータ12の角度θを推定角度θmといい、ロータ12の角度θと推定角度θmとの差θ−θmを角度推定誤差Δθという。図6では、角度推定誤差Δθが正の場合、すなわち、ロータ12の角度θが推定角度θmより大きい(θ>θm)場合が示される。ここで、図6にα軸からγ軸へと向かう矢印で示される向き、すなわち、ロータ12の正転方向を、推定角度θmの正方向とする。推定角度θmが実質的な誤差を含まず、すなわち、角度推定誤差Δθが実質的に0に等しい時、推定角度θmとロータ12の角度θとが一致する。その時、d軸とγ軸、q軸とδ軸がそれぞれ一致する。
【0097】
以下、ロータ12の角度θ、推定角度θm及び角度推定誤差Δθを電気角で表す。更に、特に明記しない限り、ロータ12の角度θに関する値を電気角で表す。
【0098】
ステータ巻線を流れる電流による磁界がロータに及ぼす作用は、電気的にはステータ巻線の等価インダクタンスとして表現される。ロータの透磁率がその中心軸周りに等方的ではない場合、すなわち、IPMSMが突極性を有する場合、その等価インダクタンスはロータの中心軸周りの方向に依存する。
【0099】
実施例1では、IPMSM10の等価回路における等価インダクタンスを、d軸方向についてはd軸インダクタンスLdと、q軸方向についてはq軸インダクタンスLqとする。d軸及びq軸はロータ12に固定された座標軸であるので、等価インダクタンスLd及びLqはロータ12の角度θに実質上依存しない。
等価インダクタンスは等方的ではなく、Ld<Lqである。具体的には、d軸インダクタンスLdが約10mH、q軸インダクタンスLqが約20mHである。このように、IPMSM10は突極性を有する。
【0100】
[マイコン22の構成]
マイコン22は好ましくはマイクロコンピュータであって、CPU、ROM、RAM、タイマ、ポート、及び、これらをつなぐバス等を含む。その他に、それらが集積回路として単一の半導体素子、すなわち、マイクロプロセッサを形成していても良い。その場合、以下に述べる構成要素は好ましくはソフトウエアとして構成される。その他に、それぞれの構成要素が電子回路又は集積回路としてハードウエア的に構成されても良い。
【0101】
マイコン22は、回転速度制御部40、電流制御部50、ロータ角度/回転速度推定部60、及び、重畳波作成部70を機能的に構成する。
回転速度制御部40は、外部からアナログ回転速度指令[ω a]を、ロータ角度/回転速度推定部60から推定回転速度値信号[ωm]を、それぞれ入力する。ここで、推定回転速度値信号[ωm]は推定回転速度ωmを示す。回転速度制御部40は入力された値から、電流振幅指令[i ]、γ軸電流指令[iγ ]及びδ軸電流指令[iδ ]を後述のように決定する。更に、電流制御部50へγ軸電流指令[iγ ]とδ軸電流指令[iδ ]とを、重畳波作成部70へ電流振幅指令[i ]を出力する。
【0102】
重畳波作成部70は、回転速度制御部40から電流振幅指令[i ]を入力し、それに基づいて重畳波電流指令[is ]及び重畳波直交信号[hs ]を設定する。重畳波電流指令[is ]は電流制御部50へ、重畳波直交信号[hs ]はロータ角度/回転速度推定部60へ、それぞれ出力される。
【0103】
電流制御部50は、u相電流センサ21uからアナログu相電流値信号[iua]を、v相電流センサ21vからアナログv相電流値信号[iva]を、ロータ角度/回転速度推定部60から推定角度θmを示す推定角度値信号[θm]を入力し、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを後述のように検出する。検出されたδ軸電流iδを表すδ軸電流値信号[iδ]はロータ角度/回転速度推定部60へ出力される。
電流制御部50は更に、回転速度制御部40からγ軸電流指令[iγ ]とδ軸電流指令[iδ ]とを、ロータ角度/回転速度推定部60から推定回転速度値信号[ωm]を、重畳波作成部70から重畳波電流指令[is ]を、それぞれ入力する。それらの入力により示される値、先に入力した推定角度θm、検出されたγ軸電流iγ及びδ軸電流iδに基づいて、電流制御部50は目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw を後述のように決定し、モータ駆動部30へ出力する。
【0104】
ロータ角度/回転速度推定部60は、重畳波作成部70から重畳波直交信号[hs ]を、電流制御部50からδ軸電流値信号[iδ]を入力し、推定誤差εを後述のように決定する。その推定誤差εに基づいて、推定角度θm及び推定回転速度ωmを補正する。その補正後、推定角度値信号[θm]は電流制御部50へ、推定回転速度値信号[ωm]は回転速度制御部40及び電流制御部50へ出力される。
【0105】
以下、上記のマイコン22の各構成要素の構成及び動作を説明する。
[回転速度制御部40の構成]
図3の(a)は、実施例1における回転速度制御部40の構成を示すブロック図である。図3の(b)は、図3の(a)に示されるPI制御部42のブロック図である。
【0106】
回転速度制御部40は、ADC(Analog Digtal Converter)41、PI制御部42、及び、トルク/電流変換部43から成る。
ADC41は、外部からのアナログ信号であるアナログ回転速度指令[ω a]を、ディジタル信号である回転速度指令[ω]へ変換する。ADC41は回転速度指令[ω]をPI制御部42へ出力する。
【0107】
PI制御部42はADC41からの回転速度指令[ω]により示される目標回転速度ωと、外部からの推定回転速度値信号[ωm]により示される推定回転速度ωmとに対して演算処理を行う。その演算処理は図3の(b)にブロック図で示される。
PI制御部42は、以下の動作を行うように構成される: まず、第一の加算器42aが目標回転速度ωから推定回転速度ωmを減算する。その減算結果は比例ゲイン42d及び積分ゲイン42eへ出力される。比例ゲイン42dは入力信号により示される値に第一の定数KPW(以下、第一の定数KPWを単に比例ゲインKPWと呼ぶ)を乗算し、第三の加算器42cへ出力する。一方、積分ゲイン42eは第二の定数KIW(以下、第二の定数KIWを単に積分ゲインKIWと呼ぶ)を入力信号により示される値へ乗算し、第二の加算器42bへ出力する。第二の加算器42bは、入力信号により示される値と、1サンプル遅れ42fからフィードバックされた値と、を加算し、1サンプル遅れ42f及び第三の加算器42cへ出力する。第二の加算器42bへ次のサンプルが入力されるまで、1サンプル遅れ42fは入力信号を保持する。こうして、第二の加算器42b及び1サンプル遅れ42fはディジタル積分器を構成する。第三の加算器42cは、比例ゲイン42d及び第二の加算器42bの出力を加算し、トルク指令[T]としてトルク/電流変換部43へ出力する。こうして、PI制御部42は、比例ゲイン42dによる比例制御(P制御)とディジタル積分器による積分制御(I制御)とを行う制御部として構成される。
【0108】
トルク/電流変換部43は、入力されたトルク指令[T]に対して後述の演算を行い、その演算結果を、電流振幅指令[ia ]、γ軸電流指令[iγ ]、及びδ軸電流指令[iδ ]として外部へ出力する。
【0109】
[回転速度制御部40の動作]
次に、回転速度制御部40の動作を説明する。回転速度制御部40は、好ましくは後述のロータ角度推定用電流信号is の周期(実施例1では最大約3m秒)ごとに、アナログ回転速度指令[ω a]及び推定回転速度値信号[ωm]を外部から入力する。その他に、それらの信号の入力がロータ角度推定用電流信号is の最大周期より長い一定の周期で行われても良い。
入力されたそれらの信号はADC41、PI制御部42、及びトルク/電流変換部43の順に下記の処理を施される。その結果、γ軸電流指令[iγ ]とδ軸電流指令[iδ ]とが決定される。
【0110】
アナログ回転速度指令[ω a]はADC41により、回転速度指令[ω]へ変換される。アナログ回転速度指令[ω a]が示す目標回転速度ω aは、約0〜2000π/60[rad/秒](1000回転/分)程度である。回転速度指令[ω]はPI制御部42へ出力される。
【0111】
PI制御部42は、推定回転速度ωmと目標回転速度ωとを一致させるように比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、PI制御部42はロータ12へ及ぼすべきトルク指令[T]を操作量として出力する。
【0112】
トルク指令[T]は図3の(b)のブロック図に従って、目標回転速度ωと推定回転速度ωmとの差、比例ゲインKPW、及び積分ゲインKIWにより、式(1)で表される。
【0113】
T=KPW(ω−ωm)+ΣKIW(ω−ωm) (1)
【0114】
ここで、総和記号Σは、制御開始からトルク指令[T]を出力するまでの全てのサンプルについての和を示す。式(1)の第一項が比例制御項であり、第二項が積分制御項である。
【0115】
トルク/電流変換部43はγ軸電流指令[iγ ]とδ軸電流指令[iδ ]とを以下のように決定する。それにより、ステータ巻線を流れる電流によって生成される磁界が目標トルクTと等しいトルクをIPMSM10に出力させる:
まず、トルク/電流変換部43は式(2)に従って目標トルクTを係数KTで除算し、目標電流振幅ia へ変換する。
【0116】
ia =T/KT (2)
【0117】
実施例1では、目標電流振幅ia は最大約15Aである。
次に、トルク/電流変換部43は目標電流位相βを式(3)に従って決定する。
電流の振幅が目標電流振幅ia と等しい時、目標電流位相βはIPMSM10の最大出力トルク時での電流の位相を示す。但し、位相の基準をq軸方向とする。
【0118】
sinβ={−ψ+√(ψ2+8(Lq−Ld)2ia 2)}/{4(Lq−Ld)ia } (3)
【0119】
ここで、ψはdq軸巻線鎖交磁束実効値であり、ステータ巻線に鎖交する永久磁石14の磁束の実効値を示す。Lqはq軸インダクタンスであり、Ldはd軸インダクタンスである。
【0120】
トルク/電流変換部43は最後に、式(4a)に従って目標電流振幅ia に−sinβを乗じて目標γ軸電流iγ とし、式(4b)に従って目標電流振幅ia にcosβを乗じて目標δ軸電流iδ とする。それにより、γ軸がd軸に、δ軸がq軸に、それぞれ一致する時、目標γ軸電流iγ 及び目標δ軸電流iδ に等しい電流により、目標トルクTと等しいトルクをIPMSM10は出力できる。
【0121】
iγ =−ia sinβ (4a)
iδ = ia cosβ (4b)
【0122】
実施例1ではロータ12へのトルクが最大となる位相を目標電流位相βとして決定した。しかし、本発明はその決定だけに限られるわけではない。その他に、モータの出力効率が最大となる位相を目標電流位相βとして決定しても良い。
【0123】
[電流制御部50の構成]
図4は、実施例1における電流制御部50の構成を示すブロック図である。電流制御部50は、u相電流値信号用ADC51u、v相電流値信号用ADC51v、三相二相変換部52、電圧指令作成部53、及び、二相三相変換部54を含む。
【0124】
u相電流値信号用ADC51uは、アナログu相電流値信号[iua]をデジタル信号であるu相電流値信号[iu]へ変換し、三相二相変換部52へ出力する。同様に、v相電流値信号用ADC51vは、アナログv相電流値信号[iva]をデジタル信号であるv相電流値信号[iv]へ変換し、三相二相変換部52へ出力する。
【0125】
三相二相変換部52は、u相電流値信号[iu]、v相電流値信号[iv]及び推定角度値信号[θm]を入力し、それらに基づいて後述のようにγ軸電流iγとδ軸電流iδとを検出する。γ軸電流値信号[iγ]は検出されたγ軸電流iγを示し、電圧指令作成部53へ出力される。δ軸電流値信号[iδ]は検出されたδ軸電流iδを示し、電圧指令作成部53及び外部へ出力される。
【0126】
電圧指令作成部53は、三相二相変換部52からγ軸電流値信号[iγ]とδ軸電流値信号[iδ]とを、外部からγ軸電流指令[iγ ]、δ軸電流指令[iδ ]、推定回転速度値信号[ωm]及び重畳波電流指令[is ]を入力する。電圧指令作成部53は論理回路であり、それらの入力により示される値に基づいて、目標γ軸電圧vγ と目標δ軸電圧vδ とを後述のように演算する。その演算結果はそれぞれγ軸電圧指令[vγ ]及びδ軸電圧指令[vδ ]として、二相三相変換部54へ出力される。
【0127】
二相三相変換部54は論理回路であり、入力された目標γ軸電圧vγ 、目標δ軸電圧vδ 及び推定角度θmに基づいて、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 、及び目標w相電圧vw を後述のように演算する。その演算結果はそれぞれu相電圧指令[vu ]、v相電圧指令[vv ]及びw相電圧指令[vw ]としてモータ駆動部30へ出力される。
【0128】
[電流制御部50の動作]
次に、電流制御部50の動作を説明する。電流センサ21u及び21vからのアナログ電流値信号[iua]及び[iva]はADC51u及び51vにより電流値信号[iu]及び[iv]へ変換される。検出された電流iu及びivは三相電流である。そこで、後の処理の便宜上、それらの値は三相二相変換部52によりγ軸電流iγ及びδ軸電流iδへ、式(5)及び(6)に従って変換される。
【0129】
iγ=(√2)×{iusin(θm+60°)+ivsinθm} (5)
iδ=(√2)×{iucos(θm+60°)+ivcosθm} (6)
【0130】
電圧指令作成部53は式(7)に従って、比例積分制御(PI制御)と非干渉制御とを用いて目標γ軸電圧vγ を制御する。それにより、γ軸電流iγが目標γ軸電流iγ へ目標重畳波電流is を重畳したもの、すなわち重畳波付目標γ軸電流(iγ +is )と一致するように制御される。
【0131】
Figure 0003840082
【0132】
式(7)の第一項は比例ゲインKPdによる比例制御項を、第二項は積分ゲインKIdによる積分制御項を、第三項及び第四項は非干渉制御項を、それぞれ示す。ここで、ステータ巻線11u、11v、及び11wの抵抗をRとし、推定回転速度ωmを角速度に換算したものを推定角速度ωemとする。更に、q軸インダクタンスをLqとする。総和記号Σは、制御開始からγ軸電圧指令[vγ ]を出力するまでの全てのサンプルについての和を示す。
【0133】
式(7)の第三項及び第四項は次のように設定される: γ軸電流iγが目標γ軸電流iγ に、δ軸電流iδが目標δ軸電流iδ にそれぞれ一致し、更に、γ軸及びδ軸がd軸及びq軸にそれぞれ一致した時、式(7)の関係と、d軸電圧、d軸電流及びq軸電流の満たす関係と、が、ロータ角度推定用電流信号is を含む項を除いて一致する。
【0134】
一方、電圧指令作成部53は、式(8)に従って、比例積分制御(PI制御)と非干渉制御とを用いて目標δ軸電圧vδ を制御する。それにより、δ軸電流iδが目標δ軸電流iδ と一致するように制御される。
【0135】
Figure 0003840082
【0136】
式(8)の第一項は比例ゲインKPqによる比例制御項を、第二項は積分ゲインKIqによる積分制御項を、第三項から第五項までは非干渉制御項を、それぞれ示す。ここで抵抗Rと推定角速度ωemとは式(7)のものと同じである。Ldはd軸インダクタンスである。ψはdq軸巻線鎖交磁束実効値である。総和記号Σは、制御開始からδ軸電圧指令[vδ ]を出力するまでの全てのサンプルについての和を示す。
【0137】
式(8)の第三項、第四項及び第五項は次のように設定される: γ軸電流iγが目標γ軸電流iγ に、δ軸電流iδが目標δ軸電流iδ にそれぞれ一致し、更に、γ軸及びδ軸がd軸及びq軸にそれぞれ一致した時、式(8)の関係と、d軸電圧、d軸電流及びq軸電流の満たす関係とが、ロータ角度推定用電流信号is を含む項を除いて一致する。
【0138】
目標γ軸電圧vγ 及び目標δ軸電圧vδ は電圧指令作成部53により決定される。更に、二相三相変換部54により、ステータ巻線11u、11v、及び11wに印加される三相電圧、すなわち、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 、及び、目標w相電圧vw へ、式(9)、(10)及び(11)に従って変換される。それらの変換は三相二相変換部52の変換(式(5)及び(6))に対する逆変換に相当する。
【0139】
vu =√(2/3){vγ cosθm−vδ sinθm} (9)
vv =√(2/3){vγ cos(θm−120°)−vδ sin(θm−120°)} (10)
vw =√(2/3){vγ cos(θm+120°)−vδ sin(θm+120°)} (11)
【0140】
[ロータ角度/回転速度推定部60の構成]
図5の(a)は、実施例1におけるロータ角度/回転速度推定部60の構成を示すブロック図である。ロータ角度/回転速度推定部60は、推定誤差検出部61、推定誤差リミッタ62、角度進み量作成部63、推定回転速度補正部64、推定誤差リセット部65及び推定角度補正部66を含む。
【0141】
推定誤差検出部61はディジタル演算回路であり、後述のようにδ軸電流iδと重畳波直交成分hs とを乗算し、その乗算結果を所定の時間積分する。その演算結果が推定誤差εとして決定される。
推定誤差リミッタ62は推定誤差εに対するリミッタである。リミットされた推定誤差εを第二の推定誤差ε1とする。
【0142】
角度進み量作成部63は、第二の推定誤差ε1に対する比例積分制御を行う制御回路であり、第二の推定誤差ε1に比例ゲインKTPPを乗算する比例制御部と、第二の推定誤差ε1を積分ゲインKTPIで積分するディジタル積分器とを含む。その構成は図3の(b)に示されるものと同様である。角度進み量作成部63の出力は角度進み量θpとして決定される。
【0143】
推定回転速度補正部64は角度進み量θpに対するディジタルローパスフィルタ(LPF)を含む。角度進み量θpをLPFで処理した値に基づいて、推定回転速度ωmが後述のように補正される。
推定誤差リセット部65は所定の時間ごとに、推定誤差検出部61内部に記憶された推定誤差εの値を0に置き換える。
推定角度補正部66は、推定角度θmを角度進み量θpだけ補正するための演算回路である。
【0144】
[重畳波作成部70の構成]
図5の(b)は実施例1における重畳波作成部70の構成を示すブロック図である。重畳波作成部70は、カウンタ71、重畳波位相設定部72、重畳波電流指令作成部73、重畳波直交成分作成部74、重畳波周期設定部75、カウンタリセット部76及び重畳波電流振幅設定部77を含む。
【0145】
カウンタ71は、整数値であるカウントζを記憶するためのレジスタを含み、PWM制御器37のPWMのキャリア周期ごとにカウントζを1ずつ増加させ、その値を重畳波位相設定部72へ出力する。
【0146】
重畳波位相設定部72は論理回路であり、重畳波周期設定部75により設定された分割数ηとカウントζとに基づいて、重畳波位相θsを後述のように設定する。
重畳波電流指令作成部73は論理回路であり、重畳波電流振幅設定部77により設定された重畳波電流振幅αと、重畳波位相設定部72により設定された重畳波位相θsと、に基づいて、目標重畳波電流is を後述のように設定する。
【0147】
重畳波直交成分作成部74は論理回路であり、重畳波位相θsに基づいて重畳波直交成分hs を後述のように設定する。
重畳波周期設定部75は論理回路であり、0から1までの擬似乱数を発生するための回路を含み、その擬似乱数に基づいて分割数ηを後述のように設定する。
【0148】
カウンタリセット部76は、カウンタ71のレジスタをリセットするための回路である。
重畳波電流振幅設定部77は論理回路であって、後述の振幅テーブル(図12)を記憶したROM又はRAMを含む。重畳波電流振幅設定部77は外部から電流振幅指令[ia ]を入力し、それにより示される目標電流振幅ia に対応する重畳波電流振幅αを振幅テーブルから求めて出力する。
【0149】
ロータ角度/回転速度推定部60及び重畳波作成部70は、好ましくはソフトウエアとして構成される。その他に、上記の各構成要素がそれぞれ論理素子として構成されていても良い。
【0150】
[重畳波作成部70の動作]
次に、実施例1の特徴である重畳波作成部70の動作を説明する。重畳波作成部70の動作は以下の三つの特徴を有する: 第1に、目標重畳波電流すなわちロータ角度推定用電流信号is の周期を一周期ごとにランダムに変化させる。第2に、ロータ角度推定用電流信号is の振幅を一周期ごとに変化させる。第3に、ロータ角度推定用電流信号is の周期をPWMのキャリア周期の偶数倍にする。
【0151】
最初に、重畳波周期設定部75が式(12)に従って、分割数ηをランダムな正の偶数に設定する。
【0152】
η=ηmin+2×round{(ηmax−ηmin)M/2} (12)
【0153】
ここで、分割数ηの最小値をηmin、最大値をηmaxとする。最小値ηmin及び最大値ηmaxはいずれも偶数であり、実施例1ではηmin=20、ηmax=40である。擬似乱数Mは0以上1未満の数であり、重畳波周期設定部75内の擬似乱数発生回路によって設定される。演算子round(.)は小数部を丸めて整数部のみを残す演算を示す。
【0154】
次に、カウンタ71により出力されるカウントζを用いて、重畳波位相設定部72が重畳波位相θsを式(13)に従って設定する。カウントζが1から分割数ηまで1ずつ増加するごとに、重畳波位相θsが(360/η)°から360°まで(360/η)°ずつ進む。
【0155】
θs=360°ζ/η (13)
【0156】
図10は実施例1における重畳波位相θsの分布図である。図10に黒丸で表される点が出力ごとの重畳波位相θsを示す。例えば、分割数ηが32、40、20、・・・のように変化する時、重畳波位相θsはまず、PWMのキャリア周期の32倍の時間で11.25°から360°まで変化する。続いて、PWMのキャリア周期の40倍の時間で再び9°から360°まで変化する。更に続いて、PWMのキャリア周期の20倍の時間で18°から360°まで変化する。・・・ 重畳波位相θsは以上のような変化を繰り返す。
【0157】
重畳波電流振幅設定部77は回転速度推定部60から入力した電流振幅指令[ia ]により示される目標電流振幅ia に基づいて、重畳波電流振幅αを設定する。図12は実施例1における目標電流振幅ia と重畳波電流振幅αとの対応関係を示す振幅テーブルである。重畳波電流振幅設定部77は、この振幅テーブルに従って、目標電流振幅ia に対応する重畳波電流振幅αの値を以下のように設定する:
【0158】
目標電流振幅ia が下限値ia 1より小さい時、重畳波電流振幅設定部77は重畳波電流振幅αを下限値α1に設定する。
目標電流振幅ia が上限値ia 2より大きい時、重畳波電流振幅設定部77は重畳波電流振幅αを上限値α2に設定する。
目標電流振幅ia が下限値ia 1以上でかつ上限値ia 2以下である時、重畳波電流振幅設定部77は重畳波電流振幅αを、点(ia 1,α1)と点(ia 2,α2)とを直線的に補間した値に設定する。
【0159】
こうして、重畳波電流振幅αは目標電流振幅ia と共に増大するように設定される。実施例1では、重畳波電流振幅αの下限値α1が約3A、上限値α2が約5Aであり、目標電流振幅ia の下限値ia 1が約0A、上限値ia 2が約15Aである。すなわち、電流の基本波と重畳波との振幅比が数十%程度に設定される。ここで、電流の基本波とはIPMSM10の出力トルクの主要部分を与える電流の成分を指し、その語は特に、電流への重畳波であるロータ角度推定用電流信号と区別する目的で用いられる。電流の基本波は、同期モータでは通常、ロータの回転速度と等しい周波数の正弦波である。
【0160】
目標重畳波電流すなわちロータ角度推定用電流信号is は重畳波電流指令作成部73により、重畳波位相θs及び重畳波電流振幅αに基づいて、式(14)に従って正弦波として設定される。
【0161】
is =αsinθs=αsin(ωes・ζTc) (14)
【0162】
ここで、PWM制御器37によるPWMのキャリア周期をTcとし、カウントζとキャリア周期Tcとの積で重畳波位相θsを割った値を重畳波角周波数ωesとする。
【0163】
図11は、実施例1において、32、40、20の分割数ηについてのロータ角度推定用電流信号is を示す図である。カウントζはPWMのキャリア周期ごとに1ずつ増える。従って、図11の各点の時間間隔は、PWMのキャリア周期Tcに等しい。言い換えると、ロータ角度推定用電流信号is の周期はηTcに等しい。分割数ηはランダムに変化するので、ロータ角度推定用電流信号is は一周期ごとにその周期をランダムに変化させる。実施例1では、ロータ角度推定用電流信号is の周期は約1.3〜2.6m秒程度(周波数は約375〜750Hz程度)の範囲内にある。分割数ηは偶数であるので、ロータ角度推定用電流信号is の周期ηTcはPWMのキャリア周期Tcの偶数倍である。
【0164】
重畳波直交成分作成部74は式(15)に従って、重畳波直交成分hs をロータ角度推定用電流信号is と直交するように、すなわち、重畳波直交成分hs の位相をロータ角度推定用電流信号is の位相θsに対して90°遅れるように設定する。重畳波直交成分hs は無次元量の信号であって、その振幅は1に正規化される。
【0165】
hs =sin(θs−90°)=−cosθs (15)
【0166】
[ロータ角度/回転速度推定部60の動作]
以下、実施例1によるロータ角度/回転速度推定部60の動作を説明する。ロータ角度/回転速度推定部60の動作は次の三つの特徴を有する: 第一に、電流制御部50によって検出されたδ軸電流iδに対して、PWMのキャリア周期Tcごとにサンプリングを行う。それにより、サンプリングの回数はロータ角度推定用電流信号is の一周期ηTc当たりη回である。第二に、サンプリングされたδ軸電流iδと重畳波直交成分hs との積をロータ角度推定用電流信号is の一周期の範囲でディジタル積分し、推定誤差εを求める。第三に、推定誤差εのリミット後、推定回転速度ωm及び推定角度θmを補正する。
【0167】
まず、検出されたδ軸電流iδ内に現れるロータ角度推定用電流信号is に対する応答電流について説明する。図7は実施例1における目標u相電圧vu 、及び、その印加によってu相巻線11uを流れるu相電流iuの波形図である。図7の(a)は目標u相電圧vu の波形図であり、図7の(b)はu相電流iuの波形図である。
【0168】
重畳波作成部70によって作成されたロータ角度推定用電流信号is は、電流制御部50により目標γ軸電流iγ へ重畳される。ロータ角度推定用電流信号is を重畳された目標γ軸電流iγ は目標電圧へ変換される。実施例1では、目標電流の基本波及び対応する目標電圧の成分は数十Hz程度以下の周波数を持つ。ロータ角度推定用電流信号is の周波数は最小でも400Hz程度である。一方、ロータ角度推定用電流信号is の振幅は目標電流の基本波に対して数十%程度である。従って、目標u相電圧vu はロータ角度推定用電流信号is の重畳により、u相電流iuはロータ角度推定用電流信号is に対する応答電流の重畳により、それぞれ図7に示されるように細かく波打った正弦波となる。
【0169】
図8は、実施例1における目標γ軸電圧vγ 、その印加によって流れるγ軸電流iγ、及びδ軸電流iδの波形図である。図8の(a)は目標γ軸電圧vγ の波形図であり、図8の(b)はγ軸電流iγの波形図である。角度推定誤差Δθが有限値である時δ軸電流iδの波形図は図8の(c)である。角度推定誤差Δθが実質的に0に等しい時、δ軸電流iδの波形図は図8の(d)である。
【0170】
角度推定誤差Δθが一定である時、γ軸及びδ軸は図6に示されるように、ロータ12に対する固定軸である。それ故、目標γ軸電圧vγ 、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの基本波成分がいずれも直流である。従って、ロータ角度推定用電流信号is の重畳時、それと実質的に同じ周期の重畳波成分が図8のようにそれぞれの交流成分として現れる。特に、δ軸電流iδに現れる重畳波成分、すなわち、ロータ角度推定用電流信号is に対する応答電流、の振幅は角度推定誤差Δθに依存し、正確には後述の理由により、sin(2Δθ)に比例する。従って、角度推定誤差Δθが実質的に有限値である時、図8の(c)のようにδ軸電流iδは重畳波成分を持つ。しかし、角度推定誤差Δθが実質的に0°に等しい時、図8の(d)のようにδ軸電流iδは重畳波成分を持たない。
【0171】
以下、δ軸電流iδの重畳波成分の振幅がsin(2Δθ)に比例する理由を説明する: IPMSM10の電圧方程式は、d軸及びq軸成分による表現では式(16)及び(17)である。
【0172】
vd=(R+p・Ld)id−ωe・Lq・iq (16)
vq=(R+p・Lq)iq+ωe・Ld・id+ωe・ψ (17)
【0173】
ここで、pは微分演算子である。電圧ベクトルのd軸成分とq軸成分とをそれぞれd軸電圧vdとq軸電圧vqとで表し、電流ベクトルのd軸成分とq軸成分とをそれぞれd軸電流idとq軸電流iqとで表す。ステータ巻線の抵抗をRとし、d軸インダクタンスをLd、q軸インダクタンスをLqとする。dq軸巻線鎖交磁束実効値をψとし、ロータ12の実際の角速度をωeとする。
【0174】
ロータ12の回転制御時、実際のロータ12の角度θは分からないので、推定角度θmを用いて制御を行う。それに合わせて、IPMSM10の電圧方程式を、d軸及びq軸成分での表現(式(16)及び(17))から推定d軸及び推定δ軸、すなわち、γ軸及びδ軸成分での表現へ、以下のように変換する: 図6より、γ軸はd軸から(δ軸はq軸から)角度推定誤差Δθ=θ−θmだけずれる。従って、電圧方程式(16)及び(17)はγ軸及びδ軸成分によると、式(18)及び(19)で表現される。
【0175】
Figure 0003840082
【0176】
ここで、ロータ12の推定角速度をωemとする。推定角速度ωemは推定回転速度ωmから演算される。式(18)及び(19)では、推定角速度ωemと実際の角速度ωeとの差を無視する。
【0177】
d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqは、γ軸インダクタンスLγ、δ軸インダクタンスLδ、及び両方向間の相互インダクタンスLγδへ、式(20)、(21)及び(22)に従ってそれぞれ変換される。
【0178】
Lγ ={(Ld+Lq)−(Lq−Ld)cos(2Δθ)}/2 (20)
Lδ ={(Ld+Lq)+(Lq−Ld)cos(2Δθ)}/2 (21)
Lγδ={(Lq−Ld)sin(2Δθ)}/2 (22)
【0179】
式(20)及び(21)より、γ軸インダクタンスLγ及びδ軸インダクタンスLδはいずれも、角度推定誤差Δθに関わらず正である。
γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの重畳波成分は重ね合わせの原理により、式(18)及び(19)中の重畳波成分を含む項を通してγ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδへ寄与する。すなわち、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδの重畳波成分vγ s及びvδ sは式(23)及び(24)で表される。
【0180】
Figure 0003840082
【0181】
次に、以下の近似を行い、式(23)及び(24)を簡略化する: 実施例1はロータ12の静止時又は低速駆動時における回転制御を対象とするので、ロータ12の回転速度が比較的小さい時を以下では考慮すれば良い。
【0182】
既に述べたように、重畳波成分の周波数は最小でも約400Hzであり、基本波成分の周波数(最大数十Hz程度)より十分高い。従って、重畳波成分の角周波数、すなわち重畳波角周波数ωesは、基本波成分の角周波数、すなわちロータ12の推定角速度ωemより十分大きい。実施例1では、重畳波角周波数ωesと等価インダクタンスLγ、Lδ又はLγδ(いずれも10mH程度)との積で表されるインピーダンスが約25Ωであり、ステータ巻線の抵抗R(約1Ω)より十分大きい。従って、式(23)及び(24)では、推定角速度ωem及び抵抗Rを含む項を他の項に対して無視する。こうして、式(23)及び(24)は式(25)及び(26)でそれぞれ近似される。
【0183】
vγ s=p・Lγ・iγ s−p・Lγδ・iδ s (25)
vδ s=p・Lδ・iδ s−p・Lγδ・iγ s (26)
【0184】
更に、角度推定誤差Δθの時間変化を無視する近似、すなわち等価インダクタンスLγ、Lδ、及びLγδを一定とみなす近似の下で、式(25)及び(26)をγ軸電流iγ及びδ軸電流iδの重畳波成分iγ s及びiδ sについて解く。その時、重畳波成分iγ s及びiδ sについて、式(27)及び(28)が得られる。
【0185】
p・iγ s=(Lδ・vγ s+Lγδ・vδ s)/Λ (27)
p・iδ s=(Lγ・vδ s+Lγδ・vγ s)/Λ (28)
Λ=Lγ・Lδ−Lγδ・Lγδ (29)
【0186】
言い換えると、ロータ12の回転制御時、γ軸電圧vγ及びδ軸電圧vδへ重畳波成分vγ s及びvδ sをそれぞれ重畳すると、それに対する応答電流iγ s及びiδ sが、式(27)及び(28)に従って、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδへそれぞれ重畳される。特に、重畳波電圧をγ軸成分vγ sへのみ印加する時、すなわち、δ軸成分vδ sを0とする時、応答電流iγ s及びiδ sは式(30)及び(31)で表される。
【0187】
p・iγ s=Lδ ・vγ s/Λ (30)
p・iδ s=Lγδ・vγ s/Λ (31)
【0188】
実施例1では、電流制御部50が、目標重畳波電流としてロータ角度推定用電流信号is を目標γ軸電流iγ に重畳する。そのロータ角度推定用電流信号is は式(14)で与えられる。一方、目標δ軸電流iδ にはロータ角度推定用電流信号を重畳しない。
【0189】
is =αsinθs=αsin(ωes・ζTc) (14)
【0190】
ここで、PWM制御器37によるPWMでのキャリア周期をTcとし、カウントζとキャリア周期Tcとの積で重畳波位相θsを割った値を重畳波角周波数ωesとする。
【0191】
PWMのキャリア周波数は約15kHzであり、重畳波周波数(最大約750Hz)に比べて十分大きい。言い換えると、PWMのキャリア周期Tcは重畳波の周期に比べて十分小さい。一方、PWMのキャリア周期Tcは、ディジタル信号であるロータ角度推定用電流信号is のサンプルの時間間隔に等しい。従って、そのサンプルの時間間隔を無視し、ロータ角度推定用電流信号is をアナログ信号とみなす。その近似の下では、PWMのキャリア周期Tcのカウントζ倍、すなわち、ζTcを連続的な時間変数tに置き換えることができる。従って、ロータ角度推定用電流信号is を式(32)のアナログ信号として表すことができる。
【0192】
is =αsin(ωes・t) (32)
【0193】
電流制御部50の電圧指令作成部53は既に述べたように、目標γ軸電流iγ 及びロータ角度推定用電流信号is に基づく比例積分制御及び非干渉制御(式(7))により、目標γ軸電圧vγ を制御する。それにより、ロータ角度推定用電流信号is に対応する電圧成分vγ s が、式(33)に従って目標γ軸電圧vγ に重畳される。但し、その重畳波はγ軸成分vγ s のみを持ち、δ軸成分vδ s は式(34)の通り0である。
【0194】
vγ s =KPd・is =KPd・αsinθs=KPd・αsin(ωes・t) (33)
vδ s =0 (34)
【0195】
ここで、比例係数KPdは式(7)における比例ゲインである。
式(33)及び(34)を式(30)及び(31)に代入すると、γ軸電流iγの重畳波成分iγ s及びδ軸電流iδの重畳波成分iδ sは式(35)及び(36)で表される。
【0196】
Figure 0003840082
【0197】
式(35)及び(36)から明らかなように、重畳波成分iγ s及びiδ sの振幅はそれぞれLδ及びLγδに比例する。
【0198】
図9は実施例1での角度推定誤差Δθに対するLδ、Lγδの変化を示す図である。図9の(a)はδ軸インダクタンスLδの変化を、図9の(b)はγ軸及びδ軸間の相互インダクタンスLγδの変化を、それぞれ示す図である。式(21)より、δ軸インダクタンスLδは角度推定誤差Δθに関わらず正である。それ故、γ軸電流iγの重畳波成分iγ sの振幅は角度推定誤差Δθに関わらず正である。一方、式(22)により、γ軸及びδ軸間相互インダクタンスLγδはsin(2Δθ)に比例する。更に、式(36)により、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの振幅は相互インダクタンスLγδに比例する。それ故、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの振幅はsin(2Δθ)に比例する。特に、角度推定誤差Δθが0°の時、図8の(d)のように、重畳波成分iδ sの振幅が0に等しい。一方、角度推定誤差Δθが有限値である時、図8の(c)のように、重畳波成分iδ sの振幅は有限値である。
【0199】
上記のようにδ軸電流iδの重畳波成分iδ sの振幅はsin(2Δθ)に比例する。従って、ロータ角度/回転速度推定部60は、既に述べた構成により、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの振幅を実質的に0に等しくなるように、推定角度θmを補正する。以下、その動作を説明する。
【0200】
まず、推定誤差検出部61により、検出されたδ軸電流iδから推定誤差εを以下のように計算する:式(36)により、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sは(−cosθs)に比例して振動する。一方、式(14)により、ロータ角度推定用電流信号is はsinθsに比例して振動する。既に述べたように、目標γ軸電圧vγ の位相はロータ角度推定用電流信号is の位相と実質的に一致する。それ故、図8の(a)及び(c)に示されるように、目標γ軸電圧vγ とδ軸電流iδとは互いに約90°だけずれた位相で振動する。従って、推定誤差検出部61はフーリエ解析によりδ軸電流iδから重畳波成分iδ sを抽出し、その振幅を推定誤差εとして決定する。具体的には、δ軸電流iδに(−cosθs)を乗じ、重畳波成分iδ sの一周期の範囲で積分する。その積分結果はδ軸電流iδのcosθsに対応するフーリエ係数であり、すなわち、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの振幅である。
【0201】
上記のフーリエ積分は以下に述べるような離散フーリエ積分により行われる:式(13)及び(15)により、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの一周期の範囲では、重畳波直交成分hs は分割数ηと同数のサンプルで表される。そのサンプルはPWMのキャリア周期Tcごとに、重畳波作成部70の重畳波直交成分作成部74から推定誤差検出部61へ入力される。
【0202】
θs=360°ζ/η (13)
hs =sin(θs−90°)=−cosθs (15)
【0203】
その入力と同期して、電流制御部50の三相二相変換部52から推定誤差検出部61へ、δ軸電流iδのサンプルが入力される。推定誤差検出部61は、入力されたδ軸電流iδと重畳波直交成分hs とのサンプル同士を乗算し、内部のレジスタに記憶する。この乗算処理はPWMのキャリア周期Tcごとに、その時入力されたサンプルに対して行われる。それぞれの乗算結果は、推定誤差検出部61内部のレジスタで互いに加算されながら記憶される。
【0204】
上記の演算処理がδ軸電流iδの重畳波成分iδ sの一周期、すなわち、PWMのキャリア周期Tcの分割数η倍ηTcの間繰り返される。それにより、上記のレジスタに記憶された値が推定誤差εとして決定される。つまり、推定誤差εは式(37)に従って計算される。
【0205】
ε=Σ(iδ・hs ) (37)
【0206】
ここで、総和記号Σはδ軸電流iδの重畳波成分iδ sの一周期の範囲内での全サンプルについての和を表す。
【0207】
式(37)へ式(15)及び(36)を代入すると、推定誤差εは式(38)によりLγδに比例する。更に、式(38)へ式(22)を代入すると、推定誤差εは式(39)によりsin(2Δθ)に比例する。特に角度推定誤差Δθが十分小さい時、式(40)により、推定誤差εは角度推定誤差Δθに実質上比例する。従って、推定誤差εを0へ収束させるようにすれば、角度推定誤差Δθを実質的に0に等しくできる。
【0208】
ε≒(η/2)Lγδ・KPd・α/(ωes・Λ) (38)
=sin(2Δθ){(Lq−Ld)/2}・(η/2)・KPd・α/(ωes・Λ) (39)
≒2Δθ{(Lq−Ld)/2}・(η/2)・KPd・α/(ωes・Λ) (40)
【0209】
推定誤差εを記憶するための推定誤差検出部61内部のレジスタは、推定誤差リセット部65により、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの一周期ごとにリセットされる。こうして、δ軸電流iδの重畳波成分iδ sの各周期ごとに推定誤差εが作成される。
【0210】
作成された推定誤差εは推定角度θmの補正前に、推定誤差リミッタ62により、式(41)に従って以下のようにリミットされる。ここで、リミット後の推定誤差εを有効推定誤差ε1とする:
推定誤差εがある正の閾値εlimより大きい時、有効推定誤差ε1をεlimに置換する;
推定誤差εが負の閾値(−εlim)より小さい時、有効推定誤差ε1を(−εlim)に置換する;
推定誤差εが(−εlim)以上でεlim以下の時、有効推定誤差ε1を推定誤差εと一致させる。
【0211】
ε1=−εlim (ε<−εlim
ε1=ε (−εlim≦ε≦εlim
ε1=εlim (ε>εlim) (41)
【0212】
次に、角度進み量θpが角度進み量作成部63により、有効推定誤差ε1に基づいて式(42)に従って決定される。角度進み量θpは有効推定誤差ε1に対する比例積分制御の操作量に相当する。
【0213】
θp=KTPP・ε1+ΣKTPIε1 (42)
【0214】
ここで、比例ゲインをKTPP、積分ゲインをKTPIとする。総和記号Σは、制御開始から角度進み量θpの出力までの全サンプルについての和を示す。
【0215】
更に、角度進み量θpに基づいて、推定回転速度補正部64が推定回転速度ωmを、推定角度補正部66が推定角度θmを、それぞれ以下のように補正する: 推定回転速度補正部64はディジタルLPFを通して、角度進み量θpから推定回転速度ωmを決定する。具体的には、式(43)による演算処理を行う。
【0216】
ωm(n)=KW・KTPW・θp+(1−KW)ωm(n−1) (43)
【0217】
ここで、LPFの係数をKWとする。係数KWは0より大きく1以下の定数である。係数KWが小さいほど、LPFの作用が一般に大きい。角度進み量θpから推定回転速度ωmへの変換係数をKTPWとする。更に、ロータ12の回転制御開始から数えて(n−1)番目及びn番目の推定回転速度ωmのサンプルをそれぞれ、ωm(n−1)及びωm(n)とする。式(43)により、推定回転速度ωmの(n−1)番目のサンプルωm(n−1)が角度進み量θpに基づいて補正され、n番目のサンプルωm(n)を決定する。
【0218】
推定角度補正部66は推定角度θmを、式(44)により角度進み量θpだけ補正する。
【0219】
θm(n)=θm(n−1)+θp (44)
【0220】
ここでロータ12の回転制御開始から数えて(n−1)番目及びn番目の推定角度θmのサンプルをそれぞれθm(n−1)及びθm(n)とする。式(44)により、角度進み量θpが補正量として推定角度θmの(n−1)番目のサンプルθm(n−1)へ加えられ、n番目のサンプルθm(n)を決定する。
【0221】
以上のように決定されたn番目のサンプルωm(n)及びθm(n)に基づいて、制御開始からn回目のロータ12の回転制御動作が行われる。
【0222】
[実施例1の動作]
実施例1は、上記のそれぞれの構成の動作を以下のように組み合わせて、ロータ12の回転速度を目標回転速度ωと一致するように制御する: 図13及び図14は、実施例1によるロータ12の回転速度の制御を示すフローチャートである。図13の(a)は、実施例1によるロータ12の回転速度の制御全体の概略的フローチャートである。図13の(b)は、回転速度制御部40の動作を示すフローチャートである。図13の(c)は、重畳波作成部70の動作を示すフローチャートである。図14の(a)は、電流制御部50の動作を示すフローチャートである。図14の(b)は、ロータ角度/回転速度推定部60の動作を示すフローチャートである。
【0223】
まず、図13の(a)により、実施例1によるロータ12の回転速度の制御全体の流れについて説明する。
〈ステップS1〉
回転速度制御部40により、目標回転速度ω aと推定回転速度ωmとに基づいて、目標γ軸電流iγ 及び目標δ軸電流iδ の基本波成分が決定される。
〈ステップS2〉
重畳波作成部70により、目標重畳波電流、すなわち、ロータ角度推定用電流信号is が設定される。
【0224】
〈ステップS3〉
電流制御部50により、実際の電流が検出される。検出されたγ軸電流は、目標γ軸電流iγ にロータ角度推定用電流信号is を重畳した重畳波付目標γ軸電流(iγ +is )と比較される。検出されたδ軸電流は目標δ軸電流iδ と比較される。それらの差に基づく比例積分制御により目標電圧vu 、vv 、及びvw が決定され、モータ駆動部30へ出力される。目標電圧vu 、vv 、及びvw はモータ駆動部30内でPWMにより変調され、スイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlとなる。モータ駆動部30はスイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlに従って、ステータ巻線11u、11v、及び11wへの印加電圧を制御する。その印加電圧の制御の結果、ステータ巻線11u、11v、及び11wを流れる電流により、ロータ12はトルクを受けて回転する。
【0225】
〈ステップS4〉
ロータ角度/回転速度推定部60により、検出されたδ軸電流から推定誤差εがロータ角度推定用電流信号is の一周期ごとに、後述のように求められる。その推定誤差εに基づいて、角度推定誤差Δθを0へ収束させるように推定角度θmが補正される。
【0226】
〈ステップS5〉
重畳波作成部70で、カウンタ71により設定されたカウントζを0と比較する。カウントζが0と等しい時はステップS1から、それ以外の時はステップS2から再び動作を繰り返す。その時、ステップS2からステップS4までの周期が実質的にPWMのキャリア周期Tcに等しいので、ステップS1の繰り返し周期がPWMのキャリア周期Tcの分割数η倍ηTcに実質的に等しい。すなわち、ロータ角度推定用電流信号is の周期と実質的に等しい。更に、分割数ηは重畳波周期設定部75によりランダムに設定されるので、ステップS1の繰り返し周期ηTcはランダムに変化する。
【0227】
次に、図13の(b)により、回転速度制御部40の動作の流れについて説明する。
〈ステップS11〉
外部、好ましくは上位コンピュータ、からの回転速度指令[ω a]により示されるアナログ目標回転速度ω aを、ADC41により目標回転速度ωへ変換する。
〈ステップS12〉
目標回転速度ωに基づく比例積分制御での操作量に対応する目標トルクTをPI制御部42により決定する。
〈ステップS13〉
トルク/電流変換部43により、目標トルクTを目標γ軸電流iγ 、目標δ軸電流iδ 及び目標電流振幅ia へ変換する。
【0228】
続いて、図13の(c)により、重畳波作成部70の動作の流れについて説明する。
〈ステップS21〉
カウンタ71により、カウントζを1だけ進める。
〈ステップS22〉
重畳波位相設定部72により、重畳波位相θsを更新する。
〈ステップS23〉
重畳波電流指令作成部73により、重畳波電流指令[is ]を作成する。
〈ステップS24〉
重畳波直交成分作成部74により、重畳波直交成分hs を作成する。
【0229】
図14の(a)により、電流制御部50の動作の流れについて説明する。
〈ステップS31〉
相電流センサ21u及び21vにより、実際にステータ巻線を流れる電流すなわちアナログu相電流iua及びアナログv相電流ivaを検出する。
〈ステップS32〉
ADC51u及び51vにより、検出されたアナログu相電流iua及びアナログv相電流ivaをu相電流iu及びv相電流ivへアナログ/ディジタル変換する。
〈ステップS33〉
三相二相変換部52により、u相電流iu及びv相電流ivをγ軸電流iγ及びδ軸電流iδへ変換する。
【0230】
〈ステップS34〉
電圧指令作成部53は、γ軸電流iγと、目標γ軸電流iγ にロータ角度推定用電流信号is を重畳した重畳波付目標γ軸電流(iγ +is )とを、δ軸電流iδと目標δ軸電流iδ とを、それぞれ比較する。それらの差に基づく比例積分制御により、目標γ軸電圧vγ 及び目標δ軸電圧vδ を決定する。
〈ステップS35〉
二相三相変換部54により、目標γ軸電圧vγ 、及び目標δ軸電圧vδ を目標電圧vu 、vv 、及びvw へ変換する。
〈ステップS36〉
PWM制御部37のPWMにより、目標電圧vu 、vv 、及びvw を変調し、スイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlを決定する。
〈ステップS37〉
モータ駆動部30は、スイッチング信号guh、gul、gvh、gvl、gwh、及びgwlに従ってステータ巻線11u、11v、及び11wへ電圧を印加する。その結果、ステータ巻線11u、11v、及び11wを流れる電流により、ロータ12はトルクを受けて回転する。
【0231】
図14の(b)により、ロータ角度/回転速度推定部60の動作の流れについて説明する。
〈ステップS41〉
推定誤差検出部61により、推定誤差εを計算する。
〈ステップS42〉
カウンタ71のカウントζと分割数ηとを比較し、比較結果により後の処理を分岐する。カウントζと分割数ηとが異なる時、ステップS43からステップS49までの処理をスキップして、ステップS410へ処理をジャンプさせる。カウントζと分割数ηとが等しい時、ステップS43へ処理を進める。従って、ステップS43からステップS49までは、ステップS1(図13の(a))の繰り返し周期と同じ周期で繰り返される。
【0232】
〈ステップS43〉
推定誤差リミッタ62により推定誤差εをリミットし、有効推定誤差ε1を決定する。
〈ステップS44〉
角度進み量作成部63により、有効推定誤差ε1に基づいて角度進み量θpを作成する。
〈ステップS45〉
推定回転速度補正部64により、角度進み量θpをLPFに通し、その後その角度進み量θpに基づいて推定回転速度ωmを補正する。
【0233】
〈ステップS46〉
推定誤差リセット部65により、推定誤差検出部61内部のレジスタに記憶された推定誤差εをリセットする。
〈ステップS47〉
重畳波作成部70の重畳波周期設定部75により、分割数ηを新たに設定し直す。これにより、次回のステップS1の繰り返し周期ηTcが更新される。
〈ステップS48〉
重畳波作成部70のカウンタリセット部76により、カウンタ71のカウントζをリセットし、すなわち、ζ=0とする。
〈ステップS49〉
重畳波作成部70の重畳波電流振幅設定部77により、重畳波電流振幅αを設定する。
〈ステップS410〉
推定角度補正部66により、推定角度θmを角度進み量θpだけ進める。ステップS410はPWMのキャリア周期Tcごとに繰り返される。
【0234】
[実施例1の効果]
実施例1のロータ12の回転制御による効果を以下説明する: 実施例1では、ロータ角度推定用電流信号is の周期をランダムに変化させる。それにより、ロータ角度推定用電流信号is の重畳に伴って発生する騒音が、特定の周波数成分だけに偏らず、様々な周波数成分を含む。その結果、騒音のエネルギーが様々な周波数成分に分配されるので、それぞれの周波数成分の大きさは従来より小さい。従って、従来のモータ制御装置に比べて、重畳波による騒音を低減できる。
【0235】
実施例1では図12の振幅テーブルに従って、目標電流振幅ia が大きいほど重畳波電流振幅αが大きく設定される。逆に、目標電流振幅ia が小さいほど重畳波電流振幅αが小さく設定される。こうして、目標電流の振幅に合わせてロータ角度推定用電流信号is の振幅が調節される。それにより、応答電流の検出でのSN比を大きく保ったまま、ロータ角度推定用電流信号is の振幅を必要最小限に抑えることができる。従って、従来の制御装置より、重畳波による騒音を低減できる。
【0236】
IPMSM10の出力トルクが小さい時、シャフト15へ接続された外部の機械的構造物は比較的小さい騒音(メカ騒音)しか出さない。従って、出力トルクが小さい時は特に、IPMSM10の重畳波成分による騒音を抑えなければならない。ステータ巻線の電流が小さい時、IPMSM10の出力トルクは小さい。実施例1では、図12の振幅テーブルに従って、目標電流振幅ia が小さい時は重畳波電流振幅αを小さく設定する。その結果、IPMSM10の出力トルクが小さい時に、重畳波成分による騒音を小さく抑えることができる。
【0237】
実施例1では、ロータ角度推定用電流信号is の一周期がPWMのキャリア周期Tcの分割数η倍である。一方、応答電流に対するサンプリングタイムはPWMのキャリア周期Tcに実質的に等しい。従って、応答電流のサンプルがロータ角度推定用電流信号is の一周期当たり分割数ηと等しい個数だけある。推定誤差εは、それらの複数個のサンプルから離散フーリエ積分により計算される。複数個のサンプルに基づく積分演算であるので、一つ一つのサンプルに含まれるノイズを平均化できる。その結果、推定誤差εに含まれるノイズは一つ一つのサンプルに含まれるものより小さい。従って、推定誤差εのSN比を十分大きく維持できる。
更に、推定誤差εのSN比が十分大きいので、推定誤差εをLPFにより大きく減衰させなくても良い。その上、角度進み量θpの計算(式(42))に用いる比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを小さく抑えなくても良い。従って、ロータ12の回転制御の応答速度を大きく維持できる。
【0238】
実施例1では、推定誤差εをリミットし、有効推定誤差ε1を決定する。その結果、検出されたδ軸電流iδへ極端に大きいノイズが混入し得る時でも、有効推定誤差ε1の大きさは閾値εlimを超えない。それ故、推定誤差εをLPFにより大きく減衰させ、又は、比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを小さく抑える等、推定誤差εの範囲を制限しなくても良い。従って、ロータ12の回転制御の応答速度を大きく維持できる。
【0239】
実施例1では、ロータ角度推定用電流信号is の周期ηTcがPWMのキャリア周期Tcの偶数倍である。その結果、以下の理由により、推定誤差εの検出精度が良い:実施例1では、検出されたδ軸電流iδからロータ角度推定用電流信号is に対する応答電流iδ sを求める。ロータ角度推定用電流信号is に対する応答電流iδ sの波形はモータ駆動部30のPWM制御により一般に歪む。その歪みは、ロータ角度推定用電流信号is の周期を大きくすれば、小さく抑えることができる。
【0240】
しかし、ロータ角度推定用電流信号is の周期はある程度小さくなければならない。何故なら、重畳波成分と基本波成分とを十分明確に区別するためである。従って、分割数ηを極端には大きくできない。その結果、ロータ角度推定用電流信号is の一周期に含まれるPWMのキャリア(三角波)の数、すなわち、分割数ηの上限が制限される。すなわち、応答電流iδ sの波形の歪みをある程度より小さく抑えることができない。
【0241】
そこで、実施例1では、ロータ角度推定用電流信号is の周期をPWMのキャリア周期Tcの偶数倍とする。その時、応答電流iδ sの偶数個のサンプルは実質的に正負対称である。それ故、推定誤差εを離散フーリエ積分によって求める時、互いに対称なサンプル同士でPWMによる歪みの誤差を相殺できる。その結果、推定誤差εの検出精度が良い。
【0242】
《実施例2》
以下、本発明の実施例2による位置センサレスモータ制御装置を説明する。実施例2の位置センサレスモータ制御装置は、実施例1の好ましい変形の一例である。
実施例2は実施例1と次の二つの点で異なる: 第一に、ロータ角度推定用信号が電圧信号である。すなわち重畳波作成部2070が重畳波電圧指令[vs ]を設定する。電流制御部2050が目標γ軸電流iγ 及び目標δ軸電流iδ を目標γ軸電圧vγ 及び目標δ軸電圧vδ へ変換する。その後、目標γ軸電圧vγ にロータ角度推定用電圧信号vs が重畳され、重畳波付目標γ軸電圧(vγ +vs )が決定される。
第二に、重畳波作成部2070内の重畳波周期設定部2075が分割数ηを所定のテーブルに従って設定する。
【0243】
図15は、実施例2における位置センサレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。実施例2では、実施例1と比べて、重畳波作成部2070及び電流制御部2050が異なる。実施例2のその他の構成については実施例1と同様である。それ故、それらの同様な構成に対しては実施例1と同じ符号を付し、その説明は実施例1のものを援用する。
【0244】
電流制御部2050は、u相電流センサ21uからアナログu相電流値信号[iua]を、v相電流センサ21vからアナログv相電流値信号[iva]を、ロータ角度/回転速度推定部60から推定角度θmを示す信号[θm]を、それぞれ入力する。更に、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを後述のように求める。その後、δ軸電流iδを示す信号[iδ]がロータ角度/回転速度推定部60へ出力される。
【0245】
電流制御部2050は更に回転速度制御部40からγ軸電流指令[iγ ]とδ軸電流指令[iδ ]とを、ロータ角度/回転速度推定部60から推定回転速度値信号[ωm]を、重畳波作成部2070から重畳波電圧指令[vs ]を、それぞれ入力する。それらの入力により示される値、先に入力された推定角度θm、γ軸電流iγ、及びδ軸電流iδに基づいて、電流制御部2050は目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 及び目標w相電圧vw を後述のように決定し、モータ駆動部30へ出力する。
【0246】
重畳波作成部2070は、回転速度制御部40から電流振幅指令[i ]を入力し、それに基づいて重畳波電圧指令[vs ]及び重畳波直交信号[hs ]を設定する。重畳波電圧指令[vs ]は電流制御部2050へ、重畳波直交信号[hs ]はロータ角度/回転速度推定部60へ出力される。
【0247】
[電流制御部2050の構成]
図16は、実施例2における電流制御部2050の構成を示すブロック図である。電流制御部2050では、実施例1のもの(図4)と比べ、電圧指令作成部2053及び二相三相変換部2054が異なる。その他の構成については実施例1と同様である。従って、それらに対しては実施例1と同じ符号を付し、その説明は実施例1のものを援用する。
【0248】
電圧指令作成部2053は、三相二相変換部52からγ軸電流値信号[iγ]とδ軸電流値信号[iδ]とを、外部からγ軸電流指令[iγ ]と、δ軸電流指令[iδ ]と、推定回転速度ωmを示す信号[ωm]と、を入力する。電圧指令作成部2053は、それらの入力により示される値に基づいて、目標γ軸電圧vγ と目標δ軸電圧vδ とを後述のように演算する。演算結果はそれぞれγ軸電圧指令[vγ ]及びδ軸電圧指令[vδ ]として、二相三相変換部2054へ出力される。
【0249】
二相三相変換部2054は、入力された目標γ軸電圧vγ 、目標δ軸電圧vδ 、推定角度θm、及び重畳波電圧指令[vs ]に基づいて、目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 、及び目標w相電圧vw を後述のように演算する。演算結果はそれぞれu相電圧指令[vu ]、v相電圧指令[vv ]、及びw相電圧指令[vw ]としてモータ駆動部30へ出力される。
実施例2ではこうして、重畳波作成部2070からの重畳波電圧指令[vs ]が二相三相変換部2054へ入力される。
【0250】
[電流制御部2050の動作]
次に、電流制御部2050の動作を説明する。実施例2では実施例1とは異なり、重畳波がロータ角度推定用電圧信号vs 、すなわち、電圧信号である。従って、モータ駆動部30への制御信号に対するロータ角度推定用電圧信号vs の重畳のための動作が、以下のように実施例1とは異なる。
【0251】
電流センサ21u及び21vからのアナログ電流値信号[iua]及び[iva]は、ADC51u及び51vにより電流値信号[iu]及び[iv]へ変換される。それらの値は三相二相変換部52によりγ軸電流iγ及びδ軸電流iδへ、式(5)及び(6)に従って変換される。
【0252】
iγ=(√2)×{iusin(θm+60°)+ivsinθm} (5)
iδ=(√2)×{iucos(θm+60°)+ivcosθm} (6)
【0253】
電圧指令作成部2053は、比例積分制御(PI制御)と非干渉制御とにより目標γ軸電圧vγ 及び目標δ軸電圧vδ を、式(45)及び(46)に従って制御する。それにより、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδを、目標γ軸電流iγ 及び目標δ軸電流iδ とそれぞれ一致するように制御する。
【0254】
Figure 0003840082
【0255】
ここで、式(45)及び(46)で用いられる定数、変数及び記号は全て式(7)及び(8)と共通である。更に、目標γ軸電圧vγ と目標δ軸電圧vδ との基本波成分の大きさ及び制御対象の推定回転速度ωmの値はいずれも、実施例1と同程度である。
【0256】
電圧指令作成部2053により決定された目標γ軸電圧vγ 、及び、目標δ軸電圧vδ は、ステータ巻線11u、11v、及び11wに印加される目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 、及び目標w相電圧vw へ、二相三相変換部54により式(47)、(48)及び(49)に従って変換される。その時、重畳波作成部2070からのロータ角度推定用電圧信号vs が目標γ軸電圧vγ へ重畳される。それにより、重畳波付目標γ軸電圧(vγ +vs )が決定される。
【0257】
Figure 0003840082
【0258】
それらの目標u相電圧vu 、目標v相電圧vv 、及び目標w相電圧vw がモータ駆動部30へ出力される。
【0259】
[重畳波作成部2070の構成]
図17は、実施例2における重畳波作成部2070の構成を示すブロック図である。重畳波作成部2070を実施例1の重畳波作成部70(図5の(b))と比べると、重畳波電圧指令作成部2073、重畳波周期設定部2075、及び重畳波電圧振幅設定部2077が異なる。その他の構成は実施例1と同様であるので、同じ符号を付してその説明は実施例1のものを援用する。
【0260】
重畳波電圧指令作成部2073は、重畳波位相設定部72により設定された重畳波位相θsと、重畳波振幅設定部2077により設定された重畳波電圧振幅αvと、に基づいて、重畳波電圧指令[vs ]を後述のように設定する。
重畳波周期設定部2075は論理回路であり、所定の分割数テーブルを記憶したROM又はRAMを含む。その分割数テーブルに基づいて分割数ηを後述のように設定する。
重畳波電圧振幅設定部2077は論理回路であって、後述の振幅テーブル(図18)を記憶したROM又はRAMを含む。重畳波電圧振幅設定部2077は、外部から電流振幅指令[ia ]を入力し、それにより示される目標電流振幅ia に対応する重畳波電圧振幅αvを振幅テーブルから求めて出力する。
【0261】
重畳波作成部2070は好ましくはソフトウエアとして構成される。その他に、上記の各構成要素がそれぞれ論理素子として構成されていても良い。
【0262】
[重畳波作成部2070の動作]
次に、重畳波作成部2070の動作のうち、実施例2の特徴部分を説明する。その他の動作については実施例1と同様であるので、その説明は実施例1のものを援用する。
【0263】
重畳波作成部2070の動作は、実施例1とは以下の二つの点で異なる:
第一に、重畳波として電圧信号であるロータ角度推定用電圧信号vs が設定される。重畳波電圧振幅設定部2077は、回転速度推定部60からの電流振幅指令[ia ]により示される目標電流振幅ia に基づいて、重畳波電圧振幅αvを以下のように設定する。図18は、実施例2における目標電流振幅ia と重畳波電圧振幅αvとの対応関係を示す振幅テーブルである。重畳波電圧振幅設定部2077はその振幅テーブルに従って、目標電流振幅ia に対応する重畳波電圧振幅αvの値を以下のように設定する。
【0264】
目標電流振幅ia が下限値ia 1より小さい時、重畳波電圧振幅αvが下限値αv1に設定される。
目標電流振幅ia が上限値ia 2より大きい時、重畳波電圧振幅αvが上限値αv2に設定される。
目標電流振幅ia が下限値ia 1以上かつ上限値ia 2以下である時、重畳波電圧振幅αvが点(ia 1,αv1)と点(ia 2,αv2)とを直線的に補間した値に設定される。
こうして、目標電流振幅ia が大きいほど、重畳波電圧振幅αvは大きく設定される。実施例2では、重畳波電圧振幅αvの下限値αv1が約75V、上限値αv2が約125Vであり、目標電流振幅ia の下限値ia 1が約0A、上限値ia 2が約15Aである。これらの値は、電流の基本波と重畳波との振幅比が数十%程度になるように設定される。
【0265】
ロータ角度推定用電圧信号vs は重畳波電圧指令作成部2073により、重畳波位相θs及び重畳波電圧振幅αvに基づいて、式(50)に従って正弦波として設定される。
【0266】
vs =αvsinθs=αvsin(ωes・ζTc) (50)
【0267】
ここで、PWM制御器37によるPWMのキャリア周期をTcとし、カウントζとキャリア周期Tcとの積で重畳波位相θsを割った値を重畳波角周波数ωesとする。
【0268】
式(50)を式(14)及び(33)と比較すれば明らかなように、重畳波電圧振幅αvは実施例1の重畳波電流振幅αに比例係数KPdを乗じたものに対応する。従って、上記の重畳波電圧振幅設定部2077による重畳波電圧振幅αvの設定に代えて、重畳波電圧指令作成部2073が、実施例1の重畳波電流振幅設定部77と同様な構成により設定された重畳波電流振幅αに比例係数KPdを乗じて重畳波電圧振幅αvを設定しても良い。
更に、式(33)と式(50)との対応から明らかなように、実施例2でのγ軸電流及びδ軸電流に含まれるロータ角度推定用電圧信号vs に対する応答電流は、実施例1での応答電流iγ s及びiδ s(式(35)及び(36))と同様である。従って、実施例2においても実施例1と全く同様に、ロータの角度及び回転速度を推定できる。
【0269】
第二に、ロータ角度推定用電圧信号vs の周期が所定の分割数テーブルに従って変化する。表1は、重畳波周期設定部2075内部に記憶された分割数テーブルである。重畳波周期設定部2075は、表1の左欄に示された番号順に右欄に示された値を分割数ηとして設定する。分割数ηの設定値はいずれも正の偶数であって、実施例2では20〜40の範囲からランダムに選ばれる。設定順はNo.16まで設定される。重畳波周期設定部2075は分割数ηを表1に従ってランダムな正の偶数に設定する。表1の最下欄の値の設定後、分割数ηの設定は最上欄であるNo.1の値から繰り返される。
【0270】
【表1】
Figure 0003840082
【0271】
こうして、実施例2では、予め分割数ηが計算され、分割数テーブルとして記憶される。それにより、実施例1とは異なり、制御動作ごとに分割数ηを計算し直す必要がない。従って、分割数ηの演算時間を短縮できるので、例えばマイコン2022に含まれるCPU等の負担を軽くできる。
【0272】
表1では分割数ηがランダムに設定される。分割数ηが完全にランダムである時、同じ値又は互いに近似した値が多数回連続して設定され得る。その場合、重畳波による騒音が増幅されて大きくなり得る。それを防ぐ目的で、分割数ηの設定値がランダムである表1に代えて、前回の出力時の値と必ず所定の大きさ以上異なる値が設定された分割数テーブルを用いるようにしても良い。
【0273】
実施例1及び実施例2はIPMSM10を制御対象とした。しかし、本発明はIPMSMの駆動制御に限定されるのではなく、突極性を有する同期モータであればその種類を問わずに成立する。例えば、実施例1及び実施例2において、IPMSM10をSynRM(Synchronous Reluctance Motor)に置き換えても良い。SPMSM(Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)でも、ロータのd軸インダクタンスとq軸インダクタンスとの相違がδ軸電流の交流成分の振幅から検出可能な程度に大きければ、本発明を実施できる。
【0274】
実施例1では、式(40)より推定誤差εが、更に式(42)より角度進み量θpが共に重畳波電流振幅α及び比例ゲインKPdに比例する。一方、実施例2では、推定誤差εが重畳波電圧振幅αvに比例する。これは、重畳波電圧振幅αvが実施例1の重畳波電流振幅α及び比例ゲインKPdと対応することから明らかであろう。従って、実施例1では重畳波電流振幅α及び/又は比例ゲインKPd、実施例2では重畳波電圧振幅αvがそれぞれある程度大きい時、式(42)で用いられる比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを小さく調整する。逆に、重畳波電流振幅α、比例ゲインKPd又は重畳波電圧振幅αvがある程度小さい時、比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを大きく調整する。これらの調整により、角度進み量θpのゲインを実質的に一定に保つようにしても良い。それにより、角度進み量θpに基づく制御を安定化できる。
【0275】
上記の実施例において、ロータ12の推定回転速度ωmの増大に合わせて、角度進み量θpの計算(式(42))に用いる比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを大きく変化させても良い。その時、以下の理由により、角度進み量θpに基づく制御を安定化できる: 推定誤差εの大きさが同一であれば、角度進み量θpの変化量は同一である。従って、式(43)により、ロータ12の回転速度が大きい時(高速時)より小さい時(低速時)、推定回転速度ωmに対する角度進み量θpの割合が大きい。つまり、低速時の方が一定の推定誤差εに対する推定回転速度ωmの補正量が大きい。その結果、比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIの低速時での最適値は高速時での最適値より小さい。そこで、推定推定回転速度ωmの増大に合わせて、比例ゲインKTPP及び積分ゲインKTPIを増大させ、それらが回転速度に依らず最適値を保つように調整する。それにより、角度進み量θpに基づく制御が安定化する。
【0276】
上記と同様の理由により、推定誤差リミッタ62において、式(41)で用いた閾値εlimの値を推定回転速度ωmの増大に合わせて増大させても良い。
【0277】
上記の実施例では、推定誤差リミッタ62が推定誤差εを直接リミットした。しかし、本発明はその方法に限定されない。δ軸電流に含まれるロータ角度推定用信号に対する応答電流をリミットできる他の方法が用いられても良い。
例えば、推定誤差εに所定のゲインを乗じたものをリミットし、式(42)において有効推定誤差ε1の代わりに用いても良い。
【0278】
上記の実施例では、重畳波直交成分hs (式(15))を用いて式(37)に従ってδ軸電流iδを離散フーリエ積分し、推定誤差εを定義した。その他に、角度推定誤差Δθに比例する任意の量を推定誤差εとして定義しても良い。
例えば、検出されたδ軸電流iδのサンプルの絶対値の総和を推定誤差εとして定義しても良い。その時、一つ一つのサンプルに含まれるノイズが総和によって相殺されるとは限らない。従って、推定誤差εの精度の点では、上記の実施例の定義の方が好ましい。
【0279】
上記の実施例では、γ軸方向にロータ角度推定用信号を重畳し、δ軸方向の応答電流を検出した。その他に、重畳波の重畳方向と応答電流の検出方向とを交換しても良い。すなわち、ロータ角度推定用電流信号is を目標δ軸電流iδ に、又はロータ角度推定用電圧信号vs を目標δ軸電圧指令値vδ に、それぞれ重畳し、検出されたγ軸電流iγに現れる応答電流の振幅を検出する。その振幅が実質的に0に収束するように、推定誤差εを制御しても良い。
【0280】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、ロータ角度推定用信号の周期をランダムに変化させることにより、重畳波による騒音を従来より低減できる。更に、ロータ角度推定用信号の振幅を変化させることにより、制御能力を維持するのに最低限必要な程度に振幅を抑えることができる。それにより、従来の制御装置に比べて推定精度を低減することなく、かつ、制御の応答速度を遅くすることなく、騒音を抑えることができる。
【0281】
本発明によれば、応答電流をロータ角度推定用信号の一周期当たり複数回サンプリングし、その複数個のサンプルにより離散フーリエ積分して推定誤差εを定義する。それにより、一つ一つのサンプルに含まれるノイズを統計的に抑えて、角度推定誤差Δθを精度良く求めることができる。
【0282】
特に、同期モータに対してPWM制御をする時、ロータ角度推定用信号の波形を正負対称にし、その周期をPWMのキャリア周期の偶数倍にする。すなわち、その一周期当たりのサンプル数を偶数にする。それにより、互いに対称な位置でのサンプルに含まれるノイズ同士が相殺するので、角度推定誤差Δθをより精度良く求めることができる。
【0283】
本発明によれば、ロータ角度推定用信号に対する応答電流をリミットし、リミットされた応答電流に基づき推定角度を求める。それにより、検出された電流に含まれるノイズが極端に大きい時でも、ロータの回転制御が安定化できる。
【0284】
上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、電気自動車の車輪駆動モータに含まれても良い。その時、上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、特に車輪駆動モータの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記の電気自動車では、発進時及び徐行時、車輪駆動モータの駆動がスムーズで、かつ、騒音が小さい。それ故、乗員に快適な走行感を与える。
【0285】
上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、換気装置のファン駆動モータに含まれても良い。その時、上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、特にファン駆動モータの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記のファンでは、ファン駆動モータの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、換気がスムーズに行われると共に、換気対象の室内の滞在者へ不快感を与えない。
【0286】
上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、冷蔵庫のコンプレッサに含まれても良い。その時、上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、特にコンプレッサの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記の冷蔵庫では、起動時及び定常駆動時、コンプレッサの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、例えば夜間、家庭内での安眠を妨げない。
【0287】
上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、エアコンのコンプレッサに含まれても良い。上記の実施例による位置センサレスモータ制御装置は、特にコンプレッサの起動時及び低速回転時、駆動制御能力を維持しつつ騒音を低減させ得る。従って、上記のエアコン用室外機では、起動時及び定常駆動時、コンプレッサの駆動制御がスムーズで、かつ、その騒音が小さい。それ故、室内の滞在者及び室外周辺の住民に不快感を与えない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1による位置センサレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1によるモータ駆動部30の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1による回転速度制御部40の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1による電流制御部50の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1によるロータ角度/回転速度推定部60及び重畳波作成部70の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例における電流を表現する座標系を模式的に表す図である。
【図7】本発明の実施例1における目標u相電圧vu 及びu相電流iuの波形図である。
【図8】本発明の実施例1における目標γ軸電圧vγ 、γ軸電流iγ及びδ軸電流iδの波形図である。
【図9】本発明の実施例1において、δ軸インダクタンスLδとγ軸及びδ軸間相互インダクタンスLγδとの角度推定誤差Δθによる変化を示す図である。
【図10】本発明の実施例1における重畳波位相θsの出力ごとの変化を示す図である。
【図11】本発明の実施例1におけるロータ角度推定用電流信号is の波形図である。
【図12】本発明の実施例1における目標電流振幅ia と重畳波電流振幅αとの対応を表す振幅テーブルを示す図である。
【図13】本発明の実施例1全体、回転速度制御部40及び重畳波作成部70の動作を示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施例1における電流制御部50及びロータ角度/回転速度推定部60の動作を示すフローチャートである。
【図15】本発明の実施例2による位置センサレスモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図16】本発明の実施例2による電流制御部2050の構成を示すブロック図である。
【図17】本発明の実施例2による重畳波作成部2070の構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の実施例2における目標電流振幅ia と重畳波電圧振幅αvとの対応を表す振幅テーブルを示す図である。
【符号の説明】
10 IPMSM
11u、11v、11w ステータ巻線
12 ロータ
13 ロータヨーク
14 永久磁石
15 シャフト
21u、21v 電流センサ
22 マイコン
30 モータ駆動部
40 回転速度制御部
50 電流制御部
60 ロータ角度・回転速度推定部
70 重畳波作成部

Claims (28)

  1. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
    (B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その周期を変化させて設定するステップ;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するステップ;
    (D) (a) ロータの推定角度方向(以下、γ軸方向という)に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置により前記ステータ巻線へ電力を供給するステップ;
    (F) 前記検出ステップで検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;及び、
    (G) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正するステップ;
    を有する位置センサレスモータ制御方法。
  2. 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期をランダムに変化させる、請求項1記載の位置センサレスモータ制御方法。
  3. 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期を所定のテーブルに基づいて変化させる、請求項1記載の位置センサレスモータ制御方法。
  4. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
    (B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その振幅を変化させて設定するステップ;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するステップ;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、モータ駆動装置により前記ステータ巻線へ電力を供給するステップ;
    (F) 前記検出ステップで検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求めるステップ;及び、
    (G) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正するステップ;
    を有する位置センサレスモータ制御方法。
  5. 前記電流ベクトルの振幅が大きいほど、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の振幅を大きく設定する、請求項4記載の位置センサレスモータ制御方法。
  6. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
    (B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号、を設定するステップ;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するステップ;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに従って、モータ駆動装置により前記ステータ巻線へ電力を供給するステップ;
    (F) 前記検出ステップで検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の一周期当たり少なくとも三回サンプリングして求めるステップ;及び、
    (G) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正するステップ;
    を有する位置センサレスモータ制御方法。
  7. 前記応答電流のサンプリングが前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の半周期当たり複数回行われる、請求項6記載の位置センサレスモータ制御方法。
  8. (A) (a) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期をパルス幅変調(PWM)のキャリア周期の偶数倍に設定し、(b) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の波形を前記周期の前半と後半との中間点について対称に設定し;
    (B) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧を前記PWMにより変調し、変調された前記電圧を前記モータ駆動装置により前記ステータ巻線へ印加し;
    (C) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号 の対称な波形に基づいて前記応答電流を求める;請求項7記載の位置センサレスモータ制御方法。
  9. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するステップ;
    (B) (a) 周期がPWMのキャリア周期の偶数倍であり、(b) 波形が前記周期の前半と後半との中間点について対称であるロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号、を設定するステップ;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するステップ;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求めるステップ;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧を前記PWMにより変調し、変調された前記電圧を前記モータ駆動装置により前記ステータ巻線へ印加するステップ;
    (F) 前記検出ステップで検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて求めるステップ;及び、
    (G) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正するステップ;
    を有する位置センサレスモータ制御方法。
  10. 前記ステップ (F) は、
    (a) 前記検出ステップ(C)で検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と電気角で直交する第二の方向での成分に、(1) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号と実質的に同じ周期と、(2) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号から実質的に90°(電気角)ずれた位相と、を持つ信号を乗じ、
    (b) その乗算結果から前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求める、請求項1から請求項9までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御方法。
  11. 前記応答電流の値をリミットするステップと、
    前記リミットするステップでリミットされた前記値を持つ前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正するステップと、をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御方法。
  12. (a) 前記第一の方向を前記γ軸方向又は前記γ軸方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、(b) 前記第二の方向を前記第一の方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、(c) 前記第二の方向での前記応答電流が実質的に0に収束するように前記γ軸方向を補正する、請求項1から請求項11までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御方法。
  13. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
    (B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その周期を変化させて設定するための重畳波作成部;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するための電流検出器;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
    ための電流制御部;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する前記目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、前記ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
    (F) (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
    (b) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    ためのロータ角度推定部;を有する位置センサレスモータ制御装置。
  14. 前記重畳波作成部が前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期をランダムに変化させる、請求項13記載の位置センサレスモータ制御装置。
  15. 前記重畳波作成部が所定のテーブルを記憶した記憶部を含み、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期を前記テーブルに基づいて変化させる、請求項13記載の位置センサレスモータ制御装置。
  16. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
    (B) ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号を、その振幅を変化させて設定するための重畳波作成部;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するための電流検出器;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
    ための電流制御部;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する前記目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、前記ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
    (F) (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
    (b) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    ためのロータ角度推定部;を有する位置センサレスモータ制御装置。
  17. 前記重畳波作成部が、前記電流の振幅の増大に合わせて前記ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の振幅を大きく設定する、請求項16記載の位置センサレスモータ制御装置。
  18. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
    (B) 所定の周期を持つロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号、を設定するための重畳波作成部;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流、を検出するための電流検出器;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
    ための電流制御部;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する前記目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルに基づいて、前記ステータ巻線へ電力を供給するためのモータ駆動装置;及び、
    (F) (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の一周期当たり少なくとも三回サンプリングして求め、
    (b) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    ためのロータ角度推定部;を有する位置センサレスモータ制御装置。
  19. 前記ロータ角度推定部が、前記応答電流のサンプリングを前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の半周期当たり複数回行う、請求項18記載の位置センサレスモータ制御装置。
  20. (A) 前記重畳波作成部が、(a) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の周期をPWMのキャリア周期の偶数倍に設定し、(b) その波形を前記周期の前半と後半との中間点について対称に設定し;
    (B) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する前記目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧を前記モータ駆動装置が前記PWMにより変調し、変調された前記電圧を前記ステータ巻線へ印加し;
    (C) 前記ロータ角度推定部が前記ロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて前記応答電流を求める;
    請求項18記載の位置センサレスモータ制御装置。
  21. (A) ステータ巻線の目標電流ベクトルを決定するためのモータ制御部;
    (B) 周期がPWMのキャリア周期の偶数倍であり、波形が前記周期の前半と後半との中間点について対称であるロータ角度推定用電流信号又はロータ角度推定用電圧信号、を設定するための重畳波作成部;
    (C) 前記ステータ巻線を流れる電流を、検出するための電流検出器;
    (D) (a) ロータのγ軸方向に基づく第一の方向での前記目標電流ベクトルの成分に前記ロータ角度推定用電流信号を重畳して重畳波付目標電流ベクトルを求め、更に対応する目標電圧ベクトルを求め、又は、
    (b) 前記目標電流ベクトルに対応する目標電圧ベクトルの前記第一の方向での成分に前記ロータ角度推定用電圧信号を重畳して重畳波付目標電圧ベクトルを求める、
    ための電流制御部;
    (E) 前記重畳波付目標電流ベクトルに対応する前記目標電圧ベクトル又は前記重畳波付目標電圧ベクトルで表される電圧を前記PWMにより変調し、変調された前記電圧を前記ステータ巻線へ印加するためのモータ駆動装置;及び、
    (F) (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を、前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号の対称な波形に基づいて求め、
    (b) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    ためのロータ角度推定部;を有する位置センサレスモータ制御装置。
  22. 前記ロータ角度推定部は、
    (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と電気角で直交する第二の方向での成分に、(1) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号と同じ周期と、(2) 前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号から実質的に90°(電気角)ずれた位相と、を持つ信号を乗じ、
    (b) その乗算結果から前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
    (c) 前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    請求項13から請求項21までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御装置。
  23. 前記ロータ角度推定部は、リミッタを含み、
    (a) 前記電流検出器によって検出された前記電流を表す電流ベクトルの、前記第一の方向と一定の関係にある第二の方向での成分から前記ロータ角度推定用電流信号又は前記ロータ角度推定用電圧信号に対する応答電流を求め、
    (b) 前記応答電流の値を前記リミッタによりリミットし、
    (c) 前記リミッタによりリミットされた前記値を持つ前記応答電流に基づいて前記γ軸方向を補正する、
    請求項13から請求項21までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御装置。
  24. (A) 前記電流制御部が前記第一の方向を、前記γ軸方向又は前記γ軸方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし;
    (B) 前記ロータ角度推定部が前記第二の方向を、前記第一の方向に対して実質的に90°(電気角)の方向とし、前記応答電流を前記第二の方向で実質的に0に収束させるように前記γ軸方向を補正する;請求項13から請求項23までのいずれか一項記載の位置センサレスモータ制御装置。
  25. 請求項13から請求項24までのいずれか一項に記載の位置センサレスモータ制御装置を含む車輪駆動モータ、を有する電気自動車。
  26. 請求項13から請求項24までのいずれか一項に記載の位置センサレスモータ制御装置を含むファン駆動モータ、を有するファン。
  27. 請求項13から請求項24までのいずれか一項に記載の位置センサレスモータ制御装置を含むコンプレッサ、を有する冷蔵庫。
  28. 請求項13から請求項24までのいずれか一項に記載の位置センサレスモータ制御装置を含むコンプレッサ、を有するエアコン。
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